説明

手術用持針器

【課題】縫合針による体内組織の穿刺、貫通などの操作性に優れた持針器を提供する。
【解決手段】ハンドル部2と、持針器軸3と、スライド部4と、持針器軸の内部を通じてハンドル部とスライド部を連通させる連通ロッド5とを有する持針器1であって、スライド部は、持針器軸先端面と対峙する側に、持針器軸先端面と平行かつ同形状の針当接面を有し、この針当接面と持針器軸先端面との間には針把持空間が形成され、連通ロッドは、ハンドル部の操作によって、ハンドル部側への引き込み、および、引き込み後の押出しが自在であり、連通ロッドの引き込みによって、針当接面が持針器軸先端面へ接近し、これに伴って、針把持空間が縮小することで、針当接面と持針器軸先端面との間に針を把持し、連通ロッドの押出しによって、針当接面が持針器軸先端面から離間し、これに伴って、縮小した針把持空間が復帰することで、把持された針を脱離させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡下手術に有効な手術用持針器に関する。詳しくは、腹腔、胸腔その他の体腔内での縫合針による組織縫合、結紮操作を行うための手術用持針器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、開腹手術にて行われていた様々な手術は、現在では多くの領域で、非開腹で行う内視鏡下手術が行われるようになった。対象となる疾患は、例えば、胆嚢摘出術に始まり、胃、大腸、直腸、肝臓、膵臓、ヘルニア、虫垂炎、卵巣、子宮、腎臓などの腹部手術に加え肺、甲状腺、乳腺など頸部から胸部の手術も胸腔鏡下に行われている。この内視鏡下手術は、例えば、腹腔内に複数本のトロカール管と呼ばれる管体を挿入し、一本のトロカール管から挿入したカメラによって体腔内をモニターし、他のトロカール管内に、各種の鉗子等の手術用器具を導入することによって、モニターを見ながら体腔内で手術が行われる。そして、腹腔、胸腔等の体腔内で縫合を行う場合は、一般的には、湾曲した縫合針付縫合糸を使用し、この針を操作するための手術用持針器が用いられている。
【0003】
例えば、図4に例示するように、従来の持針器1は、手元側にハンドル部2を備え、ハンドル部から前方に延びる持針器軸3の先端に、ハサミのような開閉動作が可能な持針部9を設け、この持針部9を前記ハンドル部3で作動させ、持針部9を閉状態とすることで、縫合針を把持する構成となっている(特許文献1)。
【0004】
そして、一般的には、縫合に際して、縫合針の先端を穿刺する組織と直角になるように対峙させ、縫合する組織に穿刺しなければならないが、前記のとおり、縫合針は湾曲した形状であるため、従来の持針器1の開閉(針把持)構造によっては、縫合針を適切な位置、角度で把持することが難しいという問題があった。特に、例えば、内視鏡下手術においては持針器等の鉗子の位置や可動範囲に制限があるため、複雑な運針を行うためには、縫合針を最適な位置、角度で把持することが必須であるが、前記のとおり、従来の持針器は、適切な角度で縫合針をすることが難しく、また縫合針の把持力も十分ではないため、手術には極めて高度な技術が必要とされている。したがって、このような技術の習得には長期の修練を要するばかりか、熟練者であっても、手術時間の延長から、患者の手術合併症を引き起こす危険性があり、また、手術に関わる人的、経済的損失も大きな問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平5−88507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、主に、体腔内での内視鏡下手術における縫合針を所定の角度で、容易かつ安定的に把持することができ、縫合針による体内組織の穿刺、貫通などの操作性に優れた持針器を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するため、以下の特徴を有する持針器を提供する。
【0008】
第1に、本発明の持針器は、ハンドル部と、ハンドル部の前方に設けられた持針器軸と、持針器軸の前方に設けられたスライド部と、持針器軸の内部を通じてハンドル部とスライド部を連通させる連通ロッドとを有する持針器であって、スライド部は、持針器軸先端面と対峙する側に、持針器軸先端面と平行かつ同形状の針当接面を有し、この針当接面と持針器軸先端面との間には針把持空間が形成され、連通ロッドは、ハンドル部の操作によって、ハンドル部側への引き込み、および、引き込み後の押出しが自在であり、連通ロッドの引き込みによって、針当接面が持針器軸先端面へ接近し、これに伴って、針把持空間が縮小することで、針当接面と持針器軸先端面との間に針を把持可能であるとともに、連通ロッドの押出しによって、針当接面が持針器軸先端面から離間し、これに伴って、縮小した針把持空間が復帰することで、把持された針が脱離可能である。
【0009】
第2に、本発明の持針器は、スライド部の針当接面と持針器軸先端面は、持針器軸の長手方向に対して直角に形成されている。
【0010】
第3に、本発明の持針器は、スライド部の針当接面と持針器軸先端面には、粗面加工が施されている。
【0011】
第4に、本発明の持針器は、スライド部および持針器軸の回転操作が可能である回転操作部を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の持針器によれば、縫合針を所定の角度で、容易かつ安定に把持することができるため、例えば、体腔内での内視鏡下手術における縫合針の複雑な運針も安定に行うことができる。したがって、手術の質が向上し、手術時間も短縮され、手術合併症の危険性も低減される。また、縫合針の操作の関する技術の習得も比較的短期間で可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の持針器の一実施形態を例示する全体図および持針器先端の拡大図である。
【図2】図1に示す形態の持針器による針の把持方法を例示する概要図である。
【図3】本発明の持針器の別の実施形態による針の把持方法を例示する概要図である。
【図4】従来の持針器の一例を示す全体図および持針器先端の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の持針器の実施形態について図面を用いて説明する。
【0015】
図1は、本発明の持針器の一実施形態を例示する全体図および持針器先端の拡大図である。
【0016】
図1に例示するように、本発明の持針器1は、ハンドル部2と、ハンドル部2から延設された持針器軸3と、この持針器軸3の前方に設けられたスライド部4と、持針器軸3の内部を通じてハンドル部2とスライド部4を連通させる連通ロッド5とを有している。
【0017】
ハンドル部2は、連通ロッド5を介してスライド部4の動きを操作する部分であり、例えば、図1に例示するように、ハサミの要領で指を使用してスライド部4を操作するタイプの他、グリップを手のひらで握ることでスライド部4を操作するタイプなどを適宜選択することができる。
【0018】
そして、ハンドル部2からは前方に持針器軸3が延設されている。持針器軸3は、例えば、断面が円形状の長尺な部材とすることができ、ハンドル部2と一体に形成することもできるし、ハンドル部とは別体として、着脱自在に構成することもできる。持針器軸3の径は、用途に応じて適宜決定することができるが、例えば、2.0mm、3.5mm、5mm、10mmなどとすることができる。内視鏡下手術において使用される持針器の場合、一般的には、持針器軸の径は、5〜10mm程度とすることができる。また、持針器軸3の長さも、用途に応じて適宜決定することができ、一般的には、およそ20〜45cm程度とすることができる。
【0019】
また、持針器軸3の先端は、平面状に形成されている。この持針器軸3の先端面3aは、例えば、図1に例示するように、長手方向に対して直交する角度に形成することができる。持針器軸先端面3aの角度は、後述するスライド部4の針当接面4aとの関係で縫合針の把持角度を決定する。さらに、持針器軸先端面3aには、微細な格子状の溝などの粗面加工を施すのが好ましく、これにより、さらに確実に縫合針を把持することができる。
【0020】
そして、本発明の持針器1は、持針器軸3の前方にスライド部4を有している。このスライド部4は、持針器軸3の内部を通じる連通ロッド5を介してハンドル部2と連通されている。
【0021】
連通ロッド5は、持針器軸3の内部に挿入可能な形状、大きさ等であればよく、具体的な形状、大きさ等は限定されない。しかし、連通ロッド5は、ハンドル部2を操作しない通常状態においては、持針器軸3の先端面3aよりも前方に突出する突出部5aが形成されている。この突出部5a は、通常状態においては、持針器軸3の先端面3aよりも、3〜10mm程度突出したものとすることができる。
【0022】
そして、図1に示す例においては、連通ロッド5の先端にスライド部4が一体に形成されている。このスライド部4は、持針器軸先端面3aと対峙する側に、持針器軸先端面3aと平行かつ同形状の針当接面4aを有している。すなわち、前記のとおり、持針器軸先端面3aが長手方向に対して直交する平面として形成されている場合には、スライド部4の針当接面4aも同様に、持針器軸の長手方向に対して直交する平面として形成される。ここで、針当接面4aは、持針器軸先端面3aと同様に、微細な格子状の溝などの粗面加工を施すのが好ましく、これによって、さらに確実に針を把持することができる。
【0023】
また、スライド部4の全体形状は特に限定されないが、持針器軸3と同様に断面円形状とすることができ、後述するように、連通ロッド5がハンドル部2側へ引き込まれ、針当接面4aと持針器軸先端面3aとが当接状態において、持針器軸3およびスライド部4が全周にわたって面一となるように形成するのが好ましい。さらに、スライド部4の先端は滑らかな形状であることが好ましく、例えば、図1に例示するような半球状とすることができる。仮に、持針器4が、外方に突出する構造を有している場合には、手術の際に臓器等を傷付ける恐れがあるため好ましくないが、図1に例示するように、全体の表面形状が滑らかな面一に形成されることで、手術の際に臓器などを傷付ける恐れがなく、手術の質を向上させることができる。
【0024】
そして、本発明の持針器4は、前記のとおり、ハンドル部2を操作しない通常状態においては、連通ロッド5が持針器軸3の先端面3aよりも前方に突出しており、針当接面4aと持針器軸先端面3aとの間には、連通ロッド5の突出部5aの周囲に、針把持空間6が形成されている。本発明の持針器4は、この針把持空間6に縫合針の把持が可能である。
【0025】
さらに、連通ロッド5は、従来と同様に、例えば、指をかけてハンドル部2を握るなどして操作することによって、ハンドル部2側へ引き込まれる構造とすることができる。そして、連通ロッド5がハンドル部2側へ引き込まれることで、連通ロッド5先端のスライド部4がハンドル部2側へ動き、スライド部4の針当接面4aが持針器軸先端面3aへ接近し、これに伴って、針当接面4aと持針器軸先端面3aとの間の針把持空間6が縮小する。この結果、針当接面4aと持針器軸先端面3aを当接または略当接した状態とすることできる。
【0026】
一方、例えば、ハンドル部2の握りを開放するなどしてハンドル部2を操作することによって、引き込まれた連通ロッド5を押出すことができる。これによって、スライド部4の針当接面4aが持針器軸先端面3aから離間して、スライド部4は、連通ロッド5の引き込み前の所定位置へと復帰する。これに伴って、連通ロッド5の引き込みによって縮小した針把持空間6も所定の大きさに復帰することなる。
【0027】
次に、本発明の持針器4による縫合針の把持方法について説明する。図2は、本発明の持針器の先端部を例示する斜視図である。図3は、本発明の持針器の別の実施形態を例示する先端部斜視図である。
【0028】
本発明の持針器4によって縫合針を把持する場合、図2(A)に例示するように、まず、針当接面4aと持針器軸先端面3aとの間の針把持空間6に湾曲状の縫合針7を配置する。このとき、縫合針7の先端が針把持空間6から外方へ所望の長さ突出するように縫合針7を配置することが好ましい。
【0029】
そして、ハンドル部2を操作して、連通ロッド5をハンドル部2側へ引き込む。これによって、連通ロッド5とともにスライド部がハンドル部2側へ移動し、スライド部4の針当接面4aが持針器軸先端面3aへ接近する。そして、これに伴って、針当接面4aと持針器軸先端面3aとの間の針把持空間6が縮小し、この結果、図2(B)に例示するように、縫合針7が針当接面4aと持針器軸先端面3aとの間に挟み込まれ把持される。このように、湾曲状の縫合針7が針当接面4aと持針器軸先端面3aの間で挟み込まれて把持されるため、縫合針7は、針当接面4aおよび持針器軸先端面3aが形成されている角度で確実かつ安定に把持される。したがって、従来のように縫合針7を持ち替えたりする必要がなく、予め決められた角度で縫合針7を強く把持可能であるとともに、面と面の間で把持された縫合針7は回転することがないため、安定であり、例えば、体腔内での内視鏡下手術における縫合針の複雑な運針も容易かつ安定に行うことができる。
【0030】
さらに詳しくは、図2に例示するように、針当接面4aと持針器軸先端面3aが、長手方向に対して直交する平面として形成されている場合には、縫合針は、長手方向に対して直角に把持される。本発明の持針器1によれば、縫合針7を長手方向と直角に把持することができることで、容易に、縫合針7の先端を穿刺する組織と略直角になるように対峙させることができるため、組織の縫合手術が容易になり、特に、難しい運針が求められる内視鏡下手術における手術の質が向上するとともに、手術時間を短縮することができる。
【0031】
一方、本発明の持針器1の別の実施形態として、図3(A)に例示するように、針当接面4aと持針器軸先端面3aを、持針器軸3の長手方向に対して傾斜する傾斜面とすることもできる。その他の構造は、図2に例示した実施形態と同様とすることができる。この場合、図3(B)に例示するように、連通ロッド5の引き込みによって、スライド部4の針当接面4aと持針器軸先端面3aの傾斜角度に応じて縫合針7を把持することができる。この場合も、面と面の間で把持された縫合針7は回転することがないため、安定であり、例えば、体腔内での内視鏡下手術における縫合針の複雑な運針も容易かつ安定に行うことができる。このように、手術方法や手術部位に最適な縫合針の針角度に応じて、針当接面4aと持針器軸先端面3aの角度を設計することできる。
【0032】
そして、把持した縫合針7を脱離させる場合には、ハンドル部2を操作することによって、引き込まれた連通ロッド5を前方へ押出す。これによって、スライド部4の針当接面4aが持針器軸先端面3aから離間し、スライド部4は、連通ロッド5の引き込み前の所定位置へと復帰するとともに、連通ロッド5の引き込みによって縮小した針把持空間6も所定の大きさに復帰するため、連通ロッド5の引き込み前の状態、すなわち、図2(A)、図3(A)に例示する状態へ戻る。したがって、容易に把持された縫合針7の脱離が可能である。
【0033】
また、本発明の持針器1は、図1に例示するように、ハンドル部2と持針器軸3の間に、持針器軸3の回転を可能にするための回転操作部8を設けることもできる。回転操作部8は、例えば、図1の矢印に示すように、自身の回転が可能であり、この回転操作部8の回転に応じた持針器軸3およびスライド部4の回転を可能とする構造とすることができる。したがって、例えば、図2(B)に例示するように、縫合針7を把持した状態でこの回転操作部8を操作することで、持針器軸3およびスライド部4の回転とともに縫合針7を回転させることができる。このように、縫合針7を自由に回転させることができることで、縫合する組織に対して、縫合針7を好適な位置で対峙させることができ、また、縫合針7の回転により、組織と対峙した縫合針7の先端を、組織に穿刺、貫通させることもできる。
【0034】
このように、本発明の持針器1は、縫合針7を所定の角度で、容易かつ安定に把持することができるため、例えば、体腔内での内視鏡下手術における縫合針7の複雑な運針も容易かつ安定に行うことができる。したがって、手術の質が向上し、手術時間も短縮され、手術合併症発症の危険性も低減される。また、縫合針7の操作に関する技術の習得も比較的短期間で可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 持針器
2 ハンドル部
3 持針器軸
3a 持針器軸先端面
4 スライド部
4a 針当接面
5 連通ロッド
5a 突出部
6 針把持空間
7 縫合針
8 回転操作部
9 持針部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドル部と、ハンドル部の前方に設けられた持針器軸と、持針器軸の前方に設けられたスライド部と、持針器軸の内部を通じてハンドル部とスライド部を連通させる連通ロッドとを有する持針器であって、
スライド部は、持針器軸先端面と対峙する側に、持針器軸先端面と平行かつ同形状の針当接面を有し、この針当接面と持針器軸先端面との間には針把持空間が形成され、連通ロッドは、ハンドル部の操作によって、ハンドル部側への引き込み、および、引き込み後の押出しが自在であり、
連通ロッドの引き込みによって、スライド部の針当接面が持針器軸先端面へ接近し、これに伴って、針把持空間が縮小することで、針当接面と持針器軸先端面との間に針を把持可能であるとともに、連通ロッドの押出しによって、針当接面が持針器軸先端面から離間し、これに伴って、縮小した針把持空間が復帰することで、把持された針が脱離可能であることを特徴とする持針器。
【請求項2】
スライド部の針当接面と持針器軸先端面は、持針器軸の長手方向に対して直角に形成されていることを特徴とする請求項1の持針器。
【請求項3】
スライド部の針当接面と持針器軸先端面には、粗面加工が施されていることを特徴とする請求項1または2の持針器。
【請求項4】
スライド部および持針器軸の回転操作が可能である回転操作部を有することを特徴とする請求項1から3のいずれかの持針器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−98160(P2011−98160A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256332(P2009−256332)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(399086263)学校法人帝京大学 (21)
【Fターム(参考)】