説明

感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法、およびその利用

【課題】小規模な培養条件下にて簡便に感染性C型肝炎ウイルス粒子を製造することができる方法を提供する。
【解決手段】中空糸の内腔中に細胞を充填させる充填工程と、充填工程の前段または後段の少なくとも一方に設けられた、細胞に対してC型肝炎ウイルスを感染させる1次感染工程と、内腔中に充填され、かつC型肝炎ウイルスが感染した細胞を培養する培養工程と、を含む感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法において、培養工程にて複製されたC型肝炎ウイルスを分離する分離工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法に関するものであり、特に、培養細胞を用いた感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
C型肝炎ウイルス(HCV:Hepatitis C Virus)の感染者は、世界中で約3億人に達するとの報告があり、日本国内においてもC型肝炎ウイルスの持続感染者は、200万人を越えると推定されている。
【0003】
HCVの感染者は非常に高い確率で慢性肝炎を発症し、一部の患者においては、慢性肝炎が更に肝硬変、肝癌へと進行する。つまり、HCVは、重篤な疾患を引き起こす原因ウイルスである。
【0004】
WHOによれば毎年300万人〜400万人の新規感染者が報告されており、現在その治療方法としては、インターフェロン、および抗ウイルス薬であるリバビリンを併用した治療方法が多用されている。しかしながら、日本ではインターフェロンが効きにくい1bタイプのHCV(HCV−1b)の感染者が多いことから、上記治療方法では治療効果が低いという問題点を有している。また、インターフェロンは、患者に対して強い副作用を示すことも明らかになっている。そのため、HCVの感染拡大の防止およびHCVの撲滅に向けた新規治療薬および新規ワクチンの開発が、急務となっている。
【0005】
新規治療薬および新規ワクチンの開発には、これら治療薬の候補物質およびワクチンの候補物質の効果を確認するために、HCVの生活環(例えば、増殖性や感染性など)の全体を再現することが可能な小規模かつ簡便な検査システムを構築することが必要となる。例えば、このようなシステムに上記候補物質を投入してHCVの生活環を阻害することができれば、当該候補物質をHCV感染症に対する治療薬として用いることができる可能性がある。それ故に、現在まで、HCVの生活環を再現した検査システムの開発に力が注がれてきた。
【0006】
例えば、1999年にはHCVのサブゲノムを培養細胞中にて複製増殖させることが可能なHCVサブゲノムレプリコンシステムが報告された(例えば、非特許文献1参照)。
【0007】
また、2003年には、ラジアルフロー3次元培養系を用いてHCV感染患者の血漿にHCVを感染させたという報告がある(例えば、非特許文献2参照)。
【0008】
また、2005年には、脇田らがクローニングしたJFH−1株を用いることによって、培養細胞を用いたHCVの複製が世界で初めて可能となった(例えば、非特許文献3参照)。
【0009】
また、本願発明者らは独自にヒト不死化肝細胞を樹立し、中空糸を用いて上記ヒト不死化肝細胞を立体培養することによって、患者血清由来の天然型HCVの感染増殖を再現することができる技術を開発した(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】PCT/JP2007/068611(国際公開日:2008年4月3日)
【非特許文献1】Science.285:110-113,1999
【非特許文献2】Aizaki.Hら, Virology, 314(1): pp16-25(2003)
【非特許文献3】脇田隆字ら, ウイルス, 55(2): pp287-296(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記従来の培養細胞を用いたC型肝炎ウイルスの生活環の再現システム、換言すれば、C型肝炎ウイルス粒子の製造方法は、C型肝炎ウイルスの全生活環を再現することができないという問題点を有している。換言すれば、上記従来の培養細胞を用いたC型肝炎ウイルスの製造方法は、感染性C型肝炎ウイルス粒子を、小規模な培養条件下にて簡便に製造することができないという問題点を有している。
【0011】
例えば、上記HCVサブゲノムレプリコンシステムでは、ウイルスRNAの複製が出来るのみであり、しかも、当該複製が可能なHCV株の種類もごく少数に限られているという問題点を有している。
【0012】
また、上記ラジアルフロー3次元培養系は、常時培地を循環させることができる大掛かりな装置が必要であるとともに、HCVが細胞に感染して増殖している途中で、当該細胞を取り出して解析することが不可能であるという問題点を有している。
【0013】
また、上記JFH−1株は、HCV感染患者の中では極めて稀な劇症肝炎患者から分離された細胞であり、劇症肝炎を発症させるタイプのHCVを複製することはできるが、我が国のHCV感染患者の多くを占める慢性肝炎患者の血清由来の天然型HCVを複製することはできないという問題点を有している。
【0014】
また、上記特許文献1に記載の技術では、HCVを細胞に感染させて当該HCVを複製できたが、当該複製されたHCVが感染能をも保持しているか否かに関しては明確ではなかった。また、当然のことではあるが、上記特許文献2に記載の技術では、感染性を有するHCVが、どのようなタイミングにて製造されるのかに関しても明確ではなかった。
【0015】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、小規模な培養条件下にて簡便に感染性C型肝炎ウイルス粒子を製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、本願発明の構成であれば感染性をも保持したC型肝炎ウイルス粒子を製造することが可能であるとともに、感染性を保持したC型肝炎ウイルス粒子は、ウイルスに感染した後の細胞にてコアタンパク質の発現が上昇しはじめてから生産されることを見出して、本願発明を完成させるに至った。
【0017】
すなわち、本発明の感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法は、上記課題を解決するために、中空糸の内腔中に細胞を充填させる充填工程と、前記充填工程の前段または後段の少なくとも一方に設けられた、前記細胞に対してC型肝炎ウイルスを感染させる1次感染工程と、前記内腔中に充填され、かつ前記C型肝炎ウイルスが感染した前記細胞を培養する培養工程と、を含む感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法において、前記培養工程にて複製されたC型肝炎ウイルスを分離する分離工程を含むことを特徴としている。
【0018】
本発明の感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法では、前記分離工程にて分離されたC型肝炎ウイルスを、増幅用細胞に対して2次感染させる2次感染工程を含むことが好ましい。
【0019】
本発明の感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法では、前記分離工程は、C型肝炎ウイルスのコアタンパク質の発現量が上昇し始めた後に行われることが好ましい。
【0020】
本発明の感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法では、前記分離工程は、シュクロース勾配遠心分離にて浮遊密度1.12g/mL〜1.14g/mLのフラクションを分離する工程を含むことが好ましい。
【0021】
本発明の感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法では、前記充填工程では、前記細胞に対して圧力を加えることによって、該細胞を前記内腔中に充填することが好ましい。
【0022】
本発明の感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法では、前記圧力は、遠心力であることが好ましい。
【0023】
本発明の感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法では、前記細胞は、肝細胞または肝臓由来の細胞であることが好ましい。
【0024】
本発明の感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法では、前記細胞は、HuS−E/2細胞であることが好ましい。
【0025】
本発明の感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法では、前記1次感染工程に用いるC型肝炎ウイルスは、肝炎患者の血清または慢性肝炎患者の血清に由来するC型肝炎ウイルスであることが好ましい。
【0026】
本発明のC型肝炎治療用薬剤のスクリーニング方法は、上記課題を解決するために、上記製造方法にて得られる感染性C型肝炎ウイルス粒子を、薬剤候補物質の存在下でスクリーニング用細胞に感染させるスクリーニング感染工程を含むことを特徴としている。
【0027】
本発明のC型肝炎治療用薬剤のスクリーニング方法では、前記1次感染工程に用いるC型肝炎ウイルスと、前記スクリーニング用細胞とは、同一の動物種に由来するものであることが好ましい。
【0028】
本発明のC型肝炎治療用薬剤のスクリーニング方法は、上記課題を解決するために、中空糸の内腔中に細胞を充填させる充填工程と、前記充填工程の前段または後段の少なくとも一方に設けられた、前記細胞に対してC型肝炎ウイルスを感染させる1次感染工程と、前記内腔中に充填され、かつ前記C型肝炎ウイルスが感染した前記細胞を培養する培養工程と、前記培養工程にて複製されたC型肝炎ウイルスを分離する分離工程と、を含み、前記1次感染工程では、薬剤候補物質の存在下で前記細胞に対してC型肝炎ウイルスを感染させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0029】
本発明の感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法は、上述したように、中空糸の内腔中に細胞を充填させる充填工程と、上記充填工程の前段または後段の少なくとも一方に設けられた、上記細胞に対してC型肝炎ウイルスを感染させる1次感染工程と、上記内腔中に充填され、かつ上記C型肝炎ウイルスが感染した上記細胞を培養する培養工程と、を含む感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法において、上記培養工程にて複製されたC型肝炎ウイルスを分離する分離工程を含む方法である。
【0030】
また、本発明のC型肝炎治療用薬剤のスクリーニング方法は、上述したように、上記製造方法にて得られる感染性C型肝炎ウイルス粒子を、薬剤候補物質の存在下でスクリーニング用細胞に感染させるスクリーニング感染工程を含む方法である。
【0031】
また、本発明のC型肝炎治療用薬剤のスクリーニング方法は、上述したように、中空糸の内腔中に細胞を充填させる充填工程と、上記充填工程の前段または後段の少なくとも一方に設けられた、上記細胞に対してC型肝炎ウイルスを感染させる1次感染工程と、上記内腔中に充填され、かつ上記C型肝炎ウイルスが感染した上記細胞を培養する培養工程と、上記培養工程にて複製されたC型肝炎ウイルスを分離する分離工程と、を含み、上記1次感染工程では、薬剤候補物質の存在下で上記細胞に対してC型肝炎ウイルスを感染させる方法である。
【0032】
それ故に、本発明は、非常に多様性に富むことが知られているHCVの生活環の全てを再現することができるHCVを製造することができるという効果を奏する。
【0033】
また、本発明は、生活環の全てを再現することができるHCVを用いるので、HCVの生活環の様々な段階を標的とした抗HCV薬剤のスクリーニングを可能にするという効果を奏する。
【0034】
また、本発明は、HCVの全生活環を再現できるので、例えば、患者由来の天然型HCVの感染・増殖過程を長期に渡って(例えば、1ヶ月以上)持続することができるという効果を奏する。
【0035】
また、本発明は、製造過程において容易に細胞または培養上清を採取することができるので、当該細胞または培養上清を容易に解析することができるとともに、製造過程にあるHCVを容易に解析することができるという効果を奏する。
【0036】
また、本発明は、細胞に対してHCVを接触感染させることによってHCV感染細胞を作製する。したがって、容易かつ効率よく感染性C型肝炎ウイルスを作製することができるという効果を奏する。
【0037】
また、本発明は、簡易な構造の中空糸を用いているので、大掛かりで特殊な装置を必要とせず、簡単な装置、および簡便な操作によって感染性C型肝炎ウイルスを産生することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下に本発明の具体的な実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0039】
〔1.感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法〕
本実施の形態の感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法は、充填工程、1次感染工程、培養工程、および分離工程を含んでいる。以下に、各工程について説明する。なお、本明細書において「感染性C型肝炎ウイルス粒子」とは、感染能を有するC型肝炎ウイルス粒子を意図する。
【0040】
<1−1:充填工程>
本実施の形態の感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法は、中空糸の内腔中に細胞を充填させる充填工程を含んでいる。
【0041】
上記中空糸は、HCVが感染した細胞を保持するための内腔を備えるものであればよく、その具体的な構成は特に限定されない。例えば、上記中空糸は、一端が封止されているとともに他端が開口されているものであって、細胞は通過させないが水、塩類、タンパク質等の培養液成分、HCVを通過させ得る細孔を有する、換言すれば、透過性を有するものであることが好ましい。
【0042】
更に具体的には、上記中空糸は透過性を有する膜状のものであることが好ましい。上記構成であれば、内腔中の細胞の増殖を活性化できるとともに、HCVの生産量を増加させることができる。また、上記構成であれば、内腔中に充填された細胞に対して、容易にHCVを感染させることができる。
【0043】
中空糸の材料は特に限定されないが、細胞を中空糸の内腔中に保持できるとともに、溶液および低分子などの物質、HCVを透過させ得るものであることが好ましい。例えば、上記材料は、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはポリスルホンなどであることが好ましい。
【0044】
中空糸の内腔の大きさは特に限定されないが、その内径が20μm〜1000μmであることが好ましく、50μm〜500μmであることが更に好ましい。
【0045】
中空糸の膜厚も特に限定されず、適度の強度を保つとともに、物質の透過性が良好な範囲で設定すればよい。例えば、中空糸の膜厚は、例えば10〜200μm程度であることが好ましい。
【0046】
中空糸からなる多孔性膜を使用する場合、その孔径の大きさも特に限定されない。例えば、上記孔径としては、0.1μm〜5μmであることが好ましい。上記構成であれば物質交換効率が高いので、細胞の増殖を活性化できるとともに、HCVの生産量を更に増加させることができる。また、上記構成であれば、内腔中に充填された細胞に対して、容易にC型肝炎ウイルスを感染させることができる。
【0047】
また上述したように、上記中空糸は、(1)着脱可能に連結された流入側流通管と流出側流通管とからなる、一端が開口した細胞懸濁液流通管と、(2)細胞懸濁液流通管の他端に設けられた中空糸固定部と、を備えた器具に取り付けられた状態で用いられることが好ましい。このとき中空糸は、一端が封止され他端が開口しているとともに、開口端が(1)の細胞懸濁液流通管と連通し、(2)の中空糸固定部に液体が漏れない状態で貫通するように、上記器具に1本または複数本取り付けられている。
【0048】
なお、上記中空糸および中空糸付きの器具は、特開2005−110695号公報に記載されたものを好適に使用することが可能であり、本願発明においては、当該特許文献の記載を適宜援用することができる。
【0049】
上記中空糸の内腔中に充填される細胞は、HCVが感染し得る細胞であればよく、特に限定されない。例えば、上記細胞は、肝細胞または肝臓由来細胞であることが好ましく、ヒト肝細胞またはヒト肝臓由来細胞であることが更に好ましい。また、上記細胞は、不死化されたヒト肝細胞であるHus−E/2細胞(FERM ABP−10908)であることが最も好ましい。上記構成であれば、特に効率よく感染性C型肝炎ウイルスを製造することができる。なお、本明細書においては、HCVを感染させる細胞を、培養細胞または宿主細胞と称することもある。
【0050】
充填工程では、上記中空糸の内腔中にHCVを感染させるべき細胞、またはHCVに既に感染した細胞が充填される。具体的な充填方法は特に限定しないが、細胞に対して圧力を加えることによって、当該細胞を内腔中に充填することが好ましい。また、上記圧力は、遠心力であること、換言すれば、遠心力によって上記細胞が内腔中に充填されることが更に好ましい。なお、後述するように中空糸の内腔中に充填された細胞は培養工程にて培養されるので、上記中空糸は、細胞を充填する前に親水化処理および滅菌処理されていることが好ましい。中空糸の親水化処理および滅菌処理の具体的な方法は特に限定されず、適宜従来公知の方法によって行われ得る。また、細胞を充填する前に、中空糸の内腔中に細胞培養用の液体培地、細胞保存用液、または適当なバッファーなどを満たしておくことが好ましい。充填工程の更に具体的な構成を以下に説明するが、充填工程はこれらに限定されない。
【0051】
上記充填工程では、中空糸の内腔中に充填される細胞を、細胞培養用の液体培地、細胞保存用液または適当なバッファー等に懸濁し、当該細胞懸濁液を中空糸の開口部から内腔中に充填(注入)することが好ましい。また、中空糸の内腔中に予め細胞培養用の液体培地、細胞保存用液、または適当なバッファーを満たしておき、当該内腔中に同じ液体培地、細胞保存用液またはバッファーに懸濁した細胞を充填することが更に好ましい。なお、上記構成の中では、細胞培養用の液体培地を用いることが、より好ましい。
【0052】
中空糸の他端が封止されていれば、中空糸の開口部から内腔に注入された細胞懸濁液中の液体培地等の液体成分が中空糸の通孔から中空糸の外側に流出するとともに、細胞が中空糸の内腔中に堆積する。
【0053】
上記充填工程では、細胞に対して圧力を加えることによって当該細胞を内腔中に充填することが好ましい。細胞に対して圧力を加えるための具体的な方法としては特に限定されないが、例えば、公知の遠心機によって細胞に対して遠心力を負荷することが好ましい。また、中空糸の内腔内部の圧力を陽圧にする、および/または中空糸の内腔外部の圧力を陰圧にすることによって、細胞に対して圧力を加えることが好ましい。上記構成によれば、細胞に対して圧力を加えることによって、内腔中の細胞を凝集体化することができる。そして、細胞を凝集体化することができれば、当該細胞に対して高効率かつ安定にHCVを感染させることができる。
【0054】
なお、細胞に対して圧力を加えるための具体的な方法としては、特開2004−166717号公報および特開2004−283010号公報に記載された方法も好適に使用することが可能であり、本願発明においては、当該特許文献の記載を適宜援用することができる。
【0055】
<1−2:1次感染工程>
本実施の形態の感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法では、上述した充填工程の前段または後段の少なくとも一方に、上記細胞に対してHCVを感染させる1次感染工程が設けられている。
【0056】
細胞に感染させるHCVとしては特に限定されず、少なくとも感染能および複製能を有するHCVであればよい。更に具体的には、例えば、天然型HCV、改変型HCVを用いることができる。なお、上記天然型HCVとしては肝炎患者の血清または慢性肝炎患者の血清に由来するHCVであることが好ましい。
【0057】
上記天然型HCVとは、天然に存在するHCVを意図する。なお、当該天然型HCVの中には、天然に存在するHCVに突然変異が生じたものも含まれる。天然型HCVは、HCVの感染患者の血液または血清から公知の方法(例えば、スクロース勾配遠心分離など)によって得ることが可能である。なお、感染工程においては、HCVの感染患者(例えば、慢性肝炎患者)の血液または血清をそのままHCVの感染源として用いることも可能であるし、血液または血清から公知の方法(例えば、スクロース勾配遠心分離など)によってHCVを精製し、当該精製されたHCVを感染源として用いることも可能である。また、上記改変型HCVとは、上記天然型HCVの塩基配列を人工的に改変したHCVを意図する。なお、具体的な改変方法としては特に限定されず、目的に合わせて適宜改変することが可能である。
【0058】
また、細胞に感染させるHCVとしては、本実施の形態の感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法によって製造されたHCVを用いることも可能である。上記構成によれば、より簡便に感染性C型肝炎ウイルスを大量に製造することができる。
【0059】
上述したように、当該感染工程は、上述した充填工程の前段または後段の少なくとも一方に設けられている。
【0060】
感染工程が充填工程の前段に設けられている場合には、細胞に対して予めHCVを感染させた後、当該細胞を中空糸の内腔中に充填させることになる。
【0061】
この場合、HCVを感染させる時の細胞の状態としては特に限定されないが、例えば、培養プレート上に接着した細胞に対してHCVを感染させることも可能であり、液体培地中に分散した懸濁状態の細胞に対してHCVを感染させることも可能である。なお、培養プレート上に接着した細胞に対してHCVを感染させる場合には、当該細胞をトリプシンなどによってプレートから剥がした後、当該細胞を中空糸の内腔中に充填すればよい。ウイルスと細胞との接触機会が増加してウイルスの感染効率が上昇するので、上記方法の中では、液体培地中に分散した懸濁状態の細胞に対してHCVを感染させる方が好ましい。
【0062】
また、細胞に対してHCVを感染させる方法としても特に限定されず、例えば、HCVを細胞に対して一定時間接触させることによって感染させることが好ましい。また、HCV含有液(例えば、C型肝炎感染患者の血液または血清、HCVを含む培養上清など)を細胞に対して一定時間接触させることによって感染させることが、更に好ましい。また、エレクトロポレーションによってHCVを感染させることも可能である。
【0063】
感染工程が充填工程の後段に設けられている場合には、予め細胞を中空糸の内腔中に充填した後、当該細胞に対してHCVを感染させることになる。上記構成によれば、内腔中で細胞が凝集体化しているので、感染工程が充填工程の前段に設けられている場合と比較して、HCVが、細胞に対して高効率かつ安定に感染することができる。つまり、当該構成であれば、より多くの感染性C型肝炎ウイルスを製造することが可能になる。
【0064】
細胞に対してHCVを感染させる方法としても特に限定されず、例えば、HCVを中空糸の内空中に充填された細胞に対して一定時間接触させることによって感染させればよい。また、HCV含有液(例えば、C型肝炎感染患者の血液または血清、HCVを含む培養上清など)を中空糸の内腔中に充填された細胞に対して一定時間接触させることによって感染させることが好ましい。なお、この場合には、中空糸は、HCVを容易に通過させ得るとともに細胞を通過させることができない程度の大きさの細孔を有することが好ましい。
【0065】
なお、本明細書において「C型肝炎ウイルスが細胞に対して感染する」とは、細胞内にHCVが進入するとともに、当該HCVが安定的に増殖している状態を意図している。なお、細胞内または培養上清中における、HCV由来の核酸の量またはHCV由来のタンパク質の量を定量することによって、HCVの感染を確認することができる。なお、更に具体的な確認方法としては特に限定されないが、例えば、PCR法、ウエスタンブロット法などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0066】
<1−3:培養工程>
培養工程では、中空糸の内腔中に充填され、かつHCVが感染した細胞が培養される。つまり、培養工程では、HCVが感染した細胞を、中空糸の内腔中に充填された状態で培養する。そして、当該工程において、感染性C型肝炎ウイルスが、細胞の内外に蓄積される。
【0067】
具体的な培養方法としては特に限定されず、用いる細胞に合わせて適宜公知の方法を用いることが可能である。例えば、HCVが感染した細胞が充填された中空糸を培養容器に移し、37℃、5%COの環境下で培養することが好ましい。このとき、振とう機などによって培養容器を振とうさせながら培養することが好ましい。上記構成によれば、中空糸の内腔中の細胞に対して効率よく栄養や酸素を供給することができる。そして、その結果、より多くの感染性C型肝炎ウイルスを製造することが可能になる。
【0068】
上述したようにHCVに感染した細胞を培養することによって、培養細胞内においてHCVを増殖させることができる。なお、細胞内におけるHCVの増殖は、細胞または培養上清におけるHCV由来の核酸の量、またはHCV由来のタンパク質の量を定量することによって確認することができる。
【0069】
<1−4:分離工程>
本実施の形態の感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法は、培養工程中に複製された感染性C型肝炎ウイルス粒子を分離する分離工程を含んでいる。なお、当該分離工程は、製造された感染性C型肝炎ウイルス粒子を入手する工程を意図しており、感染性C型肝炎ウイルス粒子の入手時の形態としては特に限定されない。例えば、培養上清中に感染性C型肝炎ウイルス粒子が分散した状態にて入手することも可能であるし、培養細胞中に感染性C型肝炎ウイルス粒子が蓄積した状態にて入手することも可能である。また、上記分離工程では、感染性C型肝炎ウイルス粒子が精製・濃縮された状態にて入手することも可能である。
【0070】
精製・濃縮方法としては特に限定しないが、例えば、スクロース勾配遠心分離法を用いることが好ましい。上記構成によれば、感染性C型肝炎ウイルスを効果的に精製・濃縮することができる。また、上記スクロース勾配遠心分離法では、浮遊密度1.12g/mL〜1.14g/mLのフラクションを分離することが好ましい。上記構成であれば、より高濃度にて感染性C型肝炎ウイルスを入手することができる。
【0071】
上記分離工程は培養工程中に行われればよく、分離工程が行われるタイミングは特に限定されない。例えば、HCVのコアタンパク質の発現量が上昇し始めた後、換言すれば、培地上清中にHCVコアタンパク質が蓄積し始めた後に行うことが好ましい。更に具体的には、上記分離工程は、培地上清中のHCVコアタンパク質の濃度が好ましくは100fM以上、更に好ましくは200fM以上、最も好ましくは300fM以上であるときに行われ得る。
【0072】
本実施の形態の感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法は、上記分離工程にて分離(入手)されたHCVを増幅用細胞に対して2次感染させる2次感染工程を含むことが好ましい。
【0073】
本実施の形態の感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法によって製造されるHCVは感染能を有するので、再び細胞に感染して感染性C型肝炎ウイルスを製造(増幅)することができる。したがって、上記構成であれば、より多くの感染性C型肝炎ウイルスを製造することができるとともに、より完全にHCVの生活環を再現することができる。
【0074】
上記増幅用細胞はHCVが感染し得る細胞であればよく、特に限定されない。例えば、上記細胞は、肝細胞または肝臓由来細胞であることが好ましく、ヒト肝細胞またはヒト肝臓由来細胞であることが更に好ましい。また、上記細胞は、不死化されたヒト肝細胞であるHus−E/2細胞(FERM ABP−10908)であることが最も好ましい。また、上記増幅用細胞と1次感染工程に用いる細胞とは、同一種類の細胞であることが好ましい。上記構成であれば、特に効率よく感染性C型肝炎ウイルス粒子を製造することができる。
【0075】
また、上記増幅用細胞と1次感染工程に用いる細胞とは、同一の細胞であること、換言すれば、上記培養工程終了後の細胞に対して、上記培養工程によって製造された感染性C型肝炎ウイルスを再び2次感染させることが好ましい。このとき、2次感染した感染性C型肝炎ウイルスは、再び感染性C型肝炎ウイルスを製造することができる。そして、再度製造される感染性C型肝炎ウイルスは、同じ細胞に対して3次感染することが可能である。そして、この工程を繰り返すことによって、4次感染、5次感染、6次感染、・・・、n次感染を引き起こすことができる。つまり、本実施の形態の感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法は、上記培養工程終了後の細胞に対して、複数回の感染(2次感染工程、3次感染工程、4次感染工程、・・・・、n次感染工程)が生じる方法であることが好ましい。上記構成によれば、同じ培養バッチの培養細胞を用いて複数回の感染工程を繰り返すことにより、簡単な装置を用いて、効率よく大量の感染性C型肝炎ウイルス粒子を製造することができる。
【0076】
上記2次感染工程は感染性C型肝炎ウイルス粒子が再び細胞(増幅用細胞)に感染することができる工程であればよく、その具体的な方法は特に限定されない。例えば、上述した培養工程中または後に、培地を新たな培地に交換する、または培地に対して新たな培地を加えることが好ましい。上記構成によれば、製造された感染性C型肝炎ウイルス粒子が1次感染工程に用いた細胞に対して再び感染し、その結果、感染性C型肝炎ウイルス粒子を更に製造することができる。なお、当該構成であれば、ウイルスの製造工程を簡略化することができるので、より簡便に、かつ雑菌の混入を防止しながら、感染性C型肝炎ウイルス粒子を更に製造することができる。また、上述した培養工程のあとで培地または細胞を回収し、当該培地または細胞を新たな培養細胞に対して加えることも可能である。上記構成によれば、製造された感染性C型肝炎ウイルス粒子が1次感染工程に用いた細胞とは別の細胞に対して再び感染し、その結果、感染性C型肝炎ウイルス粒子を更に製造することができる。なお、当該構成であれば、1次感染工程に用いた細胞とは別個に増幅用細胞を準備することができるので、多量の増幅用細胞を用いることが可能になる。その結果、更に多量の感染性C型肝炎ウイルス粒子を製造することが可能になる。
【0077】
なお、本願の製造方法によって製造された感染性C型肝炎ウイルスは、C型肝炎ワクチンとしても使用することが可能である。つまり、本願発明の感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法は、C型肝炎ワクチンの製造方法でもある。
【0078】
〔2.C型肝炎治療用薬剤のスクリーニング方法〕
本実施の形態のC型肝炎治療用薬剤のスクリーニング方法は、本発明の感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法によって得られた感染性C型肝炎ウイルス粒子を、薬剤候補物質の存在下にてスクリーニング用細胞に感染させるスクリーニング感染工程を含んでいる。
【0079】
上記薬剤候補物質としては特に限定されず、適宜スクリーニングしたい物質(例えば、化合物など)を用いればよい。当該薬剤候補物質としては、単一の物質でもよく、複数の物質を含む混合物であってもよい。また、天然から分離された物質であってもよく、人工的に合成された物質であってもよい。
【0080】
上記スクリーニング用細胞は、感染性C型肝炎ウイルスが感染し得る細胞であればよく、その具体的な構成は、特に限定されない。例えば、上記スクリーニング用細胞は、肝細胞または肝臓由来細胞であることが好ましく、ヒト肝細胞であることが更に好ましい。また、上記細胞は、不死化されたヒト肝細胞であるHus−E/2細胞(FERM ABP−10908)であることが最も好ましい。
【0081】
本実施の形態のC型肝炎治療用薬剤のスクリーニング方法では、感染性C型肝炎ウイルスおよび薬剤候補物質の存在下で、スクリーニング用細胞が培養される。当該培養方法の具体的な方法は特に限定されないが、例えば、スクリーニング用細胞を培養している培養皿に、感染性C型肝炎ウイルスおよび薬剤候補物質を添加すればよい。なお、薬剤候補物質は感染性C型肝炎ウイルスに先立って、上記培養皿に添加されることが好ましい。当該構成によれば、より明確に、薬剤候補物質の効果を確認することができる。
【0082】
本実施の形態のC型肝炎治療用薬剤のスクリーニング方法は、スクリーニング用細胞を培養した後、スクリーニング用細胞内または培養液中に存在するHCVを検出するための検出工程を含むことが好ましい。当該検出工程において検出されるC型肝炎ウイルスの量が少なければ、そのときに用いられた薬剤候補物質がC型肝炎ウイルスの生活環を阻害していることを示しているので、当該薬剤候補物質はC型肝炎治療用薬剤として用いることができる可能性がある。
【0083】
上記検出工程の具体的な方法は特に限定されないが、例えば、ウイルスを分離・濃縮するためのスクロース勾配遠心分離、ウイルス由来タンパク質を検出するためのウエスタンブロッティング法、ウイルス遺伝子を検出するためのPCR法などを含み得るが、これらに限定されない。
【0084】
また、本実施の形態のC型肝炎治療用薬剤のスクリーニング方法では、1次感染工程に用いるC型肝炎ウイルスと、スクリーニング用細胞とは、同一の動物種(例えば、ヒト)に由来するものであることが好ましい。
【0085】
天然型HCVは、その遺伝子に変異が生じ易く、患者によってHCVの遺伝子が異なっている場合が多い。そして、遺伝子が異なるHCVは、例えば、薬剤に対する抵抗性、細胞に対する感染性など多くの性質が異なる場合が多い。しかしながら、当該スクリーニング方法では、患者から採取した天然型HCVを患者から採取した細胞に感染させる過程における薬剤候補物質の効果を確認できるので、患者ごとに最適な薬剤をスクリーニングすることができる。つまり、本実施の形態のC型肝炎治療用薬剤のスクリーニング方法は、HCV感染者を個別に診断または治療するテーラーメードの診断または検査に好適に利用することができる。
【0086】
また、本実施の形態のC型肝炎治療用薬剤のスクリーニング方法は、以下のような構成をもとり得る。つまり、本実施の形態のC型肝炎治療用薬剤のスクリーニング方法は、中空糸の内腔中に細胞を充填させる充填工程と、上記充填工程の前段または後段の少なくとも一方に設けられた、上記細胞に対してC型肝炎ウイルスを感染させる1次感染工程と、上記内腔中に充填され、かつ上記C型肝炎ウイルスが感染した上記細胞を培養する培養工程と、上記培養工程にて複製されたC型肝炎ウイルスを分離する分離工程と、を含み、上記1次感染工程では、薬剤候補物質の存在下で上記細胞に対してC型肝炎ウイルスを感染させる方法である。
【0087】
また、本実施の形態の本実施の形態のC型肝炎治療用薬剤のスクリーニング方法は、上記分離工程にて分離されたC型肝炎ウイルスの存在を検出する判定工程を含むことが好ましい。上記判定工程は、ウイルスの存在を検出することができる工程であればよく、その具体的な構成は特に限定されない。例えば、公知の方法(例えば、PCR法など)によってウイルスRNAを検出する工程であってもよく、公知の方法(例えば、ウエスタンブロット法など)によってウイルスコアタンパク質を検出する工程であってもよい。また、上記判定工程は、ウイルスの感染能を検出する工程であってもよい。上記構成によれば、薬剤候補物質の存在下でウイルスが感染・増殖することができるか否かを、明確に確認することができる。
【0088】
なお、その他の構成に関しては既に説明したので、ここではその説明を省略する。
【0089】
また、本実施の形態のC型肝炎治療用薬剤のスクリーニング方法は、薬剤評価方法としても使用できる。
【実施例】
【0090】
以下に、実施例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0091】
〔実施例1〕
ヒト肝臓に由来する不死化ヒト肝細胞であるHuS−E/2細胞を、以下の実験に使用した。なお、HuS−E/2は、2007年9月7日に、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託されている(受託番号:FERM ABP−10908)。
【0092】
まず、3×10細胞のHuS−E/2細胞を、セルローストリアセテート製中空糸モジュール(東洋紡績、Code:TMHFK−001)の中空糸内腔に80Gで90秒間の遠心力を負荷して充填し、当該セルローストリアセテート製中空糸モジュールを12wellプレート中で振盪培養した。
【0093】
24時間の振盪培養後、培養液を、患者血清由来HCVを3×10ゲノムコピー/mlの濃度にて含有する0.8mlの培養液に交換した。更に24時間の振盪培養を行った後に当該培養液を除き、細胞をPBSで3回洗浄した後、新しい培養液を加えた。
【0094】
その後、2〜3日ごとに培養液を新しいものに交換しながら、感染後30日まで培養を続けた。この間、感染後3、5、7、10、15、20、25、30日目に、細胞中および培養上清中のHCV−RNA量と培養上清中のHCVコアタンパク質量とを測定した。なお、HCV−RNA量の定量は、細胞または培養上清中から常法に従ってRNA抽出を行い、Real−time PCR法によって定量した。また、HCVコアタンパク質量は、培養上清を濃縮した後、市販キット(Trak−C CoreELISA,Ortho Clinical Diagnostics)を使用してELISA法によって定量した。なお、更に具体的な定量方法は、上記市販キットに添付のプロトコールに従った。
【0095】
更に、感染後3、5、7、10、15、20、25、30日目の各日の培養上清を濃縮し、別の新しいセルローストリアセテート製中空糸モジュールにて培養したHuS−E/2細胞に、当該培養上清中のHCVを感染させた。そして、感染5日後の細胞内HCV−RNA量を測定した。
【0096】
図1に示すように、多少の増減はあるものの1ヶ月間にわたってHCV−RNAが確認され、このことから、HCVがHuS−E/2細胞に感染して増殖していることが明らかになった。また、細胞内のHCV−RNA量と培養上清中のHCV−RNA量とは逆相関していることが明らかになった。
【0097】
また、図2に示すように、培養上清中のコアタンパク質の量は、長期間培養するにしたがって上昇することが明らかになった。
【0098】
また、図3に示すように、感染20日後〜感染25日後の培養上清は、HuS−E/2細胞に対して2次感染を引き起こす能力を有することが明らかになった。
【0099】
〔実施例2〕
実施例1において、2次感染を引き起こす能力を有することが明らかになった感染20日後の培養上清を、浮遊密度勾配遠心法にて解析した。
【0100】
すなわち、感染20日後の培養上清を1/500量にまで濃縮し、当該濃縮液を、20−50%(w/v)スクロース勾配を有する50mM Hepes−KOH(pH7.4)、100mM NaCl、1mM EDTA溶液(スクロース勾配溶液)を用いて、100000g、16時間、4℃にて遠心分離にかけた。
【0101】
遠心分離後のスクロース勾配溶液を31個のフラクションに分画した後、各フラクションについて、HuS−E/2細胞への感染能力の有無を調べた。このとき、浮遊密度が0.02g/mLの間隔内に存在する各フラクションを1つのサンプルにまとめ、各サンプルについて検討した。
【0102】
図4にその結果を示す。なお、図4において、「1.12」とは、1.12g/mL〜1.14g/mLの浮遊密度のフラクションを1つにまとめたサンプルの結果を示している。図4に示すように、浮遊密度1.12g/mL〜1.14g/mLのフラクションを1つにまとめたサンプルには、コアタンパク質(図4中の折れ線グラフ参照)が含まれていたが、複数のサンプルの中で感染性(図4中の棒グラフ参照)を有するものは、当該サンプルのみであった。つまり、上記事実は、培養上製を更に濃縮して浮遊密度が約1.12g/mLのフラクションを分離すれば、感染性C型肝炎ウイルス粒子を濃縮することが可能であることを示している。
【0103】
上記実施例の結果から、HuS−E/2細胞をセルローストリアセテート製中空糸モジュール内に充填して培養すれば、患者血清由来の天然型C型肝炎ウイルスの感染増殖を長期間にわたって維持することが可能であるとともに、更に、このようにして製造したウイルスは感染能力を維持している(2次感染が可能)ことが明らかになった。つまり、天然型も含めたC型肝炎ウイルスの全生活環を再現することが可能となった。
【0104】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明によれば、細胞に感染したC型肝炎ウイルスを長期間安定的に感染増殖させることができるとともに、感染性C型肝炎ウイルスの産生まで含めたC型肝炎ウイルスの全生活環を再現することが可能である。したがって、本発明は、病原性が高く、かつ日本で最も多くの患者が感染している1b型のC型肝炎ウイルスに関してその生活環の全てのステップを標的とした薬剤のスクリーニングや当該薬剤の評価に用いることが可能である。また、遺伝子配列が異なる一人一人の天然型C型肝炎ウイルスに対する最適な薬剤のスクリーニングに用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】細胞内および培地上清中に存在するHCV−RNAのコピー数の経時変化を示すグラフである。
【図2】培地上清中に存在するHCVコアタンパク質の量の経時変化を示すグラフである。
【図3】培地上清の2次感染能力を示すグラフである。
【図4】スクロース勾配遠心分離によって分画された各フラクションにおける、コアタンパク質量と感染性との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸の内腔中に細胞を充填させる充填工程と、
前記充填工程の前段または後段の少なくとも一方に設けられた、前記細胞に対してC型肝炎ウイルスを感染させる1次感染工程と、
前記内腔中に充填され、かつ前記C型肝炎ウイルスが感染した前記細胞を培養する培養工程と、を含む感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法において、
前記培養工程にて複製されたC型肝炎ウイルスを分離する分離工程を含むことを特徴とする感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法。
【請求項2】
前記分離工程にて分離されたC型肝炎ウイルスを、増幅用細胞に対して2次感染させる2次感染工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法。
【請求項3】
前記分離工程は、C型肝炎ウイルスのコアタンパク質の発現量が上昇し始めた後に行われることを特徴とする請求項1または2に記載の感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法。
【請求項4】
前記分離工程は、シュクロース勾配遠心分離にて浮遊密度1.12g/mL〜1.14g/mLのフラクションを分離する工程を含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法。
【請求項5】
前記充填工程では、前記細胞に対して圧力を加えることによって、該細胞を前記内腔中に充填することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法。
【請求項6】
前記圧力は、遠心力であることを特徴とする請求項5に記載の感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法。
【請求項7】
前記細胞は、肝細胞または肝臓由来の細胞であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法。
【請求項8】
前記細胞は、HuS−E/2細胞であることを特徴とする請求項7に記載の感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法。
【請求項9】
前記1次感染工程に用いるC型肝炎ウイルスは、肝炎患者の血清または慢性肝炎患者の血清に由来するC型肝炎ウイルスであることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の感染性C型肝炎ウイルス粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか1項に記載の製造方法にて得られる感染性C型肝炎ウイルス粒子を、薬剤候補物質の存在下でスクリーニング用細胞に感染させるスクリーニング感染工程を含むことを特徴とするC型肝炎治療用薬剤のスクリーニング方法。
【請求項11】
前記1次感染工程に用いるC型肝炎ウイルスと、前記スクリーニング用細胞とは、同一の動物種に由来するものであることを特徴とする請求項10に記載のC型肝炎治療用薬剤のスクリーニング方法。
【請求項12】
中空糸の内腔中に細胞を充填させる充填工程と、
前記充填工程の前段または後段の少なくとも一方に設けられた、前記細胞に対してC型肝炎ウイルスを感染させる1次感染工程と、
前記内腔中に充填され、かつ前記C型肝炎ウイルスが感染した前記細胞を培養する培養工程と、
前記培養工程にて複製されたC型肝炎ウイルスを分離する分離工程と、を含み、
前記1次感染工程では、薬剤候補物質の存在下で前記細胞に対してC型肝炎ウイルスを感染させることを特徴とするC型肝炎治療用薬剤のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−4802(P2010−4802A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−167942(P2008−167942)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】