説明

情報化核酸担持微粒子及びその製造方法

【課題】製品の出所・経歴情報として用いられる情報化核酸を保持し、情報化核酸を製品内に長期間安定に保持することができ、情報化核酸の流出を防止して出所・経歴の個別認証を長期にわたって可能にする情報化核酸担持微粒子と、このような情報化核酸担持微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】例えば、シリカや亜鉛華などの微粒子の懸濁液に、任意且つ既知の塩基配列を有する部位を備え、出所・経歴の個別情報として用いられる情報化核酸を直接、あるいは当該情報化核酸の一部又は全部を滅菌蒸留水の溶液として加えたのち、乾燥させることによって、表面に情報化核酸を担持した微粒子となし、例えば塗料や樹脂成形品の原料樹脂中にこの情報化核酸担持微粒子を混ぜ込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば工業製品など、各種物品の個別認証技術に係わり、さらに詳しくは、工業製品などの出所・経歴情報として用いることができる情報化核酸を当該製品に添加するに際して、情報化核酸を安定且つ均一に分散させることができ、しかも製品からの情報化核酸の流出を長期に亘って防止することができる情報化核酸担持微粒子と、このような核酸担持微粒子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまでの個別認証には、ナンバープレート、紙幣などの透かし印刷、ICチップ、クレジットカードの写真などが利用されている。
しかし、これらの個別認証手段は、剥離、切断、消去などによって製品から除去することができるという欠点があった。このため、製品から取り除くことができない、即ち消失しない認証情報の開発が期待されている。
【0003】
一方、DNAは、元来全ての生物が保有し、それぞれの生物において全ての遺伝情報を含む情報生体分子であり、その多くは多数の蛋白質のアミノ酸配列に対応するものである。即ち、DNAは、デオキシアデノシン(dA)、デオキシグアノシン(dG)、デオキシシトシン(dC)、及びデオキシチミン(dT)がリン酸エステル結合を介して一定の方向性をもって結合しており、その塩基数をn個とすると、その長さのDNAは4種類存在することになる。従って、例えばわずか16種類の塩基数でもそれぞれ区別可能な約43億種類のDNAが存在し得ることになる。
現在では、数十の塩基配列を有するDNAであれば、どのような配列のものでも任意に合成することができ、しかも、ある程度以上の量があれば、自動配列読み取り装置(シーケンサー)を用いて自動的にその配列を決定することができる。
【0004】
このようなDNAの適用技術としては、水不溶性媒体にDNAを含ませた偽造防止ラベルを製品に用いることによって、該DNAの存在・不存在を手掛りにして、その製品の真偽を明らかにすることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−159502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載の技術は、基本的にはDNAと水不溶性媒体の混合方法に係るものであり、当該特許文献1には、製品の真偽確認方法として、PCR法によるリボ核酸の増幅の有無を確認することによってリボ核酸入りの対象製品を同定することが示唆されているに過ぎない。
また、DNAの存在・不存在を検定指標とする真偽確認データはもとより、DNAの配列を検定指標とし、同種製品における個々の製品ごとの認証を可能にする個別認証に関するデータについては全く開示されていない。
【0006】
一方、工業製品などに、その出所・履歴に係わる情報をできる限り広範囲に盛り込んでおき、必要に応じてそれを認証できるようにする技術、例えば、自動車事故において加害者が逃走したような場合に、事故現場に残された塗料片やプラスチック片から、事故車の出所・履歴を個別認証し、対象車両を特定できるようにする手法を確立するという要請がある。
【0007】
しかし、既知の塩基配列を備えたDNAに代表される核酸を上記のような製品の個別認証に用いる場合、当該核酸は、水溶性であることから、製品に組込んだとしても製品から水と共に流出する可能性がないとは言えず、長期間にわたって製品内に保持することが困難であるという問題があった。
【0008】
本発明は、工業製品などの個別認証技術における上記課題を解決すべくなされたものであって、その目的とするところは、既知の塩基配列を備え、出所・履歴の認証に用いることができる核酸、すなわち情報化核酸を確実に保持し、情報化核酸を製品内に長期間安定に残存せしめることができ、製品の出所・経歴の個別認証を長期にわたって可能にする情報化核酸担持微粒子と、このような情報化核酸担持微粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、出所・履歴の認証に用いることのできる情報化核酸をシリカや酸化亜鉛などの微粒子に担持し、このような微粒子を情報化核酸のキャリア(担体)として製品内に導入するようになすことによって、製品からの情報化核酸の流出を防止できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
本発明は上記知見に基づくものであって、本発明の情報化核酸担持微粒子は、情報化核酸、すなわち任意且つ既知の塩基配列を有する部位を備えた情報化核酸を微粒子に担持させたことを特徴としている。
【0011】
また、本発明の情報化核酸担持微粒子製造方法においては、微粒子に滅菌蒸留水を加えて成る懸濁液に、上記情報化核酸をそのまま、あるいは当該情報化核酸の一部又は全部を滅菌蒸留水に溶解して成る溶液として加え、望ましくはさらに特定の溶媒を添加して、乾燥させるようになすことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シリカや亜鉛華などの微粒子の懸濁液に、任意且つ既知の塩基配列を有する部位を備えた情報化核酸を直接、あるいは当該情報化核酸の一部又は全部を滅菌蒸留水に溶解させた溶液の状態で加えたのち、乾燥させるようにしているので、上記微粒子の表面に情報化核酸を確実に担持することができ、このような情報化核酸担持微粒子を用いて、情報化核酸を微粒子に担持させた状態で製品中に導入するようになすことによって、情報化核酸単独の状態で導入した場合に較べて、当該情報化核酸を製品中に確実に添加し、安定に分散させることができるようになり、しかも情報化核酸の水分による流出を防止することができ、情報化核酸の塩基配列を検出指標とする製品の出所・経歴の個別認証が長期にわたって可能なものなるという極めて優れた効果がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の情報化核酸担持微粒子と共に、その製造方法についてさらに詳細に説明する。
【0014】
本発明の情報化核酸担持微粒子は、情報化核酸をシリカや酸化亜鉛(亜鉛華)などの微粒子に担持させたものであり、これを用いることによって、上記したように製品への安定添加が可能になると共に、情報化核酸の水分による製品からの流出を防止することができるようになる。
なお、本発明において「担持」とは、情報化核酸が上記微粒子の表面に乗せられた状態で微粒子と共に移動できる程度に密着していることを意味し、情報化核酸が上記微粒子の表面に強固に固着していても、微粒子表面やその凹部内に使用に耐える程度の強度で付着していてもよい。
【0015】
ここで、情報化核酸とは、任意且つ既知の塩基配列を有する部位を備えたものであって、塩基配列の異なる情報化核酸を各種物品、例えば工業製品のそれぞれの部位にあらかじめ仕込んでおくことによって、この塩基配列を検出指標とする製品情報、例えば出所・経歴データの個別認証が可能になる。そして、当該情報化核酸は視認することができず、従って製品から除去することが実質的に不可能な個別認証手段となる。
また、この情報化核酸とは、DNA(デオキシリボ核酸)、RNA(リボ核酸)及びこれらの誘導体を言い、天然型でも人工型でもよいが、使用環境が厳しい製品中に添加することを考慮すると、構造的に安定な人工からを使用することが好ましい。人工型においては天然型には存在しない配列を形成することができる。
【0016】
なお、当該情報化核酸において、塩基配列部位が任意であるとは、検出可能な塩基配列である限り無作為に選択され得るものであることを意味し、塩基配列部位が既知であるとは、個別認証に用いられる塩基配列が予め把握されているものであることを意味する。
【0017】
上記情報化核酸の大きさとしては、当該核酸全体における塩基数が200以下であることが好ましい。即ち、塩基数が200を超えると合成の段階でごく僅かずつ未反応部位が生成し、塩基がかけたものの含有量が増大し易い。なお、100塩基程度であることがより好ましい。
また、チミンがダイマー化するのを抑制する観点から、上記塩基配列においてチミン同士が隣接しないことが好ましい。
【0018】
更に、情報化核酸としては、OH基と反応する化合物と併用する場合や、厳しい環境下で使用される場合の安定性を向上させる観点から、保護基により誘導化されていることが好ましく、具体的には、5´位、3´位のいずれか一方又は双方にある水酸基をリン酸エステル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ベンジル基、置換ベンジル基、アリル基などを用いて誘導化することができる。
図1(A)に天然型DNA、図1(B)に5´位を誘導化したDNAを示す。
【0019】
また、単離や精製の利便性を高める観点から、5´位の水酸基をビオチン又は蛍光分子により誘導化することが好ましい。具体的には、ビチオンを用いるとアビジンという蛋白質を結合したカラムに選択的に吸着され易くなる。一方、フルオレセインなどの蛍光分子を用いると核酸自体が蛍光をもつようになるため、感度よく検出でき、精製等が容易になる。このように、単離や精製の利便性を高めることにより、個別認証が極めて容易なものとなる。
なお、情報化核酸としてRNAを用いるときは、安定性を向上させる観点から2´位の水酸基を上記保護基により誘導化することもできる。
【0020】
また、情報化核酸を製品に含めて個別認証をする場合において、少ない含有量でも効率良く検出されるようにする観点から、上記塩基配列部位が該情報化核酸の増幅に用いられる部位であることが好ましい。かかる情報化核酸の増幅方法としては、相乗的に増幅させることのできるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を適宜採用することができる。
【0021】
上記PCR法では、情報化核酸が極微量であっても極度に増幅することができ、例えば、DNAの末端数十塩基と相補的な塩基(プライマー)の存在下に温度制御を行いつつ、耐熱性のDNAポリメラーゼを作用させると、元のDNAを倍増させることができる。例えば、これを30回繰り返せば、数億倍に増幅させることができる。
このような増幅によって微量のサンプルからでもその配列を決定するのに十分な量のDNAを得ることができるようになり、延いては配列に対応する情報からそれが含まれていた製品の「身元」が判明することになる。
【0022】
また、このとき、上記増幅に用いられる部位として、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に必要なプライマー対応部位を両端に有することが好ましい。即ち、情報化核酸としては、プライマーを備えていないものを使用することもできるが、プライマーを備えることによってより短時間で識別できるようになることによる。
このようなプライマー対応部位について、塩基数の下限値は5であることが好ましい。より好ましくは10以上であることが良い。塩基数が5未満では、区別できる核酸の数が減少し、多くの製品の識別に時間がかかるようになる。一方、塩基数の上限値としては、100であることが好ましい。これは、塩基数が100を超えると、いずれかの位置の塩基を欠いた副生成物の比率が高くなり、精製に手間が掛かり、場合によっては困難となる傾向があることによる。
なお、情報化核酸としてRNAを用いるときは、逆転写酵素を用いて配列の相補的なDNAを得、このDNAを用いてPCR法を行うことができる。
【0023】
また、上記情報化核酸としては、上記塩基配列部位の他に更に認証情報部位を有することが好ましく、これによって、より詳細な情報設定により個別認証を実行できる。
例えば、図2に示すように、両端にプライマー対応部位を備えた情報化DNAであれば、中央にm個の塩基数の配列を置き(B〜B)、この部分の配列情報を認証情報に対応させる。その両端には、それぞれl(エル)個、n個のプライマーに相補的な配列(X〜X,P〜P)を連結する。この部分が存在することにより初めてPCR法の採用が可能となる。
【0024】
情報化DNAはこの1本鎖のもの又はそれと相補的な配列のDNAと複合体を形成した2本鎖のものを情報素子として用いることができる。このプライマー対応部位の配列は、できるだけ相補的配列の結合が安定になり且つPCR法による増幅が円滑に進行するように工夫することができる。
なお、図2において、X〜X、B〜B、P〜P のそれぞれは、デオキシアデノシン(dA)、デオキシグアノシン(dG)、デオキシシトシン(dC)及びデオキシチミン(dT)のいずれかより構成される。
【0025】
本発明の情報化核酸担持微粒子は、上記のような情報化核酸を微粒子に担持させて成るものであるが、当該微粒子としては、上記したシリカや酸化亜鉛の他、酸化チタンや酸化モリブデン、酸化タングステン、チタン酸バリウムなどが好適に用いられる。
また、当該微粒子のサイズとしては、平均粒径が0.01〜60μmの範囲、好ましくは0.02〜5μmの範囲のものであることが望ましい。すなわち、微粒子の平均粒径が0.01μmに満たないと情報化核酸の検出精度が低下し、60μmを超えると、滅菌蒸留水やアルコールなどの溶媒に対する分散性が低下する傾向があることによる。
【0026】
本発明の情報化核酸担持微粒子における情報化核酸の担持量としては、微粒子100gに対して、0.5〜10,000μg、より好ましくは1.0〜1000μgの範囲とすることが望ましい。上記情報化核酸の担持量が微粒子100g当たり0.5μgに満たない場合は、情報化核酸を製品中に安定に添加することができなくなって検出精度が低下する一方、2000μgを超えた場合には、情報化核酸を微粒子に安定に担持することができなくなって、フリーの情報化核酸が生じ、分散しにくくなる傾向があることによる。
【0027】
本発明の情報化核酸担持微粒子は、上記のような微粒子を滅菌蒸留水中に分散させて懸濁液となし、この懸濁液に上記情報化核酸をそのまま、あるいは当該情報化核酸を滅菌蒸留水に溶解させた情報化核酸水溶液を加え、乾燥することによって製造することができる。このとき、上記情報化核酸については、一部を水溶液とすることなくそのままの状態で加え、残部を水溶液の状態で加えるようにしても何ら差し支えない。
【0028】
また、このとき、上記懸濁液には、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノールなど)、エステル(例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピルなど)、ケトン(例えば、アセトン、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトンなど)及び芳香族溶剤(トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、キシレンなど)の溶媒をさらに添加することが望ましく、これによって上記微粒子の懸濁液中における分散性が向上すると共に、情報化核酸が添加された後の水分及び溶剤分の揮発が促進されることになる。
なお、これら溶媒は1種のみに限定されず、2種以上の溶媒を併用することも可能である。また、これら溶媒は、情報化核酸と同時、あるいは情報化核酸を加えた後に添加しても、特に差し支えはない。
【0029】
上記溶媒の添加量としては、アルコールの場合には、滅菌蒸留水/アルコールの容量比を1〜99の範囲とすることが好ましく、アルコール以外の溶媒の場合、即ちエステル、ケトン、芳香族溶剤の場合には、滅菌蒸留水/溶媒の容量比を1〜75の範囲とすることが好ましい。
即ち、溶媒の添加量が少な過ぎると、溶媒添加による上記効果が十分に得られず、逆に多過ぎても、水との相溶性低下によって水が揮発せずに残り易くなり、上記効果が十分に得られないようになる傾向がある。
【実施例】
【0030】
以下、具体的な実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
A.情報化核酸担持微粒子の作製
(1)情報化DNAの合成
ホスホアミダイト法にてヌクレオシドを逐次結合させることによって、GGGATTAATTGGAGGの配列を有する認証情報部位の両端に、TGCACGCACCGTGTACTC及びAGTGGACACGTTGGTCGGの配列を有するプライマー対応部位をそれぞれ結合し、情報化核酸としての情報化DNA(5´‐TGCACGCACCGTGTACTC‐GGGATTAATTGGAGG‐AGTGGACACGTTGGTCGG‐3´)を合成した。
【0032】
(2)懸濁液の調整
担体用の微粒子として、シリカコートを施した粒径0.02μmの酸化亜鉛(昭和電工製ZS−032)を使用し、当該酸化亜鉛4gに、容量比で30%のエタノールを含有する滅菌蒸留水15mLを加えて撹拌し、酸化亜鉛の懸濁液を得た。なお、シリカコートは、必ずしも必要ではないが、樹脂材料等に混合した場合の分散性を向上させることができる。
【0033】
(3)情報化DNAの添加
上記(1)により得られた情報化DNA10nmol(164μg)を滅菌蒸留水15mLに溶解し、得られた情報化DNA水溶液を上記懸濁液に加えて良く撹拌し、さらに4mLのエタノールを加えて撹拌した。
【0034】
(4)自然乾燥
情報化DNAを加えた上記懸濁液をプラスチック製の円形皿に注ぎ、その上部を通気性の良い紙あるいは布で覆った状態で、2日間自然乾燥した。
【0035】
(5)減圧乾燥
上記(4)によってほぼ乾燥したものをデシケータに入れ、40℃の加熱下で減圧乾燥し、十分に乾燥させた。
【0036】
(6)粉砕
上記(5)により、十分に乾燥され、塊状の微粉末を乳鉢に入れて砕き、もとの微粉末状として、情報化核酸担持微粒子を得た。
【0037】
B.クリヤー塗料の調整
(1)クリヤー塗料1(発明例)
日本ペイント(株)製スーパーラックO−130GN3を撹拌しながら、この塗料100gに対して、上記工程によって得られた情報化核酸担持微粒子を1g添加し、さらに1時間撹拌することによって、上記情報化DNAを担体としての微粒子と共に含有するクリヤー塗料1を得た。
(2)クリヤー塗料2(比較例)
同様に、日本ペイント(株)製スーパーラックO−130GN3を撹拌しながら、この塗料100gに対して、上記A(1)で得られた情報化DNA5μgを微粒子に担持させることなく、そのままの状態で添加し、さらに1時間撹拌することによって、情報化DNAを単体で含有するクリヤー塗料2を得た。
【0038】
C.積層塗膜試験片の作製
りん酸処理した70mmW×150mmL×0.8mmtのダル鋼板Sに、カチオン型電着塗料(日本ペイント(株)製、商品名「パワートップU600M」)を乾燥塗膜が20μmとなるように電着塗装したのち、160℃で30分焼付けることによって、下塗り塗膜層を形成した。次いでこの上に、グレーの塗料(日本油脂(株)製、商品名「ハイエピコNo.500」)を30μm塗装し、140℃で30分焼付けることによって、ベースコート層を形成した。
そして、このベースコート層の上に、上記クリヤー塗料1及び2をそれぞれ30μm塗装し、140℃で30分焼付けることによってクリヤー層を形成し、図3に示すように、最下層として下塗り塗膜層Cp、中間層としてベースコート層Cb、さらに最表面に情報化DNAを含むクリヤー層Ccをそれぞれ備えた3層構造の積層塗膜Cを有する試験片Tを得た。
【0039】
D.DNAの検出
(1)上記クリヤー塗料1及び2によるクリヤー層を備えた2種類の塗膜試験片Tを50℃に保持した温水中に1000時間浸漬したのち、それぞれの試験片の塗膜Cをカッターによって細かく裁断した。
【0040】
(2)得られた塗膜細片に滅菌蒸留水5mLを加え、マグネチックスターラーによって撹拌し、DNAを水層に抽出した。
【0041】
(3)遠心分離機を用いて、塗膜細片と水層を分離し、水層を遠心エバポレータを用いて濃縮した。
【0042】
(4)溶出回収したDNA溶液(5μL)に、PCR buffer(5μL)、Taq polymerase(0.25μL)、滅菌蒸留水(24.75μL)、第1プライマー(5´−TGCACGCACCGTGTACTC−3´:5μL)、第2プライマー(5´−CCGACCAACGTGTCCACT−3´:5μL)、及び2mMの2,3−ジデオキシヌクレオシド三リン酸(5μL)を混合した。
【0043】
(5)94℃で5分間加熱後、94℃で30秒加熱→40℃で30秒加熱→72℃で30秒加熱のサイクルをを30回繰り返した。
【0044】
(6)72℃で7分間処理した後、4℃で保存した。
【0045】
(7)1本鎖DNA開裂酵素S1ヌクレアーゼ(一本鎖DNAに特異的に反応)を用いて、余分なプライマーを分解し、目的の2本鎖情報化DNAをゲル濾過によって精製した。
【0046】
(8)精製した情報化DNAに一種類のプライマー5´−TGCACGCACCGTGTACTC−3´及び蛍光標識した2,3−ジデオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)を混合した。
【0047】
(9)上記工程(5)と同様の操作を行った。
【0048】
(10)ゲル濾過精製後、自動シーケンサーに供し、配列決定を行った。
【0049】
E.検出結果
上記の結果、本発明の情報化核酸担持微粒子を含むクリヤー塗料1を用いた塗膜試験片、即ち情報化DNAを酸化亜鉛微粒子に担持された状態で含有するクリヤー層Ccを備えた塗膜からは、それに含まれる情報化DNAの配列を特定することができたが、クリヤー塗料2を用いた塗膜試験片、即ち情報化DNAをそのままの状態で含むクリヤー層Ccを備えた塗膜からは、その情報化DNAの塩基配列を決定することはできなかった。
なお、上記のような長時間の温水浸漬試験を行なうことなく、塗膜細片を採取した場合には、クリヤー塗料2を用いた塗膜試験片においても、それに含まれる情報化DNAの配列決定が可能であることが確認されている。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】DNAの一例として、天然型DNA(A)及び5´位を誘導化したDNA(B)を示す構造式である。
【図2】本発明に用いる情報化核酸の一例として、認証情報部位の両端にプライマー対応部位を備えたDNAの構造を示す概略図である。
【図3】本発明の実施例に用いた塗膜試験片の構造を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意且つ既知の塩基配列を有する部位を備えた情報化核酸を微粒子に担持させて成ることを特徴とする情報化核酸担持微粒子。
【請求項2】
上記微粒子の平均粒径が0.01〜60μmであることを特徴とする請求項1に記載の情報化核酸担持微粒子。
【請求項3】
上記微粒子100gに対して、0.5〜2000μgの情報化核酸が担持されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の情報化核酸担持微粒子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の情報化核酸担持微粒子を製造する方法であって、微粒子に滅菌蒸留水を加えて成る懸濁液に、上記情報化核酸及び/又は上記情報化核酸を滅菌蒸留水に溶解して成る溶液を加え、乾燥させることを特徴とする情報化核酸担持微粒子の製造方法。
【請求項5】
上記懸濁液に、アルコール、エステル、ケトン及び芳香族溶剤の中から選ばれる少なくとも1種の溶媒を添加することを特徴とする請求項4に記載の情報化核酸担持微粒子の製造方法。
【請求項6】
上記懸濁液にはアルコールが添加されており、滅菌蒸留水/アルコールの容量比が1〜99の範囲であることを特徴とする請求項5に記載の情報化核酸担持微粒子の製造方法。
【請求項7】
上記懸濁液にはアルコール以外の溶媒が添加されており、滅菌蒸留水/溶媒の容量比が2〜99の範囲であることを特徴とする請求項5又は6に記載の情報化核酸担持微粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−94807(P2006−94807A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−286555(P2004−286555)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(504367667)
【Fターム(参考)】