急性冠症候群の処置および予防のための医薬製剤、方法および投与計画
本発明は、急性冠症候群を処置および予防するための方法および製剤を提供する。本発明の方法は、動脈硬化性プラークを減少および安定化するための、アポリポタンパク質A−I Milano:リン脂質複合体の安全かつ有効な用量を提供する。アポA−I Milano:リン脂質複合体の医薬製剤もまた提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、急性冠症候群を処置または予防するための新規な製剤および方法を提供する。好ましい実施形態において、製剤は、特定のpH、重量オスモル濃度および純度を有する単一の単位投薬形態である。好ましい方法において、製剤は、投与あたり約1mg/kg〜約100mg/kgの用量範囲で、週に一度、月に一度または年に一度投与される。さらに、用量および投与計画、さらにその用量または投与計画が使用されることを意図される特定の疾患が開示される。製剤および方法は、アポリポタンパク質A−I Milano:リン脂質複合体を使用する。
【背景技術】
【0002】
心筋梗塞の管理および処置は、20世紀の前半から劇的に変化しており、安静と観察の時代から、血行動態モニタリングおよびバルーンカテーテルを含む技術に重点を置き、血栓溶解療法に対して関心が高まるまでに進歩している。(AntmanおよびBraunwald,「Acute Miocardial Infarction」Heart Disease,A Textbook of Cardiovascular Medicine,第6版、第2巻、Braunwaldら編、2001,W.B.Saunders Company,Philadelphia)。心循環器疾患の処置に対する治療アプローチは、根底にある病理のより深い理解と共にこの100年で大いに発展してきた。
【0003】
ほとんど全ての心筋梗塞は、一般的に冠状動脈血栓症を併発した冠状動脈硬化症の結果として生じる。ゆっくりと蓄積するプラークは、側副血管の発達に起因して無症候性であり得る。しかし、動脈硬化性プラーク、特に脂質が多い動脈硬化性プラークは、突然のプラーク破綻を起こす傾向がある。プラーク破綻および付随する内皮損傷は、トロンボキサンA2、セロトニン、アデノシン二リン酸、トロンビン、血小板活性化因子、組織因子および酸素由来フリーラジカルのようなメディエーターの放出を引き起こす。これらのメディエーターは、血小板凝集を促進し、そして機械的閉塞がしばしば血栓形成をもたらし、これが血流および酸素供給を妨害する。心筋の酸素供給の持続する重篤な妨害は、急性心筋梗塞をもたらし得る(Rioufolら,2002,Circulation 106:804,Timmis,2003,Heart 89:1268−72を参照のこと)。
【0004】
アテローム性動脈硬化症の薬物療法の主力は、治療の終点としてLDLまたは「悪玉コレステロール」を低下させることに主に集中することにより動脈硬化性プラークの発達を防止するかまたは遅らせるための長期治療であった。例えばスタチン療法は、心臓血管の健康状態の改善に大いに寄与してきた;しかし、横紋筋融解のような副作用が依然として障害となっている。さらに、スタチンは、急性の状況では、例えば虚血性発作の間に脆弱で不安定な動脈硬化性プラークを減少させることにほとんど機能しない。急性処置は、(tPAのような)血栓溶解薬ならびに経皮経管冠動脈形成術(PTCA)および冠動脈バイパスグラフト(CABG)のような外科的介入に大部分依存していた。血栓溶解薬は、閉塞している血栓を減少させるかまたは排除することによる緩和をもたらすが、それらは根底にある病理を変更することはない。PTCAのような介入は、それ自体危険性を有しており、そしてしばしば急性状態にある患者には不適切である。それゆえ現在の薬理療法は、一旦不安定なプラークが危険性として現れた場合には患者にほとんど役立たない(NewtonおよびKrause 2002,Atherosclerosis S3:31−38を参照のこと)。
【0005】
HDL療法は、異常脂質血症およびアテローム性動脈硬化症のための新しい処置パラダイムとして浮上している。すなわち、アポリポタンパク質A−I Milano(アポA−I Milano)は、このアポリポタンパク質の変異形のキャリアが低いHDL(「善玉コレステロール」)レベルおよび心循環器疾患の減少した危険性を有するという矛盾した発見に起因して興味を持たれてきた。(Franceschiniら,1980,J.Clin.Invest.66:892−900,Weisgraberら,1983,J.Biol.Chem.258:2508−2513,Franceschiniら,1985,Atherosclerosis 58:159−174,Franceschiniら,1987,Arteriosclerosis 7:426−435)。アポA−I Milanoホモダイマーは、コレステロールを与えられたウサギにおける内膜肥厚を低減することが見いだされた(Ameliら,1994,Circulation,90:1935−41およびSomaら,1995,Cir.Res.76:405−11)。アポE欠損マウスにおいて、アテローム性動脈硬化部は、複数回の低用量と単回の高用量のアポA−I Milano:脂質複合体の両方により減少した(Shahら,1998,Circulation 97:780−85およびShahら,2001,Circulation 103:3047−50)。ウサギにおけるプラーク退縮は、ウサギ1匹あたり500mgのタンパク質の用量と1000mgのタンパク質の用量でアポA−I Milano:リン脂質複合体を単回局所注入することでも実証された。(Chiesaら,2002,Cir.Res.90:974−80)。ウサギモデルにおいて誘発された病巣は、大部分がマクロファージからなり、そしてヒトにおけるより複雑な病巣の典型ではない。従って、類似の処置がヒトのアテローム性動脈硬化症において見られる複雑なプラークに対して有効であるかどうかは不確定である。(Liら,1999,Arterioscler Thromb Vasc Biol 19:378−383およびShahら,2001,Circulation 103:3047−50)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
心筋梗塞の病態生理学の改善された理解およびHDL療法における進歩にもかかわらず、ヒトにおけるアポA−I MilanoまたはアポA−I Milano:脂質複合体の予防的使用および治療的使用のための安全かつ有効な用量、投与計画および医薬製剤が未だ望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アテローム性動脈硬化症、急性冠症候群、虚血、虚血性再潅流傷害、狭心症および心筋梗塞を含む心循環器疾患または関連する障害の処置および予防、ならびに動脈硬化性プラークの低減または安定化、閉塞した血管におけるプラークの低減およびコレステロール流出の促進のための、方法および医薬製剤を提供する。それ故本発明は、アテローム性動脈硬化症、急性冠症候群、虚血性再潅流傷害、狭心症および心筋梗塞を含む心循環器疾患または関連する障害の処置または予防、ならびに動脈硬化性プラークの低減または安定化、閉塞した血管におけるプラークの低減およびコレステロール流出の促進のための、アポA−I Milano:リン脂質複合体およびアポA−I Milano:リン脂質複合体の医薬製剤の使用のための用量および投与計画を包含する。本明細書中に記載される方法および製剤は、未処置のままにされるかまたは従来の方法により処置された場合には破綻し、そして急性冠症候群を含む虚血性事象をもたらし得る不安定な動脈硬化性プラークの迅速な減少または安定化をもたらす。
【0008】
出願人らは、アポA−I Milano、好ましくはアポA−I Milano:リン脂質複合体のような外因的に産生されたHDLミメティックが、心循環器疾患もしくは関連する障害(このような障害としては、アテローム性動脈硬化症,急性冠症候群、虚血、虚血性再潅流傷害、狭心症および心筋梗塞が挙げられるがこれらに限定されない)の処置および予防、または狭窄もしくは閉塞した血管における動脈硬化性プラークの低減もしくは安定化のための独特のアプローチを提供することを解明した。本発明の用量および投与計画を含む方法ならびに医薬製剤は、コレステロール流出および動脈硬化性プラークからの移動を迅速に促進する安全で有効な非外科的処置を提供する。迅速なコレステロール流出の促進は、1つまたはそれ以上の罹患した血管における粉瘤体積を減少させる。粉瘤(動脈硬化性血管に生じる変性し肥厚した動脈内膜のプラークの塊)の減少は、より多い血流を可能にし、そして不安定狭心症、心筋梗塞および急性冠症候群を含む虚血の危険性を低減する。
【0009】
急性冠症候群、アテローム性動脈硬化症、狭心症、心筋梗塞、および虚血性再潅流傷害を含む心循環器疾患の処置および予防のためのアポA−I Mの医薬製剤および特定の用量を提供する本発明の以前には、従来のアテローム性動脈硬化症の治療は、治療の終点としてLDLまたは「悪玉コレステロール」を低下させることに集中していた。これらの従来のLDL療法、例えばスタチンを用いる処置は、LDL血清レベルが被験体において減少するまで何ヶ月もの処置を要することがある。急性または新たに生じる心臓血管障害において、従来の治療は、経皮経管冠動脈形成術(PTCA)および冠動脈バイパスグラフト(CABG)のような外科的介入に大部分依存していた。しかし、外科的介入は、緊急事態にある一部の患者、特に全身の健康状態が不良の患者にはしばしば禁忌である。さらに、これらの従来の方法は、急性状態において有効な非外科的薬物治療を提供しない。その上、従来の治療は、特に循環系における心循環器疾患および急性冠症候群の症状を処置することに集中していた。上に記載されそして以下に詳述される従来の治療は、LDLコレステロールを低減すること、血栓形成を低減すること、および血圧を低下させることに集中しており、これらは心循環器疾患および急性冠症候群の根底にある原因、血管壁内のプラークの安定化、減少および改善を処置も予防もしない。
【0010】
本明細書中に提供される用量および投与スケジュールを含む医薬製剤および方法は、安全かつ有効であり、そして動脈硬化性プラークを低減または安定化するように迅速に作用する。本明細書中に記載される用量は、迅速に作用し、コレステロール移動を促進することにより、早ければ数週間で動脈硬化性プラークの減少をもたらす。特定の実施態様において、本明細書中に記載される用量を、急性冠症候群または虚血もしくは血管閉塞に関連した障害に罹患した被験体を処置するために使用することができる。特定の実施態様において、本明細書中に記載される用量を、ひとたび動脈硬化性プラークが被験体に危険をもたらした場合に疾患の進行を防止するために使用することができる。防止される疾患の進行は、血管のさらなる閉塞であり得、または急性冠症候群および虚血性再潅流傷害を含む虚血性状態をもたらし得る不安定な動脈硬化性プラークの破綻を防止することであり得る。
【0011】
本明細書中に提供される方法および医薬製剤は、とても効果的であるので、45mg/kgの単一用量が、動脈硬化性プラークからのコレステロール移動を刺激することができる。特定の実施態様において、単一高用量、例えば、約45mg/kgのアポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤を、被験体に投与することができる。特定の実施態様において、1つまたはそれ以上の高用量のアポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤を、被験体に投与し、続いて1つまたはそれ以上の同じ用量(45mg/kg)またはより低い用量、例えば、約1mg/kg、約3mg/kg、約5mg/kg、約10mg/kgまたは約15mg/kgを投与することができる。例えば、被験体は、45mg/kgの2用量を投与され、次いで10mg/kgのさらなる用量を投与されてもよい。さらに、低用量に続いて高用量という反対の投与計画を使用してもよい。当然のことながら、急性疾患状態については、より高い用量が最初に好ましく使用される。特定の実施態様において、被験体は、数週間、週に一度アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤で処置され得、次いで断続的に、例えば年に2回、年に1回または2年ごとに、開通した非閉塞血管を維持し、そしてプラーク破綻および不利な血管事象の危険性を低減する必要に応じて処置され得る。
【0012】
特定の実施態様において、急性冠症候群の処置または予防のための方法は、アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤をほぼ毎日、ほぼ1日ごと、ほぼ3日ごと、ほぼ4日ごと、ほぼ5日ごと、ほぼ6日ごと、ほぼ7日ごと、ほぼ8〜10日ごと、またはほぼ11〜14日ごとに、その処置または予防を必要とする被験体に投与することからなる。好ましい実施態様において、アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤を、ほぼ7日ごとに投与することができる。特定の実施態様において、アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤の投与は、1回の投与であり得る。特定の実施態様において、投与は、約1週間、約2週間、約3週間、約4週間、約5週間、約6週間、約7〜12週間、約13〜24週間または約25〜52週間、続けることができる。特定の好ましい実施態様において、アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤の投与は、約5週間ほぼ7日ごとである。特定の実施態様において、投与は、例えば約5週間後に断続的であり得る。例えば、被験体は、約5週間週に1回処置され得、次いで翌年の間に約3〜約4回処置され得る。特定の実施態様において、本明細書中に記載される医薬製剤は、血管の開通性を維持するために断続的に被験体に投与され得る。例えば、約15mg/kgの用量が、約7週間ほぼ10日ごとに医薬製剤投与に投与され得、次いで、例えば約26週後または約52週後に処置され得る。従来の薬物療法および外科的介入と組み合わせた投与スケジュールおよび方法の使用を含む他の実施態様は、本明細書で以下に記載される。
【0013】
本発明は、急性冠症候群および虚血性再潅流傷害の処置または予防のためのアポリポタンパク質A−I Milano(アポA−I Milano)の投与のための医薬製剤を提供する。好ましい実施態様において、アポA−I Milanoは、本明細書中に記載される方法のために脂質と複合体化される。例えば、脂質は、リン脂質、好ましくは1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスファチジルコリンまたはPOPCとも呼ばれる)であり得る。最も好ましい実施態様において、アポA−I Milano:POPC複合体は、医薬製剤であり得る。別の好ましい実施態様において、アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤は、約1mgのタンパク質/kg〜約100mgのタンパク質/kgの用量でそれを必要とする被験体に投与され得る。
【0014】
特定の実施態様において、方法は、急性冠症候群の処置のためにアポA−I Milano:リン脂質複合体またはその注射可能もしくは液体の医薬製剤の用量を投与することを含み得る。好ましい実施態様において、アポA−I M:リン脂質複合体またはその医薬製剤は、約1mg(タンパク質)/kg〜約100mg(タンパク質)/kgの用量でそれを必要とする被験体に投与され得る。特定の実施態様において、方法は、静脈内注入としてのアポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤の投与による急性冠症候群の処置または予防を含み得る。特定の実施態様において、方法は、管注(intravenous push infusion)としての投与を含み得る。管注により、アポA−I Milano:リン脂質またはその医薬製剤が、5分まで、例えば2〜5分のような短時間にわたって静脈内に投与されることを意味する。特定の実施態様において、アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤の投与は、持続性静脈内注入を含み得る。持続性静脈内注入により、アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤が、2〜5分より長い時間、例えば約30分〜約3時間にわたって連続的に投与されることを意味する。持続性静脈内注入は、輸液ポンプまたは輸液用器具を用いて投与することができる。特定の実施態様において、アポA−I Milano:リン脂質またはその医薬製剤の投与は、アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤の持続性静脈内注入と管注(「ボーラス投与」)との併用であり得る。ボーラス投与は、持続性注入の前、後、または間に投与され得る。特定の実施態様において、アポA−I Milanoもしくは脂質複合体またはその医薬製剤の投与は、心循環器疾患、付随するかもしくは合併している疾患を処置もしくは予防するか、症状軽減をもたらす他の薬物と併用することができる。他の薬物の投与は、同時または逐次的であり得る。
【0015】
方法は、本明細書に記載される医薬製剤の静脈内注射を提供する。任意の適切な血管を注射に使用することができ、腕の肘窩における血管のような末梢血管または胸部への中心静脈ラインが挙げられる。好ましい実施態様において、医薬製剤は、被験体の腕の肘窩における橈側皮または肘正中皮血管に注入される。
【0016】
特定の実施態様において、方法は、高用量もしくは低用量またはそれらの組み合わせでのアポA−I Milano:リン脂質複合体の医薬製剤の投与を含み得る。本明細書中以下に記載されるように、短い投与間隔での高用量の医薬製剤は、部分的または完全に閉塞した血管を有する被験体において粉瘤体積を安全かつ効果的に低減することができる。特定の実施態様において、医薬製剤は、閉塞した血管の閉塞物を取り除くためのPTCAのような外科的介入の前、間、または後に投与され得る。特定の実施態様において、1つまたはそれ以上の断続的用量は、以前に閉塞した血管の開通性を維持するために被験体に投与され得る(「維持用量」)。
【0017】
本発明は、虚血性再潅流傷害の処置または予防に対する新規なアプローチ、すなわち、虚血性再潅流の処置について本明細書に記載されるアポA−I Milano複合体の医薬製剤の使用または用量を提供する。この処置に有用な用量は、それを必要とする被験体へ投与される100mg/kgまでのアポA−I Milano:リン脂質複合体の用量を含む。特定の実施態様において、方法は、約1mg/kg〜約100mg/kg(被験体の体重)の用量でアポA−I Milano:リン脂質複合体の医薬組成物を投与することを含み得る。特定の実施態様において、方法は、約10mg/kg〜約50mg/kgの用量でのアポA−I Milano:リン脂質複合体の医薬組成物の投与を含み得る。好ましい実施態様において、方法は、約15mg/kgの特定の用量でのアポA−I Milano:リン脂質複合体の医薬組成物の投与を含み得る。別の好ましい実施態様において、方法は、約45mg/kgの特定の用量でのアポA−I Milano:リン脂質複合体の医薬組成物の投与を含み得る。本発明はまた、好ましくは、単独または45mg/kgの用量と組み合わせた15mg/kgの使用を含む。同様に、45mg/kgの用量は、単独または15mg/kgの用量と組み合わせて虚血性再潅流傷害の処置または予防のために使用することができる。
【0018】
本明細書中で提供される医薬製剤は、被験体への安全な投与を可能にするために適切なpH、重量オスモル濃度、張度、純度および滅菌性のアポA−I Milano:リン脂質複合体を含む。医薬製剤は、単一の1回限りの使用のために製剤され得、または医薬製剤を複数回用量に適するようにする、以下に記載されるような抗菌性補形薬を含有するように製剤され得る。特定の実施態様において、医薬製剤は、凍結または冷蔵することができる滅菌プレフィルドシリンジまたは滅菌プレフィルドバッグであり得る。好ましい実施態様において、アポA−I Milano:脂質複合体は、アポA−I Milano:リン脂質複合体である。より好ましい実施態様において、アポA−I Milano:リン脂質複合体は、アポA−I Milano:POPCである。
【0019】
特定の実施態様において、医薬製剤は、単位用量または使用単位包装であり得る。当業者に公知であるように、単位用量包装は、単一用量の薬物の被験体への送達を提供する。本発明の方法は、例えば、一包装あたり1050mgのアポA−I Milanoタンパク質を含む医薬製剤の単位用量包装を提供する。例えば、1050mgのアポA−I Milanoタンパク質は、70kgの被験体に15mg/kgのアポA−I Milanoを投与する量である。この単位は、例えば滅菌単回使用バイアル、滅菌プレフィルドシリンジ、滅菌プレフィルドバッグ(すなわち、ピギーバック)などであり得る。
【0020】
特定の実施態様において、医薬製剤は、使用単位包装であり得る。当業者に公知であるように、使用単位包装は、医療関連業者による直接販売用にラベルを付けられた便利な規定サイズの患者用に準備された(patient−ready)単位であり得る。使用単位包装は、所定の適応のための典型的な処置間隔および継続期間に必要な量で医薬製剤を含有する。本発明の方法は、例えば、平均的なサイズの成人男性または女性を15mg/kgのアポA−I Milanoタンパク質で5週間週に一度静脈内で処置するのに十分な量でアポA−I Milano:リン脂質複合体を含む医薬製剤の使用単位包装を提供する。それ故、上記のような使用単位包装は、5用量のアポA−I Milano:リン脂質複合体(バイアルまたはプレフィルドシリンジで入手可能)を有するだろう。一実施態様において、使用単位包装は、平均的なサイズの成人男性または女性を6週間週に一度15mg/kgまたは45mg/kgの用量で処理するのに十分な量でアポA−I Milano:リン脂質複合体を含む医薬製剤を含み得る。本明細書中に記載される用量が、被験体の体重に基づくことは当業者に明らかだろう。
【0021】
医薬製剤は、ラベルを付けることができ、そしてその中に含まれる製剤を同定するための添付標示、ならびに医療関連業者および急性冠症候群の処置中の被験体に有用な他の情報を有し得、この情報としては、使用上の注意、用量、投与間隔、継続期間、適応、禁忌、警告、事前注意、取り扱いおよび保管の指示などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0022】
5.1.定義
本明細書中で使用される場合、以下の用語は、以下の意味を有するべきである:
用語「処置する」、「処置すること」、または「処置」とは、疾患、障害および/またはその症状を軽減するかまたは終わらせる方法をいう。
【0023】
用語「治療有効量」とは、処置される状態または障害の症状の1つまたはそれ以上をある程度軽減するのに十分な、アポA−I Milanoもしくは脂質複合体またはその医薬製剤の量をいう。
【0024】
用語「予防する」、「予防すること」、または「予防」とは、被験体が疾患、障害および/またはその症状を患うことを防ぐ方法をいう。特定の実施態様において、用語「予防する」、「予防すること」、または「予防」とは、疾患、障害および/またはその症状を患う危険性を低減する方法をいう。
【0025】
用語「予防有効量」とは、処置される状態または障害の1つまたはそれ以上の症状の予防、開始または再発を生じるのに十分な、アポA−I Milanoもしくは脂質複合体またはその医薬製剤の量をいう。
【0026】
用語「急性冠症候群」とは、不安定狭心症、Q波および非Q波心筋梗塞のような虚血性障害または国際疾病分類第9版(ICD−9)(第10版(ICD−10)に代わる予定)に提供されるような虚血性障害をいう。心筋梗塞は、心電計においてST上昇を伴うかまたは伴わずに現れ得る。
【0027】
用語「虚血」とは、機械的または生物学的に誘導される、例えば、けいれん、血栓症、血液供給の狭窄閉塞(主に動脈の狭窄または途絶)に起因する局所貧血をいう。用語「心筋虚血」とは、通常は冠動脈疾患の結果としての、心筋への血液の不適切な循環をいう。
【0028】
用語「虚血性再潅流」とは、組織への酸素を豊富に含んだ血液の増加した量が回復することをいう。
【0029】
用語「心循環器疾患」とは、心筋梗塞、急性冠症候群、アテローム性動脈硬化症、狭心症、虚血性再潅流傷害および関連する障害のような、心臓、血管および血液循環の疾患をいう。
【0030】
用語「外科的介入」とは、本明細書中で使用される場合、手を使う非薬理学的な方法または手術的な方法をいう。外科的介入は、診断、放射線学的、予防的または処置の目的のためであり得る。
【0031】
用語「不安定狭心症」とは、あごおよび腕に放散し得る胸部の痛みまたは上腹部痛のような、慢性の安定狭心症の症状の頻度、重篤度または持続期間の変化をいう。慢性安定狭心症は、胸部に痛みがあり、この痛みが被験体のあごおよび腕に放散し、これは、運動、食事および/またはストレスにより誘導され、そして症状を生じるのに必要な活動の頻度または重篤度に最近の変化がなくても安静により緩和される。
【0032】
用語「医薬製剤」とは、アポA−I MilanoまたはアポA−I Milano:脂質複合体および適切な希釈剤、担体、賦形剤、または被験体への投与に適切な補形薬を含む組成物をいう。この用語は、以下に記載されるような経口、非経口および局所組成物を含むが、これらに限定されない。
【0033】
用語「約」とは、それが指す名目上の値のプラスマイナス20%の近似を示す相対的な用語をいう。本開示の分野については、このレベルの近似は、その値がより厳密な範囲を要することが特に述べられていなければ適切である。
【0034】
用語「ラベル」とは、物品の直接容器上の文書、印刷物または図形の表示をいい、例えば、薬学的に活性な薬剤を含有するバイアル上に表示された文書である。
【0035】
用語「標示」とは、任意の物品上の全てのラベルおよび他の書面、印刷物もしくは図形、またはその容器もしくは包装のいずれか、またはそのような物品に添付すること、例えば、薬学的に活性な薬剤の容器に添付または付随させた包装挿入物、説明用ビデオテープもしくは説明用DVDをいう。
【0036】
5.2.処置の方法
本発明は、不安定狭心症、ST上昇心筋梗塞および非Q波心筋梗塞を含む急性冠症候群の処置または予防のための方法および製剤を提供する。本明細書に記載される医薬製剤のための安全かつ有効な用量は、急性冠症候群の処置および予防のために出願人らにより決定された。
【0037】
現在の理解に基づいて、臨床所見を再編成した枠組みが浮かび上がってきて、今や急性冠症候群(「ACS」)と呼ばれている。すなわち、急性冠症候群は、不安定狭心症、Q波および非ST上昇心筋梗塞を含み、そして罹患率および特に示された後最初の24時間以内の死亡率の主要な原因である(Schoenhagenら,2000,Circulation 101:598−603)。ACSは、心電計でST上昇を示さない虚血性不快症状である。虚血は、しばしば不安定狭心症、Q波および非Q波心筋梗塞に発展する。(AntmanおよびBraunwald,「Acute Myocardial Infarction」 Heart Disease,A Textbook of Cardiovascular Medicine,第6版,第2巻,Braunwaldら編,2001,W.B.Saunders Company,Philadelphia)。
【0038】
本発明の方法および製剤は、アテローム性動脈硬化症および急性冠症候群の処置に対する独特で有効なアプローチを提供する。本発明の方法において、アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤は、症状の緩和を提供するのではなく、疾患の病態生理学的基盤を逆転させる非外科的療法を提供する。本発明の方法は、アポA−I Milano、アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤の投与を提供し、これはコレステロールの流出を促進し、コレステロール輸送を逆転させ、そして動脈硬化性プラークを減少させるHDL療法を提供する。いかなる理論にも拘束されることなく、アポA−I Milano、アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤は、コレステロール流出を促進し、そしてコレステロール輸送を逆転させ、粉瘤体積を減少させ、そして動脈硬化性プラークを安定化することができる機能的HDLを模倣すると考えられる。
【0039】
本発明は、急性冠症候群の処置のための方法を提供する。好ましい実施態様において、アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤は、以下に記載されるように、約1mg(タンパク質)/kg〜約100mg(タンパク質)/kgの用量、好ましくは1mg(タンパク質)/kg〜50mg(タンパク質)/kgの用量;最も好ましくは15mg/kgまたは45mg/kgの用量で投与することができる。本明細書中で詳細に記載されるように、出願人らは、これらの用量が、安全で有効で、そして急性冠症候群に罹患しているかまたは急性冠症候群の危険性を有する被験体に十分耐えられることを示した。
【0040】
本発明は、急性冠症候群の徴候または症状の緩和または改善を含む急性冠症候群の処置または予防のための方法を提供する。特定の実施態様において、方法は、冠状動脈硬化症の処置または低減を提供する。特定の実施態様において、方法は、罹患した血管からのコレステロールの流出の促進を提供する。特定の実施態様において、方法は、逆コレステロール輸送の促進を提供する。一実施態様において、方法は、罹患した血管における減少した粉瘤体積を提供する。特定の実施態様において、罹患した血管は、冠状動脈である。粉瘤体積は、本明細書に記載されるように、血管内超音波法(IVUS)により決定することができる。特定の実施態様において、方法は、罹患した血管の全プラーク体積の減少を提供する。特定の実施態様において、方法は、罹患した血管における平均最大プラーク厚さの減少を提供する。特定の実施態様において、方法は、平均最大粉瘤厚さの減少を提供する。特定の実施態様において、方法は、最小パーセントプラーク領域におけるプラーク体積の減少を提供する。特定の実施態様において、方法は、最大パーセントプラーク領域における減少を提供する。特定の実施態様において、方法は、罹患した血管における増加した平均冠動脈管腔直径を提供する。特定の実施態様において、本発明の方法および製剤を与えられる被験体は、本発明の方法および製剤を与えられていない被験体と比較して減少した血管造影病変を有し得る。特定の実施態様において、方法は、既存の病変における後退を提供する。特定の実施態様において、方法および医薬製剤は、閉塞した血管の開通の達成または閉塞した血管の開通性の維持を提供する。
【0041】
特定の実施態様において、アポA−I Milano:リン脂質複合体の約15mg/kg〜約45mg/kgの用量は、約2%、約1%または約0.05%の平均パーセント粉瘤体積減少を提供する。特定の実施態様において、アポA−I Milano:リン脂質複合体の約15mg/kg〜約45mg/kgの用量は、約20mm3、約15mm3、約10mm3または約5mm3の粉瘤体積の減少を提供する。特定の実施態様において、アポA−I Milano:リン脂質複合体の約15mg/kg〜約45mg/kgの用量は、平均最大粉瘤厚さの約−0.039mm〜−0.044mmの減少を提供する。
【0042】
一実施形態において、方法は、急性冠症候群の徴候または症状を有する被験体における急性冠症候群の処置を提供する。一実施形態において、被験体は、心筋虚血の徴候および/または症状、例えば、胸部、あご、腕または上胃部における痛み、動悸、息切れ、発汗、吐き気および/または嘔吐、を有し得る。別の実施態様において、方法は、ST上昇、反転のようなT波変化のような心電図(「ECG」または「EKG」)における変化、クレアチンキナーゼの割合、トロポニンIまたはC反応性タンパク質の増加と共に、急性冠症候群の徴候および症状を示す被験体において急性冠症候群の処置を提供する。
【0043】
一実施形態において、方法は、急性冠症候群を発症する危険性がある被験体における急性冠症候群の予防を提供する。危険性がある被験体としては、様々な年齢(例えば、18〜24歳、約25歳、約30歳、約40歳、約50歳、約60歳、約70歳、約80歳または約90歳)の被験体、心循環器疾患の家族歴があるかもしくは心循環器疾患に対する遺伝性素因を有する被験体、糖尿病、高血圧、多血管疾患もしくは左主幹疾患を有する被験体、または以前に心筋梗塞を有していた被験体を挙げることができる。
【0044】
本発明の製剤の実際の用量が、被験体の身長、体重、年齢、疾病の重篤度、合併症の存在などによって変動し得ることは、当業者に理解される。例えば、腎機能障害または肝機能障害を有する高齢の被験体を、約1mg/kgの用量より低い範囲(例えば、0.8mg/kgまたは0.9mg/kg)にある用量のアポA−I Milano:脂質複合体で処置することができる。良好な腎機能および肝機能を有し肥満体である重篤な急性冠症候群を有する被験体を、例えば、約100mg/kgより高い範囲の用量(例えば、120mg/kg、119mg/kg、118mg/kg、115mg/kgなど)である用量のアポA−I Milano:脂質複合体で処置することができる。本明細書に記載される製剤の投与量は、意図された目的を達成するのに有効であることが示された。これらの用量は、有益なプロファイルに対して許容しうる危険性の有効用量を含む範囲の循環濃度を達成する。
【0045】
本発明は、そのような処置を必要とする被験体において急性冠症候群の処置をするために十分な投薬スケジュールを用いて急性冠症候群を処置または予防する方法を提供する。特定の実施態様において、以下に記載されるように、アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤を、ほぼ毎日、ほぼ1日おき、ほぼ3日ごと、ほぼ4日ごと、ほぼ5日ごと、ほぼ6日ごと、ほぼ7日ごと、ほぼ8〜10日ごと、またはほぼ11〜14日ごとに投与することができる。この期間は、投与間隔または間隔とも呼ばれる。特定の実施態様において、投与間隔は、1ヶ月に1回、6ヶ月に1回、12ヶ月に1回、18ヶ月に1回、または24ヶ月に1回であり得る。好ましい実施態様において、アポA−I Milano、脂質複合体またはその医薬製剤を、ほぼ7日ごとに投与することができる。特定の実施態様において、アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤の投与は、1回の投与であり得る。特定の実施態様において、投与は、約1週間、約2週間、約3週間、約4週間、約5週間、約6週間、約7〜12週間、約13〜24週間、約52週間継続し得るか、または被験体の寿命の間継続し得る。この期間は、投薬継続期間、処置継続期間または継続期間とも呼ばれる。それ故、投薬スケジュールは、例えば、約6週間ほぼ7日に1回投与されるアポA−I Milano:リン脂質複合体の医薬製剤であり得る。特定の実施態様において、投与間隔は、約52週後断続的に継続することができる。例えば、被験体を、約52週間週に1回処置し、次いで翌年の間に約3〜約4回処置し得る。特定の好ましい実施態様において、アポA−I Milano:リン脂質複合体を含む医薬製剤の投与は、約5週間の間ほぼ7日ごとである。様々な投与間隔および継続期間を使用する他の投薬スケジュールは、本明細書に記載される本発明の範囲内である。
【0046】
アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤の用量は、処置の継続期間にわたって変動し得る。例えば、被験体を、3週間週に1回、アポA−I Milano:リン脂質複合体の医薬製剤45mg/kgで処置し、次いで、アポA−I Milano:リン脂質複合体の医薬製剤15mg/kgで被験体の寿命の間4ヶ月ごとに1回または1年に1回処置し得る。このような断続的用量は、血管の開通性を維持するために投与され得る。減少した粉瘤体積および増加した血管管腔を維持するための、被験体の寿命の間の断続的用量は、本発明の範囲内である。
【0047】
本発明の方法および製剤は、外科的介入と共に、すなわち、手術の前、間、または後に使用され得る。外科的介入としては、血管形成、血管内超音波法、冠動脈バイパスグラフト(CABG)、冠動脈造影、血管ステントの移植、経皮冠動脈インターベンション(PCI)および/またはプラークの安定化を挙げることができる。特定の実施態様において、方法は、閉塞した血管を広げるため、または血管における動脈硬化性プラークを減少させるために、外科的介入の前または後のアポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤の投与を提供する。外科的介入とは、障害または状態を予防し、または処置するための診断、画像化(放射線学)のために使用される、手を使う非薬理学的または手術的な方法をいう。例えば、血管内超音波法(IVUS)および冠動脈造影は、プラーク量の定量的評価を提供できる手段であり(診断目的)、血管造影は、血管の画像を提供でき(放射学的目的)、そして血管形成は、閉塞した血管を広げることができる(処置目的)。本明細書で使用される場合、全て外科的介入に包含される。
【0048】
5.3.アポリポタンパク質A−I Milano
一局面において、本発明は、アポA−I Milanoを含む製剤を投与することによる、急性冠症候群からの傷害の処置、低減または予防のための方法および製剤を提供する。特定の実施態様において、アポA−I Milano(アポA−I Milano)を、脂質と複合体化することができる。
【0049】
ヒトアポA−I Milanoは、アポA−Iの天然の変異体である(Weisgraberら 1980,J.Clin.Invest.66:901 907)。アポA−I Milanoにおいて、アミノ酸アルギニン(Arg173)は、アミノ酸システイン(Cys173)と置き換えられている。アポA−I Milanoは、ポリペプチド鎖あたり1つのシステイン残基を含有するので、モノマー形態、ホモダイマー形態、またはヘテロダイマー形態で存在し得る。(米国特許第5,876,968号、全て参照により本明細書に加入される)。これらの形態は、化学的に交換可能であり、そして用語アポA−I Milanoは、これらの形態間を区別しない。DNAレベルでは、変異体形態は、遺伝子配列におけるC−T置換の結果として生じ、すなわち、コドンCGCがTGCに変化し、アミノ酸173位においてアルギニン(Arg)の代わりにシステイン(Cys)の翻訳を可能にする。
【0050】
特定の実施態様において、アポA−I Milanoは、変異体または保存的に置換されたアポA−I Milanoであり得る。保存的置換により、アポA−I Milanoの特定のアミノ酸残基が、タンパク質の活性に有意に有害な影響を及ぼすことなく他のアミノ酸残基と置き換えられ得ることを意味する。それ故、その構造中の少なくとも1つの規定されたアミノ酸残基が別のアミノ酸残基と置換されているアポA−I Milanoの変更または置換された形態もまた、本発明に包含される。保存的アミノ酸置換を決定する目的のために、アミノ酸側鎖の物理−化学的特徴に主に依存して、2つの主なカテゴリー−親水性および疎水性−にアミノ酸を簡単に分類することができる。これらの2つの主なカテゴリーをさらに、アミノ酸側鎖の特徴をより明確に規定するサブカテゴリーに分類することができる。例えば、親水性アミノ酸のクラスは、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸および極性アミノ酸にさらに細分することができる。疎水性アミノ酸のクラスは、非極性アミノ酸および芳香族アミノ酸にさらに細分することができる。構造(I)を規定するアミノ酸の種々のカテゴリーの定義は、以下のとおりである:
「親水性アミノ酸」とは、Eisenbergら,1984,J.Mol.Biol.179:125−142の正規化コンセンサス疎水性基準に従って、0より低い疎水性を示すアミノ酸をいう。遺伝的にコードされる親水性アミノ酸は、Thr(T)、Ser(S)、His(H)、Glu(E)、Asn(N)、Gln(Q)、Asp(D)、Lys(K)およびArg(R)を含む。
【0051】
「酸性アミノ酸」とは、7未満の側鎖pK値を有する親水性アミノ酸をいう。酸性アミノ酸は、水素イオンの損失に起因して生理学的pHでは負に荷電した側鎖を典型的に有する。遺伝的にコードされる酸性アミノ酸は、Glu(E)およびAsp(D)を含む。
【0052】
「塩基性アミノ酸」とは、7より大きい側鎖pK値を有する親水性アミノ酸をいう。塩基性アミノ酸は、ヒドロニウムイオンとの結合に起因して生理学的pHでは正に荷電した側鎖を典型的に有する。遺伝的にコードされる塩基性アミノ酸はHis(H)、Arg(R)およびLys(K)を含む。
【0053】
「極性アミノ酸」とは、生理学的pHでは荷電していないが、2個の原子により共有されている電子対が、その原子のうちの一方により近く保持されている少なくとも1つの結合を有する側鎖を有する親水性アミノ酸をいう。遺伝的にコードされる極性アミノ酸は、Asn(N)、Gln(Q)、Ser(S)およびThr(T)を含む。
【0054】
「疎水性アミノ酸」とは、Eisenberg,1984,J.Mol.Biol.179:125−142の正規化コンセンサス疎水性基準に従って、0より大きい疎水性を示すアミノ酸をいう。遺伝的にコードされる疎水性アミノ酸は、Pro(P)、Ile(I)、Phe(F)、Val(V)、Leu(L)、Trp(W)、Met(M)、Ala(A)、Gly(G)およびTyr(Y)を含む。
【0055】
「芳香族アミノ酸」とは、少なくとも1つの芳香環または複素芳香環を有する側鎖を有する疎水性アミノ酸をいう。芳香環または複素芳香環は、−OH、−SH、−CN、−F、−Cl、−Br、−I、−NO2、−NO、−NH2、−NHR、−NRR、−C(O)R、−C(O)OH、−C(O)OR、−C(O)NH2、−C(O)NHR、−C(O)NRRなどのような1つまたはそれ以上の置換基を含み得、ここで各Rは独立して、(C1−C6)アルキル、置換(C1−C6)アルキル、(C1−C6)アルケニル、置換(C1−C6)アルケニル,(C1−C6)アルキニル、置換(C1−C6)アルキニル,(C5−C20)アリール、置換(C5−C20)アリール、(C6−C26)アルカリール、置換(C6−C26)アルカリール、5〜20員ヘテロアリール、置換5〜20員ヘテロアリール、6〜26員アルカヘテロアリールまたは置換6〜26員アルカヘテロアリールである。遺伝的にコードされる芳香族アミノ酸は、Phe(F)、Tyr(Y)およびTrp(W)を含む。
【0056】
「非極性アミノ酸」とは、生理学的pHで非荷電であり、そして2個の原子により共有されている電子対が、その2つの原子の各々によりおおむね等しく保持されている結合を有する側鎖(すなわち、側鎖は極性ではない)を有する疎水性アミノ酸をいう。遺伝的にコードされる非極性アミノ酸は、Leu(L)、Val(V)、Ile(I)、Met(M)、Gly(G)およびAla(A)を含む。
【0057】
「脂肪族アミノ酸」とは、脂肪族炭化水素側鎖を有する疎水性アミノ酸をいう。遺伝的にコードされる脂肪族アミノ酸は、Ala(A)、Val(V)、Leu(L)およびIle(I)を含む。
【0058】
アミノ酸残基Cys(C)は、他のCys(C)残基または他のスルファニル含有アミノ酸とジスルフィド架橋を形成することができるという点において特異である。還元された遊離−SH形態または酸化されたジスルフィド架橋形態のいずれかでペプチド中に存在するCys(C)残基(および−SH含有側鎖を有する他のアミノ酸)の能力は、Cys(C)残基がペプチドに対して正味の疎水性特性または親水性特性のどちらに寄与するかに影響を及ぼす。Cys(C)は、Eisenberg(Eisenberg,1984,前出)の正規化コンセンサス基準に従って0.29の疎水性を示すが、本発明の目的のためには、Cys(C)は、上で規定した一般的な分類にかかわらず、極性親水性アミノ酸として分類されることが理解されるべきである。
【0059】
当業者に理解されるように、上で規定した分類は、相互排他的ではない。それ故、2つまたはそれ以上の物理−化学的特性を示す側鎖を有するアミノ酸は、複数のカテゴリーに含まれ得る。例えばTyr(Y)のようなさらに極性置換基で置換される芳香族部分構造を有するアミノ酸側鎖は、芳香族疎水性特性および極性または親水性特性の両方を示し得、従って、芳香族カテゴリーと極性カテゴリーの両方に含めることができる。任意のアミノ酸の適切なカテゴリー化は、特に本明細書に提供される詳細な開示に照らせば当業者に明らかである。特定の実施態様において、アポA−I Milanoの置換されたかまたは変更された形態は、アポA−Iではない。
【0060】
本発明において利用されるアポA−I Milanoは、利用可能な任意の供給元から入手できる。例えば、アポA−I Milanoは、組換え、合成、半合成または精製されたアポA−I Milanoであり得る。好ましい実施態様において、アポA−I Milanoは、米国特許第5,721,114号ならびに欧州特許EP 0 469 017およびEP 0 267 703(全て参照により本明細書に加入される)に記載されるような、酵母またはE.coliにおいて発現される組換えタンパク質(rアポA−I Milano)であり得る。本発明により利用されるアポA−I Milanoを入手する方法は、当該分野で周知である。例えば、アポA−I Milanoは、例えば、密度勾配遠心分離法、続いてリポタンパク質の脱脂、還元、変性(denaturezation)およびゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性(例えば、フェニルセファロース)相互作用クロマトグラフィーもしくは免疫親和性クロマトグラフィーにより血漿から分離することができるか、または合成、半合成により、もしくは当業者に公知の組換えDNA技術、続いて当業者によく知られる精製を使用して製造され得る(例えば、米国特許第6,107,467号;同第6,559,284号;同第6,423,830号;同第6,090,921号;同第5,834,596号;同第5,990,081号;同第6,506,879号、Mulugetaら,1998,J.Chromatogr.798(1−2):83−90;Chungら,1980,J.Lipid Res.21(3):284−91;Cheungら,1987,J.Lipid Res.28(8):913−29;Persson,ら,1998,J.Chromatogr.711:97−109;米国特許第5,059,528号、同第5,834,596号、同第5,876,968号および同第5,721,114号;ならびにPCT公報WO86/04920およびWO87/02062を参照のこと)。
【0061】
アポA−I Milanoが天然源から得られる場合、任意の種の任意の動物源から入手できる。特定の実施態様において、アポA−I Milanoは、哺乳動物源から入手できる。特定の実施態様において、アポA−I Milanoは、ヒト源から入手できる。本発明の好ましい実施態様において、アポA−I Milanoは、アポA−I Milanoが投与される被験体と同じ種に由来する。好ましい実施態様において、アポA−I Milanoは、組換えアポA−I Milanoタンパク質(rアポA−I Milano)である。
【0062】
5.4.投与方法
アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤は、循環におけるバイオアベイラビリティーを確実にする、当業者に公知の任意の適切な経路により投与され得る。治療有効量の本発明の製剤を提供する任意の投与経路が使用され得る。投与経路は、医薬製剤の様式により示され得る。例えば、注射剤は、静脈内(IV)注射、筋内(IM)注射、皮内注射、皮下(SC)注射、冠動脈内注射、動脈内注射、心膜内注射、関節内注射および腹腔内(IP)注射が挙げられるがこれらに限定されず、非経口的に投与され得る(例えば、Robinsonら,1989,Pharmacotherapy:A Pathophysiologic Approach,Ch.2,pp.15−34(全て参照により本明細書に加入される)を参照のこと)。
【0063】
好ましい実施態様において、アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤は、非経口投与され得る。より好ましい実施態様において、非経口投与は静脈内である。静脈内投与は、ボーラス、例えば、約2〜3分間かけて投与されるかまたは持続注入により、例えば、ポンプにより約1時間かけて投与されるか、もしくは約24時間かけて持続注入され得る。好ましい実施態様において、注入は約1〜約3時間かけられ得る。
【0064】
方法は、本明細書に記載される医薬製剤の静脈内注射を提供する。任意の適切な血管は、注入部位として使用され得、これらとしては、腕の肘窩における血管のような末梢血管または胸部への中心静脈ラインが挙げられる。好ましい実施態様において、医薬製剤は、被験体の腕の肘窩における橈側皮または肘正中皮血管に注入される。
【0065】
特定の実施態様において、投与は、機械ポンプもしくは送達デバイス(例えば、心膜送達デバイス(PerDUCER(登録商標))または心肺バイパス機械により行われ得る。
【0066】
5.5 脂質複合体
特定の実施態様において、本発明の方法は、アポA−I Milanoの脂質複合体の投与を含む。特定の実施態様において、本発明は、アポA−I Milano:リン脂質複合体の医薬製剤を提供する。脂質をアポA−I Milanoに複合体化することにより有効性が増強され得る。典型的には、脂質を投与の前にアポA−I Milanoと混合する。アポA−I Milanoと脂質とを、適切な比率で水溶液中にて混合し得、そしてフリーズドライ、界面活性剤可溶化とそれに続く透析、微少流体化、超音波処理、および均質化を含む当該分野で公知の方法により複合体化し得る。複合体の有効性を、例えば、圧力、超音波振動数、または界面活性剤濃度を変化させることにより最適化することができる。アポA−I Milano:リン脂質複合体を製造するために一般的に使用される界面活性剤の例は、コール酸ナトリウムである。
【0067】
いくつかの場合には、急性冠症候群を処置または予防するために、アポA−I Milanoを単独で、本質的に脂質無しで投与することが好ましい。好ましい実施態様において、アポA−I Milano:脂質複合体を、それを必要とする被験体に投与する。
【0068】
一実施形態において、アポA−I Milano:リン脂質複合体は、適切な製薬希釈剤と共に溶液状態であり得る。別の実施態様において、フリーズドライまたは凍結乾燥されたアポA−I Milano:リン脂質複合体の製剤を、投与前に水和するかまたは適切な製薬希釈剤を用いて再形成することができる。別の実施態様において、アポA−I Milano:脂質複合体は、それを必要とする被験体への投与の前に、均一な溶液が得られるまで解凍される凍結製剤であり得る。
【0069】
脂質は、当業者に公知の任意の適切な脂質であり得る。リン非含有脂質を使用することができ、ステアリルアミン、ドデシルアミン、アセチルパルミテート、(1,3)−D−マンノシル−(1,3)ジグリセリド、アミノフェニルグリコシド、3−コレステリル−6’(グリコシルチオ)ヘキシルエーテル糖脂質、N−(2,3−ジ(9−(Z)−オクタデセニルオキシ))−プロパ−1−イル−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリドおよび脂肪酸アミドが挙げられる。好ましい実施態様において、脂質はリン脂質である。
【0070】
リン脂質は、当業者に公知の任意の供給元から入手できる。例えば、リン脂質を、市販、天然源または当業者に公知の合成もしくは半合成手段により入手できる(Mel’nichukら,1987,Ukr.Biokhim.Zh.59(6):75−7;Mel’nichukら,1987,Ukr.Biokhim.Zh.59(5):66−70;Rameshら,1979,J.Am.Oil Chem.Soc.56(5):585−7;PatelおよびSparrow,1978,J.Chromatogr.150(2):542−7;Kaduceら,1983,J.Lipid Res.24(10):1398−403;Schlueterら,2003,Org.Lett.5(3):255−7;Tsujiら,2002,Nippon Yakurigaku Zasshi 120(1):67P−69P)。
【0071】
好ましい実施態様において、脂質はリン脂質であり得る。リン脂質は、当業者に公知の任意のリン脂質であり得る。例えば、リン脂質は、低級アルキル鎖リン脂質、ホスファチジルコリン、卵ホスファチジルコリン、ダイズホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ダイズホスファチジルグリセロール、卵ホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジラウリルホスファチジルコリン、1−ミリストイル−2−パルミトイルホスファチジルコリン、1−パルミトイル−2−ミリストイルホスファチジルコリン、1−パルミトイル−2−ステアロイルホスファチジルコリン、1−ステアロイル−2−パルミトイルホスファチジルコリン、ジオレイルホスファチジルコリン、1−パルミトイル−2−オレイルホスファチジルコリン、1−オレイル−2−パルミチルホスファチジルコリン、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン、ジラウロイルホスファチジルグリセロール,ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ジホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジオレイルホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ジミリストイルホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジン酸、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、脳ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリン、スフィンゴ脂質、脳スフィンゴミエリン、ジパルミトイルスフィンゴミエリン、ジステアロイルスフィンゴミエリン、ガラクトセレブロシド、ガングリオシド、セレブロシド、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、リゾレシチン、リゾホスファチジルエタノールアミン、ケファリン、カルジオリピン、ジセチルホスフェート、ジステアロイル−ホスファチジルエタノールアミンおよびコレステロールならびにその誘導体であり得る。
【0072】
リン脂質はまた、上記のリン脂質のいずれかの誘導体または類縁体であり得る。特定の実施態様において、アポA−I Milano:リン脂質複合体は、2種またはそれ以上のリン脂質の組み合わせを含み得る。
【0073】
好ましい実施態様において、本発明の方法は、アポA−I Milano:リン脂質複合体の投与を提供する。より好ましい実施態様において、脂質は、リン脂質、好ましくは、1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスファチジルコリン(「POPC」)または(「1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン」)である。さらにより好ましい実施態様において、アポA−I Milano:POPC複合体は、約1対1の重量比のアポA−I Milano:POPCを含む。最も好ましい実施態様において、アポA−I Milano:POPC複合体は、医薬製剤である。アポA−I Milano:POPC複合体はETC−216と呼ばれる。
【0074】
アポA−I Milanoおよび脂質を含む複合体は、急性冠症候群を処置または予防するために有効な、任意の量の脂質、好ましくはリン脂質、および任意の量のアポA−I Milanoを含み得る。特定の実施態様において、アポA−I Milanoは、重量で約1対約1の比で、アポA−I Milanoおよびリン脂質の複合体を含み得る。しかしアポA−I Milanoは、約100:1、約10:1、約5:1、約3:1、約2:1、約1:1、約1:2、約1:3、約1:5、約1:10および約1:100(タンパク質重量/脂質重量)のような、アポA−I Milanoに対して他の比のリン脂質を含む複合体を含み得る。約1:0.5〜約1:3(タンパク質重量/脂質重量)の間の重量比、より好ましくは約1:0.8〜約1:1.2(タンパク質重量/脂質重量)の比が、最も均一な集団を生成するため、および安定で再現可能なバッチを製造する目的のために好ましい。なお一層より好ましい実施態様において、アポA−I Milano対リン脂質の比は、1:0.95(タンパク質重量/脂質重量)である。
【0075】
本発明の方法における使用に適したさらなる脂質は、当業者に周知であり、そして種々の周知の資料、例えばMcCutcheon’s Detergents and Emulsifiersおよび McCutcheon’s Functional Materials,Allured Publishing Co.,Ridgewood,N.J.(これらの両方が、参照により本明細書に加入される)に列挙される。一般的に、脂質が37℃、35℃、または32℃で液晶であることが望ましい。液晶状態の脂質は、典型的にはゲル状態の脂質よりも有効にコレステロールを受容する。被験体は典型的に約37℃の中核体温を有するので、37℃で液晶である脂質は、処置の間概して液晶状態である。
【0076】
5.6.脂質複合体の製造
アポA−I Milano:脂質複合体は、当業者に公知の任意の方法により作製することができる。いくつかの場合には、投与の前に脂質とアポA−I Milanoとを混合することが望ましい。脂質は、溶液状態または均質化、超音波処理もしくは押出のような標準的な技術を使用して形成されたリポソームもしくはエマルジョンの形態であり得る。超音波処理は、一般的には氷浴中でBransonチップソニファイアーのようなチップソニファイアーを用いて行われる。典型的には、懸濁液を数回の超音波処理サイクルにかける。押出は、Lipex Biomembrane ExtruderTM(Lipex Biomembrane Extruder,Inc.Vancouver,Canada)のような生体膜エクストルーダーにより行うことができる。押出フィルターにおける規定された孔径が、特定のサイズの単薄膜リポソーム小胞を生成し得る。リポソームはまた、Ceraflow MicrofilterTM(Norton Company,Worcester Massから市販されている)のような非対称セラミックフィルター、またはポリカーボネートフィルターもしくは当業者に公知の他の種類のポリマー材料(すなわち、プラスチック)を通す押出によっても形成することができる。
【0077】
アポA−I Milano:脂質複合体を、小胞、リポソーム、またはプロテオリポソームを含むがこれらに限定されない種々の形態で製造することができる。当業者に周知の種々の方法を使用して、アポA−I Milano:脂質複合体を製造することができる。リポソームまたはプロテオリポソームを製造するための利用可能な多数の技術が使用され得る。例えば、アポA−I Milanoを、適切な脂質と共に(バス式またはプローブ超音波発生機を使用して)同時超音波処理して(co−sonicated)脂質複合体を形成することができる。特定の実施態様において、アポA−I Milanoは、予め形成された脂質小胞と混合され得、結果としてアポリポタンパク質:脂質複合体を自発的に形成する。別の実施態様において、アポA−I Milanoはまた、界面活性剤透析法により作製され得;例えば、アポA−I Milano、脂質およびコール酸塩のような界面活性剤の混合物を、界面活性剤を除去するために透析し得、そして脂質複合体を作製するために再形成し得る。(例えば、Jonasら,1986,Methods Enzymol.128,553−82を参照のこと)。
【0078】
別の実施態様において、脂質複合体は、米国特許第6,287,590号および同第6,455,088号(その内容は、全て参照により本明細書に加入される)に記載されるように、同時凍結乾燥(co−lipophilization)することにより作製することができる。他の方法は、例えば、米国特許第6,004,925号、同第6,037,323号および同第6,046,166号(全て参照により本明細書に加入される)に開示される。アポA−I Milano:脂質複合体を製造する他の方法は、当業者に明らかである。
【0079】
好ましい実施態様において、脂質複合体は均質化により作製することができる。好ましい実施態様において、アポA−I Milano:脂質複合体の作製は、組換えアポA−I Milanoを注射のために溶液中15mg/mlの濃度まで水で希釈するときに開始する。リン酸ナトリウムを、9〜15mMのリン酸塩の最終濃度まで加え、そしてpHを約7.0と約7.8との間に調整する。マンニトールを、約0.8%〜約1%のマンニトールの濃度(w/v)を達成するように添加する。次いでPOPCを、約1:0.95(タンパク質重量/脂質重量)のアポA−I Milanoダイマー対POPCの混合物を達成するように加える。この混合物を、温度を37℃〜43℃の間に維持しながら、5000rpmで約20分間オーバーヘッドプロペラおよびUltra Turraxを使用して撹拌した。インライン熱交換機(Avestin,Inc.)を用いて温度を32℃〜43℃の間に維持しながら、供給容器を連続的に300rpmで撹拌する。最初の30分間の均質化は、50MPa(7250psi)で行い、その後、ゲル浸透クロマトグラフィーによる製造過程検査がタンパク質標準間で>70%の%AUCを実証するまで、圧力を80〜120MPa(11600〜17400psi)に維持する。複合体はまた、10mg/ml、11mg/ml、12mg/ml、13mg/mlおよび14mg/mlの製剤として(ここで重量はタンパク質の重量である)作製され得る。
【0080】
5.7.併用療法
アポA−I Milanoもしくは脂質複合体またはその医薬製剤は、本発明の方法において単独で、または他の介入との併用療法で使用することができる。このような療法としては、他の薬物の同時または逐次投与が挙げられるがこれに限定されない。
【0081】
特定の実施態様において、本発明の方法および製剤は、本明細書中に提供される方法を達成するための他の薬物と組み合わせて使用することができる。別の薬物との共投与は、付随する疾患、状態、障害または症状を処置、予防または改善するためであり得、例えば、抗不整脈薬が既存の不整脈を処置するために投与される。特定の実施態様において、方法は、急性冠症候群に付随する疼痛を処置または予防するための薬物の共投与を提供する。
【0082】
上記のように、心筋梗塞、狭心症および急性冠症候群を含む虚血性事象のための従来の治療は、破綻したかまたは不安定な動脈硬化性プラークの根底にある病理を対象としていなかった。例えば、心臓胸部の不快感または他の虚血性症状を示す被験体は、アスピリン、クロピドグレル、ヘパリン、エプチフィバチドまたはアブシキシマブのような抗凝固薬または抗血栓剤を用いて、緊急の経皮冠動脈インターベンション(PCI)の用意ができる。βアドレナリン遮断薬(β遮断薬)を、心拍数を減少させるために投与することができる。アンギオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)の投与は、付随する鬱血性心不全(CHF)または左心室(LV)機能障害に罹患している被験体に対して推奨される。突然心臓死から蘇生した被験体については、アミオダロンの投与が推奨される。酸素は、一般的にマスクまたは鼻カニューレによりしばしば被験体に供給され、そしてパルス酸素測定により酸素飽和度を含むバイタルサインが綿密にモニタリングされる。長期の処置については、HMGCoA還元酵素阻害薬のスタチンは、LDCレベルを減少させるためにしばしば被験体に投与される。
【0083】
例えば、アポA−I Milanoもしくは脂質複合体またはその医薬製剤は、他の薬学的に活性な薬物と共に投与され得、この薬物としては、α/βアドレナリン拮抗薬、抗アドレナリン作動薬、α−1アドレナリン拮抗薬、βアドレナリン拮抗薬、AMPキナーゼ活性化剤、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、アンギオテンシンII受容体拮抗薬、カルシウムチャネル遮断薬、抗不整脈薬、血管拡張薬、硝酸薬、昇圧剤、強心薬、利尿薬、抗凝固薬、抗血小板凝集薬、血栓溶解剤、抗糖尿病薬、酸化防止剤、抗炎症薬、胆汁酸金属イオン封鎖剤、スタチン、コレステロールエステル転移タンパク質(CETP)阻害薬、コレステロール低下剤/脂質調節剤、アラキドン酸変換を遮断する薬物、エストロゲン補充療法、脂肪酸類縁体、脂肪酸合成阻害薬、フィブラート、ヒスチジン、ニコチン酸誘導体、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体作動薬または拮抗薬、脂肪酸酸化阻害薬、サリドマイドまたはチアゾリジンジオンが挙げられるがこれらに限定されない(Drug Facts and Comparisons,updated monthly,January 2003,Wolters Kluwer Company,St.Louis,MO;Physicians Desk Reference(56th edition,2002)Medical Economics)。
【0084】
単一で、または組み合わせて、アポA−I Milano、脂質複合体もしくはその医薬製剤の有利な特性を補足し得るかまたは相乗作用し得る他の薬物としては:カルベジロール(carvediol)(Coreg(登録商標));ラベタロールHCl、(Normodyne(登録商標))のようなα/βアドレナリン拮抗薬(「β遮断薬」);グアナドレル、(Hylorel(登録商標));グアネチジン、(Ismelin(登録商標));レセルピン、クロニジン、(Catapres(登録商標)およびCatapres−TTS(登録商標));グアンファシン、(Tenex(登録商標));グアナベンズ、(Wytensin(登録商標));メチルドーパおよびメチルドペート、(Aldomet(登録商標))のような抗アドレナリン作動薬;ドキサゾシン(Cardura(登録商標));プラゾシン、(Minipress(登録商標));テラゾシン、(Hytrin(登録商標));およびフェントラミン、(Regitine(登録商標))のようなα−1アドレナリン拮抗薬;ソタロール、(Betapace AF(登録商標)およびBetapace(登録商標));チモロール、(Blocadren(登録商標));プロプラノロール、(InderalLA(登録商標)およびInderal(登録商標));ベタキソロール、(Kerlone(登録商標));アセブトロール、(Sectral(登録商標));アテノロール、(Tenormin(登録商標));メトプロロール、(Lopressor(登録商標)およびToprol−XL(登録商標));ビソプロロール、(Zebata(登録商標));カルテオロール、(Cartrol(登録商標));エスモロール、(Brevibloc(登録商標));ナドロール(naldolol)、(Corgard(登録商標));ペンブトロール、(Levatol(登録商標));およびピンドロール、(Visken(登録商標))のようなβアドレナリン(Andrenergic)拮抗薬;ESP 31015、(ETC−1001);ESP 31084、ESP 31085、ESP 15228、ESP 55016およびESP 24232;ゲムカベン(gemcabene)(PD 72953およびCI−1027);およびMEDICA 16のようなAMPキナーゼ活性化剤;キナプリル(Accupril(登録商標));ベナゼプリル、(Lotensin(登録商標));カプトプリル、(Capoten(登録商標));エナラプリル、(Vasotec(登録商標));ラミプリル(Altace(登録商標));フォシノプリル(Monopril(登録商標));モエキシプリル、(Univasc(登録商標));リシノプリル、(Prinivil(登録商標)およびZestril(登録商標));トランドラプリル、(Mavik(登録商標))、ペリンドプリル、(Aceon(登録商標))のようなアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤;およびカンデサルタン(Atacand(登録商標));イルベサルタン、(Avapro(登録商標));ロサルタン、(Cozaar(登録商標));バルサルタン、(Diovan(登録商標));テルミサルタン、(Micardis(登録商標));エプロサルタン、(Tevetan(登録商標));およびオルメサルタン、(Benicar(登録商標))のようなアンギオテンシンII受容体拮抗薬;ニフェジピン、(Adalat(登録商標)、Adalat CC(登録商標)、Procardia(登録商標)およびProcardia XL(登録商標));ベラパミル、(Calan(登録商標)、CalanSR(登録商標)、Covera−HS(登録商標)、IsoptinSR(登録商標)、Verelan(登録商標)およびVerelanPM(登録商標));ジルチアゼム、(Cardizem(登録商標)、CardizemCD(登録商標)およびTiazac(登録商標));ニモジピン、(Nimotop(登録商標));アムロジピン、(Norvasc(登録商標));フェロジピン、(Plendil(登録商標));ニソルジピン、(Sular(登録商標));ベプリジル、(Vascor(登録商標));イスラジピン、(DynaCirc(登録商標));およびニカルジピン、(Cardene(登録商標))のようなカルシウムチャネル遮断薬;種々のキニジン;プロカインアミド、(Pronestyl(登録商標)およびProcan(登録商標));リドカイン、(Xylocaine(登録商標));メキシレチン(mexilitine)、(Mexitil(登録商標));トカイニド、(Tonocard(登録商標));フレカイニド、(Tambocor(登録商標));プロパフェノン(Rythmol(登録商標))、モリシジン、(Ethmozine(登録商標));イブチリド、(Covert(登録商標));ジソピラミド、(Norpace(登録商標));ブレチリウム、(Bretylol(登録商標));アミオダロン、(Cordarone(登録商標));アデノシン、(Adenocard(登録商標));ドフェチリド(Tikosyn(登録商標));およびジゴキシン、(Lanoxin(登録商標))のような抗不整脈薬;ジアゾキシド、(Hyperstat IV(登録商標));ヒドララジン、(Apresoline(登録商標));フェノルドパム、(Corolpam(登録商標));ミノキシジル、(Loniten(登録商標));およびニトロプルシド、(Nipride(登録商標))のような血管拡張薬;イソソルビドジニトレート;(Isordil(登録商標)およびSorbitrate(登録商標));イソソルビドモノニトレート、(Imdur(登録商標)、Ismo(登録商標)およびMonoket(登録商標));ニトログリセリンペースト、(Nitrol(登録商標));種々のニトログリセリンパッチ;ニトログリセリンSL、(Nitrostat(登録商標))、Nitrolingualスプレー;およびニトログリセリンIV、(Tridil(登録商標))のような硝酸薬;ノルエピネフリン、(Levophed(登録商標));およびフェニレフリン、(Neo−Synephrine(登録商標))のような昇圧薬(Vassopressors);アムリノン;(Inocor(登録商標));ドーパミン、(Intropine(登録商標));ドブタミン、(Dobutrex(登録商標));エピネフリン、(Adrenalin(登録商標));イソプロテレノール(isoproternol)、(Isuprel(登録商標))、ミルリノン、(Primacor(登録商標))のような強心薬(Inotrophic Agents);スピロノラクトン、(Aldactone(登録商標));トルセミド、(Demadex(登録商標));ヒドロフルメチアジド、(Diucardin(登録商標));クロロチアジド、(Diuril(登録商標));エタクリン酸、(Edecrin(登録商標));ヒドロクロロチアジド、(hydroDIURIL(登録商標)およびMicrozide(登録商標));アミロリド、(Midamor(登録商標));クロルタリドン、(Thalitone(登録商標)およびHygroton(登録商標));ブメタニド、(Bumex(登録商標));フロセミド、(Lasix(登録商標));インダパミド、(Lozol(登録商標));メトラゾン、(Zaroxolyn(登録商標));トリアムテレン、(Dyrenium(登録商標));およびトリアムテレンとヒドロクロロチアジドの組み合わせ(Dyazide(登録商標)およびMaxzide(登録商標))のような利尿薬;ビバリルジン、(Angiomax(登録商標));レピルジン、(Refludan(登録商標));種々のヘパリン;ダナパロイド、(Orgaran(登録商標));種々の低分子量ヘパリン;ダルテパリン、(Fragmin(登録商標));エノキサパリン、(Lovenox(登録商標));チンザパリン、(Innohep(登録商標));ワルファリン、(Coumadin(登録商標));ジクマロール、(Dicoumarol(登録商標));アニシンジオン、(Miradone(登録商標));アスピリン;アルガトロバン、(Argatroban(登録商標));アブシキシマブ、(Reopro(登録商標));エプチフィバチド、(Integrilin(登録商標));チロフィバン、(Aggrastat(登録商標));クロピドグレル、(Plavix(登録商標));チクロピジン、(Ticlid(登録商標));およびジピリダモール、(Persantine(登録商標))のような抗血栓剤/抗凝血剤/抗血小板薬;アルテプラーゼ、(Activase(登録商標));組織プラスミノゲン活性化因子(TPA)、(Activase(登録商標));アニストレプラーゼ、APSAC、(Eminase(登録商標));レテプラーゼ、rPA(Retavasae(登録商標));ストレプトキナーゼ(streptokinase)SK,(Streptase(登録商標));ウロキナーゼ、(Abbokinase(登録商標)) のような血栓溶解薬;メトホルミン、(Glucophage(登録商標));グリピジド、(Glucotrol(登録商標));クロルプロパミド、(Diabinese(登録商標));アセトヘキサミド、(Dymelor(登録商標));トラザミド、(Tolinase(登録商標));グリメピリド、(Amaryl(登録商標));グリブリド、(DiaBeta(登録商標)およびMicronase(登録商標));アカルボース、(Precose(登録商標));ミグリトール、(Glyset(登録商標));レパグリニド(repaflinide)、(Prandin(登録商標));ナテグリニド、(Starlix(登録商標));ロシグリタゾン、(Avandia(登録商標));およびピオグリタゾン、(Actos(登録商標)) のような抗糖尿病薬;抗酸化剤および抗炎症薬;コレスチラミン、(LoCholest(登録商標)、Prevalite(登録商標)およびQuestran(登録商標));コレスチポール、(Colestid(登録商標));およびコレセベラム、(Welchol(登録商標))のような胆汁酸金属イオン封鎖剤;ロバスタチン、(Crestor(登録商標));フルバスタチン、(Lescol(登録商標));アトルバスタチン、(Lipitor(登録商標));ロバスタチン、(Mevacor(登録商標));プラバスタチン、(Pravachol(登録商標));およびシムバスタチン、(Zocor(登録商標))のようなスタチン(HMGCoA還元酵素を阻害する薬物);CETP阻害剤;アラキドン酸変換を遮断する薬物:エストロゲン補充療法;PD−72953、MEDICA 16、ESP 24232、およびESP 31015のような脂肪酸類縁体;脂肪酸合成阻害剤;脂肪酸合成阻害剤;脂肪酸酸化阻害剤、ラノラジン、(Ranexa(登録商標));クロフィブレート、(Atromid−S(登録商標));ゲムフィブロジル、(Lopid(登録商標));微粉末化フェノフィブラートカプセル、(Tricor(登録商標));ベザフィブラートおよびシプロフィブレートのようなフィブラート;ヒスチジン;ナイアシン延長放出錠、(Niaspan(登録商標))のようなニコチン酸誘導体;ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体作動薬および拮抗薬;サリドマイド、(Thalomid(登録商標))ならびに米国特許第6,459,003号、同第6,506,799号、および米国特許出願公報20030022865、20030018013、20020077316および20030078239(これらの内容は、全て参照により本明細書に加入される)に記載される化合物が挙げられるがこれらに限定されない。
【0085】
単一で、または組み合わせて、アポA−I Milanoもしくは脂質複合体またはその医薬製剤の有利な特性を補足し得るかもしくは相乗作用し得る他の薬物としては、例えば、パクリタキセルおよびトポテカンのような抗増殖薬、(Brehmら 2001,Biochemical Pharmacology,61(1):119−127)およびステロイド性および非ステロイド性の抗炎症剤(シクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)阻害剤を含む)のような抗炎症薬が挙げられる。
【0086】
5.8.医薬製剤
一局面において、本発明は、アポA−I Milanoを含む医薬製剤を投与することにより急性冠症候群に由来する傷害を処置、低減または予防するための製剤を提供する。好ましい実施態様において、アポA−I Milano(アポA−I Milano)は、脂質と複合体化され得る。より好ましい実施態様において、アポA−I Milanoは、POPCと複合体化される。
【0087】
アポA−I Milanoまたはその脂質複合体は、医薬製剤の形態で投与され得る。本明細書中に記載される医薬製剤は、例えば、許容しうる希釈剤、補形薬、賦形剤または担体の添加を含む。当該分野で公知のように、1種またはそれ以上の希釈剤、補形薬、賦形剤または担体の添加は、製剤を被験体への投与に適切にし、そして延長された保管寿命のような他の都合のよい特性を与えることができる。
【0088】
医薬製剤は、典型的には薬学的に許容しうる担体または賦形剤を含む。多くの薬学的に許容しうる担体または賦形剤を使用することができる。本明細書に記載される実施例は、ショ糖−マンニトールを利用する。標準的な生理食塩水が製薬担体または賦形剤としてしばしば使用される。他の適切な担体または賦形剤としては、グルコース、トレハロース、ショ糖、滅菌水、緩衝用水、0.45%食塩水(半生理食塩水)、および0.3%グリシンが挙げられ、増強された安定性のためにアルブミンのような糖タンパク質をさらに含み得る。これらの製剤は、従来の周知の滅菌技術により滅菌することができる。得られた水溶液は、使用のために包装されるか無菌状態で濾過され、そして凍結乾燥(フリーズドライ)され得る。凍結乾燥された製剤は、次いで投与前に滅菌水溶液と混合され得る。
【0089】
医薬製剤はまた、生理条件に近づけるために必要な場合、pH調整剤および緩衝剤、ならびに張度調整剤(例えば、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、および塩化カルシウム)のような薬学的に許容しうる補形薬を含み得る。抗菌剤、例えば、フェノール、塩化ベンザルコニウムまたは塩化ベンゼトニウムを、製品、特に複数回用量の非経口用途用に意図された医薬製剤の滅菌性を維持するために添加することができる。懸濁化剤、安定剤および/または分散剤もまた、本発明の製剤において使用することができる。
【0090】
医薬製剤は、塩形態のアポリポタンパク質(アポA−I Milano)を含み得る。例えば、タンパク質は酸性および/または塩基性の末端および/または側鎖を含み得るので、アポA−I Milanoは、遊離酸もしくは遊離塩基として、または薬学的に許容しうる塩として医薬製剤中に存在し得る。薬学的に許容しうる塩は、アポA−I Milanoと塩を形成し得る適切な酸を含み得、この酸としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、硝酸、チオシアン酸、硫酸、リン酸などのような無機酸;およびギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、蓚酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、アントラニル酸、桂皮酸、ナフタレンスルホン酸、スルファニル酸などのような有機酸が挙げられる。アポA−I Milanoと塩を形成し得る適切な塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウムなどのような無機塩基;およびモノ−、ジ−およびトリ−アルキルアミン(例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、メチルアミン、ジメチルアミンなど)ならびに場合により置換されたエタノールアミン(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミンなど)のような有機塩基を挙げることができる。
【0091】
医薬製剤は、非経口、経腸、局所または吸入を含むがこれらに限定されない任意の投与経路に適切な種々の形態であり得る。非経口投与とは、消化管を通らない任意の投与経路を指し、注射投与(すなわち、本明細書に記載されるような静脈内、筋内など)を含むがこれに限定されない。経腸投与とは、消化管を使用する、経口または直腸の任意の投与経路を指し、本明細書に記載されるような、錠剤、カプセル、経口液剤、懸濁剤、スプレーなどが挙げられるがこれらに限定されない。この用途の目的のためには、経腸投与は、膣投与経路のことも指す。局所投与とは、皮膚を介した任意の投与経路を指し、本明細書に記載されるような、クリーム、軟膏、ゲルおよび経皮パッチが挙げられるがこれらに限定されない(Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Edition Gennaroら編)Mack Printing Company,Easton,Pennsylvania,1990も参照のこと)。
【0092】
本発明の非経口医薬製剤は、注射により、例えば、静脈に(静脈内)、動脈に(動脈内)、筋肉に(筋内)、皮膚の下に(皮下またはデポー製剤)、心膜に、冠動脈に、投与することができる。注射可能な医薬製剤は、心臓、心膜または冠動脈への直接的な投与について薬学的に適切な製剤であり得る。好ましい実施態様において、医薬製剤は、被験体の末梢血管、例えば、腕または肘窩に注入される。
【0093】
注射可能医薬製剤は、水性賦形剤または油性賦形剤中の滅菌の懸濁剤、液剤または乳剤であり得る。注射用の製剤は、単位投薬形態、例えば、アンプル中または複数回用量容器中で提供され得、そして添加された保存料を含み得る。非経口医薬製剤用の好ましい緩衝剤は、リン酸塩、クエン酸塩および酢酸塩である。
【0094】
別の実施態様において、医薬製剤は、適切な賦形剤(滅菌パイロジェンフリー水、食塩水またはデキストロースが挙げられるがこれらに限定されない)で使用前に再形成するための散剤形態で提供され得る。この目的のために、アポA−I Milanoは、凍結乾燥されるか、または適切な場合には上記のような脂質と同時凍結乾燥され得る。別の実施態様において、医薬製剤は、単位投薬形態で供給され、そして使用前に再形成され得る。
【0095】
長期送達のために、医薬製剤は、移植による投与(例えば、皮下、皮内または筋内注射)のために、デポー製剤として提供され得る。それ故、例えば、医薬製剤は、適切なポリマー物質もしくは疎水性物質(例えば、許容しうるオイル中の乳剤として)もしくはイオン交換樹脂と共に、または難溶性誘導体として;例えば、アポA−I MilanoもしくはアポA−I Milano:脂質複合体の難溶性塩形態として、製剤化され得る。
【0096】
別の実施態様において、医薬製剤は、経皮吸収のための活性成分をゆっくりと放出する吸盤またはパッチとして製造される経皮送達系である。この実施態様において、浸透増強剤を、アポA−I Milanoの経皮浸透を促進するために使用することができる。別の実施態様において、経皮医薬製剤は、狭心症を有する患者における使用のためにニトログリセリンをさらに含有することができる。
【0097】
吸入による投与のために、医薬製剤は、適切な噴射剤(例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の適切なガス)を使用して、加圧パックからまたは噴霧器を介してエアゾールスプレーにより送達され得る。加圧エアゾール剤の場合には、投薬単位は、計量された量を送達するバルブ、例えば定量投与量吸入器を提供することにより決定することができる。吸入器または注入器で使用するための、例えばゼラチンのカプセルおよびカートリッジは、アポA−I Milanoおよび乳糖またはデンプンのような適切な粉末基剤の粉末混合物を含めて製剤化され得る。
【0098】
製剤は、所望の場合、アポA−I Milano医薬製剤を含む1つまたはそれ以上の単位投薬形態を含むことができるパックまたはディスペンサーデバイスに入れて提供され得る。パックは、例えば、ブリスター包装のような金属またはプラスチックの箔を含む。パックまたはディスペンサーデバイスは、投与のための指示書または標示を添付され得る。
【0099】
特定の実施態様において、アポAI−MまたはアポA−I Milano:脂質複合体の医薬製剤は、処置を必要とする被験体を処置するために十分な濃度のアポA−I Milanoを含み得る。特定の実施態様において、アポA−I MilanoまたはアポA−I Milano:脂質複合体の医薬製剤は、約5mg/ml〜約50mg/mlの濃度のアポA−I Milanoを含み得る。好ましい実施態様において、製剤は、約10mg/ml〜約20mg/mlの濃度でアポA−I Milanoを含み得る。より好ましい実施態様において、製剤は、約13mg/ml〜約16mg/mlの濃度でアポA−I Milanoを含み得る。アポA−I Milanoの濃度は、当業者に公知の任意の適切な技術により決定することができる。特定の実施態様において、アポA−I Milanoの濃度は、サイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SE−HPLC)により決定される。
【0100】
特定の実施態様において、アポAI−MまたはアポA−I Milano:脂質複合体の医薬製剤は、アポA−I Milanoと複合体を形成するために十分な濃度の脂質を含み得る。特定の実施態様において、脂質は、リン脂質である。好ましい実施態様において、脂質はPOPCである。特定の実施態様において、アポA−I MilanoまたはアポA−I Milano:脂質複合体の医薬製剤は、約1mg/ml〜約50mg/mlの濃度のPOPCを含み得る。好ましい実施態様において、製剤は、約5mg/ml〜約25mg/mlの濃度でPOPCを含み得る。より好ましい実施態様において、製剤は、約10mg/ml〜約20mg/mlの濃度でPOPCを含み得る。さらにより好ましい実施態様において、製剤は、約11mg/ml〜約17mg/mlの濃度でPOPCを含み得る。POPCの濃度は、当業者に公知の任意の適切な技術により決定することができる。特定の実施態様において、POPCの濃度は、高速液体クロマトグラフィーにより決定される。
【0101】
好ましい実施態様において、アポA−I Milano:脂質複合体の医薬製剤は、アポA−I MilanoまたはアポA−I Milano:脂質複合体の薬学的に適切な製剤を作製するために十分な量のショ糖を含み得る。特定の実施態様において、医薬製剤は、約0.5%〜約20%のショ糖を含み得る。特定の実施態様において、医薬製剤は、約3%〜約12%のショ糖を含み得る。特定の実施態様において、医薬製剤は、約5%〜約7%のショ糖を含み得る。好ましい実施態様において、医薬製剤は、約6.0%〜約6.4%のショ糖を含み得る。最も好ましい実施態様において、医薬製剤は、6.2%のショ糖を含み得る。
【0102】
好ましい実施態様において、アポA−I Milano:脂質複合体の医薬製剤は、アポA−I MilanoまたはアポA−I Milano:脂質複合体の薬学的に適切な製剤を作製するために十分な量のマンニトールを含み得る。特定の実施態様において、医薬製剤は、約0.01%〜約5%のマンニトールを含み得る。特定の実施態様において、医薬製剤は、約0.1%〜約3%のマンニトールを含み得る。特定の実施態様において、医薬製剤は、約0.5%〜約2%のショ糖を含み得る。好ましい実施態様において、医薬製剤は、約0.8%〜約1%のマンニトールを含み得る。最も好ましい実施態様において、医薬製剤は、0.9%のマンニトールを含み得る。
【0103】
特定の実施態様において、アポA−I Milano:脂質複合体の医薬製剤は、アポA−I MilanoまたはアポA−I Milano:脂質複合体の薬学的に適切な製剤を作製するために十分な量の緩衝剤を含み得る。特定の実施態様において、医薬製剤は、リン酸緩衝剤を含み得る。特定の実施態様において、緩衝剤濃度は、約3mM〜約25mMであり得る。特定の実施態様において、緩衝剤濃度は、約5mM〜約20mMであり得る。好ましい実施態様において、緩衝剤濃度は、約8mM〜約15mMであり得る。特定の実施態様において、適切な緩衝剤は、被験体への投与に適切な範囲に医薬製剤のpHを調整するために添加される。特定の実施態様において、医薬製剤は、約6.8〜約7.8のpHを有し得る。特定の実施態様において、医薬製剤は、約7.0〜約7.8のpHを有し得る。特定の実施態様において、医薬製剤は、約7.2〜約7.5のpHを有し得る。好ましい実施態様において、医薬製剤は、約7.5のpHを有し得る。
【0104】
特定の実施態様において、アポA−I Milano:脂質複合体の医薬製剤は、被験体への投与に適切な重量オスモル濃度を有する。特定の実施態様において、製剤の重量オスモル濃度は、約200〜約400mOsmであり得る。特定の実施態様において、医薬製剤は、約220〜約380mOsmの重量オスモル濃度を有し得る。特定の実施態様において、医薬製剤は、約260mOsm〜約340mOsmの重量オスモル濃度を有し得る。好ましい実施態様において、医薬製剤は、約280mOsm〜約320mOsmの重量オスモル濃度を有し得る。最も好ましい実施態様において、医薬製剤は、約290mOsmの重量オスモル濃度を有し得る。
【0105】
本発明の製剤は、被験体への投与を許容するために十分な純度のアポA−I Milano:脂質複合体を提供する。特定の実施態様において、医薬製剤は、約98%もしくはそれ以上、約96%もしくはそれ以上、約95%もしくはそれ以上、約93%もしくはそれ以上、約91%もしくはそれ以上、または約90%もしくはそれ以上の純度のアポA−I Milanoを含み得る。好ましい実施態様において、アポA−I Milanoの純度は、約90%またはそれ以上である。アポA−I Milanoの純度は、当業者に公知の任意の適切な技術により決定することができる。特定の実施態様において、アポA−I Milanoの純度は、サイズ排除HPLCにより決定することができる。
【0106】
本発明の製剤は、被験体への投与を許容するために十分な純度のPOPCのアポA−I Milano:脂質複合体を提供する。特定の実施態様において、医薬製剤は、約98%もしくはそれ以上、約96%もしくはそれ以上、約95%もしくはそれ以上、約93%もしくはそれ以上、約91%もしくはそれ以上、または約90%もしくはそれ以上の純度のPOPCを含み得る。好ましい実施態様において、POPCの純度は、約90%より高い。POPCの純度は、当業者に公知の任意の適切な技術により決定することができる。特定の実施態様において、POPCの純度は、HPLCにより決定することができる。
【0107】
特定の好ましい実施態様において、アポA−I Milano:脂質複合体は、約10%,もしくはそれ以下、約8%もしくはそれ以下、約6%もしくはそれ以下、約4%もしくはそれ以下、約2%もしくはそれ以下、約1%または鉄酸化/キシレノールオレンジアッセイ(Jiang,ら 1992,Anal.Biochem 202:384−389)により測定される場合の検出限界よりも低い脂質ヒドロペルオキシド量を有する。特定の実施態様において、アポA−IM:POPC−複合体は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより決定された場合に85%より高い(全ピーク面積の%として測定される)純度を有する。特定の実施態様において、製剤は、内毒素をほとんどまたは全く有さない。好ましい実施態様において、製剤は、<0.04EU/mgアポA−I Milanoの内毒素を有する。
【0108】
特定の実施態様において、製剤は、光遮蔽法により決定された場合に10μmより大きいサイズの粒子の量が50mLバイアルあたり<約6,000になり得る。特定の実施態様において、光遮蔽法により決定された場合に25μmより大きいサイズの粒子の量が50mLバイアルあたり<約600になり得る。
【0109】
好ましい実施態様において、アポA−I Milano:脂質複合体の医薬製剤は、rアポA−I Milanoを注射用水で15mg/mlの溶液の濃度まで希釈することにより作製される。リン酸ナトリウムを添加してリン酸塩の最終濃度を9〜15mMにし、そしてpHを約7.0と約7.8との間に調整する。マンニトールを、約0.8%〜約1%のマンニトールの濃度(w/v)を達成するように添加する。次いでPOPCを、1:0.95(タンパク質重量/脂質重量)のアポA−I Milanoダイマー対POPCの比を達成するように添加される。混合物を、37℃と43℃との間の温度を維持しながら、5000rpmにて約20分間オーバーヘッドプロペラおよびUltra Turraxを使用して撹拌する。供給容器を、インライン熱交換機(Avestin,Inc.)を使用して32℃〜43℃の温度を維持しながら連続して300rpmで連続して撹拌する。最初の30分間の均質化を、50MPa(7250psi)で行い、その後、ゲル浸透クロマトグラフィーによる製造過程検査がタンパク質標準間で約70%より高い%AUCを実証するまで、圧力を80〜120MPa(11600〜17400psi)に維持する。次いで複合体の重量オスモル濃度を、6.0%〜6.4%のショ糖を加えることによりだいたい調節する。アポA−I Milano:POPC複合体の医薬製剤を、次いで0.22μMフィルターを通す濾過により滅菌する。
【0110】
別の好ましい実施態様において、医薬製剤は、約12〜約18mg/mlの組換えアポA−I Milano、約11〜約17mg/mlの1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンをpH7.4で、6.2%ショ糖および0.9%マンニトールと共に含み、約280mOsm〜約320mOsmの重量オスモル濃度を有する。医薬製剤は、約90%の純度のrアポA−I−M、約97%の純度のPOPCを有し得る。特定の実施態様において、単一の不純物が約2%を超えることはない。
【0111】
医薬製剤を、凍結(約−15℃〜約−25℃)保存することができる。特定の実施態様において、製剤は、低温液剤、凍結液剤、または凍結乾燥液剤であり得る。このような製剤が、被験体への投与前に解凍されそして室温まで加温されることが好ましい。穏やかな解凍および加温が、タンパク質の変性を避けるために推奨される。
【0112】
別の好ましい実施態様において、製剤は、アポA−I Milano:リン脂質複合体を含む医薬製剤を含有する、約2mL〜約250mL、好ましくは約10mL〜約100mL、最も好ましくは約50mLの滅菌ガラスバイアルであり得る。特定の実施態様において、医薬製剤は、バイアルあたり約39〜41mlの最終充填容量で約10mg/mL〜約15mg/mLのアポA−I Milano:リン脂質複合体を含み得る。アポA−I Milano:リン脂質複合体の量は、50mLバイアルあたり約500mg〜750mgであり得る。
【0113】
医薬製剤は、単一の一回限りの使用用であり得、または複数回使用(例えば、複数回使用バイアル)に適切である医薬製剤を提供する、上記のような抗菌補形薬を含有し得る。特定の実施態様において、医薬製剤は、使用単位包装であり得る。当業者に公知であるように、使用単位包装は、医療関連業者による直接販売用にラベルを付けられた、便利な規定サイズの患者用に準備された単位である。使用単位包装は、所定の適応について典型的な処置間隔および継続期間のために必要な量で医薬製剤を含有する。本発明の方法および製剤は、例えば、平均的なサイズの成人男性または女性を15mg/kgで週に1回5週間処置するために十分な量でアポA−I Milano:リン脂質複合体を含む医薬製剤の使用単位包装を提供する。一実施形態において、使用単位包装は、平均的なサイズの成人被験体を45mg/kgで週に1回6週間処置するために十分な量でアポA−I Milano:リン脂質複合体を含む医薬製剤を含み得る。本明細書中に記載される用量は、被験体の体重に基づくことは、当業者に明らかである。
【0114】
医薬製剤は、ラベルを付けられ得、そして心臓血管および血管障害、急性冠症候群、虚血性障害の処置および予防において、そしてプラークの安定化のために、その中に含有される製剤を同定するための添付の標示、ならびに医療関連業者および被験体に有用な他の情報を有し得、これらとしては、使用上の注意、用量、投与間隔、継続期間、適応、禁忌、警告、安全上の注意、取り扱いおよび保管の指示などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0115】
さらなる実施態様において、本発明は、心臓血管および血管障害、急性冠症候群、虚血性障害を処置または予防するため、ならびにプラークの安定化のためのキットを提供する。キットは、1つまたはそれ以上の有効用量のアポA−I MilanoもしくはアポA−I Milano:脂質複合体またはその医薬製剤を、本発明の方法に従って急性冠症候群を処置または予防するためのアポA−I MilanoもしくはアポA−I Milano:脂質複合体またはその医薬製剤の使用に関する指示を含むラベルまたは標示と共に含む。特定の実施態様において、キットは、アポA−I MilanoもしくはアポA−I Milano:脂質複合体またはその医薬製剤を送達するためのデバイスおよびこれらのデバイスの安全な廃棄のための構成要素(例えば、シャープスコンテナー)のような、方法を実行するために有用な構成要素を含み得る。特定の実施態様において、キットは、プレフィルドシリンジ、単位用量または使用単位の包装入りのアポA−I MilanoもしくはアポA−I Milano:脂質複合体またはその医薬製剤を含み得る。
【実施例】
【0116】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照してさらに理解されるであろう。
【0117】
実施例1:ETC−216の忍容性
この実施例は、健常なボランティアにおいてETC−216の安全性および忍容性を実証する。
二重盲検プラセボ対照試験を、アポA−I Milanoおよびリン脂質の安全性および忍容性を決定するために行った。アポA−I Milanoを、1:1の重量比のリン脂質(POPC)と複合体化した(ETC−216と呼ぶ)。この試験は、健常男性ボランティアにおける段階的に増加する5用量の単一静脈内注入、および健常女性ボランティアにおける2つの異なる用量での安全性および忍容性を評価した。試験の前に全てのボランティアからインフォームドコンセントを得た。
【0118】
18歳〜50歳の間の年齢の32人の健常ボランティア(「被験体」)に、ETC−216の静脈内用量を投与した。男性被験体において、100mg/kgまでおよび100mg/kgを含む用量を投与した。女性被験体において、50mg/kgまでおよび50mg/kgを含む用量を投与した。被験体の性別、用量および速度を以下の表1に示す。
【表1】
有害事象モニタリングには、臨床検査評価、身体診察およびバイタルサインが含まれた。被験体を27日間以下の投与量でモニターした。
【0119】
この試験における32人の被験体のうち20人は、有害事象が報告され、これらの全てが、軽度から中等度であった。二人またはそれ以上の被験体において発生した有害事象を、試験薬物処置におそらく関連するとみなした。これらの有害事象およびこれらの有害事象を経験した被験体の数は、リンパ球減少(11被験体)、白血球増加(10被験体)、吐き気(6被験体)、頭痛および下痢(4被験体)、嘔吐(3被験体)ならびに腹痛およびトリグリセリド過剰血(2被験体)であった。おそらく関連する有害事象の大部分(胃腸障害および白血球障害)は、男性被験体における50mg/kgまたは100mg/kgの注入後に報告された。プラセボ処置被験体において発生した2つの有害事象(低タンパク血および異常肝機能)は、試験処置におそらく関連するとみなした。死亡者も、重篤な有害事象も、有害事象による辞退も全くなかった。
【0120】
図1に示されるように、ETC−216の単一用量の30分後の男性被験体におけるHDL非エステル化コレステロールの血清レベルは、15mg/kgおよびより高い用量で増加した。
【0121】
アポA−I Milanoに対する抗体力価を、注入前および注入後27日まで血清で試験した。単一用量投与後のいずれの被験体においても有意な抗体応答はなかった。
【0122】
約100時間の終末半減期は、7日ごとの投与計画を用いるヒトにおける初期複数用量試験を行うための論理的根拠を支持する。
【0123】
これらの結果は、ETC−216が、全ての用量において安全かつ十分に忍容性であり、そして重篤な有害事象が全く発生しなかったことを示す。
【0124】
実施例2:アテローム性動脈硬化症の後退におけるETC−16の種々の用量の有効性
この実施例は、急性冠症候群を伴う被験体における冠状動脈硬化症の後退における15mg/kgおよび45mg/kgのETC−216の用量の有効性を実証する。
この試験は、血管内超音波法により評価した場合に、急性冠症候群を伴う被験体においてETC−216の有効性および安全性を評価するための、無作為二重盲検プラセボ対照複数用量試験であった。いずれの試験の特定の手順を開始する前に、全ての患者から、それぞれの参加施設のInstitutional Review Board(IRB)により承認されたインフォームドコンセントを得た。
【0125】
適格被験体は、スクリーニングの14日前以内に急性冠症候群(不安定狭心症、非Q波心筋梗塞またはST上昇心筋梗塞)と診断された被験体、ならびに冠動脈造影および/または経皮冠動脈インターベンション(PCI)を受けることを予定されており、そして術後24時間の滞在が見込める被験体であった。この基準に合う被験体は、それらの処置が緊急であると考えられるか、かつ/または急性合併症の高い危険性を負っていると考えられると処置する医師により決定された場合には除外した。
【0126】
第一の有効性の終点は、血管内超音波法(IVUS)により評価された1つの対象の(画像化された)冠状動脈の30〜80mmの部分における粉瘤体積パーセントの変化(処置の終了−処置前)であった。肯定的な結果は、0を含まない信頼区間(CI)を有する粉瘤体積パーセントの負の変化と規定した。
【0127】
第2の有効性の終点は、全粉瘤体積の平均変化および平均最大粉瘤厚さであった。第二の有効性終点をIVUSおよび血管造影について確立した。IVUSについては、第二の有効性終点は:
1)対象の冠動脈の解剖学的に比較可能な部分の全スライスについてのプラーク面積の平均を測定した場合の全プラーク「体積」における名目上の変化(処置の終了−処置前);
2)対象の冠動脈の解剖学的に比較可能な部分の全スライスについての平均最大プラーク厚さにおける名目上の変化(処置の終了−処置前);
3)最も軽度の患部および最も重度の患部の「体積」:
a)最小パーセントプラーク領域(最も軽度の患部として規定される)を含むベースラインにおける10mmの連続したスライスについての部分プラーク「体積」における名目上の変化(処置の終了−処置前);
b)最大パーセントプラーク領域(最も重度の患部として規定される)を含むベースラインにおける10mmの連続したスライスについての部分プラーク「体積」における名目上の変化(処置の終了−処置前)
であった。
【0128】
血管造影についての第2の有効性終点は:
1)全ての測定された冠動脈部分内の平均冠動脈管腔直径;
2)各処置サブグループにおける新しい血管造影病巣の数;
3)処置の終了において1つまたはそれ以上の新しい血管造影冠動脈病巣を有する被験体の比率;
4)後退を示す既存の病巣を含む部位の数;
5)進行を示す既存の病巣を含む部位の数;
6)任意の既存の病巣における「後退」を示す被験体の割合;
7)全ての既存の病巣において「進行または変化無し」を示す被験体の割合;
8)全ての既存の病巣において「後退または変化無し」を示す被験体の割合
であった。
【0129】
IVUSに関する方法は、Nissen 2001,Am.J.Cardiol.87:15A−20A(全て参照により本明細書に加入される)により記載されるように解析した。簡単に述べると、オペレーターは、IVUSビデオテープをデジタル化し、引き戻しを見直し、そして図2(A)に示されるように、解析のための始点として最も遠位の側枝の基点を選択した。続いて、正確に0.5mm間隔を空けられた一連の断面を表す30枚ずつの画像を解析のために選択した。最後に解析される断面は、図2(B)〜2(D)に示すように、左主冠動脈または右冠動脈入り口部(近位基準部位)の出現前の一続きの画像における最も近位の画像であった。同一の部分を両方の時点で解析したことを確実にするために、同一の目印を使用して、検証試験のために手順を繰り返した。
【0130】
指向性IVUS測定および派生的IVUS測定の両方を行った。直接IVUS測定を、米国心臓病学会および欧州心臓病学会の基準に従って行った(Mintzら 2001,J.Am.Coll.Cardiol.37:1478−92,全て参照により本明細書に加入される)。National Institute of Health Image 1.62(NIHパブリックドメインソフトウェア)を使用して、オペレーターは、スキャナーによりIVUS画像に符号化された1mmのグリッドマークを測定することにより較正手順を実行した。各断面について、管腔および外部弾性膜の境界の先端をなぞるために、オペレーターは手作業による面積測定を実行した(図3(A)〜3(D))。最大粉瘤厚さもまた直接測定した。これらの方法の精度および再現性は、以前に報告されており、較正後、平均IVUS断面積測定値は、3.24mm2〜27.99mm2の面積の範囲に及ぶ精密な穴をあけたルーサイト模型についての実際の寸法の0.5%以内であった(Schoenhagenら 2003,J.Am.Soc.Echocardiogr.16:277−84、全て参照により本明細書に加入される)。複数の観察者による測定の変動は、2.9%の標準偏差であることが実証された。
【0131】
派生的IVUS測定は、外部弾性膜(EEM)面積−管腔面積としての粉瘤面積の計算を含んでいた。画像断面は、0.5mm間隔で得られたので、合計の粉瘤体積は、平均粉瘤面積に引き戻し長さ(ミリメートル)を掛けることによりSimpson規則を使用して計算することができた。粉瘤体積パーセントを:(Σ 粉瘤面積/Σ EEM面積)×100(例えば、Nissenら,2003,JAMA 290:2292−2300を参照のこと)として算出した。冠動脈造影の解析を、Cleveland Clinic Foundationの中心の研究室において測定変動を減少するように設計された標準化方法を使用して行った。既知の寸法を有する血管造影用カテーテルチップの直径の比較を、システムを較正するために使用した。血管造影終点は、ベースラインから追跡までの平均冠動脈管腔直径の変化であった。
【0132】
57人の被験体を無作為に分けて、15mg/kgのETC−216、45mg/kgのETC−216または体積を一致させたプラセボを、7日ごとに(±1日)最大5回の静脈内用量で投与した。被験体を、15mg/kgのETC−216、45mg/kgのETC−216またはプラセボに2:2:1の比で無作為に分けた。47人の被験体が試験を完了した。
【0133】
15mg/kgの用量を約50分かけて静脈内に注入し、そして45mg/kgの用量を約150分かけて静脈内に注入した。吐き気の発生のために何人かの被験体については注入速度を増加させた。全ての静脈内注入は、末梢部に行われた。
【0134】
被験体を、ETC−216についての抗体レベル、身体診察、バイタルサイン、心電図(EKG)ならびに臨床的有害事象の頻度および強度を含む臨床検査パラメーターによりモニタリングした。血管造影およびIVUSを、各患者に対して2回行った。1回目は最初のスクリーニング訪問の完了後であり、そして二回目は、試験薬の最後の用量のおよそ2週間後(±7日)であった。
【0135】
以下の表2にまとめたように、肯定的な結果を第一の終点に関して得た。併用処置のグループ(15mg/kgまたは45mg/kgのいずれかの用量のETC−216を投与された患者)において、平均(標準偏差またはSD)粉瘤体積パーセントの変化は、−1.06%(3.17%)であった。中央値は−0.81%であった(95%CI、−1.53%〜−0.34%;p=0.02、ベースラインと比較)。プラセボグループについては、平均(SD)変化は、0.14%(3.09%)であった。中央値は、0.03%であった(95%CI、−1.11%〜1.43%;p−0.97、ベースラインと比較)。
【0136】
【表2】
【0137】
以下の表3に示すように、第2の終点に関しても肯定的な結果が得られた。ベースラインと比較して、併用処置グループにおける全粉瘤体積における平均(SD)変化は、−14.1mm3であった(39.5mm3;中央値 −13.3mm3;95%CI、−20.7〜−7.2;p<0.001)。プラセボグループについては、対応する変化は、−2.9mm3であった(23.3mm3)。中央値は−0.2mm3(23.3mm3)であった。中央値は、−0.2mm3;95%CI、−8.6〜8.2;p=0.97)であった。併用処置グループについての最大粉瘤厚さにおけるベースラインからの平均(SD)変化は、−0.042mm(0.080mm)であった。中央値は、−0.035mm(95%CI、−0.058〜−0.020;p<0.002)であった。プラセボグループについては、対応する変化は、−0.008mm(0.061mm;中央値−0.009(95%CI、−0.035〜0.026;p=0.83)であった。以下の表4を参照のこと。
【0138】
【表3】
【0139】
【表4】
【0140】
結果は、ETC−216がプラークサイズの減少において有効であることを示した。アテローム性動脈硬化症の統計的に有意な後退が、両方の処置グループにおいて実証された。
【0141】
実施例3:エクスビボLangendorff
この実施例は、再潅流された分離した虚血性ウサギ心臓における予防的ETC−216の心保護作用を実証する。体重約2〜3kgの雄性ニュージーランド白色ウサギ(Charles Riverから入手)を試験で使用した。雄性ニュージーランド白色ウサギを、この試験の目的に適切な試験システムのとおりに選択した。分離した虚血性再潅流ウサギ心臓は、ヒト心筋梗塞のモデルである。到着した際に、動物に独特の同定番号を割り当てた。
【0142】
動物の使用および世話に関するミシガン大学委員会のガイドラインに従って、ステンレス鋼のケージで動物を飼育した。獣医による世話が、実験動物医療に関するミシガン大学の部署により提供された。ミシガン大学は、the American Association of Accreditation of Laboratory Animal Health Careによる適格審査に合格しており、動物の世話使用プログラムは、Guide for the Care and use of Laboratory Animals,DHEW(NIH)Publ.No.86−23の基準に準拠している。
【0143】
ETC−216は、1:1の重量比の組換えアポリポタンパク質A−I Milano/1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスファチジルコリン複合体である。ETC−216のストック溶液は、14mgのタンパク質/mlをショ糖−マンニトール緩衝液中に含んでいた。ショ糖−マンニトール緩衝液は、Krebs−Henseleit緩衝液と非相容性であり、そしてマンニトール単独の任意の独立した効果を制御するために、ETC−216を透析して4mMリン酸ナトリウム(pH7.4)中2%のグルコースからなるバックグラウンド緩衝液を得た。ETC−216をKrebs−Henseleit緩衝液で希釈して、0.45mg/mlの薬物濃度を得た。賦形剤を同様に希釈した。
【0144】
用量選択は、EsperionのヒトフェーズI単一用量安全性臨床試験において使用された用量についての歴史的なデータに基づいており、この場合、100mg/kgまでのETC−216の用量がヒトに投与された。このプロトコルでまとめられた試験については、0.5mg/mlの濃度が、ヒトに投与された25mg/kgの静脈内用量にほぼ相当する。
【0145】
ウサギ心臓を潅流するためにLangendorff装置を使用して実験を行った。ウサギを頸椎脱臼により意識消失にし、そして心臓を迅速に取り出し、そして大動脈を通した潅流のためのカニューレに取り付けた。潅流媒体は、循環Krebs Henseleit緩衝液(pH7.4,37℃;「KH」)からなり、これを連続的に95% O2/5% CO2の混合物にさらし、そして20〜25ml/分の一定速度で送達した。心臓を、右心房に取り付けられた電極によりプロトコルの間中ペースを整えた。ペースを整える刺激を、研究用方形波発生器(生理学的なペースよりも10%速い、1msecの持続期間、Grass 588,Quincy,MA)から送った。冠状静脈洞への冠静脈還流示す肺動脈流出物の収集を容易にするために、肺動脈にSilasticTM管状部材を用いてカニューレ挿入した。上下の大静脈および肺静脈を、他の切断された血管からの灌水の損失を防ぐために結紮した。左心室排液管、サーミスタプローブ、およびラテックスバルーンを、左心房を介して挿入し、そして左心室に位置づけした。流体充填ラテックスバルーンを、左心室が生じる圧力の測定を可能にするためにMillerカテーテル圧力変換器に硬性管状部材を用いて接続した。心室内バルーンを蒸留水を用いて膨張させて、約10mmHgの初期ベースライン左心室拡張終期圧を達成させた。冠動脈潅流圧を、大動脈カニューレの側方アームに接続された圧力変換器を用いて測定した。冠動脈潅流の速度は一定に維持されたので、冠動脈潅流圧における変化は、冠動脈の抵抗性における変化の指標として役立った。全ての血流力学的変数を、Polyview Software Data Acquisition Systemとインターフェースで接続したGrass Polygraph 79D(Quincy,MA)のようなマルチチャンネルレコーダーを連続的に使用してモニタリングした。心臓を温度調節した二重管腔ガラスチャンバで囲み、そして潅流媒体を熱源および送達系に通すことにより、実験期間の間中、心臓を37℃に維持した。
【0146】
2つの処置グループを、以下に示されるような実験手順のために使用した。
グループ 処置 試験物質 濃度(mg/ml)
1 虚血および再潅流 賦形剤 0
2 虚血および再潅流 ETC−216 0.45
【0147】
虚血および再潅流
心臓を、図5に示されるように実験的に処置した。分離した心臓を、全体虚血の誘導の前20分間、正常酸素圧(酸素の正常レベル)条件下で安定化した。この期間の最初の10分間の間、心臓をKH緩衝液のみにさらし、次いでさらに10分間、賦形剤(グループ1)またはETC−216(グループ2)のいずれかを含有するKH緩衝液にさらした。次いで心臓を、30分間の虚血、続いて賦形剤(グループ1)またはETC−216(グループ2)を含有するKH緩衝液を用いた60分間の再潅流を受けさせた。心臓への灌水の流れを停止することにより全ての全体虚血の誘導を達成し、そしてポンプを作動して元の流量を回復させることにより心臓の再潅流を達成した。
【0148】
肺動脈流出物のアリコートを、全てのグループにおいてベースライン(虚血前)、そして初期の5分まで毎分、およびその後再潅流期間の間5分ごとに心臓から収集した。流出物を、クレアチンキナーゼ濃度(組織損傷の指標)について分析した(図6)。クレアチンキナーゼは、不可逆的に傷ついた細胞から放出される細胞質内酵素である。心機能を連続的にモニタリングした(図7)。心臓終点決定を以下に関して行った:
1−心電図−心拍(ペース調整) 不整脈の有無を検出するため;
2−左心室が生じる圧力(図8)(各グループにおける示された心臓の数についての平均±平均の標準誤差としてデータを示す);
3−左心室のdP/dt
4−左心室拡張終期圧(図9)(各グループにおける示された心臓の数についての平均±平均の標準誤差としてデータを示す);
5−冠動脈潅流圧(図10)(各グループにおける示された心臓の数についての平均±平均の標準誤差としてデータを示す);
6−再潅流の前後における組織クレアチンキナーゼの放出を決定するためのリンパ排液の収集(図6)
【0149】
実験プロトコルの終わりに、各処置グループから5つまでの心臓生検材料を、即座に液体窒素に浸漬し、そして−80℃で続く脂質ヒドロペルオキシド分析のために保存した。ホモジェネートサンプルを、脂質過酸化物に関するアッセイを行う前にタンパク質含量に対して正規化した(図11)。ETC−216は、この実施例において心臓脂質ヒドロペルオキシドを46%減少させた。
【0150】
指定されたプロトコルの終わりに、各グループからの2つの心臓を、3分間0.1Mカコジル酸(calcodylate)ナトリウム緩衝液(pH7.4)中の2.5%グルタルアルデヒドおよび1%LaCl3で潅流した。通常条件下で好濃LaCl3は、血管壁に結合した血管区画に保持され、そして血管完全性の指標として役立つ。脈管外隙へのLaCl3の管外遊出を、血管傷害の存在の指標として使用した。左心室心筋からの組織サンプルを取り出し、一辺が約1mmある断片に切り取った。サンプルをさらに2時間4℃にて上述の緩衝液中で固定した。その後、サンプルをエタノール系で脱水し、そしてEM bed−812(Electron Microscopy Sciences,Ft,Washington,PA)中に包埋した。組織ブロックをReichert超ミクロトームで切断し、そしてホルムバールをコーティングした銅グリッド上に配置し、続いて4%酢酸ウラニルで染色した。切片をPhillips CM−10電子顕微鏡で観察した。
【0151】
透過電子顕微鏡法を使用して、試験グループのそれぞれからの心筋標本を調べた。画像は、賦形剤で処置した心臓の筋節の構造的特徴が消え、そして収縮帯が存在することを示す。ミトコンドリアは、崩壊した結晶様および好濃の封入体で顕著に膨張している。ETC−216で処置した心臓において、筋節構造は、比較的正常であり、そしてミトコンドリアは、最小限の膨張があるだけで変化していないように見える。収縮帯が実質的に存在しないことは、コントロール心臓において観察される収縮帯と著しく対照的である。収縮帯壊死を防ぐETC−216の能力は、ETC−216で前処置された心臓が再潅流の際にLVEDPの増加を示さなかったという所見と一致している。収縮帯壊死およびLVEDPの持続した増加の両方が、細胞内カルシウム過負荷の増加および不可逆性細胞損傷と関連している。Z帯の筋原線維のかすみの存在、および筋原線維構造の崩壊は、多大な損害の指標である。他に予測される形態的損傷には、ミトコンドリアの崩壊したクリステおよびマトリックス、さらにミトコンドリア中の大きな電子密度の高い構造体が含まれた。倍率係数は、両方の顕微鏡写真(図12)において7900×であった。
【0152】
クレアチンキナーゼ濃度の分析(図6)は、静脈流出物への酵素放出の急速期が、再潅流の時点で起こることを示していた。コントロール心臓(賦形剤で処置された)は、ETC−216で処置した心臓と比較してクレアチンキナーゼの顕著な放出を示した。さらに、ETC−216で処置した心臓は、左心室の減少した拡張終期圧(図7および9)、上昇した左心室発生圧(図8)、減少した冠動脈潅流圧(図10)およびコントロール心臓(図11)と比較して減少した脂質ヒドロペルオキシド(LHP)を示した。さらに、ETC−216は、心筋における形態変化に対して保護した(図12)。これらの結果は、虚血性事象の前に投与された場合のETC−216の心保護作用を実証する。
【0153】
実施例4:LAD閉塞再潅流ウサギ心臓における100mg/kgでの急性および慢性投与
この実施例は、局所心筋虚血および再潅流のインビボモデルにおけるETC−216の心保護作用を実証する。雄性ニュージーランド白色ウサギを、この試験の目的に適切な試験システムのとおりに選択した。心臓への側副血液供給がないので、心筋血流測定を使用する必要がない。この試験において、種々の用量の投与計画を、別々のウサギグループに使用し、これらは、冠動脈結紮による30分の局所心筋虚血および再潅流を受けた。2つの投与計画を使用した。第一のプロトコルにおいて、局所虚血の開始直前に心臓を100mg/kgの薬剤にさらす単一の前処置としてETC−216を試験し、一方第2のプロトコルにおいて、局所虚血の開始前に2回の100mg/kgの前処置(1日前および直前)を施した。これらのプロトコルを(図13)に示す。この試験は、ウサギ心臓を30分の期間の間、局所心筋虚血の状態にし、続いて最小4時間再潅流するインビボ試験における心保護剤としてのETC−216の効果に注目した。この実施例は、ETC−216が、虚血性事象の後に与えられた場合心保護剤であることを実証する。
【0154】
この試験において使用された手順は、動物の使用および世話に関するミシガン大学委員会のガイドラインに従っている。獣医による世話が、実験動物医療に関するミシガン大学の部署により提供された。ミシガン大学は、the American Association of Accreditation of Laboratory Animal Health Careによる適格審査に合格しており、動物の世話使用プログラムは、Guide for the Care and use of Laboratory Animals,DHEW(NIH)Publ.No.86−23の基準に準拠している。
【0155】
体重約2〜3kgの雄性ニュージーランド白色ウサギ(Charles Riverから入手)を試験で使用した。到着した際に、動物に独特の同定番号を割り当てた。ウサギを、キシラジン(3.0mg/kg)およびケタミン(35mg/kg)の混合物を筋肉注射し、続いてペントバルビタール(30mg/kg)の静脈内注射を用いて麻酔した。ペントバルビタール(30mg/ml)の静脈注射を用いて麻酔を維持した。カフ付きの気管内チューブを挿入し、そして動物を大気での陽圧換気下に置いた。右頸静脈を分離し、そしてETC−216または一致した体積の賦形剤の投与のためにカニューレ挿入した。右頸動脈を分離し、そして大動脈血圧をモニタリングするため、および圧力パルスの導き出された一次導関数(dP/dt)を得るために、大動脈弁の直ぐ上に位置づけてMillarTMカテーテルマイクロチップ圧力変換器を取り付けた。誘導II心電図を実験の間中モニタリングした。左の開胸術および心膜切開術を行い、続いて左前下行枝(LAD)冠動脈の同定を行った。絹縫合糸(3.0;Deknatel,Fall River,MA)を動脈の後ろに通し、そして縫合糸の両端を短い長さのポリエチレン管状部材に挿入した。縫合糸の自由端に対して上向きの張力をかける間のポリエチレンチューブ上の下方の圧力は、下にある冠動脈を圧縮し、結果として血管の閉塞および局所心筋虚血を生じる。閉塞を30分間維持し、その後縫合糸に対する張力を緩めてポリエチレン管状部材を引き抜き、再潅流を起こさせた。局所心筋虚血を、閉塞した血管の分布領域にある部分の存在、および貫壁性局所心筋虚血の存在と一致する心電図における変化(ST上昇)により検証した。
【0156】
主要な終点決定は、左心室のパーセントとしておよび危険性領域のパーセントとしての梗塞サイズの測定から成っていた(図14および図15)。試験の終わりに、麻酔をしながらウサギにヘパリンを投与し(1,000U 静脈内)、その後それらを安楽死させた。心臓を切除し、次いでLangendorff装置でKrebs−Henseleit緩衝液を用いて22〜24ml/分の一定流量で大動脈を介して潅流する準備をした。組織が清浄であることを保証するために心臓を緩衝液で10分間洗浄した。リン酸塩緩衝液(pH7.4)中のトリフェニルテトラゾリウムクロリド(TTC)の1%溶液45ミリリットルを、心臓を通して潅流した。TTCは、赤レンガ色を有する危険性領域内の非梗塞心筋を区別し、生存心筋組織に存在している補酵素によるTTCの還元から生じるホルマザン沈殿物の存在を示す。細胞質デヒドロゲナーゼを欠いている、不可逆的に損傷した組織は、ホルマザン沈殿物を形成し得ず、そして淡黄色に見える。左前下行枝(LAD)動脈を、局所心筋虚血の誘導の間に結紮した領域と同一の位置で結紮した。潅流ポンプを停止し、そしてEvans Blueの0.25%溶液2mlをゆっくりと大動脈カニューレに接続された側枝ポートを通して注入した。色素が心臓を10秒間で通過し、色素の同等な分布を確認した。Evans Blueの存在を使用して、危険性領域とは対照的に、局所虚血を受けていない左心室組織を区別した。心臓を潅流装置から取り外し、そして縦軸に対して直角な横断面に切断した。右心室、心尖、および心房組織を廃棄した。各横断面の両面を、透明のアセテートシートに透写した。画像を複写して拡大した。コピーをスキャンしてAdobe PhotoShop(Adobe Systems Inc.,Seattle,WA)にダウンロードした。正常左心室(NLV)非危険性領域、危険性領域、および梗塞の面積を、Adobe Photo Shop Softwareを使用して各領域が占める画素の数を計算することにより決定した。危険性領域の合計を、左心室のパーセントとして表す。梗塞サイズを危険性領域(ARR)のパーセントとして表す(図14および図15)。
【0157】
ETC−216(100mg/kg)または等体積の賦形剤で、1回処置された(すなわち、急性処置)ウサギまたは2回処置された(すなわち、慢性処置)ウサギにおける危険性領域の梗塞パーセント、左心室の梗塞パーセント、および左心室の危険性領域パーセント。データは、グループあたりn=6の動物についての平均±平均の標準誤差である。図14におけるアスタリスクは、それぞれのコントロールとの有意な差を示す。
【0158】
他の終点決定を行った。最終的な梗塞サイズは、心筋酸素利用の増加または減少により影響され得る。心筋酸素補償の2つの重要な決定要因は、心拍および圧力負荷である。速度圧力積(心拍×平均動脈圧)は、心臓による心筋酸素必要量の変化の近似を提供する。従って、梗塞サイズの観察された減少が、速度圧力積の変化と相関していたかどうかを決定するために、速度圧力積を計算した。心拍および平均大動脈圧を、実験プロトコルの間連続的にモニタリングし、そしてデータを、各実験グループについての試験の特定の時点での速度圧力積を計算するために使用した。
【0159】
左心室の危険性領域パーセントは、急性および慢性投与の両方について、コントロールと比較してETC−216で処置した心臓において減少したが、結果は、統計学的に有意ではなかった。危険性領域の梗塞パーセントおよび左心室の梗塞パーセントは、急性および慢性投与の両方について、コントロールと比較してETC−216で処置した心臓において有意に減少した。これらの結果は、急性投与および慢性投与の両方の場合にETC−216が心保護性であることを示す。
【0160】
危険性領域および非危険性領域の心筋組織のクレアチンキナーゼ活性を比較することができる。アッセイの原理は、NADHへのNADの等モル還元の結果として340nmにおける反応混合物の吸光度の増加を基にした。吸光度の変化率は、クレアチンキナーゼ活性に直接比例する。1単位は、アッセイ手順の条件下で1分あたり1マイクロモルのNADPHを生成する酵素の量として定義される。
【0161】
再潅流無しに長期の血流妨害(虚血)を受けた心筋組織は、炎症性細胞の存在に沿った壊死に特徴的な形態変化を受ける。虚血誘導細胞死の形態学的外観は、再潅流の結果として発生する外観とは異なる。後者は、収縮帯を特徴とし、そして収縮帯壊死と呼ばれる。各グループからの心臓組織を保存し、そして電子顕微鏡による検査のために準備をした。
【0162】
虚血性再潅流傷害は、危険性領域における炎症性細胞(大部分は好中球)の蓄積と関係がある。ミエロペルオキシダーゼ(MPO)は、ほとんど好中球にのみ存在する酵素である(Liuら,J.Pharmacol.Exp.Ther.287:527−537,1998)。従って、心臓のそれぞれの領域からの組織を、傷害の指標としてMPO活性についてアッセイすることができると予測される。炎症性応答を低減し得る介入が、処置されていない動物の危険性領域からの心臓組織と比較した場合に、再潅流した危険性領域におけるMPO活性の減少と関連することもまた予測される。それ故、MPO活性の変化パーセント(危険性領域/非危険性領域)は、コントロールの賦形剤で処置した心臓と比較して、薬物で処置された心臓において減少するであろう。
【0163】
実験の終わりに、組織ミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性を、予備的な無制御の未検証のアッセイで決定した。心臓組織サンプルを、危険性領域および非危険性領域から得て、0.5%のヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド中で均質化し、そして50mMのリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)に溶解した(Liuら,1998,J.Pharmacol.Exp.Ther.287:527−537も参照のこと)。ホモジェネートを12,500gで4℃にて30分間遠心分離した。上清を収集し、そして0.167mg/mlのo−ジアニシジン二塩酸塩(Sigma)および50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)中の0.0005パーセントH2O2と反応させた。吸光度の変化を分光光度法で460nmにて測定した。1単位のMPOを、25℃で1mmolのH2O2/分を加水分解する酵素の量として定義した。この予備的実験からの結果(本明細書には示していない)は、ETC−216で処置された心臓と賦形剤で処置された心臓との間で虚血性再潅流傷害に関しては全く差がないことを示しているように思えるが、これらの結果はまだ、例えば、虚血性再潅流傷害前のMPOレベルの比較により検証されていない。
【0164】
危険性領域の梗塞パーセントおよび左心室の梗塞パーセントの減少により実証されるように、ETC−216で処置された心臓は、虚血性再潅流傷害から保護された。心保護は、両方の投与プロトコル、すなわち、虚血の開始前に単一の100mg/kgの用量として投与されるETC−216または2回の100mg/kgの用量(1回の用量は虚血の1日前に与えられ、そして2回目の用量は虚血の直前に与えられる)で投与されるETC−216、により与えられる。
【0165】
実施例5:LAD閉塞再潅流ウサギ心臓における急性投与についての最小有効用量の決定
この実施例は、局所虚血の開始直前の単一前処置として投与された場合の種々の用量のETC−216の予防的有効性を実証する。実施例2における試験は、インビボ試験における心保護剤としてのETC−216の効果に注目し、この試験ではウサギ心臓を30分の間局所心筋虚血状態にし、続いて最小4時間の再潅流をした。2つの投与計画を使用した。第一のプロトコルでは、ETC−216を単一の前処置として試験し、ここでは全身循環を局所虚血の直前に100mg/kgの薬剤にさらしたが、一方第二のプロトコルでは、2回の100mg/kgの前処置を局所虚血の開始前(一日前および直前)に投与した。両方のレジメンは、100mg/kgのETC−216を用いる1回または2回の処置のいずれもが心保護性であることを示した。
【0166】
従って、ETC−216を、心保護に対する効果を決定するために単一の前処置として試験し、ここでは心臓を単一用量の薬剤または等体積の賦形剤に局所虚血の直前にさらした。心臓を実施例2で使用した方法と同じ方法により解析した。さらに、このプロトコルを、虚血からの保護のためにウサギ心臓を処置するためのETC−216の最小有効用量を見つけるためにデザインした。
【0167】
ETC−216の最小有効用量を見つけるために、急性処置についての同じプロトコル(図13を参照のこと)を使用した。ここでは、図16に示されるように、動物に10、3もしくは1mg/kgのETC−216または等体積の賦形剤のいずれかの単一処置を施した。10mg/kgの処置のグループについての全左心室のパーセントとして表される危険性領域(AAR)または虚血性領域は、コントロールグループおよび処置グループで同様であった(図17)。10mg/kgのETC−216で処置されたウサギは、賦形剤で処置されたウサギと比較して、AARのパーセントとして表されるより小さい梗塞(p<0.0005)を発生した(図18)。心筋梗塞サイズの減少(p<0.0001)もまた、データを全左心室のパーセントとして表した場合に見られた(図17)。
【0168】
3mg/kgの用量を用いて同様の結果が得られた。全左心室のパーセントとして表されたAARは、ETC−216で処置されたグループおよび賦形剤で処置されたグループにおいて同様であった(図17)。3mg/kgのETC−216で処置されたウサギは、賦形剤で処置されたウサギと比較して、危険性領域のパーセントとして表されたより小さな梗塞を発生した(p<0.05)(図17)。心筋梗塞サイズの減少(p<0.05)は、データを全左心室のパーセントとして表した場合に観察された(図17)。
【0169】
1mg/kgの用量を用いると、左心室のパーセントとして表された場合のAARのサイズにおいてETC−216と賦形剤との間には有意な差は示されなかった(図17)。1mg/kgでは、AARのパーセントとしてのグループ間(図17)、および全左心室のパーセントとして表された心筋梗塞サイズ(図17)におけるグループ間で有意な差は示されなかった。
【0170】
4つの急性処置グループ(すなわち、100、10、3および1mg/kg)のそれぞれおよびそれらのそれぞれのコントロールからのデータのまとめを図17に示す。梗塞のAARは、4つのグループのそれぞれにおいて同様であった。4つの投与計画のうち、危険性領域のパーセントまたは左心室のパーセントのいずれで表されても、それぞれのコントロールと比較すると、梗塞サイズは、100、10および3mg/kgのETC−216の用量で減少した。対照的に、1mg/kgを与えられた動物のグループにおける梗塞サイズは、それぞれの賦形剤で処置されたグループにおいて観察された梗塞サイズと差がなかった。
【0171】
図18は、リポタンパク質非エステル化コレステロールにおける一時的変化の例を示す。血液サンプルを、1、3、10もしくは100mg/kgのETC−216または賦形剤の投与の直前および投与後定期的にウサギから得た。それぞれの一時的な血清サンプルにおいて得られた非エステル化コレステロールプロファイルを示し、ここで血清リポタンパク質を、オンライン非エステル化コレステロール分析を伴うゲル濾過クロマトグラフィーによりサイズに基づいて分離した。静脈内に投与されたETC−216試験薬剤中に非エステル化コレステロールが実質的に存在しないのにもかかわらず、特に100mg/kg、そしてより低い程度で10mg/kgにおいて、ETC−216の投与後45分で高密度コレステロール非エステル化コレステロールが上昇したことに注目のこと。10mg/kgまたは100mg/kgのいずれかのETC−216の投与後210分および270分における超低密度リポタンパク質非エステル化コレステロールの遅れた顕著な上昇にも注目のこと。リポタンパク質非エステル化コレステロールの変化は、評価した時点において3mg/kgのETC−216処置用量では明らかではなかったことにも留意のこと。しかし、この用量は、図17に示されるように心保護性であった。
【0172】
結果は、100mg/kg、10mg/kgおよび3mg/kgの用量が、ETC−216の有効な予防的用量であることを実証する。
【0173】
実施例6:ETC−216は、閉塞した再潅流ウサギ心臓におけるLAD閉塞の開始後に投与された場合、虚血−再潅流傷害を防止する
この実施例は、虚血性事象または閉塞事象後に投与された場合に、虚血性再潅流傷害を予防または低減する際のETC−216の有効性を実証する。実施例2および3における試験は、虚血の開始前に心筋を処置する予防的利点を明らかにする。従って、ETC−216が虚血の開始後に心筋を保護し得るかどうかを決定するために、LADを試験薬剤または賦形剤の投与の前に閉塞させた。このプロトコルにおいて、ETC−216を、単一の処置として試験し、ここでは、局所虚血の最後5分間の間に投与され、そして再潅流の最初の55分をとおして続けられる、10mg/kgの薬剤または等体積の賦形剤に心臓をさらした(図19)。10mg/kgの処置グループについての全左心室のパーセントとして表されるAARまたは虚血性領域は、コントロールグループと同様であった(図20)。ETC−216で処置されたウサギは、賦形剤で処置されたウサギと比較して、AARのパーセントとして表されるより小さな梗塞(p<0.001)を発生した(図20)。心筋梗塞サイズの減少(p<0.0005)もまた、データが全左心室のパーセントとして表される場合に観察された(図20)。
【0174】
この実施例は、虚血性事象の後に施された単一処置が、虚血性再潅流傷害を緩和または減少させたことを実証する。
【0175】
本発明の種々の実施態様が記載されている。説明および実施例は、本発明の例示であり限定ではないことが意図される。実際に、本発明の精神または添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、変更が本発明の種々の実施態様に対してなされ得ることは、当業者にあきらかである。
【0176】
本明細書中に引用される全ての参考文献は、全て参照により本明細書に加入される。
【図面の簡単な説明】
【0177】
【図1】正常雄性被験体における血清HDLに対するETC−216の単一用量の急性効果を示す。
【図2】2Aは、遠位基準枝(部位C)で始まって近位枝(部位A)で終わる、IVUS画像化カテーテルの電動式引き戻しを示す。カテーテルの経路を、血管造影図に図示する;2Bは、近位枝に達するまで0.5mmごとに得られた血管の代表的な断面を示す;2Cは、血管の中間断面を示す;2Dは、IVUS画像における遠位枝を示す。
【図3】3Aは、解析のための断面を示す;3Bは、外部弾性膜(EEM)を示す;3Cは、管腔領域を示す;3Dは、EEMの面積から管腔の断面積を引くことにより測定された最大粉瘤厚さの計算を示す。
【図4】4Aは、ETC−216を与える前の患者における血管のベースライン画像を示す;そして4Bは、ETC−216を与えられた後の患者における血管の追跡画像を示す。管腔面積は実質的に変化することなく、粉瘤面積が8.1から5.35mm3に減少した。
【図5】プロトコルの例であり、ここでは分離したウサギ心臓を、虚血の開始前に賦形剤または本発明のタンパク質/脂質複合体(ETC−216)で処置した。
【図6】冠状静脈流出物におけるクレアチンキナーゼ活性を示す。
【図7】Langendorff装置における賦形剤で処置された分離ウサギ心臓およびETC−216で処置された分離ウサギ心臓から収集した心機能の実時間モニタリングを示す。
【図8】30分の全体虚血性停止および60分の再潅流の前、間、および後の分離ウサギ心臓における左心室発生圧力(LVDP)の一時的な変化を示す。
【図9】30分の全体虚血性停止および60分の再潅流の前、間、および後の分離ウサギ心臓における左心室拡張終期圧(LVEDP)の一時的な変化を示す。
【図10】30分の全体虚血性停止および60分の再潅流の前、間、および後の分離ウサギ心臓における冠動脈潅流圧(CPP)の一時的な変化を示す。
【図11】30分間の全体虚血性停止、続いて60分再潅流させた、賦形剤で処置したウサギ心臓およびETC−216で処置したウサギ心臓からの組織ホモジェネートにおける脂質ヒドロペルオキシド含量を示す。
【図12】賦形剤で処置されたウサギ心臓およびETC−216で処置されたウサギ心臓からの心筋サンプルの電子顕微鏡画像を示す。
【図13】本発明のさらなるプロトコルを示し、ここでは急性投与グループにおいて虚血の開始前に1回の前処置を施し、そして慢性投与グループにおいて虚血の開始前に2回の前処置を施した。
【図14】梗塞のサイズを決定するためのプロトコルを示す。
【図15】ETC−216(100mg/kg)で1回処置(すなわち、急性処置)もしくは2回処置された(すなわち、慢性処置)か、または等容量の賦形剤で処置されたウサギにおける危険性領域の梗塞パーセント、左心室の梗塞パーセント、および左心室の危険性領域のパーセントを示す。
【図16】本発明のさらなるプロトコルを示し、ここではウサギを虚血の開始前に賦形剤(グループ1)または10、3もしくは1mg/kgのETC−216(グループ2)のいずれかで前処置した。
【図17】各グループについて10、3もしくは1mg/kgのETC−216で1回処置された(すなわち、急性処置)か、または等容量のショ糖−マンニトール賦形剤で処置されたウサギにおいて決定された危険性領域の梗塞パーセント、左心室の梗塞パーセント、および左心室の危険性領域パーセントを示す。
【図18】リポタンパク質非エステル化コレステロールの一時的な変化を示す。
【図19】本発明のさらなるプロトコルを示し、ここでは30分の虚血性期間の最後の5分間に賦形剤、ETC−216の単一処置を施した。
【図20】ウサギにおいて決定された危険性領域の梗塞パーセント、左心室の梗塞パーセント、および左心室の危険性領域パーセントを示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、急性冠症候群を処置または予防するための新規な製剤および方法を提供する。好ましい実施形態において、製剤は、特定のpH、重量オスモル濃度および純度を有する単一の単位投薬形態である。好ましい方法において、製剤は、投与あたり約1mg/kg〜約100mg/kgの用量範囲で、週に一度、月に一度または年に一度投与される。さらに、用量および投与計画、さらにその用量または投与計画が使用されることを意図される特定の疾患が開示される。製剤および方法は、アポリポタンパク質A−I Milano:リン脂質複合体を使用する。
【背景技術】
【0002】
心筋梗塞の管理および処置は、20世紀の前半から劇的に変化しており、安静と観察の時代から、血行動態モニタリングおよびバルーンカテーテルを含む技術に重点を置き、血栓溶解療法に対して関心が高まるまでに進歩している。(AntmanおよびBraunwald,「Acute Miocardial Infarction」Heart Disease,A Textbook of Cardiovascular Medicine,第6版、第2巻、Braunwaldら編、2001,W.B.Saunders Company,Philadelphia)。心循環器疾患の処置に対する治療アプローチは、根底にある病理のより深い理解と共にこの100年で大いに発展してきた。
【0003】
ほとんど全ての心筋梗塞は、一般的に冠状動脈血栓症を併発した冠状動脈硬化症の結果として生じる。ゆっくりと蓄積するプラークは、側副血管の発達に起因して無症候性であり得る。しかし、動脈硬化性プラーク、特に脂質が多い動脈硬化性プラークは、突然のプラーク破綻を起こす傾向がある。プラーク破綻および付随する内皮損傷は、トロンボキサンA2、セロトニン、アデノシン二リン酸、トロンビン、血小板活性化因子、組織因子および酸素由来フリーラジカルのようなメディエーターの放出を引き起こす。これらのメディエーターは、血小板凝集を促進し、そして機械的閉塞がしばしば血栓形成をもたらし、これが血流および酸素供給を妨害する。心筋の酸素供給の持続する重篤な妨害は、急性心筋梗塞をもたらし得る(Rioufolら,2002,Circulation 106:804,Timmis,2003,Heart 89:1268−72を参照のこと)。
【0004】
アテローム性動脈硬化症の薬物療法の主力は、治療の終点としてLDLまたは「悪玉コレステロール」を低下させることに主に集中することにより動脈硬化性プラークの発達を防止するかまたは遅らせるための長期治療であった。例えばスタチン療法は、心臓血管の健康状態の改善に大いに寄与してきた;しかし、横紋筋融解のような副作用が依然として障害となっている。さらに、スタチンは、急性の状況では、例えば虚血性発作の間に脆弱で不安定な動脈硬化性プラークを減少させることにほとんど機能しない。急性処置は、(tPAのような)血栓溶解薬ならびに経皮経管冠動脈形成術(PTCA)および冠動脈バイパスグラフト(CABG)のような外科的介入に大部分依存していた。血栓溶解薬は、閉塞している血栓を減少させるかまたは排除することによる緩和をもたらすが、それらは根底にある病理を変更することはない。PTCAのような介入は、それ自体危険性を有しており、そしてしばしば急性状態にある患者には不適切である。それゆえ現在の薬理療法は、一旦不安定なプラークが危険性として現れた場合には患者にほとんど役立たない(NewtonおよびKrause 2002,Atherosclerosis S3:31−38を参照のこと)。
【0005】
HDL療法は、異常脂質血症およびアテローム性動脈硬化症のための新しい処置パラダイムとして浮上している。すなわち、アポリポタンパク質A−I Milano(アポA−I Milano)は、このアポリポタンパク質の変異形のキャリアが低いHDL(「善玉コレステロール」)レベルおよび心循環器疾患の減少した危険性を有するという矛盾した発見に起因して興味を持たれてきた。(Franceschiniら,1980,J.Clin.Invest.66:892−900,Weisgraberら,1983,J.Biol.Chem.258:2508−2513,Franceschiniら,1985,Atherosclerosis 58:159−174,Franceschiniら,1987,Arteriosclerosis 7:426−435)。アポA−I Milanoホモダイマーは、コレステロールを与えられたウサギにおける内膜肥厚を低減することが見いだされた(Ameliら,1994,Circulation,90:1935−41およびSomaら,1995,Cir.Res.76:405−11)。アポE欠損マウスにおいて、アテローム性動脈硬化部は、複数回の低用量と単回の高用量のアポA−I Milano:脂質複合体の両方により減少した(Shahら,1998,Circulation 97:780−85およびShahら,2001,Circulation 103:3047−50)。ウサギにおけるプラーク退縮は、ウサギ1匹あたり500mgのタンパク質の用量と1000mgのタンパク質の用量でアポA−I Milano:リン脂質複合体を単回局所注入することでも実証された。(Chiesaら,2002,Cir.Res.90:974−80)。ウサギモデルにおいて誘発された病巣は、大部分がマクロファージからなり、そしてヒトにおけるより複雑な病巣の典型ではない。従って、類似の処置がヒトのアテローム性動脈硬化症において見られる複雑なプラークに対して有効であるかどうかは不確定である。(Liら,1999,Arterioscler Thromb Vasc Biol 19:378−383およびShahら,2001,Circulation 103:3047−50)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
心筋梗塞の病態生理学の改善された理解およびHDL療法における進歩にもかかわらず、ヒトにおけるアポA−I MilanoまたはアポA−I Milano:脂質複合体の予防的使用および治療的使用のための安全かつ有効な用量、投与計画および医薬製剤が未だ望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アテローム性動脈硬化症、急性冠症候群、虚血、虚血性再潅流傷害、狭心症および心筋梗塞を含む心循環器疾患または関連する障害の処置および予防、ならびに動脈硬化性プラークの低減または安定化、閉塞した血管におけるプラークの低減およびコレステロール流出の促進のための、方法および医薬製剤を提供する。それ故本発明は、アテローム性動脈硬化症、急性冠症候群、虚血性再潅流傷害、狭心症および心筋梗塞を含む心循環器疾患または関連する障害の処置または予防、ならびに動脈硬化性プラークの低減または安定化、閉塞した血管におけるプラークの低減およびコレステロール流出の促進のための、アポA−I Milano:リン脂質複合体およびアポA−I Milano:リン脂質複合体の医薬製剤の使用のための用量および投与計画を包含する。本明細書中に記載される方法および製剤は、未処置のままにされるかまたは従来の方法により処置された場合には破綻し、そして急性冠症候群を含む虚血性事象をもたらし得る不安定な動脈硬化性プラークの迅速な減少または安定化をもたらす。
【0008】
出願人らは、アポA−I Milano、好ましくはアポA−I Milano:リン脂質複合体のような外因的に産生されたHDLミメティックが、心循環器疾患もしくは関連する障害(このような障害としては、アテローム性動脈硬化症,急性冠症候群、虚血、虚血性再潅流傷害、狭心症および心筋梗塞が挙げられるがこれらに限定されない)の処置および予防、または狭窄もしくは閉塞した血管における動脈硬化性プラークの低減もしくは安定化のための独特のアプローチを提供することを解明した。本発明の用量および投与計画を含む方法ならびに医薬製剤は、コレステロール流出および動脈硬化性プラークからの移動を迅速に促進する安全で有効な非外科的処置を提供する。迅速なコレステロール流出の促進は、1つまたはそれ以上の罹患した血管における粉瘤体積を減少させる。粉瘤(動脈硬化性血管に生じる変性し肥厚した動脈内膜のプラークの塊)の減少は、より多い血流を可能にし、そして不安定狭心症、心筋梗塞および急性冠症候群を含む虚血の危険性を低減する。
【0009】
急性冠症候群、アテローム性動脈硬化症、狭心症、心筋梗塞、および虚血性再潅流傷害を含む心循環器疾患の処置および予防のためのアポA−I Mの医薬製剤および特定の用量を提供する本発明の以前には、従来のアテローム性動脈硬化症の治療は、治療の終点としてLDLまたは「悪玉コレステロール」を低下させることに集中していた。これらの従来のLDL療法、例えばスタチンを用いる処置は、LDL血清レベルが被験体において減少するまで何ヶ月もの処置を要することがある。急性または新たに生じる心臓血管障害において、従来の治療は、経皮経管冠動脈形成術(PTCA)および冠動脈バイパスグラフト(CABG)のような外科的介入に大部分依存していた。しかし、外科的介入は、緊急事態にある一部の患者、特に全身の健康状態が不良の患者にはしばしば禁忌である。さらに、これらの従来の方法は、急性状態において有効な非外科的薬物治療を提供しない。その上、従来の治療は、特に循環系における心循環器疾患および急性冠症候群の症状を処置することに集中していた。上に記載されそして以下に詳述される従来の治療は、LDLコレステロールを低減すること、血栓形成を低減すること、および血圧を低下させることに集中しており、これらは心循環器疾患および急性冠症候群の根底にある原因、血管壁内のプラークの安定化、減少および改善を処置も予防もしない。
【0010】
本明細書中に提供される用量および投与スケジュールを含む医薬製剤および方法は、安全かつ有効であり、そして動脈硬化性プラークを低減または安定化するように迅速に作用する。本明細書中に記載される用量は、迅速に作用し、コレステロール移動を促進することにより、早ければ数週間で動脈硬化性プラークの減少をもたらす。特定の実施態様において、本明細書中に記載される用量を、急性冠症候群または虚血もしくは血管閉塞に関連した障害に罹患した被験体を処置するために使用することができる。特定の実施態様において、本明細書中に記載される用量を、ひとたび動脈硬化性プラークが被験体に危険をもたらした場合に疾患の進行を防止するために使用することができる。防止される疾患の進行は、血管のさらなる閉塞であり得、または急性冠症候群および虚血性再潅流傷害を含む虚血性状態をもたらし得る不安定な動脈硬化性プラークの破綻を防止することであり得る。
【0011】
本明細書中に提供される方法および医薬製剤は、とても効果的であるので、45mg/kgの単一用量が、動脈硬化性プラークからのコレステロール移動を刺激することができる。特定の実施態様において、単一高用量、例えば、約45mg/kgのアポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤を、被験体に投与することができる。特定の実施態様において、1つまたはそれ以上の高用量のアポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤を、被験体に投与し、続いて1つまたはそれ以上の同じ用量(45mg/kg)またはより低い用量、例えば、約1mg/kg、約3mg/kg、約5mg/kg、約10mg/kgまたは約15mg/kgを投与することができる。例えば、被験体は、45mg/kgの2用量を投与され、次いで10mg/kgのさらなる用量を投与されてもよい。さらに、低用量に続いて高用量という反対の投与計画を使用してもよい。当然のことながら、急性疾患状態については、より高い用量が最初に好ましく使用される。特定の実施態様において、被験体は、数週間、週に一度アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤で処置され得、次いで断続的に、例えば年に2回、年に1回または2年ごとに、開通した非閉塞血管を維持し、そしてプラーク破綻および不利な血管事象の危険性を低減する必要に応じて処置され得る。
【0012】
特定の実施態様において、急性冠症候群の処置または予防のための方法は、アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤をほぼ毎日、ほぼ1日ごと、ほぼ3日ごと、ほぼ4日ごと、ほぼ5日ごと、ほぼ6日ごと、ほぼ7日ごと、ほぼ8〜10日ごと、またはほぼ11〜14日ごとに、その処置または予防を必要とする被験体に投与することからなる。好ましい実施態様において、アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤を、ほぼ7日ごとに投与することができる。特定の実施態様において、アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤の投与は、1回の投与であり得る。特定の実施態様において、投与は、約1週間、約2週間、約3週間、約4週間、約5週間、約6週間、約7〜12週間、約13〜24週間または約25〜52週間、続けることができる。特定の好ましい実施態様において、アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤の投与は、約5週間ほぼ7日ごとである。特定の実施態様において、投与は、例えば約5週間後に断続的であり得る。例えば、被験体は、約5週間週に1回処置され得、次いで翌年の間に約3〜約4回処置され得る。特定の実施態様において、本明細書中に記載される医薬製剤は、血管の開通性を維持するために断続的に被験体に投与され得る。例えば、約15mg/kgの用量が、約7週間ほぼ10日ごとに医薬製剤投与に投与され得、次いで、例えば約26週後または約52週後に処置され得る。従来の薬物療法および外科的介入と組み合わせた投与スケジュールおよび方法の使用を含む他の実施態様は、本明細書で以下に記載される。
【0013】
本発明は、急性冠症候群および虚血性再潅流傷害の処置または予防のためのアポリポタンパク質A−I Milano(アポA−I Milano)の投与のための医薬製剤を提供する。好ましい実施態様において、アポA−I Milanoは、本明細書中に記載される方法のために脂質と複合体化される。例えば、脂質は、リン脂質、好ましくは1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスファチジルコリンまたはPOPCとも呼ばれる)であり得る。最も好ましい実施態様において、アポA−I Milano:POPC複合体は、医薬製剤であり得る。別の好ましい実施態様において、アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤は、約1mgのタンパク質/kg〜約100mgのタンパク質/kgの用量でそれを必要とする被験体に投与され得る。
【0014】
特定の実施態様において、方法は、急性冠症候群の処置のためにアポA−I Milano:リン脂質複合体またはその注射可能もしくは液体の医薬製剤の用量を投与することを含み得る。好ましい実施態様において、アポA−I M:リン脂質複合体またはその医薬製剤は、約1mg(タンパク質)/kg〜約100mg(タンパク質)/kgの用量でそれを必要とする被験体に投与され得る。特定の実施態様において、方法は、静脈内注入としてのアポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤の投与による急性冠症候群の処置または予防を含み得る。特定の実施態様において、方法は、管注(intravenous push infusion)としての投与を含み得る。管注により、アポA−I Milano:リン脂質またはその医薬製剤が、5分まで、例えば2〜5分のような短時間にわたって静脈内に投与されることを意味する。特定の実施態様において、アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤の投与は、持続性静脈内注入を含み得る。持続性静脈内注入により、アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤が、2〜5分より長い時間、例えば約30分〜約3時間にわたって連続的に投与されることを意味する。持続性静脈内注入は、輸液ポンプまたは輸液用器具を用いて投与することができる。特定の実施態様において、アポA−I Milano:リン脂質またはその医薬製剤の投与は、アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤の持続性静脈内注入と管注(「ボーラス投与」)との併用であり得る。ボーラス投与は、持続性注入の前、後、または間に投与され得る。特定の実施態様において、アポA−I Milanoもしくは脂質複合体またはその医薬製剤の投与は、心循環器疾患、付随するかもしくは合併している疾患を処置もしくは予防するか、症状軽減をもたらす他の薬物と併用することができる。他の薬物の投与は、同時または逐次的であり得る。
【0015】
方法は、本明細書に記載される医薬製剤の静脈内注射を提供する。任意の適切な血管を注射に使用することができ、腕の肘窩における血管のような末梢血管または胸部への中心静脈ラインが挙げられる。好ましい実施態様において、医薬製剤は、被験体の腕の肘窩における橈側皮または肘正中皮血管に注入される。
【0016】
特定の実施態様において、方法は、高用量もしくは低用量またはそれらの組み合わせでのアポA−I Milano:リン脂質複合体の医薬製剤の投与を含み得る。本明細書中以下に記載されるように、短い投与間隔での高用量の医薬製剤は、部分的または完全に閉塞した血管を有する被験体において粉瘤体積を安全かつ効果的に低減することができる。特定の実施態様において、医薬製剤は、閉塞した血管の閉塞物を取り除くためのPTCAのような外科的介入の前、間、または後に投与され得る。特定の実施態様において、1つまたはそれ以上の断続的用量は、以前に閉塞した血管の開通性を維持するために被験体に投与され得る(「維持用量」)。
【0017】
本発明は、虚血性再潅流傷害の処置または予防に対する新規なアプローチ、すなわち、虚血性再潅流の処置について本明細書に記載されるアポA−I Milano複合体の医薬製剤の使用または用量を提供する。この処置に有用な用量は、それを必要とする被験体へ投与される100mg/kgまでのアポA−I Milano:リン脂質複合体の用量を含む。特定の実施態様において、方法は、約1mg/kg〜約100mg/kg(被験体の体重)の用量でアポA−I Milano:リン脂質複合体の医薬組成物を投与することを含み得る。特定の実施態様において、方法は、約10mg/kg〜約50mg/kgの用量でのアポA−I Milano:リン脂質複合体の医薬組成物の投与を含み得る。好ましい実施態様において、方法は、約15mg/kgの特定の用量でのアポA−I Milano:リン脂質複合体の医薬組成物の投与を含み得る。別の好ましい実施態様において、方法は、約45mg/kgの特定の用量でのアポA−I Milano:リン脂質複合体の医薬組成物の投与を含み得る。本発明はまた、好ましくは、単独または45mg/kgの用量と組み合わせた15mg/kgの使用を含む。同様に、45mg/kgの用量は、単独または15mg/kgの用量と組み合わせて虚血性再潅流傷害の処置または予防のために使用することができる。
【0018】
本明細書中で提供される医薬製剤は、被験体への安全な投与を可能にするために適切なpH、重量オスモル濃度、張度、純度および滅菌性のアポA−I Milano:リン脂質複合体を含む。医薬製剤は、単一の1回限りの使用のために製剤され得、または医薬製剤を複数回用量に適するようにする、以下に記載されるような抗菌性補形薬を含有するように製剤され得る。特定の実施態様において、医薬製剤は、凍結または冷蔵することができる滅菌プレフィルドシリンジまたは滅菌プレフィルドバッグであり得る。好ましい実施態様において、アポA−I Milano:脂質複合体は、アポA−I Milano:リン脂質複合体である。より好ましい実施態様において、アポA−I Milano:リン脂質複合体は、アポA−I Milano:POPCである。
【0019】
特定の実施態様において、医薬製剤は、単位用量または使用単位包装であり得る。当業者に公知であるように、単位用量包装は、単一用量の薬物の被験体への送達を提供する。本発明の方法は、例えば、一包装あたり1050mgのアポA−I Milanoタンパク質を含む医薬製剤の単位用量包装を提供する。例えば、1050mgのアポA−I Milanoタンパク質は、70kgの被験体に15mg/kgのアポA−I Milanoを投与する量である。この単位は、例えば滅菌単回使用バイアル、滅菌プレフィルドシリンジ、滅菌プレフィルドバッグ(すなわち、ピギーバック)などであり得る。
【0020】
特定の実施態様において、医薬製剤は、使用単位包装であり得る。当業者に公知であるように、使用単位包装は、医療関連業者による直接販売用にラベルを付けられた便利な規定サイズの患者用に準備された(patient−ready)単位であり得る。使用単位包装は、所定の適応のための典型的な処置間隔および継続期間に必要な量で医薬製剤を含有する。本発明の方法は、例えば、平均的なサイズの成人男性または女性を15mg/kgのアポA−I Milanoタンパク質で5週間週に一度静脈内で処置するのに十分な量でアポA−I Milano:リン脂質複合体を含む医薬製剤の使用単位包装を提供する。それ故、上記のような使用単位包装は、5用量のアポA−I Milano:リン脂質複合体(バイアルまたはプレフィルドシリンジで入手可能)を有するだろう。一実施態様において、使用単位包装は、平均的なサイズの成人男性または女性を6週間週に一度15mg/kgまたは45mg/kgの用量で処理するのに十分な量でアポA−I Milano:リン脂質複合体を含む医薬製剤を含み得る。本明細書中に記載される用量が、被験体の体重に基づくことは当業者に明らかだろう。
【0021】
医薬製剤は、ラベルを付けることができ、そしてその中に含まれる製剤を同定するための添付標示、ならびに医療関連業者および急性冠症候群の処置中の被験体に有用な他の情報を有し得、この情報としては、使用上の注意、用量、投与間隔、継続期間、適応、禁忌、警告、事前注意、取り扱いおよび保管の指示などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0022】
5.1.定義
本明細書中で使用される場合、以下の用語は、以下の意味を有するべきである:
用語「処置する」、「処置すること」、または「処置」とは、疾患、障害および/またはその症状を軽減するかまたは終わらせる方法をいう。
【0023】
用語「治療有効量」とは、処置される状態または障害の症状の1つまたはそれ以上をある程度軽減するのに十分な、アポA−I Milanoもしくは脂質複合体またはその医薬製剤の量をいう。
【0024】
用語「予防する」、「予防すること」、または「予防」とは、被験体が疾患、障害および/またはその症状を患うことを防ぐ方法をいう。特定の実施態様において、用語「予防する」、「予防すること」、または「予防」とは、疾患、障害および/またはその症状を患う危険性を低減する方法をいう。
【0025】
用語「予防有効量」とは、処置される状態または障害の1つまたはそれ以上の症状の予防、開始または再発を生じるのに十分な、アポA−I Milanoもしくは脂質複合体またはその医薬製剤の量をいう。
【0026】
用語「急性冠症候群」とは、不安定狭心症、Q波および非Q波心筋梗塞のような虚血性障害または国際疾病分類第9版(ICD−9)(第10版(ICD−10)に代わる予定)に提供されるような虚血性障害をいう。心筋梗塞は、心電計においてST上昇を伴うかまたは伴わずに現れ得る。
【0027】
用語「虚血」とは、機械的または生物学的に誘導される、例えば、けいれん、血栓症、血液供給の狭窄閉塞(主に動脈の狭窄または途絶)に起因する局所貧血をいう。用語「心筋虚血」とは、通常は冠動脈疾患の結果としての、心筋への血液の不適切な循環をいう。
【0028】
用語「虚血性再潅流」とは、組織への酸素を豊富に含んだ血液の増加した量が回復することをいう。
【0029】
用語「心循環器疾患」とは、心筋梗塞、急性冠症候群、アテローム性動脈硬化症、狭心症、虚血性再潅流傷害および関連する障害のような、心臓、血管および血液循環の疾患をいう。
【0030】
用語「外科的介入」とは、本明細書中で使用される場合、手を使う非薬理学的な方法または手術的な方法をいう。外科的介入は、診断、放射線学的、予防的または処置の目的のためであり得る。
【0031】
用語「不安定狭心症」とは、あごおよび腕に放散し得る胸部の痛みまたは上腹部痛のような、慢性の安定狭心症の症状の頻度、重篤度または持続期間の変化をいう。慢性安定狭心症は、胸部に痛みがあり、この痛みが被験体のあごおよび腕に放散し、これは、運動、食事および/またはストレスにより誘導され、そして症状を生じるのに必要な活動の頻度または重篤度に最近の変化がなくても安静により緩和される。
【0032】
用語「医薬製剤」とは、アポA−I MilanoまたはアポA−I Milano:脂質複合体および適切な希釈剤、担体、賦形剤、または被験体への投与に適切な補形薬を含む組成物をいう。この用語は、以下に記載されるような経口、非経口および局所組成物を含むが、これらに限定されない。
【0033】
用語「約」とは、それが指す名目上の値のプラスマイナス20%の近似を示す相対的な用語をいう。本開示の分野については、このレベルの近似は、その値がより厳密な範囲を要することが特に述べられていなければ適切である。
【0034】
用語「ラベル」とは、物品の直接容器上の文書、印刷物または図形の表示をいい、例えば、薬学的に活性な薬剤を含有するバイアル上に表示された文書である。
【0035】
用語「標示」とは、任意の物品上の全てのラベルおよび他の書面、印刷物もしくは図形、またはその容器もしくは包装のいずれか、またはそのような物品に添付すること、例えば、薬学的に活性な薬剤の容器に添付または付随させた包装挿入物、説明用ビデオテープもしくは説明用DVDをいう。
【0036】
5.2.処置の方法
本発明は、不安定狭心症、ST上昇心筋梗塞および非Q波心筋梗塞を含む急性冠症候群の処置または予防のための方法および製剤を提供する。本明細書に記載される医薬製剤のための安全かつ有効な用量は、急性冠症候群の処置および予防のために出願人らにより決定された。
【0037】
現在の理解に基づいて、臨床所見を再編成した枠組みが浮かび上がってきて、今や急性冠症候群(「ACS」)と呼ばれている。すなわち、急性冠症候群は、不安定狭心症、Q波および非ST上昇心筋梗塞を含み、そして罹患率および特に示された後最初の24時間以内の死亡率の主要な原因である(Schoenhagenら,2000,Circulation 101:598−603)。ACSは、心電計でST上昇を示さない虚血性不快症状である。虚血は、しばしば不安定狭心症、Q波および非Q波心筋梗塞に発展する。(AntmanおよびBraunwald,「Acute Myocardial Infarction」 Heart Disease,A Textbook of Cardiovascular Medicine,第6版,第2巻,Braunwaldら編,2001,W.B.Saunders Company,Philadelphia)。
【0038】
本発明の方法および製剤は、アテローム性動脈硬化症および急性冠症候群の処置に対する独特で有効なアプローチを提供する。本発明の方法において、アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤は、症状の緩和を提供するのではなく、疾患の病態生理学的基盤を逆転させる非外科的療法を提供する。本発明の方法は、アポA−I Milano、アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤の投与を提供し、これはコレステロールの流出を促進し、コレステロール輸送を逆転させ、そして動脈硬化性プラークを減少させるHDL療法を提供する。いかなる理論にも拘束されることなく、アポA−I Milano、アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤は、コレステロール流出を促進し、そしてコレステロール輸送を逆転させ、粉瘤体積を減少させ、そして動脈硬化性プラークを安定化することができる機能的HDLを模倣すると考えられる。
【0039】
本発明は、急性冠症候群の処置のための方法を提供する。好ましい実施態様において、アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤は、以下に記載されるように、約1mg(タンパク質)/kg〜約100mg(タンパク質)/kgの用量、好ましくは1mg(タンパク質)/kg〜50mg(タンパク質)/kgの用量;最も好ましくは15mg/kgまたは45mg/kgの用量で投与することができる。本明細書中で詳細に記載されるように、出願人らは、これらの用量が、安全で有効で、そして急性冠症候群に罹患しているかまたは急性冠症候群の危険性を有する被験体に十分耐えられることを示した。
【0040】
本発明は、急性冠症候群の徴候または症状の緩和または改善を含む急性冠症候群の処置または予防のための方法を提供する。特定の実施態様において、方法は、冠状動脈硬化症の処置または低減を提供する。特定の実施態様において、方法は、罹患した血管からのコレステロールの流出の促進を提供する。特定の実施態様において、方法は、逆コレステロール輸送の促進を提供する。一実施態様において、方法は、罹患した血管における減少した粉瘤体積を提供する。特定の実施態様において、罹患した血管は、冠状動脈である。粉瘤体積は、本明細書に記載されるように、血管内超音波法(IVUS)により決定することができる。特定の実施態様において、方法は、罹患した血管の全プラーク体積の減少を提供する。特定の実施態様において、方法は、罹患した血管における平均最大プラーク厚さの減少を提供する。特定の実施態様において、方法は、平均最大粉瘤厚さの減少を提供する。特定の実施態様において、方法は、最小パーセントプラーク領域におけるプラーク体積の減少を提供する。特定の実施態様において、方法は、最大パーセントプラーク領域における減少を提供する。特定の実施態様において、方法は、罹患した血管における増加した平均冠動脈管腔直径を提供する。特定の実施態様において、本発明の方法および製剤を与えられる被験体は、本発明の方法および製剤を与えられていない被験体と比較して減少した血管造影病変を有し得る。特定の実施態様において、方法は、既存の病変における後退を提供する。特定の実施態様において、方法および医薬製剤は、閉塞した血管の開通の達成または閉塞した血管の開通性の維持を提供する。
【0041】
特定の実施態様において、アポA−I Milano:リン脂質複合体の約15mg/kg〜約45mg/kgの用量は、約2%、約1%または約0.05%の平均パーセント粉瘤体積減少を提供する。特定の実施態様において、アポA−I Milano:リン脂質複合体の約15mg/kg〜約45mg/kgの用量は、約20mm3、約15mm3、約10mm3または約5mm3の粉瘤体積の減少を提供する。特定の実施態様において、アポA−I Milano:リン脂質複合体の約15mg/kg〜約45mg/kgの用量は、平均最大粉瘤厚さの約−0.039mm〜−0.044mmの減少を提供する。
【0042】
一実施形態において、方法は、急性冠症候群の徴候または症状を有する被験体における急性冠症候群の処置を提供する。一実施形態において、被験体は、心筋虚血の徴候および/または症状、例えば、胸部、あご、腕または上胃部における痛み、動悸、息切れ、発汗、吐き気および/または嘔吐、を有し得る。別の実施態様において、方法は、ST上昇、反転のようなT波変化のような心電図(「ECG」または「EKG」)における変化、クレアチンキナーゼの割合、トロポニンIまたはC反応性タンパク質の増加と共に、急性冠症候群の徴候および症状を示す被験体において急性冠症候群の処置を提供する。
【0043】
一実施形態において、方法は、急性冠症候群を発症する危険性がある被験体における急性冠症候群の予防を提供する。危険性がある被験体としては、様々な年齢(例えば、18〜24歳、約25歳、約30歳、約40歳、約50歳、約60歳、約70歳、約80歳または約90歳)の被験体、心循環器疾患の家族歴があるかもしくは心循環器疾患に対する遺伝性素因を有する被験体、糖尿病、高血圧、多血管疾患もしくは左主幹疾患を有する被験体、または以前に心筋梗塞を有していた被験体を挙げることができる。
【0044】
本発明の製剤の実際の用量が、被験体の身長、体重、年齢、疾病の重篤度、合併症の存在などによって変動し得ることは、当業者に理解される。例えば、腎機能障害または肝機能障害を有する高齢の被験体を、約1mg/kgの用量より低い範囲(例えば、0.8mg/kgまたは0.9mg/kg)にある用量のアポA−I Milano:脂質複合体で処置することができる。良好な腎機能および肝機能を有し肥満体である重篤な急性冠症候群を有する被験体を、例えば、約100mg/kgより高い範囲の用量(例えば、120mg/kg、119mg/kg、118mg/kg、115mg/kgなど)である用量のアポA−I Milano:脂質複合体で処置することができる。本明細書に記載される製剤の投与量は、意図された目的を達成するのに有効であることが示された。これらの用量は、有益なプロファイルに対して許容しうる危険性の有効用量を含む範囲の循環濃度を達成する。
【0045】
本発明は、そのような処置を必要とする被験体において急性冠症候群の処置をするために十分な投薬スケジュールを用いて急性冠症候群を処置または予防する方法を提供する。特定の実施態様において、以下に記載されるように、アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤を、ほぼ毎日、ほぼ1日おき、ほぼ3日ごと、ほぼ4日ごと、ほぼ5日ごと、ほぼ6日ごと、ほぼ7日ごと、ほぼ8〜10日ごと、またはほぼ11〜14日ごとに投与することができる。この期間は、投与間隔または間隔とも呼ばれる。特定の実施態様において、投与間隔は、1ヶ月に1回、6ヶ月に1回、12ヶ月に1回、18ヶ月に1回、または24ヶ月に1回であり得る。好ましい実施態様において、アポA−I Milano、脂質複合体またはその医薬製剤を、ほぼ7日ごとに投与することができる。特定の実施態様において、アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤の投与は、1回の投与であり得る。特定の実施態様において、投与は、約1週間、約2週間、約3週間、約4週間、約5週間、約6週間、約7〜12週間、約13〜24週間、約52週間継続し得るか、または被験体の寿命の間継続し得る。この期間は、投薬継続期間、処置継続期間または継続期間とも呼ばれる。それ故、投薬スケジュールは、例えば、約6週間ほぼ7日に1回投与されるアポA−I Milano:リン脂質複合体の医薬製剤であり得る。特定の実施態様において、投与間隔は、約52週後断続的に継続することができる。例えば、被験体を、約52週間週に1回処置し、次いで翌年の間に約3〜約4回処置し得る。特定の好ましい実施態様において、アポA−I Milano:リン脂質複合体を含む医薬製剤の投与は、約5週間の間ほぼ7日ごとである。様々な投与間隔および継続期間を使用する他の投薬スケジュールは、本明細書に記載される本発明の範囲内である。
【0046】
アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤の用量は、処置の継続期間にわたって変動し得る。例えば、被験体を、3週間週に1回、アポA−I Milano:リン脂質複合体の医薬製剤45mg/kgで処置し、次いで、アポA−I Milano:リン脂質複合体の医薬製剤15mg/kgで被験体の寿命の間4ヶ月ごとに1回または1年に1回処置し得る。このような断続的用量は、血管の開通性を維持するために投与され得る。減少した粉瘤体積および増加した血管管腔を維持するための、被験体の寿命の間の断続的用量は、本発明の範囲内である。
【0047】
本発明の方法および製剤は、外科的介入と共に、すなわち、手術の前、間、または後に使用され得る。外科的介入としては、血管形成、血管内超音波法、冠動脈バイパスグラフト(CABG)、冠動脈造影、血管ステントの移植、経皮冠動脈インターベンション(PCI)および/またはプラークの安定化を挙げることができる。特定の実施態様において、方法は、閉塞した血管を広げるため、または血管における動脈硬化性プラークを減少させるために、外科的介入の前または後のアポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤の投与を提供する。外科的介入とは、障害または状態を予防し、または処置するための診断、画像化(放射線学)のために使用される、手を使う非薬理学的または手術的な方法をいう。例えば、血管内超音波法(IVUS)および冠動脈造影は、プラーク量の定量的評価を提供できる手段であり(診断目的)、血管造影は、血管の画像を提供でき(放射学的目的)、そして血管形成は、閉塞した血管を広げることができる(処置目的)。本明細書で使用される場合、全て外科的介入に包含される。
【0048】
5.3.アポリポタンパク質A−I Milano
一局面において、本発明は、アポA−I Milanoを含む製剤を投与することによる、急性冠症候群からの傷害の処置、低減または予防のための方法および製剤を提供する。特定の実施態様において、アポA−I Milano(アポA−I Milano)を、脂質と複合体化することができる。
【0049】
ヒトアポA−I Milanoは、アポA−Iの天然の変異体である(Weisgraberら 1980,J.Clin.Invest.66:901 907)。アポA−I Milanoにおいて、アミノ酸アルギニン(Arg173)は、アミノ酸システイン(Cys173)と置き換えられている。アポA−I Milanoは、ポリペプチド鎖あたり1つのシステイン残基を含有するので、モノマー形態、ホモダイマー形態、またはヘテロダイマー形態で存在し得る。(米国特許第5,876,968号、全て参照により本明細書に加入される)。これらの形態は、化学的に交換可能であり、そして用語アポA−I Milanoは、これらの形態間を区別しない。DNAレベルでは、変異体形態は、遺伝子配列におけるC−T置換の結果として生じ、すなわち、コドンCGCがTGCに変化し、アミノ酸173位においてアルギニン(Arg)の代わりにシステイン(Cys)の翻訳を可能にする。
【0050】
特定の実施態様において、アポA−I Milanoは、変異体または保存的に置換されたアポA−I Milanoであり得る。保存的置換により、アポA−I Milanoの特定のアミノ酸残基が、タンパク質の活性に有意に有害な影響を及ぼすことなく他のアミノ酸残基と置き換えられ得ることを意味する。それ故、その構造中の少なくとも1つの規定されたアミノ酸残基が別のアミノ酸残基と置換されているアポA−I Milanoの変更または置換された形態もまた、本発明に包含される。保存的アミノ酸置換を決定する目的のために、アミノ酸側鎖の物理−化学的特徴に主に依存して、2つの主なカテゴリー−親水性および疎水性−にアミノ酸を簡単に分類することができる。これらの2つの主なカテゴリーをさらに、アミノ酸側鎖の特徴をより明確に規定するサブカテゴリーに分類することができる。例えば、親水性アミノ酸のクラスは、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸および極性アミノ酸にさらに細分することができる。疎水性アミノ酸のクラスは、非極性アミノ酸および芳香族アミノ酸にさらに細分することができる。構造(I)を規定するアミノ酸の種々のカテゴリーの定義は、以下のとおりである:
「親水性アミノ酸」とは、Eisenbergら,1984,J.Mol.Biol.179:125−142の正規化コンセンサス疎水性基準に従って、0より低い疎水性を示すアミノ酸をいう。遺伝的にコードされる親水性アミノ酸は、Thr(T)、Ser(S)、His(H)、Glu(E)、Asn(N)、Gln(Q)、Asp(D)、Lys(K)およびArg(R)を含む。
【0051】
「酸性アミノ酸」とは、7未満の側鎖pK値を有する親水性アミノ酸をいう。酸性アミノ酸は、水素イオンの損失に起因して生理学的pHでは負に荷電した側鎖を典型的に有する。遺伝的にコードされる酸性アミノ酸は、Glu(E)およびAsp(D)を含む。
【0052】
「塩基性アミノ酸」とは、7より大きい側鎖pK値を有する親水性アミノ酸をいう。塩基性アミノ酸は、ヒドロニウムイオンとの結合に起因して生理学的pHでは正に荷電した側鎖を典型的に有する。遺伝的にコードされる塩基性アミノ酸はHis(H)、Arg(R)およびLys(K)を含む。
【0053】
「極性アミノ酸」とは、生理学的pHでは荷電していないが、2個の原子により共有されている電子対が、その原子のうちの一方により近く保持されている少なくとも1つの結合を有する側鎖を有する親水性アミノ酸をいう。遺伝的にコードされる極性アミノ酸は、Asn(N)、Gln(Q)、Ser(S)およびThr(T)を含む。
【0054】
「疎水性アミノ酸」とは、Eisenberg,1984,J.Mol.Biol.179:125−142の正規化コンセンサス疎水性基準に従って、0より大きい疎水性を示すアミノ酸をいう。遺伝的にコードされる疎水性アミノ酸は、Pro(P)、Ile(I)、Phe(F)、Val(V)、Leu(L)、Trp(W)、Met(M)、Ala(A)、Gly(G)およびTyr(Y)を含む。
【0055】
「芳香族アミノ酸」とは、少なくとも1つの芳香環または複素芳香環を有する側鎖を有する疎水性アミノ酸をいう。芳香環または複素芳香環は、−OH、−SH、−CN、−F、−Cl、−Br、−I、−NO2、−NO、−NH2、−NHR、−NRR、−C(O)R、−C(O)OH、−C(O)OR、−C(O)NH2、−C(O)NHR、−C(O)NRRなどのような1つまたはそれ以上の置換基を含み得、ここで各Rは独立して、(C1−C6)アルキル、置換(C1−C6)アルキル、(C1−C6)アルケニル、置換(C1−C6)アルケニル,(C1−C6)アルキニル、置換(C1−C6)アルキニル,(C5−C20)アリール、置換(C5−C20)アリール、(C6−C26)アルカリール、置換(C6−C26)アルカリール、5〜20員ヘテロアリール、置換5〜20員ヘテロアリール、6〜26員アルカヘテロアリールまたは置換6〜26員アルカヘテロアリールである。遺伝的にコードされる芳香族アミノ酸は、Phe(F)、Tyr(Y)およびTrp(W)を含む。
【0056】
「非極性アミノ酸」とは、生理学的pHで非荷電であり、そして2個の原子により共有されている電子対が、その2つの原子の各々によりおおむね等しく保持されている結合を有する側鎖(すなわち、側鎖は極性ではない)を有する疎水性アミノ酸をいう。遺伝的にコードされる非極性アミノ酸は、Leu(L)、Val(V)、Ile(I)、Met(M)、Gly(G)およびAla(A)を含む。
【0057】
「脂肪族アミノ酸」とは、脂肪族炭化水素側鎖を有する疎水性アミノ酸をいう。遺伝的にコードされる脂肪族アミノ酸は、Ala(A)、Val(V)、Leu(L)およびIle(I)を含む。
【0058】
アミノ酸残基Cys(C)は、他のCys(C)残基または他のスルファニル含有アミノ酸とジスルフィド架橋を形成することができるという点において特異である。還元された遊離−SH形態または酸化されたジスルフィド架橋形態のいずれかでペプチド中に存在するCys(C)残基(および−SH含有側鎖を有する他のアミノ酸)の能力は、Cys(C)残基がペプチドに対して正味の疎水性特性または親水性特性のどちらに寄与するかに影響を及ぼす。Cys(C)は、Eisenberg(Eisenberg,1984,前出)の正規化コンセンサス基準に従って0.29の疎水性を示すが、本発明の目的のためには、Cys(C)は、上で規定した一般的な分類にかかわらず、極性親水性アミノ酸として分類されることが理解されるべきである。
【0059】
当業者に理解されるように、上で規定した分類は、相互排他的ではない。それ故、2つまたはそれ以上の物理−化学的特性を示す側鎖を有するアミノ酸は、複数のカテゴリーに含まれ得る。例えばTyr(Y)のようなさらに極性置換基で置換される芳香族部分構造を有するアミノ酸側鎖は、芳香族疎水性特性および極性または親水性特性の両方を示し得、従って、芳香族カテゴリーと極性カテゴリーの両方に含めることができる。任意のアミノ酸の適切なカテゴリー化は、特に本明細書に提供される詳細な開示に照らせば当業者に明らかである。特定の実施態様において、アポA−I Milanoの置換されたかまたは変更された形態は、アポA−Iではない。
【0060】
本発明において利用されるアポA−I Milanoは、利用可能な任意の供給元から入手できる。例えば、アポA−I Milanoは、組換え、合成、半合成または精製されたアポA−I Milanoであり得る。好ましい実施態様において、アポA−I Milanoは、米国特許第5,721,114号ならびに欧州特許EP 0 469 017およびEP 0 267 703(全て参照により本明細書に加入される)に記載されるような、酵母またはE.coliにおいて発現される組換えタンパク質(rアポA−I Milano)であり得る。本発明により利用されるアポA−I Milanoを入手する方法は、当該分野で周知である。例えば、アポA−I Milanoは、例えば、密度勾配遠心分離法、続いてリポタンパク質の脱脂、還元、変性(denaturezation)およびゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性(例えば、フェニルセファロース)相互作用クロマトグラフィーもしくは免疫親和性クロマトグラフィーにより血漿から分離することができるか、または合成、半合成により、もしくは当業者に公知の組換えDNA技術、続いて当業者によく知られる精製を使用して製造され得る(例えば、米国特許第6,107,467号;同第6,559,284号;同第6,423,830号;同第6,090,921号;同第5,834,596号;同第5,990,081号;同第6,506,879号、Mulugetaら,1998,J.Chromatogr.798(1−2):83−90;Chungら,1980,J.Lipid Res.21(3):284−91;Cheungら,1987,J.Lipid Res.28(8):913−29;Persson,ら,1998,J.Chromatogr.711:97−109;米国特許第5,059,528号、同第5,834,596号、同第5,876,968号および同第5,721,114号;ならびにPCT公報WO86/04920およびWO87/02062を参照のこと)。
【0061】
アポA−I Milanoが天然源から得られる場合、任意の種の任意の動物源から入手できる。特定の実施態様において、アポA−I Milanoは、哺乳動物源から入手できる。特定の実施態様において、アポA−I Milanoは、ヒト源から入手できる。本発明の好ましい実施態様において、アポA−I Milanoは、アポA−I Milanoが投与される被験体と同じ種に由来する。好ましい実施態様において、アポA−I Milanoは、組換えアポA−I Milanoタンパク質(rアポA−I Milano)である。
【0062】
5.4.投与方法
アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤は、循環におけるバイオアベイラビリティーを確実にする、当業者に公知の任意の適切な経路により投与され得る。治療有効量の本発明の製剤を提供する任意の投与経路が使用され得る。投与経路は、医薬製剤の様式により示され得る。例えば、注射剤は、静脈内(IV)注射、筋内(IM)注射、皮内注射、皮下(SC)注射、冠動脈内注射、動脈内注射、心膜内注射、関節内注射および腹腔内(IP)注射が挙げられるがこれらに限定されず、非経口的に投与され得る(例えば、Robinsonら,1989,Pharmacotherapy:A Pathophysiologic Approach,Ch.2,pp.15−34(全て参照により本明細書に加入される)を参照のこと)。
【0063】
好ましい実施態様において、アポA−I Milano:リン脂質複合体またはその医薬製剤は、非経口投与され得る。より好ましい実施態様において、非経口投与は静脈内である。静脈内投与は、ボーラス、例えば、約2〜3分間かけて投与されるかまたは持続注入により、例えば、ポンプにより約1時間かけて投与されるか、もしくは約24時間かけて持続注入され得る。好ましい実施態様において、注入は約1〜約3時間かけられ得る。
【0064】
方法は、本明細書に記載される医薬製剤の静脈内注射を提供する。任意の適切な血管は、注入部位として使用され得、これらとしては、腕の肘窩における血管のような末梢血管または胸部への中心静脈ラインが挙げられる。好ましい実施態様において、医薬製剤は、被験体の腕の肘窩における橈側皮または肘正中皮血管に注入される。
【0065】
特定の実施態様において、投与は、機械ポンプもしくは送達デバイス(例えば、心膜送達デバイス(PerDUCER(登録商標))または心肺バイパス機械により行われ得る。
【0066】
5.5 脂質複合体
特定の実施態様において、本発明の方法は、アポA−I Milanoの脂質複合体の投与を含む。特定の実施態様において、本発明は、アポA−I Milano:リン脂質複合体の医薬製剤を提供する。脂質をアポA−I Milanoに複合体化することにより有効性が増強され得る。典型的には、脂質を投与の前にアポA−I Milanoと混合する。アポA−I Milanoと脂質とを、適切な比率で水溶液中にて混合し得、そしてフリーズドライ、界面活性剤可溶化とそれに続く透析、微少流体化、超音波処理、および均質化を含む当該分野で公知の方法により複合体化し得る。複合体の有効性を、例えば、圧力、超音波振動数、または界面活性剤濃度を変化させることにより最適化することができる。アポA−I Milano:リン脂質複合体を製造するために一般的に使用される界面活性剤の例は、コール酸ナトリウムである。
【0067】
いくつかの場合には、急性冠症候群を処置または予防するために、アポA−I Milanoを単独で、本質的に脂質無しで投与することが好ましい。好ましい実施態様において、アポA−I Milano:脂質複合体を、それを必要とする被験体に投与する。
【0068】
一実施形態において、アポA−I Milano:リン脂質複合体は、適切な製薬希釈剤と共に溶液状態であり得る。別の実施態様において、フリーズドライまたは凍結乾燥されたアポA−I Milano:リン脂質複合体の製剤を、投与前に水和するかまたは適切な製薬希釈剤を用いて再形成することができる。別の実施態様において、アポA−I Milano:脂質複合体は、それを必要とする被験体への投与の前に、均一な溶液が得られるまで解凍される凍結製剤であり得る。
【0069】
脂質は、当業者に公知の任意の適切な脂質であり得る。リン非含有脂質を使用することができ、ステアリルアミン、ドデシルアミン、アセチルパルミテート、(1,3)−D−マンノシル−(1,3)ジグリセリド、アミノフェニルグリコシド、3−コレステリル−6’(グリコシルチオ)ヘキシルエーテル糖脂質、N−(2,3−ジ(9−(Z)−オクタデセニルオキシ))−プロパ−1−イル−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリドおよび脂肪酸アミドが挙げられる。好ましい実施態様において、脂質はリン脂質である。
【0070】
リン脂質は、当業者に公知の任意の供給元から入手できる。例えば、リン脂質を、市販、天然源または当業者に公知の合成もしくは半合成手段により入手できる(Mel’nichukら,1987,Ukr.Biokhim.Zh.59(6):75−7;Mel’nichukら,1987,Ukr.Biokhim.Zh.59(5):66−70;Rameshら,1979,J.Am.Oil Chem.Soc.56(5):585−7;PatelおよびSparrow,1978,J.Chromatogr.150(2):542−7;Kaduceら,1983,J.Lipid Res.24(10):1398−403;Schlueterら,2003,Org.Lett.5(3):255−7;Tsujiら,2002,Nippon Yakurigaku Zasshi 120(1):67P−69P)。
【0071】
好ましい実施態様において、脂質はリン脂質であり得る。リン脂質は、当業者に公知の任意のリン脂質であり得る。例えば、リン脂質は、低級アルキル鎖リン脂質、ホスファチジルコリン、卵ホスファチジルコリン、ダイズホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ダイズホスファチジルグリセロール、卵ホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジラウリルホスファチジルコリン、1−ミリストイル−2−パルミトイルホスファチジルコリン、1−パルミトイル−2−ミリストイルホスファチジルコリン、1−パルミトイル−2−ステアロイルホスファチジルコリン、1−ステアロイル−2−パルミトイルホスファチジルコリン、ジオレイルホスファチジルコリン、1−パルミトイル−2−オレイルホスファチジルコリン、1−オレイル−2−パルミチルホスファチジルコリン、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン、ジラウロイルホスファチジルグリセロール,ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ジホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジオレイルホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ジミリストイルホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジン酸、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、脳ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリン、スフィンゴ脂質、脳スフィンゴミエリン、ジパルミトイルスフィンゴミエリン、ジステアロイルスフィンゴミエリン、ガラクトセレブロシド、ガングリオシド、セレブロシド、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、リゾレシチン、リゾホスファチジルエタノールアミン、ケファリン、カルジオリピン、ジセチルホスフェート、ジステアロイル−ホスファチジルエタノールアミンおよびコレステロールならびにその誘導体であり得る。
【0072】
リン脂質はまた、上記のリン脂質のいずれかの誘導体または類縁体であり得る。特定の実施態様において、アポA−I Milano:リン脂質複合体は、2種またはそれ以上のリン脂質の組み合わせを含み得る。
【0073】
好ましい実施態様において、本発明の方法は、アポA−I Milano:リン脂質複合体の投与を提供する。より好ましい実施態様において、脂質は、リン脂質、好ましくは、1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスファチジルコリン(「POPC」)または(「1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン」)である。さらにより好ましい実施態様において、アポA−I Milano:POPC複合体は、約1対1の重量比のアポA−I Milano:POPCを含む。最も好ましい実施態様において、アポA−I Milano:POPC複合体は、医薬製剤である。アポA−I Milano:POPC複合体はETC−216と呼ばれる。
【0074】
アポA−I Milanoおよび脂質を含む複合体は、急性冠症候群を処置または予防するために有効な、任意の量の脂質、好ましくはリン脂質、および任意の量のアポA−I Milanoを含み得る。特定の実施態様において、アポA−I Milanoは、重量で約1対約1の比で、アポA−I Milanoおよびリン脂質の複合体を含み得る。しかしアポA−I Milanoは、約100:1、約10:1、約5:1、約3:1、約2:1、約1:1、約1:2、約1:3、約1:5、約1:10および約1:100(タンパク質重量/脂質重量)のような、アポA−I Milanoに対して他の比のリン脂質を含む複合体を含み得る。約1:0.5〜約1:3(タンパク質重量/脂質重量)の間の重量比、より好ましくは約1:0.8〜約1:1.2(タンパク質重量/脂質重量)の比が、最も均一な集団を生成するため、および安定で再現可能なバッチを製造する目的のために好ましい。なお一層より好ましい実施態様において、アポA−I Milano対リン脂質の比は、1:0.95(タンパク質重量/脂質重量)である。
【0075】
本発明の方法における使用に適したさらなる脂質は、当業者に周知であり、そして種々の周知の資料、例えばMcCutcheon’s Detergents and Emulsifiersおよび McCutcheon’s Functional Materials,Allured Publishing Co.,Ridgewood,N.J.(これらの両方が、参照により本明細書に加入される)に列挙される。一般的に、脂質が37℃、35℃、または32℃で液晶であることが望ましい。液晶状態の脂質は、典型的にはゲル状態の脂質よりも有効にコレステロールを受容する。被験体は典型的に約37℃の中核体温を有するので、37℃で液晶である脂質は、処置の間概して液晶状態である。
【0076】
5.6.脂質複合体の製造
アポA−I Milano:脂質複合体は、当業者に公知の任意の方法により作製することができる。いくつかの場合には、投与の前に脂質とアポA−I Milanoとを混合することが望ましい。脂質は、溶液状態または均質化、超音波処理もしくは押出のような標準的な技術を使用して形成されたリポソームもしくはエマルジョンの形態であり得る。超音波処理は、一般的には氷浴中でBransonチップソニファイアーのようなチップソニファイアーを用いて行われる。典型的には、懸濁液を数回の超音波処理サイクルにかける。押出は、Lipex Biomembrane ExtruderTM(Lipex Biomembrane Extruder,Inc.Vancouver,Canada)のような生体膜エクストルーダーにより行うことができる。押出フィルターにおける規定された孔径が、特定のサイズの単薄膜リポソーム小胞を生成し得る。リポソームはまた、Ceraflow MicrofilterTM(Norton Company,Worcester Massから市販されている)のような非対称セラミックフィルター、またはポリカーボネートフィルターもしくは当業者に公知の他の種類のポリマー材料(すなわち、プラスチック)を通す押出によっても形成することができる。
【0077】
アポA−I Milano:脂質複合体を、小胞、リポソーム、またはプロテオリポソームを含むがこれらに限定されない種々の形態で製造することができる。当業者に周知の種々の方法を使用して、アポA−I Milano:脂質複合体を製造することができる。リポソームまたはプロテオリポソームを製造するための利用可能な多数の技術が使用され得る。例えば、アポA−I Milanoを、適切な脂質と共に(バス式またはプローブ超音波発生機を使用して)同時超音波処理して(co−sonicated)脂質複合体を形成することができる。特定の実施態様において、アポA−I Milanoは、予め形成された脂質小胞と混合され得、結果としてアポリポタンパク質:脂質複合体を自発的に形成する。別の実施態様において、アポA−I Milanoはまた、界面活性剤透析法により作製され得;例えば、アポA−I Milano、脂質およびコール酸塩のような界面活性剤の混合物を、界面活性剤を除去するために透析し得、そして脂質複合体を作製するために再形成し得る。(例えば、Jonasら,1986,Methods Enzymol.128,553−82を参照のこと)。
【0078】
別の実施態様において、脂質複合体は、米国特許第6,287,590号および同第6,455,088号(その内容は、全て参照により本明細書に加入される)に記載されるように、同時凍結乾燥(co−lipophilization)することにより作製することができる。他の方法は、例えば、米国特許第6,004,925号、同第6,037,323号および同第6,046,166号(全て参照により本明細書に加入される)に開示される。アポA−I Milano:脂質複合体を製造する他の方法は、当業者に明らかである。
【0079】
好ましい実施態様において、脂質複合体は均質化により作製することができる。好ましい実施態様において、アポA−I Milano:脂質複合体の作製は、組換えアポA−I Milanoを注射のために溶液中15mg/mlの濃度まで水で希釈するときに開始する。リン酸ナトリウムを、9〜15mMのリン酸塩の最終濃度まで加え、そしてpHを約7.0と約7.8との間に調整する。マンニトールを、約0.8%〜約1%のマンニトールの濃度(w/v)を達成するように添加する。次いでPOPCを、約1:0.95(タンパク質重量/脂質重量)のアポA−I Milanoダイマー対POPCの混合物を達成するように加える。この混合物を、温度を37℃〜43℃の間に維持しながら、5000rpmで約20分間オーバーヘッドプロペラおよびUltra Turraxを使用して撹拌した。インライン熱交換機(Avestin,Inc.)を用いて温度を32℃〜43℃の間に維持しながら、供給容器を連続的に300rpmで撹拌する。最初の30分間の均質化は、50MPa(7250psi)で行い、その後、ゲル浸透クロマトグラフィーによる製造過程検査がタンパク質標準間で>70%の%AUCを実証するまで、圧力を80〜120MPa(11600〜17400psi)に維持する。複合体はまた、10mg/ml、11mg/ml、12mg/ml、13mg/mlおよび14mg/mlの製剤として(ここで重量はタンパク質の重量である)作製され得る。
【0080】
5.7.併用療法
アポA−I Milanoもしくは脂質複合体またはその医薬製剤は、本発明の方法において単独で、または他の介入との併用療法で使用することができる。このような療法としては、他の薬物の同時または逐次投与が挙げられるがこれに限定されない。
【0081】
特定の実施態様において、本発明の方法および製剤は、本明細書中に提供される方法を達成するための他の薬物と組み合わせて使用することができる。別の薬物との共投与は、付随する疾患、状態、障害または症状を処置、予防または改善するためであり得、例えば、抗不整脈薬が既存の不整脈を処置するために投与される。特定の実施態様において、方法は、急性冠症候群に付随する疼痛を処置または予防するための薬物の共投与を提供する。
【0082】
上記のように、心筋梗塞、狭心症および急性冠症候群を含む虚血性事象のための従来の治療は、破綻したかまたは不安定な動脈硬化性プラークの根底にある病理を対象としていなかった。例えば、心臓胸部の不快感または他の虚血性症状を示す被験体は、アスピリン、クロピドグレル、ヘパリン、エプチフィバチドまたはアブシキシマブのような抗凝固薬または抗血栓剤を用いて、緊急の経皮冠動脈インターベンション(PCI)の用意ができる。βアドレナリン遮断薬(β遮断薬)を、心拍数を減少させるために投与することができる。アンギオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)の投与は、付随する鬱血性心不全(CHF)または左心室(LV)機能障害に罹患している被験体に対して推奨される。突然心臓死から蘇生した被験体については、アミオダロンの投与が推奨される。酸素は、一般的にマスクまたは鼻カニューレによりしばしば被験体に供給され、そしてパルス酸素測定により酸素飽和度を含むバイタルサインが綿密にモニタリングされる。長期の処置については、HMGCoA還元酵素阻害薬のスタチンは、LDCレベルを減少させるためにしばしば被験体に投与される。
【0083】
例えば、アポA−I Milanoもしくは脂質複合体またはその医薬製剤は、他の薬学的に活性な薬物と共に投与され得、この薬物としては、α/βアドレナリン拮抗薬、抗アドレナリン作動薬、α−1アドレナリン拮抗薬、βアドレナリン拮抗薬、AMPキナーゼ活性化剤、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、アンギオテンシンII受容体拮抗薬、カルシウムチャネル遮断薬、抗不整脈薬、血管拡張薬、硝酸薬、昇圧剤、強心薬、利尿薬、抗凝固薬、抗血小板凝集薬、血栓溶解剤、抗糖尿病薬、酸化防止剤、抗炎症薬、胆汁酸金属イオン封鎖剤、スタチン、コレステロールエステル転移タンパク質(CETP)阻害薬、コレステロール低下剤/脂質調節剤、アラキドン酸変換を遮断する薬物、エストロゲン補充療法、脂肪酸類縁体、脂肪酸合成阻害薬、フィブラート、ヒスチジン、ニコチン酸誘導体、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体作動薬または拮抗薬、脂肪酸酸化阻害薬、サリドマイドまたはチアゾリジンジオンが挙げられるがこれらに限定されない(Drug Facts and Comparisons,updated monthly,January 2003,Wolters Kluwer Company,St.Louis,MO;Physicians Desk Reference(56th edition,2002)Medical Economics)。
【0084】
単一で、または組み合わせて、アポA−I Milano、脂質複合体もしくはその医薬製剤の有利な特性を補足し得るかまたは相乗作用し得る他の薬物としては:カルベジロール(carvediol)(Coreg(登録商標));ラベタロールHCl、(Normodyne(登録商標))のようなα/βアドレナリン拮抗薬(「β遮断薬」);グアナドレル、(Hylorel(登録商標));グアネチジン、(Ismelin(登録商標));レセルピン、クロニジン、(Catapres(登録商標)およびCatapres−TTS(登録商標));グアンファシン、(Tenex(登録商標));グアナベンズ、(Wytensin(登録商標));メチルドーパおよびメチルドペート、(Aldomet(登録商標))のような抗アドレナリン作動薬;ドキサゾシン(Cardura(登録商標));プラゾシン、(Minipress(登録商標));テラゾシン、(Hytrin(登録商標));およびフェントラミン、(Regitine(登録商標))のようなα−1アドレナリン拮抗薬;ソタロール、(Betapace AF(登録商標)およびBetapace(登録商標));チモロール、(Blocadren(登録商標));プロプラノロール、(InderalLA(登録商標)およびInderal(登録商標));ベタキソロール、(Kerlone(登録商標));アセブトロール、(Sectral(登録商標));アテノロール、(Tenormin(登録商標));メトプロロール、(Lopressor(登録商標)およびToprol−XL(登録商標));ビソプロロール、(Zebata(登録商標));カルテオロール、(Cartrol(登録商標));エスモロール、(Brevibloc(登録商標));ナドロール(naldolol)、(Corgard(登録商標));ペンブトロール、(Levatol(登録商標));およびピンドロール、(Visken(登録商標))のようなβアドレナリン(Andrenergic)拮抗薬;ESP 31015、(ETC−1001);ESP 31084、ESP 31085、ESP 15228、ESP 55016およびESP 24232;ゲムカベン(gemcabene)(PD 72953およびCI−1027);およびMEDICA 16のようなAMPキナーゼ活性化剤;キナプリル(Accupril(登録商標));ベナゼプリル、(Lotensin(登録商標));カプトプリル、(Capoten(登録商標));エナラプリル、(Vasotec(登録商標));ラミプリル(Altace(登録商標));フォシノプリル(Monopril(登録商標));モエキシプリル、(Univasc(登録商標));リシノプリル、(Prinivil(登録商標)およびZestril(登録商標));トランドラプリル、(Mavik(登録商標))、ペリンドプリル、(Aceon(登録商標))のようなアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤;およびカンデサルタン(Atacand(登録商標));イルベサルタン、(Avapro(登録商標));ロサルタン、(Cozaar(登録商標));バルサルタン、(Diovan(登録商標));テルミサルタン、(Micardis(登録商標));エプロサルタン、(Tevetan(登録商標));およびオルメサルタン、(Benicar(登録商標))のようなアンギオテンシンII受容体拮抗薬;ニフェジピン、(Adalat(登録商標)、Adalat CC(登録商標)、Procardia(登録商標)およびProcardia XL(登録商標));ベラパミル、(Calan(登録商標)、CalanSR(登録商標)、Covera−HS(登録商標)、IsoptinSR(登録商標)、Verelan(登録商標)およびVerelanPM(登録商標));ジルチアゼム、(Cardizem(登録商標)、CardizemCD(登録商標)およびTiazac(登録商標));ニモジピン、(Nimotop(登録商標));アムロジピン、(Norvasc(登録商標));フェロジピン、(Plendil(登録商標));ニソルジピン、(Sular(登録商標));ベプリジル、(Vascor(登録商標));イスラジピン、(DynaCirc(登録商標));およびニカルジピン、(Cardene(登録商標))のようなカルシウムチャネル遮断薬;種々のキニジン;プロカインアミド、(Pronestyl(登録商標)およびProcan(登録商標));リドカイン、(Xylocaine(登録商標));メキシレチン(mexilitine)、(Mexitil(登録商標));トカイニド、(Tonocard(登録商標));フレカイニド、(Tambocor(登録商標));プロパフェノン(Rythmol(登録商標))、モリシジン、(Ethmozine(登録商標));イブチリド、(Covert(登録商標));ジソピラミド、(Norpace(登録商標));ブレチリウム、(Bretylol(登録商標));アミオダロン、(Cordarone(登録商標));アデノシン、(Adenocard(登録商標));ドフェチリド(Tikosyn(登録商標));およびジゴキシン、(Lanoxin(登録商標))のような抗不整脈薬;ジアゾキシド、(Hyperstat IV(登録商標));ヒドララジン、(Apresoline(登録商標));フェノルドパム、(Corolpam(登録商標));ミノキシジル、(Loniten(登録商標));およびニトロプルシド、(Nipride(登録商標))のような血管拡張薬;イソソルビドジニトレート;(Isordil(登録商標)およびSorbitrate(登録商標));イソソルビドモノニトレート、(Imdur(登録商標)、Ismo(登録商標)およびMonoket(登録商標));ニトログリセリンペースト、(Nitrol(登録商標));種々のニトログリセリンパッチ;ニトログリセリンSL、(Nitrostat(登録商標))、Nitrolingualスプレー;およびニトログリセリンIV、(Tridil(登録商標))のような硝酸薬;ノルエピネフリン、(Levophed(登録商標));およびフェニレフリン、(Neo−Synephrine(登録商標))のような昇圧薬(Vassopressors);アムリノン;(Inocor(登録商標));ドーパミン、(Intropine(登録商標));ドブタミン、(Dobutrex(登録商標));エピネフリン、(Adrenalin(登録商標));イソプロテレノール(isoproternol)、(Isuprel(登録商標))、ミルリノン、(Primacor(登録商標))のような強心薬(Inotrophic Agents);スピロノラクトン、(Aldactone(登録商標));トルセミド、(Demadex(登録商標));ヒドロフルメチアジド、(Diucardin(登録商標));クロロチアジド、(Diuril(登録商標));エタクリン酸、(Edecrin(登録商標));ヒドロクロロチアジド、(hydroDIURIL(登録商標)およびMicrozide(登録商標));アミロリド、(Midamor(登録商標));クロルタリドン、(Thalitone(登録商標)およびHygroton(登録商標));ブメタニド、(Bumex(登録商標));フロセミド、(Lasix(登録商標));インダパミド、(Lozol(登録商標));メトラゾン、(Zaroxolyn(登録商標));トリアムテレン、(Dyrenium(登録商標));およびトリアムテレンとヒドロクロロチアジドの組み合わせ(Dyazide(登録商標)およびMaxzide(登録商標))のような利尿薬;ビバリルジン、(Angiomax(登録商標));レピルジン、(Refludan(登録商標));種々のヘパリン;ダナパロイド、(Orgaran(登録商標));種々の低分子量ヘパリン;ダルテパリン、(Fragmin(登録商標));エノキサパリン、(Lovenox(登録商標));チンザパリン、(Innohep(登録商標));ワルファリン、(Coumadin(登録商標));ジクマロール、(Dicoumarol(登録商標));アニシンジオン、(Miradone(登録商標));アスピリン;アルガトロバン、(Argatroban(登録商標));アブシキシマブ、(Reopro(登録商標));エプチフィバチド、(Integrilin(登録商標));チロフィバン、(Aggrastat(登録商標));クロピドグレル、(Plavix(登録商標));チクロピジン、(Ticlid(登録商標));およびジピリダモール、(Persantine(登録商標))のような抗血栓剤/抗凝血剤/抗血小板薬;アルテプラーゼ、(Activase(登録商標));組織プラスミノゲン活性化因子(TPA)、(Activase(登録商標));アニストレプラーゼ、APSAC、(Eminase(登録商標));レテプラーゼ、rPA(Retavasae(登録商標));ストレプトキナーゼ(streptokinase)SK,(Streptase(登録商標));ウロキナーゼ、(Abbokinase(登録商標)) のような血栓溶解薬;メトホルミン、(Glucophage(登録商標));グリピジド、(Glucotrol(登録商標));クロルプロパミド、(Diabinese(登録商標));アセトヘキサミド、(Dymelor(登録商標));トラザミド、(Tolinase(登録商標));グリメピリド、(Amaryl(登録商標));グリブリド、(DiaBeta(登録商標)およびMicronase(登録商標));アカルボース、(Precose(登録商標));ミグリトール、(Glyset(登録商標));レパグリニド(repaflinide)、(Prandin(登録商標));ナテグリニド、(Starlix(登録商標));ロシグリタゾン、(Avandia(登録商標));およびピオグリタゾン、(Actos(登録商標)) のような抗糖尿病薬;抗酸化剤および抗炎症薬;コレスチラミン、(LoCholest(登録商標)、Prevalite(登録商標)およびQuestran(登録商標));コレスチポール、(Colestid(登録商標));およびコレセベラム、(Welchol(登録商標))のような胆汁酸金属イオン封鎖剤;ロバスタチン、(Crestor(登録商標));フルバスタチン、(Lescol(登録商標));アトルバスタチン、(Lipitor(登録商標));ロバスタチン、(Mevacor(登録商標));プラバスタチン、(Pravachol(登録商標));およびシムバスタチン、(Zocor(登録商標))のようなスタチン(HMGCoA還元酵素を阻害する薬物);CETP阻害剤;アラキドン酸変換を遮断する薬物:エストロゲン補充療法;PD−72953、MEDICA 16、ESP 24232、およびESP 31015のような脂肪酸類縁体;脂肪酸合成阻害剤;脂肪酸合成阻害剤;脂肪酸酸化阻害剤、ラノラジン、(Ranexa(登録商標));クロフィブレート、(Atromid−S(登録商標));ゲムフィブロジル、(Lopid(登録商標));微粉末化フェノフィブラートカプセル、(Tricor(登録商標));ベザフィブラートおよびシプロフィブレートのようなフィブラート;ヒスチジン;ナイアシン延長放出錠、(Niaspan(登録商標))のようなニコチン酸誘導体;ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体作動薬および拮抗薬;サリドマイド、(Thalomid(登録商標))ならびに米国特許第6,459,003号、同第6,506,799号、および米国特許出願公報20030022865、20030018013、20020077316および20030078239(これらの内容は、全て参照により本明細書に加入される)に記載される化合物が挙げられるがこれらに限定されない。
【0085】
単一で、または組み合わせて、アポA−I Milanoもしくは脂質複合体またはその医薬製剤の有利な特性を補足し得るかもしくは相乗作用し得る他の薬物としては、例えば、パクリタキセルおよびトポテカンのような抗増殖薬、(Brehmら 2001,Biochemical Pharmacology,61(1):119−127)およびステロイド性および非ステロイド性の抗炎症剤(シクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)阻害剤を含む)のような抗炎症薬が挙げられる。
【0086】
5.8.医薬製剤
一局面において、本発明は、アポA−I Milanoを含む医薬製剤を投与することにより急性冠症候群に由来する傷害を処置、低減または予防するための製剤を提供する。好ましい実施態様において、アポA−I Milano(アポA−I Milano)は、脂質と複合体化され得る。より好ましい実施態様において、アポA−I Milanoは、POPCと複合体化される。
【0087】
アポA−I Milanoまたはその脂質複合体は、医薬製剤の形態で投与され得る。本明細書中に記載される医薬製剤は、例えば、許容しうる希釈剤、補形薬、賦形剤または担体の添加を含む。当該分野で公知のように、1種またはそれ以上の希釈剤、補形薬、賦形剤または担体の添加は、製剤を被験体への投与に適切にし、そして延長された保管寿命のような他の都合のよい特性を与えることができる。
【0088】
医薬製剤は、典型的には薬学的に許容しうる担体または賦形剤を含む。多くの薬学的に許容しうる担体または賦形剤を使用することができる。本明細書に記載される実施例は、ショ糖−マンニトールを利用する。標準的な生理食塩水が製薬担体または賦形剤としてしばしば使用される。他の適切な担体または賦形剤としては、グルコース、トレハロース、ショ糖、滅菌水、緩衝用水、0.45%食塩水(半生理食塩水)、および0.3%グリシンが挙げられ、増強された安定性のためにアルブミンのような糖タンパク質をさらに含み得る。これらの製剤は、従来の周知の滅菌技術により滅菌することができる。得られた水溶液は、使用のために包装されるか無菌状態で濾過され、そして凍結乾燥(フリーズドライ)され得る。凍結乾燥された製剤は、次いで投与前に滅菌水溶液と混合され得る。
【0089】
医薬製剤はまた、生理条件に近づけるために必要な場合、pH調整剤および緩衝剤、ならびに張度調整剤(例えば、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、および塩化カルシウム)のような薬学的に許容しうる補形薬を含み得る。抗菌剤、例えば、フェノール、塩化ベンザルコニウムまたは塩化ベンゼトニウムを、製品、特に複数回用量の非経口用途用に意図された医薬製剤の滅菌性を維持するために添加することができる。懸濁化剤、安定剤および/または分散剤もまた、本発明の製剤において使用することができる。
【0090】
医薬製剤は、塩形態のアポリポタンパク質(アポA−I Milano)を含み得る。例えば、タンパク質は酸性および/または塩基性の末端および/または側鎖を含み得るので、アポA−I Milanoは、遊離酸もしくは遊離塩基として、または薬学的に許容しうる塩として医薬製剤中に存在し得る。薬学的に許容しうる塩は、アポA−I Milanoと塩を形成し得る適切な酸を含み得、この酸としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、硝酸、チオシアン酸、硫酸、リン酸などのような無機酸;およびギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、蓚酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、アントラニル酸、桂皮酸、ナフタレンスルホン酸、スルファニル酸などのような有機酸が挙げられる。アポA−I Milanoと塩を形成し得る適切な塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウムなどのような無機塩基;およびモノ−、ジ−およびトリ−アルキルアミン(例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、メチルアミン、ジメチルアミンなど)ならびに場合により置換されたエタノールアミン(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミンなど)のような有機塩基を挙げることができる。
【0091】
医薬製剤は、非経口、経腸、局所または吸入を含むがこれらに限定されない任意の投与経路に適切な種々の形態であり得る。非経口投与とは、消化管を通らない任意の投与経路を指し、注射投与(すなわち、本明細書に記載されるような静脈内、筋内など)を含むがこれに限定されない。経腸投与とは、消化管を使用する、経口または直腸の任意の投与経路を指し、本明細書に記載されるような、錠剤、カプセル、経口液剤、懸濁剤、スプレーなどが挙げられるがこれらに限定されない。この用途の目的のためには、経腸投与は、膣投与経路のことも指す。局所投与とは、皮膚を介した任意の投与経路を指し、本明細書に記載されるような、クリーム、軟膏、ゲルおよび経皮パッチが挙げられるがこれらに限定されない(Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Edition Gennaroら編)Mack Printing Company,Easton,Pennsylvania,1990も参照のこと)。
【0092】
本発明の非経口医薬製剤は、注射により、例えば、静脈に(静脈内)、動脈に(動脈内)、筋肉に(筋内)、皮膚の下に(皮下またはデポー製剤)、心膜に、冠動脈に、投与することができる。注射可能な医薬製剤は、心臓、心膜または冠動脈への直接的な投与について薬学的に適切な製剤であり得る。好ましい実施態様において、医薬製剤は、被験体の末梢血管、例えば、腕または肘窩に注入される。
【0093】
注射可能医薬製剤は、水性賦形剤または油性賦形剤中の滅菌の懸濁剤、液剤または乳剤であり得る。注射用の製剤は、単位投薬形態、例えば、アンプル中または複数回用量容器中で提供され得、そして添加された保存料を含み得る。非経口医薬製剤用の好ましい緩衝剤は、リン酸塩、クエン酸塩および酢酸塩である。
【0094】
別の実施態様において、医薬製剤は、適切な賦形剤(滅菌パイロジェンフリー水、食塩水またはデキストロースが挙げられるがこれらに限定されない)で使用前に再形成するための散剤形態で提供され得る。この目的のために、アポA−I Milanoは、凍結乾燥されるか、または適切な場合には上記のような脂質と同時凍結乾燥され得る。別の実施態様において、医薬製剤は、単位投薬形態で供給され、そして使用前に再形成され得る。
【0095】
長期送達のために、医薬製剤は、移植による投与(例えば、皮下、皮内または筋内注射)のために、デポー製剤として提供され得る。それ故、例えば、医薬製剤は、適切なポリマー物質もしくは疎水性物質(例えば、許容しうるオイル中の乳剤として)もしくはイオン交換樹脂と共に、または難溶性誘導体として;例えば、アポA−I MilanoもしくはアポA−I Milano:脂質複合体の難溶性塩形態として、製剤化され得る。
【0096】
別の実施態様において、医薬製剤は、経皮吸収のための活性成分をゆっくりと放出する吸盤またはパッチとして製造される経皮送達系である。この実施態様において、浸透増強剤を、アポA−I Milanoの経皮浸透を促進するために使用することができる。別の実施態様において、経皮医薬製剤は、狭心症を有する患者における使用のためにニトログリセリンをさらに含有することができる。
【0097】
吸入による投与のために、医薬製剤は、適切な噴射剤(例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の適切なガス)を使用して、加圧パックからまたは噴霧器を介してエアゾールスプレーにより送達され得る。加圧エアゾール剤の場合には、投薬単位は、計量された量を送達するバルブ、例えば定量投与量吸入器を提供することにより決定することができる。吸入器または注入器で使用するための、例えばゼラチンのカプセルおよびカートリッジは、アポA−I Milanoおよび乳糖またはデンプンのような適切な粉末基剤の粉末混合物を含めて製剤化され得る。
【0098】
製剤は、所望の場合、アポA−I Milano医薬製剤を含む1つまたはそれ以上の単位投薬形態を含むことができるパックまたはディスペンサーデバイスに入れて提供され得る。パックは、例えば、ブリスター包装のような金属またはプラスチックの箔を含む。パックまたはディスペンサーデバイスは、投与のための指示書または標示を添付され得る。
【0099】
特定の実施態様において、アポAI−MまたはアポA−I Milano:脂質複合体の医薬製剤は、処置を必要とする被験体を処置するために十分な濃度のアポA−I Milanoを含み得る。特定の実施態様において、アポA−I MilanoまたはアポA−I Milano:脂質複合体の医薬製剤は、約5mg/ml〜約50mg/mlの濃度のアポA−I Milanoを含み得る。好ましい実施態様において、製剤は、約10mg/ml〜約20mg/mlの濃度でアポA−I Milanoを含み得る。より好ましい実施態様において、製剤は、約13mg/ml〜約16mg/mlの濃度でアポA−I Milanoを含み得る。アポA−I Milanoの濃度は、当業者に公知の任意の適切な技術により決定することができる。特定の実施態様において、アポA−I Milanoの濃度は、サイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SE−HPLC)により決定される。
【0100】
特定の実施態様において、アポAI−MまたはアポA−I Milano:脂質複合体の医薬製剤は、アポA−I Milanoと複合体を形成するために十分な濃度の脂質を含み得る。特定の実施態様において、脂質は、リン脂質である。好ましい実施態様において、脂質はPOPCである。特定の実施態様において、アポA−I MilanoまたはアポA−I Milano:脂質複合体の医薬製剤は、約1mg/ml〜約50mg/mlの濃度のPOPCを含み得る。好ましい実施態様において、製剤は、約5mg/ml〜約25mg/mlの濃度でPOPCを含み得る。より好ましい実施態様において、製剤は、約10mg/ml〜約20mg/mlの濃度でPOPCを含み得る。さらにより好ましい実施態様において、製剤は、約11mg/ml〜約17mg/mlの濃度でPOPCを含み得る。POPCの濃度は、当業者に公知の任意の適切な技術により決定することができる。特定の実施態様において、POPCの濃度は、高速液体クロマトグラフィーにより決定される。
【0101】
好ましい実施態様において、アポA−I Milano:脂質複合体の医薬製剤は、アポA−I MilanoまたはアポA−I Milano:脂質複合体の薬学的に適切な製剤を作製するために十分な量のショ糖を含み得る。特定の実施態様において、医薬製剤は、約0.5%〜約20%のショ糖を含み得る。特定の実施態様において、医薬製剤は、約3%〜約12%のショ糖を含み得る。特定の実施態様において、医薬製剤は、約5%〜約7%のショ糖を含み得る。好ましい実施態様において、医薬製剤は、約6.0%〜約6.4%のショ糖を含み得る。最も好ましい実施態様において、医薬製剤は、6.2%のショ糖を含み得る。
【0102】
好ましい実施態様において、アポA−I Milano:脂質複合体の医薬製剤は、アポA−I MilanoまたはアポA−I Milano:脂質複合体の薬学的に適切な製剤を作製するために十分な量のマンニトールを含み得る。特定の実施態様において、医薬製剤は、約0.01%〜約5%のマンニトールを含み得る。特定の実施態様において、医薬製剤は、約0.1%〜約3%のマンニトールを含み得る。特定の実施態様において、医薬製剤は、約0.5%〜約2%のショ糖を含み得る。好ましい実施態様において、医薬製剤は、約0.8%〜約1%のマンニトールを含み得る。最も好ましい実施態様において、医薬製剤は、0.9%のマンニトールを含み得る。
【0103】
特定の実施態様において、アポA−I Milano:脂質複合体の医薬製剤は、アポA−I MilanoまたはアポA−I Milano:脂質複合体の薬学的に適切な製剤を作製するために十分な量の緩衝剤を含み得る。特定の実施態様において、医薬製剤は、リン酸緩衝剤を含み得る。特定の実施態様において、緩衝剤濃度は、約3mM〜約25mMであり得る。特定の実施態様において、緩衝剤濃度は、約5mM〜約20mMであり得る。好ましい実施態様において、緩衝剤濃度は、約8mM〜約15mMであり得る。特定の実施態様において、適切な緩衝剤は、被験体への投与に適切な範囲に医薬製剤のpHを調整するために添加される。特定の実施態様において、医薬製剤は、約6.8〜約7.8のpHを有し得る。特定の実施態様において、医薬製剤は、約7.0〜約7.8のpHを有し得る。特定の実施態様において、医薬製剤は、約7.2〜約7.5のpHを有し得る。好ましい実施態様において、医薬製剤は、約7.5のpHを有し得る。
【0104】
特定の実施態様において、アポA−I Milano:脂質複合体の医薬製剤は、被験体への投与に適切な重量オスモル濃度を有する。特定の実施態様において、製剤の重量オスモル濃度は、約200〜約400mOsmであり得る。特定の実施態様において、医薬製剤は、約220〜約380mOsmの重量オスモル濃度を有し得る。特定の実施態様において、医薬製剤は、約260mOsm〜約340mOsmの重量オスモル濃度を有し得る。好ましい実施態様において、医薬製剤は、約280mOsm〜約320mOsmの重量オスモル濃度を有し得る。最も好ましい実施態様において、医薬製剤は、約290mOsmの重量オスモル濃度を有し得る。
【0105】
本発明の製剤は、被験体への投与を許容するために十分な純度のアポA−I Milano:脂質複合体を提供する。特定の実施態様において、医薬製剤は、約98%もしくはそれ以上、約96%もしくはそれ以上、約95%もしくはそれ以上、約93%もしくはそれ以上、約91%もしくはそれ以上、または約90%もしくはそれ以上の純度のアポA−I Milanoを含み得る。好ましい実施態様において、アポA−I Milanoの純度は、約90%またはそれ以上である。アポA−I Milanoの純度は、当業者に公知の任意の適切な技術により決定することができる。特定の実施態様において、アポA−I Milanoの純度は、サイズ排除HPLCにより決定することができる。
【0106】
本発明の製剤は、被験体への投与を許容するために十分な純度のPOPCのアポA−I Milano:脂質複合体を提供する。特定の実施態様において、医薬製剤は、約98%もしくはそれ以上、約96%もしくはそれ以上、約95%もしくはそれ以上、約93%もしくはそれ以上、約91%もしくはそれ以上、または約90%もしくはそれ以上の純度のPOPCを含み得る。好ましい実施態様において、POPCの純度は、約90%より高い。POPCの純度は、当業者に公知の任意の適切な技術により決定することができる。特定の実施態様において、POPCの純度は、HPLCにより決定することができる。
【0107】
特定の好ましい実施態様において、アポA−I Milano:脂質複合体は、約10%,もしくはそれ以下、約8%もしくはそれ以下、約6%もしくはそれ以下、約4%もしくはそれ以下、約2%もしくはそれ以下、約1%または鉄酸化/キシレノールオレンジアッセイ(Jiang,ら 1992,Anal.Biochem 202:384−389)により測定される場合の検出限界よりも低い脂質ヒドロペルオキシド量を有する。特定の実施態様において、アポA−IM:POPC−複合体は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより決定された場合に85%より高い(全ピーク面積の%として測定される)純度を有する。特定の実施態様において、製剤は、内毒素をほとんどまたは全く有さない。好ましい実施態様において、製剤は、<0.04EU/mgアポA−I Milanoの内毒素を有する。
【0108】
特定の実施態様において、製剤は、光遮蔽法により決定された場合に10μmより大きいサイズの粒子の量が50mLバイアルあたり<約6,000になり得る。特定の実施態様において、光遮蔽法により決定された場合に25μmより大きいサイズの粒子の量が50mLバイアルあたり<約600になり得る。
【0109】
好ましい実施態様において、アポA−I Milano:脂質複合体の医薬製剤は、rアポA−I Milanoを注射用水で15mg/mlの溶液の濃度まで希釈することにより作製される。リン酸ナトリウムを添加してリン酸塩の最終濃度を9〜15mMにし、そしてpHを約7.0と約7.8との間に調整する。マンニトールを、約0.8%〜約1%のマンニトールの濃度(w/v)を達成するように添加する。次いでPOPCを、1:0.95(タンパク質重量/脂質重量)のアポA−I Milanoダイマー対POPCの比を達成するように添加される。混合物を、37℃と43℃との間の温度を維持しながら、5000rpmにて約20分間オーバーヘッドプロペラおよびUltra Turraxを使用して撹拌する。供給容器を、インライン熱交換機(Avestin,Inc.)を使用して32℃〜43℃の温度を維持しながら連続して300rpmで連続して撹拌する。最初の30分間の均質化を、50MPa(7250psi)で行い、その後、ゲル浸透クロマトグラフィーによる製造過程検査がタンパク質標準間で約70%より高い%AUCを実証するまで、圧力を80〜120MPa(11600〜17400psi)に維持する。次いで複合体の重量オスモル濃度を、6.0%〜6.4%のショ糖を加えることによりだいたい調節する。アポA−I Milano:POPC複合体の医薬製剤を、次いで0.22μMフィルターを通す濾過により滅菌する。
【0110】
別の好ましい実施態様において、医薬製剤は、約12〜約18mg/mlの組換えアポA−I Milano、約11〜約17mg/mlの1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンをpH7.4で、6.2%ショ糖および0.9%マンニトールと共に含み、約280mOsm〜約320mOsmの重量オスモル濃度を有する。医薬製剤は、約90%の純度のrアポA−I−M、約97%の純度のPOPCを有し得る。特定の実施態様において、単一の不純物が約2%を超えることはない。
【0111】
医薬製剤を、凍結(約−15℃〜約−25℃)保存することができる。特定の実施態様において、製剤は、低温液剤、凍結液剤、または凍結乾燥液剤であり得る。このような製剤が、被験体への投与前に解凍されそして室温まで加温されることが好ましい。穏やかな解凍および加温が、タンパク質の変性を避けるために推奨される。
【0112】
別の好ましい実施態様において、製剤は、アポA−I Milano:リン脂質複合体を含む医薬製剤を含有する、約2mL〜約250mL、好ましくは約10mL〜約100mL、最も好ましくは約50mLの滅菌ガラスバイアルであり得る。特定の実施態様において、医薬製剤は、バイアルあたり約39〜41mlの最終充填容量で約10mg/mL〜約15mg/mLのアポA−I Milano:リン脂質複合体を含み得る。アポA−I Milano:リン脂質複合体の量は、50mLバイアルあたり約500mg〜750mgであり得る。
【0113】
医薬製剤は、単一の一回限りの使用用であり得、または複数回使用(例えば、複数回使用バイアル)に適切である医薬製剤を提供する、上記のような抗菌補形薬を含有し得る。特定の実施態様において、医薬製剤は、使用単位包装であり得る。当業者に公知であるように、使用単位包装は、医療関連業者による直接販売用にラベルを付けられた、便利な規定サイズの患者用に準備された単位である。使用単位包装は、所定の適応について典型的な処置間隔および継続期間のために必要な量で医薬製剤を含有する。本発明の方法および製剤は、例えば、平均的なサイズの成人男性または女性を15mg/kgで週に1回5週間処置するために十分な量でアポA−I Milano:リン脂質複合体を含む医薬製剤の使用単位包装を提供する。一実施形態において、使用単位包装は、平均的なサイズの成人被験体を45mg/kgで週に1回6週間処置するために十分な量でアポA−I Milano:リン脂質複合体を含む医薬製剤を含み得る。本明細書中に記載される用量は、被験体の体重に基づくことは、当業者に明らかである。
【0114】
医薬製剤は、ラベルを付けられ得、そして心臓血管および血管障害、急性冠症候群、虚血性障害の処置および予防において、そしてプラークの安定化のために、その中に含有される製剤を同定するための添付の標示、ならびに医療関連業者および被験体に有用な他の情報を有し得、これらとしては、使用上の注意、用量、投与間隔、継続期間、適応、禁忌、警告、安全上の注意、取り扱いおよび保管の指示などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0115】
さらなる実施態様において、本発明は、心臓血管および血管障害、急性冠症候群、虚血性障害を処置または予防するため、ならびにプラークの安定化のためのキットを提供する。キットは、1つまたはそれ以上の有効用量のアポA−I MilanoもしくはアポA−I Milano:脂質複合体またはその医薬製剤を、本発明の方法に従って急性冠症候群を処置または予防するためのアポA−I MilanoもしくはアポA−I Milano:脂質複合体またはその医薬製剤の使用に関する指示を含むラベルまたは標示と共に含む。特定の実施態様において、キットは、アポA−I MilanoもしくはアポA−I Milano:脂質複合体またはその医薬製剤を送達するためのデバイスおよびこれらのデバイスの安全な廃棄のための構成要素(例えば、シャープスコンテナー)のような、方法を実行するために有用な構成要素を含み得る。特定の実施態様において、キットは、プレフィルドシリンジ、単位用量または使用単位の包装入りのアポA−I MilanoもしくはアポA−I Milano:脂質複合体またはその医薬製剤を含み得る。
【実施例】
【0116】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照してさらに理解されるであろう。
【0117】
実施例1:ETC−216の忍容性
この実施例は、健常なボランティアにおいてETC−216の安全性および忍容性を実証する。
二重盲検プラセボ対照試験を、アポA−I Milanoおよびリン脂質の安全性および忍容性を決定するために行った。アポA−I Milanoを、1:1の重量比のリン脂質(POPC)と複合体化した(ETC−216と呼ぶ)。この試験は、健常男性ボランティアにおける段階的に増加する5用量の単一静脈内注入、および健常女性ボランティアにおける2つの異なる用量での安全性および忍容性を評価した。試験の前に全てのボランティアからインフォームドコンセントを得た。
【0118】
18歳〜50歳の間の年齢の32人の健常ボランティア(「被験体」)に、ETC−216の静脈内用量を投与した。男性被験体において、100mg/kgまでおよび100mg/kgを含む用量を投与した。女性被験体において、50mg/kgまでおよび50mg/kgを含む用量を投与した。被験体の性別、用量および速度を以下の表1に示す。
【表1】
有害事象モニタリングには、臨床検査評価、身体診察およびバイタルサインが含まれた。被験体を27日間以下の投与量でモニターした。
【0119】
この試験における32人の被験体のうち20人は、有害事象が報告され、これらの全てが、軽度から中等度であった。二人またはそれ以上の被験体において発生した有害事象を、試験薬物処置におそらく関連するとみなした。これらの有害事象およびこれらの有害事象を経験した被験体の数は、リンパ球減少(11被験体)、白血球増加(10被験体)、吐き気(6被験体)、頭痛および下痢(4被験体)、嘔吐(3被験体)ならびに腹痛およびトリグリセリド過剰血(2被験体)であった。おそらく関連する有害事象の大部分(胃腸障害および白血球障害)は、男性被験体における50mg/kgまたは100mg/kgの注入後に報告された。プラセボ処置被験体において発生した2つの有害事象(低タンパク血および異常肝機能)は、試験処置におそらく関連するとみなした。死亡者も、重篤な有害事象も、有害事象による辞退も全くなかった。
【0120】
図1に示されるように、ETC−216の単一用量の30分後の男性被験体におけるHDL非エステル化コレステロールの血清レベルは、15mg/kgおよびより高い用量で増加した。
【0121】
アポA−I Milanoに対する抗体力価を、注入前および注入後27日まで血清で試験した。単一用量投与後のいずれの被験体においても有意な抗体応答はなかった。
【0122】
約100時間の終末半減期は、7日ごとの投与計画を用いるヒトにおける初期複数用量試験を行うための論理的根拠を支持する。
【0123】
これらの結果は、ETC−216が、全ての用量において安全かつ十分に忍容性であり、そして重篤な有害事象が全く発生しなかったことを示す。
【0124】
実施例2:アテローム性動脈硬化症の後退におけるETC−16の種々の用量の有効性
この実施例は、急性冠症候群を伴う被験体における冠状動脈硬化症の後退における15mg/kgおよび45mg/kgのETC−216の用量の有効性を実証する。
この試験は、血管内超音波法により評価した場合に、急性冠症候群を伴う被験体においてETC−216の有効性および安全性を評価するための、無作為二重盲検プラセボ対照複数用量試験であった。いずれの試験の特定の手順を開始する前に、全ての患者から、それぞれの参加施設のInstitutional Review Board(IRB)により承認されたインフォームドコンセントを得た。
【0125】
適格被験体は、スクリーニングの14日前以内に急性冠症候群(不安定狭心症、非Q波心筋梗塞またはST上昇心筋梗塞)と診断された被験体、ならびに冠動脈造影および/または経皮冠動脈インターベンション(PCI)を受けることを予定されており、そして術後24時間の滞在が見込める被験体であった。この基準に合う被験体は、それらの処置が緊急であると考えられるか、かつ/または急性合併症の高い危険性を負っていると考えられると処置する医師により決定された場合には除外した。
【0126】
第一の有効性の終点は、血管内超音波法(IVUS)により評価された1つの対象の(画像化された)冠状動脈の30〜80mmの部分における粉瘤体積パーセントの変化(処置の終了−処置前)であった。肯定的な結果は、0を含まない信頼区間(CI)を有する粉瘤体積パーセントの負の変化と規定した。
【0127】
第2の有効性の終点は、全粉瘤体積の平均変化および平均最大粉瘤厚さであった。第二の有効性終点をIVUSおよび血管造影について確立した。IVUSについては、第二の有効性終点は:
1)対象の冠動脈の解剖学的に比較可能な部分の全スライスについてのプラーク面積の平均を測定した場合の全プラーク「体積」における名目上の変化(処置の終了−処置前);
2)対象の冠動脈の解剖学的に比較可能な部分の全スライスについての平均最大プラーク厚さにおける名目上の変化(処置の終了−処置前);
3)最も軽度の患部および最も重度の患部の「体積」:
a)最小パーセントプラーク領域(最も軽度の患部として規定される)を含むベースラインにおける10mmの連続したスライスについての部分プラーク「体積」における名目上の変化(処置の終了−処置前);
b)最大パーセントプラーク領域(最も重度の患部として規定される)を含むベースラインにおける10mmの連続したスライスについての部分プラーク「体積」における名目上の変化(処置の終了−処置前)
であった。
【0128】
血管造影についての第2の有効性終点は:
1)全ての測定された冠動脈部分内の平均冠動脈管腔直径;
2)各処置サブグループにおける新しい血管造影病巣の数;
3)処置の終了において1つまたはそれ以上の新しい血管造影冠動脈病巣を有する被験体の比率;
4)後退を示す既存の病巣を含む部位の数;
5)進行を示す既存の病巣を含む部位の数;
6)任意の既存の病巣における「後退」を示す被験体の割合;
7)全ての既存の病巣において「進行または変化無し」を示す被験体の割合;
8)全ての既存の病巣において「後退または変化無し」を示す被験体の割合
であった。
【0129】
IVUSに関する方法は、Nissen 2001,Am.J.Cardiol.87:15A−20A(全て参照により本明細書に加入される)により記載されるように解析した。簡単に述べると、オペレーターは、IVUSビデオテープをデジタル化し、引き戻しを見直し、そして図2(A)に示されるように、解析のための始点として最も遠位の側枝の基点を選択した。続いて、正確に0.5mm間隔を空けられた一連の断面を表す30枚ずつの画像を解析のために選択した。最後に解析される断面は、図2(B)〜2(D)に示すように、左主冠動脈または右冠動脈入り口部(近位基準部位)の出現前の一続きの画像における最も近位の画像であった。同一の部分を両方の時点で解析したことを確実にするために、同一の目印を使用して、検証試験のために手順を繰り返した。
【0130】
指向性IVUS測定および派生的IVUS測定の両方を行った。直接IVUS測定を、米国心臓病学会および欧州心臓病学会の基準に従って行った(Mintzら 2001,J.Am.Coll.Cardiol.37:1478−92,全て参照により本明細書に加入される)。National Institute of Health Image 1.62(NIHパブリックドメインソフトウェア)を使用して、オペレーターは、スキャナーによりIVUS画像に符号化された1mmのグリッドマークを測定することにより較正手順を実行した。各断面について、管腔および外部弾性膜の境界の先端をなぞるために、オペレーターは手作業による面積測定を実行した(図3(A)〜3(D))。最大粉瘤厚さもまた直接測定した。これらの方法の精度および再現性は、以前に報告されており、較正後、平均IVUS断面積測定値は、3.24mm2〜27.99mm2の面積の範囲に及ぶ精密な穴をあけたルーサイト模型についての実際の寸法の0.5%以内であった(Schoenhagenら 2003,J.Am.Soc.Echocardiogr.16:277−84、全て参照により本明細書に加入される)。複数の観察者による測定の変動は、2.9%の標準偏差であることが実証された。
【0131】
派生的IVUS測定は、外部弾性膜(EEM)面積−管腔面積としての粉瘤面積の計算を含んでいた。画像断面は、0.5mm間隔で得られたので、合計の粉瘤体積は、平均粉瘤面積に引き戻し長さ(ミリメートル)を掛けることによりSimpson規則を使用して計算することができた。粉瘤体積パーセントを:(Σ 粉瘤面積/Σ EEM面積)×100(例えば、Nissenら,2003,JAMA 290:2292−2300を参照のこと)として算出した。冠動脈造影の解析を、Cleveland Clinic Foundationの中心の研究室において測定変動を減少するように設計された標準化方法を使用して行った。既知の寸法を有する血管造影用カテーテルチップの直径の比較を、システムを較正するために使用した。血管造影終点は、ベースラインから追跡までの平均冠動脈管腔直径の変化であった。
【0132】
57人の被験体を無作為に分けて、15mg/kgのETC−216、45mg/kgのETC−216または体積を一致させたプラセボを、7日ごとに(±1日)最大5回の静脈内用量で投与した。被験体を、15mg/kgのETC−216、45mg/kgのETC−216またはプラセボに2:2:1の比で無作為に分けた。47人の被験体が試験を完了した。
【0133】
15mg/kgの用量を約50分かけて静脈内に注入し、そして45mg/kgの用量を約150分かけて静脈内に注入した。吐き気の発生のために何人かの被験体については注入速度を増加させた。全ての静脈内注入は、末梢部に行われた。
【0134】
被験体を、ETC−216についての抗体レベル、身体診察、バイタルサイン、心電図(EKG)ならびに臨床的有害事象の頻度および強度を含む臨床検査パラメーターによりモニタリングした。血管造影およびIVUSを、各患者に対して2回行った。1回目は最初のスクリーニング訪問の完了後であり、そして二回目は、試験薬の最後の用量のおよそ2週間後(±7日)であった。
【0135】
以下の表2にまとめたように、肯定的な結果を第一の終点に関して得た。併用処置のグループ(15mg/kgまたは45mg/kgのいずれかの用量のETC−216を投与された患者)において、平均(標準偏差またはSD)粉瘤体積パーセントの変化は、−1.06%(3.17%)であった。中央値は−0.81%であった(95%CI、−1.53%〜−0.34%;p=0.02、ベースラインと比較)。プラセボグループについては、平均(SD)変化は、0.14%(3.09%)であった。中央値は、0.03%であった(95%CI、−1.11%〜1.43%;p−0.97、ベースラインと比較)。
【0136】
【表2】
【0137】
以下の表3に示すように、第2の終点に関しても肯定的な結果が得られた。ベースラインと比較して、併用処置グループにおける全粉瘤体積における平均(SD)変化は、−14.1mm3であった(39.5mm3;中央値 −13.3mm3;95%CI、−20.7〜−7.2;p<0.001)。プラセボグループについては、対応する変化は、−2.9mm3であった(23.3mm3)。中央値は−0.2mm3(23.3mm3)であった。中央値は、−0.2mm3;95%CI、−8.6〜8.2;p=0.97)であった。併用処置グループについての最大粉瘤厚さにおけるベースラインからの平均(SD)変化は、−0.042mm(0.080mm)であった。中央値は、−0.035mm(95%CI、−0.058〜−0.020;p<0.002)であった。プラセボグループについては、対応する変化は、−0.008mm(0.061mm;中央値−0.009(95%CI、−0.035〜0.026;p=0.83)であった。以下の表4を参照のこと。
【0138】
【表3】
【0139】
【表4】
【0140】
結果は、ETC−216がプラークサイズの減少において有効であることを示した。アテローム性動脈硬化症の統計的に有意な後退が、両方の処置グループにおいて実証された。
【0141】
実施例3:エクスビボLangendorff
この実施例は、再潅流された分離した虚血性ウサギ心臓における予防的ETC−216の心保護作用を実証する。体重約2〜3kgの雄性ニュージーランド白色ウサギ(Charles Riverから入手)を試験で使用した。雄性ニュージーランド白色ウサギを、この試験の目的に適切な試験システムのとおりに選択した。分離した虚血性再潅流ウサギ心臓は、ヒト心筋梗塞のモデルである。到着した際に、動物に独特の同定番号を割り当てた。
【0142】
動物の使用および世話に関するミシガン大学委員会のガイドラインに従って、ステンレス鋼のケージで動物を飼育した。獣医による世話が、実験動物医療に関するミシガン大学の部署により提供された。ミシガン大学は、the American Association of Accreditation of Laboratory Animal Health Careによる適格審査に合格しており、動物の世話使用プログラムは、Guide for the Care and use of Laboratory Animals,DHEW(NIH)Publ.No.86−23の基準に準拠している。
【0143】
ETC−216は、1:1の重量比の組換えアポリポタンパク質A−I Milano/1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスファチジルコリン複合体である。ETC−216のストック溶液は、14mgのタンパク質/mlをショ糖−マンニトール緩衝液中に含んでいた。ショ糖−マンニトール緩衝液は、Krebs−Henseleit緩衝液と非相容性であり、そしてマンニトール単独の任意の独立した効果を制御するために、ETC−216を透析して4mMリン酸ナトリウム(pH7.4)中2%のグルコースからなるバックグラウンド緩衝液を得た。ETC−216をKrebs−Henseleit緩衝液で希釈して、0.45mg/mlの薬物濃度を得た。賦形剤を同様に希釈した。
【0144】
用量選択は、EsperionのヒトフェーズI単一用量安全性臨床試験において使用された用量についての歴史的なデータに基づいており、この場合、100mg/kgまでのETC−216の用量がヒトに投与された。このプロトコルでまとめられた試験については、0.5mg/mlの濃度が、ヒトに投与された25mg/kgの静脈内用量にほぼ相当する。
【0145】
ウサギ心臓を潅流するためにLangendorff装置を使用して実験を行った。ウサギを頸椎脱臼により意識消失にし、そして心臓を迅速に取り出し、そして大動脈を通した潅流のためのカニューレに取り付けた。潅流媒体は、循環Krebs Henseleit緩衝液(pH7.4,37℃;「KH」)からなり、これを連続的に95% O2/5% CO2の混合物にさらし、そして20〜25ml/分の一定速度で送達した。心臓を、右心房に取り付けられた電極によりプロトコルの間中ペースを整えた。ペースを整える刺激を、研究用方形波発生器(生理学的なペースよりも10%速い、1msecの持続期間、Grass 588,Quincy,MA)から送った。冠状静脈洞への冠静脈還流示す肺動脈流出物の収集を容易にするために、肺動脈にSilasticTM管状部材を用いてカニューレ挿入した。上下の大静脈および肺静脈を、他の切断された血管からの灌水の損失を防ぐために結紮した。左心室排液管、サーミスタプローブ、およびラテックスバルーンを、左心房を介して挿入し、そして左心室に位置づけした。流体充填ラテックスバルーンを、左心室が生じる圧力の測定を可能にするためにMillerカテーテル圧力変換器に硬性管状部材を用いて接続した。心室内バルーンを蒸留水を用いて膨張させて、約10mmHgの初期ベースライン左心室拡張終期圧を達成させた。冠動脈潅流圧を、大動脈カニューレの側方アームに接続された圧力変換器を用いて測定した。冠動脈潅流の速度は一定に維持されたので、冠動脈潅流圧における変化は、冠動脈の抵抗性における変化の指標として役立った。全ての血流力学的変数を、Polyview Software Data Acquisition Systemとインターフェースで接続したGrass Polygraph 79D(Quincy,MA)のようなマルチチャンネルレコーダーを連続的に使用してモニタリングした。心臓を温度調節した二重管腔ガラスチャンバで囲み、そして潅流媒体を熱源および送達系に通すことにより、実験期間の間中、心臓を37℃に維持した。
【0146】
2つの処置グループを、以下に示されるような実験手順のために使用した。
グループ 処置 試験物質 濃度(mg/ml)
1 虚血および再潅流 賦形剤 0
2 虚血および再潅流 ETC−216 0.45
【0147】
虚血および再潅流
心臓を、図5に示されるように実験的に処置した。分離した心臓を、全体虚血の誘導の前20分間、正常酸素圧(酸素の正常レベル)条件下で安定化した。この期間の最初の10分間の間、心臓をKH緩衝液のみにさらし、次いでさらに10分間、賦形剤(グループ1)またはETC−216(グループ2)のいずれかを含有するKH緩衝液にさらした。次いで心臓を、30分間の虚血、続いて賦形剤(グループ1)またはETC−216(グループ2)を含有するKH緩衝液を用いた60分間の再潅流を受けさせた。心臓への灌水の流れを停止することにより全ての全体虚血の誘導を達成し、そしてポンプを作動して元の流量を回復させることにより心臓の再潅流を達成した。
【0148】
肺動脈流出物のアリコートを、全てのグループにおいてベースライン(虚血前)、そして初期の5分まで毎分、およびその後再潅流期間の間5分ごとに心臓から収集した。流出物を、クレアチンキナーゼ濃度(組織損傷の指標)について分析した(図6)。クレアチンキナーゼは、不可逆的に傷ついた細胞から放出される細胞質内酵素である。心機能を連続的にモニタリングした(図7)。心臓終点決定を以下に関して行った:
1−心電図−心拍(ペース調整) 不整脈の有無を検出するため;
2−左心室が生じる圧力(図8)(各グループにおける示された心臓の数についての平均±平均の標準誤差としてデータを示す);
3−左心室のdP/dt
4−左心室拡張終期圧(図9)(各グループにおける示された心臓の数についての平均±平均の標準誤差としてデータを示す);
5−冠動脈潅流圧(図10)(各グループにおける示された心臓の数についての平均±平均の標準誤差としてデータを示す);
6−再潅流の前後における組織クレアチンキナーゼの放出を決定するためのリンパ排液の収集(図6)
【0149】
実験プロトコルの終わりに、各処置グループから5つまでの心臓生検材料を、即座に液体窒素に浸漬し、そして−80℃で続く脂質ヒドロペルオキシド分析のために保存した。ホモジェネートサンプルを、脂質過酸化物に関するアッセイを行う前にタンパク質含量に対して正規化した(図11)。ETC−216は、この実施例において心臓脂質ヒドロペルオキシドを46%減少させた。
【0150】
指定されたプロトコルの終わりに、各グループからの2つの心臓を、3分間0.1Mカコジル酸(calcodylate)ナトリウム緩衝液(pH7.4)中の2.5%グルタルアルデヒドおよび1%LaCl3で潅流した。通常条件下で好濃LaCl3は、血管壁に結合した血管区画に保持され、そして血管完全性の指標として役立つ。脈管外隙へのLaCl3の管外遊出を、血管傷害の存在の指標として使用した。左心室心筋からの組織サンプルを取り出し、一辺が約1mmある断片に切り取った。サンプルをさらに2時間4℃にて上述の緩衝液中で固定した。その後、サンプルをエタノール系で脱水し、そしてEM bed−812(Electron Microscopy Sciences,Ft,Washington,PA)中に包埋した。組織ブロックをReichert超ミクロトームで切断し、そしてホルムバールをコーティングした銅グリッド上に配置し、続いて4%酢酸ウラニルで染色した。切片をPhillips CM−10電子顕微鏡で観察した。
【0151】
透過電子顕微鏡法を使用して、試験グループのそれぞれからの心筋標本を調べた。画像は、賦形剤で処置した心臓の筋節の構造的特徴が消え、そして収縮帯が存在することを示す。ミトコンドリアは、崩壊した結晶様および好濃の封入体で顕著に膨張している。ETC−216で処置した心臓において、筋節構造は、比較的正常であり、そしてミトコンドリアは、最小限の膨張があるだけで変化していないように見える。収縮帯が実質的に存在しないことは、コントロール心臓において観察される収縮帯と著しく対照的である。収縮帯壊死を防ぐETC−216の能力は、ETC−216で前処置された心臓が再潅流の際にLVEDPの増加を示さなかったという所見と一致している。収縮帯壊死およびLVEDPの持続した増加の両方が、細胞内カルシウム過負荷の増加および不可逆性細胞損傷と関連している。Z帯の筋原線維のかすみの存在、および筋原線維構造の崩壊は、多大な損害の指標である。他に予測される形態的損傷には、ミトコンドリアの崩壊したクリステおよびマトリックス、さらにミトコンドリア中の大きな電子密度の高い構造体が含まれた。倍率係数は、両方の顕微鏡写真(図12)において7900×であった。
【0152】
クレアチンキナーゼ濃度の分析(図6)は、静脈流出物への酵素放出の急速期が、再潅流の時点で起こることを示していた。コントロール心臓(賦形剤で処置された)は、ETC−216で処置した心臓と比較してクレアチンキナーゼの顕著な放出を示した。さらに、ETC−216で処置した心臓は、左心室の減少した拡張終期圧(図7および9)、上昇した左心室発生圧(図8)、減少した冠動脈潅流圧(図10)およびコントロール心臓(図11)と比較して減少した脂質ヒドロペルオキシド(LHP)を示した。さらに、ETC−216は、心筋における形態変化に対して保護した(図12)。これらの結果は、虚血性事象の前に投与された場合のETC−216の心保護作用を実証する。
【0153】
実施例4:LAD閉塞再潅流ウサギ心臓における100mg/kgでの急性および慢性投与
この実施例は、局所心筋虚血および再潅流のインビボモデルにおけるETC−216の心保護作用を実証する。雄性ニュージーランド白色ウサギを、この試験の目的に適切な試験システムのとおりに選択した。心臓への側副血液供給がないので、心筋血流測定を使用する必要がない。この試験において、種々の用量の投与計画を、別々のウサギグループに使用し、これらは、冠動脈結紮による30分の局所心筋虚血および再潅流を受けた。2つの投与計画を使用した。第一のプロトコルにおいて、局所虚血の開始直前に心臓を100mg/kgの薬剤にさらす単一の前処置としてETC−216を試験し、一方第2のプロトコルにおいて、局所虚血の開始前に2回の100mg/kgの前処置(1日前および直前)を施した。これらのプロトコルを(図13)に示す。この試験は、ウサギ心臓を30分の期間の間、局所心筋虚血の状態にし、続いて最小4時間再潅流するインビボ試験における心保護剤としてのETC−216の効果に注目した。この実施例は、ETC−216が、虚血性事象の後に与えられた場合心保護剤であることを実証する。
【0154】
この試験において使用された手順は、動物の使用および世話に関するミシガン大学委員会のガイドラインに従っている。獣医による世話が、実験動物医療に関するミシガン大学の部署により提供された。ミシガン大学は、the American Association of Accreditation of Laboratory Animal Health Careによる適格審査に合格しており、動物の世話使用プログラムは、Guide for the Care and use of Laboratory Animals,DHEW(NIH)Publ.No.86−23の基準に準拠している。
【0155】
体重約2〜3kgの雄性ニュージーランド白色ウサギ(Charles Riverから入手)を試験で使用した。到着した際に、動物に独特の同定番号を割り当てた。ウサギを、キシラジン(3.0mg/kg)およびケタミン(35mg/kg)の混合物を筋肉注射し、続いてペントバルビタール(30mg/kg)の静脈内注射を用いて麻酔した。ペントバルビタール(30mg/ml)の静脈注射を用いて麻酔を維持した。カフ付きの気管内チューブを挿入し、そして動物を大気での陽圧換気下に置いた。右頸静脈を分離し、そしてETC−216または一致した体積の賦形剤の投与のためにカニューレ挿入した。右頸動脈を分離し、そして大動脈血圧をモニタリングするため、および圧力パルスの導き出された一次導関数(dP/dt)を得るために、大動脈弁の直ぐ上に位置づけてMillarTMカテーテルマイクロチップ圧力変換器を取り付けた。誘導II心電図を実験の間中モニタリングした。左の開胸術および心膜切開術を行い、続いて左前下行枝(LAD)冠動脈の同定を行った。絹縫合糸(3.0;Deknatel,Fall River,MA)を動脈の後ろに通し、そして縫合糸の両端を短い長さのポリエチレン管状部材に挿入した。縫合糸の自由端に対して上向きの張力をかける間のポリエチレンチューブ上の下方の圧力は、下にある冠動脈を圧縮し、結果として血管の閉塞および局所心筋虚血を生じる。閉塞を30分間維持し、その後縫合糸に対する張力を緩めてポリエチレン管状部材を引き抜き、再潅流を起こさせた。局所心筋虚血を、閉塞した血管の分布領域にある部分の存在、および貫壁性局所心筋虚血の存在と一致する心電図における変化(ST上昇)により検証した。
【0156】
主要な終点決定は、左心室のパーセントとしておよび危険性領域のパーセントとしての梗塞サイズの測定から成っていた(図14および図15)。試験の終わりに、麻酔をしながらウサギにヘパリンを投与し(1,000U 静脈内)、その後それらを安楽死させた。心臓を切除し、次いでLangendorff装置でKrebs−Henseleit緩衝液を用いて22〜24ml/分の一定流量で大動脈を介して潅流する準備をした。組織が清浄であることを保証するために心臓を緩衝液で10分間洗浄した。リン酸塩緩衝液(pH7.4)中のトリフェニルテトラゾリウムクロリド(TTC)の1%溶液45ミリリットルを、心臓を通して潅流した。TTCは、赤レンガ色を有する危険性領域内の非梗塞心筋を区別し、生存心筋組織に存在している補酵素によるTTCの還元から生じるホルマザン沈殿物の存在を示す。細胞質デヒドロゲナーゼを欠いている、不可逆的に損傷した組織は、ホルマザン沈殿物を形成し得ず、そして淡黄色に見える。左前下行枝(LAD)動脈を、局所心筋虚血の誘導の間に結紮した領域と同一の位置で結紮した。潅流ポンプを停止し、そしてEvans Blueの0.25%溶液2mlをゆっくりと大動脈カニューレに接続された側枝ポートを通して注入した。色素が心臓を10秒間で通過し、色素の同等な分布を確認した。Evans Blueの存在を使用して、危険性領域とは対照的に、局所虚血を受けていない左心室組織を区別した。心臓を潅流装置から取り外し、そして縦軸に対して直角な横断面に切断した。右心室、心尖、および心房組織を廃棄した。各横断面の両面を、透明のアセテートシートに透写した。画像を複写して拡大した。コピーをスキャンしてAdobe PhotoShop(Adobe Systems Inc.,Seattle,WA)にダウンロードした。正常左心室(NLV)非危険性領域、危険性領域、および梗塞の面積を、Adobe Photo Shop Softwareを使用して各領域が占める画素の数を計算することにより決定した。危険性領域の合計を、左心室のパーセントとして表す。梗塞サイズを危険性領域(ARR)のパーセントとして表す(図14および図15)。
【0157】
ETC−216(100mg/kg)または等体積の賦形剤で、1回処置された(すなわち、急性処置)ウサギまたは2回処置された(すなわち、慢性処置)ウサギにおける危険性領域の梗塞パーセント、左心室の梗塞パーセント、および左心室の危険性領域パーセント。データは、グループあたりn=6の動物についての平均±平均の標準誤差である。図14におけるアスタリスクは、それぞれのコントロールとの有意な差を示す。
【0158】
他の終点決定を行った。最終的な梗塞サイズは、心筋酸素利用の増加または減少により影響され得る。心筋酸素補償の2つの重要な決定要因は、心拍および圧力負荷である。速度圧力積(心拍×平均動脈圧)は、心臓による心筋酸素必要量の変化の近似を提供する。従って、梗塞サイズの観察された減少が、速度圧力積の変化と相関していたかどうかを決定するために、速度圧力積を計算した。心拍および平均大動脈圧を、実験プロトコルの間連続的にモニタリングし、そしてデータを、各実験グループについての試験の特定の時点での速度圧力積を計算するために使用した。
【0159】
左心室の危険性領域パーセントは、急性および慢性投与の両方について、コントロールと比較してETC−216で処置した心臓において減少したが、結果は、統計学的に有意ではなかった。危険性領域の梗塞パーセントおよび左心室の梗塞パーセントは、急性および慢性投与の両方について、コントロールと比較してETC−216で処置した心臓において有意に減少した。これらの結果は、急性投与および慢性投与の両方の場合にETC−216が心保護性であることを示す。
【0160】
危険性領域および非危険性領域の心筋組織のクレアチンキナーゼ活性を比較することができる。アッセイの原理は、NADHへのNADの等モル還元の結果として340nmにおける反応混合物の吸光度の増加を基にした。吸光度の変化率は、クレアチンキナーゼ活性に直接比例する。1単位は、アッセイ手順の条件下で1分あたり1マイクロモルのNADPHを生成する酵素の量として定義される。
【0161】
再潅流無しに長期の血流妨害(虚血)を受けた心筋組織は、炎症性細胞の存在に沿った壊死に特徴的な形態変化を受ける。虚血誘導細胞死の形態学的外観は、再潅流の結果として発生する外観とは異なる。後者は、収縮帯を特徴とし、そして収縮帯壊死と呼ばれる。各グループからの心臓組織を保存し、そして電子顕微鏡による検査のために準備をした。
【0162】
虚血性再潅流傷害は、危険性領域における炎症性細胞(大部分は好中球)の蓄積と関係がある。ミエロペルオキシダーゼ(MPO)は、ほとんど好中球にのみ存在する酵素である(Liuら,J.Pharmacol.Exp.Ther.287:527−537,1998)。従って、心臓のそれぞれの領域からの組織を、傷害の指標としてMPO活性についてアッセイすることができると予測される。炎症性応答を低減し得る介入が、処置されていない動物の危険性領域からの心臓組織と比較した場合に、再潅流した危険性領域におけるMPO活性の減少と関連することもまた予測される。それ故、MPO活性の変化パーセント(危険性領域/非危険性領域)は、コントロールの賦形剤で処置した心臓と比較して、薬物で処置された心臓において減少するであろう。
【0163】
実験の終わりに、組織ミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性を、予備的な無制御の未検証のアッセイで決定した。心臓組織サンプルを、危険性領域および非危険性領域から得て、0.5%のヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド中で均質化し、そして50mMのリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)に溶解した(Liuら,1998,J.Pharmacol.Exp.Ther.287:527−537も参照のこと)。ホモジェネートを12,500gで4℃にて30分間遠心分離した。上清を収集し、そして0.167mg/mlのo−ジアニシジン二塩酸塩(Sigma)および50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)中の0.0005パーセントH2O2と反応させた。吸光度の変化を分光光度法で460nmにて測定した。1単位のMPOを、25℃で1mmolのH2O2/分を加水分解する酵素の量として定義した。この予備的実験からの結果(本明細書には示していない)は、ETC−216で処置された心臓と賦形剤で処置された心臓との間で虚血性再潅流傷害に関しては全く差がないことを示しているように思えるが、これらの結果はまだ、例えば、虚血性再潅流傷害前のMPOレベルの比較により検証されていない。
【0164】
危険性領域の梗塞パーセントおよび左心室の梗塞パーセントの減少により実証されるように、ETC−216で処置された心臓は、虚血性再潅流傷害から保護された。心保護は、両方の投与プロトコル、すなわち、虚血の開始前に単一の100mg/kgの用量として投与されるETC−216または2回の100mg/kgの用量(1回の用量は虚血の1日前に与えられ、そして2回目の用量は虚血の直前に与えられる)で投与されるETC−216、により与えられる。
【0165】
実施例5:LAD閉塞再潅流ウサギ心臓における急性投与についての最小有効用量の決定
この実施例は、局所虚血の開始直前の単一前処置として投与された場合の種々の用量のETC−216の予防的有効性を実証する。実施例2における試験は、インビボ試験における心保護剤としてのETC−216の効果に注目し、この試験ではウサギ心臓を30分の間局所心筋虚血状態にし、続いて最小4時間の再潅流をした。2つの投与計画を使用した。第一のプロトコルでは、ETC−216を単一の前処置として試験し、ここでは全身循環を局所虚血の直前に100mg/kgの薬剤にさらしたが、一方第二のプロトコルでは、2回の100mg/kgの前処置を局所虚血の開始前(一日前および直前)に投与した。両方のレジメンは、100mg/kgのETC−216を用いる1回または2回の処置のいずれもが心保護性であることを示した。
【0166】
従って、ETC−216を、心保護に対する効果を決定するために単一の前処置として試験し、ここでは心臓を単一用量の薬剤または等体積の賦形剤に局所虚血の直前にさらした。心臓を実施例2で使用した方法と同じ方法により解析した。さらに、このプロトコルを、虚血からの保護のためにウサギ心臓を処置するためのETC−216の最小有効用量を見つけるためにデザインした。
【0167】
ETC−216の最小有効用量を見つけるために、急性処置についての同じプロトコル(図13を参照のこと)を使用した。ここでは、図16に示されるように、動物に10、3もしくは1mg/kgのETC−216または等体積の賦形剤のいずれかの単一処置を施した。10mg/kgの処置のグループについての全左心室のパーセントとして表される危険性領域(AAR)または虚血性領域は、コントロールグループおよび処置グループで同様であった(図17)。10mg/kgのETC−216で処置されたウサギは、賦形剤で処置されたウサギと比較して、AARのパーセントとして表されるより小さい梗塞(p<0.0005)を発生した(図18)。心筋梗塞サイズの減少(p<0.0001)もまた、データを全左心室のパーセントとして表した場合に見られた(図17)。
【0168】
3mg/kgの用量を用いて同様の結果が得られた。全左心室のパーセントとして表されたAARは、ETC−216で処置されたグループおよび賦形剤で処置されたグループにおいて同様であった(図17)。3mg/kgのETC−216で処置されたウサギは、賦形剤で処置されたウサギと比較して、危険性領域のパーセントとして表されたより小さな梗塞を発生した(p<0.05)(図17)。心筋梗塞サイズの減少(p<0.05)は、データを全左心室のパーセントとして表した場合に観察された(図17)。
【0169】
1mg/kgの用量を用いると、左心室のパーセントとして表された場合のAARのサイズにおいてETC−216と賦形剤との間には有意な差は示されなかった(図17)。1mg/kgでは、AARのパーセントとしてのグループ間(図17)、および全左心室のパーセントとして表された心筋梗塞サイズ(図17)におけるグループ間で有意な差は示されなかった。
【0170】
4つの急性処置グループ(すなわち、100、10、3および1mg/kg)のそれぞれおよびそれらのそれぞれのコントロールからのデータのまとめを図17に示す。梗塞のAARは、4つのグループのそれぞれにおいて同様であった。4つの投与計画のうち、危険性領域のパーセントまたは左心室のパーセントのいずれで表されても、それぞれのコントロールと比較すると、梗塞サイズは、100、10および3mg/kgのETC−216の用量で減少した。対照的に、1mg/kgを与えられた動物のグループにおける梗塞サイズは、それぞれの賦形剤で処置されたグループにおいて観察された梗塞サイズと差がなかった。
【0171】
図18は、リポタンパク質非エステル化コレステロールにおける一時的変化の例を示す。血液サンプルを、1、3、10もしくは100mg/kgのETC−216または賦形剤の投与の直前および投与後定期的にウサギから得た。それぞれの一時的な血清サンプルにおいて得られた非エステル化コレステロールプロファイルを示し、ここで血清リポタンパク質を、オンライン非エステル化コレステロール分析を伴うゲル濾過クロマトグラフィーによりサイズに基づいて分離した。静脈内に投与されたETC−216試験薬剤中に非エステル化コレステロールが実質的に存在しないのにもかかわらず、特に100mg/kg、そしてより低い程度で10mg/kgにおいて、ETC−216の投与後45分で高密度コレステロール非エステル化コレステロールが上昇したことに注目のこと。10mg/kgまたは100mg/kgのいずれかのETC−216の投与後210分および270分における超低密度リポタンパク質非エステル化コレステロールの遅れた顕著な上昇にも注目のこと。リポタンパク質非エステル化コレステロールの変化は、評価した時点において3mg/kgのETC−216処置用量では明らかではなかったことにも留意のこと。しかし、この用量は、図17に示されるように心保護性であった。
【0172】
結果は、100mg/kg、10mg/kgおよび3mg/kgの用量が、ETC−216の有効な予防的用量であることを実証する。
【0173】
実施例6:ETC−216は、閉塞した再潅流ウサギ心臓におけるLAD閉塞の開始後に投与された場合、虚血−再潅流傷害を防止する
この実施例は、虚血性事象または閉塞事象後に投与された場合に、虚血性再潅流傷害を予防または低減する際のETC−216の有効性を実証する。実施例2および3における試験は、虚血の開始前に心筋を処置する予防的利点を明らかにする。従って、ETC−216が虚血の開始後に心筋を保護し得るかどうかを決定するために、LADを試験薬剤または賦形剤の投与の前に閉塞させた。このプロトコルにおいて、ETC−216を、単一の処置として試験し、ここでは、局所虚血の最後5分間の間に投与され、そして再潅流の最初の55分をとおして続けられる、10mg/kgの薬剤または等体積の賦形剤に心臓をさらした(図19)。10mg/kgの処置グループについての全左心室のパーセントとして表されるAARまたは虚血性領域は、コントロールグループと同様であった(図20)。ETC−216で処置されたウサギは、賦形剤で処置されたウサギと比較して、AARのパーセントとして表されるより小さな梗塞(p<0.001)を発生した(図20)。心筋梗塞サイズの減少(p<0.0005)もまた、データが全左心室のパーセントとして表される場合に観察された(図20)。
【0174】
この実施例は、虚血性事象の後に施された単一処置が、虚血性再潅流傷害を緩和または減少させたことを実証する。
【0175】
本発明の種々の実施態様が記載されている。説明および実施例は、本発明の例示であり限定ではないことが意図される。実際に、本発明の精神または添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、変更が本発明の種々の実施態様に対してなされ得ることは、当業者にあきらかである。
【0176】
本明細書中に引用される全ての参考文献は、全て参照により本明細書に加入される。
【図面の簡単な説明】
【0177】
【図1】正常雄性被験体における血清HDLに対するETC−216の単一用量の急性効果を示す。
【図2】2Aは、遠位基準枝(部位C)で始まって近位枝(部位A)で終わる、IVUS画像化カテーテルの電動式引き戻しを示す。カテーテルの経路を、血管造影図に図示する;2Bは、近位枝に達するまで0.5mmごとに得られた血管の代表的な断面を示す;2Cは、血管の中間断面を示す;2Dは、IVUS画像における遠位枝を示す。
【図3】3Aは、解析のための断面を示す;3Bは、外部弾性膜(EEM)を示す;3Cは、管腔領域を示す;3Dは、EEMの面積から管腔の断面積を引くことにより測定された最大粉瘤厚さの計算を示す。
【図4】4Aは、ETC−216を与える前の患者における血管のベースライン画像を示す;そして4Bは、ETC−216を与えられた後の患者における血管の追跡画像を示す。管腔面積は実質的に変化することなく、粉瘤面積が8.1から5.35mm3に減少した。
【図5】プロトコルの例であり、ここでは分離したウサギ心臓を、虚血の開始前に賦形剤または本発明のタンパク質/脂質複合体(ETC−216)で処置した。
【図6】冠状静脈流出物におけるクレアチンキナーゼ活性を示す。
【図7】Langendorff装置における賦形剤で処置された分離ウサギ心臓およびETC−216で処置された分離ウサギ心臓から収集した心機能の実時間モニタリングを示す。
【図8】30分の全体虚血性停止および60分の再潅流の前、間、および後の分離ウサギ心臓における左心室発生圧力(LVDP)の一時的な変化を示す。
【図9】30分の全体虚血性停止および60分の再潅流の前、間、および後の分離ウサギ心臓における左心室拡張終期圧(LVEDP)の一時的な変化を示す。
【図10】30分の全体虚血性停止および60分の再潅流の前、間、および後の分離ウサギ心臓における冠動脈潅流圧(CPP)の一時的な変化を示す。
【図11】30分間の全体虚血性停止、続いて60分再潅流させた、賦形剤で処置したウサギ心臓およびETC−216で処置したウサギ心臓からの組織ホモジェネートにおける脂質ヒドロペルオキシド含量を示す。
【図12】賦形剤で処置されたウサギ心臓およびETC−216で処置されたウサギ心臓からの心筋サンプルの電子顕微鏡画像を示す。
【図13】本発明のさらなるプロトコルを示し、ここでは急性投与グループにおいて虚血の開始前に1回の前処置を施し、そして慢性投与グループにおいて虚血の開始前に2回の前処置を施した。
【図14】梗塞のサイズを決定するためのプロトコルを示す。
【図15】ETC−216(100mg/kg)で1回処置(すなわち、急性処置)もしくは2回処置された(すなわち、慢性処置)か、または等容量の賦形剤で処置されたウサギにおける危険性領域の梗塞パーセント、左心室の梗塞パーセント、および左心室の危険性領域のパーセントを示す。
【図16】本発明のさらなるプロトコルを示し、ここではウサギを虚血の開始前に賦形剤(グループ1)または10、3もしくは1mg/kgのETC−216(グループ2)のいずれかで前処置した。
【図17】各グループについて10、3もしくは1mg/kgのETC−216で1回処置された(すなわち、急性処置)か、または等容量のショ糖−マンニトール賦形剤で処置されたウサギにおいて決定された危険性領域の梗塞パーセント、左心室の梗塞パーセント、および左心室の危険性領域パーセントを示す。
【図18】リポタンパク質非エステル化コレステロールの一時的な変化を示す。
【図19】本発明のさらなるプロトコルを示し、ここでは30分の虚血性期間の最後の5分間に賦形剤、ETC−216の単一処置を施した。
【図20】ウサギにおいて決定された危険性領域の梗塞パーセント、左心室の梗塞パーセント、および左心室の危険性領域パーセントを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
急性冠症候群の処置を必要とする患者に、アポリポタンパク質A−I Milano:1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン複合体(アポA−IM:POPC複合体)を約1mgのタンパク質/kg〜約100mgのタンパク質/kgの用量で投与することを含む、急性冠症候群を処置する方法。
【請求項2】
アポA−IM:POPC複合体が、約15mg/kgの用量で患者に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アポA−IM:POPC複合体が、約45mg/kgの用量で患者に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
アポA−IM:POPC複合体が、約15mg/kg〜約45mg/kgの用量で患者に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
アポA−I Milanoが、組換えアポA−I Milanoである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
アポA−IM:POPC複合体が、約1:1のタンパク質重量/脂質重量の比のアポリポタンパク質A−I Milanoおよび1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
アポA−IM:POPC複合体が、滅菌液体医薬製剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
医薬製剤が、約15mg/kgの用量で患者に投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
医薬製剤が、約45mg/kgの用量で患者に投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
医薬製剤が、約6ヶ月間、約5ヶ月間、約4ヶ月間、約3ヶ月間、約2ヶ月間または約1ヶ月間、週に1回患者に投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
医薬製剤が、約1ヶ月間ほぼ毎日患者に投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
医薬製剤が、約1ヶ月〜約6ヶ月間、ほぼ3日ごとに患者に投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
医薬製剤が、約1ヶ月〜約6ヶ月間、ほぼ10日ごとに投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
医薬製剤が、約1ヶ月〜約6ヶ月間、ほぼ14日ごとに投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項15】
外科的介入をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
外科的介入が、経皮経管冠動脈形成術または冠動脈バイパス移植を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
急性冠症候群に関連する疾患、障害、症状または疼痛を処置、予防または改善するための別の薬物の投与をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
患者の罹患した血管における粉瘤体積パーセントが、約−0.73%〜約−1.29%減少する、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
患者の標的血管における粉瘤体積の合計が、約−15.1mm3〜約−12.6mm3減少する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
患者の標的冠動脈部分における平均最大粉瘤厚さが、約−0.039mm〜−0.044mmだけ減少する、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
医薬製剤が静脈内に投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項22】
医薬製剤が、約1時間にわたって投与される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
医薬製剤が、約3時間にわたって投与される、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
医薬製剤が、アポA−I Milano、POPC、ショ糖−マンニトール担体およびリン酸緩衝液を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項25】
ショ糖−マンニトール担体が、約6.0%〜約6.4%のショ糖および約0.8%〜約1%のマンニトールからなる、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
ショ糖−マンニトール担体が、約6.2%のショ糖および約0.9%のマンニトールからなる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
医薬製剤が、約7.0〜約7.8のpHを有する、請求項7に記載の方法。
【請求項28】
pHが約7.5である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
医薬製剤が、約12mg/ml〜約18mg/mlのアポA−I Milanoを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項30】
医薬製剤が、約11mg/ml〜約17mg/mlのPOPCを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項31】
医薬製剤が、10μmより大きいサイズの粒子を50mLあたり6,000個未満含む、請求項7に記載の方法。
【請求項32】
医薬製剤が、25μmより大きいサイズの粒子を50mLあたり600個未満含む、請求項7に記載の方法。
【請求項33】
医薬製剤が、約280〜約320mOsmの重量オスモル濃度を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項34】
医薬製剤が、約290mOsmの重量オスモル濃度を有する、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
動脈硬化性プラークの減少を必要とする患者に、45mg/kgの組換えアポA−I Milano:POPC複合体を該患者に少なくとも1回投与することを含む、動脈硬化性プラークを減少させる方法。
【請求項36】
組換えアポA−I Milano:POPC複合体が、週に一度、月に一度、または年に一度投与される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
組換えアポA−I Milano:POPC複合体が、約3〜5週間、週に一度投与される、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
15mg/kgの組換えアポA−I Milano:POPC複合体の用量を少なくとも1回患者に投与することをさらに含む、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
複合体が、週に一度、月に一度、または年に一度投与される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
患者が、急性冠症候群に関連する疾患、障害、症状または疼痛を処置、予防または改善するための別の薬物でも処置される、請求項35に記載の方法。
【請求項41】
薬物が、スタチン、β遮断薬、ACE阻害剤、抗血栓剤、血管拡張剤またはそれらの組み合わせである、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
緩衝液中の組換えアポA−I Milanoまたはその変異体/1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン複合体を含む液体医薬製剤であって、該緩衝液が、約6.0%〜約6.4%のショ糖を含み、さらに約0.8〜約1%のマンニトールを含み、該緩衝液が約7.0〜約7.8のpHを有する、液体医薬製剤。
【請求項43】
約6.2%のショ糖を含む、請求項42に記載の医薬製剤。
【請求項44】
約0.9%のマンニトールを含む、請求項42に記載の医薬製剤。
【請求項45】
pHが約7.5である、請求項42に記載の医薬製剤。
【請求項46】
rアポA−I Milanoの濃度が、緩衝液1mLあたり約12mg〜約18mgである、請求項42に記載の医薬製剤。
【請求項47】
1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンと複合体化した組換えアポA−I Milanoまたはその変異体、および約7.0〜約7.8のpHを有するリン酸緩衝液を含む医薬製剤であって、該緩衝液が2%のグルコースおよび4mMのリン酸ナトリウムを含む、医薬製剤。
【請求項48】
約7.5のpHにするためにリン酸緩衝液を含む、請求項47に記載の医薬製剤。
【請求項49】
組換えアポA−I Milanoが、保存的に置換されたアポA−I Milanoである、請求項42または47に記載の医薬製剤。
【請求項50】
組換えアポA−I MilanoおよびPOPCが、1:0.95の組換えアポA−I
Milano:POPC比(タンパク質重量/脂質重量)で複合体化している、請求項42または47に記載の医薬製剤。
【請求項51】
10μmより大きいサイズの粒子を50mLあたり6,000個未満含む、請求項42または47に記載の医薬製剤。
【請求項52】
25μmより大きいサイズの粒子を50mLあたり600個未満含む、請求項42または47に記載の医薬製剤。
【請求項53】
重量オスモル濃度が約280〜約320mOsmである、請求項42または47に記載の医薬製剤。
【請求項54】
重量オスモル濃度が約290mOsmである、請求項53に記載の医薬製剤。
【請求項55】
滅菌されている、請求項42または47に記載の医薬製剤。
【請求項56】
凍結されている、請求項42または47に記載の医薬製剤。
【請求項57】
滅菌バイアル、滅菌プレフィルドバッグ、またはプレフィルドシリンジである、請求項42または47に記載の医薬製剤。
【請求項58】
a) 1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンと複合体化した、組換えアポA−I Milanoまたはその変異体;
b) 約6.0%〜約6.4%のショ糖;および
c) 約0.8〜約1%のマンニトール
を含む、凍結乾燥医薬製剤。
【請求項59】
約6.2%のショ糖を含む、請求項58に記載の医薬製剤。
【請求項60】
約0.9%のマンニトールを含む、請求項58に記載の医薬製剤。
【請求項61】
約7.5のpHを有する緩衝液をさらに含む、請求項58に記載の医薬製剤。
【請求項62】
組換えアポA−I Milanoが、保存的に置換されたアポA−I Milanoである、請求項58に記載の医薬製剤。
【請求項63】
POPCの濃度が、約11mg/ml〜約17mg/mlである、請求項58に記載の医薬製剤。
【請求項64】
組換えアポA−I MilanoおよびPOPCが、1:0.95の組換えアポA−I
Milano:POPC比(タンパク質重量/脂質重量)で複合体化している、請求項58に記載の医薬製剤。
【請求項65】
10μmより大きいサイズの粒子を50mLあたり6,000個未満含む、請求項58に記載の医薬製剤。
【請求項66】
25μmより大きいサイズの粒子を50mLあたり600個未満含む、請求項58に記載の医薬製剤。
【請求項67】
重量オスモル濃度が約280〜約320mOsmである、請求項58に記載の医薬製剤。
【請求項68】
重量オスモル濃度が約290mOsmである、請求項67に記載の医薬製剤。
【請求項69】
滅菌されている、請求項58に記載の医薬製剤。
【請求項70】
滅菌バイアル、滅菌プレフィルドバッグまたはプレフィルドシリンジである、請求項58に記載の医薬製剤。
【請求項71】
虚血性再潅流の処置を必要とする患者に、アポリポタンパク質A−I Milano:1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン複合体(アポA−IM:POPC複合体)を約15mgのタンパク質/kgの用量で投与することからなる、虚血性再潅流を処置する方法。
【請求項72】
虚血性再潅流の処置を必要とする患者に、アポリポタンパク質A−I Milano:1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン複合体(アポA−IM:POPC複合体)を約45mgのタンパク質/kgの用量で投与することからなる、虚血性再潅流を処置する方法。
【請求項73】
45mgのタンパク質/kgを投与することをさらに含む、請求項2、8または71に記載の方法。
【請求項74】
15mgのタンパク質/kgを投与することをさらに含む、請求項3、9または72に記載の方法。
【請求項1】
急性冠症候群の処置を必要とする患者に、アポリポタンパク質A−I Milano:1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン複合体(アポA−IM:POPC複合体)を約1mgのタンパク質/kg〜約100mgのタンパク質/kgの用量で投与することを含む、急性冠症候群を処置する方法。
【請求項2】
アポA−IM:POPC複合体が、約15mg/kgの用量で患者に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アポA−IM:POPC複合体が、約45mg/kgの用量で患者に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
アポA−IM:POPC複合体が、約15mg/kg〜約45mg/kgの用量で患者に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
アポA−I Milanoが、組換えアポA−I Milanoである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
アポA−IM:POPC複合体が、約1:1のタンパク質重量/脂質重量の比のアポリポタンパク質A−I Milanoおよび1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
アポA−IM:POPC複合体が、滅菌液体医薬製剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
医薬製剤が、約15mg/kgの用量で患者に投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
医薬製剤が、約45mg/kgの用量で患者に投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
医薬製剤が、約6ヶ月間、約5ヶ月間、約4ヶ月間、約3ヶ月間、約2ヶ月間または約1ヶ月間、週に1回患者に投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
医薬製剤が、約1ヶ月間ほぼ毎日患者に投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
医薬製剤が、約1ヶ月〜約6ヶ月間、ほぼ3日ごとに患者に投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
医薬製剤が、約1ヶ月〜約6ヶ月間、ほぼ10日ごとに投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
医薬製剤が、約1ヶ月〜約6ヶ月間、ほぼ14日ごとに投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項15】
外科的介入をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
外科的介入が、経皮経管冠動脈形成術または冠動脈バイパス移植を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
急性冠症候群に関連する疾患、障害、症状または疼痛を処置、予防または改善するための別の薬物の投与をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
患者の罹患した血管における粉瘤体積パーセントが、約−0.73%〜約−1.29%減少する、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
患者の標的血管における粉瘤体積の合計が、約−15.1mm3〜約−12.6mm3減少する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
患者の標的冠動脈部分における平均最大粉瘤厚さが、約−0.039mm〜−0.044mmだけ減少する、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
医薬製剤が静脈内に投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項22】
医薬製剤が、約1時間にわたって投与される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
医薬製剤が、約3時間にわたって投与される、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
医薬製剤が、アポA−I Milano、POPC、ショ糖−マンニトール担体およびリン酸緩衝液を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項25】
ショ糖−マンニトール担体が、約6.0%〜約6.4%のショ糖および約0.8%〜約1%のマンニトールからなる、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
ショ糖−マンニトール担体が、約6.2%のショ糖および約0.9%のマンニトールからなる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
医薬製剤が、約7.0〜約7.8のpHを有する、請求項7に記載の方法。
【請求項28】
pHが約7.5である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
医薬製剤が、約12mg/ml〜約18mg/mlのアポA−I Milanoを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項30】
医薬製剤が、約11mg/ml〜約17mg/mlのPOPCを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項31】
医薬製剤が、10μmより大きいサイズの粒子を50mLあたり6,000個未満含む、請求項7に記載の方法。
【請求項32】
医薬製剤が、25μmより大きいサイズの粒子を50mLあたり600個未満含む、請求項7に記載の方法。
【請求項33】
医薬製剤が、約280〜約320mOsmの重量オスモル濃度を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項34】
医薬製剤が、約290mOsmの重量オスモル濃度を有する、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
動脈硬化性プラークの減少を必要とする患者に、45mg/kgの組換えアポA−I Milano:POPC複合体を該患者に少なくとも1回投与することを含む、動脈硬化性プラークを減少させる方法。
【請求項36】
組換えアポA−I Milano:POPC複合体が、週に一度、月に一度、または年に一度投与される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
組換えアポA−I Milano:POPC複合体が、約3〜5週間、週に一度投与される、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
15mg/kgの組換えアポA−I Milano:POPC複合体の用量を少なくとも1回患者に投与することをさらに含む、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
複合体が、週に一度、月に一度、または年に一度投与される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
患者が、急性冠症候群に関連する疾患、障害、症状または疼痛を処置、予防または改善するための別の薬物でも処置される、請求項35に記載の方法。
【請求項41】
薬物が、スタチン、β遮断薬、ACE阻害剤、抗血栓剤、血管拡張剤またはそれらの組み合わせである、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
緩衝液中の組換えアポA−I Milanoまたはその変異体/1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン複合体を含む液体医薬製剤であって、該緩衝液が、約6.0%〜約6.4%のショ糖を含み、さらに約0.8〜約1%のマンニトールを含み、該緩衝液が約7.0〜約7.8のpHを有する、液体医薬製剤。
【請求項43】
約6.2%のショ糖を含む、請求項42に記載の医薬製剤。
【請求項44】
約0.9%のマンニトールを含む、請求項42に記載の医薬製剤。
【請求項45】
pHが約7.5である、請求項42に記載の医薬製剤。
【請求項46】
rアポA−I Milanoの濃度が、緩衝液1mLあたり約12mg〜約18mgである、請求項42に記載の医薬製剤。
【請求項47】
1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンと複合体化した組換えアポA−I Milanoまたはその変異体、および約7.0〜約7.8のpHを有するリン酸緩衝液を含む医薬製剤であって、該緩衝液が2%のグルコースおよび4mMのリン酸ナトリウムを含む、医薬製剤。
【請求項48】
約7.5のpHにするためにリン酸緩衝液を含む、請求項47に記載の医薬製剤。
【請求項49】
組換えアポA−I Milanoが、保存的に置換されたアポA−I Milanoである、請求項42または47に記載の医薬製剤。
【請求項50】
組換えアポA−I MilanoおよびPOPCが、1:0.95の組換えアポA−I
Milano:POPC比(タンパク質重量/脂質重量)で複合体化している、請求項42または47に記載の医薬製剤。
【請求項51】
10μmより大きいサイズの粒子を50mLあたり6,000個未満含む、請求項42または47に記載の医薬製剤。
【請求項52】
25μmより大きいサイズの粒子を50mLあたり600個未満含む、請求項42または47に記載の医薬製剤。
【請求項53】
重量オスモル濃度が約280〜約320mOsmである、請求項42または47に記載の医薬製剤。
【請求項54】
重量オスモル濃度が約290mOsmである、請求項53に記載の医薬製剤。
【請求項55】
滅菌されている、請求項42または47に記載の医薬製剤。
【請求項56】
凍結されている、請求項42または47に記載の医薬製剤。
【請求項57】
滅菌バイアル、滅菌プレフィルドバッグ、またはプレフィルドシリンジである、請求項42または47に記載の医薬製剤。
【請求項58】
a) 1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンと複合体化した、組換えアポA−I Milanoまたはその変異体;
b) 約6.0%〜約6.4%のショ糖;および
c) 約0.8〜約1%のマンニトール
を含む、凍結乾燥医薬製剤。
【請求項59】
約6.2%のショ糖を含む、請求項58に記載の医薬製剤。
【請求項60】
約0.9%のマンニトールを含む、請求項58に記載の医薬製剤。
【請求項61】
約7.5のpHを有する緩衝液をさらに含む、請求項58に記載の医薬製剤。
【請求項62】
組換えアポA−I Milanoが、保存的に置換されたアポA−I Milanoである、請求項58に記載の医薬製剤。
【請求項63】
POPCの濃度が、約11mg/ml〜約17mg/mlである、請求項58に記載の医薬製剤。
【請求項64】
組換えアポA−I MilanoおよびPOPCが、1:0.95の組換えアポA−I
Milano:POPC比(タンパク質重量/脂質重量)で複合体化している、請求項58に記載の医薬製剤。
【請求項65】
10μmより大きいサイズの粒子を50mLあたり6,000個未満含む、請求項58に記載の医薬製剤。
【請求項66】
25μmより大きいサイズの粒子を50mLあたり600個未満含む、請求項58に記載の医薬製剤。
【請求項67】
重量オスモル濃度が約280〜約320mOsmである、請求項58に記載の医薬製剤。
【請求項68】
重量オスモル濃度が約290mOsmである、請求項67に記載の医薬製剤。
【請求項69】
滅菌されている、請求項58に記載の医薬製剤。
【請求項70】
滅菌バイアル、滅菌プレフィルドバッグまたはプレフィルドシリンジである、請求項58に記載の医薬製剤。
【請求項71】
虚血性再潅流の処置を必要とする患者に、アポリポタンパク質A−I Milano:1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン複合体(アポA−IM:POPC複合体)を約15mgのタンパク質/kgの用量で投与することからなる、虚血性再潅流を処置する方法。
【請求項72】
虚血性再潅流の処置を必要とする患者に、アポリポタンパク質A−I Milano:1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン複合体(アポA−IM:POPC複合体)を約45mgのタンパク質/kgの用量で投与することからなる、虚血性再潅流を処置する方法。
【請求項73】
45mgのタンパク質/kgを投与することをさらに含む、請求項2、8または71に記載の方法。
【請求項74】
15mgのタンパク質/kgを投与することをさらに含む、請求項3、9または72に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公表番号】特表2007−509157(P2007−509157A)
【公表日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−536771(P2006−536771)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【国際出願番号】PCT/US2004/034800
【国際公開番号】WO2005/041866
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(306015043)エスペリオン・セラピューティクス・インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【国際出願番号】PCT/US2004/034800
【国際公開番号】WO2005/041866
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(306015043)エスペリオン・セラピューティクス・インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】
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