説明

感温変色繊維混抄紙

【課題】従来、繊維表面から色素等が脱落するなど、感温変色効果の持続性が不十分であった。抄紙時や使用時における擦過や折り曲げ等によって、感温変色繊維や感温変色剤が脱落することがない感温変色繊維混抄紙の提供。
【解決手段】繊維分が、感温変色剤を練り込んだ樹脂からなる感温変色繊維を5〜95質量%、及びパルプ繊維を必須とするその他の繊維を95〜5質量%含有することを特徴とする、感温変色繊維混抄紙。感温変色剤が練り込まれた樹脂からなる感温変色繊維を混抄することにより得られる感温変色繊維混抄紙は、擦過等による感温変色剤の脱落や感温変色繊維の脱落が生じないこと、また感温変色繊維以外の合成繊維として熱溶融繊維又は熱水溶融繊維を混抄することにより、不織布調の感温変色繊維混抄紙が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度変化に応じて変色又は消色する装飾的効果を有する感温変色繊維混抄紙に関する。
【背景技術】
【0002】
温度の変化により表面が変色又は消色する感温変色紙は、取り扱いが容易であることから簡易な温度センサーとして利用されるが、ファンシーペーパーやノート等の各種の文房具に使用することにより、製品に装飾的な効果を与え、付加価値を高めることも可能である。
【0003】
従来、感温変色紙には基材上にインキ化した感温色素をオフセット印刷又はグラビア印刷したもの(特許文献1)があるが、このような印刷による感温紙は、表面の擦過によりインクが脱落し、効果が減少するという問題がある上、紙の表面の凹凸が大きい場合には、前記感温色素インキを用いた印刷が困難になるという問題があった。
【特許文献1】特開昭51−17808号公報
【0004】
その他、感温色素で染色された繊維、又は感温変色材料を含浸させた繊維を混抄させた感温変色紙(特許文献2)も知られているが、いずれの場合も繊維表面に感温材料が塗布されているにすぎないので、繊維表面から色素等が脱落する等、感温変色の効果の持続性が不十分であるという問題があった。
【特許文献2】特開平2−200900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、抄紙時や使用時における擦過や折り曲げ等によって、感温変色繊維や感温変色剤が脱落することがない感温変色繊維混抄紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、感温変色剤が練り込まれた樹脂からなる感温変色繊維を混抄することにより得られる感温変色繊維混抄紙は、擦過等による感温変色剤の脱落や感温変色繊維の脱落が生じないこと、また、感温変色繊維以外の合成繊維として熱溶融繊維又は熱水溶融繊維を混抄することにより不織布調の感温変色繊維混抄紙が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
即ち第1の発明は、繊維分が、感温変色剤を練り込んだ樹脂からなる感温変色繊維を5〜95質量%、及びパルプ繊維を必須とするその他の繊維を95〜5質量%含有することを特徴とする、感温変色繊維混抄紙である。
第2の発明は、前記その他の繊維が、感温変色繊維以外の合成繊維を含有する、請求項1に記載された感温変色繊維混抄紙である。
第3の発明は、前記感温変色繊維を30〜70質量%、パルプ繊維を5〜25質量%、感温変色繊維以外の合成繊維を45〜15質量%含有する、請求項2に記載された感温変色繊維混抄紙である。
第4の発明は、前記合成繊維が1種以上の熱溶融繊維又は熱水溶融繊維である、制球項2又は3に記載された感温変色繊維混抄紙、
第5の発明は、外観が不織布調である、請求項2〜4の何れかに記載された感温変色繊維混抄紙である。
第6の発明は、前記感温変色繊維の繊維長が1〜20mmである、請求項1〜5の何れかに記載された感温変色繊維混抄紙である。
第7の発明は、前記パルプの叩解度が100〜350ml(CFS)である、請求項1〜6の何れかに記載された感温変色繊維混抄紙である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、抄紙時や使用時において感温変色繊維や感温変色剤が脱落することがない感温変色繊維混抄紙が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の感温変色繊維混抄紙に使用する感温変色繊維は、擦過や折り曲げによる感温変色剤の脱落を防止するため、感温変色剤が樹脂に練り込まれている繊維を使用する。本発明に使用できる感温変色繊維は、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニリデン/塩化ビニル共重合体等の合成繊維に感温変色剤を練り込むことによって調整される。
【0010】
本発明で使用される感温変色剤としては、酸顕色性組成物、酸性組成物及び溶媒の3成分からなるものを用いることができる。酸顕色性組成物としては、例えば、3,3’−ジメトキシフルオラン、3−クロロ−6−フェニルアミノフルオラン、3,3’,3’’−(p−ジエチルアミノフェニル)フタリド、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−フェニルアミノフルオラン等が挙げられる。本発明においてはこれらの酸顕色性組成物を1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0011】
本発明で使用される酸性組成物としては、例えば、p−フェニルフェノール、ビスフェノールA、クレゾール、クロログリシン、フェノール樹脂オリゴマー等のフェノール類、又はこれらの塩、5−クロロベンゾトリアゾール、4−ラウリルアミノスルホベンゾトリアゾール、ジベンゾトリアゾール、2−オキシベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール類、又はこれらの塩、安息香酸、ステアリン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸、又はこれらの置換誘導体並びにこれらの塩等が挙げられる。本発明においては、これらの酸性組成物を1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0012】
本発明で使用される溶媒としては、例えばオクチルアルコール、ドデシルアルコール等のアルコール類、ステアリン酸ラウリル、ラノリン等のエステル類、ベンジリデンアニリン、ベンジリデンステアリルアミン、1,4−ビスフェニルアゾメチン等のアゾメチン類、アセトアミド、ラウリル酸アミド、p−トルエンスルファミド、サリチル酸アミド等のアミド類、ナフタレン等を挙げることができる。
【0013】
感温変色繊維の繊維長は、短いほど分散性は良好となるが、短くなるほど繊維がパルプ繊維に絡みにくくなるため、紙から脱落しやすくなる。従って、感温変色繊維の繊維長は、1〜20mmであることが好ましく、3〜10mmであることがより好ましい。更に必要に応じてポリアクリルアミド(PAM)やポリエチレンオキシド(PEO)等の分散剤を、感温変色繊維当たり、0.01〜3.0質量%添加することができる。
【0014】
本発明で使用するパルプ繊維としては、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、針葉樹半晒クラフトパルプ(NSBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)、広葉樹晒サルファイトパルプ(LBSP)、メカニカルパルプ(MP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の木材パルプが挙げられる。本発明においては、これらのパルプを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0015】
本発明において、混抄するパルプ繊維の叩解度は100〜350ml(CFS)であることが好ましく、150〜250mlであることがより好ましい。パルプ繊維の叩解度(CFS)が350mlより高いと繊維間強度が低くなり、繊維が脱落しやすくなる。一方、100mlより低くしても、繊維間強度の向上は認められないので、経済的な点で好ましくない。
【0016】
その他、必要に応じて感温変色繊維以外の合成繊維を配合することができる。このように感温変色繊維以外の合成繊維を配合することにより、合成繊維を配合しない繊維が密に絡まった混抄紙に比べ、繊維の絡みが粗い不織布調の混抄紙を得ることができる。不織布調の混抄紙にすることにより、風合いが柔らかく高級感を持たせることができる。合成繊維の配合の有無及び配合量により、風合いが異なるタイプの混抄紙を得る事ができる。ここで用いる合成繊維としては、前記感温変色繊維の調製で用いることができる合成繊維と同じものから選択して使用することができる。
【0017】
更に、熱溶融繊維又は熱水溶融繊維等の繊維状バインダーを混抄することができる。繊維状バインダーを混抄することにより、不織布調としたときの混抄紙の強度が確保される。繊維状バインダーの配合料は、全繊維分の15〜45質量%、パルプ繊維の配合料は全繊維分の5〜25質量%であることが好ましい。
【0018】
繊維状バインダーとして使用する熱水溶融繊維としてはポリビニルアルコール(PVA)繊維等が挙げられ、熱溶融繊維としてはポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維等が挙げられる。これらの繊維状バインダーは一種のみを用いても2種以上を混合して用いてもよいが、熱水溶融繊維と熱溶融繊維を混合して用いることが好ましく、PVA繊維と熱溶融繊維を混合配合することが特に好ましい。この場合のPVA繊維の配合料は、繊維分中の3〜10質量%である。
【0019】
更に、本発明においては、必要に応じてガラス繊維等の無機質繊維を配合することができる。本発明で使用される無機繊維としては、本発明の効果を損なわない範囲で、寸法安定性向上等の目的に応じて適宜選択すればよい。
その他、サイズ剤、紙力増強剤、定着剤等を必要に応じて添加することができる。また、本発明の感温変色繊維混抄紙の坪量は、特に制限はなく、使用目的に応じて調整することができる。
【0020】
以下に実施例をあげて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
各実施例及び比較例で得られた感温変色繊維混抄紙及び感温変色紙における感温変色剤の脱落試験は、JIS L0849(摩擦に対する染色堅ろう度試験方法)に準じて行った。
試験機は摩擦試験機II形(学振形)に適合した染色物摩擦堅ろう度試験機(株式会社大栄科学精器製作所製の商品名RT−200)を用い、実施例では紙の表面を、比較例では、印刷面を100回往復摩擦した後、紙の摩擦部分の色落ちの有無を、それぞれ目視にて評価した。
【実施例1】
【0021】
50質量部の感温変色繊維(繊維径16デニール×繊維長3mm、旭化成ライフ&リビング(株)製の商品名サランアートTCS2055)に、分散剤としてポリエチレンオキシド(日本製鉄化学(株)製の商品名PEO15)を0.1質量%に調整した水溶液を0.1質量部配合して水中に分散させ、叩解度250ml(CSF)の針葉樹晒クラフトパルプを50質量部混合して撹拌した。次に、サイズ剤をパルプ固形分に対し1.0質量%、紙力増強剤としてポリアクリルアミドをパルプ固形分に対し0.3質量%、定着剤として硫酸バンドをパルプ固形分に対し3.0質量%添加してスラリーとした。得られたスラリーを長網抄紙機で抄紙し、乾燥工程でサイズプレスロールを用いて5.0質量%の酸化デンプン溶液を塗布し、米坪量が80g/mの感温変色繊維混抄紙を得た。
【0022】
得られた感温変色繊維混抄紙は色クラフト紙に準じたものであり、20℃では淡茶色だが、40℃のオーブン中に入れると橙色に変色し、オーブンから取り出すとまた淡茶色に戻った。
また、感温変色剤の脱落試験の結果、紙の色落ちは見られなかった。
【実施例2】
【0023】
感温変色繊維(繊維径15デニール×繊維長5mm、旭化成ライフ&リビング(株)製の商品名サランアートTCS2051)60質量部、叩解度200ml(CSF)の針葉樹晒クラフトパルプ15質量部、熱溶融繊維としてポリエステル繊維(繊維径2.2デニール×繊維長5mm、クラレ(株)製の商品名N720)20質量部、熱水溶融繊維としてPVA繊維(繊維径1.1デニール×繊維長3mm、クラレ(株)製の商品名VPB107)5質量部を水中に分散させた。更に分散剤としてポリエチレンオキシド(日本製鉄化学(株)製の商品名PEO15)を0.2質量部添加して撹拌し、繊維分を分散させ、スラリーとした。得られたスラリーを傾斜ワイヤー抄紙機により抄紙し、ヤンキードライヤーを用いて125℃で乾燥し、感温変色繊維混抄紙を得た。
【0024】
得られた感温変色繊維混抄紙は不織布調であり、20℃においては緑色であるものの、40℃のオーブン中に入れると黄色に変色し、オーブンから取り出すと緑色に戻った。また、感温変色剤の脱落試験の結果、紙の色落ちは見られなかった。
【0025】
[比較例1]
色クラフト紙(リンテック株式会社製の商品名コニーラップホワイト85)の紙の表面に感温変色インキ(温度タイプ20、ピンク、久保井インキ株式会社製の商品名STカラーATA)を実験用オフセット印刷機(熊谷理機工業株式会社製、標準展色機III型)を用いて、塗布量1.2g/mとなるように塗布し、25℃50%RHの雰囲気で24時間自然乾燥して、感温変色紙を得た。
得られた感温変色紙は、片面印刷タイプであり、20℃における印刷表面はピンク色であったが、40℃のオーブン中に入れると消色し、オーブンから取り出すとまたピンク色に戻った。
得られた感温変色紙の感温変色剤の脱落試験の結果、紙の色落ちが見られた。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の感温変色繊維混抄紙は、ファンシーペーパーやノート等の各種の文房具に使用することにより、製品に装飾的な効果を与え、付加価値を高めることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維分が、感温変色剤を練り込んだ樹脂からなる感温変色繊維を5〜95質量%、及びパルプ繊維を必須とするその他の繊維を95〜5質量%含有することを特徴とする、感温変色繊維混抄紙。
【請求項2】
前記その他の繊維が、感温変色繊維以外の合成繊維を含有する、請求項1に記載された感温変色繊維混抄紙。
【請求項3】
前記感温変色繊維を30〜70質量%、パルプ繊維を5〜25質量%、感温変色繊維以外の合成繊維を45〜15質量%含有する、請求項2に記載された感温変色繊維混抄紙。
【請求項4】
前記合成繊維が1種以上の熱溶融繊維又は熱水溶融繊維である、請求項2又は3に記載された感温変色繊維混抄紙。
【請求項5】
外観が不織布調である、請求項2〜4の何れかに記載された感温変色繊維混抄紙。
【請求項6】
前記感温変色繊維の繊維長が1〜20mmである、請求項1〜5の何れかに記載された感温変色繊維混抄紙。
【請求項7】
前記パルプの叩解度が100〜350ml(CFS)である、請求項1〜6の何れかに記載された感温変色繊維混抄紙。

【公開番号】特開2007−332478(P2007−332478A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−163277(P2006−163277)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】