説明

打感の評価方法

【課題】打感を定量的に評価しうる評価方法の提供。
【解決手段】本発明の評価方法では、スポーツ打具の打感が定量的に評価される。この評価方法は、スイング主体と上記スポーツ打具との間に作用する力F又はその特定方向成分F1を計測可能な測定手段M1を用いて、インパクト以後の時刻における上記力F又は力F1の測定値Vfを得る第1ステップと、少なくとも一の上記時刻における上記測定値Vfに基づいて、打感を判断する第2ステップとを含む。好ましくは、上記力F又は上記力F1が、せん断方向の成分を含む力Fsである。上記スイング主体は、スイングロボットであってもよい。好ましくは、上記第1ステップにおいて、インパクト以後の時刻T1から時刻T2までの特定区間Z12における上記測定値Vfが時系列的に得られる。好ましくは、測定値Vfの最大値と最小値との差によって評価がなされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポーツ打具における打感の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブ、テニスラケット、バトミントンラケット、卓球のラケット、野球のバット等、多くのスポーツ打具が用いられている。
【0003】
これらのスポーツ打具では、打感が存在する。球を打つスポーツの場合、打感は、打球感とも称される。打感は、スポーツ打具を選択する上で重要な要素である。打感は、その使用者に対するスポーツ打具の適合性を示している。打感は、結果と相関しやすい。打感の良いスポーツ打具により、良い結果が生じやすい。打感は、スポーツ打具の特性として、極めて重要な要素である。
【0004】
特開2002−286565号公報は、衝撃力の測定方法を開示する。衝撃力は、打感と相関しうる。特開2008−125722号公報には、シャフト周方向の振動を計測して打感を評価する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−286565号公報
【特許文献2】特開2008−125722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
打感は、人体の感覚である。打感の評価は難しい。衝撃力はゴルフクラブに作用する力であり、シャフトの振動は、ゴルフクラブ自体の挙動である。これらの衝撃力及びシャフト挙動は、人から遠い情報である。本発明者は、人の感じる打感を評価するためには、より人に近い情報を計測する必要があると考えた。その結果、本発明者は、より信頼性の高い打感の評価方法を見いだした。
【0007】
本発明の目的は、打感の定量化を可能とする新たな評価方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の評価方法は、スポーツ打具の打感を定量的に評価する方法である。この方法は、スイング主体と上記スポーツ打具との間に作用する力F又はその特定方向成分F1を計測可能な測定手段M1を用いて、インパクト以後の時刻における上記力F又は力F1の測定値Vfを得る第1ステップと、少なくとも一の上記時刻における上記測定値Vfに基づいて、打感を判断する第2ステップとを含む。
【0009】
好ましくは、上記力F又は上記力F1が、せん断方向の成分を含む力Fsである。上記スイング主体がスイングロボットであってもよい。
【0010】
好ましくは、上記第1ステップにおいて、インパクト以後の時刻T1から時刻T2までの特定区間Z12における上記測定値Vfが時系列的に得られる。好ましくは、上記第2ステップにおいて、上記特定区間Z12における上記測定値Vfの積分値Sfに基づいて打感が評価される。
【0011】
好ましくは、上記第1ステップにおいて、インパクト以後の時刻T1から時刻T2までの特定区間Z12における上記測定値Vfが時系列的に得られる。好ましくは、上記第2ステップにおいて、上記特定区間Z12における上記測定値Vfの変化率Rdに基づいて打感が評価される。
【0012】
好ましくは、上記第1ステップにおいて、インパクト以後の時刻T1から時刻T2までの特定区間Z12における上記測定値Vfが時系列的に得られる。好ましくは、上記第2ステップにおいて、上記特定区間Z12における上記測定値Vfの最大値と最小値との差に基づいて打感が評価される。
【0013】
好ましくは、上記時刻T1が、インパクト時刻Tpである。好ましくは、上記特定区間Z12が100msec以下である。上記時刻T1は、上記測定値Vfが所定区間において最低値となった時刻Tminであってもよい。
【0014】
インパクト時刻Tpから、このインパクト時刻Tpの50msec後の時刻までの間において上記測定値Vfが最高値となった時刻がTmaxとされるとき、好ましくは、上記時刻Tminが、上記インパクト時刻Tpから上記時刻Tmaxまでの間において上記測定値Vfが最低値となった時刻である。
【0015】
好ましくは、上記第1ステップにおいて、スイング速度の均一性及び/又は打点の均一性が考慮されて、測定データの取捨選択がなされる。
【0016】
好ましくは、上記測定手段M1が、上記スイング主体又は上記スポーツ打具の少なくとも一方に設けられる力センサを含む。好ましくは、この力センサによる計測部位が、素振りにおける上記測定値Vfの分布と、実打における上記測定値Vfの分布との比較に基づいて決定される。
【0017】
好ましくは、上記力センサは、3軸力覚センサである。
【0018】
好ましい評価方法は、計測部位を選定する選定ステップを更に含む。好ましくは、この選定ステップでは、上記スイング主体又は上記スポーツ打具の少なくとも一方に設けられる圧力センサが用いられる。好ましくは、この選定ステップでは、素振りにおける上記圧力センサでの測定値の分布と、実打における上記圧力センサでの測定値の分布との比較に基づいて、上記計測部位が選定される。好ましくは、上記第1ステップでは、上記選定ステップにおいて選定された計測部位において、上記力F又はその特定方向成分F1が計測される。好ましくは、上記第1ステップにおいて、上記力F又はその特定方向成分F1が、3軸力覚センサによって測定される。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る評価方法では、打感の定量的な評価が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る評価方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図2】図2は、本発明の一実施形態の評価方法が行われている様子を示す図である。
【図3】図3は、スイング主体がスポーツ打具に付与する力を説明するための図である。
【図4】図4は、好ましい実施形態である計測部位の選定方法の一例が示されたフローチャートである。
【図5】図5は、選定された計測部位の一例が示された図である。
【図6】図6は、好ましい実施形態である計測条件の均一化方法の一例が示されたフローチャートである。
【図7】図7は、好ましい実施形態であるデータ解析方法の一例が示されたフローチャートである。
【図8】図8は、計測部位の選定の為の計測結果を示し、右手中指第二関節付近でのデータである。
【図9】図9は、計測部位の選定の為の計測結果を示し、左手小指第一関節付近のデータである。
【図10】図10は、グリップ圧力の時系列的な計測データの一例が示されたグラフである。
【図11】図11は、グリップ圧力の時系列的な計測データの他の一例が示されたグラフである。
【図12】図12は、グリップ圧力の時系列的な計測データの他の一例が示されたグラフである。
【図13】図13は、グリップ圧力の時系列的な計測データの他の一例が示されたグラフである。
【図14】図14は、図13に示された4つのグラフ線にうちの一つが示されたグラフである。
【図15】図15は、図13に示された4つのグラフ線のうちの他の一つが示されたグラフである。
【図16】図16は、図13に示された4つのグラフ線のうちの更に他の一つが示されたグラフである。
【図17】図17は、図13に示された4つのグラフ線のうちの更に他の一つが示されたグラフである。
【図18】図18は、テストで用いられた力センサ内蔵ゴルフクラブを示す図である。
【図19】図19は、ボールごとの官能評価及びボールごとの3軸力変化量が示された棒グラフである。
【図20】図20は、官能評価と打点との関係、及び、3軸力変化量と打点との関係が示された散布図である。
【図21】図21は、官能評価と打点との関係、及び、3軸力変化量と打点との関係が示された散布図である。
【図22】図22は、力センサによる測定結果の一例を示すグラフである。
【図23】図23は、力センサによる測定結果の一例を示すグラフである。
【図24】図24は、図22の拡大図である。
【図25】図25は、図23の拡大図である。
【図26】図26は、x軸方向の力を示すグラフである。
【図27】図27は、y軸方向の力を示すグラフである。
【図28】図28は、z軸方向の力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0022】
本発明は、スポーツ打具の挙動を測定するものではない。本発明は、打球により受けた衝撃力を測定するものでもない。
【0023】
本発明では、スイング主体とスポーツ打具との間に作用する力F又はその特定方向成分F1が測定される。この「特定方向」は限定されない。この力F又はその特定方向成分F1の総称として、本願では、「グリップ力」との文言が用いられる。この「グリップ力」は、本願において単に「力」とも称される。
【0024】
好ましい第1の態様では、スイング主体とスポーツ打具との間に作用する力Fsが測定される。この力Fsは、せん断方向の成分を含む。せん断方向とは、後述されるx軸方向又はy軸方向である。この力Fsの一例は、スイング主体とスポーツ打具との間に作用する実際の力Fである。この力Fsの他の例は、この力Fの特定方向成分である。せん断方向の成分を含む限り、この「特定方向」は限定されない。
【0025】
好ましい第2の態様では、スイングロボットとスポーツ打具との間に作用する力Frが測定される。この力Frの方向は限定されない。この力Frは、せん断方向の成分を含んでいてもよいし、せん断方向の成分を含んでいなくてもよい。この力Frの一例は、上記力Fである。この力Frの他の例は、上記力Fの特定方向成分F1である。
【0026】
力F又はその特定方向成分F1と打感との相関が存在することがわかった。更に、上記力Fs又は力Frと打感との相関が存在することがわかった。これらについての詳細は、後述される。
【0027】
上記力Fs又は上記力Frの測定には、センサを有する測定手段M1が用いられる。このセンサは、スポーツ打具又はスイング主体の少なくとも一方に設けられる。
【0028】
スポーツ打具は限定されず、例えば、ゴルフクラブ、テニスラケット、バトミントンラケット、卓球用ラケット、野球用バット、クリケット用バット及びゲートボール用スティックが挙げられる。以下では、ゴルフクラブを例として説明がなされる。
【0029】
スイング主体として、人間及びスイングロボットが例示される。打感は人間が感じるものであるから、この観点からは、スイング主体は人間とされる。しかし、スイングロボットが有効である場合もある。例えば、多くの人に共通する普遍的な打感がある場合、このスポーツ打具の打感を評価するのに、スイングロボットは有効である。スイングロボットは、スイングごとのバラツキが少ないため、普遍的な打感を捉えるのに有効である。以下では、主として、スイング主体が人間である場合が説明される。本発明では、打感が定量化されうる。よって、打感の評価であるにも関わらず、スイング主体としてスイングロボットを用いることが可能とされうる。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態に係る測定の手順を示すフローチャートである。図2は、本実施形態の測定の様子を示す図である。この測定では、測定手段M1がセンサを有しており、このセンサ4が、スイング主体に装着される(ステップst100)。本実施形態のスイング主体h1は、人体である。スイング主体h1は、スイングロボットであってもよい。センサ4は、スイング主体h1の手のひらに配置されている。より詳細には、センサ4は、スイング主体h1が装着した手袋の手のひら部に配置されている。なおセンサ4は、人体の肌に直接設けられても良い。また、このセンサは、スポーツ打具c1に設けられても良い。
【0031】
本実施形態のセンサ4(図示されない)は、圧力センサである。スイング主体が人間である場合、センサは、人間の手のひら側又はゴルフクラブのグリップ側に装着される。本実施形態では、人体が手袋を装着し、この手袋にセンサが装着されている。スイング主体がスイングロボットである場合、スイングロボットとグリップg1との間に、センサ4が装着される。センサ4は、スイング主体h1とグリップg1との接触面に装着される。好ましいセンサの一例は、シート状の圧力センサである。シート状のセンサは、スイングを妨げない。圧力センサに代えて、せん断方向の成分を含む力Fsを測定しうるセンサが装着されてもよい。このセンサの一例は、後述される3軸力覚センサである。
【0032】
次に、実打における力が測定される(ステップst200)。本願において「実打」とは、スイングを行ってボールb1を打つことを意味する。この「実打」と「素振り」とは、対照的な概念である。「素振り」はボールb1を打たないスイングであり、「実打」はボールb1を打つスイングである。実打は、スイングロボットによってなされてもよいし、人体によってなされてもよい。素振りは、スイングロボットによってなされてもよいし、人体によってなされてもよい。
【0033】
次に、データ解析がなされる(ステップst300)。このデータ解析は、演算処理装置6によりなされる。この解析についての詳細は、後述される。
【0034】
測定手段M1は、圧力センサ4と、演算処理装置6とを有している。演算処理装置6として、コンピュータが例示される。典型的な演算処理装置6は、操作入力部8、データ入力部(図示されず)、表示部10、ハードディスク(図示されず)、メモリ(図示されず)及びCPU(図示されず)を備えている。操作入力部8は、キーボード12とマウス14とを備えている。
【0035】
データ入力部は、例えば、A/D変換されたデジタルデータを入力するためのインタフェースボードを備えている。データ入力部に入力されたデータは、CPUに出力される。表示部10は、例えば、ディスプレイである。この表示部は、CPUに制御されつつ、各種データを表示しうる。
【0036】
CPUは、例えば、ハードディスクに記憶されているプログラムを読み出してメモリの作業領域に展開し、そのプログラムに従って各種処理を実行する。メモリは、例えば、書き換え可能なメモリであり、ハードディスクから読み出されたプログラムや入力データ等の格納領域や作業領域等を構成する。ハードディスクは、データ処理等に必要なプログラム及びデータ等を記憶している。このプログラムは、CPUに、必要なデータ処理を実行させる。データ処理の一例は、後述される増加量Psum等を含む積分値Sfの算出である。データ処理の他の一例は、変化率Rdの算出である。データ処理の他の一例は、後述される[Fmax−Fmin]の算出である。
【0037】
センサ4により、力のデータが得られる。このデータは、時系列的に得られうる。例えば、スイング中の一部又は全部の時間における力のデータが、時系列的に得られうる。時系列的なデータは、例えば、一定時間おきに得られるデータの集合である。この時系列的なデータにより、スイング中における力の変化が測定されうる。表示部10は、この時系列的なデータを、グラフ等として表示しうる。この時系列的データのグラフは、後述される。
【0038】
図3は、本実施形態で測定される力について説明するための図である。図3において符号h1で示されているハッチング部は、人体の手の断面の一部である。図3に示すように、スイング主体h1がスポーツ打具c1に付与する力Fは、成分Fx、成分Fy及び成分Fzに分解されうる。本実施形態では、スポーツ打具c1を垂直に押圧する力Fzが測定される。本実施形態における上記成分F1は、力Fzである。上記成分F1は限定されず、例えば、力Fx、力Fy又はこれらのベクトル和であってもよい。もちろん、力Fが測定されてもよい。本実施形態では、この力Fzが、圧力センサ4によって測定される。
【0039】
せん断方向の成分を含む力Fsが測定されてもよい。力Fsの一例は、上記力Fである。力Fsの他の例として、上記成分Fxと上記成分Fyとのベクトル和が挙げられる。力Fsの更に他の例として、上記成分Fx及び上記成分Fyが挙げられる。力Fsは、グリップ力の一例である。なお、力Fsを測定する場合、例えば、3軸力覚センサが用いられる。
【0040】
測定手段M1は、更に、無線送信装置16及び無線受信装置18を有している。無線送信装置16とセンサ4とは、配線20によって接続されている。無線受信装置18と演算処理装置6とは、配線22によって接続されている。
【0041】
センサ4で測定されたデータは、無線送信装置16に送られる。無線送信装置16は、このデータを発信する。無線受信装置18は、このデータを受信する。無線通信の方式として、例えばBluetooth(ブルートゥース)の規格及び技術が好適に用いられ得る。図示しないが、無線受信装置18は、無線アンテナ、無線インターフェース、CPU及びネットワークインターフェースを備えている。
【0042】
無線通信が利用されることにより、スイングを妨げる配線が不要とされうる。この場合、スイング主体h1テスターt1は、本来のスイングをすることができる。無線通信の利用により、自然なスイングが達成されるため、スイングの測定精度が向上しうる。なお、無線通信に代えて、有線通信が用いられてもよい。
【0043】
図4は、センサの配置を決定する手順の一例を示すフローチャートである。本発明の好ましい実施形態では、センサの装着(上記ステップst100)に先立ち、計測部位の選定がなされる。
【0044】
好ましい計測部位の選定方法では、まず、接触部全面での力測定がなされる(ステップst10)。測定される力として、圧力(上記Fz)が例示される。測定される他の力として、上記力Fsが例示される。以下、測定される力が圧力である場合を例として、説明がなされる。このステップst10では、スイング主体h1とスポーツ打具c1との接触面の全てに、圧力センサが配置される。次に、スイング中に力が作用した部位が選定される(ステップst11)。このステップst11では、素振りにおける力と、実打における力とが比較される。次に、ある計測部位が、素振りと実打との間の力の差が閾値A以上であるか否かが判断される(ステップst12)。この閾値Aは、スイング主体h1又はスポーツ打具c1等に対応して適宜設定される。また閾値Aは、最終的に得られる測定結果と打感との相関性が高くなるように設定されるのが好ましい。
【0045】
素振りと実打との間の力の差が閾値A未満である場合、その計測部位が、候補から徐偽され、他の候補が探索され(ステップst13)、この他の候補について、閾値A以上が否かが判定される(ステップst12)。閾値A以上である場合、その部位が、計測部位として決定される(ステップst14)。
【0046】
図5は、決定された計測部位の一例を示す。図5は、手袋26をした人間の両手が示されている。図5は手のひら側の図である。図5の例では、右手28の8箇所及び左手30の8箇所が、計測部位として選定されている。この計測部位に、センサが装着される。
【0047】
計測部位の選定方法の具体例については、後述される。
【0048】
計測部位の選定により、素振りの際に得られる力の影響が限定され、且つ、実際の打球において生じた力が測定結果を支配しやすい。よって、打感との相関性が得られやすい。一方、計測部位の選定が過剰になされると、データが局部的な力に左右されやすくなり、打感との相関性がかえって低下する場合がある。打感との相関性等を考慮して、適切な範囲で、計測部位の選定がなされる。後述される実施例において、積分値Sf(増加量Psum等)は、計測された力の総和に基づいて算出されている。これは、力を全体的に把握し、打感との相関性を高めるためである。
【0049】
本発明に係るデータ計測において、好ましくは、打球条件を考慮したデータ選別がなされる。図6は、このデータ選別の手順の一例を示すフローチャートである。
【0050】
このデータ選別方法では、先ず、判断閾値B及び判断閾値Cが決定される(ステップst20)。閾値Bは、ヘッドスピードのバラツキの範囲であり、例えば後述される範囲Hsである。閾値Cは、打点(打球位置)のバラツキの範囲であり、例えば後述される所定範囲Sである。閾値B及び閾値Cが小さいほど、打球条件のバラツキが減少し、データの信頼性が向上しうる。一方、特にスイング主体h1が人間の場合、閾値B及び閾値Cが過度に小さいと、採用に至るデータの取得が困難となることがある。閾値B及び閾値Cの決定にあたっては、例えばこれらの状況が考慮される。
【0051】
次に、力の計測がなされる(ステップst21)。この力の計測は、実打による計測である。好ましくは、この力の計測は、前述したステップst200の一例である。次に、ヘッドスピードが所定範囲Hsの範囲内か否かが判断される(ステップst22)。ヘッドスピードが所定範囲Hsの範囲外である場合、再度の力の計測がなされる(ステップst23)。ヘッドスピードが所定範囲Hsの範囲内である場合、更に、打点が所定範囲Sの範囲内であるか否かが判断される(ステップst24)。打点が所定範囲Sの範囲外である場合、再度の力の計測がなされる(ステップst25)。打点が所定範囲Sの範囲内である場合、そのデータが採用される(ステップst26)。
【0052】
上記所定範囲Sは特に限定されず、例えば、「フェースセンターからの距離がDmm以内の範囲」、「スイートスポットからの距離がDmm以内の範囲」、「半径Dmmの範囲」等とされうる。スイング主体h1が人間である場合、打点のバラツキが不可避的に生じる。よってスイング主体h1が人間の場合、所定範囲Sの過度な限定により、必要な数のデータが得られにくい場合がある。この観点から例えば、上記Dは、2mm以上、更には5mm以上、更には7mm以上程度に設定することが可能である。上記Dの上限も限定されないが、計測の信頼性の観点から、例えば10mm以下とすることが可能である。スイング主体h1がスイングロボットである場合、打点のバラツキが少ないので、上記Dを更に小さくすることが可能である。この場合例えば、Dが5mm以下、更には3mm以下とされうる。
【0053】
上記ヘッドスピードは、スイング速度の一例である。測定条件を均一化して信頼性の高いデータを得る観点から、スイング速度を所定範囲Hsに制限するのが好ましい。
【0054】
打点及びスイング速度は、力と相関しうる。ゴルフクラブの構造上、打球面はシャフト軸線の延長線上に無い。このため、打球がなされると、シャフト軸線回りの回転モーメントが生じ、ゴルフクラブがシャフト軸線回りに回転しようとする。スイング主体は、この回転モーメントに起因するグリップの滑りを阻止するため、グリップを(無意識に)強く握る可能性がある。この要因も含め、何らかの要因で、スイング速度及び打点は、グリップ力に影響しうる。
【0055】
スイング主体としてスイングロボットが用いられる場合、スイング速度の均一性が高く、打点の均一性も高い。スイングロボットが用いられる場合、前述したような測定データの取捨選択は不要とされうる。
【0056】
図7は、前述したデータ解析(ステップst300)の好ましい一例を示すフローチャートである。このデータ解析では、先ず、インパクト時刻Tpが取得される(ステップst30)。インパクト時刻Tpの取得方法は限定されない。後述されるように、計測された時系列的な力データにより、インパクト時刻Tpが判別されうる。また、インパクト時刻Tpは、ボールが衝突した時刻であるから、画像、打球音等によっても認識されうる。これらを含めた種々の方法で、インパクト時刻Tpが取得される。
【0057】
次に、インパクト時刻Tpより後の時刻における力の最小値Pminが、閾値D以下であるか否かが判断される(ステップst31)。後述のデータで示されるように、インパクト時刻Tpの直後に、力が一時的に低下する場合がある。この力の一時的な低下は、データが正常な否かの判断材料として用いられ得る。インパクト時刻Tpより後の時刻における力の最小値Pminが所定の閾値Dを超える場合、そのデータは不採用とされうる(ステップst32)。
【0058】
インパクト時刻Tpより後の時刻における力の最小値Pminが所定の閾値D以下である場合、そのデータが採用される。次に、力が最小値Pminであるときの時刻Tminが取得される(ステップst33)。
【0059】
インパクト時刻Tpから50msec経過するまでの間において力が最大となった時刻がTmaxであるとき、好ましくは、時刻Tminは、インパクト時刻Tpから上記時刻Tmaxまでの間において力が最小となった時刻とされる。このように時刻Tminが設定される場合、後述される増加量Psumと打感との相関が比較的高いことが判った。増加量Psumに基づく評価は、積分値Sfに基づく評価の一例である。
【0060】
次に、測定された力の時系列的データにおいて、上記時刻TminからT2までの増加量Psumが算出される(ステップst34)。この総和Psumは、時間と力とが変数とされた関数の、時間に関する積分値に基づいて算出される。この積分値は、インパクト以後の時刻T1から時刻T2までの特定期間Z12における積分値である。上記時刻Tminは、上記時刻T1の好ましい一例である。上記増加量Psumに基づく分析は、上記積分値Sfに基づく分析の好ましい一例である。
【0061】
上記時刻T2は、上記時刻T1よりも後である限り限定されない。好ましい時刻T2の一例は、インパクト時刻Tpよりも後の時刻において力が最大となった時刻Tmaxである。
【0062】
時刻T1から時刻T2までの時間(特定区間Z12)は限定されないが、打感との相関性の観点から、好ましくは5msec以上、より好ましくは10msec以上がよい。一方、フォロースルー中のグリップ力はバラツキやすいため、この時間が長すぎると、打感との相関性が低下しやすい。この観点から、時刻T1から時刻T2までの時間(特定区間Z12)は、好ましくは100msec以下、より好ましくは50msec以下、更に好ましくは25msec以下である。
【0063】
好ましくは、得られた総和(増加量)Psumが、記録される(ステップst35)。後述のデータが示すように、この総和Psumは、打感との相関しうることが判った。
【0064】
好ましい本発明は、スポーツ打具の打感を定量的に評価する方法であって、スイング主体と上記スポーツ打具との間に作用する力Fsを計測可能な測定手段M1を用い、インパクト以後の時刻における上記力Fsの値を得る第1ステップと、少なくとも一の時刻における上記力Fsの値に基づいて、打感を判断する第2ステップとを含む。少なくとも一の時刻における上記力Fsの値が、打感と相関しうる。なお、インパクト以後の時刻とは、インパクトの時刻Tpを含む。
【0065】
好ましい他の本発明は、スポーツ打具の打感を定量的に評価する方法であって、スイングロボットと上記スポーツ打具との間に作用する力Frを計測可能な測定手段M1を用い、インパクト以後の時刻における上記力Fsの値を得る第1ステップと、少なくとも一の時刻における上記力Frの値に基づいて、打感を判断する第2ステップとを含む。少なくとも一の時刻における上記力Frの値が、打感と相関しうる。
【0066】
好ましくは、上記第1ステップにおいて、インパクト以後の時刻T1から時刻T2までの特定区間Z12における上記力Fs又は上記力Frの値を時系列的に得るとともに、上記第2ステップにおいて、上記特定区間Z12における上記力Fs又は上記力Frの積分値Sfに基づいて打感を判断する。
【0067】
積分値Sfの他に、打感との相関性に優れる指標として、変化率Rdが挙げられることが判った。この変化率Rdは、上記特定区間Z12における上記力Fs又は上記力Frの変化率である。
【0068】
好ましくは、上記時刻T1が、上記力Fs又は上記力Frが最低値となった時刻Tminとされる。この場合、打感との相関性が向上しうる。インパクトの直後に上記力Fs又は上記力Frが低下する現象が発生することが判った。そして、この時刻Tminが上記T1とされることは、打感との相関性の向上に寄与しうる。
【0069】
打感との相関の観点から、上記時刻Tminが、上記インパクト時刻Tpから上記時刻Tmaxまでの間であるのがよい。
【0070】
上記実施形態で示したように、好ましくは、上記測定手段M1が、スイング主体又は上記スポーツ打具の少なくとも一方に設けられる力センサを含む。好ましくは、この力センサの設置位置が、素振りにおける上記力Fs又は上記力Frの分布Dpと、実打における上記力Fs又は上記力Frの分布Dsとの比較に基づいて決定される。素振りにおいて観測されるデータは、打感との関連性が低いと考えられる。よって、上記分布Dpと上記分布Dsとの比較により、打感との関連性が高い部分を選択することが可能である。素振りと実打とで差異が大きい位置にセンサを設置することで、打感との相関性の高いデータが得られうる。、
【0071】
前述のように、打球の際に、シャフト軸線回りのモーメントが生じる。このモーメントに起因して、ゴルフクラブがシャフト軸線回りに回転しようとする。この回転に起因して、スイング主体とスポーツ打具との間で滑りが生じうる。人体は、この滑りの大小を感じ取り、無意識にグリップ力を調整している可能性がある。人体は、滑りが大きいと感じるほど、把持力を大きくしている可能性がある。この無意識なグリップ力の調整が、打感と力との相関を生じさせていると推定される。
【0072】
スイング主体がスイングロボットの場合、無意識なグリップ力の調整は無い。しかし、スイングロボットの場合も、インパクトに起因して、グリップ力が変動しうる。この変動の要因の一例は、上述したシャフト軸回りのモーメントである。また、インパクトに起因して、シャフトには捻れ振動や曲げ振動が生じうる。これらの振動によっても、グリップ力が変動しうる。このグリップ力の変動も、打感とグリップ力との相関を生じさせていると推定される。
【0073】
測定手段M1として、圧力センサ、3軸力覚センサ及び6軸力覚センサが例示される。好ましい圧力センサは、シート状である。3軸力覚センサは、圧力(図3におけるz軸方向の力)及びせん断力(図3におけるxy平面に沿った方向の力)の両方を測定することができる。6軸力覚センサは、3軸方向の力に加えて、各軸におけるトルクを測定することができる。
【0074】
調整機構M1として、市販されているセンサが用いられてもよい。市販されている3軸力覚センサとして、例えば、株式会社ワコーテックの商品名「Dyn Pick」(3軸測定用)が挙げられる。市販されている6軸力覚センサとして、例えば、株式会社ワコーテックの商品名「Dyn Pick」(6軸測定用)が挙げられる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0076】
[テスト1]計測部位の選定(上記ステップst10からステップst14)
ゴルフクラブのグリップ部の全面に圧力センサを取り付けた。このセンサとして、ニッタ社製の商品名「Pinch−A3−40」が用いられた。このセンサのセンサ部は、グリップの全面を覆う面積を有しておらず、グリップの半周面を覆う面積を有している。そこで、センサ部をグリップの上側半周面に設けた測定と、センサ部をグリップの下側半周面に設けた測定とがなされた。これらの2回の測定により、接触部全面での圧力測定がなされたことになる。
【0077】
図8及び図9に、接触部全面での計測結果の一部を示す。これらの図では、左側のグラフが素振りでの計測結果であり、右側のグラフが実打での計測結果である。左側のグラフと右側のグラフとで差異が大きい場合、その部位が選定される。なお、図8及び図9において、グラフ線のそれぞれは、上記ニッタ社製センサに多数設けられた圧力測定素子における計測値のそれぞれを示している。グラフの横軸は時間であり、グラフの縦軸は圧力である。
【0078】
図8は、テスターKの計測結果の一部である。図8は、右手中指第二関節付近でのデータである。
【0079】
図8のグラフに示されるように、テスターKのデータにおいて、素振りと実打との間に差異が見られる。他の部位についても、素振りと実打との間の差異が判断された。図8のグラフ以外にも、各部位ごとにグラフが得られた。これらのグラフに基づき、素振りと実打との差異が特に大きい部位が判断された。この計測により、実打と素振りとで差異が大きい部位が選定されうる。この選定において、上記閾値Aは特に限定されず、例えば、上記Psum又は上記変化率Rdと打感との相関が高くなるように適宜決定することができる。
【0080】
図9は、テスターSの計測結果の一部である。図9は、左手小指第一関節付近のデータである。
【0081】
図9のグラフに示されるように、テスターSのデータにおいても、素振りと実打との間に差異が見られる。他の部位についても、素振りと実打との間の差異が判断された。図9のグラフ以外にも、各部位ごとにグラフが得られた。これらのグラフに基づき、素振りと実打との差異が特に大きいのは部位が判断された。この計測により、実打と素振りとで差異が大きい部位が選定されうる。この選定において、上記閾値Aは特に限定されず、例えば、Psum、変化率Rd又は[Fmax−Fmin]と打感との相関が高くなるように、閾値Aが設定されうる。
【0082】
なお、ここでは圧力センサが用いられたが、他のセンサが用いられても良い。例えば、せん断力の測定が可能なセンサが用いられても良い。せん断力の測定な可能なセンサとして、前述した3軸力覚センサ及び6軸力覚センサが例示される。例えば、3軸力覚センサを複数(多数)配置し、これら複数の3軸力覚センサのデータに基づいて、計測部位の選定がなされうる。広範囲の測定が可能とされる観点から、計測部位の選定では、圧力センサが用いられるのが好ましい。
【0083】
[テスト2]実打でのグリップ力計測1
【0084】
このテスト2では、実打でのグリップ力の計測(上記ステップst200)及びデータ解析(上記ステップst300)がなされた。グリップ力として、圧力が採用された。圧力シート状の圧力センサを含む圧力計測システムとして、ニッタ社製の商品名「オクトセンス」(品番08107B005)が用いられた。この「オクトセンス」は、有線の圧力計測システムである。1つの「オクトセンス」は、8個のセンサ部を有している。この「オクトセンス」を2つ用いた。右手用に第一の「オクトセンス」を用い、右手に8箇所のセンサ部を配置した。左手用に第二の「オクトセンス」を用い、左手に8箇所のセンサ部を配置した。設置箇所は、図5に示す16箇所である。これらのセンサ部は、ゴルフ手袋に貼り付けられた。これらの16箇所は、上記テスト1の計測において、素振りと実打との差異が比較的大きかった部位である。計測された圧力は、上記力Fzである。
【0085】
インパクトの時刻Tpを検出するとともに、上記「オクトセンス」の測定データの時間軸を判断可能とする目的で、互いに同期した2台の高速度カメラが用いられた。上記「オクトセンス」は同期機能を有していないため、2台の高速度カメラのうちの一台には「オクトセンス」の計測開始と同時に発光するLEDランプを撮影させ、他の一台には、ボールとヘッドとの衝突の瞬間(インパクト)を撮影させた。
【0086】
テスターは、ゴルファーAの1名とされた。圧力計測のサンプリング周波数は、200Hzとされた。ゴルフクラブとしてウエッジを用いた。圧力計測と同時にヘッドスピードを計測し、ヘッドスピードが16.0m/s以上18.0m/s以下である場合のデータのみが採用された。即ち、上記所定範囲Hsが16.0m/s以上18.0m/s以下とされた。なお、このヘッドスピード範囲は、ウエッジによるアプローチショットでのヘッドスピードに対応している。このようなアプローチショットにおいて、打感が感じられやすいことが知られている。
【0087】
圧力の測定と同時に、高速度カメラによるスイング撮影を行った。このスイング撮影により得られた画像に基づき、インパクト時刻Tpが検出された。
【0088】
ゴルファーAによる4回の打撃が計測された。
【0089】
図10は、打球感が硬いとの官能評価が得られているボールの計測結果である。横軸は時間であり、縦軸は圧力(16箇所の圧力の総和)である。4回のデータが、4本のグラフで示されている。図11は、打球感が柔らかいとの官能評価が得られているボールの計測結果である。横軸は時間であり、縦軸は圧力(16箇所の圧力の総和)である。4回のデータが、4本のグラフで示されている。横軸の単位は「秒」である。
【0090】
図10及び図11において、時刻ゼロが、インパクト時刻Tpである。
【0091】
図10及び図11で示されるように、インパクト時刻Tpの直後(インパクト時刻Tpの0.01秒後付近)に、グリップ圧力の低下が見られる。そして、この圧力低下時刻からの変化率は、図11よりも図10のほうが大きい。即ち、上記変化率Rdは、図10のほうが図11よりも大きい。このように、打感と変化率Rdとが相関している。打感が硬いほど変化率Rdが大きくなり、打感が柔らかいほど変化率Rdが小さくなると考えられる。
【0092】
[テスト3]実打での圧力計測2
【0093】
上記テスト2と同じ圧力センサを用いて、計測がなされた。テスターは、ゴルファーBの1名である。圧力計測のサンプリング周波数は、1000Hzとされた。ゴルフクラブとしてウエッジを用い、ヘッドスピードが16.0m/s以上18.0m/s以下である場合のデータが採用された。サンプリング周波数が高いほど、単位時間当たりの計測データ数が多くなり、データ精度が向上しうる。この観点から、圧力計測におけるサンプリング周波数は、100Hz以上が好ましく、200Hz以上がより好ましく、1000Hz以上が更に好ましい。
【0094】
圧力の計測と同時に、高速度カメラによるスイング撮影を行った。このスイング撮影により、インパクト時刻Tpを検出した。インパクト時刻Tpが、時刻ゼロとされた。
【0095】
図12は、3種類のボールによるテスト結果を重ねて示したグラフである。横軸は時間であり、縦軸は圧力である。この圧力は、全てのセンサ部のデータの総和である。
【0096】
図12において符号a1で示されているのは、市販品であるボールBでの計測結果である。図12において符号a2で示されているのは、SRIスポーツ社製のボールXでの計測結果である。図12において符号a3で示されているのは、市販されている2ピースボールでの計測結果である。これら3種類のボールにおいて、2ピースボールでは、打球感が「硬い」との官能評価が得られている。これに対して、ボールB及びボールXでは、打球感が「柔らかい」との官能評価が得られている。
【0097】
図12には、2ピースボールのデータに関し、特定区間Z12(時刻T1から時刻T2)までのPsumがハッチング部の面積として示されている。時刻T1として、上記時刻Tminが採用されている。このPsumが、打球感と相関することが判った。「Psumが大きいほど、打球感が硬い」との相関が得られることが判った。
【0098】
図13は、図12と同じデータに基づくグラフであるが、図12に示された3種類のボールの結果に、1種類のボールによるテスト結果が追加されている。よって図13には、4種類のボールによるテスト結果が重ねて示されている。図14から図17は、これらの4種類の結果のそれぞれを示したグラフである。横軸は時間であり、縦軸は圧力である。横軸の時間の単位はmsecである。この圧力は、全てのセンサ部のデータの総和である。
【0099】
ボールは、上記ボールB、上記ボールX、上記2ピースボール、及び、SRIスポーツ社製のボールYである。図13のグラフが示すように、打球感が硬いとされている2ピースボールが、他の3種のゴルフボールと比較して、積分値Sf(Psum)及び変化率Rdが大きい傾向が得られた。
【0100】
[テスト4]3軸力に基づく評価
上級ゴルファーのI氏及びK氏が、3軸力に基づく打感の評価を行った。ゴルファーIのハンディキャップは0である。ゴルファーKのハンディキャップも0である。このテストで用いられたゴルフクラブc2は、サンドウエッジである。このゴルフクラブc2が図18に示される。テスト4では、ゴルフクラブc2として、SRIスポーツ社製のサンドウエッジ(商品名「スリクソンZR−800」、NSプロ950GHスチールシャフト、硬さS)を用いた。
【0101】
なお3軸力とは、スイング主体とスポーツ打具との間に作用する実際の力Fを意味する。したがって3軸力は、せん断方向の成分を有する。この3軸力は、上記力Fsの一例である。この3軸力は、測定値Vfの一例である。
【0102】
ゴルフクラブc2は、ヘッドh2と、シャフトs2と、グリップg2とを有する。
【0103】
このゴルフクラブc2のシャフトの内部に、力センサf2を設置した。力センサf2は、複数箇所に設けられている。力センサf2は、2箇所に設けられている。第1の力センサf21は、右手人差し指の第3関節が当たる位置に設けられている。第2の力センサf22は、左手人差し指の第3関節が当たる位置に設けられている。これらの位置は、圧力センサを用いた計測部位の選定方法(前述)に基づいて決定された。
【0104】
図示しないが、シャフトs2及びグリップg2を貫通する貫通孔が設けられた。この貫通孔を利用して、力センサf2の力覚部を外部に露出させた。
【0105】
図示しないが、この力センサf2では、歪ゲージが用いられた。力は、歪ゲージの電気抵抗の変化として検出された。x軸方向、y軸方向及びz軸方向に作用する力を計測できるように、複数の歪ゲージが配置された。複数の歪ゲージは、三次元的に配置された。各軸ごとにブリッジ回路が組まれており、差動電圧を計測することによって、各軸方向の力が計測された。
【0106】
ボールとして、上記ボールB、上記ボールX及び上記ボールYが用いられた。圧力計測のサンプリング周波数は、10kHzとされた。
【0107】
ヘッドh2のフェースにはショットマーカーを貼り付けた。このショットマーカーによって、打点が計測された。打点とは、フェースにおけるボールの当たった位置である。打撃ごとに、打点が計測された。同時に、打撃ごとに、3軸力が計測された。同時に、打撃ごとに、打球感の評価がなされた。
【0108】
フェース面上に2次元直交座標(X軸及びY軸)が設定された。打点は座標(X,Y)によって表される。X軸は、トウ−ヒール方向(左右方向)である。X軸は、フェースラインに対して平行である。Y軸が、上下方向である。Y軸は、フェースラインに対して垂直である。リーディングエッジの最下点から16mm隔てた位置のY座標が0mmとされた。最も長いフェースラインの中点のX座標が0mmとされた。
【0109】
打球感は、1点から9点までの9段階で評価された。点数が高いほど、打球感が硬いことを意味する。この打球感は、官能評価である。
【0110】
テストの精度を高める観点から、ヘッドスピードによるデータの選別がなされた。打撃ごとにヘッドスピードが計測された。ヘッドスピードが20.0m/s以上22.0m/s以下である場合に、計測データが採用された。
【0111】
更に、テストの精度を高める観点から、打点によるデータの選別がなされた。X座標が−3.0mm以上3.0mm以下であり、且つ、Y座標が−4.0mm以上である場合に、計測データが採用された。
【0112】
ヘッドスピード及び打点による選別を経て、各テスター及び各ボールについて、5つずつのデータを得た。
【0113】
力センサf2によって計測されたデータは、x軸方向の力Fx、y軸方向の力Fy及びz軸方向の力Fzであった。これら3方向の力をベクトル和して、3軸力を得た。得られた3軸力について、3軸力変化量が算出された。インパクト後における3軸力の最大値(スカラ量)がFmaxであり、インパクト後における3軸力の最大値(スカラ量)がFminであるとき、3軸力変化量は、[Fmax−Fmin]である。なお、Fmaxは、時刻T1から時刻T2までの間における3軸力の最大値とされ、Fminは、時刻T1から時刻T2までの間における3軸力の最小値とされた。時刻T1はインパクト時刻Tpとされ、時刻T2はインパクト時刻Tpから100msec経過した時刻とされた。
【0114】
図19は、ゴルファーI及びゴルファーKのテスト結果を示す。棒グラフで示された数値は、5つのデータの平均値である。図19の左上のグラフは、ゴルファーIによる打球感の評価結果である。図19の左下のグラフは、ゴルファーIによる3軸力変化量の評価結果である。図19の右上のグラフは、ゴルファーKによる打球感の評価結果である。図23の右下のグラフは、ゴルファーKによる3軸力変化量の評価結果である。
【0115】
なお、図19の棒グラフには、エラーバーが付記されている。このエラーバーは、標準偏差を示す。
【0116】
図19に示されたゴルファーIの結果では、打球感の評価と、3軸力変化量との間で、評価順序が一致している。ボールYは、官能評価において最も硬いと感じられており、且つ、3軸力変化量が最も大きい。ボールBは、官能評価において最も柔らかいと感じられており、且つ、3軸力変化量が最も小さい。
【0117】
図19に示されたゴルファーKの結果でも、打球感の評価と、3軸力変化量との間で、評価順序が一致している。
【0118】
ゴルファーKとゴルファーIとでは、官能評価の順序が相違している。それにも関わらず、ゴルファーKとゴルファーIのいずれにおいても、打球感の評価と3軸力変化量との間で、評価順序が一致している。この結果は、打球感と3軸力変化量との間の良好な相関を示す。
【0119】
図20は、打点に関するゴルファーIの結果を示す。
【0120】
図20の左上のグラフは、官能評価と、上下方向打点との関係を示す。即ち横軸は官能評価の得点を示し、縦軸は打点のY座標を示す。
【0121】
図20の左下のグラフは、官能評価と、左右方向打点との関係を示す。即ち横軸は官能評価の得点を示し、縦軸は打点のX座標を示す。
【0122】
図20の右上のグラフは、3軸力変化量と、上下方向打点との関係を示す。即ち横軸は3軸力変化量を示し、縦軸は打点のY座標を示す。
【0123】
図20の右下のグラフは、3軸力変化量と、左右方向打点との関係を示す。即ち横軸は3軸力変化量を示し、縦軸は打点のX座標を示す。
【0124】
図20の左上のグラフから、負の相関が読みとれる。即ち、官能評価の得点が低いほど打点が上である傾向が読み取れる。換言すれば、打球感が柔らかいほど打点が上である傾向が読み取れる。一方、図20の左下のグラフからは、相関はほとんど読み取れない。これらの結果によれば、上下方向の打点位置(上記Y座標)は、左右方向の打点位置(上記X座標)よりも、打球感との相関が強いと考えられる。
【0125】
図20の右上のグラフからも、負の相関が読みとれる。即ち、3軸力変化量が低いほど打点が上である傾向が読み取れる。一方、図20の右下のグラフからは、相関はほとんど読み取れない。これらの結果によれば、上下方向の打点位置(上記Y座標)は、左右方向の打点位置(上記X座標)よりも、3軸力変化量との相関が強いと考えられる。
【0126】
図21は、打点に関するゴルファーKの結果を示す。以下に示すように、ゴルファーKの結果は、ゴルファーIの結果と同様の傾向を示している。
【0127】
図21の左上のグラフは、官能評価と、上下方向打点との関係を示す。即ち横軸は官能評価の得点を示し、縦軸は打点のY座標を示す。
【0128】
図21の左下のグラフは、官能評価と、左右方向打点との関係を示す。即ち横軸は官能評価の得点を示し、縦軸は打点のX座標を示す。
【0129】
図21の右上のグラフは、3軸力変化量と、上下方向打点との関係を示す。即ち横軸は3軸力変化量を示し、縦軸は打点のY座標を示す。
【0130】
図21の右下のグラフは、3軸力変化量と、左右方向打点との関係を示す。即ち横軸は3軸力変化量を示し、縦軸は打点のX座標を示す。
【0131】
図21の左上のグラフから、負の相関が読みとれる。即ち、官能評価の得点が低いほど打点が上である傾向が読み取れる。換言すれば、打球感が柔らかいほど打点が上である傾向が読み取れる。一方、図21の左下のグラフからは、相関はほとんど読み取れない。これらの結果によれば、上下方向の打点位置(上記Y座標)は、左右方向の打点位置(上記X座標)よりも、打球感との相関が強いと考えられる。
【0132】
図21の右上のグラフからも、負の相関が読みとれる。即ち、3軸力変化量が低いほど打点が上である傾向が読み取れる。一方、図21の右下のグラフからは、相関はほとんど読み取れない。これらの結果によれば、上下方向の打点位置(上記Y座標)は、左右方向の打点位置(上記X座標)よりも、3軸力変化量との相関が強いと考えられる。
【0133】
図20及び図21に示された結果は、打点と打球感との相関を示唆している。特に、トウ−ヒール方向位置よりも上下方向位置の方が、打球感に影響を与えやすいことが示唆されている。図19の結果が示すように、同じボールでも、ゴルファーIとゴルファーKとで打球感が相違していた。この相違の原因として、打点位置の影響が考えられる。
【0134】
図19が示すように、ボールの種類に起因した、打球感の有意差は見られなかった。それにも関わらず、打球感と3軸力変化量とは、評価順序において、一致していた。打球感と3軸力変化量との良好な相関が示された。
【0135】
図22から図28は、3軸力の測定結果の一例を示す。前述したゴルフクラブc2(サンドウェッジ)が用いられた。この測定のテスターは、K氏であった。このK氏がソフトと感じるボールSfと、このK氏が硬いと感じるボールHdとが用いられた。このボールSfは、前述したボールXであった。このボールHdは、前述したボールYであった。
【0136】
図22は、ボールSfを用いた測定結果である。図22において、符号xで示されるのは上記Fxであり、符号yで示されるのは上記Fyであり、符号zで示されるのは上記Fzである。横軸は時間であり、インパクトの時刻Tpが0とされている。縦軸は力(N)である。
【0137】
図23は、ボールHdを用いた測定結果である。図23において、符号xで示されるのは上記Fxであり、符号yで示されるのは上記Fyであり、符号zで示されるのは上記Fzである。横軸は時間であり、インパクトの時刻Tpが0とされている。縦軸は力(N)である。
【0138】
図24は、ボールSfを用いた測定結果であり、図22の拡大図である。図25は、ボールHdを用いた測定結果であり、図23の拡大図である。
【0139】
図26は、ボールSfを用いた測定結果とボールHdを用いた測定結果とが描かれたグラフである。図26は、力Fxを示している。図27は、ボールSfを用いた測定結果とボールHdを用いた測定結果とが描かれたグラフである。図27は、力Fyを示している。図28は、ボールSfを用いた測定結果とボールHdを用いた測定結果とが描かれたグラフである。図28は、力Fzを示している。図26、27及び28において、符号sはボールSfのグラフであり、符号hはボールHdのグラフである。
【0140】
図26が示すように、ボールSfを用いた場合と、ボールHdを用いた場合とで、力Fxは相違している。図27が示すように、ボールSfを用いた場合と、ボールHdを用いた場合とで、力Fyは相違している。図28が示すように、ボールSfを用いた場合と、ボールHdを用いた場合とで、力Fzは相違している。
【0141】
下記の表1は、上記ゴルフボールの仕様及び評価結果である。
【0142】
【表1】


【0143】
表1において、「SCH」とは、圧縮変形量を意味する。この圧縮変形量は、所定の初荷重がかかった状態から、所定の終荷重がかかった状態まで、所定の速度でボールを圧縮変形させたときの、変形量である。
【0144】
上記の通り、打球感は人それぞれに相違しうるものである。表1の評価結果(圧縮変形量)と打球感とは必ずしも相関しない。上述した実施例では、打球感と評価値との相関性が高い。これらの評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【0145】
なお、最大値Fmax及び最小値Fminを用いる代わりに、第1の時刻Taでの測定値と、第2の時刻Tbにおける測定値とが用いられても良い。この場合の好ましい評価方法は、上記第1ステップが、インパクト以後の時刻Taにおける第1の測定値Vfと、この時刻Tbよりも後の時刻Tbにおける第2の測定値Vfとを得るステップを含み、上記第2ステップが、これら2つの測定値Vfの差に基づいて打感を判断するステップを含む。
【産業上の利用可能性】
【0146】
以上説明された方法は、あらゆるスポーツ打具における打感の評価に適用されうる。
【符号の説明】
【0147】
c1、c2・・・スポーツ打具(ゴルフクラブ)
h1・・・スイング主体
g1、g2・・・ゴルフクラブ用グリップ
s2・・・シャフト
b1・・・ボール
M1・・・測定手段
4・・・センサ
f2・・・センサ(3軸力覚センサ)
40・・・センサ本体
42・・・ケーブル
44・・・力覚部
46・・・力覚面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スポーツ打具の打感を定量的に評価する方法であって、
スイング主体と上記スポーツ打具との間に作用する力F又はその特定方向成分F1を計測可能な測定手段M1を用いて、インパクト以後の時刻における上記力F又は力F1の測定値Vfを得る第1ステップと、
少なくとも一の上記時刻における上記測定値Vfに基づいて、打感を判断する第2ステップと、
を含む評価方法。
【請求項2】
上記力F又は上記力F1が、せん断方向の成分を含む力Fsである請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
上記スイング主体がスイングロボットである請求項1又は2に記載の評価方法。
【請求項4】
上記第1ステップにおいて、インパクト以後の時刻T1から時刻T2までの特定区間Z12における上記測定値Vfが時系列的に得られ、
上記第2ステップにおいて、上記特定区間Z12における上記測定値Vfの積分値Sfに基づいて打感が評価される請求項1から3のいずれかに記載の評価方法。
【請求項5】
上記第1ステップにおいて、インパクト以後の時刻T1から時刻T2までの特定区間Z12における上記測定値Vfが時系列的に得られ、
上記第2ステップにおいて、上記特定区間Z12における上記測定値Vfの変化率Rdに基づいて打感が評価される請求項1から3のいずれかに記載の評価方法。
【請求項6】
上記第1ステップにおいて、インパクト以後の時刻T1から時刻T2までの特定区間Z12における上記測定値Vfが時系列的に得られ、
上記第2ステップにおいて、上記特定区間Z12における上記測定値Vfの最大値と最小値との差に基づいて打感が評価される請求項1から3のいずれかに記載の評価方法。
【請求項7】
上記時刻T1が、インパクト時刻Tpである請求項4から6のいずれかに記載の評価方法。
【請求項8】
上記特定区間Z12が100msec以下である請求項4から7のいずれかに記載の評価方法。
【請求項9】
上記時刻T1が、上記測定値Vfが所定区間において最低値となった時刻Tminである請求項4から8のいずれかに記載の評価方法。
【請求項10】
インパクト時刻Tpから、このインパクト時刻Tpの50msec後の時刻までの間において上記測定値Vfが最高値となった時刻がTmaxとされるとき、
上記時刻Tminが、上記インパクト時刻Tpから上記時刻Tmaxまでの間において上記測定値Vfが最低値となった時刻である請求項9に記載の評価方法。
【請求項11】
上記第1ステップにおいて、スイング速度の均一性及び/又は打点の均一性が考慮されて、測定データの取捨選択がなされる請求項1から10のいずれかに記載の評価方法。
【請求項12】
上記測定手段M1が、上記スイング主体又は上記スポーツ打具の少なくとも一方に設けられる力センサを含み、
この力センサによる計測部位が、素振りにおける上記測定値Vfの分布と、実打における上記測定値Vfの分布との比較に基づいて決定される請求項1から11のいずれかに記載の評価方法。
【請求項13】
上記力センサが、3軸力覚センサである請求項12に記載の評価方法。
【請求項14】
計測部位を選定する選定ステップを更に含み、
この選定ステップでは、上記スイング主体又は上記スポーツ打具の少なくとも一方に設けられる圧力センサが用いられ、且つ、この選定ステップでは、素振りにおける上記圧力センサでの測定値の分布と、実打における上記圧力センサでの測定値の分布との比較に基づいて、上記計測部位が選定され、
上記第1ステップでは、上記選定ステップにおいて選定された計測部位において、上記力F又はその特定方向成分F1が計測される請求項1から11のいずれかに記載の評価方法。
【請求項15】
上記第1ステップにおいて、上記力F又はその特定方向成分F1が、3軸力覚センサによって測定される請求項14に記載の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2012−228351(P2012−228351A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98104(P2011−98104)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(504017809)ダンロップスポーツ株式会社 (701)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】