説明

手指の巧緻動作能力を検査するシステム、方法及びプログラム

【課題】
従来の手指巧緻動作能力検査は、専門の知識を有する検査者によって実施され、結果判定が行われてきた。また、検査で行う動作が細かすぎること、検査時間が長いこと、検査回数が多いことなど、臨床場面での実施が困難である場合が多いという問題がある。本発明は、短時間に、低い能力から高い能力の人まで、児童から高齢者までの対象者で実施でき、結果判定が自動的に表示される検査システムを提供することにある。
【解決手段】
本システムでは、被検者選択手段101において、検査実施が初めての場合と2回目以降の場合の選択を行う。初回の場合は、被検者情報入力手段102において被検者情報を入力する。新規検査者及び2回目以降の検査者共に新規計測データ入力手段103において左右の手それぞれで6つのサブテストの中から必要な検査を選んで実施する。また、演算手段106において健常者の能力との比較が行われ、結果はメモリ107に保存される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手指機能の質的変化を量的変化としてとらえる手指の巧緻動作能力を検査するシステム、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、リハビリテーションを必要とする患者は、体の一部に障害が残ることが多い。しかし、その後のリハビリテーションを行うことで機能の改善がなされてゆく。特に、生活自立を目指すリハビリテーションでは、手の機能、中でも手指の機能の回復は、日常生活動作の自立を目指す上で重要な役割を担う。そのため、リハビリテーションにおいて手芸、塗り絵、パズル、ペグ、等を用い手指の機能を改善し、食事動作、更衣動作、整容動作の改善を目指してゆく。
【0003】
手指の機能は年代によって違いが見られる。手指の機能は、幼児や低学年の学齢時、高齢者では、青年や中年者と比べ低い。体に障害を持った幼児や低学年の学齢時、高齢な患者では、それぞれの年代での健常者の手指機能と比較することが、生活自立を目指す上での具体的な目安となる。
【0004】
リハビリテーションで用いる手指機能の検査は、専門知識を有する検査者がいなければ実施することは出来ない。そのため、障害を有し自宅で生活する障害者が、自宅でリハビリテーションを行う上で手指機能の検査を行うことが出来ない。そこで、自宅でリハビリテーションを行う障害者が、自らの年齢と同じ年代の健常者の手指の機能と比較する、専門知識を有する検査者がいなくても検査結果の判定が分かる、自動化した手指検査システムが必要になってくる。
【0005】
リハビリテーションの効果を示すために、これまでにいくつかの手指巧緻動作検査が開発され用いられてきた。日本で購入可能な手指巧緻動作検査としては、Simple Test for Evaluating Hand Function; STEF(非特許文献1)、Finger Function Quotient Test; FQテスト(非特許文献2、3)、Manual Function Test ;MFT(非特許文献4)、一般職業適性検査(非特許文献5)、O’Connor Finger Dexterity Test(非特許文献6)、Purdue Peg Board Test(非特許文献7〜9)がある。
【0006】
これら手指巧緻動作検査の内、STEF、FQテスト、MFT、一般職業適性検査では、複数のサブテストを実施し上肢機能全般について評価する。一方、O’Connor Finger Dexterity Test、Purdue Peg Board Testは、主に健常者の職業適性検査として開発された検査であり、専門知識を有する検査者によって検査の判定が行われている。
【0007】
また、手指等の動作を検査する装置としては、例えば、特許文献1〜3が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平08−224226号公報
【特許文献2】特表2005−503229号公報
【特許文献3】特開2002−65641号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】金子翼:上肢機能開発と標準化に関する研究.神戸大学医療技術短期大学部紀要 1:37-42, 1985.
【非特許文献2】花村都:Finger Function Quotient(FQ). 理学療法と作業療法 7:267-275, 1973.
【非特許文献3】花村都:Finger Function Quotient(FQ)2. 学療法と作業療法 7:761-767, 1973.
【非特許文献4】Moriyama S:Occupational therapy stroke rehabilitation-With reference to early stage program-.Proc Joint Japanese- China Stroke Conference.Reimeikyo Rehabil Hosp, Aomori: 114-124, 1987.
【非特許文献5】厚生労働省編一般職業適性検査 :http://www.jil.go.jp/institute/seika/GATB.htm
【非特許文献6】Hines, Mildred and O’connor, Johnson: A Measure of Finger Dexterity. Personnel Journal 4: 379-382. 1926.
【非特許文献7】Fleishman E A, Ellison G D:A Factor Analysis of Fine Manipulative Test.J Appl Psychol 46:96-105, 1962.
【非特許文献8】Costa L D. Vaughan H G, Levita E. Farber N:Purdue Peg Board as Predictor of the Presence and Laterality of Cerebral Lesions, J Consult Psychol 27:133-137, 1963.
【非特許文献9】Gardener R. Broman M:The Purdue Pegboard: normative date on 1334 school children, J Clin Child Psychol 7: 156-162,1979.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の検査は、専門の知識を有する検査者によって実施され、結果判定が行われてきた。また、障害者にとっては検査で行う動作が細かすぎることや、検査時間が長いことや、検査回数が多いなど、臨床場面での実施が困難である場合が多く、それぞれの検査内容が特殊な動作であるために、検査を行うのに30分から60分程度の時間を要するという問題がある。
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたもので、短時間に、低い能力から高い能力の人まで、児童から高齢者までの対象者で実施でき、結果判定が自動的に表示される検査システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、被検者の手指巧緻動作能力を検査するシステムであって、両端部の色が異なる9本のペグと、当該ペグが着脱可能であって、縦に3個ずつ5列に15個の孔が縦横等間隔に配列するボードとを用い、当該ボードの片側3列に差し込まれたペグを、1本ずつ反対側3列に移動する移し動作、及び/又は、1本ずつ抜いたのち、上下を逆にして差し込む返し動作の時間を計測し、計測値を入力する計測値入力手段と、前記計測値と、予め健常者を対象に求めた基準値とを比較して、巧緻動作能力を算出する能力算出手段と、を備えることを特徴とする。
【0013】
また、被検者の手指巧緻動作能力を検査するシステムであって、前記被検者が4歳以上で、前記計測値が2回の同じ動作の時間の平均値であることを特徴とする。
【0014】
また、コンピュータを用いて構築された被検者の手指巧緻動作能力を検査する方法であって、前記コンピュータが備える計測値入力手段が、両端部の色が異なる9本のペグと、当該ペグが着脱可能であって、縦に3個ずつ5列に15個の孔が縦横等間隔に配列するボードとを用い、当該ボードの片側3列に差し込まれたペグを、1本ずつ反対側3列に移動する移し動作、及び/又は、1本ずつ抜いたのち、上下を逆にして差し込む返し動作の時間を計測し、計測値を入力するステップと、次いで、前記コンピュータが備える能力算出手段が、前記計測値と、予め健常者を対象に求めた基準値を比較して、巧緻動作能力を算出するステップと、を実行することを特徴とする。
【0015】
また、被検者の手指巧緻動作能力を検査する方法であって、両端部の色が異なる9本のペグと、当該ペグが着脱可能であって、縦に3個ずつ5列に15個の孔が縦横等間隔に配列するボードとを用い、当該ボードの片側3列に差し込まれたペグを、1本ずつ反対側3列に移動する移し動作、及び/又は、1本ずつ抜いたのち、上下を逆にして差し込む返し動作の時間を計測し、計測値を求める工程と、次いで、前記計測値と、予め健常者を対象に求めた基準値とを比較して、巧緻動作能力を算出する工程と、を含むことを特徴とする。
【0016】
また、コンピュータを、被検者の手指巧緻動作能力を検査する手段として機能させるためのプログラムであって、前記コンピュータを、両端部の色が異なる9本のペグと、当該ペグが着脱可能であって、縦に3個ずつ5列に15個の孔が縦横等間隔に配列するボードとを用い、当該ボードの片側3列に差し込まれたペグを、1本ずつ反対側3列に移動する移し動作、及び/又は、1本ずつ抜いたのち、上下を逆にして差し込む返し動作の時間を計測し、計測値を入力する計測値入力手段として機能させ、次いで、前記コンピュータを、前記計測値と、予め健常者を対象に求めた基準値を比較して、巧緻動作能力を算出する能力算出手段として機能させることを特徴とする
【発明の効果】
【0017】
本発明では、3種類のペグの内、操作可能な大きさのペグを選んで検査を行う。一般に、脳卒中などの中枢性の疾患の場合、手指の運動障害の回復は、粗大な運動から微細な運動が可能になるべく回復してくる。検査に用いる用具は、ペグの直径が3cm、1.5cm、0.5cmの3種類の大きさの違うペグにより構成されており、また検査に用いる動作も巧緻動作能力レベルの違う「移し動作」と「返し動作」の2種類有り、重度の障害者、脳卒中などの中枢性の疾患の初期の回復段階の患者、幼児や高齢者などの巧緻動作能力が低い障害者から、一般の健常者まで用いることができる。
【0018】
また、検査方法としては、9本のペグを違うボードの穴に移し替える「移し動作」と、9本のペグをボード上の同じ穴にひっくり返して差し込む「返し動作」を、3種類のペグで行う6つのサブテストそれぞれの結果で健常者との解析が可能である。また、検査は重度の障害者、脳卒中などの中枢性の疾患の初期の回復段階の患者、幼児や高齢者などの巧緻動作能力が低い障害者などの身体的・心理的耐久性が低い人を対象とするために、実施制限時間を60秒間とし、その時間内に9本のペグの「移し動作」や「返し動作」が出来ない場合は、実施できたペグの本数で解析が可能であるために、検査時間が非常に短い。
【0019】
また、画面に表示された指示に従って、サブテストの時間またはペグ本数と年齢、利き手、サブテストの種類を入力し、測定結果を入力すると自動的に同年齢健常者の巧緻動作能力との比較が表示され検査に専門的知識を要しない。
【0020】
以上説明したように、本発明の手指巧緻動作能力検査システムによれば検査が容易である。また、幼児から高齢者まで可能であるなど、年齢を問わず実施可能な簡便な検査である。また、障害の程度や日常生活との関連性をもった6つのサブテストは、最大で60秒で実施でき、6つのサブテストごとに被検査者の手指の巧緻動作能力が同年代健常者の手指の巧緻動作に関する能力に比べ何%の能力があるかを評価・判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の基本的構成である。
【図2】検査初期の流れ図である。
【図3】検査における新規計測過程の流れ図である。
【図4】検査データ編集過程の流れ図である。
【図5】検査結果表示過程の流れ図である。
【図6】3種類のペグの大きさと日常生活動作との関連図である。
【図7】検査動作の違いと日常生活動作との関連図である。
【図8】手指巧緻動作能力検査システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0023】
図1は手指巧緻動作能力検査システムの基本的構成を表したものである。この手指巧緻動作能力検査システムは、手指の障害を持った患者の検査結果の解析・評価を自動的に行うシステムで、手指巧緻動作能力検査器具100と、その検査結果情報を保存・解析する解析装置200とから構成されている。
【0024】
対象者の手指機能を検査する手指巧緻動作能力検査器具100では、ペグの直径が3cm、長さが8 cmの大ペグ、ペグの直径が1.5cm、長さが5 cmの中ペグ、ペグの直径が0.5cm、長さが3.5cmの小ペグの3種類のペグを用いる。これらのペグを差し込むボードには、縦に3つの穴が横5列に等間隔で並んでおり、合計15穴ある。ボードの大きさは、大ペグ使用で縦29 cm×横31 cm、中ペグ使用で縦17 cm×横28 cm、小ペグ使用で縦11 cm×横18 cmであり、持ち運びなどの運搬しやすい大きさである。なお、ボードの穴数は、上記以上であれば検査に用いることができる。また、ボードの大きさも穴数に比例して大きくなっても特に問題はない。検査は、病や障害を持った対象者の身体的・心理的耐久性を配慮し、幼児や高齢者などにも理解しやすいように、9本のペグを用いて行うことで完結するように構成されている。また、検査結果と日常生活動作の関連性から、物を運ぶことや物を摘むなどの指を使った視覚との協調動作との関連性が高い「移し動作」と、ボタン操作や箸の操作、書字などの親指、人差し指、中指の3指の操作性との関連性が高い「返し動作」の2種類の動作について、3種類のペグ(大ペグ、中ペグ、小ペグ)で行うために、6つのサブテストの中の実施可能なサブテストで検査が行われる。
【0025】
検査結果の保存と解析を行う解析装置200は、画面上に被検者に対して検査を行う手順を示し、被検者がそれに従って被検者情報の入力、検査測定の実施、結果の入力を行うことで情報の保存と解析・評価し、結果の評価について画面上で被検者に示すことが出来る。
【0026】
[手指巧緻動作能力検査の信頼性の検討]
手指巧緻動作能力検査の信頼性の検討は、身体的、認知的に問題が無く、日常生活に支障がない健康な幼児20名(5.5±0.5歳)、学齢児20名(10.5±0.5歳)、若年者20名(20.25±0.43歳)、中年者20名(44.85±2.73歳)、熟年者20名(65.35±2.73歳)の計100名を被検者にして、ペグの大きさ(大・中・小)、及び動作(移し・返し)の6つのサブテストの、左右の手による計12動作についての方法で行った。
【0027】
表1は、若年者を対象に2人の検者によって得られた2回の測定値(秒)の平均値データである。また、表2は、測定データを級内相関係数Intra-class correlation coefficient:ICC(2.1)結果と95%信頼区間及び下限値−上限値で表したものであり、測定した12動作の内、9動作で0.75以上の高い結果である。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
また、4ヶ月後に同一検者が若年者を対象に測定した結果は、級内相関係数ICC(1.1)が測定した12動作全てで0.75以上の高い結果が得られた。
【0031】
表3は、同一検者が2回測定して検討を行った被検者、幼児20名、学齢児20名、若年者20名、中年者20名、熟年者20名における級内相関係数ICC(1.1)結果と95%信頼区間及び下限値−上限値を表したものであり、測定した12動作の内、0.75以上の高い結果であったのが、幼児では4動作、学齢児・若年者では5動作、中年者では10動作、熟年者では7動作と中年者で最も多いという結果となった。
【0032】
【表3】

【0033】
また、一定期間後に実施した検者内の信頼性については、内相関係数ICC(1.1)が、測定した12動作全てで0.75以上の高い結果を示した。また、2回測定値の平均値を用いることで信頼性が高まるため、手指巧緻動作能力検査では2回の試行の平均値を用いる。測定データとしては、1回だけの測定の信頼性が、2回測定したその平均値を用いるより低い。また、年少者や障害者の場合、3回以上では被験者の負担が大きくなるため望ましくない。
【0034】
[手指巧緻動作能力検査の妥当性の検討]
手指巧緻動作能力検査の妥当性の検討は、認知面、身体面に問題のない学生67名(平均年齢21.3歳、男性15名、女性52名、右利き65名、左利き2名)に対して、STEF、O’Connor Finger Dexterity Test及びPurdue Peg Board Testを実施し、手指巧緻動作能力検査の妥当性の検討を行った。
【0035】
その結果、手指巧緻動作能力検査は、他の検査方法との基準関連妥当性が高く、共に高い検査の一貫性が示された。
【0036】
また、右手と左手の相関についてみると、全てのサブテストで有意な相関関係が得られた。右手と左手の相関が高いということは、本検査の動作が、利き手の優位性を示す細かな動作ではなく、いずれの手でも同じように行える単純で基本的な動作であり、重度の患者においても実施できる簡易検査であることを示している。また、検査時間は約1分と、STEF等の他の検査と比べて大変短い。
【0037】
[手指巧緻動作能力検査の年代別基準値の作成]
表4は、手指巧緻動作能力検査基準値作成のための被検者属性と人数を表したものである。基準値は、身体的・認知的に問題なく日常生活を行っている方3歳〜88歳まで982名に手指巧緻動作能力検査の6サブテストについて両手各2回ずつ計12動作を実施し作成した。
【0038】
【表4】

【0039】
本検査は2歳児では実施できない。また、3歳児では一部が実施不可であり、4歳児以上ではいずれのテストも実施可能であることが分かった。したがって、検査対象年齢は4歳以上であることが望ましい。
【0040】
表5は、手指巧緻動作能力検査における6つのサブテストにおける左右の手、年齢ごとの基準値(秒)を表したものである。基準値の作成では、1992年に示されたアメリカ臨床検査標準協議会(NCCLS)が、健康な人100人の内95人が入る範囲、統計的に言えば平均値±2SD(標準偏差)の範囲(全測定者の95.4%を含む)を基準範囲とするガイドラインに従い、982名の調査結果から導き出された平均値±2SDを基に作成されている。
【0041】
【表5】

【0042】
この基準値を基に下記の数式1に当てはめて、同年代健常者の巧緻動作能力に対する被検者の巧緻動作能力を%で示すことが可能となる。なお、数式1を用いるのは、サブテストが60秒以内に完了した場合である。
【0043】
[数式1] 100×基準値(秒)÷測定値(秒)
【0044】
60秒間の規定の時間に完了できなかった場合は、60秒間に実施できたペグの本数により、表6を用いて手指巧緻動作能力を判定する。表6は、6つのサブテストにおける左右の手、年齢ごとの、同年代健常者の巧緻動作能力に対する被検者の巧緻動作能力を%で表している。各値は下記の数式2に基づいて算出されている。
【0045】
【表6】

【0046】
[数式2] 100×基準値÷(540÷〔60秒以内に実施したペグ本数〕)
【0047】
図2は、手指巧緻動作能力検査の初期過程を示した流れ図である。検査システムを作動し画面の指示に従って、最初に被検者を選択する。新規の場合は被検者情報である名前、性別、生年月日を入力する。既存被検者と被検者情報を入力した新規被検者は手指巧緻動作能力検査器具100を用いて計測を実施する(処理1)。測定値データの編集を行う場合は処理2に移る。また、結果を表示する場合は処理3に移る。
【0048】
図3は、手指巧緻動作能力検査システムの内、新規計測の過程を示した流れ図である。
新規計測を行う時、画面上の指示に従って行う場合と独自に手入力する方法に分かれる。
画面上の指示に従う場合、右手移し、右手返し、左手移し、左手返しの4種類の動作から動作選択を行う。次に、大、中、小の3種類のペグよりペグ種類の選択を行う。手指巧緻動作能力検査は9本のペグ操作を60秒間で行う。60秒以内で可能であった場合は、実施した時間(秒数)を、60秒間で9本のペグ操作が実施できなかった場合は、実施できたペグ数を入力する。計測日とあらかじめ入力されている被験者の生年月日より計測時の年齢を自動的に計算する。一方、本検査システムに慣れて十分理解している場合は、手入力の方が操作時間の短縮できる。計測年日の入力、実施動作(右手移し、右手返し、左手移し、左手返しの内一つ)、ペグの選択(大、中、小の3種類のペグの内一つ)、手指巧緻動作能力検査を実施し60秒間で9本のペグ操作が実施出来た場合はその測定時間(秒)を、60秒間で9本のペグ操作が実施出来なかった場合は実施できた本数を入力する。画面上の指示に従って行う場合と独自に手入力するどちらの場合も、同年代健常者の基準値を100%として測定値の%演算を行い結果の保存を行う。
【0049】
図4は、手指巧緻動作能力検査システムの内、データの編集の過程を示した流れ図である。手指巧緻動作能力検査システムでの計測が2回目以降は、データの編集の過程を用いる。手指巧緻動作能力検査システムの画面に従い、被検者の過去のデータを呼び出し、計測日の入力、動作の選択(右手移し、右手返し、左手移し、左手返しの内一つ)、ペグの選択(大、中、小の3種類のペグの内一つ)、手指巧緻動作能力検査を実施し60秒間で9本のペグ操作が実施出来た場合はその測定時間(秒)を、60秒間で9本のペグ操作が実施出来なかった場合は実施できた本数を入力する。同年代健常者の基準値を100%として測定値の%演算を行い結果の保存を行う。
【0050】
図5は、手指巧緻動作能力検査システムの内、結果表示の過程を示した流れ図である。処理1(新規計測の過程)もしくは処理2(データの編集の過程)で保存された結果を基に、測定結果の抽出・選択、結果の評価、測定結果及び評価結果の表示を行う。
【0051】
図6は、6つのサブテストにおける3種類のペグの大きさと日常生活動作との関連を示した図である。これに示してある3種類のペグの大きさと日常生活動作との関連を基に、処理3におけるサブテストのペグの大きさと日常生活との関連について画面上に示す。
【0052】
図7は、6つのサブテストにおける2種類のペグ動作の違いと日常生活動作との関連を示した図である。これに示してある2種類のペグ動作の違いと日常生活動作との関連を基に、処理3におけるサブテストのペグ動作の違いと日常生活との関連について画面上に示す。2種類の動作は、ペグを最初あった穴から決められた穴に移す「移し動作」と、最初あった穴にペグを180度回転させ、逆さまにして差し込む「返し動作」である。「写し動作」は視覚による手の協調性をより必要とし、「返し動作」は指先の巧緻性をより必要とする。なお、「移し動作」は、右手を測定する場合、ボードの右側3列に9本のペグを配し、中央列の3本を含めて左側3列に移動する時間を100分の1秒単位で測定する。また、左手を測定する場合は、ボードの左側3列に9本のペグを配し、中央列の3本を含めて右側3列に移動する時間を測定する。なお、2回の動作を測定する場合、左右の手で交互に実施する。一方、「返し動作」は、ボードの連続する3列に9本のペグを配し、全ペグを返す時間を測定する。なお、ペグの両端は色分けされており、返しが実施されたかどうかを判別できる。なお、本検査は、複数回実施による学習効果が考えられるため、検査に際しては、検査者がデモンストレーションを行うが、被検査者は練習を行わない。
【0053】
図8は、本システムのブロック図である。手指巧緻動作能力検査システムでは、被検者選択手段101において、検査実施が初めての場合と2回目以降の場合の選択を行う。初回の場合は、被検者情報入力手段102において被検者情報を入力する。新規検査者及び2回目以降の検査者共に新規計測データ入力手段103において左右の手それぞれで6つのサブテストの中から必要な検査を選んで実施した結果を入力する。新規及び既存データの修正は、既存データ編集手段104において実施する。これら新規計測データ入力手段103及び既存データ編集手段104を経たデータは、演算手段106にて健常者の能力との比較(能力算出)が行われ、結果はメモリ107に保存される。演算手段106及びメモリ107からの情報は結果表示手段105において、同年代健常者の能力との比較及び6つのサブテストにおける日常生活動作との関連が画面上に示される。
【符号の説明】
【0054】
100 手指巧緻動作能力検査器具
200 解析装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の手指巧緻動作能力を検査するシステムであって、
両端部の色が異なる9本のペグと、当該ペグが着脱可能であって、縦に3個ずつ5列に15個の孔が縦横等間隔に配列するボードとを用い、当該ボードの片側3列に差し込まれたペグを、1本ずつ反対側3列に移動する移し動作、及び/又は、1本ずつ抜いたのち、上下を逆にして差し込む返し動作の時間を計測し、計測値を入力する計測値入力手段と、
前記計測値と、予め健常者を対象に求めた基準値を比較して、巧緻動作能力を算出する能力算出手段と、
を備えることを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記被検者が4歳以上で、前記計測値が2回の同じ動作の時間の平均値であることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
コンピュータを用いて構築された被検者の手指巧緻動作能力を検査する方法であって、
前記コンピュータが備える計測値入力手段が、両端部の色が異なる9本のペグと、当該ペグが着脱可能であって、縦に3個ずつ5列に15個の孔が縦横等間隔に配列するボードとを用い、当該ボードの片側3列に差し込まれたペグを、1本ずつ反対側3列に移動する移し動作、及び/又は、1本ずつ抜いたのち、上下を逆にして差し込む返し動作の時間を計測し、計測値を入力するステップと、
次いで、前記コンピュータが備える能力算出手段が、前記計測値と、予め健常者を対象に求めた基準値とを比較して、巧緻動作能力を算出するステップと、
を実行することを特徴とする方法。
【請求項4】
被検者の手指巧緻動作能力を検査する方法であって、
両端部の色が異なる9本のペグと、当該ペグが着脱可能であって、縦に3個ずつ5列に15個の孔が縦横等間隔に配列するボードとを用い、当該ボードの片側3列に差し込まれたペグを、1本ずつ反対側3列に移動する移し動作、及び/又は、1本ずつ抜いたのち、上下を逆にして差し込む返し動作の時間を計測し、計測値を求める工程と、
次いで、前記計測値と、予め健常者を対象に求めた基準値とを比較して、巧緻動作能力を算出する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
コンピュータを、被検者の手指巧緻動作能力を検査する手段として機能させるためのプログラムであって、
前記コンピュータを、両端部の色が異なる9本のペグと、当該ペグが着脱可能であって、縦に3個ずつ5列に15個の孔が縦横等間隔に配列するボードとを用い、当該ボードの片側3列に差し込まれたペグを、1本ずつ反対側3列に移動する移し動作、及び/又は、1本づつ抜いたのち、上下を逆にして差し込む返し動作の時間を計測し、計測値を入力する計測値入力手段として機能させ、
次いで、前記コンピュータを、前記計測値と、予め健常者を対象に求めた基準値とを比較して、巧緻動作能力を算出する能力算出手段として機能させることを特徴とするプログラム。


【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−284293(P2010−284293A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139798(P2009−139798)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【特許番号】特許第4431729号(P4431729)
【特許公報発行日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名:社団法人日本作業療法士協会 刊行物名:作業療法 巻数:第28巻 号数:第1号 発行年月日:平成21年2月15日
【出願人】(591106462)茨城県 (45)
【Fターム(参考)】