説明

抗微生物構築物

活性化可能な抗微生物組成物を組み込んだ基材を含む構築物。抗微生物組成物は、過酸化物供与体と酸および/または酸生成物質とを含む。過酸化物供与体は、抗微生物組成物の他の成分とは別個に、基材の異なる部分に組み込まれる。好ましくは、抗微生物組成物は、過酸化物供与体として、一水和物または四水和物の過ホウ酸ナトリウムまたは過炭酸ナトリウムを含み、酸生成物質として、テトラアセチルエチレンジアミンの形で含む。このような抗微生物組成物は、基材を水で濡らすことにより活性化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性化可能な抗微生物組成物を組み込んだ基材を含む構築物であって、例えばパッドもしくは清拭材として、または前記組成物を投与する手段として使用されるものに関する。
【0002】
本明細書および本願特許請求の範囲で使用する用語「基材」は、布、紙および他の不織材料ならびに織布または編織布を包含するものとする。さらに用語「基材」は、動物皮膚などの天然物も、その範囲に含むものとする。
【背景技術】
【0003】
抗微生物組成物は、それが有用であるためには、一連の性質を示さなければならない。これらの性質の多くは以下のとおりである。
1.組成物は迅速に作用すべきである−欧州規格では接触時間5分が要求される。
2.組成物は、ただ単に静生物性(biostatic)であるのではなく、殺生物性であるべきである。
3.組成物は、全てのグラム陽性菌およびグラム陰性菌、ならびにマイコバクテリアを含む細菌に対して、広い活性スペクトルを持つべきである。
4.組成物は、あらゆるタイプの真菌に対して活性であるべきである。
5.組成物は、エンベロープウイルスおよび非エンベローブウイルスの両方に対して、殺ウイルス性を持つべきである。
6.組成物は、清潔な条件下でも不潔な条件下でも有効であるべきであり、バイオフィルムに浸透することができるべきである。
7.組成物は細菌の内生胞子に対して即効性であるべきである。
8.組成物の活性機序は耐性を生じさせないものであるべきである。
9.組成物は非標的生物に対して低い毒性を持つべきである。
10.組成物は、容易に使用および貯蔵することができるように、十分に安定性であるべきである。
11.組成物は使用が簡単であるべきである。
12.組成物の効果および残留物化学は、環境に害を与えないものであるべきである。
13.組成物は約4℃以下の低温でも即効性を保つべきである。
14.組成物はその性能の指標を体現すべきである。
15.組成物は使用にあたって高い費用効率を持つべきである。
【0004】
これらの性質を全て持つ抗微生物組成物を製造することは極めて困難である。というのも、そのような製品は、本質的に、毒性であり、反応性だからである。多くは複雑な有機分子から構成され、その残留物は環境による分解に抵抗し、または生体内蓄積する場合がある。他のものは有機物と反応し、土壌レベルが高いところでは破壊される場合もあるし、有機質土壌と反応して毒性化合物または発癌性化合物を生成する場合もある。多くは不安定であるか、限られたスペクトルを持つ。
【発明の開示】
【0005】
本発明の目的は、上述した性質の大半(そして特定の製剤では上述した性質の全て)を示す活性化可能な抗微生物組成物を組み込んだ基材を含む構築物を提供することである。そのような基材は、抗微生物組成物をすぐに使える状態で安定に保持し、使用時には、例えば基材を水または他の適当な液体で濡らすことなどによって、組成物を活性化することができなければならない。
【0006】
本発明によれば、過酸化物供与体と酸および酸生成物質の少なくとも一つとを含む活性化可能な抗微生物組成物を組み込んだ基材を含む構築物が提供される。このうち過酸化物供与体は、当該組成物の他の成分とは別個に、基材の異なる部分に組み込まれている。
【0007】
そのような構築物では、基材を(好ましくは水で)濡らした場合にのみ、抗微生物組成物が形成され活性化されるように、過酸化物供与体が当該組成物の他の成分とは別個に、基材の異なる部分に組み込まれる。
【0008】
好適には、基材は、粉末、ネットまたはシートとして適用することができる結合媒体によって結合された層を含んでなり、過酸化物供与体が他の成分とは異なる層の間に組み込まれるか、さもなければ基材の異なる区画または領域に(例えば平行な散在部分に、または散在する異なる部分に)適用することによって分離される、積層品、例えば不織積層品、として構築される。
【0009】
また好ましくは、基材は、セルロース系繊維、例えば綿、ビスコース、再生木材パルプセルロースなどの材料でできた不織材料を含む。これに代えて、またはこれに加えて、前記材料は、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維およびポリプロピレン繊維の少なくとも一つを含む繊維を含む。不織材の繊維が、基材を別個の層または織物に熱的または物理的に結合させるか絡ませることができるような物理的性質を持つ場合(例えば複合繊維)は、結合媒体の全てまたは大半を省くことができるだろう。
【0010】
また好ましくは、基材に、抗微生物組成物の活性を示す働きをする酸素感受性色素(例えばバット染料)を含浸させる。
【0011】
また好ましくは、酸はカルボン酸を含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、抗微生物組成物がさらに、例えばマンガン-トリメチルトリアザシクロノナン錯体などの有機金属マンガン含有触媒を組み込む。
【0013】
また好ましくは、酸は二座の酸、好ましくはシュウ酸、を含むことができる。そのような酸は、触媒中の金属中心の核性および酸化還元電位に影響を及ぼすことができ、それが結果として、殺生物活性のスペクトルおよび速度を改善する。しかしもう一つの選択肢として、他の酸、例えばフマル酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸およびそれらの混合物も使用することができる。さらに、酸と酸の塩との組み合わせ、例えばシュウ酸とシュウ酸ナトリウム、も使用することができる。シュウ酸とpH緩衝剤、例えばリン酸ナトリウムとの組み合わせも使用することができる。
【0014】
酸の組み合わせ、例えばシュウ酸とクエン酸との組み合わせ、も使用することができる。また、過酸化物供与体と、テトラアセチルエチレンジアミン(TAED)などの漂白活性化剤との反応は、過酢酸を有益に生成する。そのような反応は組成物の活性化により起こる。したがって好適には、組成物の酸は、組成物の独立した一成分とするか、または活性化時に基材中にその場で生成させることができる。
【0015】
過酸化物供与体は、過酸化水素の生成または他の機序によって強い酸化還元電位を示す任意の化合物から選択することができる。それゆえ好ましくは、過酸化物供与体は過ホウ酸ナトリウム(一水和物または四水和物)、過炭酸ナトリウム、および過硫酸ナトリウムのいずれかを含む。また、過酸化水素溶液を使って基材を活性化することにより、有効組成物をその場で生成させることもできる。
【0016】
上に挙げた望ましい性質の一覧を、低温(特に4℃未満の温度)で迅速に、ほぼ完全に満たすために、基材は、好ましくは、前記有機金属マンガン含有触媒をさらに組み込む。好適には、有機金属マンガン含有触媒は、マンガン-トリメチルトリアザシクロノナン錯体、例えば触媒NP1033(CAS番号116633-52-4)として商業的に知られているものを含む。これは、配位子1,4,7-トリメチル-1,4,7-トリアザシクロノナンのマンガン化合物である。しかし、同類のリガンド構造を持つ他のマンガン触媒および他の生体模倣型マンガン含有触媒も使用することができる。
【0017】
触媒と過酸化物供与体の割合は、1:100000程の高さでもよいが、好ましくは、好ましい割合は、その数値を含んで、1:100から1:3000までの割合である。
【0018】
同様に、触媒と酸の割合は、二座のカルボン酸を用いた場合に、好ましくは、1:1から1:100の範囲内であり得るが、好ましい範囲は、その数値を含んで1:3から1:50までである。
【0019】
本発明によれば、他の成分も役に立つように加えられ得る。これらは、ラウリル硫酸ナトリウムまたは鎖状アルコールエトキシレートなどのアニオン性あるいは非イオン性の界面活性剤;腐食防止剤、pH緩衝剤、キレート剤またはイオン封鎖剤、安定剤、染料、香料および臭気マスキング剤であり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の抗微生物組成物の調製物の2つの実施例を以下に示す。
【0021】
実施例1
過ホウ酸ナトリウム四水和物 1.05部
テトラアセチルエチレンジアミン 0.014部
シュウ酸 0.35部
NP1033 0.01部
実施例2
過炭酸ナトリウム 50部
テトラアセチルエチレンジアミン 25部
イオン封鎖剤 2部
アニオン性界面活性剤 5部
クエン酸 1部
これらの調製物の抗微生物性能は、調製物1部に10部の水を加えることによって発揮される。得られる溶液は、両方共、ヨーロッパサスペンジョンテストEN1276:1997の要件を満たす。このテストは、食物、産業的、家庭的、および企業領域で用いられる化学的殺菌剤および防腐剤の抗菌活性を評価するための定量的サスペンションテストである。テストの要件を満たす為には、テストする微生物のログ5より大きい殺菌が、5分以内の接触時間で20℃および4℃の両方の温度にて、清潔および不潔な条件下でなされなければならない。使用されるテスト微生物は、緑膿菌、大腸菌、黄色ブドウ球菌、および腸内連鎖球菌である。
【0022】
両方の調製物とも、標準テストで、優れた殺胞子活性、抗真菌活性、および殺ウイルス活性の性質を示す。さらに、実施例1の残渣物は、環境に害を及ぼさないことは注目すべきである。過酸化物供与体およびTAEDなどの漂白活性化剤を含む調製物は、その2つの成分比として広い範囲に渡って、発生する過酢酸の濃度、発生割合、システムのpH、安定性、溶解性、および他のファクターなどの要件により決定される点から使用することができることは知られている。従って、本発明の構築物においては、抗微生物組成物および基材の定量的な負荷の割合として広い範囲が可能である。
【0023】
本発明の更なる抗微生物組成物の調製物を下記に示す。
【0024】
実施例3
過ホウ酸ナトリウム四水和物 1.05部
シュウ酸 0.35部
NP1033 0.01部
この調製物は、漂白活性化剤を排除している。この調製物もまた、すべてのテスト微生物について、20℃におけるヨーロッパサスペンジョンテストEN1276:1997に合格しているが、4℃においてはそうではない。従って、有用ではあるが、他の組成物の調製物よりはより限定された適用があり得る。
【0025】
これらの調製物中で使用されているマンガン触媒の酸化状態の変化は、色の変化を伴う。従って、これらの調製物は、その性能の指標を体現する。
【0026】
抗微生物組成物の成分は、好ましくは、粉末あるいは顆粒の形で、上述のように基材の本体の異なる部分に組み込むのが容易になるように生成される。これによって、構築物は、使用に供する為に安定した条件におかれ得る。このとき、抗微生物組成物は、基材を水で濡らすことによって活性化されうる。このような湿潤は、本発明の清拭材構築物が、濡らされた場合、あるいは濡れたもしくは湿気のある表面をふき取るのに使用されたとき;あるいは水性の成分を含む流出物を吸収するのに使用したとき;あるいは汚染している可能性のある水のフィルターとして使用する場合;あるいは水蒸気、発汗、あるいは他の手段により湿った場合に、起こる。
【0027】
本発明の構築物の3つの態様を以下に示す。
【0028】
態様1
基材は、シート状の熱可塑性結合媒体によって分離された、ビスコースおよびポリエステル繊維を含む水素混入(ハイドロタングルド)不織物の2つの層を含む不織積層品構築物を含む。底部不織物と結合媒体との間の層には、過酸化物供与体が含まれる。結合媒体と上部不織物の間の層には、抗微生物組成物の成分である、テトラアセチルエチレンジアミン、界面活性剤、酸、および他の成分が含まれる。調製物の化学成分は、基材が濡れた場合に、過酢酸を発生させ、その過酢酸のレベルが、求められる殺菌作用に適切であるような量レベル、割合、およびpHで存在する。
【0029】
態様2
基材は、態様1に記載したのと同様の不織積層構築物を含むが、結合媒体が、低融点熱可塑性粉末であり、調製物の過酸化物供与体成分が、散在されるかあるいは反応する可能性のある他の成分で被覆されていない基材の領域に制限して適用させることによって、他の成分と分けられる。
【0030】
態様3
基材は、不織層の中の1つとして、高度に吸収性のエアレイド繊維から作られる不織積層構築物を含む。ここで、過酸化物供与体は、過ホウ酸ナトリウムの一水和物で1m四方に15g存在する。1m四方に8.0g存在するTAEDを含む抗微生物組成物の他の成分は、熱可塑性粉末結合剤との組合せの、2つの異なるパターンの粉末散在手段によって分離されている。湿潤による完全な構築物は、1リットルの水中に500ppmの過酢酸を発生させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化物供与体と酸および酸生成物質の少なくとも一つとを含む活性化可能な抗微生物組成物を組み込んだ基材を含む構築物であって、該過酸化物供与体が該組成物の他の成分とは別個に、基材の異なる部分に組み込まれている構築物。
【請求項2】
前記基材が積層品を含み、前記過酸化物供与体が積層品中で、組成物の他の成分とは異なる層に組み込まれている、請求項1に記載の構築物。
【請求項3】
前記過酸化物供与体が、基材の異なる区画に適用されることによって、組成物中の他の成分と分離されている、請求項1または2に記載の構築物。
【請求項4】
前記基材が、セルロース系繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維およびポリプロピレン繊維の少なくとも1つから作られる不織材料を含む、請求項1から3までのいずれかに記載の構築物。
【請求項5】
前記基材が、結合媒体により結合した不織積層品を含む、請求項1から4までのいずれかに記載の構築物。
【請求項6】
前記基材が、別個の層または織物にあるいはお互いに、熱的または物理的に結合させるか絡ませることができるような物理的性質を持つ不織材の繊維を含む、請求項1から4までのいずれかに記載の構築物。
【請求項7】
前記基材に、抗微生物組成物の活性を示す働きをする酸素感受性色素を含浸させている、請求項1から6までのいずれかに記載の構築物。
【請求項8】
前記酸が、カルボン酸を含む、請求項1から7までのいずれかに記載の構築物。
【請求項9】
前記酸が、二座の酸、シュウ酸、フマル酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、およびこれらの混合物のうちの少なくとも1つである、請求項1から7までのいずれかに記載の構築物。
【請求項10】
前記酸が、酸および塩の混合物を含む、請求項1から7までのいずれかに記載の構築物。
【請求項11】
前記酸生成物質が、漂白活性化剤を含む、請求項1から10までのいずれかに記載の構築物。
【請求項12】
前記漂白活性化剤が、テトラアセチルエチレンジアミンを含む、請求項11に記載の構築物。
【請求項13】
前記過酸化物供与体が、一水和物または四水和物として過ホウ酸ナトリウム、過炭酸ナトリウム、および過硫酸ナトリウムの少なくとも1つを含む、請求項1から12までのいずれかに記載の構築物。
【請求項14】
前記抗微生物組成物がさらに、有機金属マンガン含有触媒を含む、請求項1から13までのいずれかに記載の構築物。
【請求項15】
前記有機金属マンガン含有触媒が、マンガン-トリメチルトリアザシクロノナン錯体を含む、請求項14に記載の構築物。
【請求項16】
前記触媒と過酸化物供与体の割合が、その数値を含み1:100から1:3000までの間である、請求項14または15に記載の構築物。
【請求項17】
前記触媒と酸の割合が、その数値を含み1:3から1:50までの間である、請求項14から16までのいずれかに記載の構築物。
【請求項18】
さらに、界面活性剤、腐食防止剤、pH緩衝剤、イオン封鎖剤、安定剤、染料、香料、臭気マスキング剤、およびそれらの混合物からなる群より選択される1またはそれ以上の添加物を含む、請求項1から17までのいずれかに記載の構築物。
【請求項19】
実施例1から3までのいずれか1つに従って調製される活性化され得る抗微生物組成物を組み込んだ基材を含む構築物であって、過酸化物供与体が、組成物の他の成分とは分離して、基材の別の部分に組み込まれている、構築物。
【請求項20】
態様1から3までのいずれか1つに従って作られる、活性化可能な抗微生物組成物を組み込んだ基材を含む、構築物。

【公表番号】特表2007−538059(P2007−538059A)
【公表日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−517406(P2007−517406)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【国際出願番号】PCT/GB2005/001878
【国際公開番号】WO2005/112631
【国際公開日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(506387786)
【Fターム(参考)】