説明

成人T細胞白血病/リンパ腫の発症抑制剤の有効成分をスクリーニングする方法

【課題】成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)の発症機序を明確にし、その発症機序の阻害を指標として、ALTT発症を遅延するかまたは予防する効果を有するALTT発症抑制剤をスクリーニングする方法を提供する。またかかる機序に基づくALTT発症抑制剤を提供する。
【解決手段】本発明のスクリニ−ング方法は、TaxとCdc37のCBD領域との結合阻害を指標とすることにより実施することができる。本発明のALTT発症抑制剤は、TaxとCdc37のCBD領域との結合を阻害する作用を有する物質を有効成分とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成人T細胞白血病/リンパ腫(以下、単に「ATLL」とも称する。)の発症機構について新たな知見を提供するものである。また本発明は、かかる知見に基づいて、ATLLの発症を抑制する薬物(ALTT発症抑制剤)の有効成分をスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)は、レトロウイルスの一種であるヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)の感染者の一部に発症する非常に悪性度の高い白血病・リンパ腫である。世界中にHTLV-1のキャリアは約2千万人であり、そのうちの約5%がATLLを発症することが疫学的に明らかにされている(非特許文献1〜3)。日本では九州および四国に多く、全国のキャリア数は約100 万人、ATLL発症数は年間約700 例といわれている(非特許文献4)。潜伏期間が40〜60年と長く、発症予測は困難である。また発症者の予後は不良であり、現在のところATLLの予防には感染予防が最善の方法と考えられている。
【0003】
ATLLの発症は、HTLV-1の癌遺伝子産物であるTaxがその原因とされている(非特許文献5)。Taxは、細胞増殖やアポトーシス抑制に関与するNF-κBやAP-1などの転写因子を活性化し、p53、Rb、Mad1などの癌抑制遺伝子産物やDNA修復及び染色体分配チェック機能を阻害することが知られている(図1参照)。この中でもNF-κBの活性化が、ATLL発症の初期段階におけるHTLV-1感染T細胞の不死化に必須であり、NF-κBの活性化によって宿主染色体DNA上の遺伝子変異の蓄積や染色体分配異常が起こり、最終的にATLLの発症へ至ることが知られている。このことから、HTLV-1感染後の早い時期にTaxによって誘導されるNF-κBの活性化(NF-κB亢進)を抑制することによって、ATLL発症の遅延や発症を予防することが可能であると考えられる(非特許文献6、7)。
【0004】
NF-κBは免疫応答に関与する転写因子である。生体内では、通常、厳密にその発現は制御されているものの、炎症性サイトカイン、細菌やウイルス(発悪性腫瘍性ウイルスを含む)の感染、紫外線、ディーゼル粉末粒子など、ストレスを伴う外部刺激を受けると活性化されて核内に移行し、その制御下にある遺伝子の発現を誘導し、その結果、免疫応答や細胞死が回避されるといった生体防御機構が働く(非特許文献8〜10)。これらの反応は、通常一過性のものであるが、ウイルスや紫外線、アレルゲンなどの化学物質による一部の特殊な刺激はNF-κBの恒常的または過剰な活性化(亢進)を引き起こし、アレルギー疾患や悪性腫瘍を誘発する原因のひとつとなっている(図2参照)。
【0005】
現在ATLLの治療は、主にDNA合成阻害剤や細胞骨格重合阻害剤を用いたCHOP療法の改良版である多剤併用化学療法mLSG15が主流となっている。しかしながらこの多剤併用化学療法は細胞毒性(殺腫瘍細胞活性)を基本とした方法であるため、副作用による患者の負担が大きく患者のQOLが著しく低下するという問題がある。さらにはmLSG15を用いても患者の2年生存率は30%にも満たない(非特許文献11、12)。この様な状況から、既存の抗腫瘍薬とは作用機作が異なり、しかも患者の負担が小さい分子標的薬剤、例えば最近の例では慢性骨髄腫発症の元凶であるBcr-Ablキメラ蛋白質の活性を特異的に抑えるImatinib(商品名Gleevec, Novartis製)などのような抗腫瘍薬の登場が待たれている。
【0006】
なお、炎症性サイトカインTNF-αによって誘導されるNF-κBの活性化は、分子シャペロンHsp90阻害剤であるゲルダナマイシン(GA)がNF-κB活性化リン酸化酵素IKKの機能を阻害することで抑制されることが報告されている(非特許文献13)。また最近、ゲルダナマイシンの誘導体で同じくHsp90阻害剤である17-AAG(17-(Allylamino)-17-demethoxygeldanamycin)が、ATL細胞の増殖を抑制することが報告され、ATLLの化学療法剤としての有用性が示唆されている(非特許文献14)。
【非特許文献1】Takatsuki, K. (1995) “Adult T-cell leukemia.”Intern Med. 34(10), 947-952.
【非特許文献2】田島和雄(2004)成人T細胞白血病/リンパ腫の疫学, 綜合臨床, 53(7), 2038-2047.
【非特許文献3】Proietti, F.A., Carneiro-Proietti, A.B., Catalan-Soares, B.C., Murphy, E.L.(2005)“Global epidemiology of HTLV-I infection and associated diseases. ” Oncogene. 24(39):6058-68.
【非特許文献4】日野茂男 (2002) 成人T細胞白血病, IDWR, 4.
【非特許文献5】Jeang, K.T. (2001) “Functional activities of the human T-cell leukemia virus type I Tax oncoprotein: cellular signaling through NF-κB.” Cytokine Growth Factor Rev. 12(2-3), 207-217.
【非特許文献6】Iha, H., Kasai, T., Kibler, K.V., Iwanaga, Y., Tsurugi, K., Jeang, K.T. (2001) “Pleiotropic effects of HTLV type 1 Tax protein on cellular metabolism: mitotic checkpoint abrogation and NF-κB activation.”AIDS Res Hum Retroviruses. 16(16), 1633-1638.
【非特許文献7】Iha, H., Kibler, K.V., Yedavalli, V.R., Peloponese, J.M., Haller, K., Miyazato, A.,Kasai, T., Jeang, K.T. (2003) “Segregation of NF-kB activation through NEMO/IKKg by Tax and TNF-a: implications for stimulus-specific interruption of oncogenic signaling.” Oncogene. 22(55):8912-8923.
【非特許文献8】Karin, M., Cao, Y., Greten, F.R., Li, Z.W. (2002) “NF-κB in cancer: from innocent bystander to major culprit.” Nat. Rev. Cancer. 2(4),301-310.
【非特許文献9】Li, Q., Verma, I.M. (2002)“NF-κB regulation in the immune system.”Nat. Rev. Immunol. 2(10), 725-734.
【非特許文献10】Karin, M., Greten, F.R. (2005)“NF-κB: linking inflammation and immunity to cancer development and progression.” Nat. Rev. Immunol. 5(10), 749-759.
【非特許文献11】山口一成(2004)ATL/L多剤併用化学療法, 綜合臨床, 53(7), 2137-2143.
【非特許文献12】田口博國(2007)ATLの化学療法, HTLV-1と疾患,渡邉・上平・山口編, 文光堂42-53.
【非特許文献13】Chen, G., Cao, P., Goeddel, D.V.(2002)“TNF-induced recruitment and activation of the IKK complex require Cdc37 and Hsp90. ” Mol. Cell 9(2):401-410.
【非特許文献14】H.Kawakami, et al., (2007) “Inhibition of heat shock protein-90 modulates multiple functions required for survival of human T-cell leukemia virus type I-infected T-cell lines and adult T-cell leukemia cells.” Int. J. Cancer: 120, 1811-1820 (2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)の発症機序を明確にし、その発症機序の阻害を指標として、ALTT発症を遅延するかまたは予防する効果を有するALTT発症抑制剤の有効成分をスクリーニングする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねていたところ、(1)ATLLに対する有効性が示唆されているゲルダナマイシン誘導体(17-AAG)のターゲットとされているHsp90は、補助因子(コシャペロン)Cdc37と複合体(Hsp90/Cdc37複合体)を形成し、Taxはその複合体に結合することで安定化すること、(2)しかし、Taxの安定化は、Hsp90ではなく、補助因子であるCdc37と結合することによって生じること、より具体的には、TaxはCdc37のCBD領域(181-200領域)と直接分子相互作用して結合し、それによって安定化することを見出した。また、本発明者らは、(3)TaxのCdc37/CBD領域への結合を阻害することで、Taxが不安定になって分解が促進されること、(4) Taxの分解に伴ってNF-κBの活性化が抑制されることを見出し、さらに、(5) 17-DMAG(17-(dimethylaminoethylamino)-17- demethoxygeldanamycin)(参考文献1〜3)が、Tax発現ベクターを導入したヒト培養細胞においてNF-κB活性化や他の癌化シグナル(HTLV-1複製を促進するHTLV-1-LTR転写活性化)を低減させること、ATL患者由来細胞の増殖を阻害しアポトーシスを誘導すること、ならびにATL発症モデルマウス(参考文献4)への経口投与によってATL細胞の多臓器浸潤に対して抑制効果をも発揮することを確認した(実験例6)。
【0009】
これらの知見は、TaxはCdc37との結合、特にCdc37のCBD領域(181-200領域)(Csd/CBD領域)との結合を阻害する作用を有する物質が、Taxを不安定化して分解することでNF-κBの活性化を抑制し、その結果、ATLLの発症が抑制されること、すなわち、ATLLの発症を遅延するか予防する薬剤(ATLL発症抑制剤)の有効成分であることを意味する。
【0010】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の構成をその内容とするものである。
【0011】
(I)ATLL発症抑制剤の有効成分をスクリーニングする方法
(I-1)TaxとCdc37/CBD領域との結合阻害を指標とすることを特徴とする、ATLL発症抑制剤の有効成分をスクリーニングする方法。
(I-2)下記の工程(a)〜(d)を有する、ATLL発症抑制剤の有効成分をスクリーニングする方法:
(a)被験物質の存在下で、Cdc37のアミノ酸配列の少なくとも181位から200位を含むポリペプチドとTaxとを接触させる工程、
(b)上記ポリペプチドとTaxとの結合量を測定する工程、
(c)上記で得られた結合量を、被験物質非存在下でCdc37のアミノ酸配列の少なくとも181位から200位を含むポリペプチドとTaxとを接触させることによって得られる両者の結合量(対照結合量)を比較する工程、および
(d)(c)の結果に基づいて、被験物質の中から、対照結合量に比して結合量を低下させる物質を、ATLL発症抑制剤の有効成分として選択する工程。
【0012】
(II)ATLL発症抑制剤の有効成分をスクリーニングするための試薬キット
下記(i)〜(iii)を含有する、ATLL発症抑制剤の有効成分をスクリーニングするための試薬キット:
(i)Cdc37のアミノ酸配列の少なくとも181位から200位を含むポリペプチド、
(ii)Tax、
(iii)上記ポリペプチドとTaxとの結合を検出する試薬。
【0013】
(III)ATLL発症抑制剤
(III-1)TaxとCdc37のCBD領域との結合を阻害する作用を有する物質を有効成分とする、ATLL発症抑制剤。
(III-2)有効成分が、少なくともCdc37のCBD領域を認識して結合する抗体、または抗Tax抗体である、請求項4に記載するATLL発症抑制剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明のスクリーニング方法によると、一旦発症するとその治療が難しいATLLの発症を遅延させるか、または発症そのものを予防することのできるATLL発症抑制剤の有効成分となりえる候補物質を取得することができる。すなわち、かかる方法によって選別された物質は、TaxとCds37との結合を阻害する作用を有するものであり、Taxの分解を促進することでNF-κBの活性化を抑制し、その結果、ATLLの発症を阻止することができる、ATLL発症抑制剤の有効成分として使用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(I)ATLL発症抑制剤の有効成分をスクリーニングする方法
本発明は、前述するように、ATLLの発症を誘導するTaxの細胞内の安定化に、分子シャペロンHsp90のコシャペロン分子であるンCdc37との結合、特にCdc37のCBD領域との結合が重要であること、逆にいえば、TaxとCdc37のCBD領域との結合を阻害することによってTaxを不安定化(分解誘導)させることができ、その結果ATLL発症を阻止できることを見出したことに基づく。
【0016】
すなわち、本発明のスクリーニング方法は、被験物質の中から、TaxとCdc37との結合阻害、特にTaxとCdc37のアミノ酸配列中181〜200番目の領域(CBD領域)との結合阻害を指標として、かかる結合阻害作用を有する物質を、ATLL発症抑制剤、言い換えるとATLLの発症遅延または発症を予防する薬剤の有効成分として選別し取得する方法である。
【0017】
ここで、Taxは、前述するように、細胞増殖やアポトーシス抑制に関与するNF-κBやAP-1などの転写因子を活性化し、p53、Rb、Mad1などの癌抑制遺伝子産物やDNA修復及び染色体分配チェック機能を阻害することが知られているタンパク質である(図1参照)(非特許文献5参照)。また、そのアミノ酸配列(GenBank Accession NO. NP_057864)およびそれをコードする遺伝子の塩基配列(GenBank Accession NO. AF033817)も公知である。
【0018】
また、Cdc37は、分子シャペロンHsp90の補助因子(コシャペロン)であり、Clientであるリン酸化酵素と相互作用するKinase Binding Domain(KBD)と呼ばれるアミノ酸領域(40-110領域)のほか、Client Binding Domain(CBD)と呼ばれるアミノ酸領域(181-200領域)、dimerization domain(DD)と呼ばれるアミノ酸領域(245−255領域)、Hsp90 interaction domainと呼ばれるアミノ酸領域(164−170領域と202−208領域)を有するタンパク質である(Roe, S.M., Ali, M.M., Meyer, P., Vaughan, C.K., Panaretou, B., Piper, P.W., Prodromou, C., Pearl, L.H. (2004) The Mechanism of Hsp90 regulation by the protein kinase-specific cochaperone p50(cdc37).Cell. 116(1):87-98
)。また、そのアミノ酸配列(GenBank Accession NO. NP_008996)およびそれをコードする遺伝子の塩基配列(GenBank Accession NO. NM_007065)も公知である。
【0019】
本発明のスクリーニング方法は、特に制限されず当業者の技術常識に基づいて適宜設計することが可能であるが、一例として、被験物質の非存在下でTaxとCdc37のCBD領域とを接触させた場合と、被験物質存在下でTaxとCdc37のCBDを接触させた場合とで、CBD領域に対するTaxの結合性(結合量)を比較し、評価することを含むスクリーニング方法を挙げることができる。
【0020】
当該スクリーニング方法は、具体的には下記の工程(a)、(b)、(c)および(d)を行うことによって実施することができる:
(a)被験物質の存在下で、Cdc37の少なくともCBD領域を含むポリペプチド(タンパク質を含む)とTaxとを接触させる工程、
(b)上記ポリペプチドとTaxとの結合量を測定する工程、
(c)上記で得られた結合量を、被験物質非存在下でCdc37の少なくともCBD領域を含むポリペプチド(タンパク質を含む)とTaxとを接触させることによって得られる両者の結合量(対照結合量)と比較する工程、及び
(d)上記(c)の結果に基づいて、被験物質の中から、対照結合量に比して結合量を低下させる物質を、ATLL発症抑制剤の有効成分として選択する工程。
【0021】
上記本発明のスクリーニング方法で用いられるTaxは、天然物であっても、合成品であってもまた組換え体であっても良い。また当該Taxはヒト由来のものであることが好ましいが、マウスなどヒト以外の哺乳類やその他の生物種に由来するTaxも同様に使用できる。
【0022】
Taxの調製方法としては、以下の方法を例示することができる。まず、ヒトまたは各種生物種に由来するTaxのアミノ酸配列情報及びそれをコードする塩基配列情報(例えばGenBank Accession No. AF033817)をもとに、常法に従ってプローブ又はPCR用のプライマーを作成し、ヒト臍帯血由来のC8166細胞由来のcDNAライブラリー等をクローニングすることによってTaxをコードするcDNAを取得する。これらのクローニングは、例えばMolecular Cloning 2nd Edt., Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)などの基本書に従い、当業者ならば容易に行うことができる。
【0023】
次いで調製したTaxのcDNAを、例えばpcDNA3などの公知の発現ベクターに挿入する。その後、得られた組換えベクターを適当な宿主に導入し培養することにより、導入したTaxのcDNAによってコードされるTax(タンパク質)を細胞表面に発現させた形質転換細胞を作製することができる。
【0024】
なお、ここで宿主としては、一般的に宿主細胞として広く普及している哺乳動物細胞株であるL細胞、CHO細胞、C127細胞、BHK21細胞、BALB/c3T3細胞(ジヒドロ葉酸レダクターゼやチミジンキナーゼなどを欠損した変異株を含む)、COS細胞や、HEK293細胞、HeLa細胞などが好ましいが、これに限定されることなく、昆虫細胞、酵母細胞、細菌細胞などを用いることも可能である。また、前記Tax発現ベクターの宿主細胞への導入方法としては、公知の導入方法であればどのような方法でもよく、例えばリン酸カルシウム法(J.Virol.,52, 456-467(1973))、LT-1(Panvera社製)を用いる方法、遺伝子導入用リピッド(Lipofectamine、Lipofectin; Gibco-BRL社製)を用いる方法、FugenHD(Roche社製)を用いる方法などが挙げられる。次いで得られた形質転換細胞からTaxを常法に従って単離する。
【0025】
また、本発明のスクリーニング方法で用いられる、少なくともCdc37のCBD領域(181-200領域)を有するポリペプチド(以下、単に「CBDポリペプチド」ともいう。)もまた、天然物、合成品、及び組換え体の別を問わず、またTaxの調製方法に準じて調製することができる。また当該CBD領域もヒト由来のものであることが好ましいが、マウスなどのヒト以外の哺乳類や他の生物種由来のCBD領域も同様に使用できる。
【0026】
CBDポリペプチドは、必ずしもCdc37の全アミノ酸配列を保有する必要はなく、少なくともTaxと結合する、20アミノ酸残基からなるCBD領域(Cdc37の181-200番目のアミノ酸配列の領域)を有していれば良い。すなわち、本発明のスクリーニング方法では、上記CBDポリペプチドとして、(1)Cdc37の全長アミノ酸配列からなるポリペプチド(タンパク質)、(2)当該Cdc37のアミノ酸配列中181〜200残基からなるポリペプチド、および(3)Cdc37のアミノ酸配列において少なくとも181〜200残基を保持してなるCdc37の部分ポリペプチドを用いることもできる。なお、これらのCBDポリペプチドは、上記CBD領域のアミノ酸配列を有し、Taxとの結合能が維持されている限り、他の領域において、アミノ酸配列の一部が欠失するか、他のアミノ酸によって置換、付加または挿入等されていてもよく、かかる改変された領域を有するポリペプチドも本発明でいう「CBDポリペプチド」に包含される。
【0027】
なお、CBDポリペプチドのCBD領域は、20残基のアミノ酸からなる。よって、CBDポリペプチドは、ヒトまたは各種生物に由来するCdc37のアミノ酸配列情報(GenBank Accession No.: NP_008996)に基づいて、通常のペプチド合成法に準じて合成することもできる。例えば、ペプチドの合成は文献〔ペプタイド・シンセシス(PeptideSynthesis),Interscience,New York,1966;ザ・プロテインズ(The Proteins),Vol 2,Academic Press Inc.,New York,1976;ペプチド合成,丸善(株),1975;ペプチド合成の基礎と実験、丸善(株),1985;医薬品の開発 続第14巻・ペプチド合成,広川書店,1991〕などに記載されている方法を参考にして実施することができる。
【0028】
なお、本発明のスクリーニング方法で用いられるTaxおよびCBDポリペプチドは、単離もしくは更に精製されたものであってもよいが、それらに限定されない。例えば、単離されたTaxまたはCBDポリペプチドに代えて、TaxまたはCBDポリペプチドを発現した細胞を用いてもよい。TaxまたはCBDポリペプチドを発現した細胞としては、前述するTaxまたはCBDポリペプチドのcDNAを有するベクターを適当な宿主に導入し、培養することによって調製される形質転換細胞を挙げることができる。当該培養形質転換細胞はTaxまたはCBDポリペプチドを細胞表面に発現しているため、そのまま本発明のスクリーニング方法に用いることができる。
【0029】
TaxおよびCBDポリペプチドは、そのままで用いてもよいし、任意の標識物質で標識されたものを用いることもできる。ここで標識物質としては、放射性同位体(例えば、125I、H、14C、35S等)、蛍光物質、化学発光物質、ビオチン、マーカータンパク質、またはペプチドタグなどを例示することができる。マーカータンパク質としては、例えばアルカリフォスファターゼ(Cell 63,185-194 (1990))、抗体のFc領域(Genbank accession number M87789)、またはHRP(Horse radish peroxidase)などの従来公知のマーカータンパク質を挙げることができる。またペプチドタグとしては、例えば、FLAG(Hopp, T. P. et al., BioTechnology(1988)6, 1204-1210)、6または10個のHis(ヒスチジン)残基からなる6×Hisまたは10×His、インフルエンザ凝集素(HA)、ヒトc-mycの断片、VSV-GPの断片、p18HIVの断片、T7−tag、HSV-tag、E-tag、SV40T抗原の断片、lck-tag、α−tubulinの断片、B-tag、Protein Cの断片等の公知のペプチドを使用することができる。
【0030】
被験物質としては、制限はされないが、核酸、ペプチド、タンパク質、有機化合物、または無機化合物などを挙げることができる。また被験物質として、アミノ酸2〜50残基、好ましくは5〜20残基のペプチドライブラリー、コンビナトリアルケミストリーの技術を用いて調製された分子量100〜2000、好ましくは200〜800程度の低分子有機化合物ライブラリーを用いることもできる。
【0031】
スクリーニングは、具体的には、これらの被験物質またはこれらを含む組成物(例えば、細胞抽出物、遺伝子ライブラリーの発現産物等を含む)を、TaxおよびCBDポリペプチドと接触させることにより行うことができる。
【0032】
上記本発明のスクリーニング方法の工程(a)において、被験物質の存在下でTaxとCBDポリペプチドとを接触させる条件は、被験物質の非存在下でTaxとCBDポリペプチドとが結合する条件であれば特に制限されない。
【0033】
また、単離されたTaxまたはCBDポリペプチドに代えて、TaxまたはCBDポリペプチドを発現する細胞を用いる場合も、当該細胞に存在するTaxまたはCBDポリペプチドが、それぞれCBDポリペプチドまたはTaxと接触させた場合に両者が結合する条件であればよい。具体的には、細胞の場合は、通常の生存可能な培養条件下、特にトリス-塩酸緩衝生理食塩水などの生理的条件下を例示することができる。
【0034】
ATLL発症抑制剤の有効成分(候補物質)の選別は、例えば上記条件でTax(Taxを発現した細胞を含む)とCBDポリペプチド(CBDポリペプチドを発現する細胞を含む)とを接触させて、両者の結合を阻害する作用を有する物質を探索することによって実施できる。
【0035】
具体的には、被験物質の存在下でTaxとCBDポリペプチドとを接触させた場合のCBDポリペプチドに対するTaxの結合量が、被験物質の非存在下で上記と同様に接触させた場合に得られるCBDポリペプチドに対するTaxの結合量(対照結合量)よりも低下することを指標として、当該被験物質を候補物質として選別することができる。なお、ここでいう低下には、対照結合量と対比するまでもなく、TaxのCBDポリペプチドに対する結合が完全に阻害されて両者が結合しない場合、すなわちCBDポリペプチドに対するTaxの結合量が実質的にゼロになる場合も包含される。
【0036】
CBDポリペプチドに対するTaxの結合量は、例えばTaxまたはCBDポリペプチドに対する抗体を用いたウエスタンブロット法などの公知の方法により定量することができる。本発明において使用される抗体として、市販の抗体や市販のキットに含まれる抗体を用いることもできるし、公知の手段を用いて得られるモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を用いることもできる。かかる一次抗体又は二次抗体は、公知の方法により標識することができる。標識物質としては、例えば放射性同位元素、酵素、蛍光物質等が挙げられる。これらの標識物質は市販の標識物質を使用することができる。放射性同位元素としては、例えば32P、33P、131I、125I、H、14C、35Sが挙げられる。酵素としては、例えばアルカリフォスファターゼ、ホースラディッシュパーオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ等が挙げられる。蛍光物質としては、例えばフロオロセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミンが挙げられる。
【0037】
TaxやCBDポリペプチドとして前述する標識Taxまたは標識CBDポリペプチドを用いる場合、ならびに一次抗体若しくは二次抗体として上記標識抗体を使用する場合は、使用した標識物質に応じた測定方法(例えば、放射線測定法、蛍光検出法など)により、CDBポリペプチドに結合したTaxの量を定量することもできる。
【0038】
または、98ウェルまたは384ウェルのマイクロタイタープレートなどの担体に、Tax(またはCBDポリペプチド)を固定し、それと結合したCBDポリペプチド(またはTax)の量を、酵素、蛍光色素または放射性同位体で標識した抗体で検出することによっても測定することができる。
【0039】
また、TaxとCBDポリペプチドの結合の検出は、これらの結合に応答して活性化するレポーター遺伝子の発現量の変化によって検出及び/又は測定することができる。このようなレポーター遺伝子としては、ルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、HIS3遺伝子、クロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ(CAT)、グリーンフルオレッセンスプロテイン(GFP)遺伝子等を用いることができる。細胞で発現されるペプチドは他のペプチドとの融合ペプチドであってよい。これらのペプチドと融合に付される他のペプチドとは、本発明のスクリーニング方法で使用されうる限りいかなるペプチドであってよいが、好ましくは転写調節因子である。例えば、DNAに結合してあるレポーター遺伝子の転写を活性化することが知られているヘテロダイマーからなる転写調節因子の各々のサブユニットと、結合を測定するTaxおよびCBDポリペプチドのそれぞれに融合させたDNAを構築し、それらを発現ベクターに含めて細胞に導入する。TaxとCBDポリペプチドとの結合を阻害する化合物が被験物質に含まれていない場合、TaxとCBDポリペプチドがヘテロマーを形成し、そしてそのヘテロマーからなる転写調節因子がDNAに結合してレポーター遺伝子が活性化する。一方、TaxとCBDポリペプチドとの結合を阻害する化合物が被験物質に含まれている場合、TaxとCBDポリペプチドとの結合が阻害され、その結果、転写調節因子のサブユニットがヘテロマーを形成できず、レポーター遺伝子の転写が誘導されない。レポーター遺伝子の発現量の変化を調べることにより、目的の結合阻害作用を有する物質を検出又は測定することができる。このような系においてレポーター遺伝子の発現量の変化を調べる場合、2−ハイブリッド系(Fields, S., and Sternglanz, R., Trends. Genet. (1994), 10, 286-292)あるいは3ハイブリッド系を用いることができる。ハイブリッド系は通常用いられている方法により構築してもよいし、市販のキットを用いてもよい。市販の2ハイブリッド系のキットとしては、「MATCHMARKER Two-Hybrid System」、「Mammalian MATCHMARKER Two-Hybrid Assay Kit」,「MATCHMARKER One-Hybrid System」(いずれもクロンテック社製)、「HybriZAP Two-Hybrid Vector System」(ストラタジーン社製)を挙げることができる。
【0040】
酵母2−ハイブリッド法においては、TaxまたはCBDポリペプチドどちらか一方をFLAF DNA結合領域等と融合させた融合蛋白質を発現するベクター、そして他方を転写活性化領域と融合させたベクターを構築し、これらを、レポーター遺伝子をコードするベクターと共に酵母細胞に導入して、被験物質を含む試料の存在下でレポーター活性を指標に化合物のアッセイを行う。TaxとCBDポリペプチドとの結合によりレポーター遺伝子の発現が誘導されるが、被験物質により両者の蛋白質の結合が阻害されると、レポーター遺伝子の発現が抑制される。レポーター遺伝子としては、例えば、HIS3遺伝子の他、Ade2遺伝子、LacZ遺伝子、CAT遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、PAI-1(Plasminogen activator inhibitor type-1)遺伝子等が挙げられるが、これらに制限されない。レポーター遺伝子として、細胞毒性のある遺伝子を発現させることもできる。
【0041】
そのほか、TaxとCBDポリペプチドとの結合は、例えば、共免疫沈降法、免疫沈降−免疫ブロット法、カラムを用いたプルダウン法、質量分析計を用いた方法、蛍光標識を用いたイメージング、またコンビナトリアルケミストリーを利用したハイスループットスクリーニング、またはそれらの組み合わせなどにより行うことができる。また、結合したタンパク質を測定する手段として、表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーを使用することもできる。
【0042】
上記のスクリーニング方法によって選別された候補物質は、さらにATLLを発症する可能性を有する病態モデル非ヒト動物を用いてスクリーニングにかけることもできる。斯くして選別された候補物質は、さらにATLLを発症する可能性を有する病態モデル非ヒト動物を用いた薬効試験、または非ヒト動物やヒトを用いた安全性試験、さらにATLLを発症する可能性のあるヒトへの臨床試験に供してもよく、これらの試験を実施することによって、より実用的な実効性の高いATLL発症抑制剤の有効成分を選別取得することができる。
【0043】
斯くして選別された物質は、必要に応じて構造解析を行った後、その物質の種類に応じて、化学的合成、生物学的合成(発酵を含む)、または遺伝子学的操作によって、工業的に製造することができ、ATLL発症遅延または予防を目的・効果とする医薬組成物の調製に使用することができる。
【0044】
(II)ATLL発症抑制剤の有効成分をスクリーニングするための試薬キット
本発明は、また、上記スクリーニングのための試薬キットである。
【0045】
当該試薬キットには、少なくとも(i)Cdc37のアミノ酸配列の少なくとも181位から200位を含むポリペプチド(CBDポリペプチド)、(ii)Tax、および(iii)上記CBDポリペプチドとTaxとの結合を検出する試薬が含まれる。なお、結合を検出する試薬は、TaxとCBDポリペプチドとの結合の検出に使用する方法、例えばウエスタンブロッティング法、共免疫沈降法、免疫沈降−免疫ブロット法、カラムを用いたプルダウン法、質量分析計を用いた方法、蛍光標識を用いたイメージング、またコンビナトリアルケミストリーを利用したハイスループットスクリーニング、2−ハイブリッド法などに応じて適宜選択することができ、例えば、抗Tax抗体、CsdのCBD領域を認識して結合する抗体、ならびに上記方法に使用される各種の試薬などが含まれ、検出方法に応じて適宜組み合わせて用いることができる。
【0046】
(III)ATLL発症抑制剤
また、本発明は、TaxとCdc37のCBD領域との結合を阻害する作用を有する物質を有効成分とするATLL発症抑制剤を提供する。当該はATLL発症抑制剤は、HTLV-1感染患者においてATLLの発症を遅延させるか、ATLLの発症を予防することを特徴とする医薬組成物である。
【0047】
TaxとCdc37のCBD領域との結合を阻害する作用を有する物質としては、少なくともCdc37のCBD領域を認識して結合する抗体、またはTaxに対する抗体を挙げることができる。
【0048】
これらの抗体は、TaxとCBDポリペプチドとの結合を阻害するため、Taxの分解が促進され、その結果、NF-κBの亢進が抑制され、ATLLの誘導が阻止される。
【0049】
Taxに対する抗体、ならびにCBDポリペプチドに対する抗体は、公知の方法により作成することができる。抗体の形態には特に制限はなく、ポリクローナル抗体の他、モノクローナル抗体も含まれる。また、ウサギなどの免疫動物に抗原蛋白質を免疫して得た抗血清、すべてのクラスのポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、さらにヒト抗体や遺伝子組み換えによるヒト型化抗体も含まれる。
【0050】
抗体取得の感作抗原として使用される蛋白質は、その由来となる動物種に制限されないが哺乳動物、例えばヒト、マウス又はラット由来の蛋白質が好ましく、特にヒト由来の蛋白質が好ましい。
【0051】
Tax又はCBDポリペプチドをコードする遺伝子を公知の発現ベクター系に挿入し、該ベクターで宿主細胞を形質転換させ、該宿主細胞内外から目的のポリペプチドを公知の方法で得て、これらを感作抗原として用いればよい。また、目的のポリペプチドを発現する細胞又はその溶解物、あるいは化学的に合成したTaxまたはCBDポリペプチドを感作抗原として使用してもよい。なお、短いペプチドは、キーホールリンペットヘモシアニン、ウシ血清アルブミン、卵白アルブミンなどのキャリア蛋白質と適宜結合させて抗原とすることができる。
【0052】
感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されるものではないが、モノクローナル抗体の作製においては細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的には、鳥類、げっ歯目、ウサギ目、霊長目の動物が使用される。鳥類の動物としてはニワトリが使用される。げっ歯目の動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター等が使用される。ウサギ目の動物としては、例えば、ウサギが使用される。霊長目の動物としては、例えば、サルが使用される。サルとしては、狭鼻下目のサル(旧世界ザル)、例えば、カニクイザル、アカゲザル、マントヒヒ、チンパンジー等が使用される。
【0053】
感作抗原を動物に免疫するには、公知の方法にしたがって行われる。一般的方法としては、感作抗原を哺乳動物の腹腔内又は皮下に注射する。具体的には、感作抗原をPBS(Phosphate-Buffered Saline)や生理食塩水等で適当量に希釈、懸濁したものに対し、所望により通常のアジュバント、例えば、フロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化後、哺乳動物に投与する。さらに、その後、フロイント不完全アジュバントに適量混合した感作抗原を、4〜21日毎に数回投与することが好ましい。また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することができる。このように免疫し、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを常法により確認する。
【0054】
ここで、ある蛋白質に対するポリクローナル抗体を得るには、血清中の所望の抗体レベルが上昇したことを確認した後、抗原を感作した哺乳動物の血液を取り出す。この血液から公知の方法により血清を分離する。ポリクローナル抗体としては、ポリクローナル抗体を含む血清を使用してもよいし、必要に応じこの血清からポリクローナル抗体を含む画分をさらに単離して、これを使用してもよい。例えば、抗原に用いた蛋白質をカップリングさせたアフィニティーカラムを用いて、抗原蛋白質のみを認識する画分を得て、さらにこの画分をプロテインAあるいはプロテインGカラムを利用して精製することにより、免疫グロブリンGあるいはMを調製することができる。モノクローナル抗体を得るには、上記抗原を感作した鳥類、哺乳動物の血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後に、鳥類、哺乳動物から免疫細胞を取り出し、細胞融合に付せばよい。この際、細胞融合に使用される好ましい免疫細胞として、特に脾細胞が挙げられる。前記免疫細胞と融合される他方の親細胞としては、好ましくは鳥類、哺乳動物のミエローマ細胞、より好ましくは、薬剤による融合細胞選別のための特性を獲得したミエローマ細胞が挙げられる。前記免疫細胞とミエローマ細胞の細胞融合は基本的には公知の方法、例えば、ミルステインらの方法(Galfre, G. and Milstein,C, Methods Enzymol.(1981)73, 3-46)等に準じて行うことができる。細胞融合により得られたハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えば、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。当該HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、通常、数日〜数週間継続して行う。次いで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよびクローニングを行う。
【0055】
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球、例えばEBウィルスに感染したヒトリンパ球をin vitroで蛋白質、蛋白質発現細胞又はその溶解物で感作し、感作リンパ球をヒト由来の永久分裂能を有するミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、蛋白質への結合活性を有する所望のヒト抗体を産生するハイブリドーマを得ることもできる(特開昭63−17688号公報)。次いで、得られたハイブリドーマをマウス腹腔内に移植し、同マウスより腹水を回収し、得られたモノクローナル抗体を、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、抗原とした蛋白質をカップリングしたアフィニティーカラムなどにより精製することで調製することが可能である。なお、本発明で対象とする抗体は、ヒト抗体またはヒト型抗体であってもよい。例えば、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物に抗原となる蛋白質、蛋白質発現細胞又はその溶解物を免疫して抗体産生細胞を取得し、これをミエローマ細胞と融合させたハイブリドーマを用いて蛋白質に対するヒト抗体を取得することができる(国際公開番号WO92-03918、WO93-2227、WO94-02602、WO94-25585、WO96-33735およびWO96-34096など参照)。
【0056】
ハイブリドーマを用いて抗体を産生する以外に、抗体を産生する感作リンパ球等の免疫細胞を癌遺伝子により不死化させた細胞を用いてもよい。このように得られたモノクローナル抗体はまた、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型抗体として得ることができる。組換え型抗体は、それをコードするDNAをハイブリドーマ又は抗体を産生する感作リンパ球等の免疫細胞からクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させる。
【0057】
また、抗体は公知の技術を使用して非ヒト抗体由来の可変領域とヒト抗体由来の定常領域からなるキメラ抗体又は非ヒト抗体由来のCDR(相補性決定領域)とヒト抗体由来のFR(フレームワーク領域)及び定常領域からなるヒト型化抗体として得ることができる。前記のように得られた抗体は、均一にまで精製することができる。抗体の分離、精製は通常の蛋白質で使用されている分離、精製方法を使用すればよい。例えば、アフィニティークロマトグラフィー等のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動等を適宜選択、組み合わせれば、抗体を分離、精製することができるが、これらに限定されるものではない。上記で得られた抗体の濃度測定は吸光度の測定又は酵素結合免疫吸着検定法等により行うことができる。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。
【0058】
アフィニティークロマトグラフィー以外のクロマトグラフィーとしては、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる。これらのクロマトグラフィーはHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。
【0059】
抗体の抗原結合活性を測定する方法としては、例えば、吸光度の測定、ELISA、EIA(酵素免疫測定法)、RIA(放射免疫測定法)あるいは蛍光抗体法を用いることができる。ELISAを用いる場合、抗体を固相化したプレートにHK33蛋白質を添加し、次いで目的の抗体を含む試料、例えば、抗体産生細胞の培養上清や精製抗体を加える。酵素、例えば、アルカリフォスファターゼ等で標識した抗体を認識する二次抗体を添加し、プレートをインキュベーションし、次いで洗浄した後、p−ニトロフェニル燐酸などの酵素基質を加えて吸光度を測定することで抗原結合活性を評価することができる。抗体の活性評価には、BIAcore(ファルマシア製)を使用することもできる。
【0060】
上記抗体など、TaxとCBDポリペプチドの結合を阻害する作用を有する物質は、そのものを直接使用する以外に、公知の製剤学的方法により製剤化した医薬組成物として調製することができる。
【0061】
例えば、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤として経口的に、あるいは水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することが考えられる。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な容量が得られるようにするものである。
【0062】
錠剤、カプセル剤に混和することができる添加剤としては、例えばゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸のような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖又はサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油又はチェリーのような香味剤が用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記の材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
【0063】
注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO-50と併用してもよい。
【0064】
油性液としてはゴマ油、大豆油が挙げられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。
【0065】
患者への投与は、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射などのほか、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、または経口的に当業者に公知の方法により行いうる。投与量は、患者の体重や年齢、投与方法などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。また、該化合物がDNAによりコードされうるものであれば、該DNAを遺伝子治療用ベクターに組込み、遺伝子治療を行うことも考えられる。投与量、投与方法は、患者の体重や年齢、症状などにより変動するが、当業者であれば適宜選択することが可能である。
【0066】
本発明のATLL発症抑制剤の投与量は、症状により差異はあるが、経口投与の場合、一般的に、成人(体重60kgとして)においては、1日あたり約0.1から100mgの範囲から適宜選択することができる。
非経口的に投与する場合は、その1回投与量は投与対象、症状、投与方法によっても異なるが、例えば注射剤の形では通常成人(体重60kgとして)においては、1日あたり約0.01から30mg程度を静脈注射により投与するのが好都合であると考えられる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明の内容を以下の実験例を用いて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記に記載する処方の単位は特に言及しない限り、「%」は「重量%」を意味するものとする。
【0068】
また、以下の実験例で使用する主な材料およびその調製方法、ならびに実験操作は下記の通りである。
(1)材料およびその調製方法
(1-1)細胞の調製
ヒト胎児腎由来細胞HEK293 (以後、「293細胞」という)は、15% FBS、2mM L-グルタミン、Penicillin-Streptomycin(PC/SM)添加Dulbecco’s Modified Eagle Medium (DMEM、GIBCO)で培養(37℃、5%CO2)維持した。
【0069】
これを用いて、トランスフェクション実験用細胞は、次のようにして調整した。
(a)ほぼコンフルエントに293細胞が増殖した継代培養フラスコからDMEM培地を吸引除去し、PBS 5mLで1回洗浄する。
(b)トリプシンおよび1mM EDTAを含有するPBS 3mLにて、フラスコ底部に付着している293細胞を浮遊化させ、ピペットで懸濁させた後、15%FBS、L-グルタミン、PC/SM添加DMEMを20mL加え、また細胞を懸濁する。
(c)12ウェルのプレートの各ウェルに、0.6mLずつ細胞懸濁培養液を移し(5x104/well)、60〜80%コンフルエントになるまで培養(約一晩)したプレートを遺伝子導入実験 (トランスフェクション)に使用する。
【0070】
(1-2)プラスミドの調製
(a) NF-κB-luc
NF-κB結合配列を有し、NF-κB依存的にホタルルシフェラーゼの転写・翻訳を誘導するベクター NF-κB-luc(Dr. M. Lienhard Schmitz. Department of Immunochemistry, German Cancer Research Center, Im Neuenheimer Feld 280, 69120 Heidelberg, Germany.より入手)をNF-κB活性化を測定するためのリポータープラスミドとして使用した。
【0071】
(b) HTLV1-LTR-luc
HTLV-1のLong-Terminal-Repeat(LTR)結合配列を有し、Tax依存的にホタルルシフェラーゼの転写・翻訳を誘導するベクター HTLV1-LTR-luc(非特許文献7)をHTLV-1-LTR活性化を測定するためのリポータープラスミドとして使用した。
【0072】
(c) RSV-βgal
ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター依存的にβガラクトシダーゼを発現するRSV-βgal(Dr. Kuan Teh Jeang, Molecular Virology Section, Laboratory of Molecular Microbiology, NIAID, the National Institutes of Health, Bethesda, Maryland 20892, USA.より入手)をトランスフェクションモニターとして、それぞれ使用した。
【0073】
またTax投与実験系においては、HTLV-1 LTR依存的にTaxタンパク質を発現するベクターpLTR-Tax(非特許文献7)またはサイトメガロウイルス(CMV)依存的にTaxを発現するベクターpCMV-Taxを用いた。
【0074】
(2)実験操作
(2-1)ルシフェラーゼ及びβ-ガラクトシダーゼアッセイ
ルシフェラーゼアッセイ用基質(Luciferase Assay Substrate (Promega))またはβ-ガラクトシダーゼアッセイ用基質(Galacto-Star(登録商標):Reaction Buffer Diluent(Applied Biosystems))を用いて、発光強度を測定するルミノメーター(GloMax(商標)96 Microplate Luminometer、Promega)で解析することによって行った。
【0075】
(2-2)免疫ブロット法によるTax発現量またはHsp90発現量の定量
Tax発現ベクター導入によるTax蛋白質またはHsp90発現ベクター導入によるHsp90蛋白質の発現量の定量は、下記のように行った。まず、細胞溶解液の蛋白質量を定量化した後(プロテインアッセイキット, BioRad, 500-0001JA)、10μg量の蛋白質を各レーンに入れ、SDS-ポリアクリルアミド電気泳動法(SDS-PAGE)で分離する。次いで、セミドライ法(Trans-Blot SD, BioRad)で分離した蛋白質をPVDFメンブレン(Immobilon-P, Millipore)に転写し、これを抗Taxラットモノクローナル抗体(琉球大学医学部免疫学講座田中勇悦氏より分与)、または抗Hsp90ラットモノクローナル抗体(Stressgen, SPA-835)を用いてそれぞれの蛋白質に結合させた後、ワサビペルオキシダーゼ結合2次抗体と化学発光試薬(ECL Western Blotting Detection Reagents, GE Healthcare)を用いてX線フィルムに感光し、Adobe Photoshopで検出して定量化する。
【0076】
実験例1 Cdc37コシャペロンによるTax分解誘導
Hsp90は細胞内に最も多量に存在するタンパク質種の一つで、実に様々なタンパク質分子(Client)群と相互作用し、それらClient群の正しい立体構造形成と機能発現に寄与することが知られている(参考文献5)。Hsp90は様々な補助因子(コシャペロンと呼ぶ)と協調し、シャペロンとしての機能を発揮するが、その内でも特にCdc37は、細胞内シグナル伝達に関わる多くのリン酸化酵素群と結合すること、また腫瘍化した細胞で発現量の増加が頻繁に見られるためその活性が注目されている(参考文献6および7)。Cdc37は、通常Kinase Biding Domain(KBD)と呼ばれるアミノ酸領域(40-110残基)で、Clientであるリン酸化酵素(Kinase)と相互作用すると考えられている(参考文献6)(図3A)。また、最近では、KBD領域以外に、Client Binding Domain(CBD)と呼ばれるアミノ酸領域(181-200残基)の存在も指摘されている(参考文献8)。
【0077】
本実験では、TaxとHsp90/Cdc37複合体との分子間相互作用を、Hsp90/Cdc37複合体、ならびにHsp90とCdc37欠損変異体との複合体を用いて調べた。
【0078】
(1)実験方法
(1-1)Hsp90及びCdc37発現ベクターの構築
ヒトHsp90cDNA(筑波大学永田恭介教授より分与)またはCdc37cDNA(参考文献8)を鋳型にしてPCR増幅を行い、得られた各増幅産物を、pcDNA3-FlagのEcoRI-SalI部位(Hsp90)とBamHI-EcoRI部位(Cdc37)にクローン化した(pcDNA3-F-Cdc37)。なお、Cdc37については、それぞれ異なるアミノ酸領域をコードする6種類のDNA断片を調製し〔Cdc37(1-378)、Cdc37(1-278) 、Cdc37(1-200)、Cdc37(1-180)、Cdc37(181-378)、Cdc37(201-378)〕、上記と同様にしてpcDNA3-FlagのEcoRI-SalI部位(Hsp90)とBamHI-EcoRI部位(Cdc37)にクローン化した(pcDNA3-F-Cdc37(1-378)、pcDNA3-F-Cdc37(1-278)、pcDNA3-F-Cdc37(1-200)、pcDNA3-F-Cdc37(1-180)、pcDNA3-F-Cdc37(181-378)、pcDNA3-F-Cdc37(201-378))。
【0079】
次いで、NF-κB-LucとRSV-βGalを各0.1μgずつと、pcDNA3 1μg(図4A(以下、同じ)、レーン1)、pLTR-Tax 0.5μg + pcDNA3 (レーン2)、pLTR-Tax 0.5μg + pcDNA3-F-Cdc37(1-378)(レーン3)、pLTR-Tax 0.5μg + pcDNA3-F-Cdc37(1-200)(レーン4)、pLTR-Tax 0.5μg + pcDNA3-F-Cdc37(1-180)(レーン5)、pLTR-Tax 0.5μg + pcDNA3-F-Cdc37(181-378)(レーン6)、pLTR-Tax 0.5μg + pcDNA3-F-Cdc37(201-378) (レーン7)のそれぞれを、実験例3の方法に準じてトランスフェクトし、細胞を溶解後、ルシフェラーゼ活性、ならびにTaxとCdc37の発現を、それぞれ抗Taxラットモノクローナル抗体、および抗Flag抗体(Sigma, F1804)を用いて検出した。結果を図4Aに示す。
【0080】
また、control pcDNA3 1μg(図4B中(以下、同じ)、レーン1参照)、 pLTR-Tax 0.5μg (レーン2)、pLTR-Tax 0.5μg+pcDNA3-F-Cdc37(1-200) 0.125μg(レーン3)、pLTR-Tax 0.5μg+pcDNA3-F-Cdc37(1-200) 0.25μg(レーン4)、pLTR-Tax 0.5μg+pcDNA3-F-Cdc37(1-200) 0.5μg(レーン5)、pLTR-Tax 0.5μg+pcDNA3-F-Cdc37(1-180) 0.125μg(レーン6)、pLTR-Tax 0.5μg+pcDNA3-F-Cdc37(1-180) 0.25μg(レーン7)、pLTR-Tax 0.5μg+pcDNA3-F-Cdc37(1-180) 0.5μg(レーン8)、pLTR-Tax 0.5μg+pcDNA3-F-Cdc37(181-378) 0.125μg(レーン9)、pLTR-Tax 0.5μg+pcDNA3-F-Cdc37(181-378) 0.25μg(レーン10)およびpLTR-Tax 0.5μg+pcDNA3-F-Cdc37(181-378) 0.5μg(レーン11)を、それぞれトランスフェクトし、上記と同様にして、Tax、Cdc37およびTubulinの発現を、抗Taxラットモノクローナル抗体、抗Flag抗体、および抗α-Tubulinマウスモノクローナル抗体にて検出した。結果を図4Bに示す。
【0081】
(2)実験結果
図4Aは、Cdc37欠失変異体によるTax誘導性NF-κB活性の抑制を、ルシフェラーゼ活性(図4A、上段パネル)とTaxの発現量(図7A、中段パネル)から検証した結果を示す。
【0082】
図4Aに示すように、完全長のCdc37(Cdc37(1-378))をTaxと共発現させると(レーン3参照)、Taxのみを発現させた場合(レーン2)に比べ、ルシフェラーゼ活性が17%上昇した。ところが、各機能領域を欠失させた変異体(Cdc37欠損変異体(F-Cdc37 deletion mutant):Cdc37(1-200)、Cdc37(1-180)、Cdc37(181-378)、Cdc37(201-378))は、すべて、Taxのみを発現させた場合(レーン2)に比べてルシフェラーゼ活性が低下していた。変異体Cdc37(1-200)(レーン4)とCdc37(181-378)(レーン6)は、いずれもルシフェラーゼ活性の著しい低下(33%、16%)(上段パネル)と、Taxの著しい分解(中段パネル)が認められた。
【0083】
図4Bに示すように、 Cdc37欠損変異体によるTax分解活性を、Taxのみを発現させた場合(レーン2);Tax と1/4、1/2、または等量のCdc37(1-200)とを共発現させた場合(レーン3〜5);Tax と1/4、1/2、または等量のCdc37(1-180)とを共発現させた場合 (レーン6〜8);Tax と1/4、1/2、または等量のCdc37(181-378)とを共発現させた場合 (レーン9〜11)とを比較すると、Cdc37(1-200)とCdc37(181-378)とTax を共発現させた場合のみ(レーン3〜5、9〜11)、Taxの分解がCdc37欠損変異体の投与量依存的に観察された(上段パネル)。なお、Cdc37欠損変異体それぞれの量も投与量依存的に上昇すること(パネル中段)、およびTubulinの発現量に変化はないこと(パネル下段)が確認された。
【0084】
以上の実験から、Cdc37欠損変異体、特にCdc37の181-200のアミノ酸領域(CBD領域)を保持したCdc37欠損変異体によりTaxの分解が促進され、NF-κB活性も抑制を受けることが判明した。このことはCBD領域を有するCdc37の欠損変異体は内在性のCdc37/Hsp90複合体のTaxへの結合を拮抗的に阻害し、Taxが細胞内で安定な構造を維持できなくなっていることを意味する。
【0085】
実験例2 TaxとCdc37-CBDとの結合
(1)実験方法
Cdc37のどの領域にTaxが結合するのかを免疫共沈降法で検証した。
【0086】
実験例1の結果からCdc37欠損変異体との共発現によってTaxの分解が誘導されることが明らかになったので、TaxおよびCdc37欠損変異体をそれぞれ単独に発現させ、その細胞溶解液を等量ずつ混和して免疫沈降法を行った(図5のパネル上段)。
【0087】
なお、TaxおよびCdc37欠損変異体をそれぞれ発現した細胞溶解液は、10μgずつをSDS-PAGEで泳動した後、Taxは抗Taxラットモノクローナル抗体を用いて(図5のパネル中段)、またHsp90及びCdc37欠損変異体は抗Flag抗体を用いて検出した(図5:パネル下段)。
【0088】
免疫沈降法は、具体的には、pcDNA3 0.5μg(図5(以下同じ):パネル中段レーン1、パネル下段レーン1,2)、pLTR-Tax 0.5 μg(パネル中段レーン2〜9)、pcDAN3-F-Hsp90 0.5μg(パネル下段レーン3)、pcDAN3-F-Cdc37(1-378) 0.5μg(パネル下段レーン4)、pcDAN3-F-Cdc37(1-278) 0.5μg(パネル下段レーン5)、pcDAN3-F-Cdc37(1-200) 0.5μg(パネル下段レーン6)、pcDAN3-F-Cdc37(1-180) 0.5μg(パネル下段レーン7)、pcDAN3-F-Cdc37(181-378) 0.5μg(パネル下段レーン8)、pcDAN3-F-Cdc37(201-378) 0.5μg(パネル下段レーン9)をそれぞれ別々に293細胞にトランスフェクトし、40時間後にCo-IPバッファにて細胞を溶解し、同じレーン同士の溶解液250μgを混和し、後述する実験例4と同様の手技で、抗Flagウサギポリクローナル抗体(Sigma、F7425)2μgとProteinG-agarose 30μlを加えて免役共沈降反応することで実施した。Co-IPバッファにて免疫沈降複合体を6回洗浄後SDS-PAGEで泳動し、抗Taxラットモノクローナル抗体でTaxを検出した(図5のパネル上段)。
【0089】
(2)実験結果
図5に示すように、TaxはHsp90(レーン3)と全長のCdc37(レーン4)と結合した。Cdc37欠損変異体のうち、Taxと結合しなかったのはCdc37の181-200番目のアミノ酸領域(CBD領域)を欠失したCdc37欠損変異体、すなわちCdc37 (1-180)(レーン7)とCdc37(201-378)(レーン9)だった(図5の上段パネル)。これらのことより、TaxとCdc37との結合には、Cdc37のCBD領域(181-200残基)の20アミノ酸残基が必須であることが判明した。
【0090】
このことは、TaxがHsp90/ Cdc37複合体と結合して安定化するためには、Cdc37のCBD領域との結合が重要であること、言い換えればCdc37のCBD領域との結合がTaxの細胞内での安定化に重要であることを意味する(図3B参照)。すなわち、Tax とCdc37のCBD領域との結合を阻害することで、Taxの分解が誘導され、NF-κB活性化が抑制されること、斯くしてATLLの発症が抑制できるものと考えられる。
【0091】
実験例3 17-DMAGによるTax誘導性転写活性化(NF-κB、HTLV-1-LTR)の抑制
(1)実験方法
(1-1)トランスフェクション
Tax投与実験系では、トランスフェクション実験用細胞に、NF-κB-luc(0.1μg)、pRSV-βgal(0.1μg)、ベクターpLTR-TaxまたはpCMV-Tax (0.5μg)を、またTNF-α投与実験系では、トランスフェクション実験用細胞に、NF-κB-luc(0.1μg)、pRSV-βgal(0.1μg)、およびpcDNA3(Invitrogen) (0.5μg)を、それぞれ導入(トランスフェクション)した。
【0092】
具体的には、まず、Fugene-HD(登録商標, Roche)2.1μL (プラスミド:Fugene-HD=1:3)とDMEM 100μLとを混合し、15分間室温で静置した。これを各プラスミドDNA溶液と混合し15分間室温で静置した後、最後に5% FBS含有DMEM 500μLと混合して15分間室温で静置した。調製したDNAトランスフェクション混合液を600μL、培地を除去した12ウェル細胞培養用プレートのトランスフェクション実験用細胞(60〜80%コンフルエント)上に、細胞が剥離しないように注意しながら静かに流し入れ、トランスフェクション操作を行なった。
【0093】
翌朝これに5% FBS含有DMEMを0.5mL加え、トランスフェクション操作から24時間後に17-DMAG(0.1, 0.5, 2.5, 5μM)またはコントロール用にPBSを加えた。
【0094】
Tax投与実験系では、それから24時間後(トランスフェクション操作から48時間後)に細胞をPBS 1mLで2度洗浄し、1mM EDTA含有PBS 0.8mLで細胞をプレート底面から遊離してピペットで懸濁し、1.5mLマイクロチューブに回収した。
【0095】
また、TNF-α投与実験系では、17-DMAGを添加してから16時間後にDMEM 100μLに溶解したTNF-α(ProSpec)を、最終濃度が10ng/mLになるように加え、次いで8時間後(トランスフェクション操作から48時間後)に、細胞をPBS 1mLで2度洗浄し、1mM EDTA含有PBS 0.8mLで細胞をプレート底面から遊離してピペットで懸濁し、1.5mLマイクロチューブに回収した。
【0096】
次いで細胞懸濁液の入ったマイクロチューブを冷却遠心機(Centrifuge 5415R, eppendorf)にて遠心分離(6000rpm、2min、20℃)した後、上清の1mM EDTA含有PBS 0.8mLを吸引除去し、氷上でマイクロチューブを冷却した。チューブ内の細胞を、Lysis Buffer (Applied Biosystems) 100μlで溶解した後、攪拌(vortex、15秒)し、遠心操作(13200rpm、5min、4℃)で不溶沈殿物をチューブ底面に分離した後、上清(細胞溶解液)を取得した。
【0097】
(1-2)ルシフェラーゼ及びβ-ガラクトシダーゼアッセイ
上記上清を96ウェルプレートの各ウェルに細胞溶解液を5μLずつ分注し、直ちにルシフェラーゼアッセイ及びβ-ガラクトシダーゼアッセイに供した。
【0098】
(1-3)NF-κB及びHTLV-1-LTR転写活性の定量解析
NF-κBおよびHTLV-1LTR転写活性(%)は、最低3回の同一実験から得られたルシフェラーゼアッセイ測定値をβ-ガラクトシダーゼアッセイ測定値で割り標準化した後、平均値±SDを求めた。トランスフェクション操作から24時間後にコントロール用にPBSを加えた細胞のルシフェラーゼ値及びβ-ガラクトシダーゼ値を常に基準値(100%)とし、それに対する相対値から各細胞のNF-κB活性を算出した。
【0099】
(1-4)免疫ブロット法によるTax発現量の定量的解析
Tax発現ベクター導入によるTax蛋白質の発現量の定量化は、細胞溶解液の蛋白質量を定量化後(プロテインアッセイキット, BioRad, 500-0001JA)、10μg量の蛋白質を各レーンに入れSDS-ポリアクリルアミド電気泳動法(SDS-PAGE)で分離後、セミドライ法(Trans-Blot SD, BioRad)で蛋白質をPVDFメンブレン(Immobilon-P, Millipore)に転写し、抗Taxラットモノクローナル抗体(琉球大学医学部免疫学講座田中勇悦氏より分与)と抗Hsp90ラットモノクローナル抗体(Stressgen, SPA-835)、抗α-Tubulinマウスモノクローナル抗体(SIGMA, T-5168)を用いてそれぞれの蛋白質に結合後、ワサビペルオキシダーゼ結合2次抗体と化学発光試薬(ECL Western Blotting Detection Reagents, GE Healthcare)を用いてX線フィルムに感光後、Adobe Photoshopで定量化した。
【0100】
(2)実験結果
結果を図6に示す。具体的には、図6Aは、293細胞に於いてpLTR-Taxで誘導したNF-κB転写亢進(図6A中、レーン2)に対する17-DMAGの抑制効果(図6A中、レーン3〜6参照)、図6Cは、293細胞に於いてpLTR-Taxで誘導したHTLV1-LTR転写亢進(図6C中、レーン2)に対する17-DMAGの抑制効果(図6C中、レーン4〜6参照)、および、図6Dは,293細胞に於いてpCMV-Taxで誘導したHTLV1-LTR転写亢進(図6D中、レーン2)に対する17-DMAGの抑制効果(図6D中、レーン4〜6参照)を示す。
【0101】
図6Aからわかるように、Taxによって過剰活性化されたNF-κBは、2.5μMの17-DMAGを投与することによって約27%にまで抑制された(図6A、レーン5)。このことから、17-DMAGにはTaxによって過剰亢進したNF-κB活性を抑制する作用があり、かかる作用に基づいて悪性腫瘍形成が抑制されるものと考えられる。また、Taxによって亢進したHTLV1-LTR転写活性はTaxの発現を誘導するプロモーターの種類にかかわらず17-DMAG投与によって抑制された(図C,D)。また図6Bからわかるように、Taxの蛋白質発現量は2.5μMの17-DMAG投与よって10分の1以下まで減弱していた。
【0102】
ところで、HTLV1-LTR転写亢進にはNF-κB活性の関与は全くなく、またTaxが機能する場所も、NF-κB活性化は細胞質(IKKの構成蛋白質NEMOとの結合、非特許文献7)であるのに対して、HTLV1-LTR転写活性化は核内(転写因子CBP/p300との結合、非特許文献5,6)であるように、互いに相違し、また機能相互する蛋白質群も全く相違している。これらのことから、17-DMAGによるTax誘導性NF-κB亢進の抑制は、既知のIKK複合体形成阻害(参考文献4)とは異なり、Tax分子そのものの存在量を低減させることによって起こることが判明した。つまりTax分子の細胞内安定性はHsp90/Cdc37複合体に依存することを意味する。
【0103】
実験例4 17-DMAGによるATL患者由来C8166細胞内のTax分解誘導
(1)実験方法
RPMI1640培地+15%牛胎児血清で維持しているATL患者由来培養株C8166を4x106個ずつ2mlの同培地に懸濁後6wellに移し、コントロール用にPBS または17-DMAG(0.1, 0.5, 2.5, 5μM)を加えた。24時間後細胞を回収しPBSで2回洗浄後、Co-IPバッファ(0.5%NP40, 50mMHEPES(pH7.3), 150mM NaCL, 1mM EDTA, 10mM β-glycerophosphate, 10mM NaF, 10% glycerol, Roche protease inhibitor tablet)500μlで溶解した。細胞溶解液を超音波処理し、核などのコンパートメントを破壊した後、250μgの蛋白質を分収し、Co-IPバッファを加えて最終容量を500μlに調整後、抗Hsp90マウスモノクローナル抗体(Stressgen, SPA-830)を2μgとproteinG-agarose (Calbiochem)30μlを加え、冷蔵庫内(4度)でATTO Mini Desk Rotor BC710を用い毎分15回転で2時間免疫沈降反応を行った。次いで得られた同免疫沈降複合体を6回500μlのCo-IPバッファで洗浄した後、SDS-PAGEで分離・PVDFメンブレンに転写し、抗Hsp90ラットモノクローナル抗体(Stressgen, SPA-835)または抗IKKβウサギポリクローナル抗体(Cell Signaling Technology, 2684)で検出した。Taxについてはそれぞれの細胞溶解液10μgに対し抗Taxラットモノクローナル抗体にて検出した。その結果を図7Aに示す。
【0104】
また、上記と同様の方法にて調整したC8166細胞懸濁液に、PBSまたは2.5μMの17-DMAG添加し、12,24,36および48時間後に細胞を回収し、上述の抗Taxラットモノクローナル抗体、および抗Hsp90マウスモノクローナル抗体、ならびに抗α-Tubulinマウスモノクローナル抗体(SIGMA,T-5168)にて発現量を検出した。その結果を図7Bに示す。
【0105】
(2)実験結果
図7Aのパネル中段の左端レーンで示すように、IKK複合体(図2参照)とHsp90とは互いに複合体を形成する。ところが、これに17-DMAGを添加すると、濃度依存的にTaxの分解が進み(図7Aのパネル上段参照)、それに伴ってIKK複合体とHsp90との複合体の形成量も比例的に減少していく(図7Aのパネル中段参照)。一方、図7Aのパネル下段に示すように、Hsp90の発現量そのものは17-DMAG添加によって影響を受けない。
【0106】
図6および図7Aに示すように、17-DMAGは2.5μMの濃度でTaxに対して十分な抑制効果がある。このことから、同濃度の17-DMAGによるTaxの安定性に対する影響を経時的に測定した結果を示した図が、図7Bである。図7Bに示すように、17-DMAG添加後12時間から既にTaxの分解は始まり、48時間後には完全に消失した。
【0107】
以上の実験例4の結果は、実験例3で考察したように、17-DMAGによるTax機能の抑制機序が、Taxの分解促進によるものであることを強く示唆している。
【0108】
実験例5 17-DMAGによるATL細胞の増殖抑制及びアポトーシス誘導
(1)実験方法
発明者である緒方が患者より採集した血液2サンプル(以下、各サンプルを「ATL01」および「ATL02」と称する)、健常成人男性2名より採集した血液サンプル(以下、各サンプルを「PBL1」および「PCL2」と称する)、ならびにC8166細胞株の計5種類を、実験例2と同様の方法を用いてRPMI1640培地+15%牛胎児血清で維持し、4x106個ずつ2mlの同培地に懸濁後6 well dishに移した。なお、C8166は、ATLL患者から確立した細胞株HuT102と臍帯血を共培養して得た細胞株である(Salahuddin, S.Z., Markham, P.D., Wong-Staal, F., Franchini, G., Kalyanaraman, V.S., Gallo, R.C. (1983) Restricted expression of human T-cell leukemia-lymphoma virus (HTLV) in transformed human umbilical cord blood lymphocytes. Virology 129:51-64.)。
【0109】
これにPBS(コントロール)または2.5μM の17-DMAGをそれぞれ加え、24時間ごとに1x10個の細胞を3回96 well dishに採集した。これに、10μlのCCK-8(Dojindo)を加え、37℃で1時間培養した後、E-max microplate reader (Molecular Devices)で475nmの吸光度を測定した。なお、PBS添加群(コントロール群)の値(コントロール値)を100とし、これに対する2.5μM 17-DMAG添加群の値の相対比を求め、これを、細胞の生存率(%)として示した(図8A参照)。
【0110】
また、上記96 well dishに採集した細胞に、25μlのApo-ONE(登録商標) Homogeneous Caspase-3/7 Assay 溶液を加え、ルミノメーター(GloMax 96 Microplate Luminometer、Promega)を用いて発光強度を測定した。なお、PBS添加群(コントロール群)の値(コントロール値)を1とし、これに対する2.5μM 17-DMAG添加群の値の相対比を求め、これを、相対カスパーゼ値(fold)として示した(図8B参照)。
【0111】
(2)実験結果
図8Aは、CCK-8により細胞内ミトコンドリアの電子伝達系の活性を吸光度の増加で定量化したものであり、細胞の生存率(%)を示す。よって、コントロール値に対する相対値の低下は、即ち生存細胞の減少を意味する。図8Aに示すように、健常人由来細胞(PBL1、PCL2)の生存数は、2.5μM 17-DMAG添加後4日(96時間)を経過しても変化が見られないのに対し、ATL患者由来細胞(ATL01、ATL02)は2日後には30%以下にまで低下した。
【0112】
図8Bは、細胞のアポトーシスが不可逆的に誘導されるCaspase3/7の活性を化学発光量で定量化したものであり、相対カスパーゼ値(fold)の上昇は、即ちアポトーシス反応の亢進を意味する。図5Bに示すように、図5Aと同様、ATL患者由来細胞(ATL01、ATL02)は健常人由来細胞(PBL1、PCL2)に比べて活性が高く、最も増殖速度の速いC8166、ATL01、およびATL04の順に活性誘導が起きている。
【0113】
以上の2種類の実験結果から17-DMAGは、健常細胞の生存に影響を与えない範囲の濃度で、有意にATL細胞に増殖阻害若しくはアポトーシスを誘導することが示された。
【0114】
実験例6 17-DMAGによるATL細胞の多臓器浸潤抑制効果
以上の実験から、Tax とCdc37のCBD領域(181-200残基)とが直接的に分子相互作用して結合すること、当該結合はTaxがHsp90/Cdc37複合体と結合して細胞内で安定化する上で重要であること、17-DMAGによってTaxの分解が誘導され、NF-κB亢進が抑制されること、さらに17-DMAGがATL細胞の増殖を抑制し、またATL細胞に対してアポトーシスを誘導することが明らかとなった。
【0115】
そこで、本発明者の一つである長谷川が開発したATL発症モデルマウス(参考文献4)を用い、17-DMAG経口投与によるATL細胞の多臓器浸潤に対する抑制効果を検証した。
【0116】
(1)実験方法
実験方法の概要を図9に示した。TaxをLck-proxymalプロモーター依存的に発現するリンパ球を、ATL発症モデルマウス(SCIDマウス:参考文献4)の脾臓より採集し、RPMI1640培地に懸濁した。その細胞懸濁液106細胞をSCIDマウスの腹腔へ移植し、28日間飼育後、脾臓を摘出し、リンパ球をlymphoprep (Axis-Shield, Oslo, Norway)によって調整した。2x106個のリンフォーマ細胞をSCIDマウスの腹腔へ移植し、17-DMAGを経口投与にて(100μg/匹、若しくは300μg/匹)、第1週と第2週に5日連続で与えた。コントロールのマウス群(コントロール群)には水を与えた。移植21日後に、各臓器を病理解剖にて検証した。組織固定は4%フォルマリン-PBSで染色はhemotoxylin /eosin(HE)法を用いた。PBLに関してはギムザ法により染色した。
【0117】
(2)実験結果
結果を図10に示す。これからわかるように、ATL細胞移植21日後のマウスの末梢白血球(PBL:Peripheral Blood Lymphocyte) 1ml中に、ATL細胞は生理食塩水を投与した水コントロール群で35万個存在した(図10のパネル上段、左欄)のに対して、17-DMAG 100μg投与マウスでは9万個に(図10のパネル上段、中央欄)、また17-DMAG 300μg投与マウスでは6万個に(図10のパネル上段、右欄)にそれぞれ減少した。
【0118】
ATL細胞の浸潤は、脾臓(図10の上から2段目)、肝臓(上から3段目)、肺(最下段)において濃い紫色の部分で示されるが。脾臓はもともとリンパ球が集積する臓器なので紫色に有意な差は見られなかったが、脾臓そのものの大きさは17-DMAG投与群とコントロール群では明らかに差が生じた。一方、肝臓や肺へのATL細胞の浸潤は17-DMAG投与量依存的に減少した。なお、ここには示していないが、SCIDマウスへ同様の方法で17-DMAG を600μg経口投与しても行動異常や体重の減少などの副作用は全く観察されなかった。
【0119】
なお、上記明細書において引用する参考文献は下記の通りである。
参考文献
1:DeBoer, C., Meulman, P.A., Wnuk, R.J., Peterson, D.H. (1970)“Geldanamycin, a new antibiotic.”J. Antibiot. 23(9):442-447.
2:Supko, J.G., Hickman, R.L., Grever, M.R., Malspeis, L. (1995)“14 Preclinical pharmacologic evaluation of geldanamycin as an antitumor agent. ” Cancer Chemother. Pharmacol. 36(4):305-315.
3:Egorin, M.J., Lagattuta, T.F., Hamburger, D.R., Covey, J.M., White, K.D., Musser, S.M., Eiseman, J.L. (2002) “Pharmacokinetics, tissue distribution, and metabolism of 17-(dimethylaminoethylamino)-17- demethoxygeldanamycin (NSC 707545) in CD2F1 mice and Fischer 344 rats. ”Cancer Chemother Pharmacol. 49(1):7-19
4: Hasegawa, H., Sawa, H., Lewis, M.J., Orba, Y., Sheehy, N., Yamamoto, Y., Ichinohe, T., Tsunetsugu-Yokota, Y., Katano, H., Takahashi, H., Matsuda, J., Sata, T., Kurata, T., Nagashima, K., Hall, W.W.(2006)“Thymus-derived leukemia-lymphoma in mice transgenic for the Tax gene of human T-lymphotropic virus type I.”Nat. Med. 12(4):466-472.
5: Caplan, A.J., Mandal, A.K., Theodoraki, M.A.(2007)“Molecular chaperones and protein kinase quality control. ” Trends Cell Biol. 17(2):87-92.
6: Roe, S.M., Ali, M.M., Meyer, P., Vaughan, C.K., Panaretou, B., Piper, P.W., Prodromou, C., Pearl, L.H.(2004)“The Mechanism of Hsp90 regulation by the protein kinase-specific cochaperone p50(cdc37). ”Cell 116(1):87-98.
7: Calderwood, S.K., Khaleque, M.A., Sawyer, D.B., Ciocca, D.R.(2006)“Heat shock proteins in cancer: chaperones of tumorigenesis. ”Trends Biochem. Sci. 31(3):164-172.
8: Terasawa, K., Minami, Y.(2006)“A client-binding site of Cdc37. ”FEBS J. 272(18):4684-4690。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】ATLLの発症メカニズムを示す概念図である。
【図2】NF-κB活性化をもたらすシグナル伝達機構を示す概念図である。
【図3】図Aは、Hsp90/Cdc37複合体とClientであるリン酸化酵素(Kinase)とが、Kinase Biding Domain(KBD)と呼ばれるアミノ酸領域(40-110残基)を介して結合することを示す概念図である。図Bは、実験例3と4の結果から想定される、Hsp90/Cdc37複合体とTaxとの結合様式を示す概念図である。
【図4】図Aは、TaxとHsp90/Cdc37複合体またはHsp90/Cdc37欠損変異体・複合体との相互作用を調べた実験例1の結果を示す。レーン1はコントロール、レーン2はTaxのみを発現させた場合、レーン3は完全長のCdc37(Cdc37(1-378))をTaxと共発現させた場合、レーン4〜7は各機能領域を欠失させた変異体(レーン4から順番に、Cdc37(1-200)、Cdc37(1-180)、Cdc37(181-378)、Cdc37(201-378))Taxと共発現させた場合のルシフェラーゼ活性(パネル上段)、Tax発現量(パネル中段)、およびCdc37欠損変異体の発現量(パネル下段)を示す。図Bは、Cdc37欠損変異体によるTax発現量(上段)、Cdc37欠損変異体の発現量(中段)、およびTubulinの発現量(下段)を、Taxのみを発現させた場合(レーン2);Tax と1/4、1/2、または等量のCdc37(1-200)とを共発現させた場合(レーン3〜5);Tax と1/4、1/2、または等量のCdc37(1-180)とを共発現させた場合 (レーン6〜8);Tax と1/4、1/2、または等量のCdc37(181-378)とを共発現させた場合 (レーン9〜11)とを比較した結果を示す(実験例1)。
【図5】実験例2において、Tax、Hsp90(レーン3)、全長Cdc37(レーン4)、および各種のCdc37欠損変異体(レーン5:Cdc37(1-278)、レーン6:Cdc37(1-200)、レーン7: Cdc37(1-180)、レーン8:Cdc37(181-378)、レーン9:Cdc37(201-378))をそれぞれ単独に発現させ(パネル中段、下段)、その細胞溶解液を等量ずつ混和して免疫沈降法を行った(パネル上段)結果を示す。
【図6】実験例3の結果を示す。図Aは、293細胞に於いてpLTR-Taxで誘導したNF-κB転写亢進(レーン2)に対する17-DMAGの抑制効果(レーン3〜6参照)を、図Cは、293細胞に於いてpLTR-Taxで誘導したHTLV1-LTR転写亢進(レーン2)に対する17-DMAGの抑制効果(レーン4〜6参照)、図Dは,293細胞に於いてpCMV-Taxで誘導したHTLV1-LTR転写亢進(レーン2)に対する17-DMAGの抑制効果(レーン4〜6参照)を示す。また図Bは、Tax、Hsp90およびTubulinの蛋白質発現量を示す。
【図7】17-DMAGによるATL患者由来C8166細胞内のTax分解誘導を調べた実験例4の結果を示す。図Aは、種々量の17-DMAG(0-5μM)を投与した場合におけるTax発現量(上段)、IKK複合体とHsp90との複合体の形成量(中段)、Hsp90発現量(下段)を示す。図Bは、2.5μMの17-DMAGによるTaxの安定性に対する影響を経時的に測定した結果を示した図である。上段からTax発現量、Hsp90発現量、Tubulin発現量を示す。
【図8】図Aは、ATTL患者の血液(ATL01、ATL02)と、健常成人の血液(PBL1、PCL2)、C8166に、2.5μM の17-DMAGをそれぞれ加え経時的に培養したときの細胞生存率(%)を示す(実験例5)。また図Bは、各血液サンプルについて、アポトーシス反応の亢進を示す相対カスパーゼ値(fold)を測定した結果を示す。
【図9】実験例6の実験スキームを示す概念図である。
【図10】実験例6の結果を示す。ATL発症モデルマウスを用い、17-DMAG経口投与によるATL細胞の多臓器浸潤に対する抑制効果を、PBL、脾臓、肝臓、肺中に含まれるATL細胞数から検証した結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TaxとCdc37のCBD領域との結合阻害を指標とすることを特徴とする、成人T細胞白血病/リンパ腫発症抑制剤の有効成分をスクリーニングする方法。
【請求項2】
下記の工程(a)〜(d)を有する、成人T細胞白血病/リンパ腫発症抑制剤の有効成分をスクリーニングする方法:
(a)被験物質の存在下で、Cdc37のアミノ酸配列の少なくとも181位から200位を含むポリペプチドとTaxとを接触させる工程、
(b)上記ポリペプチドとTaxとの結合量を測定する工程、
(c)上記で得られた結合量を、被験物質非存在下でCdc37のアミノ酸配列の少なくとも181位から200位を含むポリペプチドとTaxとを接触させることによって得られる両者の結合量(対照結合量)を比較する工程、および
(d)(c)の結果に基づいて、被験物質の中から、対照結合量に比して結合量を低下させる物質を、ATLL発症抑制剤の有効成分として選択する工程。
【請求項3】
下記(i)〜(iii)を含有する、成人T細胞白血病/リンパ腫発症抑制剤の有効成分をスクリーニングするための試薬キット:
(i)Cdc37のアミノ酸配列の少なくとも181位から200位を含むポリペプチド、
(ii)Tax、
(iii)上記ポリペプチドとTaxとの結合を検出する試薬。
【請求項4】
TaxとCdc37のCBD領域との結合を阻害する作用を有する物質を有効成分とする、成人T細胞白血病/リンパ腫発症抑制剤。
【請求項5】
有効成分が、少なくともCdc37のCBD領域を認識して結合する抗体、または抗Tax抗体である、請求項4に記載する成人T細胞白血病/リンパ腫発症抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−243900(P2009−243900A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−87280(P2008−87280)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ▲1▼1.掲載年月日 平成19年9月28日 掲載アドレス http://www2.convention.co.jp/55jsv/02program.html 2.発行者名 第55回日本ウイルス学会学術集会 刊行物名 第55回日本ウイルス学会学術集会プログラム・抄録集 発行年月日 平成19年10月1日▲2▼1.発行者名 特定非営利活動法人日本分子生物学会・社団法人日本生化学会 刊行物名 BMB2007(第30回日本分子生物学会年会・第80回日本生化学会大会 合同大会)講演要旨集 発行年月日 平成19年11月25日 2.研究集会名 第30回日本分子生物学会年会・第80回日本生化学会大会 合同大会 主催者名 特定非営利活動法人日本分子生物学会、社団法人日本生化学会 開催日 平成19年12月11日〜15日▲3▼1.発行者名 特定非営利活動法人日本分子生物学会・社団法人日本生化学会 刊行物名 BMB2007(第30回日本分子生物学会年会・第80回日本生化学会大会 合同大会)講演要旨集 発行年月日 平成19年11月25日 2.研究集会名 第30回日本分子生物学会年会・第80回日本生化学会大会 合同大会 主催者名 特定非営利活動法人日本分子生物学会、社団法人日本生化学会 開催日 平成19年12月11日〜15日
【出願人】(304028726)国立大学法人 大分大学 (181)
【出願人】(508096677)
【Fターム(参考)】