説明

感圧用繊維構造体

【課題】従来の広範囲の圧力を検知する感圧シートを利用して圧力検知システムを構築するには、作業工程が多く複雑であるために生産性が低く、さらに平滑性、柔軟性等の不足により施工性も悪く用途も限定される。
【解決手段】圧力を検知する感圧センサー部分と配線部分が一体化した感圧用繊維構造体を開発した。この感圧用繊維構造体は、製造工程時に目的に応じた各感圧センサー間の配線が可能であるため、製造工程の省力化が図られ製造コストも大幅に低減できる。さらに、感圧用繊維構造体は各センサー間を配線する導電性接続糸からなる配線部とセンシング部を同一繊維構造体内で構成できるので、柔軟性に優れていること、取り扱いが容易であること、スケールアップが容易である。さらには複数領域の圧力検知することおよび同一構造体で異なる圧力を検知することも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2次元平面の圧力の検知、圧力分布の測定およびそれら圧力の時間的変化の計測に使用する感圧用繊維構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維構造体上に感圧センサーと電気回路を一体化する方法としては、特許文献1,2のように織物にあらかじめ電気回路を構築した後に回路上に圧力センサーを配置していく方法があるが、広範囲の圧力を検知する場合は平面に多数のセンサーを固定する作業と回路とセンサーをハンダ等により電気的に接続する2つの作業が必要となるために生産性が低く、さらに圧力センサーを配置するために平滑性や繊維構造体が有する特徴である柔軟性が損なわれるという問題がある。
【0003】
自由曲面への適応が可能でシートと圧力センサーを一体化した感圧シートには、特許文献3や特許文献4があるが、シート上に付加された圧力を検知するためにはマトリックスに配置した複数の導電糸間を各々配線して電気回路を構築し、さらに外部システムと接続する必要があり、この場合もハンダ等による接続方法は生産性が低く、さらにハンダにより導電性繊維間を接着させる方法では、織編物の厚さ方向に貫通した金属塊が生じる等の原因により繊維構造体の柔軟性や平滑性を損なうという問題がある。
【0004】
【特許文献1】特開平5−299533
【特許文献2】特開2006−332647
【特許文献3】特開2004−132765
【特許文献4】特開2006−284276
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記で記載したように従来の広範囲の圧力を検知する感圧シートを利用して圧力を検知するシステムを構築するには作業工程が多く複雑であるために生産性が低く、さらに感圧シート自体が有していた平滑性、柔軟性等の優れた物理特性もシステム構築後に失われるという課題がある。
【0006】
本発明は上記の問題点を解決し、圧力を検知する感圧センサー部分と配線部分が一体化した感圧用繊維構造体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る感圧用繊維構造体は、複数の導電糸を面方向に所定の間隔で配置した上面部と、複数の導電糸を面方向に所定の間隔でかつ上面部の導電糸と交差する方向に配置した下面部と、上面部及び下面部の間を所定の間隔に保つ連結部とを備え、押圧により連結部が圧縮状態となることで上面部の導電糸と下面部の導電糸とが接触状態となる感圧用繊維構造体において、前記上面部及び下面部は、それぞれ導電糸と交差する方向に配置されて所定の本数の導電糸と接続する導電性接続糸を備えていることを特徴とする
また、感圧用繊維構造体は、織物もしくは編物にて構成されることを特徴とする。
また、感圧用繊維構造体の感圧面を複数の領域に画定して複数の感圧センサー部が設けられており、各感圧センサー部内に設定された上面部及び下面部の前記導電糸にのみそれぞれ電気的に接続する前記導電性接続糸を備えていることを特徴とする。
また、感圧用繊維構造体の感圧面を複数の領域に画定して複数の感圧センサー部を設け、そのうち少なくとも1つの感圧センサー部の圧縮特性が異なっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る感圧用繊維構造体は、その構造体製造と同時に目的に応じた各感圧センサー間の配線が可能となるため、製造工程の省力化により製造時間と製造コストを大幅に低減できる。さらに、感圧用繊維構造体は各センサー間を配線する導電性接続糸からなる配線部とセンシング部を同一繊維構造体内で構成するため、繊維構造体の特性である柔軟性に優れていること、取り扱いが容易であること、スケールアップが容易であることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に係る感圧用繊維構造体は、2層以上の複数層構造からなる繊維構造体内に、圧力を検知する1個以上の感圧センサーとその感圧センサーを外部システムと電気的に接続するための1本以上の導電性接続糸を繊維構造体の製造時に配置することで、センサーと配線が一体となることにより、各センサー間の配線工程が省略できるために製造時間および製造コストの大幅な低減が図られることを特徴とする。
【0010】
感圧用繊維構造体のセンシング部の感圧センサーと配線の組み合わせとしては、広範囲な平面上の圧力を検知する場合は平面内に配置する複数の感圧センサーを1組の導電性接続糸で接続する方法があり、広範囲な平面上の任意の位置における圧力を個別に検知する場合は平面内の複数の感圧センサーとそれと同数の複数組の導電性接続糸を各々独立して接続する方法が挙げられるが、センシング部の感圧センサーと配線部の導電性接続糸の組み合わせは、目的とする圧力を検知できるものであればこれに限るものではない。
また前述2つの中間である複数領域の圧力を領域ごとに検知する場合は、広範囲の平面上の各特定領域に配置された複数の感圧センサーを領域ごとに各1組の導電性接続糸と接続する方法がある。
【0011】
感圧用繊維構造体は、配線部を構成する導電性接続糸も感圧センサー部と同様に繊維素材で構成できるため、配線部もセンサー部と同等の繊維構造体厚さや柔軟性等の優れた物理特性を有し、取り扱い性、施工性に優れていることを特徴とする。
【0012】
この感圧用繊維構造体を構成する繊維構造体としては織物にて構成されるもの、編物にて構成されるもの等があり、具体例としては風通織り等に代表される2重組織織物、3重組織織物等の多層構造織物、ベルベット織物、ダブル丸編みやダブルラッセルによる立体構造編物等が挙げられるが、センサー部と配線部で導電糸の配列と繊維構造体の構造を異なる構成とすることが可能な繊維構造体であればこれに限るものではない。
【0013】
感圧用繊維構造体は感圧センサーを直線状に配置する方法、または碁盤の目状に配置する方法により広範囲の平面上の圧力を検知することを特徴とする。感圧センサーの配置方法は任意であり目的とする圧力が検知できる配置であればこれに限るものではない。
【0014】
感圧用繊維構造体で2段階以上の異なる圧力を検知する方法としては、センシング部の織りもしくは編み組織を変えることで感圧用繊維構造体の圧縮特性を変えて感圧センサーの検知圧力を制御する方法、繊維素材の配列を変えることで感圧用繊維構造体の圧縮特性を変えて感圧センサーの検知圧力を制御する方法、織物または編物の密度を変えることで感圧用繊維構造体の圧縮特性を変えて感圧センサーの検知圧力を制御する方法、または繊維構造体を形成する繊維素材を変えることで感圧用繊維構造体の圧縮特性を変えて感圧センサーの検知圧力を制御する方法または前述の方法を組み合わせて感圧用繊維構造体の圧縮特性を変えて感圧センサーの検知圧力を制御する方法等により感圧用繊維構造体内に検知圧力の異なる2種類以上の感圧センサーを配置し、同じ圧力を検知する感圧センサーごとに各1組の導電性接続糸と接続する方法がある。
【0015】
感圧用繊維構造体の感圧センサーと外部システムを接続する配線は、感圧用繊維構造体の端部に配置する方法、感圧センサーと配線をストライプに配置する方法、感圧用繊維構造体の中央を分断するように十字に配置する方法等があるが、配線の配置方法は目的とする圧力が検知できる配置であればこれに限るものではない。
【0016】
本発明に係る感圧用繊維構造体のセンシング部を構成する感圧センサーとしては、複数の導電糸を面方向に所定の間隔で配置した上面部と、複数の導電糸を面方向に所定の間隔でかつ上面部の導電糸と交差する方向に配置した下面部と、上面部及び下面部の間を所定の間隔に保つ連結部を備え、押圧により連結部が圧縮状態となることで上面部の導電糸と下面部の導電糸とが接触状態となることを特徴とする繊維構造体があるが、押圧により検知した圧力を電気信号で伝達できかつ繊維構造体の製造時に接続可能な状態で任意の位置に配置できるセンサーであればこれに限るものではない。
【0017】
感圧用繊維構造体を構成する具体的な非導電糸素材は、ポリエチレンテレフタレート、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PTT(ポリトリメチレンテレフタレート)等のポリエステル系繊維、ナイロン(ポリアミド繊維)、アラミド(芳香族ポリアミド繊維)、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフイン系繊維、フッ素繊維、ポリ乳酸繊維、アクリル等の合成繊維、レーヨン、アセテート等の化学繊維、綿、麻、ウール、絹等の天然繊維、セラミックス繊維、ガラス繊維、シリカ繊維等の無機繊維があげられるが、導電性を有しない繊維素材であればこれに限るものではない。
また前述の繊維素材を、撚糸、紡績、混繊、カバーリング等の方法により2種類以上の素材を複合した繊維素材であっても、導電性を有しない繊維素材であればこれに限るものではない。
【0018】
感圧用繊維構造体のセンシング部および配線部を構成する導電糸の具体例としては、銅、リン性銅等の銅系合金、金、白金、銀、鉄、ステンレス、導電性を有するその他の金属合金等の金属繊維およびそれら金属箔をスリットした金属テープ、炭素繊維がある。
ポリエチレンテレフタレート、PBT、PTT等のポリエステル系繊維、ナイロン(ポリアミド繊維)、アラミド(芳香族ポリアミド繊維)、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフイン系繊維、フッ素繊維、ポリ乳酸繊維、アクリル等の合成繊維、レーヨン、アセテート等の化学繊維、綿、麻、ウール、絹等の天然繊維、セラミックス繊維、ガラス繊維、シリカ繊維等の無機繊維等の導電性を有しない繊維に前述の銅、リン性銅等の銅系合金、銀、鉄、ステンレス、導電性を有するその他の金属合金等の金属繊維およびそれら金属箔をスリットした金属テープ、炭素繊維等の導電性を有する素材を撚糸、紡績、カバーリング等の手段により複合して導電性機能を付与した糸がある。
乾式めっきや湿式めっき等の化学的手法で、ポリエチレンテレフタレート、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PTT(ポリトリメチレンテレフタレート)等のポリエステル系繊維、ナイロン(ポリアミド繊維)、アラミド(芳香族ポリアミド繊維)、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフイン系繊維、フッ素繊維、ポリ乳酸繊維、アクリル等の合成繊維、レーヨン、アセテート等の化学繊維、綿、麻、ウール、絹等の天然繊維、セラミックス繊維、ガラス繊維、シリカ繊維等の無機繊維等の導電性を有しない繊維に、金、白金、銀、銅、ニッケル等の金属および金属合金を表面にコーティングして導電性機能を付与した導電性を有する繊維素材がある。
炭素粉末や銀、銅の粉末をポリエチレンテレフタレート、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PTT(ポリトリメチレンテレフタレート)等のポリエステル系繊維、ナイロン(ポリアミド繊維)、アラミド(芳香族ポリアミド繊維)、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフイン系繊維、フッ素繊維、ポリ乳酸繊維、アクリル等の合成繊維、レーヨン、アセテート等の化学繊維の紡糸工程で繊維に練り込み方法で導電性機能を付与した導電性を有する繊維素材がある。
さらには前述の導電性を有しない繊維からなる織物、編物、不織布等の構造体またはフィルムに乾式めっきや湿式めっき等の化学的手法で、金、白金、銀、銅、ニッケル等の金属および金属合金を表面にコーティングして導電性機能を付与し後にスリット加工にてテープ状にした導電性を有する糸等があげられるが、導電性を有する繊維素材であればこれに限るものではない。
また、感圧用繊維構造体のセンサー部と配線部を構成する導電糸素材が異なる素材構成であっても、感圧用繊維構造体の圧力検知機能に影響なければこれに限る物ではない。
【0019】
感圧用繊維構造体の漏電を防ぐ方法としては、繊維構造体の両面をコーティングやラミネートを行う方法がある。コーティングする樹脂としては、ポリウレタン樹脂、フッ素系樹脂、塩化ビニール樹脂、ホットメルト樹脂、合成ゴム樹脂、熱可塑性樹脂等が、ラミネート材料としては熱可塑性フィルム、遮水性を有する織物や不織布、紙、人工皮革、フォーム等があるが、素材に導電性が無く繊維構造体内への液体の流入を遮水できる性能を維持できる材料であればこれに限るものではない。
【0020】
以下本発明の実施の形態を図1〜6に基づいて説明する。
【実施例1】
【0021】
図1は感圧センサーと配線が一体化した感圧用繊維構造体の概略図であり、上面部1と下面部2からなる多層織物に導電糸3(実線),4(点線)、導電性接続糸5(実線),6(点線)を配置しており、図中の実線で表記している導電糸3、導電性接続糸5は上面部1に配置され、点線で表記している導電糸4、導電性接続糸6は下面部2に配置されており、導電糸3,4で構成するセンサーがマトリックス状に配置したセンシング部7を形成し、センシング部の導電糸3,4と接続部8,9で接続した導電性接続糸5,6および外部のシステムを接続するための端子10,11により構成される各センサー間を目的に応じてして接続する配線として配線部12より構成され、端子10,11と外部システムを接続することにより感圧用繊維構造体上に付加された圧力の有無を検知できる。
【0022】
感圧用繊維構造体の上面1および下面2を構成する繊維は、たて糸にポリエステル仮撚加工糸(167dtex/48f)、よこ糸にポリエステル仮撚加工糸(167dtex/48f)を使用し、センサー及び配線を構成する導電糸(3,4,5,6)としてはポリエステル仮撚加工糸(167dtex/48f)に銅繊維(理研(株)製、Φ=0.05mm)2本を各々異なる撚り方向に螺旋状に巻き付けたカバーリング糸を使用し、レピア織機にて製造した。
【0023】
図2は実施例1の感圧用繊維構造体の基本となる平風通織り2重組織図である。本実施例1と同等の織物組織図は非常に大きいため、感圧用繊維構造体のセンシング部と配線部を簡易的に示している。
図2より、感圧用繊維構造体の上面に配置されるよこ糸を導電糸3、下面に配置されるたて糸を導電糸4とすることで導電糸3、4は互いに接触することなくセンサーとして機能して、感圧用繊維構造体のセンシング部を構成しており、また、感圧用繊維構造体の上面に配置されるたて糸を導電性接続糸5とすることで、おなじく上面に設置されたよこ糸の導電糸3と接触し、感圧用繊維構造体の下面に配置されるよこ糸の導電性接続糸6は同じく下面に設置される導電糸4と接触して感圧用繊維構造体の配線部を構成している。
【0024】
実施例1の感圧用繊維構造体の端子10,11に50Ωの抵抗と安定化電源(KIKUSUI製 PMC18-3)を接続して直流回路を構成し、安定化電源から5Vの直流電圧を印加して、圧縮試験機(カトーテック(株)製KES-FB3)で感圧用繊維構造体に圧力を付加したときの50Ωの抵抗の電圧変化をデータロガー(グラフテック製midi LOGGER GL200)にて測定して性能を評価した。
【0025】
実施例1の感圧用繊維構造体の圧力検知機能を評価した結果を図3に示す。
図3の太線は圧縮試験機にて実施例1の感圧用繊維構造体を50kPaまで加圧し、その後徐圧した時の圧縮量と圧力の変化を表しており、Y軸は実施例1の感圧用繊維構造体に付加した圧縮圧力、X軸にはその時の感圧用繊維構造体の圧縮量である。また、実施例1の感圧用繊維構造体を含む直流回路の抵抗の電圧変をZ軸とし、細線が実施例1の感圧用繊維構造体の圧縮時の電圧変化(圧力検知)を表している。
図より、感圧用繊維構造体を加圧していった時、圧縮圧力が7.5kPaを越えたときに細線が示す抵抗の電圧値が急激に変化しており、本実施例は7.5kPa以上の圧力の有無を検知できる感圧用繊維構造体であることがわかる。
【0026】
実施例1の感圧用繊維構造体の柔軟性を評価するために、曲げ試験機(カトーテック(株)製KES-FB2)を使用して曲げ剛性の測定を行った。試料としては、実施例1の感圧用繊維構造体のセンシング部および配線部、さらに比較のために実施例1と同様の織物組織で導電糸が無い繊維素材構成の繊維構造体(比較試料1)、一般的な合成繊維織物として衣料として使用されるポリエステル仮撚加工糸織物(比較試料2)、家庭用網戸等に使用されるポリエステルモノフィラメント織物(比較試料3)を測定し、その結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
実施例1の感圧用繊維構造体のセンシング部、配線部の曲げ剛性は近い値を示しており、感圧用繊維構造体は全体的に均一の物性を示す繊維構造体であることがわかる。
また、実施例1の感圧用繊維構造体は導電糸を含むこととセンサーの精度向上のために安定した織物構造を形成する織物規格であるため、一般的な衣料用ポリエステル織物と比較すると曲げ剛性が5倍あり硬い織物となっているが、比較例3との曲げ剛性を比較すればわかるように、一般的工業用の繊維材料に比べると1/2以下の曲げ剛性であり、十分柔軟性に優れていることがわかる。
【実施例2】
【0029】
実施例2として、複数領域を検知する感圧用繊維構造体に関する具体例を示す。
【0030】
図4は、複数領域を検知する感圧用繊維構造体を示す概略図であり、実施例2の感圧用繊維構造体のセンシング部は導電糸13〜16で構成し、導電糸13と導電糸15が交錯する9つのセンサーで構成されるセンサー領域A、導電糸14と導電糸15が交錯する9つのセンサーで構成されるセンサー領域B、導電糸13と導電糸16が交錯する9つのセンサーで構成されるセンサー領域C、導電糸14と導電糸16が交錯する9つのセンサーで構成されるセンサー領域Dの4領域に画定し、配線部は、導電糸15と接続部21で接続する導電性接続糸17、導電糸16と接続部22で接続する導電性接続糸18、導電糸13と接続部23で接続する導電性接続糸19、導電糸14と接続部24で接続する導電性接続糸20の4つの配線およびそれらの4つの配線が外部システムと接続するための端子25〜28で構成する。
【0031】
図5は、実施例2の感圧用繊維構造体において導電性接続糸19および20が上面から下面にまたは、下面から上面に配置する場合の基本的な織物組織図を示している。
図5の織物組織図において、たて糸29は下面に配置され、たて糸30は上面に配置され、よこ糸31は領域EおよびFで下面に配置され、よこ糸32は領域EおよびFで上面に配置される。これに対し、よこ糸33は領域Eでは上面に配置されるが領域Fでは下面に配置され、よこ糸34は領域Eでは下面に配置されるが領域Fでは上面に配置される。
この組織図を用いて、図4の接続部24における糸の配置を説明する。まず、導電糸14は領域Eにある下面に配置されたたて糸であり、導電性接続糸20が図5のよこ糸31、導電性接続糸19は図5のよこ糸33である。この場合、導電性接続糸20は域Eでは常に下面に配置されるため導電糸14と交錯して導通状態となり、導電性接続糸19は領域Eでは上面に配置されるため導電糸14と交錯せずに配線できることになる。
【0032】
端子と外部システムを接続する組み合わせ方法として、センサー領域Aの荷重を検知する端子25と27、センサー領域Bの荷重を検知する端子25と28、センサー領域Cの荷重を検知する端子26と27、センサー領域Dの荷重を検知する端子26と28があり、この組み合わせにて実施例2の感圧用繊維構造体は一枚の感圧テキスタイルで4領域を個々に検知できることになる。
特に端子25,26および27,28をそれぞれ外部システムのセパレータに接続し、プログラムで制御することにより随時4つのセンサー領域の各々の荷重を連続的に検知できるシステムを構築することが可能となる。
【0033】
実施例2の感圧用繊維構造体の素材構成は実施例1と同様であり、繊維構造体のたて糸はポリエステル仮撚加工糸(167dtex/48f)を使用し、よこ糸はポリエステル仮撚加工糸(167dtex/48f)を使用し、センサー及び配線を構成する導電糸13〜16および17〜20にはポリエステル仮撚加工糸(167dtex/48f)に銅繊維(Φ=0.05mm)2本を異なる撚り方向に螺旋状に巻き付けたダブルカバーリング糸を使用し、レピア織機を使用して作製する。
【0034】
実施例2の感圧用繊維構造体の圧力検知機能評価は、端子25〜28と、50Ωの電気抵抗、安定化電源(KIKUSUI製 PMC18-3)で構成する直流回路を外部システムとして接続し、安定化電源にて5Vの直流電圧を回路に印加して圧縮試験機(カトーテック(株)製KES-FB3)で感圧用繊維構造体の4領域に圧力を付加したときの50Ωの抵抗の電圧変化をデータロガー(グラフテック製midi LOGGER GL200)で測定して行った。
【0035】
図6が実施例2の感圧用繊維構造体の圧力検知機能評価結果であり、各々のセンサー領域A〜Dに圧力を付加して電圧変化を測定したところ、7700〜8200Paの圧力範囲にて電圧値の変化が測定され、本実施例は各4領域とも8.5kPa以上の圧力を検知できる感圧用繊維構造体であることがわかる。
【実施例3】
【0036】
実施例3として、2段階の異なる圧力を検知する感圧用繊維構造体の具体例を示す。
【0037】
図7は、実施例3の感圧用繊維構造体を示す構成図であり、センシング部は導電糸37〜40で構成され、導電糸37,39で構成される感圧センサー49と導電糸38,40で構成される感圧センサー50は検知する圧力が異なり、感圧センサー49は感圧センサー50と比較して低荷重の圧力を検知するセンサー構成とし、配線部は、導電糸37と接続部43で接続する導電性接続糸41、導電糸38と接続部44で接続する導電性接続糸42、導電糸39と接続部47で接続する導電性接続糸45、導電糸40と接続部48で接続する導電性接続糸46の4つの配線および端子51〜54で構成する。
【0038】
感圧センサー50の断面図を図8(1)に、感圧センサー49の断面図を図8(2)に示す。
感圧センサー50は空間56にスペーサー繊維55が配置されるため、感圧センサー50に圧力が付加された時に導電糸38と接触するように加圧変形する導電糸40を含む感圧繊維構造体の加圧変形可能領域57は、感圧センサー49に圧力が付加された時に導電糸37と接触するように加圧変形する導電糸39を含む感圧繊維構造体の加圧変形可能領域58と比較して狭いため、同じ素材構成であっても導電糸が接触するのに必要な圧力が異なり、感圧センサー50は感圧センサー49より高い圧力(荷重)を検知する感圧センサーとなり、実施例3では高荷重を検知する感圧センサー50と低荷重を検知する感圧センサー49を同一感圧用繊維構造体内に実現できる。
【0039】
端子51〜54と外部システムを接続し、低荷重を検知する感圧センサー49の情報を端子51と53の電気信号より取得し、高荷重を検知する感圧センサー50の情報を端子52と54の電気信号より取得することで、実施例3の感圧用繊維構造体は一枚の感圧テキスタイルで異なる2段階の荷重を別々に検知できるシステムとなる。
特に端子51,52および53,54をそれぞれ外部システムのセパレータに接続してプログラム制御することにより、低荷重を検知する感圧センサー49と高荷重を検知する感圧センサー50の検知荷重の中間の荷重、および高荷重を検知する感圧センサー50の検知荷重以上の荷重の2段階の荷重を連続的に検知できるシステムが構築できる。
【0040】
実施例3の感圧用繊維構造体の素材構成は、繊維構造体のたて糸にポリエステル仮撚加工糸(167dtex/48f)、よこ糸にポリエステル仮撚加工糸(167dtex/48f)を使用し、センサー及び配線を構成する導電糸37〜40および導電性接続糸41,42,45,46にはポリエステル仮撚加工糸(167dtex/48f)に銅繊維(Φ=0.05mm×2本)を螺旋状に巻き付けたカバーリング糸を使用し、感圧センサー50のたて糸の一部に使用するスペーサー繊維としてはポリエステル1100dtexを使用し、レピア織機を使用して作製する。
【0041】
実施例3の感圧用繊維構造体の圧力検知機能評価は、端子51〜54と、50Ωの電気抵抗、安定化電源(KIKUSUI製 PMC18-3)で構成する直流回路を外部システムとして接続し、安定化電源にて5Vの直流電圧を印加して圧縮試験機(カトーテック(株)製KES-FB3)で感圧用繊維構造体に圧力を付加したときの50Ωの抵抗の電圧変化をデータロガー(グラフテック製midi LOGGER GL200)で測定して行った。
【0042】
図9の(1),(2)は実施例3の感圧用繊維構造体の圧力検知機能評価結果であり、Y軸に感圧用繊維構造体の圧縮圧力、X軸に感圧用繊維構造体の圧縮量を示しており、太線は圧縮試験機にて実施例3の感圧用繊維構造体を50kPaまで加圧し、その後徐圧した時の感圧用繊維構造体の圧縮量と圧力の変化を表している。また、Z軸は直流回路の抵抗の電圧変化を表示しており、図中の細線が実施例3の感圧用繊維構造体の圧縮過程における直流回路抵抗の電圧変化、つまり圧力検知の有無を表示している。
低荷重センサー49(図9-(1))と高荷重センサー50(図9-(2))では、実施例3の感圧用繊維構造体の圧縮過程における直流回路抵抗の電圧に変化が生じた時の圧縮圧力が異なり、各々8.3kPaと16kPaであり、低荷重センサー49は8.3kPa以上の圧力を検知でき、高荷重センサー50は16kPa以上の圧力を検知できることがわかる。このことは、本実施例が2つの異なる圧力を検知できる感圧用繊維構造体であることを示している。
【0043】
実施例3の感圧用繊維構造体の端子51と53および端子52と54に各々に市販の電子オルゴール回路を接続し、実施例3の感圧用繊維構造体が加圧されて低荷重センサー49と高荷重センサー50が導通時に異なる電子音が発生するシステムを構築した。
体重72kgの人間が実施例3の感圧用繊維構造体上に静かに乗った時は電子音が2つ発生し、体重50kgの人間が実施例3の感圧用繊維構造体上に静かに乗った時は電子音が一つしか発生せず、本実施例は2つの異なる圧力を検知できる感圧用繊維構造体であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は感圧センサーと配線が一体化した繊維構造体による広範囲の圧力を検知可能な感圧用繊維構造体であるため、取り扱い性の容易であるだけでなく柔軟性や耐屈曲性に優れ、立体物の曲面に沿って張り合わせることができるなど優れた加工性・施工性も有する。
シート内に配線を有しているため、感圧用繊維構造体にコーティング等の撥水、耐水処理も容易に可能であり、屋外での使用を含め汎用性が高く、建築業界、自動車業界など様々な産業分野での適応が期待される。
【0045】
具体的製品用途としては、広範囲の領域で人の体重を検知する簡易システムとして介護分野や建築分野、また各種物体の有無を検知する圧力検知スステムとして輸送分野や各種産業設備での応用が期待される。
大型システムとしては、建造物の床等に配置して人の動きや入退室を検知するセンサーやスイッチ、またホール等の着席状況把握システムなど様々な用途・製品化が期待されている。小型のシステムとしては、ベッドや椅子での離床や着座を検知するセンサー、または防護衣料などのウェアラブルシステムのスイッチとして製品化が期待されている。

【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】感圧用繊維構造体の構成図である。
【図2】感圧用繊維構造体の織物組織図である。
【図3】感圧用繊維構造体の圧力検知特性を示すグラフである。
【図4】複数領域を検知する感圧用繊維構造体の構成図である。
【図5】感圧用繊維構造体の上面と下面に交互に導電糸を配置する織物組織図である。
【図6】複数領域を検知する感圧用繊維構造体の圧力検知特性を示すグラフである。
【図7】異なる圧力を検知する感圧用繊維構造体の構成図である。
【図8】検知圧力の異なる感圧センサーを構成する繊維構造体の断面図である。
【図9】異なる圧力を検知する感圧用繊維構造体の圧力検知特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0047】
1 上面
2 下面
3 導電糸
4 導電糸
5 導電性接続糸
6 導電性接続糸
7 センシング部
8 接続部
9 接続部
10 端子
11 端子
12 配線部
13 導電糸
14 導電糸
15 導電糸
16 導電糸
17 導電性接続糸
18 導電性接続糸
19 導電性接続糸
20 導電性接続糸
21 接続部
22 接続部
23 接続部
24 接続部
25 端子
26 端子
27 端子
28 端子
29 たて糸
30 たて糸
31 よこ糸
32 よこ糸
33 よこ糸
34 よこ糸
35 上面
36 下面
37 導電糸
38 導電糸
39 導電糸
40 導電糸
41 導電性接続糸
42 導電性接続糸
43 接続部
44 接続部
45 導電性接続糸
46 導電性接続糸
47 接続部
48 接続部
49 感圧センサー
50 感圧センサー
51 端子
52 端子
53 端子
54 端子
55 スペーサー繊維
56 空間
57 加圧変形可能領域
58 加圧変形可能領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の導電糸を面方向に所定の間隔で配置した上面部と、複数の導電糸を面方向に所定の間隔でかつ上面部の導電糸と交差する方向に配置した下面部と、上面部及び下面部の間を所定の間隔に保つ連結部とを備え、押圧により連結部が圧縮状態となることで上面部の導電糸と下面部の導電糸とが接触状態となる感圧用繊維構造体において、前記上面部及び下面部は、それぞれ導電糸と交差する方向に配置されて所定の本数の導電糸と電気的に接続する導電性接続糸を備えていることを特徴とする感圧用繊維構造体。
【請求項2】
繊維構造体が、織物にて構成されることを特徴とする請求項1記載の感圧用繊維構造体。
【請求項3】
繊維構造体が、編物にて構成されることを特徴とする請求項1記載の感圧用繊維構造体。
【請求項4】
感圧面を複数の領域に画定して複数の感圧センサー部が設けられており、各感圧センサー部内に設定された上面部及び下面部の前記導電糸にのみそれぞれ電気的に接続する前記導電性接続糸を備えていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の感圧用繊維構造体。
【請求項5】
少なくとも1つの前記感圧センサー部の圧縮特性が異なっていることを特徴とする請求項4に記載の感圧用繊維構造体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−249409(P2008−249409A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−89175(P2007−89175)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(592029256)福井県 (122)
【Fターム(参考)】