説明

心腎電気刺激システム

植込心腎刺激装置は、心不全に関連する代償不全の検出に応答して心腎刺激を送達する。心腎刺激は、利尿とナトリウム利尿のうちの少なくとも一方を促進すべく腎刺激パルスを送達することと、腎刺激パルスの利尿とナトリウム利尿のうちの少なくとも一方の作用を増強すべく心刺激パルスを送達することとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本書は主として植込医療装置に関し、詳細には心臓機能と腎臓機能を変調する電気刺激を提供する植込心腎刺激システムに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓は、人間の循環系の中心である。心臓は、2つの主要なポンプ機能を実行する電気機械的システムを有する。心臓の左側は、肺から酸素化された血液を引込み、その血液を体の臓器に送込むことで、臓器の代謝に必要な酸素を供給する。心臓の右側は、体器官から非酸素化血液を引込み、その血液を肺に送込み、そこで血液が酸素化される。これらのポンプ機能は、心筋(心臓の筋肉)の収縮から生じる。正常な心臓において洞房(SA)節、心臓の天然ペースメーカは、活動電位と呼ばれる電気インパルスを発生させる。電気インパルスは、電気伝導系を通じて心臓のうちの様々な領域に伝搬し、これらの領域の心筋組織を活性化させる。正常な電気伝導系における活動電位の伝搬における協調遅延は、心臓のうちの様々な部分を同調して接触させ、それによって効率的なポンプ機能が生じる。
【0003】
ブロックまたは損傷された電気伝導系は、心筋の不規則な収縮、一般に不整脈として知られる状態をもたらす。不整脈は、心臓のポンプ効率を低下させるので、身体への血流を減少させる。劣化した心筋は、収縮性が低下し、それによって血流の低下も生じる。心不全患者は通常、電気伝導系の損傷と心筋の劣化の両方を患う。血流の減少によって、様々な体器官への血液供給が不十分になるので、体器官が適切に機能できないようにし、様々な症状をもたらす。たとえば心不全の急性悪化を患う患者において腎臓への血液供給が不十分になることで、強烈な塩と水の貯留と肺および身体の末梢部分における浮腫、つまり代償不全と称される状態が生じる。急性非代償性心不全は、入院の重要な原因である。報告によると、非代償性心不全患者のうちの約25〜45%は、心腎症候群として公知の心臓と腎臓の複合型機能不全を示し、これは疾病率と死亡率の強力な危険因子である。急性非代償性心不全は、発現後急速に進行するので、初期兆候で迅速に治療することが、求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,459,929号明細書
【特許文献2】米国特許出願第10/038,936号明細書
【特許文献3】米国特許第4,686,987号明細書
【特許文献4】米国特許第5,284,136号明細書
【特許文献5】米国特許第5,042,497号明細書
【特許文献6】米国特許第5,603,331号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、心不全患者における代償不全を迅速に治療する効率的な方法とシステムの必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
植込心腎刺激装置は、患者の体内において検出された水貯留レベルを用いることで、心腎刺激の送達を制御する。心腎刺激は、利尿とナトリウム利尿のうちの少なくとも一方を促進すべく腎電気刺激パルスを送達することと、腎電気刺激パルスの利尿作用とナトリウ
ム利尿作用のうちの少なくとも一方の作用を増強すべく心電気刺激パルスを送達することとを有する。
【0007】
一実施形態において植込心腎刺激装置は、検出回路、代償不全検出器、心刺激回路、腎刺激回路、および刺激制御回路を有する。検出回路は、一つあるいは複数の生理学的信号を検知する。代償不全検出器は、一つあるいは複数の生理学的信号を用いることで、患者の体内の水貯留レベルを検出し、さらに検出された水貯留レベルを示す代償不全信号を生成する。心刺激回路は、心臓血管機能を変調する心刺激パルスを送達する。腎刺激回路は、腎機能を変調する腎刺激パルスを送達する。刺激制御回路は、代償不全信号を用いることで、心腎刺激モードにしたがって心刺激パルスと腎刺激パルスの送達を制御する。
【0008】
一実施形態において植込心腎刺激装置を操作する方法が、提供される。一つあるいは複数の生理学的信号は、植込心腎刺激装置を用いることで検知される。患者における水貯留レベルを示す代償不全信号は、一つあるいは複数の生理学的信号を用いることで生成される。心臓血管機能を変調する心刺激パルスと腎機能を変調する腎刺激パルスの送達は、代償不全信号を用いることで、心腎刺激モードにしたがって制御される。心刺激パルスと腎刺激パルスは、植込心腎刺激装置から送達される。
【0009】
この概要は、本出願の教示のうちの一部の概説であり、本主題を排他的または包括的に扱うよう意図されない。本主題に関するさらなる詳細は、詳細な説明および添付の特許請求の範囲において認められる。本発明の他の特徴は、以下の詳細な説明を読んで理解し、さらにその一部を形成する図面を見れば、当業者には明らかであろう。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲とそれらの法的等価物によって定義される。
【0010】
図面は、主として本書において記載される様々な実施形態を例として例示する。図面は、例示目的にすぎなく、縮尺通りでないかもしれない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】心腎刺激システムと、心腎刺激システムが動作する環境のうちの一部の実施形態図。
【図2】植込心腎刺激装置の回路の実施形態を例示するブロック図。
【図3】腎刺激リードのうちの遠端部分の実施形態図。
【図4】腎刺激リードのうちの遠端部分の別の実施形態図。
【図5】腎刺激リードのうちの遠端部分とパルス送達ステントの別の実施形態図。
【図6】腎刺激リードのうちの固着構造の実施形態図。
【図7】腎刺激リードのうちの固着構造の別の実施形態図。
【図8】多重固着装置を備えた腎刺激リードの実施形態図。
【図9】心腎刺激方法の実施形態を例示するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の詳細な説明においてその一部を形成するとともに、本発明が実行され得る特定の実施形態を例として示す添付図面を参照する。これらの実施形態は、当業者が本発明を実行できるように十分詳細に記載されており、さらに当然のことながら、実施形態を組み合わし得るか、他の実施形態を用い得るし、本発明の趣旨と範囲から逸脱しなければ、構造的、論理的および電気的変更を行い得る。以下の詳細な説明は、実施例を提供し、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲とそれらの法的等価物によって定義される。
【0013】
注目すべきは、本開示における「an」、「one」、または「various」実施形態への言及は、必ずしも同じ実施形態に対してではなく、そのような言及は、1よりも多くの実施形態を考慮することである。
【0014】
中でも本書は、心腎電気刺激用の植込心腎刺激装置と植込リードシステムを有するシステムを説明する。システムは、患者における心不全の悪化を示す生理学的変化を検出し、さらに迅速な治療介入を提供することで患者を治療し、入院を回避する可能性がある。様々な実施形態において心不全の悪化は、代償不全の症状を有する急性非代償性心不全の発現を有する。心腎電気刺激は、利尿薬の使用を減らすか除外するので、たとえば低血圧、電解質平衡異常、不整脈、および神経ホルモン活性化などのそれらの不都合な副作用を軽減するか排除する。様々な実施形態において心腎電気刺激は、腎電気刺激(以降、腎刺激と称される)および心電気刺激(以降、心刺激と称される)を有する。腎刺激は、利尿とナトリウム利尿のうちの少なくとも一方を促進すべく、腎機能を変調する腎臓と神経のうちの少なくとも一方への電気刺激パルスの送達を有する。心刺激は、腎刺激の利尿とナトリウム利尿のうちの少なくとも一方の作用を増強すべく、心臓血管機能を変調する心臓と神経のうちの少なくとも一方への電気刺激パルスの送達を有する。
【0015】
図1は、心腎刺激システム(刺激送達システム)100と、心腎刺激システム100が動作する環境のうちの一部の実施形態図である。心腎刺激システム100は、植込システム105、外部システム115、および植込システム105と外部システム115との間の通信を提供する遠隔測定リンク112を有する。
【0016】
植込システム105は、中でも植込心腎刺激装置110と、心刺激リード108および腎刺激リード109を備える植込リードシステムとを有する。様々な実施形態において植込心腎刺激装置110は、心腎刺激(生体刺激)と、たとえば電気的除細動/除細動、神経刺激、薬物治療および生物学的治療などの他の治療とを提供する。心刺激リード108は、一つあるいは複数の植込心刺激リードを表わす。腎刺激リード109は、一つあるいは複数の植込腎刺激リードを表わす。図1は、例示および説明のため1心刺激リードと1腎刺激リードを示すが、植込リードシステムは、たとえば刺激されるべき部位数およびアクセス可能性の考慮事項に依存して任意数の心刺激リードと腎刺激リードを有する。
【0017】
例示の実施形態において植込心腎刺激装置110は、体内102に植込まれる。植込心腎刺激装置110は、密閉された植込ハウジング130と、植込ハウジング130に取付けられたリードコネクタを有するヘッダ132とを有する。植込ハウジング130は、検知機能と、心腎刺激を有する治療的機能とを実行する電子回路系を封入する。ヘッダ132は、心刺激リード108および腎刺激リード109と植込心腎刺激装置110との間の機械的および電気的接続を提供する。様々な実施形態において植込心腎刺激装置110は、一つあるいは複数の検知生理学的信号を用いることで心不全に関連する代償不全を検出するとともに、代償不全の検出に応答して心腎刺激モードにしたがって心臓血管機能を変調する心刺激パルスと腎機能を変調する腎刺激パルスを送達する。
【0018】
心刺激リード108は、植込心腎刺激装置110と、心臓101と心臓血管機能を変調する神経のうちの少なくとも一方との間に電気接続を提供する。心刺激リード108は、ヘッダ132に接続されるように構成される近端部分121と、心刺激パルスの送達と一つあるいは複数の生理学的信号の検知のうちの少なくとも一方を行う一つあるいは複数の電極を有する遠端部分123と、近端部分121と遠端部分123間を連結する細長リード本体122とを有する。様々な実施形態において心刺激リード108は、生理学的信号の検知と、ペーシングパルス、電気的除細動/除細動ショック、神経刺激、医薬剤、生物剤、および心疾患を治療する他の様式のエネルギか物質のうちの少なくとも1つの送達とを行う一つあるいは複数の植込経静脈リードを表わす。様々な実施形態において心刺激リード108のうちの一つあるいは複数の電極は、生理学的信号の検知と、ペーシングパルス、電気的除細動/除細動ショック、神経刺激、医薬剤、生物剤、および心疾患を治療する他の様式のエネルギか物質のうちの少なくとも1つの送達とを行うべく、心臓101内
か身体102のうちの他の部分内に設置される。一実施形態においてリードシステムである心刺激リード108は、それぞれが一つあるいは複数の電気記録図の検知とペーシングパルスの送達のうちの少なくとも一方を行うべく、心臓101内か心臓101上に設置された少なくとも1つの電極を有する、一つあるいは複数のペーシング−検知リードを有する。特定の実施形態において心刺激リード108は、ペーシングパルスを多数の心房および心室部位に送達できるようにする。様々な実施形態において一つあるいは複数のペーシング電極を有する遠端部分123は、圧受容器ペーシング、心房伸長受容器ペーシング、および右心房ペーシング(右心房収縮のため)のうちの少なくとも一方を行うべく心臓101の右心房(RA)内、右心室ペーシング(右心室収縮のため)すべく心臓101の右心室(RV)内、および左心室ペーシング(左心室収縮のため)すべく心臓101の左心室(LV)を横切る冠状静脈洞または冠状静脈内のうちの少なくとも一方内に設置される。
【0019】
腎刺激リード109は、植込心腎刺激装置110と、腎臓103A〜Bおよび腎機能を変調する神経のうちの少なくとも一方との間に電気的接続を提供する。腎刺激リード109は、ヘッダ132に接続されるように構成される近端部分124と、腎刺激パルスの送達と一つあるいは複数の生理学的信号の検知のうちの少なくとも一方を行う一つあるいは複数の電極を有する遠端部分126と、近端部分124と遠端部分126との間を連結する細長リード本体125とを有する。様々な実施形態において腎刺激リード109は、生理学的信号の検知と、腎刺激パルス、医薬剤、生物剤、および腎疾患を治療する他の様式のエネルギか物質のうちの少なくとも一方の送達とを行う一つあるいは複数の植込経静脈リードを表わす。様々な実施形態において一つあるいは複数の電極を有する遠端部分126は、腎臓103A〜B、腎静脈104A〜B、下大静脈(IVC)106、または身体102のうちの他の部分に設置されることで、生理学的信号を検知するとともに、腎刺激パルス、医薬剤、生物剤、および腎疾患を治療する他の様式のエネルギか物質のうちの少なくとも一方の送達を行う。様々な実施形態において遠端部分126は、腎神経または神経叢内の相互接続された神経/神経節における神経連絡をブロックする腎刺激パルスの送達を可能にする身体102内の場所に設置される。
【0020】
様々な実施形態において心腎刺激システム100は、心刺激リード108のうちの遠端部分123の電極対を用いる双極心刺激と、遠端部分123と植込心腎刺激装置110の別の電極を用いる単極心刺激のうちの少なくとも一方を可能にする。様々な実施形態において心腎刺激システム100は、腎刺激リード109のうちの遠端部分126の電極対を用いる双極腎刺激と、遠端部分126の電極および植込心腎刺激装置110の別の電極を用いる単極腎刺激とのうちの少なくとも一方を可能にする。一実施形態において植込ハウジング130のうちの一部は、植込心腎刺激装置110の電極として機能する。
【0021】
外部システム115は、たとえば医師または他の介護人あるいは患者などのユーザが、植込心腎刺激装置110の動作を制御するとともに、植込心腎刺激装置110によって獲得された情報を得られるようにする。一実施形態において外部システム115は、遠隔測定リンク112を介して植込心腎刺激装置に双方向で通信するプログラマを有する。別の実施形態において外部システム115は、電気通信網を通じて遠隔装置に通信する外部装置を有する患者管理システムである。外部装置は、植込心腎刺激装置110の近傍にあり、遠隔測定リンク112を介して植込心腎刺激装置110に双方向で通信する。遠隔装置は、ユーザが遠隔地から患者を管理および治療できるようにする。
【0022】
遠隔測定リンク112は、植込心腎刺激装置110から外部システム115へのデータ伝送を提供する。これには、たとえば植込心腎刺激装置110によって獲得されたリアルタイムの生理学的データの伝送、植込心腎刺激装置110によって獲得されるとともに植込刺激装置内に保存された生理学的データの抽出、植込心腎刺激装置110内に保存され
た治療履歴データの抽出、および植込心腎刺激装置110の動作状態の表示(たとえば電池状態とリードインピーダンス)が含まれる。遠隔測定リンク112は、外部システム115から植込心腎刺激装置110へのデータ伝送も提供する。これには、たとえば生理学的データを獲得するための植込心腎刺激装置110のプログラミング、少なくとも1つの自己診断試験(たとえば装置動作状態)を実行するための植込心腎刺激装置110のプログラミング、および一つあるいは複数の治療を送達するための植込心腎刺激装置110のプログラミングが含まれる。
【0023】
図2は、植込心腎刺激装置210の回路の実施形態を例示するブロック図である。植込心腎刺激装置210は、植込心腎刺激装置110の実施形態であり、検出回路240、代償不全検出器242、心刺激回路244、腎刺激回路246、および刺激制御回路248を有する。様々な実施形態において植込心腎刺激装置210は、センサ250を有するか、センサ250に接続されるか、あるいはその両方である。センサ250は、植込ハウジング130内に封入された一つあるいは複数のセンサと、植込ハウジング130の外部にあるが植込ハウジング130内に封入された回路系に通信可能に接続される一つあるいは複数のセンサのうちの少なくとも一方を有する、一つあるいは複数の生理学的センサを表わす。
【0024】
検出回路240は、心刺激リード108、腎刺激リード109、およびセンサ250のうちの少なくとも一方の一つあるいは複数の電極を介して一つあるいは複数の生理学的信号を検知する。一つあるいは複数の生理学的信号は、身体102内の水と塩のうちの少なくとも一方の貯留を示す一つあるいは複数の信号を有する。そのような信号の例には、さらに下述されるように、体組織容量、血液容量、および異常な組織または血液容量の作用を示す信号が含まれる。代償不全検出器242は、一つあるいは複数の生理学的信号を用いることで身体102内の水貯留レベルを検出し、さらに検出された水貯留レベルを示す代償不全信号を生成する。一実施形態において代償不全検出器242は、一つあるいは複数の生理学的信号と一つあるいは複数の指定の閾値を用いることで、心不全に関連する代償不全の発現を検出する。一実施形態において一つあるいは複数の閾値はそれぞれ、一つあるいは複数の生理学的信号のうちの1つによって示される治療を送達する必要性にしたがって指定される。一実施形態において代償不全信号は、代償不全の発現を示す代償不全警告信号を有する。様々な実施形態において代償不全警告信号は、検出された代償不全の発現と消失および検出代償不全の状態または程度のうちの少なくとも一方を示す。たとえば代償不全警告信号は、検出代償不全の状態または程度を定量的に示すパラメータ値を有する。
【0025】
一実施形態において代償不全検出器242は、急性非代償性心不全中に生じる代償不全を示す状態を検出する。別の実施形態において代償不全検出器242は、急性非代償性心不全をもたらし得る状態または急性非代償性心不全からの回復を示す状態を検出する。心不全は、心拍出またはストローク容量で測定されるように、心臓からの血流の低下を引き起こす。心拍出量は、単位期間中に心臓によって送込まれる血液量である。ストローク量は、それぞれの収縮またはストローク中に送込まれる血液量である。身体の補償メカニズムが正常な心拍出/ストローク量を修復できないほどに、心臓が著しく弱体化するときに非代償性心不全が起こる。非代償性心不全の1つの主たる結果は、正常な腎機能を支援すべく腎臓に十分な血液を提供できなくなることである。結果的に、非代償心不全を患う患者は、代償不全と称せられるプロセスである神経ホルモン活性化の増加、塩と水の貯留、最終的に肺と末梢の浮腫を徐々に発現する。
【0026】
一実施形態においてセンサ250は、肺インピーダンス、または胸腔のうちの一部のインピーダンスを測定する植込インピーダンスセンサを有する。別の実施形態においてセンサ250は、水の貯留から生じる血液希釈を示す血液インピーダンスを測定する植込イン
ピーダンスセンサを有する。代償不全検出器242は、インピーダンスがその正常範囲外になるとき、代償不全警告信号を生成する。たとえば肺浮腫、すなわち心拍出量の低下から生じる肺内の体液貯留は、肺または胸部インピーダンスを増加させる。一特定実施形態において代償不全検出器242は、肺または胸部インピーダンスが指定の閾値ンピーダンスを超えるとき、代償不全警告信号を生成する。一実施形態においてインピーダンスセンサは、患者の分時換気量を検知する呼吸センサである。分時換気量を検知するインピーダンスセンサの例は、カーディアック・ペースメイカーズ社(Cardiac Pacemakers,Inc.)に
譲渡された特許文献1の「CHF患者の状態を評価する植込心調律管理装置(IMPLANTABLE
CARDIAC RHYTHM MANAGEMENT DEVICE FOR ASSESSING STATUS OF CHF PATIENTS)」におい
て記載されており、その全体は本明細書において参照文献によって盛り込まれている。
【0027】
一実施形態においてセンサ250は、圧力センサを有する。急性非代償性心臓は、心臓血管系のうちの様々な部分の圧力をそれらの正常範囲から逸脱させる。代償不全検出器242は、圧力がその正常範囲から外れると、代償不全警告信号を生成する。圧力センサの例には、中心静脈圧力(CVP)センサ、左心房(LA)圧力センサ、左心室(LV)圧力センサ、動脈圧力センサ、肺動脈圧力センサ、および腹腔内圧力センサが含まれる。様々な実施形態においてそのような圧力センサのうちの一つあるいは複数は、心刺激リード108、腎刺激リード109、および植込ハウジング130のうちの一つあるいは複数内に組込まれる。肺浮腫によって、左心房と動脈圧の上昇が生じる。左心室の劣化は、結果的に左心室と動脈圧の低下をもたらす。様々な実施形態において代償不全検出器242は、左心房圧が指定の閾値左心房圧レベル(指定閾値)を超える場合、肺動脈圧が所定の閾値肺動脈圧レベル(指定閾値)を超える場合、左心室圧が所定の閾値左心室圧レベル(指定閾値)を下回る場合、および動脈圧が、所定の閾値左心室圧レベル(指定閾値)を下回る場合のうちの少なくとも1つの場合において代償不全警告信号を生成する。他の実施形態において代償不全検出器242は、たとえば圧力の変化速度などのパラメータをこれらの圧力のうちの1つから得、さらにパラメータがその正常範囲から逸脱するとき、代償不全警告信号を生成する。一実施形態において左心室圧センサは、心周期の全期間かそのうちの一部の期間に左心室圧と公知または予測可能な関係がある信号を検知することで、左心室圧を間接的に検知する。そのような信号の例には、左心房圧と冠状静脈圧が含まれる。冠状静脈圧センサを用いて左心室圧を測定する一特定例は、カーディアック・ペースメイカーズ社(Cardiac Pacemakers,Inc.)に譲渡された2002年1月4日出願の特許文献
2の「左心室圧を測定する方法と装置(METHOD AND APPARATUS FOR MEASURING LEFT VENTRICULAR PRESSURE)」に記載され、その全体は、本明細書において参照文献によって組込まれている。
【0028】
一実施形態においてセンサ250は、心拍出量またはストローク量センサを有する。ストローク量検知の例は、ともにカーディアック・ペースメイカーズ社(Cardiac Pacemakers,Inc.)に譲渡された特許文献3の「生理的要求の変化に応答して患者への治療の投与を
制御する生物医学的方法と装置(BIOMEDICAL METHOD AND APPARATUS FOR CONTROLLING THE
ADMINISTRATION OF THERAPY TO A PATIENT IN RESPONSE TO CHANGES IN PHYSIOLOGIC DEMAND)」および特許文献4の「二重不関電極ペースメーカ(DUAL INDIFFERENT ELECTRODE PACEMAKER)」に記載され、その全体は本明細書において参照文献によって組込まれている
。代償不全検出器242は、ストローク量が、指定の閾値レベルを下回ると、代償不全警告信号を生成する。
【0029】
一実施形態においてセンサ250は、交感神経と副交感神経のうちの少なくとも一方の活動を検出する神経活動センサを有する。心拍出量の有意な減少は、自律神経系が、劣化した心機能を代償しようと努めるので、交感神経活動を直ちに刺激する。交換神経活動は、代償が正常心拍出量を修復できなくても持続する。一特定実施形態において神経活動センサは、交感神経と副交感神経のうちの少なくとも一方のホルモンレベルを検知する神経
ホルモンセンサを有する。代償不全検出器242は、ホルモンレベルが指定の閾値レベルを超えると、代償不全警告信号を生成する。別の特定実施形態において神経活動センサは、交換神経と副交感神経のうちの少なくとも一方の電気的活動を検知する活動電位レコーダを有する。代償不全検出器242は、交感神経の電気的活動の周波数が、所定の閾値レベルを超えると、代償不全警告信号を生成する。直接的および間接的神経活動検知の例は、カーディアック・ペースメイカーズ社(Cardiac Pacemakers,Inc.)に譲渡された特許文
献5の「植込装置の不整脈予測と予防(ARRHYTHMIA PREDICTION AND PREVENTION FOR IMPLANTED DEVICES)」に記載され、その全体は本明細書において参照文献によって組込まれている。一実施形態において代償不全検出器242は、心拍変動検出器を有する。急性非代償性心不全を患う患者は、異常に低い心拍変動を示す。心拍変動を検出する例は、カーディアック・ペースメイカーズ社(Cardiac Pacemakers,Inc.)に譲渡された特許文献6の「
植込心臓装置用データロギングシステム(DATA LOGGING SYSTEM FOR IMPLANTABLE CARDIAC
DEVICE)」に記載され、その全体は、本明細書において参照文献によって組込まれている。代償不全検出器242は、心拍変動が指定の閾値レベルを下回ると、代償不全警告信号を生成する。
【0030】
一実施形態においてセンサ250は、腎機能センサを有する。急性非代償性心不全は、主として心拍出量の低下に続く腎臓による体液貯留のため、末梢浮腫をもたらす。体液貯留は、腎排出量の低下、糸球体濾過量の低下、およびアンジオテンシンの形成に関連する。したがって、一特定実施形態において腎機能センサは、腎排出量を示す信号を検知する腎排出量センサを有する。一実施形態において代償不全検出器242は、中心静脈圧力が閾値中心静脈圧力圧(たとえば15〜20mmHg)を超える場合か腹腔内圧が閾値腹腔内圧を超える場合に代償不全警告信号を生成する。別の実施形態において代償不全検出器242は、検知腎排出量が所定の閾値を下回るとき、代償不全警告信号を生成する。別の特定実施形態において腎機能センサは、糸球体濾過率を示す信号を検知する濾過率センサを有する。代償不全検出器242は、検知糸球体濾過率が指定の閾値を下回るとき、代償不全警告信号を生成する。さらに別の特定実施形態において腎機能センサは、レニンまたはアンジオテンシンレベルの増加を示す信号を検知する化学センサを有する。代償不全検出器242は、検知されたレニンまたはアンジオテンシンレベルが指定の閾値レベルを超えると、代償不全警告信号を生成する。
【0031】
一実施形態においてセンサ250は、心音センサと呼吸音センサのうちの少なくとも一方である音響センサを有する。急性非代償性心不全は、異常な心臓および肺の活動パターンをもたらし、したがってそれらのパターンと振幅のうちの少なくとも一方の正常範囲からの心音と呼吸音の逸脱をもたらす。代償不全検出器242は、心音または呼吸音がその正常範囲外にあるとき、代償不全警告信号を生成する。たとえば第3心音(S3)の検出は、心不全を示すことがわかっている。一特定実施形態において代償不全検出器242は、S3振幅が所定の閾値レベルを超えると、代償不全警告信号を生成する。
【0032】
センサ250と代償不全検出器242の実施例は、限定としてではなく、例として本書において記載される。当業者には公知のように、代償不全を直接的または間接的に検出する他の方法とセンサは、センサ250および代償不全検出器242として使用できる。
【0033】
心刺激回路244は、心臓血管機能を変調する心刺激パルスを送達する。一実施形態において心刺激回路244は、心臓内または心臓上に設置された一つあるいは複数の電極を有する心刺激リード108を介して、心臓に心ペーシングパルスを送達する。別の実施形態において心刺激回路244は、圧受容器と自律神経系の他の要素のうちの少なくとも一方上か隣接して設置される一つあるいは複数の電極を有する心刺激リード108を介して心機能を変調する神経系に神経ペーシングパルスを送達すべく神経ペーシングパルスを送達する。
【0034】
腎刺激回路244は、腎機能を変調する腎刺激パルスを送達する。一実施形態において腎刺激回路244は、腎臓上か腎臓に隣接して設置された一つあるいは複数の電極を有する腎刺激リード109を介して腎臓に腎刺激パルスを送達する。別の実施形態において腎刺激回路244は、大動脈腎動脈神経節、腎神経節、腹腔神経叢、腸間膜動脈間神経叢、脊柱傍交感神経鎖、椎前神経節、内臓神経、腎神経、および迷走神経を有する、腎臓を支配する神経、神経節、および叢のうちの一つあるいは複数の上か隣接して設置された一つあるいは複数の電極を有する腎刺激リード109を介して腎神経に腎刺激パルスを送達する。
【0035】
刺激制御回路248は、腎刺激パラメータと心刺激パラメータを用いることで、心腎刺激モードにしたがって心刺激パルスおよび腎刺激パルスの送達を制御する。様々な実施形態において刺激制御回路248は、心腎刺激モードにしたがって心刺激パルスと腎刺激パルスの送達を時間的に調整する。様々な実施形態において刺激制御回路248は、代償不全検出器242によって生成された代償不全信号を用いることで、心刺激パルスの送達と腎刺激パルスの送達を制御する。一実施形態において刺激制御回路248は、フィードバック入力として代償不全信号を用いることで、心刺激パルスの送達と腎刺激パルスの送達の閉ループ制御を提供する。一実施形態において刺激制御回路248は、代償不全信号と一つあるいは複数のさらに別の制御信号を用いることで、心刺激パルスの送達と腎刺激パルスの送達を制御する。様々な実施形態において刺激制御回路248は、心刺激パルスと腎刺激パルスのタイミングと強度のうちの少なくとも一方を制御すべく、一つあるいは複数のさらに別の制御信号を用いる。そのような信号の例には、患者によって受容される薬物治療と時間帯を示す信号が含まれる。
【0036】
一実施形態において刺激制御回路248は、代償不全信号によって示されるような代償不全の発現に応答して心腎刺激モードにしたがって心刺激パルスと腎刺激パルスの送達を開始する。一実施形態において刺激制御回路248は、代償不全信号によって示されるような代償不全の消失に応答して心腎刺激モードにしたがって心刺激パルスと腎刺激パルスの送達を停止する。
【0037】
一実施形態において刺激制御回路248は、腎アドレナリン作動性緊張と腎コリン作動性緊張のうちの少なくとも一方を変調することで、利尿とナトリウム利尿を増大させるべく選択された腎刺激パラメータを用いて、腎刺激パルスの送達を制御する。一実施形態において腎刺激パラメータは、腎アドレナリン作動性緊張を部分的または完全にブロックすべく選択される。別の実施形態において腎刺激パラメータは、腎アドレナリン作動性緊張を部分的または完全にブロックする代わりか、これに加えて腎コリン作動性緊張を増強すべく選択される。腎刺激パルスの送達は、腎かん流の増大、レニン分泌とレニン−アンジオテンシン−アルドステロン系(RAAS)活性化の軽減、または腎濾過あるいは腎再吸収の変更(たとえば近位尿細管におけるナトリウムの再吸収を減らすことで)を行うべく制御され、それによって利尿およびナトリウム利尿を促進する。一実施形態において刺激制御回路248は、腎神経における固有の活動電位インパルスの周波数よりも実質的に高い神経刺激周波数を用いることで、腎神経連絡を覆すべく、腎刺激パルスの送達を制御する。別の実施形態において刺激制御回路248は、腎神経を過分極化すべく腎刺激パルスの送達を制御する。
【0038】
一実施形態において刺激制御回路248は、腎刺激パルス送達の一つあるいは複数の作用を増強すべく選択された心刺激パラメータを用いることで、心刺激パルスの送達を制御する。そのような一つあるいは複数の作用の例には、利尿とナトリウム利尿の作用が含まれる。心刺激パルスは、心ペーシングパルスと神経ペーシングパルスのうちの少なくとも一方を有する。一実施形態において刺激制御回路248は、患者固有の心拍数よりも実質
的に高いペーシング速度を用いることで、抗徐脈ペーシングモードにしたがって心ペーシングパルスの送達を制御する。別の実施形態において刺激制御回路248は、心ペーシングを用いることで、血液力学的性能を改善すべく心再同期療法(CRT)ペーシングモードにしたがって心ペーシングパルスの送達を制御する。一実施形態において刺激制御回路248は、心房伸長ペーシングすべく神経ペーシングパルスの送達を制御する。一実施形態において刺激制御回路248は、圧受容器ペーシングすべく神経ペーシングパルスの送達を制御する。
【0039】
様々な実施形態において植込ハウジング130は、少なくとも検出回路240、代償不全検出器242、心刺激回路244、腎刺激回路246、および刺激制御回路248を封入する。ヘッダ132は、検出回路240、心刺激回路244、および腎刺激回路246に電気的接続される。
【0040】
様々な実施形態において植込心腎刺激装置210は、ハードウエアとソフトウエアの組合せを用いることで実装される。様々な実施形態において植込心腎刺激装置210のうちのそれぞれの要素は、一つあるいは複数の特定機能を実行するように構成されたアプリケーション特有回路またはそのような機能を実行するようにプログラムされた汎用回路を用いることで、実装され得る。そのような汎用回路には、限定されないが、マイクロプロセッサかそのうちの一部、または他のプログラム可能論理回路かそのうちの一部が含まれる。一実施形態において代償不全検出器242と刺激制御回路248は、本書において記載される様々な機能を実行するようにプログラムされたマイクロプロセッサを用いる回路として実装される。
【0041】
図3〜図8は、特に遠端部分を示す腎刺激リード109の様々な実施形態を例示する。一実施形態において腎刺激リード109は、心ペーシングリードを植込む技法と実質的に類似した技法を用いることで植込まれる。鎖骨下動脈穿刺、頭部血管切開、または外頸アクセスは、遠端部分126が下大静脈または一つあるいは複数の腎静脈内に設置され得るように、上大静脈(SVC)RA、および下大静脈に腎刺激リード109のうちの遠端部分126を通すべく用いられる。図3〜5は、腎臓103A〜B、腎静脈104A〜B、下大静脈106、腎動脈314A〜B、および大動脈316を示す、腎刺激リード109の遠端部分が配置される環境のうちの一部も例示する。
【0042】
図3は、腎刺激リード309のうちの遠端部分326の実施形態図である。腎刺激リード309は、腎刺激リード109の実施形態を表わす。遠端部分326は、遠端部分126の実施形態を表わし、固着構造352を有する。腎刺激リード309の植込み後、固着構造352は、下大静脈106内で遠端部分326を安定化する。
【0043】
図4は、腎刺激リード409Aのうちの遠端部分426Aと腎刺激リード409Bのうちの遠端部分426Bの実施形態図である。腎刺激リード409A〜Bは、腎刺激リード109の別の実施形態を表わす。一実施形態において腎刺激リード409A〜Bは、2つの別個のリードを表わす。別の実施形態において腎刺激リード409A〜Bは、遠端部分で分離するリードの2つの分枝を表わす。遠端部分426A〜Bは、遠端部分126の別の実施形態を表わし、固着構造452A〜Bを有する。腎刺激リード409A〜Bの植込み後、固着構造452Aは、腎静脈104A内で遠端部分426Aを安定化し、固着構造452Bは、腎静脈104B内で遠端部分426Bを安定化する。
【0044】
図5は、腎刺激リード509のうちの遠端部分526とパルス送達ステント560の実施形態図である。腎刺激リード509は、腎刺激リード109の別の実施形態を表わす。遠端部分526は、遠端部分126の別の実施形態を表わし、固着構造552と送信器554を有する。腎刺激リード509の植込み後、固着構造552は、下大静脈106内で
遠端部分526を安定化する。送信器554は、パルス送達ステント560に電力と腎刺激パルスを伝送する。様々な実施形態において送信器554は、植込心腎刺激装置110から電力と腎刺激パルスを受信し、さらに電磁(誘導性)または音響結合(結合器)を介してパルス送達ステント560に電力と腎刺激パルスを中継する。
【0045】
例示の実施形態においてパルス送達ステント560は、下大静脈106よりも標的腎神経に近い場所に電極を設置できる大動脈316内に設置される。パルス送達ステント560は、電極558A〜B、受信器556、およびパルス送達回路557を有する。受信器556は、電力と腎刺激パルスを受信する。一実施形態において送信器554と受信器556はそれぞれ、電磁(誘導性)結合を形成するコイル(またはアンテナ)を有し、電磁結合を介して電力と腎刺激パルスが伝送される。一実施形態において送信器554と受信器556はそれぞれ、音響結合を形成する音響変換器を有し、音響結合を介して電力と腎刺激パルスが送信される。パルス送達回路557は、受信電力で動作し、受信腎刺激パルスに対応する電気刺激パルスを送信する。
【0046】
様々な実施形態において腎刺激リード509のうちの遠端部分526とパルス送達ステント560は、所望刺激標的と設置の安定性のうちの少なくとも一方を考慮して構成および設置される。一実施形態において電極を備えた一つあるいは複数のリードは、パルス送達ステント560が大動脈316内に設置できるようにパルス送達ステント560に接続されるが、電極は、腎動脈314A〜B内に設置される。別の実施形態において遠端部分526は、腎静脈104Aか104B内に設置され、パルス送達ステント560は、隣接する腎動脈314Aまたは314B内に設置される。別の実施形態において複数の遠端部分を備える多重リードまたは1リードならびに多重パルス送達ステントは、遠端部分がそれぞれの腎静脈104A〜B内に設置され、パルス送達ステントがそれぞれの腎動脈314A〜B内に設置されるように用いられる。
【0047】
図6は、腎刺激リード609の固着構造652の実施形態図である。腎刺激リード609は、固着構造652を有する遠端部分626を示す腎刺激リード109の実施形態を表わす。固着構造652は、固着構造352,452A,452B,または552の実施形態を表わし、植込み後、たとえば下大静脈106または腎静脈104Aか104Bの血管の内壁に接触するように構成される一つあるいは複数の螺旋部分を有する。例示実施形態において電極670A〜Eは、腎刺激パルスの検知と送達のうちの少なくとも一方を行うべく固着構造652に組込まれる。様々な実施形態において任意数の電極が、固着構造652に組込まれる。一実施形態においてたとえば遠端部分626上の電極670A〜Eのような多重電極は、検知信号の品質、対象応答を誘発するよう要求される腎刺激パルスの振幅(刺激閾値)、および腎刺激パルスの送達によって隣接神経の意図しない刺激または過分極化が生じるかどうかに基づき、刺激制御回路248が、検知とパルス送達のうちの少なくとも一方を行うべく、一つあるいは複数の活性電極を選択する電極の電子再配置を可能にする。
【0048】
図7は、腎刺激リード709の固着構造752の実施形態図である。腎刺激リード709は、固着構造752を有するその遠端部分726を示す腎刺激リード109の別の実施形態を表わす。固着構造752は、固着構造352,452A,452B、または552の別の実施形態を表わし、植込み中の拡張後にたとえば下大静脈106または腎静脈104Aか104Bのような血管の内壁に接触するように構成されるステントを有する。例示実施形態において電極770A〜Eは、検知と腎刺激パルスの送達のうちの少なくとも一方を行うべく固着構造752に組込まれる。様々な実施形態において任意数の電極が、固着構造752に組込まれる。一実施形態においてたとえば遠端部分726上の電極770A〜Eのような多重電極は、刺激制御回路248が検知信号の品質、対象応答の誘発に必要な腎刺激パルスの振幅(刺激閾値)、および腎刺激パルスの送達によって隣接神経の予
期しない刺激または過分極化が生じるかどうかに基づき、検知とパルス送達のうちの少なくとも一方を行うべく一つあるいは複数の活性電極を選択する、電極の電子再配置を可能にする。
【0049】
図8は、多重固着装置を備える腎刺激リード809の実施形態図である。腎刺激リード809は、遠端部分826を示す腎刺激リード109の別の実施形態を表わす。例示実施形態において遠端部分826は、固着構造852A〜Bを有する。様々な実施形態において遠端部分826は、血管内で腎刺激リード809を安定化するとともにその損傷を防止すべく、任意数の固着構造を有する。様々な実施形態において固着構造852A〜Bはそれぞれ、固着構造652か固着構造752の構成を有する。
【0050】
図9は、心腎刺激の方法900の実施形態を例示するフローチャートである。一実施形態において方法900は、心腎刺激システム100を用いることで実行される。
ステップS910において一つあるいは複数の生理学的信号は、たとえば植込心腎刺激装置110などの植込医療装置を用いることで検知される。一つあるいは複数の生理学的信号は、患者の体内の水の貯留レベルを示す。急性非代償性心不全中の代償不全の発現は、一つあるいは複数の生理学的信号を用いることで検出される。ステップS920において心不全に関連する代償不全は、一つあるいは複数の生理学的信号を用いることで検出される。ステップS930において代償不全信号は、検出代償不全に応答して生成される。一実施形態において代償不全信号は、検出代償不全の発現と消失を示す。別の実施形態において代償不全信号は、検出代償不全の状態または程度を定量的に示す。さらに別の実施形態において代償不全信号は、急性非代償性心不全をもたらし得るか急性非代償性心不全から回復し得る状態または状態の程度を定量的に示す。
【0051】
ステップS940において心臓血管機能を変調する心刺激パルスと腎機能を変調する腎刺激パルスの送達は、代償不全信号を用いることで心腎刺激モードにしたがって制御される。一実施形態において心刺激パルスの送達と腎刺激パルスの送達は、心刺激パルスが腎刺激パルスの送達の一つあるいは複数の作用を増強すべく送達されるように、時間的に調整される。一実施形態において心腎刺激モードにしたがう心刺激パルスと腎刺激パルスの送達は、検出代償不全の発現に応答して開始され、さらに検出代償不全の消失に応答して停止される。一実施形態において心刺激パルスと腎刺激パルスの送達は、閉ループ制御系のフィードバック入力として代償不全信号を用いることで、心腎刺激モードにしたがって制御される。一実施形態において心刺激パルスと腎刺激パルスを送達するタイミングと強度は、代償不全信号と一つあるいは複数のさらに別の信号を用いて制御される。
【0052】
ステップS950において心刺激パルスと腎刺激パルスは、たとえば植込心腎刺激装置110などの植込医療装置から送達される。様々な実施形態において心刺激パルスは、心臓に送達される心ペーシングパルスと、心臓血管機能を変調する神経系に送達される神経ペーシングパルスのうちの少なくとも一方を有する。腎刺激パルスは、腎アドレナリン作動性緊張のブロックと腎コリン作動性緊張の増強のうちの少なくとも一方を行うことで利尿とナトリウム利尿を増大すべく、一つあるいは複数の腎臓と一つあるいは複数の腎神経のうちの少なくとも一方に送達される腎刺激パルスを有する。一実施形態において腎刺激パルスは、下大静脈と、腎神経に隣接する腎静脈のうちの少なくとも一方内に設置された一つあるいは複数の電極を介して送達される。別の実施形態において腎刺激パルスは、腎神経に隣接する動脈内に設置された一つあるいは複数の電極と、植込医療装置に一つあるいは複数の電極を連結する無線リンクとを介して送達される。
【0053】
ステップS960において心刺激パルスと腎刺激パルスの送達の一つあるいは複数の作用は、それぞれが利尿またはナトリウム利尿を示す一つあるいは複数の信号を監視することで確認される。一実施形態において一つあるいは複数のセンサを備えたフォーリ(Fo
ley)型カテーテルが、用いられる。一つあるいは複数のセンサの例には、直接利尿測定用流量センサとナトリウム分泌の間接測定用伝導度センサが含まれる。別の実施形態において超音波または他の画像化技法が、腎刺激の前後の膀胱容量の測定に用いられる。
【0054】
一実施形態において方法900は、心不全患者の長期治療として心腎刺激システム100を用いることで実行される。検出回路240と代償不全検出器242は、長期的に使用可能である。心腎刺激は、代償不全のそれぞれの検出に応答して代償不全検出器242によって生成された代償不全信号を用いることで、制御される。一実施形態において心刺激パラメータは、利尿とナトリウム利尿を増強する必要に応じて調整される。これには、たとえば血液力学的性能を改善することで利尿とナトリウム利尿を増強すべく、心再同期療法ペーシングを適用することが含まれる。血液力学的性能は、監視されるとともに、たとえば房室(AV)遅延および心室間(VV)遅延などのペーシングパラメータを調整することでほぼ最適化される。様々な実施形態において心刺激は、(1)交感神経活性化を下げる(腎神経ブロックをより効率的にする)か抗利尿ホルモン(ADH)を低下させることで利尿を改善する心肺反射神経の刺激、(2)交感神経活性化を減らす交感心臓求心性神経の過分極化、(3)右心房および左心房不応期中においてまたは心閾値下刺激電流を用いる神経終末の連続刺激を使用することでのいずれかで右心房,左心房、および心肺伸長反射を活性化する冠状静脈洞における心肺受容器の刺激、および(4)心拍出量を増大する抗徐脈または心再同期療法ペーシングのうちの一つあるいは複数を有する。一実施形態において患者の心不全状態が安定している場合、心腎刺激は、腎臓に対する交感神経緊張を軽減することで利尿剤の用量の軽減、糸球体濾過率(GFR)の維持および慢性腎疾患(CKD)病期の進行の防止と、血圧の制御のうちの少なくとも一方を行うべく、定期的に、または一つあるいは複数の生理学的信号に基づき、あるいはその両方で適用される。
【0055】
当然のことながら、上記の詳細な説明は、制限ではなく例示を意図している。他の実施形態は、上記の説明を読んで理解すれば、当業者には明らかであろう。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲をそのような請求項の権利が与えられる等価物の全ての範囲とともに参照して判断されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管を有する生体に電気刺激を送達する刺激送達システムであって、前記刺激送達システムは、
一つあるいは複数の生理学的信号を検知するように構成される検出回路と;
前記一つあるいは複数の生理学的信号を用いることで、前記生体内の水の貯留レベルを検出して検出水貯留レベルを得るとともに、前記検出水貯留レベルを示す代償不全信号を生成するようにプログラムされた代償不全検出器と;
心臓血管機能を変調する心刺激パルスを送達するように構成される心刺激回路と;
腎機能を変調する腎刺激パルスを送達するように構成される腎刺激回路と;
前記代償不全検出器、前記腎刺激回路、および前記心刺激回路に連結された刺激制御回路であって、前記刺激制御回路は、前記代償不全信号を用いることで、心腎刺激モードにしたがって前記心刺激パルスと前記腎刺激パルスの前記送達を制御するようにプログラムされることと;
前記検出回路、前記代償不全検出器、前記心刺激回路、前記腎刺激回路、および前記刺激制御回路を封入する植込ハウジングと
を有する、刺激送達システム。
【請求項2】
前記刺激制御回路は、腎アドレナリン作動性緊張と腎コリン作動性緊張のうちの少なくとも1つを変調することで利尿とナトリウム利尿のうちの少なくとも1つを増大させるべく選択された腎刺激パラメータを用いて前記腎刺激パルスの前記送達を制御するとともに、
前記腎刺激パルスの前記送達の一つあるいは複数の作用を増強すべく選択された心刺激パラメータを用いて前記心刺激パルスの前記送達を制御するようにプログラムされる、
請求項1記載の刺激送達システム。
【請求項3】
前記代償不全検出器は、心不全に関連する代償不全を検出するようにプログラムされ、
前記代償不全信号は、前記代償不全の発現と消失を示し、
前記刺激制御回路は、前記代償不全の前記発現に応答して前記心腎刺激モードにしたがって前記心刺激パルスと前記腎刺激パルスの前記送達を開始するとともに、
前記代償不全の前記消失に応答して前記心腎刺激モードに従って前記心刺激パルスと前記腎刺激パルスの前記送達を停止するようにプログラムされる、
請求項1または2記載の刺激送達システム。
【請求項4】
前記刺激制御回路は、フィードバック入力として前記代償不全信号を用いることで、前記心腎刺激モードにしたがって前記心刺激パルスと前記腎刺激パルスの前記送達を制御するようにプログラムされる、
請求項1〜3何れか一項記載の刺激送達システム。
【請求項5】
前記刺激制御回路は、心再同期療法ペーシングモードにしたがって心ペーシングパルスの送達を制御するとともに、前記一つあるいは複数の生理学的信号を用いることで房室遅延と心室間遅延のうちの一つあるいは複数を調整するようにプログラムされる、
請求項1〜4何れか一項記載の刺激送達システム。
【請求項6】
前記刺激送達システムは、
前記植込ハウジングに取付けられたヘッダと;
前記ヘッダに接続されるとともに、前記検出回路、前記心刺激回路、および前記腎刺激回路に前記ヘッダを通じて電気的接続されるように構成される植込リードシステムと
を有し、
前記植込リードシステムは、
一つあるいは複数の経静脈心刺激リードと;
一つあるいは複数の経静脈腎刺激リードと
を有し、
前記経静脈心刺激リードと前記経静脈腎刺激リードとはそれぞれ、
前記ヘッダに接続されるように構成された近端部分と;
それぞれが前記血管のうちの少なくとも1つ内で遠端部分を安定化するように構成される一つあるいは複数の固着構造を有する遠端部分と;
前記近端部分と前記遠端部分との間で連結される細長体部分と
を有する、
請求項1〜5何れか一項記載の刺激送達システム。
【請求項7】
前記一つあるいは複数の固着構造はそれぞれ、螺旋部分またはステントを有する、
請求項6記載の刺激送達システム。
【請求項8】
前記一つあるいは複数の経静脈腎刺激リードはそれぞれ、複数の固着構造を有する、
請求項6または7記載の刺激送達システム。
【請求項9】
前記一つあるいは複数の経静脈腎刺激リードはそれぞれ、前記一つあるいは複数の固着構造内に組込まれた複数の電極を有し、
前記刺激制御回路は、前記腎刺激パルスを送達すべく前記複数の電極のうちの一つあるいは複数の電極を選択するようにプログラムされる、
請求項6または7記載の刺激送達システム。
【請求項10】
前記一つあるいは複数の経静脈腎刺激リードは第1経静脈腎刺激リードを有し、前記第1経静脈腎刺激リードは、
前記腎刺激パルスを送信するように構成される送信器と、
前記送信器に無線的に連結されるステントと
を備え、
前記ステントは、
電極と;
前記腎刺激パルスを受信するように構成される受信器と;
前記腎刺激パルスに対応する電気パルスを送達するように構成されるパルス送達回路とを有する、
請求項6または7記載の刺激送達システム。
【請求項11】
生体内に設置された植込心腎刺激装置を操作する操作方法であって、前記操作方法は、
前記植込心腎刺激装置を用いることで、前記生体内の水貯留レベルとしての検出水貯留レベルを示す一つあるいは複数の生理学的信号を検知することと;
前記検出水貯留レベルを示す代償不全信号を生成することと;
前記代償不全信号を用いることで心腎刺激モードにしたがって心臓血管機能を変調する心刺激パルスと腎機能を変調する腎刺激パルスの送達を制御することと;
前記植込心腎刺激装置から前記心刺激パルスと前記腎刺激パルスを送達することと
を有する、操作方法。
【請求項12】
前記操作方法は、前記検知された一つあるいは複数の生理学的信号と一つあるいは複数の指定閾値を用いることで、心不全に関連する代償不全を検出して検出代償不全を得ることを有し、
前記代償不全信号の生成は、前記検出代償不全の発現と消失を示す代償不全信号を生成することを有し、
前記心刺激パルスと前記腎刺激パルスの前記送達の制御は、前記検出代償不全の前記発
現に応答して前記心腎刺激モードにしたがって前記心刺激パルスと前記腎刺激パルスの前記送達を開始することと、前記検出代償不全の前記消失に応答して前記心腎刺激モードにしたがって前記心刺激パルスと前記腎刺激パルスの前記送達を停止することとを有する、
請求項11記載の操作方法。
【請求項13】
前記心刺激パルスと前記腎刺激パルスの前記送達の制御は、閉ループ制御系のフィードバック入力として前記代償不全信号を用いることで、前記心腎刺激モードにしたがって前記心刺激パルスと前記腎刺激パルスの前記送達を制御することを有する、
請求項11および12何れか一項記載の操作方法。
【請求項14】
前記腎刺激パルスの送達は、腎アドレナリン作動性緊張と腎コリン作動性緊張のうちの少なくとも1つを変調することで、利尿とナトリウム利尿のうちの少なくとも1つを増大させるべく一つあるいは複数の腎神経に前記腎刺激パルスを送達することを有する、
請求項11〜13何れか一項記載の操作方法。
【請求項15】
前記操作方法は、前記心刺激パルスが前記腎刺激パルスの前記送達の一つあるいは複数の作用を増強すべく送達されるように、前記心刺激パルスの前記送達を前記腎刺激パルスの前記送達に対して時間的に調整することを有する、
請求項11〜14何れか一項記載の操作方法。
【請求項16】
前記心刺激パルスの送達は、
心ペーシングパルスを心臓に送達することと;
前記心臓血管機能を変調する神経系に神経ペーシングパルスを送達することと
を有する、
請求項11〜15何れか一項記載の操作方法。
【請求項17】
前記操作方法は、下大静脈内に設置された一つあるいは複数の電極を通じて、一つあるいは複数の腎神経に前記腎刺激パルスを送達することを有する、
請求項11〜16何れか一項記載の操作方法。
【請求項18】
前記操作方法は、一つあるいは複数の腎静脈内に設置された一つあるいは複数の電極を通じて、一つあるいは複数の腎神経に前記腎刺激パルスを送達することを有する、
請求項11〜16何れか一項記載の操作方法。
【請求項19】
前記操作方法は、腎神経に隣接する動脈内に設置された一つあるいは複数の電極と、前記植込心腎刺激装置に前記一つあるいは複数の電極を結合する無線リンクとを通じて、一つあるいは複数の腎神経に前記腎刺激パルスを送達することを有する、
請求項11〜16何れか一項記載の操作方法。
【請求項20】
前記操作方法は、それぞれが利尿またはナトリウム利尿を示す一つあるいは複数の信号を監視することで、前記心刺激パルスと前記腎刺激パルスの前記送達の一つあるいは複数の作用を確認することを有する、
請求項11〜19何れか一項記載の操作方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2013−508077(P2013−508077A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535217(P2012−535217)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【国際出願番号】PCT/US2010/050571
【国際公開番号】WO2011/049716
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(505003528)カーディアック ペースメイカーズ, インコーポレイテッド (466)
【Fターム(参考)】