説明

情報記録媒体用ガラス基板の梱包方法、情報記録媒体用ガラス基板梱包体、情報記録媒体用ガラス基板の製造方法及び磁気記録媒体の製造方法

【課題】保管、搬送過程で、ガラス基板表面に新たな異物の付着が生じない、情報記録媒体用ガラス基板の梱包方法を提供する。
【解決手段】密閉された包装部材の内側の空間に含有される水分量が、10〜30g/m3であることを特徴とする情報記録媒体用ガラス基板の梱包方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報記録媒体用ガラス基板の梱包方法、情報記録媒体用ガラス基板梱包体、情報記録媒体用ガラス基板の製造方法及び磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気ディスク用基板としては、デスクトップ用コンピュータやサーバなどの据え置き型にはアルミニウム合金が使用され、ノート型コンピュータやモバイル型コンピュータなどの携帯型にはガラス基板が一般に使用されていた。しかし、アルミニウム合金は変形しやすく、硬さも不十分であるため、アルミ合金を使用した基板は研磨後の基板表面の平滑性が十分とは言えなかった。またアルミ合金を使用した基板では、ヘッドが磁気ディスクに接触する際、磁性膜が基板から剥離しやすいという問題もあった。そこで、変形が少なく、平滑性が良好で、かつ機械的強度の大きいガラス基板が、携帯型のみならず据え置き型の機器やその他の家庭用情報機器にも今後広く使用されていくものと予測されている。
【0003】
ところで、磁気ディスクの記録容量は、磁気ヘッドと磁気ディスク表面との距離を小さくするほど大きくできる。しかし、磁気ヘッドと磁気ディスク表面との距離を小さくした場合、ガラス基板の表面に異常突起があったり、異物の付着があったりすると、磁気ヘッドが磁気ディスク上の突起や異物に衝突する不具合が生じる。したがって、磁気ヘッドと磁気ディスク表面との距離を小さくして、磁気ディスクの記録容量を増大させるためには、ガラス基板の表面の異常突起や異物付着をなくす必要がある。そこでガラス基板表面を酸化セリウムなどの研磨剤を用いて研磨する研磨工程でガラス基板表面を平滑にし、面粗さをRmaxが2nmから6nm、算術平均粗さRaが0.2nmから0.4nmのレベルまで平滑にしている。その後、洗浄工程でイソプロピルアルコールや超純水などを用いて、超清浄な表面に洗浄している。
【0004】
しかし、このように超清浄にしたガラス基板表面は、雰囲気中のパーティクルダストなどの異物を吸着しやすい活性な状態となっている。そのため、研磨工程以降をクリーンルーム内で行うことが提案されているが、ガラス基板表面に磁性膜等を蒸着し、磁気ディスクにする製造設備がガラス基板の製造場所から離れている場合や、製造したガラス基板を顧客に出荷する場合は、ガラス基板を梱包して、保管、搬送する必要がある。
【0005】
ガラス基板を保管、搬送するときに、ガラス基板表面に異物等の付着が生じないように、特許文献1においては、一定枚数のガラス基板を保持した保持体をラミネートフィルムを用いて真空パックし、梱包体として保管、搬送する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2006−151435号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法を用いて梱包し、保管、搬送したガラス基板を用いて磁気ディスクを製造しても、磁気ディスク表面の異物に磁気ヘッドが衝突し、ヘッドクラッシュを起こす現象が発生し、歩留まりが延びないという問題があった。
【0007】
ガラス基板表面への異物付着の原因を調べると、梱包前のガラス基板表面には、ヘッドクラッシュを起こすレベルの異物は認められないが、梱包、搬送後に開梱したガラス基板表面にヘッドクラッシュを起こすレベルの新たな異物の付着が認められた。このことから特許文献1の方法を用いても、梱包体の状態でガラス基板表面に異物の付着が生じていることがわかる。
【0008】
そこで、本発明は、前述のような状況に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、情報記録媒体用ガラス基板を梱包し、保管、搬送して磁気記録媒体を製造する製造施設に配送しても、その保管、搬送過程で、ガラス基板表面に新たな異物の付着が生じない、情報記録媒体用ガラス基板の梱包方法、情報記録媒体用ガラス基板梱包体及び情報記録媒体用ガラス基板の製造方法を提供することにある。
【0009】
また、本発明の第2の目的は、このような情報記録媒体用ガラス基板梱包体により搬送されてきた情報記録媒体用ガラス基板を用いることにより良好な特性を有する磁気記録媒体を製造することができる磁気記録媒体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題は、以下の構成により解決される。
【0011】
1.
情報記録媒体用ガラス基板を保持体に保持させる保持工程と、
前記情報記録媒体用ガラス基板を保持した保持体を包装部材により包装する包装工程と、
水分量が10〜30g/m3の空間に前記情報記録媒体用ガラス基板を保持した保持体を密閉するよう、前記包装部材の開口部を密閉する密閉工程とを有することを特徴とする情報記録媒体用ガラス基板の梱包方法。
【0012】
2.
前記密閉工程において、前記情報記録媒体用ガラス基板を保持した保持体が密閉される空間の気圧を減圧することを特徴とする1に記載の情報記録媒体用ガラス基板の梱包方法。
【0013】
3.
前記気圧を、200〜600hPaの範囲に減圧することを特徴とする2に記載の情報記録媒体用ガラス基板の梱包方法。
【0014】
4.
少なくとも前記包装部材の開口部を密閉する密閉工程が、前記情報記録媒体用ガラス基板を保持した保持体が密閉される空間の水分量が6〜12g/m3の範囲になるよう、雰囲気の水分量が調節された作業室内で行われることを特徴とする1乃至3の何れか1項に記載の情報記録媒体用ガラス基板の梱包方法。
【0015】
5.
情報記録媒体用ガラス基板を保持する保持体と、
前記情報記録媒体用ガラス基板を保持した保持体を包装するとともに、水分量が10〜30g/m3の空間に前記情報記録媒体用ガラス基板を保持した保持体を密閉する包装部材と、
を有することを特徴とする情報記録媒体用ガラス基板梱包体。
【0016】
6.
前記空間の気圧が、200〜600hPaの範囲であることを特徴とする5に記載の情報記録媒体用ガラス基板梱包体。
【0017】
7.
1乃至4の何れか1項の情報記録媒体用ガラス基板の梱包方法を用いて、情報記録媒体用ガラス基板を梱包する梱包工程を有することを特徴とする情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【0018】
8.
5又は6に記載の情報記録媒体用ガラス基板梱包体から情報記録媒体用ガラス基板を取り出し、前記情報記録媒体用ガラス基板の表面に、少なくとも磁性層を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の情報記録媒体用ガラス基板の包装方法及び梱包体によれば、梱包体内部において浮遊する異物や、搬送時に梱包体内部で発生する異物などが、保管、搬送中にガラス基板表面に付着せず、洗浄後の超清浄な状態でガラス基板を磁気記録媒体を製造する製造施設に配送できる。よって、このような梱包方法によって梱包された情報記録媒体用ガラス基板を用いて磁気記録媒体を製造する場合、ヘッドクラッシュの発生が抑止された磁気記録媒体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明を図示の実施の形態に基づいて説明するが、本発明は該実施の形態に限らない。
【0021】
図1は、情報記録媒体用ガラス基板(以降、ガラス基板とも称する。)1の全体構成を示している。図1に示す様に、ガラス基板1は、中心に穴5が形成されたドーナツ状の円板形状をしている。10tは外周端面、20tは内周端面、7aは表主表面、7bは裏主表面を示している。また、図2は、図1で示したガラス基板1の表主表面7aの上に磁性膜2を備えている磁気記録媒体(以降、磁気ディスクとも称する。)Dの一例を示す図である。磁性膜2は裏主表面7bの上にも設けることができる。
【0022】
図3に本発明に係る情報記録媒体用ガラス基板の製造方法の一実施例の製造工程図を示す。ガラス溶融工程で溶融されたガラスは、プレス成型工程で円盤状に成型され、コアリング工程で中心に穴を形成した後、第1のラッピング工程で表面を研磨する。所定の内・外径に研削し、端面を研磨加工した後、第2のラッピング工程で表面の再研磨を行う。次にガラス基板表面の化学強化を行った後、研磨工程、洗浄工程を経て、ガラス基板表面の検査をして、梱包工程で梱包し、情報記録媒体用ガラス基板梱包体として出荷する。
【0023】
次に、情報記録媒体用ガラス基板梱包体は、搬送され、出荷先で情報記録媒体用ガラス基板梱包体から情報記録媒体用ガラス基板を取り出し、情報記録媒体用ガラス基板の表面に、少なくとも磁性層を形成することで磁気記録媒体を製造する。
【0024】
本発明に係る情報記録媒体用ガラス基板の梱包方法について図4を用いて説明する。図4は、梱包工程を分解した工程図である。図3の洗浄工程を終えたガラス基板は、検査工程でガラス基板表面のキズや異物の検査を行った後、合格となったガラス基板を、保持工程として、保持体に所定の枚数保持する。次に包装工程で、この保持体をラミネートフィルムなどの包装部材により包装する。そして、密閉工程において、包装部材の開口部を密閉し、梱包する。この梱包方法において、密閉された包装部材の内側の空間に含有する水分量は、10〜30g/m3である。水分量をこの範囲にすることにより、梱包体内部において、ガラス基板表面に水分子の薄い層が形成される。このような水分子の薄い層をガラス基板表面に形成すると、洗浄工程後、活性な状態にあったガラス基板表面の活性度が低下して、雰囲気中の異物の付着が抑えられる。よって、梱包体内部において浮遊する異物や、搬送時に梱包体内部で発生する異物などが、保管、搬送中にガラス基板表面に付着しにくくなり、清浄な表面を保ったまま情報記録媒体の製造施設に配送することができる。
【0025】
密閉された包装部材の内側の空間に含有される水分量が10g/m3未満になると、保管、搬送中にガラス表面への新たな異物の付着が多くなる。これは、水分量が6g/m3未満になると、十分にガラス基板の表面に水分子の薄い層を形成できず、活性な状態の表面が残るためであると考えられる。また、水分量が30g/m3を越えても保管、搬送中にガラス表面への新たな異物の付着が多くなる。これは、水分量が10〜30g/m3をえると、ガラス基板の表面に付着する水分子の量が多くなり、部分的な水滴が発生して、かえって浮遊する異物を取り込みやすくなっているためであると考えられる。
【0026】
また、本発明に係る情報記録媒体用ガラス基板の梱包方法における密閉工程において、包装部材の内部の気圧を減圧することが好ましい。減圧することにより、包装部材の内部の異物もある程度除去でき、好ましい。
【0027】
また、包装部材の内部の気圧を、200〜600hPaの範囲に減圧することが好ましい。200hPa未満になると、大気圧により梱包体に圧力が加わり、内部で、構成部材同士の擦れ、摩擦などにより異物が発生し、基板表面に付着しやすくなる。また、大気圧に耐えるために、梱包体の強度を上げる必要があり、重量が重くなるとともに製造費用も高くなり好ましくない。また、600hPaを越えると包装部材内部の異物除去の点で大きな効果が得られず好ましくない。
【0028】
また、本発明に係る情報記録媒体用ガラス基板の梱包方法において、少なくとも密閉工程は、密閉後、包装部材の内側の空間に含有される水分量が10〜30g/m3の範囲になるように、雰囲気の水分量が調節された作業室内で行われることが好ましい。作業室の雰囲気の水分量P1g/m3は、雰囲気の気圧をXhPa、減圧する包装部材内部の気圧をYhPa、包装部材の内側の空間に含有させたい水分量をP2g/m3とした場合、P1=P2×(X/Y)で算出することができる。また、特に水分量が調節されたクリーンルーム内で行うことが好ましい。このような作業室内で包装部材を密閉することにより、包装部材の内側の空間に含有される気体を容易に所定の水分量の範囲にすることができとともに、包装部材の内部への異物の混入を抑制することができる。
【0029】
また、調湿した気体を包装部材の内部に導入し、その後、減圧するようにしても良い。そのときの調湿した気体も、前記算出式で算出した水分量P1にしたものを用いる。特に、算出した水分量が、作業室内の温度では、飽和水分量を超える場合には、加温し、飽和水分量を上げた状態の気体を作成して、包装部材の内部に導入する方法を用いるのが好ましい。また、水そのものを包装部材の内部に入れ、梱包後、減圧した後、水蒸気になるようにしても良い。そのとき、梱包部材を加温して水蒸気になる過程を促進するようにしても良い。
【0030】
情報記録媒体用ガラス基板の製造方法に関して図3の製造工程図を用いて更に詳しく説明する。
(ガラス溶融工程)
まず、ガラス溶融工程として、ガラス素材を溶融する。ガラス基板の材料としては、例えば、SiO2、Na2O、CaOを主成分としたソーダライムガラス;SiO2、Al23、R2O(R=K、Na、Li)を主成分としたアルミノシリケートガラス;ボロシリケートガラス;Li2O−SiO2系ガラス;Li2O−Al23−SiO2系ガラス;R’O−Al23−SiO2系ガラス(R’=Mg、Ca、Sr、Ba)などを使用することができる。中でも、アルミノシリケートガラスやボロシリケートガラスは、耐衝撃性や耐振動性に優れるため特に好ましい。
(プレス成型工程)
次に、プレス成形工程として、溶融ガラスを下型に流し込み、上型によってプレス成形して円板状のガラス基板前駆体を得る。なお、円板状のガラス基板前駆体は、プレス成形によらず、例えばダウンドロー法やフロート法で形成したシートガラスを研削砥石で切り出して作製してもよい。
【0031】
ガラス基板の大きさに限定はない。例えば、外径が2.5インチ、1.8インチ、1インチ、0.8インチなど種々の大きさのガラス基板がある。また、ガラス基板の厚みにも限定はなく、2mm、1mm、0.63mmなど種々の厚みのガラス基板がある。
(コアリング加工工程)
プレス成形したガラス基板前駆体は、コアリング加工工程で、中心部に穴を開ける。穴開けは、カッター部にダイヤモンド砥石等を備えたコアドリル等で研削することで中心部に穴を開ける。
(第1ラッピング工程)
次に、第1ラッピング工程として、ガラス基板の両表面を研磨加工し、ガラス基板の全体形状、すなわちガラス基板の平行度、平坦度および厚みを予備調整する。
(内・外径精密加工工程)
次に、内・外径加工工程として、ガラス基板の外周端面および内周端面を、例えば鼓状のダイヤモンド等の研削砥石により研削することで内・外径加工する。
(端面研磨加工工程)
内・外径加工工程を終えたガラス基板を、複数積み重ねて、積層し、その状態で外周面及び内周面の研磨加工を、端面研磨機を用いて研磨する。
(第2ラッピング工程)
更に、ガラス基板の両表面を再び研磨加工して、ガラス基板の平行度、平坦度および厚みを微調整する。
【0032】
第1及び第2ラッピング工程にてガラス基板の表裏の表面を研磨する研磨機は、両面研磨機と呼ばれる公知の研磨機を使用できる。両面研磨機は、互いに平行になるように上下に配置された円盤状の上定盤と下定盤とを備えており、互いに逆方向に回転する。この上下の定盤の対向するそれぞれの面にガラス基板の主表面を研磨するための複数のダイヤモンドペレットが貼り付けてある。上下の定盤の間には、下定盤の外周に円環状に設けてあるインターナルギアと下定盤の回転軸の周囲に設けてあるサンギアとに結合して回転する複数のキャリアがある。このキャリアには、複数の穴が設けてあり、この穴にガラス基板をはめ込んで配置する。上下の定盤、インターナルギア及びサンギアは別駆動で動作することができる。
【0033】
研磨機の研磨動作は、上下の定盤が互いに逆方向に回転し、ダイヤモンドペレットを介して定盤に挟まれているキャリアは、複数のガラス基板を保持した状態で、自転しながら定盤の回転中心に対して下定盤と同じ方向に公転する。このような動作している研磨機において、研削液を上定盤とガラス基板及び下定盤とガラス基板との間に供給することでガラス基板の研磨を行うことができる。
【0034】
この両面研磨機を使用する際、ガラス基板に加わる定盤の加重及び定盤の回転数を所望の研磨状態に応じて適宜調整する。第1及び第2ラッピング工程における加重は、60g/cm2から120g/cm2とするのが好ましい。また、定盤の回転数は、10rpmから30rpm程度とし、上の定盤の回転数を下の定盤回転数より30%から40%程度遅くするのが好ましい。定盤による加重を大きくし、定盤の回転数を速くすると研磨量は多くなるが、加重を大きくしすぎると面粗さが良好とならず、また、回転数が速すぎると平坦度が良好とならない。また加重が小さく定盤の回転数が遅いと研磨量が少なく製造効率が低くなる。
【0035】
第2ラッピング工程を終えた時点で、大きなうねり、欠け、ひび等の欠陥は除去され、ガラス基板の主表面の面粗さは、Rmaxが2μmから4μm、Raが0.2μmから0.4μm程度とするのが好ましい。このような面状態にしておくことで、次の化学強化処理工程を経て第1ポリッシング工程で研磨を効率よく行うことができる。
【0036】
尚、第1ラッピング工程では、第2ラッピング工程を効率よく行うことができるように大まかに大きなうねり、欠け、ひびを効率よく除去する。このため、第2ラッピングで使用する粗さ#1300メッシュから#1700メッシュより粗い#800メッシュから#1200メッシュ程度のダイヤモンドペレットを使用するのが好ましい。第1ラッピング工程が完了した時点での面粗さは、Rmaxが4μmから8μmで、Raが0.4μmから0.8μm程度とするのが好ましい。
【0037】
また、ガラス基板を研磨する方法として、上下の定盤の研磨面にパッドを貼り付け、研磨剤を含む研磨液を供給して研磨する方法を用いることもできる。研磨剤としては、例えば、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化マンガン、コロイダルシリカ、ダイヤモンドなどが挙げられる。これらを水で分散化してスラリー状として使用する。パッドは硬質パッドと軟質パッドとに分けられるが、必要に応じて適宜選択して用いることができる。硬質パッドとしては、硬質ベロア、ウレタン発泡、ピッチ含有スウェード等を素材とするパッドが挙げられ、軟質パッドとしては、スウェードやベロア等を素材とするパッドが挙げられる。
【0038】
パッドと研磨剤を使用する研磨方法は、研磨剤の粒度やパッドの種類を変えて、粗研磨から精密研磨まで対応することができる。よって、第1ラッピング工程と第2ラッピング工程で、効率よく大きなうねり、欠け、ひび等を除去し上記の面粗さを得ることができる様に研磨材、研磨材の粒度、パッドを適宜組み合わせて対応することができる。
【0039】
また、第1及び第2ラッピング工程の後、ガラス基板の表面に残った研磨剤やガラス粉を除去するための洗浄工程を行うことが好ましい。
【0040】
尚、第1ラッピング工程及び第2ラッピング工程で使用する研磨機は、同一構成ではあるがそれぞれの工程専用に用意された別の研磨機を用いて研磨加工を行うのが好ましい。これは、専用のダイヤモンドペレットを貼り付けているため交換が大掛かりな作業となり、また、研磨条件を再設定する等の煩雑な作業が必要となり、製造効率が低下するためである。
(化学強化処理工程)
第2ラッピング工程の次に、化学強化処理工程として、化学強化液にガラス基板を浸漬してガラス基板に化学強化層を形成する。化学強化層を形成することで耐衝撃性、耐振動性及び耐熱性等を向上させることができる。
【0041】
化学強化処理工程は、加熱された化学強化処理液にガラス基板を浸漬することによってガラス基板に含まれるリチウムイオン、ナトリウムイオン等のアルカリ金属イオンをそれよりイオン半径の大きなカリウムイオン等のアルカリ金属イオンによって置換するイオン交換法によって行われる。イオン半径の違いによって生じる歪みより、イオン交換された領域に圧縮応力が発生し、ガラス基板の表面が強化される。
【0042】
化学強化処理液に特に制限はなく、公知の化学強化処理液を用いることができる。通常、カリウムイオンを含む溶融塩又はカリウムイオンとナトリウムイオンをふくむ溶融塩を用いることが一般的である。カリウムイオンやナトリウムイオンを含む溶融塩としては、カリウムやナトリウムの硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩やこれらの混合溶融塩が挙げられる。中でも、融点が低く、ガラス基板の変形を防止できるという観点からは、硝酸塩を用いることが好ましい。
【0043】
化学強化処理液は、上記の成分が融解する温度よりも高温になるよう加熱される。一方、化学強化処理液の加熱温度が高すぎると、ガラス基板の温度が上がりすぎ、ガラス基板の変形を招く恐れがある。このため、化学強化処理液の加熱温度はガラス基板のガラス転移点(Tg)よりも低い温度が好ましく、ガラス転移点−50℃よりも低い温度とすることが更に好ましい。
【0044】
なお、加熱された化学強化処理液に浸漬される際の熱衝撃によるガラス基板の割れや微細なクラックの発生を防止するため、化学強化処理液への浸漬に先立って、予熱槽でガラス基板を所定温度に加熱する予熱工程を有していても良い。
【0045】
化学強化層の厚みとしては、ガラス基板の強度向上とポリッシング工程の時間の短縮との兼ね合いから、5μm〜15μm程度の範囲が好ましい。強化層の厚みがこの範囲の場合、平坦度、機械的強度である耐衝撃性が良好なガラス基板とすることができる。
【0046】
化学強化処理工程後の表主表面7a及び裏主表面7bの外周端部の形状は、化学強化処理工程前とほとんど変わらず、上記の5μm〜15μm程度の化学強化層がガラス基板の表面全体にほぼ一様に載った状態となる。
(研磨工程)
次に、研磨工程としてのポリッシング工程を行う。
【0047】
ポリッシング工程では、ガラス基板の表面を精密に仕上げると伴に主表面の外周端部の形状を所定の形状に研磨する。ポリッシング工程は1工程でも良いが、2工程の方が好ましい。
【0048】
まず、第1ポリシング工程では、第2ポリッシング工程で最終的に必要とされる面粗さを効率よく得ることができるように、面粗さを向上させるとともに最終的に本発明の形状を効率よく得ることができる研磨を行う。
【0049】
研磨の方法は、ラッピング工程で使用したダイヤモンドペレットと研削液に代えて、パッドと研磨液を使用する以外は第1及び2ラッピング工程で使用した研磨機と同一の構成の研磨機を使用する。
【0050】
パッドは硬度Aで80から90程度の硬質パッドで例えば発泡ウレタンを使用するのが好ましい。パッドの硬度が研磨による発熱により柔らかくなると研磨面の形状変化が大きくなるため硬質パッドを用いるのが好ましい。研磨材は、粒径が0.6μmから2.5μmの酸化セリウム等を水に分散させてスラリー状にして用いるのが好ましい。水と研磨剤との混合比率は、概ね1:9から3:7程度が好ましい。
【0051】
定盤によるガラス基板への加重は、90g/cm2から110g/cm2とするのが好ましい。定盤によるガラス基板への加重は、外周端部の形状に大きく影響する。加重を大きくしていくと、外周端部の内側が下がり外側に向かって上がる傾向を示す。また、加重を小さくしていくと、外周端部は平面に近くなるとともに面ダレが大きくなる傾向を示す。こうした傾向を観察しながら加重を決めることができる。
【0052】
また、面粗さを向上させるために、定盤の回転数を25rpmから50rpmとし、上の定盤の回転数を下の定盤回転数より30%から40%遅くするのが好ましい。
【0053】
上記の研磨条件により研磨量を30μmから40μmとするのが好ましい。30μm未満では、キズや欠陥を十分に除去ができない。また40μmを超える場合は、面粗さをRmaxが2nmから60nm、Raが2nmから4nmの範囲とすることができるが、必要以上に研磨を行うことになり製造効率が低下する。
【0054】
第2ポリッシング工程は、第1ポリッシング工程後のガラス基板の表面を更に精密に研磨する工程である。第2ポリッシング工程で使用するパッドは、第1ポリッシング工程で使用するパッドより柔らかい硬度65から80(Asker−C)程度の軟質パッドで、例えば発泡ウレタンやスウェードを使用するのが好ましい。研磨材としては、第1ポリッシング工程と同様の酸化セリウム等を用いることができるが、ガラス基板の表面をより滑らかにするため、粒径がより細かくバラツキが少ない研磨剤を用いるのが好ましい。粒径の平均粒子径が40nmから70nmの研磨剤を水に分散させてスラリー状にして研磨液として用い、水と研磨剤との混合比率は、1:9から3:7程度が好ましい。
【0055】
定盤によるガラス基板への加重は、90g/cm2から110g/cm2が好ましい。定盤によるガラス基板への加重は、第1ポリッシング工程と同様に外周端部の形状に大きく影響するが、研磨速度が遅いため第1ポリッシング工程ほど効率的に形状を変化させることはできない。加重の加減による外周端部の形状の変化は、第1ポリッシング工程と同様であり、加重を大きくしていくと、外周端部の内側が下がり外側に向かって上がる傾向を示す。また、加重を小さくしていくと、外周端部は平面に近くなるとともに面ダレが大きくなる傾向を示す。外周端部の形状を得るために、こうした傾向を観察しながら加重を決めることができる。定盤の回転数を15rpmから35rpmとし、上定盤の回転数を下定盤の回転数より30%から40%遅くするのが好ましい。
【0056】
上記の様に第2ポリッシング工程での研磨条件を調整して外周端部の形状を得ると伴に、面粗さをRmaxが2nmから6nm、Raが0.2nmから0.4nmの範囲とすることができる。
【0057】
研磨量は2μmから5μmとするのが好ましい。研磨量をこの範囲とすると、表面に発生した微小な荒れやうねり、これまでの工程で生じた微小な傷痕といった微小な欠陥を効率良く除去することができる。
(洗浄工程)
次に、研磨工程であるポリッシング工程を終えた後に洗浄工程でガラス基板表面に付着している研磨材や異物等の洗浄を行う。
【0058】
洗浄方法は、特に限定しないが、スクラブ洗浄を例に説明する。
【0059】
スクラブ洗浄装置の一例を図5に示す。図5のスクラブ洗浄装置は、圧接する一対の回転ローラであるスポンジローラ10a,10bのニップ部でガラス基板1を挟み込み、上部に配設されたノズル20から洗浄液30をスポンジローラ10a,10bとガラス基板1との接触部近傍に滴下又はスプレー噴霧しながら、前記一対のスポンジローラ10a,10bを互いに逆方向に回転させると同時に、ガラス基板Gも回転させることによりガラス基板Gの表裏面全体を洗浄するものである。
【0060】
スクラブ洗浄の洗浄条件としては、2つのローラ10a,10bの回転数はそれぞれ同一でもよいし、必要に応じてそれぞれ異なる回転数としても構わない。ローラの回転数としては一般に100〜1000rpmの範囲であり、より好ましくは300〜500rpmの範囲である。またガラス基板Gの回転数としては一般に50〜500rpmの範囲であり、より好ましくは100〜300rpmの範囲である。洗浄液30の供給速度は一般に10〜1000ml/分の範囲、より好ましくは50〜500ml/分の範囲である。スクラブ洗浄の時間は一般に5〜150秒の範囲、より好ましくは10〜100秒の範囲である。
【0061】
なお、スクラブ部材としては図1に示したスポンジローラの他、従来公知のブラシやパッドなどを用いてももちろん構わない。
【0062】
スポンジローラ10a,10bとしては、特に限定されず、例えば、セルローススポンジ、ポリビニルアルコールスポンジ、ウレタンフォーム、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)スポンジ、メラミンフォーム、ポリエチレンフォーム等の樹脂系スポンジ、天然ゴム(NR)スポンジ、クロロプレンゴム(CR)スポンジ、エチレン−プロピレンゴム(EPDM)スポンジ、ブタジエン−アクリロニトリルゴムスポンジ等のゴム系スポンジ等で構成することができる。この中でも、スポンジ部分は、樹脂系スポンジで構成、すなわち樹脂を主材料として構成されているのが好ましい。また、前記樹脂は、ポリウレタン、メラミン樹脂、セルロース、ポリビニルアルコール等の親水性ポリマーであるのが好ましい。これにより、スポンジ部分による汚れ等の保持能力および洗浄液の担持能力をより優れたものとすることができ、また、ガラス基板との接触面積も多くなり、より、汚れの除去能力があがる。さらにスポンジへの過酸化水素水の添加を行ないスポンジ表面の親水性を向上させて汚れの除去能力を高めることができる。
【0063】
また、スポンジ部分は、隣接する空孔同士が連通しているのが好ましい。これにより、スポンジ部分を構成する多孔質体の空孔内により多くの汚れや洗浄液等を収容して、スポンジ部分による汚れ等の保持能力および洗浄液の担持能力をより優れたものとすることができる。
【0064】
スポンジ部分の空孔率が、20〜80%であるのが好ましく、30〜70%であるのがより好ましい。これにより、スポンジ部の強度や弾性等の特性を所望のものとしつつ、スポンジ部による汚れ等の保持能力および洗浄液の担持能力をより優れたものとすることができる。
【0065】
スポンジ部分は、その硬度が30〜70°であるのが好ましく、35〜55°であるのがより好ましい。これにより、スポンジ部分の強度や弾性等の特性を所望のものとしつつ、スポンジ部分による汚れ等の保持能力および洗浄液の担持能力をより優れたものとすることができる。なお、ここで、硬度とは、JIS K7312に準拠して測定されたものをいう。
【0066】
また、ガラス基板表面の研磨剤や異物などを効果的に除去するには、スクラブ洗浄を行う前に前述の洗浄液と同じ液体にガラス基板を接触させておくのが好ましい。接触させておく時間については特に限定はないが、ガラス基板表面に強固に付着した研磨剤や異物を、液体による若干の浸食作用によっては浮き上がらせるためには10分間以上接触させるのが好ましい。一方、ガラス基板の液体への接触時間が長いほど研磨剤や異物のガラス基板表面からの除去は容易となるが、ガラス基板の生産性が低下するので、好ましい接触時間は5〜30分間の範囲である。またガラス基板表面に異物が付着するのを防止する観点からは、スクラブ洗浄直前までガラス基板を液体と接触させておくことが推奨される。
【0067】
ガラス基板表面を液体と接触させる形態としては、液体を貯溜した容器内にガラス基板を浸漬する形態や、ガラス基板に対して液体を散水する形態、液体を含浸させた布をガラス基板に被覆する形態など従来公知の形態を採用することができる。この中でも、ガラス基板表面全体が確実且つ均一に液体と接触できる点で、ガラス基板を液体に浸漬させる形態が好ましい。
【0068】
このようにして、スクラブ洗浄がなされ、ガラス基板表面に付着した研磨剤や異物が除去される。
【0069】
次に、ガラス基板表面に残る洗浄液をIPA等を用いて除去し、基板表面を乾燥させる。例えば、スクラブ洗浄後のガラス基板に、水リンス洗浄工程を2分間行ない、洗浄液の残渣を除去する。次に、IPA(イソプロピルアルコール)洗浄工程を2分間行い、基板上の水を除去する。最後に、IPA(イソプロピルアルコール)蒸気乾燥工程を2分間行い、基板に付着している液状IPAをIPA蒸気により除去しつつ乾燥させる。基板の乾燥処理としてはこれに限定されるわけではなく、スピン乾燥、エアーナイフ乾燥などガラス基板の乾燥方法として一般的に知られた方法であってももちろん構わない。
(検査工程)
洗浄工程後に、最終検査として、ガラス基板にキズや欠け、異物等の付着を目視により検査し、異常のないものを選別する。
(梱包工程)
検査工程で異常の無かったガラス基板は、図4に示す梱包工程により梱包する。梱包工程は、ガラス基板を保持体に保持する工程と、ガラス基板を保持した保持体を包装部材により包装する工程と、包装部材の開口部を密閉する工程の3つの工程を有している。まず、保持工程として、ガラス基板を保持体に保持する。この保持工程に用いる保持体としては、図6に示すような保持体600を用いることができる。図6は、保持体600の全体を示す分解斜視図である。保持体600は、複数のガラス基板1と、ガラス基板1を収納する収納容器60、上蓋61、上蓋61に取り付けられ、収納容器60に収納されたガラス基板1を固定する固定部材63からなっている。固定部材63は、ガラス基板1の外周端部を抑える抑え板64を有している。
【0070】
収納容器60は、側板65、66と、該側板65、66を連結し、U字形状の開口を持つ連結板67、68と、収納容器60の下部を構成する底板69からなり、側板65、66の内壁には、複数のリブ70がガラス基板1の厚みより広い、所定の間隔で形成されている。このように複数のリブ70を形成することで、ガラス基板1をその厚み方向に所定の間隔で支持する複数の溝71を形成している。
【0071】
保持体600を構成する収納容器60や上蓋61、固定部材63、抑え板64は、おもに樹脂材料からなる。これらを製造するにあたっては、一例として、樹脂成形方法を用いることができる。この樹脂成形工程では、各種ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、テフロン(登録商標)等の一般的な樹脂を用いることができる。特に、射出成形法により製造する場合、樹脂としては、例えば、ポリカーボネート、ポリアミド、サーモトロピック液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、PEEK系アロイ樹脂(例えば、PEEK/サーモトロピック液晶ポリマー、PEEK/ポリベンゾイミダゾール(PBI)等)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂等を用いることができる。また、研削砥石を用いて、所定の形状の溝に作成することもできる。
【0072】
図7は、収納容器60にガラス基板1を収納した状態を連結板67側から見た側面図である。ガラス基板1は、互いに対向配置された一対の溝71に支持されている。側板65、66の内壁の間隔は、上方の開口側は、ガラス基板1の外径よりわずかに大きく、上方からガラス基板1を挿入できるようになっている。また、下方の底板69側に近づくにつれて、側板65、66の内壁の間隔は狭くなり、溝71のP1とP2でガラス基板10の外周端部と接触している。
【0073】
このように収納容器60に所定の枚数のガラス基板1を収納し、図6における固定部材63を取り付けた上蓋61で蓋をして、ガラス基板を保持した状態にする。
【0074】
次に、このガラス基板を保持した保持体600を、包装工程として、包装部材200で包装し、更に、密閉工程として、包装部材200の開口部201を密閉して、図8に示すような情報記録媒体用ガラス基板梱包体300を作製する。
【0075】
包装部材としては、水蒸気の遮断性に優れた材料であれば良く、好ましくは、水蒸気透過率が5g/m2/day以下の包装部材が好ましい。具体的には、プラスチックフィルムに金属膜又は酸化物膜を設けた包装部材が好ましい。また、包装部材の開口部を密閉するので、ラミネータを用いて熱圧着で容易に封止できる包装部材が好ましく、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン等のフィルムにアルミ蒸着を施したラミネートフィルムが好ましい。
【0076】
密閉工程においては、包装部材の内部の気圧を減圧することが好ましく、200〜600hPaの範囲に減圧することがより好ましい。この減圧は、ラミネータフィルムを熱圧着する際に真空ポンプを用いて包装部材の内部の気圧を上記範囲に調節することで行うことができる。
【0077】
また、この梱包工程を行う作業室は、密閉された包装部材の内側の空間に含有される水分量が10〜30g/m3の範囲になるように、雰囲気の水分量が調節されていることが好ましい。このような作業環境で梱包工程を行うことで、情報記録媒体用ガラス基板梱包体300の内部の水分量を所定の量に容易に調節することができる。
【0078】
情報記録媒体用ガラス基板梱包体300の内部の水分量は、電気式湿度計をセットしたダミーの梱包体を作成して、密閉後に測定することができる。また、他の方法としては、作成した梱包体を真空装置内にいれ、その中で開封して、真空装置内の水分量を測定するようにしても良い。特に測定方法は、限定するものではなく、一般的な測定装置を用いることができる。
【0079】
なお、洗浄工程〜梱包工程までを、雰囲気の水分量が調節されたクリーンルーム内で行うのがより好ましい。また、クリーンルーム内の清浄度は、1立方フィートの雰囲気中に存在する0.5μm以上のパーティクルの数として定義したとき、クラス50000以下であることが好ましく、10000以下であることが更に望ましい。このような清浄度にすることで、情報記録媒体用ガラス基板の製造工程中にガラス基板表面に付着する異物をさらに低減させることができる。
【0080】
以上のようにして情報記録媒体用ガラス基板梱包体300が作製され、一定期間保管された後、磁気記録媒体を製造する製造施設に搬送される。
【0081】
次に、上記のようにして作製したガラス基板を用いた磁気記録媒体の製造方法について説明する。
【0082】
以下、図面に基づき磁気記録媒体及び磁気記録媒体の製造方法について説明する。
【0083】
図2は磁気記録媒体の一例である磁気ディスクの斜視図である。この磁気ディスクDは、円形の情報記録媒体用ガラス基板1の表面に磁性膜2を直接形成されている。
【0084】
搬送されてきた情報記録媒体用ガラス基板梱包体から、情報記録媒体用ガラス基板が取り出され、該情報記録媒体用ガラス基板の表面に磁性膜を形成する。
【0085】
磁性膜2の形成方法としては従来公知の方法を用いることができ、例えば磁性粒子を分散させた熱硬化性樹脂を基板上にスピンコートして形成する方法や、スパッタリング、無電解めっきにより形成する方法が挙げられる。スピンコート法での膜厚は約0.3μm〜1.2μm程度、スパッタリング法での膜厚は0.04μm〜0.08μm程度、無電解めっき法での膜厚は0.05μm〜0.1μm程度であり、薄膜化および高密度化の観点からはスパッタリング法および無電解めっき法による膜形成が好ましい。
【0086】
磁性膜に用いる磁性材料としては、特に限定はなく従来公知のものが使用できるが、高い保持力を得るために結晶異方性の高いCoを基本とし、残留磁束密度を調整する目的でNiやCrを加えたCo系合金などが好適である。具体的には、Coを主成分とするCoPt、CoCr、CoNi、CoNiCr、CoCrTa、CoPtCr、CoNiPtや、CoNiCrPt、CoNiCrTa、CoCrPtTa、CoCrPtB、CoCrPtSiOなどが挙げられる。磁性膜は、非磁性膜(例えば、Cr、CrMo、CrVなど)で分割しノイズの低減を図った多層構成(例えば、CoPtCr/CrMo/CoPtCr、CoCrPtTa/CrMo/CoCrPtTaなど)としてもよい。上記の磁性材料の他、フェライト系、鉄−希土類系や、SiO2、BNなどからなる非磁性膜中にFe、Co、FeCo、CoNiPt等の磁性粒子を分散された構造のグラニュラーなどであってもよい。また、磁性膜は、内面型および垂直型のいずれの記録形式であってもよい。
【0087】
また、磁気ヘッドの滑りをよくするために磁性膜の表面に潤滑剤を薄くコーティングしてもよい。潤滑剤としては、例えば液体潤滑剤であるパーフロロポリエーテル(PFPE)をフレオン系などの溶媒で希釈したものが挙げられる。
【0088】
さらに必要により下地層や保護層を設けてもよい。磁気ディスクにおける下地層は磁性膜に応じて選択される。下地層の材料としては、例えば、Cr、Mo、Ta、Ti、W、V、B、Al、Niなどの非磁性金属から選ばれる少なくとも一種以上の材料が挙げられる。Coを主成分とする磁性膜の場合には、磁気特性向上等の観点からCr単体やCr合金であることが好ましい。また、下地層は単層とは限らず、同一又は異種の層を積層した複数層構造としても構わない。例えば、Cr/Cr、Cr/CrMo、Cr/CrV、NiAl/Cr、NiAl/CrMo、NiAl/CrV等の多層下地層としてもよい。
【0089】
磁性膜の摩耗や腐食を防止する保護層としては、例えば、Cr層、Cr合金層、カーボン層、水素化カーボン層、ジルコニア層、シリカ層などが挙げられる。これらの保護層は、下地層、磁性膜など共にインライン型スパッタ装置で連続して形成できる。また、これらの保護層は、単層としてもよく、あるいは、同一又は異種の層からなる多層構成としてもよい。なお、上記保護層上に、あるいは上記保護層に替えて、他の保護層を形成してもよい。例えば、上記保護層に替えて、Cr層の上にテトラアルコキシシランをアルコール系の溶媒で希釈した中に、コロイダルシリカ微粒子を分散して塗布し、さらに焼成して二酸化ケイ素(SiO2)層を形成してもよい。
【0090】
上記のような磁気記録媒体の製造方法を用いて、製造された磁気記録媒体を用いることで、ヘッドクラッシュの発生を抑止でき、高速回転時の磁気ヘッドの動作を安定にすることができる。
【0091】
本発明の情報記録媒体用ガラス基板は、磁気記録媒体に限定されるものではなく、光磁気ディスクや光ディスクなどにも用いることができる。
【実施例】
【0092】
(実施例1〜11、比較例1〜8)
(1)ガラス溶融、プレス成型工程
ガラス材料としてTgが480℃のアルミノシリケートガラスを用い、溶融ガラスをプレス成形してブランク材(外径68mm、厚さ1.3mm)を作製した。
(2)コアリング工程
次に円筒状のダイヤモンド砥石を用いてガラス基板の中心部に円穴(直径18mm)を開けた。
(3)第1ラッピング工程
ガラス基板の両表面を研磨機(HAMAI社製)を用いて研磨した。
【0093】
研磨条件としては、ダイヤモンドペレットとしては、#1200メッシュを用い、荷重100g/cm2とし、上定盤の回転数30rpm、下定盤の回転数10rpmとした。
【0094】
得られたガラス基板の厚さは、0.9mm、表面粗さはRmaxが1.5μm、Raが1.0μmであった。
(4)内・外径精密加工工程
鼓状のダイヤモンド砥石により内・外径加工をい、内径20mm、外径65mmとした。
(5)端面研磨加工工程
内・外加工工程を終えて得られたガラス基板を100枚重ね、端面研磨機を用いて、内周及び外周の端面を研磨した。
【0095】
研磨機のブラシ毛は、直径0.2mmのナイロン繊維を用いた。研磨液は、粒径3μmの酸化セリウムを用いた。得られたガラス基板の内周の端面の面粗さは、Rまxが0.3μm、Raが0.03μmであった。
(6)第2ラッピング工程
ガラス基板の両表面を研磨機(HAMAI社製)を用いて研磨した。
【0096】
研磨条件としては、ダイヤモンドペレットとしては、#1200メッシュを用い、荷重100g/cm2とし、上定盤の回転数30rpm、下定盤の回転数10rpmとした。
【0097】
得られたガラス基板の表面粗さはRmaxが3μm、Raが0.3μmであった。
(7)化学強化処理工程
次に、ガラス基板を化学強化処理液に浸漬して化学強化処理工程を行った。化学強化処理液には、硝酸カリウム(KNO3)と硝酸ナトリウム(NaNO3)の混合溶融塩を用いた。混合比は質量比で1:1とした。また、化学強化処理液の温度は400℃、浸漬時間は40分とした。
(8)研磨工程
次に研磨工程の第1ポリッシング工程として、研磨機(HAMAI社製)を用い、パッドに硬度Aで80度の発泡ウレタンを用いた。研磨材は、平均粒径1.5μmの酸化セリウムを水に分散させてスラリー状にして用いた。水と研磨剤との混合比率は、2:8とした。荷重100g/cm2とし、上定盤の回転数30rpm、下定盤の回転数10rpmとした。研磨量を30μmとした。
【0098】
得られたガラス基板の表面粗さはRmaxが30nm、Raが3nmであった。
【0099】
次に第2ポリッシング工程として、研磨機(HAMAI社製)を用い、パッドに硬度Aで70度の発泡ウレタンを用いた。研磨材は、平均粒径60nmの酸化セリウムを水に分散させてスラリー状にして用いた。水と研磨剤との混合比率は、2:8とした。荷重90g/cm2とし、上定盤の回転数30rpm、下定盤の回転数10rpmとした。研磨量を3μmとした。
【0100】
得られたガラス基板の表面粗さはRmaxが5nm、Raが0.3nmであった。
(9)洗浄工程
第2ポリッシング工程の終了後、図5に示した洗浄装置でスクラブ洗浄を行った。洗浄液としては、過酸化水素濃度が0.5質量%の過酸化水素水を用いて、スクラブ洗浄を行った。洗浄液の供給は、スプレー噴霧によって、スクラブ洗浄開始3秒前からスクラブ洗浄終了時まで連続して、毎分100mlの量を供給した。スクラブ部材のスポンジとしては、ポリビニルアルコールスポンジを用いた。空隙率は、50%で、硬度は、45°(JIS K7312)であった。スポンジローラ10a、10bの回転数は、300rpmとした。ガラス基板1の回転数は、200rpmとした。スクラブ洗浄後のガラス基板に、水リンス洗浄工程を2分間行ない、次に、IPA(イソプロピルアルコール)洗浄工程を2分間行い、最後に、IPA(イソプロピルアルコール)蒸気乾燥工程を2分間行い、乾燥させた。
(10)検査工程
洗浄工程後に、ガラス基板にキズや欠け、異物等の付着を目視により検査し、明らかにキズや欠け、付着物の認められるものを除去した。
(11)梱包工程
検査工程を終えたガラス基板の表面を日立ハイテクノロジーズ社製微小欠陥測定機(ODT:RZ350)を用いて、ガラス基板表面に付着した高さ10nm以上の異物の個数をカウントし、梱包前評価とした。
【0101】
梱包前評価を行った後、図4に示す梱包工程により梱包した。まず、保持工程として、図6に示す保持体600にガラス基板を25枚ずつ保持した。保持体600の樹脂材料としては、ポリカーボネートを用いた。次に、このガラス基板を保持した保持体600を、包装工程として、包装部材200で包装し、更に、密閉工程として、包装部材200の開口部201を密閉して、図8に示すような情報記録媒体用ガラス基板梱包体300を作製した。包装部材には、ポリプロピレンフィルム(フィルム厚さ40μm)にアルミ蒸着を施したラミネートフィルムを用いた。また、密閉工程におけるラミネーターとしては、富士インパルス社製の真空バギング装置を用い、包装部材の内部の気圧を表1に示す気圧になるように減圧して密閉した。
【0102】
なお、洗浄工程から、検査工程、梱包工程までは、清浄度クラス100のクリーンルーム内で行った。密閉した包装部材の内側の空間に含有される水分量が表1に示す値になるように、クリーンルーム内の雰囲気の水分量の調整、及び、密閉前の包装部材への水の添加を行った。
【0103】
以上のようにして、実施例1〜11及び比較例1〜8の情報記録媒体用ガラス基板梱包体を作成し、清浄度クラス100の部屋に24時間保管した。その後、清浄度クラス100のクリーンルーム内で、情報記録媒体用ガラス基板梱包体を開封し、ガラス基板の表面を日立ハイテクノロジーズ社製微小欠陥測定機(ODT:RZ350)を用いて、ガラス基板表面に付着した高さ10nm以上の異物の個数をカウントし、梱包保管後の評価とした。
(評価)
実施例1〜11及び比較例1〜8において、各ガラス基板の梱包前の異物の個数を梱包保管後の異物の個数から引き、増加した異物の個数を算出した。次に、各情報記録媒体用ガラス基板梱包体毎の25枚分の増加個数を合計した。この合計個数が、5個未満を◎、5個以上10個未満を○、10個以上20個未満を△、20個以上を×とした。なお、合計個数が10個以上になると磁気ディスクでのヘッドの読み取りエラーの発生が高くなるので10個未満が製品として要求される。
【0104】
評価結果を表1に示す。
【0105】
【表1】

【0106】
表1の結果から、実施例1〜11と比較例1〜8とを比べると、密閉された包装部材の内側の空間に含有される水分量が、10〜30g/m3の範囲にすることにより、磁気記録媒体にしたときのヘッドの読み取りエラーが少なく、保管時の異物付着が抑制されていることがわかる。また、実施例1〜11を比較すると、包装部材の内部の気圧を、200〜600hPaの範囲に減圧することにより、より、保管時の異物付着が少なくなっていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】情報記録媒体用ガラス基板の全体構成を示す図である。
【図2】情報記録媒体用ガラス基板の表主表面の上に磁性膜を備えている磁気記録媒体の例を示す図である。
【図3】情報記録媒体用ガラス基板の製造における工程を説明する製造工程図である。
【図4】本発明に係る梱包方法の工程を説明するための工程図である。
【図5】スクラブ洗浄装置の一例を示す概説図である。
【図6】ガラス基板を保持するための保持体を示す概略図である。
【図7】収納容器にガラス基板を収納した状態を連結板側から見た側面図である。
【図8】本発明に係る情報記録媒体用ガラス基板梱包体を示す概略図である。
【符号の説明】
【0108】
1 情報記録媒体用ガラス基板(ガラス基板)
2 磁性膜
5 穴
7a 表主表面
7b 裏主表面
10t 外周端面
20t 内周端面
10a,10b スポンジローラ
20 ノズル
30 洗浄液
60 収納容器
61 上蓋
63 固定部材
64 抑え板
65、66 側板
67、68 連結板
69 底板
70 リブ
71 溝
200 包装部材
201開口部
300 情報記録媒体用ガラス基板梱包体
600 保持体
D 磁気ディスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報記録媒体用ガラス基板を保持体に保持させる保持工程と、
前記情報記録媒体用ガラス基板を保持した保持体を包装部材により包装する包装工程と、
水分量が10〜30g/m3の空間に前記情報記録媒体用ガラス基板を保持した保持体を密閉するよう、前記包装部材の開口部を密閉する密閉工程とを有することを特徴とする情報記録媒体用ガラス基板の梱包方法。
【請求項2】
前記密閉工程において、前記情報記録媒体用ガラス基板を保持した保持体が密閉される空間の気圧を減圧することを特徴とする請求項1に記載の情報記録媒体用ガラス基板の梱包方法。
【請求項3】
前記気圧を、200〜600hPaの範囲に減圧することを特徴とする請求項2に記載の情報記録媒体用ガラス基板の梱包方法。
【請求項4】
少なくとも前記包装部材の開口部を密閉する密閉工程が、前記情報記録媒体用ガラス基板を保持した保持体が密閉される空間の水分量が6〜12g/m3の範囲になるよう、雰囲気の水分量が調節された作業室内で行われることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の情報記録媒体用ガラス基板の梱包方法。
【請求項5】
情報記録媒体用ガラス基板を保持する保持体と、
前記情報記録媒体用ガラス基板を保持した保持体を包装するとともに、水分量が10〜30g/m3の空間に前記情報記録媒体用ガラス基板を保持した保持体を密閉する包装部材と、
を有することを特徴とする情報記録媒体用ガラス基板梱包体。
【請求項6】
前記空間の気圧が、200〜600hPaの範囲であることを特徴とする請求項5に記載の情報記録媒体用ガラス基板梱包体。
【請求項7】
請求項1乃至4の何れか1項の情報記録媒体用ガラス基板の梱包方法を用いて、情報記録媒体用ガラス基板を梱包する梱包工程を有することを特徴とする情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項8】
請求項5又は6に記載の情報記録媒体用ガラス基板梱包体から情報記録媒体用ガラス基板を取り出し、前記情報記録媒体用ガラス基板の表面に、少なくとも磁性層を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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