説明

心電図データ処理装置、心電図データ処理方法および心電図データ処理プログラム

【課題】心電図のU波を高精度で自動検出すること。
【解決手段】心電図データ処理装置100は、電極を用いて計測された12誘導心電図においてU波を検出する。心電図データ処理装置100は、12誘導心電図を示す12誘導心電図データを、XYZ誘導心電図を示すXYZ誘導心電図データに変換し、XYZ誘導心電図により構成される3次元ベクトル心電図におけるUループの特徴点を、生成されたXYZ誘導心電図データに基づいて検出し、検出されたUループの特徴点に対応する12誘導心電図の波形上の点を、12誘導心電図におけるU波の区分点として検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心電図データ処理装置、心電図データ処理方法および心電図データ処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
心電図波形には、P波、QRS波、T波およびU波といった成分が含まれている。これらのうちU波は、T波に続いて生じる成分であり、一般に、その振幅は正の値をとる。振幅が負の値をとるU波は、その形状により陰性U波あるいは二相性U波に分類される。
【0003】
なお、以下の説明においては、特に区別して記述する場合を除き、二相性U波は陰性U波の一種であるものとする。
【0004】
主に胸部誘導において出現する可能性がある陰性U波は、虚血性心疾患、特発性心筋症、心肥大などの場合に見られる心電図異常であるため(例えば非特許文献1参照)、その臨床的意義は大きい。
【0005】
さらに、陰性U波は、急性心筋梗塞発症前の心電図で出現率が高く、梗塞を予知する可能性を示唆する重要な所見であることが、知られている。
【0006】
よって、U波の形状を高精度で認識することが求められるが、U波は、他の成分に比べて振幅が非常に微小であることが多い。また、U波は心室筋の再分極の一部を表すものであると一般に考えられているものの、その定義については曖昧な部分がある。そのため、心電図において、U波の形状はもちろんのこと、U波の存在自体を視認することさえ容易でない場合がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「病気がみえる vol.2 循環器 第2版」、医療情報科学研究所編集、2008年3月、p.38
【非特許文献2】P. W. Macfarlane他著、「12誘導ベクトル心電図」、株式会社メディカルエレクトロタイムス発行、1996年6月、p.33−36
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来、心電図データを扱う各種機器によりU波を高精度で自動検出することについての提案はなされていない。
【0009】
本発明の目的は、心電図のU波を高精度で自動検出することができる心電図データ処理装置、心電図データ処理方法および心電図データ処理プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の心電図データ処理装置は、電極を用いて計測されたスカラー心電図である計測心電図においてU波を検出する心電図データ処理装置であって、前記計測心電図を示す第1の心電図データを変換することにより、ベクトル心電図構成スカラー心電図を示す第2の心電図データを生成する心電図変換部と、前記ベクトル心電図構成スカラー心電図により構成されるベクトル心電図におけるUループの特徴点を、生成された第2の心電図データに基づいて検出するUループ特徴点検出部と、検出された前記Uループの特徴点に対応する前記計測心電図の波形上の点を、前記計測心電図における前記U波の区分点として検出するU波区分点検出部と、を有する。
【0011】
本発明の心電図データ処理方法は、電極を用いて計測されたスカラー心電図である計測心電図においてU波を検出する心電図データ処理方法であって、前記計測心電図を示す第1の心電図データを変換することにより、ベクトル心電図構成スカラー心電図を示す第2の心電図データを生成する心電図変換ステップと、前記ベクトル心電図構成スカラー心電図により構成されるベクトル心電図におけるUループの特徴点を、生成された第2の心電図データに基づいて検出するUループ特徴点検出ステップと、検出された前記Uループの特徴点に対応する前記計測心電図の波形上の点を、前記計測心電図における前記U波の区分点として検出するU波区分点検出ステップと、を有する。
【0012】
本発明の心電図データ処理プログラムは、電極を用いて計測されたスカラー心電図である計測心電図においてU波を検出する心電図データ処理装置におけるコンピュータに、前記計測心電図を示す第1の心電図データを変換することにより、ベクトル心電図構成スカラー心電図を示す第2の心電図データを生成する心電図変換機能と、前記ベクトル心電図構成スカラー心電図により構成されるベクトル心電図におけるUループの特徴点を、生成された第2の心電図データに基づいて検出するUループ特徴点検出機能と、検出された前記Uループの特徴点に対応する前記計測心電図の波形上の点を、前記計測心電図における前記U波の区分点として検出するU波区分点検出機能と、を実現させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、心電図のU波を高精度で自動検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態の心電図データ処理システムの構成を示すブロック図
【図2】本発明の一実施の形態の心電図データ処理システムの動作を示すフロー図
【図3】標準12誘導心電図を説明するための図
【図4】本発明の一実施の形態のU波自動検出の動作を示すフロー図
【図5】本発明の一実施の形態のU波自動検出において行われる心電図変換処理を説明するための図
【図6】本発明の一実施の形態のU波自動検出においてU波区分点検出に至る過程を説明するための図
【図7】本発明の一実施の形態のU波自動検出の結果出力の第1例を示す図
【図8】本発明の一実施の形態のU波自動検出の結果出力の第2例を示す図
【図9】本発明の一実施の形態のU波自動検出の結果出力の第3例を示す図
【図10】本発明の一実施の形態のU波解析の動作を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施の形態に係る心電図データ処理装置を含む心電図データ処理システムの構成を示すブロック図である。
【0017】
図1において、心電図データ処理システムは、心電図データ処理装置100、ディスプレイ120、プリンタ130、心電計140および入力装置160を主として有する。
【0018】
心電図データ処理装置100は、演算部101、ディスプレイインタフェース(以下「I/F」と略記する)102、プリンタI/F103、心電計I/F104、記憶部105および入力装置I/F106を有する。
【0019】
演算部101は、演算処理装置と、心電図データ処理プログラムを記憶する記憶装置と、を有する。演算部101は、演算処理装置で心電図データ処理プログラムを実行することにより、後述するU波自動検出における心電図変換機能、Uループ特徴点検出機能およびU波区分点検出機能を実現させ、後述するU波解析におけるパラメータ計測機能および形状判定機能を実現させる。よって、演算部101は、心電図変換部、Uループ特徴点検出部、U波区分点検出部、パラメータ計測部および形状判定部を構成する。
【0020】
また、演算部101は、心電図データ処理プログラムの実行開始、実行停止および実行条件(閾値など)設定、心電計140などの各種計測機器制御、ならびにディスプレイ120やプリンタ130などの各種周辺機器制御を、入力コマンドに従って行う。
【0021】
ディスプレイI/F102は、LCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode Ray Tube)表示装置などのディスプレイ120と心電図データ処理装置100とを通信可能に接続するI/Fであり、ディスプレイ120と心電図データ処理装置100との間で授受されるデータは、ディスプレイI/F102を経由する。
【0022】
プリンタI/F103は、レーザ式やサーマルヘッド式などのプリンタ130と心電図データ処理装置100とを通信可能に接続するI/Fであり、プリンタ130と心電図データ処理装置100との間で授受されるデータは、プリンタI/F103を経由する。
【0023】
心電計I/F104は、四肢用電極部141と胸部用電極部142とにより被検者(つまり、心電図計測の対象者)から標準12誘導心電図(以下、単に「12誘導心電図」という)を計測する心電計140と心電図データ処理装置100とを通信可能に接続するI/Fであり、心電計140と心電図データ処理装置100との間で授受されるデータは、心電計I/F104を経由する。
【0024】
記憶部105は、ハードディスクドライブや半導体記憶装置などの記憶装置により構成される。記憶部105は、心電計140から受信されたデータ、ならびに演算部101によりU波自動検出動作およびU波解析動作の結果として得られたデータを、内部の記憶装置に記録する。
【0025】
入力装置I/F106は、マウスやキーボードなどの入力装置160と心電図データ処理装置100とを通信可能に接続するI/Fである。医師などの医療従事者が入力装置160を用いて操作することにより生じる入力信号は、入力装置I/F106を経由して演算部101に伝達され、演算部101により入力コマンドとして解釈される。
【0026】
以上、本実施の形態の心電図データ処理システムの構成について説明した。なお、上記構成は種々変更して実施することができる。
【0027】
例えば、本実施の形態では、心電図データ処理装置100が心電計140から独立した構成となっているが、心電図データ処理装置100は、心電計140の内部に設けることもできる。また、心電図データ処理装置100は、トレッドミルなどを用いてストレステストを行うためのストレステストシステムに実装することもできる。つまり、本発明は心電計やストレステストシステムなどの心電図データを扱う各種生体情報測定装置に適用することができる。
【0028】
また、本実施の形態では、12誘導心電図を計測する心電計140を用いるが、主として1chや2chの心電図を計測するホルター心電計など、スカラー心電図を計測する心電計であれば任意の心電計を用いることができる。
【0029】
次いで、上記構成を有する心電図データ処理システムにおける動作について説明する。
【0030】
図2は、心電図データ処理システムにおいて実行される動作を示すフロー図である。
【0031】
まず、ステップS100では、心電計140が四肢用電極部141および胸部用電極部142を用いて被検者から12誘導心電図を計測する。心電計140は、12誘導心電図を電気信号として取得し、これに対してアナログディジタル変換を施すことによって、12誘導心電図を示すディジタルデータである12誘導心電図データを生成し、生成された12誘導心電図データを心電計140内部の記憶装置に記録するとともに心電図データ処理装置100に送信する。
【0032】
図3に示す12誘導心電図170は、ステップS100で計測される12誘導心電図の一例である。12誘導心電図は、標準肢誘導であるI誘導、II誘導およびIII誘導と、単極肢誘導であるaVR誘導、aVL誘導およびaVF誘導と、胸部誘導であるV1誘導、V2誘導、V3誘導、V4誘導、V5誘導およびV6誘導と、を含む。この誘導法では、被検者の体表に装着された電極間の電位差、あるいは、装着された電極での電位と基準電位との差が、計測される。すなわち、本実施の形態において電極を用いて計測される12誘導心電図は、心起電力の大きさの時間的変化を時間軸上の波形によって表現するスカラー心電図の一種である。
【0033】
12誘導心電図が計測されると、心電図データ処理装置100は、U波の自動検出を行い(ステップS200)、U波の解析を行い(ステップS300)、解析結果の出力を行う(ステップS400)。
【0034】
図4は、心電図データ処理装置100において上記ステップS200で実行されるU波自動検出の動作を示すフロー図である。
【0035】
まず、ステップS210では、演算部101は、心電計140が送信した12誘導心電図データを心電計I/F104経由で受信することにより、12誘導心電図データを第1の心電図データとして取得する。
【0036】
これにより、計測された12誘導心電図についてU波の自動検出をリアルタイムに行うことができる。
【0037】
また、演算部101は、受信した12誘導心電図データを記憶部105に記憶させる。
【0038】
なお、演算部101は、過去に心電計140から受信した12誘導心電図データを記憶部105から読み出すことにより、12誘導心電図データを取得することもできる。
【0039】
また、演算部101は、取得された12誘導心電図データに示される12誘導心電図を、上記ステップS400においてディスプレイ120またはプリンタ130に出力させてもよい。
【0040】
ステップS220では、演算部101は、取得された12誘導心電図データを例えば逆Dower Matrix(例えば非特許文献2参照)を用いて変換することにより、XYZ誘導心電図データを第2の心電図データとして生成する。
【0041】
より具体的には、図5に示すように、演算部101は、取得された12誘導心電図データから、特定のあるいは任意の1拍分の波形を含む部分心電図171に相当する部分のデータを抽出し、抽出されたデータを、XYZ誘導心電図172を示すディジタルデータであるXYZ誘導心電図データに変換する。
【0042】
ここで、XYZ誘導心電図は、X誘導、Y誘導およびZ誘導を含むものである。これらの誘導はいずれも心起電力の大きさの時間的変化を時間軸上の波形によって表現するものであるため、XYZ誘導心電図は、12誘導心電図と同様にスカラー心電図である。ただし、X誘導、Y誘導およびZ誘導からは、ベクトル心電図、特に3次元ベクトル心電図を構成することができるため、XYZ誘導心電図は、ベクトル心電図構成スカラー心電図と呼ばれる。3次元ベクトル心電図は、心起電力の大きさおよび方向の時間的変化を3次元直交座標系上のベクトルループによって表現するものである。よって、X誘導の波形は、ベクトルループ上の点のX座標値の時間的変化を表している。同様に、Y誘導の波形は、ベクトルループ上の点のY座標値の時間的変化を表し、Z誘導の波形は、ベクトルループ上の点のZ座標値の時間的変化を表している。
【0043】
なお、ステップS220で生成される第2の心電図データに示されるスカラー心電図は、3次元でなく2次元のベクトル心電図を構成するものであってもよい。ただし、U波をより高精度で自動検出するためには、ベクトル心電図構成スカラー心電図は、3次元ベクトル心電図を構成し得るものであることが望ましい。また、第2の心電図データに示されるスカラー心電図は、3次元ベクトル心電図を構成し得るものであれば、XYZ誘導心電図と異なるものであってもよい。
【0044】
また、ステップS210で取得された第1の心電図データが12誘導心電図データではないもの(例えばホルター心電図を示すデータ)であった場合には、演算部101は、取得された第1の心電図データから12誘導心電図データを合成して、合成された12誘導心電図データをXYZ誘導心電図データに変換することができる。
【0045】
また、演算部101は、生成されたXYZ誘導心電図データに示されるXYX誘導心電図を、上記ステップS400においてディスプレイ120またはプリンタ130に出力させてもよい。
【0046】
ステップS230では、演算部101は、生成されたXYZ誘導心電図データに示されたXYZ誘導心電図を3次元直交座標系にプロットすることにより、3次元ベクトル心電図を作成する。
【0047】
ここでは、図6に示すように、XYZ誘導心電図172を示すXYZ誘導心電図データのうち、12誘導心電図においてQRS波の後ろに位置しT波およびU波を含み得る波形部分に対応する部分のデータを抽出して使用することにより、Tループ173TとUループ173Uとを含むベクトルループ173を有する3次元ベクトル心電図が作成される。
【0048】
なお、演算部101は、1拍の全体に相当するベクトルループを有する3次元ベクトル心電図を作成してもよい。
【0049】
また、演算部101は、このように作成される3次元ベクトル心電図を、上記ステップS400においてディスプレイ120またはプリンタ130に出力させてもよい。
【0050】
ステップS240では、演算部101は、ベクトルループ173上の各点について、3次元直交座標系の原点Oからの距離を算出する。この距離算出には、ステップS220で生成されたXYZ誘導心電図データを使用することができる。
【0051】
特に、XYZ誘導心電図データのうち、12誘導心電図においてQRS波の後ろに位置しT波およびU波を含み得る波形部分に対応する部分のデータが抽出されて使用される。これにより、演算量を削減することができる。
【0052】
前述のとおり、XYZ誘導心電図においてX誘導、Y誘導およびZ誘導はそれぞれ、ベクトルループ上の点のX座標値、Y座標値およびZ座標値を表すものである。よって、時刻tでのX誘導、Y誘導およびZ誘導の振幅をそれぞれx、y、zとすれば、この点についての原点O(x,y,z)からの距離は、
【数1】

によって算出することができる。なお、(x,y,z)=(0,0,0)である。
【0053】
これにより、演算部101は、ベクトルループ173上の点と原点Oとの距離の時間的変化を知得することができる。図6に示すように、算出された距離の時間的変化を示す波形174は、Tループ173T上の点と原点Oとの距離の時間的変化を示す波形部分174Tと、Uループ173U上の点と原点Oとの距離の時間的変化を示す波形部分174Uと、を含む。よって、波形174上の前後双方の点よりも振幅が小さくなる1つ目の点を、Uループ173Uの始点に相当する点BULと定義することができる。また、波形174上の前後双方の点よりも振幅が大きくなる点を、Uループ173Uの頂点に相当する点TULと定義することができる。また、波形174上の前後双方の点よりも振幅が小さくなる2つ目の点を、Uループ173Uの終点に相当する点EULと定義することができる。
【0054】
そこで、ステップS250では、演算部101は、ステップS240で算出された距離の極小値および極大値を算出し、原点Oからの距離が極小値および極大値となるベクトルループ173上の点を、Uループ173Uの特徴点として検出する。極小値および極大値の算出は、ステップS240で算出された距離を例えば微分するなどの方法によって行うことができる。
【0055】
本実施の形態では、検出する特徴点は、Uループ173Uの始点、頂点および終点を含む。すなわち、演算部101は、原点Oからの距離が極小値となる1つ目の点を、Uループ173Uの始点として検出し、原点Oからの距離が極大値となる点を、Uループ173Uの頂点として検出し、原点Oからの距離が極小値となる2つ目の点を、Uループ173Uの終点として検出する。
【0056】
このように、本実施の形態では、Uループ173Uの始点、頂点および終点を、ベクトルループ173上の点と原点Oとの距離から導き出す。また、その距離は、いずれも非負となるX座標値の2乗とY座標値の2乗とZ座標値の2乗との加算値から得られるものである。よって、Uループ173Uの始点、頂点および終点を高精度で検出することができる。
【0057】
なお、検出する特徴点は、Uループ173Uの始点、頂点および終点のうち少なくとも1つであってもよいし、Uループ173Uの始点、頂点および終点のいずれとも異なる点であってもよい。
【0058】
また、演算部101は、ステップS240での距離算出結果およびステップS250でのUループ特徴点検出結果を、上記ステップS400においてディスプレイ120またはプリンタ130に出力させてもよい。
【0059】
ステップS260では、演算部101は、ステップS220で12誘導心電図データから抽出されたデータに示される部分心電図171のうち、特に胸部誘導心電図175において、U波の区分点を検出する。
【0060】
このU波区分点検出は、ステップS250でのUループ特徴点検出結果に基づいて行われる。
【0061】
より具体的には、検出されたUループ173Uの始点と同時刻に位置する胸部誘導心電図175の波形上の点が、U波の始点BUWとして検出される。また、検出されたUループ173Uの頂点と同時刻に位置する胸部誘導心電図175の波形上の点が、U波の頂点TUWとして検出される。また、検出されたUループ173Uの終点と同時刻に位置する胸部誘導心電図175の波形上の点が、U波の終点EUWとして検出される。
【0062】
この結果として、胸部誘導心電図175において始点BUWから終点EUWまでの波形部分を、U波175Uとして認識することができる。
【0063】
なお、U波175Uの始点BUW、頂点TUWおよび終点EUWを導き出す方法は、前述のものだけに限定されず、他の方法も可能である。例えば、Uループ173Uの始点および終点のいずれか片方のみから、U波175Uの始点BUWおよび終点EUWの両方を導き出してもよい。
【0064】
ただし、本実施の形態のように、U波175Uの始点BUWをUループ173Uの始点を基準として導き出し、U波175Uの頂点TUWをUループ173Uの頂点を基準として導き出し、U波175Uの終点EUWをUループ173Uの終点を基準として導き出すことが、U波区分点検出精度の点で望ましい。本実施の形態では、前述のとおり、Uループ173Uの始点、頂点および終点を高精度で検出することができるからである。
【0065】
また、U波区分点検出は、胸部誘導心電図175において行うほかに、標準肢誘導心電図および単極肢誘導心電図において行ってもよい。ただし、U波の異常、つまり陰性U波は、主として胸部誘導において出現するものであるため、本実施の形態のようにU波区分点検出を胸部誘導心電図175において行うだけでも、陰性U波を高精度で検出することができる。
【0066】
また、演算部101は、このU波区分点検出結果を、上記ステップS400においてディスプレイ120またはプリンタ130に出力させてもよい。
【0067】
以上、U波自動検出の動作について説明した。
【0068】
上記U波自動検出により、U波を高精度で自動検出することができ、また、この結果をディスプレイ120またはプリンタ130に出力させた場合には、U波を容易に視認することができる。
【0069】
例えば、図7には、左室肥大発症者のサンプル心電図についてのU波自動検出結果の出力が示されている。この図では、計測された複数拍分の胸部誘導心電図170a、胸部誘導心電図170aを示すデータに基づいて得られたベクトルループ上の点と3次元直交座標系の原点との距離を示す波形174a、および胸部誘導心電図170aのうちの1拍分の胸部誘導心電図175aが、示されている。さらに、検出されたUループの始点、頂点および終点にそれぞれ対応する波形174a上の点に位置を合わせて、検出されたU波175aUの始点を結ぶ線B、検出されたU波175aUの頂点を結ぶ線T、および検出されたU波175aUの終点を結ぶ線Eが、示されている。このため、このサンプル心電図においてU波を一目で認識することができる。
【0070】
また、図8には、心筋梗塞発症者のサンプル心電図についてのU波自動検出結果の出力が示されている。この図では、計測された複数拍分の胸部誘導心電図170b、胸部誘導心電図170bを示すデータに基づいて得られたベクトルループ上の点と3次元直交座標系の原点との距離を示す波形174b、および胸部誘導心電図170bのうちの1拍分の胸部誘導心電図175bが、示されている。さらに、検出されたUループの始点、頂点および終点にそれぞれ対応する波形174b上の点に位置を合わせて、検出されたU波175bUの始点を結ぶ線B、検出されたU波175bUの頂点を結ぶ線T、および検出されたU波175bUの終点を結ぶ線Eが、示されている。このため、このサンプル心電図においてもU波を一目で認識することができる。
【0071】
また、図9には、健常者のサンプル心電図についてのU波自動検出結果の出力が示されている。この図では、計測された複数拍分の胸部誘導心電図170c、胸部誘導心電図170cを示すデータに基づいて得られたベクトルループ上の点と3次元直交座標系の原点との距離を示す波形174c、および胸部誘導心電図170cのうちの1拍分の胸部誘導心電図175cが、示されている。さらに、検出されたUループの始点、頂点および終点にそれぞれ対応する波形174c上の点に位置を合わせて、検出されたU波175cUの始点を結ぶ線B、検出されたU波175cUの頂点を結ぶ線T、および検出されたU波175cUの終点を結ぶ線Eが、示されている。このため、このサンプル心電図においてもU波を一目で認識することができる。
【0072】
従前の方法では、各誘導の波形を個別に見ることでU波を特定せざるを得なかったため、客観的で高精度なU波認識は困難であったが、本実施の形態では、客観的で高精度なU波自動検出を行うことができるため、医療従事者は容易かつ迅速にU波を視認することができ、ひいては診断効率の飛躍的向上に寄与する。
【0073】
図10は、心電図データ処理装置100において上記ステップS300で実行されるU波解析の動作を説明するための図である。なお、図10についての説明においては、陰性U波と二相性U波とを区別して記述する。
【0074】
演算部101は、胸部誘導心電図175において検出されたU波175Uについて、振幅と持続時間とを含むパラメータを計測する。振幅は、検出されたU波175Uの区間内での、基線から波形までの乖離の幅である。持続時間は、検出されたU波175Uの区間内で、波形が基線から乖離している時間の長さである。
【0075】
ここで、6つの胸部誘導のうち1つにおいてのみ陰性U波または二相性U波が出現した場合も心電図異常として認められるため、各誘導について、振幅を示す情報AV1、AV2、AV3、AV4、AV5、AV6および持続時間を示す情報DV1、DV2、DV3、DV4、DV5、DV6を取得することが望ましい。
【0076】
そして、演算部101は、計測された振幅および持続時間を所定閾値と比較することにより、U波175Uの形状を判定する。この形状判定により、演算部101は、U波175Uを「陽性U波」、「陰性U波」、「二相性U波」および「U波なし」に分類する。
【0077】
具体的には、ある誘導心電図において、U波175Uの区間における振幅が、閾値以上の正の値となり、かつ、閾値以上の負の値とならなかった場合には、その誘導心電図におけるU波175Uは「陽性U波」であると判定される。
【0078】
また、ある誘導心電図において、U波175Uの区間における振幅が、閾値以上の正の値とならず、かつ、閾値以上の負の値となった場合には、その誘導心電図におけるU波175Uは「陰性U波」であると判定される。
【0079】
また、ある誘導心電図において、U波175Uの区間における振幅が、閾値以上の正の値となり、かつ、閾値以上の負の値にもなった場合には、その誘導心電図におけるU波175Uは「二相性U波」であると判定される。なお、二相性U波は、その形状により、さらに「+−型」と「−+型」に分類される。
【0080】
また、ある誘導心電図において、U波175Uの区間における振幅が、閾値以上の正の値にも閾値以上の負の値にもならなかった場合には、その誘導心電図におけるU波175Uは「U波なし」であると判定される。
【0081】
なお、図10に示す例では、V1誘導心電図およびV2誘導心電図におけるU波175Uが「陽性U波」と判定され、V3誘導心電図におけるU波175Uが「二相性U波」と判定され、V4誘導心電図およびV5誘導心電図におけるU波175Uが「陰性U波」と判定され、V6誘導心電図におけるU波175Uが「U波なし」と判定されている。
【0082】
上記U波解析により、人間の目では判別困難であるU波形状を客観的に判別することができ、心電図異常である陰性U波および二相性U波を自動検出することができる。
【0083】
このように、本実施の形態によれば、高精度でU波を自動検出し、さらには高精度で陰性U波を自動検出することができる。したがって、本実施の形態に基づく陰性U波自動検出アルゴリズムの応用例としては、ストレステストでのU波陰転化監視や突然死予測指標算出など、様々なものがある。
【0084】
以上、本発明の実施の形態について説明した。なお、以上の説明は本発明の好適な実施の形態の例証であり、本発明の範囲はこれに限定されない。つまり、上記実施の形態において説明した装置の構成および動作は例であり、これらを本発明の範囲において部分的に変更、追加および削除できることは明らかである。
【0085】
なお、上記実施の形態に基づく陰性U波自動検出アルゴリズムの有用性を確認するために、22,514件の成人心電図サンプルを対象としてこのアルゴリズムを適用したところ、1.13%にあたる255件で陰性U波を自動検出した。そして、自動検出した心電図について目視で陰性U波を確認したところ、255件中206件については正しく陰性U波を検出したことが判明した。すなわち、80.8%の高精度であったため、この陰性U波自動検出アルゴリズムの有用性が確認された。
【符号の説明】
【0086】
100 心電図データ処理装置
101 演算部
102 ディスプレイI/F
103 プリンタI/F
104 心電計I/F
105 記憶部
106 入力装置I/F
120 ディスプレイ
130 プリンタ
140 心電計
141 四肢用電極部
142 胸部用電極部
160 入力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極を用いて計測されたスカラー心電図である計測心電図においてU波を検出する心電図データ処理装置であって、
前記計測心電図を示す第1の心電図データを変換することにより、ベクトル心電図構成スカラー心電図を示す第2の心電図データを生成する心電図変換部と、
前記ベクトル心電図構成スカラー心電図により構成されるベクトル心電図におけるUループの特徴点を、生成された第2の心電図データに基づいて検出するUループ特徴点検出部と、
検出された前記Uループの特徴点に対応する前記計測心電図の波形上の点を、前記計測心電図における前記U波の区分点として検出するU波区分点検出部と、
を有する心電図データ処理装置。
【請求項2】
前記Uループの特徴点は、前記Uループの始点、終点および頂点の少なくとも1つを含む、
請求項1記載の心電図データ処理装置。
【請求項3】
前記Uループ特徴点検出部は、前記ベクトル心電図のベクトルループ上の点について、前記ベクトル心電図の直交座標系の原点からの距離を、生成された第2の心電図データに基づいて算出し、距離算出の結果に基づいて前記Uループの特徴点を検出する、
請求項1記載の心電図データ処理装置。
【請求項4】
前記Uループの特徴点は、前記Uループの始点を少なくとも含み、
前記Uループ特徴点検出部は、算出された距離が極小点となる前記ベクトル心電図のベクトルループ上の点の1つを前記Uループの始点として検出する、
請求項3記載の心電図データ処理装置。
【請求項5】
前記Uループの特徴点は、前記Uループの終点を少なくとも含み、
前記Uループ特徴点検出部は、算出された距離が極小点となる前記ベクトル心電図のベクトルループ上の点の1つを前記Uループの終点として検出する、
請求項3記載の心電図データ処理装置。
【請求項6】
前記Uループの特徴点は、前記Uループの頂点を少なくとも含み、
前記Uループ特徴点検出部は、算出された距離が極大点となる前記ベクトル心電図のベクトルループ上の点の1つを前記Uループの頂点として検出する、
請求項3記載の心電図データ処理装置。
【請求項7】
前記ベクトル心電図は、3次元ベクトル心電図であり、
前記Uループ特徴点検出部は、前記3次元ベクトル心電図のベクトルループ上の点について、前記3次元ベクトル心電図の直交座標系の原点からの距離を算出する、
請求項3記載の心電図データ処理装置。
【請求項8】
前記U波の区分点は、前記U波の始点、終点および頂点の少なくとも1つを含む、
請求項1記載の心電図データ処理装置。
【請求項9】
前記U波区分点検出部は、前記Uループの特徴点として検出された前記Uループの始点と同時刻に位置する前記計測心電図の波形上の点を、前記U波の始点として検出する、
請求項8記載の心電図データ処理装置。
【請求項10】
前記U波区分点検出部は、前記Uループの特徴点として検出された前記Uループの終点と同時刻に位置する前記計測心電図の波形上の点を、前記U波の終点として検出する、
請求項8記載の心電図データ処理装置。
【請求項11】
前記U波区分点検出部は、前記Uループの特徴点として検出された前記Uループの頂点と同時刻に位置する前記計測心電図の波形上の点を、前記U波の頂点として検出する、
請求項8記載の心電図データ処理装置。
【請求項12】
検出された前記U波の区分点に基づいて特定された前記U波についてのパラメータを計測するパラメータ計測部と、
計測された前記U波のパラメータに基づいて、前記U波の形状を判定する形状判定部と、
をさらに有する請求項1記載の心電図データ処理装置。
【請求項13】
電極を用いて計測されたスカラー心電図である計測心電図においてU波を検出する心電図データ処理方法であって、
前記計測心電図を示す第1の心電図データを変換することにより、ベクトル心電図構成スカラー心電図を示す第2の心電図データを生成する心電図変換ステップと、
前記ベクトル心電図構成スカラー心電図により構成されるベクトル心電図におけるUループの特徴点を、生成された第2の心電図データに基づいて検出するUループ特徴点検出ステップと、
検出された前記Uループの特徴点に対応する前記計測心電図の波形上の点を、前記計測心電図における前記U波の区分点として検出するU波区分点検出ステップと、
を有する心電図データ処理方法。
【請求項14】
電極を用いて計測されたスカラー心電図である計測心電図においてU波を検出する心電図データ処理装置におけるコンピュータに、
前記計測心電図を示す第1の心電図データを変換することにより、ベクトル心電図構成スカラー心電図を示す第2の心電図データを生成する心電図変換機能と、
前記ベクトル心電図構成スカラー心電図により構成されるベクトル心電図におけるUループの特徴点を、生成された第2の心電図データに基づいて検出するUループ特徴点検出機能と、
検出された前記Uループの特徴点に対応する前記計測心電図の波形上の点を、前記計測心電図における前記U波の区分点として検出するU波区分点検出機能と、
を実現させるための心電図データ処理プログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図6】
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