説明

感作性発現検定方法

【課題】化学物質の感作性発現検定方法を提供すること。
【解決手段】(a)被験物質を有機電解反応に供する工程;及び、
(b)蛍光システイン誘導体と、有機電解反応に供した被検物質とを混合させる工程:及び
(c)結合物の有無を機器分析により判定する工程:
を有する化学物質の感作性発現検定方法。
有機電解反応が、被験物質の溶液に陰電極、陽電極を浸漬し、電源供給装置を用いて通電することを特徴とする感作性発現検定方法。
蛍光システイン誘導体が、システインと該システインを標識する蛍光色素を含む蛍光システイン誘導体であって、該蛍光色素が発色部構造と、システインと発色部とを結合するスペーサー構造を有することを特徴とする蛍光システイン誘導体である感作性発現検定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質の感作性発現の検定方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
化学物質が皮膚に接触するとアレルギー反応が惹起されることがあることから、例えば医・農薬や化粧品等の化学物質を含む製品を工業的に開発するに当たっては、その内容物質の感作性を検定することが必要となる。近年、従来から行われている動物実験での感作性判定方法の煩雑さを回避するため、感作性が表皮のランゲルハンス細胞タンパク質への結合に起因した抗原抗体反応であることに基づき、タンパク質模倣体としてのシステイン誘導体と被験物質との結合物の有無を液体クロマトグラフィー等で判定する方法が報告されている。(例えば、特許文献1及び2、非特許文献1及び2)。しかしながら、感作性物質によってはそれ自体がタンパク質結合性を持たず、経皮吸収後、代謝により活性化を受けて反応性代謝物に変換されることによりタンパク質結合性を持つ場合がある。その際、単純なシステイン誘導体との結合物有無によるインビトロ評価方法での判定においては偽陰性結果が示され、インビボ評価法の結果とは必ずしも一致しない場合がある。
【0003】
このような観点から、被験物質を肝S9 ミックス(薬物代謝酵素系)存在下にインビトロ評価方法であるヒト単核球細胞上でのCD86 発現を指標とする方法に供し、その感作性判定精度が向上したことが報告されている(たとえば、特許文献3)。しかしながら、本方法は細胞培養など煩雑な操作を必要とすることが問題であった。
【0004】
一方、医薬品の代謝による毒性発現を予測する目的で液体クロマトグラフィー用電気化学検出器クーロケムのフローセル内で被験物質の生体内レドックス反応の模倣としての電気化学反応により反応性代謝物を調製し、グルタチオン溶液との混合で得られるグルタチオン抱合体の構造解析を行う方法が報告されている(たとえば、特許文献4及び非特許文献3)。本方法は細胞培養など煩雑な操作を用いず化学実験のみで毒性発現を予測できるというメリットを持つ反面、高価な電気化学検出器を必要とすることや、グルタチオン抱合体の同定を液体クロマトグラフィー分析でのUV検出器やMS検出器を用いているため、電気化学反応により生成した反応性代謝物が微量の場合は、結合物が夾雑ピークやベースラインの盛り上がりのため判別しにくく、改善が求められていた。
【特許文献1】特開2003−014761号公報
【特許文献2】特開2007−183208号公報
【特許文献3】特開2007-163356号公報
【特許文献4】特表2005-530132号公報
【非特許文献1】The Journal of Toxicological Sciences 2003, 28(1), 19-24.
【非特許文献2】Toxicological Sciences 2004, 81,332-343.
【非特許文献3】Chem. Res. Toxicol. 2007,20,821.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況のもと、本発明者らは、安価にかつ精度よく代謝活性化による感作性発現検定方法を開発すべく鋭意検討したところ、被検物質を安価に入手可能な金属板又は非金属板電極を用い有機電解反応に供して得られる溶液に蛍光システイン誘導体溶液を混合し、蛍光検出器を有する液体クロマトグラフィーで高感度に結合物の有無を確認することにより感作性発現検定ができることを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、
1.(a)被験物質を有機電解反応に供する工程;及び、
(b)蛍光システイン誘導体と、有機電解反応に供した被検物質とを混合させる工程:及び、
(c)結合物の有無を機器分析により判定する工程:
を有する化学物質の感作性発現検定方法;
2.上記有機電解反応が、被験物質の溶液に陰電極、陽電極を浸漬し、電源供給装置を用いて通電することを特徴とする上記1記載の感作性発現検定方法;
3.蛍光システイン誘導体が、システインと、該システインを標識する蛍光色素を含む蛍光システイン誘導体であって、該蛍光色素が発色部構造と上記システインと発色部とを結合するスペーサー構造を有することを特徴とする蛍光システイン誘導体である上記1又は2記載の感作性発現検定方法;
4.上記蛍光システイン誘導体が、式(1)

(式中、R1,R2は蛍光色素、ヒドロキシル基、置換基を有していても良いアミノ基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していても良いフェノキシ基の群から選ばれ、R1とR2の少なくとも一方が蛍光色素である。)で表される化合物である上記1〜3のいずれかに記載の感作性発現検定方法;
5.上記3又は4に記載の蛍光システイン誘導体の蛍光色素が、式(2)

(式中、R3はニトロ基、無置換アミノスルホニル基、スルホン酸基、アンモニウムスルホン酸基のいずれかを表わすか、又はアルキルアミノ基もしくは4級アンモニウム基を有していてもよいアルキルアミノスルホニル基を表わす。x,y,zは、それぞれ独立に0〜20までの整数を表わす。R4は直接結合又は、-O-, -CH2-, -NHCOO-, -CONH-, -COO-, -SO2NH-, -HN-C(=NH)-NH-, -S-, -NR-, -NAr-, -CH=CH-, -C≡C-, -Ar-, -CO-Ar-NR-からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を表わす。Rはアルキル基を表わす。Arはアリール基を表わす。R5は−NH−、−O−又は−S−を表わす。)で表されることを特徴とする上記1又は2記載の感作性発現検定方法;
6.上記蛍光システイン誘導体が、式(3)

で表される蛍光グルタチオン誘導体である上記1又は2記載の感作性発現検定方法;
7.上記蛍光システイン誘導体が、式(4)

で表される蛍光グルタチオン誘導体である上記1又は2記載の感作性発現検定方法;
8.機器分析の手段が液体クロマトグラフィーである上記1〜7のいずれかに記載の感作性発現検定方法;
9.液体クロマトグラフィーの検出器が、蛍光検出器である上記8記載の感作性発現検定方法;
10.液体クロマトグラフィーの検出器が質量分析装置である上記8記載の感作性発現検定方法;
等を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、医・農薬や化粧品の感作性判定において、代謝活性化による感作性発現検定を安価にかつ高感度に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の検定方法について説明する。
【0009】
有機電解反応に使用しうる電極としては、通常、市販の金属板又は非金属板等が用いられ、使用しうる金属板又は非金属板としては、白金、酸化鉛、ステンレス、グラファイト等が用いられ、陽極及び陰極が同一の素材であっても異なっていてもよい。
【0010】
有機電解反応に用いられる電源供給装置としては、通常1〜1500mAで通電可能な装置が用いられる。
反応温度は、通常−50〜100℃である。
【0011】
被験物質は、有機電解反応を行う際、例えば、メタノール、エタノール、アセトニトリル、アセトンなどの有機溶媒又はこれらの混合溶媒と1mM〜100Mの濃度のリン酸ナトリウム、酢酸アンモニウム等電解質の水溶液との混合溶媒を用いる。濃度は、約0.01μmol/L〜約1mol/L程度であり、通常、約0.1μmol/L〜約50mmol/L程度が望ましい。陰極及び陽極の両電極を該被験物質溶液に浸漬し、電源供給装置で0.1〜1500mAの範囲で通電する。通常、通電時間は5秒〜15時間程度である。
【0012】
かかる反応により生成した被験物質の有機電解反応物溶液と蛍光システイン誘導体溶液とを混合し、結合物の有無を判定することにより、感作性発現の検定を行う。
【0013】
蛍光システイン誘導体は、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等のリン酸アルカリ金属塩の無機塩類や、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸アンモニウム等の酢酸塩などの有機酸塩等を含む水性緩衝液、もしくは水、又はこれらとアセトニトリルなどの有機溶媒との混合溶媒に、例えば、約0.01μmol/L〜約1mol/L程度の濃度、通常、約0.1μmol/L〜約10mmol/L程度の濃度となるように溶解する。次いで、上記の蛍光システイン誘導体溶液と被験物質の有機電解反応物溶液とを、蛍光システイン誘導体と被験物質のモル濃度比が例えば1:100〜100:1となるように混合し反応させる。該反応には、蛍光システイン誘導体溶液と被験物質との混合液を、例えば約4℃〜約60℃程度の温度範囲にて保温しながら、通常約10分間〜約2日間程度振とう、撹拌、もしくは静置する。混合液の分析方法としては、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフィー(GC)、薄層クロマトグラフィー(TLC)、質量分析(MS)等を挙げることができる。特にHPLC,TLCの検出器としては紫外吸光度検出器、可視吸光度検出器、蛍光検出器等を挙げることができる。また、HPLC、GC、TLCのいずれかとMSとを組み合わせた分析方法(LC-MS、GC-MS、TLC-MS)等を用いることもできる。該方法によれば、試料に複数成分が含まれていてもそれらを個々に分離し、それぞれについて質量分析することができる。
【0014】
上記のHPLC又はTLCに用いることのできるクロマトグラフ手法としては、逆相、順相、イオン交換などを挙げることができる。このようなクロマトグラフ手法に使用可能な市販HPLCカラムやTLCプレートとしては、例えば、HPLCカラムとしては、SUMIPAX ODSA-212(住化分析センター製)、L-column ODS(財団法人化学物質評価研究機構)、ワコーシル5C18(和光純薬製)、コスモシール5C18-AR-II(ナカライテスク製)、SUMIPAX SIL S-05(住化分析センター製)、LiChrosorb Si 60 (メルク製)、TLCプレートとしては、Silica gel 60 Plate (メルク製)、TLCプレートRP‐18F254S(メルク製)などを挙げることができる。
【0015】
また、質量分析で利用することのできるイオン化法としては、例えば、マトリクス支援レーザーイオン化(MALDI)法、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法、大気圧イオン化(API)法、電子衝突イオン化(EI)法、高速電子衝撃イオン化(FAB)法などを挙げることができる。このようなイオン化法に使用可能な市販のイオン源としては、MALDI法の場合、島津/KRATOS製、PEバイオシステム製、マイクロマス製、Bruker製等のイオン源が挙げられる。また、ESIの場合、Finnigan Mat製、マイクロマス製、サイエックス製、Hewlett-Packard製、PEバイオシステム製等のイオン源が挙げられる。質量分析計としては、磁場型、四重極型、イオントラップ型、フーリエー変換-イオンサイクロトロン型、飛行時間型の質量分析計を挙げることができる。上記のようにして得られた混合液の分析結果を、例えば、蛍光システイン誘導体溶液のみを保温した試料及び被験物質の有機電解反応物溶液のみを保温した試料各々の分析結果とを比較し、蛍光システイン誘導体溶液のみを保温した試料及び被験物質の有機電解反応物溶液のみを保温した試料からは検出されず、かつ保温後の蛍光システイン誘導体溶液と被験物質の有機電解反応物溶液の混合溶液からのみ検出される成分の有無を調べることにより、蛍光システイン誘導体と被験物質の有機電解反応物との結合物の有無を測定することができる。かかる分析に、MS、LC-MS、GC-MS、TLC-MS等の質量分析法を用いると、各成分について、質量スペクトルから得られる情報に基いて質量、構造等を解析してその組成や構造を確認することにより、蛍光システイン誘導体と被験物質の有機電解反応物との結合物を特定することもできる。
【0016】
本発明の感作性判定方法において使用しうる蛍光システイン誘導体として、少なくとも、システインと、該システインを標識する蛍光色素を含む蛍光システイン誘導体であって、該蛍光色素が発色部構造と上記システインと発色部とを結合するスペーサー構造を有する蛍光システイン誘導体を挙げることができる。
【0017】
上記スペーサーは、-O-, -CH2-, -NHCOO-, -CONH-, -COO-, -SO2NH-, -NAr-, -HN-C(=NH)-NH-, -S-, -NR-(Rはアルキル基)、-CH=CH-、-C≡C-、-Ar-、-CO-Ar-NR-もしくはアミノ酸及びペプチドの部分構造からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を含む。
【0018】
該蛍光システイン誘導体の合成は、通常、両末端がチオール基、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボニル基、マレイミド基、もしくは塩素、臭素、ヨウ素などのハロアルキル基、ハロカルボニル基等であるスペーサー原料を用い、順次、該スペーサー原料の一方の末端と蛍光誘導体化試薬のクロロスルホニル基、フルオロスルホニル基、クロロカルボニル基、カルボキシル基、マレイミド基、アミノ基、イソチオシアニル基、塩素、臭素、ヨウ素などのハライドとの反応により発色部と連結し、もう一方の末端をシステイン誘導体のアミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基などとの縮合により連結することにより行うことができる。
【0019】
発色部としては、ベンゾフラン誘導体、ジヒドロキノキサリノン誘導体、フタルイミジニル誘導体、ダンシル誘導体、クマリン誘導体、アクリジン誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、ベンゾキサジアゾール誘導体、フルオロセイン誘導体、ローダミン誘導体、シコニン誘導体等を挙げることができ、通常、スペーサーへの発色部の導入には蛍光誘導体化試薬が用いられ、具体的には、4-(5,6-ジメトキシ-N-フタルイミジニル)ベンゼンスルホン酸クロリド (DPS-Cl)、4-クロロ-7-ニトロ-2,1,3-ベンゾキサジアゾール(NBD-Cl)、フルオロセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミンBイソチオシアネート(RBITC)、4-フルオロ-7-ニトロ-2,1,3-ベンゾキサジアゾール(NDB-F)、4-(N,N-ジメチルアミノスルホニル)-7-フルオロ-2,1,3-ベンゾキサジアゾール(DBD-F)、4-(N-フタルイミジニル)ベンゼンスルホン酸クロリド(Phisyl-Cl)、4-アミノスルホニル-7-フルオロ-2,1,3-ベンゾキサジアゾール(ABD-F)、N-[4-(6-ジメチルアミノ-2-ベンゾフラニル)フェニル]マレイミド(DBPM)、2-(4-マレイミドフェニル)-6-メチルベンゾチアゾール(MBPM)、N-(9-アクリジニル)マレイミド(NAM)、4-クロロ-7-スルホベンゾフラザン アンモニウム塩(SBD-Cl)、7-フルオロベンゾフラザン-4-スルホン酸アンモニウム塩(SBD-F)、1,2-ジアミノ-4,5-ジメトキシベンゼン(DDB)、4-(N,N-ジメチルアミノスルホニル)-7-ヒドラジノ-2,1,3-ベンゾキサジアゾール(DBD-H)、4-ヒドラジノ-7-ニトロ-2,1,3-ベンゾオキサジアゾールヒドラジン(DBD-H)、2,2'-ジチオジ(1-ナフチルアミン) (DTAN)、4-アミノ-3-ペンテン-2-オン(Fluoral-P)、1,2-アミノ-4,5-メチレンジオキシベンゼン(MDB)、4-(5,6-ジメトキシベンゾチアゾール-2-イル)安息香酸ヒドラジド(BHBT)、4-(N,N-ジメチルアミノスルフホニル)-7-(N-ヒドラジノカルボニルメチル-N-メチル)アミノ-2,1,3-ベンゾキサジアゾール (DBD-CO-Hz)、4-(N-ヒドラジノカルボニルメチル-N-メチルアミノ)-7-ニトロ-2,1,3-ベンゾキサジアゾール(NBD-CO-Hz)、3-ブロモメチル-6,7-ジメトキシ-1-メチル-1,2-ジヒドロキノキサリン-2-オン(Br-DMEQ)、4-ブロモメチル-7-メトキシクマリン(Br-MMC)、4-(N,N-ジメチルアミノスルホニル)-7-ピペラジノ-2,1,3-ベンゾキサジアゾール(DBD-PZ)、4-ニトロ-7-ピペラジノ-2,1,3-ベンゾキサジアゾール (NBD-PZ)、4-(N,N-ジメチルアミノスルホニル)-7-(2-アミノエチルアミノ)-2,1,3-ベンゾキサジアゾール (DBD-ED)、3-クロロカルボニル-6,7-ジメトキシ-1-メチル-2(1H)-キノキサリノン(DMEQ-COCl)、2-(5-クロロカルボニル-2-オキサゾールイル)-5,6-メチレンジオキシベンゾフラン(OMB-COCl)等が挙げられる。
【0020】
本発明の感作性判定方法において使用し得る蛍光システイン誘導体を具体的に示すと、γ-グルタミル-システイニル-グリシニル-N-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチル]-アミド、システイニル-N-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチル]-アミド、{4-アミノ-4-[2-(7-ニトロベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-ブチリル}-システイニル−グリシン、フェニルアラニル-トレオニル-ロイシニル-システイニル-フェニルアラニル-アルギニル-N-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチル]-アミド、アセチル-アルギニル-フェニルアラニル-アラニル-アラニル-システイニル-アラニル-アラニル-N-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチル]-アミド、
【0021】
γ-グルタミル-システイニル-グリシニル-N-[3-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-プロピル]-アミド、システイニル-N-[3-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-プロピル]-アミド、{4-アミノ-4-[3-(7-ニトロベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-プロピルカルバモイル]-ブチリル}-システイニル−グリシン、フェニルアラニル-トレオニル-ロイシニル-システイニル-フェニルアラニル-アルギニル-N-[3-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-プロピル]-アミド、アセチル-アルギニル-フェニルアラニル-アラニル-アラニル-システイニル-アラニル-アラニル-N-[3-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-プロピル]-アミド、
【0022】
γ-グルタミル-システイニル-グリシニル-N-[5-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-3-オキサ-ペンチル]-アミド、システイニル-N-[5-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-3-オキサ-ペンチル]-アミド、{4-アミノ-4-[5-(7-ニトロベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-3-オキサ-ペンチルカルバモイル]-ブチリル}-システイニル−グリシン、フェニルアラニル-トレオニル-ロイシニル-システイニル-フェニルアラニル-アルギニル-N-[5-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-3-オキサ-ペンチル]-アミド、アセチル-アルギニル-フェニルアラニル-アラニル-アラニル-システイニル-アラニル-アラニル-N-[5-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-3-オキサ-ペンチル]-アミド、
【0023】
γ-グルタミル-システイニル-グリシニル-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチル]-エステル、システイニル-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチル]-エステル、{4-アミノ-4-[2-(7-ニトロベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エトキシカルボニル]-ブチリル}-システイニル−グリシン、フェニルアラニル-トレオニル-ロイシニル-システイニル-フェニルアラニル-アルギニル-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチル]-エステル、アセチル-アルギニル-フェニルアラニル-アラニル-アラニル-システイニル-アラニル-アラニル-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチル]-エステル、等を挙げることができる。
【0024】
本発明の蛍光システイン誘導体の製造方法は、例えば、公知化合物から公知の合成方法等を利用すればよいが、以下に、代表的な化合物の製造方法について、説明する。
【0025】
たとえば、式(5)及び式(6)

【0026】

(式中、R3,R4,R5,x,y,zは前記と同じ意味を表わす。)
で示される蛍光グルタチオン誘導体を製造する場合、
グルタチオンに保護基を導入した式(7)及び式(8)

【0027】

で示される保護グルタチオン誘導体と、式(9)

(式中、R4,R5,x,y,及びzは前記と同じ意味を表わす。)
で示される両末端に求核性官能基をもちかつ少なくとも一方の末端がアミノ基であるリンカー化合物の共存溶液中、式(10)

(R3は前記と同じ意味を表わし、Halはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子を表わす。)
で示されるベンゾキサジアゾール誘導体とを加え、
系内に式(11)



(式中、R3,R4,R5,x,y,及びzは前記と同じ意味を表わす。)
で表わされる蛍光基と求核性官能基とを有するリンカー化合物を調製した後、式(11)の単離作業をすることなく脱水縮合剤を系内に加え上記式(7)及び式(8)で示される保護システイン誘導体のカルボキシル基と縮合反応を行い、式(12)及び式(13)

【0028】

(式中、R3,R4,R5,x,y,及びzは前記と同じ意味を表わす。)
で示される保護蛍光グルタチオン誘導体を調整した後、脱保護することにより製造することができる。(下記スキーム1参照)


【0029】
グルタチオンに保護基を導入する場合、Journal of the American Chemical Society 2006, 128, 2544-2545、Synthesis 1994,1063-1066等に記載の方法に準じ保護基を導入する。保護基としては、通常、チオール基に対してはトリフェニルメチル基(Trt基)、アミノ基に対してはtert-ブトキシカルボニル基(Boc基)、カルボキシル基に対しては、tert-ブチル基(t-Bu基)を用いる。また、保護する順序は、通常、まず、チオール基、次にアミノ基、最後にカルボキシル基の順で行う。
【0030】
グルタチオンへの保護基導入は、まず、チオール基をトリフルオロ酢酸存在下、トリフェニルメタノールと反応させ、式(14)

で表わされるチオール保護体に変換し、チオール基を保護する(スキーム2参照)。

【0031】
次に、トリエチルアミン存在下ジ-tert-ブチルジカルボネートと反応させ、式(15)

で示されるチオール/アミン保護体に変換しアミノ基を保護する(スキーム3参照)

【0032】
さらに、チオール/アミン保護体をテトラヒドロフラン-tert-ブタノール溶媒中、ジメチルアミノピリジン存在下、ジ-tert-ブチルジカルボネートと反応させ、式(5)及び/又は式(6)で示される保護グルタチオン誘導体を得ることができる(スキーム4参照)。
なお、ジ-tert-ブチルジカルボネートは、通常、2倍当量用いる。

【0033】
式(9)

(式中,R4,R5,x,y及び,zは前記と同じ意味を表わす。)
で示される両末端に求核性官能基をもちかつ少なくとも一方の末端がアミノ基であるリンカー化合物としては、1,2-ジアミノエタン、1,3-ジアミノプロパン、2-アミノエタノール、2,2'-オキシビス(エチルアミン)、4,7,10-トリオキサ-1,13-トリデカンジアミン等が挙げられ、通常市販されているものが用いられる。
【0034】
両末端に求核性官能基をもちかつ少なくとも一方の末端がアミノ基であるリンカー化合物の使用量は、保護グルタチオン誘導体のカルボキシル基に対して、通常0.5〜5モル倍以上であり、好ましくは0.8〜1.2モル倍である。
【0035】
ベンゾキサジアゾール誘導体としては、4-クロロ-7-ニトロ-2,1,3-ベンゾキサジアゾール(NBD-Cl)、4-フルオロ-7-ニトロ-2,1,3-ベンゾキサジアゾール(NBD-F)、4-(N,N-ジメチルアミノスルホニル)-7-フルオロ-2,1,3-ベンゾキサジアゾール(DBD-F)、4-アミノスルホニル-7-フルオロ-2,1,3-ベンゾキサジアゾール(ABD-F)、4-クロロ-7-スルホベンゾフラザン アンモニウム塩(SBD-Cl)、7-フルオロベンゾフラザン-4-スルホン酸アンモニウム塩(SBD-F)、4-(ジメチルアミノエチルアミノスルホニル)-7-クロロ-2,1,3-ベンゾキサジアゾール(DAABD-Cl)、7-クロロ-2,1,3-ベンゾキサジアゾール-4-スルホニルアミノエチル トリメチルアンモニウム塩酸塩(TAABD-Cl)等が挙げられる。
通常は、市販されているものが用いられ、使用量は両末端に求核性官能基をもちかつ少なくとも一方の末端がアミノ基であるリンカー化合物と同じモル量を用い、保護グルタチオン誘導体中の無保護カルボキシル基に対して、通常1〜5モル倍以上であり、好ましくは0.8〜1.2モル倍である。
【0036】
脱水縮合剤としては、例えばN,N′-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N,N′-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、テトラフルオロほう酸2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウム(TBTU)、ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリピロリジノホスホニウム ヘキサフルオロホスフェイト(PyBOP)が挙げられ、その使用量は、保護グルタチオン誘導体中の無保護カルボキシル基に対して、通常1〜10モル倍以上であり、好ましくは1〜3モル倍である。
【0037】
両末端に求核性官能基をもちかつ少なくとも一方の末端がアミノ基であるリンカー化合物とベンゾキサジアゾール誘導体の反応による蛍光基と求核性官能基とを有するリンカー化合物の合成は、通常保護グルタチオン誘導体と両末端に求核性官能基をもちかつ少なくとも一方の末端がアミノ基であるリンカー化合物を溶媒中混合し、ベンゾキサゾール誘導体を加えることにより実施される。次に、この系内に脱水縮合剤を加えることにより、系内で調製された蛍光基と求核性官能基とを有するリンカー化合物と未反応で残っている保護グルタチオン誘導体とで縮合反応が起こり、保護蛍光グルタチオン誘導体が生成する。
【0038】
溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、酢酸エチル等のエステル系溶媒等の単独もしくは混合溶媒が挙げられる。かかる溶媒の使用量は特に制限されない。
【0039】
反応温度は、通常−50〜100℃である。
【0040】
反応終了後、反応液をそのままもしくは濃縮処理した後、水及び必要に応じて水に不溶の有機溶媒を加えて抽出処理し、得られる有機層を濃縮処理することにより、保護蛍光システイン誘導体を取り出すことができる。取り出した保護蛍光グルタチオン誘導体は、例えば再結晶、カラムクロマトグラフィ等の通常の精製手段によりさらに精製してもよい。
【0041】
保護蛍光グルタチオン誘導体の保護基を除去する場合、Tetrahedron Letter 1989, 30, 2739に準じ、トリアルキルシランが含有した含水トリフルオロ酢酸と混合することにより実施できる。トリアルキルシランとして、トリエチルシラン、トリイソプロピルシラン等を挙げることができ、通常、トリフルオロ酢酸に対して体積比0.01〜0.5体積部使用する。目的物である蛍光グルタチオン誘導体は、ジエチルエーテル等の有機溶媒を加えて沈殿させることで、容易に取り出すことが可能である。取り出した保護蛍光グルタチオン誘導体は、例えば再結晶、カラムクロマトグラフィ等の通常の精製手段によりさらに精製してもよい。
【実施例】
【0042】
以下に実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
S-トリチルグルタチオンの合成


Crichらの方法(Journal of the American Chemical Society 2006, 128, 2544-2545.)に従い調製した。還元型グルタチオン(25g, 81.3mmol)とトリフェニルメタノール(21.2 g, 81.3 mmol)を1Lフラスコに仕込み、トリフルオロ酢酸(150mL)を室温で滴下した。1時間室温で攪拌後、ジエチルエーテル(300mL)を仕込み、析出した白色固体をろ過した。ジエチルエーテル(300mL)で固体を洗浄しS-トリチルグルタチオン(S-trityl glutathione)の粗生成物40gを得た。
【0043】
[実施例2]
N-(tert-ブトキシカルボニル)-S-トリチルグルタチオンの合成


Crichらの方法(Journal of the American Chemical Society 2006, 128, 2544-2545.)に若干の変更を加え調製した。前記実施例1で得られたS-トリチルグルタチオンの粗生成物全量をトリエチルアミン(50mL)−水(150mL)に溶かし、ジ-tert-ブチルジカルボナート(20 g, 90.4 mmol)のエーテル溶液(200mL)を滴下した。18時間室温で攪拌した後、飽和重曹水(200mL)でクエンチした。水層を3回酢酸エチル(100mL×3)で洗浄した後、固体の硫酸水素カリウムを加えて水層のpHを酸性に合わせた。3回酢酸エチル(100mL×3)で抽出し、有機層を合わせて硫酸ナトリウムで乾燥させ濃縮乾固した。ヘキサンで結晶化し、N-(tert-ブトキシカルボニル)-S-トリチルグルタチオン(32g, 2ステップ61%)の白色固体を得た。
【0044】
[実施例3]
N-(tert-ブトキシカルボニル)-S-トリチルグルタチオン モノ-tert-ブチルエステルの合成


Takedaらの報告(Synthesis 1994, 1063-1066)と同様の反応条件で合成した。前記実施例2で調製したN-(tert-ブトキシカルボニル)-S-トリチルグルタチオン(1g, 1.54mmol)とジ-tert-ブチルジカルボナート(0.67g, 3.08 mmol)のtert-ブタノール-THF溶液(1:1、40mL)にN,N-ジメチルアミノピリジン(0.062g, 0.51mmol)を加え、室温で撹拌した。18時間後、エバポレーターを用いて溶媒を留去し、1mmol/mL硫酸水素カリウム水溶液(50mL)と酢酸エチル(50mL)を加えて分液操作を行った。有機層を2回1mmol/mL硫酸水素カリウム水溶液(2×50mL)で洗浄した後、エバポレーターで濃縮乾固し、N-(tert-ブトキシカルボニル)-S-トリチルグルタチオン tert-ブチルエステルの異性体混合物を得た。
【0045】
[実施例4]
N-(tert-ブトキシカルボニル)-S-トリチルグルタチオン モノ−tert-ブチルエステル モノ−N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノエチルアミドの合成

前記実施例3で調製したN-(tert-ブトキシカルボニル)-S-トリチルグルタチオン モノtert-ブチルエステル(1.0g, 1.54mmol)及び1,2-エチレンジアミン(0.19g, 3.08mmol)のテトラヒドロフラン溶液(30mL)に7-クロロ-4-ニトロベンゾ-2-オキサ-1,3-ジアゾール(0.61g, 3.08mmol)のTHF溶液(20mL)溶液を滴下した。1時間室温で撹拌後、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(0.39g, 3.08mmol)を加え、さらに18時間室温で撹拌した。エバポレータ−で溶媒を除去後、クロロホルムを加え不溶物をろ過により除去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル60、クロロホルム→クロロホルム−メタノール50:1→25:1)で精製しN-(tert-ブトキシカルボニル)-S-トリチルグルタチオン モノtert-ブチルエステル モノN-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノエチルアミドの異性体混合物(0.40g, 29%)を得た。
ESI(+)-MS: m/z 911 [MH+ calcd. for C46H54N8O10S 911.37]
【0046】
[実施例5]
グルタチオン N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノエチルアミドの合成

前記実施例4で調製したN-(tert-ブトキシカルボニル)-S-トリチルグルタチオン モノtert-ブチルエステル モノN-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノエチルアミド3mgとトリフルオロ酢酸:トリイソプロピルシラン:水(100:5:5)の混液 0.1mLを混合し、20分間室温で撹拌した。ジエチルエーテル1mLを加え、遠心分離により沈殿した結晶を残して上澄みを除去した。同様にジエチルエーテル洗浄を3回繰り返した後、薄層クロマトグラフィー(TLCプレートRP-18F254S、THF−H2O 1:2)により精製し、グルタチオン N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノエチルアミド(1.2 mg, 71%)を得た。 ESI(+)-MS:m/z 513 [MH+ calcd. for C18H24N8O8S 513.14]
【0047】
[実施例6]
シンナミルアルコールの有機電解反応
シンナミルアルコール(感作性物質。質量134)をアセトニトリル/0.1M NaHPO4-Na2HPO4水溶液(pH7)1:1(v/v)混合溶媒に0.075mmol/mLの濃度となるよう溶液を調製した。この溶液を30mL容サンプル瓶にスターラーチップとともにいれ、陽極及び陰極としてそれぞれ白金板(縦20mm×横20mm)を浸漬し、室温下で定電流有機電解反応(電流密度:10mA、3分,装置:BIO-RAD製PowerPac Basic)を行った。反応前後の溶液の液体クロマトグラフィー分析を行ったところ、シンナムアルコールの経皮吸収後の代謝による感作性発現の原因と報告されているシンナムアルデヒド(Chemical Research in Toxicology 2004, 17, 301)の含有量が反応前に比べて増加していることが確認された。すなわち、反応前はシンナミルアルコールとシンナムアルデヒドのピーク面積比が0.08(シンナムアルデヒド/シンナミルアルコール)であったものが(図1参照)、反応後0.19に変化し、シンナムアルデヒドのピークが2.4倍増加した(図2参照)。
【0048】
[実施例7]
シンナミルアルコール有機電解反応物とグルタチオン蛍光誘導体との混合実験
実施例6で得られたシンナムアルコール有機電解反応物溶液0.1mLと、グルタチオン蛍光誘導体(以下、n-GSHと記す。質量512)を0.7mg/mL(1.4mM)となるよう0.1M NaHPO4-Na2HPO4水溶液(pH7)に溶解した溶液0.1mLとを混合し、44℃で保温した後、水−アセトニトリル混液(1:1)1.5mLで希釈し、その10μLを以下に記載の条件にてHPLCに供した。その結果、シンナムアルデヒドとグルタチオン蛍光誘導体を混合した場合に得られる結合物(比較例2参照)と保持時間が一致するピークが確認された(図3)。そのピーク面積値は112404であり、有機電解反応を行わなかったシンナミルアルコールを用いた場合(比較例1)と比べて5倍大きい値であり、有機電解反応により感作性原因物質のグルタチオン蛍光誘導体の感度が向上することを確認した。
【0049】
[HPLC測定条件]
島津製作所製LC-10Avp
カラム:L-column(4.6μm,5mmφ×15cm)
カラム温度:40℃
流量:1mL/min
ピーク検出:紫外吸光度検出器(検出波長:220nm)の次に蛍光検出器(励起波長:470nm、蛍光波長:530nm)を直列に繋いで行った。
溶出液A:蒸留水にトリフルオロ酢酸を0.05%添加した溶液
溶出液B:アセトニトリルにトリフルオロ酢酸を0.05%添加した溶液
溶出条件:溶出液Aが90%、溶出液Bが10%の割合で混合された溶出液で平衡化されたカラムにサンプルを注入した後、15分かけて溶出液Bの割合を10%から99%に上げながら溶出液Aと溶出液Bの混合液を流し、溶出液Bが99%の割合に達してから5分間その割合を保持した。
[LC-MS設定条件]
LC装置:アジレント製Agillent1100
その他LC条件:上記[HPLC測定条件]に同じ
MS装置:サーモフィッシャーサイエンティフィック製LCQ DECA XP Plus
イオン化:ESI法
スプレー電圧:5kV
キャピラリー温度:250℃
【0050】
[比較例1]
シンナミルアルコール有機電解反応未実施溶液とグルタチオン蛍光誘導体溶液との混合実験
実施例6に従い調整したシンナムアルコール溶液の有機電解反応未実施溶液0.1mLと、グルタチオン蛍光誘導体(以下、n-GSHと記す。質量512)を0.7mg/mL(1.4mM)となるよう0.1M NaHPO4-Na2HPO4水溶液(pH7)に溶解した溶液0.1mLとを混合し、44℃で保温した後、水−アセトニトリル混液(1:1)1.5mLで希釈し、その10μLを実施例7に記載の条件にてHPLCに供した。その結果、シンナムアルデヒドとグルタチオン蛍光誘導体を混合した場合に得られる結合物(比較例2参照)に保持時間が一致するピークが確認されたが、ピーク面積が23074であり、有機電解反応物とn-GSHを混合した場合に確認される結合物ピークの面積値の約1/5であった(図4参照)。
【0051】
[比較例2]
シンナムアルデヒドとグルタチオン蛍光誘導体との結合物の保持時間確認
シンナムアルデヒド(皮膚感作性陽性。質量132)を0.2mg/mL(1.5mM)となるようアセトニトリルに溶解した溶液0.1mLと、グルタチオン蛍光誘導体(以下、n-GSHと記す。質量512)を0.7mg/mL(1.4mM)となるよう0.1M NaHPO4-Na2HPO4水溶液(pH7)に溶解した溶液0.1mLとを混合し、44℃で保温した後、水−アセトニトリル混液(1:1)1.5mLで希釈し、その10μLを実施例7に記載の条件にてLC-MSに供した。その結果、MSスペクトル(図6)から、グルタチオン蛍光誘導体とシンナムアルデヒドが脱水縮合してなる化合物と同じ質量数(626)であるピークの存在(保持時間:9.3〜9.6分)を確認することができた(図5)。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】有機電解反応未実施のシンナミルアルコール溶液の液体クロマトグラム(検出:UV335nm)である。
【図2】有機電解反応を3分行った後のシンナミルアルコール溶液の液体クロマトグラム(検出:UV335nm)である。
【図3】蛍光グルタチオン溶液と有機電解反応を3分実施したシンナミルアルコール溶液との混合液を保温したものの液体クロマトグラム(検出:蛍光検出)である。
【図4】蛍光グルタチオン溶液と有機電解反応未実施のシンナミルアルコール溶液との混合液を保温したものの液体クロマトグラム(検出:蛍光検出)である。
【図5】蛍光グルタチオン溶液とシンナムアルデヒド溶液の混合液を保温したものの液体クロマトグラム(検出:蛍光検出)である。
【図6】シンナムアルデヒド・n-GSH結合物のESI-MSスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)被験物質を有機電解反応に供する工程;及び、
(b)蛍光システイン誘導体と、有機電解反応に供した被検物質とを混合させる工程:及び、
(c)結合物の有無を機器分析により判定する工程:
を有する化学物質の感作性発現検定方法。
【請求項2】
有機電解反応が、被験物質の溶液に陰電極、陽電極を浸漬し、電源供給装置を用いて通電することを特徴とする請求項1記載の感作性発現検定方法。
【請求項3】
蛍光システイン誘導体が、システインと該システインを標識する蛍光色素を含む蛍光システイン誘導体であって、該蛍光色素が発色部構造と、システインと発色部とを結合するスペーサー構造を有することを特徴とする蛍光システイン誘導体である請求項1又は2記載の感作性発現検定方法。
【請求項4】
蛍光システイン誘導体が、式(1)


(式中、R1,R2は蛍光色素、ヒドロキシル基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、及び置換基を有していても良いフェノキシ基の群から選ばれ、R1とR2の少なくとも一方が蛍光色素である。)
で表される化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の感作性発現検定方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の蛍光システイン誘導体において、蛍光色素(FL)が式(2)

(式中、R3はニトロ基、無置換アミノスルホニル基、スルホン酸基、アンモニウムスルホン酸基のいずれかを表わすか、又はアルキルアミノ基もしくは4級アンモニウム基を有していてもよいアルキルアミノスルホニル基を表わす。x,y,zは、それぞれ独立に0〜20までの整数を表わす。R4は直接結合又は、-O-, -CH2-, -NHCOO-, -CONH-, -COO-, -SO2NH-, -HN-C(=NH)-NH-, -S-, -NR-, -NAr-, -CH=CH-, -C≡C-, -Ar-, -CO-Ar-NR-からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を表わす。Rはアルキル基を表わす。Arはアリール基を表わす。R5は−NH−、−O−又は−S−を表わす。)
で表されることを特徴とする請求項1又は2記載の感作性発現検定方法。
【請求項6】
蛍光システイン誘導体が、式(3)

で表される蛍光グルタチオン誘導体である請求項1又は2記載の感作性発現検定方法。
【請求項7】
蛍光システイン誘導体が、式(4)

で表される蛍光グルタチオン誘導体である請求項1又は2記載の感作性発現検定方法。
【請求項8】
機器分析の手段が、液体クロマトグラフィーである請求項1〜7のいずれかに記載の感作性発現検定方法。
【請求項9】
液体クロマトグラフィーの検出器が、蛍光検出器である請求項8記載の感作性発現検定方法。
【請求項10】
液体クロマトグラフィーの検出器が、質量分析装置である請求項8記載の感作性発現検定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−216685(P2009−216685A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63756(P2008−63756)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】