説明

所望のタンパク質を高レベルで発現する安定細胞株を生産する方法

本発明は、タンパク質の工業的生産に関する。より具体的には、本発明は、選択圧非存在下であっても所望のタンパク質を安定発現する細胞を収得する方法に関する。代用マーカー(surrogate marker)としてDHFRが使用される。トランスフェクションされた細胞は、毒性物質に対する耐性に基づいて選択されたものではなく、蛍光MTXを用いたFACSにより測定された蛍光に基づいて選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質の工業的生産に関する。より具体的には、本発明は、選択圧非存在下であっても所望のタンパク質を安定発現する細胞を収得する方法に関する。代用マーカー(surrogate marker)としてDHFRが使用される。トランスフェクションされた細胞は、毒性物質に対する耐性に基づいて選択されたものではなく、蛍光MTXを用いたFACSにより測定された蛍光に基づいて選択される。
【背景技術】
【0002】
動物宿主細胞中への異種遺伝子の導入、及びその追加された遺伝子を発現する細胞のスクリーニングは、冗長かつ複雑なプロセスである。典型的には、多くのハードル、例えば、(i)トランスフェクション及び多くの発現ベクターの構築;(ii)安定に長期発現するクローンの選択;並びに(iii )所望の異種タンパク質の高効率発現等を乗り越えなければならない。
【0003】
1.異種遺伝子を発現するクローンの選択
1.1.形質転換体のスクリーニング
所望の遺伝子を組み込んだクローンの選択は、選択圧に対する耐性を付与する選択マーカーを使用して実施される。大抵の選択マーカーは、抗生物質、例えばネオマイシン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール、ピューロマイシン、ゼオシン、又はブレオマイシン等の抗生物質に対する耐性を付与する。発現ベクターから所望の遺伝子を発現する細胞クローンを生産するとき、典型的には、ホスト細胞は、所望のタンパク質及び選択マーカーを同一のベクター上にコードするプラスミドDNAベクターでトランスフェクションされる。プラスミドの容量は限定されており、故に往々にして、選択マーカーは第二のプラスミドにより発現し、それを所望の遺伝子をコードするプラスミドと共にトランスフェクションせざるを得ない。
【0004】
古典的な方法による安定トランスフェクションは、発現ベクターの宿主細胞のゲノム中へのランダム挿入を引き起こす。例えば培地への抗生物質の投与等の選択圧の使用は、抗生物質あるいは選択圧に対する耐性を提供する選択マーカーを含有するベクターが組み込まれなかった細胞を全て死滅させ得る。もしこの選択マーカーが所望の遺伝子と同一のベクター上にあれば、又はもしこの選択マーカーが第二のベクター上にあり、所望の遺伝子を含むベクターと共に組み込まれれば、その細胞は、選択マーカーと所望の遺伝子とのいずれも発現し得る。
【0005】
1.2.高生産体のスクリーニング
形質転換体を収得した後、細胞を再クローン化し、高生産体を選択する。
【0006】
高生産体を選択する可能性の一つは、所望のタンパク質の発現を直接定量することであり、例えばELISAが使用される。しかしながら、高生産体細胞は、通常第一に、容易に測定可能な代用マーカーの高発現をもってスクリーニングする。代用マーカーを使用するとき、所望のタンパク質及び代用マーカーは、通常、同一のベクター上に位置し、そしてそれら2つのタンパク質の発現レベルは相関している。
【0007】
蛍光活性化セルソーター(FACS)は、細胞を再クローン化し、蛍光代用マーカー、例えばA.ビクトリア(A.victoria)又はR.レニホルミス(R.reniformis)緑色蛍光タンパク質等の発現レベルを定量するための、容易かつ簡便な方法である。
【0008】
FACSスクリーニングを選択圧と併せて使用する選択方法は、本技術分野では、高生産体細胞を選択するのに広く使用されている(例えば、Gubin et al., 1999; Yoshikawa ef al., 2001 ; DeMaria et al., 2007を参照されたい)。
【0009】
例えば、Yoshikawaらは、FACSにより、高生産性遺伝子増幅(gene-amplified)CHO細胞の改善された選択方法を開示する(2001)。それらの細胞は、MTXに対する耐性により選択され、そして、増幅した後に、f-MTX/DHFRシステムを用いたFACSにより、高生産体細胞がスクリーニングされる。
【0010】
選択圧は、一般に、形質転換体の選択後に解除され、その時点で、POIをコードする核酸及び選択マーカーは、ゲノム中に組み込まれている。続いて、選択圧の非存在下で、FACSにより、高生産体が選択される(例えば、Gubin et al., 1997を参照されたい)。
【0011】
いずれのイベントにおいても、形質転換体は、選択圧の存在下で最初に選択される。実際に、選択圧の非存在下でトランスフェクションされた細胞を選択する試みは失敗に終わることが証明されている(例えば、Migliaccio et al. 2000を参照されたい)。
【0012】
Ottoらは、選択圧を加えずに細胞を再クローン化する方法を開示する(2005)。しかしながら、この方法は、予めトランスフェクションした細胞の再クローン化を意図したものである。加えて、ZS Greenタンパク質の発現レベルに基づいて、細胞がFACSにより選択されている。このタンパク質をコードする遺伝子は、ゾアツス真菌類(Zoanthus fungus)に由来するため、これは、製造の過程で、毒性及び/又は安全上の問題を生じる可能性がある。
【0013】
選択圧に付随する制限
選択圧の使用は、高生産体細胞のスクリーニングに広く採用されているが、多くの問題を伴う。
【0014】
選択圧を解除したとき、往々にして、発現が非常に不安定になり、場合によっては消滅する。故に、当初の形質転換体の内、安定かつ長期的な高発現を有するものはごく一部のみであり、これでは、多数の候補細胞の中からこれらのクローンを同定するのに多大な時間が必要となってしまう。典型的には、高発現候補細胞は、単離され、それから選択圧非存在下で培養される。これらの条件下で、選択圧が解除されたことにより所望の遺伝子の発現を喪失することとなり、当初選択された候補細胞の多くが除外される。よって、安定トランスフェクションの最初の選択の後、選択圧の非存在下で候補細胞を培養し、続いて所望の遺伝子発現を示すもののみをスクリーニングするのが有利であり得る。
【0015】
加えて、薬物の添加による選択圧は、ランダム挿入又は増幅のいずれかによる、重複遺伝子コピー数イベント(multiple gene copy number event)を伴う。重複コピー数イベントは、遺伝子発現の不安定性に関与し、培地中に選択圧が存在しない期間中の、コピー数の喪失が原因と考えられる。このような現象は、生体生産物発酵の力価の低下を招く。
【0016】
故に、細胞内で所望の異種タンパク質を安定に発現する高生産体細胞を同定する新規かつ強力な方法を発見することは、医薬タンパク質製造産業の分野において極めて重要であり得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、所望のタンパク質を安定に高レベルで発現する細胞株を樹立する方法の発見を主目的とする。代用マーカーとしてDHFRを使用することを基礎とする本方法は、細胞が薬物体制をもって選択されることを要しないことを特徴とする。実施例1は、本発明に係るそのような方法を開示している。本方法は、トランスフェクションされた細胞の最初の選択において毒性物質を使用することなく、蛍光標識及びFACS解析によるDHFRの発現の判定に基づいて、細胞を選択することを含む。実施例2及び3に示すように、本方法は、所望のタンパク質を安定に高いレベルで発現する細胞株の選択を可能とする。
【0018】
故に、本発明の第一の側面は、所望のタンパク質(POI)を発現する細胞をスクリーニングする方法であり:
a)細胞に:
(i)前記POIをコードする核酸;及び
(ii)ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)
をトランスフェクションし;
b)DHFRに結合する蛍光物質を用いてDHFRの発現を測定し;並びに
c)DHFRの相対的な高発現に基づき工程(b)で測定した細胞の約0.001%〜25%を選択する;
工程を含み、ここで、前記細胞が、工程(a)と(b)との間に、毒性物質耐性により選択されない前記方法に関する。
【0019】
本発明の第二の側面は、所望のタンパク質を発現する細胞をスクリーニングする方法であり:
a)細胞に前記POIをトランスフェクションし;
b)前記POIに結合する蛍光物質を用いてPOIの発現を測定し;及び
c)POIの相対的な高発現に基づき工程(b)で測定した細胞の約0.001%〜25%を選択する;
工程を含み、ここで、前記細胞が、工程(a)と(b)との間に、毒性物質耐性により選択されない前記方法に関する。
【0020】
本発明の第三の側面は、POIを発現する細胞株を収得する方法であり;
a)上記本発明の方法にいずれかに従い細胞をスクリーニングし;及び
b)少なくとも1つの前記細胞から細胞株を樹立する
工程を含む前記方法に関する。
【0021】
本発明の第四の側面は、POIを生産する方法であり;
a)上記方法に従い収得された細胞を、前記POIの発現を許容する条件下で培養し;続いて
b)そのPOIを回収する
工程を含む前記方法。
【0022】
本発明の第五の側面は、POIを発現する細胞をスクリーニングするための、又はPOIを発現する細胞株を収得するためのDHFRの使用であり、それらの細胞又は細胞株が、NTXに対する耐性、又はヒポキサンチン及びチミジン(TH)の非存在下での代謝的優勢のいずれにより選択されたものでもないことを特徴とする、前記使用。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の方法により収得された細胞株と、既知の薬物選択により収得した細胞株との、生産能力を比較したものである。平均蛍光強度(MFI)は、DHFRと複合体を形成した蛍光-MTXの量を反映している。これらの安定細胞は、実施例1及び2に記載したようにして収得又は分析された。PRE-Round 1は、最初のFACS-ソーティング前の細胞を意味する。PRE-Round 2は、第二のFACS-ソーティング前の細胞を意味する。POST-Round 2は、第二のFACS-ソーティング後の細胞を意味する。
【0024】
【図2】本発明の方法を使用して選択した細胞の安定性試験の結果を示す。試験したPOIは、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)の変異型である。細胞の1日あたりの生産量ピコグラム(pcd)において、特異的生産能力が見出される。集団倍増レベル(PDL)は、累積的な有糸分裂事象を意味する。集団倍増時間は、増殖の指標である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、細胞株を樹立する方法の発見を主目的とする。驚くべきことに、この方法は、安定細胞を選択するのに薬物耐性を使用しない(実施例1)。この方法は、薬物耐性に基づく従来の方法に近いレベルで所望のタンパク質を発現する細胞の単離を可能とする(図2)。FACSにより作製された組換え安定細胞用の増殖培地は薬物を含有しないため、重複コピー数の挿入又は所望の遺伝子の発現を圧迫しない。故に、薬物による選択圧が解除されていることによる不安定性は問題となっていない。50集団倍増期間(50 population doublings)を超える期間にわたり、完全な、安定かつ特異的な生産能力が観察されている(実施例3)。従って、本発明は、所望のタンパク質を安定に発現する細胞株を単離する強力な方法を提供する。
【0026】
1.発明の方法。
本発明の第一の側面は、所望のタンパク質(POI)を発現する細胞をスクリーニングする方法であり:
a)細胞に:
(i)前記POIをコードする核酸;及び
(ii)ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)
をトランスフェクションし;
b)DHFRに結合する蛍光物質を用いてDHFRの発現を測定し;並びに
c)DHFRの相対的な高発現に基づき工程(b)で測定した細胞の約0.001%〜25%を選択する;
工程を含み、ここで、前記細胞が、工程(a)と(b)との間に、毒性物質耐性により選択されない前記方法を指向する。
【0027】
「DHFR」という用語は、ジヒドロ葉酸還元酵素ファミリーのメンバーで()、以下:
5,6,7,8-テトラヒドロ葉酸+NADP+=7,8-ジヒドロ葉酸+NADPH
の酵素反応を触媒するポリペプチドを指す。
【0028】
DHFRをコードする核酸は、いずれを起源とするものであってもよい。例えば、エスケリッチア・コリ(Escherichia coli)等の細菌由来であり得る(Miller et al., 2005)。DHFRは、好ましくは真核生物起源である。より好ましくは哺乳類起源である。最も好ましくは、マウス起源である(Subramani et al., 1981)。一つの態様において、DHFR遺伝子は、トランスフェクションされる細胞と同一の種からクローニングされたものである。
【0029】
DHFRは、上記反応を触媒する能力を保有する限り、野生型DHFRポリペプチド又はその突然変異に対応し得る。動態パラメーターを改変したDHFRポリペプチドは、当該技術分野で周知である。
【0030】
「細胞へのトランスフェクション」という用語は、組換え核酸、例えばベクター等を、細胞に導入することとして理解されるべきである。
【0031】
細胞の集団中で、「DHFRの相対的な高発現」を示す細胞は、他の細胞よりも多量のDHFR発現を示す細胞である。例えば、第一番の細胞が10mg/lのDHFRを発現し、第二番の細胞が1mg/LのDHFRを発現しているとする。この場合、第一番の細胞が、DHFRの相対的な高発現を示している。
【0032】
本明細書中で使用されるとき、「スクリーニング」という用語は、特定の遺伝形質(trait)をもって、多くの細胞を試験又は検査することを意味する。
【0033】
本明細書中で使用されるとき、「選択」という用語は、一群の細胞から幾つかの特定の細胞を選択することを意味する。
【0034】
「毒性物質」という用語は、トランスフェクションされていない細胞を死滅させ、又はその増殖を阻害するために、その存在下ではトランスフェクションされていない細胞を培養することが出来ない任意の化合物を意味する。そのような化合物の例として、例えば、MTX、ピューロマイシン、ネオマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール、ゼオシン、及びブレオマイシン等が挙げられる。
【0035】
本発明の好ましい態様において、前記細胞は、工程(a)と(b)との間の、毒性化合物に対する耐性により選択されたものでもなく、代謝的優勢により選択されたものでもない。
【0036】
「代謝的優勢」という用語は、トランスフェクションされていない細胞の増殖に必須の化合物の非存在下で増殖する、トランスフェクションされた細胞の能力を意味する。例えば、グルタミン合成酵素をコードする遺伝子を有するCHO細胞はグルタミン非存在下で増殖可能であり、また、DHFRをコードする遺伝子を有するCHO細胞は、チミジン及び/又はヒポキサンチン(HT)の非存在下で増殖可能である。もし、トランスフェクションされるべき細胞がGS又はDHFR遺伝子を有しない(又は不活性型を有する)とき、その細胞は、上記遺伝子のトランスフェクションにより代謝的優勢を獲得し、これは、グルタミン又はHTの非存在下でそれらの細胞を培養することにより選択することが出来る。
【0037】
DHFRに結合する蛍光物質は、当該技術分野で既知であり、例えば、DHFRと共有結合する蛍光標識葉酸類似体等が含まれる。そのような蛍光標識葉酸類似体には、蛍光メトトレキサート(f-MTX)及び蛍光トリメトプリム(f-TMP)が含まれる(Miller et al., 2005)。
【0038】
DHFRの発現は、蛍光顕微鏡、蛍光活性化セルソーター等の、任意の既知の蛍光測定手法により測定され得る。DHFR発現は、FACSを用いて測定するのが非常に好ましい。
【0039】
本発明の方法の工程(b)において、DHFRの発現を測定するために、DHFRと結合する蛍光物質の存在下で細胞をインキュベートする。そのようなDHFRと結合する蛍光化合物は、細胞に有毒な場合があるが、インキュベーションの時間は非常に短いので、細胞を死滅させる程のことは無い。実のところ、DHFR欠損細胞に何らかの薬物選択を引き起こすためには、MTX又はf-MTXの存在下で24時間以上培養することを必要とする。故に、インキュベーション工程は、DHFRに結合する蛍光物質に対する耐性をもって細胞が選択される工程ではない。
【0040】
本発明の好ましい態様において、細胞は、DHFRに結合する蛍光物質の存在下で、24、22、20、18、16、14、12、10、8、6、4又は2時間未満インキュベートされる。より好ましくは、細胞は、DHFRに結合する蛍光物質の存在下で約20時間又は約4時間インキュベートされる。
【0041】
いずれの細胞であっても、本発明の方法の実施に適切である。細胞は、植物及び動物を含む広範な真核生物に由来する、初代細胞又は樹立された細胞株であってもよい。好ましくは、前記細胞は真核細胞である。より好ましくは、前記細胞は哺乳類細胞である。より好ましくは、前記細胞は、CHO細胞、ヒト細胞、マウス細胞、又はハイブリドーマである。最も好ましくは、前記細胞は、CHO-DUKX細胞である(Urlaub and Chasin, 1980)。
【0042】
第一の態様に置いて、前記細胞は、DHFR欠損(例えば、CHO-DUKX又はCHO-DG44)である。本態様の範囲内で、当初はDHFR+であった細胞は、DHFR欠損に改変され得る。
【0043】
第二の態様において、前記細胞はDHFR+である(即ち、ゲノム中に機能的な内在性DHFR遺伝子を含む)。実際に、DHFR+細胞中にもDHFR遺伝子の追加的なコピーの安定な組込みが測定され得る(例えば、Connors et al. 1988を参照されたい)。
【0044】
好ましい態様において、POIをコードする核酸遺伝子及びDHFRをコードする核酸遺伝子は、前記工程(a)の細胞にトランスフェクションされる同一のベクター上に位置する。あるいは、前記POIをコードする核酸遺伝子及び前記DHFRをコードする核酸遺伝子は、前記工程(a)の細胞にトランスフェクションされる別個のベクター上に位置する。
【0045】
POIをコードする核酸遺伝子及びDHFRをコードする核酸遺伝子が同一のベクター上に位置するとき、そのベクターは、少なくとも2つのプロモーターを含み、1つが前記POIをコードする核酸遺伝子の発現を駆動し、もう1つがDHFRをコードする核酸遺伝子の発現を駆動する物であり得る。あるいは、前記POIをコードする核酸遺伝子は、前記DHFRをコードする核酸遺伝子と同一のプロモーターにより駆動し得て、更に、そのベクターは、前記両核酸の間に、核酸配列内リボソーム進入部位(IRES)、又は2A配列のいずれかを含む(de Felipe et al., 2006)。
【0046】
本明細書中で使用されるとき、「プロモーター」という用語は、1つ以上のDNA配列の転写を調整する機能を果たし、DNA依存性RNAポリメラーゼの結合部位、及びプロモーターの機能を制御するように相互作用する他のDNA配列の存在により構造的に同定される、DNAの領域を意味する。プロモーターの機能性発現促進フラグメントは、プロモーターとしての活性を保有する、短縮された、又は切り詰められたプロモーター配列である。プロモーター活性は、当該技術分野で既知の任意のアッセイにおいて測定され得て、アッセイとして、例えばレポーター分子にDHFR遺伝子(Seliger and McElroy, 1960; Wood et al., 1984; de Wet et al., 1985)、又はPromege(登録商標)の市販製品を使用する、レポーターアッセイが挙げられる。「エンハンサー領域」は、1つ以上の遺伝子の転写を増大する役割を果たすDNA領域を意味する。より具体的には、「エンハンサー」という用語は、本明細書中で使用されるとき、発現すべき遺伝子に向かい合う位置及び方向であっても関係無く、遺伝子の発現を亢進(enhance)、増大(augment)、改善(improve)、又は改良(ameliorate)し、更に、1つ以上のプロモーターを亢進、増大、改善、又は改良する場合もある、DNA制御エレメントを指す。
【0047】
好ましい態様において、本発明のベクターは、マウスCMV前初期領域(immediate early region)のプロモーターを少なくとも1つ含む。プロモーターは、例えば、WO 87/03905により公知の、mCMV IE1遺伝子のプロモーター(「IE1プロモーター」)であってもよい。また、プロモーターは、例えばMesserle et al. (1991)により公知の、mCMV IE2遺伝子のプロモーター(「IE2プロモーター」)であってもよい。IE2プロモーター及びIE2エンハンサー領域は、WO 2004/081167に詳細に記載されている。好ましくは、本発明のベクターは、マウスCMV前初期領域のプロモーターを少なくとも2つ含む。より好ましくは、それら2つのプロモーターは、前記IE1及びIE2プロモーターである。
【0048】
好ましい態様において、本発明のベクターは、マウスCMV前初期領域のプロモーターを少なくとも2つ含み、ここで、それらの1つは本発明のポリペプチドの発現を駆動し、他の1つはPOIの発現を駆動する。
【0049】
本発明において、POIは、生産したい任意のポリペプチドであってもよい。POIは、医薬、農業、又は研究施設の備品(furniture)の分野における用途が見出され得る。好ましくは、所望のタンパク質は、医薬の分野における用途が見出され得る。
【0050】
例えば、POIは、天然の分泌性タンパク質、通常は細胞質にあるタンパク質、通常は膜貫通のタンパク質、又はヒト若しくはヒト化抗体等であってもよい。POIが通常は細胞質にある、又は通常は膜貫通のタンパク質であるとき、そのタンパク質は、好ましくは、可溶性タンパク質とするために改変されたものである。所望のポリペプチドは、いずれを起源とするものであってもよい。好ましくは、所望のポリペプチドは、ヒト起源である。
【0051】
好ましい態様において、POIは、絨毛性ゴナドトロピン、毛包刺激ホルモン、ルトロピン-絨毛膜ゴナドトロピックホルモン(lutropin-choriogonadotropic hormone)、甲状腺刺激ホルモン、ヒト成長ホルモン、インターフェロン(例えば、インターフェロンベータ-1a、インターフェロンベータ-1b等)、インターフェロン受容体(例えば、インターフェロンガンマ受容体)、TNF受容体p55及びp75、インターロイキン(例えば、インターロイキン-2、インターロイキン-11等)、インターロイキン結合タンパク質(例えば、インターロイキン-18結合タンパク質等)、抗-CD11抗体、エリスロポエチン、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、下垂体ペプチドホルモン、閉経期ゴナドトロピン、インスリン様増殖因子(例えば、ソマトメジン-C)、ケラチノサイト増殖因子、グリア細胞株由来神経栄養因子、トロンボモジュリン、塩基性線維芽細胞増殖因子インスリン、第VIII因子(Factor VIII)、ソマトロピン、骨形成タンパク質-2、血小板由来増殖因子、ヒルジン、エポエチン(epoietin)、組換えLFA-3/IgG1融合タンパク質、グルコセレブロシダーゼ、モノクローナル抗体、並びに突然変異タンパク質、フラグメント、可溶性型、機能性誘導体(functional derivative)、それらの融合タンパク質からなる群から選択される。
【0052】
好ましくは、前記モノクローナル抗体は、
CD3(例えばOKT3、NI-0401)、CD11a(例えば、エファリズマブ)、CD4(例えば、ザノリムマブ、TNX-355)、CD20(例えば、イブリツモマブチウキセタン(ibritumomab tiuxetan)、リツキシマブ、トシツモマブ、オクレリズマブ(ocrelizumab)、オファツムマブ(ofatumumab)、IMMU-106、TRU-015、AME-133、GA-101)、CD23(例えば、ルミリキシマブ(lumiliximab))、CD22(例えば、エプラツズマブ(epratuzumab))、CD25(例えば、バシリキシマブ、ダクリズマブ)、上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)(例えば、パニツムマブ(panitumumab)、セツキシマブ、ザルツズマブ、MDX-214)、CD30(例えば、MDX-060)、細胞表面糖タンパク質CD52(例えば、アレムツズマブ)、CD80(例えば、ガリキシマブ)、血小板GPIIb/llla受容体(例えば、アブシキシマブ)、TNFアルファ(例えば、インフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブ)、インターロイキン-6受容体(例えば、トシリズマブ)、癌胎児性抗原(CEA)(例えば、99mTc-ベシレソマブ(besilesomab))、アルファ-4/ベータ-1インテグリン(VLA4)(例えば、ナタリズマブ)、アルファ-5/ベータ-1インテグリン(VLA5)(例えば、ボロシキシマブ(volociximab))、VEGF(例えば、ベバシズマブ、ラニビズマブ(ranibizumab))、イムノグロブリンE(IgE)(例えば、オマリズマブ)、HER-2/neu(例えば、トラツズマブ)、前立先特異的膜抗原(PSMA)(例えば、111ln-カプロマブペンデチド(capromab pendetide)、MDX-070)、CD33(例えば、ゲムツズマブ・オゾガマイシン(gemtuzumab ozogamicin))、GM-CSF(例えば、KB002、MT203)、GM-CSF受容体(例えば、CAM-3001)、EpCAM(例えば、アデカツムマブ(adecatumumab))、IFN-ガンマ(例えば、NI-0501)、IFN-アルファ(例えば、MEDI-545/MDX-1103)、RANKL(例えば、デノスマブ(denosumab))、肝細胞増殖因子(例えば、AMG102)、IL-15(例えば、AMG714)、TRAIL(例えば、AMG655)、インスリン様増殖因子受容体(例えば、AMG479、R1507)、IL-4及びIL13(例えば、AMG317)、BAFF/BLyS受容体3(BR3)(例えば、CB1)、CTLA-4(例えば、イピリムマブ(ipilimumab))からなる群から選択されるタンパク質に対する。
【0053】
本発明に従い、任意の個数の細胞をスクリーニングし得る。例えば、少なくとも、10、100、1000、10000、100000、1000000、5000000、10000000、20000000、30000000、40000000、50000000、60000000、70000000、80000000、90000000、100000000細胞の蛍光をスクリーニングし得る。
【0054】
工程(b)(即ち蛍光によるDHFR測定)及び(c)(即ち蛍光強度が最高の細胞の選択)は、工程(c)を終えた選択された細胞に対して反復されてもよい。例えば、少なくとも2、3、4、5、又は10回の反復が実行され得る。それらの選択工程間で条件を変更して、又は変更せずになされ得る。条件の変更として、例えば、培地組成又は生理化学的パラメーター等の培養条件を変化させること等が挙げられる。
【0055】
好ましい態様において、最後の反復の工程(c)を終えて選択された細胞は、少なくとも、10、20、30、45、又は50集団倍増レベル(PDL)にわたり、何ら薬物選択をすること無く、POIの安定な発現を呈する。
【0056】
好ましい態様において、最後の反復の工程(c)を終えて選択された細胞は、その特異的生産能力(pcd)を、15PDLの段階で、20%、15%、10%、5%、又は1%を超えて喪失しない。好ましくは、前記細胞は、その特異的生産能力(pcd)を、50PDLの段階で、20%、15%、10%、5%、又は1%を超えて喪失しない。より好ましくは、前記細胞は、その特異的生産能力(pcd)を、50PDLの段階で10%を超えて喪失しない。最も好ましくは、前記細胞は、その特異的生産能力(pcd)を、50PDLの段階で何ら喪失しない。
【0057】
本発明の一つの態様において、工程(c)を終えて選択された細胞は、更に、(i)細胞にPOIをコードする核酸をトランスフェクションし;(ii)POIに結合する蛍光抗体を使用してPOI発現を測定し;続いて(iii )POIの相対的な高発現に基づき工程(b)で測定した細胞の約0.001%〜25%を選択する工程を含む、更なるスクリーニングに付される。
【0058】
蛍光に基づく最後の選択(最後の反復の工程c)を終えて、更に、それらの選択された細胞内のPOIの発現レベルが測定(工程d)されてもよい。POIの発現レベルは、例えばELISA、FACS、ノーザンブロッティング、又はRT-PCR等の、当該技術分野で既知の方法により測定されてもよい。
【0059】
それから、工程(d)で試験された細胞の約0.001%〜約25%が、POIの相対的な高発現に基づき選択(工程e)され得る。例えば、POIの相対的な高発現を呈する細胞の約0.001%、0.005%、0.1%、0.5%、1.5%、2%、3%、4%、5%〜約15%、18%、20%、又は25%が選択され得る。
【0060】
本発明の更なる側面は、POIを発現する細胞株を収得する方法であり:
a)上記方法に従い細胞をスクリーニングし;
b)それらの細胞から細胞株を樹立する
工程を含む前記方法に関する。
【0061】
本明細書中で使用されるとき、「細胞株」という用語は、研究室内で増殖可能な1つの特定の種類の細胞を意味する。細胞株は、通常、既存の培養条件下で恒久的に増殖可能であり、適切な新鮮な培地と空間が与えられれば無制限に増殖(proliferate)する。単離した細胞から細胞株を樹立する方法は、当業者に周知である。
【0062】
好ましい態様において、前記細胞株は、安定細胞株、即ち、少なくとも10、20、30、45、又は50集団倍増レベル(PDL)にわたり、何ら薬物選択をすること無く、特異的生産能力(pcd)を20%、15%、10%、5%、又は1%を超えて喪失しない細胞株である。好ましくは、前記細胞株は、50PDLの時点で、特異的生産能力(pcd)を10%を超えて喪失しない。最も好ましくは、前記細胞株は、50PDLの時点で、特異的生産能力(pcd)を何ら喪失しない。
【0063】
もう一つの側面は、POIを生産する方法であり:
a)前記POIの発現を許容する条件下で上記のように収得した細胞を培養し;続いて
b)そのPOIを回収する
工程を含む前記方法に関する。
【0064】
前記POIの発現を許容する条件は、当業者が用いる標準的な方法により、容易に構築することが出来る。例えば、実施例3.3.1に開示した条件が使用され得る。
【0065】
好ましい態様において、上記POI生産方法は、更に、POIを精製する工程を含む。その精製は、当業者に周知の任意の技術によりなされ得る。POIを医薬の分野で使用する場合、そのPOIは、好ましくは、医薬組成物に製剤化される。
【0066】
本発明の更なる側面は、所望のタンパク質(POI)の発現をもって細胞をスクリーニングするためのDHFRの使用であり、前記細胞が、MTXに対する耐性、又はヒポキサンチン及びチミジン(HT)の非存在下での代謝的優勢のいずれにより選択されたものでもないことを特徴とする、前記使用に関する。
【0067】
本発明のなおももう一つの側面は、POIを発現する細胞株を収得するためのDHFRの使用であり、前記細胞株が、MTXに対する耐性、又はヒポキサンチン及びチミジン(HT)の非存在下での代謝的優勢のいずれにより選択されたものでもないことを特徴とする、前記使用に関する。好ましくは、前記細胞株は、そのPOIを安定に発現している。
【0068】
あるいは、トランスフェクションされた細胞の蛍光は、DHFRに結合する蛍光物質を使用せず、POIに結合する蛍光抗体を使用して測定され得る。典型的には、そのような所望のタンパク質(POI)の発現をもって細胞をスクリーニングする方法は:
a)POIをコードする核酸を細胞にトランスフェクションし;
b)POIに結合する抗体を使用してPOIの発現を測定し;
c)POIの相対的な高発現に基づき工程(b)で測定した細胞の約0.001%〜25%を選択する
工程を含み、ここで、前記細胞は、工程(a)と(b)との間に、毒性物質耐性により選択されない。
【0069】
他の工程は全て、上記方法中でDHFRが使用されている工程のDHFRをPOIに置き換えたものとなる。
【0070】
本方法は、薬物耐性選択の必要性を完全に排除した、FACSに基づく、安定細胞を収得するためのプロセスを提供する。
【0071】
本方法において、高生産体細胞をFACSでスクリーニングするプロセスは、安定細胞を選択するプロセス中に包含される。よって、本スクリーニング方法は、工程の数を減少させられるという長所を有する。
【0072】
更に本プロセスは、選択圧非存在下であっても安定細胞株の選択を可能とする。実際に、選択された細胞によるPOIの発現は、薬物による選択圧非存在下で、50集団倍増レベルを経過しても安定であることが示されている。これは、タンパク質の工業的生産において、非常に有利である。
【0073】
加えて、前記細胞は、遺伝子発現の安定性を維持する薬剤を要さず、製造プロセスにそのような薬剤は不要である。
【0074】
最後に、DHFRは、例えばCHO細胞等の真核細胞中に天然に存在する天然のタンパク質である。言い換えると、本発明の方法を使用して収得した細胞株は、2つの組換えタンパク質:組換えPOI、及びその細胞中に必ずその遺伝子が天然に存在する組換えDHFRタンパク質を発現するのみである。これは、細菌及び/又はシアノバクテリア由来のマーカー、例えばGFP又はZS-Greenを含む細胞株との主要な相異点である。特に、所望のタンパク質を製造する細胞株におけるDHFRの発現は、代用マーカーとしてGFP又はZS-Greenを使用するときの場合のように、毒性の問題を生じない。故に、本発明の方法を使用して収得した細胞株は、製造目的においてより安全である。
【0075】
ここまで本発明を十分に記載してきたが、当業者であれば、本発明の範囲から逸脱すること無く、そして過度の実験を要さず、同等のパラメーター、濃度及び条件の広い範囲内で、同一の発明を実施することが出来ることが評価され得る。
【0076】
本発明はその特定の態様と関連付けて記載されているが、更なる改変が可能であることを理解されたい。本発明は、本発明に関連する分野の中で既知の、又は慣用されている実施の範囲内にある、及び添付の請求項の範囲内に示される上記本質特徴に適合し得る本発明からの逸脱を含む本発明の原則に一般的に追随する、任意の発明の変法、使用、又は調整に及ぶことが意図される。
【0077】
本明細書中に記載の、雑誌論文又は総説、公開若しくは未公開の米国若しくは外国の特許出願、発行された米国又は外国の特許等の全ての引用文献は、参照されることにより、それらの文献中の全てのデータ、表、図及び文章等が、本明細書中に援用される。加えて、本明細書中に記載の参考文献中に記載の参考文献の全ての内容も、全て、参照により援用される。
【0078】
既知の方法の工程、確立した方法の工程、既知の方法、又は確立した方法に対する言及は、本発明のいずれかの側面、記載又は態様が、関連する技術分野において開示、考察又は主張されることを、いかなる場合も認めない。
【0079】
前記特定の態様の記載は、本発明の一般的特性を完全に明らかしているため、他人は、当該技術分野の知識(本明細書中に記載の参考文献の内容を含む)を利用することにより、過度の実験を要さず、本発明の一般的概念から逸脱すること無く、容易に、当該特定の態様を様々に応用するための変更及び/又は調整が可能である。従って、そのような調整及び変更は、開示された態様と同等の意味及び範囲内のものであり、本明細書に記載の教示及び誘導に基づくものであると考えられる。本明細書中の語句(phraseology)又は用語(terminology)は、記述を目的とするものであり、限定を目的としないことを理解されたい。そのため、本明細書中の語句又は用語は、当業者により、本明細書に記載される教示及び誘導を考慮して、当業者の知識と組み合わせて解釈されるべきである。
【実施例】
【0080】
実施例1:プロトコル
1.1.細胞、培地及びプラスミド
CHO-DUKX-B11由来のチャイニーズハムスター卵巣細胞株を、所望のタンパク質を安定に発現するように処理した。トランスフェクションの前に、宿主細胞を、2%のナトリウムヒポキサンチン及びチミジン(HT)を添加したPROCHO-5培地(Bio-Whittaker/ Cambrex, East Rutherford, NJ.)に由来する既知組成の培地(更に「増殖培地」とも称される)中での、無血清高密度懸濁培養に順応させた。全ての試薬は、特段明記されていない限りInvitrogen Corp., Carlsbad, CA.から調達した。トランスフェクション用の細胞を、37℃、5%CO2インキュベーター中の、上記増殖培地を入れた使い捨て攪拌フラスコ中で、125rpmで振盪培養した。
【0081】
前記トランスフェクションは、ヘテロダイマーホルモンであるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)の不活性型のアルファ及びベータサブユニットをコードする線形化プラスミドDNAの応用的な組合せで構成されるものであった。発現ベクター(D-アルファと称する)は、ヒト成長ホルモンシグナル配列とN-末端で融合し、メタロチオネイン(metallothionien)1プロモーター(MTT-1)により駆動する所望の遺伝子を含むものであった。更に、sv-40早期プロモーター(early promoter)により駆動する野生型マウスDHFR遺伝子、及びアンピシリン耐性遺伝子を含んでいた。前記D-アルファベクターは、Kelton et. al. (1992)に、より詳細に記載されている。
【0082】
1.2.トランスフェクション
90μlのLipofectamine試薬(DMRIE-C)とDNA(両サブユニットの体積比を1:1とし、計15μlに調整する)を別個に1.5mlの増殖培地に混合し、それらの混合物を10分間室温でインキュベートした。それらを混合して、更に室温で30分間インキュベートし、DNA-脂質複合体を形成させた。800rpmで5分間遠心分離することにより、トランスフェクション用の細胞を回収し、細胞のペレットを、25ml容量のステーショナリー(stationary)T-フラスコ中の3mlの培地中に再懸濁した。その懸濁液に前記脂質/DNA混合物を添加し、37℃、5%CO2でインキュベートした。4時間後、培養堆積が40mlとなるまで増殖培地を添加し、細胞を250ml攪拌フラスコに移した。この細胞カルチャーを、37℃、5%CO2で、125rpmで攪拌することにより維持した。
【0083】
1.3.第一のFACSソーティング
トランスフェクションの48時間後、細胞を計数して、20,000,000個の細胞を取り、前記の如く遠心分離した。細胞のペレットを、4mMのL-グルタミン及び5μMのフルオレセイン(fluorescein)MTX(f-MTX)を添加した20mlのPROCHO-5+に再懸濁し、37℃、5%CO2の遮光条件下で、125rpmで攪拌して、一昼夜インキュベートした。
【0084】
その翌日、標識された細胞を遠心分離でペレット化し、5mlの冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS)+0.5%プルロニック酸(Pluronic Acid)+25μM Hepes緩衝剤で2回洗浄した。続いて、その細胞を、2mlの洗浄緩衝剤で再懸濁し、氷上に置いた。これについて、488nmのアルゴンレーザーでフルオレセインイソチオシアネート(FITC)を励起するように設定したFACS Aria(BD Biosciences, San Jose, CA)を使用する、フローサイトメトリーによる蛍光の評価を行う。シース圧力は、25psiに抑え、ノズル径は100ミクロンとした。
【0085】
FACSのゲーティングプロセスは、細胞の物理的パラメーターを反映する光散乱現象;前方散乱及び側方散乱に基づく、第一のゲート(P1と称する1つの集団を選択する)から構成されるもの(FSC-H/SSC-Hドットプロット)であった。これらのパラメーターは、供給業者のマニュアル(BD FACS Aria Operators Manual, edition 336951 Rev A., Aug 2003)に従い設定した。更に、P1は、FSC-W/ FITC-Aドットプロットで4つにゲーティングされた。第一のクワドラント(quadrant)(Q1)は、陽性蛍光細胞(ベクター挿入によるDHFR発現を示す)かつ低FSC-W(単一の細胞を評価していることを示す)を含有するものであった。
【0086】
宿主細胞を前記にセットし、電圧設定を最適化(Scatter Event-100,000及び平均蛍光強度<200)した。Accudrop技術(BD FACS Aria Operators Manual)を使用して、ドロップディレイ値(Drop delay)を決定した。
【0087】
宿主細胞は単一細胞ゲート(P1)を通過し、続いてその集団は、4つのゲート(Q1〜Q4)に表示された。X軸クワドラントゲートの最低の閾値が蛍光のベースラインとして設定された。ソーティングに必要なゲートに相当するQ1においてバックグラウンドイベントは存在しなかった。所望の遺伝子を発現する細胞を選択するために、トランスフェクションした細胞のプールが前記FACS Ariaにセットされ、前記のようにゲーティングされた。所望の集団Q1の解析は、(P1と比較して)19.1倍の手段(FITC)の分離に相当し、これは全体の3.1%を構成していた。Q1ゲートから得られた単一細胞は、ソーティングされ、1%透析ウシ胎児血清及び細菌汚染を防止するための2xペニシリンストレプトマイシンを含む増殖培地(「ソーティング後培地」)2mlが入ったコレクションチューブに取られた。遠心分離で細胞をペレット化し、ステーショナリーT25フラスコ中の5mlのソーティング後培地中に密集レベルの濃度(confluency)で再懸濁した。このカルチャーをトリプシン処理し、攪拌フラスコにスケールアップし、前記懸濁条件中で培養した。
【0088】
ソーティングされた集団「Q1」は、ソーティング後培地中で、約14日間培養された。第二のソーティングの前に、発現解析が実施された。選択されたプールの発現を特定するのに、使い捨て攪拌フラスコ中の10mlの選択培地中に1,000,000細胞/mlで細胞を播種し、37℃で24時間培養することにより、馴化培地が生産された。この馴化培地を5分間、800rpmの遠心分離により清澄化し、上澄を4℃で保存し、分析に備えた。キットに付属する製造業者の標準的なプロトコール(Diagnostic Systems Laboratories, Webster, TX)に従い、DSL hCG ELISAを使用することにより、タンパク質発現が定量された。
【0089】
特異的生産能力は、以下の等式を使用して計算された:
Qsp(p/c/d)=(P2-P1)x ln(Nt/N0)(T2-T1)(N1-N0)
P1:初期タイター(InitialTiter)(ピコグラム)
P2:最終タイター(ピコグラム)
Nt:最終集団サイズ(細胞数)
N0:初期集団サイズ(細胞数)
T1:開始日(日)
T2:回収日(日)
【0090】
第二のソーティング前の細胞の平均の特異的生産能力は、0.2pcdであった。
【0091】
第二のFACSソーティング
発現が最高の細胞を単離するために、前記第一のソーティング(Q1)で生産された細胞の集団はスケールアップされ、f−MTXで4時間標識され、前記と同様、追加的な評価及びソーティングに付された。ソーティングされた集団のQ1-Q1は、(P1と比較して)8.4倍の手段(FITC)の分離に相当し、これは全体の1.3%を構成していた。
【0092】
細胞は、ステーショナリーT25フラスコ中の5mlのHTを含まないソーティング後培地に取られ、続いて攪拌フラスコにスケールアップされ、そして前記の如く培養された。最後のソーティングを終えた細胞のプールについて発現解析が実行され、特異的細胞生産能力は平均で3.2pcdであった。
【0093】
実施例2:FACS選択細胞と薬物選択細胞との平均蛍光強度(MEI)の比較
コントロールとして、薬物選択細胞が、以下のようにして樹立された:トランスフェクションの48時間後、細胞を選択培地(4mMのL-グルタミンを添加したPROCHO-5培地に0.5μMのメトトレキサートを加えたもの)に移した。2、3日毎に、細胞を遠心分離により継代し、最終密度が5x105細胞/mLとなるように、新鮮な選択培地に再懸濁した。約3週間後、細胞は増殖を回復する兆候を見せた。このCHOプールは、増殖速度が定常的であり、その生存率が>90%であるとき、安定であるとみなされた。
【0094】
プロセス中の様々な時点(FACS選択細胞株はソーティング前1、ソーティング前2、ソーティング後2;薬物選択細胞株は選択プロセス後)で、細胞に、前記のように標識が付され、FACSによる蛍光が評価された。単一細胞ゲート(P1)は、FITC-Aグラフ上に表されている。
【0095】
トランスフェクションされた細胞をFACS-選択の複数の時点(1a〜1c)を通じて測定すると、MFIの顕著なシフトが認められる。
【0096】
FACS選択(1c)により収得され、薬剤選択圧非存在の培地で培養された安定CHO細胞は、0.5μMのMTXの存在下で培養された薬物選択細胞(1d)と同様のプロフィールを示す。図1に示される結果は、本発明の方法により、高生産性組換え細胞株の収得が可能であることを示している。
【0097】
実施例3:安定性評価
細胞をソーティング後培地(薬物選択無し)中で50集団倍増期間にわたり培養し、FACS-選択安定細胞株からの遺伝子発現の安定性を確認した。週毎の発現解析を行い、特異的細胞生産能力を決定した。その結果は、図2に記載されている。
【0098】
前記細胞は、最後のソーティングから50集団倍増長(PDL)後も、平均の特異的生産能力を何ら損なわず、hCGタンパク質を発現した。前記細胞は、平均倍増時間の平均27時間という一貫的な増殖速度を維持した。
【0099】
結論として、本発明の方法は、タンパク質の研究又は生産に使用され得る安定かつ高生産性の組換え細胞株の選択を可能とする。
【0100】
参考文献
Connors,R.W., Sweet,R.W., Noveral,J.P., Pfarr,D.S., TrNI1JJ., Shebuski,R.J., Berkowitz,B.A., Williams,D., Franklin, S., Reff,M.E. (1988) DHFR coamplification of t- PA in DHFR+ bovine endothelial cells: In vitro characterization of the purified serine protease. DNA 7, 651-661 de Felipe,P., Luke,G.A., Hughes,L.E., Gani,D., Halpin.C, and Ryan,M.D. (2006). E unum pluribus: multiple proteins from a self-processing polyprotein. Trends Biotechnol. 24, 68-75. de Wet,J.R., Wood,K.V., Helinski,D.R., and Del_uca,M. (1985). Cloning of firefly luciferase cDNA and the expression of active luciferase in Escherichia coli. Proc Natl Acad Sci U S A 82, 7870-7873.
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望のタンパク質(POI)を発現する細胞をスクリーニングする方法であり:
a)細胞に:
(i)前記POIをコードする核酸;及び
(ii)ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)
をトランスフェクションし;
b)DHFRに結合する蛍光物質を用いてDHFRの発現を測定し;並びに
c)DHFRの相対的な高発現に基づき工程(b)で測定した細胞の約0.001%〜25%を選択する;
工程を含み、ここで、前記細胞が、工程(a)と(b)との間に、毒性物質耐性により選択されない前記方法。
【請求項2】
所望のタンパク質(POI)を発現する細胞をスクリーニングする方法であり、
a)細胞に前記POIをコードする核酸をトランスフェクションし;
b)前記POIに結合する蛍光抗体を用いてPOIの発現を測定し;及び
c)POIの相対的な高発現に基づき工程(b)で測定した細胞の約0.001%〜25%を選択する;
工程を含み、ここで、前記細胞が、工程(a)と(b)との間に、毒性物質耐性により選択されない前記方法。
【請求項3】
前記DHFR発現が、蛍光活性化セルソーター(FACS)により測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
DHFRに結合する前記蛍光物質が、蛍光メトトレキサート(f-MTX)又は蛍光トリメトプリム(f-TMP)である、請求項1又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞が、ヒト細胞、CHO細胞、マウス細胞、及びハイブリドーマからなる群から選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞が、DHFR-欠損細胞である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞がCHO-DUKX細胞である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記POIをコードする核酸及びDHRFをコードする核酸が、工程(a)において前記細胞中にトランスフェクションされるべき同一のベクター上に位置する、請求項1及び3〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ベクターが、少なくとも2つのプロモーターを含み、その1つが前記POIをコードする核酸の発現を駆動し、もう1つが前記DHFRをコードする核酸の発現を駆動する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記POIをコードする核酸が、前記DHFRをコードする核酸と同一のプロモーターにより駆動され、かつ、そのベクターが、前記両核酸の間に、核酸配列内リボソーム進入部位(IRES)、又は2A配列のいずれかを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
工程(b)及び工程(c)を、少なくとも2、3、4、又は5回反復する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
更に、
d)前記最後の工程(c)の終了時点で選択された細胞のPOI発現レベルを測定する
工程を含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
更に、
e)POIの相対的な高発現に基づき工程(d)で試験した細胞の約0.001%〜25%を選択する
工程を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
POIを発現する細胞株を収得する方法であり:
a)請求項1〜13のいずれか1項の方法に従い細胞をスクリーニングし;
b)それらの細胞の少なくとも1つから細胞株を樹立する
工程を含む前記方法。
【請求項15】
POIを生産する方法であり:
a)請求項14に記載の方法に従い収得された細胞を、前記POIの発現を許容する条件下で培養し;続いて
b)そのPOIを回収する
工程を含む前記方法。
【請求項16】
更に、前記POIを精製する工程を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
更に、前記POIを、医薬組成物に製剤化する工程を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
DHFRの:
(i)POIを発現する細胞をスクリーニングし;又は
(ii)POIを発現する細胞株を収得する
ための使用であり、前記細胞又は細胞株が、MTXに対する耐性、又はヒポキサンチン及びチミジンの非存在下での培養時の代謝的優勢のいずれにより選択されたものでもないことを特徴とする、前記使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−533483(P2010−533483A)
【公表日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−516504(P2010−516504)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【国際出願番号】PCT/EP2008/059313
【国際公開番号】WO2009/010534
【国際公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(309025524)メルク セローノ ソシエテ アノニム (49)
【Fターム(参考)】