説明

感熱記録媒体

【課題】 メインテナンスが容易で、カートリッジ等の廃棄物を発生させず、しかも記録シートの管理を容易にすることができる記録シート等を提供する。
【解決手段】 画像形成時に低温発色層13の発色加熱によって、低温発色抑制層9の低温発色抑制カプセル23内から低温発色抑制剤が流出し、この低温発色抑制剤がタイミング層11を拡散し、時間遅延して低温発色層11の発色機能を抑制する。すなわち、低温発色層13を発色させてから、一定時間後に低温発色層13を自動的に定着できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感熱式の感熱記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在実用化されているプリンタには、インクジェット方式や感熱転写方式、複写機を電子化したレーザ方式等がある。これらは、いずれもインクやインクリボン、トナーなどを紙(シート)に転写している。従って、プリントが終わると、インクやインクリボン、そしてそれらを内包した専用カートリッジ等が廃棄物となる。また、写真画質を実現するには、結局は専用紙を使う必要がある。
一方、専用の記録シートを必要とするが、インクやインクリボン、並びに専用カートリッジを廃棄しないプリンタとして、ファクシミリやバーコード印刷に用いられている感熱方式のプリンタがある。このような感熱方式で写真画質のカラー印刷を実現するためには多くの技術的困難があり、なかなか実用化されていない。
その最大の技術的障壁としては、3色3層の各発色層をサーマルヘッドの熱制御だけで独立に制御して発色させ、しかも発色する各色に濃淡を付けて濃度階調した制御が困難なためにカラー写真の画質の印刷が実現できなかった。このような中で、富士写真フィルム株式会社の特許文献1の技術的思想を基に、1996年に発売を開始した直接感熱記録方式(TA方式)が唯一の実用化例である。
【0003】
このTA方式は、シアン、マゼンダ、イエローの順に感熱発色層を基板上に積層し、最上層には耐熱性保護層を配置している。イエローとマゼンタの発色層は、ジアゾニウム塩化合物とカプラーを発色素材とし、紫外線で画像の定着が可能である。また、シアン発色層は定着の必要がないので、染料前駆体と有機酸を発色素材としている。各層のマイクロカプセルは異なる熱感度と紫外線感度を持っており、異なる熱エネルギと異なる波長の紫外線を、5回のステップに分けて与えることによって発色と定着を繰り返しながら、フルカラーのプリントを作成する。
具体的には、TA方式は、(1)イエロー画像情報で、低熱エネルギでイエロー画像を形成し、(2)波長が419nnmの紫外線を全面照射し、(3)イエロー画像を定着し、(4)マゼンタ画像を中熱エネルギで形成する(このときイエロー発色層は加熱しても発色しないため、影響を受けない)、(4)波長が365nmの紫外線を全面照射し、マゼンタ画像を定着し、(5)シアン画像を高熱エネルギで形成する。
【0004】
また、上記TA方式とは別に、3段階の圧力と3段階の温度とを組み合わせて、カプセル内のジアゾ化合物とカプセル外のカプラーとを化学反応させて発色させるシステムが特許文献2に提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開昭61−40192号公報
【特許文献2】特開平11−170692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記TA方式では、感熱発色層が紫外線で定着されるため、記録シートの保管が難しいという問題がある。
また、上述した特許文献2のシステムでは、3段階の圧力を記録シートに適切に加えて発色させる制御が困難であるという問題がある。
さらに、記録シートの薄型化、並びに画像形成工程の簡単化の要請がある。
【0007】
本発明は上述した従来技術の問題点を解決するために、画像形成装置のメインテナンスが容易で、カートリッジ等の廃棄物を発生させずに簡単な制御で感熱記録媒体に画像を形成でき、しかも感熱記録媒体を容易に管理することを可能とする感熱記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した従来技術の問題点を解決し、上述した目的を達成するため、請求項1の発明の感熱記録媒体は、第1の発色温度で発色する第1の発色要素を内包した1の発色層と、前記第1の温度より高い第2の温度で発色する第2の発色要素を内包した第2の発色層と、前記第2の温度より高い第3の温度で発色する第3の発色要素を内包した第3の発色層と、前記第1の発色要素の発色機能を抑制する発色抑制剤を含む発色抑制要素を内包し、予め決められた温度条件を満たすと前記発色抑制要素が前記発色抑制剤を流出する発色抑制層と、前記第1の発色層と前記発色抑制層との間に介在し、前記発色抑制剤が前記第1の発色層に達するタイミングを規定するタイミング層とを有し、前記第1の発色層、前記タイミング層および前記発色抑制層を、前記第2の発色層と前記第3の発色層との間に配置している。
【0009】
請求項1の発明の感熱記録媒体は、第1の発色温度で加熱されると、第1の発色層内の第1の発色要素が発色する。当該熱によって発色抑制層も加熱され、発色抑制要素が発色抑制剤を流出する。
そして、上記流出した発色抑制剤が、タイミング層で一定時間遅延されて、第1の発色層に達する。これにより、第1の発色層の発色機能が抑制される。
その後、第2の温度および第3の温度による加熱によって、第2の発色層および第3の発色層が発色する。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記タイミング層は、画像形成時に、前記発色抑制要素から出た発色抑制物質が、前記第1の発色要素が発色した後に当該第1の発色要素に到達するようにタイミングを調整する機能を有することを特徴としている。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明において、前記第2の発色層を基材側に配置し、前記第3の発色層を前記基材と反対側に配置したことを特徴としている。
このように第3の発色層を基板側と反対側(すなわち、加熱側)に配置することで、第3の発色層の加熱時に、第1の発色層、タイミング層および発色抑制層が熱バリアとなって、第2の発色層が発色してしまうことを回避できる。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかの発明において、前記発色抑止要素は、前記第1の温度より低い第4の温度で前記発色抑制剤を流出することを特徴としている。
このようにすることで、タイミング層の存在により、第1の発色層に加えられた第1の温度の熱が低下して発色抑制層に伝達された場合でも、発色抑制機能を適切に発揮させることができる。
【0013】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれかの発明において、前記発色要素は、当該発色要素が内包する材料が前記発色要素外に放出し、発色要素外の物質と反応して発色する要素、あるいは前記発色要素内に、当該発色要素外の材料が、当該発色要素内に流入して、当該発色要素内の物質と反応して発色する要素であることを特徴としている。
【0014】
請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれかの発明において、前記発色抑制剤は、前記発色要素の材料である電子供与性染料前駆体、電子受容性顕色剤、塩基性物質または酸性物質のうち、一つ以上の材料の化学構造を変化させて発色反応を起こさないようにする機能、前記発色要素の材料である電子供与性染料前駆体、電子受容性顕色剤、塩基性物質または酸性物質のうち、一つ以上の材料の化学構造を変化させて、化学反応しても色素が生成できずに発色しないようにする機能、あるいは前記発色要素の材料を内包したマイクロカプセルの壁の物質透過性を変化させて浸透性を低下させて発色反応を抑制する機能を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、画像形成装置のメインテナンスが容易で、カートリッジ等の廃棄物を発生させずに簡単な制御で感熱記録媒体に画像を形成でき、しかも感熱記録媒体を容易に管理することを可能とする感熱記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係わる記録シート、並びに当該記録シートに画像を形成するプリンタについて説明する。
[本発明の構成との対応関係]
先ず、本実施形態の構成要素と、本発明の構成要素との対応関係を説明する。
低温発色カプセル25が請求項1等の発明の第1の発色要素の一例であり、中温発色カプセル21が第2の発色要素の一例であり、低温発色抑制カプセル23が発色抑制要素の一例であり、高温発色カプセル27が第3の発色要素の一例である。
また、低温発色層13が本発明の第1の発色層の一例であり、中温発色層7が本発明の第2の発色層の一例であり、高温発色層17が本発明の第3の発色層の一例であり、タイミング層11が本発明のタイミング層の一例である。
また、本実施形態の温度T1が本発明の第1の温度の一例であり、温度T2が本発明の第2の温度の一例であり、温度T3が本発明の第3の温度の一例であり、温度Taが本発明の第4の温度の一例である。
【0017】
[記録シート10]
先ず、本実施形態で用いられる記録シート10を説明する。
図1は、本実施形態で用いる記録シート10の断面構成図である。
図1に示すように、記録シート10は、例えば、基材11上に中温発色層7、低温発色抑制層9、タイミング層11、低温発色層13、混防止層15、高温発色層17および保護層19を積層して構成される。
図1に示すように、中温発色層7は中温発色カプセル21を内包し、低温発色抑制層9は低温発色抑制カプセル23を内包し、低温発色層13は低温発色カプセル25を内包し、高温発色層17は高温発色カプセル27を内包している。
図2に示すように、低温発色カプセル25、中温発色カプセル21および高温発色カプセル27は、それぞれ温度T1,T2,T3以上で発色する。ここで、T1<T2<T3である。
【0018】
また、低温発色抑制カプセル23は、温度Ta(<T1)以上で、低温発色カプセル25の発色機能を抑制する低温発色抑制剤を流出する。
記録シート10では、画像形成時に低温発色層13の発色加熱によって、低温発色抑制層9の低温発色抑制カプセル23内から低温発色抑制剤が流出し、この低温発色抑制剤がタイミング層11内を拡散し、時間遅延して低温発色層11の発色機能を抑制する。すなわち、低温発色層13を発色させてから、一定時間後に低温発色層13を自動的に定着できる。これにより、低温色の耐候性を高めることができると共に、定着のための特別な加熱処理や加圧処理が不要になり画像形成を簡単且つ短時間にできる。
なお、記録シート10は、3色発色できるため、カラー画像を形成できる。
【0019】
基材11は、例えば、ポリエステルやポリエチレンテレフタレート(PET)等によって構成される。基材11は、白色あるいは透明である。
【0020】
中温発色層7は、中温発色カプセル21、顕色剤、並びに必要に応じて塩基性物質または酸性物質をバインダ材中に分散させて構成される。中温発色カプセル21は、発色剤を内包し、その壁のガラス転移点が図2に示す温度T2(例えば、160℃)であり、低温発色カプセル25より高く、高温発色カプセル27より低い。
中温発色層7は、例えば、温度T2以上の中温状態が中時間以上続くと、中温発色カプセル21が内包する発色剤と中温発色層7内の顕色剤とが反応して発色する。本実施形態において、中時間とは、高温発色層17の発色条件で規定される短時間より長く、低温発色層13の発色条件で規定される長時間より短い時間である。
【0021】
中温発色カプセル21は、いわゆるマイクロカプセルであり、その壁が150〜280℃のガラス転移点を持つポリウレアあるいはポリウレタンからなる。中温発色カプセル21は、ガラス転移点前後で物質浸透(透過)性が大きくなる特性を持つ。これにより、図3(A)に示すように、温度T2未満(非中温状態)においては、中温発色カプセル21内に顕色剤は浸透せず、中温発色カプセル21内の発色剤は発色しない。一方、図3(B)に示すように、温度T2以上(中温状態)になると、中温発色層7内の顕色剤が中温発色カプセル21内に浸透し、当該顕色剤と中温発色カプセル21内の発色剤とが反応して色素が形成されて発色する。
【0022】
中温発色カプセル21等の本実施形態におけるマイクロカプセルの壁は、例えば、熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂等の合成樹脂で形成される。具体的には、中温発色カプセル21等の壁として、メラミン−ホルムアルデヒドポリマー、尿素−ホルムアルデヒドポリマー等が用いられる。
また、マイクロカプセルの平均粒径は、例えば約3〜4μmであり、そのガラス転移点は壁の材質によって規定される。マイクロカプセルは、反応する物質を多層構造の状態で隔離しておくだけでなく、マイクロカプセルの壁を隔ててミクロンに分散して共存させることにより、数μの薄い塗布膜の中で、常温では十分に隔離性を保ちながら、加熱時に瞬時に十分な物質浸透性を持たせる機能を持つ。
【0023】
なお、中温発色カプセル21は、上記中温状態になると、その壁が溶けて、カプセル内の発色剤がカプセル外に流出して、カプセル外の顕色剤と反応して発色するように構成してもよい。
本実施形態において、発色剤と、それに反応する顕色剤との組み合わせには、例えば、ジアゾ化合物(発色剤)とカプラー(顕色剤)との組み合わせ、あるいは電子供与性無色染料(発色剤)と電子受容性化合物(顕色剤)との組み合わせ等がある。なお、ジアゾ化合物の化学構造とカプラーの化学構造との組み合わせ、あるいは電子供与性無色染料の化学構造と電子受容性化合物の化学構造との組み合わせによって任意の色相を発色できることは公知である。
【0024】
なお、上記ジアゾ化合物は、例えば、リン酸トリクレジル等である。ジアゾ化合物は、電子供与性染色前駆体(染料前駆体)であり、塩基性雰囲気でカプラーと反応して発色する。カプラーは、例えば、レゾルシルやフロログルシンであり、塩基性雰囲気中でジアゾ化合物とカップリングして色素を形成する。塩基性雰囲気は、水難溶性か水不溶性の塩基性物質や加熱によりアルカリを発生する物質(例えば、有機アンモニウム塩)によって作られる。
また、上記電子供与性無色染料は例えばロイコ染料であり、電子受容性化合物は例えばフェノール系酸性物質である。この組み合わせでは、ロイコ染料が酸性物質である顕色剤に吸着して酸化されて発色する。
【0025】
また、上記カプラーとしては、例えば、2−ヒドロキシ−3ナフトエ酸アニリド等が用いられる。
また、上記電子受容性化合物としては、例えば、フェノール化合物、有機酸またはその金属塩、オキシ安息香酸エステル等の酸性物質が用いられる。
【0026】
また、本実施形態では、発色剤をマイクロカプセル内に内包する場合を例示するが、例えば、発色剤と顕色剤とをバインダ内に分散して配置し、加熱によりバインダが溶融して発色剤と顕色剤とが反応するような構成にしてもよい。
【0027】
低温発色抑制層9は、低温発色抑制カプセル23を内包する。
低温発色抑制カプセル23は、図4(A)に示すように、非抑制機能発揮状態(図2に示すTa未満)で、低温発色層13の発色機能を抑制する低温発色抑制剤を内包する。
低温発色抑制カプセル23は、図4(B)に示すように、図2に示す温度Ta以上の温度状態が予め決められた長時間以上続くと、カプセル壁が溶融状態となり、低温発色抑制剤を低温発色抑制カプセル23外に流出させる。本実施形態において、上記長時間は、低温発色層13の発色条件で規定される長時間と同じか、あるいはそれ以上の時間である。
【0028】
低温発色抑制カプセル23が内包する低温発色抑制剤は、例えば、低温発色カプセル25内は発色剤、低温発色層13内の顕色剤、塩基性物質および酸性物質のうち、1つ以上の物質の化学構造を変化させて、化学反応を起こさないようにする機能、あるいは化学反応しても色素が生成されないようにする機能を有する。
また、低温発色抑制カプセル23は、低温発色カプセル25のカプセルの壁の物質透過性を変化させて浸透性を低下させて発色反応を抑制する機能を有していてもよい。
【0029】
低温発色層13において電子供与性無色染料(発色剤:例えばロイコ染料)と電子受容性化合物(顕色剤:例えば酸性物質)との組み合わせで発色する場合には、低温発色抑制カプセル23として、例えば、リン酸エステル類、テトラヒドロフタル酸、脂肪酸エステル、2価アルコールエステル類、エポキシ系可塑剤あるいはトリメット酸系可塑剤等が用いられる。
【0030】
タイミング層11は、低温加熱によって低温発色抑制層9の低温発色抑制カプセル23内から流出した低温発色抑制剤を層内で拡散し、一定時間経過後に低温発色層13に達するように調整する。すなわち、タイミング層11は、低温発色層13の低温発色抑制機能が発揮されるタイミングを調整する。
本実施形態において、タイミング層11は、低温発色抑制剤が拡散可能な物質を用いて構成される。
タイミング層11は、例えば、この層が熱溶媒を含む場合などに、加熱の際に相変化を受ける不活性材料を含む任意の材料によって構成される。タイミング層11の代表的な材料としては、ポリ(ビニルアルコール)のようなポリマー材料が挙げられる。
【0031】
低温発色層13は、低温発色カプセル25、顕色剤、並びに必要に応じて塩基性物質または酸性物質をバインダ材中に分散させて構成される。低温発色カプセル25は、発色剤を内包し、その壁のガラス転移点が例えば、90〜140℃の低温である。低温発色層13は、例えば、図2に示す温度T1(例えば、100℃)以上の低温状態となると、低温発色カプセル25が内包する発色剤と低温発色層13内の顕色とが反応して発色する。低温発色層13の発色原理は、低温発色カプセル25の壁のガラス転移点を除いて、中温発色層7と同じである。
【0032】
混防止層15は、低温発色カプセル25と高温発色カプセル27とが混ざり合うことを防止する機能を有する。
【0033】
高温発色層17は、高温発色カプセル27、顕色剤、並びに必要に応じて塩基性物質あるいは酸性物質をバインダ材中に分散させて構成される。高温発色カプセル27は、発色剤を内包し、その壁のガラス転移点が例えば、300〜350℃の高温である。高温発色層17は、例えば、図2に示す温度T3(例えば、330℃)以上の高温状態が所定の短時間以上続くと、高温発色カプセル27が内包する発色剤と高温発色層17内の顕色剤とが反応して発色する。高温発色カプセル27の壁のガラス転移点を除いて、発色の原理は、中温発色カプセル21と同じである。本実施形態において、上記短時間は、低温発色層13および中温発色層7の発色条件で規定される長時間および中時間より短い時間である。
【0034】
保護層19は、中温発色層7を保護するための層である。保護層19は、例えば、耐熱機能を有する。
【0035】
本実施形態において、中温発色層7、低温発色抑制層9、低温発色層13および高温発色層17の各々の厚みは、例えば1〜4μmである。
また、タイミング層11の厚みは例えば5〜25μmである。
また、各層への発色の割り当ては、例えば、中温発色カプセル21にイエロー、低温発色層13にマゼンダ、高温発色層17にシアンを割り当てる。但し、これは一例であり、割り当てパターンは任意である。
なお、本実施形態では、プリンタ40において、記録シート10の各層の発色時に保護層19側から加熱を行う。
【0036】
[プリンタ40]
次に、図1に示す記録シート10に画像を形成するプリンタを説明する。
図5は、図1に示す記録シート10に画像を記録(印刷)するプリンタ40の構成図である。
図5に示すように、プリンタ40は、例えば、シート収容ケース41、シート送りローラ43、サーマルヘッド45、プラテンローラ47および制御部51を有する。
シート収容ケース41は、複数の記録シート10を収容する。シート収容ケース41に収容された記録シート10は、バネ53等の付勢手段によってシート送りローラ43に向けて押されている。
【0037】
シート送りローラ43は、シート収容ケース41の最上段の記録シート10に接触して位置する。シート送りローラ43は、制御部51からの制御信号に基づいてモータ(図示せず)によって回転駆動される。シート送りローラ43が回転すると、バネ53の付勢力により記録シート10とシート送りローラ43との間に生じた摩擦力によって、シート送りローラ43の回転に連動してシート収容ケース41の最上段の記録シート10がサーマルヘッド45に向けて搬送される。なお、制御部51は、上記制御信号に基づいて、モータ(シート送りローラ43)の回転量を制御することで、記録シート10の位置や送り量を制御する。
【0038】
記録シート10の搬送経路におけるシート送りローラ43の下流側には、サーマルヘッド45が設けられている。
サーマルヘッド45は、複数の発熱素子を主走査方向にライン状に並べた発熱素子アレイを備えている。サーマルヘッド45は、発熱素子アレイを記録シート10に接触した状で、形成する画像に応じたパターンで各発熱素子を発熱させる。本実施形態では、各発熱素子は、少なくとも、非発熱状態、低温発熱状態、中温発色状態および高温発熱状態の4状態を有し、これら4状態のうち一つが制御部51によって選択される。
各発熱素子の発熱温度は、その発熱素子に接続された抵抗に電流を流す時間によって制御される。制御部51は、加熱時間に応じて、サーマルヘッド45の各発熱素子に電流を流す時間を規定するストローブ信号のパルス幅を制御する。
【0039】
また、その他の温度制御方法として、制御部51は、例えば、発熱温度に応じては発熱素子間に生じる電圧を制御(発熱温度が高くなるに従って上記電圧が大きくなるように制御)してもよい。
また、各発熱素子が制御信号のレベルに応じた電圧によって発熱する場合に、制御部51は、制御信号のパルス電位、パルス幅およびパルス回数を制御することで、各色の濃度を制御できる。
なお、サーマルヘッド45は、低温発色状態、中温発色状態および高温発色状態の各々において、画像データの諧調に応じた複数の発熱温度を調整可能にしてもよい。
【0040】
プラテンローラ47は、記録シート10の搬送経路を挟んで反対側には、サーマルヘッド45が設けられている。プラテンローラ47は、記録シート10の搬送に応じて回転し、記録シート10とサーマルヘッド45の発熱素子との接触状態を安定にする。
【0041】
制御部51は、例えば、マイクロコンピュータ等の電子回路であり、プリンタ40の動作を統括的に制御する。
【0042】
以下、図5および図6を参照して、プリンタ40の動作例を説明する。
図6は、図1に示す記録シート10に画像を形成するプリンタの動作例を説明ためのフローチャートである。
【0043】
ステップST0:
図6に示すプリンタのシート収容ケース41に、複数枚の記録シート10を収容する。シート収容ケース41に収容された記録シート10は、バネ53の付勢力によって紙送りローラ43に向けて押され、最上段の記録シート10と紙送りローラ43との間に摩擦力が生じている。
【0044】
ステップST1:
制御部51からの制御に基づいてシート送りローラ43が回転し、シート収容ケース41の最上段に収容された記録シート10がサーマルヘッド45に向けて搬送される。
【0045】
ステップST2:
制御部51からの制御に基づいてサーマルヘッド45が、記録シート10に形成する画像の低温発色成分に応じた画素パターンで各発熱素子を低温且つ長時間で発熱させる。これにより、記録シート10の低温発色層13が、画像情報に対応した低温発色成分の画素パターンで、図2に示す温度T1の低温状態で長時間加熱され、低温加熱された位置の低温発色カプセル25内の発色剤とその周囲に顕色剤とが反応して発色(低温発色)する。
【0046】
ステップST3:
ステップST2における低温加熱による熱によって低温発色抑制層9が加熱される。このとき、タイミング層11の影響で、低温発色抑制層9は、温度T1より小さい温度Taで加熱される。これにより、低温発色抑制層9の発色抑制カプセル23内から低温発色抑制剤が流出し、これがタイミング層11内を拡散して一定時間経過後に低温発色層13に達する。そして、低温発色抑制剤によって低温発色層9の発色機能が自動的に抑制(定着)される。すなわち、低温発色抑制のための加熱処理を個別に行う必要がない。
【0047】
ステップST4:
制御部51からの制御に基づいてサーマルヘッド45が、記録シート10に形成する画像の高温発色成分に応じた画素パターンで各発熱素子を高温且つ短時間で発熱させる。これにより、記録シート10の高温発色層17が、画像情報に対応した高温発色成分の画素パターンで、図2に示す温度T3の高温で短時間加熱され、高温加熱された位置の高温発色カプセル27内の発色剤とその周囲に顕色剤とが反応して発色(高温発色)する。
このとき、低温発色層13は既に定着されているから発色せず。また、中温発色層7については、高温加熱時間は短時間であり、且つ低温発色層13、タイミング層11および低温発色抑制層9が熱バリアとして働くため、中温発色条件を満たさず、発色しない。
【0048】
ステップST5:
ステップST4に続いて、制御部51からの制御に基づいてサーマルヘッド45が、記録シート10に形成する画像の中温発色成分に応じた画素パターンで各発熱素子を中温且つ中時間で発熱させる。これにより、記録シート10の中温発色層7が、画像情報に対応した中温発色成分の画素パターンで、図2に示す温度T2の中温で中時間加熱され、中温加熱された位置の中温発色カプセル21内の発色剤とその周囲に顕色剤とが反応して発色(中温発色)する。
このとき、低温発色層13の発色機能は既に抑制されているので、低温発色は生じない。
【0049】
本実施形態において、ステップST2〜ST5の発色処理は、記録シート10上でサーマルヘッド45が接触した領域に対して順に行われる。当該接触領域についてステップST2〜ST5の発色処理および定着処理が終了すると、プラテンローラ47が回転して次の接触領域についてステップST2〜ST5の処理が行われる。
なお、ステップST4の処理(中温発色処理)とステップST5の処理(高温発色処理)との順は逆でもよい。
【0050】
ステップST6:
制御部51からの制御に基づいて加圧ローラ49a,49bが回転し、図5に示すように、記録シート10が図5中右側の搬出口に向けて搬送される。
【0051】
以上説明したように、記録シート10によれば、カートリッジ等の交換が不要であるためプリンタ40のメインテナンスが容易で、カートリッジ等の廃棄物を発生させず、環境対策に適している。
また、記録シート10によれば、低温発色層13の発色抑制(定着)を行うので、画像形成後の変色を抑制でき、耐候性を向上できる。このとき、紫外線定着ではないため、記録シート10の管理が容易である。
【0052】
また、記録シート10では、低温発色層13と低温発色抑制層9との間にタイミング11を設けることで、低温発色層13の発色加熱によって低温発色抑制層9の低温発色抑制カプセル23内から低温発色抑制剤が流出し、この低温発色抑制剤がタイミング層11を拡散し、時間遅延して低温発色層11の発色機能を抑制する。すなわち、低温発色層13を発色させてから、一定時間後に低温発色層13を自動的に定着できる。これにより、低温色の耐候性を高めることができると共に、定着のための特別な加熱処理や加圧処理が不要になり画像形成を簡単且つ短時間にできる。
すなわち、記録シート10によれば、3つの発色層のうちの1層の低温層を定着させたため、残りの2層について熱と時間を制御すればよいので、制御が簡単である。
【0053】
また、記録シート10では、中温発色層7と高温発色層17との間に、低温発色抑制層9、タイミング層11および低温発色層13を配置するため、これらの層が高温発色時に熱バリアとして機能し、中温発色層7に意図しない発色が生じることを回避できる。
【0054】
また、本実施形態のプリンタ40によれば、図5に示すように、低温発色、低温定着、高温発色および中温発色を、サーマルヘッド45によって1ヘッドで温度と時間を制御して連続して実現できる。
プリンタ40によれば、低温発色定着のために特別な機構が不要であるため、構成および制御を簡単にできる。
【0055】
また、記録シート10では、高温発色層17を保護層19側に配置する。そのため、プリンタ40による加熱時のエネルギを小さくできると共に、加熱時間を短縮できる。
【0056】
なお、上述した実施形態では、中温発色層7、低温発色抑制層9、低温発色層13および高温発色層17が機能を発揮する条件として時間を規定したが、時間を条件とせず、温度のみを条件とするようにしてもよい。
【0057】
本発明は上述した実施形態には限定されない。
すなわち、当業者は、本発明の技術的範囲またはその均等の範囲内において、上述した実施形態の構成要素に関し、様々な変更、コンビネーション、サブコンビネーション、並びに代替を行ってもよい。
例えば、上述した実施形態では、記録シートを3色に発色させて記録を行う場合を例示したが、記録シートに4色以上に発色させて記録を行ってもよい。例えば、イエロー、シアンおよびマゼンダの3色に、ブラックを加えて4色で記録シートを発色させてもよいし、ライトシアンおよびライトマゼンダを加えて5色で記録シートを発色させてもよい。
【0058】
また、上述した実施形態では、本発明の感熱記録媒体として記録シートを例示したが、本発明の感熱記録媒体の形状はシート状以外でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、感熱記録媒体に記録を行うシステムに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は、本発明の実施形態の記録シートの構成図である。
【図2】図2は、図1に示す低温発色抑制カプセル、低温発色カプセル、中温発色カプセル、高温発色カプセルの特性を説明ための図である。
【図3】図3は、図1に示す記録シート内の高温発色カプセル、中温発色カプセルおよび低温発色カプセルの発色原理を説明ための図である。
【図4】図4は、図1に示す低温発色抑制カプセルの発色抑制原理を説明ための図である。
【図5】図5は、本発明の実施形態のプリンタの画像形成動作を説明ための図である。
【図6】図6は、本発明の実施形態のプリンタの画像形成動作を説明ためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0061】
10‥記録シート、5‥基材、7‥中温発色層、9‥低温発色抑制層、11‥タイミング層、13‥低温発色層、15‥混防止層、17‥高温発色層、19‥保護層、21‥中温発色カプセル、23‥低温発色抑制カプセル、25‥低温発色カプセル、27‥高温発色カプセル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の発色温度で発色する第1の発色要素を内包した1の発色層と、
前記第1の温度より高い第2の温度で発色する第2の発色要素を内包した第2の発色層と、
前記第2の温度より高い第3の温度で発色する第3の発色要素を内包した第3の発色層と、
前記第1の発色要素の発色機能を抑制する発色抑制剤を含む発色抑制要素を内包し、予め決められた温度条件を満たすと前記発色抑制要素が前記発色抑制剤を流出する発色抑制層と、
前記第1の発色層と前記発色抑制層との間に介在し、前記発色抑制剤が前記第1の発色層に達するタイミングを規定するタイミング層と
を有し、
前記第1の発色層、前記タイミング層および前記発色抑制層を、前記第2の発色層と前記第3の発色層との間に配置した
感熱記録媒体。
【請求項2】
前記タイミング層は、画像形成時に、前記発色抑制要素から出た発色抑制物質が、前記第1の発色要素が発色した後に当該第1の発色要素に到達するように前記タイミングを調整する機能を有する
請求項1に記載の感熱記録媒体。
【請求項3】
前記第2の発色層を基材側に配置し、前記第3の発色層を前記基材と反対側に配置した
請求項1または請求項2に記載の感熱記録媒体。
【請求項4】
前記発色抑止要素は、前記第1の温度より低い第4の温度で前記発色抑制剤を流出する
請求項1〜3のいずれかに記載の感熱記録媒体。
【請求項5】
前記発色要素は、当該発色要素が内包する材料が前記発色要素外に放出し、発色要素外の物質と反応して発色する要素、あるいは
前記発色要素内に、当該発色要素外の材料が、当該発色要素内に流入して、当該発色要素内の物質と反応して発色する要素
である請求項1〜4のいずれかに記載の感熱記録媒体。
【請求項6】
前記発色抑制剤は、
前記発色要素の材料である電子供与性染料前駆体、電子受容性顕色剤、塩基性物質または酸性物質のうち、一つ以上の材料の化学構造を変化させて発色反応を起こさないようにする機能、
前記発色要素の材料である電子供与性染料前駆体、電子受容性顕色剤、塩基性物質または酸性物質のうち、一つ以上の材料の化学構造を変化させて、化学反応しても色素が生成できずに発色しないようにする機能、あるいは
前記発色要素の材料を内包したマイクロカプセルの壁の物質透過性を変化させて浸透性を低下させて発色反応を抑制する機能を有する
請求項1〜5のいずれかに記載の感熱記録媒体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−296715(P2007−296715A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−125917(P2006−125917)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(503118332)IPトレーディング・ジャパン株式会社 (10)
【Fターム(参考)】