説明

悪露判定具

【課題】本発明の目的は、産褥期間の褥婦の予後を早期かつ的確に判断できる、客観的に表現および評価できる悪露判定具の提供することである。
【解決手段】上記課題を解決する手段は、悪露の色を表す複数色からなる色見本と、悪露の量を測定する手段とを備えた、褥婦由来の悪露の色と量を測定するための悪露判定具、前記悪露判定具を用いて、産褥期間における悪露の色と量を測定する方法、及び、前記方法により測定した、被験者である褥婦から得られた悪露の色及び/又は量を、標準の悪露の色及び/又は量と比較することにより、被験者である褥婦の予後を鑑別する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、悪露の色を表す複数色からなる色見本と、悪露の量を測定する手段とを備えた、褥婦由来の悪露の色と量を測定するための、悪露判定具に関する。
【背景技術】
【0002】
産褥の子宮復古の観察は、褥婦の産後の予後を評価するうえでの重要なアセスメント項目であり、触診による子宮の状態、後陣痛の有無、悪露の量・色の変化等により行われている。このうち、悪露に関して、教科書には、一般的に赤色悪露(lochia rubra)と称される血液を主としたものが産褥2、3日頃まで続き、褐色悪露(lochia fusca)へと産褥4〜9日目頃に変化し(これは漿液性悪露とも呼ばれる)、産後10〜14日目以降は赤血球成分が減少して白血球が増加することから黄色悪露(lochia flava)、白色悪露(lochia alba)へ変化すると記されている(非特許文献1及び2)。
【0003】
しかし、最近の研究によると悪露の変化は、従来報告されてきたものとは異なる結果が導き出されている。Oppenheimerら(非特許文献3)によると、lochia rubra (赤色悪露)は平均4日間排出され、lochia serosa(茶色ピンクの悪露)は平均22日であり、36%の褥婦はlocha alba(黄色・白色悪露)を経験していなかった。Marchantら(非特許文献4)は産褥3ヶ月間にわたり褥婦が膣からの出血をどのように感じているのか、悪露の色や量について調査した。これによると、従来の教科書に記されているものより赤・茶色悪露が長く続いており(平均24±13日、範囲2〜86日)、初産婦はこの出血を予想外であると感じている者が多かった。小野ら(非特許文献5)は視感測定により悪露の経時的変化を調査しており、これによると「赤」の色相が「vivid」「deep,dark」「light grayish,soft」というtoneの変化として褥婦自身に色覚されていた。また産褥7日目から34日目に認められた色相は「赤」45.5%、「赤みのだいだい」29.1%、「赤紫」22.8%であり、「黄赤」「黄」の色相は認識されていなかったことが明らかとなっている。
【0004】
以上の結果をまとめると、従来の教科書に記載されているよりも、黄色・白色悪露を経験している女性は少なく、より長い期間赤・茶色の悪露が続いていることが示唆されている。
【0005】
【非特許文献1】鈴森薫、吉村泰典、堤治編:新しい産科学 生殖医療から周産期医療まで、名古屋大学出版会、2002、p. 205
【非特許文献2】丸尾猛、岡井崇:標準産科婦人科学、医学書院、2006、p. 531
【非特許文献3】Oppenheimer L W, Sherriff E, Goodman D S et al., 1986, The durstion of lochia. British Journal of Obstetrics and Gynaecology 93, p. 754-757
【非特許文献4】Marchant S, Alexander J, Garcia J, Ashurst H, Alderdice F, Keene J: A Survey of Women’s experiences of vaginal loss from 24 hours to three months after childbirth (the BLiPP study), Midwifery, 15, 1999, p. 72-81
【非特許文献5】小野清美、奥田博之、大崎加代子、金重恵美子:正常な産褥経過における悪露の色彩変化に関する研究−褥婦による視感測定を実施して−母性衛生、44(4), 2003, p. 394〜400
【非特許文献6】島田三恵子、渡部尚子、神谷整子他:産後1ヶ月間の母子の心配事と子育て支援のニーズに関する全国調査−初経産別、職業の有無による検討−、小児保健研究、60(5), 2001, p. 671〜679
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、今のところ、悪露の色等の評価については、褥婦の主観に頼っているのが現状である。そして、褥婦は、観察条件や環境により、助産師等の医療従事者とは異なった色感覚でとらえていることも報告されている。従って、褥婦に明確な色彩判別の選択尺度を提供することにより、客観的な手法により信頼性のあるデータを得る必要がある。
【0007】
また、現在、産褥期の悪露の観察は、対象者のプライバシーを重視する視点から、褥婦に依存する部分が多い現状になりつつある。このような現状にありながらも、現実と従来の教科書の内容が一部相違していることが予測され、適切な指導が行われていないことが危惧される。産後1ヶ月間の母親自身の心配事を調査した研究(非特許文献6)によると、「出血・悪露」について初産婦では15.2%、経産婦では12.4%が心配事を持っていたと報告されている。したがって、より具体的なセルフケアへの指導が望まれており、これには、どのような悪露がいつまで出ているのか等について客観的に表現および評価できる、より実情に即した認識に基づく判断材料、すなわち、産褥期間の褥婦の予後を早期かつ的確に判断できる、悪露の色見本が必要である。
【0008】
そこで、本発明の目的は、産褥期間の褥婦の悪露の色と量について、より客観的な手法により信頼性のあるデータを得るツール、具体的には、産褥期間の褥婦の予後を早期かつ的確に判断でき、客観的に表現および評価できる悪露の色見本である悪露判定具の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究し、褥婦が単独でも、簡易かつ客観的に悪露の評価をできる悪露判定具、前記悪露判定具を用いて、産褥期間における悪露の色と量を測定する方法、及び、前記方法により測定した、被験者である褥婦から得られた悪露の色及び/又は量を、標準の悪露の色及び/又は量と比較することにより、被験者である褥婦の予後を鑑別する方法を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)悪露の色を表す複数色からなる色見本と、悪露の量を測定する手段とを備えた、褥婦由来の悪露の色と量を測定するための、悪露判定具。
(2)色見本の色が、少なくとも、白色、黄色、褐色、茶色、赤色を含み、少なくとも15の色数である、(1)記載の悪露判定具。
(3)悪露の量を測定する手段が、パットに付着した悪露の面積を計測することからなる、(1)又は(2)記載の悪露判定具。
(4)悪露の量を測定する手段が、スケール、巻尺、コンベックスからなる群から選択される少なくとも1の手段である、(3)記載の悪露判定具。
(5)悪露の色を表す複数色からなる色見本と悪露の量を計測する手段とが隣接して配置された、(1)〜(4)のいずれか1項記載の悪露判定具。
(6)悪露判定具の表面が透明フィルムでコーティングされた、(5)記載の悪露判定具。
(7)褥婦が、子宮復古不全又は産褥子宮内膜炎であるか否かを鑑別することに用いる、(1)〜(6)のいずれか1項記載の悪露判定具。
(8)(1)〜(7)のいずれか1項記載の悪露判定具を用いて、産褥期間における悪露の色と量を測定する方法。
(9)(8)記載の方法により測定した、悪露の色と量を記録する方法。
(10)(8)記載の方法により測定した、被験者である褥婦から得られた悪露の色及び/又は量を、標準の悪露の色及び/又は量と比較することにより、被験者である褥婦の予後を鑑別する方法。
(11)(8)記載の方法により測定した、被験者である褥婦から得られた悪露の色及び/又は量を、標準の悪露の色及び/又は量と比較することにより、被験者である褥婦が、子宮復古不全又は産褥子宮内膜炎であるか否かを鑑別する方法。
(12)(8)記載の方法によって得られた、1以上の悪露の色及び/又は量を記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
(13)(8)記載の方法によって得られた標準の悪露の色及び/又は量を解析ソフト上に登録し、被験者である褥婦から得られた、悪露の色及び/又は量を前記解析ソフトに入力し、前記解析ソフト上で前記登録された標準の悪露の色及び/又は量と前記入力された被験者の悪露の色及び/又は量とを比較することにより、被験者の悪露の色及び/又は量に相当する色及び/又は量が解析ソフト上に登録された色及び/又は量のうち、どの色及び/又は量と一致するかを解析し、被験者の悪露の状態を評価することからなる、被験者である褥婦の予後を鑑別するための方法。
(14)(8)記載の方法によって得られた標準の悪露の色及び/又は量を1又はそれ以上登録する手段と、被験者である褥婦から得られた、悪露の色及び/又は量を入力する手段と、前記登録された標準の悪露の色及び/又は量と前記入力された被験者の悪露の色及び/又は量とを比較する手段と、被験者の悪露の色及び/又は量に相当する色及び/又は量が解析ソフト上に登録された色及び/又は量のうち、どの色及び/又は量と一致するかを解析する手段とを実行させるための、被験者である褥婦の予後を鑑別するための解析ソフト。
(15)(14)記載の解析ソフトを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
(16)(14)記載の解析ソフトを伝送することを特徴とする情報伝送媒体。
【発明の効果】
【0011】
本発明の悪露判定具を用いて、産褥期間における悪露の色と量を測定する方法により、産褥の子宮復古に関して、悪露の量・色の変化等を客観的な手法により測定できるようになるため、どのような悪露がいつまで出ているのか等に関して、より信頼性のあるデータを得ることができる。
【0012】
また、本発明の悪露判定具を用いて、産褥期間における悪露の色と量を測定する方法により得られた悪露の色や量のデータを蓄積することにより、産後の褥婦の予後診断や出産及び産後に関連する疾病等の早期かつ的確な診断や治療又は予防、あるいは、産褥期にある女性に対する具体的なセルフケアの指導が可能となる。
【0013】
さらに、上記指導をする立場にある、医療関係者、特に、看護・助産師学生へ、より正確な資料を提供することが可能となるため、これらの医療関係者の教育及び指導にも有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、悪露の色を表す複数色からなる色見本と、悪露の量を測定する手段とを備えた、褥婦由来の悪露の色と量を測定するための、悪露判定具、当該悪露判定具を用いて産褥期間における悪露の色と量を測定する方法、当該方法を用いて褥婦の予後を鑑別する方法等に関する。
以下に本発明を具体的に説明する。
【0015】
1.悪露判定具
本発明の「悪露判定具」とは、悪露の色を表す複数色からなる色見本と、悪露の量を測定する手段とを備えた、褥婦由来の悪露の色と量を測定するためのツールをいい、悪露の色の客観的な指標である色見本と悪露の量を測定するための手段とを兼ね備えている。
【0016】
ここで、悪露(lochia)とは、分娩後の産褥期間である約4〜6週間の間に子宮から排泄される分泌物の総称をいう。主として、子宮粘膜の分泌液、血液、胎膜及び胎盤組織の変性分解物からなる。悪露の色は、チョコレート色や赤褐色から次第に黄色、白色、透明に変化する。悪露の量は、分娩直後で最も多く、その後、徐々に減少していく。
【0017】
本発明の「色見本」とは、悪露の色を表す複数色からなるものであり、悪露の色を、色見本に含まれる色と比較しやすいように配置することをいう。
ここで、悪露の色は、実際には、分娩直後から産褥2、3日頃までは、血液を主とした赤色悪露(lochia rubra)が続き、産褥4〜9日目頃には漿液性悪露ともいわれる褐色悪露(lochia fusca)に変化し、産後10〜14日目以降は赤血球成分が減少し白血球が増加した黄色悪露(lochia flava)や白色悪露(lochia alba)へと、産褥期間中に5〜10色程度に変化する。しかし、各時期の悪露の色には個人差があるため、色見本に使用する色としては、少なくとも白色系、黄色系、褐色系、茶色系、赤色系等及びそれらに類似する色を各色系ごとに複数選択するのがよい。ここで、色見本に含まれる色としては、例えば、PCCS配色に基づいた分類によれば、色相番号1〜8、又は23〜24があげられる。「それらに類似する色」とは、上記の色系のうち基本となる色と彩度、明度、色相、明度及び彩度の組合せ(トーン)が異なるが同系色であるような色をいう。このような色は、PCCS、マンセルカラーシステム、オストワルトカラーシステム、DICカラーガイド(登録商標)、Pantone(登録商標)等の市販の配色カード又は色彩カード等に記載の色から適宜選択することができる。例えば、本発明で用いる配色カードとしてはPCCS199a(Practical Color Co-ordinate System)などがあげられる。
【0018】
上記市販の配色カード等は工業規格として広く採用されているが、実際は微細な色別分類となっていることから、褥婦が臨床的に使用するには細かすぎて適しない。従って、本発明の色見本に用いる色の数は、上記の色系を勘案して、上記市販の配色カード等から、少なくとも15色以上、20、25、30色等適宜選択するのがよい。具体的には、白色系として1〜5色、黄色系として1〜5色、褐色系として1〜10色、茶色系として1〜10色、赤色系として1〜5色を選択して用いることができ、さらに、この中から適宜組み合わせて用いることもできる。また、選択した各色に番号等の記号を付してもよい。この場合は、悪露の色の記録や測定結果の解析が簡便となり好ましい。
【0019】
配置の方法は、上記色見本が悪露と実際に比較でき、悪露の色を判別できるような配置であれば、どのような配置でもよいが、好ましくは、悪露の色として見られる色の経時的変化に即した色を隣接して配置して、全体的に色味にグラディエーションをもたせるように配置する。
【0020】
本発明の「悪露の量を測定する手段」としては、悪露の量を測定できる手段であれば、特に制限されない。ところで、悪露の手当てには、分娩直後には、産褥パット、産褥ショーツ、悪露用ナプキン等の、さらに、産褥期後期には生理用ナプキン等のパットが用いられる。発明者らが、パットに付着した月経血の面積と量の相関関係を単回帰分析により調べた結果、面積と量との間には強い相関関係があることが示された。従って、悪露量はパットに付着した悪露の面積を用いて示すことができる。そこで、悪露の量を測定する手段は、好ましくは、パットに付着した悪露の面積を計測することにより相対的に測定する手段である。「パット」は上記したとおりであるが、悪露の手当てに用いられるものであれば、上記に限定されない。パットの付着した悪露の面積を計測する手段としては、例えば、スケール、巻尺、コンベックス等の定規を用いる方法があげられるがこれらに限定されない。上記の定規を用いる方法としては、具体的には、パットに広がった悪露の大きさから観察する方法があげられる。この場合は、パットに広がった悪露の中央部又は最大経を測定し、悪露の中央部又は最大経が、5cm程度であれば極少量、10cm程度であれば少量、15cm程度であれば中量、15cm以上であれば多量と判断することができる。その他、パットに広がった悪露の中央部又は最大経に定規をあてて第1計測を行い、第1計測線と垂直となる方向の中央部又は最大経で第2計測を行い、第1計測値及び第2計測値を記録する方法、さらに、上記第1計測と第2計測で得られた値を乗じて悪露面積として記録する方法等があげられる。その他、悪露を直接秤量する方法、使用済みパットの重量から未使用のパットの重量を減じることにより間接的に秤量する方法などがあげられる。
【0021】
褥婦とは、分娩後、全身、特に子宮が妊娠前の状態に復帰又は退縮するまでの産褥期間の女性をいう。
【0022】
本発明の悪露判定具は、具体的には、図1に示すような、「悪露の色を表す複数色からなる色見本と悪露の量を計測する手段とが隣接して配置された」ものである。このような色見本は、全ての色見本の色と悪露の色とを直接比較することができ、携帯に便利で使用も簡便である。さらに安価に提供することができる。悪露の色を表す複数色からなる色見本と悪露の量を計測する手段は平面状に配置されていることが好ましい。
【0023】
本発明の悪露判定具は、何回も用いるものであり、衛生的にも清潔であることが要求されるため、耐久性や撥水性に優れた材質であることが好ましい。このような材質としては、例えば、耐水性、抗菌性、高温耐久性、低温耐久性、耐候性、耐酸性、耐アルカリ性、堅牢性、耐薬品性、耐摩擦性、耐衝撃性等に優れた材質であれば、限定されないが、例えば、金属や樹脂等があげられる。このような材質に、色見本と悪露の量を計測する手段を直接印刷してもよい。
【0024】
さらに好ましくは、本発明の悪露判定具は、「その表面が透明フィルムでコーティングされた」ものである。透明フィルムでコーティングされることにより、色見本には撥水性が付与され、洗浄が可能となり、何度でも繰り返し用いることができるため、耐久性が向上し、経済性にも優れる。また、色見本そのものの材質を透明フィルムとすることもできる。
【0025】
ここで、本発明の悪露判定具に用いる透明フィルムは、通常用いられる、一般的なフィルムであればその種類は限定されないが、例えば、耐水性、抗菌性、高温耐久性、低温耐久性、耐候性、耐酸性、耐アルカリ性、堅牢性、耐薬品性、耐摩擦性、耐衝撃性等に優れるフィルムがあげられ、例えば、ポリエステル、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、並びにこれらの混合物および共重合体、さらにはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ABS樹脂等をあげることができる。
【0026】
また、透明フィルムでコーティングされることにより、耐水性等の前記特性が付与されるため、透明フィルムでコーティングされていればその中身の材質は耐水性等の特性を有するものに限定されない。
【0027】
本発明の悪露判定具に用いる透明フィルムのコーティングの方法は、通常用いられる、一般的な方法であれば、その手段は限定されない。例えば、カレンダー加工、プレス成形、トランスファー成形、射出成形、真空成形等があげられるが、これらに限定されない。また、本発明の効果が損なわれない範囲内で、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等のバインダー成分、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機の易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、核剤などを配合してもよい。
【0028】
本発明の悪露判定具は、褥婦が、子宮復古不全又は産褥子宮内膜炎であるか否かを鑑別することに用いることができる。「子宮復古不全」とは、子宮収縮不全のために産褥の子宮復古が障害される状態をいい、断裂血管の圧迫止血が不完全となり、胎盤剥離部の血管の血栓形成や閉鎖が遅延し、出血が長く持続する場合が含まれる。また、「産褥子宮内膜炎」は、悪露滞留が長く続き、子宮腔内に細菌が増殖し腐敗作用が持続する場合に発症する疾患である。従って、子宮復古不全又は産褥子宮内膜炎(以下、「子宮復古不全等」という場合もある)である褥婦のデータを得ることができれば、正常状態の褥婦の標準データと子宮復古不全等のデータと被験者の悪露の量とを比較することにより、褥婦が子宮復古不全等であるか、又はその傾向が見られるかを早期かつ的確に鑑別することができる。従って、本発明の悪露判定具は、褥婦が、子宮復古不全等であるか否かを鑑別することに用いることができるため、好ましい。
【0029】
本発明の悪露判定具は、標準の悪露の色及び/又は量についての解説、悪露と褥婦の予後との関係などについての解説などを含むパンフレットや書籍並びに後述する調査用紙(悪路表)とセットにして提供することもできる。
【0030】
2.悪露判定具を用いた褥婦の予後を鑑別する方法。
(1)本発明は、「1.悪露判定具」で記載した悪露判定具を用いて、産褥期間における悪露の色と量を測定する方法を提供する。
【0031】
悪露の色の測定については、具体的には、パットに付着した悪露の色を、悪露判定具を用いて比色して、最も近い色を所定の調査用紙(悪露表ともいう)等に記入することにより行う。測定回数は、1日1回〜数回で、特定の時間に行ってもよい。好ましくは、朝4時から12時の間に交換した悪露を測定する。また、測定は、褥婦が行っても医療従事者等が行ってもよい。
【0032】
(2)本発明は、(1)で測定した、悪露の色と量を記録する方法を提供する。上記方法により得られた結果は、所定の調査用紙に記入するか、又はコンピュータ読み取り可能な記録媒体中に記録することができる。調査用紙やコンピュータープログラム等は、医療機関が独自に作成してもよいし、市販の用紙やプログラムソフトを用いてもよい。または、色の記入方法については、選択した色が判断できるのであれば、どのような方法を用いてもよい。色見本の色に記号等が付されている場合は、対応する記号等を記入又は記録してもよい。
【0033】
悪露の量については、具体的には、悪露判定具の定規を用いてパットに広がった悪露の中央部又は最大経に定規をあてて第1計測を行い、第1計測線と垂直となる方向の中央部又は最大経で第2計測を行う。測定の記入方法については、第1計測及び第2計測で得られた数値を各々所定の位置に記入してもよく、また、上記第1計測と第2計測を乗じた値を記入してもよい。
【0034】
褥婦が産院等医療機関に滞在している場合は、医療機関のカルテ等に記入された、年齢、産婦人科歴、分娩時出血量、分娩時間、出生児体重、分娩前後のヘモグロビン値、授乳方法、子宮収縮状態、悪露の量等の褥婦の基本的産科学的属性を調査対象に含めてもよく、褥婦が自宅等に滞在している場合は、退院後から悪露が消失するまでの間、パットに付着した悪露の色・量、パットの使用枚数、悪露の出かた、疲労感、行った家事・育児、心身に関して気になった事項、定期検診の結果および授乳状況等を調査対象に含めてもよい。悪露の消失とは、悪露の排出が連続して4日間見られない状態をいう。上記の調査対象も記録することができる。
【0035】
(3)本発明はまた、(1)記載の方法により測定した、被験者である褥婦から得られた悪露の色及び/又は量を、標準の悪露の色及び/又は量と比較することにより、被験者である褥婦の予後を鑑別する方法を提供する。産褥期間には、褥婦は産褥期特有の疾病等に罹患する可能性もあり、そのような疾病に罹患すると悪露の色や量が変化する場合がある。そこで、様々な産褥経過と本発明の方法により測定した悪露の色及び量との間に相関性が見出される場合は、各経過に特有の値を「標準の悪露の色及び/又は量」のデータとして蓄積しておけば、被験者である褥婦の悪露の色や量を上記標準データと比較することにより、被験者である褥婦の健康状態を客観的かつ迅速に判断できるため、好ましい。
【0036】
「標準の悪露の色及び/又は量」(本明細書中、「標準データ」という場合もある)とは、正常な産褥経過をたどった場合を含め、様々な疾病に特有の「悪露の色及び/又は量」の傾向をいう。まず、このような標準データを獲得する方法は以下のとおりである。すなわち、本発明を用いて悪露の色や量を測定した褥婦を産褥期間の健康状態ごとに分類する。褥婦の健康状態は、例えば、a)退院後1週間安静に経過した褥婦、b)正常な産褥経過をたどった褥婦、c)正常な産褥経過をたどった経産婦、d)正常な産褥経過をたどった初産婦、e)産褥期に便秘・マタニティーブルー・倦怠感等のマイナートラブルのあった褥婦、f)風邪に罹患した褥婦、g)発熱があった褥婦、h)痛みの訴えがあった褥婦、i)分娩後悪露が多めだった褥婦、j)卵膜排出のあった褥婦、k)子宮復古不全となった褥婦、l)産褥子宮内膜炎に罹患した褥婦等の悪露の排泄状況に影響する関連要因に分類することができるがこれらに限定されない。次に、各分類に属する褥婦由来の悪露の色や量の測定結果を、産褥期間中の悪露の色や量の経時的な変化等の観点から解析する。この場合、各分類に特有の悪露の色及び/又は量の傾向がみられれば、その傾向を当該分類の標準データとする。なお、解析は、視覚的検査や数学的計算により行うことができる。又は、コンピュータープログラムを用いることもできる。例えば、正常な産褥経過をたどった褥婦の標準データは、本発明の色見本を用いて(1)に記載の方法で回収した測定結果のうち、正常な産褥経過をたどった褥婦の測定結果のみを選別し、その結果を解析して産褥期間中の悪露の色や量の経時的な変化の傾向を得ることにより定めることができる。従って、本発明の方法にて用いる標準データは1またはそれ以上でもよい。
【0037】
この方法によれば、例えば、正常な産褥経過をたどった褥婦の悪露の色相の変化の傾向を知ることができる。すなわち、産褥期間にわたる悪露の色相は、「赤」、「赤紫」、「赤みの橙」であることがわかる。さらに具体的には、色相の変化を1週間ごとにみると、産褥期第2〜3週目くらいでは「赤」、「赤紫」、「赤みの橙」が多く、経時的に減少していくことがわかる。一方「黄色の橙」と「黄」といった黄色系の色は産褥期中期に増加し、その後減少していくことがわかる。
【0038】
また、正常な産褥経過をたどった褥婦の悪露の排出の傾向は、第5週目くらいまでは多くの人に見られるが、それ以降では急激に消失して、第8週程度で悪露が消失することがわかる。
【0039】
さらに、正常な産褥経過をたどった褥婦の悪露のトーンの変化の傾向は以下のとおりである(図3)。すなわち、産褥期間にわたる悪露のトーンは、「にぶい(dull)」と「明るい灰み(light grayish)」が最も多く、「濃い(deep)」、「暗い(dark)」が多いことがわかる。特に、初産婦では「明るい灰み」が最も多く、ついで「暗い」や「濃い」であることがわかる。また、経産婦では「にぶい」が最も多く、ついで「明るい灰み」や「濃い」が多いことがわかる。トーンの変化を週ごとにみると、2週目は「濃い」が最も多く、3週目と4週目は「にぶい」、5週目には「明るい灰み」へと変化することがわかる。
【0040】
さらに、上記方法により、産褥期の特徴的悪露の変化の傾向を知ることもできる。それには、例えば、上記のように、褥婦の健康状態を産褥期の特徴的経過で分類し、悪露がどのように変化したかを比較すればよい。この方法によれば、例えば、「退院後1週間安静に経過した褥婦」では悪露は5週目でほぼ終了することがわかる。「ノーマルな産褥経過をたどった経産婦・初産婦」では5週目で「にぶい」、「明るい灰み」、「柔らかい」の悪露となりほぼ5週目で悪露が終了することがわかる。「風邪に罹患した褥婦」ではいったん悪露が「明るい灰み」にまで変化したものが、風邪に罹患した時期に合わせて「柔らかい」の色合いに変化することがわかる。「分娩後悪露が多めだった褥婦」では暗いから「にぶい」の悪露が5週目まで継続して出現することがわかる。「卵膜排出のあった褥婦」は卵膜が排出された後も暗い又は赤い悪露が続くことがわかる。
【0041】
本発明の方法は、具体的には、このようにして得られた標準データを、被験者である褥婦から得られた悪露の色及び/又は量のデータと比較する。比較は、比較は、個別のデータを標準データと比較するほか、一定期間における悪露の色や量の変化のパターン標準データと比較することも含まれ、視覚的検査や数学的計算により行うこともでき、コンピュータープログラムを使用して2つのデータから得られる情報を比較することにより決定することもできる。産褥期間中の悪露の色や量は褥婦により個人差があることが知られている。従って、比較の方法は、必ずしも、被験者の分娩後の経過日数に相当する時点での標準データに厳密に対応させる必要はなく、医師等の医療従事者の通常の判断により、適宜、対応させる標準データ又はその一部を選択することができる。得られた結果に基づき、被験者である褥婦がどの分類に属するのかを評価することができる。このようにして、褥婦の予後を鑑別することができる。
【0042】
本発明の上記方法を用いて、被験者である褥婦が、子宮復古不全又は産褥子宮内膜炎であるか否かを鑑別することができる。「子宮復古不全」及び「産褥子宮内膜炎」は上記のとおりである。また、上記のように、子宮復古不全等である褥婦のデータを蓄積することにより、正常状態の褥婦の標準データと子宮復古不全等のデータと被験者の悪露の量とを比較することにより、褥婦が子宮復古不全等であるかを鑑別することができるのみならず、その傾向が見られるかを早期かつ的確に鑑別することができる。従って、本発明の上記方法は、子宮復古不全等である褥婦に対する早期治療に役立てることができるため、好ましい。
【0043】
3.被験者である褥婦の予後を鑑別するための解析ソフト。
(1)本発明は、「2.悪露判定具を用いた褥婦の予後を鑑別する方法」に記載の方法によって得られた、1以上の悪露の色及び/又は量を記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供する。
上記したように、本発明の悪露判定具を用いて得られた測定結果は、数学的計算やコンピュータープログラムを用いて解析することができる。特に、色見本の各色に記号を付した場合は、数的解析が可能となることから、上記解析により適する。そのため、本発明の上記測定結果を等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体又はコンピュータに接続しうる記憶手段に保存することは有益である。このような記録媒体又は記憶手段としては、磁気的媒体(フレキシブルディスク、ハードディスクなど)、光学的媒体(CD、DVDなど)、磁気光学的媒体(MO、MD)などがあげられるが、これらに限定されない。
【0044】
(1)悪露の色を表す複数色からなる色見本と、悪露の量を測定する手段とを備えた、褥婦由来の悪露の色と量を測定するための、悪露判定具。
(2)本発明はまた、「2.悪露判定具を用いた褥婦の予後を鑑別する方法」記載の方法によって得られた標準の悪露の色及び/又は量を解析ソフト上に登録し、被験者である褥婦から得られた悪露の色及び/又は量を前記解析ソフトに入力し、前記解析ソフト上で前記登録された標準の悪露の色及び/又は量と前記入力された被験者の悪露の色及び/又は量とを比較することにより、被験者の悪露の色及び/又は量に相当する色及び/又は量が解析ソフト上に登録された色及び/又は量のうち、どの色及び/又は量と一致するかを解析し、被験者の悪露の状態を評価することからなる、被験者である褥婦の予後を鑑別するための方法を提供する。
【0045】
以下に、本発明の褥婦の予後を鑑別する方法について解析ソフトを用いた場合について例示する。すなわち、上記の方法により得られた悪露の色及び/又は量の標準データを予め、適当な解析ソフト上に登録する。登録する標準データは1つでもまたは複数でもよい。一方、被験者である褥婦から得られた、悪露の色及び/又は量を上記解析ソフトに入力する。標準データ及び被験者由来の悪露の色及び/又は量については、上記「2.悪露判定具を用いた褥婦の予後を鑑別する方法」に記載したのと同様の方法で得ることができる。得られた被験者の悪露の色及び/又は量を入力後、予め登録されている標準の色及び/又は量との比較を行う。そして、被験者の悪露の色及び/又は量と前記標準データの色及び/又は量が一致するかを解析し、ある程度一致する場合は、被験者は前記標準データが属する分類に属するといえる。分類に属すると判断する程度は、被験者の悪露の色及び/又は量のうち、標準データと一致する比率が、例えば、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%とすることができる。さらに、複数の標準データがある場合は、標準データと一致する比率のうち、最も高い比率の分類に属すると判断してもよい。また、複数の分類に属すると判断してもよい。褥婦が複数の疾病に罹患している場合等もあるためである。このように、本発明の方法を用いると、被験者である褥婦の予後を分類し、鑑別することができる。予め複数の分類についての標準データが登録されている場合は、被験者の悪露の色及び/又は量を各分類の標準データと順次、比較・解析を行い、被験者である褥婦の予後を分類し鑑別することができる。
【0046】
また、分類ごとの標準データおよびそれを用いて鑑別を行うプログラムを分類ごとに登録して保存しておくことにより、被験者の予後の分析時に即座に活用でき、特に、特定の疾病に罹患したおそれがある被験者の鑑別を迅速に行うことができるため、好ましい。
【0047】
(3)本発明はまた、「2.悪露判定具を用いた褥婦の予後を鑑別する方法」記載の方法によって得られた標準の悪露の色及び/又は量を1又はそれ以上登録する手段と、被験者である褥婦から得られた、悪露の色及び/又は量を入力する手段と、前記登録された標準の悪露の色及び/又は量と前記入力された被験者の悪露の色及び/又は量とを比較する手段と、被験者の悪露の色及び/又は量に相当する色及び/又は量が解析ソフト上に登録された色及び/又は量のうち、どの色及び/又は量と一致するかを解析する手段とを実行させるための、被験者である褥婦の予後を鑑別するための解析ソフトを提供する。
【0048】
上記のように褥婦の予後を鑑別するための解析ソフトは、解析に用いるホストコンピュータが有する、本発明の方法により得られた標準の悪露の色及び/又は量(標準データ)の記録手段、被験者由来の悪露の色及び/又は量の入力及び記録手段、標準データ及び/又は量及び被験者由来の悪露の色及び/又は量を比較する手段、上記比較結果を表示する手段等を、上記褥婦の予後の分類や鑑別を実行するために相互に協調させて働かせることができるコンピュータ用のプログラムである。この解析ソフトは、サーバに接続された情報記憶手段(ROM、RAM等)に登録され、上記識別に必要な手段を管理して、必要な機能又は処理を実行させる。従って、本発明の解析ソフトは、本発明において使用するコンピュータ上で、又はネットワーク上で機能しうるプログラム言語で記載することができる。
【0049】
なお、本発明の解析ソフトによる褥婦の予後の分類・鑑別システムを稼動させるためには、本発明の解析ソフトの他に、通常のコンピュータネットワークに必要なプログラム、例えば周知のオペレーティングシステム(OS)やインターネットブラウザプログラム等も用いることができる。
【0050】
(4)本発明はまた、(3)記載の解析ソフトを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供する。
本発明の解析ソフトは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体又はコンピュータに接続しうる記憶手段に保存することができる。従って、本発明の解析ソフトを含有するコンピュータ用記録媒体又は記憶手段も本発明に包含される。このような記録媒体又は記憶手段は、上記(1)のとおりである。
【0051】
(5)本発明はまた、(3)記載の解析ソフトを伝送することを特徴とする情報伝送媒体を提供する。
本発明の解析ソフトは、コンピューターネットワークシステムにおいて、情報を伝搬することができる。従って、本発明の解析ソフトを伝送する情報伝送媒体も本発明の包含される。本発明の情報伝送媒体は、本発明の解析ソフトをプログラム情報を搬送波として伝搬させて供給するためのコンピューターネットワークシステムにおける通信媒体をいう。コンピューターネットワークシステムとしては、LAN(Local Area Network)、インターネット等のWAN(Wide Area Network)、MAN(Metropolitan Area Network)、イントラネット、SAN(Storage Area Network)、無線通信ネットワーク等のシステムがあげられるがこれらに限定されない。通信媒体としては、光ファイバーや無線回線等があげられるが、これらに限定されない。
【0052】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0053】
1.実験の対象とした褥婦は正期分娩であり、正常新生児を得た褥婦40名について行った。悪露の判定には本発明の図1に示す悪露判定具を用いた。図1の悪露判定具の色番号に対応する色は以下のとおりである。
【0054】
【表1】

【0055】
ここで、表1の色番号の記載方法のうち、アルファベットは色トーンの略記号を示す。例えば、dkは「暗い」を、dpは「濃い」を、vは「冴えた」を、dは「にぶい」を、sfは「柔らかい」を、ltgは「明るい灰み」を示す。同様に、色番号の記載方法のうち番号は色相を示す。例えば、1は「紫味の赤」を、2は「赤」を、3は「黄味の赤」を、4は「赤味の橙」を、6は「橙」を、8は「黄」を示す。ただし、色とトーンの組み合わせによっては、異なる色名を用いる場合がある。例えば、dk4は「暗いブラウン」、dp6は「ブラウン味のゴールド」、d6は「黄味のブラウン」、sf24は「柔らかい黄味のピンク」、sf2は「柔らかいピンク」、sf4は「柔らかい黄味のピンク」、ltg4及びltg2は「グレイみのピンク」などである。また、図1に記載の悪露判定具に使用されている23種類の色の分類は以下のとおりである。すなわち、白色系は20〜23番目の色、黄色系は11及び19番目の色、褐色系は9,10番目の色、茶色系は1〜3番目の色、赤色系は4〜8番目の色、淡赤色又はピンク系は13〜18番目の色である。
【0056】
2.調査項目
(1)基本的産科学的属性として、カルテより、年齢、産婦人科歴、分娩時出血量、分娩時間、出生児体重、分娩前後のヘモグロビン値、授乳方法、子宮収縮状態、悪露の量を調査した。
(2)入院中については、産褥パットに付着した悪露の色・量を調査した。
(3)退院後は、事前に配布しておいた調査用紙に、パットに付着した悪露の色・量、パットの使用枚数、悪露の出かた、疲労感、行った家事・育児、心身に関して気になった事等を記載してもらうことにより調査を行った。
【0057】
3.データ収集の手順
(1)入院中の悪露の観察
朝6時から10時の間に交換した悪露を、上記悪露判定具を用いて比色して、最も近い色を褥婦に記号で悪露表に記入してもらうことにより、行った。
(2)退院後の悪露の観察
退院前に、褥婦に悪露の観察方法について具体的に下記の調査用紙1及び2に基づいて説明を行う。
調査用紙1:退院後から悪露が消失するまでの間、朝6時から10時の間に、1日1回悪露の観察を行い記入してもらう。同時に悪露の量、使用枚数、疲労感、行った家事・外出、心身に関して気になったことを記入してもらう。
調査用紙2:1ヶ月検診時の結果および授乳状況を記入してもらう。
(3)データの回収
調査用紙1と調査用紙2を返信用封筒により投函してもらうことにより回収する。
【0058】
4.結果
(1)対象者の背景
40名の褥婦に調査を依頼し、25名(62.5%)より協力を得ることができた。このうち初産婦は12名(うち1名が帝王切開なので分析から除外する)、経産婦は13名である。悪露排泄期間は全体の平均が37.8±7.2日(範囲28〜55日)であり、初産婦41.1±7.9日、経産婦34.9±5.4日であった。初産婦と経産婦を比較すると有意に初産婦の悪露排泄期間が長かった。
【0059】
(2)悪露の色相の変化(表2、表3、図2)
産褥7日から悪露が消失するまでの悪露の色相の変化を表2に示した。それによれば、産褥7日から55日(産褥2〜8週間)にわたる悪露の色相は、「2番(赤)」が最も多く26.9%、次いで「24番(赤紫)」21.8%、「4番(赤みの橙)」20.2%であった。(表2)
【0060】
【表2】

【0061】
表中の人数は、産褥7日目から55日(産褥2〜8週間)までの測定期間中、各測定時に左欄の色項目に記載の色を選択したのべ人数を表している。
色相の変化を1週間ごとにみた結果を示すグラフが図2であり、数値で示したものが表3である。これによれば、「2番」「4番」「24番」をあわせたものが2〜3週では約90%をしめており、4週で70%、5週で50%、6週では急激に減少し20%以下となる。一方「6番(橙)」と「8番(黄)」の黄色系の色は、2週と3週では10%程度であったものが、4週と5週において30%と増加し、6週で20%、7週で10%と徐々に減少していく(表3、図2)。悪露の排出は5週目までは約80%の人におこっているが、6週にはいると悪露は急激に消失し、6週目で悪露の排出のある人は40%弱に減少し、7週目ではさらにその半数となり、8週目でほとんどの褥婦で悪露は消失した。
【0062】
【表3】

【0063】
(3)悪露のトーンの変化(表4、表5、図3)
産褥7日から悪露が消失するまでの悪露の色相の分布を表4に示した。これによれば、産褥7日から55日(産褥2〜8週間)にわたる悪露のトーンは、「にぶい」と「明るい灰み」がともに24%と多く、ついで「濃い」、「暗い」が17%である。初産婦では「明るい灰み」が29%と最も多くついで「暗い」20%、「濃い」18%である。経産婦では「にぶい」が32%と最も多くついで「明るい灰み」19%、「濃い」16%である(表4)。
【0064】
【表4】

【0065】
トーンの変化を週ごとに示した表が表5である。これによると、2週目は「濃い」が最も多く、3週目と4週目は「にぶい」、5週目には「明るい灰み」へと変化していた(表5、図3)。
【0066】
【表5】

【0067】
(4)産褥期の特徴別悪露の変化
24名のデータを、産褥期の特徴的な経過別に分類し、悪露がどのように変化したかを比較した。分類したグループは、「退院後1週間安静に経過した褥婦」、「ノーマルな産褥経過をたどった経産婦」、「ノーマルな産褥経過をたどった初産婦」、「産褥期にマイナートラブルのあった褥婦(便秘・マタニティーブルー・倦怠感)」、「風邪に罹患した褥婦」、「発熱があった褥婦」、「痛みの訴えがあった褥婦」、「分娩後悪露が多めだった褥婦」、「卵膜排出のあった褥婦」である。
【0068】
結果を図4A〜Cに示す。「退院後1週間安静に経過した褥婦」では悪露は5週目でほぼ終了していた。「ノーマルな産褥経過をたどった経産婦・初産婦」では5週目で「にぶい」、「明るい灰み」、「柔らかい」の悪露となりほぼ5週目で悪露が終了していた。「風邪に罹患した褥婦」ではいったん悪露が「明るい灰み」にまで変化したものが、風邪に罹患した時期に合わせて「柔らかい」の色合いに変化していた。「分娩後悪露が多めだった褥婦」では暗いから「にぶい」の悪露が5週目まで継続して出現していた。「卵膜排出のあった褥婦」のケース9では産褥10日に卵膜が排出された後も産褥37日まで「暗い」の悪露が続き、産褥8週の時点においても暗いと「にぶい」の悪露の排出が見られている。図4Cの退院後卵膜排出のあった経産婦のケースでは産褥14日に卵膜が排出され赤い悪露が見られている。その後明るい灰みのトーンの悪露が継続して排出され1ヶ月健診時には「悪露がまだ残っている」との指摘を受けている。その後産褥41日の時点で育児の疲労が出現した時に「にぶい」の悪露が見られている(図4C)。
【0069】
(5)悪露の量の測定手段の解析
パットに付着した月経血の面積と量の相関関係を単回帰分析により調べた(N=63枚)。その結果、面積と量との関係には相関係数r=0.874で強い正の相関関係があり、量は面積を用いて「y=0.118×x+0.515」のように予測でき、統計的にも有意(p<0.001)であると確認できた(図5)。したがって本調査の悪露の量も同様の式を用いて算出することとした。
【0070】
(6)排出された悪露の量の変化
褥婦が排出した悪露の量を、悪露の量はパットに付着した悪露の面積を利用した、以下の算出方法を用いて測定した。
悪露の量=(縦径/2×横径/2×π)×パットの一日使用枚数×パットの種類
ここで、パットは普通サイズの時は2、オリモノシートの時は1と重み付けをおこなった。結果を図6A及び図6Bに示す。図6A及び6Bは、褥婦毎の悪露の量を経時的に記録したものである。ここで、測定にあたっては、褥婦のうち、初産婦と経産婦では排出される悪露の量の傾向に変化が見られるかについても解析を行った。その結果、初産婦は、経産婦に比し、排出される悪露の量が多いという結果が得られた(図6C)。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、安価、簡便かつ使用が容易な、悪露の測定に用いる悪露判定具を提供できるという、産業上利用可能性を有する。
また、本発明の悪露判定具を用いて得られたデータは客観的で信頼性に長けているため、褥婦の予後の鑑別を早期かつ確実に行うことができ、その結果、産褥子宮内膜炎等を早期に予防できるという産業上利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の悪露判定具を示す。
【図2】悪露の色相の変化を示す図である。
【図3】悪露のトーンの変化を示す図である。
【図4A】産褥期の特徴別悪露の変化を示す図である。
【図4B】産褥期の特徴別悪露の変化を示す図である。
【図4C】産褥期の特徴別悪露の変化を示す図である。
【図5】パットに付着した悪露の面積と重さの関係を示す図である。
【図6A】初産婦の悪露の概算量の変化を示す図である。
【図6B】経産婦の悪露の概算量の変化を示す図である。
【図6C】褥婦の悪露の概算量の変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
悪露の色を表す複数色からなる色見本と、悪露の量を測定する手段とを備えた、褥婦由来の悪露の色と量を測定するための、悪露判定具。
【請求項2】
色見本の色が、少なくとも、白色、黄色、褐色、茶色、赤色を含み、少なくとも15の色数である、請求項1記載の悪露判定具。
【請求項3】
悪露の量を測定する手段が、パットに付着した悪露の面積を計測することからなる、請求項1又は2記載の悪露判定具。
【請求項4】
悪露の量を測定する手段が、スケール、巻尺、コンベックスからなる群から選択される少なくとも1の手段である、請求項3記載の悪露判定具。
【請求項5】
悪露の色を表す複数色からなる色見本と悪露の量を計測する手段とが隣接して配置された、請求項1〜4のいずれか1項記載の悪露判定具。
【請求項6】
悪露判定具の表面が透明フィルムでコーティングされた、請求項5記載の悪露判定具。
【請求項7】
褥婦が、子宮復古不全又は産褥子宮内膜炎であるか否かを鑑別することに用いる、請求項1〜6のいずれか1項記載の悪露判定具。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の悪露判定具を用いて、産褥期間における悪露の色と量を測定する方法。
【請求項9】
請求項8記載の方法により測定した、悪露の色と量を記録する方法。
【請求項10】
請求項8記載の方法により測定した、被験者である褥婦から得られた悪露の色及び/又は量を、標準の悪露の色及び/又は量と比較することにより、被験者である褥婦の予後を鑑別する方法。
【請求項11】
請求項8記載の方法により測定した、被験者である褥婦から得られた悪露の色及び/又は量を、標準の悪露の色及び/又は量と比較することにより、被験者である褥婦が、子宮復古不全又は産褥子宮内膜炎であるか否かを鑑別する方法。
【請求項12】
請求項8記載の方法によって得られた、1以上の悪露の色及び/又は量を記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項13】
請求項8記載の方法によって得られた標準の悪露の色及び/又は量を解析ソフト上に登録し、被験者である褥婦から得られた、悪露の色及び/又は量を前記解析ソフトに入力し、前記解析ソフト上で前記登録された標準の悪露の色及び/又は量と前記入力された被験者の悪露の色及び/又は量とを比較することにより、被験者の悪露の色及び/又は量に相当する色及び/又は量が解析ソフト上に登録された色及び/又は量のうち、どの色及び/又は量と一致するかを解析し、被験者の悪露の状態を評価することからなる、被験者である褥婦の予後を鑑別するための方法。
【請求項14】
請求項8記載の方法によって得られた標準の悪露の色及び/又は量を1又はそれ以上登録する手段と、被験者である褥婦から得られた、悪露の色及び/又は量を入力する手段と、前記登録された標準の悪露の色及び/又は量と前記入力された被験者の悪露の色及び/又は量とを比較する手段と、被験者の悪露の色及び/又は量に相当する色及び/又は量が解析ソフト上に登録された色及び/又は量のうち、どの色及び/又は量と一致するかを解析する手段とを実行させるための、被験者である褥婦の予後を鑑別するための解析ソフト。
【請求項15】
請求項14記載の解析ソフトを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項16】
請求項14記載の解析ソフトを伝送することを特徴とする情報伝送媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【公開番号】特開2009−61227(P2009−61227A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−233958(P2007−233958)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】