説明

抗原賦活化方法

【課題】本発明は、パラフィン包埋後の標本について、組織又は細胞に存在する目的抗原物質を認識する抗体を用いて免疫組織化学染色を行う場合に、より効果的に目的抗原物質の抗原賦活化を行う方法を提供することを課題とする。
【解決手段】パラフィン包埋後の標本の免疫組織化学染色による分析において、免疫組織化学染色の前に、還元剤で標本を処理することによる。タンパク質の構造のうち、元来存在するS-S結合と、固定の際に形成されたS-S結合を切断することで、目的タンパク質の直線化により抗原性を回復しうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原賦活化方法に関する。より詳しくは、病理学などの分野において、ルーチンに処理された組織又は細胞のホルマリン固定、パラフィン包埋された標本を用いて、組織又は細胞に存在する特定の抗原について免疫組織化学染色を行う場合に、抗原物質の抗原性を回復する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫組織化学(Immunohistochemistry; IHC)は、発現したタンパク質を認識する抗体を用いて、特定のタンパク質などを個々の症例において解析する方法であり、パラフィンブロックで解析が可能である。免疫組織化学染色は、病理学的に広く用いられる染色法であり、組織又は細胞に存在する特定の抗原を認識する抗体を用いて可視化し、その局在を光学顕微鏡あるいは電子顕微鏡下で観察するために考案された染色法である。アルデヒドや通常のホルマリン・パラフィンで固定・包埋した標本では、その標本作製過程において組織や細胞に存在する抗原をマスキングする架橋結合が生じ、抗原の免疫原性が失われ、これにより抗体による抗原認識が阻害されることがしばしば経験される。また抗体によっては、ウエスタンブロット法では認識可能であっても、免疫組織化学では認識できないものが大多数を占める。
【0003】
ホルマリン固定による免疫反応性の低下を防ぐために、1)ペプシン、トリプシンなどのタンパク質分解酵素処理、2)加熱処理、加圧処理などが行われる。タンパク質分解酵素処理では、タンパク質の一部が消化、抽出され、抗体が抗原に接触しやすくなるが、抗原性の劇的な賦活化は期待できないことが多い。加熱及び加圧は、電子レンジやオートクレーブを用いる方法があげられる。加熱処理では、ホルマリンによるタンパク質の架橋が切断されるとともに、タンパク質や核酸の一部が抽出されるため、抗体が抗原に接触しやすくなるが、いまだ十分とはいえない。
【0004】
また、免疫染色の前処理の際に、CCA(体系名シトラコン無水物(2-メチルマレイン酸無水物))を用いて前処理する方法が開示されている(特許文献1)。
【0005】
一方、ホルマリン・パラフィンでの標本切片による免疫反応性の低下を防ぐために、凍結切片を用いる場合もある。しかしながら、凍結切片はパラフィン切片に比べて組織形態の保持が劣るため、組織学的及び細胞学的な観察から得られる情報量が乏しくなるのが現状である。従って、免疫組織化学的及び酵素組織化学的解析に有用な標本作製方法が求められていた。
【0006】
全身諸臓器又は組織(硬組織を除く)の形態学的、免疫組織化学的ならびに酵素組織化学的に有用な標本作製法として、PLP (periodate-lysine-paraformaldehyde) 液で固定し、AMeX (aceton, methyl benzonate and xylene-method) 法によるパラフィン包埋法を用いる方法も開示されている(特許文献2)。
【0007】
しかしながら、いずれの方法においても十分とはいえず、より効果的な方法が求められる。
【特許文献1】特許第3797418号公報
【特許文献2】特表第2002−82026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、パラフィン包埋後の標本について、組織又は細胞に存在する目的抗原物質を認識する抗体(一次抗体)を用いて免疫組織化学染色を行う場合に、より効果的に目的抗原物質の抗原賦活化を行う方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するためにタンパク質の構造に着目し、鋭意検討を重ねた結果、元来存在するS-S結合と、固定の際に形成されたS-S結合を切断することで、目的タンパク質の直線化により抗原性を回復しうることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は以下よりなる。
1.パラフィン包埋後の標本を免疫組織学的化学染色により分析する場合において、免疫組織学的化学染色の前に、還元剤で標本を処理することを特徴とする目的抗原物質の賦活化方法。
2.還元剤が、メルカプト系還元剤、芳香族チオール系還元剤、有機リン酸化合物及び/又はピルビン酸アミド系還元剤である前項1に記載の賦活化方法。
3.メルカプト系還元剤が、2-メルカプトエタノール及び/又は2-メルカプトエタノールアミンである前項2に記載の賦活化方法。
4.芳香族チオール系還元剤が、ジチオスレイトールである前項2に記載の賦活化方法。
5.有機リン酸化合物が、TCEP(Tris[2-carboxyethyl]phosphine)である前項2に記載の賦活化方法。
6.還元剤を、標本中の対象分子に対して0.01〜50倍モル量加えることを特徴とする前項1〜5の何れかに記載の賦活化方法。
7.前項1〜6の何れかに記載の賦活化方法と、パラフィン包埋後の標本を30〜130℃で加熱処理を組み合わせて行うことを特徴とする目的抗原物質の賦活化方法。
8.前項1〜7の何れかに記載の賦活化方法と、タンパク質分解酵素処理を組み合わせて行うことを特徴とする目的抗原物質の賦活化方法。
9.前項1〜8に記載の賦活化方法により処理したパラフィン包埋標本を免疫組織化学染色により分析することを特徴とする組織又は細胞の分析方法。
10.還元剤を少なくとも含む免疫組織化学染色による組織又は細胞の分析用キット。
【発明の効果】
【0011】
本発明のパラフィン包埋後の標本を還元剤で処理する目的抗原物質の賦活化方法によると、タンパク質に本来存在するS-S結合と、組織又は細胞の固定の際に形成されたS-S結合が切断され、目的抗原タンパク質が直線化することで抗原性が回復し、より強い目的タンパク質の発現が観察される。本方法により、より効果的な免疫組織化学染色を行うことができ、組織又は細胞の病理学的分析を正確に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において、パラフィン包埋標本の作製方法は、自体公知の方法を適用することができる。
組織や細胞の固定は、1)組織や細胞内の物質を速やかに不動化し、生体に近い状態を保つ、2)自己分解や腐敗を防ぎ、死後変化を最小にする、3)再現性のある組織や細胞像を保つ、4)目的とする組織や細胞の構造にコントラストを与える、などの目的のために行う。固定には化学固定と物理固定がある。化学固定に用いられる固定剤としては、ホルムアルデヒド(ホルマリン)、グルタールアルデヒド、四酸化オスミウムなどが挙げられる。ホルムアルデヒドやグルタールアルデヒドは主としてタンパク質を固定する。ホルムアルデヒドは大きな組織片にも速やかに浸透する。物理固定には、1)煮沸やマイクロウェーブ照射による変性(熱固定)、2)エタノールやアセトンなど有機溶媒による沈殿、3)酢酸やトリクロロ酢酸などによる変性、沈殿、4)凍結などが挙げられる。
【0013】
固定後に、組織や細胞などの検体の性質に応じて、さらに脱脂操作や脱灰操作を行うことができる。例えば、乳腺、皮下組織、骨髄などの、検体に脂肪成分の多い組織のパラフィン包埋に際しては、固定後にアセトン、クロロホルム、メタノール・クロロホルム混合液(1:1or1:2)などで処理することにより脱脂操作を行うことができる。また、骨、歯、石灰化した病巣、結石を含む腎臓や胆嚢などの、検体に石灰が含まれる場合は、そのまま包埋したのでは薄切が困難である。包埋に先立って、石灰化組織からミクロトームで薄切を容易にするためにあらかじめ石灰を除去する脱灰操作を行うことができる。一般には、硝酸、ギ酸、三塩化酢酸などの酸類により処理する方法が挙げられる。
【0014】
次に、脱水のために通常エタノールを用いる。急に濃度の濃いエタノールに入れると組織の強い収縮と硬化が起きるので、例えば70%→80%→90%→100%のように低濃度のエタノールから高濃度のエタノールに移して処理することができる。さらに、検体にパラフィンを浸透させるために、例えばキシレンを用いて処理することができる。まず、1:1キシレン・パラフィン混合液に浸し、次にパラフィン液に検体を浸すことができる。
【0015】
以上の処理した検体を型に入れ、溶かしたパラフィンを注ぎ固め、パラフィン包埋し、パラフィン包埋標本を作製することができる。パラフィンの処理温度は、パラフィンの種類、検体、目的に応じて適宜選択することができる。パラフィンで包埋した検体を、顕微鏡下で組織を観察する場合に、厚い組織片を薄く切り、透過光線を充分通す必要がある。上記の如く、固定、脱水、包埋の操作を加えて一定の硬さを与えた後に組織片などの検体を例えばミクロトームを用いて薄く切ることができる。
【0016】
上述により得られたホルマリン固定パラフィン包埋組織の薄切切片を、例えばキシレンで脱パラフィン処理した後、免疫組織化学染色のため、目的抗原を認識する抗体で抗原抗体反応をさせる。
【0017】
免疫組織化学染色は、目的抗原物質に対する抗体を用いてその局在を可視化する方法である。抗体は、目的抗原物質、つまり目的タンパク質のごく一部のペプチドをエピトープとして認識するので、タンパク質に本来備わっている、又は固定処理により形成されたS-S結合は、抗体の認識には不利な構造となりうる。免疫組織化学染色の際、固定された組織や細胞に存在する目的タンパク質を、生体の状態に戻すのではなく、抗体が作製されたときに認識される直線的なペプチドの状態に近づけることにより、目的抗原物質の抗原性を賦活化することができる。
【0018】
本発明の目的抗原物質の賦活化処理は、前記一次抗体による抗原抗体反応の前に行うことができる。本発明の目的抗原物質の賦活化処理は、目的抗原物質に対する抗体を適用する前であればよく、特に限定されないが、還元剤の効果、使用量などを勘案すると、薄切切片を作製した後に処理するのが望ましい。具体的には、薄切切片をプレパラート上に配置し、脱パラフィン処理した後であっても良い。
【0019】
ここにおいて、使用する還元剤は、タンパク質中のS-S結合を切断可能なものであれば良く、特に限定されないが、具体的にはメルカプト系還元剤、芳香族チオール系還元剤、有機リン酸化合物及び/又はピルビン酸アミド系還元剤が挙げられる。メルカプト系還元剤としては、メルカプトエタノールが挙げられ、さらに具体的には2-メルカプトエタノール及び/又は2-メルカプトエタノールアミンなどが挙げられる。芳香族チオール系還元剤としては、ジチオスレイトール(Dithiothreitol, DTT)が挙げられ、有機リン酸化合物としてはTCEP(Tris[2-carboxyethyl]phosphine)が挙げられる。さらに、チオグリコール酸及びその塩類、システイン及びその塩類、亜硫酸塩などの還元剤に、アンモニア、モノエタノールアミン、炭酸水素アンモニウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ剤を併用して用いてもよい。
【0020】
使用する還元剤の量は、標本中の対象分子、即ち対象とする目的抗原物質の量に対して0.01〜50倍モル、好ましくは15〜30倍モル、より好適には約20倍モル量加えることができる。上記の濃度で使用するために、還元剤は緩衝液などを用いて溶解することができ、濃度としては、1〜50(v/v%)、好ましくは2〜10(v/v%)とすることができる。緩衝液は、金属イオンや酸化剤が混入していないものを使用することができ、具体的にはクエン酸緩衝液、EDTA溶液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などを用いることができる。
【0021】
パラフィン包埋後の標本の還元剤による処理時間は、目的抗原物質のS-S結合を切断可能な時間であれば良く、特に限定されないが、例えば1〜60分程度、好ましくは5〜20分程度、より好ましくは約15分程度とすることができる。
【0022】
目的抗原物質の賦活化処理は、自体公知の方法と組み合わせて行っても良い。パラフィン包埋後の標本を、例えば上記の賦活化処理と、30〜130℃、好ましくは50〜125℃、更に好ましくは95〜121℃での加熱処理を組み合わせて処理することができる。上記の賦活化処理と加熱処理は、同時に行っても良いし、異なる順序で行ってもよい。加熱処理と還元剤処理を異なる順序で行う場合は、いずれが先であっても良い。例えば、還元剤を加えた状態で、上記の温度範囲内で必要な時間、加熱処理を行うことができる。さらにタンパク質分解酵素処理を組み合わせても良い。タンパク質分解酵素は、免疫賦活化法に使用可能な酵素であればよく、特に限定されないが、例えば、ペプシンやトリプシンなどの自体公知の酵素を使用することができる。
【0023】
上記目的抗原物質の賦活化処理後に、目的抗原物質に対して、目的抗原物質を認識する抗体(一次抗体)を作用させ、抗原抗体反応をさせる。一次抗体は、目的抗原物質に応じて用いることができ、自体公知の一次抗体、特に、既に市販されている抗体などを使用することができる。
【0024】
本発明は、上記賦活化方法により処理したパラフィン包埋標本を免疫組織化学染色により分析する組織又は細胞の分析方法にも及ぶ。さらに、上述の還元剤を少なくとも含む、免疫組織化学染色による組織又は細胞の分析用キットにも及ぶ。該キットには、還元剤の他、還元剤の溶媒、一次抗体、標識抗体、標識一次抗体などを含んでいても良い。
【実施例】
【0025】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0026】
(実施例1)肝臓癌肺転移組織について(RFPの確認)
1)肝臓癌肺転移組織について、一般的な手法に従ってパラフィン包埋による標本を作製し、ミクロトームを用いて薄切切片を作製した。
2)作製した薄切切片について、キシレン100%-5分、100%-5分、100%-5分、メタノール100%-1分、100%-1分、100%-1分で処理し、脱パラフィン操作行った。
3)その後、流水で5分間洗浄し、前処理試料を得た。
4)上記により得た前処理試料について、抗原賦活化処理は以下のa)またはb)の方法で行った。
【0027】
a)還元剤あり
前記前処理試料(スライドガラス)を、0.01モル クエン酸溶液(179 mL)pH 7.0 及び0.5%(v/v) ポリオキシエチレンアルキルフェノール (Igepal(R) Ca - 630)(1 mL)及び 10%(v/v)-2メルカプトエタノール(20 mL)を含む溶液の入ったバット中に浸し、121℃で15分間オートクレーブ処理を行った。
b)還元剤なし
前記前処理試料(スライドガラス)を、0.01モル クエン酸溶液(199 mL)pH 7.0 及び0.5%(v/v) ポリオキシエチレンアルキルフェノール(1 mL)を含む溶液の入ったバット中に浸し、121℃で15分間オートクレーブ処理を行った。
【0028】
5)免疫組織化学染色
上記a)またはb)の各抗原賦活化処理した試料を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いて各々5分ずつ3回洗浄した。内因性ペルオキシダーゼの抑制操作のために、3% H2O2 (30% H2O2 15 mL+メタノール135 mL) 150 mLを含むバット中に15分間静置した。再度、PBSを用いて各々5分ずつ3回洗浄した。組織が乾かないよう注意して、ティッシュペーパーで周囲のPBSをよく拭った。
【0029】
免疫組織化学染色用キット(UltraTech HRP Streptavidin-Biotin Detection System(Beckman Coulter社))に含まれるブロッキング液を上記試料に滴下し、室温で10分間静置した。その後、ブロッキング剤を除き、一次抗体を試料に加えた。一次抗体は、抗RFPラビットポリクローナル抗体(濃度:1μg/mL)を用い、抗体溶液100μLずつを試料にかけ、室温で60分間静置した。
【0030】
その後、PBSを用いて各々5分ずつ3回洗浄し、上記免疫組織化学染色用キットに含まれるビオチン標識二次抗体を加えて室温で10分間静置した。PBSを用いて各々5分ずつ3回洗浄し、酵素標識ストレプトアビジン液を加えて室温で10分間静置した。PBSを用いて各々5分ずつ3回洗浄し、ジアミノベンチジン(DAB)発色液を加えて室温で1〜5分間で発色を確認した。PBSにて発色停止後、流水で5分間洗浄し、ヘマトキシリンを用いて20秒間染色を行った。50℃で1分間発色し、流水で1分間洗浄、脱水透徹(メタノール100%-1分、100%-1分、100%-1分、キシレン100%-1分、100%-1分、100%-1分)し、封入した。
【0031】
組織は、光学顕微鏡により観察した。
【0032】
((実施例2)乳癌組織について(アンドロゲンレセプターの確認)
乳癌組織について、実施例1と同様に、1)〜3)の操作を行い、前処理試料を得た。 上記により得た前処理試料について、抗原賦活化処理は以下のa)またはb)の方法で行った。
a)還元剤あり
前処理試料(スライドガラス)を、0.01モル クエン酸溶液(179 mL)pH 7.0 及び0.5%(v/v) ポリオキシエチレンアルキルフェノール(1 mL)及び 10%(v/v)-2メルカプトエタノール(20 mL)を含む溶液の入ったバット中に浸し、121℃で15分間オートクレーブ処理を行った。
b)還元剤なし
前処理試料(スライドガラス)を、0.01モル クエン酸溶液(199 mL)pH 7.0 及び0.5%(v/v) ポリオキシエチレンアルキルフェノール(1 mL)を含む溶液の入ったバット中に浸し、121℃で15分間オートクレーブ処理を行った。
【0033】
免疫組織化学染色のための一次抗体に、抗アンドロゲンレセプター(Androgen receptor)マウスモノクローナル抗体(Dako社製)(濃度:11μg/mL)を用いた他は、実施例1と同手法により染色を行い、封入した。組織の観察は、実施例1と同手法により行った。
【0034】
(実施例3)乳癌組織について(CD24の確認)
乳癌組織について、実施例1と同様に、1)〜3)の操作を行い、前処理試料を得た。 上記により得た前処理試料について、抗原賦活化処理は以下のa)またはb)の方法で行った。
a)還元剤あり
前処理試料(スライドガラス)を、0.01モル クエン酸溶液(180 mL)pH 7.0 及び 10%(v/v)-2メルカプトエタノール(20 mL)を含む溶液の入ったバット中に浸し、121℃で15分間オートクレーブ処理を行った。
b)還元剤なし
前処理試料(スライドガラス)を、0.01モル クエン酸溶液(200 mL)pH 7.0を含む溶液の入ったバット中に浸し、121℃で15分間オートクレーブ処理を行った。
【0035】
免疫組織化学染色のための一次抗体に、抗CD24マウスモノクローナル抗体(NeoMarkers社製)(濃度:10μg/mL)を用いた他は、実施例1と同手法により染色を行い、封入した。組織の観察は、実施例1と同手法により行った。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上詳述したように、本発明のパラフィン包埋後の標本を還元剤で処理する目的抗原物質の賦活化方法によると、タンパク質に本来存在するS-S結合と、組織又は細胞の固定の際に形成されたS-S結合が切断され、目的タンパク質の直線化により抗原性が回復し、より強い目的タンパク質の発現が観察された。本方法により、より効果的な免疫組織化学染色を行うことができ、組織又は細胞の病理学的分析を正確に行うことができる。従って、本発明の免疫賦活化方法は、病理学的分析機関や医療の基礎的研究分野において利用することができる。さらに、免疫組織化学染色のための本発明の組織又は細胞の分析用キットを用いて分析を行うと、正確かつ容易に分析することができるため、必要最低限の標本を作製すればよいことから、経済的にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】肝臓がん肺転移組織(薄切組織)の抗RET finger protein (FRP)抗体による免疫組織化学での分析結果を示す図である。ともに、薄切切片作成後約一年間経過した組織切片を使用した。一般に核内抗原においては、薄切切片作成後経時的に免疫染色での発色が減弱することが知られている。a)還元剤を用いて処理する本発明の抗原賦活化処理を行ったものである。癌細胞の核に、抗原の強い発現が観察される。b)還元剤を用いず、界面活性剤を含む加熱処理による抗原賦活化処理を行ったものである。一部の癌細胞の核に、僅かに染色が認められる。(実施例1)
【図2】乳癌組織の抗アンドロゲンレセプター抗体による免疫組織化学での分析結果を示す図である。a)還元剤を用いて処理する本発明の抗原賦活化処理を行ったものである。癌細胞のほぼ全体の核に染色が認められる。b)還元剤を用いず、界面活性剤を含む加熱処理による抗原賦活化処理を行ったものである。一部の癌細胞の核に、僅かに染色が認められる。(実施例2)
【図3】乳癌組織の抗CD24抗体による免疫組織化学での分析結果を示す図である。a)還元剤を用いて処理する本発明の抗原賦活化処理を行ったものである。ほぼすべての癌細胞の細胞質及び細胞膜に強い染色が認められる。b)還元剤を用いず、加熱処理による抗原賦活化処理を行ったものである。ごく一部の癌細胞の細胞質及び膜に、染色が認められる。(実施例3)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラフィン包埋後の標本を免疫組織学的化学染色により分析する場合において、免疫組織学的化学染色の前に、還元剤で標本を処理することを特徴とする目的抗原物質の賦活化方法。
【請求項2】
還元剤が、メルカプト系還元剤、芳香族チオール系還元剤、有機リン酸化合物及び/又はピルビン酸アミド系還元剤である請求項1に記載の賦活化方法。
【請求項3】
メルカプト系還元剤が、2-メルカプトエタノール及び/又は2-メルカプトエタノールアミンである請求項2に記載の賦活化方法。
【請求項4】
芳香族チオール系還元剤が、ジチオスレイトールである請求項2に記載の賦活化方法。
【請求項5】
有機リン酸化合物が、TCEP(Tris[2-carboxyethyl]phosphine)である請求項2に記載の賦活化方法。
【請求項6】
還元剤を、標本中の対象分子に対して0.01〜50倍モル量加えることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の賦活化方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の賦活化方法と、パラフィン包埋後の標本を30〜130℃の加熱処理を組み合わせて行うことを特徴とする目的抗原物質の賦活化方法。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の賦活化方法と、タンパク質分解酵素処理を組み合わせて行うことを特徴とする目的抗原物質の賦活化方法。
【請求項9】
請求項1〜8に記載の賦活化方法により処理したパラフィン包埋標本を免疫組織化学染色により分析することを特徴とする組織又は細胞の分析方法。
【請求項10】
還元剤を少なくとも含む免疫組織化学染色による組織又は細胞の分析用キット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−121906(P2009−121906A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−295269(P2007−295269)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】