説明

情報伝達装置

【課題】触知体の進退方向の変位が小さくてもその変位した触知体を感じ取り易くすることにより、触知体を進退方向に変位させるためのアクチュエータの小型化を図る。
【解決手段】人間の触覚を利用して情報を伝達する情報伝達装置1は、装置本体に進退可能に設けられ、装置本体から進出した状態で人間の皮膚に触れて触覚を与えるように構成された触知ピン11〜16と、触知ピン11〜16を進退方向に変位させる進退用アクチュエータ21〜26と、触知ピン11〜16を進退方向と交差する方向に変位させる交差方向アクチュエータ27と、制御装置とを備えている。制御装置は、進退用アクチュエータ21〜26を作動させてから、交差方向アクチュエータ27を作動させるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間の触覚を利用して情報を伝達する情報伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば視覚障害者等に情報を伝達する際に、複数のピン状の触知体を点字形式に配置し、それぞれを独立して進退動作させることにより、指先の触覚を利用して伝達することが行われている(特許文献1〜3参照)。
【0003】
特許文献1の装置は、コンピュータ装置用のマウスに組み込まれている。触知体の下部には圧電素子からなるアクチュエータがそれぞれ設けられている。各アクチュエータに電圧を個別に印加して上下方向に変形させて各触知体を変位させ、使用者の触覚に刺激を与えるようになっている。
【0004】
特許文献2の装置も特許文献1のものと同様に触知体を圧電素子からなるアクチュエータで駆動するように構成されている。
【0005】
また、特許文献3の装置は、形状記憶合金からなるアクチュエータを利用して触知体を駆動するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−172374号公報
【特許文献2】特開2009−288757号公報
【特許文献3】特開2011−54079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1〜3の装置では、触知体をアクチュエータによって変位させるようにしているが、指先の触覚は人によって鋭かったり、鈍かったりすることがあり、全ての人に対して情報を伝達するためには、触知体の変位量を大きくしたいという要求がある。
【0008】
また、人間は同じ感覚を長時間受けているとその感覚に慣れてしまって触知体の変位を感じ取れなくなることが考えられるので、このことを回避するためにも触知体の変位量は大きくしたい。
【0009】
ところが、触知体の変位量を大きくしようとすると、それを駆動する圧電素子や形状記憶合金の変形量を大きくしなければならず、アクチュエータが大型化してしまう。アクチュエータは、少なくとも触知体の数と同じ数が必要なため、1つのアクチュエータが大型化すると、情報伝達装置のサイズに大きな影響を及ぼすことになり、情報伝達装置の小型化ができずに、例えば携帯情報端末や他の機器に組み込むのが困難になる。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、触知体の進退方向の変位が小さくてもその変位した触知体を感じ取り易くすることによって触知体を進退方向に変位させるためのアクチュエータの小型化を図り、ひいては情報伝達装置のサイズを小さくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明では、触知体をその進退方向と交差する方向にも変位させるようにした。
【0012】
第1の発明は、人間の触覚を利用して情報を伝達する情報伝達装置において、装置本体に進退可能に設けられ、該装置本体から進出した状態で人間の皮膚に触れて触覚を与えるように構成された触知体と、上記触知体を進退方向に変位させる進退方向駆動手段と、上記触知体を進退方向と交差する方向に変位させる交差方向駆動手段と、上記進退方向駆動手段及び上記交差方向駆動手段に接続され、該両駆動手段を制御する制御部とを備え、上記制御部は、上記進退方向駆動手段を作動させてから、上記交差方向駆動手段を作動させるように構成されていることを特徴とするものである。
【0013】
この構成によれば、触知体が進退方向駆動手段によって進出した状態で人間の皮膚に触れ、この触知体は、交差方向駆動手段により進退方向と交差する方向に変位する。したがって、皮膚には、触知体の進退方向の刺激だけでなく、触知体が進退方向と交差する方向に変位した刺激も同時に作用することになる。このように皮膚に2方向の刺激を作用させることにより、触知体の進退方向の変位量が小さくても、変位した触知体を感じ取り易くすることが可能になる。
【0014】
第2の発明は、第1の発明において、上記交差方向駆動手段は、上記触知体を往復動させることを特徴とするものである。
【0015】
この構成によれば、触知体が進退方向と交差する方向に往復動するので、変位した触知体をより一層感じ取り易くなる。
【0016】
第3の発明は、第1または2の発明において、上記触知体及び上記進退方向駆動手段は複数組あり、該触知体は該進退方向駆動手段に固定され、単一の上記交差方向駆動手段により、上記複数の進退方向駆動手段を、上記触知体の進退方向と交差する方向に変位させることを特徴とするものである。
【0017】
この構成によれば、1つの交差方向駆動手段によって複数の触知体を進退方向と交差する方向に変位させることが可能になる。
【0018】
第4の発明は、第1から3のいずれか1つの発明において、上記装置本体には、上記触知体に触れる指を位置決めするための位置決め部が設けられていることを特徴とするものである。
【0019】
この構成によれば、触知体に触れた状態の指が位置決め部によって位置決めされる。これにより、触知体が進退方向と交差する方向に変位する際に、その触知体の変位につられて指が動いてしまうのを抑制することが可能になる。
【発明の効果】
【0020】
第1の発明によれば、触知体を進退方向だけでなく、進退方向と交差する方向にも変位させるようにしたので、触知体の進退方向の変位量が小さくても、変位した触知体を感じ取り易くすることができる。これにより、進退方向駆動手段の小型化を図ることができ、ひいては情報伝達装置のサイズを小さくできる。
【0021】
第2の発明によれば、触知体を進退方向と交差する方向に往復動させるようにしたので、変位した触知体をより一層感じ取り易くすることができる。
【0022】
第3の発明によれば、単一の交差方向駆動手段によって複数の触知体を変位させることができるので、情報伝達装置をより一層小型化できる。
【0023】
第4の発明によれば、触知体に触れる指を装置本体に位置決めするようにしたので、触知体の変位につられて指が動いてしまうのを抑制することができ、変位した触知体をより一層感じ取り易くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態1にかかる点字表示装置の斜視図である。
【図2】点字表示装置の内部構造を示す斜視図である。
【図3】点字表示装置のブロック図である。
【図4】触知ピンを装置本体と共に右側へ変位させた状態の図1相当図である。
【図5】第1進退用アクチュエータの側面図である。
【図6】実施形態2にかかる図1相当図である。
【図7】実施形態3にかかる図1相当図である。
【図8】実施形態4にかかる図1相当図である。
【図9】実施形態5にかかる図1相当図である。
【図10】実施形態5にかかる点字表示装置を側方から見た部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0026】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1にかかる情報伝達装置としての点字表示装置1を示すものである。この点字表示装置1は、例えば携帯情報端末やコンピュータ用マウスに組み込まれて使用されるものであり、文字情報等を視覚障害者に対して点字の形式で伝達するように構成されている。
【0027】
図2や図3にも示すように、点字表示装置1は、装置本体10と、第1〜第6触知ピン(触知体)11〜16と、第1〜第6触知ピン11〜16をそれぞれ進退方向に変位させる第1〜第6進退用アクチュエータ(進退方向駆動手段)21〜26と、第1〜第6触知ピン11〜16及び第1〜第6進退用アクチュエータ21〜26を該ピン11〜16の進退方向と交差する方向に変位させる交差方向アクチュエータ(交差方向駆動手段)27と、制御装置28(図3に示す)とを備えている。
【0028】
図1に示すように、装置本体10は、基板30と、ケース31とを備えている。図2にも示すように、基板30は、略水平に延びる矩形の平板部材からなるものである。基板30の上面に、上記第1〜第6進退用アクチュエータ21〜26が固定されている。第1〜第6進退用アクチュエータ21〜26は、平面視で標準点字規格に従って2列×3行となるように配置されている。ここで、列方向とは使用者から見て左右方向であり、行方向とは使用者から見て前後方向(奥行方向)である。
【0029】
第1〜第6進退用アクチュエータ21〜26の上端部に第1〜第6触知ピン11〜16が取り付けられている。ケース31は、下端が開放されており、内部に第1〜第6進退用アクチュエータ21〜26が収容された状態で、基板30によって下端開放部が閉塞されるようになっている。
【0030】
図1に示すように、ケース31の上壁部は、略水平に延びており、その外面は、使用者が指を載置するための載置面31aとされている。ケース31の上壁部には、載置面31aに開口して該上壁部を貫通する6つの貫通孔31b、31b、…が形成されている。これら貫通孔31b、31b、…は、略円形とされ、第1〜第6進退用アクチュエータ21〜26の位置に対応して標準点字規格に従って配置されている。尚、標準点字規格とは、列方向に隣り合う貫通孔31b、31bの中心間距離が2.13mmであり、行方向に隣り合う貫通孔31b、31bの中心間距離が2.37mmである。
【0031】
これら貫通孔31b、31b、…は、互いに同じ大きさ及び形状とされている。貫通孔31b内を第1〜第6触知ピン11〜16が上下方向に移動するようになっている。つまり、貫通孔31bは、第1〜第6触知ピン11〜16を装置本体10から外部へ進出させるための触知体進出用孔部である。尚、図1及び図4では、第1及び第2触知ピン11、12のみが進出した状態を示している。
【0032】
交差方向アクチュエータ27は、装置本体10の下部に設けられており、装置本体10を、第1〜第6触知ピン11〜16及び第1〜第6進退用アクチュエータ21〜26と共に水平方向に変位させるためのものである。交差方向アクチュエータ27は、周知のリニアアクチュエータで構成されていて、ベース部材27aと、ベース部材27aに対し水平方向にスライド可能に取り付けれた可動側部材27bとを備えており、電磁力等によって可動側部材27bをベース部材27aに対し水平方向に駆動するように構成されている。ベース部材27aは、携帯情報端末等に固定され、また、可動側部材27bは装置本体10の基板30に固定されている。
【0033】
交差方向アクチュエータ27は、装置本体10を使用者から見て左右方向に変位させるように配置されている。従って、装置本体10は、交差方向アクチュエータ27によって左右方向に往復動する。左方向の変位量及び右方向の変位量は、それぞれ最大で3mm程度確保されている。よって、装置本体10が可動範囲の左端から右端まで変位するとその変位量は合計6mm程度である。
【0034】
交差方向アクチュエータ27は、制御装置28に接続されており、制御装置28から出力される制御信号に従って作動する。交差方向アクチュエータ27の作動量は、上記した範囲内で任意に設定することができ、また、1秒あたりの往復動回数である周期も任意に設定することができる。さらに、交差方向アクチュエータ27の作動を開始するタイミングも任意に設定することができる。
【0035】
次に、第1〜第6進退用アクチュエータ21〜26の構造について説明する。図2に示すように、第1〜第6進退用アクチュエータ21〜26は同じものであるため、以下、第1進退用アクチュエータ21の構造について詳しく説明する。
【0036】
図5にも示すように、第1進退用アクチュエータ21は、積層型の圧電素子21aと、第1コイルばね21bと、第1質量体21cと、第2コイルばね21dと、第2質量体21eとを備えている。圧電素子21aは、電圧を印加することによって生じる圧電縦効果を利用し、電気エネルギーを変位や力などの機械エネルギーに変換する周知のものである。本実施形態では、圧電素子21aは、NEC/TOKIN社製の樹脂外装型アクチュエータシリーズのAE0203D08Fである。本圧電素子21aは、高歪率圧電セラミック材料で構成されており、小型で、かつ、低電圧で大きな変位を発生させることができる。圧電素子21aは、上下方向に長い直方体形状であり、左右方向の寸法は2mm、奥行方向の寸法は3mm、高さは10mmである。図2に示すように、圧電素子21aの下端面は基板30に接着されている。
【0037】
第1コイルばね21bは、アキュレイト社製の圧縮コイルばねであり、外径は、6つのアクチュエータ21〜26を標準点字規格内に収めるために2mm以下とされている。第1コイルばね21bのばね定数は、25.2N/mmである。第1コイルばね21bの中心線は、平面視で圧電素子21aの中心と一致している。
【0038】
第1質量体21cは、円盤形状とされており、質量は0.1083gである。
【0039】
第2コイルばね21dは、東海ばね社製の圧縮コイルばねであり、上記した理由より、外径は2mm以下とされている。第2コイルばね21dのばね定数は、6.551N/mmである。
【0040】
第2質量体21eの質量は、第1質量体21cよりも軽く設定されており、第1質量体21cよりも薄い円盤形状とされている。第2質量体21eの質量は0.0.0281gである。第1質量体21cの中心線、第2コイルばね21dの中心線及び第2質量体21eの中心線は、第1コイルばね21bの中心線と一致している。
【0041】
第1コイルばね21bの下端部は、圧電素子21aの上端面に接着されており、また、上端部は、第1質量体21cの下面に接着されている。
【0042】
第2コイルばね21dの下端部は、第1質量体21cの上面に接着されており、また、上端部は、第2質量体21eの下面に接着されている。
【0043】
第1触知ピン11は、第2質量体21eの上面に接着されている。第1触知ピン11は、上下方向に延びる略円柱状とされており、その中心線は、第2コイルばね21dの中心線と一致している。第1触知ピン11の上部は、上端に近づくほど小径となる先細形状となっている。第1触知ピン11の上部を先細形状とすることで、第1触知ピン11を左右方向に変位させた際に上部が指の指紋に引っ掛かるようになる。第1触知ピン11の下部の外径は、1.0mm以下が好ましく、0.6mm以上0.8mm以下がより好ましい。
【0044】
尚、第1触知ピン11の上部は先細形状としなくてもよく、下端から上端に亘って同じ外径であってよい。また、第1触知ピン11は、筒状の部材を用いて構成してもよい。
【0045】
第1触知ピン11の上下寸法は、装置本体10の貫通孔31bの上下寸法よりも長く設定されており、図1に示すように第1触知ピン11の上端部が貫通孔31bから上方へ進出可能となっている。
【0046】
また、第1触知ピン11の最大外径は装置本体10の貫通孔31bの径よりも若干小さく設定されており、第1触知ピン11が進退方向に変位する際に、貫通孔31bの内周面に強く摺接しないようになっている。これは第1接触ピン11の変位量が減少しないようにするためである。従って、第1触知ピン11が進退する際には、貫通孔31bの内周面に弱く摺接しながら上下方向に案内される。つまり、貫通孔31bの内周面は、第1触知ピン11の案内手段となっている。
【0047】
第1触知ピン11の高さは、第1進退用アクチュエータ21が動作していないとき(電圧が印加されていないとき)に、該第1触知ピン11の上端部が装置本体10の貫通孔31b内に収まるように設定されている。従って、第1進退用アクチュエータ21が動作していないときに指を装置本体10の載置面31aに載置しても第1触知ピン11の存在が使用者に触覚を通じて分からないようになっている。
【0048】
上記のように構成された第1進退用アクチュエータ21は、圧電素子21aの変位量を動吸振器の逆原理を用いて増幅し、圧電素子21aの変位量よりも大きな変位量で第1触知ピン11を変位させることが可能になっている。すなわち、動吸振器の原理とは、主振動系と同じ固有振動数を有し、かつ、制振対象物よりも質量の小さい補助振動系(動吸振器)を設けることにより、主振動系の振動エネルギーを補助振動系に吸収させ、主振動系の振動を抑制するという原理であり、その逆原理とは、主振動系の振動エネルギーを吸収することによって激しく振動する補助振動系を利用した励振技術である。
【0049】
図5に示すように、第1進退用アクチュエータ21の主振動系は、第1コイルばね21bと第1質量体21cとで構成されており、補助振動系は、第2コイルばね21dと第2質量体21eとで構成されている。つまり、第1コイルばね21b及び第2コイルばね21dのばね定数と、第1質量体21c及び第2質量体21eの質量とは、動吸振器の原理によって補助振動系が激しく振動するように設定されている。これは動吸振器の原理に従って設定可能である。
【0050】
尚、本第1進退用アクチュエータ21は、極めて小型軽量であり、第1コイルばね21b及び第2コイルばね21dの質量は無視できないため、これらの質量も考慮して各ばね21b、21dのばね定数や質量体21c、21eの質量を設定している。
【0051】
図3に示すように、第1〜第6進退用アクチュエータ21〜26は、制御装置28に接続されており、各々、制御装置28から出力される制御信号に従って独立して作動する。制御装置28は、第1〜第6進退用アクチュエータ21〜26の各圧電素子21aに矩形波の電圧を印加するように構成されている。具体的には、電圧としては例えば30Vであり、周波数は2kHz以下である。
【0052】
圧電素子21aは電圧が印加されると上下方向に変形し、その変形量は、上下にそれぞれ1.5μmである。第1〜第6進退用アクチュエータ21〜26のうち、どれに電圧を印加するかは、表示したい文字に対応した点字を表すことができるように、予めプログラムされている。具体的には、携帯情報端末の画面に表示されている文字を制御装置28に文字データとして入力するための文字情報入力手段40を制御装置28に接続しておき、制御装置28に入力された文字データを点字に変換し、対応する進退用アクチュエータ21〜26の圧電素子21aに電圧を印加する。文字列が入力された場合には、その列の左側の文字から順に点字で表示する。
【0053】
また、制御装置28は、ある文字を表示するために第1〜第6進退用アクチュエータ21〜26の圧電素子21aに電圧を印加した後に、直ちに交差方向アクチュエータ27にも制御信号を送出するように構成されている。これにより、第1〜第6進退用アクチュエータ21〜26により点字の表示を行うときに第1〜第6触知ピン11〜16が左右方向に変位することになる。
【0054】
次に、上記のように構成された点字表示装置1を使用する場合について説明する。制御装置28に文字情報入力手段40から文字データが入力されると、制御装置28は、その文字データに対応した点字を表示すべく、第1〜第6進退用アクチュエータ21〜26のうち、どのアクチュエータ21〜26を作動させるか決定する。そして、例えば第1進退用アクチュエータ21を作動させる場合には、制御装置28は、第1進退用アクチュエータ21の圧電素子21aに電圧を印加する。電圧は矩形波で印加されるので、圧電素子21aの上面は上下方向に振動することになる。その振幅は、圧電素子21aの変位量に相当し、この実施形態では3μmである。また、印加電圧の周波数は、補助振動系が動吸振器として機能した際に第2質量体21eの周波数が1000Hz以上となるように設定する。
【0055】
圧電素子21aの上面の振動は第1コイルばね21bを介して第1質量体21cに伝達される。そして、第1質量体21cの振動は、第2コイルばね21dを介して第2質量体21eに伝達される。このとき、ばね定数及び質量が上述の如く設定されているので、第2コイルばね21d及び第2質量体21eが動吸振器として機能し、第2質量体21eが激しく振動する。このときの第2質量体21eの振幅は、圧電素子12aの振幅の百倍以上に増幅されて例えば300μm程度となる。これにより、第1触知ピン11の先端が貫通孔31bよりも上方へ進出し、載置面31aに載置している指を押す。
【0056】
このとき、第1触知ピン11は、1000Hz以上の周波数で振動している。すなわち、視覚障害者を対象に試験したところ、第1触知ピン11の周波数が1000Hzよりも低いと、同じ文字が複数回表示されていると認識してしまう確率が高くなるが、1000Hz以上であれば、1つの文字が1回表示されているものと認識する確率が高くなる結果が得られた。この結果より、第1触知ピン11の周波数を1000Hz以上に設定している。
【0057】
制御装置28は、第1進退用アクチュエータ21を作動させてから、上記交差方向アクチュエータ27を動作させる。交差方向アクチュエータ27が動作することで、進出状態の第1触知ピン11が左右方向に変位する。
【0058】
したがって、皮膚には、第1触知ピン11の進退方向の刺激だけでなく、第1触知ピン11が左右方向に変位した刺激も同時に作用することになる。このように皮膚に2方向の刺激を作用させることにより、第1触知ピン11の進退方向の変位量が小さくても、変位した第1触知ピン11を感じ取り易くすることが可能になる。第2〜第6触知ピン12〜16についても同様である。
【0059】
これにより、第1〜第6進退用アクチュエータ21〜26の小型化を図ることができ、ひいては点字表示装置1のサイズを小さくできる。
【0060】
本点字表示装置1では、第1〜第6触知ピン11〜16を左右方向に変位させるようにしたことで、第1〜第6触知ピン11〜16の進退方向の変位量を150μm程度にまで小さくしても、殆どの使用者が、変位した第1〜第6触知ピン11〜16を感じ取ることができる。
【0061】
また、第1〜第6触知ピン11〜16が左右方向に往復動するので、変位した第1〜第6触知ピン11〜16をより一層感じ取り易くすることができる。
【0062】
また、1つの交差方向アクチュエータ27によって第1〜第6触知ピン11〜16を左右方向に一度に変位させることが可能になるので、点字表示装置1をより一層小型化できる。
【0063】
(実施形態2)
図6は、本発明の実施形態2にかかる点字表示装置1を示すものである。この実施形態2の点字表示装置1は、指の載置面50aを固定した点と、貫通孔50bを長孔形状とした点とで、実施形態1のものに対して異なっている。以下、実施形態1と異なる部分について詳細に説明する。
【0064】
実施形態2では、実施形態1のケース31の代わりに上板50と支持板51,51とを備えている。上板50は、第1〜第6進退用アクチュエータ21〜26の上方において略水平に延びている。上板50の上面は、載置面50aとされている。
【0065】
支持板51,51は、第1〜第6進退用アクチュエータ21〜26が取り付けられる基板49の奥行方向両端部近傍に配置されて上下方向に延びている。支持板51,51の下端部は交差方向アクチュエータ27のベース部材27aに固定されている。支持板51,51の上端部には、上記上板50の奥行方向両端部が固定されている。したがって、上板50は、第1〜第6触知ピン11〜16が変位しても該ピン11〜16とは一緒に変位しない。
【0066】
貫通孔50bは、交差方向アクチュエータ27による第1〜第6触知ピン11〜16の変位方向(左右方向)に長い長孔形状とされている。貫通孔50bの長手方向の寸法は、第1〜第6触知ピン11〜16の左右方向の変位量と略同じに設定されており、第1〜第6触知ピン11〜16の左右方向の変位を貫通孔50bが阻害しないようになっている。
【0067】
この実施形態2においても、実施形態1と同様に、皮膚には2方向の刺激を作用させることができるので、第1〜第6触知ピン11〜16の進退方向の変位量が小さくても、変位した第1〜第6触知ピン11〜16を感じ取り易くすることができる。
【0068】
これにより、第1〜第6進退用アクチュエータ21〜26の小型化を図ることができ、ひいては点字表示装置1のサイズを小さくできる。
【0069】
この実施形態2では、交差方向アクチュエータ27が動作すると、載置面50aは変位せずに、第1〜第6触知ピン11〜16が左右方向に変位することになる。これにより、載置面50aに指を載置したまま、第1〜第6触知ピン11〜16のみを進退方向と交差する方向に変位させることが可能になるので、第1〜第6触知ピン11〜16の変位につられて指が動いてしまうのを抑制することができる。よって、変位した第1〜第6触知ピン11〜16をより一層感じ取り易くすることができる。
【0070】
(実施形態3)
図7は、本発明の実施形態3にかかる点字表示装置1を示すものである。この実施形態3の点字表示装置1は、実施形態2のものに対し、指の位置決めを行うための位置決め部55を設けた点で異なっている。以下、実施形態2と異なる部分について詳細に説明する。
【0071】
すなわち、位置決め部55は、上板50の左縁部から上方へ突出し、奥行方向に延びている。位置決め部55は、載置面50aに載せた指の左側が当接するように配置されており、指を位置決め部55に当接させた状態で、指が点字の読み取り位置に位置付けられる。
【0072】
この実施形態3においても、実施形態1と同様に、皮膚には2方向の刺激を作用させることができるので、第1〜第6触知ピン11〜16の進退方向の変位量が小さくても、変位した第1〜第6触知ピン11〜16を感じ取り易くすることができる。これにより、第1〜第6進退用アクチュエータ21〜26の小型化を図ることができ、ひいては点字表示装置1のサイズを小さくできる。
【0073】
また、載置面50aに載置した指を位置決め部55により位置決めするようにしたので、第1〜第6触知ピン11〜16が左右方向に変位する際に、その触知ピン11〜16の変位につられて指が動いてしまうのを抑制することができ、変位した触知ピン11〜16をより一層感じ取り易くすることができる。
【0074】
(実施形態4)
図8は、本発明の実施形態4にかかる点字表示装置1を示すものである。この実施形態4の点字表示装置1は、実施形態2のものに対し、載置面50aとは別に指を載せて置くための指置き部56を設けた点で異なっている。以下、実施形態2と異なる部分について詳細に説明する。
【0075】
すなわち、指置き部56は、上板50の手前側の縁部から載置面50aよりも上方へ突出し、左右方向に延びている。指置き部56は、第1〜第6触知ピン11〜16と共に変位しないように固定状態とされ、載置面50aに載せた指の遠位指節間関節近傍に下から当接して支えるように配置されている。これにより、指を指置き部56に置いた状態として指置き部56により支えることができるので、指を載置面50aに弱く接触させておくことが可能になる。よって、第1〜第6触知ピン11〜16の変位につられて指が動いてしまうのを抑制することができ、変位した触知ピン11〜16をより一層感じ取り易くすることができる。
【0076】
この実施形態4においても、実施形態1と同様に、皮膚には2方向の刺激を作用させることができるので、第1〜第6触知ピン11〜16の進退方向の変位量が小さくても、変位した第1〜第6触知ピン11〜16を感じ取り易くすることができる。これにより、第1〜第6進退用アクチュエータ21〜26の小型化を図ることができ、ひいては点字表示装置1のサイズを小さくできる。
【0077】
(実施形態5)
図9及び図10は、本発明の実施形態5にかかる点字表示装置1を示すものである。この実施形態5の点字表示装置1は、実施形態1のものに対し、指置き部60を設けた点で異なっている。
【0078】
指置き部60は、ケース31を囲むように互いに離れて配置された柱状部材61,61,…と、左右方向に離れて配置された柱状部材61,61の上端部同士を連結する第1連結部材62,62と、前後方向に離れて配置された柱状部材61,61の上端部同士を連結する第2連結部材63,63とを備えており、ケース31と一緒には動かないように固定されている。
【0079】
各柱状部材61の上端部は、ケース31の上面近傍に位置している。また、第1及び第2連結部材62,63の上面は、ケース31の上面よりも上方に位置している。
【0080】
各第1連結部材62の上面には凹面62aが形成されている。凹面62aは、第1連結部材62の左右方向両端部近傍に亘っており、左右方向中央部が最も下に位置するように緩やかに下方へ湾曲している。凹面62aには、指が嵌るようになっている。
【0081】
図10に示すように、上記指置き部60の凹面62a,62aに指の腹が接触するように指を置くと、指の腹は、凹面62a,62aの間の部分が凹面62a,62aよりも下に膨らむようになる。これにより、指の腹の皮膚が引っ張られるので、使用者が第1〜第6触知ピン11〜16に敏感に反応するようになる。
【0082】
この実施形態5においても、実施形態1と同様に、皮膚には2方向の刺激を作用させることができるので、第1〜第6触知ピン11〜16の進退方向の変位量が小さくても、変位した第1〜第6触知ピン11〜16を感じ取り易くすることができる。さらに、指の腹の皮膚を指置き部60によって引っ張ることができるので、第1〜第6触知ピン11〜16をより一層感じ取り易くすることができる。
【0083】
上記実施形態5の第2連結部材63,63は省略してもよい。
【0084】
尚、上記実施形態1〜5では、第1〜第6触知ピン11〜16を左右方向に変位させるようにしているが、これに限らず、第1〜第6触知ピン11〜16の進退方向と交差する方向であればよいので左右方向に特に限定されるものではなく、例えば、奥行方向に変位させてもよいし、斜め左方向、斜め右方向に変位させてもよいし、斜め上下方向に変位させてもよい。
【0085】
また、第1〜第6触知ピン11〜16を進退方向と交差する方向に変位させる際には、往復動させなくてもよい。
【0086】
また、第1〜第6触知ピン11〜16を進退方向に完全に変位させた後に、進退方向と交差する方向に変位させてもよいし、進退方向に変位する途中で進退方向と交差する方向に変位させてもよい。
【0087】
また、第1〜第6触知ピン11〜16を進退方向と交差する方向に変位させる際の変位量は、進退方向の変位量よりも大きく設定するのが好ましい。
【0088】
また、本発明は、点字を表示する場合以外にも、触知ピンの数を増やすことでコンピュータ画面上の図形等を表示することも可能である。触知ピンの数は、任意に設定に設定でき、6本以下であってもよい。
【0089】
また、点字表示装置1は、各種機器に組み込むことなく、単独で使用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0090】
以上説明したように、本発明にかかる情報伝達装置は、例えば、点字を表示する場合に使用できる。
【符号の説明】
【0091】
1 点字表示装置(情報伝達装置)
10 装置本体
11〜16 第1〜第6触知ピン(触知体)
21〜26 第1〜第6進退用アクチュエータ(進退方向駆動手段)
27 交差方向アクチュエータ(交差方向駆動手段)
28 制御装置(制御部)
31a、50a 載置面
31b、50b 貫通孔
55 位置決め部
56 指置き部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人間の触覚を利用して情報を伝達する情報伝達装置において、
装置本体に進退可能に設けられ、該装置本体から進出した状態で人間の皮膚に触れて触覚を与えるように構成された触知体と、
上記触知体を進退方向に変位させる進退方向駆動手段と、
上記触知体を進退方向と交差する方向に変位させる交差方向駆動手段と、
上記進退方向駆動手段及び上記交差方向駆動手段に接続され、該両駆動手段を制御する制御部とを備え、
上記制御部は、上記進退方向駆動手段を作動させてから、上記交差方向駆動手段を作動させるように構成されていることを特徴とする情報伝達装置。
【請求項2】
請求項1に記載の情報伝達装置において、
上記交差方向駆動手段は、上記触知体を往復動させることを特徴とする情報伝達装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の情報伝達装置において、
上記触知体及び上記進退方向駆動手段は複数組あり、該触知体は該進退方向駆動手段に固定され、
単一の上記交差方向駆動手段により、上記複数の進退方向駆動手段を、上記触知体の進退方向と交差する方向に変位させることを特徴とする情報伝達装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の情報伝達装置において、
上記装置本体には、上記触知体に触れる指を位置決めするための位置決め部が設けられていることを特徴とする情報伝達装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−24932(P2013−24932A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156961(P2011−156961)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(507062347)株式会社豊國 (2)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)