説明

快削性セラミックス

【課題】酸化チタンの添加や石膏型の使用に起因する色むらのない快削性セラミックスを提供する。
【解決手段】酸化アルミニウム焼結体で構成される快削性セラミックスにおいて、酸化チタンを0.1〜0.4質量%含み、酸化カルシウムを0.05〜2.0質量%含むようにする。酸化アルミニウム焼結体は、酸化アルミニウム、酸化チタン、及び酸化カルシウムの粉末を混合した混合物のスラリーを用い、所定の吸水性材料で構成された底部11と、非吸水性材料で構成された側壁部12とを備える成形型10を用いた鋳込み成形により該粉末の混合物を成形し、そして、成形された該混合物を焼成することにより形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化アルミニウム焼結体で構成される快削性セラミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ファインセラミックスは、機械的強度、耐熱性、耐食性等に優れており、多様な特性を示すことから、情報通信、精密機械、医療等の各種分野で利用されている。なかでも、酸化アルミニウム焼結体は最もよく用いられている代表的なファインセラミックスである。酸化アルミニウム焼結体については、機械的強度に優れているが難加工のため、加工性を改善するために、従来、種々の試みがなされている。
【0003】
たとえば、特許文献1においては、内部に気孔を有する粒径10μm以上のアルミナ大径粒子と、粒径5μm以下のアルミナ小径粒子とを含有し、開気孔率を0.1%以下とした快削性磁器が提案されている。これによれば、緻密質で、強度を向上させることができるとともに、研削加工する際には、アルミナ大径粒子の気孔からクラックが発生し、脱粒するので、研削抵抗を小さくすることができるとされている。
【0004】
また、特許文献2においては、1〜17体積%の酸化チタンと、99〜83体積%のアルミナとを含有する主成分100重量部に対して、ジルコニアを0.1〜5重量部含有させた非磁性セラミックスが提案されている。これによれば、加工時の変形が小さく、浮上面の平坦度を精度良く制御でき、微細加工が可能で、加工速度が大きく、微細加工面における凹凸も小さく、摺動特性の優れた材料を得ることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−132590号公報
【特許文献2】特開平07−287815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の快削性磁器においては、焼結体の内部に気孔を有するため、焼結体の密度は小さくなり、機械的強度が低下するという問題がある。
【0007】
また、上述の非磁性セラミックスによれば、イオンを照射して微細加工を行うイオンミリングによる場合には良好な加工性を示すが、通常の砥石を用いた研削加工においては、加工性が十分ではない。
【0008】
本発明の目的は、このような従来技術の問題点に鑑み、十分な機械的強度を有しながらも加工性が良好な快削性セラミックスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するため、第1の発明に係る快削性セラミックスは、酸化アルミニウム焼結体であって、酸化チタンを0.1〜0.4質量%含み、酸化カルシウムを0.03〜2.0質量%含むことを特徴とする。
【0010】
これによれば、酸化チタンを0.1〜0.4質量%含有させるようにしたため、酸化チタンを酸化アルミニウムに固溶させ、酸化アルミニウムの粒成長を促し、十分な機械的強度を有しながらも、良好な快削性を有する快削性セラミックスを提供することができる。
【0011】
ただし、酸化アルミニウムに固溶せずに存在するフリーの酸化チタンが焼結体に青色の色むらを生じさせ、酸化アルミニウムの焼結体が有する白色又は乳白色といった色味を損なう場合があることが判明した。
【0012】
そこで、酸化カルシウムを0.03〜2.0質量%含有させることによって、酸化アルミニウムに固溶せずに存在するフリーの酸化チタンが酸化カルシウムと反応し、チタン酸カルシウムを生成させるようにしている。これにより焼結体中のフリーの酸化チタンを除去し、焼結体中のフリーの酸化チタンに起因して快削性セラミックスに生じる色むらの発生を抑制することができる。
【0013】
第2の発明に係る快削性セラミックスは、第1の発明において、XRDのピーク強度により算出される結晶配向度I300/(I300+I104)が0.1〜0.5の範囲内の値であることを特徴とする。
【0014】
結晶配向度I300/(I300+I104)と、快削性セラミックスの加工性とは強く関連しており、該結晶配向度の値が上記範囲内の値であれば、快削性セラミックスの加工性が良好である。
【0015】
第3の発明に係る快削性セラミックスは、第2の発明において、前記快削性セラミックスは、前記酸化アルミニウム、酸化チタン、及び酸化カルシウムの粉末を混合した混合物のスラリーを用い、吸水性材料で構成された底部と、非吸水性材料で構成された側壁部とを備える成形型を用いた鋳込み成形により該粉末の混合物を成形し、そして、成形された該混合物を焼成することにより得られるものであり、前記結晶配向度は、前記鋳込み成形時の着肉方向に垂直な面についてのものであることを特徴とする。
【0016】
鋳込み成形時の着肉方向に垂直な面についての結晶配向度I300/(I300+I104)が上記範囲内の値であれば、快削性セラミックスの加工性が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明で用いることができる鋳込み成形法を示す説明図である。
【図2】本発明に従って得られる快削性セラミックスについて、XRD強度の測定を行う面を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の快削性セラミックスは、酸化チタン(TiO)及び酸化カルシウム(CaO)を含む酸化アルミニウム(Al)焼結体である。酸化チタンの含有量の好ましい範囲は0.1〜0.4質量%であり、より好ましい範囲は0.1〜0.2質量%である。酸化カルシウムの含有量の好ましい範囲は0.03〜2.0質量%であり、より好ましい範囲は0.03〜1.5質量%である。酸化カルシウムの含有量が2.0質量%以上であると、高温特性が劣化するので好ましくない。
【0019】
本発明の快削性セラミックスにおける平均結晶粒径は10〜50μmの範囲内であるのが好ましい。結晶粒を十分に成長させることによって、結晶配向が進み、加工性が高まるが、粒成長が過剰になると、気孔が生じやすくなり、緻密性が損なわれるおそれがあるからである。
【0020】
本発明の快削性セラミックスは、酸化アルミニウム粉末に対し、上記含有量に相当する量の酸化チタン粉末及び酸化カルシウム粉末を添加して混合することによりスラリー状の原料粉末としたものを、鋳込み成形等により成形し、焼成することにより製造される。
【0021】
製造に使用する酸化アルミニウム粉末は、高純度のものが好ましい。すなわちその純度は90%以上が好ましく、99%以上がより好ましい。酸化アルミニウム粉末の粒径は0.5μm以下が好ましい。より好ましい範囲は0.1〜0.5μmである。
【0022】
添加する酸化チタン粉末は、高純度のものが好ましい。すなわちその純度は、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましい。添加する酸化チタン粉末の粒径は、0.5μm以下が好ましく、0.03μm以下がより好ましい。このような酸化チタン粉末を用いることにより、良好な結晶配向性を有し、加工性に優れた酸化アルミニウム焼結体を得ることができる。
【0023】
なお、ここでは酸化チタンを含有する快削性セラミックスを得るために、酸化チタン粉末を添加するようにしているが、これに限定されることはなく、大気中での焼結後に酸化物を生成する塩化物や、有機チタン化合物等の形態のチタン化合物を添加するようにしてもよい。
【0024】
ただし、酸化チタン粉末の添加量を多くするほど酸化アルミニウムに固溶せずに存在するフリーの酸化チタンに起因する青色の色むらが生じ、酸化アルミニウム焼結体が有する白色又は乳白色といった色味を損なう場合があるので、これを防止するために、上述のように酸化カルシウムを添加するようにしている。
【0025】
添加する酸化カルシウム粉末は白色度が高いもの、たとえば白色度が90%以上のものが好ましい。また、純度は90%以上が好ましい。粒径は1μm以下が好ましい。
【0026】
なお、ここでは酸化カルシウム粉末を添加するようにしているが、これに限定されることなく、大気中での焼結後に酸化物を生成する炭酸塩や硝酸塩などの形態のカルシウム化合物を添加するようにしてもよい。
【0027】
酸化アルミニウム粉末、酸化チタン粉末、及び酸化カルシウム粉末の混合は、ボールミル混合等の公知の方法を用いて行うことができる。その際に適宜、分散剤やバインダ等が加えられ、原料粉末が作成される。
【0028】
原料粉末の成形は、一軸プレス成形、CIP成形、湿式成形等の種々の成形方法を用いて行うことができる。ただし、加圧鋳込みや廃泥鋳込み等の鋳込み成形を用いるのが好ましい。その場合、原料粉末のスラリーを作成する際には、十分に撹拌して混合するのが好ましい。たとえば、混合時間を18時間以上とするのが好ましい。十分に混合しないと、各成分の分散が均一であるスラリーを得ることが困難となるからである。
【0029】
図1は原料粉末の成形に用いる鋳込み成形法を示す。同図(a)に示すように、この鋳込み成形法においては、成形型10が用いられる。成形型10は、石膏からなる吸水性材料で構成された底部11と、硬質プラスチックからなる非吸水性材料で構成された側壁部12とを備える。図中の13は、底部11を構成する吸水性材料を真空吸引するために底部11の下部に設けられた溝である。溝13を真空吸引することにより、底部11による吸水作用が促進されるようになっている。
【0030】
同図(b)に示すように、成形型10に対し、原料粉末を分散させたスラリー14が注型されると、底部11による吸水作用により、図中の矢印Aで示されるように、着肉方向が底部11に向かう一定方向となって、原料粉末が底部13上に着肉する。これにより、同図(c)のような、着肉層としての成形体15が得られる。このような鋳込み成形法により得られた成形体15を焼成することにより、快削性セラミックスが得られる。
【0031】
成形体15の焼成は、大気、真空、不活性ガス等の種々の雰囲気の中で、常圧で焼成することが好ましい。なかでも常圧の大気雰囲気が最も好適である。焼成雰囲気がカーボンやCOなどの還元能を有する物質が含まれる還元雰囲気である場合は、焼結体の青色の色むらが顕著になる場合がある。焼成は、例えば1500〜1700℃の範囲の温度で行われる。焼成温度としては、得られる焼結体の平均結晶粒径が10μm以上となり、十分に緻密化するような温度が望ましい。
【0032】
得られた快削性セラミックスについては、XRD(X線回折)強度を測定し、結晶配向度I300/(I300+I104)を求めることにより、その物性の一部を特定することができきる。すなわち、この結晶配向度が0.1〜0.5の範囲内にあるものは研削抵抗が低く、加工性に優れている。
【0033】
[実施例]
平均粒子径0.5μm、純度99.5%の酸化アルミニウム粉末、平均粒子径0.02μm、純度99.9%の酸化チタン粉末、及び平均粒子径0.8μm、純度95%の酸化カルシウム粉末を混合して原料粉末とし、これを成形して焼成することにより、快削性セラミックスを得た。各粉末材料の混合は、任意量のΦ10mmのアルミナボールを入れた樹脂ポットを用いて、18時間混合し、スラリー化することにより行った。
【0034】
ただし、原料粉末における酸化アルミニウム、酸化チタン、及び酸化カルシウムの混合比を質量比でX:Y:Zとし、X+Y+Z=100とすれば、この混合比が(99.87〜97.6):(0.1〜0.4):(0.03〜2.0)の範囲に含まれる複数の混合比、すなわち表1の実施例1〜5における「混合比」の欄で示される各混合比である場合について、快削性セラミックスを得た。なお、不可避的に含まれる不純物が存在するので、X+Y+Z=100とはならない場合もある。原料粉末の成形は、図1の鋳込み成形法により行った。成形体の焼成は、常圧大気中、昇温速度50℃/hrで1600℃まで加熱し、3時間保持した後、自然冷却することによって行った。
【0035】
次に、得られた各混合比の快削性セラミックスについて、色むらの有無を調べた。色むらの有無は、酸化アルミニウム焼結体が本来有している白色又は乳白色に対し青色の色むらが生じていないかどうかを目視観察することにより行った。この結果を表1の実施例1〜5における「色むらの有無」の欄に示す。いずれの混合比の快削性セラミックスについても、色むらは認められなかった。
【0036】
次に、図2に示されるように、得られた各混合比の快削性セラミックス20について、面21におけるXRD強度の測定を行い、結晶配向度I300/(I300+I104)を求めた。面21は、図1の鋳込み成形法による矢印Aで示される着肉方向に垂直な面である。XRD強度の測定は、鏡面研磨した焼結体表面を用い、リガク社製X線回折装置MultiFlexを使用し、CuKα線源、加速電圧40kV、40mAで行った。
【0037】
この結果を表1の実施例1〜5における「結晶配向度」の欄に示す。この結果が示すように、結晶配向度I300/(I300+I104)は0.1〜0.5の範囲であった。この範囲であれば、快削性セラミックス20は加工性に優れていることがわかっている。
【0038】
[比較例]
原料粉末における酸化アルミニウム、酸化チタン、及び酸化カルシウムの混合比を、質量比で(99.87〜97.6):(0.1〜0.4):(0.03〜2.0)の範囲以外の複数の混合比、すなわち表1の比較例1〜3における「混合比」の欄で示される各混合比とした以外は、上述実施例の場合と同一の条件で、各混合比についての快削性セラミックスを取得した。
【0039】
次に、取得した各酸化アルミニウム焼結体について、上述実施例の場合と同様の方法により、色むらの有無の調査、結晶配向度の取得を行った。この結果を表1の比較例1〜3における「色むらの有無」、「結晶配向度」の欄に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1の結果を総合的に考慮すると、酸化チタンの含有量の好ましい範囲は0.1〜0.4質量%であり、より好ましい範囲は0.1〜0.2質量%であることがわかる。また、酸化カルシウムの含有量の好ましい範囲は0.03〜2.0質量%であり、より好ましい範囲は0.03〜1.5質量%であることがわかる。また、これらの好ましい範囲内であれば、結晶配向度は加工性の点で好ましい範囲0.1〜0.5にあり、さらにはより好ましい範囲0.1〜0.45にあることがわる。
【符号の説明】
【0042】
10…成形型、11…底部、12…側壁部、13…溝、14…スラリー、15…成形体、20…快削性セラミックス、21…面、22…面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化アルミニウム焼結体であって、
酸化チタンを0.1〜0.4質量%含み、
酸化カルシウムを0.03〜2.0質量%含むことを特徴とする快削性セラミックス。
【請求項2】
XRDのピーク強度により算出される結晶配向度I300/(I300+I104)が0.1〜0.5であることを特徴とする請求項1に記載の快削性セラミックス。
【請求項3】
前記快削性セラミックスは、前記酸化アルミニウム、酸化チタン、及び酸化カルシウムの粉末を混合した混合物のスラリーを用い、吸水性材料で構成された底部と、非吸水性材料で構成された側壁部とを備える成形型を用いた鋳込み成形により該粉末の混合物を成形し、そして、成形された該混合物を焼成することにより得られるものであり、
前記結晶配向度は、前記鋳込み成形時の着肉方向に垂直な面についてのものであることを特徴とする請求項2に記載の快削性セラミックス。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−66949(P2012−66949A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211051(P2010−211051)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【Fターム(参考)】