説明

抗原特異的寛容の誘導のための組成物および方法

本発明は、キャリア粒子を利用して、抗原特異的寛容を誘導するように、抗原ペプチドおよびタンパク質を免疫系に提示する。キャリア粒子は、免疫寛容効果を誘発するように設計される。本発明は、自己免疫疾患、移植拒絶およびアレルギー反応などの免疫関連障害の処置に有用である。一実施形態では、本発明は、アポトーシスシグナル伝達分子および抗原性ペプチドが付着したキャリア粒子を含む、抗原特異的寛容を誘導するための組成物を提供する。別の実施形態では、本発明は、抗原性ペプチドが付着したキャリア粒子を含む、抗原特異的寛容を誘導するための組成物を提供する。好ましい実施形態では、キャリア粒子はポリスチレン粒子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(相互参照)
本出願は、2009年1月20日に出願された米国仮出願番号61/145,941の利益を主張し、上記米国仮出願は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
免疫応答の開始を導く最初のステップは、主要組織適合複合体(MHC)分子と結合して提示される抗原断片の認識である。抗原の認識は、抗原が外来細胞もしくは組織の表面上においてMHCと結合するときに直接行うこともでき、または抗原がプロセシングを受け、次いで専門的抗原提示細胞(APC)の表面上でMHCと結合するときに間接的に行うこともできる。そのような抗原−MHC複合体を認識する休止中のTリンパ球は、これらの複合体とT細胞受容体の結合を介して活性化される(非特許文献1;非特許文献2)。生物は、一般に、自己を構成する抗原に免疫応答を示さない。これは自然または先天的な免疫学的寛容と呼ばれる。その一方で、抗原が生物にとって本来異種である場合でも、投与される時期、投与のされ方および投与される形態に応じて、抗原は、抗原の投与に際し示される免疫応答を起さないことがある。これは獲得寛容と呼ばれる。T細胞がさらなる共刺激シグナルを受けずにT細胞受容体を通じてのみ刺激された場合、それは不応答性となるか、アネルギーとなるか、または死滅し、その結果免疫応答が下方調節され、その抗原に対して寛容となる(非特許文献3;非特許文献4)。しかし、T細胞が共刺激と称される第2のシグナルを受ける場合、T細胞は増殖するように誘導され、機能的となる(非特許文献5)。自己/非自己の認識は、抗原提示細胞(例えば、樹状細胞またはマクロファージ)とTリンパ球との相互作用のレベルで起こると考えられる。
【0003】
望ましくない免疫応答に関連する障害(例えば、自己免疫疾患、移植片拒絶)における一般的な長期の免疫抑制についての従来の臨床的戦略は、広く作用する免疫抑制薬、例えば、シグナル1ブロッカー(例えばシクロスポリンA(CsA)、FK506(タクロリムス)およびコルチコステロイドなど)の長期投与に基づいている。これらの薬物を高用量で長期間使用すると、毒性の副作用を有する可能性もある。さらに、これらの薬物に耐容性を示し得る患者でも、生涯にわたる免疫抑制薬療法が必要になると、腫瘍、重篤な感染、腎毒性および代謝障害を含めた重度の副作用の著しいリスクを有する(Penn、2000年;Fishmanら、1998年)。
【0004】
抗原またはペプチドの細胞結合を含めて、抗原特異的寛容を誘導する方法が開発されている。例えば、1つの方法において、ペプチド誘導細胞結合寛容では無菌のGMP条件下で末梢血細胞を収集、分離し、疾患特異的自己抗原およびエチレンカルボジイミド(ECDI)結合試薬で処理し、その後ドナー/患者に再注入している。このプロセスはコストがかかり、熟練した専門家によって厳密にモニターされる条件下で行わなければならず、この手技を行うことができる施設の数が限られている。キャリア細胞型として赤血球を使用すると、潜在的な供給源が広がって同種異系ドナーが含まれ、それによって供給源細胞の供給が劇的に増大し、輸血について認定されている任意の設定までこの療法の送達が潜在的に広がる。従来の方法はまた、エチレンカルボジイミド固定自己脾細胞の使用も含む。これらの細胞は、抗原特異的寛容が求められるペプチドを発現する。しかし、十分な数の細胞の収集および調製は、ヒト自己免疫疾患、移植拒絶およびアレルギーまたは超免疫応答の処置へのこの技術の広い利用にとって重大なハードルとなる。これらの手法は、供給源細胞の供給、およびキャリアに対する免疫応答を最小限にする組織型適合の必要性の点で重大な潜在的制限を有する。さらに、EDCIを介して自己抗原を結合する細胞の現地での処理は、重大な品質管理の問題点を提示するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Jenkinsら、J. Exp. Med.、1987年、165巻、302〜319頁
【非特許文献2】Muellerら、J. Immunol.、1990年、144巻、3701〜3709頁
【非特許文献3】Van Goolら、Eur. J. Immunol.、1999年、29巻(8号):2367〜75頁
【非特許文献4】Koenenら、Blood、2000年、95巻(10号):3153〜61頁
【非特許文献5】Lenschowら、Annu. Rev. Immunol.、1996年、14巻:233頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(発明の概要)
免疫寛容の実現は、特定の場合、例えば自己免疫疾患、移植拒絶およびアレルギーまたは超免疫応答において望ましい。したがって、高い初回量の免疫抑制薬の投与を必要とせず、またはキャリアとして生体物質を使用せずに、長期の免疫寛容を効率よく誘導できる改善された手法への必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態では、本発明は、アポトーシスシグナル伝達分子および抗原性ペプチドが付着したキャリア粒子を含む、抗原特異的寛容を誘導するための組成物を提供する。別の実施形態では、本発明は、抗原性ペプチドが付着したキャリア粒子を含む、抗原特異的寛容を誘導するための組成物を提供する。好ましい実施形態では、キャリア粒子はポリスチレン粒子である。一態様では、組成物は被験体において抗原特異的寛容を誘導する。所望される場合、抗原性ペプチドは、自己免疫抗原、移植抗原またはアレルゲンであり得る。例えば、抗原性ペプチドは、ミエリン塩基性タンパク質、アセチルコリン受容体、内因性抗原、ミエリン乏突起膠細胞糖タンパク質、膵ベータ細胞抗原、インスリン、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)、11型コラーゲン、ヒト軟骨(carticlage)gp39、fp130−RAPS、プロテオリピドタンパク質、フィブリラリン、低分子核小体タンパク質、甲状腺刺激因子受容体、ヒストン、糖タンパク質gp70、ピルビン酸デヒドロゲナーゼジヒドロリポアミド(dehyrolipoamide)アセチルトランスフェラーゼ(PCD−E2)、毛包抗原またはヒトトロポミオシンアイソフォーム5である。別の態様では、抗原性ペプチドは、結合体化分子によってキャリアと結合している。さらに別の態様では、アポトーシスシグナル伝達分子は、アネキシン−1、アネキシン−5、ホスファチジルセリン、コレステロール、乳脂肪球−EGF−因子8(MFG−E8)またはFasリガンドなどのスカベンジャー受容体リガンドである。所望される場合、抗原性ペプチドはアポトーシスシグナル伝達分子と融合することができる。さらに別の態様では、キャリアは量子ドットを含む。いくつかの場合では、キャリアは、デンドリマー、リポソームまたはミセルである。キャリアは、直径1000ミクロン未満であるナノ粒子または微粒子(microparticle)でもあり得る。ナノ粒子または微粒子は生分解性であり得る。
【0008】
本発明は、被験体における抗原特異的免疫応答を低減する方法も提供する。その方法は、抗原特異的寛容を誘導するための組成物を前記被験体に投与するステップを含む。一実施形態では、組成物は、アポトーシスシグナル伝達分子および抗原性ペプチドが付着したキャリア粒子を含み、前記組成物は被験体における抗原特異的免疫応答を低減する。別の実施形態では、組成物は、抗原性ペプチドが付着したキャリア粒子を含み、前記組成物は被験体における抗原特異的免疫応答を低減する。好ましい実施形態では、キャリア粒子はポリスチレン粒子である。所望される場合、本方法で利用される抗原性ペプチドは、自己免疫抗原、移植抗原、またはアレルゲンである。いくつかの場合では、自己免疫抗原は、被験体が免疫応答を上昇させる抗原であり得る。
【0009】
本発明は、自己免疫障害を有する被験体を処置する方法であって、ナノ粒子または微粒子を含む組成物を被験体に投与するステップを含む方法をさらに提供する。ナノ粒子または微粒子は、(a)固有のまたは追加のアポトーシスシグナル伝達分子と、(b)病原性抗原とを含む。
【0010】
本発明は、本明細書で開示されている組成物のいずれかを利用することを必要とする被験体における脱髄性障害を改善する方法も提供する。
【0011】
抗原特異的寛容を誘導するためのキットであって、(a)キャリア粒子と、(b)キャリア粒子と結合した抗原性ペプチドとを含むキットが、本発明においてさらに提供される。
【0012】
(参照による組込み)
本明細書において言及されているすべての刊行物および特許出願は、個々の各刊行物または特許出願が参照により組み込まれていることが具体的にかつ個々に示された場合と同程度に、参照により本明細書に組み込まれている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本発明の新規な特徴は、添付の請求の範囲に詳細に記載している。本発明の特徴および効果のより良い理解は、本発明の原則を使用する例示的な実施例について説明している以下の詳細な説明、および添付の図面を参照することで得られる。
【図1】図1は、人工キャリアに結合体化したペプチドを使用する処置後のEAEの臨床徴候についての平均臨床スコアを表す図である。このグラフは、SJLマウスにおいてPLPペプチドと結合したポリスチレン微小球体が、PLP139〜151/CFA誘発性EAEの予防を提供し、活性EAEの再発を抑制することを示すグラフである。
【図2】図2は、マウスにおいてPLP139〜151誘発性EAEを誘導する前または後に、ペプチド結合ポリスチレン微小球体を投与する効果を表す図である。(A)PLP139〜151+フロイント完全アジュバント(CFA)を用いて刺激する前にペプチド結合微小球体を用いて前処置する;(B)PLP178〜191+フロイント完全アジュバント(CFA)を用いて刺激する前にペプチド結合微小球体を用いて前処置する;(C)PLP139〜151+フロイント完全アジュバント(CFA)を用いて刺激した後にペプチド結合微小球体を用いて後処置する。
【図3】図3は、マウスモデルにおける遅延型過敏性耳腫脹症に対してペプチド結合ポリスチレン微小球体を投与する効果を表す図である。
【図4】図4は、CNSへの白血球のCNS浸潤に対してペプチド結合ポリスチレン微小球体を投与する効果を表す図である。白血球マーカーを、脊髄切片からアッセイし、(A)細胞性;(B)CD4CD3細胞、および(C)Foxp3細胞に対して染色した。
【図5】図5は、脾臓を摘出したマウスに対してペプチド結合ポリスチレン微小球体を投与する効果を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(発明の詳細な説明)
抗原特異的寛容を誘導する方法は、自己免疫疾患、移植拒絶およびアレルギーまたは超免疫応答の処置を含めたいくつかの場合において、免疫反応を防止するかまたは小さくするのに望ましい。本発明は、キャリアを利用して、抗原特異的寛容を誘導するように、抗原性ペプチドおよびタンパク質を免疫系に提示する。樹状細胞およびマクロファージなどの抗原提示細胞は、通常は免疫系カスケードを誘発するが、共刺激分子、および/または炎症性サイトカインの分泌の不在下で抗原が提示されたとき、これらの同じ細胞は寛容を誘導することができる(Duperrier, K.ら、「Immunosuppressive agents mediate reduced allostimulatory properties of myeloid−derived dendritic cells despite induction of divergent molecular phenotypes.」、Mol Immunol、42巻(2005年)、1531〜40頁;Piemonti, L.ら、「Glucocorticoids affect human dendritic cell differentiation and maturation.」、J Immunol、162巻(1999年)、6473〜81頁)。本発明のキャリアは、物質(例えば、エチレンカルボジイミドまたはECDI)と結合体化した抗原と結合することができ、これは宿主の細網内皮系の抗原提示細胞(APC)によって、または直接T細胞によって粒子を自己抗原として認識(perceive)させること、寛容を誘導するように、結合した抗原を提示することを可能にする。理論に拘束されるものではないが、この寛容は、免疫細胞刺激に関与する分子(例えば、MHCクラスI/IIまたは共刺激分子)の付随する上方制御を伴わない抗原の提示によって起こる可能性がある。
【0015】
いくつかの実施形態では、下記に記載のものなどの不活性のキャリアは、抗原特異的寛容を誘導し、および/または免疫関連疾患(マウスモデルにおけるEAEなど)の発症を防止し、および/または既存の免疫関連疾患の重症度を小さくするのに有効である。いくつかの実施形態では、本発明の組成物および方法は、T細胞に、T細胞活性化に関連する初期事象に着手させることができるが、T細胞がエフェクター機能を獲得することを可能としない。例えば、本発明の組成物を投与すると、CD69および/またはCD44上方制御などの準活性化(quasi−activated)の表現型を有するT細胞となり得るが、IFN−γまたはIL−17合成の欠如によって示されるように、エフェクター機能を示さない。いくつかの実施形態では、本発明の組成物を投与すると、ナイーブな抗原特異的T細胞から、CD25/Foxp3の表現型を有するものなどの制御性表現型への転換を有さない、準活性化の表現型を有するT細胞となる。
【0016】
いくつかの場合では、キャリアを、寛容原性シグナルを模倣する分子とさらに結合体化する。アポトーシスシグナル伝達分子の付加は、APCに危険でないアポトーシス取込みシグナルを特に伝達すると考えられ、これは宿主に、結合した抗原が自己抗原であることを示し、寛容化反応に至る。他の場合では、キャリア粒子は、分離したアポトーシスシグナル伝達分子を含まない。理論に拘束されるものではないが、抗原特異的ペプチドまたはタンパク質を有するキャリア粒子は、(例えば、脾臓、骨髄またはリンパ節中の)未熟なBおよびT細胞を標的として、寛容に影響を及ぼす。
【0017】
本発明は、自己免疫疾患、移植拒絶およびアレルギー反応などの免疫関連障害の処置に有用である。抗原特異的寛容応答を誘導する細胞基質を運搬できる、合成の生体適合性キャリア系の置換は、製造の容易さ、治療薬の広い利用可能性につながり、試料間の均一性を増大させ、潜在的な処置の場所の数を増大させ、キャリア細胞に対するアレルギー応答の潜在性を劇的に低減し得る。
【0018】
本明細書において、「免疫応答」という用語は、T細胞媒介性および/またはB細胞媒介性の免疫応答を含む。例示的な免疫応答には、T細胞応答、例えば、サイトカイン産生および細胞傷害が含まれる。さらに、免疫応答という用語は、T細胞活性化によって間接的に行われる免疫応答、例えば、抗体産生(体液性応答)およびサイトカイン応答性細胞、例えばマクロファージの活性化を含む。免疫応答に関与する免疫細胞には、B細胞やT細胞(CD4、CD8、Th1およびTh2細胞)などのリンパ球;抗原提示細胞(例えば、樹状細胞、マクロファージ、Bリンパ球、ランゲルハンス細胞などの専門的抗原提示細胞、およびケラチノサイト、内皮細胞、星状細胞、線維芽細胞、乏突起膠細胞などの非専門的抗原提示細胞);ナチュラルキラー細胞;マクロファージ、好酸球、マスト細胞、好塩基球および顆粒球などの骨髄系細胞が含まれる。
【0019】
本明細書において、「アネルギー」、「寛容」、または「抗原特異的寛容」という用語は、T細胞受容体媒介性の刺激に対するT細胞の非感受性を指す。そのような非感受性は一般に抗原特異的であり、抗原性ペプチドに対する曝露が終わった後も持続する。例えば、T細胞におけるアネルギーは、サイトカイン、例えばIL−2の産生の欠如を特徴とする。T細胞アネルギーは、T細胞が抗原に曝露され、第2のシグナル(共刺激シグナル)の不在下で第1のシグナル(T細胞受容体またはCD−3媒介性シグナル)を受けるときに起こる。これらの条件下で、細胞が同じ抗原に再度曝露されると(再曝露が共刺激分子の存在下で起こる場合でも)サイトカインの産生不全となり、その後増殖不全となる。したがって、サイトカインの産生不全は増殖を防止する。しかし、アネルギーT細胞は、サイトカイン(例えば、IL−2)と共に培養した場合に増殖することができる。例えば、T細胞アネルギーは、ELISAまたは指標細胞系統を使用した増殖アッセイによって測定される、Tリンパ球によるIL−2産生の欠如によって観察することもできる。あるいは、レポーター遺伝子構築物を使用することができる。例えば、アネルギーT細胞は、5’IL−2遺伝子エンハンサーの調節下で異種プロモーターによって、またはエンハンサー内に認めることができるAP1配列のマルチマーによって誘導されるIL−2遺伝子転写を開始しない(Kangら、1992年、Science.、257巻:1134頁)。
【0020】
本明細書において、「免疫学的寛容」という用語は、ある割合の処置被験体に対して機能する方法に言及し、非処置被験体と比較して、a)特異的な免疫学的応答(抗原特異的エフェクターTリンパ球、Bリンパ球、抗体、またはそれらの同等物によって少なくとも部分的に媒介されると考えられる)のレベルが低下するか、b)特異的な免疫学的応答の開始もしくは進行が遅延するか、またはc)特異的な免疫学的応答の開始もしくは進行のリスクが低減する。「特異的な」免疫学的寛容は、免疫学的寛容が他と比較して特定の抗原に対して選択的に惹起されるときに起こる。
【0021】
以下の小節で本発明の様々な態様をさらに詳細に説明する。
【0022】
(キャリア)
本発明の抗原特異的寛容誘導性組成物は、それだけに限らないが、粒子、ビーズ、分岐ポリマー、デンドリマー、またはリポソームを含めた非常に様々なキャリアのいずれかを用いて作製することができる。好ましくは、キャリアは粒子状であり、一般に球形、楕円形、棒状、球状または多面形である。あるいは、しかし、キャリアは不規則なまたは分岐した形状のものでもよい。好ましい実施形態では、キャリアは、生分解性である物質から構成される。一般に正味の負の電荷を有する細胞表面への非特異的結合を低減するために、キャリアが正味の中性または負の電荷を有することがさらに好ましい。キャリアは、寛容が所望される抗原(本明細書において抗原特異的ペプチド、抗原性ペプチド、自己抗原、誘導性抗原または寛容化抗原とも称される)と直接または間接的に結合体化されることが可能であり得る。いくつかの場合では、キャリアは、曝露された複数コピーの抗原特異的ペプチドを有し、寛容応答の見込みを増大させるため、複数の結合部位を有する。キャリアは、キャリア表面上に1つの抗原性ペプチドを有してもよく、または表面上に複数の異なる抗原性ペプチドを有してもよい。あるいは、しかし、キャリアは、化学結合を形成せずに結合体化部分を吸着できる表面を有してもよい。
【0023】
いくつかの場合では、抗原特異的ペプチドは、樹状細胞(DC)またはマクロファージなどの抗原提示細胞(APC)に送達され、リンパ球は成熟化を受ける(例えば、脾臓、骨髄、胸腺およびリンパ節)。例えば、脾臓、骨髄、胸腺およびリンパ節には定住APCおよびDCが存在する。あるいは、抗原特異的ペプチドを末梢APCまたはDCに送達することができ、そこでこれらはまずキャリアを内在化し、次いでリンパ球成熟化の部位(例えば、脾臓、骨髄、胸腺およびリンパ節)へ移動して、寛容応答を活性化する。これは一般に1〜3日以内に起こる。リンパ球成熟化の部位にある定住APCを標的として利用することができる。
【0024】
キャリアの全体的なサイズおよび重量は重要な考慮事項である。好ましくは、キャリアは、溶解性を亢進し、インビボでの凝集によって引き起こされる可能性のある複雑な状態を回避し、飲作用を促進するため、微視的またはナノサイズである。粒子サイズは、間質腔からリンパ球成熟化の領域への取込みの要因であり得る。
【0025】
様々な実施形態では、本発明の組成物の最大の断面直径は、約1,000μm、500μm、100μm、50μm、25μm、20μm、15μm、10μm、5μm、1μm、500nm、400nm、300nm、200nmまたは100nm未満である。リンパ球、例えば、脾臓、胸腺、骨髄またはリンパ節中で認められるような未熟リンパ球への送達が最大となるように、本発明の組成物を選択することができる。いくつかの実施形態では、キャリアは約5〜80nmの最大直径を有する。あるいは、キャリアは約10〜70nm、または20〜60nm、または30〜50nmの最大直径を有してもよい。いくつかの実施形態では、キャリアの全体的な重量は、約10,000kDa未満、約5,000kDa未満、または約1,000、500、400、300、200もしくは100kDa未満である。
【0026】
好ましくは、粒子表面は、非特異的なまたは望まれない生物学的相互作用を最小限にする物質から構成される。粒子表面と間質との相互作用は、リンパ取込みにおける役割を担う要因である可能性がある。非特異的な相互作用を防止または低下させる物質で粒子表面をコーティングすることができる。ポリ(エチレングリコール)(PEG)およびPLURONICSなどのそのコポリマー(ポリ(エチレングリコール)−bl−ポリ(プロピレングリコール)−bl−ポリ(エチレングリコール)のコポリマーを含む)などの親水性層で粒子をコーティングすることによる立体的安定化は、間質のタンパク質との非特異的な相互作用を低減することができ、これは皮下注射後のリンパ取込みの向上によって実証される。これらの事実はすべて、リンパ取込みの点から粒子の物理的特性の意義を指摘するものである。生分解性ポリマーを使用して、ポリマーおよび/または粒子および/または層の全部または一部を作製することができる。生分解性ポリマーは、例えば、溶液中で官能基が水と反応した結果、分解を受ける可能性がある。本明細書において「分解」という用語は、分子量の減少または疎水性基から親水性基への転換によって溶解性になることを指す。エステル基を有するポリマー、例えばポリラクチドおよびポリグリコリドは一般に、自然発生的な加水分解を起こしやすい。例えば、コラゲナーゼまたはメタロプロテイナーゼによって分解されるような、特異的な酵素攻撃を受けやすい多数のペプチド配列が公知である:単に生物学的なフリーラジカル機構によって分解される配列は特異的に分解されない。酸化感受性である官能基を有するポリマーは弱い酸化剤によって化学変化を受け、それについての試験で10%過酸化水素にインビトロで20時間曝露することにより可溶化が亢進される。
【0027】
本発明のキャリアは、さらなる構成成分を含有することもできる。例えば、キャリアは、キャリアに組み込まれたかまたは結合体化した造影剤を有することができる。現在市販されている、造影剤を有するキャリアナノスフェアの例は、Kodak X−sightナノスフェアである。量子ドット(QD)として公知である無機の量子を閉じ込めた発光ナノ結晶が、FRETの適用における理想的なドナーとして現れ、その高量子収量および調整可能なサイズ依存性のストークスシフトは、単一の紫外波長で励起したときに様々なサイズが青から赤外まで放出することを可能にする(Bruchezら、Science、1998年、281巻、2013頁;Niemeyer, C. M Angew.、Chem. Int. Ed.、2003年、42巻、5796頁;Waggoner, A.、Methods Enzymol.、1995年、246巻、362頁;Brus, L. E.、J. Chem. Phys.、1993年、79巻、5566頁)。デンドリマーとして公知であるポリマーのクラスに基づくハイブリッドの有機/無機量子ドットなどの量子ドットを、生物学的標識、イメージング、および光学的バイオセンシング系で使用することができる(Lemonら、J. Am. Chem. Soc.、2000年、122巻、12886頁)。無機量子ドットの旧来の合成と異なり、これらのハイブリッド量子ドットナノ粒子の合成は、高い温度または毒性の高い不安定な試薬を必要としない(Etienneら、Appl. Phys. Lett.、87巻、181913頁、2005年)。
【0028】
(マイクロビーズまたはナノビーズキャリア)
いくつかの実施形態では、本発明の抗原特異的寛容誘導性組成物は、微粒子またはナノ粒子であるキャリアを含む。いくつかの場合では、微粒子またはナノ粒子は実質的に球形のビーズまたは多孔性ビーズである。
【0029】
キャリア粒子は、広範な物質から形成することができる。粒子は、好ましくは生物学的使用に適した物質から構成される。例えば、粒子は、ガラス、シリカ、ヒドロキシカルボン酸のポリエステル、ジカルボン酸のポリ無水物、またはヒドロキシカルボン酸およびジカルボン酸のコポリマーから構成することができる。より一般的には、キャリア粒子は、直鎖もしくは分岐、置換もしくは非置換、飽和もしくは不飽和、線状もしくは架橋されたアルカニル、ハロアルキル、チオアルキル、アミノアルキル、アリール、アラルキル、アルケニル、アラルケニル、ヘテロアリール、もしくはアルコキシヒドロキシ酸のポリエステル、または直鎖もしくは分岐、置換もしくは非置換、飽和もしくは不飽和、線状もしくは架橋されたアルカニル、ハロアルキル、チオアルキル、アミノアルキル、アリール、アラルキル、アルケニル、アラルケニル、ヘテロアリール、もしくはアルコキシジカルボン酸のポリ無水物から構成することができる。さらに、キャリア粒子は、量子ドットポリスチレン粒子などの量子ドットであり得、または量子ドットから構成することができる(Joumaaら(2006年)、Langmuir、22巻:1810〜6頁)。エステルおよび無水物結合の混合物(例えば、グリコール酸およびセバシン酸のコポリマー)を含むキャリア粒子を使用することもできる。例えば、キャリア粒子は、ポリグリコール酸ポリマー(PGA)、ポリ乳酸ポリマー(PLA)、ポリセバシン酸ポリマー(PSA)、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)コポリマー(PLGA)、ポリ(乳酸−co−セバシン酸)コポリマー(PLSA)、ポリ(グリコール酸−co−セバシン酸)コポリマー(PGSA)などを含む物質を含んでよい。本発明で有用な他の生体適合性の生分解性ポリマーには、カプロラクトン、カーボネート、アミド、アミノ酸、オルトエステル、アセタール、シアノアクリレートおよび分解性ウレタンのポリマーまたはコポリマー、ならびに直鎖または分岐、置換または非置換のアルカニル、ハロアルキル、チオアルキル、アミノアルキル、アルケニル、または芳香族ヒドロキシもしくはジカルボン酸を有するこれらのコポリマーが含まれる。さらに、リシン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、スレオニン、チロシンおよびシステイン、またはそれらの鏡像異性体など、反応性側鎖基を有する生物学的に重要なアミノ酸を、前述の物質のいずれかを有するコポリマーの中に含めて、抗原ペプチドおよびタンパク質または結合体化部分と結合体化するための反応性基を提供することができる。本発明に適した生分解性物質には、PLA、PGA、およびPLGAポリマーが含まれる。生体適合性であるが非生分解性である物質を本発明のキャリア粒子で使用することもできる。例えば、アクリレート、エチレン−ビニルアセテート、アシル置換セルロースアセテート、非分解性ウレタン、スチレン、塩化ビニル、フッ化ビニル、ビニルイミダゾール、クロロスルホン化オレフィン、エチレンオキシド、ビニルアルコール、TEFLON(登録商標)(DuPont、Wilmington、Del.)、およびナイロンの非生分解性ポリマーを使用することができる。
【0030】
現在市販されている適切なビーズには、FluoSpheres(Molecular Probes、Eugene、Oreg.)などのポリスチレンビーズが含まれる。
【0031】
一実施形態では、微粒子またはナノ粒子は、APCによって取り込まれる。好ましくは、微粒子またはナノ粒子のサイズは、APCにおいて食作用または飲作用を誘発する範囲内である。いくつかの実施形態では、微粒子またはナノ粒子は、約100nm〜50μm、1μm〜40μm、5μm〜30μmまたは10μm〜20μmの範囲である。いくつかの実施形態では、微粒子またはナノ粒子は、100μm、50μm、25μm、20μm、15μm、10μm、5μm、1μm、500nmまたは100nm未満である。他の実施形態では、微粒子またはナノ粒子は、10nm、50nm、100nm、500nm、600nm、700nm、800nm、900nmまたは1μmを超える。
【0032】
一実施形態では、微粒子およびナノ粒子は、未熟リンパ球を有する領域(例えば、脾臓、骨髄、胸腺またはリンパ節)に取り込まれる。本明細書において立証されるように、サイズは未熟リンパ球を有する領域でのキャリアの取込みおよび保持に関係する。サイズや表面の特徴などのキャリアの特性が相反する効果を有し得るため、効率のよい取込みと保持をどちらも得ることが望ましい。一般に、小さい粒子は大きい粒子より取込みが良好であるが、保持性は低い。直径約5nm〜約10μmのサイズを有するキャリアが好ましい;当業者なら、明白に述べた範囲内にあるすべての範囲および値、例えば25nm、50nm、100nm、200nm、300nm、400nm、500nm、600nm、700nm、800nm、900nm、1μm、2μm、3μm、4μm、5μm、6μm、7μm、8μm、9μmまたは10μmが企図されることを直ちに理解する。ナノ粒子は、約5〜約100nmの平均直径を有する粒子の集合物として作製することができる;当業者なら、明白に述べた範囲内にあるすべての範囲および値、例えば約10〜約70nmが企図されることを直ちに理解する。粒子の集合物の平均直径に関する変動係数(平均粒子サイズで割った標準偏差)が約50、約35、約20、約10、または約5nm未満となり得るように、そのような粒子の集合物のサイズ分布を調節することができる。当業者なら、明白に述べた範囲内にあるすべての範囲および値が企図されることを直ちに理解する。
【0033】
物理的特性は、未熟リンパ球を有する領域での取込みおよび保持後のナノ粒子の有用性にも関係する。これらには、剛性や弾性などの機械的特性が含まれる。いくつかの実施形態は、弾性コア、例えば、最近開発され、(標的送達または免疫送達ではなく)全身送達について特徴付けられているPPS−PEG系にあるような、オーバーレイヤー、例えばPEGのような親水性オーバーレイヤーを有するポリ(プロピレンスルフィド)(PPS)コアに基づいている。弾性コアは、ポリスチレンまたは金属ナノ粒子系にあるような実質的に剛性コアと対照的である。弾性という用語は、天然または合成ゴム以外の特定の弾力のある物質を指し、ポリマーの分野の技術者によく知られている用語である。例えば、架橋されたPPSを使用して、疎水性の弾性コアを形成することができる。PPSは、酸化条件下でポリスルホキシドに、最終的にポリスルホンに分解し、疎水性のゴムから親水性の水溶性ポリマーに変化するポリマーである。他のスルフィドポリマーを使用に適合させることができ、スルフィドポリマーという用語は、そのポリマーの骨格中に硫黄を有するポリマーを指す。使用できる他の弾性ポリマーは、水和条件下で約37℃未満のガラス転移温度を有するポリエステルである。コアとオーバーレイヤーは混ざる傾向がないため、親水性オーバーレイヤーと共に疎水性コアを有利に使用することができ、オーバーレイヤーがコアから離れて立体的に広がる傾向となる。コアとは、その上に層を有する粒子を指す。層とは、コアの少なくとも一部分を覆う物質を指す。層は吸着することもでき、または共有結合することもできる。粒子またはコアは中実性でもよく、または中空性でもよい。弾性の疎水性コアは、弾性の疎水性コアを有する粒子によってより高いローディング量の疎水性薬物を運搬できる点で、結晶性またはガラス質の(ポリスチレンの場合にあるような)コアなどの剛性疎水性コアより有利である。
【0034】
別の物理的特性は、表面の親水性である。親水性物質は、架橋されていないときに、1リットル当たり少なくとも1グラムの水への溶解性を有し得る。親水性ポリマーを有する粒子の立体的安定化は、非特異的な相互作用を低減することによって間質からの取込みを向上させることができる;しかし、粒子の隠れた(stealth)性質の増大によって、未熟リンパ球を有する領域での食細胞による内在化を低減する可能性もある。これら競合する性質のバランスをとる難題に遭遇しているが、本出願は、リンパ節中のDCおよび他のAPCへの効果的なリンパ送達のためのナノ粒子の作製を立証する。いくつかの実施形態は、親水性構成成分、例えば、親水性物質の層を含む。適切な親水性物質の例は、ポリアルキレンオキシド、ポリエチレンオキシド、ポリサッカリド、ポリアクリル酸、およびポリエーテルのうち1つまたは複数である。層中のポリマーの分子量を、例えば約1,000〜約100,000、またはさらにそれ以上に調整して、インビボで有用な程度の立体障害をもたらすことができる;当業者なら、明白に述べた範囲内にあるすべての範囲および値、例えば10,000〜50,000が企図されることを直ちに理解する。
【0035】
ナノ粒子は、さらなる反応のための官能基を組み込むことができる。さらなる反応のための官能基には求電子剤または求核剤が含まれる;これらは、他の分子と反応するのに好都合である。求核剤の例は、第一級アミン、チオール、およびヒドロキシルである。求電子剤の例は、スクシンイミジルエステル、アルデヒド、イソシアネート、およびマレイミドである。
【0036】
好ましい実施形態では、約5〜1000nm、10〜400nm、20〜200nm、30〜100nmまたは約40〜50nmの平均直径を有するキャリアビーズを使用する。
【0037】
1つまたは複数の抗原性ペプチドと結合している、記載の微粒子またはナノ粒子の使用を通じて、抗原特異的寛容を誘導することができる。
【0038】
一連の実施形態では、本発明は、ナノ粒子キャリア粒子と付着した抗原性ペプチドを使用して寛容を誘導するための組成物および方法を提供する。いくつかの場合では、キャリアは、アポトーシスシグナル伝達分子も含有する。キャリア粒子は、中実性でもよく、中空性でもよく、または多孔性でもよい。
【0039】
(ポリスチレンビーズ)
ポリスチレンビーズは、アポトーシスシグナル伝達分子を必要とせずに、その表面と結合した抗原性ペプチドの抗原特異的寛容効果を誘発することが認められている。一実施形態では、本発明は、ビーズのサイズ分布、孔サイズ、密度、膨張特性の非常に優れた均一性、ならびに/またはオリゴマー合成で典型的に使用される溶媒および試薬に対する耐容性などの優秀な特性を有する、架橋された官能化ポリスチレンビーズを提供する。いくつかの好ましい実施形態では、ビーズは優れたローディングの特徴を有する。いくつかの好ましい実施形態では、ビーズは、ビーズ1グラム当たり少なくとも約50μモル、ビーズ1グラム当たり少なくとも約100μモル、ビーズ1グラム当たり少なくとも約150μモル、ビーズ1グラム当たり少なくとも約200μモル、ビーズ1グラム当たり少なくとも約250μモル、ビーズ1グラム当たり少なくとも約300μモル、ビーズ1グラム当たり少なくとも約350μモル、ビーズ1グラム当たり少なくとも約400μモル、またはビーズ1グラム当たり少なくとも約450μモルのローディング能を有する。いくつかの実施形態では、ビーズは、ビーズ1グラム当たり約100μモルから、ビーズ1グラム当たり約350μモルのローディング能を有する。
【0040】
40〜50nmの範囲のポリスチレン粒子が、樹状細胞(DC)によって認識される危険シグナルを誘発することが知られている。ポリスチレンビーズは、小さい(20nm)サイズおよび大きい(>100nm)サイズより中間サイズ(40nm)においてリンパ節中に蓄積することが知られている。いくつかの場合では、10〜100nm、20〜80nm、30〜70nm、または40〜50nmのポリスチレン粒子が所望されることがある。
【0041】
DCがウイルスサイズの範囲を認識するように進化しているため、ポリスチレンビーズのサイズは、DCのシグナルを誘発する際に重要となり得る。したがって、ビーズのサイズは、DC標的化の成功を調節し、正しいサイズのビーズが末梢中のDCによって認識される。さらに、脾臓の構造は、それ自体、マクロファージによる粒子の取込みに向いている。
【0042】
様々な実施形態では、本発明の組成物の最大の断面直径は、約1,000μm、500μm、100μm、50μm、25μm、20μm、15μm、10μm、5μm、1μm、500nm、400nm、300nm、200nmまたは100nm未満である。リンパ球、例えば、脾臓、胸腺、骨髄またはリンパ節中で認められるような未熟リンパ球への送達が最大となるように、本発明の組成物を選択することができる。いくつかの実施形態では、キャリアは約10〜500nmの最大直径を有する。あるいは、キャリアは約100〜500nm、または250〜500nm、または300〜500nmの最大直径を有してもよい。いくつかの実施形態では、キャリアの全体的な重量は、約10,000kDa未満、約5,000kDa未満、または約1,000、500、400、300、200もしくは100kDa未満である。
【0043】
一連の実施形態では、本発明は、ポリスチレンビーズと付着した抗原性ペプチドを使用して寛容を誘導するための組成物および方法を提供する。いくつかの場合では、抗原性ペプチドは、ポリスチレンビーズ上のカルボキシル部位に対して、抗原性ペプチドのN末端を介してポリスチレンビーズと結合する。いくつかの場合では、キャリアは、アポトーシスシグナル伝達分子も含有する。
【0044】
(分岐ポリマーキャリア/デンドリマー)
いくつかの実施形態では、本発明の寛容誘導性組成物は、デンドリマーなど、分岐ポリマーであるキャリアを含む。分岐ポリマーは、多数の鎖の末端または終端を有し、それを官能化することができ、したがって、直接または結合体化部分を通じて間接的に、それを複数の寛容誘導性複合体と結合体化することができる。
【0045】
一部のポリマー系はそれ自体ナノ粒子状であり、ナノ粒子という用語の中に含まれる。例えば、デンドリマーは、nmの範囲でナノ粒子状であり得るクラスのポリマーである。これらのポリマーは、例えば生体分子および他の基と結合体化するのに使用されている多数の官能基をその表面に含む。同様に、抗原はデンドリマーの表面と結合体化することができる。さらに、デンドリマーの表面上の官能基を、例えばヒドロキシル化により、補体活性化について最適化することができる。一部のデンドリマー−DNA複合体が補体を活性化することが実証されている。デンドリマーは、例えば、明白に開示されているものと矛盾しない程度に参照により本明細書に組み込まれている米国特許公開第2004/0086479号、同第2006/0204443号、ならびに米国特許第6,455,071号および同第6,998,115号にあるように、抗原の結合体化および補体活性化について本明細書に記載の技術を使用して、リンパ標的化に適合させることができる興味深いナノ粒子状の化学物質に相当する。
【0046】
その一方で、デンドリマーは、所与の環境においてその構成成分ポリマーの溶解性に高度に依存的であり、その周りの溶媒または溶質、例えば温度、pH、イオン含量の変化に従って、またはDCによる取込み後に劇的に変化することができる形状を有する。対照的に、デンドリマーまたは他の単なる分岐ポリマー系より比較的安定した物理的側面を有するナノ粒子は、貯蔵目的に、または生物学的活性に関連して有用であり得、例えば、親水性のコロナを有する中実性コアは、一貫してその環境にコロナを提示する。したがって、ナノ粒子のいくつかの実施形態は、デンドリマーでない粒子、または中実性のコアを有しかつ/もしくは架橋ヒドロゲルであるコアを有する粒子を利用する。PPSに基づくナノ粒子はデンドリマーでなく、中実性コアを有する。
【0047】
アルボロール、カスケード分子、樹状ポリマー、またはフラクタルポリマーとしても公知であるデンドリマーは、高度に分岐した高分子であり、その分岐は中心のコアから出ている。デンドリマーは、それだけに限らないが、ポリアミドアミン、ポリアミドアルコール、ポリプロピレンイミンまたはポリエチレンイミンなどのポリアルキレンイミン、ポリスチレンまたはポリエチレンなどのポリアルキレン、ポリエーテル、ポリチオエーテル、ポリホスホニウム、ポリシロキサン、ポリアミド、ポリアリールポリマー、またはその組合せを含めて、様々な物質から作製することができる。デンドリマーは、アミノ酸からも調製されている(例えば、ポリリシン)。好ましくは、結合体化を促進するために、カルボキシルまたは他の負に帯電した反応性基で終結しているデンドリマーが使用される。
【0048】
デンドリマーは当技術分野で公知であり、化学的に定義された球状分子であり、分岐構造を得るための多官能単量体の段階的または反復反応によって一般に調製される(例えば、Tomaliaら(1990年)、Angew. Chem. Int. Ed. Engl.、29巻:138〜75頁を参照)。様々なデンドリマー、例えばアミン終端ポリアミドアミン、ポリエチレンイミンおよびポリプロピレンイミンデンドリマーが公知である。本発明で有用である例示的なデンドリマーには、ポリ(アミドアミン)デンドリマー(「PAMAM」)を含めて、米国特許第4,587,329号、同第5,338,532号および同第6,177,414号に記載のものなど、「デンススター(dense star)」ポリマーまたは「スターバースト(starburst)」ポリマーが含まれる。本発明内での使用に適したさらに他のマルチマースペーサー分子は、米国特許第5,552,391号、ならびにPCT出願公開WO00/75105、WO96/40197、WO97/46251、WO95/07073、およびWO00/34231に開示されているものなどの化学的に定義された非ポリマー結合価プラットホーム分子を含む。多くの他の適切な多価スペーサーを使用することができ、それらは当業者には公知である。例えば、デンドリマーおよびその使用は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている米国特許出願第20070238678号に記載されている。
【0049】
そのようなデンドリマーには、それだけに限らないが、ポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマー、ポリ(プロピレンイミン)(PPI)デンドリマー、ポリ(トリアジン)デンドリマー、ポリ(エーテル−ヒドロキシルアミン)(PEHAM)デンドリマーが含まれ、それらはキレート剤を樹状ポリマーの内側にもっぱら押し込むようにまたはカプセル化と組み合わせて、樹状ポリマーの表面との結合を可能にするように修飾または選択されたZ基を有し得る。いくつかのそのようなZ表面の例は、リガンドと相互作用しないものである;そのようなZ基は、ヒドロキシル、エステル、酸、エーテル、カルボン酸塩、アルキル、グリコール、例えばヒドロキシル基など、特にアミドエタノール、アミドエチルエタノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミン、カルボメトキシピロリジノン、アミド、チオウレア、ウレア、カルボキシレート、スクシンアミド酸およびポリエチレングリコールからのもの、あるいはヒドロキシルアルキル修飾を伴うかまたは伴わない第一級、または第一級、第二級もしくは第三級アミン基である。他の適切な表面基は、樹状ポリマー表面との結合的付着(それとの結合)を可能にする任意のそのような官能基を含むことができ、それだけに限らないが、受容体媒介標的化基(例えば、葉酸、抗体、抗体断片、単鎖抗体、タンパク質、ペプチド、オリゴマー、オリゴペプチド、または遺伝物質)または生体適合性、生体分布、溶解性を促進しもしくは毒性を調節する他の官能基が含まれる。好ましい実施形態では、デンドリマーは、その表面上にアミノおよび/またはカルボキシ結合部位を含有する。
【0050】
現在販売されている適切なデンドリマーには、StarburstTMデンドリマー(Dendritech、Midland、Mich.)などのポリアミドアミンデンドリマーが含まれる。StarburstTMデンドリマーはアミン基またはカルボキシメチル基で終結し、さらなる修飾を伴うかまたは伴わずに、結合体化部分の介在を伴うかまたは伴わずに、これを使用して、抗原ペプチドおよびタンパク質をこれらのキャリアの表面と結合体化することができる。
【0051】
デンドリマー作製の1つの方法では、単量体の層を順次付加することによって、コア分子から外側にデンドリマーを合成する。初回のデンドリマー合成で単一の層または「世代」の単量体をコアに付加し、各単量体は、少なくとも1つの遊離した反応性終端を有する。その後の各回の重合の結果、1層ずつデンドリマーが拡大し、遊離した反応性終端の数が増加する。このプロセスを多数回反復して、所望の直径または質量のデンドリマーを作製することができる。分岐の密度が増大するにつれて、最も外側の分岐は密度の低いコアを取り囲む球体の形態にそれ自体を配置する。例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている米国特許第5,338,532号を参照されたい。さらに、コア分子の形状を変化させることにより、棒状、円盤様、およびくし様の形態でデンドリマーを作製することができる。得られたデンドリマーは、複数の抗原ペプチドおよびタンパク質を直接または間接的に結合体化できる任意の大きな数の遊離した反応性終端を有することができる。好ましい実施形態では、デンドリマーの形状は球形または卵形である。
【0052】
デンドリマーの重量、サイズ、形状および終端の反応性基の数は様々でよい。例えば、デンドリマーの重量は、100〜10000kDa、または200〜5000kDa、または250〜2500kDaの範囲でよい。デンドリマーのサイズは、最も長い寸法で20〜1000nm、30〜500nm、または50〜250nmの範囲でもよい。
【0053】
デンドリマー、例えばPANAMまたはPPIデンドリマーを使用すると、表面上に特定の数のアミノ結合部位を有するカチオン性球形粒子の作製が可能となる。ローディングを最適化し、表面に結合した抗原ペプチド間の立体障害を最小限にするように、これらの粒子のサイズを選択することができる。例えば、ほとんどの適用例では、粒子の分子量が50〜125kDa、直径が60〜90オングストローム(おおよそヘモグロビン、IgGまたはヒストンとサイズが類似する)、活性な表面基が100〜1500個となる6〜7世代のPANAMデンドリマーが使用されている。
【0054】
様々な結合価を有する多価スペーサーは本発明の実施において有用であり、様々な実施形態では、多価スペーサーは、約3〜約400個の核酸部分、しばしば3〜100個、時折3〜50個、頻繁には3〜10個、時折400個を超える核酸部分と結合している。様々な実施形態では、多価スペーサーは、10個を超える、25個を超える、50個を超える、または500個を超える核酸部分と結合体化している(これらは同じでもよく、または異なっていてもよい)。多価スペーサーを含む特定の実施形態では、本発明が、わずかに異なる分子構造を有する集団を提供することが理解される。例えば、本発明のデンドリマーは、作製された分子のいくらか不均質な混合物からなることがあり、すなわち各デンドリマー分子と結合した核酸部分の異なる数(決定できる範囲内にあるかまたは大部分がその範囲にある)を含む。好ましい実施形態では、デンドリマーは類似したサイズおよび形状を有し、すなわち互いに20%、15%、10%、5%、2%または1%以内で異なる数の核酸部分から構成される。
【0055】
デンドリマーでない分岐ポリマーを本発明で使用することもでき、それは、デンドリマーと同じ一般的なクラスの物質から作製することができる。そのような分岐ポリマーの合成はまた、当技術分野で周知である。
【0056】
分岐ポリマーは、少なくとも5個の終端、少なくとも10個の終端、または少なくとも100個の終端を含んでよい。分岐ポリマーは、5〜500個の終端、好ましくは10〜400個の終端、より好ましくは50〜250個の終端を含んでよい。
【0057】
いくつかの実施形態では、本発明の寛容誘導性組成物は、寛容誘導性複合体が分岐または線状ポリマーと結合体化している、結合体の作製をもたらす。
【0058】
(リポソームキャリア)
いくつかの実施形態では、マルチマー抗原ペプチドまたはタンパク質結合体は、リポソームまたはミセルであるキャリアを含む。脂質小胞とも呼ばれるリポソームは、脂質膜によって囲まれた水性の区画であり、典型的には、水性媒体中で適切な脂質を懸濁し、その混合物を振盪するか、押し出すか、または超音波処理をして小胞の分散物を得ることによって形成される。単層小胞および多層小胞を含めて様々な形態のリポソームを本発明で使用することができる。
【0059】
ポリ(エチレングリコール)およびPPSのABおよびABAブロックコポリマーから形成されるミセルを含めて、ミセル系も上記に記載したのと同じ有用な特徴を示すことができる。そのようなコポリマーが、比較的高い、例えば約40%を超えるポリ(エチレングリコール)の分子画分を用いて形成されるとき、特定の条件下で球形のミセルの形成を予想することができる。これらのミセルは小さくなり得、例えばリンパ侵入について上記で述べたサイズを満たし、任意選択で、PEGのオーバーレイヤーを施し(graft)、またはそうでなければPEGまたは他のポリマーを組み込んで、類似した特性を実現することができる。さらに、本明細書で教示されるように、ミセル表面において、抗原、危険シグナルまたは両方と結合体化することができる。ブロックコポリマーは、補体活性化のためにヒドロキシル基で終結することができ、ヒドロキシル基で終結する親水性ブロックを有することが特に有益であり、その結果、このヒドロキシル基が、補体結合についてミセルナノ粒子表面上でより容易に利用可能となる。そのようなヒドロキシル化されたそのような表面を、有効に補体を活性化するように調整することができる。特に有用な親水性ブロックは、ヒドロキシル基で終結しているPEGである。ミセルを形成するポリマー構成に加えて、小胞構造を形成するようにブロックサイズおよびブロックサイズ比を選択することができる。使用できるミセル処方物のいくつかの他の考えられる化学組成も存在する。
【0060】
別の一連の実施形態では、本発明は、複数の抗原ペプチドおよびタンパク質がリポソームの外表面と結合体化している、マルチマー抗原ペプチドおよびタンパク質結合体の作製をもたらす。
【0061】
リポソームは、それだけに限らないが、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、リン酸ジセチル、モノシアロガングリオシド、ポリエチレングリコール、ステアリルアミン(armine)、オボレシチンおよびコレステロールの脂質、ならびに様々な化学量論のこれらの混合物を含めて、様々な脂質性物質から調製することができる。本明細書において使用されるリポソームは、ポリ(オキシエチレン−b−イソプレン−b−オキシエチレン)などのブロックコポリマーなどの非脂質性両親媒性分子から形成することもできる。好ましい実施形態では、リポソームは、ホスファチジルセリン、リン酸ジセチル、およびジミリストイルホスファチジン酸から作製されるものなど、負に帯電したリポソームを形成する脂質から調製される。
【0062】
免疫原性を低減するように、または結合体化に好都合な反応性基を提供するように、リポソームの表面を修飾することもできる。例えば、シアル酸もしくは他の炭水化物、またはポリエチレングリコールまたは他のアルキルもしくはアルケニルポリマーをリポソームの表面と付着させて免疫原性を低減することができる。あるいは、小さなモルパーセントの、例えばビオチン−X−ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(Molecular Probes、Eugene、Oreg.)をリポソーム中に含めることによって、ビオチンなどの結合体化部分を有するリポソームを作製することができる。
【0063】
(抗原ペプチドおよびタンパク質をキャリアと結合体化する手段)
当技術分野で周知である非常に様々な手段を使用して、抗原ペプチドおよびタンパク質をキャリアと結合体化することができる。これらの方法は、抗原ペプチドおよびタンパク質の生物学的活性を破壊または厳しく制限せず、抗原ペプチドまたはタンパク質と同族T細胞受容体の相互作用を可能にする方向で十分な数の抗原ペプチドおよびタンパク質をキャリアと結合体化することを可能にする任意の標準的な化学反応を含む。一般に、抗原ペプチドもしくはタンパク質のC末端領域、または抗原ペプチドもしくはタンパク質融合タンパク質のC末端領域をキャリアと結合体化する方法が好ましい。その正確な化学反応は、もちろん、キャリア物質の性質、抗原ペプチドもしくはタンパク質へのC末端融合の有無、および/または結合体化部分の有無に依存する。
【0064】
利用可能性のために必要に応じて官能基を粒子上に位置付けることができる。1つの位置は、コアポリマーまたはコア上の層であるポリマーまたはその他の形で粒子とつながっているポリマー上の側基または終端として存在し得る。例えば、特定の細胞標的化またはタンパク質およびペプチド薬物の送達のために容易に官能化することができる、ナノ粒子を安定化するPEGについて記載する例が本明細書に含まれる。
【0065】
エチレンカルボジイミド(ECDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート、2つのエポキシ残基を含有するプロピレングリコールジグリシジルエーテルおよびエピクロロヒドリンなどの結合体を、キャリア表面へのペプチドまたはタンパク質の固定に使用することができる。理論に拘束されるものではないが、ECDIは、寛容の誘導について2つの主要な機能を果たすと考えられる:(a)それが遊離アミノ基と遊離カルボキシル基とのペプチド結合形成の触媒作用を介してタンパク質/ペプチドを細胞表面と化学的に結合する;(b)それがアポトーシス細胞死を模倣するようにキャリアを誘導し、その結果キャリアが脾臓中の宿主抗原提示細胞によって捕捉され、寛容を誘導する。非免疫原性の形での宿主T細胞へのこの提示は、自己反応性細胞におけるアネルギーの直接の誘導につながる。さらに、ECDIは、特定の制御性T細胞の誘導について潜在的な刺激として働く。
【0066】
一連の実施形態では、抗原ペプチドおよびタンパク質は、共有化学結合を介してキャリアと結合している。例えば、抗原のC末端の近くにある反応性基または部分(例えば、C末端のカルボキシル基、またはアミノ酸側鎖のヒドロキシル、チオール、もしくはアミン基)を、直接の化学反応により、キャリアの表面上の反応性基または部分(例えば、PLAまたはPGAポリマーのヒドロキシルまたはカルボキシル基、デンドリマーの終端のアミンもしくはカルボキシル基、またはリン脂質のヒドロキシル、カルボキシルまたはリン酸基)と直接結合体化することができる。あるいは、抗原ペプチドおよびタンパク質ともキャリアとも共有結合で結合体化し、それによってこれらを一緒に結合する結合体化部分が存在し得る。
【0067】
キャリアの表面上の反応性カルボキシル基は、抗原ペプチドまたはタンパク質上の(例えば、Lys残基からの)遊離アミンと、例えば1−エチル−3−[3,9−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩(EDC)またはN−ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHS)を用いてそれらを反応させることにより結合することができる。同様に、同じ化学反応を使用して、キャリアの表面上の遊離アミンを抗原ペプチドまたはタンパク質上の(例えば、C末端、またはAspもしくはGlu残基の)遊離カルボキシルと結合体化することができる。あるいは、キャリアの表面上の遊離アミン基は、本質的にAranoら(1991年)、Bioconjug. Chem.、2巻:71〜6頁に記載のように、スルホ−SIAB化学物質を使用して、抗原ペプチドおよびタンパク質、または抗原ペプチドもしくはタンパク質融合タンパク質と共有結合することができる。
【0068】
別の実施形態では、抗原ペプチドまたはタンパク質と結合したリガンドと、キャリアと付着した抗リガンドとの非共有結合で、抗原をキャリアと結合体化することができる。例えば、ビオチンリガーゼ認識配列タグを抗原ペプチドまたはタンパク質のC末端と結合することができ、ビオチンリガーゼによってこのタグをビオチン化することができる。その後、ビオチンはリガンドとして働いて、抗リガンドとしてキャリアの表面に吸着またはその他の形で結合しているアビジンまたはストレプトアビジンと非共有結合して、抗原ペプチドまたはタンパク質を結合体化することができる。あるいは、抗原ペプチドおよびタンパク質がFc領域を有する免疫グロブリンドメインと融合している場合、上記に記載のように、Fcドメインはリガンドとして作用することができ、キャリアの表面と共有または非共有結合しているプロテインAは、抗原ペプチドまたはタンパク質をキャリアと非共有結合で結合体化する抗リガンドとして働くことができる。(例えば、抗原ペプチドもしくはタンパク質または抗原ペプチドもしくはタンパク質融合タンパク質のC末端のポリHisタグ、およびNiコーティングキャリアを使用する)金属イオンキレート化技術を含めて、抗原ペプチドおよびタンパク質をキャリアと非共有結合で結合体化するのに使用することができる他の手段が当技術分野で周知であり、これらの方法を、本明細書に記載の方法と置換することができる。
【0069】
核酸部分とプラットホーム分子の結合体化は、任意の数の方法で実施することができ、典型的には1つまたは複数の架橋剤ならびに核酸部分およびプラットホーム分子上の官能基が関与する。標準的な合成化学技術を使用して結合基をプラットホームに付加する。標準的な合成技術を使用して結合基を核酸部分に付加することができる。
【0070】
(アポトーシスシグナル伝達分子)
いくつかの実施形態では、本発明の寛容誘導性組成物は、アポトーシスシグナル伝達分子を含有する。アポトーシスシグナル伝達分子は、宿主の細網内皮系の細胞など、宿主の抗原提示細胞によってキャリアをアポトーシス小体として認識されるようにする。これは、寛容を誘導する形での結合したペプチドエピトープの提示を可能にする。理論に拘束されるものではないが、これは、MHCクラスI/IIや共刺激分子など、免疫細胞刺激に関与する分子の上方制御を防止すると推定される。これらのアポトーシスシグナル伝達分子は食作用マーカーとして働くこともできる。例えば、本発明に適したアポトーシスシグナル伝達分子は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている米国特許出願第20050113297号に記載されている。本発明に適した分子には食細胞を標的とする分子が含まれ、これらには、マクロファージ、樹状細胞、単球、および好中球が含まれる。
【0071】
アポトーシスシグナル伝達分子として適切な分子は、結合したペプチドの寛容を亢進するように作用する。さらに、アポトーシスシグナル伝達分子と結合したキャリアは、アポトーシス細胞の認識においてC1qにより結合され得る(Paidassiら(2008年)、J. Immunol.、180巻:2329〜2338頁)。例えば、アポトーシスシグナル伝達分子として有用である可能性がある分子には、ホスファチジルセリン、アネキシン−1、アネキシン−5、乳脂肪球−EGF−因子8(MFG−E8)、またはトロンボスポンジンのファミリーが含まれる。
【0072】
トロンボスポンジンは、細胞間および細胞とマトリックスとの情報伝達に関与する細胞外タンパク質のファミリーである。これらは、組織発生および修復中に細胞の表現型を制御する。さらに、トロンボスポンジン−1(TSP−1)は、アポトーシス細胞上で発現し、マクロファージによるその細胞の認識に関与する。したがって、トロンボスポンジン−1は本発明に従って食作用を亢進するのに使用できる別の食作用マーカーである。マクロファージは、マクロファージの表面上に存在し、アポトーシス細胞上にも存在し得るCD36分子を介して、アポトーシス細胞上のTSP−1を認識する。どんな理論にも拘束されることを望むものではないが、アポトーシス細胞の表面上のCD36/TSP1複合体が、マクロファージ上のアルファ(v)ベータ3/CD36/TSP1からなる複合体と細胞を架橋するリガンドを形成できることが考えられる。TSP−1とCD36の結合は、TSP−1のTSR−1ドメインとCD36中のCLESH−1と呼ばれる保存されたドメインとの相互作用によって媒介されることが考えられる。本発明の特定の実施形態では、細胞または分子の表面上のTSP−1、CD36、またはTSP−1/CD36複合体のレベルまたは密度を増大させること、例えば、TSP−1、CD36、またはTSP−1/CD36複合体を細胞に送達することによって食作用が亢進される。本発明の特定の実施形態では、TSP−1/CLESHドメイン複合体を細胞に送達する。
【0073】
あるいはまたはさらに、食作用マーカーは、マクロファージとその標的との架橋剤として働く分子(例えば、MFG−E8、b2−糖タンパク質など)、またはそのような分子の部分を含んでもよい。そのようなマーカーは、例えば、マクロファージによるホスファチジルセリンの認識を促進することもでき、または独立して認識することもできる。やはり食作用を亢進することが知られている他のマーカーには、プロテインS、増殖停止特異的遺伝子産物GAS−6、ならびにそれだけに限らないがB、C1q、およびC3因子を含めた様々な補体構成成分が含まれる。上記で述べたように、MFG−E8は分泌糖タンパク質であり、刺激されたマクロファージによって産生され、ホスファチジルセリン(PS)などのアミノリン脂質を認識することによりアポトーシス細胞と特異的に結合する。MFG−E8は、リン脂質に結合したとき、そのRGD(アルギニン−グリシン−アスパラギン酸)モチーフを介して細胞と結合し、マクロファージなどのアルファ(v)ベータ(3)インテグリンを発現している細胞と特に強く結合する。MFG−E8の少なくとも2つのスプライス改変体が公知であり、そのうちL改変体は食作用を刺激する活性があると考えられている。本発明の特定の実施形態では、食作用マーカーは、MFG−E8のLスプライス改変体(MFG−E8−L)を含む。本発明の特定の実施形態では、食作用マーカーはMFG−E8のN末端ドメインを含む。
【0074】
アネキシンIは、本発明に従って使用できる別の食作用マーカーである。簡潔に述べると、37kDaのタンパク質であるアネキシンI(Anx−1;リポコルチン1)は、グルココルチコイドによって制御されるタンパク質であり、食作用、細胞のシグナル伝達および増殖の制御に関与し、炎症および下垂体前葉ホルモン放出の管理におけるグルココルチコイドの作用の媒介物質であると仮定される。アネキシンIの発現は、アポトーシス細胞中で上昇し、アポトーシス細胞上のホスファチジルセリンと食細胞の架橋、およびマクロファージなどの食細胞によるアポトーシス細胞の認識の亢進に役割を担うように思われる。どんな理論にも拘束されることを望むものではないが、マクロファージ上のホスファチジルセリン受容体がアネキシンIまたはアネキシンIおよびPSを含有する複合体を認識すること、またはアネキシンIがPSを凝集してクラスターにすることによって認識を促進することが考えられる。さらに、他のDC標的化研究では抗Dec−205や抗CD11cなどの結合体化した標的化リガンドを使用してDCの特異性を増大させる。
【0075】
いくつかの実施形態では、アポトーシスシグナル伝達分子を抗原特異的ペプチドと結合体化することができる。いくつかの場合では、融合タンパク質を作製することによってアポトーシスシグナル伝達分子および抗原特異的ペプチドを結合体化する。本明細書において、「融合タンパク質」とは、少なくとも1つの抗原特異的ペプチド(またはその断片もしくは改変体)とアポトーシスシグナル伝達分子の少なくとも1つの分子(またはその断片もしくは改変体)の融合によって形成されるタンパク質を指す。融合タンパク質の作製では、「融合タンパク質」、「融合ペプチド」、「融合ポリペプチド」、および「キメラペプチド」という用語は互換的に使用される。抗原特異的ペプチドの適切な断片は、本発明の所望の抗原特異的寛容機能を生じさせる機能を保持する完全長ペプチドの任意の断片を含む。アポトーシスシグナル伝達分子の適切な断片は、アポトーシスシグナルを生じさせる機能を保持する完全長ペプチドの任意の断片を含む。本出願は、本明細書に記載する参照ポリペプチド配列(例えば、抗原特異的ペプチドもしくはアポトーシスシグナル伝達分子またはそれらの融合タンパク質)またはその断片と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一であるポリペプチドを含有するタンパク質をも対象とする。「改変体」とは、参照核酸またはポリペプチドと異なるが、その必須の特性を保持しているポリヌクレオチドまたは核酸を指す。一般に、改変体は参照核酸またはポリペプチドと全体的にきわめて類似し、多くの領域ではそれと同一である。本明細書において、「改変体」とは、それぞれ、本発明の抗原特異的ペプチド、アポトーシスシグナル伝達分子またはそれらの融合タンパク質と配列において異なるが、少なくとも1つのその機能的および/または治療的特性を保持している抗原特異的ペプチド、アポトーシスシグナル伝達分子またはそれらの融合タンパク質を指す(例えば、免疫系において寛容を誘発するか、またはアポトーシスシグナルを生じさせる)。本発明は、例えば本発明の抗原特異的ペプチド、アポトーシスシグナル伝達分子またはそれらの融合タンパク質のアミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含む、あるいはそれからなるタンパク質をも対象とする。
【0076】
融合タンパク質は様々な手段によって作製することができる。1つの手段は遺伝子融合によるものである(すなわち、抗原特異的ペプチドの全部または部分または改変体をコードするポリヌクレオチドが、アポトーシスシグナル伝達分子の全部または部分または改変体をコードするポリヌクレオチドとインフレームで結合している核酸配列の翻訳によって融合タンパク質が生成される)。2つのタンパク質は、直接またはアミノ酸リンカーを介して融合することができる。融合タンパク質を形成しているポリペプチドは、典型的にはC末端がN末端に結合するが、C末端がC末端に、N末端がN末端に、またはN末端がC末端に結合することもできる。融合タンパク質のポリペプチドはどんな順序でもよい。この用語は、融合タンパク質を構成する抗原の保存的に改変された改変体、多形性改変体、対立遺伝子、変異体、部分配列、および種間相同体も指す。融合タンパク質は、化学的な結合体化によって作製することもできる。融合ポリペプチドを生成するプロトコールは当技術分野で周知であり、それには様々な組換え手段およびDNA合成機が含まれる。あるいは、アポトーシスシグナル伝達分子および抗原特異的ペプチドの融合タンパク質は、PCR増幅および2つの連続した遺伝子断片の間で相補的な突出を生じさせるアンカープライマーを使用して容易に作製することもでき、その後これらをアニールし、再度増幅してキメラ遺伝子配列を作製することができる。例えば、アポトーシスシグナル伝達分子をインフレームで抗原特異的ペプチドと融合することができる。本発明では、アポトーシスシグナル伝達分子または抗原特異的ペプチドは融合タンパク質のN末端部分にあり得る。
【0077】
一般に、化学的な結合体化を含めた標準的な技術を使用して融合タンパク質を調製することができる。好ましくは、融合タンパク質は、発現系において、非融合タンパク質と比べて高いレベルでの産生を可能にする組換えタンパク質として発現される。簡潔に述べると、ポリペプチド構成成分をコードするDNA配列を別々に構築し、適当な発現ベクター中にそれをライゲーションすることができる。1つのポリペプチド構成成分をコードするDNA配列の3’末端を、ペプチドリンカーを伴ってまたは伴わずに、第2のポリペプチド構成成分をコードするDNA配列の5’末端と、配列の読み枠が一致するようにライゲーションする。これは、どちらの構成成分ポリペプチドの生物学的活性も保持する単一の融合タンパク質への翻訳を可能にする。
【0078】
ペプチドリンカー配列を使用して、各ポリペプチドが確実に二次および三次構造に折り畳まれるようにするのに十分な距離で第1のポリペプチド構成成分と第2のポリペプチド構成成分とを分離することができる。当技術分野で周知である標準的な技術を使用して、そのようなペプチドリンカー配列を融合タンパク質に組み込む。適切なペプチドリンカー配列は、以下の要因に基づいて選択することができる:(1)柔軟な伸長した立体配座をとることができること;(2)第1および第2のポリペプチド上の機能的エピトープと相互作用できる二次構造をとることができないこと;ならびに(3)ポリペプチドの機能的エピトープと反応する可能性がある疎水性または帯電した残基を欠くこと。好ましいペプチドリンカー配列は、Gly、AsnおよびSer残基を含有する。ThrやAlaなど、他の中性に近いアミノ酸もリンカー配列で使用することができる。リンカーとして有用に使用することができるアミノ酸配列には、Marateaら、Gene、40巻:39〜46頁(1985年);Murphyら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、83巻:8258〜8262頁(1986年);米国特許第4,935,233号および米国特許第4,751,180号で開示されているものが含まれる。リンカー配列の長さは一般に1〜約50アミノ酸でよい。リンカー配列は、第1および第2のポリペプチドが、機能的ドメインを分離し立体的干渉を防止するのに使用できる非必須N末端アミノ酸領域を有するときは必要でない。
【0079】
ライゲーションしたDNA配列を、適切な転写または翻訳制御エレメントと作動可能に結合する。DNAの発現に関与する制御エレメントは、第1のポリペプチドをコードするDNA配列に対して5’にのみ位置する。同様に、翻訳の終了に必要な終止コドン、および転写終結シグナルは、第2のポリペプチドをコードするDNA配列に対して3’にのみ存在する。
【0080】
(抗原性ペプチドおよびタンパク質)
当業者は、本発明の組合せで使用する抗原についていくつかの選択肢を有する。その組合せに存在する誘導性抗原は、誘導される寛容原性応答の特異性に寄与する。それは、処置される被験体の中に存在し、または存在することになる、望まれない免疫学的応答の標的であり、寛容が所望される抗原である標的抗原と同じでもよく、または同じでなくでもよい。
【0081】
本発明の誘導性抗原は、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、炭水化物、糖脂質もしくは生物学的供給源から単離された他の分子でもよく、または化学的に合成された小分子、ポリマー、もしくは生体物質の誘導体でもよい。ただし、粘膜結合構成成分と組み合わせたときに本記載に従って寛容を誘導する能力を有するものとする。
【0082】
本発明の特定の実施形態では、誘導性抗原は、単一の単離された分子または組換え産生された分子である。標的抗原が宿主中の様々な場所に散在している処置の状況では、誘導性抗原が標的抗原と同一であるか、または免疫学的に関係することが一般に必要である。そのような抗原の例は、ほとんどのポリヌクレオチド抗原、および一部の炭水化物抗原(血液型抗原など)である。
【0083】
標的抗原が特定の臓器、細胞、または組織型で選択的に発現している場合、当業者は再度、標的抗原と同一であるか、または免疫学的に関係する誘導性抗原を使用する選択肢を有する。しかし、標的に対してバイスタンダー(bystander)である抗原を使用するさらなる選択肢もある。これは、標的抗原と免疫学的に関係しなくてもよいが、標的抗原が発現している組織中で選択的に発現している抗原である。バイスタンダー抑制の有効性に関する作業理論は、抑制が、標的細胞での免疫応答のエフェクターアームを下方制御する、活性な細胞媒介性のプロセスであることである。サプレッサー細胞は、粘膜表面でインデューサー抗原によって特異的に刺激され、バイスタンダー抗原が選択的に発現している組織部位に向かう。次いで、相互作用またはサイトカイン媒介性の機構を介して、局在するサプレッサー細胞が、近隣にあるエフェクター細胞(またはエフェクター細胞のインデューサー)を下方制御する(それらが反応するものとは無関係に)。エフェクター細胞が誘導性抗原と異なる標的に特異的である場合、その結果はバイスタンダー効果である。バイスタンダー反応のさらなる詳細、およびこの効果を有する寛容原性ペプチドの一覧について、読者は国際特許公開WO93/16724を参照されたい。バイスタンダー理論の潜在的重要性は、当業者が、本発明を実施するために、寛容が所望される特定の標的抗原を同定または単離する必要がないことである。当業者は、誘導性抗原として使用する、標的部位で選択的に発現している少なくとも1つの分子を得ることができることだけが必要である。
【0084】
本発明の特定の実施形態では、誘導性抗原は、処置される個体中で発現しているものと同じ形態でないが、その断片または誘導体である。本発明の誘導性抗原は、適当な特異性の分子に基づくが、断片化、残基置換、標識化、結合体化、および/または他の機能的特性を有するペプチドとの融合によって適合されたペプチドを含む。この適合化は、それだけに限らないが、毒性または免疫原性などの任意の望ましくない特性の排除;粘膜結合、粘膜浸透または、免疫応答の寛容原性アームの刺激などの任意の望ましい特性の亢進を含めて、任意の望ましい目的で行うことができる。本明細書において、インスリンペプチド、コラーゲンペプチドおよびミエリン塩基性タンパク質ペプチドなどの用語は、完全なサブユニットだけを指すのではなく、アロタイプおよび合成改変体、断片、融合ペプチド、結合体、および類似体であるそれぞれの分子の少なくとも10個、好ましくは20個の連続したアミノ酸と相同である(アミノ酸レベルで好ましくは70%同一、より好ましくは80%同一、さらにより好ましくは90%同一である)領域を含有する他の誘導体も指し、その誘導体の相同性領域は、それぞれの親分子と標的抗原に対する寛容を誘導する能力を共有する。
【0085】
誘導性抗原の寛容原性領域が、抗体応答の刺激の免疫優勢エピトープとしばしば異なることが認識されている。一般に、寛容原性領域は、T細胞が関与する特定の細胞相互作用において提示され得る領域である。寛容原性領域は、完全な抗原の提示に際して存在し得、寛容を誘導する能力があり得る。一部の抗原は、天然抗原のプロセシングおよび提示が正常では寛容を誘発しないという点で潜伏性の寛容原性領域を含有する。潜伏性抗原の詳細およびその同定は、国際特許公開WO94/27634に認められる。
【0086】
本発明の特定の実施形態では、2つ、3つ、またはそれより多い複数の誘導性抗原を使用する。複数の標的抗原があるときにこれらの実施形態を行こと、または標的の複数のバイスタンダーを提供することが望ましい場合がある。例えば、糖尿病の処置において、インスリンとグルカゴンをどちらも粘膜結合構成成分と混合することができる。いくつかの考えられる代替の標的をカバーする抗原のカクテルを提供することが望ましい場合もある。例えば、組織適合抗原断片のカクテルを使用して、不明な表現型の同種異系移植片を用いた将来の移植が見込まれる被験体を寛容化することができる。ヒト白血球抗原の同種異系改変(allovariant)領域は当技術分野で公知である:例えば、Immunogenetics、29巻:231頁、1989年。別の例では、アレルゲンの混合物を、アトピーの処置で誘導性抗原として使用することができる。
【0087】
分子の性質に応じて、当技術分野で公知であるいくつかの技術により誘導性抗原を調製することができる。濃縮した、処置する種の細胞から、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、および炭水化物抗原を単離することができる。短いペプチドは、アミノ酸合成によって調製すると好都合である。公知の配列の長いタンパク質は、コードする配列を合成するか、または天然供給源もしくはベクターからコードする配列をPCR増幅し、次いで適切な細菌または真核生物宿主細胞中でコードする配列を発現させることによって調製することができる。
【0088】
本発明の特定の実施形態では、その組合せは細胞または組織から得られた抗原の複合混合物を含み、そのうち1つまたは複数が誘導性抗原の役割を担う。抗原は、そのままか、またはホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドまたはアルコールなどの固定液で処理された細胞全体の形態でもよい。抗原は、細胞または組織を界面活性剤で可溶化するかまたは機械的に破裂させ、その後清澄化することによって作製される細胞溶解液の形態でもよい。抗原は、細胞成分分画により、特に分画遠心法などの技術により形質膜を濃縮し、任意選択でその後界面活性剤でそれを可溶化し透析することにより得ることもできる。可溶化した膜タンパク質のアフィニティーまたはイオン交換クロマトグラフィなどの他の分離技術も適切である。
【0089】
一実施形態では、抗原性ペプチドまたはタンパク質は、自己抗原、同種抗原または移植抗原である。さらに別の特定の実施形態では、自己抗原は、ミエリン塩基性タンパク質、コラーゲンまたはその断片、DNA、核および核小体タンパク質、ミトコンドリアタンパク質ならびに膵β細胞タンパク質からなる群より選択される。
【0090】
本発明は、寛容が所望される抗原を投与することにより、自己免疫疾患の処置で自己抗原に対する寛容の誘導をもたらす。例えば、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)に対する自己抗体は多発性硬化症の患者で観察され、したがって、本発明の組成物を使用して送達されるMBP抗原性ペプチドまたはタンパク質を本発明で使用して、多発性硬化症を処置および予防することができる。
【0091】
別の非限定的な例として、二卵性双生児からの移植の候補である個体は、移植された抗原がレシピエントにとって外来のものであるため、移植された細胞、組織または臓器の拒絶に苦しむ可能性がある。意図される移植片に対するレシピエント個体の事前の寛容が、後の拒絶を阻止または低減する。本発明の実施によって、長期にわたる抗拒絶療法の低減または排除を実現することができる。別の例では、多くの自己免疫疾患が、内因性または自己の抗原に対する細胞免疫応答を特徴とする。内因性抗原に対する免疫系の寛容は、疾患の管理にとって望ましい。
【0092】
さらなる例では、職務で遭遇する可能性があるような、産業汚染物質または化学物質に対する個体の感作が、免疫応答の危険を示す。特に個体の内因性タンパク質と反応する化学物質の形態における化学物質に対する個体の免疫系の事前の寛容は、後の免疫応答の職業上の発生を予防するのに望ましい場合がある。
【0093】
アレルゲンとは、それに対する免疫応答の寛容がやはり望ましい他の抗原である。
【0094】
特に、病原性自己抗原が不明である疾患でも、解剖学的に近接して存在する抗原を使用してバイスタンダー抑制を誘導することができる。例えば、関節リウマチにおいてコラーゲンに対する自己抗体が観察され、したがって、関節リウマチを処置するために、抗原を発現する遺伝子モジュールとしてコラーゲンをコードする遺伝子を利用することができる(例えば、Choy(2000年)、Curr Opin Investig Drugs、1巻:58〜62頁を参照)。さらに、ベータ細胞自己抗原に対する寛容を利用して、1型糖尿病の発症を予防することができる(例えば、BachおよびChatenoud(2001年)、Ann Rev Immunol、19巻:131〜161頁を参照)。
【0095】
別の例として、自己免疫性脳脊髄炎において、また多くの他のCNS疾患ならびに多発性硬化症においてミエリン乏突起膠細胞糖タンパク質(MOG)に対する自己抗体が観察される(例えば、Iglesiasら(2001年)、Glia、36巻:22〜34頁を参照)。したがって、本発明においてMOG抗原を発現する構築物を使用すると、多発性硬化症ならびに中枢神経系の関連する自己免疫障害の処置が可能となる。
【0096】
自己免疫疾患を処置する際に使用する候補自己抗原のさらに他の例には、インスリン依存性糖尿病を処置するための膵ベータ細胞抗原、インスリンおよびGAD;関節リウマチを処置する際に使用する11型コラーゲン、ヒト軟骨gp39(HCgp39)およびgp130−RAPS;多発性硬化症を処置するためのミエリン塩基性タンパク質(MBP)、プロテオリピドタンパク質(PLP)およびミエリン乏突起膠細胞糖タンパク質(MOG、上記を参照);強皮症を処置するためのフィブリラリン、および低分子核小体タンパク質(snoRNP);グレーブス病を処置する際に使用する甲状腺刺激因子受容体(TSH−R);全身性エリテマトーデスを処置する際に使用する核抗原、ヒストン、糖タンパク質gp70およびリボソームタンパク質;原発性胆汁性肝硬変を処置する際に使用するピルビン酸デヒドロゲナーゼジヒドロリポアミドアセチルトランスフェラーゼ(PCD−E2);円形脱毛症を処置する際に使用する毛包抗原;ならびに潰瘍性大腸炎を処置する際に使用するヒトトロポミオシンアイソフォーム5(hTM5)が含まれる。
【0097】
(寛容の評価)
単離細胞を用いた実験または動物モデルにおける実験を行うことにより、寛容を促進する能力について組合せを試験することができる。
【0098】
寛容原性の活性について代理となるものは、完全な抗原または断片が標的部位で適当なサイトカインの産生を刺激する能力である。標的部位でTサプレッサー細胞によって放出される免疫制御性サイトカインはTGF−βであると考えられる(Millerら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、89巻:421頁、1992年)。寛容中に産生され得る他の因子は、サイトカインIL4およびIL−10、ならびに媒介物質PGEである。対照的に、活発な免疫破壊を受けている組織中のリンパ球は、IL−1、IL−2、IL−6、およびγ−IFNなどのサイトカインを分泌する。したがって、候補誘導性抗原の有効性は、それが適当な型のサイトカインを刺激する能力を測定することによって評価することができる。
【0099】
これを考慮して、誘導性抗原の寛容原性エピトープ、有効な粘膜結合構成成分、有効な組合せ、または粘膜投与の有効な形態およびスケジュールについての迅速なスクリーニング試験を、インビトロ細胞アッセイについてのドナーとして同系の動物を使用して行うことができる。動物の粘膜表面を試験組成物で処置し、ある時期に動物を完全フロイントアジュバント中の標的抗原の非経口投与でチャレンジする。脾細胞を単離し、濃度約50μg/mLの標的抗原の存在下で、インビトロで培養する。標的抗原を候補タンパク質または小断片(sub−fragment)と置換して、寛容原性エピトープの位置をマッピングすることができる。標準的なイムノアッセイにより、培地中へのサイトカイン分泌を定量することができる。
【0100】
細胞が他の細胞の活性を抑制する能力を、標的抗原で免疫した動物から単離した細胞を使用して、または標的抗原に応答性の細胞系統を作製することによって決定することができる(Ben−Nunら、Eur. J. Immunol.、11巻:195頁、1981年)。この実験の1つの改変では、サプレッサー細胞集団に軽く放射線を照射して(約1000〜1250ラド)増殖を防止し、そのサプレッサーをレスポンダー細胞と共培養し、次いでトリチウム化チミジン取込み(またはMTT)を使用してレスポンダーの増殖活性を定量する。別の改変では、サプレッサー細胞集団およびレスポンダー細胞集団を2つの(dual)チャンバートランスウェル培養系(Costar、Cambridge Mass.)の上限〜下限レベルで培養し、この系は、集団を、互いに1mm以内で共インキュベートすることを可能にする(ポリカーボネート膜によって分離)(WO93/16724)。この手法では、レスポンダーの増殖活性を別個に測定できるので、サプレッサー細胞集団の放射線照射は不要である。
【0101】
標的抗原が個体中にすでに存在している本発明の実施形態では、抗原を単離したり、またはそれを粘膜結合構成成分と予め混合する必要はない。例えば、抗原は、病的状態(炎症性腸疾患やセリアック病など)の結果として、または食物アレルゲンの消化を通じて特定の様式で個体において発現される可能性がある。1つまたは複数の用量または処方物において粘膜結合構成成分を投与し、それがインサイチューで抗原に対する寛容化を促進する能力を決定することによって試験を行う。
【0102】
特定の疾患の処置についての組成物および投与形態の有効性を、対応する動物疾患モデルにおいて詳細に検討することもできる。使用しているモデルについて必要に応じて疾患の循環している生化学的および免疫学的ホールマーク、罹患組織の免疫組織学、ならびに肉眼での臨床的性質のレベルで、疾患の総体的症状を小さくするかまたは遅らせる処置の能力をモニターする。試験に使用できる動物モデルの非限定的な例は以下の節に含まれる。
【0103】
本発明は、TH1応答、TH2応答、TH17応答、またはこれらの応答の組合せの調節による寛容の調節を企図するものである。TH1応答の調節は、例えばインターフェロンガンマの発現の変化を包含する。TH2応答の調節は、例えばIL−4、IL−5、IL−10、およびIL−13の任意の組合せの発現の変化を包含する。典型的には、TH2応答の増大(低下)は、IL−4、IL−5、IL−10、またはIL−13のうち少なくとも1つの発現の増大(低下)を含み、より典型的には、TH2応答の増大(低下)は、IL−4、IL−5、IL−10、またはIL−13のうち少なくとも2つの発現の増大を含み、最も典型的には、TH2応答の増大(低下)は、IL−4、IL−5、IL−10、またはIL−13のうち少なくとも3つの増大を含み、一方で理想的にはTH2応答の増大(低下)は、IL−4、IL−5、IL−10、およびIL−13のすべての発現の増大(低下)を含む。TH17の調節は、例えばTGF−ベータ、IL−6、IL−21およびIL23の発現の変化を包含し、IL−17、IL−21およびIL−22のレベルに影響する。
【0104】
本発明の研究では、疾患発症は早まるが、全体的な疾患の発生および重症度はCD200KOマウスにおいて経時的に低減し、疾患の症状の低減は、制御性T細胞の数の上昇および疾患過程の後期での高IL−10分泌性脾臓骨髄系細胞の存在と相関していた。CD200KOは、網膜抗原に対する寛容を亢進した。CD200KOのこの結果は、野生型と比較した気道中のAPCの表現型の変化および寛容化したCD200KOマウスにおけるTh2スイッチの亢進と関係する可能性がある。CD200KOマウスにおける寛容の誘導は効率がよく、眼の最大50%が免疫後28日目でも依然として疾患から保護されていた(例えば、MurphyおよびReiner(2002年)、Nat. Rev. Immunol.、2巻:933〜944頁;Suri−Payerら(1998年)、J. Immunol.、160巻:1212〜1218頁;ThorntonおよびShevach(2000年)、J. Immunol.、164巻:183〜190頁;Roncaroloら(2001年)、Immunol. Rev.、182巻:68〜79頁;PeiserおよびGordon(2001年)、Microbes Infect.、3巻:149〜159頁;Gordon(2003年)、Nat. Rev. Immunol.、3巻:23〜35頁を参照)。
【0105】
本発明の研究では、28日目の偽性寛容化および寛容化CD200KOマウス両方の脾臓においてCD11bIL10細胞が明らかに増大した。これらの細胞は、21日目のすべての実験群において存在するCD11bIL10の大きな集団と異なっていた。任意のさらなる活性化刺激またはブレフェルジンAもしくは他のゴルジ阻害剤によるサイトカインの人工的隔離を伴わずに細胞をエクスビボで直接分析したので、検出された高レベルのIL−10は内因性のものであった。これらの細胞のさらなる分析から、それらがCD11c/低、CD45RB中間およびB220であり、形質細胞様DCの形態を有することが示された。類似した表現型を有するがCD45RBである寛容原性形質細胞様DCは、IL−10を用いたインビトロ培養によって得ることができ、正常なC57B1/6マウスの脾臓から単離することができ、IL10トランスジェニックマウス中で上昇する。その細胞はインビトロで分化するのに3週間かかり、本発明の研究では、疾患発症後3〜4週間のCD200KOの脾臓に現れ、長期の刺激および/または複数回の細胞分裂が関与していることが示唆される。骨髄に由来する形質細胞様細胞も寛容原性であり、インビボで抗原特異的IL−10分泌性Tregを生成することができた。有意な数のCD3CD4IL−10細胞は本研究では認められなかったが、CD200KOマウスにおいてCD3CD4CD25の数の増加に向かう傾向が認められ、これは寛容化した群においてすべての時点で有意であった。Tregは、例えばIL−2またはIL−10の発現を阻害することにより免疫抑制効果を有し得る。本発明の研究の28日目におけるすべての群でのIL−10の誘導およびIL−2の抑制は、疾患過程の間の制御性T細胞の誘導、および抗原の経鼻投与をTr1の誘導とつなげる知見と一致する(例えば、Shevach(2002年)、Nat. Rev. Immunol、2巻:389〜400頁;McGuirkおよびMills(2002年)、Trends Immunol.、23巻:450〜455頁;HerrathおよびHarrison(2003年)、Nat. Rev. Immunol.、3巻:223〜232頁;BluestoneおよびAbbas(2003年)、Nat. Rev. Immunol.、3巻:253〜257頁;ThorntonおよびShevach(1998年)、J. Exp. Med.、188巻:287〜296頁;Jonuleitら(2000年)、J. Exp. Med.、192巻:1213〜1222頁;Wakkachら(2003年)、Immunity、18巻:605〜617頁を参照)。
【0106】
自己抗原および自己免疫疾患に対する寛容は、胸腺における自己に反応性のT細胞の負の選択、および胸腺での除去を回避し末梢中で認められる自己反応性T細胞の末梢寛容の機構を含めた様々な機構によって実現される。末梢T細胞寛容をもたらす機構の例には、自己の抗原の「無視」、自己抗原に対するアネルギーまたは不応答性、サイトカイン免疫偏向、および自己に反応性のT細胞の活性誘導細胞死が含まれる。さらに、制御性T細胞は、末梢寛容の媒介に関与することが示されている。例えば、Walkerら(2002年)、Nat. Rev. Immunol.、2巻:11〜19頁;Shevachら(2001年)、Immunol. Rev.、182巻:58〜67頁を参照されたい。いくつかの状況では、自己抗原に対する末梢寛容が消失し(または破壊され)、結果として自己免疫応答が起こる。例えば、EAEの動物モデルでは、TLR自然免疫受容体を介した抗原提示細胞(APC)の活性化が自己寛容を破壊し、その結果EAEを誘導することが示されている(Waldnerら(2004年)、J. Clin. Invest.、113巻:990〜997頁)。
【0107】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、TLR7/8、TLR9、および/またはTLR7/8/9依存性細胞刺激を抑制または低減しつつ、抗原提示を増大させる方法を提供する。本明細書に記載のように、特定のNISCの投与の結果、免疫刺激性ポリヌクレオチドと関連するTLR7/8、TLR9、および/またはTLR7/8/9依存性細胞応答を抑制しつつDCまたはAPCによって抗原が提示される。そのような抑制は、1つまたは複数のTLR関連サイトカインのレベル低下を含み得る。TLR9依存性細胞刺激の抑制で使用するのに適したIRPは、TLR9と関連する細胞応答を阻害または抑制するIRPである。
【0108】
(使用の方法)
本発明は、個体、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトにおける免疫応答を制御する方法であって、本明細書に記載の抗原−キャリア複合体を個体に投与するステップを含む方法を提供する。本発明によって提供される免疫制御の方法は、それだけに限らないが、ミエリン塩基性タンパク質などの免疫刺激性ポリペプチドによって刺激された免疫応答を含めた自然免疫応答を抑制および/または阻害する方法を含む。
【0109】
免疫応答を制御するのに十分な量で抗原−キャリア複合体を投与する。本明細書に記載のように、免疫応答の制御は、体液性および/または細胞性でよく、当該分野で標準的な技術を使用して、本明細書に記載のように測定される。
【0110】
特定の実施形態では、個体は、アレルギー性疾患または状態、アレルギーおよび喘息などの望まれない免疫活性化に関連する障害を患っている。アレルギー性疾患または喘息を有する個体は、既存のアレルギー性疾患または喘息の認識可能な症状を有する個体である。
【0111】
特定の実施形態では、個体は、自己免疫疾患および炎症性疾患などの望まれない免疫活性化に関連する障害を患っている。自己免疫疾患または炎症性疾患を有する個体は、既存の自己免疫疾患または炎症性疾患の認識可能な症状を有する個体である。
【0112】
自己免疫疾患は、2つの広いカテゴリー:臓器特異的および全身性に分けることができる。自己免疫疾患には、それだけに限らないが、関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(SLE)、I型糖尿病、II型糖尿病、多発性硬化症(MS)、早発卵巣不全などの免疫媒介性の不妊、強皮症、シェーグレン病、白斑、脱毛症(禿頭症)、多腺不全、グレーブス病、甲状腺機能低下症、多発性筋炎、尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡、クローン病および潰瘍性大腸炎を含めた炎症性腸疾患、B型肝炎ウイルス(HBV)およびC型肝炎ウイルス(HCV)に関連するものを含めた自己免疫性肝炎、下垂体機能低下症、移植片対宿主病(GvHD)、心筋炎、アジソン病、自己免疫性皮膚疾患、ブドウ膜炎、悪性貧血、ならびに副甲状腺機能低下症が含まれる。
【0113】
自己免疫疾患には、それだけに限らないが、橋本甲状腺炎、I型およびII型多腺性自己免疫症候群、腫瘍随伴性天疱瘡、水疱性類天疱瘡(bullus pemphigoid)、疱疹状皮膚炎、線状IgA病、後天性表皮水疱症、結節性紅斑、妊娠性類天疱瘡、瘢痕性類天疱瘡、混合型本態性クリオグロブリン血症、小児期の慢性水疱症、溶血性貧血、血小板減少性紫斑病、グッドパスチャー症候群、自己免疫性好中球減少症、重症筋無力症、イートン−ランバート筋無力症症候群、スティッフマン症候群、急性播種性脳脊髄炎、ギラン−バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発性根神経障害、伝導ブロックを伴う多巣性運動ニューロパチー、単クローン性高γグロブリン血症を伴う慢性ニューロパチー、眼球クローヌス(opsonoclonus)−ミオクローヌス症候群、小脳変性、脳脊髄炎、網膜症、原発性胆管硬化症、硬化性胆管炎、グルテン過敏性腸疾患、強直性脊椎炎、反応性関節炎、多発性筋炎/皮膚筋炎、混合性結合組織病、ベーチェット症候群、乾癬、結節性多発性動脈炎、アレルギー性脈管炎(anguitis)および肉芽腫症(チャーグ−ストラウス病)、多発性血管炎重複症候群、過敏性血管炎、ウェゲナー肉芽腫症、側頭動脈炎、高安動脈炎、川崎病、中枢神経系の孤立性脈管炎、閉塞性血栓性血管炎、サルコイドーシス、糸球体腎炎、ならびに寒冷症も含まれ得る。これらの状態は医療の分野で周知であり、例えば、Harrison’s Principles of Internal Medicine、第14版、Fauci A Sら編、New York:McGraw−Hill、1998年に記載されている。
【0114】
いくつかの実施形態では、本発明は、疾患の発症前の本発明の組成物の使用に関する。他の実施形態では、本発明は、進行中の疾患を阻害するための本発明の組成物の使用に関する。いくつかの実施形態では、本発明は、被験体における疾患の改善に関する。被験体における疾患の改善とは、被験体における疾患の処置、予防または抑制を含むことを意味する。
【0115】
いくつかの実施形態では、本発明は、疾患の再発の予防に関する。例えば、望まれない免疫応答がペプチドの1つの領域(抗原決定基など)で起こり得る。望まれない免疫応答に関連する疾患の再発は、ペプチドの異なる領域において免疫応答の攻撃を受けることにより起こり得る。MSおよび他のTh1/17媒介性自己免疫疾患を含めた一部の免疫応答障害におけるT細胞応答は動的であり、再発−寛解および/または慢性−進行性疾患の経過中に進化し得る。T細胞レパートリーの動的性質は、疾患が進行するにつれて標的が変化する可能性があるため、特定の疾患の処置について意味を有する。以前は、疾患の進行を予測するのに、応答のパターンについて事前の知識が必要であった。本発明は、「エピトープスプレッディング(epitope spreading)」の機能である、動的変化疾患の影響を防ぐことができる組成物を提供する。再発について公知のモデルは、多発性硬化症(MS)のモデルである、プロテオリピドタンパク質(PLP)に対する免疫反応である。最初の免疫応答は、PLP139〜151に対する応答によって起こり得る。その後の疾患発症は、PLP178〜191に対する再発免疫応答によって起こり得る。本発明の組成物は、PLPモデルを使用した疾患の再発を予防することが示されている。
【0116】
本発明の特定の実施形態は、以前に治療的介入によって寛容化されていない個体における免疫寛容の刺激に関する。これらの実施形態では一般に、抗原および粘膜結合構成成分の組合せの複数回投与を含む。長続きする結果を実現するため、刺激中、典型的には少なくとも3回の投与、頻繁には少なくとも4回の投与、時折少なくとも6回の投与を行うが、被験体は処置の経過の早期に寛容の徴候を示すことがある。ほとんどの場合、各投与はボーラス投与として行われるが、粘膜放出が可能な持続性処方物も適切である。複数回の投与を行う場合、投与の間隔は一般に1日〜3週間であり、典型的には3日〜2週間である。一般に、同じ抗原および粘膜結合構成成分が同じ濃度で存在し、投与は同じ粘膜表面に行われるが、処置の経過の間にこれらの変数のいずれかの変化を適応させることができる。
【0117】
本発明の他の実施形態は、以前に確立された免疫寛容の追加刺激またはその存続の延長に関する。これらの実施形態では一般に、確立された寛容が減退するか、または減退するリスクがある時点での1回の投与または短期間の処置を伴なう。追加刺激は、初回刺激または以前の追加刺激から一般に1カ月〜1年後、典型的には2〜6カ月後に行われる。本発明は、週2回、毎週、隔週、または任意の他の規則的なスケジュールで行う投与のスケジュールでの寛容の規則的な維持を伴う実施形態も含む。
【0118】
本発明の他の実施形態は、望まれない過敏反応に関連する病的状態の処置に関する。過敏反応は、I、II、III、およびIV型のいずれか1つであり得る。即時型(I型)過敏反応は、典型的には1つまたは複数の原因アレルゲンまたはその寛容原性断片を誘導性抗原として使用することによって処置される。投与の頻度は、典型的にはアレルゲン曝露のタイミングと合致する。適切な動物モデルは当技術分野で公知である(例えば、Gundelら、Am. Rev. Respir. Dis.、146巻:369頁、1992年;Wadaら、J. Med. Chem.、39巻、2055頁、1996年;およびWO96/35418)。
【0119】
本発明の他の実施形態は移植に関する。これは、組織試料または移植片をドナー個体からレシピエント個体に移すことを指し、組織によって提供される生理的機能を回復するためにその組織を必要とするヒトレシピエントに対して頻繁に行われる。移植される組織には、(それだけに限らないが)腎臓、肝臓、心臓、肺などの臓器全体;皮膚移植片や眼の角膜などの臓器構成成分;ならびに骨髄細胞などの細胞懸濁物および骨髄または循環している血液から選択し増殖させた細胞の培養物、および全血輸血が含まれる。
【0120】
宿主レシピエントと移植された組織との間の抗原性の差異から、任意の移植の重篤な潜在的合併症が起こる。その差異の性質および程度に応じて、宿主による移植片の、または移植片による宿主の、またはその両方の免疫学的襲撃が起こるリスクがあり得る。リスクの程度は、類似した表現型を有する同様に処置した被験体の集団における応答パターンを追跡し、十分に受け入れられている臨床的手順に従って、考えられる様々な要因を相関させることによって決定される。免疫学的襲撃は、前から存在する免疫学的応答(予め形成されている抗体など)、または移植の頃に始まった応答(T細胞の生成など)の結果である可能性がある。抗体、T細胞、またはT細胞は、互い、ならびに様々なエフェクター分子および細胞との任意の組合せに関与し得る。
【0121】
本発明の一目的は、標準的な外科的手順に従って移植を行うことを可能にするが、レシピエントに対する移植片の有害な免疫学的反応のリスクが低下する物質および手順を提供することである。その手順は、ドナーの組織に対するレシピエントの寛容化、またはその逆、またはその両方を伴う。寛容化は、本発明の組成物として、移植される組織中で発現される標的抗原、またはバイスタンダー抗原を投与することによって行われる。標的抗原は、例えば、同種異系細胞抽出物でよい。移植片は、多くの異なる細胞型の複雑な構造である可能性があり、個体に移植される細胞型のいずれか1つまたは複数が、本発明の手順が適当であるリスクをもたらす可能性がある。例えば、内皮細胞抗原は腎移植を困難にし、パッセンジャーリンパ球は肝移植を困難にする。
【0122】
本発明の特定の実施形態は、レシピエントによる組織移植の拒絶につながる宿主対移植片病のリスクの低下に関する。処置を行って、超急性、急性、または慢性拒絶応答の影響を防止または低減することができる。処置は、優先的には、移植片を組み込んだときに寛容が準備されているように、移植の十分前に開始される;しかし、これが不可能である場合、移植と同時または移植後に処置を開始することができる。開始の時期に関わらず、一般に処置は移植後少なくとも最初の月は規則的な間隔で継続する。移植片の十分な適応が起こる場合、追加投与を必要としない可能性があるが、移植片の拒絶または炎症の何らかの証拠がある場合は再開することができる。もちろん、本発明の寛容化手順を他の形態の免疫抑制と組み合わせて、さらに低いレベルのリスクを実現することができる。
【0123】
本発明の特定の実施形態は、移植片対宿主病のリスクの低下に関する。この一連の実施形態では、移植を行う前に、将来の移植レシピエントの標的抗原に対して生きているドナーを寛容化することが必要である。寛容が実現した後、ドナーの細胞または組織を採取し、移植を行う。
【0124】
自己免疫疾患の研究についての動物モデルは当技術分野で公知である。例えば、ヒト自己免疫疾患と最も類似すると思われる動物モデルには、高い発生率の特定の疾患を自然発生的に発症する動物系統が含まれる。そのようなモデルの例には、それだけに限らないが、1型糖尿病と類似する疾患を発症する非肥満糖尿病(NOD)マウス、およびNew Zealandハイブリッド、MRL−FaslprおよびBXSBマウスなどのループス様疾患傾向の動物が含まれる。自己免疫疾患が誘導されている動物モデルには、それだけに限らないが、多発性硬化症のモデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)、関節リウマチのモデルであるコラーゲン誘導性関節炎(CIA)、およびブドウ膜炎のモデルである実験的自己免疫性ブドウ膜炎(EAU)が含まれる。自己免疫疾患の動物モデルは遺伝子操作によっても作製されており、それには、例えば、炎症性腸疾患についてのIL−2/IL−10ノックアウトマウス、SLEについてのFasまたはFasリガンドノックアウト、および関節リウマチについてのIL−1受容体アンタゴニストノックアウトが含まれる。
【0125】
(投与および免疫応答の評価)
キャリアは、本明細書に記載のように、他の薬剤と組み合わせて投与することができ、生理的に許容されるそのキャリアと組み合わせることができる(したがって、本発明はこれらの組成物を含む)。キャリアは、本明細書に記載されているもののいずれかでよい。
【0126】
本発明の組成物を、それを必要とする個体、特に望まれない免疫応答を有するヒト被験体への投与用に調製することができる。組成物の調製およびその使用は、医薬組成物の調製について一般に受け入れられている手順に従って行われる。
【0127】
医薬組成物を調製する手順は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、E. W. Martin編、Mack Publishing Co.、Pa.に記載されている。(別々に投与する場合でも、一緒に投与する場合でも)粘膜結合構成成分および抗原を任意選択で他の活性構成成分、キャリアおよび賦形剤、ならびに安定化剤と組み合わせる。対象とする追加の活性構成成分は、粘膜表面でその組合せの寛容原性効果を亢進する作用物質である。追加の活性構成成分の例は、IL−4に例示されるサイトカインである。必要ではないが、正確な量の投与に適した単位剤形で医薬組成物を供給することができる。
【0128】
免疫応答を調節するための本発明の投与の有効量および方法は、個体、処置される状態が何か、および当業者には明白な他の要因に基づいて様々であり得る。考慮される要因には、投与経路および施される投与の回数が含まれる。そのようなファクターは当技術分野で公知であり、過度の実験を行わずにそのような決定を行うことは当業者の能力の十分範囲内にある。適切な投与量範囲は、免疫応答の所望の制御(例えば、IFN−αまたは他のサイトカイン産生の抑制)をもたらす範囲である。送達されるキャリアの量で示されるキャリアの有用な投与量範囲は、例えば、およそ0.5〜10mg/kg、1〜9mg/kg、2〜8mg/kg、3〜7mg/kg、4〜6mg/kg、5mg/kg、1〜10mg/kg、5〜10mg/kgのいずれかでよい。あるいは、粒子の数に基づいた投与量を投与することができる。例えば、送達されるキャリアの量で示されるキャリアの有用な投与量は、例えば、およそ投与1回当たり粒子10、10、10、10、もしくは1010個を超える量、または投与1回当たり粒子1×10〜1×10個、または投与1回当たり粒子1×10〜1×10個、または投与1回当たり粒子2×10〜5×10個のいずれかでよい。各患者に投与される絶対量は、バイオアベイラビリティー、クリアランス速度および投与経路などの医薬的特性に依存する。薬学的に許容されるキャリア、希釈液および賦形剤、ならびに医薬組成物および処方物を調製する方法の詳細は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれているRemmingtons Pharmaceutical Sciences、第18版、1990年、Mack Publishing Co.、Easton、Pa.、USA.に示されている。
【0129】
特定のキャリア処方物の投与の有効量および方法は、個々の患者、所望される結果および/または障害の型、疾患の段階、ならびに当業者には明白な他の要因に基づいて様々であり得る。特定の適用例で有用な投与経路(複数可)は当業者には明らかである。投与経路には、それだけに限らないが、局所、皮膚、経皮、経粘膜、表皮、非経口、胃腸管、経気管支および経肺胞を含めた鼻咽頭および肺経路が含まれる。適切な投与量範囲は、血液レベルで測定される約1〜50μMの組織濃度に達するのに十分なIRP含有組成物を提供する範囲である。各患者に投与される絶対量は、バイオアベイラビリティー、クリアランス速度および投与経路などの医薬的特性に依存する。
【0130】
本発明は、それだけに限らないが、生理的に許容されるインプラント、軟膏、クリーム、リンスおよびゲルを含む、局所適用に適したキャリア処方物を提供する。皮膚投与の例示的な経路は、経皮透過、表皮投与や皮下注射などの侵襲性の最も低い経路である。
【0131】
経皮投与は、キャリアが皮膚に浸透し、血流に入ることを可能にすることができるクリーム、リンス、ゲルなどの適用によって行われる。経皮投与に適した組成物には、それだけに限らないが、薬学的に許容される懸濁物、油、クリームおよび軟膏が含まれ、これらは皮膚に直接適用されるか、経皮デバイス(いわゆる「パッチ」)などの保護的キャリアに組み込まれている。適切なクリーム、軟膏などの例は、例えばPhysician’s Desk Reference中に認めることができる。経皮透過は、例えば破れていない皮膚を通じてその生成物を数日以上の期間継続して送達する市販のパッチを使用して、イオン導入によって行うこともできる。この方法の使用は、比較的高い濃度での医薬組成物の制御透過を可能にし、複合薬の注入を許容し、吸収促進剤の同時使用を可能にする。
【0132】
非経口投与経路には、それだけに限らないが、電気的(イオン導入)もしくは直接注射、例えば中心静脈ラインへの直接注射、静脈内、筋内、腹膜内、皮内、または皮下注射が含まれる。非経口投与に適したキャリアの処方物は一般にUSP水または注射用水中で処方され、pH緩衝剤、塩増量剤、保存剤、および他の薬学的に許容される賦形剤をさらに含んでもよい。非経口注射用の免疫制御性ポリヌクレオチドは、注射用の生理食塩水およびリン酸緩衝生理食塩水などの薬学的に許容される滅菌等張溶液中で処方することができる。
【0133】
胃腸管投与経路には、それだけに限らないが、摂取および直腸経路が含まれ、これらは、例えば、薬学的に許容される摂取用の粉末、丸薬または液体、および直腸投与用の座薬の使用を含み得る。
【0134】
鼻咽頭および肺投与は吸入により達成され、鼻内、経気管支および経肺胞経路などの送達経路が含まれる。本発明は、それだけに限らないが、エアロゾルを形成するための液体懸濁物ならびに乾燥粉末吸入送達系用の粉末形態を含めて、吸入による投与に適したキャリアの処方物を含む。キャリア処方物の吸入による投与に適したデバイスには、それだけに限らないが、噴霧器、気化器、噴霧吸入器、および乾燥粉末吸入送達デバイスが含まれる。
【0135】
当技術分野で周知であるように、本明細書に記載の投与経路に使用される溶液または懸濁物は、以下の構成成分:注射用水、生理食塩溶液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒などの滅菌希釈液;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸または重亜硫酸ナトリウムなどの酸化防止剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;アセテート、シトレートまたはホスフェートなどの緩衝剤および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの張性を調整する作用物質のうちいずれか1つまたは複数を含むことができる。塩酸または水酸化ナトリウムなどの酸または塩基を用いてpHを調整することができる。ガラスまたはプラスチックでできているアンプル、ディスポーザブルシリンジまたは複数回投与バイアル中に非経口調製物を封入することができる。
【0136】
当技術分野で周知であるように、注射可能な使用に適した医薬組成物には、滅菌水溶液(水溶性の場合)または分散物、および滅菌注射可能溶液または分散物の即時調製用の滅菌粉末が含まれる。静脈内投与について、適切なキャリアには、生理食塩水、静菌水、Cremophor ELTM(BASF、Parsippany、N.J.)またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が含まれる。すべての場合において、組成物は無菌でなければならず、容易に注入可能(syringability)である範囲の流体でよい。それは製造および貯蔵条件下で安定であり得、細菌や真菌などの微生物の汚染作用に対抗するように保存されなければならない。キャリアは、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、およびそれらの適切な混合物を含有する溶媒または分散媒でよい。例えば、レシチンなどのコーティングを使用するか、分散物の場合には必要な粒子サイズを維持するか、表面活性物質を使用することにより適当な流動性を維持することができる。様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって、微生物の作用の防止を実現することができる。いくつかの実施形態は、組成物中に等張剤、例えば糖、マンニトール、ソルビトールなどの多価アルコール、塩化ナトリウムを含む。吸収を遅延させる作用物質、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物中に含めることによって、注射可能な組成物の吸収の延長をもたらすことができる。
【0137】
当技術分野で周知であるように、必要に応じて上記に列挙した成分の1つまたは組合せと適当な溶媒中の必要量の活性化合物(複数可)とを混合し、その後フィルター滅菌を行うことによって、滅菌注射可能溶液を調製することができる。一般に、分散物は、塩基性分散媒および上記に列挙したものからの必要な他の成分を含有する滅菌媒体に活性化合物を組み込むことによって調製される。滅菌注射可能溶液の調製用の滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、事前に滅菌フィルター処理した有効成分および任意のさらなる所望の成分の溶液からその粉末が得られる真空乾燥および凍結乾燥である。
【0138】
本発明の特定の実施形態は、1つまたは複数の構成成分が別々の容器に入れて提供され、任意選択で使用説明書が付いている、患者または投与する医療従事者による医薬組成物構築のためのキットおよび試薬に関する。
【実施例】
【0139】
(実施例)
本発明の好ましい実施例は本明細書において示され記載されるが、これらの実施例がほんの一例として提供されていることは、当業者にとって明らかである。本発明から逸脱することなく、多数の改変、変更、および置き換えを当業者は直ちに思いつく。当然のことながら、本発明を実施する上で本明細書において記載される本発明の実施例の様々な変形が使用され得る。下記特許請求の範囲は本発明の範囲を規定し、これら特許請求の範囲内にある方法および構成ならびにそれらの均等物がそれらによって包含されるべきことを意図している。
【0140】
(実施例1 ポリスチレン球体に結合体化したPLPペプチドを使用するEAEの再発に対する寛容の誘導)
ポリスチレン微小球体を脳炎誘発性(encephalitogenic)エピトープまたは対照ペプチドと結合し、人工キャリアを使用して活性EAEを誘導できるかどうかを決定した。
【0141】
誘発されたEAEの抑制を決定する方法は、前述した手順に従う(SmithおよびMiller、J. Autoimmun. 27巻:218〜31頁、2006年;TurleyおよびMiller、J Immunol.178巻:2212〜20頁、2007年)。簡潔には、SJLマウス(6〜7週齢)を、Harlan Laboratories、Bethesda、MDから購入した。すべてのマウスを、Northwestern University Center for Comparative Medicineの特定病原体を有さない条件下(SPF)で飼育した。麻痺した動物は、飼料および水に容易に近づくことができた。
【0142】
Fluoresbrite YGカルボキシレート微小球体を、Polysciences,Inc.(Warrington、PA)から購入した。合成ペプチドPLP139〜151(HSLGKWLGHPDKF)およびOVA323〜339(ISQAVHAAHAEINEAGR)を、Genemed、San Francisco、CAから購入した。粒子上にある特定の数の活性アミノ部位または活性カルボキシル部位に対してECDIを使用して、これらのペプチドを微小球体に結合した。
【0143】
エチレンカルボジイミド(ECDI)を使用して、ポリスチレン微小球体懸濁物をペプチドと結合した。微小球体をPBSで2回洗浄し、1mg/mLの各ペプチドおよび30.75mg/mLのECDI(Calbiochem、La Jolla、CA)を含むPBSに3.2×10個/mLで再懸濁し、断続的に振とうしながら4℃で1時間インキュベートした。次いで、ペプチド結合微小球体をPBSで3回洗浄し、70μmの細胞濾過器を通して濾過し、250×10個微小球体/mLでPBSに再懸濁した。PLP139〜151/フロイント完全アジュバント(CFA)を用いる刺激の0日目に対して−7日目に、10個のPLP139〜151またはOVA323〜339と結合している指示したFluoresbriteカルボキシレートYG0.50ミクロン微小球体を、週齢8〜10週の雌性のマウスに静脈注射した。個々の動物を1〜3日毎に観察し、臨床スコアを0〜4の基準で評価した:0=異常なし;1=尾部引きずりまたは後肢脱力;2=尾部引きずりおよび後肢脱力;3=部分的な後肢麻痺;4=完全な後肢麻痺。データを、毎日の臨床スコアの平均として記録する。EAEの臨床徴候について追加の40日間マウスを観察した。
【0144】
免疫化後の指示した日に、マウスに麻酔をかけ、30mLのPBSで灌流した。脊髄を解剖によって摘出し、2〜3mmの脊髄ブロックを液体窒素中でOCT(Miles Laboratories;Elkhart、IN)において直ちに凍結した。このブロックを、脱水を防ぐためにプラスチックバッグ中で−80℃で保管した。腰部領域(およそL2〜L3)由来の厚さ6マイクロメートルの薄片をReichert−Jung Cyocut CM1850クライオトーム(Leica、Deerfield、IL)上で切り、スーパーフロストプラス静電気帯電スライド(Fisher、Pittsburgh、PA)上にマウントし、風乾して、−80℃で保管した。Tyramide Signal Amplification(TSA)Directキット(NEN、Boston、MA)を使用し、製造業者の指示に従ってスライドを染色した。各群由来の腰部切片を解凍し、風乾し、2%のパラホルムアルデヒドで室温にて固定し、1×PBSで再水和した。非特異的な染色を、抗CD16/CD32(FcIII/IIR、2.4G2:BD PharMingen)およびTSAキットによって提供されるブロッキング試薬に加えてアビジン/ビオチンブロッキングキット(Vector Laboratories)を使用して抑止した。ビオチン結合体化Abs抗マウスCD4(H129.19)(BD Biosciences、San Jose、CA)および抗マウスF4/80(BM8)(Caltag、Burlingame、CA)を用いて組織を染色した。DAPIを含むVectashieldマウンティング剤(Vector Laboratories、Burlingame、CA)を用いて、切片にカバーガラスをかぶせた。スライドを観察し、SPOT RTカメラ(Diagnostic Instruments、Sterling Heights、MI)およびMetamorph imaging software(Universal Imaging、Downingtown、PA)を使用する落射蛍光法によって画像を取得した。1群当たり各試料から8個の非連続腰部切片を、100倍および200倍の倍率で分析した。
【0145】
それらの結果を図1に示す。アミノ結合を介してPLP139〜151と結合したFluoresbriteカルボキシレートYG 0.50ミクロンポリスチレン微小球体(Polysciences、Warrington、PA)は、SJLマウスにおいて、PLP139〜151/CFA誘発性EAEの誘発を有意に予防するのに有効であるばかりでなく、さらに重要なことに、活性EAEの再発の開始も完全に抑制したが、OVA323〜339はしなかった。これは、キャリアビーズの組成に依存して、不活性キャリア上にアポトーシスシグナルを含むことが必要とは限らないことを示している可能性がある。
【0146】
(実施例2 PLG微小球体の調製)
この実施例は、抗原特異的ペプチドをカプセル化して送達するのに適切なポリ(ラクチド−co−グリコリド−)(PLG)微小球体の調製について説明する。ダブルエマルジョン技術を使用して微小球体を調製する(J. H. Eldridgeら、Mol Immunol、28巻:287〜294頁、1991年;S.Cohenら、Pharm Res、8巻:713〜720頁、1991年)。ポリマーとしてRG502Hを使用し、安定剤としてポリビニルアルコールを使用する。カプセル化効率は、有機相(ジクロロメタン)(30〜200mg/mL)中のPLG濃度の増加と共に増加することが分かり、この効率は微小球体のメジアン直径(約1〜約10μm)の増加とも相関している。
【0147】
(実施例3 ミエリン塩基性タンパク質を含むリポソーム組成物の調製)
ミエリン塩基性タンパク質(MBP)/リポソームの最適比率は、以前に記載されている方法(17)によって経験的に決められている。MBP/脂質の組み合わせを調製するために、先ずはそれらの構成要素を室温にする。濃度120mg/mLの脂質[1,2−ジラウロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(phosph−ocholine)(DLPC);Avanti Polar−Lipids,Inc.、Alabaster、Ala]を、第3級ブタノール(Fisher Scientific、Houston、Tex)に溶解し、次いで透明溶液を得るために超音波処理する。40mg/mLのMBPもまた第3級ブタノールに溶解し、すべての固形物が溶解するまでボルテックスする。次いでこれら2つの溶液を等量(v:v)で混合して所望のMBP/リポソーム比を得て、ボルテックスして混合し、−80℃で1〜2時間凍結し、乾燥粉末になるまで終夜凍結乾燥し、その後必要な時まで−20℃で保管する。各処理バイアルは、75mgのMBPを含んでいる。
【0148】
(実施例4 ポリ(Glu−Lys)ポリマーの合成)
結合キャリアとしての使用に適しているポリペプチドポリマーは、ポリ(グルタミン酸−リシン)(ポリ(グルタミル−リシン)またはポリ(EK))である。ジイソプロピルカルボジイミドおよび1−ヒドロキシベンゾトリアゾールを使用して、N−α−Fmocグルタミン酸y−ベンジルエステル(Fmoc−Glu(OBzl)−OH)を、N−E−CBZリシンt−ブチルエステル(H−Lys(Z)−tBu)と結合する(両方の試薬は、Calbiochem−Novabiochem、San Diego、Calif.から市販されている)。得られたジペプチド(Fmoc−Glu(OBzl)−Lys(Z)−tBu)を、ピペリジン、続いて95%のトリフルオロ酢酸を使用して脱保護して、H−Glu(OBzl)−Lys(Z)−OHを得ることができる。次いでこのジペプチド単位を、カルボジイミドまたは他の縮合剤によって自由に重合させて、様々な鎖長の混合物を形成させることができる。あるいは、規定の長さが要求される場合、H−Glu(OBzl)−Lys(Z)−OtBuを得るためにピペリジンを用いてアミノ末端を脱保護し、Fmoc−Glu(OBzl)−Lys(Z)−OHを得るために95%のトリフルオロ酢酸を用いてカルボキシル末端を脱保護することにより、カルボジイミドを用いて2個のジペプチドを縮合させてFmoc−Glu(OBzl)−Lys(Z)−Glu(OBzl)−Lys−(Z)−OtBuを得ることが可能になる。このサイクルを繰り返すことにより、規定の長さのポリ(Glu(OBzl)−Lys(Z))を得ることができる。ランダムポリマーまたは規定の長さのポリマー用として、グルタミン酸上のベンジル保護基およびリシン上のCBZ保護基を、H/Pdあるいは液体HFまたはトリフルオロメタンスルホン酸のような強酸を使用して同時に除去することができる。これにより、遊離のアミノ基および遊離のカルボキシル基の両方を、抗原特異的ペプチドおよび/またはアポトーシスシグナル伝達分子と付着させるのに用いることが可能になる。カルボキシレート基が誘導体化する間の反応を防ぐために、ペプチド化学の分野において標準的な方法を用いて、遊離アミノ基をBoc、BpocまたはFmoc基で再保護することができる。
【0149】
(実施例5 抗原特異的ペプチド結合体化重合リポソーム)
抗原特異的ペプチドを重合リポソームと結合体化させて、抗原特異的ペプチドに対する寛容の誘導に用いる抗原特異的ペプチド結合体化重合リポソームを形成する。
【0150】
60%のペンタコサジイン酸充填脂質、29.5%のキレート剤脂質、10%のアミン末端脂質および0.5%のビオチン化脂質の脂質成分を指示した量で混合し、溶媒を蒸発させる。水を添加して、アシル鎖が30mMの溶液を得る。この脂質/水混合物を、少なくとも1時間超音波処理する。超音波処理の間、NaOHを用いて溶液のpHを7〜8に維持し、超音波処理で発生する熱によって温度をゲル−液晶相転移点より高く維持する。このリポソームを水氷の台上にあるペトリ皿に移し、少なくとも1時間254nmで照射して重合させる。重合したリポソームを、0.2μmフィルターを通過させた後に回収する。抗原特異的ペプチド結合体化重合リポソームを形成するために、リン酸緩衝生理食塩水中で約1:3のモル比で、2.3μgのアビジンを14.9μgのビオチン化抗体と混合し、室温で15分間インキュベートする。この溶液を、150μLの上記で形成した重合リポソームと混合し、4℃で終夜インキュベートして、抗原特異的ペプチド結合体化重合リポソームを形成させる。
【0151】
(実施例6 ナノ粒子の作成方法)
逆相乳化重合法によってナノ粒子を合成する。PEGブロックコポリマー乳化剤、PLURONIC−F−127(Sigma−Aldrich、Buchs、Switzerland)およびモノマープロピレンスルフィドを、一定の撹拌のもとで超高純度のミリQ水に添加することによってエマルジョンを作成する。保護された開始剤ペンタエリスリトールテトラチオエステルを、0.20mLの0.5Mナトリウムメチレート溶液と撹拌下で10分間混合することによって脱保護する。次に、脱保護後の開始剤をモノマーエマルジョンに添加し、5分後に60μLの塩基(ジアザ[5.4.0]ビシクロウンデカ(bicycycloundec)−7−エン(DBU))をこの反応液に添加し、不活性雰囲気下で24時間連続的に撹拌させておく。次いで、ジスルフィド架橋結合を生成させるために、これらのナノ粒子を空気に曝露する。
【0152】
12〜14kDaのMWCO膜(Spectrum Laboratories、Rancho Dominguez、Calif.)を用いて超高純度のミリQ水に対して2日間繰り返し透析することによって、これらのナノ粒子を、残留するモノマー、塩基、または遊離のPLURONICから精製する。このナノ粒子のサイズ分布を、動的光散乱計測器(Malvern、Worcestershire、United Kingdom)を使用して決定する。
【0153】
(実施例7 ミエリン塩基性タンパク質のナノ粒子との結合体化)
タンパク質またはペプチドでPluronic(PEGおよびPPGのブロックコポリマー)表面に官能性を持たせることによって、ナノ粒子への抗原の結合体化を達成することができる。化学的結合体化のために遊離のシステイン残基を使用する結合体化の計画を、タンパク質抗原ミエリン塩基性タンパク質(MBP)に関する本実施例において提示する。関連する計画において、N末端またはリシン残基上のアミンなど他の官能基を使用することができる。抗原をナノ粒子表面に吸着させてもよい。
【0154】
MBPをナノ粒子に結合体化するために、マイケル付加反応においてMPBがMPB上の遊離のチオール基を介して結合するPLURONICジビニルスルホンを合成する。両ステップの合成の詳細は、下記の通りである。
【0155】
PLURONIC F−127(Sigma)、ジビニルスルホン(Fluka)、水素化ナトリウム(Aldrich)、トルエン(VWR)、酢酸(Fluka)、ジエチルエーテル(diethylether)(Fisher)、ジクロロメタン(Fisher)およびセライト(Celite)(Macherey Nagel)を受け取ったままで使用する。この反応は、アルゴン(Messer)下で行う。重水素化クロロホルム(Armar)中でHNMRを測定し、0.0ppmにおける内部標準であるテトラメチルシラン(Armar)シグナルとの相対的なppmで、化学シフトを得る。
【0156】
PLURONIC F−127のトルエン溶液を、Dean−Stark trapを使用する共沸蒸留によって乾燥させる。この溶液を氷浴中で冷却し、水素化ナトリウムを添加する。この反応混合物を15分間撹拌し、ジビニルスルホン(Sigma−Aldrich)を速やかに添加する。暗所で室温にて5日間撹拌した後、酢酸を加えることによってこの反応を止める。セライトで濾過し、濾液を減圧下で少容量に濃縮した後、この産物を1リットルの氷冷ジエチルエーテルに沈殿させる。この固形物を濾過し、最小量のジクロロメタンに溶解し、氷冷ジエチルエーテルに沈殿させる、これを計4回行う。このポリマーを真空下で乾燥させ、アルゴン下で−20℃で保管する。
【0157】
(実施例8 フローサイトメトリ分析およびインビトロでのナノ粒子の内在化:DCを含めたAPCによる取込み)
フローサイトメトリ分析を実施して、ナノ粒子を内在化しているリンパ節中のAPCおよびDCの割合を定量する。染色後、リンパ節細胞懸濁物をフローサイトメトリによって分析する(CyAn ADP、Dako、Glostrup、Denmark)。FlowJoソフトウェア(TreeStar、Ashland、Oreg.)を使用してさらに分析を実施する。蛍光ナノ粒子を内在化したAPCおよびDCは、それぞれMHCIIFITCおよびCD11cFITCと決定される。FITCはナノ粒子の標識を表している。ナノ粒子が内在化した後のDCの成熟度を、CD86およびCD80を発現する細胞の割合を算出することによって評価する。
【0158】
(実施例9 量子ドットナノ粒子の修飾)
デンドリマーにカプセル化された量子ドットを含めた量子ドットナノ粒子のアミン表面を、スルホ−SMCC(スルホスクシンイミジル4−N−マレイミドメチルシクロヘキサン−1−カルボキシレート)のような結合剤で修飾して、マレイミド活性化型の量子ドットを形成させる。どんな過剰な試薬も、反応混合物の構成要素を分離するために一般的に使用される技術であるサイズ排除クロマトグラフィによって除去される。デンドリマーを用いて量子ドットをカプセル化する方法は、例えば、Lemonら(J. Am. Chem. Soc.、122巻:12886頁、2000年)に記載されており、その内容を参照により本書に組み込む。
【0159】
(量子ドットナノ粒子−AChE結合体の形成)
複数のQDが複数のタンパク質に付着するのを防止するために、マレイミド活性化QDをスルフヒドリル修飾AChEと限られた時間反応させる。巨大分子の立体障害およびエントロピーのため、複数の架橋は好ましくない。サイズ排除クロマトグラフィを使用して分離することにより、反応を停止させる。
【0160】
(実施例10 デンドリマーの製造法)
PAMAMデンドリマーは、4本の放射状デンドロンアームを持つ1つのエチレンジアミン(EDA)開始剤コアからなり、アクリル酸メチル(MA)の完全なマイケル付加および得られたエステルを大過剰のEDAと一緒に縮合(アミド化)することから構成される反復反応順序を使用して合成され、それぞれの連続的世代が生成する。したがって、各連続反応により、理論的には表面アミノ基の数が2倍になり、官能化するためにそれらを活性化することができる。この合成したデンドリマーを分析し、GPCによって分子量が26,380g/molであることが判明し、電位差滴定によって第1級アミノ基の平均個数を110個と決定した。
【0161】
(実施例11 デンドリマー官能基の特徴付け)
(デンドリマーのアセチル化)
アセチル化は、デンドリマー合成において最初に必要な段階である。部分的なアセチル化を利用して、デンドリマー表面の一部分をさらなる反応または生体系内における分子間相互作用から無力化し、それによって合成中に非特異的な相互作用が起こることを防止する。アセチル化されていない表面アミンを一部分残しておくことにより、官能基が付着できるようになる。残ったアミノ基をアセチル化すると(FITC結合体化した後に)水溶性が増加し、多くの通常媒体と比較して、このデンドリマーは標的特異性の増加を伴なって水性媒体中でより自由に分散できるようになる(Quintanaら、Pharm. Res.19巻:1310頁、2002年)。
【0162】
(実施例12 アセチル化したデンドリマーと官能基の結合体化)
アセチル化したデンドリマーとフルオレセインイソチオシアネートの結合体化。デンドリマーの溶解性を増加させるために、部分的にアセチル化したPAMAMデンドリマーを使用して、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)を結合体化する。部分的にアセチル化したデンドリマーはフルオレセインイソチオシアネートと反応することができ、徹底的な透析、凍結乾燥および繰り返しの膜濾過後、デンドリマー−FITC産物が生成される。
【0163】
(アセチル化したデンドリマーと葉酸の結合体化)
部分的にアセチル化した単官能基の樹状デバイス(dendritic device)と葉酸の結合体化を、葉酸のγ−カルボキシル基とデンドリマーの第1級アミノ基との縮合によって行う。この反応混合物を、デンドリマー−FITCを含むDI水の溶液に滴下し、(窒素雰囲気下で)2日間激しく撹拌して、葉酸がデンドリマー−FITCと十分に結合体化できるようにする。
【0164】
(実施例13 T細胞表現型分析による寛容の評価)
本発明のナノ粒子−MBP(83〜99)複合体をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解し、500μgのナノ粒子−MBP複合体を含む0.1〜0.2mLを雌性のルイスラットに腹膜内注射する。ラット対照群には、0.1〜0.2mLのPBSを注射する。注射の9〜10日後、これらのラットから脾臓およびリンパ節(鼠径および腰部)を採取し、40μmのナイロン製細胞濾過器を通して組織をばらばらにすることによって単細胞懸濁物を得る。関連のモノクローナル抗体を適当な希釈で用いてPBS(1%のFCS)中で試料を染色する。ヨウ化プロピジウム染色される細胞を分析から除外する。試料をLSR2フローサイトメータ(BD Biosciences、USA)で取得し、FACS Divaソフトウェアを使用して分析した。活性化マーカーCD25、CD44、CD62L、CTLA−4、CD45Rb、およびCD69の発現を、ナノ粒子−MBP複合体を注射したラット由来の脾細胞およびリンパ節細胞で分析する。複合体を注入したラット由来のCD4T細胞は、CD25/CD45RB中間表現型を発現し、これはアネルギーのCD4T細胞に特徴的である。CD25およびFoxP3であるCD4細胞の割合が高いことはまた、制御性T細胞の誘導も示唆している。
【0165】
アポトーシスを評価するために、CD8α単離キット(Miltenyi Biotec、Germany)を使用して、製造者の手順に従って脾細胞からCD8T細胞を単離し、アネキシンVおよびPI(両方ともBD Biosciences)を用いて製造者の手順に従って染色し、次いでフローサイトメトリで分析する。グランザイムBおよびBcl−2を細胞内染色するために、T細胞をBD cytofix/cytopermキット(BD Biosciences)を用いて浸透性にし、ラット抗マウスグランザイムB PE mAb(eBioscience)またはハムスター抗マウスBcl−2FITC mAb(BD Biosciences)を用いて染色する。適当なアイソタイプmAbを使用して特異性対照とする。試料をフローサイトメトリによって分析する(これは当技術分野で周知である)。
【0166】
(実施例14 T細胞増殖による寛容の評価)
本発明のナノ粒子−MBP(83〜99)複合体をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解し、500μgのナノ粒子−MBP複合体を含む0.1〜0.2mLをBalb/cマウスに腹膜内注射する。マウスの対照群には、0.1〜0.2mLのPBSを与える。注射の9〜10日後、これらのマウスから脾臓およびリンパ節(鼠径および腰部)を採取し、40μmのナイロン製細胞濾過器を通して組織をばらばらにすることによって単細胞懸濁物を得る。CD4T細胞単離キット(Miltenyi Biotec、Germany)を使用し、製造者の手順に従って脾細胞からCD4T細胞を単離する。精製したCD4T細胞を、1)T細胞が激減しており、照射を受けた(2000R)CBA/J刺激物(5×10個)、72時間、2)同系脾細胞(5×10個)および可溶性の抗CD3(145〜2C11)、48時間、または3)100ng/mLのホルボール12−ミリステート13−アセテート(Sigma)および200nMのカルシウムイオノフォア(イオノマイシン、Sigma)、合計36時間、と一緒に3連で播種し(5×10個/ウェル)、最後の8〜12時間に1μCi/ウェルの[H]TdRでパルス(pulse)する。DNAの複製および細胞増殖の指標として、[H]TdRの取込みをシンチレーション流体の存在下でβカウンタ(Beckman Coulter,Inc.、Fullerton、CA)によって測定する。抗CD3で刺激したT細胞に由来する上清を48時間後に採取し、IL−2の産生を、抗IL−4抗体(11B11)の存在下でのIL−2依存的細胞株CTLL−2の増殖を測定することによって決定し、ここで1単位とは、最大半量の[H]TdR取込みを支持するのに必要とされるIL−2の量である。
【0167】
蛍光細胞質色素であるカルボキシフルオレセイン二酢酸スクシンイミジルエステル(CFSE)を使用して細胞の分裂を直接視覚化することにより、T細胞の増殖を評価してもよい。細胞をCSFE標識するために、1mLのPBS中で、ナノ粒子−MBP複合体を注射したマウス由来の脾細胞を3μMのCFSE(Molecular Probes、UK)と一緒に37℃で3分間インキュベートする。96ウェルプレートの各ウェル中で、MBP(83〜99)ペプチド(10μM)または関係のない対照ペプチドpSV9(10μM)でコーティングした1×10個の照射を受けた(80Gy)温度誘導性RMA−Sを用いて、2×10個のCFSE標識脾細胞を刺激する。適当な培養液に、10U/mLのIL−2、10ng/mLのIL−7、50ng/mLのIL−15または50ng/mLのIL−21を補充する。適当な時点で細胞を収集し、CD4で染色し、フローサイトメトリによるCFSEプロファイリングに供する。
【0168】
(実施例15 T細胞サイトカインプロファイルおよび細胞毒性による寛容の評価)
(IFN−γアッセイ)
本発明のナノ粒子−MBP(83〜99)複合体をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解し、500μgのナノ粒子−MBP複合体を含む0.1〜0.2mLをBalb/cマウスに腹膜内注射する。マウスの対照群には、0.1〜0.2mLのPBSを与える。注射の9〜10日後、これらのマウスから脾臓およびリンパ節(鼠径および腰部)を採取し、40μmのナイロン製細胞濾過器を通して組織をばらばらにすることによって単細胞懸濁物を得る。抗原特異的なIFN−γの産生を測定するために、CD4T細胞単離キット(Miltenyi Biotec、Germany)を使用して、製造者の手順に従って脾細胞からCD4T細胞を単離する。精製したCD4T細胞を刺激し、培養上清を収集し、IFN−γをIFN−γELISA法で測定する。それぞれ異なる実験条件について、96ウェル丸底プレートに3連で培養物を播種する。各ウェルにおいて、MBP(83〜99)ペプチド(10μM)または関係のない対照ペプチド(pSV9)でコーティングした1×10個の照射を受けた(80Gy)温度誘導性RMA−Sを用いて、ナノ粒子−MBP(83〜99)複合体を注射したマウス由来の1×10個の脾細胞を刺激する。適当な培養液に、10U/mLのIL−2、10ng/mLのIL−7、50ng/mLのIL−15または50ng/mLのIL−21を補充する。72時間後に、50μLの培養上清を各ウェルから収集し、抗IFN−γ抗体(BD Biosciences)を使用するサンドイッチELISA法によってマウスIFN−γを測定する。その上清中の、組換えIFN−γの希釈に対して平均吸光度値(OD)の標準曲線を使用して、実験試料中のその活性を確認する。
【0169】
(IL−2バイオアッセイ)
抗原特異的なIL−2の産生を測定するために、ナノ粒子−MBP(83〜99)複合体を注射したマウスから精製したCD4T細胞を刺激し、培養上清を収集し、IL−2依存的CTLL細胞を使用してIL−2を測定する。IL−2アッセイの刺激期を、IFN−γアッセイと同様に実行する。72時間後に、50μLの培養上清を収集し、CTLL細胞(5×10個)を含むウェルに移し、16〜18時間インキュベートする。1μCiの[H]−チミジンを各ウェルに添加することによってこれらの細胞を[H]−チミジンでパルスし、さらに12時間インキュベートする。その上清中の、組換えIL−2の希釈に対してcpmの標準曲線を使用して、実験試料中のその活性を確認する。あるいは、抗IL−2抗体(BD Biosciences)を使用するサンドイッチELISA法によって、この上清由来のマウスIL−2を測定してもよい。
【0170】
(CTLアッセイ)
ナノ粒子−MBP(83〜99)複合体を注射したマウス由来CD8T細胞の細胞毒性活性を、MBL−2腫瘍細胞およびMBP(83〜99)ペプチドまたはMHCクラスI結合対照ペプチドでコーティングしたRMA−S細胞に対する4時間の51クロミウム放出アッセイで決定する。51クロミウム放出アッセイは、当技術分野で周知である。
【0171】
(サイトカインELISA法)
ナノ粒子−MBP(83〜99)複合体を注射したマウスから精製したCD4T細胞を刺激し、前述のように培養上清を収集する。IL−1、IL−4、IL−5、IL−6、IL−10、IL−13、TGF−β、およびTNF−αを含めたサイトカインのレベルを、サイトカインサンドイッチELISA法によって標準的な手順(BD Biosciences)を使用して測定する。IL−4、IL−5、IL−10およびIL−13の産生増加は、一般的にTh2応答と関連している。IL−10およびTGF−βは、一般的に制御性T細胞応答と関連している。
【0172】
(実施例16 T細胞抑制活性による寛容評価)
本発明のナノ粒子−MBP(83〜99)複合体をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解し、500μgのナノ粒子−MBP複合体を含む0.1〜0.2mLをBalb/cマウスに腹膜内注射する。マウスの対照群には、0.1〜0.2mLのPBSを与える。注射の9〜10日後、これらのマウスから脾臓およびリンパ節(鼠径および腰部)を採取し、40μmのナイロン製細胞濾過器を通して組織をばらばらにすることによって単細胞懸濁物を得る。T細胞の抑制活性を測定するために、CD4T細胞単離キット(Miltenyi Biotec、Germany)を使用して、製造者の手順に従って脾細胞からCD4T細胞を単離する。CD4CD25制御性T細胞は、CD25マイクロビーズを使用して単離することができる。
【0173】
可溶性の0.5〜0.75μg/mLのα−CD3および2.5〜4μg/mLのα−CD28存在下で、CD4CD25レスポンダーT細胞(Tresp)(3×10個)を、ナノ粒子−MBP(83〜99)複合体を注射したマウス由来のTreg(CD4CD25)と一緒にU底96ウェルプレート中で2〜4日間培養する。照射を受け(3000Rad)、T細胞を激減させた3×10個の脾細胞を、α−CD28の代わりにAPCとして共培養に添加することができる。共培養中で、Treg細胞とTresp細胞を区別するために、Tresp細胞をCFSEで標識する。CD4CD25レスポンダーT細胞の増殖を、培養の最後の6〜16時間のH−チミジンの取込みによって、またはCFSE希釈によって測定する。0時間目および1、2、3日後に、細胞死を測定する。CFSE+レスポンダーの細胞死分析は、前方散乱あるいはアネキシンVおよびヨウ化プロピジウム染色に基づいて実施されるべきである。ナノ粒子−MBP(83〜99)複合体を注射したマウスから単離したTregは、応答CD4CD25T細胞の増殖を抑制する能力を有する。
【0174】
(実施例17 gp39ペプチドによるインビボにおける寛容の誘導)
ペプチド抗原による寛容誘導の観察に適するヒト軟骨(HC)gp−39(263〜275)特異的遅延型過敏症(DTH)アッセイを開発する。不完全フロイントアジュバント(IFA)中でHCgp−39(263〜275)を用いるBalb/cマウスの免疫化は、HCgp−39(263〜275)ペプチドを用いるチャレンジに続くDTH応答の誘導に効果的である。このペプチドに基づいたDTH系を使用して、HCgp−39(263〜275)ペプチドと結合体化したナノ粒子の非経口適用によるDTH応答の調節を検出する。HCgp−39(263〜275)ペプチドと結合体化したナノ粒子を適用することにより、用量依存的な方法でHCgp−39(263〜275)誘導DTH応答が下方制御され、これは、HCgp−39(263〜275)ペプチドと結合体化したナノ粒子が、HCgp−39(263〜275)で誘導されるペプチド特異的応答を効果的に寛容化できることを示している。
【0175】
(実施例18 HLA:DR2トランスジェニックマウスにおける寛容の誘導)
本発明の抗原−キャリア複合体は、MHC分子によって提示されるとき、MBP140〜154に相当するミエリン塩基性タンパク質(MBP)のT細胞エピトープの中から選択されるペプチドを使用して、多発性硬化症のヒト化マウスモデルにおける免疫寛容を誘導することができる。このマウスモデルは、ヒトMHC分子HLA:DR2(DRB1*1501)についてのトランスジェニックである(Madsenら、Nature Genetics23巻:343〜347頁、1999年)。
【0176】
マウスにインビボで抗原をチャレンジしたとき、抗原−キャリア複合体を投与した後のアネルギーの誘導またはCD4T細胞集団の変化を、T細胞の増殖の減少によって観察してもよい。
【0177】
(方法)
(抗原)
Abimed AMS422多重ペプチドシンセサイザ(Abimed、Langenfeld、Germany)によってL−アミノ酸および標準的なF−moc化学を使用して、MBPペプチド140〜154を合成する。MBPペプチド140〜154の配列は、GFKGVDAQGTLSKIFである。MBPペプチド140〜154は、本明細書において記載されているナノ粒子と結合体化している。リンパ球増殖アッセイにおいて、ヒト型結核菌(PPD)の精製タンパク質誘導体(Veterinary Laboratories、Addlestone、Surrey)を、50μg/mLの濃度で使用する。
【0178】
(マウスおよび寛容の誘導)
HLA:DR2トランスジェニックマウスを、隔離飼育器中で交配し、特定病原体を有さない施設中で飼育する。各処置群の中で、マウスは週齢(8〜12週)および性別の両方ともが一致している。−8、−6、−4日目に、マウスを25μLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の100μgのMBPペプチド140〜154または25μLのPBSだけを用いて鼻腔内に(i.n)前処置し、その後0日目に免疫化する。
【0179】
等量フロイント完全アジュバント(CFA)ならびに200μgのMBP140〜154および400μgの熱殺菌したヒト型結核菌H37RA株(Difco、Detroit、Mich.)を含むPBSからなる100μLのエマルジョンを用いて尾部および後肢の基部でマウスを皮下で免疫化する。予めPBSを用いてi.n処置したマウスの対照群をペプチドなしで免疫化する。
【0180】
鼻腔内前処置に続く免疫化により次の3群のマウスができる:A群は、PBSを用いて寛容化され、MBP140〜154を用いて免疫化される(7匹のマウス);B群は、MBP140〜154−ナノ粒子用いて寛容化され、次いで同じペプチドMBP140〜154用いて免疫化される(7匹のマウス);C群は、PBS用いて寛容化および免疫化の両方がされる。
【0181】
(リンパ節増殖アッセイ)
10日後に、排出膝窩リンパ節および鼠径部リンパ節を無菌的に摘出する。これらの節をばらばらにし、洗浄し、5×10−5Mの2−メルカプトエタノールおよび4mMのL−グルタミンを補ったX−Vivo15培地(BioWhittaker、Maidenhead、UK)中に再懸濁する。細胞を5×10個/ウェルで3連で播種し、様々な濃度のMBPペプチド140〜154(1〜150μg/mL)と共に、またはそれなしで72時間培養する。マウスが良好に免疫化したかを調べるために、上記の通りにリンパ節細胞をPPD(50μg/mL)と一緒に播種する。最後の16時間に、培養物を0.5μCiの[H]−チミジンでパルスする。細胞を回収し、T細胞の増殖を刺激指数(SI)として表す:抗原を含む培養物の補正カウント毎分(ccpm)/抗原なし培養物のccpm。
【0182】
(結果)
PBSを用いてi.n前処置し、次いでMBPペプチド140〜154で免疫化したマウス(A群)は、MBP140〜154で再チャレンジしたとき用量依存的様式で抗原性刺激に応答する。ペプチド濃度の増加と共に、SI(リンパ球増殖の基準)はメジアン2.5からメジアン10へと増加する。この群のすべてのマウスは、鼻腔内に投与したPBSが、MBP140〜154に対する寛容を誘導できなかったことを実証している。それに対し、MBP140〜154−ナノ粒子を用いた鼻腔内前処置は、このペプチドで刺激されたリンパ球の増殖応答に著しい影響を及ぼしている。B群マウス由来のリンパ球はどんなに著しい程度、150μg/mLの高濃度のペプチドでさえも、応答することができない(SIメジアン3)。A群と比較すると、B群における増殖の著しい低下は明白である。このデータは、本発明のMBP140〜154−ナノ粒子が、HLA−DR2マウス由来のリンパ球において寛容を誘導することを示している。
【0183】
PBSで前処置し免疫化したマウス(C群)から抽出したリンパ球は、PPDに対して優れた応答を引き起こすためPPD抗原に対して免疫化されているにもかかわらず、MBP140〜154に対してはどんな応答も示さない。C群内でMBPペプチドに対する応答がないことから、A群に見られる増殖応答が実際にMBP140〜154を用いた免疫化に対する応答であり、対照A群およびC群におけるMBP140〜154およびPPDの両方に対する応答が抗原特異的であるということが裏付けられる。MBP140〜154に対する増殖が抗原特異的であるように、この分子に対する寛容の誘導も特異的である。
【0184】
(結論)
プロセッシングを必要とせずにHLA:DR2MHCクラスII分子に結合する本発明のMBPペプチド−ナノ粒子(例えば、MBP140〜154)は、鼻腔内に投与されたとき、寛容を誘導することができる。
【0185】
(実施例19 抗原−キャリア複合体によるEAEの処置)
(免疫化およびEAE誘導)
MBPペプチドおよびペプチド類似体をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解し、油中の4mg/mLの熱殺菌したヒト型結核菌H37Ra(Difco Laboratories,Inc.、Detroit、Mich.)を補充した等量の不完全フロイントアジュバントと一緒に乳化する。尾部の基部の皮下において500μgのペプチドを含む0.1〜0.2mLのエマルジョンで雌性のルイスラットを免疫化し、臨床徴候を毎日観察する。EAEを、0〜4の基準で評価する:0、臨床的に正常;1、弛緩した尾部;2、後肢脱力;3、後肢麻痺;4、前肢および後肢に影響。
【0186】
この系において、フロイント完全アジュバント(CFA)中のMBP(83〜99)ペプチドを尾部の基部に注射することによって12匹の雌性ルイスラットに実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)を誘導する。9日後に、ラットを6匹ずつ2つの動物群に分け、13.2mg/kgのMBPペプチド−デンドリマーまたは対照ペプチドであるマッコウクジラミオグロビン(SWM)(110〜121)を皮下注射する。動物を疾患症状について毎日観察し、0〜4へ非線形で上がる基準で盲検法でスコアをつける(上昇は麻痺の増加を示す)。各個々のスコアを群コホートで平均値化して、平均臨床スコアを得る。
【0187】
MBPペプチド−デンドリマーを用いて処置したこれら動物における疾患の重症度は、対照群と比較して約50%低減している。MBPペプチド−デンドリマーは、このモデル系において疾患の重症度および期間を低減する。
【0188】
これらの結果は、MBPペプチド−デンドリマーがEAEの発症を抑制することを明らかに実証しているが、EAEのマウス動物モデル系も開発した。SJL/J(H−2)マウスは、百日咳ワクチンの存在下で、MBP(83〜99)ペプチドを用いる免疫化に応答してEAEの慢性再発型を発症する。MBPペプチド(83〜99)−デンドリマーの疾患抑制能力を評価する。
【0189】
10匹の動物群を、20mg/kgの対照ペプチドまたはペプチド類似体で4週間にわたり毎週腹膜内注射する。次いでこれらの動物を、次の2〜3カ月間にわたり疾患について観察する。対照群において、SJL/Jマウスは20日目前後にEAEの症状を発症し始め、その後約3週間続く。70日目前後に再発が始まり、平均臨床スコアが約1に達する。しかし、MBPペプチド(83〜99)−デンドリマーを4週間にわたり毎週注射することにより、第1相の疾患レベルが低減するだけでなく、再発の重症度も低減する。
【0190】
(実施例20 ペプチド結合ポリスチレン微小球体の生産および使用)
(ペプチド結合ポリスチレン微小球体の生産)
必要に応じて、カルボキシル微粒子、PolyLink結合緩衝液およびPolyLink洗浄/貯蔵緩衝液(Polysciences,Inc.、Warrington、PA)を室温まで暖める。水溶性カルボジイミド(ECDI)を用いてカルボキシル基を活性化することにより、カルボキシル(COOH)微粒子をタンパク質の共有結合に使用することができる。カルボジイミドは、カルボキシル基と反応して、対象とするタンパク質上の第1級アミンに対して反応性がある活性エステルを生成する。1.5ポリプロピレン微量遠心チューブに12.5mgの微粒子をピペットで入れる。約10000×Gで5〜10分間遠心分離することによりこれらの微粒子をペレット化し、この微粒子ペレットを0.4mLのPolyLink結合緩衝液に再懸濁する。約10000×Gで5〜10分間遠心分離することにより再度ペレット化する。この微粒子ペレットを、0.17mLのPolyLink結合緩衝液に再懸濁する。使用の直前に50μLのPolyLink結合緩衝液に10mgのPolyLinkECDIを溶解させることによって、200mg/mLのECDI溶液を調製する。微粒子懸濁物に20μLのECDI溶液を添加する。穏やかに回転させるかまたは短時間ボルテックスして混合する。200〜500μgのタンパク質等価物(例えばPLP139〜151、PLP178〜191またはOVA323〜339)を添加する。ピペッティングで穏やかに混合する。室温で30〜60分間インキュベートする。約10000×Gで10分間混合物を遠心分離し、結合したタンパク質の量を決定するためにこの上清を保存する。微粒子ペレットを1mLの無菌PBSに再懸濁する。10000×Gで再度遠心分離する。
【0191】
(ペプチド結合ポリスチレン微小球体の注射)
1mLの無菌PBSに再懸濁する。懸濁物を40μmの網目の濾過器に通して、架橋した粒子の塊を除去する。無菌のPBSで4mLに容量を増やす(500μgの結合した微小球体は、20匹の動物に投与するのに充分である)。懸濁した粒子を、尾部側脈を通してマウスに注射する。
【0192】
(実施例21 ペプチド結合ポリスチレン微小球体は、PLP誘発性EAEの予防および処置の両方に対して特異的な寛容を誘導する)
この実施例は、マウスにおけるPLP139〜151誘発性EAEを誘導する前または後に、ペプチド結合ポリスチレン微小球体を投与する効果について記載している。
【0193】
実施例1または実施例20に記載の通り、ペプチド結合微小球体の生産を実施した。PLP139〜151または対照(OVA323〜339)ペプチドを、0.5μmの微小球体と結合した。PLP139〜151またはPLP178〜191+フロイント完全アジュバント(CFA)を用いて刺激する0日目に対して−7日目(「疾患予防」)または12日目(「疾患処置」)に、PLP139〜151または対照(OVA323〜339)ペプチドに結合した微小球体をマウスに静脈注射した。実施例1に記載のように、動物を観察しスコアを付けた。その結果を、図2に示す。疾患発症前にPLP139〜151でコーティングした微小球体を用いて処置した動物は、偽性ビーズ(ECDI処理をするがペプチドのない微小球体)を用いて処置した動物と比較して、臨床スコアの減少が見られた。これらの結果はまた、細胞表面にPLP139〜151を有するように処理した細胞を使用する処置に対する臨床スコアにおいても同様の減少が見られた(図2Aおよび2Bを参照のこと)。疾患発症後にPLP139〜151でコーティングした微小球体を用いて処置した動物は、対照ペプチドを有する微小球体で処置しない動物または処置した動物と比較して、同様に臨床スコアの減少が見られた(図2Cを参照のこと)。したがって、この結果は、疾患発症の前および後にペプチド結合ポリスチレン微小球体を使用する処置が、疾患重症度を減少させるのに有効であることを示している。
【0194】
(実施例22 刺激および拡散エピトープに対するリコール(recall)応答は、寛容化したレシピエントにおいて減少する)
この実施例は、遅延型過敏症のマウスモデルにペプチド結合ポリスチレン微小球体を投与する効果について記載している。
【0195】
マウスを準備し、PLP139〜151、対照(OVA323〜339)ペプチド、または偽性結合微小球体を使用して処置した。前述の通り、PLP139〜151またはPLP178〜191/フロイント完全アジュバント(CFA)を用いて刺激した0日目に対して40日目に、CD4T細胞のリコール応答を遅延型過敏症(DTH)によって測定した(SmithおよびMiller、Journal of Autoimmunity、27巻:218〜31頁、2006年;Luoら、PNAS、105巻:14527〜32頁、2008年)。24時間耳腫脹アッセイを使用して耳の腫脹を測定することによりDTHの測定を実施した。プレチャレンジ(pre−challenge)の耳の厚さを、ミツトヨ型7326エンジニアマイクロメータを使用して決定した(Schlesinger’s Tools、Brooklyn、NY)。その後直ちに耳の背面にペプチドを注射することにより、DTH応答を引き起こした。プレチャレンジ測定の間の耳の厚さの増加を、耳のチャレンジの24時間後に決定した。結果を図3に示す。PLP139〜151微小球体を用いて前処置したマウスにおける正味の腫脹の平均が対照と同等であったのに対して、対照(OVA323〜339)ペプチドまたは偽性結合微小球体は腫脹が増加した。これらの結果は、微粒子を使用して遅発性炎症反応から動物を保護することができることを示している。
【0196】
(実施例23 CNS浸潤に対するペプチド結合微小球体の効果)
この実施例は、CNSへの白血球のCNS浸潤に対してペプチド結合ポリスチレン微小球体を投与する効果について記載している。
【0197】
マウスを準備し、PLP139〜151、対照(OVA323〜339)ペプチド結合微小球体を使用して処置したか、またはどんな微小球体でも処置しなかった。PLP139〜151/フロイント完全アジュバント(CFA)を用いた刺激に対して−7日目に、マウスに注射した。前述の通り、免疫組織化学によってマウスCNSへの白血球の浸潤を観察した(SmithおよびMiller、Journal of Autoimmunity、27巻:218〜31頁、2006年;TurleyおよびMiller、J Immunol.、178巻:2212〜20頁、2007年)。簡潔には、免疫化後の指示した日にマウスに麻酔をかけ、30mLのPBSで灌流した。解剖によって脊髄を摘出し、直ちに液体窒素中で冷凍した。腰部領域由来の厚さ6マイクロメートルの薄片を切り、スーパーフロストプラス静電気帯電スライド(Fisher、Pittsburgh、PA)上にマウントし、風乾して、−80℃で保管した。その結果を図4に示す。CNSにおいて細胞性(図4A)、CD4CD3細胞(図4B)またはFoxp3細胞(図4C)についてスライドを染色した。この結果は、CNSにおいてPLP139〜151で処理した微小球体を用いる処置が、対照と比較して、白血球を減少させたことを示している。
【0198】
(実施例24 脾臓摘出動物におけるペプチド結合微小球体の効果)
この実施例は、寛容の誘導における脾臓活性の要件を観察するために脾臓を摘出したマウスにペプチド結合ポリスチレン微小球体を投与する効果について記載している。
【0199】
実施例1または実施例20に記載の通り、ペプチド結合微小球体の生産を実施した。脾臓を摘出した動物または完全な動物を、PLP139〜151、対照(OVA323〜339)ペプチド結合微小球体を用いて処置したか、またはどんな微小球体でも処置しなかった。PLP139〜151/フロイント完全アジュバント(CFA)を用いた刺激に対して−7日目に、微小球体でこれらの動物を処置した。その結果を図5に示す。対照(OVA323〜339)ペプチド結合微小球体が、どんな微小球体でも処置しなかった動物と同様の平均臨床スコアを示したのに対して、PLP139〜151微小球体で処置した脾臓摘出マウスまたは完全なマウスは両方とも平均臨床スコアの減少を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アポトーシスシグナル伝達分子および抗原性ペプチドが付着したキャリア粒子を含む、抗原特異的寛容を誘導するための組成物。
【請求項2】
被験体において抗原特異的寛容を誘導する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記抗原性ペプチドが、自己免疫抗原、移植抗原またはアレルゲンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記抗原性ペプチドが、ミエリン塩基性タンパク質、アセチルコリン受容体、内因性抗原、ミエリン乏突起膠細胞糖タンパク質、膵ベータ細胞抗原、インスリン、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)、11型コラーゲン、ヒト軟骨gp39、fp130−RAPS、プロテオリピドタンパク質、フィブリラリン、低分子核小体タンパク質、甲状腺刺激因子受容体、ヒストン、糖タンパク質gp70、ピルビン酸デヒドロゲナーゼジヒドロリポアミドアセチルトランスフェラーゼ(PCD−E2)、毛包抗原またはヒトトロポミオシンアイソフォーム5である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記抗原性ペプチドが、結合体化分子によって前記キャリアと結合している、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記結合体化分子がエチレンカルボジイミド(ECDI)である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記アポトーシスシグナル伝達分子が、アネキシン−1、アネキシン−5、ホスファチジルセリン、または乳脂肪球−EGF−因子8(MFG−E8)である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記アポトーシスシグナル伝達分子がFasリガンドまたはTNF−アルファである、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記抗原性ペプチドが前記アポトーシスシグナル伝達分子と融合している、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記キャリア粒子が、ナノ粒子または微粒子である、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記ナノ粒子または微粒子が直径1〜20ミクロンである、請求項9に記載の組成物。
【請求項12】
前記ナノ粒子または微粒子が生分解性である、請求項9に記載の組成物。
【請求項13】
前記キャリアが量子ドットをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
前記キャリアがデンドリマーである、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
前記キャリアがリポソームまたはミセルである、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
第2の抗原性ペプチドをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
抗原性ペプチドが付着したポリスチレン粒子を含む組成物。
【請求項18】
被験体における抗原特異的免疫応答を低減する方法であって、アポトーシスシグナル伝達分子および抗原性ペプチドが付着したキャリア粒子を含む抗原特異的寛容を誘導するための組成物を前記被験体に投与するステップを含み、前記組成物は被験体における抗原特異的免疫応答を低減する、方法。
【請求項19】
前記抗原性ペプチドが、自己免疫抗原、移植抗原またはアレルゲンである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記自己免疫抗原は、前記被験体が免疫応答を上昇させる抗原である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記抗原性ペプチドが、ミエリン塩基性タンパク質、アセチルコリン受容体、内因性抗原、ミエリン乏突起膠細胞糖タンパク質、膵ベータ細胞抗原、インスリン、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)、11型コラーゲン、ヒト軟骨gp39、fp130−RAPS、プロテオリピドタンパク質、フィブリラリン、低分子核小体タンパク質、甲状腺刺激因子受容体、ヒストン、糖タンパク質gp70、ピルビン酸デヒドロゲナーゼジヒドロリポアミドアセチルトランスフェラーゼ(PCD−E2)、毛包抗原またはヒトトロポミオシンアイソフォーム5である、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記抗原性ペプチドがECDIと結合している、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記アポトーシスシグナル伝達分子が、アネキシン−1、アネキシン−5、ホスファチジルセリン、または乳脂肪球−EGF−因子8(MFG−E8)である、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記アポトーシスシグナル伝達分子がFasリガンドまたはTNF−アルファである、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
前記キャリアがナノ粒子または微粒子である、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
前記キャリアがデンドリマーである、請求項18に記載の方法。
【請求項27】
前記キャリアがリポソームまたはミセルである、請求項18に記載の方法。
【請求項28】
前記抗原特異的免疫応答が、自己免疫応答、アレルギー、喘息、移植片対宿主反応または移植片拒絶反応である、請求項18に記載の方法。
【請求項29】
前記組成物が、経口で、鼻から、静脈内から、筋内内から、非経口で、眼からまたは皮下から送達される、請求項18に記載の方法。
【請求項30】
病原性抗原を含むポリスチレン粒子を含む組成物を投与するステップを含む、抗原特異的免疫応答を低減する方法。
【請求項31】
前記抗原がECDIを使用して前記ポリスチレン粒子と結合体化している、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
自己免疫障害を有する被験体を処置する方法であって、前記被験体が前記自己免疫障害について処置されるように、前記被験体に
(a)アポトーシスシグナル伝達分子と、
(b)病原性抗原と
を含むナノ粒子または微粒子を含む組成物を投与するステップを含む、方法。
【請求項33】
(a)キャリア粒子と、
(b)前記キャリア粒子と結合した抗原性ペプチドと
を含む、抗原特異的寛容を誘導するためのキットを必要とする被験体における脱髄性障害を改善する、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−515722(P2012−515722A)
【公表日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546446(P2011−546446)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【国際出願番号】PCT/US2010/021547
【国際公開番号】WO2010/085509
【国際公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(500041019)ノースウェスタン ユニバーシティ (24)
【出願人】(508346790)ミエリン リペア ファウンデーション, インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】