説明

心臓血管パラメータの連続的な評価のためのパルス輪郭法および装置

【課題】心拍出量(CO)のような心臓血管または血行動態パラメータを推定するための方法、および前記方法を実装するシステムを提供すること。
【解決手段】心拍出量のような心臓血管系パラメータは、血流量または動脈コンプライアンスを直接測定せずに、現在の圧力波形のデータセットから推定される。心拍サイクルにわたる入力流量波形の一般的形状が仮定(または計算)され、次に予定されていなければ、システム同定技術を使用して流量圧力モデルのパラメータが測定される。一実施態様では、測定されたパラメータを使用して現在の末梢抵抗を推定し、これを心臓血管系パラメータの推定値の計算だけでなく、少なくとも1つの以降の心拍サイクル中に推定された入力流量波形の形状の調整に使用する。別の実施態様では末梢抵抗の計算が不要であり、さらに、推定された入力流量波形を形成するパラメータの最適化された同定から流量の推定値を計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本願は、米国仮特許出願第60/670,767号(2005年4月13日出願)の優先権を主張する。
【0002】
(発明の背景)
(発明の分野)
本発明は、心拍出量(cardiac output:CO)のような心臓血管または血行動態パラメータを推定するための方法、および前記方法を実装するシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
(背景技術)
心拍出量(CO)は、疾患の診断のためだけでなく、患者を含むヒトと動物両方の状態を連続的に監視するための重要な指標である。したがって、ほとんどの病院が、心拍出量を監視するためのいくつかの形態の機器を備えている。
【0004】
最も一般的なCO測定システムの1つの基準に、既知の式CO=HR・SVがある。ここで、SVは1回拍出量であり、HRは心拍数である。その他の単位の流量および時間を使用することが可能であるが、SVは通常リットルで測定され、HRは通常拍/分で測定される。前記式は、心臓が単位時間当たり(例、1分)に送り出される血液の量が、拍動(ストローク)ごとに送り出される量に単位時間ごとの拍動数を掛けたものに等しいことを単純に示すものである。
【0005】
多種多様な機器のうちのいずれかを使用したHRの測定が容易であるので、COの計算は、通常SVを推定するためのいくつかの技術に依存する。逆に、COまたはSVの推定値を直接もたらすあらゆる方法を使用して、これらの値のいずれかから導出することができるあらゆるパラメータを推定すること、または推定に寄与することができる。
【0006】
心拍出量(または同等にSV)を測定するための1つの侵襲的方法では、いくつかの流量測定デバイスをカテーテル上に載置し、そのカテーテルを被験者に通して、デバイスが被験者の心臓またはその近くにあるように操作する。当該のデバイスのいくつかは、右心房などの上流位置で物質のボーラスまたはエネルギ(通常、熱)のいずれかを注入し、肺静脈などの下流位置での注入物質またはエネルギの特性に基づいて、流量を測定する。当該の侵襲的技術(特に、熱希釈)の実装を開示する特許には、
特許文献1(Newbower他、1980年12月2日)、
特許文献2(Yelderman、1985年4月2日)、
特許文献3(McKown他、1992年9月8日)、および、
特許文献4(McKown他、1997年11月18日)が挙げられる。
【0007】
さらに他の侵襲的デバイスでは、COが動脈および混合静脈血の酸素処理の関数として計算されることから、既知のフィック(Fick)技術に基づいている。ほとんどの場合、酸素処理は、右心カテーテル法を使用して検出される。なお、特に複数の光波長を使用した、非侵襲的に動脈および静脈の酸素処理を測定するシステムの提案もなされているが、それらは現在まで、実際の患者での十分なCO測定を可能にするには十分正確ではなかった。
【0008】
侵襲的技術には明らかに不利な点がある。そのうちの1つは、言うまでもなく、心臓のカテーテル法が行われる患者(特に集中治療の患者)が、しばしば実際に、または潜在的に深刻な状態により既に入院していることを特に考慮すれば、この方法が潜在的に危険なことである。侵襲的方法も、あまり明らかでない不利な点を有する。それは、熱希釈のようないくつかの技術が、どの程度良好に達成されるかに基づいた測定の精度に影響を及ぼす、注入された熱の均一な分散などの仮定に依存していることである。さらには、血流へ機器を挿入するだけでも、機器が測定する値(例、流量)に影響を及ぼす場合がある。
【0009】
したがって、非侵襲性(または少なくともできるだけ侵襲性が最小)かつ正確な、COを測定するためのいくつかの方法が長い間必要とされていた。COの非侵襲的で正確な測定に対して特に見込みがあるとされている、1つの血液特性は血圧である。
【0010】
既知の血圧ベースのシステムの大部分は、心拍圧力波形の特性からCOの推定値を計算する、いわゆるパルス輪郭法(PCM)に依存する。PCMでは、「ウインドケッセル(Windkessel)」(ドイツ語で「空気チャンバ」の意)のパラメータ(大動脈の特性インピーダンス、コンプライアンス、合計末梢抵抗)を使用して、大動脈の線形または非線形の血行動態モデルを構成する。本質的に、血流量は、インピーダンスが並列接続された抵抗および静電容量(コンプライアンス)と直列である回路内の電流の流れに対して類推される。
【0011】
図1は、古典的な2要素のウインドケッセルモデルを示す。Q(t)は心臓から大動脈(または肺動脈)の血流量であり、P(t)は時間tにおける大動脈(または肺静脈)内の血圧であり、Cは動脈コンプライアンスであり、Rは全身(または肺)動脈系内の末梢抵抗であり、全て適切な単位である。全流量Q(t)=Qが一定であり、収縮期の間にだけ行われると仮定すると、収縮期の間のP(t)に対して、以下の式が得られる。
P(t)=R・Q−(R・Q−Ped)・e-t/τ (式1)
ここで、Pedは拡張末期圧(拡張期圧)であり、τ=R・Cは減衰定数である。拡張期の間は、Q(t)=0(流入無し)であり、P(t)は次のように変形される。
P(t)=Pes-t/τ (式2)
ここで、Pesは、収縮末期圧である。
【0012】
モデルに必要な3つのパラメータは、通常、複雑な較正プロセスを介して経験的に測定されるか、または編集された「人体計測」データ、すなわち、他の患者または被験者の年齢、性別、身長、体重などから測定される。特許文献5(Wesseling、1995年3月28日)、および特許文献6(Petrucelli他、1996年7月16日)は、COを測定するためにウインドケッセル回路モデルに依存するシステムの代表例である。
【0013】
さらに良好な精度を望んで、単純な2要素のウインドケッセルモデルを拡張したものが多数提案された。当該の拡張版の1つは、1930年の論文、非特許文献1(Swiss
physiologists BroemserおよびRanke)によって作成された。図2は、本モデルを示す。本質的に、Broemserモデル(3要素のウインドケッセルモデルとしても知られている)では、基本的な2要素のウインドケッセルモデルに第3の要素(抵抗R0と表記)を加えて、大動脈または肺弁による血流量に対する抵抗をシミュレートする。Broemserモデルは、1)R0=0、または2)拡張期でのQ(t)=0かつdQ(t)/dt=0の場合の2つのうちのいずれかの環境下で、基本的な2要素のウインドケッセルモデルに変形されることを示すことができる。3つを超える要素のあるウインドケッセルモデルも、提案および分析されている。
【0014】
PCMベースのシステムは、患者の体内にカテーテルを残さずに、ほぼ連続的にCOを監視することができる。実際に、いくつかのPCMシステムは、指のカフ(cuff:血圧計バンド)を用いた血圧測定値を使用して演算する。しかし、PCMには、測定値が導出される比較的単純な3要素のモデルと同じく不正確であるという1つの欠点がある。一般的に、より高次のモデルは、例えば動脈の分岐によって生じる複数のインピーダンスの不一致による複雑な圧力波反射のような、他の現象を正確に補うことが必要になる場合がある。したがって、様々な複雑さを有する他の改良点が提案された。
【0015】
例えば、Salvatore Romanoによる特許文献7「Method and
Apparatus for Measuring Cardiac Output」では、圧力曲線全体と様々なインピーダンスの成分の線形結合との領域間の比率の関数として、侵襲敵または非侵襲的にSVを推定することによって、PCM法を改善するための異なる試みを開示している。圧力反射の補償に対する試みでは、Romanoのシステムは、圧力関数の騒音的導関数の正確な推測だけでなく、平均圧力値に対する一連の経験的に測定された数値的調整にも依存する。
【0016】
特許文献8(Richard J. Cohen他、2004年8月12日、「Methods and apparatus for determining cardiac output」)では、脈圧プロファイルP(t)からCOを測定するためのさらに別の方法を開示している。Cohenの方法によれば、動脈血の圧力波形(時間プロファイル)P(t)は、2つ以上の心臓サイクルにわたって測定される。例えば、3つの心臓サイクルにわたって測定した圧力の測定値を仮定する。次いで、圧力曲線下の領域を、各心臓サイクルごとに計算する。圧力プロファイルP(t)もサンプリング(「デジタル化」)して、P(t)を表す一連の離散値y(j)を形成する。
【0017】
よく知られているように、あらゆるシステムのインパルス応答は、エネルギ、力などのインパルスを受けたときに、(現実的または理論的モデルにおいて)応答がどのように作用するかを表す関数である。Cohenの方法の内、1つのステップでは、「動脈脈圧」と同じ領域を有する一連のインパルスx(k)(各心臓サイクルの最初のもの)の作成を伴う。Cohenの方法のうち、第二の実施態様では、それぞれが、領域は等しいが、対応する動脈パルス圧力波形の領域に依存しない、各心臓サイクルの最初に位置する一連のインパルスx(k)の作成を伴う。次いで、x(k)およびy(j)の値を、心臓系をモデル化する畳み込み計算で使用する。
【0018】
【化1】

ここで、e(t)は残差項であり、mおよびnはモデル内の項の数を限定する。次いで、式を最適化する一連の係数{a,b}を、例えば60乃至90秒のx(k)およびy(j)の間隔にわたって、最小二乗法最適化を使用することによって測定して、残差項e(t)を最小化する。
【0019】
次いで、aおよびbを与えることで、Cohenの方法は、複数サイクルの測定間隔全体をカバーする単一のインパルス応答関数h(t)を導出する。心臓のインパルス応答関数は、通常、ほぼ一次の指数関数的な減衰関数の形態をとることが長い間知られていた。約1.5乃至2.0秒の初期「設定」時間の後に、圧力反射の影響がほぼ治まり、Cohenの方法は、次いで、次式から近似値h(t)を求める。
【0020】
【化2】

次いで、パラメータA(仮定振幅)およびτ(時定数)を、残余重量関数w(t)の最小化から推定する。
【0021】
Cohenの方法は、次いで、例えばある程度の式の変形によりCOを計算する。
CO=ACABP/τ (式5)
ここで、ACはスケーリング定数であり、ABPは「動脈圧」(通常、平均動脈圧)である。スケーリングファクタACを、独立した較正を使用して測定することができ、動脈コンプライアンス値Cとなるか、または少なくともこれに関連するようになる。これは、既知のように、
CO = MAP/R (式6)
によるものであり、ここで、MAPは平均動脈圧力であり、ほとんどの場合、Cohenの項ABPと同一である。τ=RCであるので、AC=Cの場合は式5を式6に変形する。
【0022】
Cohenによって開示された手法には、スケーリングすなわち較正ファクタACの測定、または、同じくCの測定が必要であるという1つの欠点がある。したがって、COの測定値の精度は、較正またはコンプライアンス計算の精度に大きく依存する。Cohenの方法には、使用した帰納的式(式3)が一定の入力振幅を仮定しているので、適切な直流オフセットを測定できないという別の欠点がある。これによって、AC(またはC)の正確な測定に対するより大きな依存も生じる。
【0023】
Cohenの方法には、圧力波形内に含まれる情報の多くを無視するというさらに別の欠点があり、実際に、Cohenの方法の一実施態様では、インパルスx(k)を構成するときに、各波形の単一の特性、すなわち領域しか使用していない。Cohenの方法の第二の実施態様では、パルス圧力波形に含まれる情報が完全に無視される。Cohenの方法では、一度に多数の圧力波形を評価することによってこれを補っている。例えば、Cohenの好適な実施態様では、「単一のABPにおいて長時間的尺度のばらつき(心臓サイクルより長い)」を分析することによってCOを監視して、60乃至90秒の「長い時間間隔の分析を介して」τを測定する。Cohenの方法の非常に簡略化された入力信号x(t)の別の結論は、多数のゼロ、多数の極、および、それによるデザインおよび計算上の複雑さを伴う、複雑な伝達関数ブロックモデル(式3を参照)の必要性である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】米国特許第4,236,527号明細書
【特許文献2】米国特許第4,507,974号明細書
【特許文献3】米国特許第5,146,414号明細書
【特許文献4】米国特許第5,687,733号明細書
【特許文献5】米国特許第5,400,793号明細書
【特許文献6】米国特許第5,535,753号明細書
【特許文献7】米国特許第6,758,822号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2004/0158163号明細書
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】BroemserおよびRanke、「Uber die Messung des Schlagvolumens des Herzens auf unblutigem Weg」、Zeitung fur Biologie 90(1930)、467−507
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
COを推定する演算のシステムおよび方法、またはCOから、またはこれを使用して導出することができ、堅牢かつ正確であり、較正エラーに対する感度が低いあらゆるパラメータが必要である。本発明は、この必要性を満たし、実際に、他の心臓血管系パラメータも推定するための好都合な方法およびシステムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0027】
(発明の開示)
本発明は、例えば、心拍出量(CO)、血流量、1回拍出量、またはこれらのうちのいずれかから導出することができる値などの心臓血管系パラメータを測定するための処理システム、および関連する演算の方法を提供する。動脈圧に対応する現在の圧力波形のデータセットを、少なくとも1つの現在の圧力サイクルにわたって前記処理システムに入力する。侵襲的および非侵襲的な血圧測定装置を使用することが可能である。次いで、少なくとも1つの以前の圧力サイクル、前記現在の圧力波形データ内の少なくとも1つの形状特徴値、またはこれらの両方に対して測定された末梢抵抗値の関数として、仮定非衝撃入力流量波形の定義パラメータを測定する。例えば、前記心臓血管系モデルに基づいて変化させたときに、所定の検出において最も接近した前記現在の圧力波形データセットをもたらす関数を形成するように、前記定義パラメータを計算することが可能である。
【0028】
形状特徴値の複数例のうちの1つは、収縮期の始まりから、収縮時またはほぼ収縮したときまでの時間であり、本発明のいくつかの実施態様では、これらの2つの時間での圧力差とともに使用される。流量圧力心臓血管系モデルのモデルパラメータは、それらが与えられていない場合でも測定される。当該のモデルの実施例は、前記モデルパラメータが離散的な自己回帰表現の係数である場合に、大動脈の多要素ウインドケッセルモデルの前記離散的な自己回帰表現を含む。次いで、前記測定したモデルパラメータの関数として、前記心臓血管系パラメータの推定値を計算する。
【0029】
前記仮定入力流量波形は、好都合に一連の仮定入力波形成分である。当該の波形成分の例には、方形波、のこぎり波、多項式、区分線形関数、1つ以上のベジェ曲線、1つ以上の正弦波成分曲線などが挙げられる。
【0030】
末梢抵抗値の関数として入力流量波形成分が測定される、前記本発明の一実施態様では、拡張期の時定数は、前記圧力波形データセットが導出される抽出率およびモデルフィードバックパラメータの関数として推定される。動脈コンプライアンス値は、前記拡張期の時定数と前記末梢抵抗値との比率として推定される。収縮期の時定数は、前記現在の圧力波形データセット内の選択したポイントから推定される。大動脈特性抵抗値は、前記収縮期の時定数と前記動脈コンプライアンス値との比率として計算される。前記現在の圧力サイクルに対する成分波形の振幅は、少なくとも1つの大動脈特性抵抗値の関数の二乗に反比例するように設定される。
【0031】
本実施態様の特定のバージョンでは、以前のサイクルに対して推定された少なくとも1つの大動脈特性抵抗値を含む、複数の大動脈特性抵抗値の平均値を計算し、前記現在の圧力サイクルに対する前記成分波形の振幅を、前記平均値と、較正定数と、状況に応じて、動脈コンプライアンス値との積の二乗に反比例するように設定する。前記入力波形成分が、主に振幅および期間によって特徴付けられる場合、前記現在の圧力サイクルに対する前記成分波形の振幅は、複数の以前に推定の末梢抵抗値の平均値のような、前記現在の圧力波形データセットのピークピーク値に比例し、前記現在の末梢抵抗値の関数に反比例するように設定することが可能である。前記振幅は、状況に応じて、較正定数によってスケーリングすることが可能である。
【0032】
一実施態様では、心臓の流量は、仮定入力流量波形の関数として推定される。次いで、心臓の1回拍出量を、少なくとも1つの圧力サイクルにわたる前記仮定入力流量波形を積分することによって推定することができる。前記モデルパラメータは、単独で測定するか、または前記現在の圧力波形データセットに依存せずに予め定めるか、または計算するか、あるいは単一の最適化において、前記仮定入力流量波形の前記定義パラメータとして同時に計算することが可能である。
例えば、本発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
心拍出量(CO)に等しいか、または心拍出量(CO)から導出可能な心臓血管系パラメータを決定するための方法であって、
現在の圧力サイクルにわたって動脈圧に対応する現在の圧力波形のデータセットを入力することと、
少なくとも1つの以前の圧力サイクルに対して決定された末梢抵抗値の関数として、仮定入力流量波形の定義パラメータを決定することと、
前記仮定入力流量波形と前記現在の圧力波形のデータセットとの関係のモデルのモデルパラメータを決定することと、
前記モデルパラメータの関数として、現在の末梢抵抗値を計算することと、
前記現在の末梢抵抗値および前記現在の圧力波形のデータセットの関数として、前記心臓血管系パラメータの推定値を計算することと、
を含む、方法。
(項目2)
前記現在の圧力波形データセットの形状特性の関数として、前記仮定入力流量波形の前記定義パラメータを決定することをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記仮定入力流量波形は、圧力サイクルごとに1つの成分波形を有する一連の成分波形である、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記定義パラメータは、期間および振幅を含み、
前記現在の圧力波形に対する前記成分波形の前記期間は、収縮期の始まりと前記現在の圧力波形データセットにおける収縮期との間の時間間隔に少なくともほぼ等しく設定される、項目3に記載の方法。
(項目5)
前記圧力波形データセットが導出される抽出率と、モデルのフィードバックパラメータの関数との積として、拡張期の時定数を推定することと、
前記拡張期の時定数と末梢抵抗値との比率として、動脈コンプライアンス値を推定することと、
前記現在の圧力波形データセット内の選択したポイントから、収縮期の時定数を推定することと、
前記収縮期の時定数と前記動脈コンプライアンス値との比率として、大動脈の特性抵抗値を計算することと、
前記現在の圧力サイクルに対する前記成分波形の振幅を、少なくとも1つの大動脈特性抵抗値の関数の二乗に反比例するように設定することと、
をさらに含む、項目4に記載の方法。
(項目6)
以前のサイクルに対して推定された少なくとも1つの大動脈特性抵抗値を含む複数の大動脈特性抵抗値の平均値を計算することと、
前記現在の圧力サイクルに対する前記成分波形の振幅を、前記平均値と較正定数との積の二乗に反比例するように設定することと、
をさらに含む、項目5に記載の方法。
(項目7)
前記現在の圧力サイクルに対する前記成分波形の振幅を、前記平均値と、前記較正定数と、前記動脈コンプライアンス値との積の二乗に反比例するように設定することをさらに含む、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記仮定入力流量波形は、一連の方形波信号を含み、前記一連の方形波信号の各々は、前記一連成分波形のそれぞれの1つの成分波形を形成する、項目3に記載の方法。
(項目9)
前記現在の圧力サイクルに対する前記成分波形の振幅を、前記現在の圧力波形データセットのピークピーク値に比例し、前記現在の末梢抵抗値の関数に反比例するように設定することをさらに含む、項目3に記載の方法。
(項目10)
複数の以前の推定末梢抵抗値の平均値を決定することと、
前記現在の圧力サイクルに対する前記成分波形の振幅を、前記ピークピーク値に比例し、前記平均値に反比例するように設定することと、
をさらに含む、項目9に記載の方法。
(項目11)
較正定数を決定することと、
前記現在の圧力サイクルに対する前記成分波形の振幅を、前記ピークピーク値に比例し、前記較正定数によってスケーリングされた前記平均値に反比例するように設定することと、
をさらに含む、項目10に記載の方法。
(項目12)
前記モデルは、前記大動脈の多要素ウインドケッセルモデルの離散的な自己回帰表現であり、
前記モデルパラメータは、前記離散的な自己回帰表現の係数である、項目1に記載の方法。
(項目13)
心拍出量(CO)に等しいか、または心拍出量から導出可能な心臓血管系値を決定するためのシステムであって、
前記システムは、
現在の圧力サイクルにわたって動脈圧に対応する現在の圧力波形のデータセットを生成する配列と、
処理システムと、
を備え、
前記処理システムは、
少なくとも1つの以前の圧力サイクルに対して決定された末梢抵抗値の関数として、仮定入力流量波形の定義パラメータを決定するためのコンピュータで実行可能なコードを備えた入力流量波形発生モジュールと、
前記仮定入力流量波形と前記現在の圧力波形データセットとの関係のモデルのモデルパラメータを決定するためのコンピュータで実行可能なコードを備えたシステムパラメータ識別モジュールと、
前記モデルパラメータの関数として、現在の末梢抵抗値を計算するためのコンピュータで実行可能なコードを備えたモデルパラメータ計算モジュールと、
前記現在の末梢抵抗値および前記現在の圧力波形データセットの関数として、前記心臓血管系パラメータの推定値を計算するためのコンピュータで実行可能なコードを備えた心臓血管系値計算モジュールと、
を含む、システム。
(項目14)
前記システムパラメータ識別モジュールは、前記現在の圧力波形データセットの形状特性の関数として、前記仮定入力流量波形の前記定義パラメータを決定するためのコンピュータで実行可能なコードをさらに備える、項目13に記載のシステム。
(項目15)
前記仮定入力流量波形は、圧力サイクルごとに1つの成分波形を有する一連の成分波形である、項目14に記載のシステム。
(項目16)
前記定義パラメータは、期間および振幅を含み、
前記現在の圧力波形に対する前記成分波形の前記期間は、収縮期の始まりと前記現在の圧力波形データセットにおける収縮期との間の時間間隔に少なくともほぼ等しく設定される、項目15に記載のシステム。
(項目17)
前記現在の圧力サイクルに対する前記成分波形の振幅を、前記現在の圧力波形データセットのピークピーク値に比例し、前記現在の末梢抵抗値の関数に反比例するように設定するために、前記入力流量波形発生モジュールがさらに提供されている、項目15に記載のシステム。
(項目18)
複数の以前の推定末梢抵抗値の平均値を決定するためのコンピュータで実行可能なコードを備えた平均化モジュールをさらに備え、
前記現在の圧力サイクルに対する前記成分波形の振幅を、前記ピークピーク値に比例し、前記平均値に反比例するように設定するために、前記入力流量波形発生モジュールがさらに提供されている、項目17に記載のシステム。
(項目19)
較正定数を決定する較正モジュールをさらに備え、
前記現在の圧力サイクルに対する前記成分波形の振幅を、前記ピークピーク値に比例し、前記較正定数によってスケーリングされた前記平均値に反比例するように設定するために、前記入力流量波形発生モジュールがさらに提供されている、項目18に記載のシステム。
(項目20)
前記仮定入力流量波形は、一連の方形波信号であり、前記一連の方形波信号の各々は、前記一連の成分波形のそれぞれ1つの成分波形を形成する、項目16に記載のシステム。
(項目21)
前記モデルは、前記大動脈の多要素ウインドケッセルモデルの離散的な自己回帰表現であり、
前記モデルパラメータは、前記離散的な自己回帰表現の係数である、項目13に記載のシステム。
(項目22)
心臓血管系パラメータを決定するための方法であって、
少なくとも1つの現在の圧力サイクルにわたって動脈圧に対応する現在の圧力波形のデータセットを入力することと、
前記現在の圧力波形データ内の少なくとも1つの形状特徴値の関数として、仮定非衝撃入力流量波形の定義パラメータを決定することと、
流量圧力心臓血管系モデルのモデルパラメータを決定することと、
前記決定されたモデルパラメータの関数として、前記心臓血管系パラメータの推定値を計算することと、
を含む、方法。
(項目23)
前記仮定入力流量波形は、一連の仮定入力波形成分である、項目22に記載の方法。
(項目24)
前記仮定入力波形成分は、方形波と、のこぎり波と、多項式と、区分線形関数と、少なくとも1つのベジェ曲線と、少なくとも1つの正弦波成分曲線とを含む関数の群より選択される、項目23に記載の方法。
(項目25)
前記心臓血管系パラメータは、血流量である、項目22に記載の方法。
(項目26)
前記心臓血管系パラメータは、心拍出量である、項目22に記載の方法。
(項目27)
前記心臓血管系パラメータは、心拍出量から導出可能であり、
前記方法は、前記心臓血管系パラメータを計算するための予備計算時に、前記決定されたモデルパラメータの関数として、心拍出量推定値を計算することをさらに含む、項目22に記載の方法。
(項目28)
心拍出量(CO)に等しいか、または心拍出量から導出可能な心臓血管系値を決定するための処理システムであって、
現在の圧力サイクルにわたって動脈圧に対応する現在の圧力波形のデータセットを生成する配列と、
前記現在の圧力波形データ内の少なくとも1つの形状特徴値の関数として、仮定入力流量波形の定義パラメータを決定するためのコンピュータで実行可能なコードを備えた入力流量波形発生モジュールと、
前記仮定入力流量波形と前記現在の圧力波形データセットとの関係のモデルのモデルパラメータを決定するためのコンピュータで実行可能なコードを備えたシステムパラメータ識別モジュールと、
前記モデルパラメータの関数として、現在の末梢抵抗値を計算するためのコンピュータで実行可能なコードを備えたモデルパラメータ計算モジュールと、
前記決定されたモデルパラメータの関数として、前記心臓血管系パラメータの推定値を計算するためのコンピュータで実行可能なコードを備えた心臓血管系値計算モジュールと、
を備える、処理システム。
(項目29)
前記仮定入力流量波形は、一連の仮定入力波形成分である、項目28に記載の処理システム。
(項目30)
前記仮定入力波形成分は、方形波と、のこぎり波と、多項式と、区分線形関数と、少なくとも1つのベジェ曲線と、少なくとも1つの正弦波成分曲線とを含む関数の群より選択される、項目29に記載の処理システム。
(項目31)
前記心臓血管系パラメータは、血流量である、項目28に記載の処理システム。
(項目32)
前記心臓血管系パラメータは、心拍出量である、項目28に記載の処理システム。
(項目33)
前記心臓血管系パラメータは、心拍出量から導出可能であり、
前記心臓血管系パラメータを計算するための予備計算時に、前記決定されたモデルパラメータの関数として心拍出量推定値を計算するために、前記心臓血管系値計算モジュールがさらに提供されている、項目28に記載の処理システム。
(項目34)
心臓の流量を決定するための方法であって、
少なくとも1つの現在の圧力サイクルにわたって動脈圧に対応する現在の圧力波形のデータセットを入力することと、
流量圧力心臓血管系モデルのモデルパラメータを決定することと、
前記心臓血管系モデルに基づいて変化させたときに、所定の検出において最も接近した前記現在の圧力波形データセットをもたらす一連の前記定義パラメータを計算することによって、仮定入力流量波形の前記定義パラメータを決定することと、
前記仮定入力流量波形の関数として、心臓流量を推定することと、
を含む、方法。
(項目35)
少なくとも1つの圧力サイクルにわたって前記仮定入力流量波形を積分することによって、心臓の1回拍出量を推定することをさらに含む、項目34に記載の方法。
(項目36)
前記仮定入力流量波形の前記定義パラメータから、前記モデルパラメータを別々に決定することをさらに含む、項目34に記載の方法。
(項目37)
前記現在の圧力波形データセットに独立な前記モデルパラメータを予め定めることをさらに含む、項目36に記載の方法。
(項目38)
単一の最適化で、前記仮定入力流量波形の前記定義パラメータおよび流量圧力の心臓血管系モデルの前記モデルパラメータを同時に決定することをさらに含む、項目36に記載の方法。
(項目39)
心臓の流量を決定するための処理システムであって、
少なくとも1つの現在の圧力サイクルにわたって動脈圧に対応する現在の圧力波形のデータセットを入力するためのコンピュータで実行可能なコードを備えた入力流量波形発生モジュールと、
流量圧力心臓血管系モデルのモデルパラメータを決定し、前記心臓血管系モデルに基づいて変化させたときに、所定の検出において最も接近した前記現在の圧力波形データセットをもたらす、一連の前記定義パラメータを計算することによって、仮定入力流量波形の前記定義パラメータを決定するためのコンピュータで実行可能なコードを備えたモデルパラメータ計算モジュールと、
仮定入力流量波形の関数として、心臓流量を推定するためのコンピュータで実行可能なコードを備えた心臓血管系値計算モジュールと、
を備える、処理システム。
(項目40)
少なくとも1つの圧力サイクルにわたって前記仮定入力流量波形を積分することによって、心臓の1回拍出量を推定するために、前記モデルパラメータ計算モジュールがさらに提供されている、項目39に記載のシステム。
(項目41)
前記仮定入力流量波形の前記定義パラメータから、前記モデルパラメータを別々に決定するために、前記モデルパラメータ計算モジュールがさらに提供されている、項目39に記載のシステム。
(項目42)
前記モデルパラメータ計算モジュールは、前記現在の圧力波形データセットに依存しない前記モデルパラメータを予め格納する、項目41に記載のシステム。
(項目43)
前記入力流量波形発生モジュールおよび前記モデルパラメータ計算モジュールは、単一の最適化で、前記仮定入力流量波形の前記定義パラメータおよび流量圧力の心臓血管系モデルの前記モデルパラメータを同時に決定するために提供されたコンピュータで実行可能なコードの単一ボディの一部である、項目41に記載のシステム。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、心拍出量を推定するためのパルス輪郭方法の基準としてしばしば使用される、2要素のウインドケッセルモデルを示す図である。
【図2】図2は、3要素のウインドケッセルモデルとしても知られる、Broemserモデルを示す図である。
【図3】図3は、1つの心拍の心臓サイクルにわたる複雑な血圧曲線の一例を示す図である。
【図4】図4は、図3の圧力波形の離散時間の代表例を示す図である。
【図5】図5は、動脈システムにおける流量と圧力との伝達関数の関係を示す図である。
【図6】図6は、入力流量信号(波形)を、検出した圧力波形から導出した一連の入力信号成分として、どのように近似するのかを示す図である。
【図7】図7は、本発明の一実施態様において使用される、切換型3要素のウインドケッセルモデルを示す図である。
【図8】図8は、図7に示される実施態様を使用したCOの推定に使用するために、どのように特定の値が現在の圧力波形から得られるのかを示す図である。
【図9】図9は、本発明によるシステムの主要構成要素を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
(発明の詳細な説明)
最も広義には、本発明は、末梢血圧から心拍出量(または、心拍出量の推定値から導出することができるあらゆる値)を連続的に評価するための、新しいパルス輪郭方法およびシステムの実装に関する。一般的に本発明は、仮定非衝撃入力流量波形を推測するものであり、その定義パラメータのうちの少なくとも1つが、入力圧力波形データセットの少なくとも1つの値の関数であり、次いで、それをシステム同定ルーチンで使用して、入力流量と出力圧力間の関係のモデルパラメータを測定する。次いで、この関係を特徴付けるパラメータを使用して、対象となる心臓血管系パラメータの推定値を計算する。
【0035】
後述する本発明の主たる例示的な実施態様では、自己回帰アルゴリズムを使用して、動脈コンプライアンスおよび末梢抵抗の値を計算する。次いで、本発明は、同様にこれらの値をモデルに適用する。そのようにすることで、重要な概ね適用可能な本発明の側面が明らかになるので、以下の説明では主に本発明の好適な実施態様に注目するが、様々な変形例についても説明する。
【0036】
本発明は、ヒトまたは動物に関わらず、あらゆる種類の対象物に有効に使用することが可能である。本発明の最も一般的な用途が診断環境にあるヒトに関するものとなるため、以下、本発明は、主に「患者」での使用について説明する。なお、一例ではあるが、「患者」という用語は、環境に関係なくヒトおよび動物の両方の全ての対象物を包含することを意図するものである。
【0037】
その臨床的有意性から、本発明の大部分の実装は、全身の動脈圧の測定に基づいて、(CO関連の値の計算に使用される結果として、または中間結果として)心拍出量(CO)の推定値を生成することが見込まれる。なお、部位によっては侵襲的心内測定を必要とする場合があるが、肺動脈の右上などの他の部位で取り込まれる血圧の測定値を使用することも可能である。さらに、下述する本発明の別の実施態様では、COの推定値の計算を全く必要としないか、または別個の計算として行う場合に、対象となる心臓血管系(または別の血管系)の値は流量または1回拍出量である。
【0038】
本発明の一実施態様によるシステムは、次の3つの主なステップ実装する。1)仮定入力波形を生成するステップであって、一連の仮定入力波形成分を含み、心拍ごとの血流信号に非常に近似し、得られた動脈血圧信号、および動脈コンプライアンスおよび末梢抵抗の過去の推定値に基づくことが好ましい。2)生成された仮定入力波形および得られた末梢動脈の脈圧信号を使用して、流量/圧力系のモデルと関連するシステム同定手法によって、動脈コンプライアンスおよび末梢抵抗を推定するステップ。3)推定動脈コンプライアンスおよび末梢抵抗を使用して、次の時間間隔に対する仮定入力波形成分を生成し、COの推定値を計算するステップ。
【0039】
したがって、動脈コンプライアンスおよび末梢抵抗は、現在計算した値を使用して次の時間間隔の血流量を推定する帰納的なシステム同定手法に基づいて、連続的に推定することが可能である。開始時の最初の時間間隔に対して、適切な初期値を仮定することが可能である。本発明の本実施態様は、次の時間間隔にわたって、動脈コンプライアンスおよび末梢抵抗の適切な平均値に収束する。本発明によって、末梢血圧波形から連続的にCOを監視することが可能となる。
【0040】
(圧力波形)
図3は、心拍の1サイクルにわたって取り込んだ動脈圧の波形P(t)の一例であり、ここでは、時間tdia0での拡張期圧Pdiaのポイントから、収縮期圧Psysの時間tsysを介して、血圧が再びPdiaに到達する時間tdia1までのサイクルである。
【0041】
本発明によれば、P(t)またはP(t)に比例するあらゆる信号は、侵襲的にまたは非侵襲的に、動脈樹内のあらゆるポイントで測定することが可能である。侵襲的機器を使用する場合、特にカテーテルを装着した圧力トランスデューサである場合は、あらゆる動脈を測定ポイントとして使用することが可能である。非侵襲的トランスデューサの配置は、一般的に機器自体によって決定されるが、フィンガーカフ、上腕圧力カフ、および耳たぶクランプの配置を明確にしなければならない。機器に関わらず、P(t)に対応する(例えば、等しいか、またはこれに比例する)電気信号を最終的に生成するか、または生成させる。
【0042】
動脈圧を測定するというよりは、血圧に比例する他の入力信号を使用することが可能である。次いで、下述の計算において複数のポイントの内のいずれか、またはすべてにおいて、あらゆる必要なスケーリングまたは変換を行うことが可能である。例えば、動脈圧自体以外のいくつかの信号を入力として使用する場合は、その値を下述の計算で使用する前に、血圧に較正することが可能である。つまり、本発明が、場合によっては動脈圧の直接測定とは異なる入力を使用することが可能であるという事実は、正確なCOの推定値を生成する能力を制限しないということである。本発明の唯一の要件は、対象となる(連続的なものを含む)間隔にわたる患者の血圧に等しいか、または少なくとも既知の関係(比例する、など)がある信号またはデータセットを、信号の調整および下述の計算を行う処理システム(下記参照のこと)に対して利用できるようにしなければならないことである。
【0043】
良く知られているように、また図4に示されるように、P(t)のようなアナログ信号は、サンプリング期間がtであるあらゆるアナログ−デジタル変換器(ADC)を使用して、一連のデジタル値にデジタル化することができる。すなわち、P(t)、t0≦t≦tfは、既知の方法および回路を使用して、デジタルの形態P(k)、k=0、(n−1)に変換することができる。ここで、t0およびtfはそれぞれ計算間隔の最初および最後の時間であり、nは計算に含まれるP(t)のサンプル数であり、通常は計算間隔にわたって一様に割り当てられる。
【0044】
(2要素のウインドケッセルの実施態様)
上述のように、本発明では、流量/圧力システムのモデルと関連するシステム同定手法を用いている。様々なウインドケッセルモデルを使用する本発明のプロトタイプの試験に成功しているので、本願明細書に見出される本発明の説明では、異なるバージョンのウインドケッセルモデリングに基づいたシステム同定手法を使用する本発明の実施態様に主に重点を置いている。本発明による一般的な方法は、他のモデル(高次モデルを含む)も使用したCOの推定のための多数の異なるシステムの実装に適用することが可能である。主な要件は、下述の入力信号モデルとの帰納的比較を介して測定することができるパラメータを有する離散的な伝達関数に、モデルを変形することができることである。
【0045】
本発明の第一の実施態様は、動脈系の単純な2要素の抵抗−容量電気アナログモデル、すなわち、図1に示される単純なウインドケッセルモデルに基づくものである。本モデルでは、動脈コンプライアンスがコンデンサCによって表され、末梢抵抗が抵抗Rによって表されることを想起されたい。血流量は電流Q(t)によってモデル化され、血圧P(t)は抵抗R全体の電圧によってモデル化される。
【0046】
数値的に計算を実行して、末梢動脈脈圧P(t)から血流量Q(t)(および、続けてCO)を推定するには、モデルパラメータの値CおよびRを知っておかなければならない。本発明は、パラメトリック自己回帰帰納的手法に基づいて、モデルパラメータおよび入力流量Q(t)を同時に推定する。
【0047】
図1に示されるモデルは、s−ドメインにおける以下の(流量から圧力への)伝達関数T(s)を有する。
【0048】
【化3】

デジタル処理システムにおける計算は、デジタル化された血圧信号(すなわち、P(t)に直接行うのではなくP(k))に実行されるので、モデルをデジタルドメイン(z−ドメイン)に変換しなければならない。次の近似を使用して、連続時間から離散時間にモデルを変換する。
【0049】
【化4】

ここで、tはサンプリング間隔である。
【0050】
式8を式7の代わりに用いることで、次の離散時間伝達関数を得る。
【0051】
【化5】

ここで、τ=RCである。
【0052】
式9の伝達関数は、次の形式の一次自己回帰モデル(ARモデル)によって近似することができる。
【0053】
【化6】

ここで、係数bはフィードフォワードまたは直流ゲインファクタであり、係数aはフィードバックゲインファクタである。
【0054】
本伝達関数モデルの簡素化のために、単一の極しか持たず、ゼロが無く、また「現実」のウインドケッセルモデルに対応することに留意されたい。本発明の方法は、当該の単一極でゼロの無い伝達関数モデルに制限されないが、これは、当該の簡素化が、Cohenの方法によって達成されたものに劣らず、より良いと思われる精度である本発明を使用することで可能であることを示すものである。発明者らは、これは、本発明で使用される入力モデルが、単にその領域の圧力曲線の各サイクルに関するさらなる情報を組み込んでいるからであると推測している。
【0055】
式10のモデル係数aおよびbは、既知のパラメトリックシステム同定法を使用して推定することができる。しかし、システム同定手法を適用するためには、システムの入力信号および出力信号の両方を知っておかなければならない。式10のようなシステムの伝達関数、および関数のパラメータ(係数aおよびbなど)のn番目の推定値を与えれば、一般的に、システム同定ルーチンは、入力信号から出力信号(波形を含む)を生成する。次いで、前記出力信号を実際に観察した出力信号と比較し、(関数が十分に単純であれば)係数を直接計算するか、または、より頻繁には、生成および観察された出力信号間の差異が、いくつかの定量的な検出において最小になるまで係数を調整する。すなわち、これらのルーチンは、あらゆる既知の検出において生成および観察された出力信号間に「最良の」一致を提供する、関数のパラメータの値を計算する。前記最良の一致を提供する係数の値は、(n+1)番目の推定値として取り込まれる。その点を考慮して、図5では、離散的な流量(入力)信号Q(k)を波形50で表し、得られる離散的な圧力(出力)P(k)を波形54で表し、この2つに関連する変換関数をモジュール52で示す。
【0056】
なお、圧力および流量トランスデューサの両方が必要にならないようにすることが好ましい。流量に関する実際の情報が無くても、出力(血圧信号)だけをシステムの入力(血流量)が未知であるシステムで利用できるものと仮定する。
【0057】
この理由から、実際に測定された血流信号をシステムへの入力として使用する代わりに、本発明では、検出した血圧波形の既知のポイントに関連する各仮定入力波形成分の制限時間によって、非常に近似するとみなされる一連の仮定入力波形成分Q(i)を生成する。図に示されるような仮定入力波形成分の較正における2つのキーパラメータは、その期間(幅)およびその振幅(高さ)である。仮定入力波形成分は、必ずしも衝撃的ではないことに留意されたい。すなわち、各仮定入力波形成分は、振幅および時間幅のような少なくとも2つのパラメータによって形成される。他のパラメータは、次のような形状特性(例えば方形波に関するもの、のこぎり波などの三角波など)を含むことが可能である。一組のフーリエ成分のそれぞれに対する振幅および周波数、次数mの多項式のm+1の係数、一組のnベジェ曲線の8×nパラメータ、および区分線形近似関数のセグメントの端点(または、単に端点のxまたはy座標)、など。
【0058】
図6を参照する。本発明の好適な2要素のバージョンでは、各現在の仮定入力波形成分の期間は、現在の拍動における圧力波形の、収縮期の始まり、すなわち拡張時またはほぼ拡張したときPdiaと、ピーク値の位置、すなわち収縮時またはほぼ収縮したときPsysとの間の時間間隔に等しく設定される。したがって、図6の3つの仮定入力波形成分Q(1)、Q(2)、およびQ(3)は、ぞれぞれ、時間d1、d2、およびd3から、時間p1、p2、p3へ一時的に延びる。
【0059】
図7によれば、流量Q(t)の振幅は、ゲインファクタRによって動脈脈圧に関連する。したがって、仮定入力波形成分の振幅Qmax(t)は、動脈脈圧信号Pmax(t)のピークピーク値に1/Rを乗じることによって最良に推定される。
【0060】
【化7】

末梢抵抗Rを推定するために、本発明では、式10の係数aおよびbが、少なくとも平均平方回帰のような既知の手法を使用して推定される、パラメトリックシステム同定手法を使用する。既知のように、これらのルーチンが機能する方法では、観察した出力(圧力)波形と、仮定入力波形(Q(i))に対する所与のパラメータ(係数aおよびb)を伝達関数に適用することによって生成される出力(圧力)波形との間の差異を測定する。次いで、ルーチンは、最小二乗法のようないくつかのメトリックによって「最良の」一致が見出されるまで、係数を(通常)繰り返して調整する。
【0061】
同定されるシステムの入力および出力は、それぞれ、一連の仮定入力波形成分Q(i)であり、この成分は、流量信号Q(t)の近似および測定した動脈脈圧P(t)(または、むしろその表現P(k))に取り込まれる。係数aおよびbが推定されると、本発明は、次式のように血管抵抗を計算することができる。
【0062】
【化8】

ここで、時定数τは、次の式を使用して推定される。
【0063】
【化9】

末梢抵抗の値は、ゆっくりと1心拍ごとに変化する。結果的に、例えば15乃至30秒の全体の測定間隔ごとに単一のRの値を使用すれば通常は十分である。本発明は、Rの現在の計算値を使用して、次の時間間隔にわたって一連の仮定入力波形成分Q(i)内の各仮定入力波形成分Q(i、k)の振幅を推定する、などの帰納的手法を使用して連続的にRを推定する。次いで、一連の仮定入力波形成分Q(i)を、伝達関数の新しい係数aおよびbを推定することで新しいRの値を推定する、システム同定ルーチンのための入力として使用する。最初の時間間隔に対して、すなわち最初にRの任意の適切な初期値を推定することが可能であり、また、既知の実験室方式を使用して、またはたの既知の手法で測定された、Rの既知の特性に基づいて選択することができる。以降の時間間隔にわたって、本方法は、Rの適切な値に収束する。実用を考慮した場合、Rのあらゆるばらつきの影響を減じ、また安定性を確保するために、以前のRの値ではなく、最後のN個の時間間隔の平均値を代わりに使用することが可能である。したがって、n番目の仮定入力波形に関して、各波形成分Q(n、k)の振幅は、次のように推定される。
【0064】
【化10】

ここで、kは実際の動脈系との仮定一次ARモデルの誤差およびばらつきを反映した定数である。
【0065】
故に、それぞれの繰り返しにおいて、本発明は、N個のRの過去値の平均値を使用して、各仮定入力波形成分に対するQmax(i,k)を計算する。次いで、一連の仮定入力波形成分Q(i)を、それぞれの振幅Qmax(i,k)を有する成分によって生成する。次いで、一連の仮定入力波形成分を使用して、例えば図10に記述されたモデルに適用した最小平均二乗システム同定の手法を使用することによって、現在のRの値を推定する。次いで、COの値を、次の既知の式を使用して計算することができる。
CO=MAP/R (式15)
ここで、MAPは平均値動脈圧であり、Rは末梢抵抗の現在の値である。MAPは、例えば、1つ以上の心臓サイクルにわたる(すなわち、離散的圧力波形P(k)の1つ以上の底値から底値、または他の期間にわたる)P(k)値の平均を取り込むことによって、あらゆる既知の方法で計算することが可能である。
【0066】
本発明は、モデル入力信号、すなわち流量を直接計算する必要なく、またコンプライアンス値Cを測定する必要なくCOを推定することに留意されたい。むしろ仮定入力信号を使用することで、Cを時定数τにおいて暗黙とするが、それ自体が再帰的に推定されたモデル係数aおよびbにおいて暗黙である。
【0067】
図6に示されるように、各仮定入力波形成分Q(i)は、単純な方形波である。これには、計算の簡潔さという利点があり、試験において十分であることが証明されている。さらに、上述の方形波仮定入力波形成分も、収縮期の始まりの値と回数および現在の波形のピーク圧力に関する情報だけでなく、以前のRの値の情報も含んでいる。したがって、Cohenの方法と比較して、本発明の仮定入力波形成分は、より多くの情報を符号化するので、あまり複雑でない(必要に応じて単極の)伝達関数モデルに依存することができる。
【0068】
なお、本発明では、方形波入力信号は不要である。むしろ、他の仮定入力波形成分の形状を使用して、図5のボックス50に大まかに示されているような、流量の既知のプロファイにさらに近似させることが可能である。例えば、のこぎり歯仮定入力波形成分、全または半放物線、全または半正弦波、フーリエ解析によって既知の流量プロファイルから導出された複合正弦波波形、多項式近似などは、d1の時間からp1の時間までの時間間隔に対応する流量波形の一部にある領域に、より良好に一致する可能性がある。当該の他の仮定入力波形成分を使用する場合は、熟練したプログラマ、特に数値解析および時系列パラメータ同定方法のデザインの経歴を持つプログラマであれば、例えば流量に対する近似関数の成分の形状または数に関連する更なるパラメータを含めることによって、その点を考慮してどのように様々な最適化アルゴリズムを調整するのかが分かるであろう。
【0069】
本願明細書に記述した計算は、1つ以上の圧力サイクルに及ぶ入力圧力波形データセットからのデータを使用して計算を行い、例えば一度に2つ以上の仮定入力波形成分を測定することも可能である。さらに、各仮定入力波形成分は、図6に示されたものよりも「広く」なるように、すなわち、収縮時またはほぼ収縮したときPsysに終了させる必要が無いように測定することができるが、より長く、さらには全サイクルにわたって測定する可能性がある。
【0070】
(3要素のウインドケッセルの実施態様)
本方法の第二のバージョンは、図2に示される動脈系の3要素のアナログモデルに基づいたものである。上述のように、本モデルの3つの要素は、動脈系のR0−大動脈特性抵抗、C−血管のコンプライアンス、およびR−末梢抵抗の3つの基本的な特性を示す。なお、図7に示されるように、本発明の本実施態様で使用される動脈系のモデルは、抵抗ROと、並列接続されたコンデンサCと、抵抗Rとの間に直列に接続された単極の双投式スイッチSWも含む。スイッチが第一の位置(符号1)にあるときに、コンデンサCには、電流(大動脈の収縮期の流入)Q(t)(=Q(t))が抵抗R0を介して充電される。スイッチが第二の位置にあるときに、コンデンサCは、電流(拡張期の流出)Q(t)を抵抗Rを介して放電する。
【0071】
上述の本発明の2要素の実施態様にあるように、動脈脈圧から入力流量を計算するには、最初に、モデルパラメータR0、C、およびRの値を、直接または暗黙に推定することが必要である。Wesselingが行ったように、本発明の本実施態様は、収縮期の間(スイッチSWが位置1にある)に、大動脈の収縮期の流入(Q)が主に時定数τ=R0・Cによって測定され、また、末梢抵抗Rは、収縮期の流入の主要な決定要素ではない、という仮定に基づいて構築する。拡張期の間(スイッチSWが位置2にある)に、この流入は末梢に放散される。拡張期の流出Qおよび圧力減衰は、基本的に時定数T=R・Cで測定される。コンプライアンスCは、両方の時間定数における共通のパラメータである。収縮期の間に、心室が対応する大動脈に血液を放出するという、実際の血管の生理的パラメータを反映することから、この仮定は合理的なものである。この血液は収縮期に蓄積され、拡張期の弾性反跳で末梢血管に注がれる。モデルのパラメータR0、C、およびRを推定するために、以下の手法を使用する。
【0072】
本発明の本側面では、最初に、末梢抵抗Rおよびシステムの時定数τが、図1のモデルを使用して推定され、上述(式12および13)の帰納的システム同定ルーチンが実行される。システム同定の観点から、R・Cの作用がR0・Cの作用よりも極めて大きいために、これを行うことが可能となる。これは、拡張期の間の時定数τが収縮期の間の時定数τよりも極めて大きいことを意味する。したがって、システム同定の推定の結果は、主に、システム同定を使用して推定したRと、Cと、時定数τの作用を反映することになり、式13は実際に、拡張期の間の時定数τである。
【0073】
【化11】

この場合、末梢抵抗は次のようになる。
【0074】
【化12】

システム同定に必要とされる一連の仮定入力波形成分は、上述と同様に類似した手法を使用して生成される。各仮定入力波形成分Q(i、k)は、血圧波形の収縮期の始まりに位置し、その幅は、収縮期の始まりと現在の拍動における圧力波形のピーク値の位置との間(図6で、diとpiとの間のポイント)の時間間隔に等しくなるように設定される。成分の高さ(振幅)は、スイッチSWが位置1にあるとき(図7)に、3要素の電気的モデルによって形成される。
【0075】
【化13】

R0を推定するために、本発明では次の手法を使用する。
最初に、式16および17を使用してコンプライアンスCを推定する。
【0076】
【化14】

次いで、R0を計算する。
【0077】
【化15】

収縮期の時定数τは、図8に示されるように、動脈脈圧波形の立ち上がりエッジ上の2つの(例えば、拡張期レベルのそれぞれ30%および70%の)ポイントを選択することによって推定され、次いで、あらゆる既知の最適化ルーチンを提供して以下の関数を最小化する。
【0078】
【化16】

以前の場合のように、個々の仮定入力波形成分の振幅Qmax(i、k)は、N個の最後の時間間隔にわたるR0の平均値を使用して推定される。
【0079】
【化17】

次いで、心拍出量COを、上述と同様に、すなわち式15のように計算することが可能である。
【0080】
(較正)
上述の本発明の両実施態様では、最終的に、式14および22において定数kの測定を用いる。これは較正定数であり、推定された動脈系の一次ARモデルによる誤差および偏差を反映する。
【0081】
較正定数kは、例えばボーラス注入法または他の「判断基準」法で測定されるCOの値を使用して推定することが可能である。この場合、較正は、記録の開始時に現在の被験者/患者に対して一度行うことが可能であり、その後長時間にわたって有効になりうる。本発明の当該の実施態様は、それらが外部較正から得られたkの値を有するという点において「較正有(with−cal)」と呼ぶことができる。本発明を使用した実験的な結果および臨床的研究は、「較正有」バージョンのアルゴリズムが、高精度かつ良好なトレンドの推定心拍出量を提供することを示す。
【0082】
式14および22が示すように、較正定数kは帰納の範囲内にあるので、フィードバックの影響を受ける。帰納の範囲内および平均化の範囲内で、較正がフィードバックループ内で行われるという事実から、較正定数の推定におけるアルゴリズムのエラーの感度が低くなる。実際に、発明者らは、推定のCOの値におけるエラーがkにおけるエラーの二乗根と比例することを実験的に証明した。例えば、推定のkが実際のkから30%外れた場合、推定の心拍出量において5.5%の偏差しか生じない。これは、本発明を、純然たる線形法よりも「較正有」または「較正無(no−cal)」における使用に適切なものとする。
【0083】
本願明細書では、「較正無」モードは、その名前が暗示するように、単に、経験的に測定された患者固有のkの値が全く提供されていない、本発明の単なる演算モードである。これは、外部較正の必要性を取り除く。そのような場合、kは、単純に1に設定するか、または、例えば被験者の代表的な母集団または(年齢、体重、性別、病状などのような)ある点での現在の被験者/患者の母集団について実験的に予め定められた値とすることが可能である。
【0084】
本発明の別の利点は、二乗根エラーの依存状態が、研究中の全ての母集団全体に対して平均した較正定数を使用することが可能なものである、ということである。例えば、実験では、発明者らは、1.4のk値を使用することができ、さらに、患者の85%に対してDCシフト(オフセット)エラーを30%未満に保持することができた。また、発明者らは、kの推定に使用することが可能なECGおよび生体インピーダンスのような非侵襲性の方法を提案する。そのような場合であっても、較正定数の推定におけるあらゆるエラーに対して感度が低いので、本発明の帰納的性質を従来のシステムよりも適切なものとしている。
【0085】
(利点)
本発明は、従来技術と比較して複数の利点がある。いくつかの利点を上述したが、他の利点には以下が挙げられる。
【0086】
a)高い精度:動物および臨床の橈骨および大腿骨のデータに関する結果は、本発明が、競合するデバイスと比較したときに、極めて高い精度を提供することを示している。
【0087】
b)トレンドの改善:動物の橈骨および大腿骨のデータに関する結果は、例えば血管拡張または血管収縮後の末梢抵抗の変化が、推定のCOの傾向に良好に反映されていることを示している。
【0088】
c)本発明は、「較正無」モードで、すなわち利用可能な較正定数kの演繹的な値が無い状態で使用することが可能である。
【0089】
d)「較正無」モードでは、平均較正定数を使用(85%の場合で30%の範囲内)しても、本発明は良好に機能する。較正定数kを第三のパラメータを使用して推定した場合に、本発明の「較正無」モードの精度を改善することができる。動物実験では、発明者らは、血圧波形の立ち上がりエッジの傾斜を使用して、動物の較正定数によってそれらをグループ化できることを示すことができた。発明者らは、年齢、体重、性別などのようなそのグループの特性、すなわち、標準的な人体計測の特性に基づいて、各患者グループの較正定数をその患者に対して使用するように、本手法をヒトにも使用することが可能であると提案する。また、第三の測定を使用して、較正定数を推定することが可能である。本測定は、EKG(QRS−収縮期の始まりの間隔)および生体インピーダンス(ボリュームとコンプライアンスの相関)のような異なる手法に基づくことが可能である。
【0090】
e)本発明による本方法は、他の既存のパルス輪郭法よりも計算的にシンプルである。例えば、血圧波形内の重複隆起の検出が不要であり、本発明をより安定させ、エラー、ノイズ、およびモーションアーチファクトに対する感度を低くする。
【0091】
f)本発明は、末梢抵抗Rを減衰定数τから間接的に導出する必要なく推定することができる。これは、Rに基づいて、CO以外の、またはこれに加えて心臓血管系パラメータを推定するアプリケーションにおいて有用な特性である。実際に、Rは、それ自体に臨床的有意性があるので、Rの推定に関連する上述の本発明の側面は、場合によってはその全てが必要となりうる。
【0092】
(システム構成要素)
図9は、本発明による、圧力を検出してCOを計算するための、上述の方法を実装するシステムの主要構成要素を示す図である。本発明は、既存の患者監視デバイスに含むか、または専用のモニタとして実装することが可能である。上述のように、圧力または圧力に比例する他の何らかの入力信号は、実際に、侵襲的および非侵襲的の2つの方法で検出することが可能である。単純に、本発明の最も一般的な実装であることが見込まれることから、本システムは、圧力に変換される他の何らかの入力信号と対照的に、動脈圧を測定するものとされる。
【0093】
簡潔さのため、図9は、両タイプの圧力検知を示す。本発明の最も実用的なアプリケーションでは、一般的に1つまたは複数のバリエーションが実装されることになる。本発明の侵襲的アプリケーションでは、従来の圧力センサー100がカテーテル110に載置され、ヒトまたは動物の患者の身体の一部分130の動脈120に挿入される。当該の動脈は、上行大動脈、または肺動脈とするか、あるいは、侵襲性のレベルを減じるために、動脈120を、大腿骨、橈骨、または上腕動脈のような末梢とすることが可能である。本発明の非侵襲的アプリケーションでは、光電プレチスモグラフ血圧プローブのような従来の圧力センサー200を、例えば患者の指230を囲むカフまたは腕に載置されたトランスデューサを使用して、あらゆる従来の方法で外部に載置する。図9は、両タイプを概略的に示す。
【0094】
センサー100および200からの信号は、入力としてあらゆる既知のコネクタを経て処理システム300に渡される。処理システムは、1つ以上のプロセッサ350およびメモリ301のような他の付属ハードウェアと、通常、信号処理してコードを実行するように含まれるシステムソフトウェア(図示せず)とを含む。本発明は、改良した標準のパーソナルコンピュータを使用して実装するか、またはより大型の特殊監視システムに組み込むことが可能である。本発明では、処理システム300は、必要に応じて、増幅、フィルタリング、測距などのような当該の通常の信号処理を実行するタスク調整回路302を含むか、これに接続することも可能である。
【0095】
次いで、調整された検出入力圧力信号P(t)は、クロック回路305からの時間基準を有するか、またはこれを取り込む従来のアナログ−デジタル変換器ADC304によってデジタル形態に変換される。十分理解されるように、ADC304のサンプリング周波数は、ナイキスト基準に関して、圧力信号のエイリアシングを回避するように選択しなければならない。この手順は、デジタル信号処理の技術において非常によく知られているものである。ADC304からの出力は、そのサンプリング値を従来のメモリ回路内(図示せず)に格納することが可能な、圧力信号P(t)の離散的な表現である。
【0096】
信号前処理モジュール306は、一般的な(間隔対間隔に対して)ノイズ除去のため、モーションアーチファクト除去のため、脈動検出(必要に応じて)のため、無効な拍動の除去のため、などのデジタルフィルタリングとして、当該の既知の前処理を提供するルーチンを含むことが好ましい。前記モジュールは、完全に、または部分的にハードウェア内に実装することも可能である。例えば、信号強度が低すぎず、また、もたらされる測定値が信頼できないことなどを示すような、既知の回路を含むことが可能である。このように、モジュール306は、ADC304の前に機能的に、完全に、または部分的に配置することも可能である。処理モジュール306が含まれている場合、その値は、上述の計算で使用される圧力に対応するデータセットを形成するので、モジュール306からの出力をP(k)で示す。
【0097】
P(k)の値は、(通常、メモリにアクセスして、そこから)ソフトウェアモジュール310に渡される。前記モジュールは、選択したモデルの計算に使用される圧力および時間のパラメータを測定するためのコンピュータで実行可能なコードを備える。上述の2要素のモデルに関しては、これらは最大圧力値Pmax、pi、およびdiとなり、3要素のモデルに関しては、P1、P2、t1、およびt2が測定される。
【0098】
さらに別のモジュール311は、1つの心臓サイクルのような選択した計算間隔にわたる平均動脈圧MAPを計算し、心拍数を検出するか、または1つの心臓サイクルの始まりを少なくとも信号で伝える、あらゆる既知のハードウェアデバイスおよび/またはソフトウェアルーチン340によって起動させることが可能である。上述の本発明の実施態様は、圧力波形自体から導出できるものを除いて、計算中に圧力波形の始まりと終わりに関するあらゆる情報を厳密に必要とするものではないことに留意されたい。したがって、心拍数監視ルーチンまたはデバイスは、圧力波形の範囲が適切に区切られていることを確認する方法としては有用なものとなりうるが、オプションである。
【0099】
現在の圧力波形からの、すなわち現在の心臓サイクルに対して、Pmax、pi、およびdiの値が利用可能になると、対応する現在の仮定入力波形成分Q(i、k)を上述のように生成して、一連の仮定入力波形成分に追加することができる。図9に示されるモジュール312は、仮定入力波形成分を生成する。
【0100】
システムパラメータ同定モジュール313は、入力として、離散的な圧力波形P(k)および一連の仮定入力波形成分Q(i)を取り込む。上述のように、前記モジュールは係数aおよびbを計算する。前記係数は、各心臓サイクルにわたって、あらゆる選択した検出において観察した圧力信号P(t)を最良に生成する、最小二乗法のような伝達関数をもたらす。係数aおよびbが計算されると、それらは入力パラメータとして別のモジュール315に渡され、Rの値と、実装した実施態様に基づいてτとを計算する。Rの値(および、必要に応じてτの値)は、仮定入力波形成分発生(または、さらに一般的には、入力流量波形)モジュール312と、COの値、COから導出された値などの、対象となる心臓血管系の値を計算するための上述の計算を実行する別のモジュール330との両方に渡される。さらに別のモジュール316(ほとんどの場合、単純にメモリの位置にある)は、モジュール312に、上述のように測定することが可能な較正定数kを提供する。
【0101】
ソフトウェアモジュール310、311、312、313、315、316、および330は、既知の手法を使用してプログラムすることができる。当然、これらのモジュールのうちのいずれかまたは全ては、単体のコードとも組み合わせることが可能である。明確にするために、それらを別々に示す。実際に、示されたモジュールの内のいずれかまたは全ては、単純にルーチンとして単一の推定ソフトウェア構成要素370内に実装することが可能であり、当然、必要に応じて処理システム300の他のソフトウェア構成要素と組み合わせることが可能である。さらに、本発明のソフトウェア構成要素のうちのいずれかまたは全ては、異なる処理システムへ読み込んで実行するためのあらゆる形態のコンピュータ可読のメディア上(CD−ROM、メモリ、ダウンロードに提供されるディスクスペースなど)に、コンピュータで実行可能な命令として格納することも可能である。
【0102】
COの推定値が計算されると、その値は、ユーザーが見ることができるモニタのような任意の所望の出力デバイス500に渡され、あらゆる選択されたフォーマットで表示、格納、または伝送される。また、ユーザーが、例えば較正定数k、管理情報、および患者固有の情報を入力して、表示の調整、計算間隔の選択などができるように、入力デバイス400も含まれることが好ましい。
【0103】
(動的に構成された仮定流量入力波形)
仮定入力流量波形Q(i)は、方形波である必要は無いが、現在の圧力波形に基づいて振幅および期間が調整される他の形状が好ましいことは、上述したとおりである。各圧力サイクルに対して、システム同定手順に固有の最適化の一部として測定される形状パラメータを有する、さらに一般的には形状の調整が可能である入力流量波形を断定することも可能となりうる。換言すれば、単一の同定ルーチンの最適化パラメータとして、仮定入力流量波形と現在の圧力波形データセットとの関係(変換関数など)のモデルを形成するパラメータとともに、各仮定入力波形成分の形状を形成するパラメータを含むことが可能である。次いで、両方のパラメータを同時に測定して、最適な仮定入力流量波形と、最小二乗法のようなあらゆる選択したメトリックに基づいて形成された最適なモデルとの両方をもたらすことが可能である。
【0104】
代表的な心拍流量プロファイルの近似形状は、既知である。特性流量波形を示す、図5内のボックス50を参照のこと。一例として、初期の「一般的な」流量波形Q(i、0)は、放物線の離散的な(サンプリングされた)表現として形成することが可能である。
【0105】
【化18】

ここで、x=[t−(tsys−offset)]、すなわち最大圧力の時間に対する測定された時間である。その結果、パラメータc2(通常負である)、c1、c0、およびoffsetも、伝達関数モデルにおける最適なaおよびbを推定するためにも使用される、システム同定ルーチンにおける6つの最適化パラメータのうちの4つを含む。
【0106】
次いで、数値最適化の結果は、最適なaおよびbを形成するパラメータとなるだけでなく、入力流量波形の最適法物近似を形成するパラメータともなる。換言すれば、固定流量波形形状(システム同定の前に形成される期間および振幅を有する方形波など)の仮定を緩和することによって、本発明は、したがって、伝達関数だけでなく、どの入力波形(放物線状とは限らない)が、(最小二乗法のようなあらゆる選択したメトリックという意味で)観察された圧力波形をもたらした可能性が最も高いのかを決定する。次いで、近似入力流量波形を積分することによって、圧力サイクルにわたる合計流量の推定値を提供することが可能である。
【0107】
入力流量に対する他の近似関数も、言うまでもなく、このように測定することが可能である。例えば、高次多項式を使用することが可能である。さらに別の例として、初期の入力流量波形は、(曲線ごとに合計8つの最適化パラメータに対して)各曲線の2つの端点および2つの制御点の位置を、システム同定ルーチンの最適化ステップで計算されるパラメータにできるような、一組のベジェ曲線であると考えることが可能である。さらに別の例では、実際に測定された入力流量波形の代表を最初にフーリエ解析することによって予め定められた、成分正弦波の振幅となる。言うまでもなく、システム同定および再構成手法の当業者には、さらに別の近似関数も想起されるであろう。
【0108】
入力流量に対する他の近似関数も、言うまでもなく、このように測定することが可能である。例えば、高次多項式を使用することが可能である。さらに別の例として、初期の入力流量波形は、(曲線ごとに合計8つの最適化パラメータに対して)各曲線の2つの端点および2つの制御点の位置を、システム同定ルーチンの最適化ステップで計算されるパラメータにできるような、一組のベジェ曲線であると考えることが可能である。さらに別の例では、実際に測定された入力流量波形の代表を最初にフーリエ解析することによって予め定められた、成分正弦波の振幅となる。言うまでもなく、システム同定および再構成手法の当業者には、さらに別の近似関数も想起されるであろう。
【0109】
本発明による方法を使用して、主に流量の最適な関数近似を測定することも可能となる。入力流量Q(t)に対する圧力応答P(t)の伝達関数モデルを形成するパラメータを測定する他の方法を有する(または、初期のサイクルにわたって本発明を使用する)ものと仮定する。例えば、十分正確であると仮定するn要素の大動脈ウインドケッセルモデルのパラメータを測定しておくことが可能である。次いで、仮定入力流量の一般的な形状(多項式、正弦波、区分線形など)を計算するパラメータを、上述のシステム同定手順を用いて最適化することが可能である。次いで、各サイクルまたはサイクルのグループに対して、最適な入力流量モデルの特定の形状(すなわち、関数)が、あらゆる伝達関数モデルの係数を同時に最適化または調整せずに測定される。次いで、心臓の流量を、スケーリング後に直接、または場合によって仮定入力流量波形から推定することが可能である。あらゆる必要なスケーリングを、既知の方法を使用して測定することが可能である。
【0110】
入力流量に対する他の近似関数も、言うまでもなく、このように測定することが可能である。例えば、高次多項式を使用することが可能である。さらに別の例として、初期の入力流量波形は、(曲線ごとに合計8つの最適化パラメータに対して)各曲線の2つの端点および2つの制御点の位置を、システム同定ルーチンの最適化ステップで計算されるパラメータにできるような、一組のベジェ曲線であると考えることが可能である。さらに別の例では、実際に測定された入力流量波形の代表を最初にフーリエ解析することによって予め定められた、成分正弦波の振幅となる。言うまでもなく、システム同定および再構成手法の当業者には、さらに別の近似関数も想起されるであろう。
【0111】
本発明による方法を使用して、主に流量の最適な関数近似を測定することも可能となる。入力流量Q(t)に対する圧力応答P(t)の伝達関数モデルを形成するパラメータを測定する他の方法を有する(または、初期のサイクルにわたって本発明を使用する)ものと仮定する。例えば、十分正確であると仮定するn要素の大動脈ウインドケッセルモデルのパラメータを測定しておくことが可能である。次いで、仮定入力流量の一般的な形状(多項式、正弦波、区分線形など)を計算するパラメータを、上述のシステム同定手順を用いて最適化することが可能である。次いで、各サイクルまたはサイクルのグループに対して、最適な入力流量モデルの特定の形状(すなわち、関数)が、あらゆる伝達関数モデルの係数を同時に最適化または調整せずに測定される。次いで、心臓の流量を、スケーリング後に直接、または場合によって仮定入力流量波形から推定することが可能である。あらゆる必要なスケーリングを、既知の方法を使用して測定することが可能である。
【0112】
流量モデルの情報は、それ自体の道理において有用となりうるが、他の情報と組み合わせて他の診断指標を提供することも可能である。例えば、1つの心臓サイクルにわたって仮定入力波形を積分することによって、心臓の1回拍出量(SV)の推定値がもたらされる。前記SVの推定値は、他の多くのSV推定システムが行っているような、動脈の直径または断面積の情報を必要としないことに留意されたい。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−66101(P2012−66101A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−250661(P2011−250661)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【分割の表示】特願2008−506688(P2008−506688)の分割
【原出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【出願人】(500218127)エドワーズ ライフサイエンシーズ コーポレイション (93)
【氏名又は名称原語表記】Edwards Lifesciences Corporation
【住所又は居所原語表記】One Edwards Way, Irvine, CALIFORNIA 92614, U.S.A.
【Fターム(参考)】