打錠機および鍔部材
【課題】打錠障害を低減できる打錠機を提供する。
【解決手段】打錠機は、臼孔66が形成された臼60と、臼60の上側に配置された上杵と、臼60の下側に配置された下杵10と、を備え、臼孔66に供給された原料を上杵と下杵10との間で圧縮して錠剤82を成形する。下杵10は、成形された錠剤82を臼孔66の外部へ排出するための上方向への移動に伴って、臼孔66の内部へ下側から空気を供給する。
【解決手段】打錠機は、臼孔66が形成された臼60と、臼60の上側に配置された上杵と、臼60の下側に配置された下杵10と、を備え、臼孔66に供給された原料を上杵と下杵10との間で圧縮して錠剤82を成形する。下杵10は、成形された錠剤82を臼孔66の外部へ排出するための上方向への移動に伴って、臼孔66の内部へ下側から空気を供給する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打錠機および鍔部材に関し、特に、原料を圧縮して錠剤を成形するための打錠機と、その打錠機に使用される鍔部材と、に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の打錠機に関する技術は、たとえば、特開平7−8540号公報(特許文献1)、特開2002−239794号公報(特許文献2)、特開2001−26533号公報(特許文献3)、特開2001−205493号公報(特許文献4)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−8540号公報
【特許文献2】特開2002−239794号公報
【特許文献3】特開2001−26533号公報
【特許文献4】特開2001−205493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
打錠機を用いて、臼孔に粉末状の原料を投入し、上下の杵で圧縮して錠剤を成形する場合、錠剤の原料粉末が杵面に付着して錠剤表面が曇ったりあばたを生じたりするピッキングまたはスティッキング、錠剤が臼に付着して錠剤表面にひっかき傷ができるバインディングなどの、打錠障害が生じる場合がある。特に、粒径が小さく臼や杵に付着し易い顆粒を原料粉末として使用する場合、下杵に刻印または割線を打つ錠剤を成形する場合、ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤の添加量が少ない処方の場合などに、打錠障害が発生しやすいという問題があった。
【0005】
本発明は上記の問題に鑑みてなされてものであり、その主たる目的は、打錠障害を低減できる、打錠機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る打錠機は、臼孔が形成された臼と、臼の上側に配置された上杵と、臼の下側に配置された下杵と、を備え、臼孔に供給された原料を上杵と下杵との間で圧縮して錠剤を成形する。下杵は、成形された錠剤を臼孔の外部へ排出するための上方向への移動に伴って、臼孔の内部へ下側から空気を供給する。
【0007】
上記打錠機において、下杵は、臼孔の径よりも大径の胴部と、臼孔内に嵌合する杵先とを含み、下杵が上方向へ移動し錠剤が臼孔の外部へ排出されるとき、胴部の上端は臼の下面近傍に位置してもよい。
【0008】
上記打錠機は、盤を備え、盤には貫通孔が形成され、盤は貫通孔の内部に臼を保持するものであって、下杵が上方向へ移動し錠剤が臼孔の外部へ排出されるとき、胴部の上端は貫通孔の内部に位置してもよい。
【0009】
上記打錠機において、鍔部材を備え、鍔部材は下杵に取り付けられ臼孔の径よりも大径であって、下杵が上方向へ移動し錠剤が臼孔の外部へ排出されるとき、鍔部材は臼の下面近傍に位置してもよい。
【0010】
本発明に係る鍔部材は、臼孔が形成された臼と、臼の上側に配置された上杵と、臼の下側に配置された下杵と、を備え、臼孔に供給された原料を上杵と下杵との間で圧縮して錠剤を成形する打錠機に使用される、臼孔よりも大径に形成された鍔部材である。鍔部材は、下杵に取り付けられた状態で下杵が上方向へ移動し錠剤が臼孔の外部へ排出されるとき、臼の下面近傍に位置する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の打錠機によると、打錠障害を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施の形態の打錠機の打錠工程を説明する模式図である。
【図2】下杵、上杵および臼の構成の詳細を示す部分断面模式図である。
【図3】臼保持盤および臼の分解断面斜視図である。
【図4】図1に示す工程(e)において臼孔内で上杵および下杵からの加圧によって錠剤が圧縮成形された状態を示す、部分断面図である。
【図5】図1に示す工程(f)において上杵と下杵との両方が臼に対して上方向へ移動した状態を示す、部分断面図である。
【図6】図1に示す工程(g)において上杵と下杵との両方が臼に対して上方向へ移動した状態を示す、部分断面図である。
【図7】図1に示す工程(g)において臼孔内に発生する空気の流れを模式的に示す部分断面図である。
【図8】下杵の変形例を示す部分断面図である。
【図9】下杵の他の変形例を示す部分断面図である。
【図10】下杵のさらに他の変形例を示す部分断面図である。
【図11】図10に示す鍔部材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいてこの発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において、
同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0014】
図1は、本実施の形態の打錠機1の打錠工程を説明する模式図である。図2は、打錠機1に含まれる下杵10、上杵40および臼60の構成の詳細を示す部分断面模式図である。まず、図1および図2を参照して、本実施の形態の打錠機1の構成について説明する。図1および図2に示すように、打錠機1は、基盤としての臼保持盤2を備える。臼保持盤2には、臼保持盤2を厚み方向に貫通する貫通孔が形成されている。臼保持盤2の貫通孔の内部に臼60が配置されて、臼60は臼保持盤2により保持されている。
【0015】
臼保持盤2は、シャフトを介して回転可能に設けられる回転盤として設けられてもよい。この場合、回転する臼保持盤2の周方向に複数の臼60が保持され、臼保持盤2の回転に伴って同時に打錠工程の各工程が同時に連続的に行なわれてもよい。この構成に限られるものではなく、たとえば、一つのみの臼60を保持し移動不可能に形成された臼保持盤2を備える、小型の試験用の打錠機1であってもよい。
【0016】
臼60には、臼60を厚み方向に貫通する臼孔66が形成されている。臼孔66は、臼60の上面62から下面64へ至るまで臼60を貫通するように形成されている。臼60の外周面には、周方向に延びるように外周溝68が形成されている。
【0017】
臼60の下側には、下杵10が配置されている。下杵10は、下杵10の本体部分を成す胴部18と、胴部18に対し下杵10の先端側(図中上側)に設けられた杵先20と、胴部18に対し下杵10の後端側(図中下側)に設けられた頭部12とを有する。頭部12は、ネック部16を介在させて胴部18に一体に取り付けられている。頭部12の後端側の表面には、錠剤を成形する際に下杵10に加えられる圧力を受ける平坦部14が形成されている。
【0018】
杵先20は、胴部18の先端側の端部である上端26に取り付けられている。上端26は、円錐台形状に形成されており、相対的に径の大きい胴部18と相対的に径の小さい杵先20とを繋げている。杵先20の先端には、成形される錠剤82の形状、寸法および刻印を決定するチップ22が配置されている。チップ22は、その一表面であるチップ面24が錠剤82に押し付けられながら錠剤82を成形することにより、錠剤82を所定の形状および寸法に成形しつつ、錠剤82の表面に刻印を形成する。
【0019】
臼60の上側には、上杵40が配置されている。上杵40は、上杵40の本体部分を成す胴部48と、胴部48に対し上杵40の先端側(図中下側)に設けられた杵先50と、胴部48に対し上杵40の後端側(図中上側)に設けられた頭部42とを有する。杵先50は、下杵10のチップ面24と対向するように設けられた対向面54を有する。上杵40は、下杵10に対し対向して配置されている。対向面54とチップ面24とによって原料を上下から加圧することにより、錠剤82が成形される。頭部42は、ネック部46を介在させて胴部48に一体に取り付けられている。頭部42の後端側の表面には、錠剤を成形する際に上杵40に加えられる圧力を受ける平坦部44が形成されている。
【0020】
図1に示すように、打錠機1は、上杵ガイド3と下杵ガイド4とを備える。上杵ガイド3は、上杵40を案内するとともに、上杵40の上下方向の位置を変化させる。上杵ガイド3は、上杵40をその長手方向に臼60に対して相対的に往復移動させる。下杵ガイド4は、下杵10を案内するとともに、下杵10の上下方向の位置を変化させる。下杵ガイド4は、下杵10をその長手方向に臼60に対して相対的に往復移動させる。打錠機1はさらに、上杵40の後端側から上杵40に対し圧力を加える上予圧ローラ5および上本圧ローラ7と、下杵10の後端側から下杵10に対し圧力を加える下予圧ローラ6および下本圧ローラ8と、を備える。
【0021】
図3は、臼保持盤2および臼60の分解断面斜視図である。図3に示すように、臼保持盤2には、臼保持盤2を厚み方向に貫通する貫通孔72が形成されている。貫通孔72は、臼60の外径に対し同一または僅かに大きい径を有する。貫通孔72の壁面には、周方向に延びる円周溝74が形成されている。円周溝74は、臼60を臼保持盤2に取り付けたとき臼60に形成された外周溝68と対向する位置に形成されている。臼60を臼保持盤2に取り付けた状態で、相対向する外周溝68と円周溝74とによって、リング状の空間が形成される。このリング状の空間に、臼60を臼保持盤2に固定するためのたとえばピンなどの臼固定部材を配置することにより、臼60は貫通孔72の内部において臼保持盤2に一体に固定される。
【0022】
臼保持盤2は、貫通孔72の壁面の一部が径方向内側に突出した臼受け部76を有する。臼受け部76が貫通孔72の壁面から張り出すように形成されていることにより、貫通孔72の径が縮小された縮径部78が形成されている。臼60は、臼受け部76の上に載置され、貫通孔72の内部に配置される。図3に示すように、縮径部78は、径D1を有する。また臼60に形成された臼孔66は、径D2を有する。
【0023】
次に図1を参照して、打錠機1を使用して行なわれる錠剤82の成形の各工程について説明する。図1中の(a)〜(g)は、打錠工程の各工程を例示的に示すものであって、打錠機1は(a)〜(g)に示す各工程を同時に行ない得るものであってもよく、同時には行ない得ないものであってもよい。
【0024】
打錠工程の開始時には、下杵10は、杵先20が臼孔66に挿入され臼60に嵌合されるように配置されている。一方上杵40の杵先50は臼孔66の外部に配置され、上杵40は臼60の上方に臼60から離れて配置されている(a)。このように下杵10と上杵40とが上下方向に配置された状態で、臼孔66の内部に、粉末状の原料81が供給される(b)。原料81は、任意の公知の成分を含んでもよく、たとえば、医薬成分などの用途に応じた有効成分と、賦形剤、結合剤または滑沢剤などの添加剤とを含んでもよい。
【0025】
続いて上杵40が上杵ガイド3に従って下方向へ移動し、臼60に接近する(c)。上杵40は、杵先50が臼60の上面62にほぼ到達するまで、下方向に移動する。この状態で、上予圧ローラ5が上杵40の頭部42の平坦部44に接触して上杵40に下向きの力が作用するとともに、下予圧ローラ6が下杵10の頭部12の平坦部14に接触して下杵10に上向きの力が作用する(d)。上予圧ローラ5から上杵40に力が加えられ、下予圧ローラ6から下杵10に力が加えられることにより、粉末状の原料81に上下両方向から圧力が加えられる。
【0026】
続いて上本圧ローラ7が上杵40の頭部42の平坦部44に接触して上杵40により大きな下向きの力が作用するとともに、下本圧ローラ8が下杵10の頭部12の平坦部14に接触して下杵10により大きな上向きの力が作用する(e)。このとき上杵40は下方向にさらに移動し、上杵40の杵先50は臼孔66の内部へ挿入され、上杵40が臼孔66に嵌合する。上本圧ローラ7と下本圧ローラ8とによって臼孔66に供給された原料81にさらに大きな圧力が作用することにより、臼孔66の内部において原料81を上杵40と下杵10との間で圧縮して、錠剤82を成形する。図4は、工程(e)において臼孔66内で上杵40および下杵10からの加圧によって錠剤82が圧縮成形された状態を示す、部分断面図である。
【0027】
錠剤82の圧縮成形が完了した後、下杵ガイド4に従って下杵10が上方へ移動するとともに、上杵ガイド3に従って上杵40も上方へ移動し、上杵40の杵先50は再度臼孔66の外部へ移動する(f)。その後、下杵10がさらに上方向へ移動して、錠剤82が臼孔66の外部へ排出される(g)。図5および図6はそれぞれ、工程(f)(g)において上杵40と下杵10との両方が臼60に対して上方向へ移動した状態を示す、部分断面図である。臼孔66の外部へ移動された錠剤82は、スクレーパ9に接触してスクレーパ9によりかき取られることにより、臼保持盤2から排出されて回収される。臼60の上面62は、成形された錠剤82が臼孔66の外部へ排出される側の表面であり、臼60の下面64は上記表面とは反対側の裏面である。
【0028】
以上の(a)〜(g)の打錠工程を経て、粉末状の原料81が臼孔66の内部で上杵40および下杵10によって加圧され、所望の形状および寸法を有する錠剤82が圧縮成形される。このとき下杵10の先端面を形成するチップ面24に刻印を施しておくことで、錠剤82の圧縮成形と同時に、錠剤82の表面に所望の刻印が形成される。
【0029】
図7は、図1に示す工程(g)において臼孔66内に発生する空気の流れを模式的に示す部分断面図である。図7に示すように、下杵10が上方向へ移動し錠剤82が臼孔66の外部へ排出されるとき、下杵10の胴部18の上端26は、臼保持盤2に形成された貫通孔72の内部に位置し、臼60の下面64近傍に位置する。ここで、胴部18の径d1は、図3に示す臼孔66の径D2よりも大きい。下杵10は、臼孔66の径よりも大径の胴部18を含む。一方、杵先20の径d2およびチップ22の径d3は、臼孔66の径D2よりも小さいので、杵先20とチップ22とは臼孔66内に嵌合する。
【0030】
臼孔66よりも大径の胴部18が貫通孔72の縮径部78内に入り臼60の下面64に接近することにより、臼60の下面64付近の空気が圧縮されて、臼孔66内へ向かう空気の流れが発生する。このとき胴部18の上端26付近が貫通孔72の一部である縮径部78の内部へ嵌合することにより、縮径部78の内部の空気が胴部18のピストン作用によって効率よく圧縮され、より多くの圧縮された空気が臼孔66の内部へ流れる。下杵10は、成形された錠剤82を臼孔66の外部へ排出するための上方向への移動に伴って、図7中の矢印に示すように、臼孔66の内部へ下側から空気を供給する。
【0031】
臼孔66の内部へ流れ込んだ圧縮された空気は、下杵10と臼孔66との隙間を経由して臼孔66内を上方向へ流れ、下杵10の先端のチップ22と臼孔66との隙間を経由して、臼60の上面62側へ排出される。上杵40と下杵10との間で圧縮成形された錠剤82は、チップ22のチップ面24上に載置されているが、この空気の流れによって、錠剤82がチップ面24から浮き上がる方向の力が錠剤82に作用する。下杵10の上方向への移動によって発生した臼孔66内部の空気の流れが錠剤82に圧力を作用するために、錠剤82はチップ面24から僅かに離れる。
【0032】
その結果、錠剤82を回収するためのスクレーパ9が錠剤82に接触したときのスクレーパ9による錠剤82への衝撃が緩和され、スクレーパ9と当接することで錠剤82は下杵10のチップ面24から容易に離れて回収される。そのため、下杵10のチップ面24上で錠剤82の表面の一部が層状に剥離するラミネーション、錠剤82の原料81の粉末がチップ面24に付着するスティッキングなどの打錠障害が発生しにくくなる。したがって、本実施の形態の打錠機1によって、打錠障害を低減できる効果を得ることができる。
【0033】
図7に示す、圧縮成形された錠剤82を臼60の上面62側に排出するために下杵10が上方向に持ち上げられた状態で、下杵10の先端のチップ22は、臼60の上面62に対して約0.1mm〜0.2mm突出する。この状態での臼60の下面64から下杵10の胴部18の上端26までの距離は、通常は約3〜5mmである。
【0034】
スクレーパ9を使用して錠剤82をかき取って打錠機1から錠剤82を回収する前に、臼60の下面64と胴部18との間の間隔が上記の約3〜5mmと比較してより小さくなるように、下杵10を上方向に移動させる工程がさらに設けられてもよい。その際の臼60の下面64と胴部18との間の間隔は、たとえば0.1mm〜3mmの範囲になるように、臼60に対する下杵10の上下方向の位置が決定されてもよい。このようにすれば、圧縮された空気をより効果的に臼孔66内へ流入させることができるので、錠剤82をより確実にチップ面24から浮き上がらせ、チップ面24への錠剤82の付着を容易に抑制することができる。
【0035】
臼保持盤2が回転盤である場合、通常、臼保持盤2は20〜50rpm程度の回転速度で移動し、この回転に伴って上杵40と下杵10とが適宜上下方向に移動することで、錠剤82の打錠が行なわれる。この場合、臼孔66内へ流入する空気の流れ具合は、下杵10の胴部18が貫通孔72に入る長さに依存する。そのため、錠剤82をチップ面24から浮き上がらせるために必要な空気の流れを発生できる程度の長さ分、下杵10の胴部18が貫通孔72に入り込むように、適切な下杵ガイド4を形成して、下杵10の上下方向の移動を制御してもよい。
【0036】
図3に示す貫通孔72の縮径部78の径D1および臼孔66の径D2と、下杵10の径d1とは、径d1がD2より大きくD1より小さい関係、すなわちD2<d1<D1の式を満たすように、決定されればよい。このように寸法を決定すれば、下杵10を上方向へ移動させるとき、下杵10の上端26を縮径部78の内部へ嵌合させることができ、かつ臼孔66内には杵先20は嵌合するが胴部18は嵌合しない。そのため、縮径部78内の空気を臼60と下杵10との間で圧縮して臼孔66へ導入し、臼孔66内に確実に上向きの空気の流れを発生させることができる。下杵10の径d1が縮径部の径D1よりも僅かに小さいように寸法が決定されれば、より多くの空気を臼孔66内に流入させることができ、錠剤82のチップ面24への付着をさらに確実に防止することができるので望ましい。
【0037】
チップ22の外周面と臼孔66の壁面との隙間は、当該隙間を経由して上方向(錠剤82の載置されたチップ面24側)へ噴出する空気の流速をより大きくできるように、可能な限り小さく決定するのが好ましい。たとえば、チップ22の径d3に対し臼孔66の径D2を0.02〜0.1mm程度大きくするように、臼孔66とチップ22とを形成してもよい。杵先20と臼孔66との間隔が錠剤82へ至る空気流れに与える影響は小さく、そのため杵先20の径d2は、下杵10の強度を十分確保できチップ22を適切に保持できる程度に、決定されればよい。
【0038】
また、臼60の高さ(すなわち臼60の上面62と下面64との間の距離)h1と、臼保持盤2の臼受け部76の高さh2とは、下杵10を臼60の下面64に十分に接近させて臼孔66内に空気を導入できる程度であれば、任意の寸法に決定されてもよい。たとえば、臼60の高さh1を約27.5mmとし、臼受け部76の高さh2を約2mmにしてもよい。
【0039】
図8は、下杵10の変形例を示す部分断面図である。図8に示す下杵10は、胴部18の上端26が平坦な円形状である点で、図7に示す下杵10と異なっている。下杵10は、平面状の上端26が臼60の下面64と対向し、上端26と下面64とがほぼ平行になるように設けられる。
【0040】
図7と図8とを比較して、下杵10の上端26、臼の下面64および臼孔66の壁面によって囲まれる空間の容積は、図8においてより大きくなっている。下杵10の上方向への移動によって上記空間内の空気が臼孔66内へ流入するが、相対的に空間の容積の大きい図8の実施例では、より多くの空気を臼孔66内へ導入することができる。したがって、錠剤82をチップ面24から浮き上がらせるための空気の圧力をより大きくすることができ、チップ面24への錠剤82の付着を一層抑制することができる。
【0041】
図9は、下杵10の他の変形例を示す部分断面図である。図9に示す変形例において、下杵10は従来の打錠機と同様の外形を有する。しかし図9に示す打錠機1は、下杵10に取付可能に設けられた鍔部材31を備える点で、従来の打錠機と異なっている。鍔部材31は、図9に示すように、臼孔66の径D2よりも大径であり、さらに貫通孔72の縮径部78の径D1よりも大径に形成されている。環状の鍔部材31は、下杵10の外周面に取り付けられる。図9に示す例では、下杵10の杵先20と胴部18とを連結する円錐台形状の部分に、環状の鍔部材31の内径を係合させて、下杵10に鍔部材31が取り付けられている。
【0042】
鍔部材31が下杵10に取り付けられた状態で下杵10が上方向へ移動し錠剤82が臼孔66の外部へ排出されるとき、鍔部材31は臼60の下面64近傍に位置する。図9に示す例では、錠剤82が臼60の上面62側の外部へ排出され、このとき、臼保持盤2の貫通孔72よりも大径に形成された鍔部材31は、臼保持盤2の下面80に近接するように配置されている。
【0043】
図10は、下杵10のさらに他の変形例を示す部分断面図である。図11は、図10に示す鍔部材31の斜視図である。鍔部材31は図9に示す例に限られず、たとえば図10および図11に示すように、鍔部材31は中空の短円筒状に形成され、下杵10の杵先20よりもわずかに大きい内径を有し、かつ、臼孔66の径D2よりも大きく縮径部78の径D1よりも小さい外径を有するように形成されてもよい。この場合、下杵10の上方向への移動に伴って鍔部材31は下面80側から貫通孔72の内部へ嵌合して、臼60の下面64にさらに近接するように配置される。鍔部材31は下杵10の胴部18の上端26上に載置されてもよく、または、下杵10の杵先20の外周面の一部に鍔部材31を受ける鍔受け部が形成され、当該鍔受け部上に鍔部材31が載置される構成としてもよい。
【0044】
図9〜図11に示す変形例の打錠機1によると、図7を参照して説明したように、下杵10の上方向への移動に伴って臼孔66の内部へ下側から空気を供給することができる。この空気の流れによって錠剤82をチップ面24から浮き上がらせることができるので、チップ面24への錠剤82の付着を抑制し、打錠障害を低減することができる。また、従来の形状を有する下杵10に鍔部材31を取り付ける構成により、図7に示す形状の下杵10と同等の効果を得ることができる。つまり、従来の下杵10をそのまま利用し、本実施の形態の鍔部材31のみを追加する簡単な構成によって打錠障害を低減できる、より低コストな打錠機1を提供することができる。
【0045】
図9〜図11に示すように下杵10とは別の部材である鍔部材31が下杵10に取り付けられる構成でもよく、または、下杵10の外周面から径方向外側に張り出す鍔形状が下杵10と一体に形成されてもよい。鍔部材31が下杵10とは別部材として設けられる場合、鍔部材31の材質は、合成樹脂が好ましく、特に、熱硬化性エラストマーが好ましい。
【0046】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0047】
1 打錠機、2 臼保持盤、3 上杵ガイド、4 下杵ガイド、5 上予圧ローラ、6 下予圧ローラ、7 上本圧ローラ、8 下本圧ローラ、9 スクレーパ、10 下杵、12,42 頭部、14,44 平坦部、16,46 ネック部、18,48 胴部、20,50 杵先、22 チップ、24 チップ面、26 上端、31 鍔部材、40 上杵、54 対向面、60 臼、62 上面、64 下面、66 臼孔、72 貫通孔、76 臼受け部、78 縮径部、80 下面、81 原料、82 錠剤。
【技術分野】
【0001】
本発明は、打錠機および鍔部材に関し、特に、原料を圧縮して錠剤を成形するための打錠機と、その打錠機に使用される鍔部材と、に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の打錠機に関する技術は、たとえば、特開平7−8540号公報(特許文献1)、特開2002−239794号公報(特許文献2)、特開2001−26533号公報(特許文献3)、特開2001−205493号公報(特許文献4)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−8540号公報
【特許文献2】特開2002−239794号公報
【特許文献3】特開2001−26533号公報
【特許文献4】特開2001−205493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
打錠機を用いて、臼孔に粉末状の原料を投入し、上下の杵で圧縮して錠剤を成形する場合、錠剤の原料粉末が杵面に付着して錠剤表面が曇ったりあばたを生じたりするピッキングまたはスティッキング、錠剤が臼に付着して錠剤表面にひっかき傷ができるバインディングなどの、打錠障害が生じる場合がある。特に、粒径が小さく臼や杵に付着し易い顆粒を原料粉末として使用する場合、下杵に刻印または割線を打つ錠剤を成形する場合、ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤の添加量が少ない処方の場合などに、打錠障害が発生しやすいという問題があった。
【0005】
本発明は上記の問題に鑑みてなされてものであり、その主たる目的は、打錠障害を低減できる、打錠機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る打錠機は、臼孔が形成された臼と、臼の上側に配置された上杵と、臼の下側に配置された下杵と、を備え、臼孔に供給された原料を上杵と下杵との間で圧縮して錠剤を成形する。下杵は、成形された錠剤を臼孔の外部へ排出するための上方向への移動に伴って、臼孔の内部へ下側から空気を供給する。
【0007】
上記打錠機において、下杵は、臼孔の径よりも大径の胴部と、臼孔内に嵌合する杵先とを含み、下杵が上方向へ移動し錠剤が臼孔の外部へ排出されるとき、胴部の上端は臼の下面近傍に位置してもよい。
【0008】
上記打錠機は、盤を備え、盤には貫通孔が形成され、盤は貫通孔の内部に臼を保持するものであって、下杵が上方向へ移動し錠剤が臼孔の外部へ排出されるとき、胴部の上端は貫通孔の内部に位置してもよい。
【0009】
上記打錠機において、鍔部材を備え、鍔部材は下杵に取り付けられ臼孔の径よりも大径であって、下杵が上方向へ移動し錠剤が臼孔の外部へ排出されるとき、鍔部材は臼の下面近傍に位置してもよい。
【0010】
本発明に係る鍔部材は、臼孔が形成された臼と、臼の上側に配置された上杵と、臼の下側に配置された下杵と、を備え、臼孔に供給された原料を上杵と下杵との間で圧縮して錠剤を成形する打錠機に使用される、臼孔よりも大径に形成された鍔部材である。鍔部材は、下杵に取り付けられた状態で下杵が上方向へ移動し錠剤が臼孔の外部へ排出されるとき、臼の下面近傍に位置する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の打錠機によると、打錠障害を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施の形態の打錠機の打錠工程を説明する模式図である。
【図2】下杵、上杵および臼の構成の詳細を示す部分断面模式図である。
【図3】臼保持盤および臼の分解断面斜視図である。
【図4】図1に示す工程(e)において臼孔内で上杵および下杵からの加圧によって錠剤が圧縮成形された状態を示す、部分断面図である。
【図5】図1に示す工程(f)において上杵と下杵との両方が臼に対して上方向へ移動した状態を示す、部分断面図である。
【図6】図1に示す工程(g)において上杵と下杵との両方が臼に対して上方向へ移動した状態を示す、部分断面図である。
【図7】図1に示す工程(g)において臼孔内に発生する空気の流れを模式的に示す部分断面図である。
【図8】下杵の変形例を示す部分断面図である。
【図9】下杵の他の変形例を示す部分断面図である。
【図10】下杵のさらに他の変形例を示す部分断面図である。
【図11】図10に示す鍔部材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいてこの発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において、
同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0014】
図1は、本実施の形態の打錠機1の打錠工程を説明する模式図である。図2は、打錠機1に含まれる下杵10、上杵40および臼60の構成の詳細を示す部分断面模式図である。まず、図1および図2を参照して、本実施の形態の打錠機1の構成について説明する。図1および図2に示すように、打錠機1は、基盤としての臼保持盤2を備える。臼保持盤2には、臼保持盤2を厚み方向に貫通する貫通孔が形成されている。臼保持盤2の貫通孔の内部に臼60が配置されて、臼60は臼保持盤2により保持されている。
【0015】
臼保持盤2は、シャフトを介して回転可能に設けられる回転盤として設けられてもよい。この場合、回転する臼保持盤2の周方向に複数の臼60が保持され、臼保持盤2の回転に伴って同時に打錠工程の各工程が同時に連続的に行なわれてもよい。この構成に限られるものではなく、たとえば、一つのみの臼60を保持し移動不可能に形成された臼保持盤2を備える、小型の試験用の打錠機1であってもよい。
【0016】
臼60には、臼60を厚み方向に貫通する臼孔66が形成されている。臼孔66は、臼60の上面62から下面64へ至るまで臼60を貫通するように形成されている。臼60の外周面には、周方向に延びるように外周溝68が形成されている。
【0017】
臼60の下側には、下杵10が配置されている。下杵10は、下杵10の本体部分を成す胴部18と、胴部18に対し下杵10の先端側(図中上側)に設けられた杵先20と、胴部18に対し下杵10の後端側(図中下側)に設けられた頭部12とを有する。頭部12は、ネック部16を介在させて胴部18に一体に取り付けられている。頭部12の後端側の表面には、錠剤を成形する際に下杵10に加えられる圧力を受ける平坦部14が形成されている。
【0018】
杵先20は、胴部18の先端側の端部である上端26に取り付けられている。上端26は、円錐台形状に形成されており、相対的に径の大きい胴部18と相対的に径の小さい杵先20とを繋げている。杵先20の先端には、成形される錠剤82の形状、寸法および刻印を決定するチップ22が配置されている。チップ22は、その一表面であるチップ面24が錠剤82に押し付けられながら錠剤82を成形することにより、錠剤82を所定の形状および寸法に成形しつつ、錠剤82の表面に刻印を形成する。
【0019】
臼60の上側には、上杵40が配置されている。上杵40は、上杵40の本体部分を成す胴部48と、胴部48に対し上杵40の先端側(図中下側)に設けられた杵先50と、胴部48に対し上杵40の後端側(図中上側)に設けられた頭部42とを有する。杵先50は、下杵10のチップ面24と対向するように設けられた対向面54を有する。上杵40は、下杵10に対し対向して配置されている。対向面54とチップ面24とによって原料を上下から加圧することにより、錠剤82が成形される。頭部42は、ネック部46を介在させて胴部48に一体に取り付けられている。頭部42の後端側の表面には、錠剤を成形する際に上杵40に加えられる圧力を受ける平坦部44が形成されている。
【0020】
図1に示すように、打錠機1は、上杵ガイド3と下杵ガイド4とを備える。上杵ガイド3は、上杵40を案内するとともに、上杵40の上下方向の位置を変化させる。上杵ガイド3は、上杵40をその長手方向に臼60に対して相対的に往復移動させる。下杵ガイド4は、下杵10を案内するとともに、下杵10の上下方向の位置を変化させる。下杵ガイド4は、下杵10をその長手方向に臼60に対して相対的に往復移動させる。打錠機1はさらに、上杵40の後端側から上杵40に対し圧力を加える上予圧ローラ5および上本圧ローラ7と、下杵10の後端側から下杵10に対し圧力を加える下予圧ローラ6および下本圧ローラ8と、を備える。
【0021】
図3は、臼保持盤2および臼60の分解断面斜視図である。図3に示すように、臼保持盤2には、臼保持盤2を厚み方向に貫通する貫通孔72が形成されている。貫通孔72は、臼60の外径に対し同一または僅かに大きい径を有する。貫通孔72の壁面には、周方向に延びる円周溝74が形成されている。円周溝74は、臼60を臼保持盤2に取り付けたとき臼60に形成された外周溝68と対向する位置に形成されている。臼60を臼保持盤2に取り付けた状態で、相対向する外周溝68と円周溝74とによって、リング状の空間が形成される。このリング状の空間に、臼60を臼保持盤2に固定するためのたとえばピンなどの臼固定部材を配置することにより、臼60は貫通孔72の内部において臼保持盤2に一体に固定される。
【0022】
臼保持盤2は、貫通孔72の壁面の一部が径方向内側に突出した臼受け部76を有する。臼受け部76が貫通孔72の壁面から張り出すように形成されていることにより、貫通孔72の径が縮小された縮径部78が形成されている。臼60は、臼受け部76の上に載置され、貫通孔72の内部に配置される。図3に示すように、縮径部78は、径D1を有する。また臼60に形成された臼孔66は、径D2を有する。
【0023】
次に図1を参照して、打錠機1を使用して行なわれる錠剤82の成形の各工程について説明する。図1中の(a)〜(g)は、打錠工程の各工程を例示的に示すものであって、打錠機1は(a)〜(g)に示す各工程を同時に行ない得るものであってもよく、同時には行ない得ないものであってもよい。
【0024】
打錠工程の開始時には、下杵10は、杵先20が臼孔66に挿入され臼60に嵌合されるように配置されている。一方上杵40の杵先50は臼孔66の外部に配置され、上杵40は臼60の上方に臼60から離れて配置されている(a)。このように下杵10と上杵40とが上下方向に配置された状態で、臼孔66の内部に、粉末状の原料81が供給される(b)。原料81は、任意の公知の成分を含んでもよく、たとえば、医薬成分などの用途に応じた有効成分と、賦形剤、結合剤または滑沢剤などの添加剤とを含んでもよい。
【0025】
続いて上杵40が上杵ガイド3に従って下方向へ移動し、臼60に接近する(c)。上杵40は、杵先50が臼60の上面62にほぼ到達するまで、下方向に移動する。この状態で、上予圧ローラ5が上杵40の頭部42の平坦部44に接触して上杵40に下向きの力が作用するとともに、下予圧ローラ6が下杵10の頭部12の平坦部14に接触して下杵10に上向きの力が作用する(d)。上予圧ローラ5から上杵40に力が加えられ、下予圧ローラ6から下杵10に力が加えられることにより、粉末状の原料81に上下両方向から圧力が加えられる。
【0026】
続いて上本圧ローラ7が上杵40の頭部42の平坦部44に接触して上杵40により大きな下向きの力が作用するとともに、下本圧ローラ8が下杵10の頭部12の平坦部14に接触して下杵10により大きな上向きの力が作用する(e)。このとき上杵40は下方向にさらに移動し、上杵40の杵先50は臼孔66の内部へ挿入され、上杵40が臼孔66に嵌合する。上本圧ローラ7と下本圧ローラ8とによって臼孔66に供給された原料81にさらに大きな圧力が作用することにより、臼孔66の内部において原料81を上杵40と下杵10との間で圧縮して、錠剤82を成形する。図4は、工程(e)において臼孔66内で上杵40および下杵10からの加圧によって錠剤82が圧縮成形された状態を示す、部分断面図である。
【0027】
錠剤82の圧縮成形が完了した後、下杵ガイド4に従って下杵10が上方へ移動するとともに、上杵ガイド3に従って上杵40も上方へ移動し、上杵40の杵先50は再度臼孔66の外部へ移動する(f)。その後、下杵10がさらに上方向へ移動して、錠剤82が臼孔66の外部へ排出される(g)。図5および図6はそれぞれ、工程(f)(g)において上杵40と下杵10との両方が臼60に対して上方向へ移動した状態を示す、部分断面図である。臼孔66の外部へ移動された錠剤82は、スクレーパ9に接触してスクレーパ9によりかき取られることにより、臼保持盤2から排出されて回収される。臼60の上面62は、成形された錠剤82が臼孔66の外部へ排出される側の表面であり、臼60の下面64は上記表面とは反対側の裏面である。
【0028】
以上の(a)〜(g)の打錠工程を経て、粉末状の原料81が臼孔66の内部で上杵40および下杵10によって加圧され、所望の形状および寸法を有する錠剤82が圧縮成形される。このとき下杵10の先端面を形成するチップ面24に刻印を施しておくことで、錠剤82の圧縮成形と同時に、錠剤82の表面に所望の刻印が形成される。
【0029】
図7は、図1に示す工程(g)において臼孔66内に発生する空気の流れを模式的に示す部分断面図である。図7に示すように、下杵10が上方向へ移動し錠剤82が臼孔66の外部へ排出されるとき、下杵10の胴部18の上端26は、臼保持盤2に形成された貫通孔72の内部に位置し、臼60の下面64近傍に位置する。ここで、胴部18の径d1は、図3に示す臼孔66の径D2よりも大きい。下杵10は、臼孔66の径よりも大径の胴部18を含む。一方、杵先20の径d2およびチップ22の径d3は、臼孔66の径D2よりも小さいので、杵先20とチップ22とは臼孔66内に嵌合する。
【0030】
臼孔66よりも大径の胴部18が貫通孔72の縮径部78内に入り臼60の下面64に接近することにより、臼60の下面64付近の空気が圧縮されて、臼孔66内へ向かう空気の流れが発生する。このとき胴部18の上端26付近が貫通孔72の一部である縮径部78の内部へ嵌合することにより、縮径部78の内部の空気が胴部18のピストン作用によって効率よく圧縮され、より多くの圧縮された空気が臼孔66の内部へ流れる。下杵10は、成形された錠剤82を臼孔66の外部へ排出するための上方向への移動に伴って、図7中の矢印に示すように、臼孔66の内部へ下側から空気を供給する。
【0031】
臼孔66の内部へ流れ込んだ圧縮された空気は、下杵10と臼孔66との隙間を経由して臼孔66内を上方向へ流れ、下杵10の先端のチップ22と臼孔66との隙間を経由して、臼60の上面62側へ排出される。上杵40と下杵10との間で圧縮成形された錠剤82は、チップ22のチップ面24上に載置されているが、この空気の流れによって、錠剤82がチップ面24から浮き上がる方向の力が錠剤82に作用する。下杵10の上方向への移動によって発生した臼孔66内部の空気の流れが錠剤82に圧力を作用するために、錠剤82はチップ面24から僅かに離れる。
【0032】
その結果、錠剤82を回収するためのスクレーパ9が錠剤82に接触したときのスクレーパ9による錠剤82への衝撃が緩和され、スクレーパ9と当接することで錠剤82は下杵10のチップ面24から容易に離れて回収される。そのため、下杵10のチップ面24上で錠剤82の表面の一部が層状に剥離するラミネーション、錠剤82の原料81の粉末がチップ面24に付着するスティッキングなどの打錠障害が発生しにくくなる。したがって、本実施の形態の打錠機1によって、打錠障害を低減できる効果を得ることができる。
【0033】
図7に示す、圧縮成形された錠剤82を臼60の上面62側に排出するために下杵10が上方向に持ち上げられた状態で、下杵10の先端のチップ22は、臼60の上面62に対して約0.1mm〜0.2mm突出する。この状態での臼60の下面64から下杵10の胴部18の上端26までの距離は、通常は約3〜5mmである。
【0034】
スクレーパ9を使用して錠剤82をかき取って打錠機1から錠剤82を回収する前に、臼60の下面64と胴部18との間の間隔が上記の約3〜5mmと比較してより小さくなるように、下杵10を上方向に移動させる工程がさらに設けられてもよい。その際の臼60の下面64と胴部18との間の間隔は、たとえば0.1mm〜3mmの範囲になるように、臼60に対する下杵10の上下方向の位置が決定されてもよい。このようにすれば、圧縮された空気をより効果的に臼孔66内へ流入させることができるので、錠剤82をより確実にチップ面24から浮き上がらせ、チップ面24への錠剤82の付着を容易に抑制することができる。
【0035】
臼保持盤2が回転盤である場合、通常、臼保持盤2は20〜50rpm程度の回転速度で移動し、この回転に伴って上杵40と下杵10とが適宜上下方向に移動することで、錠剤82の打錠が行なわれる。この場合、臼孔66内へ流入する空気の流れ具合は、下杵10の胴部18が貫通孔72に入る長さに依存する。そのため、錠剤82をチップ面24から浮き上がらせるために必要な空気の流れを発生できる程度の長さ分、下杵10の胴部18が貫通孔72に入り込むように、適切な下杵ガイド4を形成して、下杵10の上下方向の移動を制御してもよい。
【0036】
図3に示す貫通孔72の縮径部78の径D1および臼孔66の径D2と、下杵10の径d1とは、径d1がD2より大きくD1より小さい関係、すなわちD2<d1<D1の式を満たすように、決定されればよい。このように寸法を決定すれば、下杵10を上方向へ移動させるとき、下杵10の上端26を縮径部78の内部へ嵌合させることができ、かつ臼孔66内には杵先20は嵌合するが胴部18は嵌合しない。そのため、縮径部78内の空気を臼60と下杵10との間で圧縮して臼孔66へ導入し、臼孔66内に確実に上向きの空気の流れを発生させることができる。下杵10の径d1が縮径部の径D1よりも僅かに小さいように寸法が決定されれば、より多くの空気を臼孔66内に流入させることができ、錠剤82のチップ面24への付着をさらに確実に防止することができるので望ましい。
【0037】
チップ22の外周面と臼孔66の壁面との隙間は、当該隙間を経由して上方向(錠剤82の載置されたチップ面24側)へ噴出する空気の流速をより大きくできるように、可能な限り小さく決定するのが好ましい。たとえば、チップ22の径d3に対し臼孔66の径D2を0.02〜0.1mm程度大きくするように、臼孔66とチップ22とを形成してもよい。杵先20と臼孔66との間隔が錠剤82へ至る空気流れに与える影響は小さく、そのため杵先20の径d2は、下杵10の強度を十分確保できチップ22を適切に保持できる程度に、決定されればよい。
【0038】
また、臼60の高さ(すなわち臼60の上面62と下面64との間の距離)h1と、臼保持盤2の臼受け部76の高さh2とは、下杵10を臼60の下面64に十分に接近させて臼孔66内に空気を導入できる程度であれば、任意の寸法に決定されてもよい。たとえば、臼60の高さh1を約27.5mmとし、臼受け部76の高さh2を約2mmにしてもよい。
【0039】
図8は、下杵10の変形例を示す部分断面図である。図8に示す下杵10は、胴部18の上端26が平坦な円形状である点で、図7に示す下杵10と異なっている。下杵10は、平面状の上端26が臼60の下面64と対向し、上端26と下面64とがほぼ平行になるように設けられる。
【0040】
図7と図8とを比較して、下杵10の上端26、臼の下面64および臼孔66の壁面によって囲まれる空間の容積は、図8においてより大きくなっている。下杵10の上方向への移動によって上記空間内の空気が臼孔66内へ流入するが、相対的に空間の容積の大きい図8の実施例では、より多くの空気を臼孔66内へ導入することができる。したがって、錠剤82をチップ面24から浮き上がらせるための空気の圧力をより大きくすることができ、チップ面24への錠剤82の付着を一層抑制することができる。
【0041】
図9は、下杵10の他の変形例を示す部分断面図である。図9に示す変形例において、下杵10は従来の打錠機と同様の外形を有する。しかし図9に示す打錠機1は、下杵10に取付可能に設けられた鍔部材31を備える点で、従来の打錠機と異なっている。鍔部材31は、図9に示すように、臼孔66の径D2よりも大径であり、さらに貫通孔72の縮径部78の径D1よりも大径に形成されている。環状の鍔部材31は、下杵10の外周面に取り付けられる。図9に示す例では、下杵10の杵先20と胴部18とを連結する円錐台形状の部分に、環状の鍔部材31の内径を係合させて、下杵10に鍔部材31が取り付けられている。
【0042】
鍔部材31が下杵10に取り付けられた状態で下杵10が上方向へ移動し錠剤82が臼孔66の外部へ排出されるとき、鍔部材31は臼60の下面64近傍に位置する。図9に示す例では、錠剤82が臼60の上面62側の外部へ排出され、このとき、臼保持盤2の貫通孔72よりも大径に形成された鍔部材31は、臼保持盤2の下面80に近接するように配置されている。
【0043】
図10は、下杵10のさらに他の変形例を示す部分断面図である。図11は、図10に示す鍔部材31の斜視図である。鍔部材31は図9に示す例に限られず、たとえば図10および図11に示すように、鍔部材31は中空の短円筒状に形成され、下杵10の杵先20よりもわずかに大きい内径を有し、かつ、臼孔66の径D2よりも大きく縮径部78の径D1よりも小さい外径を有するように形成されてもよい。この場合、下杵10の上方向への移動に伴って鍔部材31は下面80側から貫通孔72の内部へ嵌合して、臼60の下面64にさらに近接するように配置される。鍔部材31は下杵10の胴部18の上端26上に載置されてもよく、または、下杵10の杵先20の外周面の一部に鍔部材31を受ける鍔受け部が形成され、当該鍔受け部上に鍔部材31が載置される構成としてもよい。
【0044】
図9〜図11に示す変形例の打錠機1によると、図7を参照して説明したように、下杵10の上方向への移動に伴って臼孔66の内部へ下側から空気を供給することができる。この空気の流れによって錠剤82をチップ面24から浮き上がらせることができるので、チップ面24への錠剤82の付着を抑制し、打錠障害を低減することができる。また、従来の形状を有する下杵10に鍔部材31を取り付ける構成により、図7に示す形状の下杵10と同等の効果を得ることができる。つまり、従来の下杵10をそのまま利用し、本実施の形態の鍔部材31のみを追加する簡単な構成によって打錠障害を低減できる、より低コストな打錠機1を提供することができる。
【0045】
図9〜図11に示すように下杵10とは別の部材である鍔部材31が下杵10に取り付けられる構成でもよく、または、下杵10の外周面から径方向外側に張り出す鍔形状が下杵10と一体に形成されてもよい。鍔部材31が下杵10とは別部材として設けられる場合、鍔部材31の材質は、合成樹脂が好ましく、特に、熱硬化性エラストマーが好ましい。
【0046】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0047】
1 打錠機、2 臼保持盤、3 上杵ガイド、4 下杵ガイド、5 上予圧ローラ、6 下予圧ローラ、7 上本圧ローラ、8 下本圧ローラ、9 スクレーパ、10 下杵、12,42 頭部、14,44 平坦部、16,46 ネック部、18,48 胴部、20,50 杵先、22 チップ、24 チップ面、26 上端、31 鍔部材、40 上杵、54 対向面、60 臼、62 上面、64 下面、66 臼孔、72 貫通孔、76 臼受け部、78 縮径部、80 下面、81 原料、82 錠剤。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
臼孔が形成された臼と、
前記臼の上側に配置された上杵と、
前記臼の下側に配置された下杵と、を備え、前記臼孔に供給された原料を前記上杵と前記下杵との間で圧縮して錠剤を成形する、打錠機であって、
前記下杵は、成形された前記錠剤を前記臼孔の外部へ排出するための上方向への移動に伴って、前記臼孔の内部へ下側から空気を供給する、打錠機。
【請求項2】
前記下杵は、前記臼孔の径よりも大径の胴部と、前記臼孔内に嵌合する杵先とを含み、
前記下杵が上方向へ移動し前記錠剤が前記臼孔の外部へ排出されるとき、前記胴部の上端は前記臼の下面近傍に位置する、請求項1に記載の打錠機。
【請求項3】
貫通孔が形成され、前記貫通孔の内部に前記臼を保持する盤を備え、
前記下杵は、前記臼孔の径よりも大径の胴部と、前記臼孔内に嵌合する杵先とを含み、
前記下杵が上方向へ移動し前記錠剤が前記臼孔の外部へ排出されるとき、前記胴部の上端は前記貫通孔の内部に位置する、請求項1または請求項2に記載の打錠機。
【請求項4】
前記下杵に取り付けられ、前記臼孔の径よりも大径の鍔部材を備え、
前記下杵が上方向へ移動し前記錠剤が前記臼孔の外部へ排出されるとき、前記鍔部材は前記臼の下面近傍に位置する、請求項1に記載の打錠機。
【請求項5】
臼孔が形成された臼と、前記臼の上側に配置された上杵と、前記臼の下側に配置された下杵と、を備え、前記臼孔に供給された原料を前記上杵と前記下杵との間で圧縮して錠剤を成形する打錠機に使用される、前記臼孔よりも大径に形成された鍔部材であって、
前記下杵に取り付けられた状態で前記下杵が上方向へ移動し前記錠剤が前記臼孔の外部へ排出されるとき、前記臼の下面近傍に位置する、鍔部材。
【請求項1】
臼孔が形成された臼と、
前記臼の上側に配置された上杵と、
前記臼の下側に配置された下杵と、を備え、前記臼孔に供給された原料を前記上杵と前記下杵との間で圧縮して錠剤を成形する、打錠機であって、
前記下杵は、成形された前記錠剤を前記臼孔の外部へ排出するための上方向への移動に伴って、前記臼孔の内部へ下側から空気を供給する、打錠機。
【請求項2】
前記下杵は、前記臼孔の径よりも大径の胴部と、前記臼孔内に嵌合する杵先とを含み、
前記下杵が上方向へ移動し前記錠剤が前記臼孔の外部へ排出されるとき、前記胴部の上端は前記臼の下面近傍に位置する、請求項1に記載の打錠機。
【請求項3】
貫通孔が形成され、前記貫通孔の内部に前記臼を保持する盤を備え、
前記下杵は、前記臼孔の径よりも大径の胴部と、前記臼孔内に嵌合する杵先とを含み、
前記下杵が上方向へ移動し前記錠剤が前記臼孔の外部へ排出されるとき、前記胴部の上端は前記貫通孔の内部に位置する、請求項1または請求項2に記載の打錠機。
【請求項4】
前記下杵に取り付けられ、前記臼孔の径よりも大径の鍔部材を備え、
前記下杵が上方向へ移動し前記錠剤が前記臼孔の外部へ排出されるとき、前記鍔部材は前記臼の下面近傍に位置する、請求項1に記載の打錠機。
【請求項5】
臼孔が形成された臼と、前記臼の上側に配置された上杵と、前記臼の下側に配置された下杵と、を備え、前記臼孔に供給された原料を前記上杵と前記下杵との間で圧縮して錠剤を成形する打錠機に使用される、前記臼孔よりも大径に形成された鍔部材であって、
前記下杵に取り付けられた状態で前記下杵が上方向へ移動し前記錠剤が前記臼孔の外部へ排出されるとき、前記臼の下面近傍に位置する、鍔部材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−81479(P2012−81479A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227480(P2010−227480)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
[ Back to top ]