説明

情報再生装置および情報再生方法

【課題】信号識別能力に大きな影響を与えるオフセット補正の精度向上による再生能力の向上と、再生処理の高倍速化を両立できるようにする。
【解決手段】情報再生装置1は、光ディスクDに記録されている情報を読み取って再生信号を出力し、その再生信号についてAD変換前にオフセットを補正するアナログオフセット補正と、AD変換後にオフセットを補正するデジタルオフセット補正と、デジタルオフセット補正後の補正後再生信号からオフセット制御量を検出するオフセット検出とを行う。また、情報再生装置1は、検出されたオフセット制御量を示すオフセットデータをAD変換の最下位bit単位以上の第1のオフセットデータと、最下位bit単位よりも小さい第2のオフセットデータとに分割して、第1のオフセットデータでデジタルオフセット補正を行い、第2のオフセットデータでアナログオフセット補正を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PRML方式による信号処理を行う光ディスク装置、固定磁気ディスク装置等の情報再生装置および情報再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、デジタルデータを記録および再生することが可能な記録媒体として、DVD(digital versatile disk)に代表される光ディスクや磁気ディスクがある。このうち、光ディスク、例えば、DVDファミリーの1つであるDVD−RAMでは、記録媒体(ディスク)に信号の記録層が備えられていて、この記録層に適切なエネルギーを持つレーザ光が照射されることで記録層の結晶状態が変化し、その記録層に再度適切なエネルギーのレーザ光が照射されると、記録層の結晶状態に応じた量の反射光が得られる。この反射光が検出されることによって、デジタルデータの再生が行われるようになっている。
【0003】
ところで、近年、光ディスク等の記録媒体に記録されたデジタルデータを再生する情報再生装置や記録媒体にデジタルデータを記録する情報記録装置、さらにはMRヘッドを使用した固定磁気ディスク装置においては、高密度の記録再生を実現するため、PRML(Partial Response Maximum Likelihood)と呼ばれる方式の技術(PRML技術)が採用されている。PRML技術については、例えば特許文献1等にその技術内容が公開されているが、簡単に内容を説明すると以下のとおりである。
【0004】
パーシャルレスポンス方式(PR)は、符号間干渉(隣り合って記録されているピットが光スポットに入り込むことによる再生信号同士の干渉)を積極的に利用して必要な信号帯域を圧縮し、高域成分を要しない再生回路を実現することによって、デジタルデータの再生を行う方式である。このパーシャルレスポンス方式(PR)は、許容する符号間干渉の発生のさせ方によって、複数の特性があり複数種類の方式に分類できるが、例えばクラス1の場合、記録データ“1”に対して再生データが“11”の2ビットデータとして得られ、後続の1ビットに対して符号間干渉を発生させるようになっている。
【0005】
また、ビタビ復号方式(ML)は、いわゆる最尤系列推定方式の一種であって、再生波形のもつ符号間干渉の規則を有効に利用し、複数時刻にわたる信号振幅の情報に基づいてデジタルデータの再生を行う方式である。このビタビ復号方式(ML)では、記録媒体から得られる再生波形に同期した同期クロックを生成し、この同期クロックによって再生波形自身をサンプリングして振幅情報に変換し、その後、適切な波形等化を行うことによって、予め定めたパーシャルレスポンス方式の応答波形に変換する。さらに、ビタビ復号部において過去と現在のサンプルデータを用い、最も確からしいデータ系列を推定して再生データとして出力するようになっている。
【0006】
以上のパーシャルレスポンス方式とビタビ復号方式を組み合わせる方式をPRML方式という。PRML技術を実用化するためには、再生信号が適用されるPR特性の応答となるようにする高精度の適応等化技術およびこれを支える高精度のクロック再生技術が必要とされている。
【0007】
次に、PRML技術で用いられるラン長制限符号について説明する。PRML技術を採用している再生回路では、記録媒体から読み出された再生信号自身から、これに同期したクロックが生成されるが、安定したクロックを生成するため、記録されているデジタルデータ(記録信号)は予め定めた時間以内で極性が反転する必要がある。それと同時に、記録信号の最高周波数を下げるために予め定めた時間中では記録信号の極性が反転しないようにする必要がある。記録信号の極性が反転しない最大データ長を最大ラン長といい、極性が反転しない最小データ長を最小ラン長という。最大ラン長が8ビットで、最小ラン長が2ビットである変調規則を(1,7)RLLといい、最大ラン長が8ビットで、最小ラン長が3ビットである変調規則を(2,7)RLLという。光ディスクで用いられる代表的な変調・復調方式としては、(1,7)RLLや、EFMPlus(例えば、特許文献2参照)がある。
【0008】
このようなPRML技術を採用している再生回路は、従来のスライス型の再生回路と比較して再生能力の向上が見込まれており、特にハイビジョンに対応した記録容量の大きい大容量光ディスクの1つであるHD DVD(HighDefinition−DVD)では、PRML技術を規格として採用することによって、線記録密度を上げ大容量を実現している。
【特許文献1】特開2001−195830号公報
【特許文献2】米国特許第5,696,505号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記のPRML技術も万能といえるものではない。PRML技術は帯域方向の情報を振幅方向の情報に変換することで帯域圧縮を可能とする技術であるが、振幅方向の変動マージンが従来のスライス型の再生回路よりも狭くなるという性質を有している。すなわち、PRML技術では、PR方式による波形等化後の波形を多値スライスして振幅情報を得るため、再生信号に振幅変動があったり、アシンメトリ(非対称性)が存在したり、さらには、アシンメトリや、アンプ、ADCといった各回路の電気的な要因などによるオフセット成分(オフセットともいう)がのったりしている場合には、従来のスライス方式に比べて、それらの再生品位への影響度合いが大きく、たとえビタビ復号方式による最尤復号化が行われたとしても、エラー率の悪化は避けられないという欠点がある。
【0010】
特に、PRML技術では、オフセット成分による再生品位への影響度が高いとされている。ここで、図8はHD DVD−ROMの再生波形をPR(3443)特性により波形等化した時の等化波形(7bit)のヒストグラムを示す図である。PR(3443)特性においては、理想振幅レベルが4レベル(この場合は0,7,28,49)あり、多値スライス点は7点(0、±7、±28、±49)となり、オフセット成分が1LSB(Least Significant Bit:最下位ビット)でも残っていた場合は、その影響が多値スライスの7点すべてのオフセットとして効いてしまう。PR(12221)特性の場合は更に理想振幅レベルの個数(レベル数)が増えるため、この影響がより顕著になる。図9はPR(12221)特性の場合の影響を示す図である。図9には、HD DVD−ROMの再生波形をPR(12221)特性により波形等化した等化波形に対してオフセットを加えていった時のSbER(Simulated bit Error Rate)が示されているが、これによると、この再生波形の場合には、1LSBのズレによって、SbERが1桁近く悪化してしまうことがわかる。
【0011】
このように、PRML方式を適用している再生回路では、オフセット成分の補正(オフセット補正)を行う補正回路に十分な精度が要求されるため、従来から、補正回路の精度をより高める工夫としてのオフセット検出方式や制御方式に関する様々な技術が提案されている。
【0012】
一方、光ディスクにおいては、オフセット補正を行う補正回路の精度を高めて再生能力を向上させようとする要求のほかに、再生処理の高倍速化に対する要求も高まっている。高倍速化に対応するためには必然的に再生回路も高速化に対応していかねばならないが、PRML方式を採用している再生回路は、その構成上、従来のスライス型の再生回路と比較して非常に複雑な回路であり、その複雑化に伴う回路規模の増大がそのまま高速化のボトルネックになっている。
【0013】
そして、HD DVDでは、SbERやPRSNR(Partial Response Signal to Noise Ratio)といった信号の再生品位の評価指標を測定する場合、ADC(AD Converter)を8bitにすることを推奨しているが、高倍速化に対応していくためにはADCのbit数(bit幅)を下げていくことが望ましい。
【0014】
ところが、例えば5bitのADCを使用して再生回路を構築するときは再生回路内部の演算も5bit精度で行っていく必要があり、そうするとこの場合は特にオフセット補正を行う補正回路の精度の方が問題となってくる(ADCのbit数を下げることによる影響よりもオフセット補正の精度の方が再生品位に対する影響が高いため)。とはいえ、オフセット補正を行う補正回路の制御値がADCの1LSB単位であり、補正回路の精度が十分とはいえないからといって、オフセット補正の精度を上げようとbit幅の拡張等を行えば、再生回路の規模の増大を招いてしまい、これでは高倍速化の妨げとなってしまう。特に、再生信号が通過するメインのストリームパスは、PRML方式の再生回路のクリティカルパスとなりやすいため、再生回路のbit拡張等は適切な対応とは言い難い欠点がある。
【0015】
そこで、本発明は上記課題を解決するためになされたもので、PRML方式による信号処理を行う情報再生装置および情報再生方法において、信号識別能力に大きな影響を与えるオフセット補正の精度向上による再生能力の向上と、再生処理の高倍速化を両立できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本発明は、記録媒体に記録されている情報を読み取り、再生信号を出力する再生信号出力手段と、PRML方式による信号処理を行うPRML信号処理手段とを備えた情報再生装置であって、再生信号出力手段から出力される再生信号についてAD変換前にオフセット補正を行うアナログオフセット補正手段と、再生信号出力手段から出力される再生信号をAD変換した後のデジタル再生信号についてオフセット補正を行うデジタルオフセット補正手段と、そのデジタルオフセット補正手段により補正された後の補正後再生信号から、その補正後再生信号に含まれているオフセット制御量を検出するオフセット検出手段と、そのオフセット検出手段により検出されたオフセット制御量を示すオフセットデータを、再生信号がAD変換される最下位bit単位以上の第1のオフセットデータと、その最下位bit単位よりも小さい第2のオフセットデータとに分割する分割手段とを有し、デジタルオフセット補正手段が分割手段により分割された第1のオフセットデータを用いてオフセット補正を行え、アナログオフセット補正手段が第2のオフセットデータを用いてオフセット補正を行えるように構成されている情報再生装置を提供する。
【0017】
この情報再生装置は、検出されたオフセット制御量を示すオフセットデータをAD変換の最下位bit単位以上の第1のオフセットデータと、最下位bit単位よりも小さい第2のオフセットデータとに分割し、第1のオフセットデータでデジタルオフセット補正を行い、第2のオフセットデータでアナログオフセット補正を行う。
【発明の効果】
【0018】
以上詳述したように、本発明によれば、PRML方式による信号処理を行う情報再生装置および情報再生方法において、信号識別能力に大きな影響を与えるオフセット補正の精度向上による再生能力の向上と、再生処理の高倍速化を両立できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、同一要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
【0020】
本発明の実施の形態に係る情報再生装置1は、図1に示すように、記録媒体として光ディスクDが用いられ、光ディスクDに記録されているデジタルデータを再生することができるようになっている。この情報再生装置1は、光ディスクDを保持し所定回転数で回転させる駆動機構2と、光ピックアップ等を備えたPUH(Pick up head)3、プリアンプ4およびプリイコライザ5からなる再生信号出力回路6を有している。
【0021】
PUH3は、適切なレーザ光Lを光ディスクDに照射して光ディスクDからの反射光を検出し、微弱なアナログ信号としての再生信号aをプリアンプ4に出力する。プリアンプ4は、PUH3から出力される再生信号aについて増幅等の処理を施し、十分な信号レベルにした後の再生信号bをプリイコライザ5に出力する。プリイコライザ5は、プリアンプ4で増幅等の処理を施された再生信号bに対して事前の波形等化を行い、波形等化後の再生信号cを出力する。
【0022】
さらに、情報再生装置1は、アナログオフセット制御回路7、ADC(AD Converter)8、デジタルオフセット制御回路9を有し、適応等化器10およびビタビ復号器11を備えたPRML方式による信号処理を行うPRML信号処理回路12と、PLL(Phase Locked Loop)回路13およびオフセット検出器14を有している。
【0023】
アナログオフセット制御回路7は、プリイコライザ5から再生信号cが入力されるとともに、オフセット検出器14で生成されたオフセットデータodのうち、ADC8の1LSB精度未満の1/2LSB精度、1/4LSB精度・・・のオフセットデータod2がフィードバックされる。そして、アナログオフセット制御回路7はADC8によるAD変換前の再生信号cについて、オフセットデータod2を付加するオフセット補正(アナログオフセット補正)を行って再生信号dを出力する。
【0024】
このアナログオフセット制御回路7に対して、オフセットデータodのうち、1/2LSB精度以下のオフセットデータod2のみがフィードバックされる理由は以下の1)、2)、3)に示すおりである。
【0025】
まず、1)デジタルオフセット制御回路9だけで1/2LSB以下の精度までオフセット補正を行うとすると、アナログオフセット制御回路7を要しないことになるが、そうすると、再生処理の高速化と再生能力向上の両立を図る上で好ましくない。また、2)アナログオフセット制御回路7は1/2LSB以下の精度まで補正可能であるが、すべてのオフセットデータodまで補正すると、今度はADC8のダイナミックレンジから外れてしまう可能性がある(特に光ディスクDのアシンメトリが大きい場合)。3)アナログでオフセット補正が行える回路としては、例えばMOSプロセスにより作成される回路が想定されるが、一般にMOSプロセスにおいてオフセット補正の制御範囲を大きくするのは困難である。
【0026】
このような理由により、情報再生装置1では、アナログオフセット制御回路7が分割されたオフセットデータodのうちのADC8におけるAD変換の最下位bit単位よりも小さい1/2LSB精度以下の小さな範囲のオフセット補正を行い、デジタルオフセット制御回路9が最下位bit単位以上の1LSB精度以上の大きな範囲のオフセット補正を行うようにしている。
【0027】
次に、ADC8は入力される再生信号dについて、そのレベル値をデジタル値に変換してデジタル再生信号eを出力する。なお、再生品位が劣化しない範囲であれば高倍速対応のためにADC8のbit数を下げることが可能である。例えばBER(Byte error rate)に大きな差が出ないことがわかっていることから、6bit程度までならばbit数を下げることが可能である。
【0028】
情報再生装置1では、このADC8の変換クロックCLは、サンプリングタイミングが適切となるように、再生波形自体から抽出したものとなっている。すなわち、PLL回路13を構成する周波数検出器23により、再生波形から現在の再生波形の周波数と目標周波数との周波数誤差情報p1を検出し、また、同じくPLL回路13を構成する位相比較器22により、理想サンプリング点との位相誤差情報p2を検出して制御している。この制御がPLL回路13により行われており、周波数制御および位相制御ともに、同じループフィルタ21によって制御され、VCO(Voltage Controlled Oscillators)20により、ADC8に変換クロックCLが供給されるように構成されている。また、周波数誤差情報p1および位相誤差情報p2は、ADC8から出力されるデジタル再生信号eを用いて検出してもよいが、そうすると、周波数誤差情報p1および位相誤差情報p2とも、デジタル再生信号eに含まれるオフセット成分の影響を受けるため、本実施の形態に係る情報再生装置1では、デジタルオフセット制御回路9の出力(後述するデジタルデータf)から検出する構成としている。ただし、本発明は、このようなこの構成に限定されるものではない。
【0029】
次に、デジタルオフセット制御回路9は、デジタル再生信号eについて、1LSB精度のオフセットデータod1を付加するオフセット補正(デジタルオフセット補正)を行い、補正後再生信号としてのデジタルデータfを出力する。このデジタルオフセット制御回路9では、アナログオフセット制御回路7において、既に1/2LSB以下の精度でのオフセット補正が行われているため、1LSB精度のオフセットデータod1を付加してオフセット補正を行うこととしており、このオフセット補正により、アシンメトリ成分等で生じた大幅なオフセットが補正される。
【0030】
次に、適応等化器10は、ビタビ復号器11とともに本発明におけるPRML信号処理回路12を構成し、デジタルオフセット制御回路9によりオフセット補正が行われたデジタルデータfに対して、予め定められた適用されるPR特性(本実施の形態における情報再生装置1では、PR(3443)特性が適用されるが、他の特性を適用することもできる)の応答となるように波形等化を行い、その等化波形データgを出力する。ここで、適応等化器10の回路構成およびその適応学習について、図2を参照して具体的に説明する。
【0031】
図2は、適応等化器10の回路構成の一例を示すブロック図である。なお、図2では、説明の都合上、ビタビ復号器11の内部(図2における点線枠内)も含めている。適応等化器10は、遅延回路201,202と、乗算器203,204,205と、加算回路206,207,208と、レジスタ209,210,211および係数更新回路212,213,214を有している。
【0032】
遅延回路201,202は、入力信号を1クロック遅延させて出力する。乗算器203,204,205は、入力される二つの入力信号の積を出力する。加算回路206,207,208は、入力される二つの入力信号の和を出力する。なお、図2に示した適応等化器10では、3つの乗算器203,204,205を用いる3tapのデジタルフィルタを示しているが、乗算器の数が変わっても基本的な動作は同じであるため、以下の説明は適応等化器10のような3tapの適応等化器に限定されるものではない。一般に、tap数が多くなればなるほど、等化特性は向上するが、回路規模等の制約があるため、実際には、8〜10tap程度が多く採用されると考えられる。
【0033】
さて、適応等化器10への時刻kにおける入力信号をX(k)、乗算器203,204,205に入力される乗数をそれぞれc1,c2,c3とすると、適応等化器10から出力される等化信号Y(k)は以下の式1で表される。
式1 Y(k)=X(k)×c1+X(k−1)×c2+X(k−2)×c3
【0034】
Y(k)に対して、ビタビ復号器11から出力されるバイナリデータをA(k)とする。目的とするPRのクラス(適用されるPR特性)を例えばPR(3443)特性とし、A(k)が正しい再生データであるとすると、時刻kにおける適応等化器10の本来の出力信号Z(k)(本発明における理想信号)は以下の式2によって表される。
式2 Z(k)
=3×A(k)+4×A(k−1)+4×A(k−2)+3×A(k−3)−7
そこで、時刻kにおける等化誤差信号E(k)を以下の式3で定義する。
式3 E(k)=Y(k)−Z(k)
【0035】
適応等化器10では、以下の式4,5,6に従い乗算器203,204,205のそれぞれの係数を更新することによって適応学習を行う。
式4 c1(k+1)=c1(k)−α×X(k)×E(k)
式5 c2(k+1)=c2(k)−α×X(k−1)×E(k)
式6 c3(k+1)=c3(k)−α×X(k−2)×E(k)
【0036】
ここでαは、更新係数であり正の小さな値(例えば0.01)に設定されている。上記式2に示した処理を行うのがビタビ復号器11に備えられた波形合成回路216である。また、ビタビ復号器11の遅延回路215では、加算回路208の等化信号Y(k)について、ビタビ復号器11における処理時間相当の遅延処理が行われ、加算回路217において、上記式3に示した処理が行われる。係数更新回路212では、式4に示した演算を行って乗算器203の係数を更新し、更新結果をレジスタ209に格納させる。係数更新回路213では、式5に示した演算を行って乗算器204の係数を更新し、その更新結果をレジスタ210に格納させる。係数更新回路214では、式6に示した演算を行って乗算器205の係数を更新し、更新結果をレジスタ211に格納させる。
【0037】
適応等化器10では、以上のようにして適応学習が行われ、所望の等化波形が得られるようになっている。また、適応等化器10から出力される等化波形データg(等化信号Y(k))は、ビタビ復号器11に入力される。そして、ビタビ復号器11は、最尤列推定(ビタビ復号)を行い、それによって最終的なバイナリデータA(k)(復号データ)を出力する。
【0038】
オフセット検出器14は基本的には再生信号中のDC成分の量を検出すればよいが(変調符号で十分にDC抑圧されているため)、PRML方式では、上記のようにゼロ点付近以外にもスライス点があるため、アシンメトリが存在する場合には等化誤差が最小になるように制御する方がエラー率を向上させることができる。
【0039】
例えば、オフセット検出器14は図3に示すように、積分器による1次制御としてオフセット制御量を検出する構成がよい。図3に示したオフセット検出器14は、入力ゲイン32と、入力信号を1クロック遅延させて出力する遅延回路33とを有し、等化誤差信号h(E(k))を入力して、入力ゲイン32(入力値をk倍するアンプ)により、オフセット制御の制御帯域を調整する。この入力ゲイン32の設定を大きくすれば応答速度が速くなり、入力ゲイン32の設定を小さくすれば応答速度が遅くなる。そして、等化誤差信号hのデータ値をk倍した積分値が検出されたオフセット制御量を示すオフセットデータod(本実施の形態では8bitのデータとしている)となる。
【0040】
さらに、オフセット検出器14は本発明の特徴とする分割手段としてのbit分割回路24を有している。bit分割回路24は、オフセットデータodのbit単位の分割(bit分割)を行い、本発明における第1のオフセットデータとしてのオフセットデータod1と、第2のオフセットデータとしてのオフセットデータod2とを出力する。そして、オフセットデータod1がデジタルオフセット制御回路9に入力され、オフセットデータod2がアナログオフセット制御回路7に入力されるようにして、オフセット検出器14がデジタルオフセット制御回路9とアナログオフセット制御回路7とに接続されている。
【0041】
こうすることによって、情報再生装置1では、デジタルオフセット制御回路9がADC8の1LSB精度以上を対象とするオフセット補正を行い、アナログオフセット制御回路15が1/2LSB精度以下を対象とするオフセット補正を行うようにしている。なお、本実施の形態では、8bitのオフセットデータodうち、上位6bitのデータ(第1のオフセットデータ)をADC8の1LSB精度以上とし、下位2bitのデータ(第2のオフセットデータ)を1/2LSB精度以下の分解能であるとしている。
【0042】
このように、情報再生装置1では、オフセット検出器14に備えられたbit分割回路24よりオフセットデータodのbit分割を行ってADC8によりAD変換される最下位bit単位(1LSB精度)以上のオフセットデータod1と、最下位bit単位よりも小さい(1/2LSB精度以下)のオフセットデータod2とを出力し、アナログオフセット制御回路7がオフセットデータod2を用いて1/2LSB精度の小さな範囲のオフセット補正を行い、デジタルオフセット制御回路9がオフセットデータod1を用いて1LSB精度以上の大きな範囲のオフセット補正を行うようにしている。
【0043】
これにより、情報再生装置1では、ADC8のbit数を例えば6bitにまで減らして高倍速化対応を行い、それに伴いデジタルオフセット制御回路9の精度低下があるとしても、ADC8のbit精度以上の精度の高いオフセット補正がアナログオフセット制御回路7で行われるため、装置全体としてのオフセット補正の精度を向上させることができ、これによって再生能力を向上させることができる。しかも、この再生能力を向上は、デジタルデータを処理する回路内部におけるbit拡張等によることなく行われるものであるため、高速化対応も実現されるようになる。
【0044】
したがって、情報再生装置1では、上述のようなアナログオフセット制御回路7と、デジタルオフセット制御回路9の双方の特性にあったオフセット補正が行われることで、オフセット補正の精度向上による再生能力の向上と、再生処理の高倍速化を両立できるようになっている。
【0045】
(変形例1)
上記の情報再生装置1のようなPRML信号処理手段を備えた情報再生装置では、適用されるPR特性により、要求されるオフセット補正の精度は異なっている。例えば、上記の情報再生装置1のように、適用されるPR特性がPR(3443)特性である場合よりもPR(12221)である場合の方が、より高い精度を必要とする。
【0046】
そこで、図4に示すように、オフセット検出器14の代わりにオフセット検出器25を設けて情報再生装置30とすることが好ましい。オフセット検出器25は、図5に示すように、bit分割回路24に接続されたスイッチ回路26を有し、スイッチ回路26の動作に応じてオフセットデータodが分割されるときの分割割合(第1オフセットデータod1、第2のオフセットデータod2それぞれのオフセットデータodに対する比率)をbit単位に変更するように構成されている。
【0047】
このスイッチ回路26は、適用されるPR特性に応じてMPU(Micro Processing Unit)27から出力されるPR特性選択命令qに応じて作動するものであり、bit分割回路24がbit分割をする際の分割ポイント24aをbit単位に変更するスイッチを有している。分割ポイント24aがbit単位に変わると、第1オフセットデータod1、第2のオフセットデータod2のbit数が変わる。
【0048】
こうすることによって、ADC8のダイナミックレンジが減るものの、適用されるPR特性に応じたオフセット補正が行われるようになるため、オフセット補正の精度を向上させることができる。なお、この時はアナログオフセット制御回路7のオフセット制御量1bit当りの感度設定も同時に変更する必要があるので、図4に示すように、MPU27から発行されるPR特性選択命令qは、ビタビ復号器11のほか、アナログオフセット制御回路7にも入力されている。
【0049】
(変形例2)
さらに、固定小数点化せず、浮動小数点化することでオフセットデータの分割割合を変更するようにしてもよい。例えば、MPU27が浮動小数点化するためのプログラムを実行することによってMPU27を浮動化手段として作動させ、これによって浮動小数点化することができる。ダイナミックレンジが低い場合に、アナログオフセット制御回路7と、デジタルオフセット制御回路9のオフセット補正の精度を振り分けるなどの応用ができる。この場合は図6に示す情報再生装置31のように、オフセット検出器14からbit分割情報rを入力してダイナミック(動的)にアナログオフセット制御回路7の感度も変更させる。
【0050】
(変形例3)
また、オフセット検出器は、上述のオフセット検出器14,25のほか、図7に示すオフセット検出器28としてもよい。オフセット検出器28はオフセット検出器14,25と同様に等化誤差信号に基づいてオフセット制御量を検出するように構成されているが、このオフセット検出器28は等化誤差信号を選択する等化誤差選択回路29を有し、この等化誤差選択回路29が特定の理想振幅レベルの等化誤差信号のみを入力ゲイン32に入力するようになっている。この場合、等化誤差選択回路29が作動することによって等化誤差信号の選択が行われ、例えば図8で示したPR(3443)特性の理想振幅レベルのうち、±7と0の3点での等化誤差信号のみを使用してオフセット制御量が検出される。ビタビ復号では、ユークリッド距離差によって符号判定が行われるが、2Tなどの信号振幅が小さい信号をパスの中に含む場合はユークリッド距離が狭く、エラーになりやすい。そのため、オフセット検出器28では、2T周辺の等化誤差に特化して2T周辺の等化誤差を小さくするように補正するようにしており、こうすることでエラー率をオフセット検出器14よりも小さくさせ得るという効果がある。
【0051】
さらに、オフセット検出器は等化誤差信号に基づいて、オフセット制御量を検出すればよいが、等化誤差信号はエラー率と相関関係にある。そのため、より相関性を強めるため、等化誤差信号を加工して得られるSAM(Sequence Amplitude Margin)、SbERまたはPRSNRといった信号評価指標を用いて、オフセット制御量を検出するようにしてもよい。
【0052】
そして、このようなオフセット検出器を上述の本発明の2種類のオフセット制御回路(アナログオフセット制御回路7、デジタルオフセット制御回路9)と組み合わせることで、オフセット補正の精度がより高く、再生処理の高倍速化が図られた情報再生装置を実現することができる。
【0053】
なお、上記の実施の形態では、記録媒体として光ディスクを用いる情報再生装置1,30,31を例にとって説明しているが、本発明は、記録媒体として光ディスクを用いる装置には限られるものではなく、MRヘッドを使用した固定磁気ディスク装置についても適用可能である。上記の情報再生装置1では、bit分割回路24をオフセット検出器14に設けているが、bit分割回路24はオフセット検出器14に設けなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施の形態に係る情報再生装置内部の回路構成を示すブロック図である。
【図2】適応等化器の回路構成の一例を示すブロック図である。
【図3】オフセット検出器の回路構成の一例を示すブロック図である。
【図4】変形例に係る情報再生装置内部の回路構成を示すブロック図である。
【図5】別のオフセット検出器の回路構成を示すブロック図である。
【図6】別の変形例に係る情報再生装置内部の回路構成を示すブロック図である。
【図7】別のオフセット検出器の回路構成の一例を示すブロック図である。
【図8】HD DVD−ROMの再生波形をPR(3443)特性により波形等化した時の等化波形(7bit)のヒストグラムを示す図である。
【図9】HD DVD−ROMの再生波形をPR(12221)特性により波形等化した等化波形に対してオフセットを加えていった時のSbERを示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1…情報再生装置、6…再生信号出力回路
7…アナログオフセット制御回路、8…ADC
9…デジタルオフセット制御回路、10…適応等化器
11…ビタビ復号器、12…PRML信号処理回路
14,25,28…オフセット検出器
24…bit分割回路,26…スイッチ回路
27…MPU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に記録されている情報を読み取り、再生信号を出力する再生信号出力手段と、PRML方式による信号処理を行うPRML信号処理手段とを備えた情報再生装置であって、
前記再生信号出力手段から出力される前記再生信号についてAD変換前にオフセット補正を行うアナログオフセット補正手段と、
前記再生信号出力手段から出力される前記再生信号をAD変換した後のデジタル再生信号についてオフセット補正を行うデジタルオフセット補正手段と、
該デジタルオフセット補正手段により補正された後の補正後再生信号から、該補正後再生信号に含まれているオフセット制御量を検出するオフセット検出手段と、
該オフセット検出手段により検出された前記オフセット制御量を示すオフセットデータを、前記再生信号がAD変換される最下位bit単位以上の第1のオフセットデータと、該最下位bit単位よりも小さい第2のオフセットデータとに分割する分割手段とを有し、
前記デジタルオフセット補正手段が前記分割手段により分割された前記第1のオフセットデータを用いて前記オフセット補正を行え、前記アナログオフセット補正手段が前記第2のオフセットデータを用いて前記オフセット補正を行えるように構成されていることを特徴とする情報再生装置。
【請求項2】
前記オフセット検出手段は、前記PRML信号処理手段に備えられた前記補正後再生信号を復号化する最尤復号器から出力される信号を用いて算出される理想信号と、前記PRML信号処理手段に備えられた前記補正後再生信号に対する波形等化を行う適応等化器から出力される等化信号との差を示す等化誤差信号に基づいて、前記オフセット制御量を検出することを特徴とする請求項1記載の情報再生装置。
【請求項3】
前記PRML信号処理手段に適用されるPR特性に応じて、前記オフセットデータが前記分割手段により分割されるときの分割割合をbit単位に変更する変更手段を更に有することを特徴とする請求項1または2記載の情報再生装置。
【請求項4】
前記オフセットデータが前記分割手段により分割されるときの分割割合を浮動少数点化させる浮動化手段を更に有することを特徴とする請求項1または2記載の情報再生装置。
【請求項5】
前記等化誤差信号を選択する等化誤差選択手段を更に有し、
前記オフセット検出手段は、前記等化誤差選択手段により選択された等化誤差信号に基づいて、前記オフセット制御量を検出するように構成されていることを特徴とする請求項2記載の情報再生装置。
【請求項6】
記録媒体に記録されている情報を読み取って再生信号を出力し、PRML方式による信号処理を行う情報再生方法であって、
前記再生信号についてAD変換前にオフセットを補正するアナログオフセット補正と、前記再生信号をAD変換した後のデジタル再生信号についてオフセットを補正するデジタルオフセット補正と、該デジタルオフセット補正が行われた後の補正後再生信号から、該補正後再生信号に含まれているオフセット制御量を検出するオフセット検出とを行い、
該オフセット検出により検出された前記オフセット制御量を示すオフセットデータを、前記再生信号がAD変換される最下位bit単位以上の第1のオフセットデータと、該最下位bit単位よりも小さい第2のオフセットデータとに分割し、
該分割された前記第1のオフセットデータを用いて前記デジタルオフセット補正を行い、前記第2のオフセットデータを用いて前記アナログオフセット補正を行うことを特徴とする情報再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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