説明

抗体認識抗原

細胞の腫瘍塊形成時に該細胞表面に露出する部分を含む抗原。さらに、当該抗原を認識するリガンドを含む医薬組成物、及び標識剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、細胞の腫瘍塊形成時に該細胞表面に露出する部分を含む抗原に関する発明である。より具体的には、固形腫瘍において細胞表面に露出する非筋肉型ミオシン重鎖タイプA又はその変異体の一部を、抗原として認識する有用な医薬に関する発明である。
【背景技術】
現在、抗癌剤としての高い効果と安全性を得るために、癌細胞に対する抗体を用いた癌ターゲティング剤の研究が進められている。例えば、胃癌及び大腸癌との反応性からスクリーニングされたヒトモノクローナル抗体がGAH抗体として知られており(EP公開第526700号及びEP公開第520499号各号公報参照)、該抗体を結合した薬剤封入リポソーム(EP公開第526700号公報参照)の開発が進められている。
一方、癌化する細胞の種類により、該細胞を認識する抗体の種類も異なることが知られている。抗体が結合した薬剤封入リポソームを癌ターゲッティング剤として利用する場合には、該抗体が認識する抗原を同定することは、抗癌剤としてのより高い効果と安全性を得るために必要であると考えられる。しかしながら、これまでのところGAH抗体に関しては該抗体が認識する抗原の同定には至っていなかった。
また、これまでに、マウス線維芽細胞株L929から精製したミオシン重鎖をウサギに免疫して得た抗体が、L929その他の細胞表面に反応するという報告があるが(Willingham M.C.(1974)Proc.Nat.Acad.Sci.U.S.A.71,4144、及び、Olden K.(1976)Cell 8,383−390参照)、ヒト非筋肉型ミオシン重鎖タイプA(以下「nmMHCA」と略することもある)が癌化によって細胞表面に露出するという報告はなく、さらに該タンパク質が癌関連抗原として報告されている例はない。
【特許文献1】EP公開第526700号公報
【特許文献2】EP公開第520499号公報
【非特許文献1】Willingham M.C.(1974)Proc.Nat.Acad.Sci.U.S.A.71,4144
【非特許文献2】Olden K.(1976)Cell 8,383−390
【発明の開示】
本発明者は上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねてきた結果、EP公開第520499号公報で開示されているヒトモノクローナル抗体(GAH抗体)に代表されるような抗体が、細胞の腫瘍塊形成時に該細胞表面に露出する部分を含む抗原を認識することを見出した。
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)細胞の腫瘍塊形成時に該細胞表面に露出する部分を含む抗原。
(2)腫瘍塊が、培養癌細胞の皮下移植により形成した固形腫瘍である前記の抗原。
(3)固形腫瘍において、該固形腫瘍の培養細胞と比較してその存在量が増加している前記の抗原。
(4)固形腫瘍において、該固形腫瘍の培養細胞と比較して、その細胞表面の存在量が増加している前記の抗原。
(5)細胞骨格タンパク質又はその変異体である前記の抗原。
(6)ミオシン又はその変異体である前記の抗原。
(7)非筋肉型ミオシン重鎖タイプA又はその変異体であることを特徴とする前記の抗原。
(8)非筋肉型ミオシン重鎖タイプA又はその変異体の一部であることを特徴とする前記の抗原。
(9)非筋肉型ミオシン重鎖タイプA又はその変異体のタンパク質配列のC末端側配列であることを特徴とする前記の抗原。
(10)タンパク質配列のC末端側配列が配列表の配列番号17のN末端側から、600残基以降1960残基までの配列である前記の抗原。
(11)タンパク質配列のC末端側配列が配列表の配列番号20、21又は22のいずれかである前記の抗原。
(12)前記の抗原を認識するリガンド。
(13)抗体であることを特徴とする前記のリガンド。
(14)モノクローナル抗体であることを特徴とする前記のリガンド。
(15)モノクローナル抗体が、ヒトモノクローナル抗体であることを特徴とする前記のリガンド。
(16)癌反応性のモノクローナル抗体であることを特徴とする前記のリガンド。
(17)癌が、胃癌、乳癌、大腸癌又は食道癌であることを特徴とする前記のリガンド。
(18)重鎖の超可変領域に、配列表の配列番号1、2及び3のアミノ酸配列を含み、軽鎖の超可変領域に、配列表の配列番号4、5及び6のアミノ酸配列を含むことを特徴とする前記のリガンド。
(19)配列表の配列番号7のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列表の配列番号8のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含むことを特徴とする前記のリガンド。
(20)前記のリガンドを含有することを特徴とする医薬組成物。
(21)ターゲッティング療法剤であることを特徴とする前記の医薬組成物。
(22)癌組織又は癌細胞をターゲットとすることを特徴とする前記の医薬組成物。
(23)抗癌剤、抗腫瘍性タンパク質、酵素、遺伝子又は治療用アイソトープを含有することを特徴とする前記の医薬組成物。
(24)抗癌剤であることを特徴とする前記の医薬組成物。
(25)癌が、胃癌、乳癌、大腸癌又は食道癌であることを特徴とする前記の医薬組成物。
(26)リポソームを含有することを特徴とする前記の医薬組成物。
(27)前記のリガンドを含有する標識剤。
(28)癌組織又は癌細胞を特異的に標識することを特徴とする前記の標識剤。
(29)癌が、胃癌、乳癌、大腸癌又は食道癌であることを特徴とする前記の標識剤。
(30)蛍光剤、酵素、アイソトープ又はMRI造影剤を含有することを特徴とする前記の標識剤。
(31)前記の抗原を発現している癌疾患患者に、当該疾患の治療の為に前記の医薬組成物を投与する方法。
(32)前記の標識剤により標識される細胞を有する癌疾患患者に、当該疾患の治療の為に前記の医薬組成物を投与する方法。
(33)前記の抗原を認識するリガンドの当該抗原への結合活性が、0.5×10単位/mgから2.0×10単位/mgであることを特徴とする前記のリガンド。
(34)結合活性が、0.7×10単位/mgから1.5×10単位/mg、0.7×10単位/mgから1.3×10単位/mg又は0.8×10単位/mgから1.2×10単位/mgであることを特徴とする前記のリガンド。
(35)結合活性が、0.8×10単位/mgから1.2×10単位/mgであることを特徴とする前記のリガンド。
【図面の簡単な説明】
第1図は、MKN45の培養細胞及び移植由来細胞に対するGAH抗体の反応性を示す図である。
第2図の写真は、nmMHCA安定発現組織切片におけるGAH及び抗nmMHCA抗体の反応性の検討結果を示す図である。
第3図は、nmMHCA安定発現株を用いたGAHの細胞表面反応性の検討結果であり、GAH抗体結合数を示す図である。
第4図は、nmMHCA安定発現株を用いた抗nmMHCA抗体の細胞表面反応性の検討結果であり、抗nmMHC抗体結合数を示す図である。
第5図は、抗nmMHCAペプチド抗体のMKN45培養細胞、MKN45の皮下移植により形成した腫瘍細胞表面に対する反応性の検討結果を示す図である。
第6図は、腫瘍増殖抑制効果と細胞あたりの抗原量との関係を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の細胞としては、胃、大腸、食道、乳腺、肺、膵臓、肝臓、腎臓、卵巣又は子宮由来の細胞が挙げられる。好ましくは胃、大腸、食道又は乳腺由来の細胞が挙げられる。より好ましくは大腸由来の細胞が挙げられる。
本発明の腫瘍塊とは、可視的、微視的に腫瘍細胞の集合体を形成するものであればいかなるものでもよい。好ましくは、正常組織が自然発生的に固形癌化したもの、癌細胞の移植により該細胞が増殖したものが挙げられる。より好ましくは培養癌細胞の皮下移植により形成した固形腫瘍が挙げられる。
本発明の露出とは、内部にある物質が細胞膜の表面に現れること、あるいは表面を覆っている物質が剥がれることで内部にある物質が露呈することをいい、好ましくは、抗原の一部が細胞の表面に現れることをいう。さらに好ましくは、抗原のタンパク質配列のC末端側が細胞の表面に現れることをいう。
本発明の抗原としては、正常細胞においては細胞骨格や細胞内小器官として機能していると考えられるタンパク質、糖タンパク質、タンパク質脂質複合体又はこれらの変異体が挙げられる。好ましくは、細胞が腫瘍塊を形成することにより抗原として機能するものが挙げられる。さらに好ましくはミオシン、アクチン、トロポミオシン、ビメンチン、サイトケラチン等又はこれらの変異体が挙げられる。最も好ましくはヒト非筋肉型ミオシン重鎖タイプA(nmMHCA)が挙げられる。ここで、nmMHCAは、Toothaker LEらの方法[Blood,vol.78(7),pp.1826−1833,1991]や、Saez CGらの方法[Proc Natl Acad Sci U S A 1990 Feb;87(3):1164−8]に従って遺伝子を取得し、該遺伝子を用いて、Molecular Cloning,A Laboratory Manual(Second Edition,Cold Spring Harbor LaboratoryPress,1989)に従いタンパク質を発現させることにより得られる。
本発明のタンパク質のC末端側配列としては、例えば、配列表の配列番号17に示すnmMHCAのN末端側から600残基以降1960残基までの配列が挙げられ、好ましくは配列表の配列番号20、21又は22の配列が挙げられる。
本発明の固形腫瘍と該固形腫瘍の培養細胞との比較は、例えば、培養癌細胞と、当該培養細胞を一旦動物に移植して形成される固型腫瘍から分離される固型腫瘍由来の癌細胞を比較する方法や、患者の固型癌組織から分離した癌細胞と、当該癌細胞を一旦インビトロで培養し馴化した培養癌細胞とを比較する方法等が挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の細胞表面の存在量とは、細胞全体における抗原の存在量又は細胞表面のみにおける抗原の存在量を示すが、好ましくは細胞表面のみにおける抗原の存在量を示す。細胞表面の存在量は、例えばフローサイトメトリーによって定量することが可能であるがこれに限定されない。
本発明の増加とは、3倍以上増加することが挙げられるが、好ましくは4倍以上、より好ましくは10倍以上増加することが挙げられる。
本発明の変異体とは、1又は数個のアミノ酸を欠失、置換又は付加したアミノ酸配列を有するもの、又は正常のタンパク質の立体的構造が変化したものが挙げられる。
本発明のリガンドとは、各種抗体、線維芽細胞成長因子(FGF)、上皮細胞成長因子(EGF)等の成長因子又は増殖因子等のタンパク質が挙げられるが、好ましくは抗体が挙げられる。また、抗体としては各種動物のポリクローナル抗体、マウスモノクローナル抗体、ヒト−マウスキメラ抗体又はヒト型モノクローナル抗体及びヒトモノクローナル抗体が挙げられるが、好ましくはヒトモノクローナル抗体が挙げられる。さらに好ましくは癌反応性のヒトモノクローナル抗体が挙げられ、好ましくはEP公開第520499号公報で開示されているヒトモノクローナル抗体(GAH抗体)が挙げられる。
GAH抗体において、配列表の配列番号1、2及び3のアミノ酸配列は、重鎖可変領域の中でも超可変領域と呼ばれ、同様に配列表の配列番号4、5及び6のアミノ酸配列は、軽鎖可変領域の中でも超可変領域と呼ばれる。かかる領域は、免疫グロブリンの抗体としての特異性、抗原決定基と抗体の結合親和性を決定するものであり、相補性決定部とも呼ばれる。従って、かかる超可変領域以外の領域は他の抗体由来であっても構わない。すなわち、GAH抗体と同様の超可変領域を有する抗体はGAH抗体と同様に本発明において使用できると考えられる。
従って、本発明に使用される好ましいモノクローナル抗体としては、重鎖の超可変領域に、配列表の配列番号1、2及び3のアミノ酸配列を含み、軽鎖の超可変領域に、配列表の配列番号4、5及び6のアミノ酸配列を含むものである。これらのアミノ酸配列は、通常、重鎖及び軽鎖の各鎖の3つの超可変領域に、N末端側から、配列表の配列番号1、2及び3並びに配列表の配列番号4、5及び6の順でそれぞれ含まれる。本発明においては、癌との反応性を損なわない範囲で一部のアミノ酸を置換、挿入、削除あるいは追加する等の改変を行ったものも、本発明において使用できるモノクローナル抗体に含まれる。
本発明のモノクローナル抗体は、癌患者由来リンパ球とマウスミエローマ細胞とのハイブリドーマを作製し、上記の特定のアミノ酸配列を有するものを選択することによって得ることができる。
ハイブリドーマは、A.Imamらの方法〔Cancer Resarch 45,263(1985)〕に準じて、まず、癌患者から摘出された癌所属のリンパ節から、リンパ球を単離し、ポリエチレングリコールを用いてマウスミエローマ細胞と融合して得られる。得られたハイブリドーマの上清を用いて、パラフォルムアルデヒド固定した各種癌細胞株に対し、エンザイムイムノアッセイにより陽性を示す抗体を産生するハイブリドーマを選択し、クローニングを行う。
さらに、ハイブリドーマの上清から、常法〔R.C.Duhamelら、J.Immunol.Methods 31,211(1979)〕によりモノクローナル抗体を精製し、蛍光物質でラベルし、生癌細胞株、各種の赤血球、白血球等に対する反応性をフローサイトメトリーで検出することにより、生癌細胞株に対しては反応性を示す抗体を、赤血球、白血球に対しては、反応性を示さない抗体を選別する。また、癌患者から摘出される癌組織から単離される癌細胞、及び同一患者の同一組織の非癌部から単離される正常細胞に対する反応性を比較して、癌細胞に、より多量の抗体が結合し、正常細胞には反応がないか、もしくは健常人由来の抗体と同程度の反応性しかない抗体を選別する。
かくして選別されたハイブリドーマが産生する抗体をコードするDNAの塩基配列は、たとえば、以下の方法によって得られる。抗体産生ハイブリドーマから、チオシアン酸グアニジン−塩化リチウム法〔Casaraら,DNA,2,329(1983)〕でmRNAを調製して、オリゴ(dT)プライマーを用いてそのcDNAライブラリーを作製する。次いで、cDNAに(dG)テーリングを行い、このdGテールにハイブリダイズするポリCと、既に遺伝子が取得されているヒト抗体重鎖遺伝子、軽鎖遺伝子の各々共通な配列部分をプローブとしてPCR法によって、抗体をコードするcDNAを増幅させる。その後、DNAの末端平滑化を行い、電気泳動法によってゲルから切りだしたDNAをpUC119等のクローニングベクターに挿入し、Sangerらのジデオキシ法〔Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,74,5463(1977)〕によってその塩基配列が決定される。この塩基配列に基づいて、上記特定のアミノ酸配列を有するものを選別できる。
また、本発明において使用されるモノクローナル抗体は、遺伝子工学的な手法により作製することもできる。
本発明において特に好適なモノクローナル抗体は、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域が夫々配列表の配列番号7及び8のアミノ酸配列で表されるものである。重鎖及び軽鎖の定常領域の塩基配列は、例えばNucleic Acids Research 14,1779(1986)、The Journal of Biological Chemistry 257,1516(1982)及びCell 22,197(1980)に記載のものと同じ配列を有するものでよい。
本抗体は、本抗体を産生するハイブリドーマを牛胎児血清含有eRDF、RPMI 1640培養液等を用いて培養するか、又は、上記の特定の超可変領域を含む可変領域をコードするDNAにさらに重鎖及び軽鎖の定常領域をコードするDNAが夫々連結された遺伝子を化学合成し、その遺伝子の発現を可能とする公知の種々の発現ベクター、例えば、動物細胞における発現ベクターとして、pKCRH2〔三品ら、Nature,307,605(1984)〕からEP公開第520499号公報の図1又は図2に示した手順で構築することができるpKCR(ΔE)/HとpKCRDに挿入し、CHO細胞(チャイニーズ ハイスター 卵巣細胞)等の宿主中で発現させることにより得ることができる。例えば、重鎖遺伝子の両端にHindIII部位を付加したものをpKCR(ΔE)/HのHindIII部位に挿入し、またこのプラスミドのSalI部位にDHFR遺伝子等の選択マーカー遺伝子を挿入する。一方、軽鎖遺伝子の両端にはEcoRI部位を付加したものをpKCRDのEcoRI部位に挿入し、さらにこのプラスミドのSalI部位にもDHFR遺伝子を挿入する。両プラスミドをCHOdhfr〔Urlaub G.& Chasin L.A.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,77,4216(1980)〕等の細胞にリン酸カルシウム法で導入し、ヌクレオチドを含まないαMEM培養液等で増殖する細胞から、さらに抗体を産生する細胞を選別することによって得ることができる。抗体は、これらの細胞を培養した培養液から、プロテインAをセルロファイン、アガロース等の支持体に結合させたカラム等に吸着し、溶出させること等によって精製される。
本発明の癌とは、例えば単鎖抗体(scFv)やwhole抗体あるいはそのフラグメントとして抗体を使用する場合、該抗体が反応性を有する可能性のある癌種が挙げられる。好ましくは胃癌、大腸癌、食道癌、肺癌、乳癌、肝癌、卵巣癌、子宮癌又は膵癌が挙げられる。さらに好ましくは、胃癌、乳癌、大腸癌又は食道癌が挙げられる。
本発明の医薬組成物としては、リガンド単独、あるいはリガンドに作用性物質を結合したターゲッテイング療法剤が挙げられるが、好ましくは、ターゲッティング療法剤が挙げられる。ターゲッティング療法剤は、リガンドに作用性物質が直接結合したもの、リガンドに作用物質が水溶性高分子を介して結合したもの、リガンドに作用性物質を含有した微粒子が結合したものが挙げられる。微粒子としてはマイクロスフェア、ミセル又はリポソームが挙げられるが、好ましくはリポソームが挙げられる。リポソームの中には医薬品や標識剤が封入されていても良い。これらに封入する医薬品としては、アドリアマイシン、ダウノマイシン、ビンブラスチン、シスプラチン、マイトマイシン、ブレオマイシン、アクチノマイシン、フルオロウラシル(5−FU)の抗腫瘍剤又はそれらの薬学的に許容しうる塩及び誘導体が挙げられる。また、リシンAやジフテリアトキシンの毒素タンパク質及びそれをコードするDNA、TNFのサイトカイン遺伝子をコードするDNA又はアンチセンスDNAにヌクレオチド類が挙げられる。特に好ましくはアドリアマイシンが挙げられる。また、これらに封入する標識剤としては放射性元素、例えばインジウム、テクネシウムのイメージング薬剤や、ホースラディシュパーオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼの酵素、ガドリニュームのMRI造影剤、ヨーソのX線造影剤、CO2の超音波造影剤、ユーロピウム誘導体、カルボキシフルオレッセインの蛍光体又はN−メチルアクリジウム誘導体の発光体が挙げられる。水溶性高分子誘導体としては、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリグリセリン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸又はポリアミノ酸の合成高分子が挙げられ、好ましくはポリエチレングリコールが挙げられる。該ターゲッティング療法剤は癌組織又は癌細胞をターゲットとすることがより好ましい。この場合の癌としては、胃癌、大腸癌、食道癌、肺癌、乳癌、肝癌、卵巣癌、子宮癌、又は膵癌が挙げられる。好ましくは、胃癌、乳癌、大腸癌又は食道癌が挙げられる。
本発明において、抗原を認識するリガンドの当該抗原への結合活性は、例えば、抗原を認識するリガンドを工業的に用いる場合に、当該リガンドの品質の恒常性を確保するためなどに測定されるが、この目的に限定されない。また、測定方法としては、例えば、一定量の抗体を含む標準溶液からマイクロプレートリーダー等を用いて検量線を作成し、試験溶液に含まれる抗体の抗原に対する結合活性を測定する方法等があるが、この測定方法に限定されない。
結合活性を力価で示す場合には、0.5×10から2.0×10単位/mgの範囲が挙げられるが、好ましくは、0.7×10から1.5×10単位/mg、0.7×10から1.3×10単位/mg又は0.8×10から1.2×10単位/mgの範囲が挙げられる。より好ましくは、0.8×10から1.2×10単位/mgが挙げられる。
リガンドが結合した作用性物質及び水溶性分子誘導体の複合体は、例えば、EP公開第526700号公報又はEP公開第520499号公報に記載の方法により製剤化することができ、該複合体を、癌等の各種疾患の治療のために、血管内投与、膀胱投与、腹腔内投与、局所投与等の方法で患者に投与することができる。投与量は有効成分の抗腫瘍性物質の種類に応じて適宜選択することができるが、例えばドキソルビシンを封入したリポソームを投与する場合には、有効成分量として50mg/kg以下、好ましくは10mg/kg以下、より好ましくは5mg/kg以下で用いることができる。
【実施例】
以下、本発明を実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例には限定されない。
実施例1 抗体の反応性比較及び免疫沈降による細胞表面抗原の検出
MKN45の皮下移植による腫瘍細胞の調製
ヒト胃癌細胞MKN45(日本免疫生物研究所)を牛胎児血清(シグマ社)を10%含む液体培地eRDF(ギブコ社)で培養し、細胞を回収して5週齢前後のBALB/Cヌードマウス(日本クレア)の背部皮下に移植した。形成された皮下腫瘍組織を摘出し、時田らの方法[癌の臨床、32,1803(1986)]に従って組織からの細胞の単離を行った。組織をゴム板の上に敷いたテフロンシートにのせ、カミソリで叩いて細切し、ナイロンメッシュ(FALCON社 セルストレーナー)を通して結合組織を除去した。濾液である細胞懸濁液を1500回転5分間遠心し(トミー卓上遠心機 LC06−SP)、浮遊した脂肪と懸濁した壊死部分を捨て、沈査を繰り返し洗浄した。
フローサイトメトリーによるGAH抗体の反応性比較
MKN45の培養細胞、あるいはMKN45の皮下移植により形成した固形腫瘍細胞(以下「腫瘍細胞」という)に、フルオレッセインイソチアネート(FITC:シグマ社)で標識した、EP公開第520499号公報及びEP公開第1174126号公報に記載のGAH抗体を20μg/mlの濃度で4℃1時間反応させ、リン酸緩衝化生理的食塩水(PBS)で1回洗浄した。プロピジウムアイオダイド(PI:シグマ社)を含むPBS中でフローサイトメータ(FACScan:ベクトンディッキンソン社)を用いて解析した。PI陽性細胞すなわち死細胞はゲーティンク操作により解析の対象から除外した。FITC蛍光強度を表す指標であるFL1の平均チャンネル数を求めて、MKN45の培養細胞と腫瘍細胞の比較を行った。
結果を第1図に示す。縦軸は平均チャンネル数から、抗体を含まない場合の値をバックグラウンド値(BG)として差し引いた値を示す。Eは10のべき乗を示す。
GAH抗体は、MKN45の培養細胞に比べて、腫瘍細胞に対して約18倍という、より強い反応性を示した。
この結果より、培養細胞と比較して、GAH抗体は腫瘍細胞に対してより高い反応性を有することが明らかとなった。
細胞の表面のビオチン標識及び可溶化上清の調製
MKN45の培養細胞、あるいは腫瘍細胞に、ビオチン試薬(sulfoNHS−biotin:PIERCE社)1mg/mlPBS溶液を加え、4℃で30分振とうしながらインキュベートした。その後5mMグリシン(ナカライ社)を含むPBS、ついでPBSで洗浄した。細胞のペレットに150mMNaCl、1mMEDTAを含む20mMトリス(シグマ社)塩酸緩衝液PH7.5、(TNEバッファー)に1%NP40、アプロチニン(シグマ社)、メシル酸ナファモスタット(鳥居薬品社)を含む溶液を加えて撹拌、超音波処理し、氷上1時間放置後、15000rpm10分間(トミー小型冷却遠心機MRX−150)遠心して、上清を細胞の可溶化上清とした。
免疫沈降及びbiotin標識バンドの検出
PBSで平衡化したプロテインAセファロースCL4B(ファルマシア社)にGAH抗体、又は健常人血清由来ヒト免疫グロブリン(ヒトIgs)(スキャンティボディズラボラトリー社から入手したヒト血清からプロテインAカラム(レプリジェン社)を用いて精製した)溶液を加えて抗体を樹脂に結合させたものをPBSで洗浄し、細胞の可溶化上清を添加して4℃一晩振とうしながらインキュベートした。遠心して上清を除去した後、樹脂を0.1%NP40(ナカライ社)を含むTNEバッファーで3回洗浄し、SDSポリアクリルアミド電気泳動(SDS−PAGE)用サンプルバッファーで抽出してSDS−PAGE(グラジエントゲル4から12%)を行い、PVDF膜(ミリポア社)にウエスタンブロッティングを行った。タンパク質が転写された膜を、0.1%ゼラチン(ナカライ社)及び0.05%Tween20(ナカライ社)を含むPBSで室温1時間インキュベートした後、biotin標識タンパク質を検出するためにベクトステインエライトABC(Vectastain EliteABC:ベクター社)で室温1時間反応させた。発色にはコニカイムノステインHRP1000(コニカ社)を用いた。レーン1に用いたサンプルは腫瘍細胞のGAH抗体による免疫沈降物、レーン2に用いたサンプルは培養細胞のGAH抗体による免疫沈降物、レーン3に用いたサンプルは腫瘍細胞のヒトIgsによる免疫沈降物、レーン4に用いたサンプルは培養細胞のヒトIgsによる免疫沈降物である。
レーン1の腫瘍細胞のGAH抗体による免疫沈降物に対して、GAH抗体に特異的なバンドが分子量約200kdの位置に検出された。レーン2の培養細胞のGAH抗体による免疫沈降物に対しては、相当する位置にバンドはほとんど検出されなかった。
この結果より、GAH抗体は、約200kdのタンパク質に反応性を有することが明らかになった。さらに、この約200kdのタンパク質は、腫瘍細胞表面に露出していることが示された。
200kdタンパク質のアミノ酸配列解析
免疫沈降で特異的に検出された200kdタンパク質をポリアクリルアミドゲルから切り出し、リジルエンドペプチダーゼ(和光純薬社)処理後逆相クロマトグラフィーで得られたピークについてアミノ酸配列解析を行った(配列表の配列番号9から16)。
これらの配列を元にホモロジー検索を行ったところ、ヒト非筋肉型ミオシンA鎖(nmMHCA)とこの200kdのタンパク質は一致した(配列表の配列番号17)。
この結果より、200kdのタンパク質は、nmMHCAであることが明らかになった。
抗非筋肉型ミオシン重鎖(nmMHC)抗体による検出
上述の免疫沈降サンプルをSDS−PAGE、ウエスタンブロッティングを行い、0.1%ゼラチン及び0.05%Tween20を含むPBSで室温1時間インキュベートした後、抗nmMHCウサギポリクローナル抗体(Biomedical Technologies社)溶液中で室温1時間反応さた。抗体の陰性コントロールとして、ノーマルウサギ免疫グロブリン(ノーマルウサギIgG:バイオジェネシス社)を用いた。2次抗体として抗ウサギIgGのペルオキシダーゼ標識体(カペル社)の溶液中で反応した後、コニカイムノステインHRP1000にて発色させた。レーン1、2及び3に用いたサンプルは腫瘍細胞のGAH抗体による免疫沈降物であり、レーン4、5及び6に用いたサンプルは培養細胞のGAH抗体による免疫沈降物であった。レーン1及び4はVectastainEliteABCで検出、レーン2及び5は抗nmMHC抗体で検出、レーン3及び6はノーマルウサギIgGで検出したものである。
レーン1、2及び5でバンドが検出された。
この結果より、培養細胞及び腫瘍細胞いずれにおいてもGAH抗体により約200kdのタンパク質すなわちnmMHCAが認識され、腫瘍細胞では、nmMHCAが細胞表面に存在することが明らかとなった。
実施例2 nmMHCA強制発現株を用いた検証
nmMHCA発現ベクターの作製
nmMHCA遺伝子であるHA1.0とHALES(Robert S.Adelsteinより提供)を、制限酵素EcoRI(タカラバイオ社)にて切断した。一方、nmMHCA遺伝子を組込む側のほ乳類細胞遺伝子発現用プラスミドベクターpEF1/Myc−HisB(インビトロジェン社)も同様に制限酵素EcoRI切断を行い、次いでBAPにて脱リン酸化処理を行った。nmMHCA遺伝子断片と、pEF1/Myc−HisB断片をライゲーションし、トランスフォーメーションして、HA1.0を組み込んだもの(pEF1B−HA1.0と名付けた)、HALESを組み込んだもの(pEF1B−HALESと名付けた)を得た。nmMHCA全長ほ乳類細胞発現用ベクターの調製は、pEF1B−HA1.0を鋳型として、配列表の配列番号18のプライマーと配列表の配列番号19のプライマーを用い、PCR反応(Advantage cDNA PCR kit クロンテック社)を行った。このPCR産物をKpnI−HA1.0−SpeIと名付けた。一方で、pEF1B−HALESを制限酵素KpnIとSpeI(いずれもタカラバイオ社)にて切断した。KpnI−HA1.0−SpeIをpEF1B−HALES制限酵素切断物に挿入し、次いで大腸菌の形質転換を行った。得られたクローンのプラスミドのマッピングを行って、目的であるnmMHCA全長ほ乳類細胞発現用ベクターが作製されたことを確認した。
COS−7強制発現細胞株の作製
ほ乳類細胞遺伝子発現用プラスミドベクターpEF1/Myc−HisB(インビトロジェン社)にnmMHCA遺伝子を組み込み、培養したアフリカミドリザル腎臓由来細胞株COS−7細胞(東北大学加齢研究所医用細胞資源センターより入手)に、ポリフェクト(PolyFect:キアゲン社)を用いたリポフェクション法により遺伝子導入を行った。遺伝子導入した細胞を37℃、5% CO存在下にて培養し、48時間後に一過性発現細胞株として免疫沈降の実験に用いた。安定発現株は、遺伝子導入後、37℃ 5% CO存在下にて培養し、ジェネテシンG418(シグマ社)により安定発現株の薬剤選択を行うことで樹立した。また、nmMHCA安定発現株を用いた試験を行う際に、遺伝子導入操作、薬剤選択操作による細胞株への影響を考慮するため、ネガティブコントロールとしてCOS−7のmock細胞を作製した。mock細胞は、nmMHCA遺伝子を組み込んだ際に使用したプラスミドの、プラスミド部分(pEF1/myc−HisB)のみを用いて、COS−7細胞にリポフェクション法により遺伝子導入し、薬剤選択を行うことで作製した。
HCT−15安定発現株の作製
COS−7と同様な方法で、ヒト大腸癌細胞株HCT−15細胞(東北大学加齢研究所医用細胞資源センターより入手)を用いたnmMHCA遺伝子導入安定発現株の作製を行った。HCT−15においてもmock細胞を作製した。
GAH抗体による免疫沈降
COS−7及びHCT−15のnmMHCA一過性発現細胞と非導入細胞の各々をスクレイパーで回収し、0.5mlの可溶化バッファーを加えて超音波処理(出力2、頻度50%)を5秒間行い、細胞を破砕した。氷上1時間放置した後、マイクロチューブ遠心機にて15000rpm 10分遠心分離し可溶化上清を得た。得られた上清に含まれるタンパク質濃度をそろえるため、実施例1と同様にBCAタンパク質解析キット(BCA protein Assay kit:ピアース社)を用いてタンパク質定量を行った。免疫沈降についても実施例1と同様に行い、免疫沈降物及び、比較のため可溶化上清についてSDS−PAGE(ゲル濃度6%)を行い、ウエスタンブロッティングを行った。膜をブロッキングバッファー(0.1%ゼラチン及び0.05%Tween20を含むPBS、0.05% sodium azide(和光純薬社))中で室温1時間インキュベートし、抗nmMHC抗体をブロッキングバッファーで100倍に希釈して室温1時間反応させた。反応後PBST(0.05% Tween20を含むPBS)で室温5分間ずつ3回洗浄し、抗ウサギIgG−HRP標識抗体をHRP標識体希釈バッファー(0.1%ゼラチンを含むPBS)で1500倍に希釈したものを室温1時間反応させた。反応後PBSTで室温5分間ずつ3回洗浄し、発光基質ECL(アマシャム社)を用いてバンドを検出した。レーン1、2及び3に用いたサンプルはnmMHCA導入細胞で、レーン1は可溶化上清、レーン2はGAH抗体による免疫沈降物、レーン3はヒトIgsによる免疫沈降物である。またレーン4、5及び6に用いたサンプルはmock細胞で、レーン4は可溶化上清、レーン5はGAH抗体による免疫沈降物、レーン6はヒトIgsによる免疫沈降物である。
レーン1及び2において約200Kdのバンドが確認された。
この結果より、nmMHCA一過性発現株のみにおいて、GAH抗体特異的にnmMHCAが免疫沈降されることが明らかになった。
ウエスタンブロッティングによるnmMHCA安定発現株取得確認
COS−7、HCT−15共に薬剤選択後の安定発現株及びmockを、スクレイパーにより回収し、SDS−PAGEサンプルバッファーを加えて超音波処理行い、細胞を破砕した。調製したサンプルのタンパク質濃度をBCA protein Assay kitにて定量し、これについてSDS−PAGE(ゲル濃度6%)、ウエスタンブロット、及び抗nmMHC抗体による検出をおこなった。
COS−7のmock細胞ではnmMHCAが検出限界以下であるのに対し、nmMHCA安定導入株FL11ではnmMHCA分子量相当の約200kdのバンドが確認された。また、HCT−15についても、mock細胞ではnmMHCAが検出限界以下であるのに対し、nmMHCA安定発現株FL1及びFL2においてnmMHCAが検出され、発現量はFL1にくらべて高いことが示された。
nmMHCA発現細胞株を用いたヌードマウス移植癌細胞切片の免疫染色
HCT−15の各種nmMHCA安定発現株をマトリゲル(ベクトンディッキンソン社)に懸濁し、ヌードマウス背部皮下に5 x 10cells/spotとなるよう2箇所ずつ移植した。腫瘍の生着性を確認した後摘出し、一部を10%ホルマリン−PBSに浸して奈良病理研究所にてパラフィン切片の作製及びヘマトキシリン−エオジン(HE)染色を行った。
切片はキシレン、エタノールを用いて脱パラフィンし、10mM sodium citrate,pH6.0 bufferに浸してマイクロウェーブを照射し(600W5分を3回)、30分間室温放置して空冷した後5%(w/v)BSA−PBSAz溶液に1時間浸した。ビオチン標識F(ab’)化GAH抗体66μg/ml、あるいはビオチン標識抗nmMHC抗体100μg/mlと37℃で2時間インキュベートし、続いてストレプトアビジンPerCP(ベクトンディッキンソン社)溶液2.5倍希釈液と氷冷遮光下で30分反応させた。反応終了後、オリンパス落射蛍光顕微鏡BX−50を用いて各切片の同視野におけるPerCPの赤色蛍光を観察した。
結果を第2図に示す。GAH抗体は、対照として用いたmock細胞の組織切片(Mock)に比べ、nmMHCA安定発現株の組織切片(FL1、FL2、FL7)に対して、強い赤色蛍光を示した。さらに、抗nmMHC抗体は、nmMHCA安定発現株の組織切片のみに明確な赤色蛍光が認められた。また、抗nmMHC抗体の赤色蛍光像は、GAH抗体の赤色蛍光像と類似していた。
この結果より、nmMHCAの導入により組織切片でのGAHの反応性が上昇することが示された。
nmMHCA安定発現細胞株を用いたGAH抗体生細胞反応
nmMHCA安定発現株をマトリゲルに懸濁し、ヌードマウス背部皮下に5 x 10cells/spotとなるよう2箇所ずつ移植した。腫瘍の生着性を確認した後摘出し、細切して腫瘍細胞を採取した。FITC標識GAH抗体、あるいはFITC標識ヒトイムノグロブリンをヒト血清(スキャンティボディズラボラトリーズ社)で33μg/mlとなるよう希釈した。またFITC標識抗nmMHC抗体、あるいはFITC標識ウサギIgGをヒト血清で50μg/mlとなるよう希釈した。これらの抗体液を各腫瘍細胞と良く混和して遮光氷冷下で1時間反応させた。反応終了後0.1%sodium azideを含むPBSにて細胞を洗浄し、ベクトンディッキンソンBD−LSRを用いて以下の通りフローサイトメトリー解析を行った。細胞を5μg/mlPIを含むFACSflow(フローサイトメーター付属バッファー)溶液に懸濁し、実施例1と同様にPI陽性細胞すなわち死細胞はゲーティング操作により解析の対象から除外し、生細胞集団における細胞1個当たりのFITC蛍光強度の平均値を求めた。同条件下で測定した結合FITC分子数既知の標準蛍光ビーズ(フローサイトメトリースタンダーズ社)の蛍光強度の平均値より検量線を作成し、各試料の蛍光強度平均値を結合FITC量に換算した。さらに得られた値を各FITC標識抗体のF/P値で除して抗体結合数とした。
結果を第3図及び第4図に示す。COS−7及びHCT−15共にnmMHCA安定発現株においてmock細胞株に比べてGAH反応性が増加していることが示された。
この結果より、nmMHCAを導入することにより、移植腫瘍細胞の表面に対するGAHの反応性が上昇することが示された。
実施例3 抗nmMHCAペプチド抗体による細胞表面反応性の確認
nmMHCAのペプチド部分配列である配列表の配列番号20、21及び22のペプチドを合成し、Keyhole Limpet Haemocyanin(KLH)に結合させてウサギに免疫し、各ペプチドに対するポリクローナル抗体を作成した。抗体は各ペプチドをCNBrセファロース(アマシャムバイオサイエンス社)に固定化したアフィニティカラムを用いて精製した。精製した各ポリクローナル抗体及びコントロール用のノーマルウサギ免疫グロブリン(ノーマルウサギIgG:バイオジェネシス社)をFITCで標識し、各抗体を50μg/mlに調製し、MKN45の培養細胞及びMKN45の皮下移植により形成した腫瘍細胞に4℃1時間反応させた。PBSで1回洗浄した後、PIを含むPBS中でフローサイトメータ(LSR:ベクトンディッキンソン社)を用いて解析した。PI陽性細胞すなわち死細胞はゲーティンク操作により解析の対象から除外した。FITC蛍光強度を表す指標であるFL1の平均チャンネル数(mean値)を求めて各抗体間で比較した。
結果を第5図に示す。A、B及びCは各抗nmMHCAペプチド抗体を示し、Igはコントロール用のノーマルウサギ免疫グロブリンを示す。縦軸は、平均チャンネル数(mean値)から細胞のみの場合のバックグラウンド値(BG)を差し引いた値を示す。図中の凡例の「培養」はMKN45培養細胞、「移植」はMKN45の皮下移植により形成した腫瘍細胞を示す。
それぞれの抗体でMKN45培養細胞に対してMKN45の皮下移植により形成した腫瘍細胞でどの程度反応が上昇しているか、コントロール用のノーマルウサギ免疫グロブリンの反応をバックグラウンド値として差し引いて計算したところ、抗体A及び抗体Bで3倍以上、また、抗体Cでは10倍以上の上昇が認められた。
この結果より、nmMHCAペプチドのうち、配列表の配列番号20、21及び22で示した部分配列は、細胞表面に局在していることが明らかとなった。さらに、MKN45の皮下移植により形成した腫瘍細胞では、MKN45培養細胞に比べて、配列表の配列番号20、21及び22で示した部分配列の存在量が増加していることが明らかとなった。
実施例4 抗原量と抗腫瘍活性の確認
癌細胞培養株
ヒト大腸癌細胞株Caco−2、DLD−1及びSW620はAmerican Type Culture Collectionより入手した。ヒト大腸癌細胞株WiDr−Tc及びヒト食道癌細胞株TE−8は東北大学加齢研究所医用細胞資源センターより入手した。ヒト胃癌細胞株HSC−3,MKN−1,MKN−45及びヒト結腸癌細胞株SW837は免疫生物研究所から入手した。B37細胞株はヒト胃癌より、公知の方法により樹立した。
癌細胞表面の抗原量測定
各種癌細胞株を実施例1の記載の方法に従って、皮下腫瘍移植由来癌細胞を調整した。F(ab’)化GAH抗体FITCで標識し、F(ab’)化GAH抗体の濃度を50μg/mlとし氷上で1時間反応すること以外は実施例1の方法に従って、各種癌細胞に対する反応量をフローサイトメトリーで検出した。さらに、蛍光検出量を癌細胞あたりの抗体反応量(抗原量)として表わす為に、FITC含量の分かっている蛍光ラテックス(Flow Cytometry Standard)を標準として用い定量化した。
イムノリポソーム及びリポソームの作製
F(ab’)化GAH抗体を用い、EP公開第1174126号公報の方法に従って抗体結合リポソーム(イムノリポソーム)を作製した。すなわちジパルミトイルフォスファチジルコリン/コレステロール/ε−マレイミドカプロイルジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミン(18/10/0.5 モル比)からなる脂質混合物、分子量5000のポリエチレングリコールを2本有する同公報記載のポリエチレングリコール誘導体(PEG)及びF(ab’)化GAH抗体を用いドキソルビシン(DXR)封入イムノリポソームを形成した。得られたイムノリポソームは粒径が125nmから160nmであり、F(ab’)化GAH抗体/PEG/DXR/脂質の量比は0.2:0.8:1:10(重量比)であった。
抗原量とin vivo抗腫瘍活性の相関
各種癌細胞をヌードマウス皮下に移植し、腫瘍塊を形成した。腫瘍塊を数mmに細切し、別途用意したヌードマウスの腎臓の皮膜下に移植(Bennett et al.,1985 Cancer Res 45:4963−4969)した。翌日よりDXR、イムノリポソームを(DXR換算量として3mg/kg)尾静脈より1週間おきに3回投与した。22日目に解剖し、摘出腫瘍の重量を測定した。陰性対照には生理食塩水投与群を用いた。効果の指標として腫瘍増殖抑制率を以下の式によって算出した。
腫瘍増殖抑制率(%)=
(1−薬剤処置群の平均腫瘍重量/陰性対照群の平均腫瘍重量)x100
結果を第6図に示す。縦軸は腫瘍増殖抑制率(%)を横軸は癌細胞あたりの抗原量を示す。図中、各数字は下記癌細胞株を表わす。1,Caco−2;2,DLD−1;3,HSC−3;4,SW620;5,SW837;6,MKN−1;7,B−37;8,MKN−45;9,TE−8;10,WiDr−Tc.
その結果、癌細胞あたりの抗原量が10/細胞程度までの癌細胞に対しては、抗原量が増加するにしたがい、腫瘍増殖抑制率が向上し、それ以上の抗原量を示す癌細胞に対しては、抗腫瘍効果はほぼプラトーに達していることが示された。
実施例5 F(ab’)化GAH抗体の結合活性試験
MKN45固定化プレートの調製
培養液の入ったフラスコにMKN45細胞株を接種し、COインキュベーター内で培養を行う。フラスコのプレート面が細胞で満たされた状態となったら、培養液を取り除き、トリプシン溶液(トリプシン1:250(ディフコ社)2.5g及びNaEDTA(シグマ社)0.2gをPBSで溶かし、1000mLとする)を添加して細胞を剥離させ、遠心管にとる。遠心後、上清を除き、新鮮な培養液に懸濁する。細胞数を計測し、約4×10個/mLとなるように培養液に懸濁し、96ウェルプレートの各ウェルに100μLずつ加え、2日間培養する。ウェルの培養液を除き、PBSを各ウェルに200μLずつ加えて、液を除く。次に、パラホルムアルデヒド溶液を各ウェルに150μLずつ加えて、室温で1時間静置後、ウェルのパラホルムアルデヒド溶液を除く。PBSを各ウェルに少しずつ加えて、液を除く操作を5回行う。BSA溶液(シグマ社)を各ウェルに200μLずつ加え、4℃で保存する。
標準溶液及び試料溶液の調製
F(ab’)化GAH抗体を1×10単位/mL含む標準原液に、ウシ血清アルブミン(シグマ社)1gをPBSで希釈した希釈液を加えて、標準溶液1から6を調製する。また、試験溶液のタンパク質含量に従い、上述の希釈液を用いて標準溶液と同等のタンパク質濃度の試料溶液1から6を調製する。

操作方法
プレートのウェルの液を除き、PBS200μLを各ウェルに加え、液を除く操作を5回行う。標準溶液及び試料溶液を1ウェルあたり50μLずつ添加し、37℃で2時間静置後、液を除く。PBS200μLを各ウェルに加え、液を除く操作を5回行う。
次に西洋ワサビペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ヒトκ鎖抗体溶液(カペル社)50μLを、各ウェルに加えて37℃で1時間静置する。液を除き、洗浄液200μLを各ウェルに加えて、37℃で5から10分間静置後、液を除く。更に、洗浄液200μLを各ウェルに加えて液を除く操作を5回繰り返す。
ο−フェニレンジアミン溶液(シグマ社)100μLを、各ウェルに加え、遮光して室温で1から2分間静置する。停止液100μLを各ウェルに加え、穏やかに振り混ぜる。
マイクロプレートリーダーを用いて波長490nm及び650nmにおける各ウェルの吸光度A1及びA2を測定し、(A1−A2)を求める。
横軸に標準溶液の濃度、縦軸にその吸光度(A1−A2)をとり、検量線を求める。各試料溶液の吸光度から、各試料溶液1mL当たりの力価(単位/mL)を求め、本品1mg当たりの力価(単位/mg)を算出する。
その結果、結合活性の力価が0.8から1.2×10単位/mgのF(ab’)化GAH抗体を用いることが有用であることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、固形腫瘍において細胞表面に露出する部分を含む抗原の提供が可能である。
なお、本出願は、日本特許出願 特願2002−291953号を優先権主張して出願されたものであり、その全体が引用により援用される。
【配列表】












【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の腫瘍塊形成時に該細胞表面に露出する部分を含む抗原。
【請求項2】
腫瘍塊が、培養癌細胞の皮下移植により形成した固形腫瘍である請求項1に記載の抗原。
【請求項3】
固形腫瘍において、該固形腫瘍の培養細胞と比較してその存在量が増加している請求項1又は2に記載の抗原。
【請求項4】
固形腫瘍において、該固形腫瘍の培養細胞と比較して、その細胞表面の存在量が増加している請求項1から3のいずれかに記載の抗原。
【請求項5】
細胞骨格タンパク質又はその変異体である請求項1から4のいずれかに記載の抗原。
【請求項6】
ミオシン又はその変異体である請求項1から5のいずれかに記載の抗原。
【請求項7】
非筋肉型ミオシン重鎖タイプA又はその変異体である請求項1から6のいずれかに記載の抗原。
【請求項8】
非筋肉型ミオシン重鎖タイプA又はその変異体の一部である請求項1から7のいずれかに記載の抗原。
【請求項9】
非筋肉型ミオシン重鎖タイプA又はその変異体のタンパク質配列のC末端側配列である請求項1から8のいずれかに記載の抗原。
【請求項10】
タンパク質配列のC末端側配列が配列表の配列番号17のN末端側から、600残基以降1960残基までの配列である請求項9に記載の抗原。
【請求項11】
タンパク質配列のC末端側配列が配列表の配列番号20、21又は22のいずれかである請求項9に記載の抗原。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の抗原を認識するリガンド。
【請求項13】
抗体である請求項12に記載のリガンド。
【請求項14】
モノクローナル抗体である請求項12又は13に記載のリガンド。
【請求項15】
モノクローナル抗体が、ヒトモノクローナル抗体である請求項12から14のいずれかに記載のリガンド。
【請求項16】
癌反応性のモノクローナル抗体である請求項12から15のいずれかに記載のリガンド。
【請求項17】
癌が、胃癌、乳癌、大腸癌又は食道癌である請求項16に記載のリガンド。
【請求項18】
重鎖の超可変領域に、配列表の配列番号1、2及び3のアミノ酸配列を含み、軽鎖の超可変領域に、配列表の配列番号4、5及び6のアミノ酸配列を含む請求項12から請求項17のいずれかに記載のリガンド。
【請求項19】
配列表の配列番号7のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列表の配列番号8のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む請求項12から請求項18に記載のリガンド。
【請求項20】
請求項12から19のいずれかに記載のリガンドを含有する医薬組成物。
【請求項21】
ターゲッティング療法剤である請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
癌組織又は癌細胞をターゲットとする請求項20又は21のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項23】
抗癌剤、抗腫瘍性タンパク質、酵素、遺伝子又は治療用アイソトープを含有する請求項20から22のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項24】
抗癌剤である請求項20から23のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項25】
癌が、胃癌、乳癌、大腸癌又は食道癌である請求項20から24のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項26】
リポソームを含有する請求項20から25のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項27】
請求項12から19のいずれかに記載のリガンドを含有する標識剤。
【請求項28】
癌組織又は癌細胞を特異的に標識する請求項27に記載の標識剤。
【請求項29】
癌が、胃癌、乳癌、大腸癌又は食道癌である請求項27又は28に記載の標識剤。
【請求項30】
蛍光剤、酵素、アイソトープ又はMRI造影剤を含有する請求項27から29のいずれかに記載の標識剤。
【請求項31】
請求項1から11のいずれかに記載の抗原を発現している癌疾患患者に、当該疾患の治療の為に請求項20から26のいずれかに記載の医薬組成物を投与する方法。
【請求項32】
請求項27から30のいずれかに記載の標識剤により標識される細胞を有する癌疾患患者に、当該疾患の治療の為に請求項20から26のいずれかに記載の医薬組成物を投与する方法。
【請求項33】
請求項1から11のいずれかに記載の抗原を認識するリガンドの当該抗原への結合活性が、0.5×10単位/mgから2.0×10単位/mgである請求項12から19のいずれかに記載のリガンド。
【請求項34】
結合活性が、0.7×10単位/mgから1.5×10単位/mg、0.7×10単位/mgから1.3×10単位/mg又は0.8×10単位/mgから1.2×10単位/mgである請求項12から19のいずれかに記載のリガンド。
【請求項35】
結合活性が、0.8×10単位/mgから1.2×10単位/mgである請求項12から19のいずれかに記載のリガンド。

【国際公開番号】WO2004/089984
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【発行日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−570567(P2004−570567)
【国際出願番号】PCT/JP2003/012732
【国際出願日】平成15年10月3日(2003.10.3)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
テフロン
【出願人】(000006725)三菱ウェルファーマ株式会社 (92)
【Fターム(参考)】