説明

手術用安全・安楽ベルト

【課題】患者の抑制感がなく不安感を緩和し、手術中の冷感症状を抑え保温に効果的な、長時間皮膚接触によっても発赤症状の出現の少ない手術用安全・安楽ベルトを提供する。
【解決手段】皮膚接触部分にムートンを使用し両端部あるいは片端部に切り込みを入れたジャージーを使用しジャージーの端とベルトの一部に係止部を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は手術台上における手術患者の転落リスク、ベッドへの拘束による不安感、長時間接触による皮膚障害をもたらさない手術用安全・安楽ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
超高齢化に伴い、高齢者を対象とする手術件数が増加している。高齢者は手術の際の麻酔導入時や覚醒時の不穏心理状態により、手術台からの転落リスクが高い。また手術に伴う低体温化により、皮膚の冷感症状の発現が起こりやすく保温に努める必要がある。手術患者の動きを抑制し、冷感症状の発現を抑えるためのベルトとして、従来木綿を素材とした織物ベルトが使用されてきた。
【0003】
たとえば木綿を素材としたベルトとしては、一般の入院患者の病棟において、患者のベッドからの転落防止に使用するキルティング加工された紐状、あるいはベルト状の抑制帯が使用されてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のキルティング加工された木綿の抑制帯を、手術台上での動きを抑制するベルトとして使用すると、そのベルトの幅が十分でない為に、手術台にベルトを固定すると患者の身体の接触部分の締め付け圧が高くなり、患者自身が強く抑制されているという感覚を覚えると同時に不安感に襲われるという欠点があった。また木綿という素材の性質のため、接触している皮膚の部分の冷感症状の発現があり、手術中の保温に問題が生じるという欠点もあった。さらにまた、長時間の手術に及ぶ場合、このベルトに接触している皮膚が発赤症状を呈するという欠点もあった。
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、患者自身が、強く抑制されているという感覚を覚えることが少なく、従って不安感に襲われることの少ない手術用安全・安楽ベルトを提供することを第1の目的とし、手術中の冷感症状を抑え、保温に効果的な手術用安全・安楽ベルトを提供することを第2の目的とし、さらにまた、長時間の接触によっても発赤症状の出現の少ない手術用安全・安楽ベルトを提供することを第3の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために本発明の手術用安全・安楽ベルトは、皮膚接触部分にムートンを使用し、両端部あるいは片端部に切り込みを入れた伸縮性のある編物ジャージーを使用しジャージーの端とベルトの一部に係止部を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、患者自身が、強く抑制されているという感覚を覚えることが少なく、従って不安感に襲われることの少ない、また、手術中の冷感症状を抑え、保温に有効な、さらにまた、長時間の接触によっても発赤症状の出現の少ない手術用安全・安心ベルトを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明におけるムートンは、メリノ種子羊の毛皮で、その巻き毛を利用できる形態であれば良く、毛の形状や裏皮の仕上げ加工等を限定するものではない。ムートンの持つ自然のぬくもり、やさしい肌触り,ふわふわ感が手術患者の抑制感を緩和して不安感を抑える効果を発揮し、その保温性に優れた性質が冷感症状を緩和する。また優れた弾力性と吸放湿性により、長時間の手術においても発赤症状の発現を少なくすることが出来る。
【0008】
本発明に用いるジャージーは、伸縮性と強度を備えていれば特にその素材は問わず、ポリエステルやナイロンなどの合成繊維、あるいは綿などの天然繊維が使用できる。
ジャージーの伸縮性を利用することにより、手術台への固定時に患者への締め付け圧力を緩和でき、また覚醒時の患者の動きにも対応した固定力を保持することが出来る。
【0009】
本発明のジャージー部分に取り付ける係止部は、係止できる構造であれば特に限定されないが、ボタンや面状ファスナーを使用することが出来、特に係止が容易で短時間に係止できることから面状ファスナーを用いることが好ましい。
【0010】
具体的に以下図を用いて説明する。
本発明において、下肢用の皮膚に接触するムートン1の幅は10cm〜35cm、好ましくは15cm〜25cmが良い。10cm未満だと従来、手術に転用されていたキルティング加工された抑制帯の幅と同程度に狭いため、固定時の締め付け圧力が高くなり、患者の抑制感、不安感が増す。35cmを超えると手術実施の上で齟齬が生じ易くなり好ましくない。また長さは、両足をそろえた時の大腿部分を十分覆うことが出来る50cmから70cmが好ましい。
【0011】
本発明の下肢用において用いるジャージー2はムートンに接着又は縫い付けるなどして接合し、中央部には切り込み4を入れて使用される。幅は特に限定されないが10cm〜25cmが好ましい。これより広いと操作性に劣り、狭いと強力に劣る。長さは45cm〜75cmが好ましい。これより長いと操作性に劣り短いと手術台への固定が困難になる。ジャージーに設ける切り込み4の長さはジャージー部分の長さ方向全体に入るのが操作性の上で好ましいが、特に限定されない。
【0012】
本発明の下肢用において用いる係止部分の構造は特に限定されないが、短時間で容易に固定が可能となる面状ファスナー3が利用できる。係止できればよく、ボタン等も使用できる。
【0013】
本発明において、上肢用の皮膚に接触するムートン1の幅は10cm〜35cm、好ましくは15cm〜25cmが良い。10cm未満だと従来、手術に転用されていたキルティング加工された抑制帯の幅と同程度に狭いため、固定時の締め付け圧力が高くなり、患者の抑制感、不安感が増す。35cmを超えると手術実施の上で齟齬が生じ易くなり好ましくない。また長さは、肘部分を十分覆うことが出来る45cm〜55cmが好ましい。
【0014】
上肢用に用いるジャージー2はムートンに接着又は縫い付けるなどして接合し、下肢用と同じく中央部には切り込みを入れて使用される。幅は特に限定されないが10cm〜35cmが好ましい。これより広いと操作性に劣り、狭いと強力に劣る。長さは45cm〜75cmが好ましい。これより長いと操作性に劣り短いと手術台への固定が困難になる。ジャージーの切り込み4の長さはジャージー部分の長さ方向全体に入るのが操作性の上で好ましいが、特に限定されるものではない。尚上肢用は下肢用と異なり、ジャージー部分は片側にのみ取り付けて使用される。
【0015】
上肢用の係止部分の構造は下肢用と同じく特に限定されるものではないが、短時間で容易に固定が可能となる面ファスナー3が利用できる。
【実施例】
【0016】
以下に実施例を用いて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
下肢用としてイトス株式会社製のポリエステルジャージー生地を所定の長さに裁断する。同じ幅のニュージーランド産ムートンをジャージー生地に縫いつけさらにジャージーの端部と一部に面状ファスナーを縫い付けて幅20cm、長さ55cmのムートン部分、幅20cm、長さ60cmのジャージー部分、ジャージー部分に60cmの切込みを入れた、下肢用の手術用安全・安楽ベルトを作成した。
【0017】
下肢用と同様のムートン及びジャージー生地を用い、幅20cm、長さ50cmのムートン部分、幅20cm、長さ55cmのジャージー部分、ジャージー部分に55cmの切込みを入れた、面状ファスナーが取り付けられた上肢用の手術用安全・安楽ベルトを作成した。
【0018】
上記で作成した手術用安全・安楽ベルトを60歳以上の患者10名を対象に全身麻酔で手術を実施した。手術室スタッフは8名で実施し、手術実施後アンケートを事務職スタッフ10名で実施し、抑制体験を調査した。その結果、本発明による手術用安全・安楽ベルトを使用することにより、患者自身が、強く抑制されているという感覚を覚えることが少なく、従って不安感に襲われることの少ないことが判明した。また手術中の冷感症状を抑え、保温に効果的な手術用安全・安心ベルトであることが判明した。さらにまた、長時間の接触によっても発赤症状の出現が見られないことも判明した。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の手術用安全・安楽ベルトは手術台上における手術患者の転落リスク、ベッドへの拘束による不安感、皮膚障害をもたらさない手術用安全・安楽ベルトとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明にかかる手術用安全・安楽ベルトの図である(下肢用)。
【図2】本発明にかかる手術用安全・安楽ベルトの図である(上肢用)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルトの皮膚接触部分にムートンを使用し、ベルトの両端部あるいは片端部に切り込みを入れたジャージーを使用して、ジャージーの端とベルトの一部に係止部を設けたことを特徴とする手術用安全・安楽ベルト。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−284147(P2008−284147A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−131660(P2007−131660)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【出願人】(596094337)丸三綿業株式会社 (4)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(507162382)医療法人齋藤記念病院 (1)
【Fターム(参考)】