説明

恒温槽

【課題】恒温槽の外気温が相違しても、又、外気温が変動しても、恒温槽の空気置換率Nを常に同じになるようにすることを目的とする。
【解決手段】恒温槽に槽外の室温空気(外気)を入れる吸気口と、温度制御された槽内の空気を排出する排気口を有し、槽内を通過する空気の質量を消費電力で求め、その質量(M)を電力測定時の外気の空気密度で除して外気の体積(Va)に換算(外気温度体積換算)し、恒温槽の体積(V)との比率(Va/V)で槽内の空気を外気で換算する割合(空気置換率)を求める恒温槽において、外気の温度を検出する温度センサを有し、槽内外の温度差を求めながら温度差変動に追随して得た消費電力で槽内を通過する空気の質量(Ms)を求め、この質量を外気標準温度の空気密度で除して標準温度の体積(Vs)に換算(標準温度体積換算)して空気置換率(Vs/V)を求めるようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外気温が相違しても、また外気温が変動しても、恒温槽の空気置換率が変動しないようにする恒温槽に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の恒温槽は、JIS K 6257、JIS K 7212, JIS K 6723, JIS B 7757及びULなどの規格に使用されているもので、ゴムやプラスチックなどの高分子材料を、恒温槽の中に入れて規定時間、加熱空気中に材料を暴露し、材料の熱老化特性を評価するための老化装置として使用されている。
暴露試験中は、外気(恒温槽の周囲の空気)を例えば3〜20(回/h)恒温槽内に送り込み、恒温槽内の空気を入れ換える様になっている。3〜20(回/h)とは、1時間に恒温槽内の体積(V)の3〜20回分に相当する外気の体積(外気温度体積換算)を送り込むことを意味しており、この1時間当たりの回数Nを空気置換率と称している。
【0003】
空気置換率の意義
空気置換率Nは、Nが大きいほど槽内を通過する空気の質量が増大するので、材料は新
鮮な空気中の酸素に暴露され老化が進む。又材料は加熱する事により恒温槽内でベーパ(配合された材料内の気化物)を発生し、他の試験片に影響を与える事が解かっており、空気置換率Nの値により内部に留まるベーパ量の変化で老化試験の結果に影響を与える。
この事からして空気置換率Nは試験期間中に変動しないことが望ましい。
【0004】
空気置換率Nの測定原理。
恒温槽の吸気口と排気口を開いて運転(換気中)しているときに、恒温槽を通過する空気の質量m (g/s)は、換気中の電力(p1)、及び吸気口と排気口を閉じて運転(無換気中)しているときの電力(p2)を測定することにより、(式1)で求まる事が知られている。
【0005】
【数1】


(式1)の質量(m)を1時間(3600秒)の質量(M)に換算すると、(式2)になる。
【0006】
【数2】

(式2)の質量を外気の体積(Va)に換算(外気温度体積換算)すると、(式3)になる。
【0007】
【数3】

(式3)を恒温槽の体積V(リットル)で割ると、1時間当たりの空気置換率N(回/h)は
(式4)で求まる。
【0008】
【数4】

(式4)を分解すると(式5)になり、この式の左項N1は換気中の空気置換率、右項
N2は無換気中の空気置換率を表している。
【0009】
【数5】

(式5)の右項のN2は無換気状態の置換率なので、いわゆる恒温槽内外の温度差をΔT
で運転しているときの恒温槽の放熱に要した電力p2を空気置換率で表したものであり、
ΔTを関数とした恒温槽の固定常数である。
又、左項N1に於いて、
【0010】
【数6】

は、換気中に恒温槽内外の温度差ΔTで運転
しているときの恒温槽を通過する空気の1時間当たりの質量M(恒温槽の放熱分を含む)
であり、Daはその質量を外気の体積に換算する為の外気の空気密度Daであり、Vは
1時間当たりの置換回数に換算する為の恒温槽の体積Vである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、恒温槽の外気温が相違しても、又、外気温が変動しても、恒温槽の空気置換率Nを常に同じになるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そのために、本発明の恒温槽は、恒温槽に槽外の室温空気(外気)を入れる吸気口と、温度制御された槽内の空気を排出する排気口を有し、槽内を通過する空気の質量を消費電力で求め、その質量(M)を電力測定時の外気の空気密度で除して外気の体積(Va)に換算(外気温度体積換算)し、恒温槽の体積(V)との比率(Va/V)で槽内の空気を外気で換算する割合(空気置換率)を求める恒温槽において、外気の温度を検出する温度センサを有し、槽内外の温度差を求めながら温度差変動に追随して得た消費電力で槽内を通過する空気の質量(Ms)を求め、この質量を外気標準温度の空気密度で除して標準温度の体積(Vs)に換算(標準温度体積換算)して空気置換率(Vs/V)を求め、目標の空気置換率になるように吸気口の開閉度を自動調整するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、恒温槽に槽外の室温空気(外気)を入れる吸気口と、温度制御された槽内の空気を排出する排気口を有し、槽内を通過する空気の質量を消費電力で求め、その質量(M)を電力測定時の外気の空気密度で除して外気の体積(Va)に換算(外気温度体積換算)し、恒温槽の体積(V)との比率(Va/V)で槽内の空気を外気で換算する割合(空気置換率)を求める恒温槽において、外気の温度を検出する温度センサを有し、槽内外の温度差を求めながら温度差変動に追随して得た消費電力で槽内を通過する空気の質量(Ms)を求め、この質量を外気標準温度の空気密度で除して標準温度の体積(Vs)に換算(標準温度体積換算)して空気置換率(Vs/V)を求め、目標の空気置換率になるように吸気口の開閉度を自動調整するようにしたことを特徴とするから、恒温槽の試験期間中は、その空気置換率を変動しない効果があり、常に試験片の正確な老化試験結果が得られる効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
規格では、空気置換率の検査方法として、室温変動2℃以内の試験室で、恒温槽の内外の温度差ΔTを80℃いわゆるオーブンの温度を(室温+80℃)に昇温させて、恒温槽の吸気口と排気口を閉じ、無換気中の電力p2を測定した後に、吸気口と排気口を開いて換気中の電力p1を測定して、(式4)で外気温度基準の空気置換率Nを求める様に規定している。ここで求めた値が希望する任意の置換率Nでない場合は、吸気口の開度を調整する事により電力p1を増減してNに合わせる。
一般的には効率をよくするために、恒温槽を使用する前(試験前)に空気置換率N毎の開度を例えばダイヤル目盛りなどで求めておくことが行われている。
【0015】
ここで(式4)から解る様に、空気置換率Nは、恒温槽の内部温度を一定に保った場合でも、室温(外気温)が変動するとΔT、p1、p2、Daが変動するので、室温は一定(規格では2℃以内)が条件となっている。恒温槽使用前に置換率Nを調整している間は室温を一定に保てたとしても、長期試験で室温を一定に保つには、恒温槽は一定温度に制御された恒温室に設置する必要がある。但し現実的には空気置換により高温の熱を槽外に排気している装置を恒温室に設置すると、恒温室の温度を一定にする為の大きなコストを要するので、装置は通常の試験室又は専用の別室に隔離して設置されることが多い。
この場合は、昼夜の温度変化、季節による温度変化の環境にさらされ、温度の異なる空気が吸気されるので、同じダイヤル目盛り(開度)では設定した空気置換率が温度変動に連動して変化し、空気置換率に誤差が生じたまま、老化試験をしていることになる。
又、室温が安定している環境に設置したとしても、各社が同じ室温で有ればよいが異なる室温環境であった場合は、空気密度Daが変わるので、この場合は、試験室間により実際の空気置換率Nが変わる。
【0016】
そこで室温(外気温)が変動しても又は、試験室の温度が違っていても、実際の空気置換率Nが常に同じになる様にするために、本装置では外気温度を検出する温度センサを有し、(式5)のN=(N1)―(N2)の左項の演算式(N1)においては、試験中の温度変動に追随しながら槽内外の温度差ΔTを随時(N1)に取込み、その時に発生する消費電力p1を随時積算して、恒温槽を通過する1時間当たりの空気質量Ms(恒温槽の放熱分を含む)を求め、その質量を例えば一般的に採用されている試験室の標準温度23℃の空気密度Dsで除して、通過空気質量を標準温度の体積 Vsに換算し、それを恒温槽の体積Vで除してN1の空気置換率Vs/Vを標準温度換算の空気置換率として求める。
【0017】
具体的には、外気温を検出する温度センサを有し(式5)の(左項N1)で表される換気中の置換率
【0018】
【数7】

において、試験中の外気の温度変動を随時例えば熱電対で検出し、槽内外の温度差ΔTを随時式(N1)に取込み、恒温槽を通過する1時間当たり空気質量M(g)を表わす部分の
【0019】
【数8】

を、室温変動に追随して下記の(式6)でMs(g)を積算し求める。
【0020】
【数9】

【0021】
この演算により、1時間当たりに恒温槽を通過する真の空気質量Ms(恒温槽の放熱分を含む)が求まる。この様に室温変動に追随させて電力を測定するので、試験中に室温が変動しても誤差が生じない。又この質量を例えば一般的に採用されている試験室の標準温度23℃の空気密度Dsで除して、通過空気質量を標準温度の体積Vsに換算し、これを恒温槽の体積Vで除して、N1の空気置換率Vs/Vを標準温度換算の空気置換率N1(23℃)として求める。この様に標準温度換算の体積比率で求める事により、試験室間の温度が違っていても同じ体積になり、実質の空気置換率N1(恒温槽を通過する空気の質量)は、同じになる。
【0022】
実際の演算では合計3600秒(1時間)の結果を待つと室温変化によるN1の追従が遅くなるので、例えば合計10分間に於ける質量を6倍して1時間に換算し、繰返しN1の値を求めて演算している。(この10分間のN1は、平均温度差ΔTのN1になる。)これらの演算は、例えばマイコンにより容易に処理できる。
【0023】
又、(式5)の(右項N2)で表される無換気中の置換率
【0024】
【数10】

に於いては、N2は槽内外の温度差ΔTを関数とした恒温槽の放熱の固定定数なので、試験前に恒温槽の温度を変えてΔTとN2の関係を、上記N1の手法と同様に測定して求めておく。
具体的には、吸気口と排気口を閉じて無換気状態にして、例えば外気温が20℃の時に恒温槽を100℃(ΔT=80℃)にして外気の温度変動に追随しながら槽内外の温度差ΔTを随時(N2)式に取込み、放熱による1時間当たり空気質量M(g)を表わす部分の
【0025】
【数11】

を、室温変動に追随して上記の(式6)のp11〜nをp21〜nに変えて積算し求め、同様にN1と同じ標準温度23℃の空気密度Dsで除して、標準温度の体積に換算し、これを恒温槽の体積Vで除して、N2の空気置換率を標準温度換算の空気置換率N2(23℃)として求める。これらの演算も例えばマイコンで容易に処理できる。
このN2は、ΔTが80℃の時の値ではなく、測定時間中のΔTの平均温度で例えば平均が80.5℃で有れば、ΔT80.5℃のN2として記憶させる。実際には放熱はΔTに比例するので、ΔTを恒温槽の能力に併せて例えば低温、中温、高温の3ポイントでN2(23℃)を測定し、ΔTとN2の関係を試験前に恒温槽の常数として、例えばΔTとN2の変化率よりΔTの1℃当たりのN2の値を求めておく。
【0026】
(式5)の空気置換率N=N1―N2の関係式で、試験中(吸気口と排気口を開いた状態)のNの演算は、上記で述べた10分間隔の質量を6倍したN1と、N1測定中の平均温度に相当するN2を用いてN=N1―N2を演算する事により、その10分間の標準温度換算の空気置換率N(23℃)が求まる。この空気置換率N(23℃)が、室温などの変動により設定した空気置換率と異なる場合は、例えば丸い吸気口に円錐状のコーンをステッピングモータで開閉方向に移動する装置を用いて、空気置換率が目標値より小さければコーンを吸気口より遠ざけて開度を大きくし、外気の吸気量を増やして電力p1を増大させN1を大きくしてN(23℃)を目標値に近づける。逆に大きければ、コーンを吸気口に近づけて開度を小さく、外気の吸気量を減らして電力p1を減少させN1を小さくしてN(23℃)を目標値に近づける様にモータで自動制御する様にしてある。又、この開閉度の調整を排気口側で行ってもよい。この様に制御することで、室温変動があっても、又試験室温度の違いがあっても、実質の空気置換率N(恒温槽を通過する空気の質量)は、同じになり、正しい老化試験が可能になる。
【0027】
このNの求め方は別な手段として(式4)の
【0028】
【数12】

に於いて、
電力に関係する部分を表わす
【0029】
【数13】

のp1を、N1を求めたと同様に槽内外の温度差ΔTを随時この式に取込んで例えば10分間の平均ΔTにおける電力量を6倍したp1を測定する。又p2は、恒温槽の吸気口と排気口を閉じ(無換気状態)て、N2を求めたと同様に事前にΔTを恒温槽の能力に併せて低温、中温、高温の3ポイントの1時間のp2を測定し、3ポイントのΔTとp2の関係から、p1を測定した時の平均ΔTに相当するp2を求めて、p1とp2を(式4)に反映してNを求めても良い。この場合も、空気密度Daは標準温度23℃の空気密度Dsを(式4)で用いて、標準温度の体積に換算し、これを恒温槽の体積Vで除して、Nの空気置換率を標準温度換算の空気置換率N(23℃)として求める。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
恒温槽に槽外の室温空気(外気)を入れる吸気口と、温度制御された槽内の空気を排出する排気口を有し、槽内を通過する空気の質量を消費電力で求め、その質量(M)を電力測定時の外気の空気密度で除して外気の体積(Va)に換算(外気温度体積換算)し、恒温槽の体積(V)との比率(Va/V)で槽内の空気を外気で置換する割合(空気置換率)を求める恒温槽において、外気の温度を検出する温度センサを有し、槽内外の温度差を求めながら温度差変動に追随して得た消費電力で槽内を通過する空気の質量(Ms)を求め、この質量を外気標準温度の空気密度で除して標準温度の体積(Vs)に換算(標準温度体積換算)して空気置換率(Vs/V)を求めるようにしたことを特徴とする恒温槽。
【請求項2】
上記請求項1で求めた標準温度体積換算の空気置換率が、目標の空気置換率になるように吸気口又は排気口の開閉度を自動調整するようにしたことを特徴とする恒温槽。

【公開番号】特開2011−153730(P2011−153730A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14024(P2010−14024)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000151852)株式会社東洋精機製作所 (26)
【Fターム(参考)】