説明

抗悪性腫瘍剤による治療に対する腫瘍の感受性を決定する方法

癌細胞を含む試料中の1種類または複数のグルコース輸送体のレベルを測定し、基準値と比較することで、癌が、グルコース輸送体によって癌中へ輸送されるグルコースまたはグルコース類似体を含む抗癌剤による治療に感受性があるか否かを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、抗悪性腫瘍剤による治療に対する腫瘍の感受性を決定する方法に関し、生物学および医学における応用が期待されている。
【0002】
関連特許出願の相互参照
本出願は、全内容が参照により本明細書に組み入れられる、2003年3月7日に出願された米国仮特許出願第60/453,083号に関する利益を主張する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
「癌」という表現は一般に、固形腫瘍、リンパ腫、および非固形癌(白血病など)の形態をとりうる、異常な細胞の制御不能の増殖および拡散に起因する100種類を越える一群の疾患の1つを意味する。癌患者の治療を行う医師は、利用可能な薬剤療法および非薬剤療法の、さまざまな手段を有する。しかし、特定の患者に対する適切な治療法の決定には問題が生じる場合がある。なぜなら、特定の治療法は特定の種類の癌には対応するが、任意の治療法に対する患者の応答は均一ではないからである。
【0004】
いくつかの有望な抗癌剤には、グルコースまたはグルコース様の成分などがあるので、細胞によるグルコースの取り込みを促進する膜タンパク質であるグルコース輸送体の基質となる可能性がある。この例には、抗癌剤ストレプトゾトシン(STZ)、グルコホスファミド(glucofosfamid)、および2gluSNAPなどがあり、また他のグルコースまたはグルコース類似体を含む薬剤が現在開発中である。このような薬剤のグルコース様の成分は癌細胞中への輸送に関与するので、多くの癌細胞が、正常細胞に対して、部分的にはグルコース輸送体数の増加に起因すると考えられるグルコース代謝の強化を示すという事実は有益である(Medina et al., 2002, Biol Res. 35: 9-26を参照されたい)。しかし、すべての患者(または癌)が、ストレプトゾトシン、グルコホスファミド、および2gluSNAPなどの薬剤による治療に反応するわけではない。どの患者が、特定の抗癌剤、および一群の薬剤による特定の治療法から利益を得る可能性が最も高いかということを推定する一助となる方法によって、医師は癌の治療をより効率的に行うことが可能となり、また患者にはかなりの利益がもたらされると考えられる。本発明は、このような方法を提供する。
【発明の開示】
【0005】
発明の概要
本発明には多数の局面があるが、一般には、癌患者をスクリーニングすることで、グルコースまたはグルコース類似体を含む抗癌剤による治療に、患者の癌が感受性があるか否かを判定するための方法および試薬を提供する。
【0006】
1つの局面では、本発明は、癌細胞中の1種類もしくは複数のグルコース輸送体のレベルを、グルコースまたはグルコース類似体を含む抗悪性腫瘍剤などの、前述の輸送体によって輸送される抗癌剤に対する細胞の感受性と関連づける手段を提供する。1つの態様では、このような薬剤はグルコース成分を含み、また他の態様では、薬剤は2-デオキシグルコース成分またはフルクトース成分を含む。
【0007】
1つの態様では、本発明は、
(a)癌の試料を得る段階;
(b)試料中の少なくとも1種類のグルコース輸送体のレベルを測定する段階;
(c)このレベルを所定値と比較する段階;および
(d)測定されたレベルが所定値より大きい場合には、癌が抗悪性腫瘍剤による治療に感受性があると判定する段階を含む、癌が抗悪性腫瘍剤による治療に感受性があるか否かを判定する方法を提供する。関連する局面では、本発明は、癌の試料を得る段階、試料中のグルコース輸送体の量を測定する段階、試料中の同量を所定値と比較する段階、および、同量が所定値より大きい場合は、癌が抗癌剤に感受性があり、また同薬剤によって治療可能であると判定され、または、同量が所定値より小さい場合は、癌が抗癌剤に感受性がないか、もしくは感受性が低いと判定される段階を含む、ヒトの癌が、グルコースまたはグルコース類似体を含み、またグルコース輸送体によって輸送される抗癌剤による治療に感受性があるか否かを判定する方法を提供する。
【0008】
1つの態様では、癌試料中の複数のグルコース輸送体のレベルを測定する。ある態様では、クラスIおよび/またはクラスII、および/またはクラスIIIのGLUTグルコース輸送体のレベルを測定する。さまざまな方法で、試料中のグルコース輸送体のレベルを測定することができる。1つの方法は免疫学的アッセイ法である。別の適切な方法では、RNAまたはcDNAを増幅する。1つの態様では、ヒトの癌試料は例えば、腫瘍細胞の新鮮な試料、凍結状態の試料、固定された試料、または固定後にパラフィン包埋された試料の場合があり、これらを対象に、試料に由来する全タンパク質を単離し、また単離物を、前述の1種類もしくは複数のグルコース輸送体に特異的な抗体と接触させ、単離物中の同レベルを、抗体とグルコース輸送体間で形成される複合体を検出することで決定するように処理する。他の態様では、試料中のグルコース輸送体のレベルまたは量は、グルコース輸送体タンパク質を抗体以外の試薬を用いて検出するか、例えば、新鮮な組織の試料中へのグルコースの取り込みを測定するか、または1種類もしくは複数のグルコース輸送体遺伝子からメッセンジャーRNAを検出することで、あるいは、グルコース輸送体、もしくはその対応する遺伝子の活性を測定することで決定する。
【0009】
この方法の1つの態様では、癌試料中のGLUT2のレベルを測定する。この方法の別の態様では、抗癌剤はストレプトゾトシンである。別の態様では、癌は膵臓癌または膵島細胞癌である。好ましい態様では、GLUT2のレベルを測定し、抗癌剤がストレプトゾトシン、グルコホスファミド、またはgluSNAP化合物であり、また癌は膵臓癌または膵島細胞癌である。
【0010】
別の局面では、本発明は、本発明の実施に有用なキットを提供する。1つの態様では、キットは、本発明の方法に使用される、診断目的のスクリーニング用の試薬および指示書を含む。別の態様では、キットはさらに、グルコースまたはグルコース類似体を含む、抗悪性腫瘍療法用の薬剤を含む。
【0011】
本発明のこれらの局面、および他の局面、ならびに態様については、「詳細な説明」、「実施例」、および「特許請求の範囲」でさらに詳細に説明する。
【0012】
発明の詳細な説明
1.序文
本発明は、癌が抗癌剤による治療に感受性があるか否かの評価、または抗癌剤に対する癌の感受性の程度の評価に有用な、方法、試薬、および装置を提供する。1つの局面では、抗癌剤は、グルコース輸送体の基質であるグルコースまたはグルコース類似体成分を含む薬剤などの、グルコース輸送体によって輸送される薬剤である。本明細書で用いる、癌が薬剤による治療に「感受性がある」という判定は、薬剤が、対象薬剤に対して「感受性がない」と判定される腫瘍に対して有効である可能性と比較して、腫瘍に対して治療的に有効である可能性が大きいことを意味する。したがって、癌が薬剤または薬剤群による治療に感受性があるという判定は、患者の治療に対する化学療法の治療プログラムを決定するための方法を提供する。
【0013】
本発明のいくつかの方法では、癌試料を患者から得て、1種類もしくは複数のグルコース輸送体のレベル(群)の決定を試みる。つまり、高レベルのグルコース輸送体を発現する癌がグルコースまたはグルコース成分を含み、またグルコース輸送体によって輸送される抗癌剤による化学療法に感受性があるか否かを判定する。逆に、低レベルのグルコース輸送体を発現する癌は、対象となる化学療法に感受性がない(または感受性が低い)と判定される。医師は、本発明の方法による治療前スクリーニングによって、癌の治療をより効率的に行うことが可能となる。というのは、医師は、抗癌剤による治療が有効か否かを判定し、有効でない場合は、より有効性の高い可能性のある化合物で癌を治療し、またこのような場合は、対象となる薬剤で治療を行う手段が与えられるからである。
【0014】
「グルコース輸送体」という表現は医学文献で、関連してはいるがやや異なる2つの意味で用いられる。第1の意味では、グルコース輸送体は、細胞膜を透過する輸送化合物(グルコース、グルコース類似体、フルクトースもしくはイノシトールなどの他の糖類、またはアスコルビン酸などの非糖類)のタンパク質であり、また構造上の類似性(例えば、他のグルコース輸送タンパク質との相同性)に基づくグルコース輸送体「ファミリー」のタンパク質である。しかし、一部の「グルコース輸送体」には、グルコース以外の主要基質があると考えられている。例えば、グルコース輸送体GLUT5は主にフルクトースの輸送体であり、また低親和性ながらグルコースそのものを輸送すると報告されている。同様に、グルコース輸送体HMITの主要基質はミオイノシトール(糖アルコール)である。本明細書で用いる「グルコース輸送体」という表現は、特に明記した部分を除いては、フルクトースおよびイノシトールの輸送体を含む。1つの局面では、本発明は、任意のグルコース輸送体のレベルを測定して、グルコース輸送体(GLUT1-12、HMIT、およびSGLT1-6輸送体からなる群より選択されるが、これらに限定されないグルコース輸送体)によって腫瘍細胞中に輸送される抗癌剤に対する腫瘍の感受性を評価しようとすることにある。好ましい態様では、本発明は、フルクトース、イノシトール、H+-ミオイノシトール、またはアスコルビン酸などの非糖類と比較して高い親和性でグルコースを輸送するグルコース輸送体のレベルを測定して、グルコース輸送体によって腫瘍細胞中に輸送されるグルコースまたはグルコース類似体成分を含む抗癌剤に対する腫瘍の感受性を評価しようとすることにある。
【0015】
本発明の好ましい態様では、癌試料中の1種類または複数のグルコース輸送体のレベルを決定して、基準値(群)と比較する。癌試料中の輸送体レベルが基準値より高いことは、腫瘍が、グルコースまたはグルコース類似体成分を含む抗悪性腫瘍剤の薬剤群による治療に感受性があることを意味する。
【0016】
したがって1つの態様では、本発明は、以下の段階を含む、グルコース輸送体によって癌細胞中に輸送されるグルコースまたはグルコース類似体を含む抗悪性腫瘍剤による治療に対して癌が感受性であるか否かを判定する方法を含む:
(a)癌の試料を得る段階;
(b)試料中のグルコース輸送体の量または活性を測定する段階;
(c)段階(b)で測定された量または活性を、所定の量または活性と比較する段階;および
(d)測定された値または活性が所定の量または活性より大きい場合は、癌は治療に感受性があると判断され、かつ測定された値が所定の量または活性より小さい場合は、癌は治療に感受性がないか、または感受性が低いと判定される段階。
【0017】
1つの態様では、本発明は、以下の段階を含む、グルコース輸送体によって癌細胞中に輸送されるグルコースまたはグルコース類似体を含む抗悪性腫瘍剤による治療に患者が感受性があるか否かを判定する方法を含む:
(a)患者が癌であると診断する段階;
(b)患者から癌の試料を得る段階;
(c)試料中のグルコース輸送体の量または活性を測定する段階;
(d)段階(c)で測定された量または活性を、所定の量または活性と比較する段階;および
(e)測定された値または活性が所定の量または活性より大きい場合は、患者は治療に感受性があると判定され、かつ測定された値または活性が所定の量または活性より小さい場合は、患者は治療に感受性がないと判定される段階。
【0018】
1つの態様では、本発明は、以下の段階を含む、グルコース輸送体によって癌細胞中に輸送されるグルコースまたはグルコース類似体を含む抗悪性腫瘍剤で癌患者の治療を行う方法を含む:
(a)患者から癌の試料を得る段階;
(b)試料中のグルコース輸送体の量または活性を測定する段階;
(c)段階(b)で測定された量または活性を、所定の量または活性と比較する段階;
(d)測定された値または活性が所定の量または活性より大きい場合は、癌は治療に感受性があると判定され、かつ測定された値または活性が所定の量より小さい場合は、癌は治療に感受性がないと判定される段階;および測定された値または活性が所定の量または活性より大きい場合は、
(e)該当する抗悪性腫瘍剤で癌患者の治療を行う段階。
【0019】
1つの態様では、本発明は、以下の段階を含む、グルコース輸送体によって癌細胞中に輸送されるグルコースまたはグルコース類似体を含む抗悪性腫瘍剤で患者の治療を行う方法を含む:
(a)患者が癌であることを診断する段階;
(b)患者から癌の試料を得る段階;
(c)試料中のグルコース輸送体の量または活性を測定する段階;
(d)段階(c)で測定された量または活性を、所定の量または活性と比較する段階;
(e)測定された値または活性が所定の量または活性より大きい場合は、癌は治療に感受性があると判定され、かつ測定された値または活性が所定の量または活性より小さい場合は、癌が治療に感受性がないと判定される段階;および、測定された値または活性が所定の量または活性より大きい場合は、
(f)該当する抗悪性腫瘍剤で患者の治療を行う段階。
【0020】
2.「抗癌剤」および「抗悪性腫瘍剤」
抗癌剤は、患者の癌細胞の成長および/または拡散を抑えたり妨げたりする化合物である。抗癌剤の投与は、疾患の進行の遅延または減速、または疾患の状態の改善または緩和、寛解(部分的な寛解と完全な寛解)、および/または(治療を受けなかった場合の期待生存率と比較時の)生存率の延長をもたらす可能性がある。現在使用されているか、または開発中である抗癌剤には、アルキル化剤、アントラサイクリン、抗生物質、代謝毒、放射性核種、金属毒物、酵素阻害剤、アロマターゼ阻害剤、ビホスホネート剤、シクロオキシゲナーゼ阻害剤、エストロゲン受容体調節因子、葉酸拮抗剤、無機ヒ素、微小管阻害剤、修飾物質、ニトロソ尿素、ヌクレオシド類似体、オーソクラーゼ阻害剤、白金系化合物、レチノイド、トポイソメラーゼ1阻害剤、トポイソメラーゼ2阻害剤、およびチロシンキナーゼ阻害剤などがあるがこれらに限定されない。
【0021】
本発明に関連した主たる注目点は、グルコース輸送体によって癌細胞中に輸送される抗癌剤である。この文脈における「抗悪性腫瘍剤」という表現は、このような抗癌剤を意味し、グルコース輸送体によって癌細胞中に輸送されない抗癌剤(例えば、シスプラチン、ベバシツマブ、ペメトレキセドほかの薬剤など)とは区別される。抗悪性腫瘍剤は、グルコース輸送体による細胞中への輸送を促進するか、または輸送を可能とするグルコースもしくはグルコース類似体成分を含む分子を含む。1つの態様では、グルコース類似体そのものが抗悪性腫瘍剤である。このような薬剤の一例が、2-デオキシグルコース(2-DG)である。他の例には、2-フルオロ-2-デオキシグルコース(2-FDG)、および2-18FDGなどの放射標識された2-FDG化合物などがある。別の態様では、グルコースまたはグルコース様成分には、上述した薬剤のような、それ自体が(すなわち、グルコースまたはグルコース様成分と結合していない状態で)抗癌剤である場合のある、細胞毒性化合物などの他の成分が結合されている。例えば、グルコースまたはグルコース類似体成分は単に、これに結合された細胞毒性剤を細胞中に輸送する標的分子として働く可能性がある。毒性成分が結合したグルコースまたはグルコース類似体を含む抗悪性腫瘍剤については、PCT国際公開公報第03/082301号に記載されている。1つの態様では、グルコース様成分も他の成分も、非結合状態として投与時に毒性を示さない。別の態様では、グルコース様成分と他の成分の両方が、独立して投与時に毒性を示す。
【0022】
グルコースまたはグルコース類似体と結合した成分を含む抗悪性腫瘍剤に関しては、グルコースまたはグルコース類似体部分と非グルコース部分の両方に適合する任意の結合を使用することができる(例えば、WO 03/082301、または米国特許第5,622,936号に記載されている任意の結合)。抗悪性腫瘍剤は、グルコースまたはグルコース類似体に、任意の機能部位(例えば、グルコースもしくはグルコース類似体の1位、2位、3位、または4位上)において結合させることができる。
【0023】
本発明のスクリーニング法が有用な、抗悪性腫瘍剤のグルコース類似体、またはこの部分は当技術分野で周知であり、D-(+)-2-デオキシグルコース、D-(+)-2-アミノ-2-デオキシグルコース、またはN-アセチルD-(+)-2-アミノ-2-デオキシグルコースなどのグルコース誘導体;D-マンノースおよびマンノース誘導体;D-3-アミノ-3-デオキシグルコースおよびD-2-アミノ-2-デオキシグルコースを含むがこれらに限定されない、D-グルコースおよびD-グルコース誘導体;ならびにD-2-デオキシ-D-ガラクトース、D-4-アミノ-4-デオキシ-ガラクトース、およびD-2-アミノ-2-デオキシ-ガラクトースを含むがこれらに限定されないD-ガラクトースおよびガラクトース誘導体を含むがこれらに限定されない。したがって、グルコースまたはグルコース成分は、D-グルコース、またはそのエピマーである2-DGや2-グルコサミンなどの誘導体とは異なる場合がある。またグルコースまたはグルコース類似体成分は、前述の任意の化合物のフッ素化誘導体の場合がある。さらに、前述の任意の化合物の環中の酸素は、Sやスルホンなどからなる群より選択されるアイソスターと置換することができる。例えば、グルコース類似体は、5-チオ-D-グルコース、またはこの誘導体の場合がある。「グルコース類似体」という表現は、グルコース分子の3位および4位の-O-基または-NH-基を介して結合する(C1〜C12)アシル基、または(C1〜C12)アルキル基を有する誘導体を含むがこれらに限定されないグルコース誘導体も含む。またグルコース誘導体は、1位、3位、または4位に結合した、可溶性または分別目的のエフェクターを有する場合がある。
【0024】
いくつかの態様では、グルコース類似体は、フルクトース、プシコース、ソルボース、タガトース、アロース、アルトース、グロース、イドース、タロース、イノシトール(例えば、ミオ-、シロ-、ムコ-、およびキロ-イノシトール)、またはグルコース輸送体の基質である他の糖アルコール、もしくは表1に記載されたようなグルコース輸送体の基質となる、これらの誘導体である。
【0025】
グルコースまたはグルコース類似体を含む、数種類の抗悪性腫瘍剤が知られており、また他の薬剤が、将来の臨床における利用をめざして検討中または開発中である。制限する意図はなく、説明する目的で、このような抗悪性腫瘍剤の例には、ストレプトゾトシン、グルコホスファミド、グリコール-S-ニトロソチオール(2gluSNAPを含む)、1プロトン放出性放射性レーサー(2-O-(3'-ヨードベンジル-D-グルコース、およびN-(4'-ヨードベンジル)-D-グルコサミン、2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)、およびWO 03/082301に記載された2-DGの複合体、WO 02/058741に記載された複合体、WO 99/20316に記載された複合体、 米国特許第6,489,302号に記載された複合体、および米国特許第5,622,396号に記載された複合体、ならびにこれらの誘導体および類似体などがある。
【0026】
ストレプトゾトシン[2-デオキシ-2-(3-メチル-3-ニトロソ-ウレイド)-D-グルコース;N-メチルニトロソカルバモイル-D-グルコサミン;STZ;Zanosar(商標)]は、細胞毒性を有するN-ニトロソ尿素基がグルコサミンの2位に結合した抗有糸分裂性アルキル化薬剤である。ストレプトゾトシンはFDAから、膵島細胞癌およびカルチノイド腫瘍の治療用として承認されている。他のニトロソ尿素類似体とは対照的に、ストレプトゾトシンは、膵臓のβ細胞を選択的に標的とする(GLUT2を発現する細胞への取り込みに関与すると考えられている化合物上にグルコース成分が存在するため)

【0027】
抗悪性腫瘍剤グルコホスファミド(ベータ-D-グルコシル-イホスファミドマスタード;glc-IPM)は、グルコースの1位の酸素原子におけるエステル結合を介してグルコースと結合した細胞毒性剤イホスファミドを含む(米国特許第5,622,936号、および米国特許第6,489,302号を参照されたい)。グルコホスファミドは、第1選択治療を受けた膵臓癌患者、および第2選択化学療法を受けた非小細胞肺癌患者、ならびに膠芽腫、乳癌、および結腸癌の患者の治療用に検討されている。これについては、グルコホスファミドの細胞への取り込みにはNa+依存性のグルコース輸送体が関与することを報告した、Niculescu-Duvaz, 2002, Curer. Opin. Investig. Drug 3: 1527-32. Briasoulis et al., 2000, J. Clin. Oncol. 18: 3535-44を参照されたい。
【0028】
グリコール-S-ニトロソチオール化合物は、糖に結合した細胞毒性剤であると表現可能であり、またGLUT1を主に過剰発現する腫瘍細胞を標的とすることが報告されている(Ramirez et al., 1996, Bioorg. Med. Chem. Lett. 6: 2575-80;およびCantuaria et al., 2000, Cancer 88: 381-88を参照されたい)。例示的なグリコール-S-ニトロソチオールである2gluSNAPは、細胞毒性成分(S-ニトロソ-N-アセチル-ペニシラミン)を供与する一酸化窒素が、2位においてアミド結合を介して2-デオキシグルコサミンに結合された構造を有する。このような化合物は、GLUT1を過剰発現する腫瘍細胞を標的とすることが報告されている(Ramirez et al.、前記、およびCantuaria et al.、前記を参照されたい)。
【0029】
本発明のスクリーニング法を応用可能な他の抗悪性腫瘍剤には、PCT国際公開公報第99/20316号に記載されているように、複素環、炭化水素、または芳香族の官能基を介して1個の光子放出成分が結合したグルコース成分を含む化合物がある。このような化合物には例えば、2-O-(3'-ヨードベンジル)-D-グルコース、およびN-(4'-ヨードベンジル)-D-グルコサミンなどがある。上述のグルコースまたはグルコース類似体に結合可能な抗悪性腫瘍剤の他の例には例えば、イットリウム90、ヨウ素125、ヨウ素131、リン酸32、ヒドロキシ尿素、Triapine、5-HP、カンプトセシンおよびこれらの類似体、カルボプラチンおよびこの類似体、DOTAおよび他の放射性金属のイオンキレート剤、メトトレキセートおよび類似体、ミトキサントロン、および関連するアントラキノン構造体、低分子量キナーゼ阻害剤、ダカルバジンまたはプロカルバジン、ならびにマイトマイシンなどがある。
【0030】
グルコースおよびグルコース類似体以外の化合物は、1種類もしくは複数のグルコース輸送体によって輸送される。例えばアスコルビン酸も、グルコース輸送体によってデヒドロアスコルビン酸の状態で細胞中へ輸送されることが報告されている。これについては、Vera et al., 1004, Blood 84: 1628-34、およびAgus et al., 1997, J. Clin. Invest. 100: 2842-48を参照されたい。促通性のグルコース輸送体群の分子であるプロトン/ミオイノシトール共輸送体(HMIT)は、ミオ-、シロ-、ムコ-、およびキロ-イノシトールに対して選択性を示すことがわかっている。輸送時の親和性は高く(Km=100 μM)であり、また輸送は低pHで強化され、最大速度はpH=5.0で得られる。
【0031】
本明細書に記載された抗悪性腫瘍剤は、癌の治療に一次単剤治療として、ならびに放射線療法、外科手術、または他の抗癌剤と組み合わせた治療として、ならびにこれらの治療法に組み合わせて使用されている。
【0032】
3.グルコース輸送体
上述したように、本発明の1つの局面では、癌試料中の1種類もしくは複数のグルコース輸送体のレベルを決定する。したがって、グルコース輸送体の性質および種類を評価することは、従業者に対して、本発明に関する手引き提供することになる。
【0033】
グルコース輸送体には、促通性のグルコース輸送体タンパク質ファミリー(GLUT/SLC2A)の輸送体、ナトリウム依存性のグルコース共輸送体(SGLT/SLC5A)、H+/ミオイノシトール共輸送体(HMIT1)、およびヒトまたは哺乳類のホモログ、ならびに前述のオーソログなどが含まれる。説明する目的で、制限する意図のない例示的なグルコース輸送体には、表1に挙げる分子などがある。
(表1)

*あらゆる意味において本発明を説明する目的で、また制限する意図のない条件で、特定の配列を示す。例えば、カラム1に記載された輸送体に対応する、(多型配列や他の異型を含むがこれらに限定されない)他の配列、または別の配列が存在する場合がある。
**EMBL配列のアクセッション番号。

【0034】
3.1 GLUT
いくつかの態様では、グルコース輸送体は、促通性のNa+非依存性の糖輸送体または促通性のグルコース輸送体である。「促通性のグルコース輸送体」、または「促通性のNa+非依存性の糖輸送体」すなわち「GLUT」は、その基質(グルコースなど)の、基質を輸送する血漿膜内外の拡散勾配を利用するグルコース輸送体を意味する。促通性のグルコース輸送体には、GLUT1、GLUT2、GLUT3、GLUT4、GLUT6、GLUT7、GLUT8、GLUT9、GLUT10、GLUT11、GLUT12、およびH+共役型ミオイノシトール輸送体HMIT1などが含まれるがこれらに限定されない。GLUT14は94.5%がGLUT3と同一であり、GLUTファミリーに含まれる。
【0035】
促通性のグルコース輸送体は一般に、12本の膜貫通ヘリックスを有する。このようなタンパク質の膜貫通ドメインは、基質が移動する水で満たされた経路を含む場合があり、また場合によっては、タンパク質の細胞外側ドメインは、N-結合型のオリゴ糖成分を有する大きなループを含む場合がある。このようなループは、任意の2つの保存的な膜貫通ヘリックス間、例えば、第1の膜貫通ヘリックスと第2の膜貫通ヘリックスの間、または第9の膜貫通ヘリックスと第10の膜貫通ヘリックスの間に形成される場合がある。
【0036】
いくつかの態様では、グルコース輸送体は、1種類または複数の「グルコース輸送体特性」を含む。本明細書で用いる「グルコース輸送体特性」は、輸送体としてタンパク質の機能に関連づけられている2残基、またはこれ以上のグルコース輸送体上に保存された残基を意味する。いくつかの態様では、グルコース輸送体特性は、膜貫通ヘリックス1、2、4、5、7、8、および10中の7個のグリシン残基の存在である。いくつかの態様では、グルコース輸送体特性は、既知のGLUTで保存されたタンパク質の細胞質側面上の1種類もしくは複数の荷電性残基である。これについては、Joost et al., 2001, Mol. Membrane Biol. 18: 247-256を参照されたい。いくつかの態様では、グルコース輸送体特性は、以下に挙げる1種類もしくは複数の残基である:ヘリックス6のトリプトファン、ヘリックス11のトリプトファン、ヘリックス4のチロシン、およびヘリックス7のチロシン。いくつかの態様では、グルコース輸送体は、ヘリックス6の後に位置するPXXPRモチーフである。他の態様では、グルコース輸送体は、このようなPXXPRモチーフを含まない。
【0037】
いくつかの態様では、グルコース輸送体特性は、ヘリックス10に保存されたGXXPXPモチーフのすぐ後に位置するトリプトファン残基である(配列をGLUT1と並列時に、GLUT1のトリプトファン388に対応する)。いくつかの態様では、グルコース輸送体特性は、ヘリックス10中のトリプトファン残基である(配列をGLUT1と並列時に、GLUT1のトリプトファン412に対応する)。これらのトリプトファン残基は、リガンドであるサイトカラシンBおよびフォルスコリンとの結合に重要な役割を果たすことがわかっており、またサイトカラシンBまたはフォルスコリンに対する感受性をグルコース輸送体にもたらす(Garcia et al., 1992, J. Biol. Chem. 267: 7770-76; Schurmann et al., 1993, Biochem. J. 290: 497-501)。したがって、本発明のいくつかの態様は、サイトカラシンBまたはフォルスコリンによる治療に感受性を有するグルコース輸送体のアッセイ法を含む。いくつかの態様では、グルコース輸送体は、サイトカラシンBまたはフォルスコリンに対する結合親和性が低い。いくつかの態様では、グルコース輸送体は、サイトカラシンBまたはフォルスコリンに対する結合親和性が高い。
【0038】
本発明を実践するアッセイ法の対象となるグルコース輸送体は、グルコースまたはグルコース類似体に対してさまざまな親和性を示す。したがって、いくつかの態様では、グルコース輸送体はグルコースに対して高親和性を示す。GLUTに関して、この文脈で用いられる「高親和性」という表現は、Burant et al., 1992, J .Biol. Chem. 267: 14523-26に記載されたツメガエル卵母細胞アッセイ法に使用時に、KMが5 mM未満であることを意味し、またSGLTに関して用いられる「高親和性」という表現は、Panayotova-Heiermann et al., 1996, J. Biol. Chem. 271: 10029-34に記載された2マイクロ電極クランプアッセイ法で測定時のK0.5が1 mM未満、好ましくは0.5 mM未満であることを意味する。他の態様では、グルコース輸送体は、グルコースに対して低親和性を示す。いくつかの態様では、グルコース輸送体のグルコース/グルコース類似体の結合親和性は、さまざまな組織で、または異なる生理学的条件(例えば癌などの疾患状態)で変動する。
【0039】
配列の類似性および特徴的な要素に基づき、一連の既知GLUTタンパク質を、クラスI(GLUT1〜4)、クラスII(GLUT5、GLUT7、GLUT9、およびGLUT11)、ならびにクラスIII(GLUT6、8、10、12、およびHMIT1)の3つの小さな下位群に分けることができる。これについては、Joost et al., 2001, Mol. Membr. Biol. 18: 247-56を参照されたい。GLUTの異常発現および/または過剰発現は一部の腫瘍組織で観察されている(Smith, 1999, Br. J. Biomed. Sci. 564: 285-92;Bell et al., 1990, Diabetes Care 13: 198-206の総説を参照されたい)。
【0040】
3.1.1 クラスIのGLUT
クラスIのグルコース輸送体は、ヘリックス5におけるグルタミンなどの配列モチーフ(グルコース輸送体特性)を含む場合がある(配列をGLUT1と並列時に、GLUT1のQ161に対応する)。いくつかの態様では、グルコース輸送体は、細胞外ループ7(膜貫通ヘリックス7と膜貫通ヘリックス8間のループ)中にSTSIFモチーフを含む。いくつかの態様では、グルコース輸送体はヘリックス7にQLSモチーフを含む。クラスIのグルコース輸送体は、乳癌、腎細胞癌、脳腫瘍、消化器のマリグノーマ、および子宮頚癌などの、さまざまな固形腫瘍で発現されることが報告されている。
【0041】
本発明のいくつかの態様では、クラスIのグルコース輸送体のレベルを測定する。
【0042】
本発明のいくつかの態様では、GLUT1のレベルを測定する。GLUT1は、膀胱、乳房、子宮頚部、結腸直腸、胃、食道、頭頚部の腫瘍、平滑筋肉腫、肺、卵巣、膵臓、陰茎、甲状腺、子宮、血管の腫瘍、および若年性血管腫を含む、多様な悪性組織で過剰発現されることが報告されている(Medina et al., 2002, Biol. Res. 35: 9-26)。GLUT1の発現は、腫瘍低酸素と相関することも報告されている(Airley et al., 2001, Clin. Cancer Res. 7: 928-34;Chen et al. 2001, J. Biol. Chem. 12: 9519-25)。
【0043】
本発明のいくつかの態様では、GLUT2のレベルを測定する。GLUT2は、胃癌で過剰発現されることが報告されている。
【0044】
本発明のいくつかの態様では、GLUT3のレベルを測定する。GLUT3は、脳腫瘍、肺癌、乳癌、胃癌、頭頚部癌、髄膜腫、および卵巣癌で過剰発現されることが報告されている。GLUT3はグルコースに対して高親和性を示し、また燃料としてグルコースの需要が大きい脳内の組織におけるグルコースの輸送に関与すると考えられている。
【0045】
いくつかの態様では、GLUT4のレベルを測定する。GLUT4は、乳癌、胃癌、肺癌、および膵臓癌で過剰発現されることが報告されている。
【0046】
いくつかの態様では、GLUT14のレベルを測定する。GLUT14には2つの異なるスプライシング型がある。GLUT14の短い方は497アミノ酸のタンパク質であり、GLUT3と94.5%が同一である。長い方は520アミノ酸のタンパク質であり、短い方とはN末端だけが異なる。両イソ型とも睾丸で特異的に発現されることが報告されている。
【0047】
3.1.2 クラスIIのGLUT
いくつかの態様では、グルコース輸送体はクラスIIのGLUTである。いくつかの態様では、グルコース輸送体は、グルコース輸送体にサイトカラシンB感受性をもたらすことが報告されている、ヘリックス10に保存されたGXXPXPモチーフの後に位置するトリプトファン残基(配列をGLUT1と並列時に、GLUT1中のトリプトファン388に対応する)を欠く。クラスIIのグルコース輸送体は、サイトカラシンBによる阻害に感受性を示さない(Joost et al., 2001, Mol. Mem. Biol. 18: 247-56を参照されたい)。
【0048】
本発明のいくつかの態様では、クラスIIのグルコース輸送体のレベルを測定する。
【0049】
本発明の1つの態様では、GLUT5のレベルを決定する。GLUT5は、肺癌および乳癌で過剰発現されることが報告されている。
【0050】
本発明の1つの態様では、GLUT7のレベルを決定する。
【0051】
本発明の1つの態様では、GLUT9のレベルを決定する。GLUT9とはN末端だけが異なる選択的スプライシングを受けた形状のGLUT9が最近同定されている(Auguatin et al., 2004, January 22, J. Biol. Chem.)。
【0052】
本発明のいくつかの態様では、GLUT11のレベルを決定する。GLUT11については、長い異型(503アミノ酸)と短い異型(493アミノ酸)の2種類のスプライスバリアントの存在が報告されている(Doege et al., 2001, Biol. J. 359: 443-49;Sasaki et al., 2001, Biochem. Biophys. Res. Comm. 289: 1218-24)。GLUT11の短い異型は、低親和性のグルコース輸送に関与することが報告されており、主に心臓および骨格筋で発現されることが示されている。GLUT11の長い異型は、肝臓、肺、気管、および脳で発現されることが報告されており、フルクトースの輸送を高めることが報告されている。したがって、本発明のいくつかの態様では、グルコース輸送体はGLUT11の長い異型である。他の態様では、グルコース輸送体はGLUT11の短い異型である。さらに他の態様では、グルコース輸送体はGLUT11の誘導体、異型、または近縁のホモログである。
【0053】
3.1.3 クラスIIIのGLUT
いくつかの態様では、グルコース輸送体はクラスIIIのGLUTである。クラスIIIの一部のGLUTに見出されるモチーフには、ループ9(膜貫通ヘリックス9と膜貫通ヘリックス10間のループ)上のグリコシル化部位、および標的モチーフなどがある。
【0054】
本発明のいくつかの態様では、クラスIIIのグルコース輸送体のレベルを決定する。
【0055】
本発明の1つの態様では、GLUT6のレベルを決定する。GLUT6は、主に脳、脾臓および末梢白血球で発現されることが報告されている。
【0056】
本発明の1つの態様では、GLUT8のレベルを決定する。GLUT8は乳癌細胞で発現される。
【0057】
本発明の1つの態様では、GLUT10のレベルを決定する。
【0058】
本発明の1つの態様では、GLUT12のレベルを決定する。GLUT12は、乳房の腫瘍で発現されることがわかっている。これについては、Rogers et al., 2003, Cancer Letters, 93: 225-33;Rogers et al., 2002, Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab. 282 (3): E733-8を参照されたい。
【0059】
本発明の1つの態様では、HMIT1のレベルを決定する。
【0060】
3.2 SGLT
いくつかの態様では、グルコース輸送体はNa+依存性のグルコース共輸送体である。「Na+依存性のグルコース輸送体」、または「Na+/グルコース共輸送体」は、グルコースまたはグルコース類似体を能動的に、エネルギーに依存して輸送するグルコース輸送体を意味する。一部のNa+依存性のグルコース輸送体は、グルコースまたはグルコース類似体の取り込みを駆動するために、Na+の電気化学的勾配を下る移動を利用する。Na+依存性のグルコース輸送体には、SGLT1、SGLT2、SGLT3、SGLT4、SGLT5、およびSGLT6などがあるがこれらに限定されない。これについては表1を参照されたい。また、Coady et al., 2002, 「Identification of a novel Na+/myo-inositol cotransporter.」 J Biol Chem. 277: 35219-24も参照されたい。いくつかの態様では、グルコース輸送体は、高親和性で低容量のNa+依存性のグルコース輸送体である。いくつかの態様では、グルコース輸送体は、低親和性で高容量のNa+依存性のグルコース輸送体である。
【0061】
いくつかの態様では、Na+依存性のグルコース輸送体は14本の膜貫通ヘリックスを含む。いくつかの態様では、グルコース輸送体はさらに、複数の既知SGLTで保存されていることがわかっている、ヘリックス6と7の間に位置するN-結合型のグリコシル化部位を含む。これについては、Wright, Am. J. Physiol. Renal Physiol. 2001, 280 (1): F10-8を参照されたい。
【0062】
本発明の1つの態様では、SGLT1のレベルを決定する。SGLT1は高いグルコース親和性を有し、Na+/グルコース結合比は2:1であると報告されている。SGLT1は、複数の腸腫瘍細胞系列および原発性肺癌で発現されることが報告されている(Bissonette et al., 1996, Am. J. Physiol., 270: G833-G843;Delezay et al., 1995, J Cell Physiol. 163: 120-128;Ishikawa et al., 2001, Jpn. J Cancer Res. 92: 874-79)。
【0063】
本発明の1つの態様では、SGLT2のレベルを決定する。SGLT2は低親和性で高容量の輸送体であり、Na+/グルコースの結合比は1:1であると報告されている。
【0064】
本発明の1つの態様では、SGLT3のレベルを決定する。SGLT3(以前はSAAT1と呼ばれていた)は、化学療法薬剤β-D-グルコシルリソホスホラミドマスタード(D-19575)の腫瘍細胞への輸送に関与することが報告されている(Vehyl et al., 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95: 2914-19)。最近、SGLT3がNa+/グルコース共輸送体ではなく、コリン作動性ニューロン、骨格筋、および他の組織の血漿膜中のグルコースセンサーであることが提案されている(Diez-Sampedro et al., 2003, "A glucose sensor hiding in a family of transporters" Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100: 11753-8)。したがって、本発明のいくつかの態様では、レベルを決定する対象となるグルコース輸送体はSGLT3でないか、またはSGLT3を含まない。
【0065】
本発明の1つの態様では、SGLT4のレベルを決定する。
【0066】
本発明の1つの態様では、SGLT5のレベルを決定する。
【0067】
本発明の1つの態様では、SGLT6のレベルを決定する。
【0068】
表1に記載された輸送体以外のグルコース輸送体のレベルが、本発明を実施することで測定可能なことは明らかであろう。例えば、他の哺乳類におけるホモログを含む、表1に記載された任意のグルコース輸送体の誘導体、イソ型、異型、変異体、およびホモログを測定することが可能なほか、そのレベルまたは活性を測定することができる。さらに本発明の方法は、既知の輸送体に特徴的な構造または配列を有する輸送体などの、将来発見される可能性のあるグルコース輸送体に応用可能である(例えば、表1に記載されたグルコース輸送体に対して少なくとも28%、少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも80%、少なくとも90%のアミノ酸配列の類似性を有するグルコース輸送体を含む)。
【0069】
4. 抗悪性腫瘍剤による治療に対する癌の感受性の決定
1つの局面では、本発明の方法では、患者に由来する癌試料中のグルコース輸送体のレベルを測定する。このレベルを基準値と比較して、1種類もしくは複数の輸送体の高レベルの発現のために、抗悪性腫瘍剤による治療に対して癌が感受性であるか否かを判定する。以下に詳述するように、本発明のさまざまな局面では、癌試料中の1種類の輸送体のレベルを測定し、癌試料中の多種多様な輸送体のレベルを独立に測定し(すなわち、各輸送体のレベルについて個別の値を決定し)、および/または癌試料中の2種類もしくはそれ以上の異なる輸送体を、測定値の組み合わせから測定する(例えば、複数の輸送体を認識するプローブを用いるアッセイ法か、または複数のプローブを用いるアッセイ法による)。
【0070】
本明細書で用いる「レベル」という表現は、癌試料中のグルコース輸送体数を反映した任意の測定値を含むことを意図し、さまざまな態様で、定量的、半定量的、または相対的な場合がある(例えば、同様に測定された別のレベル「より大きい」、または「より小さい」と単純に決定される。こうした数値は、多種多様な測定値から推定することができる。例えば、このような数は、試料中のグルコース輸送体タンパク質の量、メッセンジャーRNAの量から、またはグルコース輸送体の活性から推定することができる。本発明の方法に使用可能ないくつかのアッセイ法について後述するが、他のアッセイ法は、本明細書を手引きとする従業者にとっては明らかであろうと思われる。
【0071】
いくつかの態様では、試料中のグルコース輸送体の測定値を、細胞1個あたりの量、組織1 gあたりの量、組織1 mm3あたりの量(または数)などとして標準化する。当技術分野で周知のように、癌試料中の輸送体のレベルは、試料中の第2のタンパク質の量、および第2のタンパク質に対する輸送体タンパク質の量の比で表される輸送体のレベルを参照して標準化することもできる。このような方法の利点は、異なる条件で比較的一定のレベルで発現されるタンパク質を選択することによって、アッセイ法の過程における、タンパク質の合成、細胞のアポトーシス、または材料の喪失の一般的な阻害による任意の作用を最小限に抑えることが可能なことである。適切な「第2のタンパク質」には、アクチン、チューブリン、およびグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼなどの構造タンパク質があるがこれらに限定されない。(例えば、輸送体のRNAレベルをリボソームRNA、または構造タンパク質をコードするmRNAと比較することで)輸送体のRNAレベルを測定する際には、同等の標準化を用いることができる。1つの局面では、腫瘍中のグルコース-6-ホスファターゼの活性も評価し、またグルコース輸送体のレベルを、グルコース-6-ホスファターゼ(G6Pase)のタンパク質、RNA、または活性に対する輸送体(タンパク質、RNA、または活性)の比で表す。高い比は、抗悪性腫瘍剤による治療に対する感受性が高いことを意味する。グルコース、および一部のグルコース類似体は、細胞内への侵入時にリン酸化され、結果的に蓄積し、また特定の類似体の場合は、細胞内におけるリン酸化型の蓄積のために毒性が増す。グルコース-6-ホスファターゼの発現および活性のアッセイ法は既知である(例えば、Schmoll et al., 2001, Cancer Letters, 167: 85-90;Taketa et al., 1998, Cancer Res. 48: 467-74を参照されたい)。いくつかの態様では、グルコース-6-ホスファターゼのレベルに対するグルコース輸送体のレベルの比を決定する。この比が高いほど、グルコースまたはグルコース類似体を含む抗悪性腫瘍剤による治療に対する患者の癌の感受性は高くなる。
【0072】
別の態様では、癌試料中の輸送体のレベルは、同じ患者に由来する、整合させた非腫瘍組織中の輸送体のレベルに対する、癌試料中の輸送体のレベルの比で表される。「整合させた非腫瘍組織」という表現は非癌性組織の試料を意味し、好ましくは、整合させる非腫瘍試料または非悪性試料は、腫瘍試料が由来する器官と同じ器官に由来する。最も好ましくは、整合させる非腫瘍試料は、腫瘍試料が由来する同じ器官の組織層に由来する。また、整合させる非腫瘍組織試料は、腫瘍試料の生検を行う同じ時点に採取することが好ましい。例えば、本発明の目的で膵臓腫瘍から組織を得る際には、従業者は、腫瘍から除去された部位から非悪性膵臓組織を得ることもできる。次に、個々の試料についてグルコース輸送体のレベルを測定し、腫瘍試料の測定レベルが正常試料のレベルを上回る場合であれば、腫瘍は、グルコース輸送体である抗癌剤による治療に感受性があると判定される。
【0073】
関連する態様では、癌試料中の輸送体のレベルは、癌試料中の癌性(形質転換された)細胞中の輸送体のレベルの、同じ試料に由来する非癌性細胞の輸送体のレベルに対する比として表される。この比は好都合なことに決定することができるが、これは癌試料を被験者から(例えば生検により)得る場合に、観察により、または組織学的な方法により、あるいは癌特異的な分子マーカーの不在を検出することで同定可能な非癌性細胞を試料が含むことも多いからである。
【0074】
輸送体のレベルは、被験者に由来する1種類の癌試料(また任意で1種類の非癌性試料)を対象に判定されることが極めて多いが、いくつかの態様では、癌性および/または正常組織の複数の生物試料を1人の被験者から得て、被験者の平均値を得る。
【0075】
4.1. 基準値
癌試料中におけるグルコース輸送体のレベルの発現を基準値と比較することで、抗悪性腫瘍剤による治療に対する相対的な感受性を決定する。任意の輸送体に関して、治療に対する感受性を判定する際の基準値が、さまざまな癌で異なる場合があることがわかる。特定の輸送体に関する基準値は、さまざまな方法で決定することができる。
【0076】
このような方法の1つの態様では、癌の種類に関する基準値を、数人の患者(本明細書では「調査集団」と呼ぶ)に由来する癌試料中の輸送体のレベル(群)を評価することで決定する。一般に、調査集団の患者、および癌試料が採取される被験者は、すべて同じ種類の癌である。例えば1つの態様では、10人、50人、100人、200人、500人、または1000人もしくはこれ以上の患者に由来する膵臓癌試料を対象に、GLUT2のレベルを解析する。「種類」による癌の分類は、従業者の能力の範囲内であり、また従業者の判断の範囲内にある。通常、癌の「種類」は、元の組織(例えば膵臓癌や乳癌)に基づくが、病期、転移、低酸素の程度、予後マーカーの存在などに基づく場合もある。癌を種類によって分類する際の別のパラメータは、その「種類」の癌の患者における、抗癌剤または抗癌剤のクラス(抗悪性腫瘍剤、または特定の抗悪性腫瘍剤を含む)について示された作用である。この文脈で用いられる「作用」には、抗癌剤(群)による治療に対する反応(または反応の不在)や、治療対象患者の生存期間延長の長さが含まれる。癌の種類を整合させることに加えて、調査集団および被験者を、性別、年齢、および民族ほかの基準などの、患者の特徴に従って整合させることもできる。
【0077】
調査集団内における輸送体のレベル(本明細書では「調査値」と呼ぶ)は、単峰型、二峰型、または多峰型の場合のある分布を示す。本発明の1つの態様では、このような分布を利用して、既に述べたように、抗悪性腫瘍剤による治療に感受性があると同定される、基準値より高い、あるレベルの輸送体を発現する癌に関して適切な基準値を決定する。基準値は、調査値の分布の中央値や平均値などの1つのカットオフ値の場合がある(輸送体の値が平均または中央値を上回る患者の試料は、抗悪性腫瘍剤による治療に感受性があると判定される)。関連する態様では、基準値は60thパーセンタイル、75thパーセンタイル、90thパーセンタイルなどの、調査値の分布のパーセンタイルである。あるいは、基準値は例えば、調査値の分布を、四分円などの等しい(または等しくない)部分に分割し、個々の四分円を治療に対する感受性のレベルと相関させる範囲である(例えば、最低の四分円は最低の感受性と関連づけられ、また最高の四分円は最高の感受性と関連づけられる)。場合によっては、調査値の分布は、(低い範囲と高い範囲を有する)二峰型である。このような場合、グルコース輸送体のレベルが、高い方の範囲内にあるか、またはこれより高い癌試料は、抗悪性腫瘍剤による治療に感受性がある癌に由来すると判定される。場合によっては、調査値の分布は、(低い範囲と、複数の高い範囲を有する)多峰型である。このような場合、グルコース輸送体のレベルが、低い方の範囲より大きい癌試料、また好ましくは、高い方の範囲より高い癌試料は、抗悪性腫瘍剤による治療に感受性がある癌に由来すると判定される。
【0078】
場合によっては、基準値は、癌の種類(議論の都合上、本明細書では「組織x」の癌と呼ぶ)が特定のグルコース輸送体または輸送体群を発現しない一部の腫瘍、および輸送体または輸送体群を発現する他の腫瘍を含む場合は、ゼロかほぼゼロである。このような場合、輸送体(群)の任意の検出可能な発現は、患者が抗悪性腫瘍剤による治療の候補であることを示すのに十分である。
【0079】
調査値の単位(およびしたがって基準値の単位)が、癌試料中の輸送体のレベルを表す際に用いられる単位と同じか、または同等である限りにおいて(あるいは調査値と癌試料のレベルが比較可能な場合)、輸送体のレベルを記述する特定の方法は重要ではないが、癌の性質、行われるアッセイ法、ならびに従業者の好みに依存することは明らかであろう。
【0080】
別の態様では、調査集団は、癌ではない被験者(例えば健康者)から構成され、また癌の種類に関する基準値を、「調査集団」を構成する、癌であると診断されなかった被験者(例えば健康な被験者)の整合させた組織に由来する正常(非悪性)試料中の輸送体のレベル(群)を評価することで決定する。正常な試料は、これが腫瘍試料が由来する器官、また好ましくは同じ組織層に由来する器官と同じ器官に由来するという意味において、癌の種類に整合される。基準値とは、正常値の中央値または平均より大きい値のことであり、また好ましくは、正常試料の75%より大きい値であり、しばしば正常試料の90%より大きい値であり、ときには95%より大きい値であり、または99%より大きい値である。
【0081】
したがって基準値は、例えば癌試料(または正常試料)を採取して輸送体のレベルを決定する常用の方法で決定することができる。適切な範囲、患者のカテゴリー、癌の種類の選択などの、治療に対する腫瘍の感受性を評価するための特定の閾値レベルの決定は、本明細書を手引きとして用いる当業者である医療従事者の範囲内にある。このような決定を行う上で、標準的な統計的手法を従業者が使用可能なことは言うまでもない。これについては例えば、Principles of Biostatistics by Marcello Pagano et al. (Brook Cole; 2000);Fundamentals of Biostatistics by Bernard Rosner (Duxbury Press, 5th Ed, 1999);Biostatistics: a Foundation for Analysis in the Health Science by Wayne W. Daniels (John Wiley & Sons, 3rd Ed.; 1983);およびClinical Epidemiology and Biostatistics by Knapp and Miller (William and Wilkins, Harual Publishing Co. Malvern, PA 1992)を参照されたい。
【0082】
詳しく後述するように、輸送体のレベルは1つの輸送体を対象に決定することができる。あるいは、複数の異なる輸送体のレベルを、(例えば同時に、および/または個々のレベルを区別せずにひとまとめに)決定することができる。別の態様では、化合物(特定の抗悪性腫瘍剤、または特定の抗悪性腫瘍剤を輸送するのと同じ輸送体によって輸送されるはずの化合物など)を輸送する細胞の能力に関して、試料中の全輸送体を調べる。
【0083】
4.2. アッセイ法
生物試料中のグルコース輸送体のレベルを決定する方法は当技術分野で既知であり、またこのようなアッセイ法について本明細書では、従業者に対する説明および利便性を図ることを唯一の目的として以下に詳述する。適切な方法には例えば、輸送体タンパク質のアッセイ法、輸送体のRNAのアッセイ法、および輸送体活性のアッセイ法などがある。
【0084】
アッセイ法について以下に、また「実施例」で説明する。アッセイ法は、特に明記した部分を除いて、いずれも当業者の能力の範囲内にある、分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学、核酸化学、および免疫学における従来の手法を用いる。これらの手法は、

などの文献で詳しく説明されている。
【0085】
任意の患者を対象とする特定のアッセイ法の選択は、本開示に鑑みて、従業者の能力の範囲内にあり、また癌の種類および病期、切除実施の有無、癌試料の入手可能性、また例えば組織標本もしくは抽出物、または細胞もしくは細胞溶解物、またはこれらからの抽出物もしくは上清である場合がある癌の種類、ならびに従業者にとっての利便性および試薬の入手可能性およびコストを含む、いくつかの因子に依存する場合がある。
【0086】
4.2.1 生物試料
癌試料中、または非癌性組織中のグルコース輸送体のレベルは、被験者から生物試料を得て、グルコース輸送体タンパク質、mRNA、輸送体活性、および輸送体発現用の他のマーカーの有無もしくは量を検出することで決定可能である。理解を容易にするために、グルコース輸送体の測定対象となる材料については、(細胞性のものか、または細胞に由来するものかを問わず)「癌試料」という表現を用いる。一般に癌試料はヒトに由来する。輸送体のレベルは、組織標本、組織抽出物、細胞、細胞溶解物、細胞抽出物、体液、新生物発生前の細胞溶解物の上清、または新生物溶解物に由来する上清を対象に、当技術分野で既知の方法で測定することができる。
【0087】
癌試料は、白血病、乳癌、皮膚癌、骨癌、前立腺癌、肝臓癌、肺癌、脳腫瘍;咽頭、胆嚢、直腸、副甲状腺、甲状腺、副腎、神経組織、頭頚部、結腸、胃、気管、および腎臓の癌;基底細胞癌、扁平上皮癌(潰瘍型および乳頭型)、転移性皮膚癌、骨肉腫、ユーイング肉腫、細網細胞肉腫、骨髄腫、巨細胞腫瘍、小細胞肺腫瘍、膵島細胞癌、原発性脳腫瘍、リンパ性および顆粒球性の腫瘍(急性および慢性)、有毛細胞腫瘍、腺腫、過形成、髄様癌、褐色細胞腫、粘膜神経腫、腸の神経節神経腫、過形成性の角膜神経腫瘍、マルファン症候群様体質腫瘍、ウィルムス腫瘍、精上皮腫、卵巣腫瘍、平滑筋腫、子宮頚部異形成、および上皮内癌、神経芽腫、網膜芽腫、軟組織肉腫、悪性カルチノイド、局所皮膚病変、菌状息肉腫、横紋筋肉腫、カポジ肉腫、骨原性および他の肉腫、悪性高カルシウム血症、腎細胞腫瘍、真性赤血球増加症、腺癌、多形膠芽腫、白血病、リンパ腫、悪性黒色腫、ならびに扁平上皮癌を含むがこれらに限定されない任意の癌から得ることが可能であり、また本発明の方法を適用することができる。
【0088】
組織試料を得る方法は当技術分野で周知であり、また腫瘍の種類および部位、および医師の好みに従って変わる。1つの態様では、外科的に切除された組織から試料を得る。組織試料および細胞試料は、侵襲的な手術を行うことなく、例えば胸壁または腹壁、または乳房組織、甲状腺もしくは他の部位から、細い針で穴を開けて細胞性物質を引き抜くこと(針吸引生検)によっても得られる。
【0089】
別の態様では、生物試料は例えば、血液、乳房滲出物(例えば乳首吸引液)、便懸濁物、痰、粘膜、尿、リンパ液、細胞質ゾル、腹水、胸水、羊水、または膀胱洗浄液の場合がある、癌細胞を含む可能性のある体液である。
【0090】
得られた生物試料は、試料の性質、使用したアッセイ法、および従業者の便宜によって、新鮮な状態、凍結した状態、または固定された状態(例えばパラフィン包埋された状態)で使用することができる。新鮮な材料、凍結した材料、および固定された材料は、さまざまなRNAおよびタンパク質のアッセイ法に適しているが、一般には、活性のエクスビボ測定では、新鮮な組織が好ましい。
【0091】
固定された組織試料を使用することもできる。生検で得られる組織は、一般的には、例えばホルマリン、ホルムアルデヒド、またはグルタルアルデヒドによって、またはアルコールに浸すことで固定することができる。固定後の生物試料は、当技術分野で既知の手順で脱水してパラフィンまたは他の固相支持体中に包埋される場合がある。これについては、Plenat et al., 2001, Ann. Pathol. 21: 29-47を参照されたい。非包埋型の固定組織、および固定後に包埋した組織を本発明の方法に使用することができる。包埋後に固定される組織用の固相支持体を有機溶媒で除去すると、保存された組織の再水和が可能となる。
【0092】
場合によっては、輸送体のレベルに関するアッセイ法は、細胞または組織を培養する段階を含む。培養法は当技術分野で周知である。例えば、生検で得られた細胞を、酵素(コラゲナーゼやヒアルロニダーゼなど)を用いて、および/または物理的に破壊する(例えば25ゲージの針に繰り返し通す)ことでバラバラにして細胞を解離させ、遠心して回収し、望ましい緩衝液、または培養用、迅速な解析用、もしくは後の処理用の培地に再懸濁することができる。
【0093】
4.2.2 タンパク質ベースの検出
本発明の1つの局面では、グルコース輸送体のレベルを、輸送体タンパク質を測定することで決定する。極めて簡便な方法として、これはイムノアッセイ法(ウエスタン解析、フローサイトメトリー、EIA、ELISA、RIA、競合イムノアッセイ法、二重抗体サンドイッチアッセイ法、免疫化学的な方法、免疫細胞化学的な方法、および免疫組織化学的な方法、凝集アッセイ法、ならびに免疫沈降法などがあるが、これらに限定されない方法)で行う。
【0094】
イムノアッセイ法に使用される抗体は容易に入手することができる。グルコース輸送体タンパク質に特異的な抗体(モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体、FabおよびF(ab')2断片、ならびに組換え的に作製された同等物を含む)は、常用の方法で調製することができる。これについては例えば、Harlow and Lane、前記;Kohler and Milstein, 1975, Nature 256: 495を参照されたい。
【0095】
抗体は、精製された輸送体タンパク質、またはこの一部(組織から精製されたものか、または組換え的に発現されたもの)を免疫原として用いて作製できる。あるいは、合成ペプチドまたは合成ポリペプチドの配列を元に、対象抗体を作製または選択することができる。これについては、Huse et al., 1989, Science 246: 1275-81;およびWard et al., 1989, Nature 341: 544-46を参照されたい。一部のアッセイ法に関しては、輸送体(群)の細胞外領域に結合する抗体の使用が好ましい場合があり、またこのような特異性は、抗体の作製または選択時に細胞外エピトープを用いることで得られる。同様に、複数の輸送体上に存在するエピトープ(例えば保存された配列)を認識する抗体を選択することで、多数の輸送体を対象とした同時アッセイ法が可能となる。表1に、抗原の発現または合成に使用可能な、一部の輸送体タンパク質および遺伝子のDNA配列およびタンパク質配列のアクセッション番号を示す。
【0096】
グルコース輸送体に対するモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体は科学文献に記載されており(Bukhard et al., 2004, Oral Oncology, 40: 28-35[抗SGLT1];Hasper et al., 1988, J. Biol. Chem. 263: 398-403[GLUT1のC末端に対応する13アミノ酸のペプチドに対するウサギ抗血清について記載];Rogers et al., 2003, Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab., 282: E733-738[ヒトGLUT12の固有の16残基のC末端アミノ酸に対するウサギポリクローナル抗GLUT12抗体R1396について記載]を参照されたい)、また一般に市販業者から入手可能である[例えば、Research Diagnostics Inc.、Alpha Diagnostics, Inc.、East Acres Biologicals、DAKO, Hamburg, Germany、Chemicon International, Inc.、Temecula, CA](表2を参照されたい)。
【0097】
(表2)例示的な市販の抗体の特徴

【0098】
グルコース輸送体のレベルを検出するためには、さまざまなタンパク質ベースの方法がある。例えば、試料に由来する輸送体タンパク質を、(例えばクロマトグラフィーまたは電気泳動で)精製することが可能であり、または(例えば細胞分画により)濃縮することが可能であり、またウエスタン解析で測定することが可能であり、または上記のような輸送体の精製もしくは濃縮を行うことなく、競合的または非競合的なイムノアッセイ法(ELISAまたは他のサンドイッチアッセイ法など)を行うことができる。さまざまな抗体アッセイ法の手法および段階に関する他の手引きは、例えば

に記載されている。
【0099】
試料中の輸送体の存在を検出および定量するためには、例えばウエスタンブロット(イムノブロット)解析を実施することができる。ウエスタンブロットは、ホモジナイズされた組織試料および体液試料中におけるグルコース輸送体の検出に有用である。ウエスタンブロット法は、試料中のタンパク質レベルを決定する際に当技術分野で常用されている。これについては上述のSambrookの文献を参照されたい。一般に、試料をホモジナイズし、細胞をTriton-Xなどの界面活性剤を用いて溶解する。次に材料をゲル電気泳動で分離し、適切な固相支持体(ニトロセルロースフィルター、ナイロンフィルター、または誘導体化されたナイロンフィルターなど)にトランスファーし、輸送体に特異的に結合する抗体とインキュベートする。このような抗体は、直接標識可能なほか、抗輸送体抗体に特異的に結合する標識抗体(例えば標識されたヒツジ抗マウス抗体)を用いて、後に検出することができる。
【0100】
別の手法では、免疫組織学的な方法、または免疫細胞学的な方法を、グルコース輸送体のレベルを調べるアッセイ法に用いる。組織試料の調製手順は当技術分野で既知であり(例えば、Harlow、前記を参照されたい)、また実施例に記載されている。典型的には、生検で得られた組織を固定し、パラフィンまたは他の固相支持体中に包埋するか、または包埋せずに固相支持体上に配置する。凍結状態の切片を使用することもできる。これについては、Plenat et al., 2001, Ann. Pathol. 21 (1): 29-47を参照されたい。組織切片のさらなる処理を、免疫染色前、免疫染色中、または免疫染色後に実施することができる。例えば、クエン酸緩衝液中で組織試料を加熱するといったエピトープ回収法を実施することができる。これについては例えば、Leong et al., 1996, Appl. Immunohistochem. 4: 201を参照されたい。任意選択のブロッキング段階に続いて、一次抗体が組織試料中のグルコース輸送体に結合するように、組織切片(上述したもの、好ましくは細胞外エピトープに結合するもの)を、一次抗体に十分な時間、また適切な条件で曝露する。これを達成するための適切な条件は、常用の実験法で決定できる。抗体と試料の結合の程度は、直接または間接的に調べることができる。例えば1つの態様では、一次抗体および二次抗体を蛍光標識し、免疫蛍光顕微鏡を用いて結合を検出する。
【0101】
別の方法では、抗グルコース輸送体抗体を、細胞(例えば輸送体を発現する細胞)に直接結合させ、抗体を(例えば、蛍光タグ、または酵素標識した一次抗体を用いて)直接、または(例えば、標識した二次抗体を用いて)間接的に決定する。このような結合アッセイ法の一例は、蛍光活性化細胞解析などのフローサイトメトリーである(例えば、Salih et al., 2000, J. Immunology 165: 2903-10を参照されたい)。最初に腫瘍組織試料をFACS解析に先だって解離させることができる。具体的には、腫瘍を切り出し、緩衝液中で挽く。腫瘍細胞の懸濁物を、酵素(コラゲナーゼやヒアルロニダーゼなど)添加して細胞をバラバラにすることで得る。次に細胞を洗浄用緩衝液で洗浄し、25ゲージの針に数回通す。遠心後に細胞を緩衝液に再懸濁する。ある態様では、フローサイトメトリーの結果を、細胞数と染色強度(例えば輸送体の数)の比、および調査集団の試料と比較時の試料の分布として表す。
【0102】
グルコース輸送体の発現の定量は、アッセイ法に適合する任意の適切な方法で実施することができる。例えばウエスタンブロット解析の場合、バンドの強度をスキャンして定量することができる。腫瘍生検の免疫組織化学的な解析の場合、生検切片を、グルコース輸送体の染色強度に従って数値で評価することができる(例えば、0=染色なし、1=軽度の染色、2=中程度の染色、および3=強度の染色)。いくつかの態様では、膜の染色を細胞質の染色と区別することが可能である。このような態様では、膜の染色を点数で表すことができる。定量法に関しては例えば、Raleigh et al., 2001, "Semiquantitative immunohistochemical analysis for hypoxia in human tumors" Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys., 2001 Feb 1,49 (2): 569-74、およびHatanaka et al., 2001, "Quantitative immunohistochemical evaluation of HER2/neu expression with HercepTestTM in breast carcinoma by image analysis" Pathol. Int. 51: 33-6も参照されたい。
【0103】
上述したように、いくつかの態様では、標準タンパク質(癌の状態に関して比較的変わらないもの)のレベルも評価する。適切な標準タンパク質には、アクチン、チューブリン、およびグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼなどがある。標準タンパク質を使用する場合は、グルコース輸送体のレベルを標準タンパク質のレベルに対して、前者を後者で割ることで「標準化」する。結果として得られた比を、上述の所定の比と比較する。
【0104】
4.2.3 RNAベースの検出
別の態様では、グルコース輸送体のレベルを、輸送体のmRNAのレベルを測定することで決定する。試料中の1種類もしくは複数のグルコース輸送体のメッセンジャーRNAレベルのアッセイ法には、ノーザン解析、定量PCRを含むポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、RNaseプロテクション、インサイチューハイブリダイゼーション、遺伝子発現連続解析法(SAGE)、ディファレンシャルディスプレイ(DD)解析、RNA arbitrarily primed(RAP)-PCR、異なって発現される配列の制限エンドヌクレアーゼ切断解析(READS)、増幅制限酵素断片長多型(AFLP)、全遺伝子発現解析(TOGA)、および、定量多重RT-PCR法[StaRT-(PCR)]における内部標準競合テンプレートプライマー(CT)の使用、高密度cDNAフィルターハイブリダイゼーション(HDFCA)解析、抑制サブトラクティブハイブリダイゼーション(SSH)、ディファレンシャルスクリーニング(DS)、高密度cDNAまたはオリゴヌクレオチドアレイなどがある。総説として、Ahmed, 2002, "Molecular techniques for studying gene expression in carcinogenesis" J. Environ. Sci. Health Part C Environ. Carcinog. Ecotoxicol. Rev. 20: 77-116を参照されたい。また、Lipshutz et al. Nat. Genet. 1999, 21: 20-4;米国特許第5,445,934;5,578,832;5,556,752;および5,510,270号;Schena et al., 1995, Science 270: 467-70(高密度cDNAアレイ);Lynn et al., 1983, Proc. Natl. Acad. Sci. 80: 2656;Zinn et al., 1983, Cell 34: 865;ならびにSambrook and Ausubel、前記(リボヌクレアーゼ保護アッセイ法)も参照されたい。
【0105】
組織からRNAを単離する方法は周知である(例えば、Ausubel、前記;Rapley et al., "RNA Isolation and Characterization Protocols" 1998. Humana Press, Inc. Totowa, New Jersey;Farrell et al., "RNA Methodologies" 1993. Academic Press, Inc. San Diego, Californiaを参照されたい)。増幅用のRNAは、固定された組織切片から、および/またはパラフィン包埋された組織切片から単離することもできる。これについては、

を参照されたい。また、米国特許第6,602,670号、ならびに同明細書および同特許の「参考文献」のセクションに引用された出版物も参照されたい。
【0106】
説明する目的で、1つの態様では、グルコース輸送体のレベルを定量PCRで決定する。定量PCRとは、組織試料由来の細胞中のmRNAの逆転写で得られるcDNAの定量を可能とする方法である。組織試料から得られた細胞中のmRNAは、例えばSambrook、前記、およびAusubel、前記を含む、当技術分野で周知の方法で逆転写することができる。定量PCRは例えば、結果として得られる産物を固体表面上に捕えることを可能とするように修飾されたプライマーを用いる標準的なPCR法でRNAを増幅することで実施する。例えば、5'側または3'側に対応するプライマーを5'末端または3'末端のそれぞれにおいてビオチン化することで、結果として得られる産物を、アビジンで被覆されたマイクロプレート上に捕捉することができる。次に、固体表面に結合した状態の産物を、例えば、定量可能な標識を有するオリゴヌクレオチドプローブとハイブリダイズさせることで定量する。「定量可能な標識」は例えば、放射性の原子または原子団の場合がある。次に輸送体のmRNAの発現レベルを、試料中の放射能のレベルを決定することで評価する。あるいは「定量可能な標識」は、ジゴキシゲニンなどの官能基(または官能基を有する部分)である。このような態様では、PCR産物を、(1)アルカリホスファターゼを結合させた抗ジゴキシゲニン抗体、および(2)アルカリホスファターゼ用の比色基質を添加した後に、吸光光度法を行うことで定量する。この得られた結果を任意で、cDNAの標準曲線に関して標準化することができる。
【0107】
さまざまな、いわゆる「リアルタイム増幅」法、または「リアルタイム定量PCR」法も、試料中に存在するグルコース輸送体のmRNA量を決定するために用いられる。このような方法では、増幅過程中に生成した増幅産物の量を測定する。蛍光発生的なヌクレアーゼアッセイ法は、グルコース輸送体の転写物の検出および定量に使用可能なリアルタイム定量法の特殊な例の1つである。一般に、二重標識された蛍光発生性のオリゴヌクレオチドプローブを用いて、PCR産物の蓄積を連続的に測定する(このアッセイ法は単に「TaqMan」法と文献で呼ばれることの多い方法である)。このようなアッセイ法で使用されるプローブは典型的には、2種類の異なる蛍光色素で標識される短い(約20〜25塩基の)ポリヌクレオチドである。プローブの5'末端には典型的には、レポーター色素を結合させ、また3'末端には、クエンチング色素を結合させるが、これらの色素をプローブ上の他の位置に結合させることもできる。グルコース輸送体の転写物を測定する際には、プローブの設計は、グルコース輸送体の転写物上のプローブ結合部位に対して、少なくとも実質的な配列相補性を有するように行う。グルコース輸送体のコード鎖に隣接する領域に結合する上流および下流のPCRプライマーも、グルコース輸送体のポリヌクレオチドの増幅に使用するために反応混合物に添加する。プローブが完全な場合、2つのフルオロフォア間でエネルギー移動が生じ、クエンチャーがレポーターからの発光を消失させる。PCRのプライマー伸長相では、プローブがTaqポリメラーゼなどの核酸ポリメラーゼの5'ヌクレアーゼ活性によって切断されることで、ポリヌクレオチド-クエンチャー複合体からレポーター色素が放出され、結果的にレポーターの発光強度が高まり、これが適切な検出系で測定可能となる。
【0108】
1つの態様では、インサイチューハイブリダイゼーションで、試料中のグルコース輸送体の配列を検出する。インサイチューハイブリダイゼーションアッセイ法は当技術分野で周知であり、またAngerer et al., METHODS ENZYMOL. 152: 649-660 (1987)に概説されている。例えばインサイチューハイブリダイゼーションは、Ruglowski et al., 2003, Am. J. Clin. Pathol. 120: 691-698に記載された手順で実施できる。パラフィン包埋された組織試料を使用することができる。簡単に説明すると、スライドをプロテイナーゼKおよびアセチル化剤で事前に処理し、グルコース輸送体のRNAの33P標識されたセンスおよびアンチセンスのcRNAリボプローブとインキュベートする。インキュベーション後にスライドを洗浄用緩衝液で洗浄し、RNase Aで切断し、再び洗浄し、脱水処理を行う。脱水後に、スライドを銀エマルジョンで被覆し、一定時間(例えば8〜10日間)曝露する。銀染色の強度は、当技術分野で既知の方法(例えば暗視野顕微鏡)で調べることができる。デジタル化された画像を調べることもできる。インサイチューハイブリダイゼーション法は、Harris, 1996, Anal. Biochem. 243: 249-256;Singer et al., 1986, Biotechniques 4: 230-250;Haase et al., 1984, METHODS IN VIROLOGY, vol. VII, pp. 189-226;およびNUCLEIC ACID HYBRIDIZATION: A PRACTICAL APPROACH (Hames et al., eds., 1987)にも記載されている。
【0109】
グルコース輸送体の発現の定量は、アッセイ法に適合した任意の方法で実施することができる。
【0110】
グルコース輸送体タンパク質のRNAの検出に有用なプローブおよびプライマーは入手が容易であり、またグルコース輸送体のヌクレオチド配列に基づく常用の方法で調製することができる。増幅ベースの検出に有用なプライマーは、標的配列(検出対象の配列)に関する知識を元に容易に設計することができる。一部のアッセイ法に特に適切なプライマーはTMが60℃に近く、長さが100〜600 bp[これはプライマー長よりプローブ長についてよくあてはまる]であり、また増幅対象領域に特異的である(増幅対象領域は、例えばOligo 6などのソフトウェア(Molecular Biology Insights, Inc.; http://www.oligo.net)を用いて、GenBankのBLAST解析および順方向のプライマーで決定することができる)。好ましくはプライマーは、イントロン/エキソンのスプライス部位に対応するすることで、望ましいRNA/cDNAの増幅を、混入するゲノムDNAの増幅から容易に分けることができる。それ自体で二重鎖を形成しないように、または増幅に使用されるプライマー対の他のプライマー(存在する場合)と二重鎖を形成しないようにプライマーを選択すべきであることは周知である。プローブおよびプライマーは文献に記載されている。これについては例えば、

を参照されたい。他の多くのプライマーおよびプローブが科学文献に記載されている。説明する目的で制限する意図のない他のプローブおよびプライマーを表3に示す。他のプローブを常用の方法で作製することが可能であり、例えば表3に記載されたプライマーを用いて増幅することができる。
【0111】
(表3)



【0112】
4.2.4 機能アッセイ法
1つの態様では、グルコース輸送体のレベルを、グルコース輸送体の活性(例えば、インビトロまたはインビボにおけるグルコースまたはグルコース類似体の取り込み)を測定することで決定する。例えば、グルコース輸送体の活性は、グルコース取り込みアッセイ法でインビトロで測定することができる。グルコース取り込みアッセイ法は当技術分野で既知である(例えば、Gnudi et al., 1997, Mol. Endocrinol. 11: 67-76を参照されたい;PCT国際公開公報第03/082301号も参照されたい)。説明する目的で制限する意図のない1つのバージョンでは、標識されたヘキソースの取り込みをグルコース取り込みアッセイ法で測定する。細胞は、腫瘍組織試料を上述の手順でバラバラにすることで得られる。任意で細胞を培養し、また任意でコンフルエントになるまで継代培養した後に、剥がして再懸濁する。次に細胞を、サイトカラシンB(GLUT用)、またはフロリジン(SGLT用)の存在下または非存在下で、放射標識された(例えば14C標識または3H標識された)グルコースまたはグルコース類似体(2-デオキシグルコースなど)とともにインキュベートする。インキュベーション後に細胞を洗浄して放射能を解析する。サイトカラシンBは、クラスIおよびクラスIIIのグルコース輸送体を阻害するので、このような輸送体の活性の評価に有用である。フロリジンはSGLTを阻害するので、このような輸送体の活性の評価に有用である。
【0113】
いくつかの態様では、SGLTのレベルを測定し、グルコース類似体α-メチル-D-グルコシド(α-MDG)を使用する。α-MDGはナトリウム依存的に輸送される場合があり、見かけ上の親和性定数(K0.5)は、0.4 mM(SGLT1)、および2 mM(SGLT2およびSGLT3)である。いくつかの態様では、グルコース類似体は、1つもしくは少数の特異的なグルコース輸送体によってのみ輸送されるので、グルコーストレーサーの取り込みは、このようなグルコース輸送体の発現レベルと直接相関する。例えば、子宮頚癌細胞によるグルコースの取り込みの上昇は、GLUT1の排他的な膜貫通部分の過剰発現と関連することが報告されている。したがって、グルコース取り込みアッセイ法におけるグルコースの取り込みの上昇は、GLUT1の発現の増加を意味する。
【0114】
いくつかの態様では、グルコース類似体は複数のグルコース輸送体によって輸送される。したがって、グルコースの総取り込み量は、細胞が発現するグルコース輸送体の全体的なレベルと相関することになる。
【0115】
グルコース輸送体の発現レベルを評価する別のアッセイ法がサイトカラシンB結合アッセイ法である(Ogura et al., 1999, J. Endocrinology, 160: 443-452;Ozaki et al., 1996, Mech Ageing Dev. 88: 149-158;およびGorga & Lienhard, 1981, Biochem. 20: 5108-13を参照されたい)。簡単に説明すると、組織試料または細胞試料から膜抽出物を調製し、放射標識された(3H標識など)サイトカラシンBと混合する。反応終了時に、膜に結合した状態の、また遊離のサイトカラシンBを、(例えば濾過または遠心によって)分離する。膜部分を対象に放射能をカウントする。サイトカラシンB結合のレベルはGLUTのレベルと相関する。
【0116】
別の態様では、グルコースの取り込みをインビボで測定することで、グルコース輸送体のレベルを決定する。グルコース輸送体の発現とグルコースの取り込み間の相関が、この方法では確認される。例えば、Kato et al., 2003, Anti-Cancer Res. 23: 3263-72では、18-F-フルオロデオキシグルコースの蓄積とGLUT1の発現が食道扁平上皮癌において相関することが報告されている。グルコース取り込みアッセイ法は当技術分野で既知である。これについては例えば、Reske et al., 1997, J. Nucl. Med., 38: 1344-48を参照されたい。一般に、グルコースの取り込みは、2-フルオロデオキシグルコース(2-FDG)、2-デオキシグルコース(2-DG)、および3-O-メチルグルコースなどの代謝されないグルコース類似体で評価される。グルコース輸送体の活性は例えば、蛍光標識されたグルコース類似体を用いるポジトロン放出断層撮影で決定することができる。
【0117】
5.抗悪性腫瘍剤の選択
特定の抗悪性腫瘍剤は、特定のグルコース輸送体によって選択的に輸送される。例えば、薬剤ストレプトゾトシンはGLUT2輸送体によって膵臓癌細胞中に輸送される。癌組織中で高レベルのGLUT2輸送体が検出されることは、本発明の方法によって、腫瘍がストレプトゾトシンによる治療に感受性があることを推測するための基礎となる。一般に、特定の輸送体のレベルが高くなればなるほど、特定の輸送体によって輸送される抗悪性腫瘍剤による治療に対する腫瘍の感受性は高くなる。
【0118】
したがって、いくつかの態様では、グルコース輸送体の量を決定後に、治療用の抗悪性腫瘍剤を選択する。グルコース輸送体のレベルが所定の量より大きいことが明らかになれば、癌が特定の抗悪性腫瘍剤による治療に感受性があるという判定が下される。抗悪性腫瘍剤の選択は、統計解析、またはグルコース輸送体の基質特異性を含むがこれらに限定されない、いくつかの要素に基づく場合がある。
【0119】
いくつかの態様では、グルコース輸送体は、特定の抗悪性腫瘍剤を特異的に輸送することが知られている。次に、より多くのグルコース輸送体と、抗悪性腫瘍剤に対する感受性との間に相関があることが直ちにわかる。例えば、グルフォスファミド(glufosfamide)としても知られるグルコホスファミドは、SGLT1によって輸送されることが報告されている。本発明の方法において、所定の量より多いSGLT1が存在することは、癌がグルコホスファミドによる治療に感受性があることを意味する。別の態様では、グルコース輸送体は、特定のクラスの抗悪性腫瘍剤を輸送することが知られている。例えばGLUT2は、2位が修飾されていないグルコース類似体を輸送することが知られている。
【0120】
いくつかの態様では、抗悪性腫瘍剤を事前に選択し、同薬剤が基質であるグルコース輸送体のレベルを決定し、患者が、そのような治療に感受性のある種類の癌であるか否かを確認する。患者に由来する癌試料が基準値より高いグルコース輸送体のレベルを示す場合、患者は、該当する抗悪性腫瘍剤によって治療されることになる。
【0121】
薬剤は、(後述するように)当技術分野で周知の方法で、特定の輸送体の基質として同定することができる。または、輸送体のレベルと、薬剤に対する感受性との間の相関は、薬剤が有効であることが証明されている患者の集団を見極め、どの輸送体が発現しているかを決定することで確認できる。次に特定の患者のレベルまたは発現プロファイルを、治療が有効であることが証明されている集団の標準プロファイルと比較することができる。
【0122】
さまざまな基質アッセイ法を使用することができる。例えば、初代培養細胞、またはツメガエルの卵母細胞を対象に実施されるヘキソースの取り込みおよび競合アッセイ法は、グルコース輸送体が特定の基質を輸送するか否かの判定に常用されている。これについては例えば、Garcia et al., 2003, J Neurochemistry, 86: 709;Burant et al., J. Biol. Chem., 1992, 267: 14523-6;およびVeyhl et al., 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95: 2914-29を参照されたい。グルコース輸送体に由来するセンスのcRNAは、Veyhl et al.に記載された手順で調製し、濾胞除去されたツメガエルの卵母細胞に注入することができる。この卵母細胞を、検討対象となる、さまざまな放射標識された(14Cや3Hなどの)グルコースまたはグルコース類似体を含む、サイトカラシンB(GLUT用)またはフロリジン(SGLT用)の存在下または非存在下でインキュベートする。インキュベーション後に、卵母細胞中の放射能を解析することができる。SGLTに関しては、グルコースまたはグルコース類似体の取り込みの電気特性を、2マイクロ電極電位固定法で解析することができる。
【0123】
他のアッセイ法では、特定のグルコース輸送体を発現することが知られている、ヒトの癌細胞などの初代細胞を対象に行う。細胞を成長させ、コンフルエントになるまで継体培養し、剥がして再懸濁する。次にこの細胞を、サイトカラシンB(GLUT用)、またはフロリジン(SGLT用)の存在下または非存在下で、検討対象となる多様な放射標識された(例えば14C標識または3H標識された)グルコースまたはグルコース類似体とともにインキュベートする。インキュベーション後に細胞を洗浄し、放射能について解析を行う。
【0124】
本発明の関連する局面では、インビトロ活性アッセイ法で、特定の抗悪性腫瘍剤に対する特定の腫瘍(または腫瘍の種類)の感受性を判定する。この方法では、腫瘍に由来する細胞を抗悪性腫瘍剤と、薬剤をヒト患者に投与時の推定インビボ濃度を含む、さまざまな濃度でインキュベートする。一定の間隔(例えば10分間、30分間、1時間、および3時間のいずれか)の経過後に、細胞の成長および生存能に対する薬剤の作用を決定し、薬剤を添加しなかった対照、および/または異なる抗悪性腫瘍剤、もしくは異なる抗癌剤を添加した対照と比較する。対照と比較時に、細胞の成長の低下(例えば、細胞数またはDNA量などの代理指標の測定により評価)、または生存能の低下(例えば、培養物中におけるアポトーシスのモニタリングにより評価)が認められれば、腫瘍が薬剤に感受性があることがわかる。1つの態様では、複数の(例えば、少なくとも2種類、少なくとも3種類、少なくとも4種類、少なくとも5種類、または少なくとも10種類の)異なる薬剤のパネルを、この方法でスクリーニングして、患者への投与に最も有望な候補を見極める。
【0125】
6.多数の輸送体を含む、輸送体のレベルを測定するための装置および方法
グルコース輸送体のレベルを決定するいくつかの方法について説明する。また他の方法は、本開示を考慮することで当業者に明らかとなる。本発明のいくつかの態様では、このようなアッセイ法の1つのみをグルコース輸送体のレベルの決定に用いる。他の態様では、2つまたはこれ以上の方法を組み合わせることでグルコース輸送体のレベルを決定する。例えば、免疫組織化学的アッセイ法によってグルコース輸送体の高い発現レベルが示される試料は、さらに処理を行うことで、タンパク質のレベルをウエスタンブロットアッセイ法によって定量することができる(従業者が関連情報を利用可能な場合)。同様に、高いグルコースの取り込みを示す試料を、グルコース輸送体のタンパク質またはmRNAのレベルに関して、さらに検討することができる。
【0126】
いくつかの態様では、1種類のグルコース輸送体のみの発現レベルを測定する。他の態様では、2種類またはこれ以上のグルコース輸送体の発現レベルを測定する。2種類またはこれ以上のグルコース輸送体の測定は、連続的または同時に実施することができる。
【0127】
いくつかの態様では、複数のグルコース輸送体の発現を測定する。これは、同じ組織において複数のグルコース輸送体が発現される場合に特に重要である。従業者は、(1)組織を対象に複数の輸送体を調べることで、どの輸送体が基準値より高いレベルで発現されるのかを決定すること;(2)どの薬剤がどの輸送体によって輸送されるかという知見を元に抗悪性腫瘍剤を選択することができる。
【0128】
例えば、GLUT1、GLUT4、GLUT5、GLUT8、GLUT12、およびHMITを含む複数のグルコース輸送体は、いずれも脂肪細胞で発現されることがわかっている。複数のグルコース輸送体の検出は、複数のグルコース輸送体の検出または測定を可能とする方法で、連続的または同時に実施することができる。
【0129】
複数のタンパク質の発現レベルを同時に測定する方法は当技術分野で既知であり、説明する目的でのみ、本明細書でさらに説明する。例えばマイクロアレイ解析は、複数の輸送体のタンパク質またはRNAのレベルの決定を含む、RNAおよびタンパク質の両レベルに応用することができる。
【0130】
細胞または組織で発現される複数のRNA分子種のレベルを測定する方法は周知であり、高密度ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドアレイ(Lipshutz et al., Nat. Genet., 1999, 21: 20-4;米国特許第5,445,934;5,578,832;5,556,752;および5,510,270号)、高密度cDNAアレイ(例えば、Schena et al., 1995, Science 270: 467-7を参照されたい)、ドットブロット、およびスロットブロット、ディップスティック、ピン、チップ、またはビーズが含まれる。いずれの手法および装置も当技術分野で周知であり、また多くの市販の診断キットの基礎となっている。これらの手法は、本出願を手引きとすることで、グルコース輸送体のレベルの測定に容易に応用可能である。
【0131】
いくつかの態様では、グルコース輸送体(群)のレベルをタンパク質アレイを用いて決定する。「タンパク質アレイ」は、個々の架橋試薬と個々の標的タンパク質間の独立した相互作用を可能とする、固相支持体上のさまざまな位置に固定された、さまざまな架橋試薬を含む。架橋試薬は、標的タンパク質に選択的に結合する任意の分子(抗体、組換えタンパク質、および低分子量化合物など)の場合がある。タンパク質アレイを用いて、試料中の特定のタンパク質の量を決定することができる。これについては、Von Eggeling et al., 2000, BioTechniques 29: 1066-70;Haab, Proteomics, 3: 2116-22;Wiesner, 2003, J. Lab. Medicine 27: 85-91;Kodadek, 2002, Trends Biochem. Sci. 27: 295-300を参照されたい。
【0132】
本発明のいくつかの態様では、唯一または少数のグルコース輸送体のレベルを測定する。場合によっては例えば、患者の癌が、ある程度の頻度で特定のグルコース輸送体の過剰発現と関連することが既にわかっている。例えばGLUT1の過剰発現は、膀胱癌、乳癌、子宮頚癌、結腸直腸癌、食道癌、胃癌、頭頚部癌、平滑筋肉腫、卵巣癌、および甲状腺癌と関連することが報告されている。したがって、本発明の1つの態様では、膀胱癌、乳癌、子宮頚癌、結腸直腸癌、食道癌、胃癌、頭頚部癌、平滑筋肉腫、卵巣癌、または甲状腺癌の被験者に由来する癌試料中のGLUT1のレベルを決定する。
【0133】
GLUT2の過剰発現は、膵臓癌または胃癌と関連することが報告されている。したがって、本発明の1つの態様では、膵臓癌または胃癌である被験者に由来する癌試料中のGLUT2のレベルを決定する。1つの態様では、癌は膵臓癌であり、また癌試料中のGLUT2のレベルを測定し、またストレプトゾトシン、グルコホスファミド、およびgluSNAP化合物からなる群より選択される抗癌剤を選択する。
【0134】
GLUT3の過剰発現は、脳腫瘍または肺癌と関連することが報告されている。したがって、本発明の1つの態様では、脳腫瘍または肺癌である被験者に由来する癌試料中のGLUT3のレベルを決定する。
【0135】
いくつかの態様では、癌とグルコース輸送体の過剰発現との間の相関は不明である。このような態様では、グルコース輸送体と、さまざまな種類の癌との間の相関は、選択されたグルコース輸送体のレベルが患者で決定される前に、発現プロファイリングなどの方法で最初に確認される。あるいは、癌試料中の輸送体の総レベルを単純に測定し、対象薬剤の投与に関して選択された要求量による総レベルが標準レベルを超える場合に、薬剤を投与してもよい。
【0136】
7.キットおよび装置
1つの局面では、本発明は、患者の腫瘍をスクリーニングして、特定の抗悪性腫瘍剤に対する感受性を判定するためのキットおよび装置を提供する。
【0137】
本発明のキットは、グルコース輸送体の遺伝子産物を検出または増幅するためのプローブおよび/またはプライマーなどの、1種類もしくは複数のグルコース輸送体遺伝子の発現を評価するための試薬を含む。1つの態様では、プローブは、グルコース輸送体の遺伝子から転写される1種類もしくは複数のポリヌクレオチドに特異的に結合する核酸プローブまたはプライマーである。1つの態様では、キットは、1種類または複数(少なくとも2種類、好ましくは3種類、しばしば4種類、ときに5種類、またはこれ以上)の異なるヒトグルコース輸送体に特異的な抗体を含む。本発明のキットは、細胞の解離、または細胞からのタンパク質もしくは核酸の単離に用いられる装置などの、本発明の方法を実施する際に有用な追加の成分を任意で含む場合がある。またキットは、本明細書に記載された、所定値および/または基準値と比較するための較正曲線、標準試料(またはタンパク質もしくは核酸)、および/または基準値を(例えば表のフォーマットで)含む場合がある。
【0138】
本発明は、ヒトの組織試料または体液試料中のグルコース輸送体のレベルまたは量を決定するためのキットも提供する。1つの態様では、キットは、本発明の方法に使用される、診断目的のスクリーニング用の試薬および指示書を含む。
【0139】
本発明は、本発明のスクリーニング法に有用な装置も提供する。1つの局面では、1種類または複数のグルコース輸送体の遺伝子産物(ポリヌクレオチドまたはタンパク質)に特異的な、固定されたプローブ(群)を含む装置を提供する。このようなプローブは、ポリヌクレオチド(例えばハイブリダイゼーションに基づく)、ポリペプチド、またはポリペプチドを発現する細胞に結合可能である。
【0140】
いくつかの態様では、1種類の固定されたプローブを含む装置をスクリーニングに用いる。1つの態様では、複数(少なくとも2種類、通常は少なくとも4種類またはこれ以上)の異なるプローブが固定されたアレイフォーマットを用いる。「アレイ」という表現は一般的な意味で用いられ、また基材上に固定された個々の複数のプローブが、基材上に特定の位置(アドレス)を有することを意味する。アレイ上のプローブの数は、装置の性質および用途に応じて変動する場合がある。例えば、グルコース輸送体を検出するためのディップスティックフォーマットアレイは、わずか1種類のプローブを有する場合があるが、通常は少なくとも2種類、または2種類以上の異なるプローブが存在する。
【0141】
オリゴヌクレオチドアレイ、cDNAアレイ、ディップスティック、ピン、チップ、またはビーズ、サザンブロット、ノーザンブロット、ドットブロット、およびスロットブロットを含む、さまざまな結合およびハイブリダイゼーションのフォーマットが知られている。したがって本発明では、固体基材上に固定されたグルコース輸送体の遺伝子産物に対応したプローブを含む装置を提供する。ガラス(例えば、ガラススライド)、プラスチック(例えば、ポリプロピレン、ナイロン)、ポリアクリルアミド、ニトロセルロース、または他の材料から作製可能な、任意のさまざまな固相支持体を使用することができる。核酸を表面に結合させる1つの方法では、Schena et al., 1995, Science 270: 467-470;Shalon et al., 1996, Genome Res. 6: 639-645に概説された手順でガラスプレート上にプリントする。マイクロアレイを作製する別の方法では、高密度のオリゴヌクレオチドアレイを作製する。これについては、Fodor et al., 1991, Science 251: 767-73;Lockhart et al., 1996, Nature Biotech 14: 1675;および米国特許第5,578,832;5,556,752;および5,510,270号を参照されたい。
【0142】
アレイは、グルコース輸送体に対するプローブを含むことが知られているが(例えば、ゲノムの実質的な部分のプローブを含むアレイ)、本発明の装置は、グルコース輸送体の測定に関する。したがって、いくつかの態様では、装置またはアレイ上に固定されたプローブの少なくとも約10%、また時には少なくとも約25%、少なくとも約50%、または少なくとも約75%が、グルコース輸送体の遺伝子産物に特異的に結合する(例えば、ハイブリダイズする)。1つの態様では、基材は、約100種類未満の異なるプローブ、約50種類未満の異なるプローブ、約10種類未満の異なるプローブ、約5種類未満の異なるプローブ、または約3種類未満の異なるプローブを含む。この文脈で用いられるように、プローブと第2のプローブは、この2種類のプローブが同じポリペプチドまたはポリヌクレオチドと特異的に結合しない場合に「異なる」(異なる遺伝子に対応するcDNAプローブなど)。
【0143】
1つの態様では、グルコース輸送体タンパク質に特異的に結合するモノクローナル抗体または他の特異的な結合タンパク質(例えば抗体の誘導体や断片)から、または、このようなタンパク質を発現する細胞からプローブを選択する。ポリペプチドに対するプローブは、アレイフォーマットに、例えばマルチウェルプレート上にELISAフォーマットで固定することもできる。
【0144】
8.実施例
本発明について、以上のセクションで詳述した。本発明の局面について、以下の実施例で説明する。個々の場合において、癌試料に関して決定されたグルコース輸送体のレベルを基準値と比較することで、腫瘍が、グルコース成分を含む抗悪性腫瘍剤による治療に感受性があるか否かを判定する。
【0145】
実施例1
膵臓の腫瘍におけるGLUT2のレベルを対象としたウエスタンアッセイ法
この実施例では、膵臓癌患者に由来する試料中のGLUT2のレベルを決定するための、抗体ベースのグルコース輸送体アッセイ法について説明する。
【0146】
ヒトの膵島細胞癌またはカルチノイド腫瘍の癌組織を、膵臓癌の治療目的の手術を受けた患者から得る。手術室で、切除後の組織を容器に移し、容器に必要事項を記入し、病理部門へ送る。腫瘍の病理学的特徴を評価し、また試料が腫瘍細胞を含むことを確認する病理学的評価後に、腫瘍の一部を、必要事項が記入された容器に移し、ドライアイスで冷凍した状態で実験室へ送る(使用時まで-70℃で保存する)。場合によっては、針吸引生検によって腫瘍の存在および特徴を評価する。以下に述べる全段階を個々の種類の試料に適用する。
【0147】
凍結状態の試料を秤量し、Thermovac組織粉砕機でドライアイス上で粉砕し、組織粉末を清浄なチューブに移す。この組織粉末を、緩衝液(50 mM Tris-HCl-ナトリウムエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、1% Triton X-100、10%グリセロール、10 mMモリブデン酸ナトリウム、10 mMモノチオグリセロール、10 μg/mlアプロチニン、10 μg/mlロイペプチン、0.5 mMフッ化フェニルメチルスルホニル、および10 μg/ml pepstanin)中でPolytroneを用いて、組織試料の大きさに応じて適切なプローブを用いてホモジナイズする。ホモジナイズ処理は、30秒間のバーストと、バースト間に1分間の冷却をはさんで0〜4℃で行う。組織ホモジネートを遠心(10,000 g、10分間)し、核画分および細胞片を細胞質/膜可溶性画分と分離する。結果として得られたペレットを捨て、GLUT2を含む、ほとんどが細胞質および膜結合状態のタンパク質を含む上清を除去して、検討時まで凍結保存する。
【0148】
分離用ゲル(10%)は、20 mlのビスアクリルアミド(30%〜0.8% wt/vol)、7.5 mlの3 M Tris-HCl、pH 8.8、31.56 mlのddH2O、および0.6 mlの10% SDSを混合して作製し、結果として得られた混合物を30分間かけて脱気する。TEMED(35 μl)を添加し、混合物を再び30分間かけて脱気する。過硫酸アンモニウム(APS)(10%溶液を0.33 ml)を添加し、混合物を、60 ccのシリンジを用いて直ちにゲル装置へ注ぐ。1-ブタノール(1 ml)を、乾燥を防ぐために分離用ゲルの最上層に重層し、1時間かけてゲルを重合させる。ブタノール層を、水で洗浄して除去し、直ちにスタッキングゲル(後述)に注ぐ。
【0149】
スタッキングゲルは、3.75 mlのビスアクリルアミド(30%〜8% wt/vol)、1.875 mlの2 M Tris-HCl、pH 6.8、24 mlのddH2O、および0.3 mlの10% SDSを含む。このゲル混合物を調製後、30分間かけて脱気する。TEMED(25:1)を混合物に添加し、この混合物を再び30分間かけて脱気する。過硫酸アンモニウム(0.3 ml;10%)を添加し、スタッキングゲルをゲル装置に注ぎ、コームを適切に差し込む。スタッキングゲルを1時間かけて重合させる。コームを外し、電極用緩衝液(25 mM Tris、192 mMグリシン、4 mMドデシル硫酸ナトリウム、pH 8.3)をゲルホルダーに添加する。分離対象のタンパク質試料を、5X試料用緩衝液(2 g SDS、1.0 mlのTriton X-100、3.126 mlの2 M Tris-HCl、10.8 mlのddH2O;最終容量を20 ml、pH 6.8に調節後、100 mgのブロモフェノールブルー、1.0 mlのメルカプトエタノール、および4 mlのグリセロール)と混合して最終濃度を1Xとし、ゲル内のウェル中に重層する。分子量(MW)マーカー(BioRad)をゲル中に含めることができる(10 μlのMWマーカーを0.150 mlの1X試料緩衝液に添加)。この試料をゲルに重層し、室温で12〜17時間、電気泳動を行う(17 mA、500 V)。
【0150】
ゲルを装置から外し、トランスファー用緩衝液(20%メタノール、192 mMグリシン、および20 mM Tris、pH 8.3)を満たしたBioRad社製のTrans-Blot装置内に据える。ゲル中のタンパク質をニトロセルロース膜に、振盪しながら0〜4℃で3時間かけてトランスファーする(0.36 A、100 V)。ニトロセルロース膜を2枚のフィルターペーパーに挟んで室温で保存するか、または直ちにウエスタンブロット解析に使用する。
【0151】
ニトロセルロース膜上の非特異的なタンパク質結合部位を、緩衝液TBST/5%無脂肪乳(10 mM Tris、150 mM塩化ナトリウム(pH 8.0に調節済み)に続いて0.5% Tween 20を添加)中で、室温で1時間かけてシェイカー上でインキュベートすることでブロックする。次に膜をTBSTで洗浄し、望ましい希釈率(1:1000または1:2000、溶媒はTBST/5%乳)の一次抗GLUT2抗体を添加する。抗体-抗原間の相互作用を、室温で1時間、軽く振盪しながら進める。次に、この膜をTBSTで3回(各5分間)洗浄し、非結合状態の一次抗体を除去する。
【0152】
二次抗体(免疫学的に純粋な、ペルオキシダーゼ結合ヤギ抗ウサギIgG)を、ニトロセルロース膜に添加する(希釈率1:50,000、溶媒TBST/乳)。インキュベーションは、室温で40分間、軽く浸透しながら行う。次に、TBSTで膜を4回(各5分間)洗浄する。次に膜を、一部については安定な過酸化物溶液で、また一部はルミノール/エンハンサー溶液で、製造業者(Pierce)の指示に従って3〜5分間インキュベートする。膜をサランラップに包んでカセット内に据える。暗室で、X線フィルムを膜上にかぶせて1〜30秒間待つ。フィルムを現像してバンドを可視化し、定量を行う。試料中のGLUT2タンパク質のレベルを、腫瘍重量あたりの単位に規格化し、基準値と比較することで、グルコース成分を含む抗悪性腫瘍剤による治療に腫瘍が感受性をもつか否かを判定する。
【0153】
実施例2
膵臓癌中のGLUT2タンパク質のレベルを対象とする免疫組織化学的アッセイ法
以下に紹介する、説明目的の方法では、以下の緩衝液および溶液を使用する:リン酸緩衝食塩水(PBS):5 mM Na2PO4、0.9 mM KH2PO4、72 mM NaCl、1.6 mM KCl、pH 7.4;PBS/Triton X-100:PBS+Triton X-100(希釈率1:500);ならびにクエン酸緩衝液:18 mlの0.1 Mクエン酸および82 mlの0.1 Mクエン酸ナトリウム。
【0154】
膵臓癌の組織試料を実施例1に記載された手順で得る。5ミクロンの切片を切り出し、シラン処理したスライド上にマウントする。このスライドを一晩かけて乾燥させる。スライドを45分間〜1時間、65℃で加熱後、脱パラフィン化してキシレンで3回(各5分間)、100%エタノールで2回(各3分間)、および95%エタノールで2回(各2分間)、再水和する。スライドを45 mlのメタノールおよび5 mlの30%過酸化水素中で20分間インキュベートすることで、内因性のペルオキシダーゼの作用をブロックする。スライドをPBS/Triton X-100で2回(各2分間)洗浄する。
【0155】
スライドを浸したガラスホルダーにクエン酸緩衝液を添加し、電子レンジで15分間、加熱し、次に出力50%で5分間、また続いて出力50%で再び5分間加熱することで抗原を回収する。次にスライドを約30分間かけて室温に冷却した後に、PBS/Triton X-100で2回(各2分間)洗浄する。一次GLUT2抗体を、適切な希釈率で各スライドに添加し(PBSで希釈、各スライドに200 μl)、37℃で1時間、湿潤チャンバー内でインキュベートする。このスライドを、PBS 5% Triton X-100で2回(各2分間)洗浄する。ビオチン化された二次抗体を、室温で30分間かけてスライドにアプライする。スライドをPBS 5% Triton X-100で洗浄する。
【0156】
次にストレプトアビジンを、室温で30分間かけて湿潤チャンバー内でアプライし、スライドをPBS 5% Triton X-100で洗浄する。色素原(2.5 ml PBS、3,3'ジアミノベンジジンテトラヒドロクロライド(DAB)のタブレットの1/4、および2滴の0.8%過酸化水素)を添加し、スライドを室温で10分間、湿潤チャンバー内でインキュベートする。次にスライドをddH2Oで5分間洗浄し、ヘマトキシリン(Gill's Hematoxylin)で1分間かけて対比染色し、流水で清澄になるまで洗浄する。細胞質を0.25%酸アルコール(3回の浸漬)で透明化する。次に、流水を穏やかにかけながらスライドを洗浄し、1%アンモニア水で10秒間、分別後に流水で洗浄する。次にスライドを、95%エタノールで2回(各8〜10回の浸漬)、100%エタノールで2回(各8〜10回の浸漬)、およびキシレンで3回(各10〜15回の浸漬)、インキュベートすることで脱水し、光学顕微鏡で可視化するためにパーマウント(Permount)を用いてカバースリップをかぶせる。スライドの写真は、Kodak Ectochrome speed 100フィルムで撮影して、染色の程度を決定することができる。
【0157】
実施例3
GLUT1を対象とした免疫組織化学的アッセイ法
この実施例では、腫瘍標本中のGLUT1タンパク質のレベルの決定に有用な、抗体ベースの免疫組織化学的なグルコース輸送体アッセイ法について説明する。
【0158】
癌患者の治療の過程で、外科的切除または腫瘍生検によって、常用の手順で組織標本を単離する。単離直後に、組織標本を、必要事項が記入された容器内に収め、病理部門へ送る。腫瘍の病理学的特徴を評価し、また試料が腫瘍細胞を含むことを確認する病理学的評価後に、組織標本の一部を、必要事項が記入された容器内にドライアイスとともに収め、実験室へ送る。
【0159】
標本を直ちに10%ホルマリン溶液に浸し、標準的な方法で、パラフィン包埋組織ブロックとして処理する。少なくとも連続した3枚の切片(厚みは各4ミクロン)を、クリオスタットを用いてパラフィン包埋固定組織ブロックから切り出し、Vectabondで被覆したスライド(Vector Laboratories, Burlingame, CA)上にマウントする。スライドを一晩かけて乾燥後に、56℃で30分間加熱し、脱パラフィン化してキシレンで3回(各5分間)、100%エタノールで2回(各3分間)、および95%エタノールで2回(各2分間)処理して、再水和する。
【0160】
スライドを0.3%過酸化水素(溶媒はメタノール)で20分間インキュベートすることで、内因性のペルオキシダーゼの作用をブロックする。スライドをPBS(5 mM Na2PO4、0.9 mM KH2PO4、72 mM NaCl、1.6 mM KCl、pH 7.4)で2回(各2分間)洗浄する。
【0161】
スライドを、10 mMクエン酸緩衝液、pH 6.0中で3サイクル(各5分間)、電子レンジで加熱することで、抗原の回収を行う。次にスライドを室温(22℃)に約30分間かけて冷却した後に、PBSで2回(各2分間)洗浄する。非特異的なタンパク質結合をブロックするために、スライドを2%正常ヤギ血清(溶媒1% BSA(溶媒PBS))に室温で30分間浸す。
【0162】
一次抗ヒトGLUT1抗体(Chemicon International, Inc., Temecula, CA)を、1:300の希釈率で各スライドに添加し(0.1% BSA(溶媒PBS)で希釈、各スライドにつき200 μl)、室温で2時間、湿潤チャンバー内でインキュベートする。抗GLUT1抗体は、ヒトのGLUT-1の配列の外側(exofacial)のループに対応する15アミノ酸の合成ペプチドに対する、アフィニティ精製されたウサギポリクローナル抗体である。
【0163】
陰性対照に関しては、非腫瘍組織も、罹患組織の健康な部分、または同じ患者の健康な器官から単離する。また陰性対照は、一次抗体なしの染色、抗グルコース輸送体抗体と非免疫ウサギのIgG(20 μg/ml)の置換、および標的抗原ペプチドを事前に吸収させた一次抗体による染色を含む場合がある。アッセイ法の陽性対照は、組織切片中に存在する血管組織および赤血球中に観察される染色である。
【0164】
一次抗体とのインキュベーション後に、スライドをPBSで2回(各2分間)洗浄する。一次抗体は、標準的なペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン-ビオチン検出法で検出することができる。ビオチン化された二次抗体をスライドに室温で30分間かけてアプライし、このスライドをPBSで洗浄する。次に、ストレプトアビジンを室温で30分間かけて湿潤チャンバー内でアプライし、次にスライドをPBSで洗浄する。色素原(2.5 ml PBS、3,3'ジアミノベンジジンテトラヒドロクロライド(DAB)のタブレットの1/4、および2滴の0.8%過酸化水素)を添加し、スライドを室温で10分間、湿潤チャンバー内でインキュベートする。
【0165】
次にスライドをddH2Oで5分間洗浄し、ヘマトキシリン(Gill's Hematoxylin)で1分間かけて対比染色し、流水で清澄になるまで洗浄する。細胞質を0.25%酸アルコール(3回の浸漬)で透明化する。次に、流水を穏やかにかけながらスライドを洗浄し、1%アンモニア水で10秒間、分別後に流水で洗浄する。
【0166】
次にスライドを、95%エタノールで2回(各8〜10回の浸漬)、100%エタノールで2回(各8〜10回の浸漬)、およびキシレンで3回(各10〜15回の浸漬)、インキュベートすることで脱水し、光学顕微鏡で可視化するために、パーマウントを用いてカバースリップをかぶせる。スライドの写真は、Kodak Ectochrome speed 100フィルムで撮影することができる。
【0167】
膜染色および染色強度による細胞の割合の半定量推定値を記録する。免疫反応性のタンパク質が占める、比例する面積を、BX60顕微鏡(Olympus)、およびKY-F55B(JVC)カラービデオカメラに接続したコンピュータ支援画像解析システムKS-300(Zeiss)で計算することができる。染色結果を、染色の強度および陽性率を元に0〜4点で評価する。実験を2回行い、平均値を算出する。
【0168】
このアッセイ法は、組織標本の供給源および試薬に応じて、最適なパラメータの評価を必要とする。調節対象のパラメータには、スライド表面への組織切片の接着、一次抗体の希釈率、一次抗体とのインキュベーションの時間および温度、ならびに一次抗体とのインキュベーション後の洗浄時のストリンジェンシーなどが含まれるがこれらに限定されない。
【0169】
実施例4
GLUT8のmRNAレベルを対象としたアッセイ法
この実施例では、腫瘍標本中のGLUT8のmRNAのレベルの決定に有用な、グルコース輸送体アッセイ法について説明する。
【0170】
癌患者の治療の過程で、外科的切除または腫瘍生検によって、常用の手順で組織標本を単離する。単離直後に組織標本を、必要事項が記入された容器内に収め、病理部門へ送る。腫瘍の病理学的特徴を評価し、また試料が腫瘍細胞を含むことを確認する病理学的評価後に、組織標本の一部を、必要事項が記入された容器内にドライアイスとともに収め、実験室へ送る。
【0171】
組織標本を4 Mグアニジウムイソチオシアネートでホモジナイズする。ポリ(A)RNAを、Dynabeads社のmRNA精製キット(Dynal Biotech)を用いて、製造業者の推奨に従って単離する。
【0172】
1〜5 μgのポリ(A)RNAを、1%ホルムアルデヒドを含む1%アガロースゲル上で、変性ゲル電気泳動で分離する。分離後のRNAを、ナイロン膜(Hybond N+, Amersham Pharmacia Biotech, Braunschweig, Germany)に毛管作用を利用してブロットする。
【0173】
GLUT8のcDNAを、DNAポリメラーゼIのクレノウ断片、および[α-32P]dCTPを用いて、ランダムオリゴヌクレオチドプライミング法で放射標識する。ExpressHybハイブリダイゼーション溶液(Clontech Laboratories, Palo Alto, CA)中で、ナイロン膜に42℃でハイブリダイズさせる。
【0174】
次に膜を0.12 M NaCl、0.012 Mクエン酸ナトリウム、0.1% SDSで55℃で2回洗浄し、乾燥後に、ホスホイメージャープレート(Fuji Photo Film)上で一晩露光する。実験を2回行い、平均値を算出する。
【0175】
実施例5
GLUT12タンパク質のレベルを対象とした免疫組織化学的アッセイ法
この実施例では、腫瘍標本中のGLUT12タンパク質のレベルの決定に有用な、抗体ベースの免疫組織化学的なグルコース輸送体アッセイ法について説明する。
【0176】
腫瘍組織試料を得て、実施例2に記載された手順で処理を行った後に、抗体結合の段階へ進む。次にスライドを5% FBS/PBS(各スライドにつき200 μl)で希釈した1:150または1:300の希釈率の一次(R1396)抗GLUT12抗体で4℃で一晩、湿潤チャンバー中でインキュベートする。ヒトGLUT12の固有の16残基のC末端アミノ酸に対する、ウサギポリクローナル抗GLUT12抗体であるR1396が作製されている(Rogers et al., 2002, "Identification of a novel glucose transporter-like protein-GLUT-12" Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab. 282: E733-E738)。
【0177】
一次抗体とのインキュベーション後に、スライドを0.1% Tween-20(溶媒PBS)で洗浄し、次に、ビオチン化されたブタ抗ウサギIgG(Dako, Carpinteria, USA)で1時間インキュベートする。一次抗体は、標準的なペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン-ビオチン検出法で検出することができる。ビオチン化された二次抗体をスライドに室温で30分間かけてアプライし、このスライドをPBSで洗浄する。次に、ストレプトアビジンを室温で30分間かけて湿潤チャンバー内でアプライし、スライドをPBSで洗浄する。色素原(2.5 ml PBS、3,3'ジアミノベンジジンテトラヒドロクロライド(DAB)(Sigma, St. Louis, USA)のタブレットの1/4、および2滴の0.8%過酸化水素)を添加し、スライドを室温で10分間、湿潤チャンバー内でインキュベートする。
【0178】
次にスライドをddH2Oで5分間洗浄し、ヘマトキシリン(Gill's Hematoxylin)で1分間かけて対比染色し、流水で清澄になるまで洗浄する。細胞質を0.25%酸アルコール(3回の浸漬)で透明化する。次に、流水を穏やかにかけながらスライドを洗浄し、1%アンモニア水で10秒間、分別後に流水で洗浄する。
【0179】
次にスライドを、95%エタノールで2回(各8〜10回の浸漬)、100%エタノールで2回(各8〜10回の浸漬)、およびキシレンで3回(各10〜15回の浸漬)、インキュベートすることで脱水し、光学顕微鏡で可視化するために、パーマウントを用いてカバースリップをかぶせる。スライドの写真は、Kodak Ectochrome speed 100フィルムで撮影することができる。
【0180】
膜染色および染色強度による細胞の割合の半定量推定値を記録する。染色の評価基準は、Southby et al.に記載された基準に基づく。免疫反応性のタンパク質が占める、比例する面積を、BX60顕微鏡(Olympus)、およびKY-F55B(JVC)カラービデオカメラに接続したコンピュータ支援画像解析システムKS-300(Zeiss)で計算することができる。染色結果を、染色の強度および陽性率を元に0〜4点で評価する。
【0181】
実施例6
FDG-PETスキャン
18-F-フルオロデオキシグルコース(FDG)によるポジトロン放出断層撮影(PET)を、Manda et al., Anti-cancer Res. (2003) 23 (4): 3263-72に記載された手順で実施し、胸部食道SCCの患者におけるグルコース輸送のレベルを決定する。この試験は、術前にFDG-PETイメージングを受けた患者を対象に実施する。FDG-PET試験は、3.125 mm間隔の63枚の画像が得られるSET 2400 W PETスキャナー(Shimadzu Corporation, Kyoto, Japan)(水平方向の視野=59.5 cm、軸方向の視野=20 cm)を用いて実施する。水平方向および冠状方向のFDG PET画像の解釈は、核医学を専門とする医師がCTまたはMRIの結果と併せて視覚的に行う。対象領域を元に、最高活性領域を含むが腫瘍全体は含まない、4x4ピクセルのセグメント中におけるFDGの取り込みを評価する。
【0182】
実施例7
免疫組織化学的アッセイ法
グルコース輸送体の発現を調べるには、以下のアッセイ法を行うことができる。原発性腫瘍の3〜4 mm厚の切片を切り出し、キシレンで脱パラフィン化し、エタノールの下行勾配(100〜70%)で再水和する。内因性のペルオキシダーゼ活性を3%過酸化水素(溶媒メタノール)でブロックする。蒸留水およびリン酸緩衝食塩水で数回洗浄した後に、切片を希釈率1:10の正常ウマ血清でインキュベートしてバックグラウンドの染色を最小限に抑える。続いて、一次抗体(Chemicon GLUT1抗体)とともに室温で1時間インキュベートする。ペルオキシダーゼ染色法には、ABC Eliteキット(Vector Laboratories, Burlingame, Calif.)を使用する。3-アミノ-9-エチルカルバゾールを色素原として用いて、免疫染色反応を可視化する。切片および/またはサイトスピンによる調製物をトルイジンブルーで染色し、パーマウント中にマウントする。陽性対照および陰性対照の免疫染色物も調製する。
【0183】
これらの切片を病理医が検討する。免疫応答の2つの特徴を半定量スケールで記録する(陽性細胞の相対数(0%、<10%、10〜50%、>50%)と、反応強度(0〜3))。免疫染色のパターン(膜、細胞質)を個別に記録する。任意の腫瘍性細胞が細胞膜反応性を示す場合には、腫瘍がグルコース輸送体を過剰発現しているとみなされる。
【0184】
グルコース輸送体の免疫染色の定量測定を、Windowsベースのソフトウェアと統合したSAMBA 4000細胞画像解析システム(Image Products International, Inc., Chantilly, Va.)で、コンピュータ画像解析を行う。強い染色を示す腫瘍組織切片を陽性対照として用いる。一次抗体をアイソタイプを整合させた無関係の抗体と置き換えることで、陰性対照の閾値(10視野について得られた結果の平均)を設定する。
【0185】
実施例8
サイトカラシンB感受性のグルコース輸送体を対象とした活性ベースのグルコース輸送体アッセイ法
この実施例では、腫瘍標本中のサイトカラシンB感受性のグルコース輸送体のレベルおよび活性の決定に有用な、活性ベースのグルコース輸送体アッセイ法について説明する。
【0186】
癌患者の治療の過程で、常用の手順で、外科的切除または腫瘍生検によって組織標本を単離する。単離直後に組織標本を、必要事項が記入された容器に収め、病理部門へ送る。腫瘍の病理学的特徴を評価し、また試料が腫瘍細胞を含むことを確認する病理学的評価後に、組織標本の一部を、必要事項が記入された容器に氷とともに収め、実験室へ送る。
【0187】
最終濃度が0.02% DNase、0.3%コラゲナーゼ、および0.4%ヒアルロニダーゼとなるように酵素を添加して腫瘍細胞懸濁物を得た後に、37℃で2時間インキュベートする。細胞をPBSで3回洗浄し、25ゲージの針に3回通す。遠心後に、細胞をインキュベーション用緩衝液(15 mM HEPES、135 mM NaCl、5 mM KCl、1.8 mM CaCl2、0.8 mM MgCl2)に再懸濁し、同溶媒中で室温で30分間インキュベートする。次に、0.5 mmolの2-デオキシグルコース、および6 μLの2-[1,2-3H]デオキシ-D-グルコース(25〜50 Ci/mmol;NEN Life Science Products, Boston, MA)を含む0.5 mLのインキュベーション用緩衝液で、室温で1分間、取り込みアッセイ法を行う。グルコースの取り込みは、細胞を10 mLの氷冷PBSで洗浄することで停止させる。
【0188】
細胞を遠心して回収し、冷PBSで2回洗浄する。次に0.5 mLの溶解緩衝液(10 mM Tris-HCl、pH 8.0、0.2% SDS)に溶解し、取り込まれた放射能を液体シンチレーションカウンターで調べる。
【0189】
実験を2回行い、平均値を算出する。2-デオキシグルコースの取り込みを、グルコース輸送体の強力な阻害剤であるサイトカラシンBの存在下(10 μmol/L)でインキュベートした別の試料中への非特異的な取り込みを差し引いて算出する。別の試料を対象に決定された細胞数について結果を標準化する。
【0190】
陰性対照に関しては、非腫瘍組織を、同じ患者の健康な器官から単離することもできる。最適な陽性対照は、ヒトの筋肉および脂肪組織などの、高レベルのGLUT4を発現することが既知の組織、または完全長のGLUT4のcDNAがトランスフェクトされた培養COS細胞で観察されるグルコース輸送の場合がある。
【0191】
実施例9
GLUT3レベルを調べるためのフローサイトメトリーをベースとしたグルコース輸送体アッセイ法
この実施例では、腫瘍標本中のGLUT3タンパク質のレベルの決定に有用な、抗体ベースのフローサイトメトリーベースのグルコース輸送体アッセイ法について説明する。
【0192】
外科的切除または腫瘍生検によって組織標本を単離する。単離直後に組織標本を、必要事項が記入された容器に収め、病理部門へ送る。腫瘍の病理学的特徴を評価し、また試料が腫瘍細胞を含むことを確認する病理学的評価後に、組織標本の一部を、必要事項が記入された容器内にドライアイスとともに収め、実験室へ送る。
【0193】
標本を1細胞懸濁物中に、コラゲナーゼで処理したフィコール(Ficoll)勾配精製法で分散させる。細胞を500×gで30秒間、室温で沈降させて、ダルベッコ-リン酸緩衝食塩水(PBS)(pH 7.6)で2回洗浄する。次に細胞を、室温で15分間かけて、4%パラホルムアルデヒド(溶媒はpH 7.2に緩衝作用をもつリン酸緩衝食塩水(PBS))で固定する。これをPBSで3回洗浄し、3%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むPBSに再懸濁し、1.5 mlのマイクロ遠心チューブに、1本のチューブあたり約105個の細胞の密度になるように小分けする。
【0194】
一次抗ヒトGLUT3抗体(Chemicon International, Inc., Temecula, CA)を1:60の希釈率で各チューブに添加し、4℃で一晩インキュベートする。一次抗体とインキュベートした後に、細胞をPBSで500×gで30秒間遠心して2回洗浄する。細胞ペレットを、R-フィコエリトリン標識ヤギ抗ウサギIgG(Fisher Scientific)に再懸濁し、4℃で1時間、適宜振盪しながらインキュベートする。PBSを用いた500×gで30秒間の遠心による2回の洗浄後に、細胞を500 μlのPBSに再懸濁する。
【0195】
IgGとの結合を、FACScan(Becton Dickinson)フローサイトメーターによるフローサイトメトリーで決定する。細胞集団をゲート処理して死滅細胞を除外する。組織標本の供給源および試薬に応じて、このアッセイ法では、最適なパラメータの評価が必要となる。変動する可能性のあるパラメータには、一次抗体の希釈率、一次抗体とのインキュベーションの時間および温度、ならびに一次抗体とのインキュベーション後の洗浄時のストリンジェンシーなどが含まれる。各標本について細胞染色陽性の割合を決定することで、陰性対照試料と比較が可能となる。ある態様では、フローサイトメトリーの結果を、染色強度(例えば輸送体の数)に対する細胞数、および調査集団の分布と比較時の試料の分布として表す。
【0196】
本発明を特定の態様に関して詳細に説明したが、当業者であれば、改変および改善が、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲および趣旨の範囲内にあることを認識すると思われる。本明細書に引用された、すべての出版物および特許文書(特許、公開された特許出願、および公開されていない特許出願)は、個々の出版物または文書が具体的かつ個別に、参照により本明細書に組み入れられることが示されているのと同様に、参照により本明細書に組み入れられる。出版物および特許文書の引用は、そのような任意の文書が、妥当な先行技術であると認められることを意図されず、また、内容または内容の期日に関するあらゆる承認も含まない。書面による記述および実施例を用いて説明した本発明に関しては、当業者であれば、本発明が、さまざまな態様で実施可能なこと、また以上の記述および実施例が説明を目的としたものであり、特許請求の範囲を制限するものではないことを理解すると思われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、抗悪性腫瘍剤による治療に対して癌が感受性であるか否かを判定する方法:
(a)癌の試料を得る段階;
(b)試料中の少なくとも1種類のグルコース輸送体のレベルを測定する段階;
(c)レベルを所定値と比較する段階;および
(d)測定されたレベルが所定値より大きい場合、抗悪性腫瘍剤による治療に対して癌が感受性があると判定される段階。
【請求項2】
抗悪性腫瘍剤がグルコース成分を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
抗悪性腫瘍剤がグルコース類似体成分を含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
グルコース類似体成分がフルクトース成分である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
グルコース輸送体がクラスIのGLUTである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
グルコース輸送体がクラスIIのGLUTである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
グルコース輸送体がクラスIIIのGLUTである、請求項1記載の方法。
【請求項8】
少なくとも2種類の異なるグルコース輸送体を測定する、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1種類のクラスIのGLUT、少なくとも1種類のクラスIIのGLUT、および少なくとも1種類のクラスIIIのGLUTのレベルを測定する、請求項8記載の方法。
【請求項10】
抗悪性腫瘍剤がストレプトゾトシンである、請求項1記載の方法。
【請求項11】
グルコース輸送体がGLUT2である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
抗悪性腫瘍剤がグルコホスファミド(glucofosfamid)である、請求項1記載の方法。
【請求項13】
グルコース輸送体がNa+依存性のグルコース輸送体である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
抗悪性腫瘍剤がグリコ-S-ニトロソチオールである、請求項1記載の方法。
【請求項15】
グルコース輸送体がGLUT1である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
試料中のグルコース輸送体のレベルを免疫学的アッセイ法で測定する、請求項1記載の方法。
【請求項17】
試料中のグルコース輸送体のレベルをRNAまたはcDNAの増幅によって測定する、請求項1記載の方法。
【請求項18】
癌が、白血病、乳癌、皮膚癌、骨癌、前立腺癌、肝臓癌、肺癌、脳腫瘍;咽頭、胆嚢、膵臓、膵島細胞、直腸、副甲状腺、甲状腺、副腎、神経組織、頭頚部、大腸、胃、気管支、腎臓の癌;基底細胞癌、扁平上皮癌(潰瘍型および乳頭型)、転移性皮膚癌、骨肉腫、ユーイング肉腫、細網細胞肉腫、骨髄腫、巨細胞腫瘍、小細胞肺腫瘍、膵島細胞癌、原発性脳腫瘍、リンパ性および顆粒球性の腫瘍(急性および慢性)、有毛細胞腫瘍、腺腫、過形成、髄様癌、褐色細胞腫、粘膜神経腫、腸の神経節神経腫、過形成性の角膜神経腫瘍、マルファン症候群様体質腫瘍、ウィルムス腫瘍、精上皮腫、卵巣腫瘍、平滑筋腫、子宮頚部異形成および上皮内癌、神経芽腫、網膜芽腫、軟組織肉腫、悪性カルチノイド、局所皮膚病変、菌状息肉症、横紋筋肉腫、カポジ肉腫、骨原性および他の肉腫、悪性高カルシウム血症、腎細胞腫瘍、真性赤血球増加症、腺癌、膠芽腫、多形膠芽腫、白血病、リンパ腫、悪性黒色腫、ならびに扁平上皮癌からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項19】
癌が膵臓癌である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
癌が膵島細胞癌である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
グルコース輸送体がGLUT2であり、癌が膵臓癌または膵島細胞癌であり、かつ抗悪性腫瘍剤がストレプトゾトシン、グルコホスファミド、またはgluSNAP化合物である、請求項1記載の方法。
【請求項22】
以下の段階を含む、患者に対する化学療法の治療プログラムを決定する方法:
(a)患者が癌であると診断する段階;
(b)患者から癌の試料を得る段階;
(c)試料中のグルコース輸送体のレベルを測定する段階;
(d)段階(c)で測定された量を所定値と比較する段階;および
(e)段階(c)で測定された量が所定の量より多い場合は、患者が、グルコース輸送体によって輸送される抗悪性腫瘍剤による治療の候補となると判定される段階。
【請求項23】
以下を含む、癌が抗悪性腫瘍剤による治療に感受性があるか否かを判定するためのキット:
(a)癌試料中の少なくとも1種類の、および任意で複数のグルコース輸送体のレベルを決定するための試薬類、ならびに
(b)基準値が記載された指示書。

【公表番号】特表2006−521562(P2006−521562A)
【公表日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−509206(P2006−509206)
【出願日】平成16年3月4日(2004.3.4)
【国際出願番号】PCT/US2004/006897
【国際公開番号】WO2004/081181
【国際公開日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
WINDOWS
【出願人】(505338279)スレショルド ファーマシューティカルズ インコーポレイティッド (5)
【Fターム(参考)】