説明

把持装置

【課題】1個のねじを締付けることによって、先ず第1の軸を把持し、更にねじを締付けることによって第2の軸を把持する装置において、構成する部品の加工精度を向上し、かつ製造コストを低減したものである。
【解決手段】略四角柱状の部材10と、部材に螺合した締付けボルト33からなり、部材の上面11のほぼ中央に設けた締付けボルトと螺合するめねじと、正面12と背面13間を貫通する第2の軸穴と、左側面14と右側面15間を貫通する第1の軸穴と、めねじと第2の軸穴の間を通り、かつ第2の軸穴の両横外側を通り下方に伸びる略門形スリット20と、第2の軸穴の一方の側部に設けた短スリットと、略門形スリットのそれぞれ一方から他方に伸びた左スリットと、右スリットから成ることを特徴とする把持装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、干渉せずに交差する2本の軸にそれぞれ摺動可能に嵌合した2つの軸を1箇所の締付け手段により差動的に二段階で前記2本の軸を把持する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
計測機器の位置決め装置や工作機械の加工基準設定装置、あるいは棒状材からなる構造物において、交差する軸上を摺動可能な連結部品によって、それぞれの軸を所定の位置関係で固定する方法が多く用いられている。
しかし通常はそれぞれの軸を個別のねじで締付ける構造なので作業効率が悪いという問題があった。
【0003】
上記問題を解決する方法として、例えば特許文献1では、1個のねじによって並列する2個の支持軸を回動及び固定可能に連結した把持装置が考案されている。
しかし特許文献1の構造では、部品点数が多く高価になる点、2本の軸径が同一の場合でも基筒体5と第1締付筒12を太くする必要があるので無駄な大きさになる点、ほぼ同時に両方の軸が把持されるので、例えば、先ず高さを調節してその後水平方向の位置を調整する等の順を追った締付け作業ができないという問題があった。
【0004】
また特許文献2では、本発明とほぼ同じ作用効果を発揮するが、構成する部品(特にケース10)が製造しにくい形状であり、専用型による鋳造・鍛造以外では、加工時間も多大となり、少・中量生産には適していなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭62−167917号公報
【特許文献2】特開2011−7337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は1個のねじを締付けることによって、先ず第1の軸を把持し、更に前記のねじを締付けることによって第2の軸を把持する装置において、構成する部品の加工精度を向上し、かつ製造コストを低減したものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
2本の軸を軸穴にそれぞれ摺動可能に挿入し、1つの締付け手段により、差動的に二段階で前記2本の軸を把持する装置であり、略四角柱状の部材(10)と、前記部材に螺合した締付けボルト(33)からなり、
前記部材には、上面(11)のほぼ中央に設けた前記締付けボルトと螺合するめねじ(18)と、正面(12)と背面(13)間を貫通する第2の軸穴(17)と、前記第2の軸穴より前記めねじから遠い側に、前記第2の軸穴と干渉しない位置に設けた、左側面(14)と右側面(15)間を貫通する第1の軸穴(16)と、前記正面と前記背面間を貫通するスリット群(20)が設けられ、該スリット群は、前記めねじと前記第2の軸穴の間を通り、かつ前記第2の軸穴の両横外側を通り下方に伸び、左右の下端部(22、23)が前記第1の軸穴の軸心近傍まで達する略門形スリット(21)と、前記第2の軸穴の一方の側部内周面(17a)と前記略門形スリットを繋ぐ短スリット(26)と、前記略門形スリット左部の第1軸穴干渉領域(24)から右に向かい、前記略門形スリット右部に達しない少なくとも1つの左スリット(27)と、前記略門形スリット右部の第1軸穴干渉領域(25)から左に向かい、前記略門形スリット左部に達しない少なくとも1つの右スリット(28)から成ることを特徴とする把持装置である。
【発明の効果】
【0008】
1本の締付けボルトを締付けることにより、2本の軸を差動的に締付け固定することができるので、作業性が良い。
【0009】
2本の軸に対する位置決めを、順次行うことができるので、例えば、先ず左右方向位置を正確に決めてから、次に前後方向の位置を決める作業ができるので、1本のねじで二方向の位置決めが可能でありながら、精度の高い位置決めができる。
【0010】
専用部品が1個のため、軸間距離の精度、軸間角度の精度、軸穴精度を高めることが容易であり、低コストで製作可能である。
また、多品種少量生産にも容易に対応できる。

【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による二軸把持装置の斜視図である。
【図2】本発明による二軸把持装置の部材の正面図と右側面図である。
【図3】本発明による二軸把持装置の部材の弾性変形部の説明図である。
【図4】本発明による二軸把持装置の部材の別の実施形態である。
【図5】本発明のよる二軸把持装置の平面図の例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1〜5を用いて本発明の基本的な構成を説明する。
図1は、本発明による把持装置によってほぼ直交する二軸を固定している状態を示した斜視図、図2は本把持装置の主要部材の正面図と右側面図である。
【0013】
直方体状の部材10の下部に、第1の軸穴16が左側面14と右側面15間を貫通して設けられており、第1の軸穴の上部に第2の軸穴17が正面12と背面13間を貫通して設けられている。
また、第2の軸穴17と同じ方向に、第2の軸穴17からワイヤ放電加工装置等によりスリット群20の加工が行われ、斜線で示す弾性変形部19が構成される。
【0014】
図3は、弾性変形部19の作動説明図である。
締付ボルト33を締めると、荷重Wが弾性変形部の上面ほぼ中央に、下方向に作用する。
荷重Wにより、第2の軸穴17は短スリット26の存在により上下方向の内径が減少しやすくなっているので、挿入された第2軸とのクリアランス(通常は0.05mm程度)が無くなると第2軸が固定される。
荷重に対する上下方向の内径の変化量は、例えば、軸穴直径が16mmで、短スリット26の反対側面の肉厚Aが3.5mmで、部材10の厚さが24mmとすると、等価ばね定数は、21000N/mm程度になる。
すなわち、荷重Wが約1050Nに達すると、第2の軸穴の上下方向の内径が約0.05mm減少し、第2軸が固定され始める。
【0015】
第1の軸穴部分には、左スリット27と右スリット28が、ほぼ水平方向に、左右交互に段違いに設けられている。
左右のスリットが設けられた部分は、コイルばねのような作用をする。
例えば図3に於いて、左右のスリットの長さがそれぞれ21mm、肉厚Bが2mm、スリットの間隔Cが1.5mmで、第1の軸穴16の両側部の肉厚を片側4mmとみなすと、等価ばね定数は、180N/mm程度になる。
すなわち、荷重Wが約9Nに達すると、第1の軸穴の上下方向の内径が約0.05mm減少し、第1軸が固定され始める。
【0016】
部材10の上部には、めねじ18が加工されている。
加工の都合上、弾性変形部19の上面には、めねじの下穴加工による凹部(図示しない)が残るので、めねじ加工後に凹部の内径を広げるか、締付ボルト33の先端部径を細くする必要がある。
【0017】
以上の構成において、図1に示したように、部材10に設けた第1の軸穴16に第1軸31を通し、第2の軸穴17に第2軸32を通した状態で、締付けボルト33を締めると、まず第1の軸穴16周囲の左右スリット部が弾性変形し、ボルトの軸力が9N以上になると、部材10の第1の軸穴の上面部と下面部の間で第1軸31を把持する。
【0018】
さらに締付けボルト33を締めると、弾性変形部19における短スリットの反対側の部分が弾性変形し、第2の軸穴17の上下方向の内径が小さくなり、ボルトの軸力が1050N以上になると、第2軸32を締付け、これを把持する。
【0019】
上記のように締付けボルトを締めることにより、第1軸と第2軸の両方を締付けることができ、しかも、わずかな締付力で先ず第1軸が固定されて、さらにボルトを締付けることにより第2軸が固定されるので、順次位置を調節しながら高精度の位置決めをすることができる。
【0020】
図4に示したように、略門形スリット21は、上部の水平部分と、左右の垂直部分の間は円弧で結んでもよい。また円弧の代わりに斜線で結んでもよい。
また、左スリット22と右スリット23は各1つでも良く、スリット長さや、スリット間隔を選べば、等価ばね定数を適切に設定することができる
また、スリットの幅は、ワイヤ放電加工機で加工可能な0.3mm程度とすることにより、万が一、軸を挿入せずに締付ボルトを締め付けても、材料が降伏点に達する前に変形量を制限することもできる。
【0021】
図5は、第1軸と第2軸の交差角度を75度程度に設定した場合の平面図である。
本発明による把持装置の主要部品は1つであるため、直角以外の交差角度にも、比較的容易に、かつ精度良く対応することができる。
すなわち、2つの軸穴とめねじ加工を行った後、ワイヤ放電加工機に傾斜した状態でセットし、自動運転することで、セット換えすることなしに、図5に示した直交以外の2軸把持装置を容易に製作することができる。
【符号の説明】
【0022】
1 本発明による把持装置
10 部材
11 部材の上面
12 部材の正面
13 部材の背面
14 部材の左側面
15 部材の右側面
16 第1の軸穴
17 第2の軸穴
17a 第2の軸穴の側部内周面
18 めねじ
19 弾性変形部
20 スリット群
21 略門形スリット
22 略門形スリットの左下端部
23 略門形スリットの右下端部
24 略門形スリット左部の第1軸穴干渉領域
25 略門形スリット右部の第1軸穴干渉領域
26 短スリット
27 左スリット
28 右スリット
31 第1軸
32 第2軸
33 締付けボルト
W ボルトによる締付荷重
A 第2の軸穴の短スリットの反対側面の厚さ
B 左スリットの端部と略門形スリット右部との距離
C 左スリットと右スリットの距離
θ 第1軸と第2軸の交差角度




【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の軸を軸穴にそれぞれ摺動可能に挿入し、1つの締付け手段により、差動的に二段階で前記2本の軸を把持する装置であり、略四角柱状の部材(10)と、前記部材に螺合した締付けボルト(33)からなり、
前記部材には、上面(11)のほぼ中央に設けた前記締付けボルトと螺合するめねじ(18)と、正面(12)と背面(13)間を貫通する第2の軸穴(17)と、前記第2の軸穴より前記めねじから遠い側に、前記第2の軸穴と干渉しない位置に設けた、左側面(14)と右側面(15)間を貫通する第1の軸穴(16)と、前記正面と前記背面間を貫通するスリット群(20)が設けられ、該スリット群は、前記めねじと前記第2の軸穴の間を通り、かつ前記第2の軸穴の両横外側を通り下方に伸び、左右の下端部(22、23)が前記第1の軸穴の軸心近傍まで達する略門形スリット(21)と、前記第2の軸穴の一方の側部内周面(17a)と前記略門形スリットを繋ぐ短スリット(26)と、前記略門形スリット左部の第1軸穴干渉領域(24)から右に向かい、前記略門形スリット右部に達しない少なくとも1つの左スリット(27)と、前記略門形スリット右部の第1軸穴干渉領域(25)から左に向かい、前記略門形スリット左部に達しない少なくとも1つの右スリット(28)から成ることを特徴とする把持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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