説明

成型用フィルムおよびそれを用いた成型転写箔

【課題】表面外観、成型性、易加工性に優れるため、成型加工を施して、様々な成型部材へ好適に使用することができ、成型加飾用途に用いられる成型用フィルムを提供する。
【解決手段】環状オレフィン系樹脂を主成分とするフィルムであって、該フィルムの一面(A面)の表面粗さSRaが2nm以上50nm未満、他面(B面)の表面粗さSRaが50nm以上1,000nm以下である成型用フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状オレフィン系樹脂を主成分とした成型用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりにより、建材、自動車部品や携帯電話、電機製品などで、溶剤レス塗装、メッキ代替などの要望が高まり、フィルムを使用した加飾方法の導入が進んでいる。
【0003】
そのような中、成型用二軸延伸ポリエステルフィルムとして、いくつかの提案がされている。例えば、常温での特定の成型応力を規定した成型用ポリエステルフィルムが提案されている(特許文献1)。また、25℃、100℃での成型応力、熱収縮率や面配向度を規定した成型用ポリエステルフィルムも提案されている(特許文献2)。
【0004】
また、低温での成型性に優れている非晶性ポリエステルを用いた成型用無延伸ポリエステルフィルムについての提案もなされている(特許文献3)。また、印刷加工、コーティング加工に対応できる転写箔用フィルムとして、無延伸ポリエステルフィルムの少なくとも片面にポリオレフィンフィルムを貼り合わせたフィルムが提案されている(特許文献4)。また、環状オレフィン系樹脂を用いたフィルムとして離型フィルムの提案がなされている(特許文献5)。さらに、化粧シート用の環状オレフィン系フィルムとして、環状オレフィンにポリエチレンをブレンドしたフィルムについての提案もなされている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−347565号公報
【特許文献2】特開2008−095084号公報
【特許文献3】特開2007−246910号公報
【特許文献4】特開2004−188708号公報
【特許文献5】特開2006−257399号公報
【特許文献6】特開2005−162965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2記載のフィルムは二軸延伸ポリエステルフィルムのため、耐熱性には優れているものの低温での成型性については十分ではなかった。
【0007】
特許文献3記載のフィルムは、フィルムの耐溶剤性が低く、印刷加工、コーティング加工に耐えうるものではなかった。
特許文献4記載のフィルムは、ポリオレフィンとしてポリプロピレンを使用しており表面外観の品位が低く、表面のムラがなく意匠性にも優れた高い品位を求められる用途への展開が困難であった。
【0008】
特許文献5及び特許文献6記載のフィルムは、表面外観さらにはフィルムの加工性について十分に考慮されている設計ではなかった。
【0009】
そこで本発明の課題は上記した問題点を解消することにある。すなわち、表面外観、加工性、成型性に優れるため、成型加工を施して、様々な成型部材へ好適に使用することができ、成型加飾用途に用いられる成型用フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、成型用フィルムおよびそれを用いた成型転写箔は、以下である。
(1) 環状オレフィン系樹脂を主成分とするフィルムであって、該フィルムの一面(A面)の表面粗さSRaが2nm以上50nm未満、他面(B面)の表面粗さSRaが50nm以上1,000nm以下である成型用フィルム。
(2) A面の表面粗さSRmaxが20nm以上500nm未満、B面の表面粗さSRmaxが500nm以上10,000nm以下であることを特徴とする(1)に記載の成型用フィルム。
(3) B面を有する層(B層)の全成分合計を100質量%とした際に、B層が粒子を0質量%より多く1.0質量%以下含有することを特徴とする、(1)または(2)に記載の成型用フィルム。
(4) 引裂伝播抵抗が10N/mm以上であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の成型用フィルム。
(5) フィルム全体100質量%に対して、ポリエチレン系樹脂及び/又はポリプロピレン系樹脂の合計含有量が1質量%以上40質量%以下であることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の成型用フィルム。
(6) ガラス転移温度が70℃以上130℃以下である、(1)〜(5)のいずれかに記載の成型用フィルム。
(7) 成型用フィルムが成型転写箔用である(1)〜(6)のいずれかに記載のフィルム。
(8) (1)〜(6)のいずれかに記載の成型用フィルムのA面に、クリア層、加飾層及び接着層を順次有する成型転写箔。
【発明の効果】
【0011】
本発明の成型用フィルムは、フィルムを加飾に用いた場合の表面外観とフィルムのコーティング、ラミネート、印刷、蒸着等実施する際の加工性に優れ、さらに真空成型、圧空成型、プレス成型といった各種成型方法において良好な成型性を達成することができるため、例えば、建材、自動車部品や携帯電話、電機製品、遊技機部品などの成型部材の加飾に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の成型用フィルムは、環状オレフィン系樹脂を主成分とする。本発明は成型用として、環状オレフィン系樹脂を主成分としたフィルムを適用することで、表面外観と加工性、深絞成型性を両立する設計が可能であることを見出した。
【0013】
ここで、環状オレフィン系樹脂を主成分とするとは、フィルムの全成分の合計を100質量%として、環状オレフィン系樹脂を50質量%以上100質量%以下含有することを意味する。
【0014】
本発明のフィルムは、2層以上の積層フィルムであっても良く、積層フィルムの場合に、環状オレフィン系樹脂を主成分とするとは、積層フィルムを構成する全ての層の全成分の合計を100質量%として、全ての層の環状オレフィン系樹脂の合計が50質量%以上100質量%以下であることを意味する。
【0015】
環状オレフィン系樹脂を主成分とするとは、より好ましくは、フィルムの全成分の合計を100質量%として、環状オレフィン系樹脂を70質量%以上100質量%以下含む態様であり、さらに好ましくは80質量%以上100質量%以下、90質量%以上100質量%以下含む態様であれば最も好ましい。
【0016】
本発明における、環状オレフィン系樹脂とは、環状オレフィンのモノマーから重合して得られる、ポリマーの主鎖に脂環構造を有する樹脂をいう。そして本発明における環状オレフィン系樹脂は、環状オレフィンモノマーとそれ以外のモノマーとの共重合も含みうるが、本発明における環状オレフィン系樹脂とは、環状オレフィン系樹脂の重合体100質量%中において、環状オレフィンモノマー由来成分の合計が50質量%以上100質量%以下である態様の重合体を意味する。
【0017】
環状オレフィンモノマーとしては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエンといった単環式オレフィン、ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、5−メチル−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプタ−2−エン、5,5−ジメチル−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、5−エチル−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、5−ブチル−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、5−ヘキシル−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、5−オクチル−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、5−オクタデシル−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、5−メチリデン− ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、5−ビニル−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、5−プロペニル−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エンといった二環式オレフィン、トリシクロ〔4,3,0,12.5〕デカ−3,7−ジエン、トリシクロ〔4,3,0,12.5〕デカ−3−エン、トリシクロ〔4,3,0,12.5〕ウンデカ−3,7−ジエン若しくはトリシクロ〔4,3,0,12.5〕ウンデカ−3,8−ジエン又はこれらの部分水素添加物(又はシクロペンタジエンとシクロヘキセンの付加物) であるトリシクロ〔4,3,0,12.5〕ウンデカ−3−エン;5−シクロペンチル−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、5−シクロヘキシル−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、5−シクロヘキセニルビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、5−フェニル−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプタ−2−エンといった三環式オレフィン、テトラシクロ〔4,4,0,12.5,17.10〕ドデカ−3−エン、8−メチルテトラシクロ〔4,4,0,12.5,17.10〕ドデカ−3−エン、8−エチルテトラシクロ〔4,4,0,12.5,17.10〕ドデカ−3−エン、8−メチリデンテトラシクロ〔4,4,0,12.5,17.10〕ドデカ−3−エン、8−エチリデンテトラシクロ〔4,4,0,12.5,17.10〕ドデカ−3−エン、8−ビニルテトラシクロ〔4,4,0,12.5,17.10〕ドデカ−3−エン、8−プロペニル−テトラシクロ〔4,4,0,12.5,17.10〕ドデカ−3−エンといった四環式オレフィン、8−シクロペンチル−テトラシクロ〔4,4,0,12.5,17.10〕ドデカ−3−エン、8−シクロヘキシル−テトラシクロ〔4,4,0,12.5,17.10〕ドデカ−3−エン、8−シクロヘキセニル−テトラシクロ〔4,4,0,12.5,17.10〕ドデカ−3−エン、8−フェニル−シクロペンチル−テトラシクロ〔4,4,0,12.5,17.10〕ドデカ−3−エン、テトラシクロ〔7,4,13.6,01.9,02.7〕テトラデカ−4,9,11,13−テトラエン、テトラシクロ〔8,4,14.7,01.10,03.8〕ペンタデカ−5,10,12,14−テトラエン、ペンタシクロ〔6,6,13.6,02.7,09.14〕−4−ヘキサデセン、ペンタシクロ〔6,5,1,13.6,02.7,09.13〕−4−ペンタデセン、ペンタシクロ〔7,4,0,02.7,13.6,110.13〕−4−ペンタデセン、ヘプタシクロ〔8,7,0,12.9,14.7,111.17,03.8,012.16〕−5−エイコセン、ヘプタシクロ〔8,7,0,12.9,03.8,14.7,012.17,113.16〕−14−エイコセン、シクロペンタジエンといった四量体等の多環式オレフィン、およびこれらの誘導体などが挙げられる。これらの環状オレフィンモノマーは、それぞれ単独であるいは2種以上組合せて用いることができる。
【0018】
上記した中でも、生産性、表面性の観点から、ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン(以下、ノルボルネンとする)、シクロペンタジエン、または1,3−シクロヘキサジエン、およびこれらの誘導体が好ましく用いられる。
【0019】
環状オレフィン系樹脂は、上記環状オレフィンモノマーのみを重合させた樹脂、上記環状オレフィンモノマーと鎖状オレフィンモノマーとを共重合させた樹脂、のいずれの樹脂でも構わない。
【0020】
環状オレフィンモノマーのみを重合させた樹脂の製造方法としては、環状オレフィンモノマーの付加重合、あるいは開環重合などの公知の方法が挙げられ、例えば、ノルボルネンおよびその誘導体を開環メタセシス重合させた後に水素化させる方法、ノルボルネンおよびその誘導体を付加重合させる方法、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエンを1,2−、1,4−付加重合させた後に水素化させる方法などが挙げられる。これらの中でも、生産性、表面性、成型性の観点から、ノルボルネンおよびその誘導体を開環メタセシス重合させた後に水素化させた樹脂が特に好ましい。
【0021】
環状オレフィンモノマーと鎖状オレフィンモノマーとを共重合させた樹脂の場合、好ましい鎖状オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−へキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−へキセン、3−エチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン等が挙げられる。これらの中でも、生産性、コストの観点から、エチレンを特に好ましく用いることができる。また、環状オレフィンモノマーと鎖状オレフィンモノマーとを共重合させた樹脂の製造方法としては、環状オレフィンモノマーと鎖状オレフィンモノマーの付加重合などの公知の方法が挙げられ、例えば、ノルボルネンおよびその誘導体とエチレンを付加重合させる方法などが挙げられる。中でも、生産性、表面性、成型性の観点から、ノルボルネンとエチレンの共重合体が特に好ましい。
【0022】
環状オレフィン系樹脂は、フィルムとした際にフィルムと塗膜の密着性を良好にする観点から、極性基を含有してもよい。極性基としては、例えば、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、アミド基、エステル基、ヒドロキシル基等を挙げることができる。環状オレフィン系樹脂に極性基を含有させる方法としては、極性基を有する不飽和化合物をグラフトおよび/または共重合させる方法などが挙げられる。極性基を有する不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1〜10)エステル、マレイン酸アルキル(炭素数1〜10)エステル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル等を挙げることができる。
【0023】
また、本発明の成型用フィルムは、フィルム全成分の合計を100質量%とした際に、環状オレフィン系樹脂を50質量%以上100質量%以下含有しさえすれば、つまり、環状オレフィン系樹脂を主成分としさえすれば、環状オレフィン系樹脂のみから構成されても、その他のオレフィン系樹脂を含有しても、またオレフィン系樹脂以外の樹脂を含有してもよい。
【0024】
環状オレフィン系樹脂以外のオレフィン系樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、メタロセン触媒を使用して重合したエチレン−α・オレフィン共重合体といった各種ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体といった各種ポリプロピレン系樹脂、メチルペンテンポリマー等のポリオレフィン系樹脂を用いることができる。また、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、4−メチルペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1などのα−オレフィンモノマーからなる重合体、該α−オレフィンモノマーからなるランダム共重合体、該α−オレフィンモノマーからなるブロック共重合体なども使用することができる。中でも、環状オレフィン系樹脂との相溶性の観点から、環状オレフィン系樹脂以外のオレフィン系樹脂としては、各種ポリエチレン系樹脂、各種ポリプロピレン系樹脂が好ましく用いられる。
【0025】
本発明の成型用フィルムは、ポリエチレン系樹脂及び/又はポリプロピレン系樹脂を含有することが好ましい。ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂を含有することで、押出工程でのせん断応力を低下させることができ、架橋による異物の発生を抑制させることが可能となり、表面平滑性および耐引裂性を向上させることができる。一方、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂の含有量が多くなると、自己保持性が低下する場合がある。
【0026】
表面外観、加工性、耐引裂性、自己保持性の観点から、ポリエチレン系樹脂及び/又はポリプロピレン系樹脂の合計含有量は、フィルム全体100質量%に対して、1質量%以上40質量%以下とすることが好ましく、1質量%以上30質量%以下であればさらに好ましく、1質量%以上20質量%以下であれば最も好ましい。ここで、「ポリエチレン系樹脂および/またはポリプロピレン系樹脂の合計含有量」とは、ポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂の片方だけを含有する場合は、それぞれの含有量であり、ポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂の両方を含有する場合は、両方の合計の含有量である。そして本発明のフィルムは、2層以上の積層フィルムであっても良く、積層フィルムの場合に、フィルム全体100質量%に対して、ポリエチレン系樹脂及び/又はポリプロピレン系樹脂の合計含有量が1質量%以上40質量%以下であるとは、各層の合計の質量を「フィルム全体」として扱い、また各層のポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂の合計の含有量を、「ポリエチレン系樹脂及び/又はポリプロピレン系樹脂の合計含有量」として扱って判断するものとする。
【0027】
また、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂の中でも、環状オレフィン系樹脂との相溶性の観点から、ポリエチレン系樹脂が好ましく用いられ、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレンが特に好ましく用いられ、線状低密度ポリエチレンが最も好ましく用いられる。
【0028】
なお、本発明におけるポリエチレン系樹脂とは、重合体100質量%中において、エチレン由来成分の合計が50質量%以上100質量%以下である重合体を意味する。また、本発明のポリプロピレン系樹脂とは、重合体100質量%中において、プロピレン由来成分の合計が50質量%以上100質量%以下である重合体を意味する。
【0029】
本発明の成型用フィルムは、フィルムを加飾に用いた場合に成型部材(加飾後の製品の部材)の表面外観を良好とする観点から、フィルムに加飾を施す面として好適な面の表面粗さSRaが2nm以上50nm未満であることが必要である。なお、表面粗さSRaが2nm以上50nm未満の面を、以下A面という。SRaが50nm以上になると、フィルム上に施した加飾面の表面平滑性が劣るため、成型部材の表面外観が損なわれる。加飾面の表面外観からはSRaの下限は小さければ小さいほどよいが、工業的に歩留りよく製造できるフィルムの粗さとしては、2nm以上となる。A面の表面粗さSRaの好ましい範囲は2〜20nmであり、さらに好ましくは5〜10nmである。
【0030】
また、本発明の成型用フィルムは、加飾フィルムの加工性および成型部材の表面外観の観点から、フィルムに加飾を施すのに好適なA面とは反対の面(B面とする)の表面粗さSRaが、50nm以上1,000nm以下である必要がある。B面の表面粗さSRaが1,000nmを越える場合、A面に加工した加飾層にB面の表面形状が影響し、成型部材の表面外観が損なわれる。また、B面の表面粗さSRaが50nm未満の場合、成型フィルムに加飾層を加工する際、フィルムの滑り性が損なわれるため、フィルムに皺が入ったり破れたりして歩留まりが悪化し生産性が悪化する。B面の表面粗さSRaの好ましい範囲は100nm以上1,000nm以下、さらに好ましい範囲は100nm以上500nm以下である。
【0031】
本発明の成型用フィルムは、上記と同様の観点から、A面の表面粗さSRmaxが20nm以上500nm未満、B面の表面粗さSRmaxが500nm以上10,000nm以下であることが好ましい。より好ましくは、A面の表面粗さSRmaxが20nm以上200nm以下、B面の表面粗さが1,000nm以上5,000nm以下である。
【0032】
本発明の成型用フィルムにおいて、A面側の表面粗さSRaを2nm以上50nm未満の範囲にしたり、SRmaxを20nm以上500nm未満の範囲とするには、例えば、Tダイから押出されたシート状の溶融ポリマーを平滑な表面を有するキャストロールにて冷却固化する方法などがある。キャストロールの平滑な表面がキャストしたフィルムに転写され、キャストロール接触面側のフィルムの表面平滑性が向上する。
【0033】
上記した方法において、キャストロール表面のJIS B−0601−2001に準拠して測定した算術平均粗さRaが50nm以下であることが好ましく、より好ましくは40nm以下、さらに好ましくは20nm以下である。また、キャストロールの算術平均粗さRaの下限は特に制限はないが、フィルムのロール巻き取り性を考慮すると2nm以上が好ましい。
【0034】
キャストロールの表面粗さは、従来公知の研削方法から適宜選択することによって所望の表面粗さを得れば良いが、より精度よく表面性を制御するためには研削後にバフ研磨工程を経ることが好ましい。また、キャストロールの表面粗さを測定する方法としては、トリアセチルセルロースなどを有機溶媒に溶解させたものをロール面に圧着、乾燥させてロール表面形状を転写させたサンプルをレプリカサンプルとして作成し、そのレプリカサンプルの表面粗さを測定する方法、ロール表面を直接表面粗さ計で測定する方法などが挙げられる。
【0035】
また、キャストロールの平滑性をフィルムにより強く転写させて表面平滑性を向上させる方法としては、ワイヤー状電極を用いて静電印加によりフィルムをキャストロールに密着させる方法、エアーナイフ、エアーチャンバーで空気を吹きつけることによりロールに密着させる方法、Tダイから押出されたシート状の溶融ポリマーをキャストロールとニップロールからなる一対の冷却ロールによりニップし、続いてキャストロールに密着させながら引取る方法などを用いることができる。
【0036】
一方B面側の表面粗さSRaを50nm以上1,000nm以下の範囲としたり、SRmaxを500nm以上10,000nmの範囲とするには、フィルムを積層構成にしてB面側の層に粒子を添加して表面を粗面化する方法、フィルムをキャストロール上で成形する際にポリマーを結晶化させて表面を粗面化する方法、Tダイから押出されたシート状の溶融ポリマーをキャストロールとニップロールからなる一対の冷却ロールによりニップし、続いてキャストロールに密着させながら引取る方法において、ニップロールの表面を適度な表面粗さに加工しておき、フィルム面に転写させる方法等があるが、フィルムの表面粗さの制御性という観点から、Tダイから押出されたシート状の溶融ポリマーをキャストロールとニップロールからなる一対の冷却ロールによりニップし、続いてキャストロールに密着させながら引取る方法において、ニップロールの表面を適度な表面粗さに加工しておき、フィルム面に転写させる方法が好ましい。フィルムを製造する際のキャストロール、およびニップロールに用いられる材料は特に制限はないが、平滑な面を形成したい場合は金属材料が好ましく、また、巻き取り性向上のために表面を荒らしたい場合はゴム材料が好ましい。
【0037】
さらに本発明の成型用フィルムは、B面を有する層(以下、B面を有する層をB層という。)の全成分合計を100質量%とした際に、B層が粒子を0質量%より多く1.0質量%以下含有することが好ましい。B層中の粒子の含有量が1.0質量%以下の場合、A面に加工した加飾層にB面の表面形状が影響することを抑制し、成型部材の表面外観をより良好なものとできる場合が多いので好ましい。B層の全成分合計を100質量%とした際の、B層中の粒子の含有量は、より好ましくは0質量%より多く0.5質量%以下であり、より好ましくは0質量%より多く0.3質量%以下である。なお、B面を有する層をB層としたが、単層構成の本発明のフィルムにおいては、B層の一方の面がA面であり、他方の面がB面となる。
【0038】
B面を有する層であるB層に含有させる粒子は、B層を構成する樹脂に対して不活性なものであれば特に限定されないが、無機粒子、有機粒子、架橋高分子粒子などを挙げることができる。これらの粒子を2種類以上添加しても構わない。無機粒子の種類としては、特に限定されないが、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウムなどの各種炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの各種硫酸塩、カオリン、タルクなどの各種複合酸化物、リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウムなどの各種リン酸塩、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、酸化チタンなどの各種酸化物、フッ化リチウムなどの各種塩を使用することができる。
【0039】
また有機粒子としては、カルシウム、バリウム、亜鉛、マンガン、マグネシウム等のテレフタル酸塩などが使用される。
【0040】
架橋高分子粒子としては、ジビニルベンゼン、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸のビニル系モノマーからの単独重合体または共重合体が挙げられる。その他、ポリテトラフルオロエチレン、ベンゾグアナミン樹脂、熱硬化エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂などの有機粒子も好ましく使用される。
【0041】
本発明の成型用フィルムは、加工性、耐引裂性の観点から、JIS K−7128−2−1998に準拠して測定した引裂伝播抵抗が10N/mm以上であることが好ましい。本発明の成型用フィルムを成型転写箔として用いた場合、成型用フィルムに加飾層を形成し、成型と同時に成型体(被着体)に加飾層を転写した後、成型体(被着体)から成型用フィルムを剥がす。引裂伝播抵抗が10N/mm以上であると、成型用フィルムを剥がす際にフィルムが裂けることなく作業性が良好となる。同様の観点から、引裂伝播抵抗は15N/mm以上が好ましく、20N/mm以上がさらに好ましく、30N/mm以上が特に好ましく、40N/mm以上が最も好ましい。また、引裂伝播抵抗の上限は特に制限がないが、成型用フィルムが環状オレフィン系樹脂を主成分としていることを考慮すると、100N/mm以下となる。ここで、引裂伝播抵抗が特定の数値範囲内であるとは、フィルムの任意の一方向、およびその方向に直交する両方向においてその数値範囲内にあることを意味する。
【0042】
引裂伝播抵抗を10N/mm以上とするための方法としては、成型用フィルムに環状オレフィン系樹脂以外のオレフィン樹脂を含有させる方法や、成型用フィルムに含まれる環状オレフィン系樹脂中の、環状オレフィンモノマー由来成分の割合を下げる方法などが挙げられる。
【0043】
引裂伝播抵抗を10N/mm以上とするために、成型用フィルムに環状オレフィン系樹脂以外のオレフィン樹脂を含有させる場合、環状オレフィン系樹脂以外のオレフィン樹脂として、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、メタロセン触媒を使用して重合したエチレン−α・オレフィン共重合体といった各種ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体といった各種ポリプロピレン系樹脂、メチルペンテンポリマー等のポリオレフィン系樹脂を用いることができる。また、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、4−メチルペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1などのα−オレフィンモノマーからなる重合体、該α−オレフィンモノマーからなるランダム共重合体、該α−オレフィンモノマーからなるブロック共重合体なども使用することができる。中でも、環状オレフィン系樹脂との相溶性の観点から、各種ポリエチレン系樹脂、各種ポリプロピレン系樹脂が好ましく用いられる。また、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂の中でも、環状オレフィン系樹脂との相溶性の観点から、ポリエチレン系樹脂が好ましく用いられ、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレンがさらに好ましく用いられ、線状低密度ポリエチレンが特に好ましく用いられる。
【0044】
引裂き伝播抵抗を10N/mm以上にするためには、環状オレフィン系樹脂以外のオレフィン樹脂をフィルム全体100質量%に対して、1質量%以上40質量%以下含有させることが好ましく、1質量%以上30質量%以下であればさらに好ましく、1質量%以上20質量%以下であれば特に好ましい。
【0045】
引裂伝播抵抗を10N/mm以上とするために、成型用フィルムに含まれる環状オレフィン系樹脂中の環状オレフィンモノマー由来成分の含有量を下げる場合、環状オレフィン系樹脂の重合体100質量%中において、環状オレフィンモノマー由来成分の含有量は85質量%以下が好ましく、80質量%以下がさらに好ましく、75質量%以下が特に好ましい。また、環状オレフィンモノマー由来成分の含有量の下限は、環状オレフィン系樹脂の重合体100質量%中において50質量%である。
【0046】
環状オレフィン系樹脂はポリエチレン系樹脂や、ポリプロピレン系樹脂と比較すると、耐引裂性が低いが、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂を含有させることで、耐引裂性を改良することができる。一方で、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂を含有させると表面外観が低下傾向となる。このため、本発明の成型用フィルムは耐引裂性と表面外観の両立を図るために異なる組成の樹脂層からなる積層構成としても良い。
【0047】
この場合、好ましい例として、耐引裂性や自己保持性付与のためのX層と、良好な表面外観付与のために少なくとも片側の表面に配置されるY層を含む積層構成が例示される。ここで、X層とY層とは、その層を構成する組成が異なる層であることを意味する。なお、B層とはB面を有する層であることは前述の通りであるが、X層とY層とが層の組成によって決められているのに対し、B層とは有する面のSRaによって決められている点で異なる概念である。
【0048】
そしてX層としては、環状オレフィン系樹脂を主成分とするX層全体を100質量%として、ポリエチレン系樹脂及び/又はポリプロピレン系樹脂を1質量%以上40質量%以下含むことが好ましく、1質量%以上30質量%以下含むことがより好ましく、1質量%以上20質量%以下含むことが最も好ましい。なお、環状オレフィン系樹脂を主成分とするX層とは、X層の全成分の合計を100質量%とした際に、環状オレフィン系樹脂を50質量%以上100質量%以下含有することを意味する。
【0049】
Y層としては、環状オレフィン系樹脂を主成分とするY層全体を100質量%として、ポリエチレン系樹脂及び/又はポリプロピレン系樹脂を0質量%以上10質量%以下含むことが好ましく、0質量%以上5質量%以下含むことがより好ましく、環状オレフィン系樹脂のみから構成される、つまりポリエチレン系樹脂及び/又はポリプロピレン系樹脂が0質量%であることが最も好ましい。なお、環状オレフィン系樹脂を主成分とするY層とは、Y層の全成分の合計を100質量%とした際に、環状オレフィン系樹脂を50質量%以上100質量%以下含有することを意味する。
【0050】
上記積層構成において、X層、Y層ともそれぞれ1層または2層以上の複数層存在しても良く、耐引裂性や自己保持性と表面外観の両立の観点から積層比(Y層の合計厚み/X層の合計厚み)は、0.25〜1であることが好ましい(なお、積層比(Y層の合計厚み/X層の合計厚み)とは、例えばX層が1層とY層が2層の積層構成の場合には、2層存在するY層の合計厚み/X層の厚み、であり、積層比(Y層の合計厚み/X層の合計厚み)は、X層が1層とY層が1層の積層構成の場合には、Y層の厚み/X層の厚み、である。)。積層比(Y層の合計厚み/X層の合計厚み)は、0.4〜0.8であればさらに好ましい。フィルムの積層比は、フィルムの断面を走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡、光学顕微鏡などで500倍以上10,000倍以下の倍率で観察することによって、測定することができる。
【0051】
本発明の成型用フィルムは積層構成の場合、取扱い性をさらに向上させるためには、X層/Y層の2層構成よりも、Y層/X層/Y層の3層構成とすることが好ましい。なお、Y層/X層/Y層の3層構成の場合には、一方のY層の最表層側にA面が存在し、他方のY層の最表層側にB面が存在することとなる。
【0052】
本発明の成型用フィルムは、そのガラス転移温度が70℃以上130℃以下であることが好ましい。この場合、コーティング、ラミネート、印刷、蒸着といった加工工程での寸法変化を抑制し、さらに優れた成型性も付与することができる。同様の観点から、本発明の成型用フィルムのガラス転移温度は90℃以上120℃以下であることがより好ましく、100℃以上120℃以下であることが最も好ましい。ここで本発明の成型用フィルムのガラス転移温度は、実施例にて示す方法により測定された0℃以上300℃以下の範囲に観測されるガラス転移温度の意味である。また、0℃以上300℃以下の範囲にガラス転移温度が複数存在する場合は、該範囲における最も高温側のガラス転移温度を採用して、成型用フィルムのガラス転移温度が70℃以上130℃以下の範囲に入るか否かを判断した。なお、0℃以上300℃以下の範囲にガラス転移温度が複数存在する場合は、少なくとも1つのガラス転移温度が70℃以上130℃以下であることが好ましいが、特に好ましくは、全てのガラス転移温度が70℃以上130℃以下の範囲となる態様である。
【0053】
ガラス転移温度を70℃以上130℃以下とするためには、例えば、主成分の環状オレフィン系樹脂として、ノルボルネンとエチレンの共重合体を使用する場合、ノルボルネンの含有量を増加させていくことでガラス転移温度を高温化することが可能である。さらに、ノルボルネンの含有量の異なる2種類の環状オレフィン系樹脂をブレンドさせることによってもフィルムのガラス転移温度を調整することが可能である。また、必要に応じ環状オレフィン系樹脂にポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂を含有させてガラス転移温度を低温化し調整することもできる。
【0054】
本発明の成型用フィルムは、品位、表面外観の観点からフィルムの全成分の合計100質量%に対して、脂肪酸金属塩を0.01質量%以上0.5質量%以下含有することが好ましい。フィルムの品位を向上させるためにはポリエチレン系樹脂や、ポリプロピレン系樹脂を含有させることで押出工程でのせん断応力を低下させることができ、架橋による異物の発生を抑制させることが可能となり、さらに耐引裂性も向上させることができるが、表面にうねり状のムラが発生しやすくなる。このため、本発明の成型用フィルムは、特にフィルムの品位、表面外観が厳しい用途へ展開するためには、フィルムの全成分の合計100質量%に対して脂肪酸金属塩を0.01質量%以上0.5質量%以下含有させることが好ましい。脂肪酸金属塩を0.01質量%以上0.5質量%以下含有させることで、ポリエチレン系樹脂や、ポリプロピレン系樹脂を含有させた際と同様に、フィルムの押出時の環状オレフィン系樹脂組成物の滑り性が向上させることができるため、架橋による異物の発生を抑制させることが可能となる。このため、本発明の成型用フィルムの表面外観が向上し、成型後の成型部材についても優れた表面外観のものを得ることができる。
【0055】
ここで脂肪酸金属塩の具体例としては、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム等の酢酸塩、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ラウリン酸水素カリウム、ラウリン酸マグネシウム、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸亜鉛、ラウリン酸銀等のラウリン酸塩、ミリスチン酸リチウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸水素カリウム、ミリスチン酸マグネシウム、ミリスチン酸カルシム、ミリスチン酸亜鉛、ミリスチン酸銀等のミリスチン酸塩、パルミチン酸リチウム、パルミチン酸カリウム、パルミチン酸マグネシウム、パルミチン酸カルシウム、パルミチン酸亜鉛、パルミチン酸銅、パルミチン酸鉛、パルミチン酸タリウム、パルミチン酸コバルト等のパルミチン酸塩、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、オレイン酸マグネシウム、オレイン酸カルシウム、オレイン酸亜鉛、オレイン酸鉛、オレイン酸タリウム、オレイン酸銅、オレイン酸ニッケル等のオレイン酸塩、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸タリウム、ステアリン酸鉛、ステアリン酸ニッケル、ステアリン酸ベリリウム等のステアリン酸塩、イソステアリン酸ナトリウム、イソステアリン酸カリウム、イソステアリン酸マグネシウム、イソステアリン酸カルシウム、イソステアリン酸バリウム、イソステアリン酸アルミニウム、イソステアリン酸亜鉛、イソステアリン酸ニッケル等のイソステアリン酸塩、ベヘニン酸ナトリウム、ベヘニン酸カリウム、ベヘニン酸マグネシウム、ベヘニン酸カルシウム、ベヘニン酸バリウム、ベヘニン酸アルミニウム、ベヘニン酸亜鉛、ベヘニン酸ニッケル等のベヘニン酸塩、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カリウム、モンタン酸マグネシウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸バリウム、モンタン酸アルミニウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸ニッケル等のモンタン酸塩等を使用することができる。これらは一種類又は二種類以上の混合物であってもよい。特に、ステアリン酸の塩類やモンタン酸の塩類が好適に用いられ、特に、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、モンタン酸ナトリウムなどが好適に用いられる。
【0056】
なお、本発明の成型用フィルムが、前述したX層とY層を有する2層以上の積層フィルムの場合、脂肪酸金属塩は、X層、Y層いずれの層に含有させても効果があるため好ましいが、特にY層に含有することは品位、表面外観の観点から非常に好ましい。
【0057】

本発明の成型用フィルムの厚みは、生産安定性、成型性、易加工性の観点から、20μm以上500μm以下であることが好ましい。より好ましくは50μm以上400μm以下、特に好ましくは100μm以上300μm以下である。
【0058】
本発明の成型用フィルムは、成型性、加工性の観点から厚み斑が10%以下であることが好ましい。厚み斑を10%以下とすることで均一に成型ができ、さらにコーティング、ラミネート、印刷、蒸着等の加工時の斑を抑制することができるため好ましい。本発明の成型用フィルムの厚み斑を10%以下とする方法は特に限定されないが、例えば粘着しない程度にキャスト温度を高温化する方法、キャスト位置を前方キャストにする方法、口金のリップ間隙を狭くする方法などが挙げられる。厚み斑は8%以下であればさらに好ましく、5%以下であれば最も好ましい。
【0059】
本発明の成型用フィルムは、品位、表面外観の観点から酸化防止剤を含有することが好ましい。酸化防止剤を含有することにより、押出工程での環状オレフィン系樹脂の酸化劣化を防止することができ、異物の発生を抑制することができる。酸化防止剤の含有量は、フィルムの全成分の合計100質量%に対して、0.01質量%以上1質量%以下が好ましい。酸化防止剤としては、特に制限はなく、公知のホスファイト系酸化防止剤、有機イオウ系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤等の何れもが使用できる。
【0060】
ホスファイト系酸化防止剤としては化学構造式にホスファイトを含むもの、具体的には、例えば、イルガフォス38、イルガフォスP−EPQ、イルガフォス126(以上、いずれもチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、スミライザーTNP、スミライザーTPP−P、スミライザーP−16(以上いずれも住友化学工業社製)、アデカスタブPEP−4C、アデカスタブPEP−8、アデカスタブ11C、アデカスタブPEP−36、アデカスタブHP−11、アデカスタブ260、アデカスタブ522A、アデカスタブ329K、アデカスタブ1500、アデカスタブC、アデカスタブ135A、アデカスタブ3010(以上いずれも旭電化工業社製)等が挙げられる。
【0061】
有機イオウ系酸化防止剤としては化学構造式にチオエーテルを含むもの、具体的には、例えば、市販品としてイルガノックスPS800FL、イルガノックスPS802FL(以上いずれもチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、スミライザーTP−M、スミライザーTP−D、スミライザーTL、スミライザーMB(以上いずれも住友化学工業社製)、アデカスタブAO−23(旭電化工業社製)等が挙げられる。
【0062】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては化学構造式に2,6−アルキルフェノールを持つもの、具体的には、例えば、市販品としてイルガノックス245、イルガノックス259、イルガノックス565、イルガノックス1010、イルガノックス1035、イルガノックス1076、イルガノックス1098、イルガノックス1222、イルガノックス1330、イルガノックス1425、イルガノックス3114、イルガノックス1520、イルガノックス1135、イルガノックス1141、イルガノックスHP2251(以上いずれもチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、スミライザーBHT、スミライザーMDP−S、スミライザーGA−80、スミライザーBBM−S、スミライザーWX−R、スミライザーGM、スミライザーGS(以上いずれも住友化学工業社製)、アデカスタブAO−30(旭電化工業社製)等が挙げられる。これらの酸化防止剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
また、本発明の成型用フィルムは、必要に応じて難燃剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、可塑剤、粘着性付与剤、ポリシロキサンなどの消泡剤、顔料または染料などの着色剤を適量含有することができる。
【0064】
本発明の成型用フィルムは、環状オレフィン系樹脂を主成分としていることから、表面外観及び離型性に優れており、成型用途の中でも成型転写箔用途に好ましく用いられる。本発明の成型用フィルムに加飾層を積層し、成型と同時に成型体(被着体)へ転写させることで、本発明の成型用フィルムと加飾層が容易に剥離でき、表面外観の優れた成型部材を得ることができる。成型転写箔の構成としては、特に限定されないが、本発明の成型用フィルムに加飾層を積層した構成であることが好ましい。ここで、加飾層は、着色、柄模様、木目調、金属調、パール調などの装飾を付加させるための層である。転写後の成型部材の耐傷性、耐候性、意匠性の観点からは、さらにクリア層を積層することが好ましい。この場合、クリア層は成型用フィルム側に積層することが好ましい。また、転写後の成型体(被着体)と加飾層との密着性の観点から、接着層を積層することが好ましい。この場合、接着層は、成型体(被着体)側に積層することが好ましい。
【0065】
つまり、成型転写箔の好ましい態様として、本発明の成型用フィルム/クリア層/加飾層/接着層という構成が挙げられる。なお、クリア層を形成する成型用フィルムの面は、A面側であることが好ましい。つまり本発明の成型用フィルムを用いて得られる成型転写箔は、本発明の成型用フィルムのA面に、クリア層、加飾層及び接着層を順次有する構成であることが好ましい。また、ここでいうクリア層とは、成型部材の最表層に位置する層であり、成型部材の外観を向上させるための高光沢、高透明な層のことである。また、ここでいう加飾層とは、着色、凹凸、柄模様、木目調、金属調、パール調などの装飾を付加させるための層である。
【0066】
クリア層として使用される樹脂は、高透明樹脂であれば特に限定されないが、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂共重合体などが好ましく使用される。耐傷性の観点から、熱硬化樹脂、紫外線硬化樹脂、熱線硬化樹脂が好ましく用いられる。また、クリア層には耐候性を向上させるために、紫外線吸収剤、紫外線反射剤を添加しても構わない。
【0067】
また、クリア層は、耐傷性、意匠性の観点から、厚みが10μm以上100μm以下であることが好ましく、15μm以上80μm以下であればさらに好ましく、20μm以上60μm以下であれば最も好ましい。
【0068】
クリア層の形成方法としては、直接形成させる方法、キャリアフィルムへ一旦形成させ、転写させる方法などが挙げられる。クリア層を形成させた後の乾燥温度が高温にする必要がある場合は、一旦キャリアフィルムへ形成させ、その後、転写させる方法が好ましく用いられる。クリア層の形成方法としては、ローラー塗装法、刷毛塗装法、スプレー塗装法、浸漬塗装法の他、グラビアコーター、ダイコーター、コンマコーター、バーコーター、ナイフコーターを用いた方法が挙げられる。また、本発明の成型用フィルムは環状オレフィン系樹脂を主成分としていることから、トルエン、キシレンといった芳香族系溶剤に対する耐性が低いため、クリア層に用いる溶剤として、芳香族系溶剤を使用しない構成とすることが好ましい。
【0069】
加飾層の形成方法としては特に限定されないが、例えば、コート、印刷、金属蒸着などによって形成することができる。コートする場合は、ダイコート法、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法を用いることができる。また、印刷する場合は、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法を用いることができる。このとき使用される樹脂としては、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂共重合体などが好ましく使用される。使用される着色剤としては特に限定されないが、分散性などを考慮して、染料、無機顔料、有機顔料などから適宜選択される。
【0070】
コート、印刷により形成される加飾層の厚みとしては、成型後の色調保持性、意匠性の観点から、10μm以上100μm以下であることが好ましく、15μm以上80μm以下であればさらに好ましく、20μm以上60μm以下であれば最も好ましい。
【0071】
また、加飾層の形成方法が金属蒸着の場合、蒸着簿膜の作製方法としては特に限定されないが、真空蒸着法、EB蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などを用いることができる。なお、ポリエステルフィルムと蒸着層との密着性を向上させるために、蒸着面をあらかじめコロナ放電処理やアンカーコート剤を塗布するなどの方法により前処理しておくことが望ましい。使用される金属としては成型追従性の点から融点が150℃以上400℃以下である金属化合物を蒸着して使用することが好ましい。該融点範囲の金属を使用することで、本発明の成型用フィルムが成型可能な温度範囲で、蒸着した金属層も成型加工が可能であり、成型による蒸着層欠点の発生を抑制しやすくなるので好ましい。より好ましい金属化合物の融点としては150℃以上300℃以下である。融点が150℃以上400℃以下である金属化合物としては特に限定されるものではないが、インジウム(157℃)やスズ(232℃)が好ましく、特にインジウムを好ましく用いることができる。
【0072】
加飾層の積層厚みは、0.001μm以上100μm以下であることが好ましく、0.01μm以上80μm以下であればさらに好ましく、0.02μm以上60μm以下であれば最も好ましい。
【0073】
成型体(被着体)への接着性を付与する目的で設ける接着層の素材としては、感熱タイプあるいは感圧タイプを用いることができる。成型体(被着体)として射出成型などによる樹脂成型体を用いる場合に、これらへ本発明の成型用フィルムを転写させる場合は、樹脂に合わせて、接着層を設計することができる。アクリル系樹脂の場合はアクリル系樹脂、ポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン共重合体系樹脂、ポリスチレン系樹脂の場合は、これらの樹脂と親和性のあるアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などを用いる事が好ましい。樹脂成型体がポリプロピレン系樹脂からなる場合は、塩素化ポリオレフィン系樹脂、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂、環化ゴム、クマロンインデン系樹脂を用いる事が好ましい。
【0074】
接着層の形成方法は種々の方法を用いられ、例えばダイコート法、ロールコート法、グラビアコート法、コンマコート法などのコート法、また、例えばグラビア印刷法、スクリーン印刷などの印刷法が用いられる。
【0075】
本発明の成型用フィルムを用いた成型転写箔を使用して加飾させる成型体(被着体)としては、特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン、アクリル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル・スチレン、ポリアクリロニトリル・ブタジエン・スチレンなどといった樹脂や、金属部材などが用いられる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例に沿って本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。なお、諸特性は以下の方法により測定した。
【0077】
(1)フィルム厚みおよび層厚み
フィルムの全体厚みを測定する際は、ダイヤルゲージを用いて、フィルムから切り出した試料の任意の場所5ヶ所の厚みを測定し、平均値を求めた。
【0078】
また、積層フィルムの各層の層厚みを測定する際は、ライカマイクロシステムズ(株)製金属顕微鏡LeicaDMLMを用いて、フィルムの断面を倍率100倍の条件で透過光を写真撮影した。そして撮影した写真から、積層フィルムの各層ごとに任意の5ヶ所の厚みを測定し、その平均値を各層の層厚みとした。
【0079】
(2)表面粗さSRa、表面粗さSRmax
フィルムの表面粗さSRaおよび表面粗さSRmaxは、小坂研究所製の3次元表面粗さ計ETB−30HKを用い、触針式で以下の条件で測定した。
【0080】
触針先端径 :2μm触針加重 :10mg測定長 :1mm送りピッチ :50μm測定本数 :40本カットオフ値:0.25mm
上記の条件で、粗さ曲面f(x,y)が得られたとき、SRa は下記の式(数1)で与えられる。
【0081】
【数1】

【0082】
但し、lx ;測定長=1mm、1y =(送りピッチ)×(測定本数)=2mm、S=lx ×ly
上記測定範囲の最大の山と最深の谷を平均面と平行な2面で挟み、その間隔を表面粗さSRmax とする。
【0083】
(3)ガラス転移温度
示差走査熱量計(セイコー電子工業製、RDC220)を用い、JIS K7121−1987、JIS K7122−1987に準拠して測定および、解析を行った。
【0084】
フィルム5mg(フィルムの特定層の評価を行う場合は、測定を行う層を削りとって5mgとする)をサンプルに用い、25℃から20℃/分で300℃まで昇温した際のガラス状態からゴム状態への転移に基づく比熱変化を読み取り、各ベースラインの延長した直線から縦軸(熱流を示す軸)方向に等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の中間点ガラス転移温度を求め、ガラス転移温度とした。なお、ガラス転移温度が複数存在する場合は、高温側のガラス転移温度を採用した。
【0085】
(4)厚み斑
フィルムを任意の位置で200mm×300mmの大きさに切り出してサンプルとした。200mmの方向について、端部から20mm間隔で他の端部まで11点、300mmの方向についても同様に、端部から30mm間隔で他の端部まで11点、合計121点の厚みを測定し、最大値、最小値、平均値を求め、下記式より厚み斑を求めた。
【0086】
厚み斑(%)=((最大値−最小値)/平均値)×100
(5)品位
フィルムを任意の位置で200mm×300mmの大きさに切り出してサンプルとした。3波長蛍光灯下の反射光にてA面側(A面(SRaが2nm以上50nm未満の面)を有さない場合には、表面粗さが小さい面の側)から目視で観察を行い、長径が100μm以上の異物の個数をカウントし、A4サイズ当たりの異物の個数を以下の基準にて評価を行った。
A:異物の個数が10個未満であった。
B:異物の個数が10個以上20個未満であった。
C:異物の個数が20個以上30個未満であった。
D:異物の個数が30個以上であった。
【0087】
(6)表面外観
フィルムストレッチャー(ブルックナー社製、KARO−IV)を用いて、下記の条件でフィルムを延伸した後のA面(A面(SRaが2nm以上50nm未満の面)を有さない場合には、表面粗さが小さい面の側)のフィルム表面外観について、以下の基準にて評価を行った。
初期サンプル:100mm×100mm、予熱・延伸温度:120℃、予熱時間:20s、延伸速度:20%/s、延伸倍率:2×2
A:表面光沢が非常に高く、ムラが全く観察されなかった。
B:表面光沢が高く、ほとんどムラが観察されなかった。
C:表面に若干のうねり状のムラが観察されたか、実用上問題ないレベルであった。
D:表面に顕著なうねり状のムラが観察された。
【0088】
(7)成型性
フィルムを任意の位置で200mm×300mmの大きさに切り出してサンプルとした。サンプルの表面(A面側)、に、アプリケーターを用いて、日本ケミカル製892Lを塗工し、80℃で10分間乾燥を行い、塗膜厚み20μmの接着層を形成した。得られた接着層積層フィルムを布施真空株式会社製の三次元真空加熱成型機(TOM成形機/NGF−0406−T)を用いて、120℃の温度になるように加熱し、50℃に加熱したポリプロピレン製樹脂型(底面直径150mm)に沿って真空・圧空成型(圧空:0.2MPa)を行い、フィルム/接着層/ポリプロピレン製樹脂型の成型部材を得た。得られた成型部材について、型に沿って成型できた状態(絞り比:成型高さ/底面直径)を以下の基準で評価した。S、A、B、Cのいずれかであれば合格レベルである。
S:絞り比1.0以上で成型できた。
A:絞り比0.9以上1.0未満で成型できた。
B:絞り比0.8以上0.9未満で成型できた。
C:絞り比0.7以上0.8未満で成型できた
D:絞り比0.7の形に成型できなかった。
【0089】
(8)加工性
フィルムロールサンプルをダイコーターの巻出しにセットし、搬送速度30m/分でフィルムを搬送し、巻き取り側で巻き取った。この際、フィルムの搬送状態を観察し、加工性を次の基準で評価した。
A:フィルムに皺が入ったり、折れたりせず、巻き取れる。
B:フィルムに皺が入るが、折れずに巻き取れる。
C:フィルムに皺が入り、折れた状態で巻き取れる。
D:フィルムに皺が入り、搬送ロールに巻きつきが起きる。
【0090】
(9)成型体表面外観
フィルムロールのA面側に、ダイコーターにて共栄社化学製UF−TCI−1を塗工し、80℃で10分間乾燥を行い、塗膜厚み50μmのクリア層を形成した。続いて、クリア層の上に同じダイコーターを用いて、アクリル/ウレタン系のシルバーインキを塗工し、80℃で10分間乾燥を行い、塗膜厚み30μmの加飾層を形成した。さらに加飾層の上に、アプリケーターを用いて、日本ケミカル製892Lを塗工し、80℃で10分間乾燥を行い、塗膜厚み20μmの接着層を形成し、成型転写箔ロールを作製した。
【0091】
得られた成型転写箔ロールから任意の位置で200mm×300mmの大きさにフィルムを切り出し、(7)と同様にして真空・圧空成型を行い、成型用フィルム/クリア層/加飾層/接着層/ポリプロピレン製樹脂型の成型部材を得た。得られた成型部材に照射強度が2,000mJ/cmとなるように紫外線を照射して塗剤を硬化させた。フィルムを剥離した箇所の転写体(クリア層/加飾層/接着層/ポリプロピレン製樹脂型)の表面を観察し、次の基準で表面外観を評価した。
A:表面光沢が非常に高く、ムラが全く観察されなかった。
B:表面光沢が高く、ほとんどムラが観察されなかった。
C:表面に若干のうねり状のムラが観察されたか、実用上問題ないレベルであった。
D:表面に顕著なうねり状のムラが観察された。
【0092】
(10)引裂伝播抵抗
荷重引裂試験機(東洋精機製)を用いて、JIS K−7128−2−1998に従って測定した。サンプルは、フィルムを任意の一方向および、その方向に直交する方向にそれぞれ75mm×63mmとし、その73mmの辺の中央部の位置に端から20mmの深さの切れ込みを入れ、残り43mmを引き裂いたときの指示値を読みとった。引裂伝播抵抗の値としては、指示値より求めた引裂力(N)をフィルム厚み(mm)で除した値とした。なお、測定は10回ずつ行い、フィルムの任意の一方向、およびその方向に直交する方向それぞれの平均値を求めた。
【0093】
(11)ロールの表面粗さRa
ロール表面を、表面粗さ計(小坂研究所製、SE1700)を用いてロール表面の粗さを測定した。触針先端半径0.5μm、測定力100μN、測定長1mm、低域カットオフ0.200mm、高域カットオフ0.000mmの条件で測定し、JISB−0601−2001に準拠して算術平均粗さRaを求めた。

(環状オレフィン系樹脂A)
ポリプラスチックス社製“TOPAS 8007F−04”を用いた。
【0094】
(環状オレフィン系樹脂B)
ポリプラスチックス社製“TOPAS 6013F−04”を用いた。
【0095】
(ポリエチレン系樹脂)
プライムポリマー社製“エボリュー SP2540”を用いた。
※表中では、PEと表記。
【0096】
(脂肪酸金属塩)
ナカライテスク製 ステアリン酸亜鉛
(酸化防止剤)
チバ・スペシャリティー・ケミカルズ製 イルガノックス1010
(粒子)
二酸化ケイ素(富士シリシア化学(株)製“サイリシア430”、平均粒子径4.1μm)
(実施例1)
Y層/X層/Y層の3層構成とした。各層の組成を表1のようにし、それぞれ単軸押出機(L/D=28)に供給し、供給部温度220℃、それ以降の温度を230℃で溶融し、濾過精度30μmのリーフディスクフィルターを通過させた後、ダイの上部に設置したフィードブロック内にてY層/X層/Y層(積層厚み比は表参照)となるように積層した後、Tダイ(リップ間隙:0.4mm)より、50℃に温度制御した鏡面のキャストロール(表面粗さ0.2s)と40℃に温度制御したゴムロール(表面粗さRa0.3μm)間にシート状に吐出し該ロールでニップして成形し、続いて、25℃に温度制御した鏡面ロールでフィルムを冷却して、フィルム厚み100μmのフィルムをワインダーで巻き取り、幅500mm、長さ500mの本発明の成型用フィルムを得た。このようにして得られたフィルムおよびそれを用いて作製した成型転写箔の特性・評価結果は表1の通りであり、品位、表面外観、成型性、加工性、成型体表面外観とも良好であった。
【0097】
(実施例2〜5)
実施例1と同じ組成で、鏡面キャストロールおよびニップするゴムロールの表面粗さを変えて、フィルムを製膜し、該フィルムおよびそれを用いて作製した成型転写箔を得た。これらの特性、評価結果は表1の通りであり、いずれも良好であった。
【0098】
(実施例6〜8)
組成を表の通りとした他は、実施例1と同様に製膜してフィルムおよびそれを用いて成型転写箔を得た。これらの特性、評価結果は表2の通りでありいずれも良好であった。
【0099】
(実施例9、10)
組成を表2の通りとし、ニップロールを使用しなかった点を除いては実施例1と同様に製膜して、フィルムおよびそれを用いて作製した成型転写箔の特性は表の通りでありいずれも良好であった。
【0100】
(比較例1)
ゴムロールの代わりに鏡面ロール(0.2s)を使用して、表3の組成で実施例1と同様に製膜して、フィルムを作製したが、成型転写箔加工時にフィルムが搬送ロールに巻き付いて成型転写箔が得られなかった。
【0101】
(比較例2,3)
組成および鏡面ロール、ゴムロールの表面粗さを表3の通りに変更した点を除いては実施例1と同様に製膜、加工して、フィルムおよびそれを用いた成型転写箔を得た。得られたフィルムおよびその成型転写箔の特性評価結果は表3の通りであり、表面外観や加工性、成型体表面外観が劣るものであった。
【0102】
【表1】

【0103】
【表2】

【0104】
【表3】

【0105】
なお表中の引裂伝播抵抗については、任意の一方向および、それに直交する方向についての測定結果を記している。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の成型用フィルムは、環状オレフィン系樹脂を主成分とし、さらに該フィルムの1面の表面粗さSRaを2nm以上50nm未満、他面の表面粗さSRaを50nm以上1,000nm以下とすることで、優れた表面外観と易加工性を示し、さらに真空成型、圧空成型、プレス成型といった各種成型方法において、良好な成型性を達成することができるため、様々な成型加工工程に適用が可能であり、例えば、建材、自動車部品や携帯電話、電機製品、遊技機部品などの成型部材の加飾に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン系樹脂を主成分とするフィルムであって、該フィルムの一面(A面)の表面粗さSRaが2nm以上50nm未満、他面(B面)の表面粗さSRaが50nm以上1,000nm以下である成型用フィルム。
【請求項2】
A面の表面粗さSRmaxが20nm以上500nm未満、B面の表面粗さSRmaxが500nm以上10,000nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の成型用フィルム。
【請求項3】
B面を有する層(B層)の全成分合計を100質量%とした際に、B層が粒子を0質量%より多く1.0質量%以下含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の成型用フィルム。
【請求項4】
引裂伝播抵抗が10N/mm以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の成型用フィルム。
【請求項5】
フィルム全体100質量%に対して、ポリエチレン系樹脂及び/又はポリプロピレン系樹脂の合計含有量が1質量%以上40質量%以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の成型用フィルム。
【請求項6】
ガラス転移温度が70℃以上130℃以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の成型用フィルム。
【請求項7】
成型用フィルムが成型転写箔用である請求項1〜6のいずれかに記載のフィルム。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の成型用フィルムのA面に、クリア層、加飾層及び接着層を順次有する成型転写箔。

【公開番号】特開2013−71419(P2013−71419A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214221(P2011−214221)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】