説明

急硬性水硬組成物

【課題】 ポルトランドセメントを主要硬化成分とする急硬性の水硬組成物であって、使用するポルトランドセメントにポルトランドセメントとして許容される規格範囲内での品質性状の変動差があっても、その影響が水硬組成物の水和反応活性や硬化性に現れ難く、安定した急硬性状を有する水硬組成物を提供する。
【解決手段】 ポルトランドセメント、スラグ粉末及び表面に水和物層を有するカルシウムアルミネート粒を含有してなる急硬性水硬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポルトランドセメントを主硬化成分とする急硬性の水硬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント系ペースト、モルタル又はコンクリート等の水和による硬化時間を短縮するため、カルシウムアルミネートを加えることが広く行われている。(例えば、特許文献1参照。)一方で、カルシウムアルミネートは非常に水和反応活性が高いため、主硬化成分にポルトランドセメントを用いた水硬組成物では、製造時の原燃料の多様化傾向や製造ロットの違いに起因するポルトランドセメントの僅かな品質性状の変動によって、凝結の始発時間や終結時間等の凝結性及び硬化時間や強度発現性等の硬化性状などに大きな差異が現れ易い。カルシウムアルミネートの配合量を少なくすればポルトランドセメントの品質変化による凝結性や硬化性状への影響が現れ難くなるが、急硬性が低下する。一方、ポルトランドセメントの使用量を減らせば、その品質変動の影響を低減できる可能性がある。この場合、ポルトランドセメント使用量低減により結合相形成成分が不足し、強度発現性の低下をまねくが、結合相形成成分の不足を潜在水硬物質であるスラグ粉末を用いて補えば、強度を始めとする硬化性状の低下を回避できることも知られている。(例えば、特許文献2〜3参照。)
【特許文献1】特開昭60−108352号公報
【特許文献2】特開昭61−281057号公報
【特許文献3】特開2005−272260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、急硬性を十分付与できる量のカルシウムアルミネートを用いた急硬性の水硬組成物では、硬化成分中のポルトランドセメントをスラグ粉末に置換してポルトランドセメントの使用量を少なくすると、ポトランドセメントに対してはカルシウムアルミネートが過剰となり、ポルトランドセメントに対する活性促進作用が強くなり過ぎて、やはりポルトランドセメントの品質差が急硬性の水硬組成物の諸性状に顕著に反映され易くなる。本発明は、急硬性の水硬組成物であって、使用するポルトランドセメントにポルトランドセメントとして許容される規格範囲内での品質性状の変動差があっても、その影響が水硬組成物の水和反応活性や硬化性状に現れ難く、安定した急硬性を有する水硬組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は、課題解決のため鋭意検討を重ねた結果、硬化成分としてポルトランドセメントの一部をスラグ粉末で置換し、また急硬性付与作用があるカルシウムアルミネート粒の表面を水和物層で覆った粒を併用すると、セメント凝結初期に於ける反応活性が抑制され、ポルトランドセメントの品質変動が及ぼす凝結性や硬化性への影響を著しく低減できることに加えて、十分な急硬性が発現できたことから本発明を完成するに至った。
【0005】
即ち、本発明は、ポルトランドセメント、スラグ粉末及び表面に水和物層を有するカルシウムアルミネート粒を含有してなる急硬性水硬組成物である。
【0006】
また、本発明は、さらに石膏を含有してなる前記の急硬性水硬組成物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、使用するポルトランドセメントの品質性状に変動があっても、それに影響されることなく安定した急硬性や強度発現性等の硬化性状を呈するセメント系ペースト、モルタル又はコンクリートを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の急硬性水硬組成物に使用するポルトランドセメントは、普通、早強、超早強、中庸熱、低熱等の何れのポルトランドセメントであっても良い。また、例えば日本工業規格(JIS R 5210「ポルトランドセメント」)で定められている範囲であれば、如何なる品質性状のポルトランドセメントであっても良い。使用するポルトランドセメントの粒度も特には制限されないが、好ましくは急硬性や早期強度発現性が得られ易いことから粉末度としてブレーン比表面積が2500〜5000cm2/gのものが良い。
【0009】
また、本発明の急硬性水硬組成物に使用するスラグ粉末は、特に限定されるものでなく、例えば高炉スラグ等の製鋼時の鉱滓や他の金属精錬時の鉱滓、下水汚泥溶融スラグ、都市ゴミ焼却灰溶融スラグ等の粉末を挙げることができる。この中でも、安定した性状のものが入手し易いことから高炉スラグの粉末が好ましい。スラグ粉末の粉末度は急硬性を発現する上で、ブレーン比表面積が3000〜10000cm2/gが好ましい。ブレーン比表面積が3000cm2/g未満のスラグ粉末では急硬性が低下することがあり、また、ブレーン比表面積が10000cm2/gを超えるスラグ粉末は製造コストが高くなり過ぎる。スラグ粉末の使用量は、ポルトランドセメントとスラグ粉末の合計使用量100質量部に対し、35〜50質量部であることが好ましい。スラグ粉末が35質量部未満では、セメントの品質変動の差が急硬性水硬組成物の水和反応活性や硬化性状にも強く現れることがあり、また、スラグ粉末が50質量部を超えると、急硬性や早期強度発現性が低下することがある。スラグ粉末をポルトランドセメントと併用することで凝結性や硬化性に支障を及ぼすことなくポルトランドセメントの使用量を低減できることからポルトランドセメントに因る系中の活性が下がり、その結果、ポルトランドセメントの品質変動差が急硬性水硬組成物の諸性状に現れ難くなる。
【0010】
また、本発明の急硬性水硬組成物に使用する表面に水和物層を有するカルシウムアルミネート粒は、カルシウムアルミネートの表面の少なくとも一部、望ましくは全表面が、水和物で覆われた粒状のものである。カルシウムアルミネートは、CaOとAl23を主要化学成分とする化合物、固溶体、ガラス質若しくはこれらの何れかが混合した物の総称であって、多少とも水和活性を有するものなら限定されず、例えば、化学成分としての鉱物組成が12CaO・7Al23、CaO・Al23、3CaO・Al23、11CaO・7Al23・CaF2、4CaO・3Al23・SO3などのものを挙げることができ、これらの2種以上が共存するものでも良く、またアルミナセメントでも良い。
【0011】
カルシウムアルミネートの表面を覆う水和物は、例えばCaO・Al23・10H2O、2CaO・Al23・8H2O、3CaO・Al23・6H2O、3CaO・Al23・8H2O、4CaO・Al23・13H2O、4CaO・Al23・19H2O、Al23・3H2O等の水和物を好適に挙げることができるが、これらに限定されるものではなく水和物なら何れのものでも良い。カルシウムアルミネート粒の表面を覆う水和物の量は、カルシウムアルミネートと水和物の合計質量の0.3〜5%であることが好ましく、0.3〜4%がより好ましい。0.3%未満ではカルシウムアルミネートの反応活性が高まりすぎて、ポルトランドセメントとの反応作用が強くなり、ポルトランドセメントの僅かな品質性状差も急硬性水硬組成物の諸性状に反映され易くなることがある他、使用量によっては瞬結化を起こすことがあるので適当ではない。また5%を超えると反応活性が低過ぎて所望の急硬性が得られ難くなることがある。カルシウムアルミネート表面を水和物で覆う方法は何等限定されない。比較的簡易な一例を示すと、分散させたカルシウムアルミネート粒の表面に、これを例えば振動機等を用いて転動させながら、常温又はそれ以下の温度でカルシウムアルミネート質量の概ね0.2〜3.5%に相当する質量の水を市販の噴霧装置で噴霧することで、容易に表面に水和物層を生成させることが可能である。また、表面に水和物層を有するカルシウムアルミネート粒の粉末度は、ブレーン比表面積でおよそ3000cm2/g以上が好ましく、4000〜10000cm2/gがより好ましい。ブレーン比表面積がおよそ3000cm2/g未満では反応活性が低くなり過ぎて十分な急硬性が得られないことがある。
【0012】
本発明の急硬性水硬組成物に使用する表面に水和物層を有するカルシウムアルミネート粒の量は、ポルトランドセメントとスラグ粉末の合計使用量100質量部に対し、5〜100質量部とするのが好ましい。5質量部未満では急硬性や早期強度発現性が低迷し易く、また100質量部を超える使用量では硬化性状が不安定となり、十分な急硬性が得られなくなることがあるので適当ではない。
【0013】
本発明の急硬性水硬組成物には、さらに石膏が配合されることが好ましい。石膏を配合することでカルシウムアルミネートの水和が促進され、より確実にポルトランドセメントの品質変動差を急硬発見性に影響を及ぼし難くすることができる。石膏は無水、半水、二水の何れの石膏でも使用することができるが、反応性が高く、またコスト的にも有利な点から無水石膏が好ましい。使用する石膏の粉末度は、ブレーン比表面積で3000〜20000cm2/gのものが好ましい。ブレーン比表面積が3000cm2/g未満では反応性が低くなることがあり、また、ブレーン比表面積が20000cm2/gを超えると、調整コストが高騰するため適当ではない。本発明の急硬性水硬組成物の石膏使用量は、表面に水和物層を有するカルシウムアルミネート粒の使用量100質量部に対し、30〜150質量部が好ましく、50〜100質量部がより好ましい。30質量部未満の使用では石膏配合による効果が得られ難くなり、また、150質量部を超えると過度の膨張を引き起こし易くなる。
【0014】
また、本発明の急硬性水硬組成物は、本発明の効果を喪失させるものでない限り、前記のポルトランドセメント、表面に水和物層を有するカルシウムアルミネート粒及び石膏以外の成分も含むことができる。このような成分として、例えば、アルカリ金属の硫酸塩や水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、硫酸アルミニウム又はアルミン酸アルカリ等の凝結促進剤、フライアッシュやシリカフューム等のポゾラン反応物質、膨張材、収縮低減剤、減水剤、高性能減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤、分散剤、空気連行剤、消泡剤、撥水剤、白華防止剤、増粘剤、発泡剤、顔料、抗菌剤等を挙げることができる。特に、急硬性を維持しつつ可使時間をより長く確保したい場合は、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、ヘプトン酸等のオキシカルボン酸又はその塩、リン酸塩、硼酸又はその塩、さらには以上の化合物の何れか1種以上とアルカリ金属炭酸塩の混合物等の、モルタルやコンクリートに使用できる凝結遅延剤を、ポルトランドセメント、スラグ粉末及びカルシウムアルミネートの合計使用量100質量部に対し、0.05〜5質量部配合されるのが好ましい。
【0015】
また、本発明の急硬性水硬組成物は、従来の急硬性や速硬性セメントと概ね同様に扱うことができ、例えば骨材や水を加えて適宜混練することで施工使用することができる。推奨される水の配合量は、本発明の急硬性水硬組成物100質量部に対し、20〜70質量部とするのが、所望の強度発現性を得る上で、また材料分離防止や混合性の点から良い。
【実施例】
【0016】
以下、実施例により本発明を具体的に詳しく説明する。
【0017】
[表面を水和物で被覆したカルシウムアルミネート粒の作製] カルシウムアルミネート粒としてブレーン比表面積5000cm2/gの市販のアルミナセメントを用い、該アルミナセメント50Kgを内容量130リットルのレーディゲミキサに入れ、回転させながら500gの水を市販噴霧器を用いて約1分かけて全量噴霧した。噴霧終了後10分間ミキサを回転し続けた後、ミキサから噴霧済みの粒子を取り出して30日間放置した。以上の作業及び放置は温度20℃、湿度約70%に管理された屋内で行った。このようにして得た粒子はエックス線回折により定性分析を行い、3CaO・Al23・6H2Oが生成していることが確認された。また、走査型電子顕微鏡及びエックス線マイクロアナライザーを用いて粒子中の水和物の生成位置を確認した結果、粒子表面全体に水和物生成層を確認した。更に熱分析装置を用いて粒子中の化合水量を測定し、その値から3CaO・Al23・6H2Oの生成量を算出した結果、粒子全体の質量中約3.5%を占めるものであった。
【0018】
[水硬組成物の作製] 前記作製の水和物被覆されたアルミナセメント、水和物で被覆していないアルミナセメント、表1に表す粒径、主要化学成分及び水和発熱量を有する5種類の普通ポルトランドセメント(A〜E)、ブレーン比表面積4000cm2/gの高炉スラグ粉末及びブレーン比表面積7100cm2/gのII型無水石膏(市販試薬)から選定された材料を表2に表す配合量となるようレーディゲミキサに入れ、5分間混合して水硬組成物を得た。尚、表1の普通ポルトランドセメントの水和発熱量は、温度20℃、湿度50%の室内に設置した微小熱量計(株式会社東京理工製マルチマイクロカロリーメーター)を用い、測定試料ホルダー内に普通ポルトランドセメント6.5gを入れ、次いでこれに蒸留水13.0gを加え、蒸留水を加えた時点から20分間の総水和発熱量を測定した値である。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
[水硬組成物の活性度の把握] 得られた各水硬組成物の活性を、温度20℃、湿度50%の室内に設置した前記と同じ微小熱量計を用い、測定試料ホルダー内に、前記の如く作製した水硬組成物6.5gを入れ、これに蒸留水13.0gを加え、蒸留水を加えた時点から20分間の総水和発熱量を測定することにより把握した。測定された総水和発熱量の値は表2に表す。
【0022】
[モルタル供試体での性状評価] 表2の配合の水硬組成物1800gに、砕砂(表乾密度2.63Kg/リットル、最大粒径5mm)2700g、ポリカルボン酸系高性能減水剤(太平洋マテリアル株式会社製「NF−100」)1.8g、クエン酸ナトリウム7g、炭酸リチウム18g及び水540gを加え、ホバートミキサで約3分20℃の温度下で混合した。得られた混合物は直ちに4×4×16cmの型枠に流し込み、そのまま20℃の大気中で6時間養生した後脱型することでモルタル供試体を作製した。モルタル供試体は脱型後直ぐに、JIS R 5201に準じた方法で圧縮強度を測定した。その結果を表3に表す。
【0023】
【表3】

【0024】
表1及び2より、品質的に水和反応活性(総水和発熱量)の異なる普通ポルトランドセメントを使用しても、本発明による組成物にすれば、水和反応活性の差が組成物では大幅に縮小されることがわかり、また表3より、本発明の水硬組成物を用いたモルタルでは短時間強度の発現性が普通ポルトランドセメントの品質性状差に拘わらず、ほぼ一定となることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルトランドセメント、スラグ粉末及び表面に水和物層を有するカルシウムアルミネート粒を含有してなる急硬性水硬組成物。
【請求項2】
さらに、石膏を含有する請求項1記載の急硬性水硬組成物。

【公開番号】特開2007−217261(P2007−217261A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−43188(P2006−43188)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】