説明

抗ピロリ菌剤及びこれを含有する飲食物

【課題】メカブ抽出物とアスコフィラム属藻類抽出物とを含有する抗ピロリ菌剤及びこれを含有する飲食物を提供する。
【解決手段】本発明の抗ピロリ菌剤は、メカブ抽出物とアスコフィラム属藻類抽出物とを含有する。このメカブ抽出物は水系溶媒による抽出物であることが好ましい。更に、アスコフィラム属藻類抽出物は水系溶媒による抽出物であることが好ましい。また、メカブ抽出物及びアスコフィラム属藻類抽出物は、メカブ及びアスコフィラム属藻類を含む混合物から抽出された混合抽出物であることが好ましい。特にメカブを5〜50質量%含む混合物から抽出された混合抽出物であることが好ましい。本発明の飲食物は本発明の抗ピロリ菌剤を含有する。このメカブ抽出物とアスコフィラム属藻類抽出物とは合計0.001〜20質量%含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ピロリ菌剤及びこれを含有する飲食物に関する。更に詳しくは、本発明は、メカブ抽出物とアスコフィラム属藻類抽出物とを含有する抗ピロリ菌剤、及びこれを含有する飲食物に関する。
【背景技術】
【0002】
一部の胃炎、胃腸潰瘍及び胃癌等の疾病の発症に、ヘリコバクター・ピロリ菌(以下、単に「ピロリ菌」という)が関与していることが指摘されている。このピロリ菌は、胃粘膜の上皮内に生存するために、胃酸に冒されず且つ上皮内まで浸透できる殺菌剤を用いる必要があるが、in vivoにおいて十分な結果が得られる抗生物質を主体とする薬剤は少ない。また、抗生物質は耐性菌の誘導が常に危惧されている。このため、近年、抗ピロリ菌抗生物質に代替する各種成分の研究がなされている。即ち、例えば、下記特許文献1〜5が挙げられる。
【0003】
【特許文献1】特開平07−138166号公報
【特許文献2】国際公開第00/20009号パンフレット
【特許文献3】特開2000−044602号公報
【特許文献4】国際公開第98/013328号パンフレット
【特許文献5】特開2002−223727号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記各特許文献に開示された抗ピロリ菌剤に加えて、更に多くの抗ピロリ菌剤を得ることが望まれている。これにより、他種多用な植物からより安全且つ的確な抗ピロリ菌効果を得ることが可能となる。本発明は、上記実状に鑑みてなされたものであり、メカブ抽出物及びアスコフィラム属藻類抽出物を含有する抗ピロリ菌剤及びこれを含有する飲食物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下のとおりである。
(1)メカブ抽出物とアスコフィラム属藻類抽出物とを含有することを特徴とする抗ピロリ菌剤。
(2)本抗ピロリ菌剤全体を100質量%とした場合に、上記メカブ抽出物と上記アスコフィラム属藻類抽出物とを合計0.001〜20質量%含有する上記(1)に記載の抗ピロリ菌剤。
(3)上記メカブ抽出物は水系溶媒による抽出物である上記(1)又は(2)に記載の抗ピロリ菌剤。
(4)上記アスコフィラム属藻類抽出物は水系溶媒による抽出物である上記(1)乃至(3)のうちのいずれかに記載の抗ピロリ菌剤。
(5)上記メカブ抽出物及び上記アスコフィラム属藻類抽出物は、メカブ及びアスコフィラム属藻類を含む混合物から抽出された混合抽出物である上記(1)乃至(4)のうちのいずれかに記載の抗ピロリ菌剤。
(6)上記メカブ及び上記アスコフィラム属藻類の合計を100質量%とした場合に、該メカブを5〜50質量%含む上記(5)に記載の抗ピロリ菌剤。
(7)上記(1)乃至(6)のうちのいずれかに記載の抗ピロリ菌剤を含有することを特徴とする飲食物。
(8)本飲食物全体を100質量%とした場合に、上記メカブ抽出物と上記アスコフィラム属藻類抽出物とを合計0.001〜20質量%含有する上記(7)に記載の飲食物。
【発明の効果】
【0006】
本発明の抗ピロリ菌剤は、海藻由来の抗ピロリ菌剤であり、安全性が高く、且つ十分な抗ピロリ菌活性を有し、特に胃炎(慢性胃炎等)、腸炎、胃潰瘍、腸潰瘍(十二指腸潰瘍等)等の疾病の予防、抑制、改善及び治療等を行うことができる。
メカブ抽出物とアスコフィラム属藻類抽出物とを所定範囲で含有する場合は、十分な抗ピロリ菌活性を発揮しつつ、安価な抗ピロリ菌剤とすることができる。
メカブ抽出物が水系溶媒による抽出物である場合は、十分な抗ピロリ菌活性を発揮しつつ、安価な抗ピロリ菌剤とすることができる。
アスコフィラム属藻類抽出物が水系溶媒による抽出物である場合は、十分な抗ピロリ菌活性を発揮しつつ、安価な抗ピロリ菌剤とすることができる。
メカブ抽出物及びアスコフィラム属藻類抽出物が、メカブ及びアスコフィラム属藻類を含む混合物から抽出された混合抽出物である場合は、十分な抗ピロリ菌活性が得られる抗ピロリ菌剤を効率よく得ることができる。
メカブとアスコフィラムとの合計量に対してメカブを所定範囲で含む場合は、特に高い抗ピロリ菌活性を効率よく得ることができる。
本発明の飲食物によれば、安全性が高く、且つ十分な抗ピロリ菌活性を有し、特に胃炎(慢性胃炎等)、腸炎、胃潰瘍、腸潰瘍(十二指腸潰瘍等)等の疾病の予防、抑制、改善及び治療等を行うことができる。
メカブ抽出物とアスコフィラム属藻類抽出物とを所定範囲で含有する場合は、十分な抗ピロリ菌活性を発揮しつつ、安価な抗ピロリ菌剤とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
[1]抗ピロリ菌剤
本発明の抗ピロリ菌剤は、メカブ抽出物とアスコフィラム属藻類抽出物とを含有することを特徴とする。
【0008】
上記「メカブ抽出物」は、メカブから抽出された成分である。このメカブ抽出物の抽出に用いるメカブは、褐藻類の1種であるワカメの根本にあるひだ状の胞子のうである。上記メカブは、ワカメの繁殖を担う部分であるため、栄養分が凝縮されている。
上記「アスコフィラム属藻類抽出物」は、アスコフィラム属藻類から抽出された成分である。このアスコフィラム属藻類抽出物の抽出に用いるアスコフィラム属藻類は、褐藻類の1種であり、高緯度圏、特に北緯60〜68度の北欧等に産するヒバマタ目の褐藻である。上記アスコフィラム属藻類として具体的には、例えば、アスコルフィラム・ノドサム(Ascophyllum Nodosum)が挙げられる。上記メカブ及び上記アスコフィラム属藻類の産地は特に限定されず、本発明では、各地に産するワカメから得られるメカブ及びアスコフィラム属藻類を用いることができる。
【0009】
上記メカブ及び上記アスコフィラム属藻類は、収穫したものを水洗等して用いることができる。更に、例えば、天日干し又は適温で熱風乾燥したものを用いることもできる。これらはそのまま抽出に供することもできるが、効率よく抽出するためには、メカブ及びアスコフィラム属藻類を紐状物、小片又は粉末とし、抽出時の溶媒との接触面積を大きくすることが好ましい。この紐状物の径及び長さは特に限定されないが、径は10mm以下、特に0.5〜5mm、更に0.5〜3mmであることが好ましく、長さは300mm以下、特に2〜200mmであることが好ましい。また、小片の寸法も特に限定されないが、最大寸法が100mm以下、特に2〜30mmであることが好ましい。更に、粉末の平均粒径も特に限定されないが、2mm以下、特に0.1〜1mm、更に0.3〜0.8mmであることが好ましい。更に、上記メカブ及び上記アスコフィラム属藻類は、必要に応じて不純物除去等の前処理をしてもよい。
【0010】
本発明の抗ピロリ菌剤において、抗ピロリ菌剤全体を100質量%とした場合の上記メカブ抽出物及び上記アスコフィラム属藻類抽出物(以下、単に「両抽出物」ともいう)の合計含有量は特に限定されず、0.001質量%以上(100質量%であってもよい)とすることが好ましい。上記両抽出物を他の成分等と混合して用いる場合には、両抽出物の合計含有量は0.001〜20質量%が好ましく、0.005〜10質量%がより好ましく、0.01〜10質量%が特に好ましい。また、例えば、上記両抽出物を溶媒に溶解して用いる場合、両抽出物の合計含有量は0.01mg/ml以上が好ましく、0.1mg/ml以上がより好ましく、0.3mg/ml以上が更に好ましく、0.3〜5.0mg/mlがより更に好ましく、0.3〜3.0mg/mlが特に好ましい。
【0011】
また、本発明の抗ピロリ菌剤に含有されるメカブ抽出物は、水系溶媒による抽出物であってもよく、油系溶媒による抽出物であってもよいが、これらのなかでは水系溶媒による抽出物であることが好ましい。また、アスコフィラム属藻類抽出物は、水系溶媒による抽出物であってもよく、油系溶媒による抽出物であってもよいが、これらのなかでは水系溶媒による抽出物であることが好ましい。メカブ抽出物とアスコフィラム属藻類抽出物との抽出溶媒は、同じであってもよく、異なっていてもよいが、両方が水系溶媒であることが好ましい。
【0012】
上記「水系溶媒」は、水のみからなる溶媒、及び水と水に溶解し得る成分とからなる溶媒を表す。水に溶解し得る成分としては有機溶媒と無機化合物とが挙げられる。有機溶媒としては、炭素数1〜5の1価アルコール(エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等)、炭素数2〜5の多価アルコール{グリセリン、イソプロピレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール(1,3−ブチレングリコール等)など}、エステル(酢酸メチル等)、及びケトン(アセトン等)などが挙げられる。これらのなかでは炭素数1〜5(好ましくは炭素数1〜4)の1価アルコール及び/又は炭素数2〜5(好ましくは炭素数1〜4)の多価アルコールが好ましく、更には、炭素数1〜5(好ましくは炭素数1〜4)の1価アルコールが好ましく、特に炭素数1〜2の1価アルコール(メタノール及びエタノール)が好ましい。これらの有機溶媒は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
上記のうち水と有機溶媒との混合溶媒を用いる場合、水と有機溶媒との合計を100質量%とした場合に、有機溶媒は80質量%以下(通常5質量%以上)、更に50質量%以下、特に40質量%以下とすることが好ましい。この範囲では、抽出効率を特に高くすることができる。
また、上記混合溶媒に用いる有機溶媒として、炭素数1〜5の1価アルコール(以下、単に「アルコール」ともいう)を用いる場合、水とアルコールとの合計を100質量%とした場合に、アルコールは10〜50質量%、更には15〜40質量%、特に20〜40質量%とすることが好ましい。
【0014】
上記無機化合物としては、リン酸2水素ナトリウム、酸水素2ナトリウム等の抽出溶媒を緩衝化するための無機化合物(緩衝化用無機化合物)、塩酸、硫酸及び水酸化ナトリウム等の抽出溶媒のpHを調整するための無機化合物(pH調整用無機化合物)等が挙げられる。このうち、例えば、緩衝化用無機化合物は0.005〜0.015モル濃度となるように抽出溶媒に含有させることができる。また、pH調整用無機化合物は0.03〜0.08モル濃度となるように抽出溶媒に含有させることができる。これらの無機化合物を含有する場合には、抽出効率の向上、抽出時間の短縮等の抽出促進作用を得ることができる。
【0015】
本発明のメカブ抽出物及びアスコフィラム属藻類抽出物は、各々他の被抽出物と混合して抽出された混合抽出物を用いてもよく、各々単独で抽出された単独抽出物を用いてもよい。これらのうちで混合抽出による抽出物を用いる場合には、メカブ及びアスコフィラム属藻類を含む混合物から抽出された混合抽出物を用いることができる。更には、メカブ及びアスコフィラム属藻類からなる混合物から抽出された抽出物を用いることができる。
【0016】
メカブ及びアスコフィラム属藻類を含む混合物を抽出に用いる場合には、この混合物に含まれるメカブ及びアスコフィラム属藻類の含有量は特に限定されず、必要とされる抗ピロリ菌活性等によって適宜設定することができるが、メカブ及び上記アスコフィラム属藻類の合計を100質量%とした場合にメカブは5〜50質量%、特に7〜40質量%、更に10〜30質量%であることが好ましい。上記範囲内では、特に優れた抗ピロリ菌活性を得ることができる。
【0017】
上記混合抽出を行う際には、メカブとアスコフィラム属藻類とが共存された状態で抽出溶媒により抽出がなされる限り、その手順等は特に限定はない。即ち、例えば、メカブとアスコフィラム属藻類とはコーンブレンダー等を用いて予め混合してから抽出に供してもよく、予め混合することなく用いてもよい。また、メカブ及びアスコフィラム属藻類が収容された抽出槽内に抽出溶媒を加えてもよく、溶媒中にメカブ及びアスコフィラム属藻類を投入してもよい。
【0018】
また、混合抽出及び単独抽出にかかわらず、抽出手法は特に限定されず、浸漬抽出、攪拌抽出、還流抽出、振とう抽出、及び超音波抽出等を用いることができる。これらは1種の抽出方法のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。更に、抽出操作は1回で行ってもよく、複数回(抽出操作を行った後に得られる抽出残渣を再度抽出することを複数回数繰り返す)行ってもよい。
【0019】
また、用いる抽出溶媒の量は特に限定されないが、メカブ及びアスコフィラム属藻類と抽出溶媒との合計を100質量%とした場合に、抽出溶媒は90〜99質量%、更に91〜98質量%、特に92〜97質量%であることが好ましい。この範囲であれば十分な抗ピロリ菌活性を有する抗ピロリ菌剤を得ることができる。
【0020】
更に、抽出を行う際の抽出条件も特に限定されない。即ち、例えば、抽出温度は特に限定されず、常温抽出であってもよく、加熱抽出であってもよい。常温抽出では、例えば、被抽出物を10〜35℃(更には15〜30℃)の温度の抽出溶媒に浸漬して抽出することができる。また、加熱抽出では、溶媒の種類等にもよる(有機溶媒を含む混合溶媒を用いる場合は有機溶媒の沸点以下で用いることが好ましい)が、例えば、被抽出物を40〜100℃(更には50〜95℃、特に60〜90℃)の温度の抽出溶媒に浸漬して抽出することができる。また、抽出期間中は恒温で行ってもよく、温度を変化させてもよい。抽出溶媒が水系溶媒である場合には、特に水である場合には、加熱抽出が好ましく、抽出溶媒の温度は40〜100℃、更に50〜100℃、より更に60〜100℃、特に65〜95℃、より特に70〜90℃とすることが好ましい。
抽出温度が上記範囲であれば、短時間で抗ピロリ菌成分を含む抽出物を効率よく得ることができ、また、抽出物の抗ピロリ菌活性の低下を抑制することができる。この理由は明らかではないが、抗ピロリ菌活性を有する化合物の分解が抑制されることが一因ではないかと考えられる。
【0021】
また、抽出溶媒のpHは特に限定されないが、例えば、3〜10(更には4〜9、特に5〜8)とすることができる。更に、抽出圧力は特に限定されず、常圧でもよく、加圧でもよく、減圧でもよい。
更に、抽出時間は特に限定されない。抽出時間は抽出温度等の他の抽出条件により適宜の時間とすればよいが、例えば、0.5〜5日間(更には0.5〜6時間、より更には1〜5時間、特に1.5〜4時間)とすることができる。抽出時間が上記範囲内であれば、十分な抗ピロリ菌活性を有する抽出物とすることができる。
【0022】
この抽出条件としてより具体的には、加熱抽出を行う場合、抽出温度は40〜100℃、且つ抽出時間は0.5〜6時間とすることができる。また、抽出温度が50〜95℃であり、且つ抽出時間が1〜5時間であることが好ましく、抽出温度が60〜90℃であり、抽出時間が1.5〜4時間であることがより好ましい。常温抽出を行う場合、被抽温度は10〜35℃(更には15〜30℃)、且つ抽出時間は0.5時間〜5日間とすることができる。
【0023】
更に、前記抽出溶媒の量(メカブ及びアスコフィラム属藻類と溶媒との合計を100質量%とした場合の抽出溶媒の質量割合)と、上記の抽出条件との組み合わせは、抽出溶媒量は90〜99質量%、抽出温度は40〜100℃、且つ抽出時間は0.5〜6時間とすることができる。更に、抽出溶媒量が92〜97質量%、抽出温度が50〜95℃、且つ抽出時間が1〜5時間であることが好ましい。この場合、溶媒としては水系溶媒が好ましく、水が特に好ましい。
【0024】
上記抽出を行った後の抽出物残渣(抽出後のメカブ及びアスコフィラム属藻類)と抽出液(メカブ抽出物及び/又はアスコフィラム属藻類抽出物を含む)とは、通常、分離して本発明の抗ピロリ菌剤として用いる。この際の分離方法は特に限定されないが、フィルタプレス、及び濾過(加圧、常圧)等により分離することができる。抽出残渣から分離された抽出液は、そのまま本発明の抗ピロリ菌剤として用いることができる。また、抽出残渣から分離された抽出液は、更にその後、含まれる溶媒を除去して用いることもできる。抽出液からの溶媒の除去方法は特に限定されず、例えば、噴霧乾燥法、エバポレーション及び凍結乾燥法等により行うことができる。抽出液から分取された固形分(メカブ抽出物及び/又はアスコフィラム属藻類抽出物)はそのまま用いてもよく、更に精製を行ってもよい。即ち、この固形分を水及び/又は有機溶媒等に溶解させた後、濾過を行って夾雑物等を除去し、その後、溶媒を除去して精製することができる。更に、必要に応じて、滅菌処理等を施すことができる。
【0025】
本発明の抗ピロリ菌剤は、メカブ抽出物及びアスコフィラム属藻類抽出物を含有するものであれば、その形態に特に限定はない。例えば、本発明の抗ピロリ菌剤は、液状、固形状、粉末状、顆粒状、造粒した造粒状等とすることができる。上記液状物は、例えば、凍結乾燥等の公知の方法により乾燥した固形物や粉末物を水若しくはエタノール、プロピレングリコール及び1,3−ブチレングリコール等の有機溶媒、又はこれらの混合溶媒に溶解若しくは分散させることにより得ることができる。
【0026】
また、本発明の抗ピロリ菌剤は、抗ピロリ菌活性を有する薬品及び飲食品等として利用できる。上記薬品には、医薬品及び医薬部外品が含まれる。この薬品として用いる場合には、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、注射剤、及び坐剤等とすることができる。
更に、本発明の抗ピロリ菌剤は、各種飲料及び食品に添加することにより、飲料及び食品に抗ピロリ菌活性を付与することができる。即ち、本発明の抗ピロリ菌剤は、飲料及び食品に抗ピロリ菌活性を付与するための飲食品用添加剤として用いることができる。
本発明の抗ピロリ菌剤は、例えば、胃炎(慢性胃炎等)、腸炎、胃潰瘍、腸潰瘍(十二指腸潰瘍等)等の各種疾病の予防、抑制、改善、治療、又は治癒等の目的で利用できる。
【0027】
また、本発明の抗ピロリ菌剤は、本発明の作用効果を阻害しない限り、上記抽出物以外の他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、成形剤、結合剤、崩壊剤、崩壊抑制剤、滑沢剤、担体、溶剤、増量剤、等張化剤、乳化剤、懸濁化剤、分散剤、増粘剤、被覆剤、吸収促進剤、凝固剤、保存剤(安定剤、防湿剤、着色防止剤、酸化防止剤等)、矯味剤、矯臭剤、着色剤、消泡剤、無痛化剤、帯電防止剤、及びpH調節剤等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
更に、本発明の抗ピロリ菌剤の投与方法は特に限定されず、経口投与であってもよく、注射投与(静脈注射、筋肉内注射、及び皮下注射など)等のその他の投与方法であってもよい。これらの投与方法は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうちでは経口投与が好ましい。また、その投与量は、年齢、体重、症状、治療効果及び投与方法等により調整することが好ましく、通常、成人一人あたり、固形物換算で1回に1〜1000mgの範囲で且つ1日に1回から数回投与することができる。尚、投与量は種々の条件で変動するので、上記の投与量より少量で十分な場合もあるし、上記の投与量の範囲を越えて投与する必要がある場合もある。例えば、薬品として用いる場合、薬品全量を100質量%とした場合、本発明の抗ピロリ菌剤(固形物換算)は、0.001〜20質量%(更に0.005〜10質量%、特に0.01〜10質量%)含有されることが好ましい。
【0029】
本発明の抗ピロリ菌剤は、メカブ抽出物のみ、又はアスコフィラム属藻類抽出物のみを用いる場合に比べて優れた抗ピロリ菌特性を発揮できる。即ち、各抽出物を単用する場合に比べて併用することで抗ピロリ菌特性を向上させることができる。その理由は定かではない。
【0030】
[2]抗ピロリ菌剤を含有する飲食物
本発明の飲食物は、本発明の抗ピロリ菌剤を含有する。即ち、本発明の抗ピロリ菌剤は飲食物に配合して用いることができる。例えば、本発明の抗ピロリ菌剤を飲料に直接配合してもよいし、ビスケット等の固形食品、クリーム状及びジャム状の半流動食品、ゲル状食品の原材料に配合して、本発明の抗ピロリ菌剤を含有する胃腸炎予防飲食物、胃腸潰瘍予防飲食物、胃癌予防飲食物、健康飲食物及び機能性飲食物等として提供することができる。また、本発明の抗ピロリ菌剤を、例えば、油脂、エタノール、プロピレングリコール及びグリセリン等のアルコール、並びにこれらの混合物等に溶解させ、その後、飲料に配合するか、又は固形食品、半流動食品若しくはゲル状食品に配合することもできる。更に、必要に応じて、バインダとして作用するアラビアガム及びデキストリン等を配合して顆粒等の形態とし、これを飲料に配合するか、又は固形食品、半流動食品若しくはゲル状食品に配合することもできる。
【0031】
上記抗ピロリ菌剤を配合する飲食物の種類は特に限定されず、固形食品、クリーム状及びジャム状の半流動食品、ゲル状食品及び飲料等のいずれでもよい。本発明の飲食物としてより具体的には、例えば、特定の保健効果が認められる飲食物、又は生体調整成分の機能を活かした機能性飲食物等とすることができる。本発明の飲食品の具体例としては、酒、炭酸飲料、果実飲料、コーヒー、紅茶、茶、乳酸菌飲料、ヨーグルト、アイスクリーム、飴、ガム、菓子、パン及び麺類等が挙げられる。
【0032】
本発明の飲食物において、本発明の抗ピロリ菌剤の配合量は特に限定されない。健康食品又は機能性食品等としての摂取は、通常、病気予防、健康維持等を目的とするものであるため、年齢、体重、性別等により、本発明の抗ピロリ菌剤の配合量を調整することが好ましい。本発明の飲食物全量を100質量%とした場合、本発明の抗ピロリ菌剤の配合量(固形物換算)は、0.001〜20質量%、特に0.005〜10質量%、更に0.01〜10質量%であることが好ましい。
【0033】
本発明の飲食物の処方として具体的には、例えば、下記の処方が挙げられる。下記の本発明の抗ピロリ菌剤の精製乾燥粉末は、抽出液を凍結乾燥させ、その後、精製した粉末である。下記の処方により製造された本発明の飲食物は、胃腸炎予防、胃腸潰瘍予防、胃癌予防等に効果的であるが、この作用効果は、何ら本発明の飲食物の技術的範囲を制限する趣旨ではない。
(1)ソフトカプセル
玄米胚芽油 87.0質量%
乳化剤 12.0質量%
抗ピロリ菌剤(精製乾燥粉末) 1.0質量%
合計 100質量%
【0034】
(2)清涼飲料
果糖ブドウ糖液糖 30.0質量%
乳化剤 0.5質量%
抗ピロリ菌剤(精製乾燥粉末) 0.05質量%
香料 微量
精製水 残部
合計 100質量%
【0035】
(3)錠剤
乳糖 54.0質量%
結晶セルロース 30.0質量%
澱粉分解物 10.0質量%
グリセリン脂肪酸エステル 5.0質量%
抗ピロリ菌剤(精製乾燥粉末) 1.0質量%
合計 100質量%
【0036】
(4)錠菓
砂糖 76.4質量%
グルコース 19.0質量%
ショ糖脂肪酸エステル 0.2質量%
抗ピロリ菌剤(精製乾燥粉末) 0.5質量%
精製水 3.9質量%
合計 100質量%
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
[1]使用したメカブ及びアスコフィラム属藻類
メカブ(韓国産);ワカメ(学名「Undoria pinnatifida」)の根元の「胞子のう」の部分の乾燥物を1〜2mm幅に裁断したものを用いた。
アスコフィラム属藻類(北欧産);アスコフィラム・ノドサム(学名「Ascophyllum nodosum」)の乾燥物を粉砕して、30〜40メッシュ(0.43〜0.60mm)の寸法の粉末としたものを用いた。
【0038】
[2]実施品及び比較品の調製
(1)抗ピロリ菌剤の調製
上記メカブ10gと上記アスコフィラム属藻類40gとを秤量し、両者を内容積2リットルの攪拌器を備えるガラス容器に入れた。次いで、この容器に水1リットルを投入し、その後、容器を加熱して80℃にまで昇温させ、時々攪拌しながら80℃で2時間保持して抽出を行った。次いで、得られた抽出液を、G200グラスフィルター(東洋濾紙社製)を用いて吸引濾過し、濾液を減圧濃縮し、その後、真空凍結乾燥して粉末化することにより、本発明の抗ピロリ菌剤を得た。
【0039】
(2)試薬の調製
i)実施例1
上記[2](1)で得られた抗ピロリ菌剤100mgと乳糖100mgとをゼラチンカプセルに封入して実施例1を得た。
ii)実施例2
上記[2](1)で得られた抗ピロリ菌剤750mgのみをゼラチンカプセルに封入して実施例2を得た。
iii)比較例1
乳糖200mgのみをゼラチンカプセルに封入して比較例1(プラセボ)を得た。
【0040】
[3]抗ピロリ菌の活性評価
(1)ピロリ菌保菌者の選定
同意を得た被験者34名から採取した血液から血清を分離し、抗ピロリ菌抗体検出キット(株式会社ミズホメディー社販売、品名「ミニットリードピロリ抗体」)を用いて、抗ピロリ菌抗体の有無を判定した。その結果、34名中の15名が陽性であった。即ち、この15名は、抗ピロリ菌抗体を持っており、これまでにピロリ菌に感染する機会があった者と考えられる。
その後、上記抗ピロリ菌抗体が陽性であった被験者15名に対して、13C尿素呼気試験用剤(大塚製薬株式会社製)及び呼気ガス分析装置(大塚電子株式会社製)を用いて処方に従い、服用した尿素が二酸化炭素に分解されるか否かを確認した。その結果、15名中の9名に尿素の分解が認められ、ピロリ菌保菌者であることが確認された。
【0041】
(2)試薬の服用
上記[3](1)でピロリ菌保菌者と分かった9名に対して、実施例1(抗ピロリ菌剤100mg含有)、実施例2(抗ピロリ菌剤を750mg含有)、比較例1(プラセボ)を1日1回、14日間投与した。
【0042】
(3)13C尿素呼気試験
上記各試薬の投与前に測定した13C尿素呼気試験による13CO検知量に対する14日間投与後に測定した13C尿素呼気試験による13CO検知量の増減率を測定し、その増減率の平均値を算出した。尚、試薬投与前の13CO検知量は、プラセボ群:抗ピロリ菌剤100mg/日摂取群:抗ピロリ菌剤750mg/日摂取群=1.04:1.00:1.04であり、各群間での差異はほとんどなかった。
この結果、プラセボ群の平均値は投与前に対して115%であった。また、抗ピロリ菌剤100mg/日摂取群の平均値は投与前に対して85%であった。更に、抗ピロリ菌剤750mg/日摂取群の平均値は投与前に対して72%であった。この結果をグラフにして図1に示した。
【0043】
(4)実施例の効果
文献「Helicobacter pylori陽性例における13C尿素呼気試験に及ぼす胃粘膜組織所見の影響の検討」(飯島、外8名,日本消化器病学会雑誌,日本消化器病学会,1998年1月,第95巻,第1号,p.18−25)に示されているように、13C尿素呼気試験による13CO検知量は保菌するピロリ菌量と相関する。
上記[3](3)の結果より、プラセボ(乳糖)を投与したプラセボ群では115%と13CO検知量が増加しているのに対して、抗ピロリ菌剤100mg/日摂取群では85%に減少され、更に抗ピロリ菌剤750mg/日摂取群では72%に減少されていることが分かる。即ち、本ピロリ菌剤を用いることでピロリ菌の生息数を減少させることができることが分かる。更に、このピロリ菌の減少は、本ピロリ菌剤の投与量が多い程効果が認められることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、保健飲料、健康食品、保健食品及び医薬品等の広範な用途で利用することができる。例えば、本発明の抗ピロリ菌剤を飲料に配合して、抗ピロリ菌保健飲料とすることができる。また、本発明の抗ピロリ菌剤を含む医薬品製剤(錠剤、カプセル剤、シロップ剤及び注射剤等)は、経口、又は筋肉注射、静脈注射若しくは動脈注射等により投与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例にかかる抗ピロリ菌剤の効果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メカブ抽出物とアスコフィラム属藻類抽出物とを含有することを特徴とする抗ピロリ菌剤。
【請求項2】
本抗ピロリ菌剤全体を100質量%とした場合に、上記メカブ抽出物と上記アスコフィラム属藻類抽出物とを合計0.001〜20質量%含有する請求項1に記載の抗ピロリ菌剤。
【請求項3】
上記メカブ抽出物は水系溶媒による抽出物である請求項1又は2に記載の抗ピロリ菌剤。
【請求項4】
上記アスコフィラム属藻類抽出物は水系溶媒による抽出物である請求項1乃至3のうちのいずれかに記載の抗ピロリ菌剤。
【請求項5】
上記メカブ抽出物及び上記アスコフィラム属藻類抽出物は、メカブ及びアスコフィラム属藻類を含む混合物から抽出された混合抽出物である請求項1乃至4のうちのいずれかに記載の抗ピロリ菌剤。
【請求項6】
上記混合物中の上記メカブ及び上記アスコフィラム属藻類の合計を100質量%とした場合に、該メカブを5〜50質量%含む請求項5に記載の抗ピロリ菌剤。
【請求項7】
請求項1乃至6のうちのいずれかに記載の抗ピロリ菌剤を含有することを特徴とする飲食物。
【請求項8】
本飲食物全体を100質量%とした場合に、上記メカブ抽出物と上記アスコフィラム属藻類抽出物とを合計0.001〜20質量%含有する請求項7に記載の飲食物。

【図1】
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【公開番号】特開2007−91631(P2007−91631A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−282722(P2005−282722)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(591155884)株式会社東洋発酵 (21)
【Fターム(参考)】