説明

手巻き式ゴンドラ

【課題】電力を必要とせずに人力のみで巻き上げることができるとともに、人力という小さな動力でも一定の速度を確保して巻き上げることが可能であり、津波避難施設等で避難者を高所へと迅速に導くために好適に使用可能な手巻き式ゴンドラを提供すること。
【解決手段】人が乗るゴンドラ籠と、ゴンドラ籠と重量バランスをとるためのカウンターウェイトと、ゴンドラ籠を吊り下げるワイヤーを巻き上げるための第一巻き上げドラムと、カウンターウェイトを吊り下げるワイヤーを巻き上げるための第二巻き上げドラムと、第二巻き上げドラムを人力で回転させるためのハンドルと、第二巻き上げドラムの回転を第一巻き上げドラムへと伝達する伝達機構と、を備えており、伝達機構は、第二巻き上げドラムの回転数に対する第一巻き上げドラムの回転数の比を変更可能とする変速装置を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は手巻き式ゴンドラに関し、より詳しくは、人力という小さな動力で一定の速度を確保してゴンドラを巻き上げることが可能であり、津波避難施設等で避難者を高所へと迅速に導くために好適に使用される手巻き式ゴンドラに関する。
【背景技術】
【0002】
我が国は世界でも有数の地震国であり、毎年のように地震により尊い生命を失う被害者が発生しているのが現実である。
地震による被害者の中には、建物の倒壊など地震そのものに起因して生命をおとす被害者も多いが、海岸近くにおいては、東日本大震災の例に見られるように、地震により発生した津波にのまれて生命を失う被害者が多い。
【0003】
従来、津波が発生したときには、自治体が予め指定した高台にある学校や公民館等の避難施設へと避難するのが一般的であった。
しかしながら、津波の進行速度は非常に速いため、避難施設が海岸から遠く離れている場合には、海岸近くの住民の避難が間に合わないおそれがあるという大きな問題がある。ところが、それにも拘らず、我が国においては、海岸近くに津波専用の避難所は殆ど存在していないのが実情である。
【0004】
下記特許文献1には、海岸近くに設置される津波避難のための建造物が開示されている。
しかしながら、特許文献1に開示された建造物は、避難者が津波によってさらわれることがないように、屋内部分が地表面から高い位置に設けられているにも拘らず、地表面から高床の屋内部分へと上るための手段が階段に限られているため、迅速な避難が困難であり、避難中に津波にまきこまれてしまう危険性が高いという問題があった。
特に、高齢者、女性、子供など足腰が弱い者の場合には、長い階段を上って高い位置にある屋内部分へと避難するのは非常に大変であり、避難中に津波にまきこまれてしまう危険性が大きかった。
【0005】
かかる問題点に鑑みて、本出願人は、下記特許文献2の開示技術を提案している。
特許文献2の開示技術は、地中に打ち込まれた支柱と、支柱により地上の所定高さに支持された避難台と、地表面と避難台との行き来を可能とする昇降手段とからなる津波避難所において、昇降手段が階段及びゴンドラからなるものである。
この特許文献2に開示された津波避難所によれば、地表面と避難台との行き来を可能とする昇降手段としてゴンドラを備えているため、高所にある避難台への階段による迅速な避難が困難である高齢者や子供等であってもゴンドラによって避難台上へと容易且つ迅速に避難することが可能となる。
【0006】
しかしながら、この津波避難所に備えられているゴンドラは、発電機から供給される電力を動力源として昇降するように構成されているため、発電機が浸水により故障した場合にはもはや使用することができず、昇降手段としての機能を完全に喪失してしまうという問題があった。また、仮に発電機に代えて外部電源を動力源としたとしても、停電するとゴンドラを使用できなくなる。
このような問題点を解決するための方法として、ゴンドラを手巻き式とすることも考えられる。しかし、多くの人が乗った重いゴンドラを人力で巻き上げることは容易ではなく、多くの人を迅速に避難させることができない。
必要な人力を小さくするための方法としては、例えば歯数の異なるギアを組み合わせる方法が考えられる。即ち、駆動側(人力を加える側)のギアの歯数を、従動側(ゴンドラを吊り上げる側)のギアの歯数より少なくすることにより、必要な人力を小さくすることができる。
しかし、多くの人が乗った重いゴンドラを人力で巻き上げようとすると歯数比をかなり大きく設定する必要がある。そうすると、ゴンドラを巻き上げる速度が非常に遅くなり、迅速な避難ができなくなるという重大な問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−184323号公報
【特許文献2】特開2006−112087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記したような従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、電力を必要とせずに人力のみで巻き上げることができるとともに、人力という小さな動力でも一定の速度を確保して巻き上げることが可能であり、津波避難施設等で避難者を高所へと迅速に導くために好適に使用可能な手巻き式ゴンドラを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、人が乗るゴンドラ籠と、前記ゴンドラ籠と重量バランスをとるためのカウンターウェイトと、前記ゴンドラ籠を吊り下げるワイヤーを巻き上げるための第一巻き上げドラムと、前記カウンターウェイトを吊り下げるワイヤーを巻き上げるための第二巻き上げドラムと、前記第二巻き上げドラムを人力で回転させるためのハンドルと、前記第二巻き上げドラムの回転を前記第一巻き上げドラムへと伝達する伝達機構と、を備えており、前記伝達機構は、前記第二巻き上げドラムの回転数に対する前記第一巻き上げドラムの回転数の比を変更可能とする変速装置を有していることを特徴とする手巻き式ゴンドラに関する。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記変速装置が、前記第一巻き上げドラムの中心を貫く第一回転軸と共に回転可能な一対の第一ギアと、前記第二巻き上げドラムの中心を貫く第二回転軸と共に回転可能な一対の第二ギアと、前記第二ギアの回転を変速可能に前記第一ギアへと伝達する変速伝達機構とを備え、前記一対の第二ギアは、互いに歯数が異なる大径ギアと小径ギアとからなり、前記一対の第一ギアは、同じ歯数の2つのギアからなるとともに、一方が前記大径ギアと回転伝達手段を介して連結され、他方が前記小径ギアと回転伝達手段を介して連結されており、前記変速伝達機構は、前記大径ギアと前記小径ギアのいずれか一方のギアの回転を、選択的に切り替えて前記第二回転軸へと伝達するクラッチ機構を有していることを特徴とする請求項1記載の手巻き式ゴンドラに関する。
【0011】
請求項3に係る発明は、前記クラッチ機構は、前記第二回転軸に対して取り付けられて当該第二回転軸方向の一方側及び他方側に移動可能である筒状体と、前記筒状体を前記一方側又は前記他方側に移動させるクラッチレバーと、を有しており、前記筒状体は、前記一方側に移動したときに前記大径ギアと連結される第一位置に配置され、前記他方側に移動したときに前記小径ギアと連結される第二位置に配置され、前記第二回転軸は、前記筒状体が前記第一位置にあるときは前記大径ギアと共に回転し、前記筒状体が前記第二位置にあるときは前記小径ギアと共に回転することを特徴とする請求項2記載の手巻き式ゴンドラに関する。
【0012】
請求項4に係る発明は、前記筒状体は、前記一方側の側面及び前記他方側の側面にそれぞれ複数本のピンが周方向に等間隔で突設されており、前記大径ギアは、前記筒状体の一方側の側面に対向する側の側面に、周方向に等間隔で複数の穴が設けられており、前記小径ギアは、前記筒状体の他方側の側面に対向する側の側面に、周方向に等間隔で複数の穴が設けられており、前記筒状体が前記第一位置に配置されたときに、前記ピンが前記大径ギアの穴に挿入され、前記筒状体が前記第二位置に配置されたときに、前記ピンが前記小径ギアの穴に挿入される、ことを特徴とする請求項3記載の手巻き式ゴンドラに関する。
【0013】
請求項5に係る発明は、前記ハンドルの回転軸と前記第二回転軸は、前記第二回転軸の回転速度が前記ハンドルの回転軸の回転速度よりも遅くなる減速機構を介して連結されていることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の手巻き式ゴンドラに関する。
【0014】
請求項6に係る発明は、前記ハンドルは、回転半径が小さい第一ハンドル部と、回転半径が大きい第二ハンドル部とを備えていることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の手巻き式ゴンドラに関する。
【0015】
請求項7に係る発明は、前記第二巻き上げドラムの回転を止めるための手動ブレーキを備えていることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の手巻き式ゴンドラに関する。
【0016】
請求項8に係る発明は、前記第二巻き上げドラムは、前記第二回転軸に対して軸受を介して回転可能に取り付けられており、前記第二回転軸と前記第二巻き上げドラムは、一方向クラッチを介して連結されており、前記一方向クラッチは、前記手動ブレーキの作動により前記第二巻き上げドラムが回転を止められている状態においても、前記第二回転軸が、前記カウンターウェイトが下降するときの回転方向に回転することを許容する、ことを特徴とする請求項7記載の手巻き式ゴンドラに関する。
【0017】
請求項9に係る発明は、前記第一ギア及び前記第二ギアはスプロケットからなり、前記回転伝達手段はチェーンからなることを特徴とする請求項2記載の手巻き式ゴンドラに関する。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明によれば、電力を必要とせずに人力のみでゴンドラ籠を巻き上げることができるため、地震や津波等の災害に起因する停電や発電機の故障等により電力供給が行えない状態になったとしても、利用者を人力で高所へと引き上げて安全に避難させることが可能となる。
また、ゴンドラ籠と重量バランスをとるためのカウンターウェイトを使用しているため、ゴンドラ籠の積載荷重を大きくすることができる。そのため、一度に多くの人をゴンドラ籠に乗せて吊り上げることができ、迅速な避難が可能となる。
また、カウンターウェイトを吊り下げるワイヤーを巻き上げるための第二巻き上げドラムの回転を、ゴンドラ籠を吊り下げるワイヤーを巻き上げるための第一巻き上げドラムへと伝達する伝達機構が、第二巻き上げドラムの回転数に対する第一巻き上げドラムの回転数の比(以下、回転数比と略)を変更可能とする変速装置を有しているため、ゴンドラ籠に乗っている人数が少ない(軽い)場合には回転数比を大きくし、ゴンドラ籠に乗っている人数が多い(重い)場合には回転数比を小さくするという切り替えを行うことが可能となる。
回転数比を大きくすると、ハンドル(及び第二巻き上げドラム)を多く回転させなくとも、第一巻き上げドラムを多く回転させてゴンドラ籠を迅速に巻き上げることができる。一方、ハンドルを回転させるために要する力は相対的に大きくなるが、ゴンドラ籠が軽いために実際に要する力は小さくて済む。そのため、比較的小さい力でゴンドラ籠を迅速に巻き上げることが可能となる。
回転数比を小さくすると、ハンドルを回転させるために要する力は相対的に小さくなる。そのため、ゴンドラ籠が重くてもハンドルを回転させるために必要な力は、ゴンドラ籠が軽い場合(回転数比が大きい場合)と比べてあまり変わらない。一方、ハンドルを回転させるために要する力が小さくなる代わりに、ハンドル(及び第二巻き上げドラム)を多く回転させなければゴンドラ籠を巻き上げることができなくなるが、回転数比が切り替えられるために、その増加分を小さくすることができ、ゴンドラ籠を迅速に巻き上げることが可能となる。
仮に、回転数比が固定で切り替えられない場合、ゴンドラ籠が重い場合でも人力で巻き上げられるように(必要な人力が少なくて済むように)、ゴンドラ籠が重い場合(最大積載量)に合わせて回転数比をかなり大きい値に固定する必要がある。そうすると、確かに要する人力は少なくなるが、ゴンドラ籠を巻き上げるためにハンドルを非常に多く回転させなければならなくなり、ゴンドラ籠を迅速に上昇させることができなくなる。
本発明では、ゴンドラ籠に乗っている人数が少ない(軽い)場合には回転数比を大きくし、ゴンドラ籠に乗っている人数が多い(重い)場合には回転数比を小さくするという切り替えを行うことができるため、ゴンドラ籠の重量が変化しても、ゴンドラ籠の巻き上げ速度及び巻き上げに要する力を略一定とすることができ、迅速な巻き上げが可能となる。
【0019】
請求項2に係る発明によれば、変速伝達機構が、大径ギアと小径ギアのいずれか一方のギアの回転を、選択的に切り替えて第二回転軸へと伝達するクラッチ機構を有していることから、このクラッチ機構を切り替えて、大径ギアの回転を第二回転軸へと伝達させると前記回転数比を大きくすることができ、小径ギアの回転を第二回転軸へと伝達させると前記回転数比を小さくすることができる。そのため、ゴンドラ籠の重量(収容人数)に応じて、クラッチ機構を切り替えることにより、前記回転数比を容易に変更することが可能となる。
【0020】
請求項3に係る発明によれば、クラッチ機構のクラッチレバーを操作して筒状体を移動させて第一位置と第二位置とを切り替えることにより、大径ギアの回転を第二回転軸へと伝達させて回転数比を大きくする場合と、小径ギアの回転を第二回転軸へと伝達させて回転数比を小さくする場合とを、容易に且つ確実に切り替えることが可能となる。
【0021】
請求項4に係る発明によれば、筒状体の側面に突設された複数本のピンを、大径ギア及び小径ギアの側面に設けられた複数の穴に挿脱することにより、筒状体と大径ギア又は小径ギアとを選択的に確実に連結又は解除することが可能となる。
【0022】
請求項5に係る発明によれば、ハンドルの回転軸と第二回転軸が、第二回転軸の回転速度がハンドルの回転軸の回転速度よりも遅くなる減速機構を介して連結されていることから、ハンドルをより小さい力で回転させることが可能となる。
【0023】
請求項6に係る発明によれば、ハンドルが、回転半径が小さい第一ハンドル部と、回転半径が大きい第二ハンドル部とを備えていることから、ゴンドラ籠を昇降させる場合には第一ハンドル部を回転させることでハンドルを速く回転させることができる一方、クラッチ機構を切り換える場合には第二ハンドル部を回転させることで容易に切り換えることができる。
【0024】
請求項7に係る発明によれば、第二巻き上げドラムの回転を止めるための手動ブレーキを備えていることから、手動ブレーキを操作して第二巻き上げドラムの回転を止めることができる。そのため、ゴンドラ籠を最上位置から下降させる場合等において、カウンターウェイトの重量がクラッチ機構に加わらない状態とすることができ、クラッチ機構の切り換えを容易に行うことが可能となる。
【0025】
請求項8に係る発明によれば、クラッチ機構の切り換え時において、手動ブレーキにより第二巻き上げドラムの回転を止めた状態で、ハンドルを回転させて第二回転軸をカウンターウェイトが下降するときの回転方向に回転させることができる。そのため、クラッチ機構に加わっているカウンターウェイトの荷重を確実に解放することができ、クラッチ機構の切り換えを容易に行うことが可能となる。
【0026】
請求項9に係る発明によれば、第一ギア及び第二ギアはスプロケットからなり、回転伝達手段はチェーンからなることから、第二ギアの回転を確実に第一ギアへと伝達することができるとともに、各構成要素の配置の自由度が高くなり、様々な場所への設置が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る手巻き式ゴンドラの全体構成を示す正面図である。
【図2】本発明に係る手巻き式ゴンドラの全体構成を示す右側面図である。
【図3】本発明に係る手巻き式ゴンドラの全体構成を示す左側面図である。
【図4】本発明に係る手巻き式ゴンドラの全体構成を示す平面図である。
【図5】本発明に係る手巻き式ゴンドラのハンドル部分の拡大正面図である。
【図6】本発明に係る手巻き式ゴンドラのハンドル部分の拡大右側面図である。
【図7】本発明に係る手巻き式ゴンドラのハンドル部分の拡大平面図である。
【図8】本発明に係る手巻き式ゴンドラの第二巻き上げドラム付近の拡大正面図である。
【図9】本発明に係る手巻き式ゴンドラの第二巻き上げドラム付近の拡大右側面断面図である。
【図10】本発明に係る手巻き式ゴンドラの第一巻き上げドラム付近の拡大正面図である。
【図11】本発明に係る手巻き式ゴンドラの第一巻き上げドラム付近の部分拡大左側面断面図である。
【図12】本発明に係る手巻き式ゴンドラのクラッチ機構付近の拡大図であって、(a)は右側面断面図、(b)はA方向及びB方向の端面図である。
【図13】本発明に係る手巻き式ゴンドラの全体構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る手巻き式ゴンドラの好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
本発明に係る手巻き式ゴンドラは、図1〜図4及び図13に示すように、人が乗るゴンドラ籠(1)と、ゴンドラ籠(1)と重量バランスをとるためのカウンターウェイト(2)と、ゴンドラ籠(1)を吊り下げるワイヤーを巻き上げるための第一巻き上げドラム(3)と、カウンターウェイト(2)を吊り下げるワイヤーを巻き上げるための第二巻き上げドラム(4)と、第二巻き上げドラム(4)を人力で回転させるためのハンドル(5)と、第二巻き上げドラム(4)の回転を第一巻き上げドラム(3)へと伝達する伝達機構とを備えている。
【0029】
ゴンドラ籠(1)の大きさは特に限定されないが、例えば1名の人力で巻き上げることを想定した場合、最大積載荷重350kg(例えば5人乗り仕様)程度のものが好適であって、車椅子を搭載可能な広さを有することが好ましい。
ゴンドラ籠(1)は、第一巻き上げドラム(3)に巻回された2本のワイヤー(7)により、第一巻き上げドラム(3)の下方に吊り下げられている。
【0030】
カウンターウェイト(2)は、図1及び図4の「2へ」との表記で示すように、第二巻き上げドラム(4)に巻回されたワイヤー(8)の延長線上に位置するウェイト用ガイドシーブ(図示略)の下方に吊り下げられている。
カウンターウェイト(2)の重量は、ゴンドラ籠(1)の最大重量(ゴンドラ籠の自重+最大積載荷重)よりも小さく且つゴンドラ籠の自重よりも大きく設定される。具体的には、ゴンドラ籠の自重+ゴンドラ籠に積載可能な重量の半分以下(例えば1人分の重量)に設定することが好ましい。例えば、ゴンドラ籠の自重が400kg、1人分の重量が70kgで1名の人力でゴンドラ籠(1)を巻き上げることを想定した場合、400kg+70kg=470kgに設定される。
【0031】
第一巻き上げドラム(3)は、図1,図3,図4等に示すように、天井面(6)に固定された直方体枠状のフレーム(31)内に設置されている。
第一巻き上げドラム(3)は、その中心を軸方向(長さ方向)に貫く第一回転軸(32)に対して固定されており、第一回転軸(32)と共に回転する。
第一回転軸(32)は、その両端部がフレーム(31)に対して固定された軸受(33)に回転可能に支持されている。
第一回転軸(32)の右端部及び左端部には夫々第一巻き上げドラム(3)が固定されており、夫々の第一巻き上げドラム(3)に巻回されたワイヤー(7)はゴンドラ籠(1)に接続されている。
第一回転軸(32)の中央部には左右一対の第一ギア(9)が固定されている。左右一対の第一ギア(9)は、同じ歯数のスプロケットからなり、第一回転軸(32)と共に回転する。
【0032】
第二巻き上げドラム(4)は、図1,2,4等に示すように、天井面(6)に固定された直方体枠状のフレーム(41)内に設置されている。
第二巻き上げドラム(4)は、その中心を軸方向(長さ方向)に貫く第二回転軸(42)に対して軸受(43)を介して回転可能に取り付けられている。(図9等参照)
第二回転軸(42)と第二巻き上げドラム(4)は、一方向クラッチ(カムクラッチ)(10)を介して連結されている。
一方向クラッチ(10)は、図9に示すように、内輪(10a)が第二回転軸(42)に対して固定されており、外輪(10b)が筒状連結体(23)を介して第二巻き上げドラム(4)に対して固定されている。また、外輪(10b)は後述する手動ディスクブレーキ(11)のディスク(11a)に対して固定されている。
【0033】
手動ディスクブレーキ(11)が作動していない状態(ディスク(11a)が回転可能な状態)では、一方向クラッチ(10)の外輪(10b)も回転可能な状態となる。そのため、後述するハンドル(5)の回転に伴って第二回転軸(42)が回転する時、第二回転軸(42)の回転と共に一方向クラッチ(10)の内輪(10a)及び外輪(10b)が回転し、これに伴って第二巻き上げドラム(4)も回転する。
この作用は、第二回転軸(42)が、カウンターウェイトを下降させてゴンドラ籠(1)を上昇させる(巻き上げる)方向(以下、正方向と称す)に回転する場合と、カウンターウェイトを上昇させてゴンドラ籠(1)を下降させる方向(以下、逆方向と称す)に回転する場合、のいずれの場合も同様である。つまり、いずれの場合も、第二回転軸(42)の回転と共に第二巻き上げドラム(4)が回転する。
【0034】
手動ディスクブレーキ(11)が作動している状態(ディスク(11a)が固定された状態)では、一方向クラッチ(10)の外輪(10b)及び第二巻き上げドラム(4)も固定状態(回転不能な状態)となる。そのため、一方向クラッチ(10)の内輪(10a)及び第二回転軸(42)は、正方向には回転できるが逆方向には回転できない状態となる。この状態では、カウンターウェイトの昇降が阻止された状態となり、後述するクラッチ機構を回転させようとする力が解除される。
尚、第二巻き上げドラム(4)は、第二回転軸(42)に対して軸受(43)を介して回転可能に取り付けられているため、第二巻き上げドラム(4)が固定状態にあっても、第二回転軸(42)は正方向に回転することができる。
【0035】
上記した手動ディスクブレーキ(11)が作動している状態(第二巻き上げドラム(4)が回転を止められている状態)において、一方向クラッチ(10)は、第二回転軸(42)が一方向に回転することを許容する。この一方向とは、カウンターウェイトが下降する時(ゴンドラ籠が上昇する時)に第二回転軸(42)が回転する方向である。
【0036】
第二回転軸(42)は、その両端部がフレーム(41)に対して固定された軸受(44)に回転可能に支持されている。
第二回転軸(42)の左側(第二巻き上げドラム(4)より左側)には、左右一対の第二ギア(12)が取り付けられており、第二回転軸(42)の右端部には1つの第三ギア(13)が取り付けられている。
第二ギア(12)及び第三ギア(13)はスプロケットからなり、第二ギア(12)は第一ギア(9)と共に後述する変速装置を構成している。第三ギア(13)は、後述するハンドル(5)の回転軸に取り付けられたギア(52)と、チェーン(14)により連結されている。(図2参照)
【0037】
伝達機構は、第二巻き上げドラム(4)の回転数に対する第一巻き上げドラム(3)の回転数の比を変更可能とする変速装置を有している。
変速装置は、第一巻き上げドラム(3)の中心を貫く第一回転軸(32)と共に回転可能な一対の第一ギア(9)と、第二巻き上げドラム(4)の中心を貫く第二回転軸(42)と共に回転可能な一対の第二ギア(12)と、第二ギア(12)の回転を変速可能に第一ギア(9)へと伝達する変速伝達機構とを備えている。
【0038】
一対の第二ギア(12)は、互いに歯数が異なる2種類のギアからなる。具体的には、第一ギア(9)と同じ歯数の大径ギア(12a)と、第一ギア(9)より歯数が少ない小径ギア(12b)とからなる。
一対の第一ギア(9)は、同じ歯数の2つのギアからなる。第一ギア(9)の一方は、大径ギア(12a)と回転伝達手段(チェーン)(15)を介して連結されており、他方が小径ギア(12b)と回転伝達手段(チェーン)(16)を介して連結されている。
【0039】
変速伝達機構は、大径ギア(12a)と小径ギア(12b)のいずれか一方のギアの回転を、選択的に切り替えて第二回転軸(42)へと伝達するクラッチ機構を有している。
クラッチ機構は、図9,12に示すように、第二回転軸(42)に対して滑りキー(17)を介して取り付けられて第二回転軸(42)の軸方向の一方側及び他方側に移動可能である筒状体(18)と、筒状体(18)を一方側又は他方側に移動させるクラッチレバー(19)とを有している。
【0040】
クラッチレバー(19)は、基端部(上端部)が筒状体(18)と接続されており、先端部(下端部)は人が操作可能なように突出している。クラッチレバー(19)の先端部を一方側(図9の左側)に向けて操作すると、筒状体(18)は第二回転軸(42)の軸方向の一方側(図9,12の右側)に移動する。クラッチレバー(19)を他方側(図9の右側)に向けて操作すると、筒状体(18)は第二回転軸(42)の軸方向の他方側(図9,12の左側)に移動する。
図9においてクラッチレバー(19)を一方側に向けて操作した状態を実線で示し、他方側に向けて操作した状態を仮想線(二点鎖線)で示している。
【0041】
筒状体(18)は、一方側(図12の右側)に移動したときに大径ギア(12a)と連結される第一位置に配置され、他方側(図12の左側)に移動したときに小径ギア(12b)と連結される第二位置に配置される。図12では、筒状体(18)が第一位置に配置されている状態を示しており、図12中の白矢印は、第一位置から第二位置への移動方向を示している。
【0042】
大径ギア(12a)及び小径ギア(12b)は、メタルブッシュ(19)を介して第二回転軸(42)に取り付けられている。これにより、大径ギア(12a)及び小径ギア(12b)は、第二回転軸(42)に対して回転可能(滑り回転可能)となっている。
【0043】
筒状体(18)の一方側の側面及び他方側の側面には、それぞれ複数本のピン(20)が周方向に等間隔で突設されている。
大径ギア(12a)は、筒状体(18)の一方側の側面に対向する側の側面(図12の左側面)に、周方向に等間隔で複数(図示例では16個)の穴(21)が設けられている。小径ギア(12b)は、筒状体(18)の他方側の側面に対向する側の側面(図12の右側面)に、周方向に等間隔で複数(図示例では16個)の穴(22)が設けられている。穴(21)(22)の配置はピン(20)の配置と対応している。
ピン(20)の本数は、穴(21)(22)の数以下であれば特に限定されず、破壊されない本数に設定すればよい。例えば、穴(21)(22)が16個の場合、ピン(20)は8本程度とすればよい。
筒状体(18)が第一位置に配置されたとき、ピン(20)が大径ギア(12a)の穴(21)に挿入される。(図12参照) 筒状体(18)が第二位置に配置されたとき、ピン(20)が小径ギア(12b)の穴(22)に挿入される。
【0044】
大径ギア(12a)又は小径ギア(12b)が回転すると、この回転はチェーン(15)又は(16)を介して第一ギア(9)に伝達されて、第一回転軸(32)が回転する。
ここで、筒状体(18)が第一位置(図12の位置)にあるときは、ピン(20)が穴(21)に挿入されているため、筒状体(18)と大径ギア(12a)は一体的に回転する。筒状体(18)と第二回転軸(42)は滑りキー(17)を介して接続されて一体的に回転するため、第二回転軸(42)の回転に伴って筒状体(18)及び大径ギア(12a)が回転する。このとき、ピン(20)が穴(22)から抜けているため、筒状体(18)の回転は小径ギア(12b)へと伝達されない。そのため、第二回転軸(42)の回転は、小径ギア(12b)には伝わらない。
【0045】
一方、筒状体(18)が第二位置(図12の位置から白矢印方向に移動した位置)にあるときは、ピン(20)が穴(22)に挿入されているため、筒状体(18)と小径ギア(12b)は一体的に回転する。筒状体(18)と第二回転軸(42)は滑りキー(17)を介して接続されて一体的に回転するため、第二回転軸(42)の回転に伴って筒状体(18)及び小径ギア(12b)が回転する。このとき、ピン(20)が穴(21)から抜けているため、筒状体(18)の回転は大径ギア(12a)へと伝達されない。そのため、第二回転軸(42)の回転は、大径ギア(12a)には伝わらない。
【0046】
大径ギア(12a)又は小径ギア(12b)が回転すると、この回転はチェーン(15)又は(16)により第一ギア(9)に伝達され、第一ギア(9)が回転して第一回転軸(32)が回転する。
ここで、クラッチレバー(19)が図9の実線位置(以下、位置Aと称す)にあると、筒状体(18)は第一位置(図12の位置)にある。この状態で、第二回転軸(42)が回転すると、この回転は筒状体(18)を介して大径ギア(12a)へと伝達されるが、小径ギア(12b)へと伝達されない。そのため、第二回転軸(42)の回転数(単位時間当たりの回転数をいう、以下同様)を(n2)とすると、第一回転軸(32)の回転数(n1)は、第一ギア(9)の歯数(N1)と大径ギア(12a)の歯数(N2)の比により決定される。具体的には、n1=n2×(N2/N1)となる。
【0047】
クラッチレバー(19)を操作して図9の仮想線位置(以下、位置Bと称す)に切り替えると、筒状体(18)は第二位置に移動する(図12白矢印参照)。この状態で、第二回転軸(42)が回転すると、この回転は筒状体(18)を介して小径ギア(12b)へと伝達されるが、大径ギア(12a)へと伝達されない。そのため、第一回転軸(32)の回転数(n1)は、第一ギア(9)の歯数(N1)と小径ギア(12b)の歯数(N3)の比により決定される。具体的には、n1=n2×(N3/N1)となる。
【0048】
ここで、大径ギア(12a)の歯数(N2)は小径ギア(12b)の歯数(N3)より多いため、(N2/N1)>(N3/N1)となる。従って、クラッチレバー(19)を位置Aから位置Bへと操作する(切り替える)と、第二回転軸(42)の回転数(n2)に対する第一回転軸(32)の回転数(n1)の比(n1/n2)が小さくなる。換言すれば、第二回転軸(42)を1回転させたときに、第一回転軸(32)が回転する回数が少なくなる。
【0049】
例えば、第一ギア(9)の歯数(N1)が54、大径ギア(12a)の歯数(N2)が54、小径ギア(12b)の歯数(N3)が37である場合は次のようになる。
クラッチレバー(19)が位置Aにあるときは、第二回転軸(42)(及び第二巻き上げドラム(4))を1回転させると第一回転軸(32)(及び第一巻き上げドラム(3))も1回転(54/54回転)する。一方、クラッチレバー(19)が位置Bにあるときは、第二回転軸(42)(及び第二巻き上げドラム(4))を1回転させると第一回転軸(32)(及び第一巻き上げドラム(3))は約0.69回転(37/54回転)する。つまり、クラッチレバー(19)が位置Aから位置Bに切り替わると、第二回転軸(42)の回転数に対する第一回転軸(32)の回転数が約0.69倍に減少する。
ここで、ギアの歯数と直径は比例関係にあるため、クラッチレバー(19)が位置Aから位置Bに切り替わると、第一回転軸(32)を回転させるために第二回転軸(42)に加える力(トルク)は約0.69倍に減少する。
【0050】
ハンドル(5)は、図1,図2に示すように、第二巻き上げドラム(4)の下方に配置されている。
ハンドル(5)を回転させることにより回転する回転軸(51)の端部には、図6に示すように、ギア(スプロケット)(52)が取り付けられている。ギア(52)は、チェーン(14)により第二回転軸(42)の端部に取り付けられた第三ギア(スプロケット)(13)と連結されている。(図1,2参照)これにより、ハンドル(5)を回転させると、その回転は回転軸(51)に取り付けられたギア(52)から、チェーン(14)を介して第二回転軸(42)に取り付けられたギア(13)に伝達され、第二回転軸(42)が回転する。
【0051】
回転軸(51)に取り付けられたギア(52)の歯数は、第二回転軸(42)に取り付けられたギア(13)の歯数に比べて少なく設定されている。これにより、回転軸(51)の回転が第二回転軸(42)に伝達されるとき、回転数が小さくなる(減速される)こととなる。
また、ハンドル(5)と回転軸(51)の間にはギアボックス(54)が設けられている。ギアボックス(54)は、ハンドル(5)の回転方向を90°切り換えて回転軸(51)へと伝達する傘歯車機構を収容しており(図13参照)、ハンドル(5)の回転が回転軸(51)に伝達されるとき、回転数が小さくなる(減速される)。
このような減速機構を有することにより、ハンドル(5)を回転させるために要する力を減少させることができる。
【0052】
ハンドル(5)は、回転半径(Ra)が小さい第一ハンドル部(5a)と、回転半径(Rb)が大きい第二ハンドル部(5b)とを備えている。(図6参照)
第一ハンドル部(5a)は、回転半径が小さいため速く回転させることができる反面、回転させるために必要な力(トルク)は大きくなる。第二ハンドル部(5b)は、回転半径が大きいため速く回転させることができない反面、回転させるために必要な力(トルク)は小さくなる。
【0053】
第一ハンドル部(5a)及び第二ハンドル部(5b)が取り付けられた回転円筒(58)には、第一ハンドル部(5a)及び第二ハンドル部(5b)と共に回転するストッパー棒(56)が取り付けられている。
ハンドル(5)が設置された架台(55)には、ストッパー棒(56)を固定する(回転を止める)ことができる固定具(57)が取り付けられている。
固定具(57)に対してストッパー棒(56)を固定することにより、ハンドル(5)(第一ハンドル部(5a)及び第二ハンドル部(5b))の回転が止められる。そのため、ハンドル(5)を固定したい時や不使用時等に不用意にハンドル(5)が回転することが防がれて安全である。
【0054】
第一ハンドル部(5a)は、ゴンドラ籠(1)を昇降させるときに使用する。
第二ハンドル部(5b)は、クラッチ機構を切り換えるときに使用する。但し、第二ハンドル部(5b)は、ゴンドラ籠(1)を昇降させるときに使用することもできる。
クラッチ機構を切り換える場合には、クラッチ機構と第二ハンドル(5b)、手動ディスクブレーキ(11)を動作させるが、先ず、クラッチ機構と第二ハンドル(5b)の動作と、手動ディスクブレーキ(11)の動作を分けて説明する。全体の動作については、後の段落[0061]にて説明する。
【0055】
クラッチ機構を切り換える場合、上述したように、クラッチレバー(19)を操作して筒状体(18)を第一位置と第二位置との間で移動させ、ピン(20)を穴(21)又は穴(22)のいずれか一方から抜いて他方へと挿入する。
しかし、ゴンドラ籠(1)の重量が、第一ギア(9)からチェーンを介して第二ギア(大径ギア(12a)又は小径ギア(12b))に伝達されている状態では、第二ギアが回転しようとする力(トルク)がピン(20)に対して加わっているため、クラッチレバー(19)を操作してピン(20)を穴(21)又は穴(22)から抜くことは困難である。即ち、クラッチ機構を切り換えることが困難である。
【0056】
ここで、第二ハンドル部(5b)を持ってハンドル(5)を回転させることにより、第一ハンドル部(5a)を使用した場合に比べて小さい力でハンドル(5)を回転させることができる。そのため、クラッチレバー(19)に対して切り替えたい方向に力を加えながら、第二ハンドル部(5b)を使用してハンドル(5)を回転させることで、比較的容易に第二回転軸(42)と共に筒状体(18)を僅かに回転させてピン(20)に加わっている力(トルク)を解除することができる。そのため、ピン(20)が穴(21)又は穴(22)から抜けやすくなり、また反対側の穴(22)又は穴(21)への位置合わせと挿入も容易となり、クラッチ機構を切り換えることが容易となる。
【0057】
手動ディスクブレーキ(11)は、一方向クラッチ(10)の外輪(10b)に固定されたディスク(11a)と、フレーム(41)に固定されたブレーキハンドル(11b)とを備えている。ブレーキハンドル(11b)を操作することにより、ディスク(11a)を挟みつけて、ディスク(11a)を固定する(回転を止める)ことができる。
【0058】
以下、本発明に係る手巻き式ゴンドラの動作について説明する。
<1.ゴンドラ籠を巻き上げる(上昇させる)場合>
第一ハンドル部(5a)を持ってハンドル(5)を正方向に回転させると、ハンドル(5)の回転はギア(52)からチェーン(14)を介してギア(13)に伝達され、第二回転軸(42)が回転する。
第二回転軸(42)が回転すると、その回転は一方向クラッチ(10)を介して第二巻き上げドラム(4)へと伝わり、第二巻き上げドラム(4)が第二回転軸(10)と共に回転する。
第二巻き上げドラム(4)が回転すると、カウンターウェイト(2)が下降する。
【0059】
ここで、クラッチレバー(19)は、ゴンドラ籠(1)の重量が小さい場合(乗っている人数が少ない場合)は位置Aに設定し、重量が大きい場合(乗っている人数が多い場合)は位置Bに設定する。
クラッチレバー(19)が位置Aにある場合、筒状体(18)は前記第一位置にあるため、第二回転軸(42)と共に大径ギア(12a)が回転する。大径ギア(12a)の回転は、チェーン(15)を介して第一ギア(9)に伝達され、第一回転軸(32)が回転する。
クラッチレバー(19)が位置Bにある場合、筒状体(18)は前記第二位置にあるため、第二回転軸(42)と共に小径ギア(12b)が回転する。小径ギア(12b)の回転は、チェーン(16)を介して第一ギア(9)に伝達され、第一回転軸(32)が回転する。
第一回転軸(32)が回転すると、第一巻き上げドラム(3)が回転してワイヤー(7)が巻き取られ、ゴンドラ籠(1)が巻き上げられる(上昇する)。
【0060】
このように、クラッチレバー(19)が、位置Aにある場合は大径ギア(12a)の回転が第一ギア(9)に伝達され、位置Bにある場合は小径ギア(12b)の回転が第一ギア(9)に伝達される。
そのため、クラッチレバー(19)が位置Bにある場合、位置Aにある場合に比べて、少ない力(トルク)でゴンドラ籠(1)を巻き上げることができる。従って、ゴンドラ籠(1)の重量が大きい場合(乗っている人数が多い場合)でも人力で楽にゴンドラ籠(1)を巻き上げることができる。
【0061】
<2.クラッチ機構を切り換える場合>
クラッチ機構の切り換えは、ゴンドラ籠(1)の重量による負荷を解除した状態で行う。具体的には、ゴンドラ籠(1)が地上にある状態又はゴンドラ籠(1)が最上部にある状態で行う。ゴンドラ籠(1)が地上にある状態ではゴンドラ籠の重量は地面で受けられる。ゴンドラ籠(1)が最上部にある状態では、ゴンドラ籠(1)の底部を受け棒(図示略)で支持することにより、ゴンドラ籠の重量を受け棒で受ける。
ゴンドラ籠(1)の重量による負荷を解除した状態で、手動ディスクブレーキ(11)をかけないで、第二ハンドル部(5b)を使用してハンドル(5)を回転して、カウンターウェイト(2)を少し持ち上げるように、第二巻き上げドラム(4)を少し回転させる。これにより、第一巻き上げドラム(3)も少し回転して、ゴンドラ籠(1)に接続されたワイヤー(7)が少し緩んだ(弛んだ)状態となる。
この状態で手動ディスクブレーキ(11)をかけてディスク(11a)を固定し、第二巻き上げドラム(4)が回転しないようにし、クラッチレバー(19)に対して切り替えたい方向に力を加えながら、第二ハンドル部(5b)を使用してハンドル(5)を回転することにより、第二回転軸(42)を前記緩んだ分だけ戻すように回転する。これにより、ピン(20)に加わる力が解除されるため、クラッチレバー(19)が簡単に動くようになり、容易にクラッチ機構を切り換えることができる。
上記動作において、手動ディスクブレーキ(11)をかけた状態で第二回転軸(42)の回転が許容されるのは、一方向クラッチ(10)が設けられているためである。仮に、一方向クラッチ(10)が無い場合、手動ディスクブレーキ(11)をかけて第二巻き上げドラム(4)が回転しないようにすると、第二回転軸(42)も回転できなくなる。そうすると、第二回転軸(42)は、ピン(20)にカウンターウェイトの荷重が加わった状態で固定されることになるため、ピン(20)が穴から抜けにくくなり、クラッチレバー(19)を動かすことが困難となる。
【0062】
<3.ゴンドラ籠を巻き下ろす(下降させる)場合>
第一ハンドル部(5a)を持ってハンドル(5)を逆方向に回転させれば、<1.ゴンドラ籠を巻き上げる(上昇させる)場合>と同様の動作(回転が逆方向となる)により、カウンターウェイト(2)が上昇し、ゴンドラ籠(1)が下降する。
【0063】
以下、本発明に係る手巻き式ゴンドラの作用について例を挙げて説明する。
手巻き式ゴンドラが以下の仕様である場合について説明する。
・ゴンドラ籠(1)の自重:400kg
・ゴンドラ籠(1)の最大積載荷重:350kg
・ゴンドラ籠(1)の最大重量(ゴンドラ籠の自重+最大積載荷重):750kg
・カウンターウェイト(2)の重量:470kg
・ゴンドラ籠(1)に乗る人(1人当たり)の重量:70kg
・第一ギア(9)の歯数(N1):54
・第二ギア(12)の大径ギア(12a)の歯数(N2):54
・第二ギア(12)の小径ギア(12b)の歯数(N3):37
・ハンドル(5)の回転軸(51)に取り付けられたギア(52)の歯数:26
・第二回転軸(42)に取り付けられたギア(13)の歯数:40
・ギアボックス(54)の減速比:1/3
・ハンドル(5)の第一ハンドル部(5a)の回転半径:30cm
・第一巻き上げドラム(3)の半径:12.5cm
・第二巻き上げドラム(4)の半径:12.5cm
【0064】
上記条件において、ゴンドラ籠(1)を巻き上げる時に必要なハンドル力(ハンドル(5)に加える力(トルク))を計算する。
【0065】
<A.ゴンドラ籠が空の場合>
・クラッチレバー(19):位置Aに設定
・ゴンドラ籠(1)の重量=400kg
a)第一回転軸(32)に加わるトルク
400kg×12.5cm=5000kg・cm
b)第二回転軸(42)に加わるトルク
470kg×12.5cm=5875kg・cm
c)トルク差
5000−5875=−875kg・cm
d)ハンドルの回転軸(51)に加わるトルク(ハンドル力)
−875×(26/40)×(1/30)×(1/3)=−6.32kg・cm
【0066】
<B.ゴンドラ籠に1人乗っている場合>
・クラッチレバー(19):位置Aに設定
・ゴンドラ籠(1)の重量=400+70=470kg
a)第一回転軸(32)に加わるトルク
470kg×12.5cm=5875kg・cm
b)第二回転軸(42)に加わるトルク
470kg×12.5cm=5875kg・cm
c)トルク差
5875−5875=0kg・cm
d)ハンドルの回転軸(51)に加わるトルク(ハンドル力)
0×(26/40)×(1/30)×(1/3)=0kg・cm
【0067】
<C.ゴンドラ籠に2人乗っている場合>
・クラッチレバー(19):位置Aに設定
・ゴンドラ籠(1)の重量=400+140=540kg
a)第一回転軸(32)に加わるトルク
540kg×12.5cm=6750kg・cm
b)第二回転軸(42)に加わるトルク
470kg×12.5cm=5875kg・cm
c)トルク差
6750−5875=875kg・cm
d)ハンドルの回転軸(51)に加わるトルク(ハンドル力)
875×(26/40)×(1/30)×(1/3)=6.32kg・cm
【0068】
<D.ゴンドラ籠に3人乗っている場合>
・クラッチレバー(19):位置Bに設定
・ゴンドラ籠(1)の重量=400+210=610kg
a)第一回転軸(32)に加わるトルク
610kg×12.5cm=7625kg・cm
b)第二回転軸(42)に加わるトルク
5875×(54/37)=8574kg・cm
c)トルク差
7625−8574=−949kg・cm
d)ハンドルの回転軸(51)に加わるトルク(ハンドル力)
−949×(26/40)×(1/30)×(1/3)=−6.86kg・cm
【0069】
<E.ゴンドラ籠に4人乗っている場合>
・クラッチレバー(19):位置Bに設定
・ゴンドラ籠(1)の重量=400+280=680kg
a)第一回転軸(32)に加わるトルク
680kg×12.5cm=8500kg・cm
b)第二回転軸(42)に加わるトルク
5875×(54/37)=8574kg・cm
c)トルク差
8500−8574=−74kg・cm
d)ハンドルの回転軸(51)に加わるトルク(ハンドル力)
−74×(26/40)×(1/30)×(1/3)=−0.54kg・cm
【0070】
<F.ゴンドラ籠に5人乗っている場合>
・クラッチレバー(19):位置Bに設定
・ゴンドラ籠(1)の重量=400+350=750kg
a)第一回転軸(32)に加わるトルク
750kg×12.5cm=9375kg・cm
b)第二回転軸(42)に加わるトルク
5875×(54/37)=8574kg・cm
c)トルク差
9375−8574=801kg・cm
d)ハンドルの回転軸(51)に加わるトルク(ハンドル力)
801×(26/40)×(1/30)×(1/3)=5.78kg・cm
【0071】
上記A〜Fで求められたハンドル力を表1にまとめて示す。
尚、表1に示すハンドル力は理論値であり、実際にはこれより若干大きくなる。
【0072】
【表1】

【0073】
表1に示すように、クラッチ機構を切り換えることにより、ゴンドラ籠が軽い場合(乗っている人数が少ない場合)も、ゴンドラ籠が重い場合(乗っている人数が多い場合)も、ほぼ一定のハンドル力でゴンドラ籠を巻き上げることができる。そのため、ゴンドラ籠の重量に関係なく、ほぼ同じ速度でゴンドラ籠を巻き上げることが可能となる。
【0074】
本発明に係る手巻き式ゴンドラは、人を載せて高い場所まで昇降する必要がある様々な設備や施設に取り付けて使用することができるが、好適には津波避難施設に取り付けて使用することができる。
例えば、地面に立設された支柱と、この支柱により地上の所定高さ(津波が届かない高さ)に支持された避難台とを備えた津波避難施設(例えば、上記特許文献1,2参照)において、避難台への昇降手段として本発明に係る手巻き式ゴンドラを取り付けることができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、例えば津波避難施設等で避難者を津波が届かない高所へと導くためのゴンドラとして好適に使用される。
【符号の説明】
【0076】
1 ゴンドラ籠
2 カウンターウェイト
3 第一巻き上げドラム
32 第一回転軸
4 第二巻き上げドラム
42 第二回転軸
5 ハンドル
5a 第一ハンドル部
5b 第二ハンドル部
7 ワイヤー
8 ワイヤー
9 第一ギア
10 一方向クラッチ
11 手動ブレーキ(手動ディスクブレーキ)
11a ディスク
11b ブレーキハンドル
12 第二ギア
12a 大径ギア
12b 小径ギア
15 回転伝達手段(チェーン)
16 回転伝達手段(チェーン)
18 筒状体
19 クラッチレバー
20 ピン
21 穴
22 穴
Ra 第一ハンドル部の回転半径
Rb 第二ハンドル部の回転半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人が乗るゴンドラ籠と、
前記ゴンドラ籠と重量バランスをとるためのカウンターウェイトと、
前記ゴンドラ籠を吊り下げるワイヤーを巻き上げるための第一巻き上げドラムと、
前記カウンターウェイトを吊り下げるワイヤーを巻き上げるための第二巻き上げドラムと、
前記第二巻き上げドラムを人力で回転させるためのハンドルと、
前記第二巻き上げドラムの回転を前記第一巻き上げドラムへと伝達する伝達機構と、
を備えており、
前記伝達機構は、前記第二巻き上げドラムの回転数に対する前記第一巻き上げドラムの回転数の比を変更可能とする変速装置を有している
ことを特徴とする手巻き式ゴンドラ。
【請求項2】
前記変速装置が、
前記第一巻き上げドラムの中心を貫く第一回転軸と共に回転可能な一対の第一ギアと、
前記第二巻き上げドラムの中心を貫く第二回転軸と共に回転可能な一対の第二ギアと、
前記第二ギアの回転を変速可能に前記第一ギアへと伝達する変速伝達機構とを備え、
前記一対の第二ギアは、互いに歯数が異なる大径ギアと小径ギアとからなり、
前記一対の第一ギアは、同じ歯数の2つのギアからなるとともに、一方が前記大径ギアと回転伝達手段を介して連結され、他方が前記小径ギアと回転伝達手段を介して連結されており、
前記変速伝達機構は、
前記大径ギアと前記小径ギアのいずれか一方のギアの回転を、選択的に切り替えて前記第二回転軸へと伝達するクラッチ機構を有している
ことを特徴とする請求項1記載の手巻き式ゴンドラ。
【請求項3】
前記クラッチ機構は、
前記第二回転軸に対して取り付けられて当該第二回転軸方向の一方側及び他方側に移動可能である筒状体と、
前記筒状体を前記一方側又は前記他方側に移動させるクラッチレバーと、を有しており、
前記筒状体は、前記一方側に移動したときに前記大径ギアと連結される第一位置に配置され、前記他方側に移動したときに前記小径ギアと連結される第二位置に配置され、
前記第二回転軸は、前記筒状体が前記第一位置にあるときは前記大径ギアと共に回転し、前記筒状体が前記第二位置にあるときは前記小径ギアと共に回転する
ことを特徴とする請求項2記載の手巻き式ゴンドラ。
【請求項4】
前記筒状体は、前記一方側の側面及び前記他方側の側面にそれぞれ複数本のピンが周方向に等間隔で突設されており、
前記大径ギアは、前記筒状体の一方側の側面に対向する側の側面に、周方向に等間隔で複数の穴が設けられており、
前記小径ギアは、前記筒状体の他方側の側面に対向する側の側面に、周方向に等間隔で複数の穴が設けられており、
前記筒状体が前記第一位置に配置されたときに、前記ピンが前記大径ギアの穴に挿入され、
前記筒状体が前記第二位置に配置されたときに、前記ピンが前記小径ギアの穴に挿入される、
ことを特徴とする請求項3記載の手巻き式ゴンドラ。
【請求項5】
前記ハンドルの回転軸と前記第二回転軸は、前記第二回転軸の回転速度が前記ハンドルの回転軸の回転速度よりも遅くなる減速機構を介して連結されていることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の手巻き式ゴンドラ。
【請求項6】
前記ハンドルは、回転半径が小さい第一ハンドル部と、回転半径が大きい第二ハンドル部とを備えていることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の手巻き式ゴンドラ。
【請求項7】
前記第二巻き上げドラムの回転を止めるための手動ブレーキを備えていることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の手巻き式ゴンドラ。
【請求項8】
前記第二巻き上げドラムは、前記第二回転軸に対して軸受を介して回転可能に取り付けられており、
前記第二回転軸と前記第二巻き上げドラムは、一方向クラッチを介して連結されており、
前記一方向クラッチは、前記手動ブレーキの作動により前記第二巻き上げドラムが回転を止められている状態においても、前記第二回転軸が前記カウンターウェイトが下降するときの回転方向に回転することを許容することを特徴とする請求項7記載の手巻き式ゴンドラ。
【請求項9】
前記第一ギア及び前記第二ギアはスプロケットからなり、
前記回転伝達手段はチェーンからなることを特徴とする請求項2記載の手巻き式ゴンドラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−60251(P2013−60251A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198830(P2011−198830)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(596109273)株式会社高知丸高 (17)
【Fターム(参考)】