説明

患者の安全性、及び走査性能の改良のためのリアルタイム性の局所及び大局のSAR推定

高磁界MR走査におけるRFデューティ・サイクルの増加を可能にするための方法及び装置において、特有エネルギ吸収率(SAR)算出プロセッサ(36)は、局所SAR及び大局SARを算出し、空間SARマップも算出する。(E界に基づいた)予め平均化されたデータを使用することによる、効率的な実現により、高速かつ高精度のSAR推定が可能になる。例えば患者位置のような更なる情報を組み入れることにより、SAR算出精度は、いわゆるQ行列を、(例えば、別々のバイオ・メッシュに基づいて)患者特有の予め算出された情報を使用することにより、SAR算出精度を増加させることが可能である。任意的には、シーケンス・コントローラ(24)は大局SAR最適RFパルスを生成する。最適RFパルスが印加された後、SAR及びその空間分布が求められる。SARホットスポットも求められる。ホットスポットを中心とした適切な半径内のQ行列は、平均化され、重み付けされて、大局Q行列に加えられる。大局Q行列が更新された後、新たな最適RFパルスが作成される。SARを最小に収束させるよう工程の1つ又は複数を反復することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、診断撮像の技術分野に関する。本出願には患者の安全性、及び関連付けられた走査性能の(無線周波数(RF)デューティ・サイクルの点での)改良の意味合いにおける特定の適用例があり、本出願は、それを特に参照して説明する。更に、高磁界磁気共鳴撮像(MRI)に関する、局所の特定のエネルギ吸収率(SAR)ホットスポットの推定及び抑制がある。しかし、他の情報の最適化及び処理にも適用可能であり、必ずしも上述の適用例に限定されない。
【背景技術】
【0002】
高磁界強度における多くのMRの適用例の場合、局所SARは制約要因である。SARデポジションは、磁界強度の増加につれて増加し、使用可能なフリップ角、デューティ・サイクル、RF電力を制限し、それは、指定されたSAR限度を満たすための走査獲得時間の増加につながる。単一の送信器システムの場合、SARは、算出が比較的容易である。アンテナ素子全てが、同じ振幅で送信し、それらの間の位相シフトは固定である。更に、実験に必要なRFパルス形状は、知られており、そのSARと関連付けられて、形状ライブラリに記憶される。コイル素子それぞれが、それ自身の振幅及び位相を独立に送信する潜在性を有するマルチ送信システムの到来により、SARは、並列のRF送信パルスも考慮に入れて、チャネル毎に算出しなければならない。これは、更なる情報例えばBマップに基づいてのみ算出することが可能であり、よって、実験/患者特有のものである。
【0003】
RFの安全性は、生体内並列伝送MRI走査の前提条件である。すなわち、マルチチャネルRF送信コイルを使用したSAR限度内の走査は保証されていなければならない。走査は、「SAR安全性」を有していない限り、開始することが可能でない。複数の伝送チャネルを備えたMRシステムでは、SAR削減RFパルスは、電界情報をRFパルス設計に組み入れることによって算出することが可能である。過去には、全ての個人に共通の既知のSARホットスポット(例えば、眼)を考慮に入れてRFパルスを構成する手法が使用されている。これは、一般に、全身撮像には十分でない。SARホットスポットは患者間で、かつ、RFパルス間で位置及び大きさにおいて変動し得る。よって、一患者において許容可能なレベルにSARを制限するRFパルス・シーケンスは、別の患者の場合、同様に制限な訳でないことがあり得る。更に、知られている静的ホットスポットを収容するRFシーケンスは、他の位置における、知られていない患者特有ホットスポットをうっかり悪化させ得る。
【0004】
考えられる解決策の1つには、全ての患者にとって安全である、最悪ケースのシナリオのSAR推定を策定するということがある。しかし、生体内並列伝送走査とともに使用する場合、MRIシステムがかなり損なわれるほど、許容RFデューティ・サイクルを制限する。SAR算出を患者に合わせる機能は、患者全てに対する包括的なシナリオ又は既知の項を使用するよりも有益になる。
【0005】
特に、RFシーケンスが現在、患者毎に構成されていない理由の1つは、臨床的に適切な空間RFパルス(例えば、局所励起又はズーム撮像)の場合、前述の種類のRFパルスを加速させる並列伝送システム(TxSENSE)が必要である。RFシーケンスの場合、下にある前提条件は、SARの効率的な推定の利用可能性である。更に、患者関連のE界、及び患者位置の利用可能性に対する要求は、正確なSAR推定にとって非常に大きい(大局及び局所のSAR値、並びに、任意的には、SARマップを含む)。シミュレーションによって得られる電界データは、スキャナ内の実際の電界とある程度異なる。実際の患者の代わりにE界シミュレーションのバイオメッシュ・モデルの使用は、特徴付けることが困難なシステマティック・エラーにつながる。標準的な単一チャネルの鳥かごコイルRF送信アセンブリの場合、RF波形は、Txコイル素子毎に同一であり、位相の増分(例えば、8個の素子毎に45°)が存在している。複数のTxコイル素子の場合、算出は更に複雑である。各チャネルは、異なるが静的な振幅及び位相を有し得る。2D/3Dの空間的に選択的なパルスなどの更に複雑な走査では、各チャネルは動的に変動する振幅及び位相を有し得る。
【0006】
標準に規定されたSARタイプ全て(局所及び大局)、並びに、任意的には、マルチチャネルRF送信システム(例えば、8つの送信チャネル)用の患者のSARマップを算出するために、システムは、算出に使用されるモデル及びセルの分解能に応じて、多数の算出(例えば、テラFLOP。最大、1010以上の算出)を行う。この処理は、数分間要し、実際の診断走査の開始を患者がスキャナ内で待つので、実際には、リアルタイムで行うことは可能でない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願では、上記参照された課題及び他の課題を解消する新たでかつ改良された磁気共鳴システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一局面によれば、磁気共鳴システムが提供される。主磁石は、検査領域においてほぼ均一な主磁界を発生させる。無線周波数アセンブリは、検査領域における被験者の選択されたダイポール内に磁気共鳴を誘起し、磁気共鳴を受け取る。特有エネルギ吸収率算出プロセッサは、特有エネルギ吸収率を算出し、局所特有エネルギ吸収率のホットスポットを求める。シーケンス・コントローラにより、局所特有エネルギ吸収率のホットスポットを示すRF励起パルスができ、許容可能なレベル下に、ホットスポットに供給されるエネルギが保たれる。
【0009】
別の局面によれば、磁気共鳴システムが提供される。主磁石は、検査領域内においてほぼ均一な主磁界を発生させる。無線周波数アセンブリは、検査領域における被験者の選択されたダイポール内に磁気共鳴を誘起し、磁気共鳴を受け取る。特有エネルギ吸収率算出プロセッサは、特有エネルギ吸収率を算出し、局所特有エネルギ吸収率のホットスポットを求める。グラフィックス・カードは、並列に非グラフィクス情報を処理する。
【0010】
別の局面によれば、磁気共鳴方法が提供される。略均一の主磁界が検査領域内に発生させられる。磁気共鳴は、検査領域における被験者の選択されたダイポールにおいて誘起され、磁気共鳴が受け取られる。検査領域内の被験者の位置が求められる。特有エネルギ吸収率が算出される。算出された特定のエネルギ吸収率を示す大局的な安全性を有するRFパルス波形が算出される。これは、繰り返し行うことができる(すなわち、例えば、第1のRFパルス推定がSAR限度を満たさない場合、又はT(反復時間)のような他のシステム・パラメータが延長された場合)。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本出願による、磁気共鳴撮像装置を略示した図である。
【図2】RF励起中のPUCサンプリングの例示的な波形を含む図である。
【図3】経験的に求められた重み係数上のホットスポット抑制の依存性を示すグラフである。
【図4】情報全てを考慮に入れた実施例との、利用可能な情報全てよりも少ない情報を考慮に入れた別の手法の比較を示す図である。
【図5】情報全てを考慮に入れた実施例に対する、SARを算出する最悪のケースのシナリオ手法の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一利点は、並列伝送走査が、既存のFDA又はIETCの限度に違反しないということを効率的に検証することができるということである。
【0013】
別の利点は、空間SAR分布、ホットスポット、及びSAR値の算出速度の増加にある。
【0014】
別の利点は、個々の患者にSAR算出を個別化することができるという点にある。
別の利点は、患者のSARプロファイルに基づいて、最適なRFパルス・シーケンスを作成することができるという点にある。
【0015】
別の利点は、患者毎に、E界や患者位置などの特定の情報を求めることができるという点にある。
【0016】
別の利点は、SARモデル適合のために異常又は手術用インプラントを検出することができる点にある。
【0017】
本発明の更なる利点は、以下の詳細な説明を読み、理解すると、当業者が分かるであろう。
【0018】
本発明は、種々の構成部分、及び構成部分の配置、並びに、種々の工程、及び工程の配置の形態を呈し得る。図面は、好ましい実施例を例証する目的のために過ぎず、本発明を限定するものと解されるべきでない。
【実施例】
【0019】
図1を参照すれば、磁気共鳴スキャナ10は、ソレノイドの主磁石アセンブリ12を含む閉孔系として例示するが、開いている磁石構成、及び他の磁石構成も考慮に入れられる。主磁石アセンブリ12は、撮像領域の水平軸に沿って配向された略均一の主磁界Bをもたらす。垂直な他の磁石構成、及び他の構成も想定される。孔型系における主磁石12は通常、約0.5T乃至7.0T以上の磁界強度を有し得る。
【0020】
勾配コイル・アセンブリ14は、主磁界を空間的に符号化するための撮像領域における磁界勾配をもたらす。好ましくは、磁界勾配コイル・アセンブリ14は、3つの直交方向(通常、縦方向又はz方向、横方向又はx方向、及び垂直方向又はy方向)をもたらすよう構成されたコイル区分を含む。
【0021】
無線周波数コイル・アセンブリ16(n個のコイル素子16、16、…16を含む)は、被験者のダイポールにおける共鳴を励起するための無線周波数パルスを発生させる。無線周波数コイル・アセンブリ16が送信する信号は通常、B界として知られている。無線周波数コイル・アセンブリ16は更に、撮像領域から放出される共鳴信号を検出する役目を担う。例証された無線周波数コイル・アセンブリ16は、撮像領域全体を撮像する送出/受信コイルであるが、局所の送出/受信コイル、局所の専用の受信コイル、又は専用の送信コイルも想定される。一実施例では、無線周波数コイル・アセンブリ16は、8チャネルの送信/受信アンテナを含む。
【0022】
勾配パルス増幅器18は、制御された電流を磁界勾配アセンブリ14に供給して、選択された磁界勾配をもたらす。好ましくはディジタルの、n個の送信器20、2020を含む無線周波数送信器アレイ20は、無線周波数パルス又はパルス・パケットを無線周波数コイル・アセンブリ16に施して、選択された共鳴を励起する。例証された実施例では、コイル素子の数及び送信器の数は同じである。しかし、2つ以上の素子を、各送信チャネルと関連付けることが可能である。例証された実施例におけるn個の送信器22、22、…22を含む無線周波数受信器アレイ22は、誘起された共鳴信号を受信し、復調するようコイル・アセンブリ16又は別個の受信コイル・アレイに結合される。
【0023】
被験者の共鳴撮像データを獲得するために、被験者が撮像領域内に配置される。シーケンス・コントローラ24は、関心領域における磁気共鳴を励起し、操作するよう、勾配増幅器18、及び無線周波数送信器20、2020と通信する。シーケンス・コントローラ24は例えば、選択された反復エコー定常状態又は他の反響シーケンスを生成し、前述の共鳴を空間的に符号化し、選択的に共鳴を操作するか若しくは損ない、又は、さもなければ、被験者特有の選択された磁気共鳴信号を生成する。生成された共鳴信号は、RFコイル・アセンブリ16又は局所コイル・アセンブリ(図示せず)によって検出され、無線周波数受信器22に通信され、復調され、k空間メモリ26に記憶される。撮像データは、画像メモリ30に記憶された1つ又は複数の画像表現を生成するよう再構成プロセッサ28によって再構成される。1つの適切な実施例では、再構成プロセッサ28は、逆フーリエ変換再構成を行う。
【0024】
結果として生じる画像表現は、ビデオ・プロセッサ32によって処理され、人間が判読可能なディスプレイを装備したユーザ・インタフェース34上に表示される。インタフェース34は好ましくは、パソコン又はワークステーションである。ビデオ画像を生成するのではなく、画像表現は、プリンタ・ドライバによって処理され、印刷され、コンピュータ・ネットワーク若しくはインターネット等を介して送信される。好ましくは、ユーザ・インタフェース34は、磁気共鳴撮像シーケンスを選択し、撮像シーケンスを修正し、撮像シーケンスを実行するようシーケンス・コントローラ24と技師又は他の操作者が通信することも可能にする。インタフェース34では、ユーザはSARモデルを選択することが可能であり、残りのパラメータの全部又は一部は、ユーザ相互作用及びフィードバックによって求めることが可能である。
【0025】
特有エネルギ吸収率(SAR)は、コイル・アセンブリ16内の被験者の一部分のSARを算出する。一実施例では、SAR算出プロセッサ36は、増加したSAR又はホットスポットの領域を含む全身のSARマップを作成する。標準のRFパルスの振幅及び位相の一定の変動が存在する標準走査の場合、SARは、位相/振幅の関係のみが適切であるので非常にすばやく算出することが可能である。よって、単一のRFサンプルの算出は、振幅/位相の関連がパルスを変えないので十分である。標準的な走査は、均一の位相及び振幅を使用して通常のMRIシステム及び並列伝送システムによって実現することが可能である。
【0026】
被験者内のRF界が、該界を駆動させる電流に線形に反応すると仮定すれば、SARは、パルス・サンプルbQbにおける二次形式で表すことが可能であり、ここで、は共役転置を表し、bはRF波形サンプルであり、Qは、マックスウェルの公式の解から生じ、特定の被験者体積に対応するエルミート正値定符号行列である。SARマップは、軌跡、B界マップ、標的励起パターン、及び大局的なQ行列を含むいくつかの入力を考慮に入れることによって生成される。既存のSAR最適アルゴリズムは通常、眼などの特定の既知の静的局所領域を制約するに過ぎない。上述の通り、これは、全身撮像には不十分である。被験者によって変動する他のホットスポットが存在し得るからである。ホットスポットが生じる空間領域を統計的に制約することにより、他の位置における新たなホットスポットが生じ得る。メモリ35は、必要でない場合、Q行列の再算出を阻止するために1つ又は複数の患者位置の予め算出されたデータを記憶することが可能である。更に、メモリ35は、同一のパルスについて、SARを反復的に算出しなくてよいようにSAR値を記憶することが可能である。一意のIDは、パルスを識別するために使用することが可能である。
【0027】
局所SARの算出の場合、患者モデルの体積要素それぞれのSARは、所望の質量に達するまで平均化される。体積要素のSAR値は、体積要素のエッジに沿ったSARを示し、データは、各ボクセルの中心におけるSAR値を獲得するよう内挿される。
【0028】
情報の一部は、予め算出し、ルックアップテーブル(LUT)37に記憶し得る。電界及びB界マップなどのスキャナ特有情報はLUT37に記憶される。適切な開始バイオ・メッシュは、MRスキャナにおける患者の身長、体重、性別、及び位置を知ることにより、LUT37の人体モデル・メモリから選択することが可能である。身長、性別、及び体重は、走査前に操作者によって入力することが可能である一方、患者位置は、被験者位置プロセッサ39によって定められる。患者位置を取得し、患者モデルを精緻化するための1つのやり方は、移動床手法を使用することである。スキャナの孔内に患者が移動させられている間に画像が獲得され、それにより、低分解能3D体積データ・セットがもたらされる。あるいは、短いプレスキャンは、患者が孔内の最終位置に来ると行うことが可能である。このデータは、例えば、閾値化又は特定の他の処理手段によってセグメント化することが可能である。次に、患者の位置は、例えば、患者の横断スライス、又は目標の検出から、既存のモデルとの相関手法によって取得することが可能である。更に、患者の体積及びサイズを推定することが可能である。体内埋植や、欠落している器官などの異常も検出することが可能である。このようにして、開始人体モデルは、現在の患者にカスタマイズされる。
【0029】
患者位置が求められると、SAR算出プロセッサ36は、LUT37を照会して、その適切な組み合わせを使用して入力パラメータ(体重、性別、位置等)の関数として対応するE界データを得る。LUT37に記憶されたモデル全てからの偏差が大きすぎる場合、非常に保守的なSAR推定を使用することが可能である。
【0030】
特定の走査の体内埋植の場合、装置の適切なSAR限度をLUT27から取り出すことが可能である。当初の位置が求められた場合、何れかのテーブル移動を被験者位置プロセッサ39によって監視することが可能であり、患者の新たな位置を高精度で求めるよう使用することが可能である。
【0031】
別の実施例では、粗く細分化された人体モデルを、移動床撮像データ又はプレスキャンから得ることが可能である、これは、例えば均質モデルの高速推定又は同様な患者の既存のE界の高速適合に使用することが可能である。均質モデルの使用により、導電率及び透磁率における比較的小さな誤りがもたらされる。均質モデルからのデータの使用と、実際のデータの使用との差は、モデルの使用が、実現性のある代替策であるように許容可能である。
【0032】
別の代替的な実施例では、患者位置は、ピックアップ・コイル(PUC)を使用することによって求められる。マルチチャネル送信コイルの各送信素子には、患者の安全性を確実にし、システム調節を容易にするよう各素子における電流を監視するためにPUCが装備される。一般に、患者の存在はコイルの特性に影響を及ぼす。よって、RFコイル素子の負荷は、磁気孔を通る患者の移動中に変動する。前述の移動は、位相変動として検出することが可能である。これは、MRシステムにおける患者の近似の位置に変換することが可能である。これは、図2に示すように、コイル素子における電流がRFパルスの間にサンプリングされるので可能である。例示的なRF波形及び勾配波形が供給される。点線はRF励起波形を表し、破線はMR信号サンプリング波形を表し、実線はPUCサンプリング波形を表す。更に、PUCは、RFコイル・チャネル内の異常電流を検知し、安全パラメータを超えた場合に、走査終結を起動させるために使用することが可能である。
【0033】
SARマップが作成されると、シーケンス・コントローラ24により、現在の被験者のSARマップに合わせられたRFパルス・シーケンスができる。これは、ホスト再構成器、又はRFパルスを算出する別個のグラフィックス・カードによっても行うことが可能である。シーケンス・コントローラ24により、別々のホットスポット領域と大局SARとの間のトレードオフを規定する重み付け係数が導入される。例えば、大局SARに対して最適なRFパルスの空間SAR分布に応じて、ホットスポット低減が、Q=Qglobal+ΣqCritical_region(i)によって可能である。ここで、Qは、修正されたQ行列であり、Qglobalは、元の大局Q行列であり、qは重み付け係数であり、QCritical_region(i)は、ホットスポットのすぐ近くの体積(例えば、3x3x3ボクセル体積)のQ行列である。シーケンス・コントローラ24は、既存のSAR限度を満たし、最も制限的なSAR値を低減させるために最善の重み付け係数qを求めるようSARマップを反復的に処理する。
【0034】
特に、シーケンス・コントローラ24は、新たにできたRFパルス・シーケンスを施すよう勾配アセンブリ14及びRFアセンブリ16に指示する。SAR算出プロセッサ36は次いで、SAPマップを再算出する。局所ホットスポットの位置はもう一度求められる。次いで、シーケンス・コントローラ24は、ホットスポットのQ行列(QCritical_region(i))を平均化し、重み付けする。重み付け係数は、磁石のアイソセンタからのホットスポットの距離(z)に基づいて経験的に求められている。次に図3を参照すれば、曲線の谷は、その距離の最適な重み付け係数を表す。曲線40は、z=20cmのホットスポット抑制を表す。曲線42は、z=40cmのホットスポット抑制を表す。曲線44は、z=60cmのホットスポット抑制を表す。曲線46は、z=80cmのホットスポット抑制を表す。最後に、曲線48は、z=100cmのホットスポット抑制を表す。
【0035】
重み付けされ、体積平均されたQ行列が大局Q行列に追加される。Q(更新された大局Q行列)を再算出する場合、各ホットスポット近くの空間平均化の半径、ホットスポット位置、局所Q行列、及び選択された大局Q行列は全て、考慮に入れられる。Q行列が更新されると、シーケンス・コントローラ24により、更新されたQ行列Qに基づいて新たな、SAR最適化されたRFパルス・シーケンスができる。前述と同様に、低SAR値が、臨界領域で得られる。シーケンス・コントローラ24及びSAR算出プロセッサ36は、ホットスポットにおいて最小値に収束するか、又は、あるいは、所望の安全SARレベルに達するまで、上記工程のうちの1つ又は複数を反復的に施すことが可能である。一部の場合、SARが、収束する前に安全レベルに達した場合、SARが収束するまで反復を施すことが必要でないことがあり得る。あるいは、反復時間Tも延長することが可能であるか、若しくはフリップ角を低減させることが可能であるか、又はその2つの組み合わせを行うことが可能である。更に、患者を移動させた場合、RFパルスを再最適化することが可能である。
【0036】
この反復処理は、計算量的に集約的であり、大局Q行列が更新される都度、大量のデータ処理容量を必要とする。既存のシステムでは、各反復は数分間要し得る、これは、スキャナ内で患者が待っている状態では実用的でない。各Q行列の算出は、関与するチャネル毎の正しい位相情報及び正しい振幅情報を示す。一実施例では、身体の各ボクセルは、別個に算出され、考えられる最大の分解能が与えられる。バイオ・メッシュにおけるボクセルの平均量は、5mmのボクセル・サイズの場合、750,000程度である。位相及び振幅情報が、各ボクセルに対するRFチャネルの効果毎に処理されると、大局及び局所SARを算出し、SARマップを生成するために多数の算出(例えば、テラFLOP)は必要である。上述の通り、一実施例は、8個のチャネルを備えたRFアセンブリ16を含むが、より多くのチャネルを備えたアセンブリが、何れかの特定の時点で動作するチャネルの何れかの任意の組み合わせで可能である。SARは、前述の状況について、相応に算出される。
【0037】
図1の実施例では、SAR算出プロセッサ36は、高性能グラフィクス・カードなどのサブプロセッサ38にタスクを委譲する。サブプロセッサ38は、SAR算出プロセッサ36自体に、ホスト・コンピュータに、又は分光計に配置され得る。個々のボクセルのSAR算出は、互いに依存しないので、相次いで処理しなくてよく、すなわち、並列に処理することが可能である。グラフィックス・カードなどのサブプロセッサ38は、SARの算出を高速化するために多くの(例えば、128、256等)並列処理チャネルを提供する。例えば、128個の処理チャネルにグラフィックス・カードを使用することにより、SARの算出は、SARを算出するために3GHZプロセッサのみを使用して100以上の倍数で加速化される。よって、単一のバイオ・メッシュの場合のRFパルスのSARの算出は、分単位でなく秒単位で行うことが可能である。それは、実用的に適用可能な時間量において行うよう上記極小値にSARホットスポットを収束させる反復的な処理を実用的に適用可能な時間量で行われている。一実施例では、サブプロセッサ38が利用可能でない場合(例えば、グラフィックス・カードが破損した場合)、SAR算出プロセッサ36は、走査がなお可能であるように算出を完了し得る。
【0038】
別の実施例では、ボクセルはこの至近性によってグループ化され、平均化し、おおよそ750000から例えば、100000に体積エレメントの数を削減する。これは更に、SARの算出時間を削減するが、算出されたSARマップにおけるある程度の分解能及び精度を犠牲にする。その結果、余分な安全マージンが、走査のために、推定SAR値を得るために加えられる。
【0039】
別の代替的な実施例では、振幅及びチャネル情報は考慮に入れられるが、位相情報は考慮に入れられない。これは、更に、算出を高速化するが、慎重に失して、より正確でないSARマップを算出する。SAR値は、この実施例において過剰推定される。
【0040】
別の代替的な実施例では、振幅は、対応するチャネルそれぞれにおける最大値にセットされる。この手法は、やはり、算出の量を低減させるが、それは、チャネル毎の最大振幅のみが考慮に入れられるが、やはり、慎重に失して、結果として生じる算出の品質を犠牲にする。
【0041】
別の代替的な実施例(すなわち、最悪のケースのシナリオの実施例では)、最大振幅のみが、チャネルが何であっても、考慮に入れられる。これは、実際のSAPマップの粗い推定のみをもたらす。図4及び図5は、利用可能な情報全てを考慮に入れる実施例と比較して、情報全てよりも少ない情報を考慮に入れる別の実施例の一部を示す。図4では、曲線50は、正しい振幅を考慮に入れるが、位相は考慮に入れない実施例を表す。曲線52は、正しいチャネルにおいて最大の振幅を考慮に入れる実施例を表す。曲線54は、最悪のケースのシナリオの実施例を表す。ここでは、チャネル情報も考慮に入れられない。曲線50、52、54は、低減係数の関数としての算出・実際SAR比を表す。考慮に入れられる情報が多くなるにつれ、SARの推定値は実際のSARにより近付く。しかし、前述の誤差比が許容可能な場合、算出時間は、代替的な手法のうちの1つを使用することによって節減することが可能である。
【0042】
図5は、実際の算出60と比較した最悪のケースのシナリオの手法58を使用して行われた算出を示す。図5は、チャネル全てで振幅が1で、位相が45°で、標準的な1チャネルのボディ・コイルをエミュレートする8チャンネルのボディ・コイルの局所トランクSARの位置依存性を示す。最悪のケースのシナリオの手法はSARを、特に患者の胴の中間部において、大きく過剰推定し、これは、SARのより正確でない算出につながる。位置に対するSARの依存性も明らかである。
【0043】
別の代替的な実施例では、SAR算出プロセッサ36、サブプロセッサ38、又は何れかの他の構成部分を遠隔サーバ上に配置することが可能である。複数のクライアントにサーバが同時に対応することが可能である。SAR値に対する複数の要求が同時に現れると、サーバは、到着順序に基づいて、又は他の順序に基づいてそれらに優先順位を付けることが可能である。
【0044】
本発明は、好ましい実施例を参照して説明している。上述の詳細な説明を読み、理解することにより、他者が修正及び改変を思いつくであろう。本発明が、本願特許請求の範囲記載の範囲又はその均等物の範囲内に収まる限り、前述の修正及び改変全てを含むものとして解釈されることが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気共鳴システムであって、
検査領域において略均一の主磁界を発生させる主磁石と、
前記検査領域内の被験者の選択されたダイポールにおいて磁気共鳴を誘起する複数の送信器を含む送信器アレイ及び複数のコイル素子を含むマルチチャネル無線周波数コイル・アセンブリと、
磁気共鳴信号を受信する受信アレイと、
前記マルチチャネル無線周波数コイル・アセンブリの特有エネルギ吸収率を算出する特有エネルギ吸収率算出プロセッサと、
局所特有エネルギ吸収率ホットスポットを示すRF励起パルスを再構成するシーケンス・コントローラと
を備える磁気共鳴システム。
【請求項2】
請求項1記載の磁気共鳴システムであって、前記特有エネルギ吸収率及びエネルギ吸収率ホットスポットの算出の処理を支援する複数の並列処理チャネルを含むグラフィクス処理装置を更に含む磁気共鳴システム。
【請求項3】
請求項1記載の磁気共鳴システムであって、
電界、Q行列、及びモデル患者データのうちの少なくとも1つの予め求められた値を含むメモリ
を更に含む磁気共鳴システム。
【請求項4】
請求項1記載の磁気共鳴システムであって、
前記主磁石内の前記被験者の位置を求め、前記特有エネルギ吸収率算出プロセッサに前記位置を供給する被験者位置算出プロセッサ
を更に含む磁気共鳴システム。
【請求項5】
磁気共鳴方法であって、
検査領域において略均一の主磁界を発生させる工程と、
前記検査領域内の被験者の選択されたダイポールにおいて磁気共鳴を誘起し、前記磁気共鳴を受信する工程と、
前記検査領域内の前記被験者の位置を求める工程と、
特有エネルギ吸収率を算出する工程と、
前記算出された特有エネルギ吸収率を示す、大局的に安全なRFパルス波形を算出する工程と
を含む磁気共鳴方法。
【請求項6】
請求項5記載の方法であって、
前記被験者における少なくとも1つの局所特有エネルギ吸収率の位置を求める工程
を更に含む方法。
【請求項7】
請求項6記載の方法であって、
前記大局的に安全なRFパルスを印加する工程と、
前記被験者における前記大局的に安全なRFパルスによって誘起される空間特有エネルギ吸収率を算出する工程と
を含む方法。
【請求項8】
請求項6記載の方法であって、
前記少なくとも1つのホットスポットの重み付けされた体積平均化Q行列を加えることにより、大局Q行列を更新する工程
を更に含む方法。
【請求項9】
請求項8記載の方法であって、前記重み付けされた体積平均化Q行列は、前記少なくとも1つのホットスポットを中心とした空間平均化の半径と、前記少なくとも1つのホットスポットの位置と、少なくとも1つの局所Q行列と、重み付け係数とを考慮に入れることによって算出される方法。
【請求項10】
請求項8記載の方法であって、
前記更新された大局Q行列から、最適化されたRFパルス波形を算出する工程と、
前記最適化されたRFパルス波形を印加する工程と
を更に含む方法。
【請求項11】
請求項10記載の方法であって、
少なくとも、前記特有エネルギ吸収率が所望値に収束するまで、前記大局Q行列を更新する工程、及び最適化されたRFパルス波形を算出する工程を繰り返す工程
を更に含む方法。
【請求項12】
請求項5記載の方法であって、前記大局的に安全なRFパルス波形が、RFパルスの軌跡、B1界マップ、標的励起パターン、及び大局Q行列を示す工程を含む方法。
【請求項13】
請求項5記載の方法であって、
前記被験者の前記位置に基づいて前記大局的に安全なRFパルスを更新する工程
を更に含む方法。
【請求項14】
請求項5記載の方法を行うよう磁気共鳴システムを制御するプログラムを記憶するコンピュータ判読可能な媒体。
【請求項15】
請求項5記載の方法であって、特有エネルギ吸収率を算出する工程は、患者の安全性及びホットスポットの抑制の少なくとも一方のために3D RFパルスを使用する空間的に選択的な走査、及び、一定の振幅と位相とを備えたRFパルスを含む標準走査のうちの少なくとも一方に基づいて前記特有エネルギ吸収率を算出する工程を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−517983(P2011−517983A)
【公表日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−504587(P2011−504587)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【国際出願番号】PCT/IB2009/051531
【国際公開番号】WO2009/128013
【国際公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】