説明

情報処理装置、データ記録方法

【課題】揮発性メモリの車両データを可能な限り不揮発性メモリに記憶可能な車両データ記録装置を提供すること。
【解決手段】車両状況が検出されると車両データを不揮発性メモリに記憶する情報処理装置100において、車両状況を検出する車両状況検出手段と、車両状況検出手段が車両状況を検出するまで、T1秒間の第一の車両データを古いものに上書きしながら揮発性メモリ21に記憶し、車両状況検出手段が前記車両状況を検出するとT2秒間の第二の車両データを揮発性メモリに記憶する車両データ収集手段32と、車両状況検出手段が車両状況を検出したことを契機に、第一の車両データを揮発性メモリから不揮発性メモリ23に記録する車両データ記録手段33と、を有し、車両データ記録手段は、車両データ収集手段がT2秒間全ての第二の車両データが揮発性メモリに記憶する前に、第二の車両データを随時、揮発性メモリから不揮発性メモリに記録する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予め定められた車両状況が検出されると車両データを不揮発性のリングバッファに記憶する情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走行中の車両データは、メーカ等が故障の原因を特定したり不具合の発生当時の状況を解析するために役立つことが多い。このため、車両に、車両データを記録する車両データ記録装置が搭載されることがある。車両データには車載された各種のセンサの検出値が含まれる。車両データはイベントの発生を契機にして記録されるため、走行している限り不定期に発生しうる。
【0003】
車両データ記録装置の記録媒体としては、IG‐OFF後も記録を保持するように、不揮発性メモリが利用される。不揮発性メモリにはフラッシュメモリ、HDD、EEPROM等があるが、サイズ、安定性、コスト、及び、書き込み速度などの点からフラッシュメモリが採用されることが少なくない。
【0004】
メーカ等が、故障の原因を特定したり不具合の発生当時の状況を解析するためには、イベント発生後の車両データだけでなく、イベント発生前の車両データも記録されている方が有効である。イベント発生前に運転者がどのような操作を行ったか、又は、車両がどのような状態であったかを把握できるためである。このため、車両データ記録装置は、イベント発生前から車両データを収集しておき、イベント発生によりフラッシュメモリに記憶させるという処理を行っている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
特許文献1には、障害物を検出すると揮発性メモリからなる記録手段に記録を開始し、自動ブレーキが検出されると、揮発性メモリから不揮発性メモリに画像などの記録内容を退避させるドライブレコーダ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011‐039864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されたドライブレコーダ装置の記録方法では、揮発性メモリに記録された車両データが消失するおそれがあるという問題がある。
【0008】
図1は、従来の記録方法の問題を説明する図の一例である。車両データ記録装置はイベント発生前後の合計T秒の車両データを1つの車両データとして記録する。車両データのうちイベントが発生するまでの部分をプレトリガデータ、イベント発生後の部分をポストトリガデータという。プレトリガデータとポストトリガデータの長さは均等である必要はないがここでは例えばそれぞれがT/2秒であるとする。
【0009】
イベントが発生するタイミングは不明なので、車両データ記録装置はプレトリガデータを揮発性メモリに記録する処理を繰り返している。このため、揮発性メモリには常に最新のプレトリガデータが記憶されている。
【0010】
イベントが発生すると、車両データ記録装置はポストトリガデータの収集を開始し、揮発性メモリに記憶する。揮発性メモリにはT/2秒分の最も新しいプレトリガデータが記録されたままである。したがって、イベントの発生により、プレトリガデータ及びポストトリガデータが揮発性メモリに記憶される。
【0011】
全体でT秒間の車両データ(プレトリガデータ及びポストトリガデータ)のバッファリングが完了すると、車両データ記録装置は車両データをフラッシュメモリに書き込む。図の1〜Nは、1つの車両データ又は1つの車両データのサイズを意味し、図ではN番目の車両データが記録されている。なお、フラッシュメモリはリングバッファになっており、古い順に上書きされる。
【0012】
しかしながら、車両データ記録装置が揮発性メモリにバッファリングしている間に、何らかの異常が生じると、揮発性メモリ全体の車両データが全くフラッシュメモリに記録されなくなってしまう。図の例では、ポストトリガデータの半分くらいが揮発性メモリに記録されているが、その前後で異常が生じたため、揮発性メモリ全体の車両データが全くフラッシュメモリに記録されなくなる。
【0013】
これは、車両データ記録装置が、1つの車両データの全体を揮発性メモリにバッファリングしてから、フラッシュメモリに記録するためである。異常からの復帰後に車両データ記録装置が揮発性メモリに途中までバッファリングされた車両データをフラッシュメモリに記録しようとしても、IG‐ON等により車両データはすでに消失しているおそれがある(揮発性メモリがバッテリによってバックアップされてもIG‐ON等により初期化されるおそれがある)。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑み、揮発性メモリの車両データを可能な限り不揮発性メモリに記憶可能な車両データ記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、予め定められた車両状況が検出されると車両データを不揮発性のリングバッファに記憶する情報処理装置において、前記車両状況を検出する車両状況検出手段と、前記車両状況検出手段が前記車両状況を検出するまで、T1秒間の第一の車両データを古いものに上書きしながら揮発性メモリに記憶し、前記車両状況検出手段が前記車両状況を検出するとT2秒間の第二の車両データを揮発性メモリに記憶する車両データ収集手段と、前記車両状況検出手段が前記車両状況を検出したことを契機に、前記第一の車両データを揮発性メモリから不揮発性メモリに記録する車両データ記録手段と、を有し、前記車両データ記録手段は、前記車両データ収集手段がT2秒間全ての前記第二の車両データが揮発性メモリに記憶する前に、前記第二の車両データを随時、揮発性メモリから不揮発性メモリに記録する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
揮発性メモリの車両データを可能な限り不揮発性メモリに記憶可能な車両データ記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来の記録方法の問題を説明する図の一例である。
【図2】車両データ記録装置の概略的特徴を説明する図の一例である。
【図3】本実施形態の車両データ記録装置の構成図の一例である。
【図4】車両データ記録装置の機能ブロック図の一例である。
【図5】車両データ記録装置の動作手順を示すフローチャート図の一例である。
【図6】RAMのポインタP1を模式的に説明する図の一例である。
【図7】車両データ記録装置の動作手順を示すフローチャート図の一例である。
【図8】RAMを模式的に説明する図の一例である。
【図9】車両データ記録装置の動作手順を示すフローチャート図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
図2は、車両データ記録装置の概略的特徴を説明する図の一例である。
(1)車両データ記録装置は、イベントが発生するまで、プレトリガデータを揮発性メモリに記録することを繰り返す。揮発性メモリにはT1秒分の最も新しいプレトリガデータが記録されている。
(2)イベントが発生すると、車両データ記録装置は、プレトリガデータのみを揮発性メモリからフラッシュメモリに記録する。
(3)その後、車両データ記録装置は、ポストトリガデータを収集して揮発性メモリに記録する。車両データ記録装置は、随時、揮発性メモリのポストトリガデータを不揮発性メモリに記録することを繰り返す。
【0019】
すなわち、イベント発生により、プレトリガデータのみを不揮発性メモリに記録することで、異常が生じても高確率でプレトリガデータは不揮発性メモリに退避できる。また、その後、随時、ポストトリガデータを不揮発性メモリに記録することで、異常が生じるまでのポストトリガデータを可能な限り不揮発性メモリに退避できる。
【0020】
〔構成例〕
図3は、本実施形態の車両データ記録装置100の構成図の一例を示す。車両データ記録装置100は、1つ以上のECU(Electronic Control Unit)により構成され、各ECUは車載ネットワーク13を介して接続されている。車載ネットワーク13のプロトコルには、CAN(Controller Area Network)、FlexRay、Lin(Local Interconnect Network)等があるが、本実施形態ではCANを例にして説明する。
【0021】
送信制御ECU12はCANデータ(車両データ)を受信制御ECU11に送信するECUである。図では1つの送信制御ECU12しかないが、車両データを生成するECUは2台以上あってもよい。送信制御ECU12のハード的な構成は受信制御ECU11と同等なので図示は省略した。なお、受信制御ECU11及び送信制御ECU12は機能的な呼称であり、車載装置を制御するECUが受信制御ECU11及び送信制御ECU12を兼ねることができる。受信制御ECU11としては、例えば、メータECU、ボディECU、ナビECU、通信制御ECU等が挙げられる。送信制御ECU12としては、エンジンECU、ブレーキECU、パワステECU、エアバッグECU、トランスミッションECU等が挙げられる。受信制御ECU自身が車両データを生成することもある。
【0022】
メータECUは、スイッチ類(例えば、ターンシグナルスイッチ、ハンドブレーキスイッチ等)の操作状態、他のECUから取得した信号(車速、エンジン回転数、ドアロック状態、シートベルト装着状態、ワイパ作動状態等)を数値や揺動する針の指針位置に変換して表示する。ボディECUは、カーテシスイッチのオン/オフを検出したり、車内灯を制御したり、乗員の操作に基づきドアロック/アンロック等を行う。ナビECUは、GNSS(Global Navigation Satellite Systems)などを使用して車両の位置情報を検出し、周辺の道路地図と自車位置アイコンを液晶ディスプレイなどの表示装置に表示する。また、目的地までの経路を算出し右左折や車線変更などの経路案内を行う。ナビECUにはラジオやテレビの受信機能、CD,DVD,BDプレーヤなどのオーディオビジュアル機能が搭載されることがある。通信制御ECUは、携帯電話網や無線LAN、WIMAXなどの無線通信網に接続して、各種のサーバと通信する。不揮発性メモリ23に記憶された車両データの一部又は全体を外部のサーバに送信することがある。
【0023】
エンジンECUは、アクセル開度等を検出してスロットル開度や燃料噴射量を決定し、また、クランク角に基づき点火タイミングを制御する。ブレーキECUは各車輪の回転速度からスリップを検出し、スリップしている車輪の制動力を低減することで車輪ロックを回避するABS(Anti‐lock Brake System)制御や、発信時の車輪の空転を検出した場合に車輪に制動力を加えるTRC(Traction Control)制御を行う。この他、ヨーレート、ステアリング舵角、車輪速度等に基づき、各輪の制動力を調整するESC(Electronic Stability Control)制御を行う。パワステECUは運転者の操舵トルクを検出して、モータを駆動させ運転者の操舵方向にステアリングシャフトを回転させる操舵支援を行う。また、LKA(Lane Keeping Assist system)が作動している間は、カメラECUが認識した走行レーンの略中央を走行するようにステアリングシャフトを回転駆動する。エアバッグECUは、車両に働いた加減速度や横減速度を解析して対応するエアバッグ(運転席、助手席、サイドエアバッグ、カーテンエアバッグ等)を展開する。トランスミッションECUは、アクセル開度やブレーキ操作によるエンジン回転数の増減、加速度、及び、車速等に応じてトランスミッションフルードが通過するバルブを開閉してギアを切り換える。
【0024】
受信制御ECU11は、OS/CANドライバ25、マイコン24、RAM21、ROM22、及び、不揮発性メモリ23を有する。OSはマイコン24の汎用的な機能を抽象化してCPUが実行するプログラムがマイコン24の機能を利用することを可能にする。また、OSは、マルチタスク環境ではタスク管理したり、タスク毎にデータを保護したり、タスク間通信を行う。
【0025】
CANドライバは、不図示のCANコントローラにCANデータの送信を要求したり、CANコントローラが受信したCANデータからデータ部分を取り出す。すなわち、CANドライバは、プログラムが送信要求したデータを、CANプロトコルのフォーマットに格納し、CANコントローラのバッファに設定する。また、CANコントローラが予め定められたCAN IDのCANデータを受信した場合、CANドライバはCANプロトコルのフォーマットに従いCANデータから取り出したデータをプログラムに送出する。
【0026】
マイコン24は、主にCPU、不図示のRAM、ROM、DMAC(Direct Memory Access)、INTC(Interrupt Controller)を有する。また、図では、受信制御ECU11がマイコン24の外部に、RAM21、ROM22、及び、不揮発性メモリ23を有するが、これらをマイコン24内に格納して、1つのマイコン24として構成することもできる。RAM21はプログラム(車載されたアプリケーション)が使用する揮発性の記憶手段であり、車両データを一時的に記憶するために使用される。ROM22は車載されたプログラムを記憶する不揮発性の記憶手段である。不揮発性メモリ23は、車両データを記憶する本実施形態のフラッシュメモリである。不揮発性メモリ23は、消去単位であるブロック毎に論理的な順番が付与されており、リングバッファを構成している。
【0027】
図4は、車両データ記録装置100の機能ブロック図の一例である。図4の各機能はROM22に記憶されたプログラムをマイコン24のCPUが実行し、不揮発性メモリ23や、DMAC及びCANコントローラなどのICと協働することで実現される。
【0028】
受信制御ECU11は、イベント検出部31、車両データ収集部32、及び、車両データ書き込み部33を有する。イベント検出部31は、車両データを不揮発性メモリ23に記憶する契機となるイベントの発生を検出する。イベントには、例えば、IG‐ON、IG‐OFF、車速が発進したこと、停止したこと、走行中に車速が所定値以上になったこと、加速度/減速度/横加速度が所定値以上になったこと、ヨーレートが所定値以上になったころ、ABS・ESCが働いたこと、エアバッグが展開したこと、等がある。イベント検出部31は、センサが検出した検出信号や送信制御ECU12が送信するCANデータに基づきイベントを検出する。また、送信制御ECU12からイベント発生の通知そのものを取得してもよい。イベント検出部31は、イベントを検出すると車両データ収集部32及び車両データ書き込み部33にイベント通知を送出する。
【0029】
車両データ収集部32は、送信制御ECU12から車両データを収集する。記憶される車両データの内容は、車速、加速度(減速度)、アクセル開度、プレーキペダルの踏み込み量、エンジン回転数、ヨーレート、位置情報などである。さらに、カメラが撮影した車両前方、側方、後方等の画像を記録してもよい。車両データ収集部32は、車速〜位置情報を1セットに、T秒間にわたり複数セットの車速〜位置情報を収集する。この1セットの車両データの内容を、1セットのプレトリガデータ、又は、1セットのポストトリガデータと称する。
【0030】
車両データの内容はイベントの種類に関係なく固定である。しかし、車両データの内容はイベントの種類により変えてもよいし、車両データのサイズを変えることは困難ではない。しかし、イベント毎にデータサイズが変わってしまうと、後の解析の際にどのアドレスでイベントが切り替わったのかを判別しにくい。よって、車両データの内容がイベントの種類により変わったとしても、車両データのサイズは共通であることが好ましい。
【0031】
また、イベントの種類により車両データのサイズを変える場合、車両データにイベントIDを追加することが好適である。イベントIDにより、1回の車両データのサイズが定まるので、不揮発性メモリ23の車両データがどのアドレスで次の車両データに切り替わったのかを判別できる。
【0032】
また、車両データ収集部32は、イベント発生前のプレトリガデータとイベント発生後のポストトリガデータとをそれぞれ収集する。本実施形態では、プレトリガデータとポストトリガデータを合計でT秒間、収集する。また、プレトリガデータとポストトリガデータの長さはそれぞれT1、T2秒であるとする。
【0033】
プレトリガデータとしては、車速、加速度(減速度)、アクセル開度やブレーキペダルの踏み込み量などが挙げられる。ポストトリガデータとしては、エンジン回転数、ヨーレート、位置情報などが挙げられる。ただし、プレトリガデータとポストトリガデータで同じデータを収集することを妨げるものではない。
【0034】
イベントが発生するタイミングは不明なので、車両データ収集部32はイベントの発生が検出される前から、例えば定期的に、古いものから上書きしながらRAM21にプレトリガデータを記憶していく。このため、RAM21には常に最新のプレトリガデータが記憶されている。
【0035】
イベントの発生が検出されると、車両データ収集部32は、ポストトリガデータをRAM21に記憶することを開始する。
【0036】
車両データ書き込み部33は、RAM21に記憶されたプレトリガデータ及びポストトリガデータを不揮発性メモリ23に書き込む。具体的には、例えば以下のように記録する。
(i) イベント通知を取得すると、車両データ書き込み部33はRAM21のプレトリガデータを全て不揮発性メモリ23に書き込む。
(ii) 車両データ収集部32はイベント発生後、予め決められた時間(T2秒間)、ポストトリガデータを繰り返し収集しRAM21に記憶するので、例えば1セットのポストトリガデータをRAM21に記録する毎に、車両データ書き込み部33に通知する。これにより、車両データ書き込み部33は、RAM21に記憶された1セットのポストトリガデータをRAM21から不揮発性メモリ23に記憶する。このように、ポストトリガデータは随時、RAM21から不揮発性メモリ23に記録される。
【0037】
〔動作手順〕
図5は、本実施形態の車両データ記録装置100の動作手順を示すフローチャート図の一例である。図5の手順は、例えばIG‐ON後(ハイブリッド車や電気自動車の場合はシステムの起動後)繰り返し実行される。
【0038】
イベント検出部31がイベントの発生を検出するまでの間、車両データ収集部32は、イベント前のプレトリガデータを収集する(S10)。
【0039】
車両データ収集部32は、1セットのプレトリガデータが収集できたか否か判定する(S20)。1セットのプレトリガデータは例えば、車速、加速度(減速度)、アクセル開度、ブレーキペダルの踏み込み量であり、これらを1セット収集できると(SS20のYes)、車両データ収集部32は1セットのプレトリガデータをRAM21に記録する(S30)。
【0040】
図6(a)は車両データ収集部32が保持するRAM21のポインタP1を模式的に説明する図の一例である。車両データ収集部32は、RAM21の予め決められた領域にT1秒分のプレトリガデータを記録する。図の斜線領域がプレトリガデータ領域である。プレトリガデータ領域の最初のアドレスと最後のアドレスの範囲でアドレス順に1セットのプレトリガデータを記録する。プレトリガデータ領域のサイズは有限なので、最後のアドレスまで到達すると最初のアドレスから上書きしながらプレトリガデータを記録する。プレトリガデータ領域のうち、最新のプレトリガデータが記録されたアドレスを監視するため、車両データ収集部32はポインタP1を管理している。ポインタP1には、次にプレトリガデータを記録するアドレスが記憶されている。車両データ収集部32はポインタP1のアドレスから1セットのプレトリガデータを記録する。
【0041】
図5に戻り、車両データ収集部32は、プレトリガデータを収集しながら、イベント検出部31がイベントの発生を検出したか否かを判定する(S40)。イベント検出部31がイベントの発生を検出しない場合(S40のNo)、車両データ収集部32はプレトリガデータの収集を継続する。
【0042】
イベント検出部31はイベントの発生を検出すると、車両データ収集部32と車両データ書き込み部33に通知する(S300)。
【0043】
イベント検出部31がイベントの発生を検出した場合(S40のYes)、車両データ収集部32はポストトリガデータの収集を開始する(S50)。
【0044】
次に、車両データ収集部32は、1セットのポストトリガデータを収集できたか否かを判定する(S60)。
【0045】
1セットのポストトリガデータを収集した場合(S60のYes)、車両データ収集部32はRAM21のポストトリガデータ領域に、1セットのポストトリガデータを記録する(S70)。
【0046】
図6(b)はポストトリガデータ領域への記録を模式的に示す図の一例である。プレトリガデータ領域に続いて、T2秒分のポストトリガデータ領域が確保されている。車両データ収集部32は1セットずつポストトリガデータをRAM21に記憶する。
【0047】
なお、T2秒分のポストトリガデータが記録されるRAM21の領域は予め定められていなくてもよい。この場合、1セットのポストトリガデータがRAM21に記録される毎に、車両データ書き込み部33がRAM21から不揮発性メモリ23に1セットのポストトリガデータを記憶する。RAM21の1セットのポストトリガデータは、車両データ書き込み部33が不揮発性メモリ23に書き込むと、車両データ収集部32により上書きされる。したがって、このデータ記録方法ではRAM21の領域を節約できるという効果がある。
【0048】
図5に戻り、車両データ収集部32は、確実にポストトリガデータを記録するため、車両データ書き込み部33からポストトリガデータの要求通知を取得したか否かを判定する(S80)。要求通知は、車両データ書き込み部33がポストトリガデータの書き込み準備ができていることを車両データ収集部32に通知するものである。
【0049】
車両データ収集部32は要求通知を確認した場合にのみ(S80のYes)、車両データ書き込み部33に記録を要求する(S90)。
【0050】
車両データ収集部32はイベント発生からT2秒が経過したか否かを判定し(S100)、T2秒が経過するまではステップS50からの処理を繰り返す。イベント発生からT2秒が経過した場合(S100のYes)、図5の処理は終了する。
【0051】
一方、車両データ書き込み部33は、イベント検出部31がイベントの発生を検出するまで待機し、イベント通知を取得したか否かを判定している(S210)。
【0052】
車両データ書き込み部33は、イベント通知を取得すると(S210のYes)、T1秒分のプレトリガデータをRAM21から不揮発性メモリ23に記録する(S220)。
【0053】
具体的には、車両データ収集部32からポインタP1を取得する。ポインタP1には次にプレトリガデータを記録するRAM21のアドレス(=最も古いプレトリガデータが記録されているRAM21のアドレス)が記憶されている。このため、図6(a)に示すように、ポインタP1のアドレスからプレトリガデータ領域の最後のアドレスまでのプレトリガデータ、を先に読み出し、不揮発性メモリ23のアドレス順に不揮発性メモリ23に記録する。次に、プレトリガデータ領域の最初のアドレスからポインタP1が示すアドレスの1つ前のアドレスまでのプレトリガデータを読み出し、不揮発性メモリ23のアドレス順に不揮発性メモリ23に記録する。こうすることで、T1秒間のプレトリガデータを時系列に読み出し、時系列に不揮発メモリ23に記憶することができる。
【0054】
なお、車両データ書き込み部33がRAM21からプレトリガデータを読み出す際、ポインタP1が示すアドレスの1つ前のアドレスからプレトリガデータ領域の最初のアドレスまで、次いで、プレトリガデータ領域の最後のアドレスからポインタP1が示すアドレスまで、プレトリガデータを時系列に遡って読み出してもよい。この場合、最も最後に読み出した1セットのプレトリガデータ(最も古い1セットのプレトリガデータ)から順番に、不揮発性メモリ23のアドレス順に不揮発性メモリ23に記録する。
【0055】
なお、車両データ書き込み部33は、図6(a)に示すように、不揮発性メモリ23において次にプレトリガデータ又はポストトリガデータを記憶すべきポインタP2を管理している。このため、T1秒間のプレトリガデータを不揮発性メモリ23に記録するとポインタP2を更新する。また、プレトリガデータの記録完了により車両データ収集部32にポストトリガデータを要求しておく。
【0056】
次に、車両データ書き込み部33は、車両データ収集部32から記録要求を取得したか否かを判定する(S230)。
【0057】
記録要求により記録すべきポストトリガデータがRAM21に記憶されていることを検出して、車両データ書き込み部33は、車両データ収集部32からポインタP1を取得する。図6(b)に示すように、ポインタP1のアドレスの1つ前のアドレスから、1セットのポストトリガデータを読み出し、ポインタP2が示す不揮発性メモリ23のアドレスに記録する(S240)。
【0058】
車両データ書き込み部33は、1セットのプレトリガデータを不揮発性メモリ23に記録するとポインタP2を更新する。
【0059】
車両データ書き込み部33は1セットのポストトリガデータを不揮発性メモリ23に記録すると、車両データ収集部32に次のポストトリガデータを要求する(S250)。
【0060】
以上説明したように、本実施形態の車両データ記録装置100は、イベント発生の直後にRAM21のプレトリガデータを不揮発性メモリ23に記録するので、異常が生じてもプレトリガデータを不揮発性メモリ23に記録する可能性を高めることができる。また、イベント発生の後は、1セットのポストトリガデータがRAM21に記憶される毎に、不揮発性メモリ23に記録するので、異常が生じても可能な限りポストトリガデータを不揮発性メモリ23に記録することができる。
【0061】
また、図では1セットのポストトリガデータ単位で記録したが、ステップS60の判定で2セット以上のポストトリガデータを収集できたことを判定条件とすれば、2セット以上のポストトリガデータ単位で記録することができる。
【0062】
<動作手順の変形例1>
図5,6では、車両データ収集部32と車両データ書き込み部33が同期を取りながら1セットのポストトリガデータを不揮発性メモリ23に記録していた。しかし、車両データ収集部32と車両データ書き込み部33が同期を取りながら処理するとどちらかがボトルネックとなり記録に時間がかかるおそれがある。
【0063】
そこで、車両データ収集部32と車両データ書き込み部33が非同期に1セットのポストトリガデータを不揮発性メモリ23に記録する車両データ記録装置100について説明する。
【0064】
図7は、本実施形態の車両データ記録装置100の動作手順を示すフローチャート図の一例である。図7の手順は、S50までの処理は図5と同様である。
【0065】
イベントが発生し、ポストトリガデータの収集を開始すると(S50)、車両データ収集部32は、1セットのポストトリガデータを収集できたか否かを判定する(S60)。
【0066】
1セットのポストトリガデータを収集した場合(S60のYes)、車両データ収集部32はRAM21に1セットのポストトリガデータを記録する(S70)。
【0067】
図8はRAM21を模式的に説明する図の一例である。図8では、RAM21にT2秒分のポストトリガデータが記録される領域が予め定められている。図7の手順では、最大で、T2秒分のポストトリガデータがRAM21に記録される可能性があるためである。車両データ収集部32は、次に1セットのポストトリガデータを記憶するRAM21のアドレスをポインタP1に格納することでP1を更新する(S72)。
【0068】
車両データ収集部32はイベント発生からT2秒が経過したか否かを判定し(S110)、T2秒が経過するまではステップS50からの処理を繰り返す。イベント発生からT2秒が経過した場合(S110のYes)、図7の処理は終了する。
【0069】
一方、車両データ書き込み部33は、イベント検出部31がイベントの発生を検出するまで待機し、イベント通知を取得したか否かを判定している(S210)。
【0070】
車両データ書き込み部33は、イベント通知を取得すると(S210のYes)、T1秒分のプレトリガデータをRAM21から不揮発性メモリ23に記録する(S220)。記録方法は、図5と同様である。
【0071】
そして、図7の手順では車両データ書き込み部33は車両データ収集部32からの記録要求の通知に関係なく、RAM21から不揮発性メモリ23へポストトリガデータを記録する。車両データ書き込み部33は、図8に示すポインタP3を管理している。ポインタP3には、車両データ書き込み部33が、次にRAM21から不揮発性メモリ23に記録する1セットのポストトリガデータのアドレス(最後にRAM21から不揮発性メモリ23に記録された1セットのポストトリガデータのアドレスの次のアドレス)が格納される。
【0072】
したがって、RAM21のアドレスの昇順にポストトリガデータが記憶されるとすると、車両データ書き込み部33は、
P1>P3の場合:車両データ書き込み部33が不揮発性メモリ23に記録していないポストトリガデータがRAM21にある
P1=P3の場合:車両データ書き込み部33はRAM21の全てのポストトリガデータを不揮発性メモリ23に記録した
と判定できる。なお、P1<P3となることは生じないとしている。
【0073】
車両データ書き込み部33はポインタP1,P3の関係を利用して、P1>P3か否かを判定する(S235)。
【0074】
P1>P3の場合(S235のYes)、車両データ書き込み部33は、ポインタP3が示すRAM21のアドレスの1セットのポストトリガデータを不揮発性メモリ23に記録する(S240)。
【0075】
車両データ書き込み部33はRAM21のポインタP3を更新する(S242)。更新によりポインタP3がポインタP1に追いついた可能性があるので、車両データ書き込み部33はステップS235から処理を繰り返す。
【0076】
このように図7の手順では、車両データ収集部32と車両データ書き込み部33が非同期にポストトリガデータのバッファリングと不揮発性メモリ23への記録を行うので、処理を高速化できる。
【0077】
<動作手順の変形例2>
図5では、車両データ収集部32が車両データ書き込み部33から要求を待って、記録要求を車両データ書き込み部33に通知した。しかし、車両データ書き込み部33に不具合が生じる可能性は十分に小さいので、車両データ書き込み部33から要求を待たずに処理を高速化することが好ましい場合もある。
【0078】
図9は、本実施形態の車両データ記録装置100の動作手順を示すフローチャート図の一例である。図9の手順は、S80及びS250がない点が図5の手順と異なっている。
【0079】
すなわち、車両データ収集部32はポストトリガデータを収集しRAM21に記録すると(S70)、その都度、記録要求を車両データ書き込み部33に通知する(S90)。車両データ収集部32はT2秒が経過するまで、1セットのポストトリガデータのRAM21への記録(S70)、記録要求の通知(S90)を繰り返す。なお、図9においても、車両データ収集部32は複数セット毎に、記録要求を車両データ書き込み部33に通知することができる。
【0080】
一方、車両データ書き込み部33は、車両データ収集部32から記録要求を取得する毎に(S230のYes)、車両データ収集部32からポインタP1を取得し、ポインタP2が示す不揮発性メモリ23のアドレスに記録する(S240)。
【0081】
この後、車両データ書き込み部33は、次のポストトリガデータを車両データ収集部32に要求しないが、車両データ収集部32から随時、記録要求を取得することができる。
【0082】
なお、図9の手順では、車両データ収集部32によるポインタP1の更新に、車両データ書き込み部33の書き込みが間に合わないおそれがある。しかし、車両データ書き込み部33は、ポストトリガデータの書き込みの開始時に1度、ポインタP1を取得すれば、次の1セットのポストトリガデータが記憶されているRAM21のアドレスを計算できる。車両データ書き込み部33は、記録要求を取得した回数をカウントしておき、カウントした回数だけRAM21のアドレスを計算して、RAM21から不揮発性メモリ23にポストトリガデータを記録すればよい。こうすることで、ポインタP1の更新に、車両データ書き込み部33の書き込みが間に合わなくても、RAM21のポストトリガデータと不揮発性メモリ23への記録の整合性を保つことができる。また、車両データ収集部32と車両データ書き込み部33が同期を取らないので、高速に車両データを退避できる。
【0083】
したがって、図9のような手順では、車両データ収集部32は高速に車両データを収集しながら、車両データ書き込み部33も高速に車両データを不揮発性メモリに記録することができる。
【符号の説明】
【0084】
11 受信制御ECU
12 送信制御ECU
13 車載ネットワーク
21 RAM
22 ROM
23 不揮発メモリ
24 マイコン
25 OS/CANドライバ
31 イベント検出部
32 車両データ収集部
33 車両データ書き込み部
100 車両データ記録装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め定められた車両状況が検出されると車両データを不揮発性のリングバッファに記憶する情報処理装置において、
前記車両状況を検出する車両状況検出手段と、
前記車両状況検出手段が前記車両状況を検出するまで、T1秒間の第一の車両データを古いものに上書きしながら揮発性メモリに記憶し、前記車両状況検出手段が前記車両状況を検出するとT2秒間の第二の車両データを揮発性メモリに記憶する車両データ収集手段と、
前記車両状況検出手段が前記車両状況を検出したことを契機に、前記第一の車両データを揮発性メモリから不揮発性メモリに記録する車両データ記録手段と、を有し、
前記車両データ記録手段は、前記車両データ収集手段がT2秒間全ての前記第二の車両データを揮発性メモリに記憶する前に、前記第二の車両データを随時、揮発性メモリから不揮発性メモリに記録する、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
前記車両データ収集手段は、1つ以上の要素データの組をT2秒間に渡って複数組収集して前記第二の車両データとして揮発性メモリに記憶し、
前記車両データ記録手段は、前記車両データ収集手段が1組の前記要素データを揮発性メモリに記憶する毎に、揮発性メモリから不揮発性メモリに1組の前記要素データを記録する、
ことを特徴とする請求項1記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記車両データ収集手段は、1組の前記要素データを揮発性メモリに記憶する毎に、前記車両データ記録手段に不揮発性メモリへの記録を要求し、
前記車両データ記録手段は1組の前記要素データを不揮発性メモリに記録すると、車両データ収集手段に記録完了を通知し、
前記車両データ収集手段は、前記車両データ記録手段から記録完了の通知を取得してから、次の1組の前記要素データを不揮発性メモリに記録するよう前記車両データ記録手段に要求する、
ことを特徴とする請求項2記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記車両データ収集手段は、1つ以上の要素データの組をT2秒間に渡って複数組収集して前記第二の車両データとして揮発性メモリに記憶すると共に、アドレスを示す第1のポインタを更新し、
前記車両データ記録手段は、揮発性メモリから不揮発性メモリに1組の前記要素データを記録する毎に、不揮発性メモリへの記録が完了した揮発性メモリのアドレスを示す第2のポインタを更新し、
第1のポインタが第2のポインタよりも大きい間、揮発性メモリから不揮発性メモリに前記要素データを記録することを継続する、
ことを特徴とする請求項1記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記車両データ収集手段は、1組の前記要素データを揮発性メモリに記憶する毎に、前記車両データ記録手段に不揮発性メモリへの記録を要求し、
前記車両データ記録手段は記録の要求を取得した回数だけ、1組の前記要素データを揮発性メモリから不揮発性メモリに記録する、
ことを特徴とする請求項2記載の情報処理装置。
【請求項6】
予め定められた車両状況が検出されると車両データを不揮発性のリングバッファに記憶する情報処理装置のデータ記録方法において、
前記車両状況を検出する車両状況検出ステップと、
前記車両状況検出ステップにおいて前記車両状況が検出されるまで、T1秒間の第一の車両データを古いものに上書きしながら揮発性メモリに記憶するステップと、
前記車両状況検出ステップにおいて前記車両状況が検出されると、T2秒間の第二の車両データを揮発性メモリに記憶する車両データ収集ステップと、
前記車両状況が検出されたことを契機に、前記第一の車両データを揮発性メモリから不揮発性メモリに記録するステップと、
T2秒間全ての前記第二の車両データが揮発性メモリに記憶される前に、前記第二の車両データを随時、揮発性メモリから不揮発性メモリに記録するステップと、
を有することを特徴とするデータ記録方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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