説明

感電防止用着衣

【課題】 感電に対する危険性を軽減もしくはなくすことができることに加えて、動きやすくて安価に製造できるようにする。
【解決手段】 上着又は下着の少なくとも一方を、人体Bの一部又は全体に密着するように、伸縮性を有する生地1で形成し、該生地1を、導電性繊維2で織成して、或いはその一部に導電性繊維2を織り込んで構成し、さらに、該生地1に、充電部Vが近接しているか否かを検知する検電センサS1〜S4を設けて、作業者Bに対して注意喚起する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充電部が人体に接触することによって起きる感電事故を軽減もしくはなくすための感電防止用着衣に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高圧電線における活線作業や近接作業をする場合、又は低圧電線における活線作業をする場合、作業者は絶縁手袋や必要により絶縁服を着用して前記作業を行っているが、例えば絶縁手袋又は絶縁服から臨出している箇所が、露出している充電部に誤って接触したり、又は停電状態と誤り絶縁手袋や絶縁服を未着用で充電部に接触したりして感電する場合があることが問題になっている。
【0003】
ところで、落雷からの感電を防止するための着衣として、全身を覆う一体型の着衣で、導電性の織布に、導電線を網目状に分布させて構成された着衣を形成し、各導電線を一纏めにしてアース線に接続すると共に、該アース線に接地棒を接続して接地する感電防止用着衣が公知になっている。この感電防止用着衣によれば、落雷した際の雷電流を、導電性の着衣から接地棒を介して地面に流すようにして、落雷による感電を防止している(例えば特許文献1)。
【0004】
また、前記と同様に、全身を覆う一体型の着衣で、導電性繊維で織成された外側導電層及び内側導電層と、当該両導電層の間に設けられた絶縁性の織布で形成された中間絶縁層と、両導電層を接続した一本の導電線とで構成された感電防止用着衣が公知になっている。この感電防止用着衣によれば、両導電層を一本の導電線で接続することによって、内側導電層の全体の電位と外側導電層の導通点を等電位にし、人体に対する電位差をなくす一方、落雷した際の雷電流を外側導電層のみに流し、この際に生じる外側導電層の放電点と内側導電層との電位差を中間絶縁層によって絶縁することで、人体の安全性を確保するようにしている(例えば特許文献2)。
【0005】
【特許文献1】実開昭59−117616号公報
【特許文献2】特許登録第2994521号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来より使用されている絶縁手袋や絶縁服だけでは、充電部との接触を完全に回避することが難しく、また、これらの絶縁服や絶縁手袋の着用時以外で、不注意に充電部と接触した場合の感電事故を抑制するのが困難になっているのが現況である。
【0007】
そして、上述した、前者の公報の感電防止用着衣を着用して高圧活線作業や高圧近接作業又は低圧活線作業を行うことも考えられるが、導電性の着衣が密着せずに作業者の全身を覆っているので、導電性の着衣の上に絶縁服を重ねて着用すると、動くたびに不自然に膨らんだり突っ張ったりして、動きづらく作業性が悪いという問題がある。
【0008】
また、前記と同様に、後者の公報の感電防止用着衣を着用して前記作業を行うことも考えられるが、落雷からの感電を防止するには好適ではあるものの、当該着衣が、外側導電層、内側導電層、及び該両導電層の間に設けられた中間絶縁層の三相構造であるため、その分嵩張ると共に、重量も大きくなり、前者の公報の着衣と同様に、作業がしづらくなる。一方、着衣を作製する費用が高くなるという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題点を鑑み、感電に対する危険性を軽減もしくはなくすことができることに加えて、動きやすくて安価に製造できる感電防止用着衣を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明に係る感電防止用着衣は、上着又は下着の少なくとも一方が、人体Bの一部又は全体に密着するように、伸縮性を有する生地で形成され、該生地1は、導電性繊維2で織成されて、或いはその一部に導電性繊維2が織り込まれて構成されることを特徴とする。
【0011】
この場合、着衣Aが人体Bに密着しているので、この着衣Aの上に絶縁服を着用したとしても、嵩張りや突っ張り感がなく、動きやすくて作業性を低下させることはない。また、導電性繊維2で伸縮性を有する生地1全体を形成したり、既製の合成繊維で伸縮可能に織成された生地1の一部に導電繊維2を織り込んだりしてもよく、何れの場合も着衣Aを簡単に作製できる。そして、充電部Vが導電性の着衣A又は人体Bのいずれに接触しても、該接触箇所からの感電電流が着衣Aと人体Bとに分散されて流れるようになるので、人体Bに対する損傷を軽減もしくはなくすことができる。
【0012】
また本発明によれば、前記生地1に、充電部Vが近接しているか否かを検知する検電センサS1〜S4を設けるような構成を採用することもできる。
【0013】
この場合、充電部Vが近接しているか否かの状態を検電センサS1〜S4で検知できるので、作業者Bはその危険性を予知できると共に、充電部Vとの接触を回避できるようになる。この検電センサS1〜S4としては、充電部Vが接近することによって人体Bに流れる微少電流の変化を検知できるように構成すればよく、簡単に作製できる。
【0014】
また本発明によれば、前記生地1を、手首又は胴部の少なくとも一方に密着するような構成を採用することもできる。
【0015】
この場合、例えば充電部Vとの接触が生じやすい指先、又は充電部Vが近接していても気付くことが少ない腰部から、感電電流が流れたとしても、生地1が手首や胴部に密着しているので、感電電流を生地1及び人体B、もしくは生地1を通って大地に流すことができる。また、絶縁手袋又は絶縁服の隙間から露出する手首、臓器が集中している腹部においても感電電流による損傷を軽減もしくはなくすことができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、伸縮性を有する生地を、導電性繊維で織成したり、その一部に導電性繊維を織り込んだりするようにして、導電性の着衣を形成したので、簡単且つ安価に製造できる。また、該着衣の伸縮性によって人体に密着することになり、動きやすくて、作業性を向上できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る感電防止用着衣について、図1〜図5を参照しつつ説明する。なお、図1〜図5において、本発明の感電防止用着衣は、当該着衣の上に絶縁手袋又は絶縁服を重ねて着用することを前提としており、当該絶縁手袋又は絶縁服は省略して感電防止用着衣のみを図示している。また、以下「感電防止用着衣」を単に「着衣」と、「作業者」を「人体」と、「高圧電線」又は「低圧電線」を「充電部」と表現したりする場合もある。
【0018】
(実施形態1)
本実施形態1の感電防止用着衣について、図1を参照して説明する。該感電防止用着衣Aは、例えばナイロンやポリエステルで構成される合成繊維で、伸縮性を有する網状の生地1を形成し、該生地1の織り目1aに導電性繊維2を織り込むようにし、上下一体型の着衣を構成している。この着衣Aは、作業者Bの頸、左右の両肩、両腕、手首、胴部(胸部、背部、腰部、腹部を含む)、臀部、両足、足首に密着し、且つこれら各部位の動きに対して伸縮するので、絶縁服を重ねて着用したとしても、嵩張りや突っ張り感がなく、作業性を低下させることはない。なお、導電性繊維2としては、金、銀、銅、アルミ、カーボンなどの繊維が選択される。
【0019】
そして、着衣Aの左右の両袖口及び両肩口のそれぞれに、充電部(本実施形態では高圧電線)Vが作業者(人体)Bに近接した場合に、その状況を検知する検電センサS1〜S4が取り付けられている。この検電センサS1〜S4は、既製の検電器Kを応用したもので、人体Bが充電部Vに近接した場合に、人体Bと充電部V間の静電容量の変化を検知するように構成されている。
【0020】
ここで既製の検電器Kの構成について簡単に説明する。この検電器Kは、静電力を利用して指示するよう構成されており、例えば内部に、絶縁物を挟んで対向配置された一対の金属泊を設けている(図示せず)。そして、図5に示すように、作業者Bが検電器Kを把持した状態で、該検電器Kを充電状態の高圧(低圧)電線Vに近接させ、検電器Kを通して人体Bに微弱電流が流れるようになる。検電器Kは、この微弱電流を検知するように構成されている。図5の回路図は、作業者Bが検電器Kを把持した状態で、充電状態の高圧(低圧)電線Vに近接した場合において、充電状態の高圧(低圧)電線V−作業者B−大地G間を模式的に等価回路で図示したもので、図中のR1は検電器K内部の抵抗、C1は検電器K内部の素子と人体Bとの間の静電容量、R2は人体Bの内部抵抗、C2は人体Bと大地Gの間の静電容量、Pは充電部Vとの対地電位を示す。
【0021】
そして、本実施形態1の検電センサS1〜S4も、前記検電器Kと同様に、絶縁物と、該絶縁物を挟んで対向配置された一対の金属泊とを容器内部に備え、充電部Vと着衣Aとの間に誘起される静電誘導電圧によって、両金属泊間に流れる微弱な電流を検知するように構成されている。なお、検電センサS1〜S4を着衣Aに取り付ける手段としては、面ファスナや留め具(フック、ボタン、スナップなど)などを利用して取り付けるようにする。
【0022】
そして、作業者Bが着衣Aを着用した状態で、高圧(低圧)活線作業や高圧(低圧)近接作業を行った場合において、充電状態の高圧(低圧)電線V−作業者B−大地G間を模式的に等価回路で図示すると、図1に示すようになる。図中のCaは高圧(低圧)電線Vと人体(検電センサS1〜S4)B間の大気中の静電容量、Csは検電センサS1〜S4の静電容量、Rsは検電センサS1〜S4内部の回路抵抗、Roは人体Bと着衣Aの合成抵抗、C2は人体Bと大地Gの間の静電容量を示す。
【0023】
なお、前記実施形態1の場合、検電センサS1〜S4の取付箇所は図示に限定されるものではなく、適宜変更可能である。例えば、着衣Aにおいて、腰部に密着する部位に取り付けてもよく、足の太ももや足首に密着する部位に取り付けてもよい。また、絶縁服、ヘルメット、安全ベルト、安全靴、工具袋に取り付けてもよく、導電性を有する工具に設けるようにしてもよい。但し、安易に検電センサの数を増やすのではなく、安全性を重視しつつ作業性が低下することがないように、取付箇所及び取付数を選択する必要がある。
【0024】
(実施形態2)
つぎに本実施形態2に係る感電防止用着衣について図2を参照して説明する。同図において前記実施形態1と異なる点は、着衣Aに接地線Eを取り付けて、着衣Aを接地線Eを介して大地Gに接地した点であり、人体Bに流れる感電電流をできる限り着衣Aから大地Gに流すようにしている。図中のCaは高圧(低圧)電線Vと人体(検電器)B間の大気中の静電容量、Csは検電センサS1〜S4の静電容量、Rsは検電センサS1〜S4の内部の回路抵抗、Roは人体Bと着衣Aの合成抵抗を示す。
【0025】
(実施形態3)
つぎに本実施形態3に係る感電防止用着衣について図3を参照して説明する。同図において前記実施形態1と異なる点は、着衣Aに接地線Eを取り付けると共に、該接地線Eに流れる微少電流を検知するセンサ、及び検知された電流値に基づいて危険レベルを判定して作業者Bに報知する警報器Dを取り付けた点であり、充電部Vが接近している状態を作業者Bに対して注意喚起を促すのに有効である。図中のCaは高圧(低圧)電線Vと人体(警報器D内部のセンサ)B間の大気中の静電容量、Roは人体Bと着衣Aの合成抵抗、Rdは警報器Dの内部の回路抵抗を示す。
【0026】
警報器Dの構成としては、例えば人体B、接地線Eを介して流れる微少電流値を検知するセンサと、該検知電流の判定レベルを「注意」、「要注意」、「危険」の3段階に分けて判断する判定手段と、各判定レベルに応じて報知する警報手段とを備える。警報の内容としては、「注意」の場合はバイブレーションで、「要注意」の場合はバイブレーション+音声によって、「危険」の場合はバイブレーション+ブザーで、作業者Bに報知する。
【0027】
なお、警報器Dの構成は限定されるものではなく適宜設計変更可能である。例えば上記構成に加えて、LEDの点滅作用を付加させてもよい。また作業車の運転席において、作業状態を車載モニタや携帯電話の画面で監視できるように小型の撮像装置を設置し、運転席で待機中の監視者から、高所の作業現場において、充電部Vに近接している作業者Bに対してブザーなどで注意喚起できるように構成された、データ送受信機能を有する警報器としてもよい。
【0028】
なお、上記実施形態1〜3の場合、着衣Aの上に絶縁服を重ねて着用することを前提としたが、絶縁服の裏側に着衣Aを一体化して着用するようにしてもよく、絶縁服を着用せずに着衣Aのみを着用するようにしてもよい。また、図4(a)に示すように、上着のみの感電防止用着衣A1としてもよい。この場合、人体Bの手首及び腰部に対して、メリヤス編みする等して密着させてもよい。また、図4(b)に示すように、下着のみの感電防止用着衣A2としてもよい。この場合、人体Bの腰部のみに対して着衣A2を密着させるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態1に係る感電防止用着衣と、充電状態の高圧(低圧)電線−作業者−大地間を模式的に図示した等価回路とを示した図。
【図2】本発明の実施形態2に係る感電防止用着衣と、充電状態の高圧(低圧)電線−作業者−大地間を模式的に図示した等価回路とを示した図。
【図3】本発明の実施形態3に係る感電防止用着衣と、充電状態の高圧(低圧)電線−作業者−大地間を模式的に図示した等価回路とを示した図。
【図4】(a)は上着のみの感電防止用着衣を示し、(b)は下着のみの感電防止用着衣を示した図。
【図5】既製の検電器の一般的な使用態様と、充電状態の高圧(低圧)電線−作業者−大地間を模式的に図示した等価回路とを示した図。
【符号の説明】
【0030】
1…生地、1a…織り目、2…導電性繊維、A…感電防止用着衣(着衣)、B…作業者(人体)、D…警報器、E…接地線、G…大地、K…検電器、S1〜S4…検電センサ、P…充電部と大地間の電位、Ca…高圧(低圧)電線Vと人体(検電センサS1〜S4)B間の大気中の静電容量、Cs…検電センサS1〜S4の静電容量、C2…人体Bと大地Gの間の静電容量、Ro…人体Bと着衣Aの合成抵抗、Rs…検電センサS1〜S4内部の回路抵抗、Rd…警報器Dの内部の回路抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上着又は下着の少なくとも一方が、人体(B)の一部又は全体に密着するように、伸縮性を有する生地(1)で形成され、該生地(1)は、導電性繊維(2)で織成されて、或いはその一部に導電性繊維(2)が織り込まれて構成されることを特徴とする感電防止用着衣。
【請求項2】
前記生地(1)は、充電部(V)が近接しているか否かを検知する検電センサ(S1〜S4)が設けられることを特徴とする請求項1に記載の感電防止用着衣。
【請求項3】
前記生地(1)は、人体(B)の手首又は胴部の少なくとも一方に密着するよう構成されることを請求項1又は2に記載の感電防止用着衣。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate