説明

感染症抑制剤

【課題】 感染症抑制作用に優れた安全性の高い組成物を提供する。
【解決手段】平均重合度が2〜10である中性キシロオリゴ糖組成物、又は1分子あたりウロン酸残基を1つ以上有する平均重合度が2〜15である酸性キシロオリゴ糖組成物を有効成分とする感染症抑制剤。前記中性キシロオリゴ糖または酸性キシロオリゴ糖が、リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理して中性キシロオリゴ糖成分および酸性キシロオリゴ糖とリグニン成分の複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理して得られたものである感染症抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病原菌により引き起こされる感染症に対して抑制作用をもつ人体に対して安全性の高い感染症抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
サルモネラ等の病原菌は、腸内において腸管上皮細胞から侵入し、食中毒等の感染症を引き起こすことが知られている。マクロファージは、侵入した細菌を認識し、細胞内に細菌を取り込み細胞内の酵素や活性酸素の働きで殺菌し分解する。しかし、細菌の中で、サルモネラ、レジオネラ等は、マクロファージ内で増殖する性質を持つ。これらの細菌に感染したマクロファージは、リンパ管から血液に移行すると菌血症を引き起こしたり、胃腸炎等の炎症を引き起こすとともに、組織から臓器に伝播して多臓器不全や脳炎・脳症等の重篤な症状を示すことがある。もし、感染初期に宿主の腸管上皮細胞あるいはマクロファージへの病原菌の接着を抑制することができれば、これらの感染症の発症を抑制することが期待できる。従って、人体に対して安全性の高い感染症抑制剤が望まれている。
本出願人らは、キシロオリゴ糖の製造方法を報告している(特許文献1、特許文献2参照)。しかし、中性キシロオリゴ糖、酸性キシロオリゴ糖の感染症抑制作用に関して報告している文献はない。
【0003】
【特許文献1】特開2000-333692号公報
【特許文献2】特開2003-183303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、病原菌により引き起こされる感染症に対して優れた抑制作用をもつ安全性の高い組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決する為、鋭意研究した結果、中性キシロオリゴ糖、及びウロン酸残基が付加した酸性キシロオリゴ糖組成物が優れた感染症抑制作用を持つことを見出した。
上記課題を解決するため、以下の構成を採用する。
即ち、本発明の第1は、平均重合度が2.0〜10.0である中性キシロオリゴ糖を有効成分とする感染症抑制剤である。
【0006】
本発明の第2は、平均重合度が2.0〜15.0であり、分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を有する酸性キシロオリゴ糖を有効成分とする感染症抑制剤である。
【0007】
本発明の第3は、前記の中性キシロオリゴ糖または酸性キシロオリゴ糖が、「リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理して中性キシロオリゴ糖成分および酸性キシロオリゴ糖とリグニン成分の複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理して得られた中性キシロオリゴ糖、または酸性キシロオリゴ糖」である本発明の第1または第2に記載の感染症抑制剤である。
【0008】
本発明の第4は、ウロン酸がグルクロン酸もしくは4−O−メチル−グルクロン酸である本発明の第2または第3に記載の感染症抑制剤である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、安全性の高い感染症抑制剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の構成について詳述するが、本発明はこれにより限定されるものではない。キシロオリゴ糖とは、キシロースの2量体であるキシロビオース、3量体であるキシロトリオース、あるいは4量体〜20量体程度のキシロースの重合体を言う。本発明で使用する中性キシロオリゴ糖は、キシロースのみから構成されるオリゴ糖であり、酸性キシロオリゴ糖は、キシロオリゴ糖1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を有するオリゴ糖である。
また、本発明のキシロオリゴ糖は、キシロースの重合度が異なるオリゴ糖の混合組成物であっても良い。一般的には、天然物から製造するために、このような組成物として得られることが多く、以下、中性キシロオリゴ糖、及び酸性キシロオリゴ糖組成物について説明する。
【0011】
中性キシロオリゴ糖の平均重合度(キシロース鎖長の平均値)は、2.0〜10.0が好ましく、4.0〜7.0がより好ましい。キシロース鎖長の上限と下限との差は15以下が好ましく、8以下がより好ましい。
【0012】
酸性キシロオリゴ糖の平均重合度(キシロース鎖長の平均値)は、2.0〜15.0が好ましく、2.0〜11.0がより好ましい。キシロース鎖長の上限と下限との差は20以下が好ましく、10以下がより好ましい。ウロン酸は、天然ではペクチン、ペクチン酸、アルギン酸、ヒアルロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、デルタマン硫酸等の種々の生理活性を持つ多糖の構成成分として知られている。本発明におけるウロン酸としては特に限定されないが、グルクロン酸もしくは4−0−メチル−グルクロン酸が好ましい。
【0013】
上記のようなキシロオリゴ糖組成物を得ることが出来れば、その製法は特に限定されず、例えば、次のような製法が挙げられる。
【0014】
(1)木材からキシランを抽出し、それを酵素的に分解する方法(セルラーゼ研究会発行、セルラーゼ研究会報第16巻、2001年6月14日発行、p17−26)と、(2)リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理してキシロオリゴ糖成分とリグニン成分の複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理してキシロオリゴ糖混合物を得る方法。(3)上記(2)の方法で得られるキシロオリゴ糖混合物から、1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有するキシロオリゴ糖を分離する方法。特に、(2)及び(3)の方法が5〜10量体のように比較的高い重合度のものを大量に安価に製造することが可能である点で好ましく、以下にその概要を示す。
【0015】
キシロオリゴ糖組成物は、化学パルプ由来のリグノセルロース材料を原料とし、加水分解工程、濃縮工程、希酸処理工程、精製工程を経て得ることができる。加水分解工程では、希酸処理、高温高圧の水蒸気(蒸煮・爆砕)処理もしくは、ヘミセルラーゼによってリグノセルロース中のキシランを選択的に加水分解し、キシロオリゴ糖とリグニンからなる高分子量の複合体を中間体として得る。
【0016】
濃縮工程では逆浸透膜等により、キシロオリゴ糖−リグニン様物質複合体が濃縮され、低重合度のキシロオリゴ糖や低分子の夾雑物などを除去することができる。濃縮工程は逆浸透膜を用いることが好ましいが、限外濾過膜、塩析、透析などでも可能である。
【0017】
得られた濃縮液の希酸処理工程により、複合体からリグニン様物質が遊離し、中性キシロオリゴ糖と酸性キシロオリゴ糖を含む希酸処理液を得ることができる。この時、複合体から切り離されたリグニン様物質は酸性下で縮合し沈殿するのでセラミックフィルターや濾紙などを用いた濾過等により除去することができる。希酸処理工程では、酸による加水分解を用いることが好ましいが、リグニン分解酵素などを用いた酵素分解などでも可能である。
【0018】
精製工程は、限外濾過工程、脱色工程、吸着工程からなる。一部のリグニン様物質は可溶性高分子として溶液中に残存するが、限外濾過工程で除去され、着色物質等の夾雑物は活性炭を用いた脱色工程によってそのほとんどが取り除かれる。限外濾過工程は限外濾過膜を用いることが好ましいが、逆浸透膜、塩析、透析などでも可能である。
【0019】
こうして得られた糖液中には中性キシロオリゴ糖と酸性キシロオリゴ糖が溶解している。イオン交換樹脂を用いた吸着工程により、この糖液から以下の方法で中性キシロオリゴ糖画分、及び酸性キシロオリゴ糖画分を分離することができる。糖液をまず強陽イオン交換樹脂にて処理し、糖液中の金属イオンを除去する。次いで強陰イオン交換樹脂を用いて糖液中の硫酸イオンなどを除去する。この工程では、硫酸イオンの除去と同時に弱酸である有機酸の一部と着色成分の除去も同時に行われる。強陰イオン交換樹脂で処理された糖液はもう一度強陽イオン交換樹脂で処理し、更に金属イオンを除去する。最後に弱陰イオン交換樹脂で処理し、酸性キシロオリゴ糖を樹脂に吸着させ、中性キシロオリゴ糖のみを回収する。
【0020】
樹脂に吸着した酸性キシロオリゴ糖画分を、低濃度の塩(NaCl、CaCl、KCl、MgClなど)によって溶出させることにより、夾雑物を含まない酸性キシロオリゴ糖溶液を得ることができる。これらの溶液を、例えば、スプレードライや凍結乾燥処理により、白色の中性キシロオリゴ糖の粉末、及び酸性キシロオリゴ糖組成物の粉末を得ることができる。
【0021】
化学パルプ由来のリグノセルロースを原料とし、キシロオリゴ糖とリグニンからなる高分子量の複合体を中間体としたキシロオリゴ糖組成物の上記製造法のメリットは、経済性とキシロースの平均重合度の高いキシロオリゴ糖組成物が容易に得られる点にある。平均重合度は、例えば、希酸処理条件を調節するか、再度ヘミセルラーゼで処理することによって変えることが可能である。また、弱陰イオン交換樹脂溶出時に用いる溶出液の塩濃度を変化させることによって、1分子あたりに結合するウロン酸残基の数が異なる酸性キシロオリゴ糖組成物を得ることもできる。さらに、適当なキシラナーゼ、ヘミセルラーゼを作用させることによってウロン酸結合部位が末端に限定された酸性キシロオリゴ糖組成物を得ることも可能である。
【0022】
本発明の中性キシロオリゴ糖組成物又は酸性キシロオリゴ糖組成物を配合した感染症抑制剤は、その用途として、医薬品、医薬部外品、化粧品、食品、動物用食品、スプレー剤、等に使用することができる。
【0023】
本発明の中性キシロオリゴ糖組成物又は酸性キシロオリゴ糖組成物を配合した感染症抑制剤は、粉末状で使用することが可能である。また、顆粒状、液状等の任意の形態に加工して使用することが可能である。また、打錠により錠剤としてもよい。さらに水溶性カプセル等に封入してカプセル状としてもよい。
【0024】
上記感染症抑制剤は、単独で経口摂取して使用することができる。
また、他の食品、経腸栄養剤、他の栄養成分、或いは医薬品と混合して医療用食品として使用することが出来る。また、一般的に医薬部外品や医薬品に使用される成分と混合し、医薬部外品や医薬品としても提供することも出来る。
なお、上述の食品、医療用食品及び医薬品の対象としては、ヒトだけではなく、犬や猫のペット用としても用いることが可能である。
【0025】
本発明の中性キシロオリゴ糖組成物又は酸性キシロオリゴ糖組成物を配合した感染症抑制剤は、繊維製品(シーツ、衛生シート、ティッシュペーパー、おむつ等)に含有させたり、ウェットティッシュの薬剤として使用することができる。
上記組成物を繊維製品に含有させる手段としては、例えば、液体状とした上記組成物を繊維(布、紙、不織布、等)に塗布または含浸させて乾燥させる、粉末状の組成物を繊維に混合する、組成物をローションに配合しローションを繊維に塗布する、等の任意の方法により行うことができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0027】
以下、本発明の有効成分であるキシロオリゴ糖(中性キシロオリゴ糖、酸性キシロオリゴ糖)の調製例を示す。
【0028】
<キシロオリゴ糖の調製>
混合広葉樹チップ(国内産広葉樹20%、ユーカリ80%)を原料として、クラフト蒸解及び酸素脱リグニン工程により、酸素脱リグニンパルプスラリー(カッパー価9.6、パルプ粘度25.1cps)を得た。スラリーからパルプを濾別、洗浄した後、パルプ濃度10%、pH8に調製したパルプスラリーを用いて以下のキシラナーゼによる酵素処理を行った。
キシラナーゼコンク(アドバンスト・バイオケミカルス社製)を対パルプ50ユニット/gとなるように添加した後、60℃で120分間処理した。その後、濾過によりパルプ残渣を除去し、酵素処理液1000Lを得た。
次に、得られた酵素処理液を濃縮工程、希酸処理工程、精製工程の順に供した。
濃縮工程では、逆浸透膜(日東電工(株)製、RO NTR−7410)を用いて濃縮液(40倍濃縮)を調製した。希酸処理工程では、得られた濃縮液のpHを3.5に調整した後、121℃で60分間加熱処理し、リグニンなどの高分子夾雑物の沈殿を形成させた。さらに、この沈殿をセラミックフィルター濾過で取り除くことにより、希酸処理溶液を得た。
精製工程では、限外濾過・脱色工程、吸着工程の順に供した。限外濾過・脱色工程では、希酸処理溶液を限外濾過膜(オスモニクス社製、分画分子量8000)を通過させた後、活性炭(和光純薬(株)製)770gの添加、及びセラミックフィルター濾過により脱色処理液を得た。
吸着工程では、脱色処理液を強陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製PK218)、強陰イオン交換樹脂(三菱化学(株)製PA408)、強陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製PK218)各100kgを充填したカラムに順次通過させた後、弱陰イオン交換樹脂(三菱化学(株)製WA30)100kgを充填したカラムに供した。
前記弱陰イオン交換樹脂充填カラムを通過した画分をスプレードライ処理することにより、中性キシロオリゴ糖(NX5)の粉末(全糖量50.2kg、回収率55.1%)を得た。
【0029】
また、最後に溶液を通過させたカラムである弱陰イオン交換樹脂充填カラムからNaCl水溶液(75mM)によって溶出させた溶液をスプレードライ処理して、酸性キシロオリゴ糖(UX10)の粉末(全糖量12.7kg、回収率13.9%)を得た。
以上の方法で得た中性キシロオリゴ糖(NX5)は、平均重合度5.2、キシロース鎖長の上限と下限との差は8であった。また、酸性キシロオリゴ糖(UX10)は、平均重合度10.2、キシロース鎖長の上限と下限との差は10、酸性キシロオリゴ糖1分子あたりウロン酸残基を1つ含む糖組成化合物であった(測定方法は後述)。
【0030】
<キシロオリゴ糖の測定法>
(1) 全糖量の定量
全糖量は、検量線をD−キシロース(和光純薬工業(株)製)を用いて作成し、フェノール硫酸法(還元糖の定量法,学会出版センター発行)にて定量した。
(2) 還元糖量の定量
還元糖量は、検量線をD−キシロース(和光純薬工業(株)製)を用いて作成し、ソモジ−ネルソン法(還元糖の定量法,学会出版センター発行)にて定量した。
(3) ウロン酸量の定量
ウロン酸量は、検量線をD−グルクロン酸(和光純薬工業(株)製)を用いて作成し、カルバゾール硫酸法(還元糖の定量法,学会出版センター発行)にて定量した。
(4) 平均重合度の決定法
サンプル糖液を50℃に保ち15,000rpmにて15分遠心分離し不溶物を除去し上清液の全糖量を還元糖量(共にキシロース換算)で割って平均重合度を求めた。
(5) キシロオリゴ糖の分析方法
オリゴ糖鎖の分布はイオンクロマトグラフ(ダイオネクス社製、分析用カラム:Carbo Pac PA−10)を用いて分析した。分離溶媒には100mM NaOH溶液を用い、溶出溶媒には前述の分離溶媒に酢酸ナトリウムを500mMとなるように添加し、溶液比で、分離溶媒:溶出溶媒=10:0〜4:6となるような直線勾配を組み分離した。得られたクロマトグラムより、キシロース鎖長の上限と下限との差を求めた。
(6) オリゴ糖1分子あたりのウロン酸残基数の決定法
サンプル糖液を50℃に保ち15,000rpmにて15分遠心分離し不溶物を除去し上清液のウロン酸量(D−グルクロン酸換算)を還元糖量(キシロース換算)で割ってオリゴ糖1分子あたりのウロン酸残基数を求めた。
(7) 酵素力価の定義
酵素として用いたキシラナーゼの活性測定にはカバキシラン(シグマ社製)を用いた。酵素力価の定義はキシラナーゼがキシランを分解することで得られる還元糖の還元力をDNS法(還元糖の定量法,学会出版センター発行)を用いて測定し、1分間に1マイクロモルのキシロースに相当する還元力を生成させる酵素量を1ユニットとした。
【0031】
前述した方法によって得られた酸性キシロオリゴ糖(UX10)を実施例1の、中性キシロオリゴ糖(NX5)を実施例2の被検物質とする以下の実験により、マクロファージへのサルモネラの感染抑制作用、およびマクロファージ細胞内でのサルモネラの増殖抑制作用について調べた。
【0032】
<感染抑制試験>
継代培養したマクロファージ系細胞株(J744.1/JA-4)をHam’s F12培地(10%ウシ胎児血清含有)に懸濁後(細胞密度4×10/ml)、48ウエルプレートの各ウエルに0.25mlずつ添加し、37℃、5%COの条件下で培養した。
培養開始から1618時間後、培地を新しく交換して実施例1、及び実施例2の被検物質の最終濃度が0.1%(1mg/ml)、0.01%(0.1mg/ml)となるように培地に添加した。
また、対照実験として蒸留水を用い、比較例1とした。
次に、予め継代培養したサルモネラ(Salmonella Entritidis)を4×10cfu/mlの密度で培地に添加後、4℃でインキュベーションした。サルモネラを添加してから1時間後に、実施例1、実施例2の各濃度、及び比較例1について、細胞に接着していない菌をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄・除去した。細胞に接着した菌を0.1% Triton X-100を含むPBSで回収し、適宜希釈した後、LB寒天培地上に塗布して37℃で一晩培養した。寒天平板上に形成されたコロニー数を計測してマクロファージに接着したサルモネラの菌数を求めた。その結果、実施例1が0.1%で1.00cfu/well、0.01%で1.76cfu/well、実施例2が0.1%で1.94cfu/well、0.01%で1.73cfu/wellであった。また、比較例1では1.87cfu/wellとなった(図1)。
一方、マクロファージにサルモネラを添加してから1時間後にさらに37℃で1時間インキュベーションを継続し、実施例1、実施例2の各濃度、及び比較例1について、マクロファージ細胞内へのサルモネラの取り込み量を測定した。その結果、実施例1が0.1%で6.19cfu/well、0.01%で6.12cfu/well、実施例2が0.1%で5.85cfu/well、0.01%で6.31cfu/wellであった。また、比較例1では8.73cfu/wellとなった(図2)。
尚、上記感染抑制試験は、全てn=3で実施した。さらに、走査型電子顕微鏡を用いて、サルモネラがマクロファージ細胞表面に接着し、細胞内へ取込まれる様子を観察し(図3〜5参照)、この過程に実施例1、実施例2を添加した時の阻害作用を調べた。
【0033】
図1より、酸性キシロオリゴ糖(実施例1)を添加した試験区では、蒸留水の添加(比較例1)と比較すると、マクロファージへのサルモネラの結合が抑制されていた。
また、電子顕微鏡観察の結果、酸性キシロオリゴ糖を添加した場合にはマクロファージへの接着及び取込みが抑制されていた(図3〜5参照)。
また、図2より、マクロファージへのサルモネラの取り込みについては、酸性キシロオリゴ糖(実施例1)、及び中性キシロオリゴ糖(実施例2)を添加した試験区では、蒸留水の添加(比較例1)と比較して抑制されていた。
【0034】
<マクロファージ細胞内でのサルモネラの増殖抑制試験>
継代培養したマクロファージ系細胞株(J744.1/JA-4)をHam’s F12培地(10%ウシ胎児血清含有)に懸濁後(細胞密度4×10/ml)、48ウエルプレートの各ウエルに0.25mlずつ添加し、37℃、5%COの条件下で培養した。培養開始から1618時間後に予め継代培養したサルモネラ(Salmonella Entritidis)を4×10cfu/mlの密度で培地に添加後、4℃で1時間インキュベーション、さらに37℃で30分間インキュベーションした。さらに、マクロファージ系細胞株を、前述のHam’s F12培地に実施例1、及び実施例2の被検物質の最終濃度が0.1%(1mg/ml)となるように添加した2種類の培地(ゲンタマイシン0.1mg/ml含有)に移し、37℃で培養を開始した。開始1時間後から4時間後まで1時間ごとに、細胞内に取り込まれ増殖した菌を0.1% Triton X-100を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で回収し、各菌をLB寒天培地上に塗布して37℃で一晩培養した。実施例1、実施例2について、各時間経過後のコロニー数を測定し、生菌数で表し、図6に示した。なお、対照実験として蒸留水を用いて同様の作業を行い、比較例1とした。
尚、上記感染抑制試験は、全てn=3で実施した。
図6より、酸性キシロオリゴ糖(実施例1)を添加した試験区では、マクロファージ細胞内でのサルモネラの増殖が抑制された。
【0035】
なお、前述の調製例により得られた中性キシロオリゴ糖及び酸性キシロオリゴ糖の安全性試験(皮膚刺激性試験、急性経口毒性試験)、及び、安定性試験を以下の方法により実施した。
【0036】
(1)皮膚刺激性試験
2質量%の中性キシロオリゴ糖(NX5)、及び酸性キシロオリゴ糖(UX10)水溶液100μlを、各々、除毛後のC3Hマウス(雄、6週齢、日本チャールズリバー(株)製)の背皮に、約1ヶ月間、連続塗布した(1回/日、各群10匹)。
塗布期間及び塗布終了後の2週間、マウス背皮において、紅斑、浮腫、炎症等の異常は特に観察されなかった。また、ブランク(水塗布群)と比較し、体重推移においても有意差(P<0.05)が認められなかった。
【0037】
(2)急性経口毒性試験
60質量%の中性キシロオリゴ糖(NX5)、酸性キシロオリゴ糖(UX10)水溶液を、各々、ICR系マウス(雄、6週齢、日本チャールズリバー(株)製)に胃ゾンデを用いて、経口投与した(投与量:2g/マウス体重1kg、各群10匹)。
投与してから2週間後まで、死亡例はなかった。又、体重推移においてもブランク(水投与群)と比較し、有意差(P<0.05)が認められなかった。
【0038】
(3)安定性試験
1質量%の中性キシロオリゴ糖(NX5)、及び酸性キシロオリゴ糖(UX10)水溶液を調製後、室温で保存した。調製直後、及び、1ヶ月保存後の中性キシロオリゴ糖、及び酸性キシロオリゴ糖水溶液をイオンクロマトグラムで分析した。
1ケ月保存後のサンプルのクロマトグラムのパターンは、調製直後のサンプルと比較して変化はなかった。又、クロマトグラムの各ピークの面積の差は、1ケ月保存後のサンプルと調製直後のサンプルの間で、5%未満であった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明により、感染症抑制作用に優れ、人体に対して安全性の高いキシロオリゴ糖組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】サルモネラ結合数を示すグラフ
【図2】サルモネラ取り込み数を示すグラフ
【図3】電子顕微鏡写真(実施例1,酸性キシロオリゴ糖添加)
【図4】電子顕微鏡写真(実施例2,中性キシロオリゴ糖添加)
【図5】電子顕微鏡写真(比較例1,蒸留水添加)
【図6】マクロファージ細胞内でのサルモネラの生菌数を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均重合度が2.0〜10.0である中性キシロオリゴ糖を有効成分とすることを特徴とする感染症抑制剤。
【請求項2】
平均重合度が2.0〜15.0であり、分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を有する酸性キシロオリゴ糖を有効成分とすることを特徴とする感染症抑制剤。
【請求項3】
前記の中性キシロオリゴ糖または酸性キシロオリゴ糖が、「リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理して中性キシロオリゴ糖成分および酸性キシロオリゴ糖とリグニン成分の複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理して得られた中性キシロオリゴ糖、または酸性キシロオリゴ糖」であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の感染症抑制剤。
【請求項4】
ウロン酸が、グルクロン酸もしくは4−O−メチル−グルクロン酸であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の感染症抑制剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−23987(P2009−23987A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−1002(P2008−1002)
【出願日】平成20年1月8日(2008.1.8)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】