説明

情報処理方法および情報処理装置

【課題】各変数が2値の4次以上の多項式により表わすことが可能な高階エネルギーからなるデータを少ない計算コストで最小化する。
【解決手段】画像データの各画素に2値のラベルを割り当てることにより領域分割する場合、ラベルに対応する2値変数で4次以上の多項式で表わされる高階エネルギーを次数dが3以上の項毎に(d−1)/2を超えない最大の整数の数だけ2値の外部変数を付加することにより1次および2次の基本対称式を用いて次数が2以下の1階のエネルギーに変換する(S210〜250)。これにより、1階のエネルギーの最小化が可能なグラフカット法などの既存のエネルギー最小化アルゴリズムを適用することができ、少ない計算コストで適切に画像データの領域分割を行なうことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各変数が2値の4次以上の多項式によって表わすことが可能な高階エネルギーを処理する情報処理方法および情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
領域分割やステレオ,画像復元などの画像分野の問題をマルコフ確率場(Markov Random Field: MRF)などの確率モデルの最大事後確率推定問題として定式化してエネルギー最小化問題として効率的に解く方法としては、グラフカット(例えば、非特許文献1参照)や信念伝播法(例えば、非特許文献2参照)、ツリー重み再配分メッセージ伝達法(例えば、非特許文献3参照)などが提案されている。これらの手法では、エネルギーを比較的効率良く最小化することができるが、使用できるエネルギーの形は限られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Y.Boykov,O. Veksler,R. Zabih."Fast Apporoximate Energy Minimization via Graph Cuts." IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence 23:1222-1239:2001.
【非特許文献2】P.Felzenszwalb and D.Huttenlocher."Efficient Belief Propagation for Early Vision." International Journal of Computer Vision 70:41-54,2006.
【非特許文献3】V.Kolmogorov. "Convergent Tree-Reweighted Mesage Passing for Energy Minimization." IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence 28(10):1568-1583,2006.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エネルギーが最高k個の点に依存する関数の和により表わせるとき、MRFの用語では(k−1)階のエネルギーと呼ぶが、上述した手法によって最小化可能なエネルギーの回数は最大でも2階に限られ、また実際にはほとんど1階のものしか使われていない。例えば、画像処理の分野では、各画素のみに依存する項と隣接する2つの画素のみに依存する項との和により表わされた1階のエネルギーが殆どである。近年、画像処理では自然画像の特徴をより高い精度で捉えるために高次の統計の重要性が指摘されており、高階のエネルギーを効率的に最小化する手法の構築が望まれる。
【0005】
本発明の情報処理方法および情報処理装置は、各変数が2値の4次以上の多項式により表わされる高階エネルギーからなるデータを少ない計算コストで最小化することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の情報処理方法および情報処理装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の情報処理方法は、
各変数が2値の4次以上の多項式によって表わすことが可能な高階エネルギーを処理する情報処理方法であって、
前記高階エネルギーを対称式を用いて次数に応じた数の2値の外部変数を付加することにより同値な1階のエネルギーに変換し、
該変換した1階のエネルギーに対して所定のエネルギー最小化法を適用することにより前記高階エネルギーが最小となる前記各変数を設定する
ことを特徴とする。
【0008】
この本発明の情報処理方法では、各変数が2値の4次以上の多項式によって表わすことが可能な高階エネルギーを対称式を用いて次数に応じた数の2値の外部変数を付加することにより同値な1階のエネルギーに変換し、変換した1階のエネルギーに対して所定のエネルギー最小化法を適用することにより高階エネルギーが最小となる各変数を設定する。これにより、少ない計算コストで高階エネルギーを最小化することができる。ここで、「同値」とは、変換後の1階のエネルギーを最小化する変数の設定が変換前の高階のエネルギーをも最小化することを意味する。また、「次数に応じた数の2値の外部変数」は、具体的には、各項について、次数をdとすると(d−1)/2を超えない最大の整数である。さらに、「所定のエネルギー最小化法」としては、グラフカット法,信念伝播法,ツリー重み再配分メッセージ伝達法などが含まれる。
【0009】
こうした本発明の情報処理方法において、次数をdとし係数をaとし前記変数をx1,…,xdとし値0か値1のいずれかをとる前記外部変数をwとし1次の基本対称式をS1とし2次の基本対称式をS2とすると、前記高階エネルギーの多項式の各項毎に、係数aが正の項に対しては該項の次数dが偶数のときには式(1)を用いて前記1階エネルギーの多項式に変換し、該項の次数dが奇数のときには式(2)を用いて前記1階エネルギーの多項式に変換するものとすることもできる。これは、任意の2次の対称式を1次および2次の基本対称式によって表わすことができることに基づく。
【0010】
【数1】

【0011】
この態様の本発明の情報処理方法において、前記高階エネルギー多項式の各項毎に係数aが負の項に対しては式(3)を用いて前記1階エネルギーの多項式に変換するものとすることもできる。
【0012】
【数2】

【0013】
また、画像データを処理する本発明の情報処理方法において、前記画像データを構成する各画素のうち所定の条件に合致する画素に第1の値のラベルを割り当てると共に該所定の条件に合致しない画素に第2の値のラベルを割り当てる2値のラベルを前記変数として前記各画素だけに依存する1次の項と4点以上の画素の組に依存する4次以上の項とを含む多項式の高階エネルギーを設定し、該設定した高階エネルギーが最小となるよう前記変数を設定することにより前記2値のラベルを割り当てるものとすることもできる。こうすれば、所定の条件を用いた画像データの処理をより少ない計算コストで行なうことができる。ここで、「所定の条件」には、画像の領域を分割するための条件や画像に含まれるノイズを除去するための条件などが含まれる。
【0014】
画像データを処理する態様の本発明の情報処理方法において、前記所定の条件に合致する確率が高いほどエネルギーが小さくなるよう各項の係数を定めることにより前記多項式の高階エネルギーを設定するものとすることもできる。この態様の本発明の情報処理方法において、前記所定の条件に合致する確率をPとしたときにエネルギーが−logPとなるよう前記各項の係数を定めるものとすることもできる。こうすれば、所定の条件により適合する高階のエネルギーを設定することができる。
【0015】
また、画像データを処理する態様の本発明の情報処理方法において、現在の画像に対して変化を与えた提案画像を生成し前記現在の画像の画素を該生成した提案画像の対応する画素に置き換えるときには前記第1の値のラベルを割り当てると共に前記現在の画像の画素を前記生成した提案画像の対応する画素に置き換えないときには前記第2のラベルを割り当てることにより新たな画像を生成する処理を繰り返すことにより画像を復元するものとすることもできる。この態様の本発明の情報処理方法において、前記提案画像は、再急降下法を用いて生成するものとすることもできるし、前記現在の画像に対して所定のぼかしフィルタを適用することにより生成するものとすることもできる。
【0016】
本発明の情報処理装置は、
各変数が2値の4次以上の多項式によって表わすことが可能な高階エネルギーを処理する情報処理装置であって、
前記高階エネルギーを対称式を用いて次数に応じた数の2値の外部変数を付加することにより同値な1階のエネルギーに変換するエネルギー変換手段と、
該変換した1階のエネルギーに対して所定のエネルギー最小化法を適用することにより前記高階エネルギーが最小となる前記各変数を設定するエネルギー最小化手段と、
を備えることを要旨とする。
【0017】
この本発明の情報処理装置では、各変数が2値の4次以上の多項式によって表わすことが可能な高階エネルギーを対称式を用いて次数に応じた数の2値の外部変数を付加することにより同値な1階のエネルギーに変換し、変換した1階のエネルギーに対して所定のエネルギー最小化法を適用することにより高階エネルギーが最小となる各変数を設定する。これにより、少ない計算コストで高階エネルギーを最小化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例としての情報処理装置の構成の概略を示す構成図である。
【図2】画素に割り当てるラベルのパターンの一例を示す説明図である。
【図3】コンピュータ20により実行される高階エネルギー設定処理の一例を示すフローチャートである。
【図4】画素のデータ値DとエネルギーE(D)との関係を示す説明図である。
【図5】コンピュータ20により実行されるエネルギー変換処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0020】
図1は、本発明の一実施例としての情報処理装置の構成の概略を示す構成図である。実施例の情報処理装置は、CPUやROM,RAM,入出力処理回路,ハードディスク,キーボード40,マウス50などを備える汎用のコンピュータ20であり、デジタルカメラやCT(Computed Tomography),MRI(Magnetic Resonance Imaging),PET(Positron Emission Tomography)などの撮像装置や画像データを記憶する記憶装置に入力処理回路を介して接続されると共にディスプレイ30やプリンタなどの出力機器に出力処理回路を介して接続されている。実施例では、コンピュータ20は、画像処理用プログラムがインストールされており、これにより画像処理装置として機能する。
【0021】
CTやMRI,PETなどから得られるデータは3次元の格子点に数値(データ値)を与えるものである。データ値は例えばCTなら空間内の各格子点がどれだけX線を吸収するかを表わす。2次元の断面画像なら各点の値に応じて色を変えれば全体を見ることができるが、3次元のデータは一望するのは困難である。したがって、例えば、CT画像のうち骨だけを見たいなら骨の部分だけを残し他の部分は透明にして3次元グラフィックス表示することになる。このためには、元画像を骨の部分とそれ以外の部分とに分割する必要がある(画像分割問題)。これは、値0が骨の部分で値1がそれ以外を表わすというように各格子点に値0か値1かのいずれかのラベルを与えるラベル割付問題として考えることができる。この場合、ある閾値を定めてデータ値が閾値よりも大きい点は値0を割り当て閾値以下の点は値1を割り当てものとすると、ノイズなどにより表面形状が荒いものとなる。このため、一般には隣接する格子点間ではあまり激しく値0と値1とが入れ替わらないように、即ち境界がなめらかになるような傾向をもたせる。このための手法の一つがエネルギー最小化による方法である。以下、実施例では、人のCT画像に対して骨に該当する画素に値0のラベルを割り当てそれ以外の部分の画素に値1のラベルを割り当てることにより領域を分割する画像分割問題をエネルギー最小化法により解く場合を例として説明する。
【0022】
コンピュータ20は、その機能ブロックとしては、画像データの領域分割をエネルギー最小化法を用いて処理するための多項式(高階エネルギー)を設定する高階エネルギー設定部22と、設定した高階エネルギーを2値の外部変数を付加して1階のエネルギーに変換するためのエネルギー変換部24と、変換後の1階のエネルギーが最小となるよう各画素毎に値0か値1のラベルを割り当てて画像の領域分割を行なうエネルギー最小化部26とを備え、これらは、CPUやROM,RAM,ハードディスクなどのハードウェアと画像処理用プログラムとが一体となって機能する。
【0023】
高階エネルギー設定部22は、各画素に対して割り当てる値0か値1のラベルを2値変数として上述した領域分割問題を解くための高次の多項式を設定する処理部であり、実施例では、画像データの各画素1点だけに基づいてエネルギーを設定する1次の項と、隣接する画素2点のパターン(図2(a)参照)に基づいてエネルギーを設定する2次の項と、隣接する2×2の画素4点のパターン(図2(b)参照)に基づいてエネルギーを設定する4次の項との和により設定するものとした。
【0024】
エネルギー変換部24は、2値変数からなる3次以上(2階以上)のエネルギー多項式を2次(1階)のエネルギーに変換する処理部として構成されており、この変換は多項式の各項について基本対称式を用いて次数をdとしたときに(d−1)/2を超えない最大の整数に相当する数の2値の外部変数を付加することにより行なう。
【0025】
ここで、2値変数をx,y,zとする次数が3の項を2次の多項式に変換する場合、引用文献1によると、次式(4)に基づいて係数aが負のときには両辺に係数aを乗じた次式(5)により、係数aが正のときにはx,y,zをそれぞれ1−x,1−y,1−zに置き換えて計算した次式(6)により「max」を「min」に代えることができる。ここで、式(4)〜(6)中の「w」はB={0,1}の値しかとらない即ち値0か値1しかとらない外部変数である。この式(5)および式(6)は、最小化問題に3次の項axyzが現われた場合、左辺を右辺に代えても最小値とこれをとるための変数x,y,zは変わらないことを意味する。即ち、変換後の関数で最小値を与える変数x,y,zは元の関数でも最小値を与える。しかし、式(7)に示すように、2値変数をx,y,z,tとする4次の項を考えると、上記の手法では、係数aが正で且つ偶数次の項についてはx,y,z,tをそれぞれ1−x,1−y,1−z,1−tに置き換えても「max」を「min」に変えることができないため、使用することはできない。また、5以上の奇数次を考えても、展開後の式には4次などの偶数次の項が現われるから、同様に使用することはできない。
引用文献1:D.Freedman and P.Drineas."Energy minimization via graph cuts: Settling what is possible." Proceedings of the IEEE Computer Society Conference on Computer Vision and Pattern Recognition(CVPR2005)2:939-946.
【0026】
【数3】

【0027】
これに対して、実施例では、係数aが正のときには、(d−1)/2を超えない最大の整数に相当する数の2値の外部変数を付加することにより、式(8)に示す1次の基本対称式S1と2次の基本対称式S2とを用いて次数dが偶数の場合には次式(9)を、次数dが奇数の場合には次式(10)を変換式として定めている。例えば、2値変数をx,y,z,tとする次数が4の項については、1つの2値の外部変数wを加えて次式(11)により変換することができ、2値変数をx,y,z,t,uとする次数が5の項については、2つの2値の外部変数v,wを加えて次式(12)により変換することができる。これらの式は、任意の2次の対称式を1次と2次の基本対称式によって表わすことができることを利用したものである。これにより、係数aが正であっても、任意階のエネルギー多項式を1階のエネルギー多項式に変換することができる。なお、係数aが負のときには、前述した式(4)や式(7)を一般化した次式(13)を変換式として定めるものとした。
【0028】
【数4】

【0029】
エネルギー最小化部26は、値0か値1の2値変数をもつ2次の多項式として表わされる1階のエネルギーが最小となる変数を見つける処理部として構成されており、処理アルゴリズムとしては、例えば、グラフカット法や信念伝播法,ツリー重み再配分メッセージ伝達法などを用いることができる。
【0030】
次に、こうして構成された実施例の情報処理装置の動作、特に、高階エネルギー設定部22の動作とエネルギー変換部24の動作について説明する。まず、高階エネルギー設定部22の動作について説明する。図3は、コンピュータ20により実行される高階エネルギー設定処理の一例を示すフローチャートである。
【0031】
高階エネルギー設定処理では、まず、画像データの各画素の1点のみに依存する項を次式(14)により設定する(ステップS100)。ここで、式(14)中の「Xu」は画素uに対して割り当てるラベルとしての2値変数であり、「a1」,「a2」は実数係数である。実数係数a1は、Xu=0即ち画素uが骨であるとしたときのエネルギー値E0(D)であり、画素uのデータ値Dが骨である可能性を示す確率をP0(D)としたときにa1即ちE0(D)が−logP0(D)となるよう設定し、同様に、実数係数a2は、画素uのデータ値Dが骨でない可能性を示す確率をP1(D)としたときにa2即ちE1(D)が−logP1(D)となるよう設定する。即ち、画素uが骨である可能性が高いほどXu=0としたときのエネルギーが小さくなるよう、また画素uが骨でない可能性が高いほどXu=1としたときのエネルギーが小さくなるよう実数係数a1,a2を設定するのである。勿論、画素uが骨である可能性が高ければXu=0としたときのエネルギーが小さくなり、画素uが骨でない可能性が高ければXu=1としたときのエネルギーが小さくなればよいから、上述した手法に限定されるものではなく、例えば、データ値D(あるいは確率P)とエネルギーEとの関係を予め求めてマップとしてROMに記憶しておき、データ値Dが与えられたときにマップから対応するエネルギーEを導出し、導出したエネルギーEに基づいて設定するものとしてもよい。データ値DとエネルギーEとの関係の一例を図4に示す。
【0032】
【数5】

【0033】
続いて、画像データの上下あるいは左右に隣接する2画素に依存する項を次式(15)により設定する(ステップS110)。ここで、式(15)中の「Xu」,「Xv」は隣接する画素u,vに対してそれぞれ割り当てるラベルとしての2値変数であり、「b1〜b4」は、実数係数である。実数係数b1は、Xu=1,Xv=1即ち画素u,vが共に骨でないとしたときのエネルギー値E11(Du,Dv)であり、画素u,vのデータ値Du,Dvが画素u,vが共に骨でない可能性を示す確率をP11(Du,Dv)としたときにb1即ちE11(Du,Dv)が−logP11(Du,Dv)となるよう設定するものとした。実数係数b2は、Xu=0,Xv=1即ち画素uが骨であり画素vが骨でないとしたときのエネルギー値E01(Du,Dv)であり、画素u,vのデータ値Du,Dvが画素uが骨であり画素vが骨でない可能性を示す確率をP01(Du,Dv)としたときにb2即ちE01(Du,Dv)が−logP01(Du,Dv)となるよう設定するものとした。実数係数b3は、Xu=1,Xv=0即ち画素uが骨でなく画素vが骨であるとしたときのエネルギー値E10(Du,Dv)であり、画素u,vのデータ値Du,Dvが画素uが骨でなく画素vが骨である可能性を示す確率をP10(Du,Dv)としたときにb3即ちE10(Du,Dv)が−logP10(Du,Dv)となるよう設定するものとした。実数係数b4は、Xu=0,Xv=0即ち画素u,vが共に骨であるとしたときのエネルギー値E00(Du,Dv)であり、画素u,vのデータ値Du,Dvが共に骨である可能性を示す確率をP00(Du,Dv)としたときにb4即ちE00(Du,Dv)が−logP00(Du,Dv)となるよう設定するものとした。なお、この場合も、例えば、データ値Du,Dv(あるいは確率)とエネルギーEとの関係を予め求めてマップとしてROMに記憶しておき、データ値Du,Dvが与えられたときにマップから対応するエネルギーEを導出し、導出したエネルギーEに基づいて設定するものとしてもよい。
【0034】
【数6】

【0035】
そして、画像データの上下左右に隣接する画素4点に依存する項を次式(16)により設定する(ステップS120)。ここで、式(16)中の「Xu」,「Xv」,「Xs」,「Xt」は隣接する画素u,v,s,tに対してそれぞれ割り当てる2値変数であり、「c1〜c16」は、実数係数である。上述したステップS110と同様に、実数係数c1〜c16は、Xu,Xv,Xs,Xtに値0か値1を与えたパターン毎に決定される各画素が骨であるかないかという組み合わせに対応するエネルギーであり、画素u,v,s,tの各データ値Du,Dv,Ds,Dtがその組み合わせである可能性を示す確率が高いほどエネルギーが小さくなるよう定められる。
【0036】
【数7】

【0037】
こうして各項を設定すると、各項の和をとると共にこれらを展開することにより4次の多項式を設定して(ステップS130)。本ルーチンを終了する。これにより、3階のエネルギーが設定される。実施例では、このエネルギーを最小化する各画素に対応した2値変数を見つけることにより画像データのうち骨の部分とそれ以外の部分とに分割する。
【0038】
次に、エネルギー変換処理について説明する。図5は、エネルギー変換処理の一例を示すフローチャートである。このエネルギー変換処理では、まず、3次以上の変換対象の項を設定し(ステップS200)、設定した変換対象の項の係数aは正か否か(ステップS210)、次数dは奇数か否か(ステップS220)、をそれぞれ判定する。変換対象の項の係数aが正でない即ち負のときには前述した式(13)を用いて2次の多項式すなわち1階のエネルギーに変換し(ステップS230)、変換対象の項の係数aが正であり且つ次数dが偶数のときには前述した式(9)を用いて1階のエネルギーに変換し(ステップS240)、変換対象の項の係数aが正であり且つ次数dが奇数のときには前述した式(10)を用いて1階のエネルギーに変換し(ステップS250)。そして、次数dが3以上の未変換の項があるときにはステップS200に戻って新たに変換対象の項に設定してステップS210〜250の処理を繰り返し、次数dが3以上の未変換の項がなくなったときにこれで本処理を終了する。
【0039】
こうして1階のエネルギー多項式に変換すると、既存のグラフカット法などのアルゴリズムを用いて各画素に対応した2値変数を設定し、変数Xuが値0すなわち骨である画素uに対して色を付すと共に変数Xuが値1すなわち骨でない画素uに対しては透明処理を施してディスプレイ30に表示出力することにより、入力した画像のうち骨の部分だけを表示する。なお、グラフカット法などの適用によっても変数がわからないエラーが生じる可能性もあるが、予め定めた割り当てを行なったり、エラーが生じた変数だけで再びエネルギーを生成してエネルギー最小化アルゴリズムを適用したりすることにより対応することができる。
【0040】
以上説明した実施例の情報処理装置によれば、画像データの各画素に2値のラベルを割り当てることにより領域分割する場合、ラベルに対応する2値変数を用いて4次以上の多項式である高階エネルギーを設定し、次数dが3以上の項毎に(d−1)/2を超えない最大の整数の数だけ2値の外部変数を付加することにより1次および2次の基本対称式を用いて高階エネルギーを次数が2以下の1階のエネルギーに変換するから、1階のエネルギーの最小化が可能なグラフカット法などのエネルギー最小化アルゴリズムを適用することにより、少ない計算コストで適切に画像データの領域分割を行なうことができる。
【0041】
実施例の情報処理装置では、隣接する画素4点に依存する4次(3階)のエネルギー多項式を設定するものとしたが、周辺の画素5点以上に依存する5次(4階)以上のエネルギー、例えば、3次元空間内に配置された画素(ボクセル)について立体格子状に隣接する画素8点に依存する8次(7階)のエネルギーを設定するものとしてもよい。
【0042】
実施例の情報処理装置では、画像データの領域を分割する画像分割問題に本発明を適用して説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、画像復元やステレオ,動画像解析などに本発明を適用することができるし、画像分野以外のデータ処理に適用することもできる。ここで、画像復元に本発明を適用する場合、例えば、現在の画像から若干の変化を与えた提案画像を生成し、現在の画像と生成した提案画像とを融合して新たな画像を生成する処理を繰り返し行なう融合移動アルゴリズムを用いることができる。ここで、「融合」とは、現在の画像における画素のデータ値と提案画像における対応する画素のデータ値とのうちエネルギーが小さくなる方のデータ値を新たな画像の対応する画素に設定することにより新たな画像を生成するものである。したがって、現在の画像のデータ値を維持するときにその画素に値0を割り当て提案画像のデータ値に置き換えるときに値1を割り当てるラベル割付問題として考えることができるから、エネルギー最小化法を用いて解くことができる。ここで、エネルギー(多項式)の実数係数としては、画像データを構成する画素の組のうちノイズが含まれる可能性が低いパターンほどエネルギーが小さくなるように設定することができる。また、提案画像としては、現在の画像を平滑化フィルタ(Gaussian kernel)を用いてぼかしたものを設定したり、エネルギーを各変数で偏微分して変数の数と同じ次元の勾配ベクトルを生成すると共に生成したベクトルの方向に現在の画像のデータ値から値をずらす再急降下法を用いて生成したりすることができる。勿論、これらの手法に限られず、例えば乱数画像を設定するなど如何なる手法も採用し得る。
【0043】
以上、本発明の実施の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、情報処理装置や画像処理装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0045】
20 コンピュータ、22 高階エネルギー設定部、24 エネルギー変換部、26 エネルギー最小化部、30 ディスプレイ、40 キーボード、50 マウス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各変数が2値の4次以上の多項式によって表わすことが可能な高階エネルギーを処理する情報処理方法であって、
前記高階エネルギーを対称式を用いて次数に応じた数の2値の外部変数を付加することにより同値な1階のエネルギーに変換し、
該変換した1階のエネルギーに対して所定のエネルギー最小化法を適用することにより前記高階エネルギーが最小となる前記各変数を設定する
ことを特徴とする情報処理方法。
【請求項2】
請求項1記載の情報処理方法であって、
次数をdとし係数をaとし前記変数をx1,…,xdとし値0か値1のいずれかをとる前記外部変数をwとし1次の基本対称式をS1とし2次の基本対称式をS2とすると、前記高階エネルギーの多項式の各項毎に、係数aが正の項に対しては該項の次数dが偶数のときには式(1)を用いて前記1階エネルギーの多項式に変換し、該項の次数dが奇数のときには式(2)を用いて前記1階エネルギーの多項式に変換する
ことを特徴とする情報処理方法。
【数1】

【請求項3】
請求項2記載の情報処理方法であって、
前記高階エネルギー多項式の各項毎に係数aが負の項に対しては式(3)を用いて前記1階エネルギーの多項式に変換する
ことを特徴とする情報処理方法。
【数2】

【請求項4】
前記所定のエネルギー最小化法は、グラフカット法,信念伝播法,ツリー重み再配分メッセージ伝達法のいずれかである請求項1ないし3いずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項5】
画像データを処理する請求項1ないし4いずれか1項に記載の情報処理方法であって、
前記画像データを構成する各画素のうち所定の条件に合致する画素に第1の値のラベルを割り当てると共に該所定の条件に合致しない画素に第2の値のラベルを割り当てる2値のラベルを前記変数として前記各画素だけに依存する1次の項と4点以上の画素の組に依存する4次以上の項とを含む多項式の高階エネルギーを設定し、該設定した高階エネルギーが最小となるよう前記変数を設定することにより前記2値のラベルを割り当てる
ことを特徴とする情報処理方法。
【請求項6】
前記所定の条件に合致する確率が高いほどエネルギーが小さくなるよう各項の係数を定めることにより前記多項式の高階エネルギーを設定することを特徴とする請求項5記載の情報処理方法。
【請求項7】
前記所定の条件に合致する確率をPとしたときにエネルギーが−logPとなるよう前記各項の係数を定めることを特徴とする請求項6記載の情報処理方法。
【請求項8】
請求項5ないし7いずれか1項に記載の情報処理方法であって、
現在の画像に対して変化を与えた提案画像を生成し前記現在の画像の画素を該生成した提案画像の対応する画素に置き換えるときには前記第1の値のラベルを割り当てると共に前記現在の画像の画素を前記生成した提案画像の対応する画素に置き換えないときには前記第2のラベルを割り当てることにより新たな画像を生成する処理を繰り返すことにより画像を復元する
ことを特徴とする情報処理方法。
【請求項9】
前記提案画像は、再急降下法を用いて生成することを特徴とする請求項8記載の情報処理方法。
【請求項10】
前記提案画像は、前記現在の画像に対して所定のぼかしフィルタを適用することにより生成することを特徴とする請求項8記載の情報処理方法。
【請求項11】
各変数が2値の4次以上の多項式によって表わすことが可能な高階エネルギーを処理する情報処理装置であって、
前記高階エネルギーを対称式を用いて次数に応じた数の2値の外部変数を付加することにより同値な1階のエネルギーに変換するエネルギー変換手段と、
該変換した1階のエネルギーに対して所定のエネルギー最小化法を適用することにより前記高階エネルギーが最小となる前記各変数を設定するエネルギー最小化手段と、
を備える情報処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−287091(P2010−287091A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140998(P2009−140998)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(506218664)公立大学法人名古屋市立大学 (48)
【Fターム(参考)】