説明

応答曲面モデル作成装置及び応答曲面モデル方法及び応答曲面モデルプログラム

【課題】分割した領域に属する標本に近似しない線形モデルを作成するような不具合のない応答曲面モデルを作成すること。
【解決手段】因子値及び応答値からなる標本を入力する入力部1と、入力部1により入力される標本を空間上に配置する標本配置部21と、領域に属する前記標本の座標値に基づいて、領域毎に線形モデルを作成する線形モデル作成部230と、領域に属する標本に基づいて線形モデルを分割する領域分割部22と、分割される前記領域に属する標本に基づいて、領域を分割不可と判定する分割領域判定部221と、分割領域判定部221により全領域において分割不可と判定されたときに、各線形モデルを空間上に配置して応答曲面モデルを作成するモデル作成部23とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、応答曲面モデルを作成する応答曲面モデル作成装置及び応答曲面モデル方法及び応答曲面モデルプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、測定の分野では、測定対象となる装置等(例えば、自動車のエンジン)における入力となる複数の因子(例えば、スロットル開度や燃料噴射タイミング等)の設定値(因子値)を変更して、この因子値の出力となる応答(例えば、排気ガスの排出量や燃費効率等)を測定して得た値(応答値)に基づいて、任意の因子に対する応答を算出するモデル化(応答曲面モデルの作成)を行っていた。
【0003】
自動車のエンジンの性能測定において、応答曲面モデルを用いる場合には、実際にエンジンを駆動させなくても、因子から得られる応答を得ることができるために、エンジンの開発に有効な手段として用いることができる。また、応答曲面モデルは、2つの要素を因子とする場合には、例えば、因子をX軸及びY軸にとり、応答をZ軸にとる3軸の直行座標空間上に描画することによりディスプレイ等に出力することができる。その結果、エンジンの特性を視覚的に容易に把握することができる。このような応答曲面モデルの作成装置としては、特許文献1に開示されるものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−132902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した応答曲面モデルは、例えば、全体の標本に近似する面(線形面や非線形面)、いわゆる、応答曲面を形成することで、任意の因子から応答を得ることができるものである。このように形成される応答曲面モデルは、応答値の特性のより様々なモデルの作成方法(近似面の作成手法)があり、例えば、拡大近似手法、領域分割近似手法、高次元多項式近似手法等がある。モデル作成手法の中でも、応答値の変化を詳細に把握したい場合には、領域分割手法が有効であるとされる。領域分割近似手法(例えば、LOLIMOT(Local Linear Model Tree))は、標本が配置される空間を区画(分割)し、領域を形成すると共に、この領域毎に応答曲面を形成し、各応答曲面に基づいて、応答曲面モデルを作成するものである。このように作成される応答曲面モデルは、複雑な変化をする応答値にも、より近似して対応することができる。
【0006】
このような領域分割手法による応答曲面モデルをコンピュータにより作成する場合には、空間の分割の判断(停止)をさせて、その判断に基づいて応答曲面を作成される必要がある。分割の停止の条件としては、例えば空間上での標本の分布(各標本の位置関係)を考慮せずに、分割の回数を予め設定することにより、一定の回数を超えた場合には、分割を停止させること等が考えられる。
【0007】
しかし、このように標本の位置関係を考慮せずに、分割を行って応答曲面モデルを作成した場合には、分割により形成される領域に属する各標本の位置により、不具合(応答曲面が標本の座標値との近似により作成されない応答曲面が形成され、領域の一部に急峻な応答曲面モデルが表示される状態となる等)が発生することがあった。
【0008】
本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであり、分割した領域に属する標本に近似しない線形モデルを作成するような不具合のない応答曲面モデルを作成する応答曲面モデル作成装置及び応答曲面モデル方法及び応答曲面モデルプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明係る応答曲面モデル作成装置は、測定対象を駆動させる原因となる複数の因子値と、駆動した結果として算出される応答値とからなる座標値である標本が複数個空間上に配置され、当該配置された複数の標本に近似する面となる線形モデルを作成し、前記線形モデルを前記標本の分布に基づいて分割して、当該分割により形成される領域に属する前記標本に基づいて作成される複数の線形モデルからなる応答曲面モデルを作成する応答曲面モデル作成装置であって、前記標本を入力する入力部と、前記入力部により入力される前記標本を前記空間上に配置する標本配置部と、前記領域に属する前記標本の座標値に基づいて、前記領域毎に前記線形モデルを作成する線形モデル作成部と、前記領域に属する前記標本に基づいて前記線形モデルを分割する領域分割部と、前記因子値の個数と、分割される前記領域に属する前記標本の配置とに基づいて、当該領域を分割不可と判定する分割領域判定部と、前記分割領域判定部により全領域において分割不可と判定されたときに、各線形モデルを前記空間上に配置して応答曲面モデルを作成するモデル作成部とを備える。
【0010】
また、前記応答曲面モデル作成装置では、前記分割領域判定部による前記分割不可の判定は、(1)式により算出される値が一定の閾値以下の場合には、分割不可とすることが好ましい。
【数1】

なお、「X」は、領域iの局所行列であり、「T」は、転置行列を表す記号である。
【0011】
また、本発明に係る応答曲面モデル作成方法は、測定対象を駆動させる原因となる複数の因子値と、駆動した結果として算出される応答値とからなる座標値である標本が複数個空間上に配置され、当該配置された複数の標本に近似する面となる線形モデルを作成し、当該線形モデルに属する前記標本の分布に基づいて、前記線形モデルを分割し、前記線形モデルを分割したことにより形成される領域に属する前記標本に基づいて作成される複数の線形モデルにより形成される応答曲面モデルを作成する応答曲面モデル作成方法であって、入力された前記標本を前記空間上に配置する標本配置工程と、前記領域に属する前記標本の座標値に基づいて前記線形モデルを作成する線形モデル作成工程と、前記標本に基づいて前記線形モデルを分割する領域分割工程と、前記因子値の個数と、分割された領域に属する標本の配置とに基づいて、分割された前記領域を分割不可と判定する分割領域判定工程と、全領域において分割不可と判定されたときに、各線形モデルを前記空間上に配置して応答曲面モデルを作成するモデル作成工程とを備える。
【0012】
また、前記応答曲面モデル作成方法では、前記分割領域判定工程における前記分割不可の判定は、(2)式により算出される値が一定の閾値以下の場合には、分割不可とすることが好ましい。
【数2】

なお、「X」は、領域iの局所行列であり、「T」は、転置行列を表す記号である。
【0013】
また、本発明に係る応答曲面モデル作成プログラムは、測定対象を駆動させる原因となる複数の因子値と、駆動した結果として算出される応答値とからなる座標値である標本が複数個空間上に配置され、当該配置された複数の標本に近似する面となる線形モデルを作成し、当該線形モデルに属する前記標本の分布に基づいて、前記線形モデルを分割し、前記線形モデルを分割したことにより形成される領域に属する前記標本に基づいて作成される複数の線形モデルにより形成される応答曲面モデルを作成する応答曲面モデル作成プログラムであって、入力された前記標本を前記空間上に配置する標本配置工程と、前記領域に属する前記標本の座標値に基づいて前記線形モデルを作成する線形モデル作成工程と、前記標本に基づいて前記線形モデルを分割する領域分割工程と、前記因子値の個数と、分割された領域に属する標本とに基づいて、分割された前記領域を分割不可と判定する分割領域判定工程と、全領域において分割不可と判定されたときに、各線形モデルを前記空間上に配置して応答曲面モデルを作成するモデル作成工程とを備える。
【0014】
また、前記応答曲面モデル作成プログラムでは、前記分割領域判定工程における前記分割不可の判定は、(3)式により算出される値が一定の閾値以下の場合には、分割不可とすることが好ましい。
【数3】

なお、「X」は、領域iの局所行列であり、「T」は、転置行列を表す記号である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、分割した領域に属する標本に近似しない線形モデルを作成するような不具合のない応答曲面モデルを作成する応答曲面モデル作成装置及び応答曲面モデル方法及び応答曲面モデルプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の応答曲面モデル作成装置の機能を示す機能ブロック図である。
【図2】本発明の応答曲面モデル作成方法を示すフローチャートである。
【図3】応答曲面モデルの作成を示す図で、(a)は分割前の因子空間を示す模式図、(b)は(a)に対応した描画した線形モデルを示す図、(c)は2分割目の因子空間を示す模式図、(d)は(c)に対応した描画した線形モデルを示す図、(e)は3分割目の因子空間を示す模式図、(f)は(e)に対応した描画した線形モデルを示す図である。
【図4】応答曲面モデルを示す図で、(a)は応答曲面モデル作成状態における因子空間を示す模式図、(b)は描画した応答曲面モデルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について図1から図4を用いて説明する。図1は、本発明の応答曲面モデル作成装置の機能を示す機能ブロック図である。図2は、本発明の応答曲面モデル作成方法を示すフローチャートである。図3は、応答曲面モデルの作成を示す図で、(a)は分割前の因子空間を示す模式図、(b)は(a)に対応した描画した線形モデルを示す図、(c)は2分割目の因子空間を示す模式図、(d)は(c)に対応した描画した線形モデルを示す図、(e)は3分割目の因子空間を示す模式図、(f)は(e)に対応した描画した線形モデルを示す図である。図4は、応答曲面モデルを示す図で、(a)は応答曲面モデル作成状態における因子空間を示す模式図、(b)は描画した応答曲面モデルを示す図である。
【0018】
本実施形態における応答曲面モデル作成装置101は、外部からデータを入力する入力部1と、入力部1からのデータを処理(演算)し、応答曲線モデルを作成する処理部2と、処理部2により作成された応答曲面モデルを描画し、ディスプレイ等に出力する出力部3とを備える。なお、以下では、処理部2により、当該機能が発揮されるものとして説明するが、これに限られず、他の要部によって発揮されても良い。また、本実施形態において作成される応答曲面モデルは、応答曲面法の領域分割近似手法のうちのLOLIMOT(Local Linear Model Tree)による作成方法に準じて作成される。また、本実施形態における応答曲面モデル作成装置101は、応答曲面モデルを3次元空間上に描画することを想定して以下の説明を行う。
【0019】
入力部1は、外部装置等(本実施形態においては、エンジン性能測定装置100)からデータを入力する。入力されるデータは、測定対象を駆動する原因となる複数の因子と、この因子(因子値)により測定対象を駆動することにより産出される応答(応答値)とである。入力部1は、この因子値及び応答値を1つの組み合わせとする標本Sとして入力する。なお、標本Sにおいて、因子値及び応答値は、座標値である。
【0020】
測定対象は、具体的には、自動車のエンジンである。また、2つの因子のうち、一方の因子は、エンジンの回転数(以下、単に回転数という。)である。他方の因子は、トルクである。また、応答は、NOx(Nitrogen Oxide x、窒素酸化物)の排出量(以下、単にNOxという。)である。
つまり、標本Sは、回転数又はトルクの異なる状態の下で、エンジンを駆動したときに排出(算出)されるNOxを測定したもので、因子となる回転数、トルク及び応答となるNOxの座標値を有する。
なお、本実施形態においては、因子を回転数及びトルクとし、応答をNOxとしたが、これに限定されるものではない。
【0021】
本実施形態において、因子値は、エンジンと接続されるエンジン性能測定装置100により設定される。また、応答値は、エンジン性能測定装置100により設定されたエンジンを駆動させることにより測定される。エンジン性能測定装置100は、以下のような構成で、応答値となるエンジンの測定データを入手する。
【0022】
エンジン性能測定装置100は、エンジンとエンジンのスロットル開度を変化させるスロットルアクチュエータと、エンジンの回転数を検出する回転センサと、ダイナモ等の負荷に接続されるクラッチと、スロットルアクチュエータ、クラッチ、エンジンを制御する制御部と、データ収集部により構成される。
【0023】
データ収集部は、段階的に回転数とトルクを変化させてエンジンを駆動させたときに排出されるNOx測定し、最終的に、因子(回転数及びトルク)と応答(NOx)の座標値の組み合わせである標本に変換する。
【0024】
処理部2は、標本配置部21と、領域分割部22と、モデル作成部23とを備える。
標本配置部21は、図3(b)に示すように、因子値(回転数及びトルク)をX成分(X軸)及びY成分(Y軸)とし、応答値(NOx)をZ成分(Z軸)とする直行座標系の3次元空間Dに、座標値に基づいて標本Sを配置する。
【0025】
領域分割部22は、分割領域検索部220及び分割領域判定部221を備える。また、領域分割部22は、後述するモデル作成部23により作成された線形モデルLMを分割する。
【0026】
領域の分割は、分割線Lにより線形モデルを区画することにより行われる。これにより、標本Sは、分割により形成された領域毎に所属が分けられる。また、領域の分割は、所定の法則に則って行われる。本実施の形態において、領域の分割は、図3(a)に示すように、3次元空間DをX軸方向又はY軸方向から線形モデルLM内に線形モデルLMが等分割されるように分割線Lを引くことにより行われる。なお、図3(a)は、3次元空間DをX軸とY軸とにより形成される空間(因子空間)を2次元的に表示したものである。
【0027】
分割領域検索部220は、領域分割部22による線形モデルLMを分割するにあたり、線形モデルLMにおいて、局所残差が最大となる領域を検索する。
【0028】
また、分割領域検索部220は、分割することにより残差が最小となる分割方法を検索する。分割方法の検索は、可能な分割方法のうちで、残差が最も小さくなる分割方法を検索することにより行われる。
【0029】
分割領域検索部220は、例えば、図3(c)、(d)に示すような場合において、分割線Lにより分割された領域T1、T2のうち領域T1を分割する際には、分割線L3により分割する方法と、分割線L4により分割する方法とのいずれか一方を選定する。そして、分割領域検索部220は、選定された分割方法により、分割した場合の残差を算出する。分割領域検索部220は、分割方法毎に残差を比較して、残差が最小となる分割方法を検索(選定)する。
【0030】
分割領域判定部221は、分割領域検索部220により検索された分割方法において、形成される領域毎に、領域に属する標本Sが線形モデルLMを作成する上で不適当な配置であるか否かを判定する。
【0031】
分割領域判定部221は、当該不適当な配置を判定することにより、例えば、領域内に標本Sがほぼ一直線上に配置されている状態や領域内に3点の標本Sが配置された場合に互いの距離が極端に近い状態(3点の標本Sを結ぶことにより形成される三角形の面積が一定の閾値以下である状態)等を判定する。
【0032】
分割領域判定部221は、この判定結果に基づいて、当該分割方法により分割を行わないことを決定する(分割の停止)。なお、上述したような状態となる領域において、線形モデルLMを作成した場合は、領域内の標本Sに近似しない線形モデル(急峻な線形モデル)が作成される虞がある。
【0033】
モデル作成部23は、線形モデル作成部230及び重合部231を備える。また、モデル作成部23は、全領域において、分割が不可と判定された場合には、現行のモデルを応答局面モデルRMとして決定する。
【0034】
線形モデル作成部230は、所定の領域に属する標本Sの座標値に基づいて、この領域に属する全標本Sの座標値に近似する面となる線形モデルLMを作成する。
【0035】
重合部231は、線形モデル作成部230において、作成された全領域に対応する各線形モデルLMを重合する。各線形モデルLMの重合は、隣り合う線形モデル同士を延長した場合における交差部分を連結させることに行うことができる。
【0036】
また、線形モデルLMの重合は、隣り合う線形モデルLMの端部同士の交点を重合部分として重合させることにより行うこともできる。また、線形モデルLMの重合は、線形モデル同士の重合部分における残差を小さくするために、線形モデル同士を滑らかな曲線で重合させることができる。この曲線の曲率は、各線形モデルLMにおいてウエイトを換算して決定される。
【0037】
出力部3は、処理部2により作成された応答曲面モデルRMを描画して、ディスプレイ等を介して出力(表示)させる。
【0038】
上述したように構成される応答曲面モデル作成装置101は、エンジン性能測定装置100から入手した標本Sを基にして、応答曲面モデルRMを作成し、ディスプレイ等に出力する機能を有している。この際、応答曲面モデル作成装置101は、領域内の標本Sの配置により分割を停止するために、標本Sと近似的な関係にない線形モデルLMを作成してしまうという不具合が生じることなく応答曲面モデルRMを作成し、出力することができる。
【0039】
ここで、応答曲面モデルRMの作成方法について、図2に示すフローチャートを用いて説明する。
ステップST1において、標本配置部21は、回転数をX軸の成分とし、トルクをY軸の成分とし、NOxをZ軸の成分とする直行座標系において、所定値を上限とする3次元空間Dに入力部1により入力された標本Sを配置する。標本Sは、3次元空間Dの座標値に基づいて、配置される。
【0040】
次に、線形モデル作成部230は、標本Sの各座標値(回転数、トルク及びNOx)に基づいて、図3(b)に示すような、線形モデルLMを作成する。線形モデルLMは、具体的には、以下の(4)式により算出された値を基にして、形成される。
【数4】

【0041】
ステップST2において、分割領域検索部220は、分割が停止されていない領域の中で、局所残差が最大の領域の検索を行う。詳細には、分割領域検索部220は、例えば、図3(c)、(d)に示す場合には、分割線Lを境に形成される領域T1、T2に属する標本Sと線形モデルLMとの残差aを比較して、残差aが最も大きい領域を選定する。なお、線形モデルLMの作成直後である場合(線形モデルLMの分割が一度も行われていない場合)には、比較対象となる線形モデルLMが存在しないために局所残差(分割された領域毎の残差)が最大の領域の検索は行われない。本ステップにおいて、分割領域検索部220は、分割する領域を選定する。
【0042】
ステップST3において、分割領域判定部221は、ステップST2により決定された領域において、可能な分割方法の判定を行う。つまり、分割領域判定部221は、可能な分割方法において分割を行って線形モデルLMを作成した場合に、領域に属する標本Sに近似した線形モデルLMが作成されるか否かの判定を行う。本判定においては、線形モデルLMの作成に不適当な標本Sの配置が判断される。本実施形態において、領域に属する標本Sの不適当な配置とは、例えば、ほぼ一直線上に標本Sが配置された状態であり、3点の標本Sの場合では距離が近い状態(標本Sにより結ばれる三角形の面積が一定の面積以下の状態)である。なお、この不適当な配置の状態で、線形モデルLMを作成した場合には、標本Sに近似しない急峻な線形モデルLMが作成され、不具合が発生することになる。
【0043】
分割領域判定部221は、具体的には、計算機支援における実験計画の最適化基準であるD最適基準(D−Optimality)を用いて分割の判定を行う。以下の式(5)により行列式を演算することにより、算出される値が閾値以上であるか否かの判定を行う。なお、閾値は、例えば、試験等により、エラーの発生パターンを測定して得た結果により決定される。
【数5】

なお、「Xi」は、領域iの局所行列であり、「T」は、転置行列を表す記号である。
【0044】
(5)式により算出される値が閾値以上である場合には、分割可能であると判定し、ステップST4に移行する。一方、(5)式により算出される値が閾値以下である場合には、分割不可であると判定し、ステップST8に移行する。
【0045】
ステップST4において、分割領域検索部220は、残差が最小となる分割方法を検索する。図3(c)に示す場合には、分割領域検索部220は、領域T1において分割線L3により分割する分割方法と、分割線L4により分割する分割方法のうち、残差が最も小さくなる分割方法を検索する。具体的には、分割により形成される全領域の残差を分割方法毎に比較することにより行う。本実施形態においては、分割線L3により分割する分割方法が残差を最も小さくすることができる。なお、図3(b)、(d)、(f)中に示す「a」は、標本Sと線形モデルLMとの差、つまり残差を線で表わしたものである。
本実施形態において、ステップST3で行われる分割可能性の判定と、ステップST4で行われる分割方法の検索は、実際には並行して行われる。すなわち、各分割方法についてそれぞれ分割可能性と残差を調べ、分割可能な分割方法の中で残差が最小となる分割方法を検索する。全ての分割方法が分割不可能である時はステップST8に移行する。
【0046】
ステップST5において、領域分割部22は、分割領域検索部220により検索された分割方法に従って、分割を行う。図3(c)、(d)に示す場合においては、分割線L3により分割方法が検索されたため、分割線L3による分割方法で、分割を行う(図3(e)参照)。このように、応答曲面モデル作成装置101は、残差が最小になるように分割方法を決定するために、標本Sにより近似する線形モデルLMを作成することができる。
【0047】
ステップST6において、線形モデル作成部230は、分割された各領域に属する標本Sの各座標値に基づいて、線形モデルLMを作成する。
【0048】
ステップST7において、重合部231は、各線形モデルLMの重合を行う。線形モデルLMの重合は、ステップST5で作成された領域毎の線形モデル同士をつなぎ合わせることにより行う。また、線形モデルLMの重合は、隣り合う線形モデルLMの端部を連結することにより行うこともできるが、本実施形態においては、線形モデル同士の重合部分における線形モデルLMの残差を小さくするために、隣り合う線形モデルLMを滑らかに重合するように非線形の面を最終的に形成する。
【0049】
本実施形態において、ステップST6で行われる線形モデルLMの作成と、ステップST7で行われる重合とは、同時に行われる。具体的には、以下の(6−1)式、(6−2)式、(7−1)式、及び(7−2)式を演算することにより、得られる値を用いて(8)式を演算することにより重合された線形モデルLMを作成する。
【0050】
なお、(6−1)式及び(6−2)式は、ステップST7において、重合部231により行われる線形モデル同士を滑らかに重合させるための各領域のウエイト(重み付け)に相当する。また、(7−1)式及び(7−2)式は、ステップST6において、線形モデル作成部230により行われる局所モデル(領域毎に作成される線形モデルLM)の作成に相当する。また、(8)式は、線形モデル作成部230及び重合部231により行われる重合した線形モデルLMの作成に相当する。したがって、本実施形態においては、線形モデルLMの作成と共に、線形モデル同士の重合も同時に行われる。
【0051】
【数6】

【数7】

【数8】

【数9】

なお、「y」は、応答値(本実施形態においては、NOxである。)であり、「exp」は、指数であり、「c」は、領域の中心であり、「x」は、因子値(本実施形態においては、回転数及びトルクである。)であり、「M」は、領域分割数であり、「W」は、線形モデルの係数であり、「μ」は、(6−1)式で定義される値であり、「Φ」は、ベクトルである。
【0052】
【数10】

【数11】

【数12】

なお、「W」は、線形モデルの係数であり、「m」は、領域分割数であり、「R」は、実数を表す記号であり、「y」は、応答値(本実施形態においては、NOxである。)であり、「x」は、因子値(本実施形態においては、回転数及びトルクである。)であり、「on nbd of」は、近傍であり、「c」は、領域iの中心である。
【0053】
また、(7−2)式は、以下の条件下で行われる。
【数13】

【数14】

【数15】

【数16】

【数17】

【0054】
【数18】

【0055】
応答曲面モデル作成装置101は、作成した線形モデルLMに基づいて、さらに分割等を進める。つまり、応答曲面モデル作成装置101は、ステップST2に戻る。本実施形態においては、分割領域検索部220は、分割線L3により分割した場合に、局所残差が最大となる領域を検索する(ステップST2)。そして、当該領域において、分割領域判定部221及び領域分割部22は、分割可能と判定して分割を行う(ステップST3、ステップST4、ステップST5)。また、当該分割により、線形モデル作成部230は、領域毎の線形モデルLMを作成する(ステップST6)。また、重合部231は、線形モデル作成部230により作成された線形モデル群の重合を行う(ステップST7)。
【0056】
そして、さらに、応答曲面モデル作成装置101は、領域分割がされた場合に、領域に属する標本Sが3次元空間Dにおいて、全標本Sについて、線形モデルLMの作成に不適当な配置を判定する(ステップST3)。分割が可能であると判定した場合には、ステップST4からステップST7、そしてステップST2に戻るという流れを再度繰り返す。
【0057】
ステップST3において、各領域が分割不可であると判定した場合には、ステップST8に移行する。
【0058】
ステップST8において、領域分割部22は、ステップST3で分割不可と判定された領域を分割不可領域として分割を停止して、ステップST9に移行する。分割の停止とは、分割された領域により、線形モデルLMを作成しない処理(分割しない領域として確定する処理)を行うことである。
【0059】
ステップST9において、領域分割部22は、全領域が分割停止領域であるか否かを判断する。全領域が分割停止領域であると判断されている場合には、ステップST10に移行する。なお、全領域が分割停止領域であると判断されない場合には、ステップST2に戻り、他の領域及び分割方法により、再度線形モデルLMを分割判定する等のステップST2からステップST8の処理を再度行う。
【0060】
ステップST10において、応答曲面モデル作成装置101は、現行のモデル(線形モデルLM)を応答曲面モデルRMとして採用する(図4(a)、(b)参照)。
【0061】
ステップST11において、出力部3は、作成された応答曲面モデルRMを描画して、ディスプレイ等の表示手段に出力する。
【0062】
このような構成において、応答曲面モデル作成装置101は、入力部1により標本Sを入手することにより、応答曲面モデルRMを作成することができる。この際、分割される領域において配置される標本Sが線形モデルLMの作成に不適当な配置、例えば、3次元空間D上で一直線上に配置されている状態や、3点の標本Sの場合では距離が近い状態(標本Sにより結ばれる三角形の面積が一定の面積以下の状態)において線形モデルLMを作成しないように、分割を停止するために、実際の標本Sの値からかけ離れた線形モデル(標本Sに近似しない線形モデル)を形成するような不具合が生じることがない。その結果、任意の因子に対する応答を算出するモデル化を行うことができる。
【0063】
このように形成される応答曲面モデルRMは、任意の因子値(回転数及びトルク)から応答を把握することができ、エンジンのECU(Engine Control Unit)の設定に供することができる。
【0064】
また、応答曲面モデル作成装置101は、作成された応答曲面モデルRMを描画して、ディスプレイ等の表示手段で表示させることにより、視覚的に応答の特性を把握することができる。
【0065】
以上、本発明に係る応答曲面モデル作成装置101及び応答曲面モデル作成方法の好適な実施形態について説明したが、本発明に係る応答曲面モデル作成装置101及び応答曲面モデル作成方法は上述した実施形態に限定されることなく種々の形態で実施することができる。
【0066】
なお、本実施形態において、因子値は、回転数及びトルクを用い、この因子値に対応する応答値は、NOxを用いたがこれに限られない。因子値は、エンジンに対しての駆動原因であれば良く、例えば、燃料噴射タイミング、EGR率、コモンレール圧等でも良い。また、応答値は、因子値によりエンジンが駆動された結果として算出される駆動結果であれば良く例えば、燃費効率等であっても良い。
【0067】
また、本実施形態において、所定の分割の法則は、領域を等分割するように設定したが、これに限られない。分割可能領域内の因子空間をどの位置で分割するかであって、例えば、X軸とY軸とに囲まれる矩形の因子空間を等分に分割するようにしたり、因子値の散らばりや、応答値の散らばりによって決定したり、様々な方法で分割線の位置を決定することができる。
【0068】
また、本実施形態において、2つの因子要素により3次元空間に応答曲面モデルを作成したが、これに限定されるものではない。2以上の因子を用いて、3次元に限られない多次元の応答曲面モデルを作成することができる。
この際、例えば、3因子の場合には、標本がほぼ同一面上に配置された状態や、領域に属する標本が4点のときは、四面体の体積が一定の閾値以下の場合になった状態を計算機支援における実験計画の最適化基準であるD最適基準により、分割の停止の判定を行うことで、不具合なく応答曲面モデルを作成することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 入力部
21 標本配置部
22 領域分割部
23 モデル作成部
221 分割領域判定部
230 線形モデル作成部
D 3次元空間(空間)
LM 線形モデル
S 標本
RM 応答曲面モデル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象を駆動させる原因となる複数の因子値と、駆動した結果として算出される応答値とからなる座標値である標本が複数個空間上に配置され、当該配置された複数の標本に近似する面となる線形モデルを作成し、前記線形モデルを前記標本の分布に基づいて分割して、当該分割により形成される領域に属する前記標本に基づいて作成される複数の線形モデルからなる応答曲面モデルを作成する応答曲面モデル作成装置であって、
前記標本を入力する入力部と、
前記入力部により入力される前記標本を前記空間上に配置する標本配置部と、
前記領域に属する前記標本の座標値に基づいて、前記領域毎に前記線形モデルを作成する線形モデル作成部と、
前記領域に属する前記標本に基づいて前記線形モデルを分割する領域分割部と、
前記因子値の個数と、分割される前記領域に属する前記標本の配置とに基づいて、当該領域を分割不可と判定する分割領域判定部と、
前記分割領域判定部により全領域において分割不可と判定されたときに、各線形モデルを前記空間上に配置して応答曲面モデルを作成するモデル作成部とを備える応答曲面モデル作成装置。
【請求項2】
前記分割領域判定部による前記分割不可の判定は、(1)式により算出される値が一定の閾値以下の場合には、分割不可とする請求項1記載の応答曲面モデル作成装置。
【数1】

なお、「X」は、領域iの局所行列であり、「T」は、転置行列を表す記号である。
【請求項3】
測定対象を駆動させる原因となる複数の因子値と、駆動した結果として算出される応答値とからなる座標値である標本が複数個空間上に配置され、当該配置された複数の標本に近似する面となる線形モデルを作成し、当該線形モデルに属する前記標本の分布に基づいて、前記線形モデルを分割し、前記線形モデルを分割したことにより形成される領域に属する前記標本に基づいて作成される複数の線形モデルにより形成される応答曲面モデルを作成する応答曲面モデル作成方法であって、
入力された前記標本を前記空間上に配置する標本配置工程と、
前記領域に属する前記標本の座標値に基づいて前記線形モデルを作成する線形モデル作成工程と、
前記標本に基づいて前記線形モデルを分割する領域分割工程と、
前記因子値の個数と、分割された領域に属する標本の配置とに基づいて、分割された前記領域を分割不可と判定する分割領域判定工程と、
全領域において分割不可と判定されたときに、各線形モデルを前記空間上に配置して応答曲面モデルを作成するモデル作成工程とを備える応答曲面モデル作成方法。
【請求項4】
前記分割領域判定工程における前記分割不可の判定は、(2)式により算出される値が一定の閾値以下の場合には、分割不可とする請求項3記載の応答曲面モデル作成方法。
【数2】

なお、「X」は、領域iの局所行列であり、「T」は、転置行列を表す記号である。
【請求項5】
測定対象を駆動させる原因となる複数の因子値と、駆動した結果として算出される応答値とからなる座標値である標本が複数個空間上に配置され、当該配置された複数の標本に近似する面となる線形モデルを作成し、当該線形モデルに属する前記標本の分布に基づいて、前記線形モデルを分割し、前記線形モデルを分割したことにより形成される領域に属する前記標本に基づいて作成される複数の線形モデルにより形成される応答曲面モデルを作成する応答曲面モデル作成プログラムであって、
入力された前記標本を前記空間上に配置する標本配置工程と、
前記領域に属する前記標本の座標値に基づいて前記線形モデルを作成する線形モデル作成工程と、
前記標本に基づいて前記線形モデルを分割する領域分割工程と、
前記因子値の個数と、分割された領域に属する標本とに基づいて、分割された前記領域を分割不可と判定する分割領域判定工程と、
全領域において分割不可と判定されたときに、各線形モデルを前記空間上に配置して応答曲面モデルを作成するモデル作成工程とを備える応答曲面モデル作成プログラム。
【請求項6】
前記分割領域判定工程における前記分割不可の判定は、(3)式により算出される値が一定の閾値以下の場合には、分割不可とする請求項5記載の応答曲面モデル作成プログラム。
【数3】

なお、「X」は、領域iの局所行列であり、「T」は、転置行列を表す記号である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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