説明

手洗器

【課題】スタッフから利用者への感染を予防できるようにするとともに、狭いスペースに設置できるようにした。
【解決手段】手洗器1は、凹状に形成されてその底面2dに排水孔2cを有するボウル部2と、ボウル部2に洗浄水を供給する水栓金具3と、ボウル部2の下方に設けられて排水孔2cに連通してなる排水管4とを備えている。ボウル部2は、奥行き方向の後端面が壁5に支持されるとともに、底面2dが排水孔2cに向かって下方に傾斜する表面形状に形成され、外周上端縁2bが底面2dに向かって下方に傾斜又は湾曲して形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手洗器に関するものであり、特に病院や老人ホーム等の施設のスタッフが使用する手洗器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、病院や老人ホームなどの施設で使用される洗面器は、患者や高齢者などが利用しやすいように設計されている。そして、健常者のみでなく様々な身体的条件を備えた使用者が利便性を満足できるように、最適な設計指針を提示させた構造に設計されているものが考案されている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1は、車椅子のまま足がボウル部の下に入るような空間が設けられ、車椅子を使用する利用者と立った状態で使用する利用者に共通して使用できるようにしたものであって、十分なスペースが確保されたカウンター(ボウル周囲に位置する略水平部分)が設けられ、拭き取り部材の収納部、洗浄液や消毒液等の物がカウンター上方の正面に設けられた収納部に配置された洗面化粧台について開示されている。
【特許文献1】特開2001−309861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、病院や老人ホームなどの施設で使用される洗面器では、以下のような問題があった。
すなわち、上述した特許文献1などの従来の洗面器では、カウンター上に洗浄液、消毒液や利用者が使用する洗面道具等が雑然と置かれ、その置かれた物の周りにいつまでも水分が溜まった状態となり、微生物が繁殖して雑菌が増える原因となっていた。そして、病院等の施設では、利用者が生活するうえで使用する洗面器と、医療スタッフや介護スタッフなどの手洗設備とを別々に設置するだけのスペースを確保することが困難な施設が多いことから、利用者とスタッフとが洗面器を兼用で使用しているのが一般的となっている。そのため、施設内の多くの患者や高齢者などと接するスタッフが、利用者と兼用で洗面器を使用すると、手洗いしたにもかかわらず雑菌が手や腕などに付着して、スタッフから利用者へ感染するといった問題があった。
また、特許文献1のように、利用者の利便性から設計された構造をなし、手洗いや洗顔などに使用することを目的とした洗面器となっているため、スタッフ専用の手洗い設備であって、しかも微生物が繁殖しないような好適な洗面器が求められていた。
【0004】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、スタッフから利用者への感染を予防できるようにした手洗器を提供することを目的とする。
また、本発明の他の目的は、狭いスペースに設置できるようにした手洗器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係る手洗器では、凹状に形成されてその底面に排水孔を有するボウル部と、ボウル部に洗浄水を供給する水栓部と、ボウル部の下方に設けられていて排水孔に連通してなる排水部とを備えた手洗器であって、ボウル部は、奥行き方向の後端面が壁に支持されるとともに、底面が排水孔に向かって下方に傾斜する表面形状に形成され、外周上端縁が底面に向かって下方に傾斜又は湾曲して形成されていることを特徴としている。
本発明では、ボウル部の底面及び外周上端縁は、水平方向の平坦部及び凹部(窪み部)がなく、ボウル部の排水孔に向かって水が流れる表面形状となっているので、ボウル部には水が溜まらないようになっている。さらに、外周上縁部が平坦面でないので洗浄液等の物が安定した状態で置けないことから、外周上縁部に物を置くことがなくなり、物の周囲に水が溜まるといった状態をなくすことができる。そのため、ボウル部に溜まった水分から微生物が繁殖することが無くなり、手洗い時に雑菌がスタッフに付着することを防ぐことができる。
【0006】
また、本発明に係る手洗器では、水栓部は、その基端部がボウル部から上方に所定の離間距離をもって壁に設けられていることが好ましい。
本発明では、水栓部とボウル部との間に隙間が設けられているので、ボウル部上の空間が確保され、ボウル部の上面の清掃が容易になる。しかも、ボウル部の上面に水栓部等の突出した部材が配置されないので、その突出部の周りに水が溜まって雑菌が発生するといったことをなくすことができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の手洗器によれば、ボウル部に水平方向の平坦部及び凹部(窪み部)がなく、ボウル部の上部に物を置くことができない形状であるので、ボウル部の上部にいつまでも水が溜まることがない。そのため、ボウル部に溜まった水分から微生物が繁殖することが無くなり、手洗い時に雑菌がスタッフに付着することを防ぐことができ、スタッフから利用者への感染を予防することができる。
また、本発明の手洗器によれば、従来のようにボウル部の周囲に物を置けるようにしたカウンター等がないコンパクトな構造であるので、施設内の狭いスペースであっても手洗器の設置が可能となることから、病院の患者等の利用者が使用する洗面器とは別にスタッフ専用の手洗器を設置することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明による手洗器について、図1乃至図4に基づいて説明する。
図1は本発明の実施の形態による手洗器の正面図、図2は図1に示す手洗器の側面図、図3は図1に示す手洗器の平面図、図4はボウル部の形状を示す部分拡大図である。
【0009】
図1乃至図3に示す本実施の形態の手洗器1は、病院や老人ホームなどの施設において、医療スタッフや介護スタッフ(以下、単に「スタッフ」という)などが、施設の利用者(患者や高齢者など)とは別に専用で手洗いするための設備とされる。
【0010】
本手洗器1は、凹状に形成されたボウル部2と、ボウル部2内に洗浄水を供給するための水栓金具3(水栓部)と、ボウル部2の底面2dに形成された排水孔2cに連通されてなる排水管4(排水部)とを備えている。
【0011】
図2及び図3に示すように、ボウル部2は、奥行き方向の後端面2aが、例えば建築物の壁5に当接して支持されるとともに、その接続部Tは連続面を形成している。なお、ボウル部2と壁5との接続部Tは、壁面に密着して設置され、継ぎ目や凹凸がなく滑らかで且つ底面2dに向けて下方に傾斜するような表面形状に形成されている。
【0012】
そして、このボウル部2は、水濡れや薬品等に触れた場合にも防食性が強く、またカビや汚れが定着しにくい表面が滑らかで且つ剛性を有する材料であって、例えば人造大理石等の材料より形成されている。排水孔2cは、底面2dの最下部であって平面視略中央に設けられるとともに、排水管4に連通している。
【0013】
図4に示すように、ボウル部2の外周上端縁2bは、底面2d側に向けて下方に傾斜又は湾曲した表面形状をなしている。そして、外周上端縁2bは、底面2dに滑らかに連続するように形成されている。そして、外周上端縁2bは、洗浄液や手洗いに必要な備品といった物を安定しておくことができない程度の厚さ寸法、例えば12mm〜13mmの厚さ寸法で形成されている。
【0014】
ボウル部2の底面2dは、外周上端縁2bから底面2dの最下部に位置する排水孔2cに向けて滑らかな曲面を有する表面形状に形成されている。つまり、ボウル部2の上面における表面形状は、水平方向の平坦部(平面部)及び凹部(窪み部)が無い形状となっている。これは、スタッフが手洗い中、及び手洗い後の水がすべて排水孔2cに向けて流下され、ボウル部2に水滴(水分)が溜まらないような形状に構成されている。
【0015】
図1乃至図3に示すように、壁5に支持される後端面2aを除くボウル部2の外周上端縁2bは、開放された状態となっている。そのため、手洗器1は、全体の大きさを従来のようにボウル部2の周囲に物が置けるようなカウンターが設けられている手洗器と比べて小さくすることができることから、狭い箇所にも設置可能な構成となっている。
【0016】
そして、ボウル部2の下側の下面2eは、底面2dとほぼ同じ曲面を有する形状をなし、外周上端縁2bから排水管4が設けられている位置に向けて滑らかに連続する曲面が形成されている。
【0017】
水栓金具3は、その基端部3aがボウル部2から上方に所定の離間距離をもって壁5に支持され、供給口3bが底面2dに向けた状態で配設されている。ここで、上記所定の離間距離とは、底面2dに当たった水の水跳ね等の影響が少ない距離とされる。
【0018】
そして、水栓金具3には、予め洗浄水の水量や水温が自動で調整されている自動水栓を採用している。これは、水栓金具3の供給口3b付近にセンサー(図示省略)が設けられ、そのセンサーに近づけて手をかざすと、センサーが反応して一定時間の間、水が出る周知の構成のものとされる。なお、とくに図示はしないが、自動水栓式に代えて、洗浄水の水量や水温をレバーの上下もしくは回転で容易に調節できるシングルレバー混合水栓を採用してもよい。この場合も、例えば手洗い後の濡れた手で触れずに濡れていない手首付近等で容易に水栓金具3を操作できる構成となっている。
このような水栓金具3は、洗浄水を供給する配管31を介して給水管32及び給湯管33に連結しており、その給水管32及び給湯管33が、予めボウル部2を支持して配置した壁5の内方に埋め込まれて配置されている。
【0019】
排水管4は、ボウル部2の排水孔2cと連通しており、ボウル部2の下方に配置され、その先が前記給水管及び給湯管と同様でボウル部2を支持した壁5の内方に埋め込まれている。
そして、排水管4及び給水管32及び給湯管33が壁5に埋め込まれているので、ボウル部2の下方には、開放空間6が形成されている(図1及び図2参照)。
【0020】
さらに、本実施の形態では、ボウル部2に貯水用の排水栓及びオーバーフロー部が設置されていない。これは、本手洗器1の使用目的がスタッフ専用の手洗いであり、院内感染源となる菌を手指に付着している人が利用する可能性があるため、ボウル部2に洗浄水を貯水しないことに起因するものであり、これに従い排水孔4には開閉栓やオーバーフロー部が設けられていない。
【0021】
このように、手洗器1は、ボウル部2の底面2d及び外周上端縁2bには水平方向の平坦部及び凹部(窪み部)がないので、ボウル部2の上面の水が底面2dに沿って排水孔2cに向かって流れることから、水が溜まることがない構成となっている。また、外周上縁部が平坦面でないので、手洗いに使用される洗浄液等の物が置けないことから、その物の周囲に水が溜まるといったことがなくなる。そのため、本手洗器1では、ボウル部に溜まった水分から微生物が繁殖することが無くなり、手洗い時に雑菌がスタッフに付着することを防ぐことができるようになっている。
【0022】
また、水栓金具3が、ボウル部2から所定の離間距離を設けた位置に配置されているので、水栓金具3とボウル部2との間に隙間が設けられ、ボウル部2上の空間S(図1及び図2参照)が確保され、ボウル部2の上面の清掃が容易になる。しかも、ボウル部2の上面に水栓金具3等の突出した部材が配置されないので、その突出部の周りに水が溜まって雑菌が発生するといったことをなくすことができる。
【0023】
上述した本実施の形態による手洗器1では、ボウル部2に水平方向の平坦部及び凹部(窪み部)がなく、ボウル部2の上部に物を置くことができない形状であるので、ボウル部2の上部にいつまでも水が溜まることがない。そのため、ボウル部2に溜まった水分から微生物が繁殖することが無くなり、手洗い時に雑菌がスタッフに付着することを防ぐことができ、スタッフから利用者への感染を予防することができる。
また、本手洗器1では、従来のようにボウル部の周囲に物を置けるようにしたカウンター等がないコンパクトな構造であるので、施設内の狭いスペースであっても手洗器1の設置が可能となることから、病院の患者等の利用者が使用する洗面器とは別にスタッフ専用の手洗器1を設置することができる。
【0024】
以上、本発明による手洗器の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、ボウル部2の形状は上面の表面形状で平坦部や凹部(窪み部)が形成されていなければよく、その奥行き寸法、幅寸法、底部の深さ寸法、外周上端縁2bの厚さ寸法、排水孔2cの位置などにとくに制限は無く、適宜設定することができる。そして、本実施の形態では、ボウル部2の底面2d及び外周上縁部2bの表面形状が曲面で形成されているが、部分的に直線的な傾斜面を有する形状であってもかまわない。
そして、ボウル部2の壁5に対する設置高さや、ボウル部2と水栓金具3との間の離間寸法についても適宜設定することができる。
【0025】
また、ボウル部2の底面2dや外周上端縁2bの傾斜面或いは曲面の大きさもとくに限定されることはないが、水が流下する程度の傾斜角度が必要であることはいうまでもないが、水栓金具3から供給される水が底面2dに当たって水跳ねしない程度の傾斜とされることが好ましいとされる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態による手洗器の正面図である。
【図2】図1に示す手洗器の側面図である。
【図3】図1に示す手洗器の平面図である。
【図4】ボウル部の形状を示す部分拡大図である。
【符号の説明】
【0027】
1 手洗器
2 ボウル部
2a 後端面
2b 外周上端縁
2c 排水孔
2d 底面
3 水栓金具(水栓部)
3a 基端部
4 排水管(排水部)
5 壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹状に形成されてその底面に排水孔を有するボウル部と、前記ボウル部に洗浄水を供給する水栓部と、前記ボウル部の下方に設けられていて前記排水孔に連通してなる排水部とを備えた手洗器であって、
前記ボウル部は、奥行き方向の後端面が壁に支持されるとともに、前記底面が前記排水孔に向かって下方に傾斜する表面形状に形成され、前記外周上端縁が前記底面に向かって下方に傾斜又は湾曲して形成されていることを特徴とする手洗器。
【請求項2】
前記水栓部は、その基端部がボウル部から上方に所定の離間距離をもって前記壁に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の手洗器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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