説明

手袋及びその製造方法

【課題】背面部の透湿性及び耐摩耗性に優れた手袋を提供する。
【解決手段】繊維製手袋基材の少なくとも背面部の表面に、気泡を含有したゴムの被覆層が形成され、該背面部の被覆層の透湿度が、JIS L 1099A−1(塩化カルシウム法)による測定値で1000〜9000g/m2 ・24hrs.の範囲であり、摩耗損失が、The European Standard EN 388; 2003に準拠し、EN ISO 12947-1で定める試験機Nu−Martindaleを用い100回転時の測定値で40mg以下であることを特徴とする手袋である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、背面部の透湿性及び耐摩耗性に優れた手袋に関し、さらに詳しくは、擦れや引掻き等により破損が生じ易い背面部に透湿性及び耐摩耗性に優れた被覆層を形成したことにより、熱のこもりや蒸れがなく着用感に優れるとともに、背面部を擦れや引掻き等による破損から防止し、更には、金属切断作業等の場合に発生する火花により穴があいたり、損傷したりすることから防止することの可能な手袋及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の手袋としては、繊維製手袋の掌部に合成皮革を貼着又は縫着して被覆層を設けたり、掌部に樹脂やゴムを被覆し、背面部はこれらの被覆層を設けず繊維製基材による通気性を確保した手袋が用いられている。
例えば、手のひら部を天然皮革または合成皮革で構成すると共に、指袋を含む手の甲全面を織物で構成したスポーツ用手袋において、前記手袋本体の指袋を含む手の甲全面を、内面側に化学繊維織物、外側に綿織物を配設した二層構造に構成して成るスポーツ用手袋が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、繊維製手袋基材上に熱可塑性樹脂あるいはゴム類からなる発泡層が形成され、前記発泡層の表面が凹凸状を呈している滑止め手袋において、前記発泡層は、機械的に発泡され、半架橋、ゲル化した状態で熱プレスされて表面に凹凸が付与されていて、前記発泡層の凹部は凸部に比べて気泡含有量が10〜90容量%となるように圧縮され、前記凸部の表面は気泡跡の開口が多く形成されている滑止め手袋が提案されている(例えば、特許文献2)。
【0004】
更に、皮革を素材として縫製した手袋本体の表面に、合成ゴムをコーティングすることにより滑止め皮膜が形成してあり、その合成ゴムが、耐油、耐酸、耐アルカリに優れたブタジエンとスチレンとの共重合体、またはブタジエンとアクリロニトリルとの共重合体であることを特徴とする作業用手袋が提案されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−290497号公報
【特許文献2】特許第4242338号公報
【特許文献3】特開平7−278923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の手袋は背面部全面が織物で構成されているため、耐摩耗性に劣り、擦れや引掻き等により破損が生じ易い背面部、特に、指先及び指先から、第一、第二、第三関節部(指と甲との関節部、以下同じ)の部分が擦れや引掻き等により繊維にほつれや破損が生じ易いという問題がある。更に、強度が低いため、例えば金属切断作業等の場合に発生する火花により容易に穴があき、防護の役目を果たし得ないという問題を含んでいる。
【0007】
また、特許文献2に記載の手袋も滑り止め効果を主たる目的とするものであり、従って、実施例も対象物を把持した際に対象物と接触する掌部のみに発泡層が設けられている。かくして、これらの実施例では手袋の背面部は繊維製基材のままであるため、耐摩耗性に劣り、上記特許文献1と同じく、背面部はほつれや破損が生じ易く、更に、強度が低いため、例えば金属切断作業等の場合に発生する火花により容易に穴があいたり損傷し、防護の役目を果たし得ないという問題を含んでいる。また、特に、背面部の発泡層の透湿性や耐摩耗性については何ら考慮されておらず、更には、背面部の擦れや引掻により破損し易い背面部の指先、第一〜第三関節部の工夫については何ら考慮されていない。
【0008】
更に、特許文献3に記載の手袋は手袋の表面に合成ゴムのコーティングが施されているため、上記問題はある程度解消されるものの、耐摩耗性は必ずしも十分とは言えない。また、合成ゴムの無透過性皮膜層により全面被覆されているため、手袋内に熱がこもり、また透湿性がないため蒸れ感が大きく、着用感が悪いという問題がある。
【0009】
本発明はかかる実情に鑑み、上記従来技術の問題を解消し、透湿性が良好で着用感に優れるとともに、背面部の耐摩耗性に優れた手袋を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、下記を特徴とするものである。
(1)繊維製手袋基材の少なくとも背面部の表面に、気泡を含有したゴムの被覆層が形成され、該背面部の被覆層の透湿度が、JIS L 1099A−1(塩化カルシウム法)による測定値で1000〜9000g/m2 ・24hrs.の範囲であり、摩耗損失が、The European Standard EN 388; 2003に準拠し、EN ISO 12947-1で定める試験機Nu−Martindaleを用い100回転時の測定値で40mg以下であることを特徴とする手袋。
(2)被覆層の平均気泡含有率が12〜85%であることを特徴とする上記(1)の手袋。
(3)被覆層の爪部、第一関節部、第二関節部及び第三関節部の摩耗損失が、The European Standard EN 388; 2003に準拠し、EN ISO 12947-1で定める試験機Nu−Martindaleを用い100回転時の測定値で7mg以下であることを特徴とする上記(1)の手袋。
(4)被覆層の爪部、第一関節部、第二関節部及び第三関節部の平均気泡含有率が、0〜10%であることを特徴とする上記(3)の手袋。
(5)ゴム被覆層の裾部に面ファスナーを取り付けてなることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかの手袋。
(6)繊維製手袋基材の少なくとも背面部の表面に、平均気泡含有率が7〜88容量%のゴムの配合液により平均気泡含有率が22〜89%の被覆層を形成し、次いで、前記被覆層の平均気泡含有率が12〜85%となるように熱プレスすることを特徴とする手袋の製造方法。
(7)平均気泡含有率が22〜89%の被覆層の含水率を20〜170重量%に調整した後、熱プレスすることを特徴とする上記(6)の手袋の製造方法。
(8)凹凸模様を有するプレス板を用いて熱プレスすることを特徴とする上記(6)又は(7)の手袋の製造方法。
(9)凹凸模様を有しないプレス板を用いて熱プレスすることを特徴とする上記(6)又は(7)の手袋の製造方法。
(10)ゴムの被覆層の裾部に面ファスナーを取り付けることを特徴とする上記(6)〜(9)のいずれかの手袋の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の手袋は、少なくとも背面部に気泡を含有したゴムからなる被覆層が形成されているので、背面部の透湿性及び耐摩耗性が良好で、熱のこもりや蒸れがなく着用感に優れているとともに、擦れや引掻き等により破損が生じ難く、また、例えば金属切断作業時に発生する火花によっても穴があき難く、保護性能に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、被覆層の平均気泡含有率の測定箇所の説明図である。
【図2】図2(a)は、実施例で用いた不定形凹凸模様を有するプレス板を示す写真で、図2(b)はその拡大写真(倍率200倍)である。
【図3】図3は、Nu−Martindaleにより摩耗損失を測定するに際し、試験片を取り付ける治具を示す概略図である。
【図4】図4は、裾部に面ファスナーを縫着した手袋を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の手袋は、繊維製手袋基材の少なくとも背面部の表面に、気泡を含有したゴムの被覆層が形成され、該背面部の被覆層の透湿度が、JIS L 1099A−1(塩化カルシウム法)による測定値で1000〜9000g/m2 ・24hrs.の範囲であり、摩耗損失が、The European Standard EN 388; 2003に準拠し、EN ISO 12947-1で定める試験機Nu−Martindaleを用い100回転時の測定値で40mg以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明の手袋は、背面部の被覆層の透湿度が、JIS L 1099A−1(塩化カルシウム法)による測定値で1000〜9000g/m2 ・24hrs.の範囲である必要がある。該透湿度が1000g/m2 ・24hrs.未満では、透湿性が不十分となり、熱のこもりや蒸れが十分に解消されず、一方、該透湿度が9000g/m2 ・24hrs.を越えると、耐摩耗性が不十分となる。
【0015】
また、背面部の被覆層の摩耗損失が、The European Standard EN 388; 2003に準拠し、EN ISO 12947-1で定める試験機Nu−Martindaleを用い100回転時の測定値で40mg以下であることが必要がある。該摩耗損失が40mgを越えると、耐摩耗性が不十分となり、擦れや引掻き等による破損を十分に防止できない。
【0016】
上記被覆層の透湿度及び摩耗損失を達成するには、被覆層の平均気泡含有率が12〜85%であることが好ましい。被覆層の平均気泡含率が上記範囲よりも小さいと透湿性が不十分となり、一方、上記範囲よりも大きいと耐摩耗性が不十分となる傾向がある。
【0017】
背面部の被覆層のうち、特に、擦れや引掻き等等により破損が生じ易い爪部、指の第一関節部、第二関節部及び第三関節部の摩耗損失が7mg以下であることが好ましい。これらの部分の摩耗損失を7mg以下とすることにより、作業中において金属部分等と接触したり擦れたり、引掻いたりしても一層破損し難くなり、また、金属切断作業時に発生する火花により穴があくといったトラブルを一層確実に防止することができ、一段と保護性能に優れた手袋が得られる。
これらの部分被覆層の平均気泡含有率は0〜10%であることが好ましい。
【0018】
本発明に用いられる繊維製手袋基材は、綿、羊毛、ポリエステル、ポリアミド(ナイロン)、アクリル、アラミド、強化ポリエチレン等の天然繊維や、化学繊維を用いたものであり、繊維製手袋基材の単位面積あたりの伸張率は、通常、150〜650%程度であることが好ましい。伸張率とは、縦方向と横方向に同時に伸ばしたときの最大拡大率で、繊維製手袋基材に伸張率が小さいと、例えば、浸漬手型から熱プレスの際のセット手型に被せ替えて繊維製手袋基材にキュア(加硫) や硬化した後の製品にしわ、特に掌と親指に深いしわが生じたり、被覆層に亀裂が発生する場合がある。また、繊維に伸張率を付与したポリウレタン弾性繊維を含んだ編みもしくは縫製手袋基材も用いられる。繊維性手袋基材は、必要に応じ、染色、精練が行なわれる。
【0019】
本発明に用いられるゴムとしては、例えば、天然ゴム、イソプレン、クロロプレン、アクリル酸エステルゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリウレタン、ブチルゴム、ポリブタジエンゴム、シリコーンゴムの単独重合体あるいは共重合体、10重量%以下のカルボキシル変性基等をもつ共重合体等、及びこれらをブレンドしたものが挙げられる。天然ゴムなる用語は、天然ゴム単独だけでなく、天然ゴム−メチルメタクリレート共重合体やエポキシ化変性天然ゴム共重合体等を包含する。アクリル酸エステルゴムなる用語は、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、iso−ブチルアクリレート、iso−ブチルメタクリレート、エチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、iso−プロピルアクリレート、iso−プロピルメタクリレート等の単独重合体又は共重合体であって、アクリロニトリル、メチルメタクリレート、アリルメタクリレート、N−メチロールアクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸等を含んだ共重合体を包含する。
【0020】
ゴムには、通常、架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、増粘剤等の他、起泡剤、整泡剤等が添加される。
起泡剤としては、スルホコハク酸ナトリウム系界面活性剤、スルホコハク酸アルキルモノアミドジナトリウム、オレイン酸カリ、ひまし油カリ、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダー等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用される。
整泡剤としては、ステアリン酸アンモニウム、ペプチド、アルキルジプロピオン酸ソーダー等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用される。アルキルとしてはラウリル、オクチル、ステアリル等が挙げられる。
また、被覆層の気泡安定剤として、ゴム100重量部に対し、2,2,4−トリメチル1,3−ペンタンジオールモノイソブチレートを15〜50重量部を添加すると加工し易くなるので好ましい。
【0021】
上記したゴムには、更に、被覆層表面に油や化学薬品等を吸収するのを防ぐ目的で、開口穴を少なくするために、周知のトルエンスルホニルヒドラジド、PP’オキシビス(ベンゾスルホニルヒドラジド)、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル等の化学発泡剤やマイクロカプセルなどを添加してもよいし、更に、固形分を増やして耐摩耗性を高めるために、アクリル、ウレタン、天然ゴム粉、EVA粉、PVC、NBR等の粒子を添加してもよい。
【0022】
本発明の手袋は、繊維製手袋基材の少なくとも背面部に、気泡を含有したゴムの配合液により気泡を含有したゴムの被覆層を形成し、次いで、前記被覆層を熱プレスすることにより得られる。
【0023】
好ましい製造方法について説明すると、先ず、繊維製手袋基材が浸漬手型に被せられる。浸漬手型は、陶器製、アルミ合金製等の手型が好適に用いられ、親指から小指まで直線状に配列した形状からなるものが好ましい。繊維製手袋基材は50〜70℃に予熱した浸漬手型に被せられ、例えば、硝酸カルシウムを含むメタノールもしくは硝酸カルシウムを含む、50〜70℃に調整した温水凝固剤液浴槽に浸漬される。凝固剤濃度は、肌触りが悪くならないように繊維製手袋基材にゴム配合液が部分的に浸透するように調整するのが好ましい。
【0024】
温水凝固剤液浴槽に浸漬された、繊維製手袋基材を被せた浸漬手型は、気泡を含有したゴム配合液浴槽に浸漬される。浸漬は、一般に、指先の方から手首まで垂直に浸漬する方法が採用される。
配合液は、泡立て機やミキサー等により機械的に泡立てられる。平均気泡含有率は、好ましくは7〜88容量%に調整される。これにより、目的とする被覆層の透湿度が1000〜9000g/m2 ・24hrs.で、摩耗損失が、40mg以下である、透湿性及び耐摩耗性に優れた手袋が得られる。
【0025】
配合液の平均気泡含有率(容量%)は、下記の方法で測定される。
気泡を含有していない配合液Amlを泡立て機やミキサー等により含気させ気泡を含有する配合液Bmlを得た場合、下記式により算出される。
[(Bml−Aml)/Aml]×100
【0026】
また、配合液の平均気泡径は、好ましくは10〜200μm、より好ましくは10〜100μmで、配合液での平均気泡径10〜200μmは、被覆層が形成され熱プレスされると大きくなり、被覆層の平均気泡径は概ね30〜400μmとなる。被覆層の平均気泡径は意匠性に重要で、400μmを超えると意匠性を損なう傾向がある。従って、配合液の平均気泡径の上限は概ね200μmが好ましい。一方、配合液の平均気泡径が10μmより小さいものは、機械的シェアをかけても調整が困難である。平均気泡径10〜200μmの配合液は、約600〜1200rpmの高速攪拌ミキサーもしくは泡立て機で配合液にせん断をかけることにより得ることができる。
【0027】
配合液の平均気泡径(μm)は、下記の方法で測定される。
配合液10gをシャーレに採りVH×900のマイクロスコープ(KEYENCE社製)により200倍に拡大された画像において、2000μm×2000μmの画像上における気泡を大きいものから5個と小さいものから5個の気泡直径を測定し、10個の測定値の平均値を算出する。
【0028】
気泡を含有したゴム配合液浴槽に浸漬された手袋は、配合液から引き上げた後、60〜95℃で加熱乾燥され半硬化(半ゲル化)状態とされる。半硬化状態の被覆層の平均気泡含有率は22〜89%である。この平均気泡含有率は、配合液の固形分濃度や粘度、整泡剤により調整することができる。しかる後、通常、水洗によりリーチングされた後、熱プレスされる。熱プレスにより、被覆層中の気泡の一部が潰れて気泡同士が繋がり連通して透湿性が高められると同時に、気泡を画成する壁と壁とが融着し気泡含有率が減少して耐摩耗性が高められる。熱プレスする前の被覆層中の含水率は、20〜170重量%に調整することにより綺麗に熱プレスすることができ、特に、熱プレスにより被覆層に凹凸模様を付与する場合は綺麗に凹凸模様を形成することができる。
【0029】
熱プレス前の被覆層中の含水率(重量%)は、下記式により算出される。
[(リーチング後の手袋の重量(B)−リーチング前の手袋の重量(A))/
リーチング前の手袋の重量(A)]×100
【0030】
熱プレスは、浸漬手型に被せられ被覆層を形成した手袋をプレス板により手袋の背面側から、又は、背面側と掌面側の両面からプレス圧1〜100kgf/cm2 、プレス温度60〜300℃、プレス時間1〜180秒の条件下で行われる。この場合、必要に応じ、手袋の背面側、又は、背面側と掌面側の両面に、凹凸模様を形成することができる。
凹凸模様を形成する場合は、凹凸模様を有するプレス板(以下、凹凸板と記す)が用いられる。
背面側のみに凹凸模様を形成する場合は、背面側のプレス板に凹凸板を用いるとともに、掌面側のプレス板に凹凸模様を有しないプレス板(以下、凸板と記す)を用い、また、背面側と掌面側の両面に凹凸模様を形成する場合は、背面側及び掌面側の両方に凹凸板を用いる。
別の方法としては、浸漬手型から被覆層を形成した手袋を取り外し、平型に被せ直して上記と同様に熱プレスする。また、手袋の背面側と掌面側の両面から熱プレスする場合は、浸漬手型の形状に合わせて作製した、凹凸板又は凸板からなるメス型を用いることによって均圧にプレスすることができる。この場合は手袋の側面まで熱プレスすることができ、凹凸板からなるメス型を用いた場合は、手袋の側面まで凹凸模様を綺麗に形成することができる。
【0031】
凹凸板の凹凸深度(凹凸の高低差)は、約0.1〜約1.2mmの範囲が好ましく、グリップ力、デザイン性の観点からは、より好ましくは約0.3〜約1.0mmの範囲である。凹凸模様を有しない凸板の深度も同様である。凹凸板の凹凸深度又は凸板の深度を上記範囲で調整することにより、耐摩耗性及び透湿性を所望の範囲に調整することができる。凹凸板の凹凸模様の形状については特に制限されず、例えば、円形、楕円形、矩形、多角形、その他、多様な幾何学的模様や、不定形の模様(図2参照)等が挙げられ、これらは規則的に、又は非規則的に配列されることにより、耐摩耗性が向上するだけでなく、グリップ力が向上するとともに、意匠性が高められる。
【0032】
被覆層は、平均気泡含有率が12〜85%になるように熱プレスされる。平均気泡含有率が12%未満では透湿性が不十分となり、一方、85%を越えると耐摩耗性が不十分となり、目的とする透湿度が1000〜9000g/m2 ・24hrs.の範囲であり、摩耗損失が40mg以下である被覆層を得ることが困難となる。
被覆層の平均気泡含有率を小さくするには、凹凸板、凸板の深度を大きくする、凹凸板の場合は凸部の面積を大きくする、熱プレスの時間を長くする、熱プレスを2回以上繰り返す、等の方法が用いられ、逆に平均気泡含有率を大きくするには、上記と逆の方法が用いられる。
【0033】
プレス前又はプレス後の被覆層の平均気泡含有率(%)は、下記の方法で算出される。
図1に示すように、人差し指と中指の間の指股と、薬指と小指の間の指股とを接続するラインβと平行で、親指と人指し指の間の指股からのラインαと、中指先端と手首中央とを結ぶラインγとの交点をaとし、a点よりラインγ上で上下にそれぞれ1cm離れた点b、c、及び、a点よりラインα上で左右にそれぞれ1cm離れた点d、eの被覆層断面をVHX900マイクロスコープ(KEYENCE社製)により200倍に拡大された画像を得、該画像の300μm×300μmの区画の画像上における気泡面積の割合の平均値を下記式により算出する。
[総気泡面積(μm2 )/90,000μm2 ]×100
【0034】
特に、背面部の擦り切れや摩耗が起こりやすい爪部、指の第一、第二、第三関節部は、必要に応じ、被覆層の平均気泡含有率を0〜10%になるようにプレスすることが好ましい。これにより、摩耗損失が7mg以下の、耐摩耗性を局部的に向上させた手袋が得られる。このように耐摩耗性を向上させた手袋は、作業中に擦れや引掻き等により破損が一層起こり難く、また、例えば、金属切断作業の際のように火花が飛び散る作業においても手袋の背面部に穴があくといったトラブルが一層起こり難く、極めて保護性能に優れた手袋を提供することができる。尚、被覆層の平均気泡含有率を0〜10%とした場合、透湿度は100〜500g/m2 ・24hrs.程度に低下するが、他の部分の透湿度が1000〜9000g/m2 ・24hrs.であるので、背面部全体としては透湿性は十分で、特に実用上問題とはならない。
被覆層の爪部、指の第一、第二、第三関節部の平均気泡含有率を0〜10%にするには、これらの部の凹凸板又は凸板の深度を他の部分よりも大きくしたり、凹凸板の場合は凸部の面積を大きくする方法が一度の熱プレスですむので好ましいが、二度目又はそれ以上の熱プレスでこれらの部分の平均気泡含有率を調整することもできる。
【0035】
被覆層の爪部、指の第一、第二、第三関節部の平均気泡含有率は、下記の方法で算出される。
図1に示すように、中指の爪部A、親指の第一関節B、中指の第二関節C1、小指の第二関節C2、中指の第三関節Dの被覆層断面をVHX900マイクロスコープ(KEYENCE社製)により200倍に拡大された画像を得、該画像の300μm×300μmの区画の画像上における気泡面積の割合(%)の平均値を下記式により算出する。
[総気泡面積(μm2 )/90,000μm2 ]×100
尚、爪部及び関節部は手袋のサイズや着用者の手のサイズにより変わるので、小サイズ(S)、普通サイズ(M)、大サイズ(L)、特大サイズ(LL)等により予め調製したり、サイズの大小に関わらず適用できるように、少し広めの面積を熱プレスするのが好ましい。
【0036】
手袋は離型された後、親指が内側に配置された人の手に近い形状のセット型に被せられ、120〜135℃で40〜60分硬化(キュア)が行われ、しかる後に、離型される。
離型された手袋は、必要に応じ、例えば、ズレ防止のため、裾部をカットし面ファスナーなどのパーツを縫いつけて仕上げる、等がなされる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例、比較例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例、比較例により何ら制限されるものではない。
尚、配合液の平均気泡含有率、被覆層の含水率、被覆層の平均気泡含有率、被覆層の透湿度及び摩耗損失は、上記した方法で測定した。
【0038】
摩耗損失については、上記した試験機Nu−Martindaleを使用する方法で測定したが、本発明では爪部や関節部の局小部の摩耗損失を測定するため、試験片を取り付ける治具として図3に示す治具を使用して測定した。図中、数字の単位はmmである。
また、蒸れ感は実際に手袋を装着した場合の蒸れ感の有無で判定し、穴あきは等辺山形鋼を切断した際に発生する火花が当たるように手袋を設置し、切断した後の手袋の被覆層表面を肉眼で観察し、穴あきの有無を判定した。
【0039】
配合液:
NBRラテックス(日本ゼオン(株)製、Lx550 ) 100重量部
コロイド硫黄(細井化学社製) 2.0重量部
酸化亜鉛(二号亜鉛華、正同化学社製) 1.0重量部
加硫促進剤(ジブチルジチオカルバミン酸亜塩、大内斉茂商店製) 0.5重量部
老化防止剤(2,2 ’- メチレンビス(4-エチル6-tertブチルフェノール)(Bayer社製 BKF) 0.5重量部
顔料(御国色素社製、SABlue 12402) 0.3重量部
増粘剤(ポリアクリル酸エステル系)(東亞合成社製、A-7075) 0.2重量部
起泡剤(スルホコハク酸ソーダー系)(花王(株)社製、ペレックスTA)3.0重量部
整泡剤(ラウリルジプロピオン酸ソーダー)(竹本油脂社製、パイオニンC-158-D)
3.0重量部
水 (固形分濃度が38重量%になるように調整)
【0040】
実施例1
上記ゴム配合液を家庭用自動ハンドミキサーにより含気させ、平均気泡含有量が33容量%(平均気泡径30μm)の配合液を調製した。
ウーリーナイロン製編み手袋(280d)を親指から小指まで直線状に配列した浸漬手型に被せ、硝酸カルシウムの0.7重量%メタノール凝固液に浸漬したのち、気泡を含有する配合液に指先の方から手首まで垂直に浸漬し、しかる後、75℃で10分間乾燥して半硬化(半ゲル化)し、離型した。被覆層の平均厚みは0.7mmであった。離型した手袋を水洗によりリーチングし、含水率を50重量%に調整した後、平型に被せ直し、熱プレスした。
熱プレス板としては、手袋の背面側(甲側)と掌面側に、図2(a)、(b)(図(b)中の碁盤目は寸法を示すためのもので、一マスの1辺は1mmである)に示した非定形の凹凸模様(深度=0.7mm、1cm2 当たりの凸面積/凹面積の面積比率=8/3)を有する凹凸板を用い、180℃、1kgf/cm2 で5秒間熱プレスした。
熱プレスした手袋をセット型(親指が掌側寄りに配置された人の手に近い手型)に被せ直し、120℃で60分間硬化(キュア)した後離型し、掌面部及び背面部の両面に気泡を含有した被覆層を形成した手袋を得た。
製造条件の概要及び物性の評価結果を表1に示す。
【0041】
実施例2
配合液の平均気泡含有率を33容量%から88容量%に変更した以外は実施例1と同様にして、掌面部及び背面部の両面に気泡を含有した被覆層を形成した手袋を得た。
製造条件の概要及び物性の評価結果を表1に示す。
【0042】
実施例3
熱プレス板を凹凸模様を有する凹凸板から凹凸模様を有しない凸板(深度=0.7mm)に変更した他は実施例1と同様にして手袋を得た。
製造条件の概要及び物性の評価結果を表1に示す。
【0043】
実施例4
熱プレス板を凹凸模様を有する凹凸板から凹凸模様を有しない凸板(深度=0.7mm)に変更した他は実施例2と同様にして手袋を得た。
製造条件の概要及び物性の評価結果を表1に示す。
【0044】
比較例1
配合液にウーリーナイロン製編み手袋の掌面部のみ浸漬した以外は実施例1と同様に乾燥、リーチング、凹凸板で熱プレス、硬化し、掌面部のみに気泡を含有した被覆層を形成した手袋を得た。
製造条件の概要及び物性の評価結果を表1に示す。
【0045】
比較例2
配合液の平均気泡含有率を33容量%から3.5容量%に変更した以外は実施例1と同様にして、掌面部及び背面部の両面に気泡を含有した被覆層を形成した手袋を得た。
製造条件の概要及び物性の評価結果を表1に示す。
【0046】
比較例3
配合液の平均気泡含有率を33容量%から103容量%に変更した以外は実施例1と同様にして、掌面部及び背面部の両面に気泡を含有した被覆層を形成した手袋を得た。
製造条件の概要及び物性の評価結果を表1に示す。
【0047】
比較例4
配合液の平均気泡含有率を33容量%から3.5容量%に変更し、熱プレス板を不定形凹凸板から凸板に変更した以外は実施例1と同様にして、掌面部及び背面部の両面に気泡を含有した被覆層を形成した手袋を得た。
製造条件の概要及び物性の評価結果を表1に示す。
【0048】
比較例5
配合液の平均気泡含有率を33容量%から103容量%に変更し、熱プレス板を不定形凹凸板から凸板に変更した以外は実施例1と同様にして、掌面部及び背面部の両面に気泡を含有した被覆層を形成した手袋を得た。
製造条件の概要及び物性の評価結果を表1に示す。
【0049】
実施例5
実施例1で得られた掌面部及び背面部の両面に気泡を含有した被覆層を形成した手袋を平型に被せ、背面部の被覆層の爪部及び第一、第二、第三関節部を局部的に凸板(深度=0.7mm)により再度熱プレスした。
製造条件の概要及び物性の評価結果を表2に示す。
【0050】
実施例6
実施例2で得られた掌面部及び背面部の両面に気泡を含有した被覆層を形成した手袋を平型に被せ、背面部の被覆層の爪部及び第一、第二、第三関節部を局部的に凸板(深度=0.7mm)により再度熱プレスた。
製造条件の概要及び物性の評価結果を表2に示す。
【0051】
表1の結果から、実施例1〜4に代表される本発明の手袋は、背面部の透湿性に優れ蒸れ感がなく、且つ耐摩耗性に優れ、金属切断作業時に発生する火花によっても穴があくことがなく、保護性能に優れていることがわかる。
【0052】
また、表2の結果から、本発明の手袋の背面部の爪部及び第一〜第三関節部を局部的に熱プレスすることにより、これらの部分の耐摩耗性が一層高められ、更に過酷な作業条件下においても一段と保護性能に優れた手袋が得られることがわかる。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
実施例7
実施例1で得られた手袋の裾の、中指の先端から約190mmの部分を横方向にカットする(図4中のT)。
次に、カットした裾部分に織ゴム(40mm幅)Wを千鳥縫いミシン(Brother社製、LZ2−B856E−301)を用いて糸(FUJIX社製、ポリエステルスパン糸60番手)で縫着する。
次に、小指側の側面を、縦方向に約40mmの切り込みCを入れる。次に、面ファスナー(フック状のオス:30×60mm、パイル状のメス:30×50mm)を準備する。面ファスナーのオスF1は予めバイアステープ(15mm×120mm)で縁取りをしておく。縁取りは糸(COATS社製、45tex、Nylon Thread Yarn Wine 916PQ)を用いてミシン(MITSUBISHI LY2−3300)でバイアステープを縫い付ける。この縁取りした面ファスナーのオスF1を前記切り込みCの小指側の側面に直線縫いにより縫着し、この面ファスナーのオスF1に対応する織ゴムWの部分に面ファスナーのメスF2を同様に縫着する。最後に、切り込みCの縁をバイアステープで縁取りし、ズレを防止した手袋を得た。
繊維性手袋(編み手袋)にはゴムの被覆層が形成されているので、カットした場合の繊維性手袋のほつれがなく、従って、ほつれ防止の工程が不要であるので、作業性は極めて良好であった。
尚、本実施例において、面ファスナーのオスF1とメスF2を入れ替えても何ら差し支えないことは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、少なくとも背面部に気泡を含有したゴムからなる被覆層が形成されているので、背面部の透湿性及び耐摩耗性が良好で、熱のこもりや蒸れ感がなく着用感に優れるとともに、背面部を擦れや引掻き等による破損から防止し、また、例えば金属切断作業時に発生する火花によっても穴があいたり、損傷したりすることから防止することができ、保護性能に優れた手袋を提供することができる。
【符号の説明】
【0057】
T カット部
W 織ゴム
C 切り込み
F1 面ファスナー(オス)
F2 面ファスナー(メス)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維製手袋基材の少なくとも背面部の表面に、気泡を含有したゴムの被覆層が形成され、該背面部の被覆層の透湿度が、JIS L 1099A−1(塩化カルシウム法)による測定値で1000〜9000g/m2 ・24hrs.の範囲であり、摩耗損失が、The European Standard EN 388; 2003に準拠し、EN ISO 12947-1で定める試験機Nu−Martindaleを用い100回転時の測定値で40mg以下であることを特徴とする手袋。
【請求項2】
被覆層の平均気泡含有率が12〜85%であることを特徴とする請求項1記載の手袋。
【請求項3】
被覆層の爪部、第一関節部、第二関節部及び第三関節部の摩耗損失が、The European Standard EN 388; 2003に準拠し、EN ISO 12947-1で定める試験機Nu−Martindaleを用い100回転時の測定値で7mg以下であることを特徴とする請求項1記載の手袋。
【請求項4】
被覆層の爪部、第一関節部、第二関節部及び第三関節部の平均気泡含有率が、0〜10%であることを特徴とする請求項3記載の手袋。
【請求項5】
ゴムの被覆層の裾部に面ファスナーを取り付けてなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の手袋。
【請求項6】
繊維製手袋基材の少なくとも背面部の表面に、平均気泡含有率が7〜88容量%のゴムの配合液により平均気泡含有率が22〜89%の被覆層を形成し、次いで、前記被覆層の平均気泡含有率が12〜85%となるように熱プレスすることを特徴とする手袋の製造方法。
【請求項7】
平均気泡含有率が22〜89%の被覆層の含水率を20〜170重量%に調整した後、熱プレスすることを特徴とする請求項6記載の手袋の製造方法。
【請求項8】
凹凸模様を有するプレス板を用いて熱プレスすることを特徴とする請求項6又は7記載の手袋の製造方法。
【請求項9】
凹凸模様を有しないプレス板を用いて熱プレスすることを特徴とする請求項6又は7記載の手袋の製造方法。
【請求項10】
ゴム被覆層の裾部に面ファスナーを取り付けることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の手袋の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−31553(P2012−31553A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116610(P2011−116610)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(591161900)ショーワグローブ株式会社 (39)
【Fターム(参考)】