説明

成形材料用樹脂組成物およびそれを用いた成形品

本発明の成形材料用樹脂組成物は、コア重合体とシェル重合体とからなるコアシェル構造を有する一次粒子からなり、コア重合体およびシェル重合体にメチルメタクリレート単量体単位を有し、コア重合体におけるメチルメタクリレート単量体単位の含有率がシェル重合体におけるメチルメタクリレート単量体の含有率より少ないアクリル系重合体と可塑剤とからなる成形材料用樹脂組成物であり、成形時の成形性が高く、更には得られる成形品の硬度、引裂強度が高く、可塑剤のブリードアウトが低い成形材料用樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクリル系重合体と可塑剤とからなる成形材料用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系樹脂は透明性や耐候性に優れており、カレンダー成形、押出成形、射出成形法等による成形材料として用いられている。
例えばTダイ押出法で成形されたアクリル系樹脂フィルムは、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル等の成形品の表面保護などに使用されている。また、従来用いられている軟質塩化ビニル樹脂フィルムに比べて、軟質アクリル系樹脂フィルムは耐候性に優れることが知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2000−103930号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、アクリル系重合体と可塑剤とを成形加工用樹脂組成物として使用するに際して、成形時の成形性が低く、更には得られる成形品の硬度、引裂強度が低くなることや、可塑剤のブリードアウトが発生するという課題を解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、コア重合体とシェル重合体とからなるコアシェル構造を有する一次粒子からなり、コア重合体およびシェル重合体にメチルメタクリレート単量体単位を有し、コア重合体におけるメチルメタクリレート単量体単位の含有率がシェル重合体におけるメチルメタクリレート単量体の含有率より少ないアクリル系重合体と可塑剤とからなる成形材料用樹脂組成物にある。
【発明の効果】
【0006】
本発明の成形材料用樹脂組成物は、成形を行う際の加工性に優れるだけでなく、成形品は硬度、引裂強度に優れ、更には可塑剤のブリードアウトがない成形品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本願発明において、(メタ)アクリル酸はアクリル酸及び/又はメタクリル酸を、(メタ)アクリレートはアクリレート及び/又はメタクリレートを表す。また、「一次粒子」とは重合体を構成する最小単位の粒子を指す。
本発明のアクリル系重合体はコアシェル構造を有する一次粒子からなる。コアシェル構造とは、異なる組成のモノマー混合物を多段階にわけてシード重合することによって得られるものを言う。なお、「シード重合」とは、あらかじめ調製された重合体粒子をシード(種)とし、これに単量体を吸収・重合させて粒子を成長させる重合方法を指す。
本発明の成形材料用樹脂組成物に用いるアクリル系重合体は、コア重合体とシェル重合体とからなるコアシェル構造を有する一次粒子からなる。
シェル部の厚みは、特に限定はされないが、一次粒子径の約10%以上であることが好ましい。
【0008】
また、アクリル系重合体は、コア重合体およびシェル重合体にメチルメタクリレート単量体単位を有し、コア重合体におけるメチルメタクリレート単量体単位の含有率がシェル重合体におけるメチルメタクリレート単量体の含有率より少ない量で構成される。
コア重合体が含有するメチルメタクリレート単量体単位の含有率は、0.01〜90mol%が好ましく、より好ましくは10〜80mol%である。メチルメタクリレート単量体単位の含有量が0.01mol%未満となると、コア重合体の可塑剤に対する相溶性が高くなりすぎることにより、粘着性が高くなる傾向にある。また、含有率が90mol%を超えると、コア重合体の可塑剤に対する相溶性が低くなり、コア重合体の本来の目的である可塑剤保持性が低下してしまい、可塑剤のブリードアウトが増加する傾向にある。
コア重合体には、その他の共重合可能な単量体を使用することができる。
【0009】
シェル重合体が含有するメチルメタクリレート単量体単位の含有率は、50〜100mol%、より好ましくは60〜100mol%である。メチルメタクリレートの含有率が50mol%未満であると、アクリル系重合体を回収する際の凝固性が悪くなる傾向にある。
【0010】
本発明に用いるアクリル系重合体においては、メチルメタクリレート20〜85mol%、C2〜C8の脂肪族アルコール及び/又は芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステル15〜80mol%、その他の共重合可能な単量体0〜30mol%(各単量体の合計量が100mol%)からなる単量体混合物を重合することにより得られる重合体を、コア重合体として用いることが好ましい。
また、本発明においては、メチルメタクリレート20〜79.5mol%、C2〜C8の脂肪族アルコール及び/又は芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステル5〜40mol%、カルボキシル基又はスルホン酸基含有単量体0.5〜10mol%、その他の共重合可能な単量体0〜30mol%からなる単量体混合物を重合することにより、シェル重合体とすることが好ましい。
【0011】
前記C2〜C8の脂肪族アルコール及び/又は芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルは特に限定しないが、例えばエチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート等の直鎖脂肪族アルコールの(メタ)アクリル酸エステル類、又はシクロヘキシル(メタ)アクリレート等の環式脂肪族アルコールの(メタ)アクリル酸エステル類、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エスエル類等が使用できる。中でも好ましくは、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレートである。これらのモノマーは容易に入手することができ、工業的な実用化の点で有意義である。
【0012】
前記カルボキシル基又はスルホン酸基含有モノマーとしては特に限定せず、例えばメタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、メタクリル酸2−サクシノロイルオキシエチル−2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸、メタクリル酸2−マレイノロイルオキシエチル−2−メタクリロイルオキシエチルマレイン酸、メタクリル酸2−フタロイルオキシエチル−2−メタクリロイルオキシエチルフタル酸、メタクリル酸2−ヘキサヒドロフタロイルオキシエチル−2−メタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸等のカルボキシル基含有モノマー、アリルスルホン酸等のスルホン酸基含有モノマー等が使用できる。好ましくはメタクリル酸、アクリル酸であり、これらは工業的に安価で容易に入手することができ、他のアクリル系モノマー成分との共重合性も良く生産性の点でも好ましい。
また、これらの酸基含有モノマーはアルカリ金属などの塩になっていることも可能であり、例えば、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、アルミニウム塩等が挙げられる。これらは水媒体中で重合する際に塩の形になることも可能であり、また重合後に塩の形になることも可能である。
【0013】
コア重合体及びシェル重合体で用いるその他の共重合可能なモノマーとしては、例えばラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のC9以上のアルコールの(メタ)アクリレート類;アセトアセトキエチル(メタ)アクリレート等のカルボニル基含有(メタ)アクリレート類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート類;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリレート類;N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート類;(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート類;ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−エトキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド等のアクリルアミド及びその誘導体;スチレン及びその誘導体;酢酸ビニル;ウレタン変性アクリレート類;エポキシ変性アクリレート類;シリコーン変性アクリレート類等が広く使用可能であり、用途に応じて使い分けることができる。
【0014】
本発明に用いるアクリル系重合体は、その重量平均分子量が、20万〜500万の範囲内にあることが好ましい。重量平均分子量が20万未満であると、樹脂組成物の成形により得られる成形品の引裂強度等の物性が低下する傾向にある。また、500万を超えると樹脂組成物の成型加工性が低下する傾向にある。アクリル系重合体の重量平均分子量は、成形性の観点から20〜100万が更に好ましく、最も好ましくは、20万〜80万である。分子量がこの範囲にあることにより、成形後の収縮が少なく、寸法安定性が良好になるためである。
また、本発明のアクリル系重合体は、一次粒子の平均粒子径が250nm以上であるアクリル系重合体を用いることが好ましい。
【0015】
本発明に用いる可塑剤としては、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル等のフタル酸ジアルキル系、フタル酸ブチルベンジル等のフタル酸アルキルベンジル系、フタル酸アルキルアリール系、フタル酸ジベンジル系、フタル酸ジアリール系、リン酸トリクレシル等のリン酸トリアリール系、リン酸トリアルキル系、リン酸アルキルアリール系、アジピン酸エステル系、エーテル系、ポリエステル系、エポキシ化大豆油等の大豆油系等が使用可能である。また、ポリプロピレングリコールを可塑剤として用いる事も可能である。これらは、それぞれの可塑剤が有する特色により適宜選択して配合することができる。これらのうち、工業的に安価で入手しやすいこと、また、作業性、低毒性などの点から、フタル酸エステル系可塑剤が好ましい。
これらの可塑剤は1種を単独で用いるだけでなく、目的に応じて2種以上の可塑剤を混合して用いることも可能である。
可塑剤の配合量は特に限定しないが、好ましくは重合体100質量部に対して下限は20質量部以上、さらに好ましくは30質量部以上であり、上限は100質量部以下、さらに好ましくは70質量部以下である。可塑剤量がこの範囲にあると、成形体の柔軟性と強度とのバランスがとくに良好なためである。
【0016】
本発明に用いるアクリル系重合体の製造方法は、上述した組成と構造が得られる限り特に限定せず、たとえばシード重合によりコアシェル構造を有する粒子を調製し、これをスプレードライ法(噴霧乾燥法)又は凝固法により固形分を回収する方法などが挙げられる。
コアシェル構造を有するアクリル系重合体のうち、特に一次粒子の粒径が250nm以上であるアクリル系重合体を得るためには、シード重合を何回も繰り返すことにより粒子を成長させる方法、ソープフリー重合によって重合体を得る方法、乳化剤の量を制限する方法、乳化力の弱い乳化剤又は保護コロイド等を用いる方法などにより製造可能である。これらのうち、好ましくは、ソープフリー重合により比較的大きな粒子径を有するシード粒子を調製しておき、シード粒子の存在下に単量体混合物を逐次滴下していくシード重合法を用いることが、工業的に簡便な方法である。
【0017】
さらに好ましくは、水を主成分とする媒体中で、20℃において該媒体に対して0.02質量%以上の溶解度を有し、かつ、その重合体は該媒体に溶解しない単量体を、媒体中に乳化剤ミセルが存在しない状態において水溶性ラジカル重合開始剤を用いて重合せしめ、重合体分散液を調製し、さらに上記の重合体分散液に対して単量体混合物を滴下して被覆された重合体分散液を得る方法が好適である。
この理由は、媒体に対して0.02質量%未満の溶解度しか有さない単量体の場合は、ソープフリー重合自体がきわめて進行しにくいからである。また、単量体から得られる重合体が該媒体に溶解してしまう場合、粒子の形成が行われないことになるから、そもそも重合体粒子を得ることができない。また、媒体中に乳化剤ミセルが存在する場合、当然のことながらソープフリー重合の定義から外れるため、不適当であることは言うまでもない。この手法を用いることにより、工業的に簡便で、かつ、スケールの発生や新粒子の発生などが抑制され、安定に目的とする粒子を得ることができるため有利である。
【0018】
本発明に用いるアクリル系重合体は、前述したようにコアシェル構造を有する一次粒子からなるものであるが、二次以上の高次構造は特に限定されず、例えば一次粒子が弱い凝集力で凝集した粒子、強い凝集力で凝集した粒子、熱により相互に融着した粒子といった二次構造をとったものでもよい。
さらにはこれらの二次粒子を顆粒化などの処理によって、より高次の構造を持たせることも可能である。これらの高次構造は、例えば微粒子の粉立ちを抑制したり流動性を高める等、作業性を改善する目的で行うこともできるし、微粒子の可塑剤に対する分散状態を改質する等、物性の改善のために行うこともでき、用途と要求に応じて適宜設計することが可能である。
【0019】
本発明で用いるコアシェル構造を有する一次粒子からなるアクリル系重合体は、コア重合体とシェル重合体がグラフト交叉剤によってグラフト結合されていてもよい。この場合のグラフト交叉剤としてはアリルメタクリレート等が利用できる。
また、コア重合体及び/又はシェル重合体が架橋されていていてもよい。この場合に用いる架橋性単量体としては、多官能単量体を利用することができる。また多官能単量体以外にも、二価以上のアルカリ金属又は多官能アミン類などを添加することによりカルボキシル基又はスルホン酸基とのイオン架橋を行わせることも可能である。
【0020】
本発明の成形材料用樹脂組成物には、用途に応じて各種の添加剤(材)を配合することが可能である。例えば炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、バライタ、クレー、コロイダルシリカ、マイカ粉、珪砂、珪藻土、カオリン、タルク、ベントナイト、ガラス粉末、酸化アルミニウム等の充填材、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料、ミネラルターペン、ミネラルスピリット等の希釈剤、消泡剤、防黴剤、防臭剤、抗菌剤、界面活性剤、安定剤、加工助剤(例えば、三菱レイヨン(株)製、商品名:メタブレンP)、滑剤(例えば、前同、商品名:メタブレンL)、衝撃強度改質剤(例えば、前同、商品名:メタブレンC)、紫外線吸収剤、酸化防止剤、つや消し剤、変性剤、香料、発泡剤、レベリング剤、接着剤等を自由に配合することが可能である。
本発明の樹脂組成物において、充填剤を配合する場合には、重合体100質量部に対して0〜400質量部となるよう配合することが好ましい。配合量を400質量部以下とすると、成形品の強度が向上する傾向にある。この含有量の下限は好ましくは10質量部、更に好ましくは30質量部である。また、この含有量の上限は好ましくは200質量部、更に好ましくは100質量部である。
【0021】
本発明において、アクリル系重合体と可塑剤との配合方法は、特に限定されるものではないが、単純にブレンドした場合(1)粉体状になるもの、(2)ゲル状の塊になるもの、(3)ゾル状になるものの3種類に大きく分けられる。
(1)の場合は従来の軟質塩化ビニル樹脂の代替材料として塩化ビニル加工用設備で取り扱うことができるが、(2)、(3)の場合は従来の加工用設備で取り扱えない場合もある。この様な課題は、予め樹脂組成物を加熱溶融し、ペレットとして置くことにより解決することができる。
本発明において、アクリル系重合体に対する可塑剤の配合割合は、可塑剤の種類によっても異なるが一般的には、アクリル系重合体100重量部に対し140重量部から5重量部の範囲、好ましくは100〜10重量部である。可塑剤の配合割合が140重量部を超えると粘度が低くなりすぎ、5重量部未満であると成形性が低下する。
【0022】
本発明の成形材料用樹脂組成物は、Tダイ押出成形、異型押出成形、溶液キャスト成形、インフレーション法、カレンダー法、射出成形、ブロー成形、真空成形など従来より知られる各種の成形法にて成形することができる。
カレンダー法には、例えば、従来より塩化ビニル樹脂フィルムの成形に用いられているような押出機、バンバリーミキサー等の混練機、複数本の金属ロールよりなる製膜装置、および、得られたフィルムを巻き取る巻取機より構成される設備を用いることができる。この場合、混練機での混練状態、ロール製膜装置でのバンク状態、および、ロール面からの剥離性が、成形性の良悪を判断する上で重要である。
【0023】
本発明の成形材料用樹脂組成物を成形して得たフィルムまたはシートは、それのみで用いるほか、基材の表層として用いたり、あるいは基材の表層が三層以上の場合はその中間層として用いることができる。
上記の基材としては、各種の熱可塑性樹脂からなる基材を用いることができる。具体的には、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂等を用いることができる。また、本発明の成形材料用樹脂組成物と熱融着しない樹脂や木材、鋼板等の基材等であっても、接着剤を使用して貼り合わせることは可能である。
積層物の製造法としては、特に制限はなく各種の積層方法が採用できるが、加熱ロールを用いる熱ラミネーション法が好ましい。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。なお、下記実施例における部数はすべて質量基準である。
[重合体粒子A1の製造]
コア重合体形成用単量体混合物Mcとして、メチルメタクリレート420.8g、n−ブチルメタクリレート398.2gを均一に混合したものを用いた。
また、シェル重合体形成用単量体混合物Msとして、メチルメタクリレート533.1g、i−ブチルメタクリレート199.1g、メタクリル酸24.08gを均一に混合したものを用いた。
温度計、窒素ガス導入管、攪拌棒、滴下漏斗、冷却管を装備した5リットルの4つ口フラスコに、純水1414gを入れ、30分間、十分に窒素ガスを通気し純水中の溶存酸素を置換した。窒素ガス通気を停止した後、上記コア重合体形成用単量体混合物Mcの1/10の量を投入し、150rpmで攪拌しながら80℃に昇温した。内温が80℃に達した時点で、28gの純水に溶解した過硫酸カリウム0.70gを一度に添加し、ソープフリー重合を開始し、そのまま80℃にて攪拌を60分継続し、シード粒子分散液を得た。
引き続きこのシード粒子分散液に対して、単量体乳化液(上記コア重合体形成用単量体混合物Mcの9/10の量、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(花王(株)製、商品名:ペレックスO−TP、以下同じ。)7.00g、純水350.0gを混合攪拌して乳化したもの)を2.5時間かけて滴下し、引き続き80℃にて1時間攪拌を継続して、重合体分散液を得た。
次いで、この重合体分散液に対して、単量体乳化液(上記シェル重合体形成用単量体混合物Msの全量、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム7.00g、純水350.0gを混合攪拌して乳化したもの)を2.5時間かけて滴下し、引き続き80℃にて1時間攪拌を継続して、重合体分散液を得た。
得られた重合体分散液を室温まで冷却した後、スプレードライヤー(大川原化工機(株)製、L−8型)を用いて、入口温度170℃、出口温度75℃、アトマイザ回転数25,000rpmにて噴霧乾燥し、重合体粒子A1を得た。
得られた重合体粒子A1の重量平均分子量、一次粒子の粒子径を表1に示した。
【0025】
[重合体粒子A2の製造]
コア重合体形成用単量体混合物Mcとして、メチルメタクリレート245.6g、n−ブチルメタクリレート348.5gを均一に混合したものを用いた。
また、シェル重合体形成用単量体混合物Msとして、メチルメタクリレート693.0g、n−ブチルメタクリレート258.9g、メタクリル酸31.36gを均一に混合したものを用いた。
以下、重合体粒子A1の製造例と同様にしてソープフリー重合を行いシード粒子分散液を得、次いで、このシード粒子分散液に対して、単量体乳化液(上記コア重合体形成用単量体混合物Mcの残りの9/10量とジアルキルスルホコハク酸ナトリウム4.90g、純水245.0g混合攪拌して乳化したもの)を1.75時間かけて滴下し、引き続き80℃にて1時間攪拌を継続して、重合体分散液を得た。
引き続きこの重合体分散液に対して、単量体乳化液(上記シェル重合体形成用単量体混合物Msの全量、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム9.10g、純水455.0gを混合攪拌して乳化したもの)を3.25時間かけて滴下し、引き続き80℃にて1時間攪拌を継続して、重合体分散液を得た。
以下、重合体粒子A1の製造例と同様にして、重合体粒子A2を得た。
得られた重合体粒子A2の重量平均分子量、一次粒子の粒子径を表1に示した。
【0026】
[重合体粒子A3の製造]
コア重合体形成用単量体混合物Mcとして、メチルメタクリレート456.0g、n−ブチルメタクリレート348.5gを均一に混合したものを用いた。
また、シェル重合体形成用単量体混合物Msとして、メチルメタクリレート470.0g、n−ブチルメタクリレート288.7g、メタクリル酸12.04g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート18.20gを均一に混合したものを用いた。
以下、重合体粒子A1の製造例と同様にして、ソープフリー重合を行いシード粒子分散液を得、次いで、このシード粒子分散液に対して重合体粒子A1の製造例と同様にして重合体分散液を得た。
引き続きこの重合体分散液に対して、単量体乳化液(上記シェル重合体形成用単量体混合物Msの全量、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム7.00g、純水350.0gを混合攪拌して乳化したもの)を2.5時間かけて滴下し、引き続き80℃にて1時間攪拌を継続して、重合体分散液を得た。
以下、重合体粒子A1の製造例と同様にして、重合体粒子A3を得た。
得られた重合体粒子A3の重量平均分子量、一次粒子の粒子径を表1に示した。
【0027】
[重合体粒子A4の製造]
コア重合体形成用単量体混合物Mcとして、メチルメタクリレート589.1g、n−ブチルメタクリレート557.5g、を均一に混合したものを用いた。
また、シェル重合体形成用単量体混合物Msとして、メチルメタクリレート319.9g、n−ブチルメタクリレート119.4g、メタクリル酸14.42gを均一に混合したものを用いた。
以下、重合体粒子A1の製造例と同様にして、ただし、フラスコには純水910gを入れ、ソープフリー重合を行いシード粒子分散液を得た。
引き続きこのシード粒子分散液に対して、単量体乳化液(上記コア重合体形成用単量体混合物Mcの残り9/10量と、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム9.80g、純水490.0gを混合攪拌して乳化したもの)を3.5時間かけて滴下し、引き続き80℃にて1時間攪拌を継続して、重合体分散液を得た。
引き続きこの重合体分散液に対して、単量体乳化液(上記シェル重合体形成用単量体混合物Msの全量、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム4.20g、純水210.0gを混合攪拌して乳化したもの)を1.5時間かけて滴下し、引き続き80℃にて1時間攪拌を継続して、重合体分散液を得た。
以下、重合体粒子A1の製造例と同様にして、重合体粒子A4を得た。
得られた重合体粒子A4の重量平均分子量、一次粒子の粒子径を表1に示した。
【0028】
[重合体粒子A5の製造]
コア重合体形成用単量体混合物Mcとして、メチルメタクリレート280.6g、n−ブチルメタクリレート597.2gを均一に混合したものを用いた。
また、シェル重合体形成用単量体混合物Msとして、メチルメタクリレート533.1g、n−ブチルメタクリレート199.1g、メタクリル酸24.08gを均一に混合したものを用いた。
以下、重合体粒子A4の製造例と同様にして、ソープフリー重合を行いシード粒子分散液を得た。
引き続きこのシード粒子分散液に対して、単量体乳化液(上記コア重合体形成用単量体混合物Mcの残り9/10量と、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム7.00g、純水350.0gを混合攪拌して乳化したもの)を2.5時間かけて滴下し、引き続き80℃にて1時間攪拌を継続して、重合体分散液を得た。
引き続きこの重合体分散液に対して、単量体乳化液(上記シェル重合体形成用単量体混合物Msの全量、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム7.00g、純水350.0gを混合攪拌して乳化したもの)を2.5時間かけて滴下し、引き続き80℃にて1時間攪拌を継続して、重合体分散液を得た。
以下、重合体粒子A1の製造例と同様にして、重合体粒子A5を得た。
得られた重合体粒子A5の重量平均分子量、一次粒子の粒子径を表1に示した。
【0029】
[重合体粒子A6の製造]
コア重合体形成用単量体混合物Mcとして、メチルメタクリレート592.6g、n−ブチルメタクリレート452.9gを均一に混合したものを用いた。
また、シェル重合体形成用単量体混合物Msとして、メチルメタクリレート392.8g、n−ブチルメタクリレート111.4g、グリシジルメタクリレート27.86gを均一に混合したものを用いた。
以下、重合体粒子A1の製造例と同様にして、ソープフリー重合を行いシード粒子分散液を得た。引き続きこのシード粒子分散液に対して、単量体乳化液(上記コア重合体形成用単量体混合物Mcの残り9/10量と、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム9.10g、純水455.0gを混合攪拌して乳化したもの)を3.25時間かけて滴下し、引き続き80℃にて1時間攪拌を継続して、重合体分散液を得た。
引き続きこの重合体分散液に対して、単量体乳化液(シェル単量体混合物Msの全量、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム4.90g、純水245.0gを混合攪拌して乳化したもの)を1.75時間かけて滴下し、引き続き80℃にて1時間攪拌を継続して、重合体分散液を得た。
以下、重合体粒子A1の製造例と同様にして、重合体粒子A6を得た。
得られた重合体粒子A6の重量平均分子量、一次粒子の粒子径を表1に示した。
【0030】
[重合体粒子A7の製造]
コア重合体形成用単量体混合物Mcとして、メチルメタクリレート420.8g、n−ブチルメタクリレート398.2gを均一に混合したものを用いた。
また、シェル重合体形成用単量体混合物Msとして、メチルメタクリレート673.4g、メタクリル酸39.76gを均一に混合したものを用いた。
以下、重合体粒子A1の製造例と同様にして、重合体粒子A7を得た。
得られた重合体粒子A7の重量平均分子量、一次粒子の粒子径を表1に示した。
【0031】
[重合体粒子A8の製造]
コア重合体形成用単量体混合物Mcとして、メチルメタクリレート561.1g、2−エチルヘキシルアクリレート258.0gを均一に混合したものを用いた。
また、シェル重合体形成用単量体混合物Msとして、メチルメタクリレート631.3g、2−エチルヘキシルアクリレート74.62g、メタクリル酸24.08gを均一に混合した。
以下、重合体粒子A1の製造例と同様にして、重合体粒子A8を得た。
得られた重合体粒子A8の重量平均分子量、一次粒子の粒子径を表1に示した。
【0032】
[重合体粒子B1の製造]
コア重合体形成用単量体混合物Mcとして、メチルメタクリレート561.1g、n−ブチルメタクリレート199.1gを均一に混合したものを用いた。
また、シェル重合体形成用単量体混合物Msとして、メチルメタクリレート420.8g、n−ブチルメタクリレート358.4g、メタクリル酸24.08gを均一に混合したものを用いた。
以下、重合体粒子A1の製造例と同様にして、重合体粒子B1を得た。
得られた重合体粒子B1の重量平均分子量、1次粒子の粒子径を表1に示した。
【0033】
[重合体粒子B2の製造]
コア重合体形成用単量体混合物Mcとして、メチルメタクリレート392.8g、n−ブチルメタクリレート139.3gを均一に混合したものを用いた。また、シェル重合体形成用単量体混合物Msとして、メチルメタクリレート547.1g、n−ブチルメタクリレート465.8g、メタクリル酸31.36gを均一に混合したものを用いた。
以下、重合体粒子A1の製造例と同様にして、ソープフリー重合を行いシード粒子分散液を製造し、引き続きこのシード粒子分散液に対して、単量体乳化液(上記コア重合体形成用単量体混合物Mcの9/10量と、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム4.90g、純水245.0gを混合攪拌して乳化したもの)を1.75時間かけて滴下し、引き続き80℃にて1時間攪拌を継続して、重合体分散液を得た。
引き続き、この重合体分散液に対して、単量体乳化液(前記シェル重合体形成用単量体混合物Msの全量、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム9.10g、純水455.0gを混合攪拌して乳化したもの)を3.25時間かけて滴下し、引き続き80℃にて1時間攪拌を継続して、重合体分散液を得た。
以下、重合体粒子A1の製造例と同様にして、重合体粒子B2を得た。
得られた重合体粒子B2の重量平均分子量、一次粒子の粒子径を表1に示した。
【0034】


【0035】
[実施例1〜22]、(比較例1〜5)
上記製造例で得たアクリル系重合体A1〜A8、B1〜B2、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、ポリエーテルエステル、アジピン酸ポリエステル等のポリエステル系可塑剤、分子量1,000〜10,000のブチルアクリレート重合体、ブチルアクリレート−スチレン共重合体等のアクリル系オリゴマー、ポリプロピレングリコールを表2に示した割合で計量し、バンバリーミキサーにて攪拌し、コンパウンドを得た。
【0036】
[実施例23〜27]
上記製造例で得たアクリル系重合体A1、フタル酸ジイソノニル、炭酸カルシウム、酸化防止剤、滑剤を表3に示した割合で計量し、バンバリーミキサーにて攪拌し、コンパウンドを得た。
【0037】
実施例1〜27、及び比較例1〜5ついては、表2の配合処方に従って配合したコンパウンドを、同方向2軸押出機(ダイス穴4)を用い、設定温度をC1、C2、C3、C4、C5、C6、C7、Dの順に110℃、150℃、170℃、180℃、190℃、190℃、200℃、200℃、とし、モーター回転数230rpm、フィーダー回転数15rpmにてペレット化した。このペレットを、8インチテストロールを使用して設定温度160℃で混練し、シートを作成した。ロール成形における加工性および得られたシートの各種物性を評価した結果を表2に示す。
【0038】
また実施例23〜27については、表3の配合処方に従って配合したコンパウンドを、異方向2軸押出機を用いて同様にペレット化した。このペレットを射出成形機を用いてダンベル試験片を作成した。射出成形の条件は、川口製50t射出成形機を用い、設定温度をC1、C2、C3、C4、Nの順に150℃、170℃、200℃、200℃、200℃、とした。金型はダンベル試験片(刻印付)、金型温度25℃、射出速度90%(1速)、射出圧29.4%(SS+3%)、計量55mm、回転数24%、射出15秒、冷却30秒、背圧2%で行った。得られたダンベル試験片より、引張強度を測定した。その結果を表3に示す。
【0039】
なお、表2及び表3に記載の各評価は、以下の方法により行った。
(1)バンク状態
バンクが均一な状態で回転しているときを○とし、そうでないときを×とした。
(2)硬度
JIS K7202記載の方法に準拠し、厚さ1mmのロールシートを6枚重ねてプレス成形を行い、得られたシートの硬度を硬度計を用いて測定した。
(3)引裂強度
JIS K6252記載の方法に準拠し、厚さ1mmのロールシートを切り込み有りアングル型の金型で打ち抜き試験機を用いて試験片を作成し、インストロン引張試験機で、引張速度:200mm/min、チャック間:60mmで引裂強度の測定を行った。(単位:N/mm2)
(4)可塑剤のブリードアウト性
ロール成形により得られたシート2枚をガラス板に挟み、荷重(10kg/100cm2)をかけた状態で、ギアオーブン中に100℃で120分静置した後、目視にてシートの表面状態を観察した。
○:ブリードアウトなし
×:ブリードアウト有り
(5)引張強度、引張伸度
射出成形で得られたASTM1号ダンベル試験片を、インストロン引張試験機で、引張速度:50mm/min、チャック間:115mmでASTM D638に記載の方法に準拠して引張試験を行い、破断時の引張強度および引張伸度を求めた。(単位:引張強度…MPa、引張伸度…%)
【0040】


【0041】

【0042】
表2及び表3中の略号は以下の通りである。
DOP:フタル酸ジオクチル
DINP:フタル酸ジイソノニル
ポリエステル系:(大日本インキ化学工業(株)製、W2310)
PPG:ポリプロピレングリコール(旭電化(株)製、アデカポリエーテルP−700)
アクリル系オリゴマー:ARUFON UP1021(東亜合成(株)製)
変性剤:無水マレイン酸
メタブレンC:C201A(三菱レイヨン(株)製、衝撃強度改質剤)
メタブレンW:W341(三菱レイヨン(株)製、耐侯性衝撃強度改質剤)
メタブレンS:S2001(三菱レイヨン(株)製、耐侯性衝撃強度改質剤)
メタブレンL:1000(三菱レイヨン(株)製、アクリル系高分子滑剤)
メタブレンP:530A(三菱レイヨン(株)製、アクリル系加工助剤)
ホワイトンSB:重質炭酸カルシウム(白石工業(株)製)
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の成形材料用樹脂組成物は、従来塩化ビニル樹脂が広く使用されている各種用途、例えばパッキング、ガスケット、壁紙等の内装品、玩具、日用品、雑貨などの各種、フィルム、シート、異型押出成形品、射出成形品等の成形に広く使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア重合体とシェル重合体とからなるコアシェル構造を有する一次粒子からなり、コア重合体およびシェル重合体にメチルメタクリレート単量体単位を有し、コア重合体におけるメチルメタクリレート単量体単位の含有率がシェル重合体におけるメチルメタクリレート単量体の含有率より少ないアクリル系重合体と可塑剤とからなる成形材料用樹脂組成物。
【請求項2】
重量平均分子量が20万〜500万であるアクリル系重合体を用いることを特徴とする成形材料用樹脂組成物。
【請求項3】
一次粒子の平均粒子径が250nm以上であるアクリル系重合体を用いることを特徴とする請求項1又は2記載の成形材料用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項記載の成形材料用樹脂組成物を、成形してなる成形品。

【国際公開番号】WO2005/012425
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【発行日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512522(P2005−512522)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010919
【国際出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】