説明

抄紙機及びその加圧脱水方法

【課題】抄紙機のタンデム型プレスパートにおいて、特に高級紙製造時ブローイングの発生及びそれによるシワの発生を防止して、紙品質の低下を防止し、湿紙の高速走行運転を可能する。
【解決手段】湿紙走行路Wrに沿って3段のプレスユニットをタンデムに配置したタンデム型プレスパートを備えた抄紙機の加圧脱水方法において、第2段プレスユニット2Pから出た湿紙を上部フェルト12と下部フェルト15で挟んだ状態で又は湿紙を上部フェルト12に担持させて搬送し、その後湿紙を第3段プレスユニット3Pの手前で上部フェルト12を介してサクションロール16に転移させ、その後湿紙をサクションロール16と第3段プレスユニット3Pを構成する剛性の無孔ロール23とで形成するニップ部を通しして無孔ロール23に転移させ、その後湿紙を第3段プレスユニット3Pで加圧処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿紙走行路に沿って3段のプレスユニットをタンデムに配置したタンデム型プレスパートを備えた抄紙機において、プレスパートの下流側で湿紙走行路に発生するブローイング現象を解消して、湿紙の高速運転を可能にした抄紙機及びその加圧脱水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
湿紙走行路に沿って複数のプレスユニットを多段に配置したタンデム型プレスパートを備えた従来の抄紙機が特許文献1(特許第3307524号公報)の図2に開示されている。
このタンデム型プレスパートを図6で説明する。図6において、このプレスパートは3段からなるプレスユニットを備える。湿紙Wがプレスパートの第1段プレスユニット1Pへ形成ワイヤ010から送られ、ここから湿紙Wは、ワイヤ走行反転ロール011の手前で上部フェルト016へ、ピックアップロール013のサクション領域013a内の真空によって転送される。上部フェルト016は、ガイドロール015及び015’によって案内され、その下面で湿紙Wをプレスロール020及び021で構成される第1のプレスユニット1Pのニップ部NPへ運び込む。
【0003】
湿紙Wは、水を受ける2つの上部フェルト016及び下部フェルト017の間に挟まれて第1のプレスニップ部NPを通り抜ける。下部フェルト017は、ガイドロール018によって案内され、湿紙Wをニップ部NPのさらに下流に運び、上部フェルト016は、ガイドロール015’の領域で湿紙Wから別れる。湿紙Wは水を受ける下部フェルト017に追従し、ガイドロール018間でサクションロール025のサクション領域025aに案内されて第2の上部フェルト027に転送される。
【0004】
湿紙Wは、水を受ける第2の上部フェルト027の下面に担持されて、プレスロール030及び031で構成される第2のプレスニップ部NPへ送り込まれる。第2のプレスニップ部NPの下流側で、湿紙Wは、第2のプレスニップ部NPの水を受けた下部フェルト028に転送され、その後サクションロール035のサクション領域035aで吸引されて上部フェルト038上へ転送される。
【0005】
その後、湿紙Wは片面を上部フェルト038に担持された状態でプレスロール040及び041から構成される第3段プレスユニット3Pのプレスニップ部Nを通り抜ける。第3のプレスニップ部Nでの最終ニップは、特に均等化プレスニップとして用いるのに適していて、これによって手前にあるニップ部NP及びNPで発生した湿紙Wの両面の粗さを改善することができる。
【0006】
【特許文献1】特許第3307524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されたタンデム型プレスパートは、第2段プレスユニット2Pと第3段プレスユニット3Pとの間で、湿紙Wを下部フェルト028から上部フェルト038に転移させるが、この湿紙移送にサクションロール035を配置している。このサクションロール035の前でブローイングと呼ばれる湿紙シワが湿紙の高速走行時で起こりやすい。
サクションロール035の上流側で湿紙Wを上部フェルト027より剥離させる必要があり、この部分で下部フェルト028より湿紙Wが浮き上がる傾向にあり、これによって、下部フェルト028と湿紙Wとの間に空気が溜まり、サクションロール035の手前で下部フェルト028から湿紙が浮き上がり易い傾向にある。これをブローイングという。
【0008】
下部フェルト028から湿紙Wが浮き上がった状態でその下流側のニップ部を通過すると、湿紙にシワが発生する。
紙品質、特に紙の表面性を良好にするために、通常、フェルト表面にポリエステル、ナイロン等からなるバットと呼ばれる細かい繊維を基布に打ち込んでいる。通常、7〜15dtex(10,000m当りの繊維g数)のバットが埋め込まれている。紙の表面性を良好にするには細かいバットが好ましいが、この場合にはフェルトの通気が低下し、ブローイングが起こりやすくなる。高級紙になるほど、バットの埋め込み量を多くするため、ブローイングが起こりやすくなる。また、湿紙を高速走行させるほど、第2プレスニップ部NPを通過後上部フェルト027と下部フェルト028間の湿紙Wを下部フェルト028に安定して移送する際に上部フェルト027と湿紙Wとの間に高い剥離力が必要となるのでフェルトと湿紙との間に空気が溜まりやすく、ブローイングが起こりやすい。
【0009】
第3のニップ部Nはフェルトによる片側担持であり、ボトムロール040からその下流側のドライヤパートに湿紙を安定走行させるためには、ボトムロール040からの紙離れを良好にする必要があり、そのためボトムロールとしてセラミックロール等良好な剥離性を有するロールを設ける必要がある。
【0010】
また、プレスパートの最終プレスユニットとしてボトムロール040の表面で湿紙の片面の平滑化処理を行う場合に、ボトムロール040の表面が摩耗等により劣化したとき、高価なロールを取り替える必要があり、メンテナンスコストが増大する問題がある。
【0011】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、抄紙機のタンデム型プレスパートにおいて、特に高級紙製造時ブローイングの発生及びそれによるシワの発生を防止して、紙品質の低下を防止するとともに、湿紙の高速走行運転を可能とすることを目的とする。
また、プレスパートの最終プレスユニットで使用される高価な平滑化処理用ロールの取替えを要しないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するため、本発明の抄紙機の加圧脱水方法は、
湿紙走行路に沿って3段のプレスユニットをタンデムに配置したタンデム型プレスパートを備えた抄紙機の加圧脱水方法において、
第2段プレスユニットから出た湿紙を上部フェルトと下部フェルトで挟んだ状態、又は湿紙を上部フェルトに担持させて搬送し、
その後湿紙を第3段プレスユニットの手前で上部フェルトを介してサクションロールに転移させ、
その後湿紙を該サクションロールと該第3段プレスユニットを構成する剛性の無孔ロールとで形成するニップ部を通すことによって該無孔ロールに転移させ、
その後湿紙を該無孔ロールとカウンタロールとで構成する第3段プレスユニットで加圧処理するものである。
【0013】
また本発明の抄紙機は、
湿紙走行路に沿って3段のプレスユニットをタンデムに配置したタンデム型プレスパートを備えた抄紙機において、
第2段プレスユニットと第3段プレスユニットとの間に形成され、湿紙を上部フェルトと下部フェルトで挟んだ状態で搬送するか又は湿紙を上部フェルトに担持して搬送する搬送路と、
該第3段プレスユニットの手前に配置され、湿紙を前記上部フェルトに転移させるサクションロールと、
該第3段プレスユニットを構成し該サクションロールとニップ部を形成して湿紙をその表面に転移させる剛性の無孔ロールと、
該無孔ロールとカウンタロールとで構成された第3段プレスユニットとを備えたものである。
【0014】
ブローイング発生の原因は、前述のように、サクションロール035の上流側において湿紙を下部フェルトで担持した状態で上部フェルトを湿紙から剥離させるため、下部フェルトから湿紙が浮き上がり、下部フェルトと湿紙との間に空気が溜まるためである。
本発明では、第2段プレスユニットから出た湿紙を上部フェルトと下部フェルトで挟んだ状態、又は湿紙を上部フェルトに担持させて搬送するため、湿紙が上部フェルト又は下部フェルトから剥離することなく搬送される。そのため、湿紙と上部フェルト又は下部フェルトとの間に空気が溜まることがない。
【0015】
その後湿紙を第3段プレスユニットの手前で上部フェルトを介してサクションロールに転移させた後、湿紙を該サクションロールと該第3段プレスユニットを構成する剛性の無孔ロールとで形成するニップ部を通すことによって該無孔ロールに転移させる。
このように湿紙が第2段プレスユニットから第3段プレスユニットに転移される搬送路においてもサクションロールを用いて湿紙から空気を吸引し、湿紙と上部フェルトとの間に空気が溜まるおそれはなく、かつロールのニップ部がないので、ブローイングは発生しない。
【0016】
タンデム型プレスユニットでは、従来湿紙を各プレスユニットのニップ部を通すことにより、湿紙の含有水をフェルト側へ移行させた後、搾水した水を含んだフェルトを新規なフェルトと取替え、次の段のプレスユニットでは新たなフェルトを用いて湿紙をニップするようにしている。
【0017】
第2段プレスユニットの出口から湿紙の両面又は片面をフェルトで挟んで搬送する場合、搾水された白水が再びフェルトから湿紙に逆流する再湿現象を抑制するため、好ましくは、湿紙を両側から挟んだフェルトの背面又は湿紙を担持したフェルトの背面に湿紙から該フェルトが吸収した白水を吸引する負圧形成装置を設け、該負圧形成装置でフェルトの背面から白水を吸引することにより、一旦湿紙から分離した白水が逆流して湿紙に戻ることを防ぐことができる。
【0018】
第2段プレスユニットの出口から上部フェルトのみで湿紙を搬送する場合、湿紙を両側からフェルトで挟む場合と比べて、白水の湿紙への逆流が半減する。あるいは再湿現象を防ぐため、プレスユニット間をできるだけ短縮するようにするとよい。このように本発明では、第2段プレスユニットから出た湿紙をフェルトで両側から挟み、あるいは上部フェルトに担持させて搬送した後,第3段プレスユニットの手前で上部フェルトを介してサクションロールに転移させた後、湿紙を該サクションロールと該第3段プレスユニットを構成する剛性の無孔ロールとで形成するニップ部を通すことによって該無孔ロールに転移させるようにしているので、湿紙が第2段プレスユニットから第3段プレスユニットに到達するまで、湿紙と上部フェルト又は下部フェルトとの間に空気が溜まるおそれがない。従ってブローイング問題が発生しない。そのため、湿紙の安定走行が可能となるため、湿紙の高速走行運転が可能になる。また湿紙を両側からフェルトで挟んで搬送する場合は、湿紙がフェルトで両側からサポートされるため、運転調整が容易である。
【0019】
また本発明方法において、該第3段プレスユニットでは、無孔ロールとカウンタロールとのニップ部に湿紙及び湿紙と該カウンタロール間に介在させたフェルトを通すことによって、湿紙の該フェルト側面の脱水と無孔ロール側面の平滑化処理を行なうようにする。この場合、該無孔ロールの外周に平滑化処理用のべルトを巻回し、該無孔ロールの該ベルトに接する面を平滑化処理するようにするとよい。
これによって、長期運転しても該ベルトのみが劣化し、該無孔ロールは劣化しないので、高価な該無孔ロールの取替えをする必要がなく、該ベルトのみを取り替えればよいので、装置の維持費用を低減することができる。
【0020】
また本発明装置において、多段のプレスユニットの一部を、シューモジュールと該シューモジュールとニップ部を形成するカウンタロールとで構成し、該シューモジュールを該カウンタロールより湿紙走行方向下流側に配置して該ニップ部を該カウンタロールの中心点より湿紙走行方向下流側に位置させるように構成するとよい。
従来、シューモジュールとカウンタロールとで構成されるニップ部に湿紙を通す場合、湿紙がカウンタロールに先に接するように該ニップ部の上流側で湿紙搬送路をカウンタロール側に迂回させる必要がある。そのため、該ニップ部の上流側でカウンタロール側に設け、該サクションロールで湿紙及びフェルトを吸引しながら迂回路を形成する必要があるが、前記のように構成すれば、該サクションロールの設置を必要とせず、装置を簡素化でき、設備費を低減できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、湿紙走行路に沿って3段のプレスユニットをタンデムに配置したタンデム型プレスパートを備えた抄紙機において、湿紙搬送時のブローイング問題が発生せず、このため湿紙の安定走行が可能となり、かつ湿紙の高速走行運転が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明をそれのみに限定する趣旨ではない。
(実施形態1)
【0023】
図1は本発明装置の第1実施形態を示す構成図である。図1において、ワイヤパートIにおいて図示しないヘッドボックスから原料液を走行する2枚のワイヤ間に噴射し、該ワイヤ間で脱水処理する。ワイヤパートIで脱水処理された原料液は、ワイヤパートIの末端付近で湿紙を形成する。ワイヤパートIの末端で片側のワイヤ1に担持されてワイヤパートIからプレスパートIIに走行してきた湿紙は、サクションピックアップロール2に吸引されて上部フェルト3に転移する。
【0024】
この後湿紙はプレスパートIIの第3段プレスユニット3Pに至るまで片面又は両側をフェルトで担持された湿紙走行路Wを形成する。なおフェルトは、ポリエステル、ナイロン、ポリアミド等で構成され、柔軟性かつ吸水性をもち、湿紙走行路Wの任意の曲線に良く追従し、かつ湿紙から分離した白水を吸収する。
【0025】
上部フェルト3に転移した湿紙は、サクションロール4を通り、上部フェルト3と下部フェルト5で両側から挟まれた状態で、第1段プレスユニット1Pを構成するシューモジュール6及びボトムロール7のニップ部を通ることによって加圧脱水される。
なお第1段プレスユニット1Pでは、湿紙走行路を凹凸のあるシューモジュール6より平滑面をもつボトムロール7に先に接触させる必要がある。そのため、湿紙走行路をボトムロール7側に迂回させるようにサクションロール4を配置している。
【0026】
このため、湿紙走行路はサクションロール4を突端とした迂回路を形成している。この場合、該迂回部で遠心力が発生し、サクションロールの代わりに、通常のソリッドロールを用いると、該迂回部で湿紙が浮き上がる現象が生じ、ここでシワを発生するおそれがある。このためサクションロール4を用いて湿紙を吸引し、湿紙をサクションロール4の表面に密着させるようにしている。
第1段プレスユニット1Pで脱水された湿紙は、サクションロール8によって吸引されて上部フェルト3から下部フェルト5に転移する。その後、湿紙はサクションロール11に吸引されて下部フェルト5から上部フェルト12に転移する。
【0027】
上部フェルト12に転移した湿紙は、上部フェルト12と下部フェルト15で両側から挟まれた状態で、第2段プレスユニット2Pを構成するシューモジュール13及びボトムロール14のニップ部を通って加圧脱水される。
その後、湿紙は両側を上部フェルト12と下部フェルト15とで挟まれたまま、第2段プレスユニット2Pと第3段プレスユニット3Pとの間の区間を搬送される。その後、第3段プレスユニット3Pの手前でサクションロール16で吸引されて上部フェルト12を介しサクションロール16に転移する。なお上部フェルト12及び下部フェルト15の背面にはそれぞれ真空吸引ボックス27及び28が設けられ、湿紙から分離され上部フェルト12及び下部フェルト15に移行した白水を吸引し、該白水が湿紙に逆流するのを防止している。
【0028】
上部フェルト12を介し、サクションロール16に転移した湿紙は、サクションロール16と、第3段プレスユニット3Pの一方の加圧ロールを構成するセンターロール23とのニップ部に到達する。センターロール23は表面が平滑で剛性の無孔ロールで構成され、上部フェルト12より高い平滑度をもつ。湿紙は平滑度が高い面のほうに転移する性質をもつので、該ニップ部で湿紙は上部フェルト12からセンターロール23に転移する。
【0029】
その後湿紙は、上部フェルト21とともに、第3段プレスユニット3Pを構成するトップロール22及びセンターロール23のニップ部を通る。このニップ部で加圧されることによって、湿紙の上部フェルト21に接する面は脱水されて上部フェルト21に分離した白水が吸収される。一方、湿紙のセンターロール23に接する面は平滑化処理され、水分ムラを防止される。
センターロール23は、剛性の大径な無孔ロールで構成され、表面が平滑面をなし、湿紙の片面は該ニップ部を通ることにより平滑化処理される。
【0030】
その後、湿紙はキャンバス24とともにセンターロール23とサクションロール25のニップ部を通ることにより、該サクションロール25の吸引力によりキャンバス24とともにサクションロール25に転移し、その後、ドライヤパートIIIに進入し、複数のドライヤシリンダ26に巻回して乾燥処理される。
なおサクションロール25がセンターロール23に密着していると、空気を吸引できないので、サクションロール25とセンターロール23との間は若干隙間を設けている。
また図1中、ガイドロール31〜45は、ワイヤ1又は各上下フェルトの走行路を位置決めするためのものである。
【0031】
本実施形態においては、湿紙が第2段プレスユニット2Pから第3段プレスユニット3Pに移動する区間を湿紙の両側を上部フェルト12及び下部フェルト15で挟んだ状態で搬送されるため、この間湿紙に空気の混入が生じない。従って、湿紙と上部フェルト12又は下部フェルト15間に空気が溜まることがない。その後、湿紙を上部フェルト12を介してサクションロール16に転移させ、該サクションロール16からセンターロール23に転移させているが、この間湿紙にはサクションロール16の吸引作用が働いているので、空気の溜まりは発生せず、またロールのニップ部もない。従って第2段プレスユニット2Pの出口から第3段プレスユニット3Pに至る区間でブローイングが発生しない。そのため、この区間で湿紙の高速走行運転が可能になる。
【0032】
また、第3段プレスユニット3Pの入口側で湿紙をサクションロール16で第3段プレスユニット3Pに転移させるようにしているので、湿紙の安定走行が可能である。また第2段プレスユニット2Pとサクションロール16間の湿紙搬送路で湿紙がフェルトで両側をサポートされているので、運転調整が容易である。
【0033】
図2は、プレスパートの各プレスユニット1P、2P及び3Pにおける湿紙の含水量の一例を示す線図である。図2において、第1段プレスユニット1Pより上流側では繊維分1gに対し含水量が4g(20%BD[born dry絶乾])であるのに対し、第3段プレスユニット3Pでは繊維分1gに対し含水量が1g(50%BD)である。このように第2段プレスユニット2Pと第3段プレスユニット3Pとの間では含水量は少なくなっている。第2段プレスユニット2Pと第3段プレスユニット3P間の全域で湿紙の両側をフェルトで挟んだ場合、第2段プレスユニット2Pで脱水されフェルトに移行した水が第2段プレスユニット2Pと第3段プレスユニット3Pとの間で湿紙に逆流する水量は、その接触時間に依存するので、高速運転下では再湿による脱水効果の低下は僅かである。そして、上部フェルト12にのみ担持させて湿紙を搬送する様にすれば、更に再湿現象は半減できる。
【0034】
また本実施形態では、図1に示すように、第2段プレスユニット2Pと第3段プレスユニット3P間の湿紙走行路Wの上部フェルト12及び下部フェルト15の裏面に真空吸引ボックス27及び28を設けており、該真空吸引ボックスで湿紙からフェルトに転移した白水を吸引するようにしているので、白水の湿紙への逆流をさらに効果的に防止できる。また、白水の逆流を防ぐため第2段プレスユニット2Pと第3段プレスユニット3Pとの間の区間はできるだけ短縮するのが望ましい。
【0035】
なお図1において、サクションロール11及びガイドロール38を破線で示すように移動させて配置することにより、湿紙を片側フェルトのみで担持している区間を短縮でき、それによって湿紙への空気の混入を少なくでき、かつ平坦な湿紙走行路を湾曲させることにより、湿紙及びフェルトに張力を与えて走行できるので、外乱に対する湿紙走行の安定性を増すことができる。
【0036】
また第1段プレスユニット1P及び第2段プレスユニット2Pでは、シューモジュールによるニップ機構を配置し、第3段プレスユニット3Pではロールによるニップ機構を配置したが、シューモジュールによるニップ機構の一部をロールニップ機構に置き換え、又はロールニップ機構をシューモジュールによるニップ機構に置き換えてもよい。
また図1ではシューモジュールを上部に配置し、ボトムロールを下部に配置したが、これらを逆に配置しても、搾水性能及び湿紙の搬送性に何ら影響を及ぼすものではない。
(実施形態2)
【0037】
次に本発明の第2実施形態を図3により説明する。図3において、本実施形態は、第2段プレスユニット2Pの下流側で、真空吸引ボックス28を除去し、前記第1実施形態におけるガイドロール43を下方に下げ(図3中の43’の位置に配置する)、第2段プレスユニット2Pの出口側からサクションロール16に至る湿紙の搬送路を上部フェルト12のみに湿紙を担持させるように構成したものである。その他の構成は前記第1実施形態と同一である。
【0038】
本実施形態では、第2段プレスユニット2Pの出口から上部フェルト12だけで湿紙を担持し、第3段プレスユニット3Pの直前でサクションロール16で湿紙を吸引して上部フェルト12を介しサクションロール16に転移させ、サクションロール16とセンターロール23とのニップ部で、湿紙をセンターロール23に転移させるようにしている。
従って、第2段プレスユニット2Pの出口から第3段プレスユニット3Pのセンタロール23に至る搬送路で、湿紙からフェルトを剥離させる箇所やロールのニップ部がなく、かつサクションロール16で湿紙を吸引しながらセンターロール23に転移させているので、湿紙の表面に空気溜りが発生するおそれがなく、従ってブローイングは発生しない。
【0039】
また第2段プレスユニット2Pの出口から第3段プレスユニット3Pに至る搬送路で、湿紙を上部フェルト12のみで担持しているので、第1実施形態のように湿紙の両側を上下フェルト12及び15で挟んで搬送する場合と比べて、一端脱水した白水が湿紙に逆流するのを半減させることができる。
(実施形態3)
【0040】
次に本発明装置の第3実施形態を図4により説明する。図4は本第2実施形態のプレスパートの一部構成図である。図4において、第1実施形態を示す図1の部位又は機器と同一構成に部位又は機器は同一符号を付し、それらの説明を省略する。本実施形態と前記第1実施形態との相違は、第1実施形態のセンターロール23を剛性の無孔ロールで構成するソリッドロール51とし、ソリッドロール51の周囲に平滑化ベルト52を巻回し、さらに平滑化ベルト52をソリッドロール51に周囲に巻回するためのガイドロール46及び47を追設したものである。その他の構成は図1と同一である。
【0041】
平滑化ベルト52は、平滑度のある材料、例えばウレタン樹脂あるいは表面の剥離性を付与するためにウレタン樹脂にシリコンを含有させたもので構成され、不通気性又は微通気性を有する。
かかる構成において、第3段プレスユニット3Pでは、平滑化ベルト52は上部フェルト12より平滑度が高いので、ソリッドロール51の表面に巻回された平滑化ベルト52上にサクションロール16から湿紙が転移される。従ってソリッドロール51上で湿紙は上部フェルト21と平滑化ベルト52で挟まれた状態でトップロール22で加圧され、湿紙の上部フェルト21に接触した面は脱水されて、分離した白水が上部フェルト21に移行し、湿紙の平滑化ベルト52に接触した面は水分ムラをなくすために平滑化処理される。
【0042】
第3段プレスユニット3Pのニップ部を通過した湿紙は、キャンバス24とともにソリッドロール51とサクションロール25を通過し、サクションロール25の吸引作用により平滑化ベルト52より湿紙が剥離しサクションロール25の真空吸引力で転移する。この場合、前記第1実施形態と同様に、サクションロール25とソリッドロール51との間は若干隙間を設けるようにしている。
キャンバス24の片面に担持された湿紙は、キャンバス24とともにドライヤパートIIIに移行し、ドライヤパートIIIのドライヤシリンダ26に巻回されて、乾燥処理される。
【0043】
本実施形態によれば、前記実施形態と同様のブローイング防止効果に加えて、ソリッドロール51の表面に巻回した平滑化ベルト52で湿紙を平滑化処理するため、平滑化ベルト52が使用により劣化した場合でも平滑化ベルト52のみを交換するだけで済み、ソリッドロール51自体を交換する必要はない。従ってメンテナンス費を低減することができる。
また第3段プレスユニット3Pによる加圧脱水後、キャンバス24が巻回したサクションロール25で湿紙がサクションロール25側にピックアップされ移送されるため、通紙技術が不要で熟練を必要としない。
【0044】
また、第3段プレスユニット3Pは湿紙の両側を上部フェルト21と平滑化ベルト52とで挟んで搾水が行なわれるため、ロールニップ幅が従来よりも広くなり、同一搾水性能であれば、湿紙表面に対する加圧力が緩和され、湿紙表面のマーキング発生率は低下するという利点がある。
(実施形態4)
【0045】
次に本発明の第4実施形態を図5により説明する。図5は該第4実施形態の構成図である。図5において、第1実施形態を示す図1の部位又は機器と同一構成に部位又は機器は同一符号を付し、それらの説明を省略する。本実施形態と前記第1実施形態との相違は、第1実施形態において第1段プレスユニット1Pの湿紙走行路上流側に配置したサクションロール4をなくし、かつ第1段プレスユニット1P及び第2段プレスユニット2Pのシューモジュール6及び13を湿紙走行路下流側にインクラインドさせ、湿紙を両側から挟む上部フェルト及び下部フェルトをプレスユニット入り側でボトムロール7又は14に最初に接触するようにしたものである。その他に構成は第1実施形態と同一である。
【0046】
本実施形態によれば、前記実施形態と同様のブローイング防止効果に加えて、このようにシューモジュール6及び13を湿紙走行路下流側にインクラインドすることにより、サクションロール4を不要にできるため、プレスパートの装置全体を廉価にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、抄紙機のタンデム型プレスパートにおいて、特に高級紙製造時ブローイングの発生及びそれによるシワの発生を防止して、紙品質の低下を防止するとともに、湿紙の高速走行運転を可能し、特に高級紙製造用に適用されて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第1実施形態の構成図である。
【図2】プレスパートの湿紙の含水量を示す線図である。
【図3】本発明の第2実施形態の一部構成図である。
【図4】本発明の第3実施形態の構成図である。
【図5】本発明の第4実施形態の構成図である。
【図6】従来のタンデム型プレスパートの構成図である。
【符号の説明】
【0049】
1P 第1段プレスユニット
2P 第2段プレスユニット
3P 第3段プレスユニット
3、12、21 上部フェルト
5、15 下部フェルト
6、13 シューモジュール
7、14 ボトムロール
16 サクションロール
22 トップロール(カウンタロール)
23 センターロール(無孔ロール)
27、28 真空吸引ボックス(負圧形成装置)
52 平滑化ベルト
、W 湿紙
湿紙走行路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿紙走行路に沿って3段のプレスユニットをタンデムに配置したタンデム型プレスパートを備えた抄紙機の加圧脱水方法において、
第2段プレスユニットから出た湿紙を上部フェルトと下部フェルトで挟んだ状態、又は湿紙を上部フェルトに担持させて搬送し、
その後湿紙を第3段プレスユニットの手前で上部フェルトを介してサクションロールに転移させ、
その後湿紙を該サクションロールと該第3段プレスユニットを構成する剛性の無孔ロールとで形成するニップ部を通すことによって該無孔ロールに転移させ、
その後湿紙を該無孔ロールとカウンタロールとで構成する第3段プレスユニットで加圧処理することを特徴とする抄紙機の加圧脱水方法。
【請求項2】
前記無孔ロールとカウンタロールとのニップ部に湿紙及び湿紙と該カウンタロール間に介在させたフェルトを通すことによって、湿紙の該フェルト側面の脱水と無孔ロール側面の平滑化処理を行なうようにしたことを特徴とする請求項1に記載の抄紙機の加圧脱水方法。
【請求項3】
前記無孔ロールの外周に平滑化処理用のべルトを巻回し、該無孔ロールの該ベルトに接する面を平滑化処理することを特徴とする請求項1又は2に記載の抄紙機の加圧脱水方法。
【請求項4】
湿紙走行路に沿って3段のプレスユニットをタンデムに配置したタンデム型プレスパートを備えた抄紙機において、
第2段プレスユニットと第3段プレスユニットとの間に形成され、湿紙を上部フェルトと下部フェルトで挟んだ状態で搬送するか又は湿紙を上部フェルトに担持して搬送する搬送路と、
該第3段プレスユニットの手前に配置され、湿紙を前記上部フェルトに転移させるサクションロールと、
該第3段プレスユニットを構成し該サクションロールとニップ部を形成して湿紙をその表面に転移させる剛性の無孔ロールと、
該無孔ロールとカウンタロールとで構成された第3段プレスユニットとを備えたことを特徴とする抄紙機。
【請求項5】
少なくとも前記上部フェルトの背面に湿紙から該上部フェルトが吸収した白水を吸引する負圧形成装置を設けたことを特徴とする請求項4に記載の抄紙機。
【請求項6】
前記3段のプレスユニットの一部を、シューモジュールと該シューモジュールとニップ部を形成するカウンタロールとで構成し、該シューモジュールを該カウンタロールより湿紙走行方向下流側に配置して該ニップ部を該カウンタロールの中心点より湿紙走行方向下流側に位置させたことを特徴とする請求項4に記載の抄紙機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−106401(P2008−106401A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−291629(P2006−291629)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】