説明

感温性を有する水溶性増粘剤

【課題】本発明の課題は、高塩濃度、広いpH範囲において、感温点LCSTはコントロールでき、安定な増粘効果を有する高耐塩水性、高耐酸性と高耐アルカリ性を併せ持つ感温性を有する水溶性増粘剤を提供することである。
【解決手段】アクリロイルモルホリン、N,N−ジメチルアクリルアミド、ビニルピロリドンを構成単位として含む水溶性ポリマーと、ルイス酸である金属陽イオンを有する金属塩を水性媒体に配合させることで解決でき、さらにLCSTを任意に調整可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感温性を有する水溶性増粘剤に関する。さらに詳しくは、N−置換アクリルアミド構成単位として含む水溶性ポリマーと金属塩と水性媒体とからなり、広いpH範囲と高濃度塩水中で優れた増粘効果を有し、しかも金属イオンの組成と濃度のコントロールで感温点LCST(下限臨界溶解温度)を測定可能の範囲において自由に調整できることを特徴とした水性増粘剤に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶性増粘剤が石油掘削用添加剤、コンクリート軽量化添加剤、潤滑剤用添加剤、凝集剤、水性分散剤、化粧料、衛生材料、医薬品など広範な分野で使用され、天然系およびその誘導体として多糖類、澱粉、寒天、セルロースなど、合成系としてポリアミド系化合物、ポリビニルアルコール系化合物、ポリアルキレンオキサイド系化合物、ポリアクリル酸系化合物及びこれらの組み合わせた化合物がよく知られている。中にポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウムなどが安価で増粘効果が高いため、水溶性増粘剤として多く用いられている。また、ポリアクリルアミド系化合物はその水溶液において、ある温度(下限臨界溶解温度:LCST)以下では溶解した均一な溶液状態となり、ある温度以上では凝集を起こす特性を有することで感温性増粘剤として注目されてきた。(特許文献1〜3)。
【0003】
このような水溶性増粘剤が多様化ニーズに応じえるため、耐熱性、耐酸性、耐アルカリ性、耐塩水性などの機能性に優れたものが求められている。
しかしながら、ポリアクリル酸はpH5以下の酸性下、又は塩の存在下でカルボキシル基が解離し難くなり、溶液の粘度が急激に低下し、酸性や塩共存の条件に対応できない状況であった。
【0004】
この問題を解決するために、化粧料に配合する増粘剤として2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などアクリルアミドアルキルスルホン酸の使用が提案された(ホモポリマーは特許文献4、アクリル酸との共重合体は特許文献5、アルキル基含有不飽和単量体との共重合体は特許文献6に報告された)。該アクリルアミドアルキルスルホン酸は耐酸性骨格を有するため、酸性条件での使用は可能となったが、塩水中、特にカルシウムなど多価金属塩の存在による溶液粘度低下が改善できず、増粘剤として満足できる使用性に至っているとは言えない。
【0005】
一方、アクリル酸ナトリウムのホモポリマーとコポリマーは高分子電解質であり、ポリマー鎖が同種電荷の静電反発作用によって伸ばされ、溶液中で拡張した容積を取り、高い溶液粘度を達成し、大きな増粘効果を与えることができる。しかし、水溶性無機塩の添加によるポリマー鎖の拡張は崩壊され、溶液粘度が極端に低下し、極めて深刻的な欠点である。
【0006】
ポリアクリルアミド系増粘剤は、非イオン性であるため、塩類の存在下又は広いpH範囲において、溶液粘度が安定に維持できるという特徴がある。特に、N−イソプロピルアクリルアミドなどN−置換型(メタ)アクリルアミド系ポリマーが、一定温度以上に加熱することで増粘し、冷却すると元の粘度に戻るという熱可逆性の増粘特性を付与できるので、その温度応答性を利用した医薬、農薬、工業など多方面で幅広く応用されている(特許文献7〜10)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−298203号公報
【特許文献2】特開平6−166863号公報
【特許文献3】特開平6−293809号公報
【特許文献4】特開平10−67640号公報
【特許文献5】特開平9−157130号公報
【特許文献6】特開平10−279636号公報
【特許文献7】特開平10−204409号公報
【特許文献8】特開平2001−31723号公報
【特許文献9】特開平9−38416号公報
【特許文献10】特開2005−290390号公報
【0008】
これらのN−置換型アクリルアミド系感温性ポリマーが、構成するモノマーの構造改良、親水性又は疎水性ビニルモノマーとの共重合によって、感温点LCSTを20〜100℃まで変動させることは可能であるが、水溶性無機塩によりLCSTが低下するという問題点が残されている。例えば、N−イソプロピルアクリルアミドホモポリマーにおいて、水溶液中のLCSTが32℃であるが、塩化カルシウムを5重量%添加するとLCSTが26℃となり、塩化カルシウムを20重量%添加すると、LCSTが5℃まで低下してしまい、高塩濃度における一定温度以上の安定な増粘効果が得られない。
【0009】
以上のことにより、様々の用途において、高塩濃度含有系、強酸性又は強アルカリ性に求められている感温性増粘剤は未だに見当たらない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、高塩濃度、広いpH範囲において、感温点LCSTをコントロールでき、高耐塩水性、高耐酸性と高耐アルカリ性を併せ持つ感温性を有し、安定な増粘効果を有する水溶性増粘剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、かかる課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、アクリロイルモルホリン、N,N−ジメチルアクリルアミド、ビニルピロリドンを構成単位として含む水溶性ポリマーと、ルイス酸である金属陽イオンを有する金属塩を水性媒体に配合することで上記課題を解決し、さらに、得られる感温性増粘剤が含有する金属イオンの組成と濃度をコントロールすることで感温点を観察可能の範囲において自由に調整する方法を見出し、本発明を完成するに至った。つまり、
(1)N−置換アクリルアミド構成単位として含む水溶性ポリマーと、金属塩と、水性媒体からなることを特徴とする感温性を有する水溶性増粘剤、
(2)水溶性ポリマーの構成単位であるN−置換アクリルアミドは、アクリロイルモルホリン、N,N−ジメチルアクリルアミド、ビニルピロリドンからなる群より選ばれる化合物であり、それらの単独重合体、又は共重合体、及びそれらとその他の共重合可能なビニル系単量体との共重合体である(1)記載の感温性を有する水溶性増粘剤、
(3)前述の金属塩が水溶性の無機塩、有機塩、又は錯体、混合塩からなる群より選ばれ、当該金属塩には、少なくとも1種以上のルイス酸である金属陽イオンを含む(1)又は(2)の感温性を有する水溶性増粘剤、
(4)金属塩を1重量%から水性媒体と水溶性ポリマーから構成される水溶液に対する飽和濃度の重量%までを含有する(1)〜(4)の感温性を有する水溶性増粘剤、
(5)N−置換アクリルアミドを構成単位として含む水溶性ポリマーとルイス酸性金属陽イオンからなる金属塩を水性媒体に溶解したことを特徴とする(1)〜(4)の水性増粘剤(6)感温点(下限臨界溶解温度)を0〜150℃に調整できる(1)〜(5)の水溶性増粘剤、
(7)感温点(下限臨界溶解温度)を0〜150℃に調整できる(1)〜(6)の水溶性増粘剤の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、高耐塩水性、高耐酸性と高耐アルカリ性を併せ持つ感温性を有する水溶性増粘剤を提供できる。詳細には、N−置換アクリルアミド構成単位として含む水溶性ポリマーと金属塩を水性媒体に配合することで高塩濃度、広いpH範囲において、安定的に優れる増粘効果を有する水溶性増粘剤が得られる。
さらに、水溶性ポリマーの構成モノマー品種と比例、増粘剤に配合される金属イオンの組成と濃度のコントロールすることで感温点LCSTを自由に調整する方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明における水溶性ポリマーの構成単位N−置換アクリルアミドは、アクリロイルモルホリン、N,N−ジメチルアクリルアミド、ビニルピロリドンからなる群より選ばれる1種又は2種以上のモノマーである。これらのモノマーの単独重合体、又は共重合体、及びこれらのモノマーとその他の共重合可能なビニル系単量体との共重合体である。
【0014】
その他の共重合可能なビニル系単量体において、得られるポリマーの水溶性を損なわない範囲で特に限定されるものではない。例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドなどの非置換、低級アルキル置換、低級ヒドロキシアルキル置換アクリルアミド類、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレートなどのアミノ系モノマー、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ低級アルキル(メタ)アクリレート類、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルなどのアクリル酸低級アルキルエステル、N-ビニルラクトン、無水マレイン酸などが挙げられる。また、これらの中の1種ないし2種以上のモノマーを混合して使用することができる。
【0015】
共重合体は、構成単位であるN−置換アクリルアミドの使用割合としては10〜100重量%、また、十分な感温増粘効果を確保する観点から、好ましくは、20〜100重量%、より好ましくは、30〜100重量%程度である。N−置換アクリルアミドの使用量が10%以下では、高塩濃度、強酸性又は強アルカリ性領域において、共重合モノマーの品種と組配合比にもよるが、十分な増粘効果を付与できない可能性があり、好ましくない。
【0016】
重合方法としては、特に限定されるものではなく、公知のラジカル重合開始剤、連鎖移動剤などを使用してラジカル重合法により実施可能である。例えば溶液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合などの熱重合法や、紫外線による光重合法があり、本発明においては、水溶性増粘剤として提供されるため、特に水溶液重合が好ましい。
【0017】
重合は通常ラジカル重合開始剤の存在下、所定温度に保つことにより行う。重合中、同一温度に保つ必要はなく、重合の進行にともない適宜変えてよく、必要に応じて加熱あるいは除熱しながら行う。重合温度は使用するモノマーの種類や重合開始剤の種類などにより異なり、単一開始剤の場合には概ね30〜100℃の範囲であり、レドックス系重合開始剤の場合にはより低く、一括で重合を行う場合には概ね−5〜60℃であり、逐次添加する場合には概ね−5〜100℃である。重合器内の雰囲気は特に限定はないが、重合を速やかに行わせるには窒素ガスのような不活性ガスで置換した方がよい。重合時間は特に限定はないが、概ね1〜40時間である。
【0018】
ラジカル重合開始剤としては一般の重合開始剤が使用でき、また、水を溶媒とする場合の重合開始剤としては水溶性のものであれば特に制限はない。具体的には過酸化物系では、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、tert−ブチルパーオキサイドなどが挙げられる。この場合、単独でも使用できるが、還元剤と組み合わせてレドックス系重合開始剤としても使える。還元剤としては、例えば亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、次亜リン酸、次亜リン酸塩、N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミンなどを挙げることができる。また、アゾ化合物としては、2,2'− アゾビス−2−アミジノプロパン塩酸塩、2,2'− アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、4,4'−アゾビス−4− シアノバレイン酸及びその塩などを使用することができる。更に上記した重合開始剤を2種以上併用してもよい。
【0019】
ラジカル重合開始剤の使用量は、モノマーの総計量100重量%に対して、好ましくは0.01〜10重量%、特に好ましくは0.1〜5重量%である。
【0020】
連鎖移動剤は、特に限定されず公知のものを用いることができる。また、水を溶媒とする場合の連鎖移動剤としては水溶性のものであればよい。具体的には、例えば、メルカプトエタノール、チオグリコール酸、α−チオグリセリン、2−メルカプトエチルアミン塩酸塩、1,2−ジメチルカプトエタンなどが挙げられる。連鎖移動剤の使用量としては、重合体を構成するモノマーの総計量100重量部に対して0.001〜10重量部程度使用される。
【0021】
重合に供するモノマー類、ラジカル重合開始剤連鎖移動剤などのほかに、必要に応じてpH調整剤などを併用し、重合を開始する時点で一度に反応容器に仕込んでもよいが、重合の進行に応じて、1種あるいはそれ以上の成分を、単独あるいは溶媒などに混合したものを逐次添加してもよい。重合時のモノマー(総計量)は水あるいは有機溶媒に対して5〜85重量%、好ましく5〜50重量%である。水溶液中のラジカル重合で得られたポリマーは水溶液のまま使用できるが、有機溶媒中の重合された場合は公知の方法、例えば、溶媒除去、貧溶媒での沈殿、乾燥など方法でポリマーを分離、精製してから使用すると良い。
【0022】
このようにして得られるポリマーの重量平均分子量はポリエチレンオキサイド換算で、特に制限はないが、通常、1,000〜20,000,000、好ましくは10,000〜5,000,000、さらに好ましくは100,000〜2,000,000である。共重合体の分子量が1,000以下では、感温点を示さず、増粘剤として好ましくない。一方、分子量が20,000,000を超えると、製造した増粘剤を水に溶かした場合、水に溶解し難くなり、共重合体の組成によって不溶成分が発生する可能性があり、好ましくない。
【0023】
本発明の金属塩は水溶性の無機塩、有機塩、又は錯体、混合塩である。例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、炭酸、酢酸、乳酸、クエン酸などの金属塩が挙げられ、特に水性媒体に対する溶解性の高い無機塩が好ましい。
【0024】
金属塩の金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどのアルカリ金属イオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンなどのアルカリ土類金属イオン、アルミニウムイオン、ガリウムイオンなどのアルミニウム族金属イオン、スズイオン、鉛イオンなどの炭素族金属イオン、チタンイオン、クロムイオン、マンガンイオン、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン銅イオン、亜鉛イオンなどの遷移金属イオンが挙げられる。これらの金属イオンからなる群より選択される1種又は2種以上を用いることができる。
【0025】
前記の金属塩は少なくとも1種以上はルイス酸である金属陽イオンから構成される。具体的には、1価のリチウムイオン、銀イオン、2価のマグネシウムイオン、カルシウムイオン、銅イオン、亜鉛イオン、鉄イオン、ニッケルイオン、3価のアルミニウムイオン、鉄イオン、クロムイオン、コパルトイオンなどが挙げられる。
【0026】
金属塩の使用量は水性媒体と水溶性ポリマーから構成される水溶液に対して、1重量%から飽和濃度の重量%まで、好ましくは2重量%以上から飽和濃度の重量%まで、特に好ましくは3重量%以上から飽和濃度の重量%まで、である。本発明の水溶性ポリマーの構成単位N−置換アクリルアミドは、ポリマー分子内、分子間、又はポリマーと水性媒体の間に水素結合を形成するため、ポリマー濃度にも関連するが、金属塩の添加量は1重量%未満の場合、水素結合を十分に破壊できず、ルイス酸性金属イオンによる十分な感温増粘効果が得られないことがある。
【0027】
本発明の水性媒体とは、水を主成分として含む液媒体である。例えば、水、水と混和性を有する有機溶媒との混合液が用いられる。また、水については、特に限定なく使用可能である。純水やイオン交換水などの上質の水を使用することもできるが、水道水、工業用水、河川水、海水、地下水など入手の容易な水も利用することができる。
【0028】
本発明の水溶性増粘剤は、N−置換アクリルアミドを構成単位として含む水溶性ポリマーとルイス酸性金属陽イオンからなる金属塩を水性媒体に溶解することで得られる。溶解方法は公知の方法が用いられ、例えばポリマーと金属塩を別々に水性媒体に溶解してから混合する方法、ポリマーを溶解した水性媒体に金属塩を添加して、溶解させる方法、又は金属塩を溶解した水性媒体に精製したポリマーを添加して溶解させる方法、水性媒体に精製したポリマーと金属塩を溶解させる方法が挙がられる。またポリマーと金属塩の添加順序については特に限定しない。
【0029】
本発明の水溶性増粘剤において、水溶性ポリマーは、水性媒体に対して0.1〜50重量%含有する。好ましくは、0.1〜30重量%、さらに好ましくは、0.2〜10重量%である。これ以外の含有量であると、高塩濃度、広いpH範囲において、安定的に優れる増粘効果を有する水溶性増粘剤が得られない。
【0030】
本発明の感温点を有する水性増粘剤の感温点LCST(下限臨界溶解温度)を0〜150℃自由に調整することができる。感温点の調整方法としては、公知の親水性モノマーとの共重合で感温点を向上させ、疎水性モノマーの共重合で感温点を低下させる方法、本発明の金属塩添加による感温点調整の方法、またはそれらの方法を併用することができる。
【0031】
本発明の金属塩添加による感温点調整の方法はルイス酸性金属イオンの配合で感温点を向上、ルイス酸性以外の金属イオンの配合で感温点を低下させる方法である。また、金属塩の含有量が多いほど、感温点の向上又は低下する幅が大きい。
【0032】
本発明の感温性を有する水溶性増粘剤が温度により溶液の粘度変化が起きるため、種々の用途に使用することが可能である。例えば、耐高濃度塩水感温性ゲル化剤、金属イオン吸着剤、水処理剤、紙加工剤、土壌改質剤、繊維改質剤と加工剤、石油掘削剤、天然ガス抽出でのガス水和物生成の抑制剤、感温性凝集剤、コンクリート混合剤、化粧料、ヘアセッティング又はヘアスプレー添加剤、入浴剤、衛生用品、薬物徐放性の媒体、印刷インク、感温遮光シート、湿度センサー、土壌保水材、保護コーティング剤、感温性分離材料、保冷剤、水性塗料等の用途として使用可能である。
【0033】
本発明の感温性を有する水溶性増粘剤の感温増粘特性を阻害しない範囲で、顔料、染料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐防かび剤、消臭剤、香料などの他の任意成分を併用してもよい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中、%および部は、特に断わらない限り重量基準である。また、実施例における各種物性の測定又は評価は以下の方法で行った。
【0035】
重量平均分子量測定:重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって分析した結果を、ポリエチレンオキサイドを標準サンプルとして作成した検量線を用いて換算したものである。ここで、GPCの測定条件は、下記の通りである。
GPC:(株)島津製作所製 LC−10A
カラム:Water製のUltrahydrogel Liner(7.8mm×300mm)
検出器:示差屈折計RID−10A
溶離液:0.5mol/L 硝酸ナトリウム水溶液
流速:0.5mL/分
温度:30℃
サンプル濃度:0.1%
サンプル注入量:20μL
【0036】
粘度測定:(株)東京計器製のB型粘度計(測定温度25℃〜80℃の時に使用した);
東機産業(株)製コーンプレート型RE550型粘度計(測定温度100℃以上の時に使用した)
【0037】
合成例1
攪拌機,温度計,還流冷却管及び窒素ガス導入管を備えた1Lの反応容器に脱イオン水250部、アクリロイルモルホリン(ACMO)45部を仕込み、希硫酸にてpHを6.5に調節し、窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した。系内を25℃とし、開始剤として5%過硫酸アンモニウム水溶液2.91部および2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液3.65部を投入した。窒素ガスを吹き込みながら、25℃で10h攪拌を行った。その後脱イオン水150部を加え、固形分10%、粘度330cps、重量平均分子量73万のアクリロイルモルホリンホモポリマー水溶液を得た。
【0038】
合成例2
攪拌機,温度計,還流冷却管及び窒素ガス導入管を備えた1Lの反応容器に脱イオン水400部、アクリロイルモルホリン(ACMO)45部を仕込み、窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した。系内を50℃とし、水溶性アゾ系開始剤VA−044(和光純薬製)の10%水溶液2.06部を投入した。窒素ガスを吹き込みながら、50℃で10h攪拌し、固形分10%、粘度2300cps、重量平均分子量242万のアクリロイルモルホリンホモポリマー水溶液を得た。
【0039】
合成例3〜8
合成例1又は合成例2において、構成モノマー成分の種類またはそれらの配合比を表1のように変えたほか、合成例1又は合成例2と同様の操作を行い、各種のホモポリマーとコポリマー水溶液を得た。各合成例の仕込み比、得られた各ポリマー水溶液の組成及び性状値を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
実施例1〜11
合成例1で製造した固形分10%、粘度330cpsのアクリロイルモルホリンホモポリマー水溶液90gを量り取って、脱イオン水360gと表2に示す所定量の塩化カルシウム(CaCl2)、塩化マグネシウム(MgCl2)、塩化アルミニウム(AlCl3)を加え、室温で攪拌しながら無機塩を溶解させ、さらに24h静置し、目的の水溶性増粘剤を得た。
【0042】
製造した水溶性増粘剤を測定試料として毛細管に入れて封管し、オイルバスの温度センサー付近に取り付けた。オイルバス中のオイルを攪拌しながら加熱し、測定試料が濁った時の温度を下限臨界溶解温度(LCST)とする。表2に各水溶性増粘剤のLSCT、図1にLCSTと無機塩品種、濃度の相関を示す。
【0043】
【表2】

【0044】
実施例12〜18
合成例で製造したポリマー水溶液、脱イオン水、塩化カルシウム(CaCl2)を表3に示す所定量を量り取って、室温で混合させ、さらに24h静置し、目的の水溶性増粘剤を得た。実施例1と同様にLCSTを測定し、表3に示す。
【0045】
【表3】

【0046】
比較例1〜16
合成例で製造したポリマー水溶液、脱イオン水、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)硫酸ナトリウム(Na2SO4)を表4に示す所定量を量り取って、室温で混合させ、さらに24h静置し、比較の水溶性増粘剤を得た。実施例1と同様にLCSTを測定し、表4と図2に示す。
【0047】
【表4】

【0048】
実施例19〜42
合成例で製造したポリマー水溶液、脱イオン水、塩化ナトリウム(NaCl)、硫酸ナトリウム(Na2SO4)、塩化カルシウム(CaCl2)を表5に示す所定量を量り取って、室温で混合させ、さらに24h静置し、目的の水溶性増粘剤を得た。実施例1と同様にLCSTを測定し、表5、図4、と図5に示す。
【0049】
【表5】

【0050】
試験例:増粘効果
ポリマー濃度10wt%の実施例12〜15と比較例1〜4で製造された水溶性増粘剤を毎分2℃の温度勾配で昇温して、粘度を測定した。その結果を表6に示す。
【0051】
【表6】

【0052】
試験例:耐酸性、耐塩基性評価
実施例1〜11で製造された水溶性増粘剤のpHを10mol/Lの塩酸で1、また水酸化ナトリウム水溶液で14に調製し、実施例1と同様にLCSTを測定した。結果は、pH1と14は共に表2と図1に示すLCSTが観察され、本発明の感温性を有する水溶性増粘剤の感温点が水溶液のpHに左右されなかった。
【0053】
以上の結果から、アクリロイルモルホリン、N,N−ジメチルアクリルアミド、ビニルピロリドンを構成単位として含む水溶性ポリマーは感温性を有し、感温点以下の温度範囲では温度の上昇と共に水溶液粘度が徐々に低下し、感温点以上の温度ではポリマーの凝集が起こり、水溶液からポリマーが析出、沈降するため、水溶液粘度が急激に低下し、増粘剤の効果が失ってしまう。通常の無機塩添加による水溶液粘度が少々向上できるが、反面に塩濃度の向上と共に感温点(LCST)が低下し、高温領域での使用は不可能であった。しかし、これらのポリマー水溶液にルイス酸性金属陽イオンを配合することによって、LCST以上の温度でポリマー水溶液の粘度が急激に増加し、優れる増粘効果を得ることができた。それは、ポリマーとルイス酸性金属陽イオンの間に錯体を形成し、ポリマーが水溶液から析出せず、均一且つ高粘度を維持することができるようになったと本発明者らが推察している。
【0054】
さらに本発明の水溶性増粘剤において、配合する無機塩の品種と濃度の組み合わせによってLCSTが測定可能の温度範囲内で任意に調整することができ、強酸性から強アルカリ性まで全pH領域においても増粘特性を維持できた。即ち、本発明で製造した水溶性増粘剤が十分な耐熱性、耐加水分解性を有し、高温、高濃度塩水下、広範なpH領域においても優れた増粘効果を有する水溶性増粘剤を提供できることが明らかであった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上説明してきたように、本発明の水溶性増粘剤は、N−置換アクリルアミド構成単位として含む水溶性ポリマーと金属塩を水性媒体に配合することで高塩濃度、広いpH範囲、温度範囲において、感温点LCSTは任意に調整でき、安定的に優れる増粘効果を有し、石油掘削用添加剤、コンクリート軽量化添加剤、潤滑剤用添加剤、凝集剤、水性分散剤、化粧料、衛生材料、医薬品など広範な分野で使用できる。特に、高耐塩水性、高耐酸性と高耐アルカリ性を有するため、高塩濃度含有系、強酸性又は強アルカリなど過酷の環境に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】LCSTと無機塩品種、濃度の相関
【図2】LCSTと無機塩品種、濃度の相関
【図3】LCSTと無機塩品種、濃度の相関
【図4】LCSTと無機塩品種、濃度の相関

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−置換アクリルアミド構成単位として含む水溶性ポリマーと、金属塩と、水性媒体からなることを特徴とする感温性を有する水溶性増粘剤。
【請求項2】
水溶性ポリマーの構成単位であるN−置換アクリルアミドは、アクリロイルモルホリン、N,N−ジメチルアクリルアミド、ビニルピロリドンからなる群より選ばれる化合物であり、それらの単独重合体、又は共重合体、及びそれらとその他の共重合可能なビニル系単量体との共重合体である請求項1記載の感温性を有する水溶性増粘剤。
【請求項3】
前述の金属塩が水溶性の無機塩、有機塩、又は錯体、混合塩からなる群より選ばれ、当該金属塩には、少なくとも1種以上のルイス酸である金属陽イオンを含む請求項1又は2の感温性を有する水溶性増粘剤。
【請求項4】
金属塩を1重量%から水性媒体と水溶性ポリマーから構成される水溶液に対する飽和濃度の重量%までを含有する請求項1〜4の感温性を有する水溶性増粘剤。
【請求項5】
N−置換アクリルアミドを構成単位として含む水溶性ポリマーとルイス酸性金属陽イオンからなる金属塩を水性媒体に溶解したことを特徴とする請求項1〜4の水性増粘剤。
【請求項6】
感温点(下限臨界溶解温度)を0〜150℃に調整できる請求項1〜5の水溶性増粘剤
【請求項7】
感温点(下限臨界溶解温度)を0〜150℃に調整できる請求項1〜6の水溶性増粘剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−6581(P2011−6581A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−151488(P2009−151488)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(000142252)株式会社興人 (182)
【Fターム(参考)】