説明

抄紙用フェルト

【課題】 高速の抄紙機械運転をしても潰れにくく、使用開始後、速やかな抄紙安定性があり、耐久性に富み、しかも表面平滑性の良い抄紙用フェルトの提供。
【解決手段】 基体の湿紙側に最上層である第1層、最上層に接する第2層、第2層に接する第3層の少なくとも3層構造の短繊維から成るバット繊維層を設け、各バット層のバット繊維の平均短繊維繊度が、第1層は0.5〜6dtex、好ましくは1〜3dtex、第2層は1.5〜15dtex、好ましくは3〜10dtexで第1層よりも粗く、第3層は6〜30dtex、好ましくは10〜15dtexで第2層よりも粗い繊維である抄紙用フェルト。
バット繊維がポリアミド繊維である場合、その硫酸溶液粘度(O.25g/50m1,JIS一級95%硫酸)の25℃における絶対粘度が、第1層のバット繊維は、60〜70mPa・S、第2層及び第3層のバット繊維は80mPa・S以上であることが好ましい。
また第2〜3層のバット繊維は相互に交絡しつつ基体に対して貫通しているが、第1層のバット繊維は第2層及び第3層に交絡しつつ基体に対して貫通していない状態であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抄紙用フェルトの構成に関するもので、特に高速ティッシュ抄紙機械に仕掛かる抄紙用フェルトに対して、紙の平滑性と使用開始後の速やかな抄紙安定性、いわゆる馴染みやすく耐久性のある最適な構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
抄紙機において、湿紙の脱水に用いられる抄紙用フェルトの構成は、通常、継目のない織布からなる基体と、その上に短繊維のバット繊維をニードルパンチの技法で植毛されたバット層とからなるものが用いられている。上記フェルトのバット層を多層にしたものも提案されている(特許文献1,2,3,4)。
【0003】
これらの多層構造のフェルトにおいては、湿紙と接するフェルト最上層に繊度の小さい、細い繊維が用いられる。それは湿紙の表面平滑性を向上するために、湿紙と接する最上層の平滑性を高めるという理由による。そしてフェルト最上層と基体との間に位置する中間層では湿紙と接することはないので、長期間のフェルトの透水性を維持する目的で、比較的粗い繊度の、やや太い繊維が用いられる。このような構成にすることにより、一定の使用期間において中間層が潰れるのを抑え、しかも湿紙の表面平滑性を向上させる効果がある程度得られている。
【特許文献1】特開昭50-43204
【特許文献2】特開平6-123094
【特許文献3】特開平7-150496
【特許文献4】英国特許公開2,200,867
【特許文献5】特開平8-506863
【特許文献6】特開平5-214694
【特許文献7】USP 6,175,996
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、種類の異なる2種のバツト層を設けたこれらの技術においても、最近の高速ティッシュ抄紙機械に仕掛かる抄紙用フェルトとしてはまだ不十分なものであった。その理由は、最近の高速ティッシュ抄紙機械では、従来のティッシュ抄紙機械に比べ、抄紙機械速度が格段に増速されており、紙の平滑性と使用開始後の速やかな抄紙安定性、いわゆる馴染みやすく耐久性に富んだフェルトが求められているにも係らず、使用初期から僅かな使用期間によっても中間層は潰れてしまい、その結果湿紙に対して基体の織布パターン(経糸・緯糸の浮き沈みによる凹凸)或いは潰れた中間層の坪量斑が、湿紙面に刻印される現象が現れるという懸念がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記の問題解決に対して鋭意検討した結果、湿紙の表面平滑性を低下させることなく、高速抄紙機械においても、基体と最上層の間に介在するバット繊維をより潰れにくくし、長期間使用可能な抄紙用フェルトを見出した。
【0006】
即ち本発明は、基体の湿紙側に最上層である第1層、最上層に接する第2層、第2層に接する第3層の少なくとも3層構造の短繊維から成るバット繊維層を設け、各バット繊維層に含まれるバット繊維の平均短繊維繊度が、第1層は0.5〜6dtex、第2層は1.5〜15dtexで第1層よりも粗く、第3層は6〜30dtexで第2層よりも粗い繊維であることを特徴とする抄紙用フェルトであり、これによって中間に位置する第2層、第3層のバット繊維が、高速抄紙機械においても、潰れにくく耐偏平化特性があり、しかも湿紙の表面平滑性は良好に保たれる。
【0007】
本発明の効果を更に上げるためには、上記のごとくバット繊維層3層の短繊維繊度に差をつけると同時に、第2層及び第3層に含まれるバット繊維には、第1層に含まれるバット繊維よりも高分子量の繊維を用いるのが望ましい。
即ち、本発明のより好ましい実施態様においては、バット繊維にポリアミド繊維を用い、その硫酸溶液(O.25g/50m1,JIS一級95%硫酸)の25℃における絶対粘度が、第1層に含まれるバット繊維は、60〜70mPa・Sであり、一方、第2層及び第3層に含まれるバット繊維は80mPa・S以上とする。
【0008】
また本発明の、好ましい実施態様では、第2層及び第3層に含まれるバット繊維は相互に交絡しつつ基体に対して貫通しており、しかも第1層に含まれるバット繊維は第2層及び第3層に交絡しつつ基体に対して貫通していない構造となっている。
【0009】
更に第2層及び第3層に含まれるバット繊維が、3次元的捲縮を有することが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の抄紙用フェルトは、基体と、繊度がそれぞれ異なる少なくとも3層構造の短繊維バット繊維層とからなる積層構造としたことにより、中間のバット繊維が高速抄紙機械においても潰れにくくなり、長期間のフェルト安定性即ち、透水性と圧縮回復性が持続し、耐偏平化機能をフェルトに持たせる事が出来た。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の抄紙用フェルトは基体の湿紙側に、繊度がそれぞれ異なる3層構造の短繊維から成るバット繊維層を設け、各層はその目的、役割に応じて繊度がそれぞれ異なる短繊維により構成されている。
【0012】
本発明の抄紙用フェルトの積層構造を図1に示す。
図1において(1)は抄紙用フェルトであり、基体(2)とバット繊維層(3),(4),(5)とからなる。
基体(2)はフェルトの強度を保つ基材であり、抄紙機械での走行中の寸法安定性を担う役割を有する。基体(2)は、ポリアミド繊維やポリエステル繊維から成る、紡績糸やフィラメントの単糸、撚糸、またはマルチフィラメントで作られた、織布が用いられるが、特にポリアミドの単糸、撚糸の織布が好ましい。織布に使用する糸の繊度は、単糸で200〜2000dtex、撚糸では400〜5000dtex程度の糸材が使われる。抄紙用フェルトで使われる基体(織布)の坪量は300〜800g/m2程度の範囲から適宜選択される。基体は通常1層で足りるが、2層以上の複数層にしても良い。
【0013】
バット繊維層は、最上層に位置し湿紙に接触する第1層(3)、最上層に接する第2層(4)及び更に第2層に接する第3層(5)の少なくとも3層からなる。
【0014】
第1層(3)は、湿紙に直接接触するので、湿紙の表面平滑性を保つため、短繊維繊度が、0.5〜6dtex、好ましくは1〜3dtexという繊度の小さい、細い繊維が用いられる。
【0015】
第3層(5)は基体の真上に設けられ、最も潰れ難い太いバット繊維を植毛して、潰れ難くした。基体(織布)を構成する糸材はバット繊維よりかなり太いので、基体の織布パターンが湿紙に転写されやすいが、それを太いバット繊維によって防止する働きを持たせた。そのため短繊維繊度が6〜30dtex、好ましくは10〜15dtexの粗い繊維が用いられる。
【0016】
上記のとおり、基体に接する第1層と湿紙に接する第3層に、それぞれの目的に応じて、1〜3dtex及び10〜15dtexという繊度の著しく異なる短繊維から成るバット繊維層を設けたが、この両層を直接積層すると、細繊度の短繊維と太繊度の短繊維とは交絡性が乏しいので、フェルト最上層のバット繊維からの脱毛性が悪くなる。そこで本発明においては、第1層と第3層との中間に、1.5〜15dtex、好ましくは3〜10dtexという比較的粗いが、中程度の繊度の短繊維から成る第2層(4)を設けて、第1層と第2層、第2層と第3層との交絡性を向上させて、全体の交絡性を高めている。
【0017】
第1層〜第3層のバット繊維の短繊維繊度は、それぞれ上記の範囲内であるが、相互の短繊維繊度の関係は、第1層が最も繊度が細く、以下第2層、第3層の順に粗い繊度となっていることが必要である。
【0018】
本発明の抄紙用フェルトのバット繊維層は、少なくとも上記3種の層が必須成分として積層されたものであるが、必要に応じて別の繊維層を設けることもできる。
【0019】
また抄紙用フェルトは基体とバット繊維層のほかに必要に応じて、更に別の繊維層、例えば基布の裏面に繊維層を設けることもできる。
【0020】
また、基体の湿紙側に設けたバット繊維層を全体として圧縮性と回復性とを付与し、然も使用期間を通じて偏平化し難くするため、及びフェルト使用初期に素早く表面平滑性を高めるために、第1層に含まれるバット繊維と、第2層及び第3層に含まれるバット繊維との分子量に差をつけ、第2層及び第3層に含まれるバット繊維の方が第1層に含まれるバット繊維より高分子量にすることが有効である。第1層に含まれるバット繊維は速やかな抄紙安定性、即ち馴染みやすくしてフェルトの使用初期に表面平滑性を高めるべく、圧縮性と回復性に乏しく偏平化しやすい低分子量のバット繊維を使用する事が望ましい。
一方、第2層及び第3層に含まれるバット繊維は圧縮性と回復性に富み、偏平化し難い高分子量のバット繊維を使用する事が望ましい。これらの構成により全体として機能性、耐久性に富んだフェルトが得られる。
即ち、バット繊維としてポリアミド繊維を用いた場合、その硫酸溶液(O.25g/50m1,JIS一級95%硫酸)の25℃における絶対粘度が、第1層に含まれるバット繊維は、60〜70mPa・Sであり、一方、第2層及び第3層に含まれるバット繊維は80mPa・S以上とするのが望ましい。
【0021】
汎用性のナイロン繊維では硫酸溶液粘度(0.259/50m1,JIS)級95%硫酸)の25℃における絶対粘度は60〜70mPa・S、工業用繊維では70〜75mPa・Sのものが殆どであるが、本発明では、第2層及び第3層に含まれるバット繊維に用いるポリアミドは、これよりも高粘度(高分子量)であり、第1層と第2、第3層に用いるポリアミドを、繊度のみならず分子量にも差をつけることにより、最近の高速ティッシュ抄紙機械に仕掛かる抄紙用フェルト用素材として十分機能する。
【0022】
抄紙用フェルト用途としては高粘度のポリアミド繊維の使用が開示されているが(特許文献5)、この提案では、基体とバット繊維の各層について一様に高粘度のポリアミド繊維の使用を提案しているに留まり、複数の層からなるバット繊維層の層間に分子量の差を設けることについては一切考慮されていない。
【0023】
このようにバット繊維層を、それぞれ繊度の異なる短繊維から成る3層構造とすることにより、表面平滑性を向上させしかもバット繊維層を全体として潰れ難くすること、更に第1〜3層のバット繊維相互及びこれらと基体との交絡状態を特定することにより本発明の効果は一層顕著なものとなる。
即ち本発明の、より好適な実施態様では、第2層及び第3層に含まれるバット繊維は相互に交絡しつつ基体に対して貫通しており、しかも第1層に含まれるバット繊維は第2層及び第3層に交絡しつつ基体に対して貫通していない構造となっている。
【0024】
上記の構造にすると、第2層及び第3層に含まれるバット繊維は、基体に貫通しているので、十分な固着性が付与され、搾水工程で繊維が脱毛して湿紙に付着することがなく、然も第1層に含まれるバット繊維は基体に固着しない構成になっているので、これによって、湿紙平滑性に寄与出来、然も基体の湿紙側3層構造の圧縮性と回復性と厚みは維持されるから、基体の湿紙側バット繊維を全体として耐偏平化機能が得られる。
その理由は、第1層に含まれるバット繊維は基体に固着しないフェルト構造であるから、フェルト全体が密になっておらず、フェルト最上層のみが高密度のコンパクトなバット層を形成しているので、表面平滑性に優れ、しかもフェルト内部の第2層及び第3層に含まれるバット繊維は、基体に貫通しているが圧縮性と回復性に富み、偏平化し難いので、透水性と圧縮回復性が持続し、耐偏平化機能をフェルトに持たせる事が出来るのである。
【0025】
本発明の基体と3層バット繊維層の積層からなる抄紙機用フェルトは、基体の上に、第3層、第2層、第1層を順次重ね合わせ、ニードリングにより一体化することにより製造することができる。なお、上述した、第2層及び第3層の繊維は基体に対して貫通するが、第1層の繊維は基体に対して貫通していない構造のフェルトを製造するには、第1層のバット繊維層を第2層の上に重ねて、ニードリングにより一体化する際に、基体に対して貫通しない程度に針深さを浅く調整する方法、或いは特許文献7(USP 6,175,996)に記載のような曲面を有するニードルボードを使用して、第1層をニードリングすると良い。
【0026】
上記第1〜3のバット繊維層を構成する短繊維としては、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維等の合成繊維や、羊毛等の天然繊維が使用されるが、特にポリアミドの短繊維が耐磨耗性や耐薬品性、耐熱性の面で好ましい。各バット繊維層の坪量は、短繊維繊度にもよるが、第1層が50g/m2〜200g/m2、第2層が100g/m2〜200g/m2、第3層が100g/m2〜200g/m2程度の範囲で適宜調整するのが好ましい。
【0027】
更に第2層及び第3層に含まれるバット繊維が、3次元的捲縮を有することによって本発明の効果は一層増大する。従来から使われている鋸歯状の捲縮を有するバット繊維は、バット繊維層の中で平面的な伸縮を示すから高度な圧縮性と回復性と厚みの維持性、即ち耐偏平化機能は得られない。特許文献6によれば、基布と繊維フリースからなり、繊維フリースの全体または一部分が3次元的に捲縮した抄紙機用フェルトが提案されているが、これを本発明の3層バット繊維構造に適用することにより、基体の湿紙側3層構造の圧縮性と回復性と厚みの持続効果が著しく向上する。
【0028】
3次元的捲縮を有するバット繊維の製造には、各種の公知の方法、例えば下記のような方法がある(特許文献6)。
(1)異種の2成分系複合繊維を用いる。膨張率、収縮挙動、吸水能等の物性の相違により3次元的な捲縮が起こる(Koch,P.A.: Chemiefasern/Textilind.(1979)431〜438頁)。
(2)エアジェットまたはスチームジェットテクスチャー加工。
(H.Schellenberg:3.Reutlinger Texturier-Kolloquium(1984年))。
(3)溶融紡糸の際の非対称的冷却による方法。これにより、物性の異なる重合体の混合物となり、2成分系繊維と同様に3次元的な捲縮が起こる。
【実施例】
【0029】
[実施例1〜3]
(1)基体:単糸360dtexを2本S方向に下撚りした後、それを3本束ねてZ方向に上撚りした撚糸を織機に経糸及び緯糸として袋織りで織布したもの(坪量500g/m2)を、全ての実施例および比較例に共通に用いた。
(2)バット繊維層:表1記載の繊維シートを各々用意した。
【0030】
【表1】


(1) 3次元的捲縮のナイロン繊維はスチームジェットテクスチャー加工法による。
鋸歯状の捲縮はスタッファ・ボックス(押込み箱)による加工法による。
(2)硫酸溶液粘度:バット繊維O.25g/50m1,JIS一級95%硫酸溶液を作成し、25℃における振動片粘度計により絶対粘度を測定した。
【0031】
上記基体の上に、バット繊維層を第3層、第2層の順に載せ、市販のニードルパンチ用針にて基体(織布)に対して貫通する針深さでニードリングし、更に第1層を載せ、第1層のバット繊維がバット繊維層第3層で留る程度に針深さを調整してニードリングし、基体とバット繊維3層とが積層されたフェルトが得られた。
【0032】
このフェルトを構成するバット繊維層のうち、第2層及び第3層のバット繊維は相互に交絡し、かつ基体に対して貫通している。一方、第1層のバット繊維は、第2層及び第3層に交絡しているが、実施例1および2のフェルトでは基体に対して貫通していない構造となっている。また、実施例3のフェルトは第1層のバット繊維が基体まで貫通している。
湿紙の平滑性や圧縮性及び回復性という点で、実施例1〜2の構造の方が優れている。
【0033】
バット繊維相互および基体との交絡状態は下記のテストによって確認された。フェルトを0.05重量%の酸性染料水溶液に浸漬し、加熱沸騰させた後、水洗・乾燥してから、フェルト断面を光学顕微鏡で観察する。第1層のバット繊維は他のバット繊維よりも硫酸溶液粘度が低く(低分子量)、細繊度であるため強く染色される。従って繊維層相互の交絡、貫通状態を容易に観察する事が出来る。
【0034】
[比較例1]
実施例1のバット層3層のうち、第2層を使用しなかった以外は実施例1と同じ層構成で第1層と第3層を直接積層し(表2)、第1層と第3層とも織布留りとなるようにニードリングして基体とバット層2層とからなるフェルトを製造した。
【0035】
[比較例2〜3]
第2層を使用せず、それぞれ表2に示すように基体と6ナイロンと66ナイロンの2層および基体と66ナイロン2層からなるフェルトを製造した。
【0036】
【表2】

【0037】
上記の実施例1〜3、及び比較例1〜3で作成した抄紙用フェルトの表面平滑性及び圧縮回復性能、耐偏平化機能を下記の方法で評価した。
【0038】
(1) 表面平滑性テスト
JIS B061−1982(「表面粗さ」)に準拠し、抄紙用フェルトの表面粗さ(Rz)で評価した。該数値が低い程、表面粗さの凹凸が小さく、平滑性が高いことを示している。
【0039】
(2)圧縮回復性能、耐偏平化機能テスト
図2に示す実験装置にフェルトを通し、初期の無加圧時、プレスロールによる圧縮時および圧力開放後の各段階におけるフェルトの厚みをセンサにより計測し、圧縮率と回復率を下記式により計算し、これによりフェルトの圧縮回復性能と、その持続性能(耐偏平化機能)を評価した。
圧縮率(%)=(圧縮時のフェルトの厚み/初期の無加圧でのフェルトの厚み)×100
回復率(%)=(圧力解放直後のフェルトの厚み/圧縮時のフェルトの厚み)×100
【0040】
実験装置は、図2に示すように、一対のプレスロールPR,PRと、フェルトに一定の張力をかけて支持する複数のガイドロールGRと、プレスロールによる加圧時のフェルトの厚みを計測するセンサ(図示せず)と、この圧力を解放した直後のフェルトの厚みを計測する第2のセンサ(図示せず)とを有している。実験装置の駆動条件は、プレス圧力が100kg/cm、フェルト駆動速度が1000m/分である。フェルト駆動50時間後の圧縮回復性能とフェルト駆動120時間後のフェルト厚みによる耐偏平化機能を評価した。
耐偏平化機能の評価は、実施例および比較例のフェルト駆動120時間後のフェルト厚みを相対的な評点で表した。ここでは、比較例1の数値を評点3とし、これを基準として、この基準評点3に比べて、それ以上であれば良好、それ以下であれば不良とし、数値が高いほど良い評点とした。上記評価方法による結果を表3に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
表2,3の結果から明らかなように、バット繊維層3層を積層した実施例1〜3のフェルトは比較例1〜3のフェルトに比べて、表面平滑性テストの結果が優れ、しかも第2層、第3層のバット繊維層が潰れにくく圧縮回復性能、耐偏平化機能が優れる結果となっていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の抄紙用フェルトは、基体と、少なくとも3層の短繊維バット繊維層とからなり、湿紙に直接接触する第1層は湿紙の表面平滑性を保つため、短繊維繊度の小さい繊維を用い、基体と接し、最も潰れ難さが要求される第3層には短繊維繊度の大きい太いバット繊維を植毛し、かつ第1層と第3層との中間には短繊維繊度が中程度のバツト繊維層を介在させている。また好ましくは第2層及び第3層に含まれるバット繊維には、第1層に含まれるバット繊維よりも高分子量の繊維が用いられている。
また最適な実施態様においては、第2層及び第3層に含まれるバット繊維は相互に交絡しつつ基体に対して貫通しており、かつ第1層に含まれるバット繊維は第2層及び第3層に交絡しつつ基体に対して貫通していないという構造とし、さらに第2層と第3層のバット繊維層には、3次元的捲縮繊維を用いている。このような積層構造としたことにより、フェルト全体が高速抄紙機械においても、潰れにくくなり、長期間の使用が可能であり、しかもフェルト使用初期の表面平滑性が良いので、表面平滑な湿紙が得られる。したがって本発明は抄紙機械、特に高速ティッシュ抄紙機械に適した優れた抄紙用フェルトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の抄紙用フェルトの積層構造を示す。
【図2】圧縮回復性能、耐偏平化機能の測定装置
【符号の説明】
【0045】
1 抄紙用フェルト
2 基体
3 第1層
4 第2層
5 第3層
PR プレスロール
GR ガイドロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体の湿紙側に最上層である第1層、最上層に接する第2層、第2層に接する第3層の少なくとも3層構造の短繊維から成るバット繊維層を設け、各バット繊維層に含まれるバット繊維の平均短繊維繊度が、第1層は0.5〜6dtex、第2層は1.5〜15dtexで第1層よりも粗く、第3層は6〜30dtexで第2層よりも粗い繊維であることを特徴とする抄紙用フェルト。
【請求項2】
各バット繊維層に含まれるバット繊維の平均短繊維繊度が、第1層は1〜3dtex、第2層は3〜10dtex、第3層は10〜15dtexであることを特徴とする請求項1記載の抄紙用フェルト。
【請求項3】
バット繊維がポリアミド繊維であり、その硫酸溶液粘度(O.25g/50m1,JIS一級95%硫酸)の25℃における絶対粘度が、第1層に含まれるバット繊維は、60〜70mPa・Sであり、第2層及び第3層に含まれるバット繊維は80mPa・S以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の抄紙用フェルト。
【請求項4】
第2層及び第3層に含まれるバット繊維は相互に交絡しつつ基体に対して貫通しており、然も第1層に含まれるバット繊維は第2層及び第3層に交絡しつつ基体に対して貫通していないことを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の抄紙用フェルト。
【請求項5】
第2層及び第3層に含まれるバット繊維が、3次元的捲縮を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の抄紙用フェルト。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−9188(P2006−9188A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−187334(P2004−187334)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000180597)イチカワ株式会社 (99)
【Fターム(参考)】