説明

成形体、その塗装製品及びその塗膜のボイド防止方法

【課題】高剛性でありかつ寸法安定性に優れながら表面が平滑である成形体、高剛性でありかつ寸法安定性に優れながら塗膜のボイドによる欠陥がない塗装製品及びその塗膜のボイドを防止する方法を提供する。
【解決手段】成形体と成形体の表面を塗装した塗膜とを有する塗装製品(10)であって、成形体は、ISO62に準拠して測定した吸水率が0.5%以下の熱可塑性樹脂と酸変性ポリオレフィンとの混合物中に長さ方向と直交する断面における最短径に対する最長径の比である異形比が1.5〜5である異形断面を有するガラス繊維10〜70質量%が分散しているこを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体、その成形体を塗装した塗装製品及びその塗膜のボイド防止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高剛性の塗装樹脂製品の成形体には、長さ方向と直交する断面の形状が略円形である繊維状の補強材を混合した樹脂が用いられている。このような補強材は、異方性が大きいことから、剛性を高くするために配合量を多くすると成形体に変形が生じることがあった。具体的には、成形時の樹脂の流動方向と流動方向と直交する方向とでは、収縮率に差が生じ、反りや捩れが生じていた。そのため、このような成形体は寸法安定性が劣るものとなっていた。
【0003】
一方、ポリアミド樹脂等のエンジニアリングプラスチックに長さ方向と直交する断面の形状が円形でなく異方性を小さくした繊維状の補強材を混合した成形体が提案されている(特許文献1〜4)。しかし、ポリアミド樹脂は吸水することにより剛性が低下することから、反り等が生じていた。そのため、このような成形体も寸法安定性が劣るものとなっていた。
【特許文献1】特開2007−187260号公報
【特許文献2】特開2007−168482号公報
【特許文献3】特開2006−316079号公報
【特許文献4】特開平8−20694号公報
【0004】
また、ポリプロピレン等の吸水率の低い樹脂に、長さ方向と直交する断面の形状が円形でない繊維状の補強材を混合したものを成形体に用いると、成形体の剛性及び寸法安定性は向上するものの、図4、5に示すように、表層近くにある補強材の周りに樹脂が未充填となっている凹陥部が生じていた。そのため、成形体の表面に塗装を行うと、塗膜にボイド(気孔)が生じ、製品としては用いることができなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、高剛性でありかつ寸法安定性に優れながら表面が平滑である成形体、高剛性でありかつ寸法安定性に優れながらボイドによる塗膜の欠陥がない塗装製品及びその塗膜のボイドを防止する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の成形体は、ISO62に準拠して測定した吸水率が0.5%以下の熱可塑性樹脂と酸変性ポリオレフィンとの混合物中に長さ方向と直交する断面における最短径に対する最長径の比である異形比が1.5〜5である異形断面を有する繊維状補強材が分散しているこを特徴としている。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の塗装製品は、上記成形体と該成形体の表面を塗装した塗膜とを有するものである。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のボイド防止方法は、繊維状補強材が分散している樹脂からなる成形体と該成形体の表面を塗装した塗膜とを有する塗装製品の該塗膜のボイド防止方法であって、前記繊維状補強材は、長さ方向と直交する断面における最短径に対する最長径の比である異形比が1.5〜5である異形断面を有し、前記樹脂は、ISO62に準拠して測定した吸水率が0.5%以下の熱可塑性樹脂に前記繊維状補強材により前記成形体の表面に凹陥部が生じるのを防止するための酸変性ポリオレフィンを混合したものであり、前記樹脂を用いて成形体を成形し、該成形体の表面を塗装することを特徴としている。
【0009】
本発明における各要素の態様を以下に例示する。
【0010】
1.熱可塑性樹脂
熱可塑性樹脂は、ISO62に準拠して測定した吸水率が0.5%(質量%)を超えると吸水により剛性が低下し、成形体に反り等の変形が生じる。
熱可塑性樹脂としては、特に限定はされないが、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリプロピレン樹脂(PP)等のポリオレフィン樹脂、ポリアミド6T樹脂(PA6T)、ポリアミド9T樹脂(PA9T)、ポリメタキシリレンアジパミド樹脂(PA−MXD6)等の芳香族ポリアミド樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂(変性PPE)、ポリ乳酸樹脂(PLA)、ポリカーボネート樹脂(PC)とアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)とのポリマーアロイ(PC/ABS)、ポリカーボネート樹脂(PC)とポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)とのポリマーアロイ(PC/PET)、ポリカーボネート樹脂(PC)とポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)とのポリマーアロイ(PC/PBT)等が例示できる。
成形体中における熱可塑性樹脂の含有率は、特に限定はされないが、25〜89質量%であることが好ましく、より好ましくは、37〜87質量%である。
【0011】
2.繊維状補強材
繊維状補強材は、長さ方向と直交する断面における最短径に対する最長径の比(長さの比)である異形比が1.5未満では、異方性が大きくなり成形体に反り等の変形が生じる。一方、5を越えると補強材(ガラス繊維を用いた場合はガラス)浮きなどにより、成形体の表面外観が低下するおそれがある。より好ましくは、2〜4である。
異形断面の形状としては、特に限定はされないが、まゆ形、ひょうたん形、楕円形、長円形、長方形、菱形等が例示できる。
太さとしては、特に限定はされないが、断面の最短径の長さで3〜10μmであることが好ましい。
繊維長としては、特に限定はされないが、100〜700μmであることが好ましい。
繊維状補強材としては、特に限定はされないが、ガラス繊維、炭素繊維、バサルト繊維、アラミド繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維等が例示でき、ガラス繊維が好ましい。
また、樹脂との親和性を高めるため表面処理が施されていてもよいし、施されていなくてもよい。
成形体中の繊維状補強材の含有率としては、特に限定はされないが、10〜70質量%であることが好ましい、含有率が10質量%未満では、成形体の剛性があまり高いものとならない。一方、70質量%を越えると流動性が低下し、成形できないからである。
【0012】
3.酸変性ポリオレフィン
酸変性ポリオレフィンとしては、特に限定はされないが、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン等の無水マレイン酸変性ポリオレフィン、エチレン−アクリル酸エチル共重合体等が例示できる。
成形体中における酸変性ポリオレフィンの含有率は、特に限定はされないが、0.3〜15質量%であることが好ましい。0.3質量%未満では、繊維状補強材により生じる成形体の表面の凹陥を防止することができず、15質量%を超えると、成形時に金型に成形体が貼りつくなどし、射出成形性が悪くなる。より好ましくは、1〜10質量%である。
【0013】
4.その他の添加剤
熱可塑性樹脂と酸変性ポリオレフィンとの混合物は、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、光安定剤、滑剤、可塑剤、着色剤、分散剤、難燃剤等の添加剤やタルク、マイカ、炭酸カルシウム、ガラスフレーク等の充填剤を含有していてもよい。
【0014】
5.塗膜
塗膜となる塗料としては、特に限定はされないが、アクリル系塗料、ウレタン系塗料、エポキシ系塗料等が例示できる。
【0015】
6.成形体の製造方法
成形体の製造方法としては、特に限定はされないが、加圧式ニーダ、バンバリーミキサー等を用いたバッチ式や二軸押出機等を用いた連続式で原料成分(樹脂、繊維状補強材等)を予め混練したものを用いて成形してもよいし、直接各原料成分を射出成形機等の成形機に計量・投入し、成形してもよい。
また、成形方法としては、特に限定はされないが、射出成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形等の樹脂の成形に用いる方法が例示できる。
【0016】
7.塗装方法
塗膜を得るための塗装方法としては、特に限定はされないが、エアースプレー塗装、エアーレススプレー塗装、シャワーコート塗装、ロールコーター塗装等が例示できる。
【0017】
8.成形体又は塗装製品の用途
塗装製品の用途としては、特に限定はされないが、意匠性が要求され、かつ、高剛性及び高い寸法精度が要求される携帯電話の筐体等の電子機器筐体、意匠性が要求され、かつ、高剛性及び高い寸法精度が要求されるカップホルダー、ラゲッジガーニッシュ、ホイルキャップ等の自動車の内外装製品等が例示できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高剛性でありかつ寸法安定性に優れながら表面が平滑である成形体、高剛性でありかつ寸法安定性に優れながらボイドによる塗膜の欠陥がない塗装製品及びその塗膜のボイドを防止する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
成形体と成形体の表面を塗装した塗膜とを有する塗装製品であって、
成形体は、ISO62に準拠して測定した吸水率が0.5%以下の熱可塑性樹脂と酸変性ポリオレフィンとの混合物中に長さ方向と直交する断面における最短径に対する最長径の比である異形比が1.5〜5である異形断面を有するガラス繊維10〜70質量%が分散しているこを特徴とする塗装製品。
【実施例】
【0020】
図1に示すように、本発明の塗装製品は、次の表1に示す本発明の実施例の成形体の表面に塗装された塗膜を有するホイールキャップ10である。
【0021】
本発明の成形体の実施例(8種類、表1)又は比較例(7種類、表2)の配合並びに物性及び評価を表1、2に示す。また、図2、3は実施例2、図4、5は比較例7の成形体(表面外観用の試験片)の表面の顕微鏡写真である。
配合欄の単位は、質量%である。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
実施例又は比較例に用いた原料成分を以下に示す。
PP(ポリプロピレン樹脂)は、ISO62に準拠して測定した吸水率が0.03%である日本ポリプロ社の商品名「BC06C」を用いた。
PC/ABS(ポリカーボネート樹脂とアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体とのポリマーアロイ)は、ISO62に準拠して測定した吸水率が0.2%であるテクノポリマー社の商品名「CK20」を用いた。
PA6(ポリアミド6樹脂)は、ISO62に準拠して測定した吸水率が2.5%である東レ社の商品名「CM1017」を用いた。
【0025】
酸変性ポリオレフィンである無水マレイン酸変性ポリオレフィンは、三井化学社の商品名「SE800」を用いた。
【0026】
ガラス繊維1は、異形比が4である日東紡績社の商品名「CSG 3PA−820」を用いた。
ガラス繊維2は、異形比が1(円形断面)であるセントラル硝子社の商品名「ECS03−610W」を用いた。
【0027】
各試料は、表1又は2に示す配合で混合後、35mmφの二軸押出機を用い、PPは230℃、PC/ABSは270℃、PA6は260℃の条件で混練し、ペレット状にした。
このペレット状のものを射出成形機を用い、シリンダー設定温度をPPは230℃、PC/ABSは270℃、PA6は260℃の条件で射出成形し、成形体及び各測定・評価用の試験片を作成した。
【0028】
各試料の物性測定及び評価を次のようにして行った。
【0029】
(1)曲げ弾性率
ISO178に準拠して求めた。
【0030】
(2)アイゾット衝撃強度
ISO180に準拠して、ノッチありで求めた。
【0031】
(3)表面外観
一辺が70mmの正方形の試験片(厚さ:1mm)の表面平滑性及びそり高さを官能評価した。
表面平滑性の評価は、○は表面に凹陥部がなく平滑であり(図2、3参照)、×は表面に凹陥部(特にガラス繊維の周辺)があり粗面である(図4、5参照)。
そり高さの評価は、○は試験片のそり(変形)が小さい、×は試験片のそり(変形)が大きい。
【0032】
(4)射出成形性の評価
80t射出成形機を用いて、シリンダー設定温度をPPは230℃、PC/ABSは270℃、PA6は260℃の条件で射出成形したときの良否を評価した。
○は、滞留安定性、流動性等の問題がなく成形できた場合であり、×は、流動不足、計量不良等の問題が成形時にあった場合である。
【0033】
本実施例は、全て曲げ弾性率が3000MPa以上の高剛性であり、かつ、衝撃強度も70J/m以上であった。
本実施例は、ガラス繊維の含有率が10〜60質量%であり、ガラス繊維の含有率が80質量%である比較例1、4と違い、射出成形性は良好であった。
【0034】
本実施例は、ISO62に準拠して測定した吸水率が0.2%以下である、ポリプロピレン樹脂(PP)又はポリカーボネート樹脂(PC)とアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)とのポリマーアロイ(PC/ABS)を用いたことから、同吸水率が2.5%であるポリアミド6樹脂(PA6)を用いたことで樹脂の吸水によりそり高さ(変形)が大きくなった比較例2と違い、そり高さ(変形)は小さかった。
本実施例は、異形比が4の異形断面であるガラス繊維を用いたことから、異形比が1の円形断面であるガラス繊維を用いたことでそり高さ(変形)が大きくなった比較例3、5、6と違い、そり高さ(変形)は小さかった。
【0035】
本実施例は、1〜10質量%の無水マレイン酸変性ポリオレフィンを含有していることから、無水マレイン酸変性ポリオレフィンを含有していないことで図5に示すようにガラス繊維(中央の棒状物)の周りを樹脂が巻いていない(充填されていない)ことでガラス繊維の周囲に凹陥部ができ、図4に示すように表面が荒れた粗面となた比較例7と違い、図2、3に示すように平滑な表面となった。なお、図3の中央の白色部が樹脂中に埋没しているガラス繊維の陰影である。
【0036】
本発明の実施例によれば、次の(a)〜(c)の効果が得られる。
(a)高剛性であり、かつ、そり等の変形が小さいことから寸法安定性に優れた成形体を得ることができる。
(b)成形体の表面は凹陥部(特に微細なもの)がなく平滑であることから、塗装時に凹陥部に残った空気による塗膜のボイドの発生を防ぐことができる。
(c)表面に凹陥部がなく平滑な成形体を用いることで、塗膜にボイドによる欠陥のない塗装製品を得ることができる。
【0037】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施例のホイルキャップの斜視図である。
【図2】本発明の実施例2の成形体の表面の一部の顕微鏡写真である。
【図3】同表面の一部をさらに拡大した顕微鏡写真である。
【図4】比較例7の成形体の表面の一部の顕微鏡写真である。
【図5】同表面の一部をさらに拡大した顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0039】
10 ホイルキャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ISO62に準拠して測定した吸水率が0.5%以下の熱可塑性樹脂と酸変性ポリオレフィンとの混合物中に長さ方向と直交する断面における最短径に対する最長径の比である異形比が1.5〜5である異形断面を有する繊維状補強材が分散しているこを特徴とする成形体。
【請求項2】
前記繊維状補強材の含有率が10〜70質量%である請求項1記載の成形体。
【請求項3】
前記繊維状補強材がガラス繊維である請求項1又は2記載の成形体。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂がポリプロピレン樹脂である請求項1〜3のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂がポリカーボネート樹脂とアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体とのポリマーアロイである請求項1〜3のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の成形体と該成形体の表面を塗装した塗膜とを有する塗装製品。
【請求項7】
繊維状補強材が分散している樹脂からなる成形体と該成形体の表面を塗装した塗膜とを有する塗装製品の該塗膜のボイド防止方法であって、
前記繊維状補強材は、長さ方向と直交する断面における最短径に対する最長径の比である異形比が1.5〜5である異形断面を有し、
前記樹脂は、ISO62に準拠して測定した吸水率が0.5%以下の熱可塑性樹脂に前記繊維状補強材により前記成形体の表面に凹陥部が生じるのを防止するための酸変性ポリオレフィンを混合したものであり、
前記樹脂を用いて成形体を成形し、
該成形体の表面を塗装することを特徴とするボイド防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−167318(P2009−167318A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8105(P2008−8105)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】