説明

手術用内視鏡装置

【課題】可撓管部の先端側寄りの領域が基端側寄りの領域より柔軟に形成された手術用内視鏡装置を用いる場合に、体内において軟性内視鏡と手術デバイスが干渉するのを回避して、手術部位の観察及び手術操作等をスムーズに行うことができる手術用内視鏡装置を提供すること。
【解決手段】可撓管部11において、その途中に形成された可撓性変移部11xより基端側寄りの領域11hと比較して先端側寄りの領域11sの方が柔軟に形成されていて、可撓性挿入部11,12,13の先端から可撓性変移部11xまでの長さ(Ls)が、内視鏡用トラカール30の先端から突出する可撓性挿入部11,12,13の予め設定された突出長(C)より大きく形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、腹腔鏡手術(又は胸腔鏡手術)等の際に体内の手術部位を観察するための内視鏡と、その内視鏡を体内に案内するために体壁部に突き刺された状態に配置されるトラカールとを備えた手術用内視鏡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
腹腔鏡手術等の際に体内の手術部位を観察するための内視鏡としては、挿入部が硬性で屈曲しないいわゆる硬性内視鏡が広く用いられている(例えば、特許文献1)。硬性内視鏡は、軟性内視鏡に比べて取り扱いが容易で耐久性も優れている等の長所がある。
【0003】
腹腔鏡手術等においては近年、患者の肉体的負担を極力小さくするために、内視鏡を案内する内視鏡用トラカールと手術デバイスを案内するデバイス用トラカールとを、体壁(例えば臍)にあけた同じ孔に差し込む術式が試みられている。
【0004】
ただし、そのようにすると、術式や使用する手術デバイスの種類等によっては、体内で内視鏡と手術デバイスとが干渉してしまったり、内視鏡が観察に都合のよい位置取りができなかったりする場合がある。
【0005】
しかし、内視鏡用トラカールの先端から体内に突出する硬性内視鏡の挿入部を変位させるのは困難なので、内視鏡と手術デバイスとが干渉すると、手術部位の観察及び手術操作自体に支障をきたすことになる。
【0006】
そこで、硬性内視鏡に代えて可撓性挿入部を備えた軟性内視鏡を使用することが考えられる。軟性内視鏡の可撓性挿入部なら、体内で手術用デバイスと干渉したときに無理なく変位して、手術部位の観察及び手術操作を問題なく継続することができる(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−269079
【特許文献2】特開平6−38923
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
軟性内視鏡の可撓性挿入部は一般に、可撓性のある可撓管部と、遠隔操作により屈曲させることができるように可撓管部の先端に連結された湾曲部と、観察窓が配置されて湾曲部の先端に連結された先端部本体により構成されている。
【0009】
そして、可撓管部において、先端側のごく短い領域は体腔内で小さな曲率半径で曲がることができるように柔軟に形成され(柔軟部)、それ以外の大半の領域は、術者による押し引き操作等の際に撓みすぎて操作力が逃げてしまわないように、ある程度以上の硬さに形成されている(低柔軟部)。
【0010】
しかし、軟性内視鏡の可撓性挿入部をそのように構成すると、低柔軟部がトラカールの先端から体内に差し込まれてしまった場合に、硬性内視鏡と同様に、術式や使用する手術デバイスの種類等によっては、体内で軟性内視鏡と手術デバイスとが干渉してしまったり、内視鏡が観察に都合のよい位置取りができなかったりする場合が発生する。
【0011】
本発明は、可撓管部の先端側寄りの領域が基端側寄りの領域より柔軟に形成された手術用内視鏡装置を用いる場合に、体内において軟性内視鏡と手術デバイスが干渉するのを回避して、手術部位の観察及び手術操作等をスムーズに行うことができる手術用内視鏡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、本発明の手術用内視鏡装置は、可撓性のある可撓管部の先端に、遠隔操作により屈曲させることができる湾曲部が連結されて、観察窓が配置された先端部本体が湾曲部の先端に連結された構成の可撓性挿入部を備えた軟性内視鏡と、その軟性内視鏡の可撓性挿入部を体内に案内するための内視鏡用トラカールとが設けられた手術用内視鏡装置であって、可撓管部において、その途中に形成された可撓性変移部より基端側寄りの領域と比較して先端側寄りの領域の方が柔軟に形成されていて、可撓性挿入部の先端から可撓性変移部までの長さ(Ls)が、内視鏡用トラカールの先端から突出する可撓性挿入部の予め設定された突出長(C)より大きく形成されているものである。
【0013】
なお、可撓管部の表面であって、可撓性挿入部が予め設定された突出長(C)だけ内視鏡用トラカールの先端から突出した状態の時に内視鏡用トラカールの基端に位置する部分に基準位置表示指標が設けられていてもよい。
【0014】
また、可撓管部の表面であって、可撓性変移部の位置よりトラカールの長さ(T)と同じ長さ(M)だけ基端側の位置に限界位置表示指標が設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、可撓性挿入部が内視鏡用トラカールに通されて内視鏡手術が行われる状態では、殆どのケースで可撓管部の先端側寄りの柔軟な領域がそのトラカールの先端から体内に入っていて、基端側寄りの柔軟性の低い領域は体内に飛び出さないので、体内において軟性内視鏡と手術デバイスとが干渉しそうになっても、可撓管部の柔軟な部分が容易に変位して干渉が回避され、手術部位の観察及び手術操作等をスムーズに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例に係る手術用内視鏡装置の一部を断面で示す側面図である。
【図2】本発明の実施例に係る手術用内視鏡装置が使用される内視鏡手術の状態を示す略示図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図2は、本発明の手術用内視鏡装置を用いて腹腔鏡手術が行われる状態を略示している。
【0018】
腹部等の体内にある患部Aの手術を行うために、体壁の一か所(例えば臍等)に形成された一つの小さな切開孔Bから体内に、内視鏡用トラカール30とデバイス用トラカール40が差し込まれている。
【0019】
内視鏡用トラカール30は軟性内視鏡10を体内に案内するためのガイド筒であり、内視鏡用トラカール30に外側から軟性内視鏡10が挿入されている。デバイス用トラカール40は内視鏡用鉗子や電気メス等のような内視鏡手術用の手術デバイス50を体内に案内するためのガイド筒であり、デバイス用トラカール40に外側から手術デバイス50が挿入されている。
【0020】
軟性内視鏡10の可撓性挿入部は、可撓性のある可撓管部11と、基端側からの操作で任意に屈曲させることができるように可撓管部11の先端に連結された湾曲部12と、観察窓や照明窓等が先端面13aに配置されて湾曲部12の先端に連結された先端部本体13により構成されている。
【0021】
可撓管部11の基端に連結された操作部14には、湾曲部12を遠隔操作して屈曲させることができる湾曲操作ノブ15等のような各種操作部材が配置されている。16は、可撓管部11が操作部14への連結部付近で急激に曲がって座屈するのを防止するための折れ止め部材であり、可撓性挿入部には含まれない。
【0022】
本発明の手術用内視鏡装置は、軟性内視鏡10と内視鏡用トラカール30とを含むものであり、図1はその構成を略示している。ただし、軟性内視鏡10の操作部14は図1からはみ出した位置に存在しており、内視鏡用トラカール30は断面を図示してある。
【0023】
図1は、各部の径方向に対して長さ方向を圧縮して図示してある。内視鏡用トラカール30は、内径Dが例えば12mm程度で、長さTが20±5cm程度の筒状体である。内視鏡用トラカール30の基端側には、体内に潜ってしまうのを防ぐための鍔状部31が突出形成されている。
【0024】
軟性内視鏡10の可撓性挿入部11,12,13は、外径dが内視鏡用トラカール30内を緩く通過できる太さ(例えば、10〜11mm程度)で、長さLが60±10cm程度に形成されている。そのうち湾曲部12の長さは、例えば7±3cm程度である。
【0025】
可撓性挿入部11,12,13を構成する可撓管部11(有効長Z)は、公知の内視鏡の可撓管部と同様のものであり、例えばばね性を備えた金属帯材製の螺旋管の外面に網状管が被覆され、さらにその外面に、合成樹脂材の外皮が押出成形等で被覆された可撓管により外装されている。
【0026】
ただし可撓管部11は、その途中に形成された可撓性変移部11xより基端側寄りの領域(低柔軟部11h)と比較して、先端側寄りの領域(柔軟部11s)の方が柔軟に形成されている。
【0027】
即ち、可撓性変移部11xは低柔軟部11hと柔軟部11sとの境界部である。低柔軟部11hと柔軟部11sは、例えば外皮を形成する合成樹脂材の硬度を適宜に選択することで各々所望の可撓性に形成することができる。
【0028】
湾曲部12も公知の内視鏡の湾曲部と同様のものであり、例えば複数の関節輪がリベット等で回動自在に連結されて構成された骨組体の外面に網状管が被覆され、さらにその外面に、柔軟なゴムチューブ等が被覆された湾曲管により外装され、湾曲部12の先端部分に連結された操作ワイヤを操作部14側から牽引操作することにより屈曲する。
【0029】
このように構成された実施例の手術用内視鏡装置において、可撓性挿入部11,12,13の先端(即ち、先端部本体13の先端位置)から可撓性変移部11xまでの長さLsが、内視鏡用トラカール30の先端から突出する可撓性挿入部11,12,13の予め設定された突出長Cより大きく形成されている。
【0030】
可撓性挿入部11,12,13の予め設定された突出長Cとは、その軟性内視鏡10の機種の使用目的に対応して実際の症例の状態等を参考にして設定されるものであり、湾曲部12と先端部本体13を合わせた長さはその予め設定された突出長Cより短く形成されている。
【0031】
その結果、可撓性挿入部11,12,13が内視鏡用トラカール30に通されて内視鏡手術が行われる状態では、可撓性挿入部11,12,13を体内のよほど奥まで挿入せざるを得ないような特殊な症例を除いて、内視鏡用トラカール30の先端から柔軟部11sが体内に入っていて、低柔軟部11hは内視鏡用トラカール30の先端から体内に飛び出さない。
【0032】
したがって、図2に示されるように、内視鏡用トラカール30に通された軟性内視鏡10とデバイス用トラカール40に通された手術デバイス50とが、体壁に形成された一つの切開孔Bから体内に差し込まれる術式において、体内で軟性内視鏡10と手術デバイス50とが干渉しそうになっても、柔軟部11sが容易に変位して干渉が回避され、手術部位の観察及び手術操作等をスムーズに行うことができる。
【0033】
可撓管部11の表面であって、可撓性挿入部11,12,13が予め設定された突出長Cだけ内視鏡用トラカール30の先端から突出した状態の時に内視鏡用トラカール30の基端に位置する部分には、基準位置表示指標18が形成されている。
【0034】
基準位置表示指標18は、例えば可撓管部11の表面の全周に形成された線状の指標、或いは可撓管部11の表面色をその前後で相違させたもの(即ち、表面色の変化部)等により形成することができる。
【0035】
術者は、この基準位置表示指標18が内視鏡用トラカール30の入口にあることを見て、可撓性挿入部11,12,13が予め設定された突出長Cだけ内視鏡用トラカール30の先端から突出した状態であることを認識することができる。
【0036】
また、可撓管部11の表面であって、可撓性変移部11xの位置より内視鏡用トラカール30の長さ(T)と同じ長さ(M)だけ基端側の位置に限界位置表示指標19が形成されている。
【0037】
限界位置表示指標19も、例えば可撓管部11の表面の全周に形成された線状の指標、或いは可撓管部11の表面色をその前後で相違させたもの(即ち、表面色の変化部)等により形成することができる。内視鏡用トラカール30の入口から限界位置表示指標19までの長さが、内視鏡用トラカール30内に潜っている柔軟部11sの長さに相当する。
【0038】
したがって、可撓性挿入部11,12,13が予め設定された突出長Cより余計に内視鏡用トラカール30の先端から突出されても、限界位置表示指標19が内視鏡用トラカール30内に入らないように操作を行えば、低柔軟部11hが内視鏡用トラカール30の先端から突出せず、体内での軟性内視鏡10と手術デバイス50の干渉がスムーズに回避される。
【符号の説明】
【0039】
10 軟性内視鏡
11 可撓管部(可撓性挿入部)
11h 低柔軟部(基端側寄りの領域)
11s 柔軟部(先端側寄りの領域)
11x 可撓性変移部
12 湾曲部(可撓性挿入部)
13 先端部本体(可撓性挿入部)
18 基準位置表示指標
19 限界位置表示指標
30 内視鏡用トラカール
40 デバイス用トラカール
50 手術デバイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性のある可撓管部の先端に、遠隔操作により屈曲させることができる湾曲部が連結されて、観察窓が配置された先端部本体が上記湾曲部の先端に連結された構成の可撓性挿入部を備えた軟性内視鏡と、その軟性内視鏡の可撓性挿入部を体内に案内するための内視鏡用トラカールとが設けられた手術用内視鏡装置であって、
上記可撓管部において、その途中に形成された可撓性変移部より基端側寄りの領域と比較して先端側寄りの領域の方が柔軟に形成されていて、
上記可撓性挿入部の先端から上記可撓性変移部までの長さ(Ls)が、上記内視鏡用トラカールの先端から突出する上記可撓性挿入部の予め設定された突出長(C)より大きく形成されていることを特徴とする手術用内視鏡装置。
【請求項2】
上記可撓管部の表面であって、上記可撓性挿入部が上記の予め設定された突出長(C)だけ上記内視鏡用トラカールの先端から突出した状態の時に上記内視鏡用トラカールの基端に位置する部分に基準位置表示指標が設けられている請求項1記載の手術用内視鏡装置。
【請求項3】
上記可撓管部の表面であって、上記可撓性変移部の位置より上記トラカールの長さ(T)と同じ長さ(M)だけ基端側の位置に限界位置表示指標が設けられている請求項1又は2記載の手術用内視鏡装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−70854(P2012−70854A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216990(P2010−216990)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】