説明

抗炎症剤及びエンドトキシンショック抑制剤

【課題】リポ多糖(LPS)はエンドトキシンと呼ばれ、グラム陰性菌より遊離されて、生体に様々な反応を引き起こすことが知られ、補体を第2経路において活性化させ、マクロファージや他の細胞からサイトカインや他の免疫制御物質を放出せしめ、過剰なサイトカインなどが宿主に毒性を示し、ショックなど死を招くことがあり、大きな問題となっている。該エンドトキシンショックなどの抑制技術開発が求められている。
【解決手段】ガレクチン1や9、また安定化ガレクチン9並びにガレクチン9誘導因子は、エンドトキシンショック抑制活性を示し、エンドトキシン及びそれに関連した生体反応現象の制御(又は抑制)に有用で、該活性に起因する病気・疾患治療及び/又は予防剤並びにその治療及び/又は予防法、さらに炎症及び炎症性疾患に対する治療及び/又は予防、特に細菌感染症、菌血症、敗血症、敗血症ショック、エンドトキシンショックなどの抑制に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガレクチン1、ガレクチン9及びその改変体(安定化ガレクチン9)並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものを有効成分とするエンドトキシンショック抑制剤、並びに該エンドトキシンショック抑制作用を利用した病気又は疾患の治療及び/又は予防用剤並びにその活性利用の治療及び/又は予防法に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症疾患、アレルギー性疾患や自己免疫疾患の治療にはステロイドホルモンや免疫抑制剤が用いられる。しかしながら、ステロイドは副作用が強いことから、問題が多い。またこれまで知られた免疫抑制剤にも副作用の点でそれが強いことから問題のあるものが多い。さらに抗腫瘍剤においても、腫瘍細胞のみならず正常な細胞にも作用することから、重篤な副作用の問題が多い。
【0003】
リポ多糖(lipopolysaccharide; LPS)はグラム陰性菌に特有のもので、動物に対して毒素活性をもち、内毒素(エンドトキシン; endotoxin)と呼ばれる。通常、細胞壁に強固に結合しているが、細胞の溶解が起こったときなどに遊離し、生体に様々な反応を引き起こすことが知られている。内毒素はタンパク毒素である外毒素と異なり、熱、乾燥、消毒剤に対して強い抵抗性を持っている。活性の作用はリピドA部分のものが殆どとされているが、しかしリピドAそのものは水に不溶なので、それだけでは活性を示さない。ところが、多糖部分の大きな親水性により可溶化して、水溶液中ではミセルを形成して運ばれて活性を示すとされている。LPSは補体を第2経路において活性化させ、マクロファージや他の細胞からサイトカインや他の免疫制御物質を放出する。これらの生理活性物質は宿主の生体防御機構に働くとともに、細菌を除去する方向に働くと考えられている。しかし、これらのサイトカインなどが過剰になると宿主に毒性をしめし、ショックなど死を招くことがある。
LPSの生物活性としては、(1)致死活性、(2)エンドトキシンショック、(3)発熱、(4)アジュバント活性、(5)マクロファージの活性化、(6)補体系別経路活性化、(7)物質の膜透過に対する関与、(8)抗腫瘍作用、(9)ウイルスのレセプター、(10) 循環器障害、補体の活性化、血管内血液凝固、(11)白血球全般の減少と増多、低血糖、低血圧、主要臓器の機能不全および致死性のショック作用、(12)リンパ球や血管内皮細胞などでLPSの刺激により分泌されたサイトカインなどにより引き起こされるショック作用、(13)サイトカインやオーダアコイドの誘導、(14)中枢神経細胞、筋肉細胞の障害、(15)凝固因子、排出促進物質の活性化、血管の収縮と拡張、薬物代謝酵素の阻害、(16)シュワルツマン反応(出血壊死を伴う非免疫学的炎症反応)、(17) 血小板凝集によるセロトニンの放出などを含む血管系の障害、(18)インターフェロンの誘発、(19)遊走性阻害、物質の膜透過に対する関与などが知られている。LPSの致死活性とは、血圧低下、心拍量の低下による循環器障害、エンドトキシンショック(例えば、大量の抗生物質が投与されると一気に菌が崩壊してLPSが血流に流れ込みショック状態に陥る)などの現象が挙げられている。エンドトキシンショックでは、例えば、大きな膿瘍などで,LPSが菌体からいっきに放出され、血圧低下などのショックを起こし時には死に至るような症状も挙げられている。
エンドトキシンについては、例えば、日本エンドトキシン研究会、「エンドトキシン研究」、(基礎と臨床1)、菜根出版(1998.06, ISBN: 4782001398); 日本エンドトキシン研究会、「エンドトキシン研究」、(2)(1999.06, ISBN: 4782001444)、(3)(2000.11, ISBN: 4782001444)、菜根出版; 日本エンドトキシン研究会、「エンドトキシン研究」、(4)(2001.10, ISBN: 4871513076)、(5)(2002.10, ISBN: 4871513165)、(6)(2003.11, ISBN: 4871513203)、(7)(2004.11, ISBN: 4871513270)、医学図書出版〔以上、非特許文献1〜7〕; 櫻井純他編集、「細菌毒素ハンドブック」、廣川書店(2003) 〔非特許文献8〕; 本間遜監修、「内毒素・その構造と活性」、医歯薬出版(1983.12) 〔非特許文献9〕などを参考。
【0004】
ガレクチンはβ-ガラクトシドに親和性を持ち、一次配列上に保存された領域を持つレクチンファミリーである。現在までに、10種類以上の哺乳類ガレクチンが発見され、細胞-細胞接着又は細胞-細胞外基質接着、細胞活性化、細胞増殖、アポトーシスなど多彩な生物活性が報告されている。
本発明者等のグループはヒトT細胞由来好酸球遊走因子のクローニングに成功し、それによりそれが Tureci 等が報告したヒトガレクチン9 (human galectin 9: hGal9、非特許文献10)のバリアント、エカレクチンであることを見出した(非特許文献11)。さらに、本発明者等のグループはエカレクチンとGal9は同一の物質であることを明らかにし、ヒトのGal9はそのリンクペプチドの長さの違いにより、ショートタイプ、メディアムタイプ、ロングタイプの3 種類があることをも明らかにした(非特許文献12)。Gal9含有医薬が、抗腫瘍剤(抗ガン剤)、抗アレルギー剤、免疫抑制剤、自己免疫疾患用剤、抗炎症剤及び副腎皮質ステロイドホルモン代替用剤として有望であることは、WO 2004/064857 (2004.08.05) 〔特許文献1〕に開示してある。Gal9は、活性化T細胞にアポトーシスを誘導することも報告されている。さらに、安定化Gal9(Gal9改変体)及びその用途についてPCT/JP2005/006580 (2005.03.29) 〔特許文献2〕に開示を行っている。
【0005】
【特許文献1】WO 2004/064857 (2004.08.05)
【特許文献2】PCT/JP2005/006580 (2005.03.29)
【非特許文献1】日本エンドトキシン研究会、「エンドトキシン研究・基礎と臨床1」、菜根出版(1998.06, ISBN: 4782001398)
【非特許文献2】日本エンドトキシン研究会、「エンドトキシン研究・2」、菜根出版(1999.06, ISBN: 4782001444)
【非特許文献3】日本エンドトキシン研究会、「エンドトキシン研究・3」、菜根出版(2000.11, ISBN: 4782001444)
【非特許文献4】日本エンドトキシン研究会、「エンドトキシン研究・4」、医学図書出版(2001.10, ISBN: 4871513076)
【非特許文献5】日本エンドトキシン研究会、「エンドトキシン研究・5」、医学図書出版(2002.10, ISBN: 4871513165)
【非特許文献6】日本エンドトキシン研究会、「エンドトキシン研究・6」、医学図書出版(2003.11, ISBN: 4871513203)
【非特許文献7】日本エンドトキシン研究会、「エンドトキシン研究・7」、医学図書出版(2004.11, ISBN: 4871513270)
【非特許文献8】櫻井純他編集、「細菌毒素ハンドブック」、廣川書店(2003)
【非特許文献9】本間遜監修、「内毒素・その構造と活性」、医歯薬出版(1983.12)
【非特許文献10】Tureci O. et al., J Biol Chem., 1997, 272(10):6416-22
【非特許文献11】Matsumoto R. et al., J Biol Chem., 1998, 273:16976-84
【非特許文献12】Matsushita N. et al., J Biol Chem., 2000, 275:8355-60
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在、グルココルチコイドが抗炎症薬、抗アレルギーや免疫抑制薬として広く用いられており、また、難治性の自己免疫疾患やアレルギー疾患にFK-506等の免疫抑制剤が使用されている。しかし、これらの薬剤は重篤な副作用が多いことが欠点として知られている。
生体内の生理活性物質は、これまで多く見出されているが、それらの多くのものは、例えば腫瘍細胞などに作用すると同様に、正常な細胞にも作用することから、必ずしもその一部の活性が解明されたからといって、それを医薬などへの利用が簡単にはかれるものではない。ガレクチン9はその局在によって機能が異なっている一方で、様々な生体機能への関与が予測される。ガレクチン9の詳しい生物活性を解明すること、そしてその解明に基づいた医薬品の開発を初めとしたガレクチン9の関連技術開発が求められている。
肺血症やその他の細菌感染症ではエンドトキシンが産生され、その作用によってショックが引き起こされる。したがって、抗生物質の開発をはじめとした種々の治療法の進歩にも拘わらず、依然として救命困難な状態に進展することがあり大きな問題となっている。グラム陰性菌の破壊(抗生物質の作用による破壊も含まれる)などによりその細胞壁成分であるエンドトキシンが感染巣や腸管などから循環系などに流入することにより、肺血症多臓器不全のみならず肺血症に起因する様々な合併症などが起こるとされている。
本発明は、エンドトキシン活性を制御する活性剤、該エンドトキシン活性制御作用を利用してエンドトキシン活性に起因する病気又は疾患治療及び/又は予防剤並びにその治療及び/又は予防法、さらには炎症反応、アレルギー反応、免疫応答反応などエンドトキシンに関連する疾患を治療及び/又は予防するための薬剤並びに治療及び/又は予防法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を進めた結果、ガレクチン1やガレクチン9、例えば、M型ガレクチン9が、エンドトキシンにより誘発されるショックを抑制することを見出すことに成功した。すなわち、ガレクチン1やガレクチン9は、エンドトキシンショック抑制剤として有用であることが認められ、さらに当該Gal9 (例えば、M型ガレクチン9)はエンドトキシンに関連した炎症をも緩和する作用を有することが確認された。さらに、それらは、エンドトキシンの生物活性を抑制でき、例えば、炎症及び炎症性疾患に対する治療及び/又は予防剤の可能性が示唆されるし、特には細菌感染症、菌血症、敗血症、敗血症ショック、エンドトキシンショックなどの症状の予防及び/又は治療に有効な活性を有することも見出した。したがって、ガレクチン1やガレクチン9、例えば、M型ガレクチン-9、さらには安定化ガレクチン9 (例えば、G9NC(null))、そしてガレクチン9誘導因子により、エンドトキシン及びそれに関連した生体反応現象を制御する(又は抑制する)ことが可能であり、炎症及び炎症性疾患に対する治療及び/又は予防剤、特には細菌感染症、菌血症、敗血症、敗血症ショック、エンドトキシンショックなどの抑制剤を提供できる。
【0008】
本発明では、次なる態様が提供される。
〔1〕ガレクチン1、ガレクチン9、及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものを有効成分として含有し、且つ、エンドトキシン又はそれに関連した生体反応現象を制御するものであることを特徴とするエンドトキシン制御剤。
〔2〕エンドトキシン又はそれに関連した生体反応現象を抑制又は阻害するものであることを特徴とする上記〔1〕記載の剤。
〔3〕炎症性サイトカイン産生抑制作用を示すことを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕記載の剤。
〔4〕Th1サイトカイン産生の抑制作用を示すことを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕記載の剤。
〔5〕Th1サイトカインが、TNF-α、IL-12及びIFN-γからなる群から選択されたものであることを特徴とする上記〔4〕記載の剤。
〔6〕Th2サイトカイン産生の促進作用を示すことを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕記載の剤。
〔7〕エンドトキシンショック抑制又は防御作用を示すことを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕記載の剤。
〔8〕細菌感染症、菌血症、敗血症、敗血症ショック、敗血症多臓器不全、敗血症合併症及びエンドトキシンショックからなる群から選択されたものを抑制又は防御する作用を示すことを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕記載の剤。
〔9〕ガレクチン1、ガレクチン9、及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものをコードする核酸を有効成分として含有し、且つ、エンドトキシン又はそれに関連した生体反応現象を制御するものであることを特徴とするエンドトキシン制御剤。
〔10〕ガレクチン1、ガレクチン9、及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものを有効成分として含有し、且つ、エンドトキシン又はそれに関連した生体反応現象を制御して炎症及び炎症性疾患に対する治療及び/又は予防作用を示すことを特徴とする薬剤。
〔11〕ガレクチン1、ガレクチン9、及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものを有効成分として含有し、且つ、炎症性サイトカイン産生抑制作用を示すことを特徴とする炎症性サイトカイン産生制御剤。
〔12〕ガレクチン1、ガレクチン9、及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものを有効成分として含有し、且つ、Th1サイトカイン産生の抑制作用を示すかあるいはTh2サイトカイン産生促進作用を示すことを特徴とするサイトカイン産生制御剤。
〔13〕ガレクチン1、ガレクチン9、及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものを有効成分として含有し、且つ、細菌感染症、菌血症、敗血症、敗血症ショック、敗血症多臓器不全、敗血症合併症及びエンドトキシンショックからなる群から選択されたものを抑制又は防御する作用を示すことを特徴とする薬剤。
〔14〕ガレクチン1、ガレクチン9、及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたもの又はそれをコードする核酸を有効成分として含有し、且つ、エンドトキシン又はそれに関連した生体反応現象を抑制するものであることを特徴とするエンドトキシンに起因する病気又は疾患の予防及び/又は治療剤。
〔15〕ガレクチン1、ガレクチン9、及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものを細胞又は組織に接触せしめることを特徴とするエンドトキシン又はそれに関連した生体反応現象制御法。
【発明の効果】
【0009】
本発明で、エンドトキシン及びそれに関連した生体反応現象を制御する(又は抑制する)技術、特には炎症及び炎症性疾患に対する治療及び/又は予防剤、そして細菌感染症、菌血症、敗血症、敗血症ショック、エンドトキシンショックなどの症状の予防及び/又は治療に、ガレクチン1やガレクチン9、例えば、M型ガレクチン-9、さらには安定化ガレクチン9 (例えば、G9NC(null))、並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものを使用する技術が提供できる。かくして、エンドトキシンが一因である疾患の治療及び/又は予防技術が開発できる。ガレクチン1やガレクチン9、例えば、M型ガレクチン-9、さらには安定化ガレクチン9 (例えば、G9NC(null))、そしてガレクチン9誘導因子により、エンドトキシン及びそれに関連した生体反応現象を制御する(又は抑制する)ことが可能であり、炎症及び炎症性疾患に対する治療及び/又は予防剤、特には細菌感染症、菌血症、敗血症、敗血症ショック、エンドトキシンショックなどの抑制剤を開発できることとなる。
本発明のその他の目的、特徴、優秀性及びその有する観点は、以下の記載より当業者にとっては明白であろう。しかしながら、以下の記載及び具体的な実施例等の記載を含めた本件明細書の記載は本発明の好ましい態様を示すものであり、説明のためにのみ示されているものであることを理解されたい。本明細書に開示した本発明の意図及び範囲内で、種々の変化及び/又は改変(あるいは修飾)をなすことは、以下の記載及び本明細書のその他の部分からの知識により、当業者には容易に明らかであろう。本明細書で引用されている全ての特許文献及び参考文献は、説明の目的で引用されているもので、それらは本明細書の一部としてその内容はここに含めて解釈されるべきものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態につき説明するに、本発明のガレクチン9 (Gal9)、例えば、M型ガレクチン-9、さらには安定化ガレクチン9 (例えば、G9NC(null))、並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたもののエンドトキシン及びそれに関連した生体反応現象を制御する(又は抑制する)機能を利用したエンドトキシン活性制御剤(エンドトキシン機能抑制剤又はエンドトキシン機能阻害剤を包含する)、並びに該エンドトキシン及びそれに関連した生体反応現象を制御する作用を利用した病気又は疾患の治療及び/又は予防用剤並びに炎症及び炎症性疾患、細菌感染症、菌血症、敗血症、敗血症ショック、エンドトキシンショックなどエンドトキシンに起因した病的症状及び/又は疾患(異常)の治療剤及び/又は予防剤で、有効成分として含有するガレクチン9 (galectin 9: Gal9)とは、例えば、Gal9産生能を有するヒトの白血球や培養株化細胞から産生される天然型ガレクチン9 (native Gal9 or naturally-occurring Gal9)、及び、前記白血球や特定の培養株化細胞由来のGal9をコードする遺伝子を遺伝子組換え技術により動物細胞や大腸菌などの微生物に組み込んで得られる組換え型ガレクチン9 (recombinant galectin 9: rGal9)などを意味し、その何れも有利に用いることができる。本発明に於いては、高度に精製した高純度Gal9は言うに及ばず、所期の目的を達成し得る限り、医薬として許容し得る程度の不純物を含む粗な状態のGal9も好適に使用できる。又、本発明の薬剤は非経口的又は経口的に投与されてよく、比較的高純度のものが好ましい筋肉内注射や静脈内注射ばかりでなく、必ずしも最高純度の高純度Gal9を用いる必要性のない、比較的低純度のGal9であっても不都合なく使用することができる経口であることも好ましい。このようなGal9を用いる場合には、より低コストで本発明の薬剤を製造できることとなる。また、当該Gal9として、2種以上のガレクチン 9混合物を用いることも可能である。尚、当該Gal9は、抗原性の面から見て、ヒトGal9 (hGal9)が有利に使用できる。
【0011】
本明細書中、「ガレクチン9」(galectin 9: Gal9)としては典型的には天然型Gal9が挙げられる。天然型Gal9としては、現在、ロングタイプ(L型)ガレクチン9(galectin 9 long isoform or long type galectin 9: Gal9L)、ミディアムタイプ(M型)ガレクチン9(galectin 9 medium isoform or medium type galectin 9: Gal9M)及びショートタイプ(S型)ガレクチン9(galectin 9 short isoform or short type galectin 9: Gal9S)が報告されているが、Gal9LはWO 02/37114 A1に開示の配列番号4 の推定リンクペプチド領域によりN端ドメイン(N末端側糖鎖認識部位、N-terminal carbohydrate recognition domain: NCRD)とC端ドメイン(C末端側糖鎖認識部位、C-terminal carbohydrate recognition domain: CCRD)とが連結されたもの、Gal9Mは該WO 02/37114 A1の配列番号5の推定リンクペプチド領域によりNCRDとCCRDとが連結されたもの、そしてGal9Sは該WO 02/37114 A1の配列番号6 の推定リンクペプチド領域によりNCRDとCCRDとが連結されたものであると考えられており、Gal9MではGal9Lの当該リンクペプチド領域より該WO 02/37114 A1の配列番号7の配列のアミノ酸残基が欠失している点でGal9Lと異なること、そしてGal9SではGal9Mの当該リンクペプチド領域より該WO 02/37114 A1の配列番号8の配列のアミノ酸残基が欠失している点でGal9Mと異なること、すなわちGal9SではGal9L推定リンクペプチド領域より該WO 02/37114 A1の配列番号9 のアミノ酸残基が欠失している点でL 型ガレクチン9と異なる。ところで、Gal9Lのアミノ酸配列は、WO 02/37114 A1に開示の配列番号1に、Gal9Mのアミノ酸配列は、WO 02/37114 A1に開示の配列番号2に、そしてGal9Sのアミノ酸配列は、WO 02/37114 A1に開示の配列番号3に、それぞれその典型的な配列のものが示されている。
【0012】
本明細書において、ガレクチン9としては、上記Gal9L、Gal9M及びGal9S、その他、それらガレクチン9ファミリーの天然に生ずる変異体、さらにそれらに人工的な変異(すなわち、一個以上のアミノ酸残基において、欠失、付加、修飾、挿入など)を施したものあるいはそれらの一部のドメインや一部のペプチドフラグメントを含むものを意味してよい。WO 2004/064857 (2004.08.05)、J. Biol. Chem., 275 (12): pp. 8355-8360 (2000)に開示のものはすべて含まれてよい。例えば、GST、FLAG (registered trademark, Sigma-Aldrich)、ポリヒスチジンなどのタグ、オワンクラゲ (Aequorea victorea)などの発光クラゲ由来の緑色螢光タンパク質(green fluorescent protein: GFP)、それを改変した変異体(GFPバリアント) 、例えば、EGFP (Enhanced-humanized GFP), rsGFP (red-shift GFP), 黄色螢光タンパク質 (yellow fluorescent protein: YFP), 緑色螢光タンパク質 (green fluorescent protein: GFP),藍色螢光タンパク質 (cyan fluorescent protein: CFP), 青色螢光タンパク質 (blue fluorescent protein: BFP), ウミシイタケ (Renilla reniformis) 由来のGFP などとの融合rGal9などが含まれてよく、例えば、poly-His-hGal9などが挙げられる。当該ガレクチン9には、天然のガレクチン9バリアント、さらにPCT/JP 2005/006580 (出願日2005.03.29)に開示の「ガレクチン9改変体」、「ガレクチン9改変体ポリペプチド」、さらには「ガレクチン9改変体治療剤」はすべて含まれてよい。特に好ましいものとしては、PCT/JP 2005/006580 (出願日2005.03.29)の実施例1で製造取得されているG9NC(null)〔PCT/JP 2005/006580(出願日2005.03.29)の配列番号1で示される塩基配列によりコードされ、配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド〕が挙げられる。「ガレクチン9改変体」又は「ガレクチン9改変体ポリペプチド」のうちには、天然型ガレクチン9に比して、より安定化された性状を示すものが得られることが認識されており、そうしたものは本明細書において、「安定化ガレクチン9」と称されてもいる。該安定化ガレクチン9の代表的なものとしては、上記したG9NC(null)が挙げられるが、これに限定されるものではなく、同様な性状を示すものはそれに含まれてよい。
本発明の治療及び/又は予防剤並びにその治療及び/又は予防法は、WO 2004/064857 (2004.08.05)や、PCT/JP 2005/006580 (出願日2005.03.29)の開示に準じてそれを実施でき、それらの中にある記載はそれを参照することにより本明細書の開示に含められる。
ガレクチン1 (galectin 1; Gal1)は、Matsushita, N. et al., J Biol Chem., 2000, 275: 8355-60に従って調製並びに精製されて得ることができ、Gal1も、上記ガレクチン9と同様、エンドトキシン及びそれに関連した生体反応現象を制御する(又は抑制する)ことが可能であり、ガレクチン9と同様にそれを使用できる。
【0013】
本明細書において、ガレクチン-9誘導因子は、ガレクチン-9の発現を誘導する活性を有することによって特徴付けられる。該因子は、その存在あるいはその発現により、有意にガレクチン-9の発現を誘導することによって特徴付けられ、例えば、国際公開第2004/096852号パンフレット(2004)〔WO2004/096851, A1 (2004)〕や特願2004-312771に開示のものが挙げられる(それらの中にある記載はそれを参照することにより本明細書の開示に含められる)。
代表的なガレクチン-9誘導因子として、放射線処理されたB細胞リンパ腫由来細胞株、例えば、BALL-1細胞より得られるもの、例えば、分離精製処理された画分など、その構成タンパク質などが挙げられる。該ガレクチン-9誘導因子を含むものとしては、B細胞株由来の細胞膜可溶化分画(membrane fraction: mf、例えば、human acute lymphoblastoid leukemia (ALL) から樹立されたhuman cell line: BALL-1 などのmf (BALL-1 mf))、そのコンカナバリンA吸着分画に溶出されるmf、Resource QTMイオン交換カラムから溶出されるmf、ハイドロキシアパタイトカラムから溶出される分画などが挙げられる。該ガレクチン-9誘導因子は、その有する生物活性、例えばガレクチン-9誘導活性をインビトロあるいはインビボにて検知・測定することにより、確認することが可能である。例えば、インビトロでのガレクチン-9誘導活性は、上記したようなGal-9産生・遊離細胞をmfで刺激した後、RT-PCR、ウエスタンブロット法、フローサイトメトリー法、免疫組織染色法、ELISA 法、ELISPOT 法、RIA 法などにより、Gal-9 mRNAやGal-9 タンパク質を定量的あるいは定性的に解析して測定される。当該細胞の細胞培養液を使用し、RT-PCR、ウエスタンブロット法、フローサイトメトリー法、免疫組織染色法、ELISA 法、ELISPOT 法、RIA 法などにより、Gal-9 タンパク質を定量的あるいは定性的に解析して測定することもできる。また、インビボにおけるガレクチン-9誘導活性は、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、サルなどの動物に、mfを投与した後、ガレクチン-9産生細胞の浸潤やGal-9遊離の増強を指標に測定できる。また、腫瘍細胞におけるGal-9 の直接的ないし間接的な増強を指標にそれを測定することもできる。該動物としては、代表的には実験動物が挙げられ、投与法としては、皮内、皮下、筋肉内、静脈又は動脈、腹腔内注射したり、飲食させるなどが挙げられる。ヒト由来のガレクチン-9誘導因子にはタンパク質80K-H、GRP94、GRP78、GRP58、及びS100 calcium-binding protein、並びにそれらの分解物から成る群から選ばれたものが含まれてよい。
本発明の治療及び/又は予防剤並びにその治療及び/又は予防法は、WO 2004/064857 (2004.08.05)、PCT/JP 2005/006580 (出願日2005.03.29)、WO2004/096851, A1 (2004)や特願2004-312771の開示に準じてそれを実施でき、それらの中にある記載はそれを参照することにより本明細書の開示に含められる。
本明細書に記載の発明は、これまでに公表された研究および特許出願、例えば、WO 2004/064857 (2004.08.05)、PCT/JP 2005/006580 (出願日2005.03.29)、WO2004/096851, A1 (2004)や特願2004-312771を参考にしており、その内容は本明細書の開示の中に含められる。
【0014】
本発明では、「遺伝子組換え技術」を利用して所定の核酸(ポリヌクレオチド)や所定のペプチド(ポリペプチド)を構築したり取得すること、また単離・配列決定したり、組換え体を作製したりできる。本明細書中使用できる遺伝子組換え技術(組換えDNA技術を含む)としては、当該分野で知られたものが挙げられ、例えば J. Sambrook et al., "Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd edition (1989) & 3rd edition (2001) ", Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York; D. M. Glover et al. ed., "DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1 to 4, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995);日本生化学会編、「続生化学実験講座1、遺伝子研究法II」、東京化学同人 (1986);日本生化学会編、「新生化学実験講座2、核酸 III(組換えDNA 技術)」、東京化学同人 (1992); M. J. Gait (Ed), Oligonucleotide Synthesis, IRL Press (1984); B. D. Hames and S. J. Higgins (Ed), Nucleic Acid Hybridization, A Practical Approach, IRL Press Ltd., Oxford, UK (1985); B. D.Hames and S. J. Higgins (Ed), Transcription and Translation: A Practical Approach (Practical Approach Series), IRL Press Ltd., Oxford, UK (1984); B. Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning (2nd Edition), John Wiley & Sons, New York (1988); J. H. Miller and M. P. Calos (Ed), Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, New York (1987); R. J. Mayer and J. H. Walker (Ed), Immunochemical Methods in Cell and Molecular Biology, Academic Press, (1987); R. K. Scopes et al. (Ed), Protein Purification: Principles and Practice (2nd Edition, 1987 & 3rd Edition, 1993), Springer-Verlag、N.Y.; D. M. Weir and C. C. Blackwell (Ed), Handbook of Experimental Immunology, Vol.1, 2, 3 and 4, Blackwell Scientific Publications, Oxford, (1986); L. A. Herzenberg et al. (Ed), Weir's Handbook of Experimental Immunology, Vol. 1, 2, 3 and 4, Blackwell Science Ltd. (1997); R. W. Ellis (Ed), Vaccines new approaches to immunological problems, Butterworth-Heinemann, London (1992); R. Wu ed., "Methods in Enzymology", Vol. 68 (Recombinant DNA), Academic Press, New York (1980); R. Wu et al. ed., "Methods in Enzymology", Vol. 100 (Recombinant DNA, Part B) & 101(Recombinant DNA, Part C), Academic Press, New York (1983); R. Wu et al. ed., "Methods in Enzymology", Vol. 153 (Recombinant DNA, Part D), 154 (Recombinant DNA, Part E) & 155 (Recombinant DNA, Part F), Academic Press, New York (1987); J. H. Miller ed., "Methods in Enzymology", Vol. 204, Academic Press, New York (1991); R. Wu et al. ed., "Methods in Enzymology", Vol. 218, Academic Press, New York (1993); S. Weissman (ed.), "Methods in Enzymology", Vol. 303, Academic Press, New York (1999); J. C. Glorioso et al. (ed.), "Methods in Enzymology", Vol. 306, Academic Press, New York (1999); Jeremy Thorner et al. (ed.), "Methods in Enzymology", Vol. 326 to 328, Academic Press, New York (2000); David R. Engelke et al. (ed.), "Methods in Enzymology", Vol. 392, Academic Press, New York (2005)などに記載の方法あるいはそこで引用された文献記載の方法あるいはそれらと実質的に同様な方法や改変法により行うことができる (それらの中にある記載はそれを参照することにより本明細書の開示に含められる) 〔以下、これら全てを「遺伝子組換え技術」という)。
【0015】
本発明のガレクチン1ポリペプチド、ガレクチン9ポリペプチド、あるいはガレクチン9誘導因子ポリペプチドを製造するためには広範な単細胞および多細胞発現系(すなわち宿主−発現ベクターの組み合わせ)を使用しうる。可能なタイプの宿主細胞には細菌、酵母、昆虫、哺乳動物、植物などが含まれるが、これらに限定されない。大腸菌の場合、例えば大腸菌K12株あるいはB株に由来するものなどを挙げることができ、例えば、NM533, XL1-Blue, C600, DH1, DH5, DH11S, DH12S, DH5α, DH10B, HB101, MC1061, JM109, STBL2, B834株由来としては、BL21(DE3)pLysSなどが挙げられ、それに適した発現ベクターを選択して使用できる。酵母菌として、パン酵母、分裂酵母などが含まれてよく、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属、ピキア(Pichia)属菌などである。より具体的には、サッカロミセス・セレビッシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)などを挙げることができ、それに適した発現ベクターを選択して使用できる。代表的な発現ベクターとしては、例えば、pBR322、pUC18, pUC19, pUC118, pUC119, pSP64, pSP65, pTZ-18R/-18U, pTZ-19R/-19U, pGEM-3, pGEM-4, pGEM-3Z, pGEM-4Z, pGEM-5Zf(-), pGEMEX-1(Promega), pBC KS (Stratagene), pBC SK (Stratagene), pBluescriptTM SK (Stratagene), pBluescriptTM II SK (Stratagene社), pBluescriptTM II KS (Stratagene), pBS (Stratagene), pAS, pKK223-3(Amersham Pharmacia Biotech), pMC1403, pMC931, pKC30, pRSET-B (Invitrogen), pSE280(Invitrogen), pBTrp2(Boehringer Mannheim), pBTac1(Boehringer Mannheim), pBTac2(Roche社), pGEX(Amersham Biosciences), pQE series(QIAGEN), pET Expression System (Novagen), YEP13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)、YCp50(ATCC37419)、pHS19、pHS15、さらには、invitrogen vectors for Mammalian Expression (例えば、BsdCassetteTM Vectors, Epitope-Tagged pcDNATM Vectors, Eukaryotic TA Expression Kit, Flp-InTM Expression Vectors and Kits, Flp-InTM T-RExTM Expression Vectors, FreeStyleTM 293 Expression System, GeneSwitchTM System, pBC1 Milk Expression Vector Kit, pBudCE4.1, pcDNATM GatewayTM Vectors, pcDNATM3.1 Directional TOPOTM Expression Kit, pcDNATM3.1-E EchoTM Expression Vector Kit, pcDNATM3.1/V5-His TOPOTM Expression Kit, pcDNATM4/HisMax and pcDNATM4/HisMax TOPOTM TA Expression Kit, pcDNATM4/TO-E EchoTM Vector Expression Kit, pcDNATM6 BioEaseTM GatewayTM Biotinylation System, pcDNA/V5-GW/D-TOPOTM Vectors, pCEP4 and pREP4, pDisplayTM Vector, pEF6/V5-His TOPOTM TA Expression Kit, pFRT/lacZeo and pFRT/lacZeo2, pSecTag2 and pSecTag2/Hygro, pShooterTM Vectors, pVAXTM200-DEST Vector System, pVAX1, pZeoSV2, T-RExTM GatewayTM Vectors, T-RExTM System, Tag-On-DemandTM Technology, Untagged pcDNATM Vectors, Vivid ColorsTM pcDNATM 6.2 Fluorescent Protein GatewayTM Destination Vectors, ZeoCassetteTM Vectorsなど), Clontech vectors (例えば、Adenoviral Expression Vectors, CreatorTM System Vectors, IRES Bicistronic Expression Vectors, Living ColorsTM Fluorescent Protein Vectors, MATCHMARJER Vectors, Retroviral Expression Vectors, Signal Transduction Vectors, Tet Expression System Vectors, BacPak Baculovirus Expression Vectors, HAT Protein Expression System Vectorsなど), HaloTagTM pHT2 Vector, pACT Vectors, pBIND Vectors, pCATTM3 Vectors, pCI Vectors, phRG Vectors, phRL Vectors (Promega Corp.), Novagen vectors for protein expression (例えば、pTriEXTM Multisystem Expression Vectors, pBiEXTM Multisystem Expression Vectors, pTandemTM-1 Vector, pTK-neo DNAなど)などが挙げられるが、その他当該分野で知られていたり、市販されているものも適宜選択して使用できる。
【0016】
細胞(培養細胞を含む)、培養上清、あるいは抽出液中に含まれる目的生成物は、自体公知の分離・精製法を適切に組み合わせてその精製を行なうことができ、例えば硫酸アンモニウム沈殿法などの塩析、セファデックスなどによるゲルろ過法、例えばジエチルアミノエチル基あるいはカルボキシメチル基などを持つ担体などを用いたイオン交換クロマトグラフィー法、例えばブチル基、オクチル基、フェニル基など疎水性基を持つ担体などを用いた疎水性クロマトグラフィー法、色素ゲルクロマトグラフィー法、電気泳動法、透析、限外ろ過法、アフィニティ・クロマトグラフィー法、高速液体クロマトグラフィー法などにより精製して得ることができる。好ましくは、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、リガンドなどを固定化したアフィニティー・クロマトグラフィーなどで処理し精製分離処理できる。該リガンドとしては、特異的認識をするモノクローナル抗体を含めた抗体又はそのフラグメント、レクチン、糖、結合ペアーの一方などが挙げられる。例えば、イムノ・アフィニティー・クロマトグラフィー、ゼラチン−アガロース・アフィニティー・クロマトグラフィー、ヘパリン−アガロース・クロマトグラフィーなどが挙げられる。特には遺伝子組換え技術を利用し、融合タンパク質あるいは融合ポリペプチドとして産生せしめ、融合部(タグ)を利用して、それに対する抗体などの特異的結合リガンドを利用して、アフィニティー・クロマトグラフィーなどで簡便に精製できる。
【0017】
ガレクチン1、あるいはガレクチン9、及びその改変体、さらにガレクチン9誘導因子は、化学合成されたものであってよい。例えば、タンパク質及びその一部のペプチドの合成には、当該ペプチド合成分野で知られた方法、例えば液相合成法、固相合成法などの化学合成法を使用することができる。こうした方法では、例えばタンパク質あるいはペプチド合成用樹脂を用い、適当に保護したアミノ酸を、それ自体公知の各種縮合方法により所望のアミノ酸配列に順次該樹脂上で結合させていく。縮合反応には、好ましくはそれ自体公知の各種活性化試薬を用いるが、そうした試薬としては、例えばジシクロヘキシルカルボジイミドなどカルボジイミド類を好ましく使用できる。生成物が保護基を有する場合には、適宜保護基を除去することにより目的のものを得ることができる。同様に、ガレクチン9、及びその改変体、並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものをコードする核酸は、化学合成されたものであってよい。例えば、フォスフォトリエステル法、フォスフォジエステル法、フォスファイト法、フォスフォアミダイト法、フォスフォネート法などの方法により化学合成されることができる。通常合成は、修飾された固体支持体上で合成を便利に行うことができることが知られており、例えば、自動化された合成装置を用いて行うことができ、該装置は市販されている。ガレクチン9、及びその改変体、並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものをコードする核酸の配列内には、例えば、選択した宿主細胞で好適に発現するに適した修飾されたコドン(例えば、コドンの置換)を含むようにしてあってよいし、制限酵素部位が設けられていても良いし、目的とする遺伝子の発現を容易にするための発現制御配列、調節配列など、目的とする遺伝子を操作するのに適した、リンカー、アダプターなど、さらには抗生物質耐性などを制御したり、栄養要求性・代謝を制御したり、選別・検知などに有用な配列などを含む、便利又は有用な修飾が施されていても良い。
【0018】
本発明の活性成分を医薬として用いる場合、通常単独或いは薬理的に許容される各種製剤補助剤と混合して、医薬組成物又は医薬調製物などとして投与することができる。好ましくは、経口投与、局所投与、または非経口投与等の使用に適した製剤調製物の形態で投与され、目的に応じていずれの投与形態(吸入法、あるいは直腸投与も包含される)によってもよい。本発明の活性成分はそれぞれを混合物として、例えば、ガレクチン9とガレクチン9誘導因子との混合物、ネイティブなガレクチン9とガレクチン-9改変体との混合物などにして、それを使用してもよい。
また、本発明の活性成分は、各種医薬、例えば抗腫瘍剤(抗ガン剤)、抗生物質、腫瘍移転阻害剤、血栓形成阻害剤、関節破壊治療剤、鎮痛剤、消炎剤、抗アレルギー剤、免疫調節剤及び/又は免疫抑制剤と配合して使用することもでき、それらは、有利な働きを持つものであれば制限なく使用でき、例えば当該分野で知られたものの中から選択することができる。
そして、非経口的な投与形態としては、局所、経皮、静脈内、筋肉内、皮下、皮内もしくは腹腔内投与を包含し得るが、患部への直接投与も可能であり、またある場合には好適でもある。好ましくはヒトを含む哺乳動物に経口的に、あるいは非経口的(例、細胞内、組織内、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、腹腔内、胸腔内、脊髄腔内、点滴法、注腸、経直腸、点耳、点眼や点鼻、歯、皮膚や粘膜への塗布など)に投与することができる。具体的な製剤調製物の形態としては、溶液製剤、分散製剤、半固形製剤、粉粒体製剤、成型製剤、浸出製剤などが挙げられ、例えば、錠剤、被覆錠剤、糖衣を施した剤、丸剤、トローチ剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、マイクロカプセル剤、埋込剤、粉末剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、注射剤、液剤、エリキシル剤、エマルジョン剤、灌注剤、シロップ剤、水剤、乳剤、懸濁剤、リニメント剤、ローション剤、エアゾール剤、スプレー剤、吸入剤、噴霧剤、軟膏製剤、硬膏製剤、貼付剤、パスタ剤、パップ剤、クリーム剤、油剤、坐剤(例えば、直腸坐剤)、チンキ剤、皮膚用水剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、塗布剤、輸液剤、注射用液剤などのための粉末剤、凍結乾燥製剤、ゲル調製品等が挙げられる。
【0019】
医薬用の組成物は通常の方法に従って製剤化することができる。例えば、適宜必要に応じて、生理学的に認められる担体、医薬として許容される担体、アジュバント剤、賦形剤、補形剤、希釈剤、香味剤、香料、甘味剤、ベヒクル、防腐剤、安定化剤、結合剤、pH調節剤、緩衝剤、界面活性剤、基剤、溶剤、充填剤、増量剤、溶解補助剤、可溶化剤、等張化剤、乳化剤、懸濁化剤、分散剤、増粘剤、ゲル化剤、硬化剤、吸収剤、粘着剤、弾性剤、可塑剤、崩壊剤、噴射剤、保存剤、抗酸化剤、遮光剤、保湿剤、緩和剤、帯電防止剤、無痛化剤などを単独もしくは組合わせて用い、それとともに本発明のタンパク質等を混和することによって、一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態にして製造することができる。
非経口的使用に適した製剤としては、活性成分と、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る媒体との無菌性溶液、または懸濁液剤など、例えば注射剤等が挙げられる。一般的には、水、食塩水、デキストロース水溶液、その他関連した糖の溶液、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどのグリコール類が好ましい注射剤用液体担体として挙げられる。注射剤を調製する際は、蒸留水、リンゲル液、生理食塩液のような担体、適当な分散化剤または湿化剤及び懸濁化剤などを使用して当該分野で知られた方法で、溶液、懸濁液、エマルジョンのごとき注射しうる形に調製する。
【0020】
注射用の水性液としては、例えば生理食塩液、ブドウ糖やその他の補助薬(例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール、塩化ナトリウムなど)を含む等張液などが挙げられ、薬理的に許容される適当な溶解補助剤、たとえばアルコール(たとえばエタノールなど)、ポリアルコール(たとえばプロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、非イオン性界面活性剤(たとえばポリソルベート 80TM, HCO-50など)などと併用してもよい。油性液としてはゴマ油、大豆油などが挙げられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどと併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液など)又は浸透圧調節のための試薬、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノールなど)、アスコルビン酸などの酸化防止剤、吸収促進剤などと配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填される。
【0021】
非経口投与には、界面活性剤及びその他の薬学的に許容される助剤を加えるか、あるいは加えずに、水、エタノール又は油のような無菌の薬学的に許容される液体中の溶液あるいは懸濁液の形態に製剤化される。製剤に使用される油性ベヒクルあるいは溶剤としては、天然あるいは合成あるいは半合成のモノあるいはジあるいはトリグリセリド類、天然、半合成あるいは合成の油脂類あるいは脂肪酸類が挙げられ、例えばピーナッツ油、トウモロコシ油、大豆油、ゴマ油などの植物油が挙げられる。例えば、この注射剤は、通常本発明化合物を0.1〜10重量%程度含有するように調製されることができる。
局所的、例えば口腔、又は直腸的使用に適した製剤としては、例えば洗口剤、歯磨き剤、口腔噴霧剤、吸入剤、軟膏剤、歯科充填剤、歯科コーティング剤、歯科ペースト剤、坐剤等が挙げられる。洗口剤、その他歯科用剤としては、薬理的に許容される担体を用いて慣用の方法により調製される。口腔噴霧剤、吸入剤としては、本発明化合物自体又は薬理的に許容される不活性担体とともにエアゾール又はネブライザー用の溶液に溶解させるかあるいは、吸入用微粉末として歯などへ投与できる。軟膏剤は、通常使用される基剤、例えば、軟膏基剤(白色ワセリン、パラフィン、オリーブ油、マクロゴール400 、マクロゴール軟膏など)等を添加し、慣用の方法により調製される。
【0022】
歯、皮膚への局所塗布用の薬品は、適切に殺菌した水または非水賦形剤の溶液または懸濁液に調剤することができる。添加剤としては、例えば亜硫酸水素ナトリウムまたはエデト酸二ナトリウムのような緩衝剤;酢酸または硝酸フェニル水銀、塩化ベンザルコニウムまたはクロロヘキシジンのような殺菌および抗真菌剤を含む防腐剤およびヒプロメルローズのような濃厚剤が挙げられる。
坐剤は、当該分野において周知の担体、好ましくは非刺激性の適当な補形剤、例えばポリエチレングリコール類、ラノリン、カカオ脂、脂肪酸トリグリセライド等の、好ましくは常温では固体であるが腸管の温度では液体で直腸内で融解し薬物を放出するものなどを使用して、慣用の方法により調製されるが、通常本発明化合物を0.1 〜95重量%程度含有するように調製される。使用する賦形剤および濃度によって薬品は、賦形剤に懸濁させるかまたは溶解させることができる。局部麻酔剤、防腐剤および緩衝剤のような補助薬は、賦形剤に溶解可能である。 経口的使用に適した製剤としては、例えば錠剤、丸剤、カプセル剤、粉末剤、顆粒剤、トローチのような固形組成物や、液剤、シロップ剤、懸濁剤のような液状組成物等が挙げられる。製剤調製する際は、当該分野で知られた製剤補助剤などを用いる。錠剤及び丸剤はさらにエンテリックコーティングされて製造されることもできる。調剤単位形態がカプセルである場合には、前記タイプの材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。経口投与用製剤においては、好適には安定化剤を配合してある。当該安定化剤としては、ガレクチン1、ガレクチン 9及びその改変体及び/又はガレクチン9誘導因子を安定化し得る薬剤を意味し、例えば、グルコース、ガラクトース、キシロース、フラクトース、スクロース、マルトース、トレハロース、ネオトレハロース、イソトレハロース、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、ラクチトール、ラクトスクロース、マルトオリゴ糖、及び多糖類などの糖類及び糖アルコール、シクロデキストリン、ヒドロキシエチル澱粉、デキストリン及びデキストラン、グルクロン酸ナトリウム、リン酸塩及び金属塩などの塩類、血清アルブミン、ゼラチン、アミノ酸及び非イオン界面活性剤などから選ばれる1種又は2種以上を使用することができる。
【0023】
また、活性成分がタンパク質やポリペプチドである場合、ポリエチレングリコール(PEG)は、哺乳動物中で極めて毒性が低いことから、それを結合させることは特に有用である。また、PEG を結合せしめると、異種性化合物の免疫原性及び抗原性を効果的に減少せしめることができる場合がある。該化合物は、マイクロカプセル装置の中に入れて与えてもよい。PEG のようなポリマーは、アミノ末端のアミノ酸のα-アミノ基、リジン側鎖のε-アミノ基、アスパラギン酸又はグルタミン酸側鎖のカルボキシル基、カルボキシ末端のアミノ酸のα-カルボキシル基、又はある種のアスパラギン、セリン又はトレオニン残基に付着したグリコシル鎖の活性化された誘導体に、簡便に付着させることができる。
タンパク質との直接的な反応に適した多くの活性化された形態のPEG が知られている。タンパク質のアミノ基と反応させるのに有用なPEG 試薬としては、カルボン酸、カルボネート誘導体の活性エステル、特に、脱離基がN-ヒドロキシスクシンイミド、p-ニトロフェノール、イミダゾール、又は1-ヒドロキシ-2-ニトロベンゼン-4-スルフォネートであるものが挙げられる。同様に、アミノヒドラジン又はヒドラジド基を含有するPEG 試薬は、タンパク質中の過ヨウ素酸酸化によって生成したアルデヒドとの反応に有用である。
【0024】
遺伝子治療用ビヒクルは、遺伝子組換え技術を利用して、簡便に得ることができ、哺乳動物における発現のために哺乳動物に送達されるべき本発明の治療薬たるコード配列(例えば、ガレクチン1コード配列、ガレクチン9コード配列、あるいはガレクチン9誘導因子コード配列)を含んでいる構築物(コンストラクト、construct)を送達するためのもの、あるいは、ガレクチン9(あるいはガレクチン1、又はガレクチン9誘導因子)の全てもしくは部分であって且つ送達のためのものである核酸配列をも含んでいる該構築物を送達するためのものであって、局所的または全身的のいずれかの方法で投与されることのできるものである。これらの構築物は、インビボまたはエキソビボの形で、ウイルスベクターによるアプローチまたは非ウイルスベクター形式でのアプローチを利用することのできるものである。このようなコード配列を発現するには、内因性の哺乳動物プローモーターまたは異種プロモーターを使用して誘導することにより行うことができる。インビボでのコード配列の発現は、構築的になされるか、または調節されて行われるかのいずれかである。ガレクチン9(あるいはガレクチン1、又はガレクチン9誘導因子)が哺乳動物において発現される場合、可溶性のガレクチン9(あるいはガレクチン1、又はガレクチン9誘導因子)として発現されることができるし、ある場合には膜結合型ガレクチン9(あるいはガレクチン1、又はガレクチン9誘導因子)として発現されることもできる。これらの両方においてまたはそのいずれかにおいて、それらは、例えば、全てのガレクチン9(あるいはガレクチン1、又はガレクチン9誘導因子)、またはガレクチン9(あるいはガレクチン1、又はガレクチン9誘導因子)の生物学的に活性な部分、バリアント、改変体、誘導体、もしくは融合体などであってよい。所要の遺伝子の共発現を目的としたものも含まれてよい。
【0025】
本発明は、所要のガレクチン1の核酸配列、及び/又はガレクチン9の核酸配列、及び/又はガレクチン-9誘導因子の核酸配列を発現することのできる遺伝子導入ベクター(共遺伝子導入も包含される)を提供する。遺伝子導入ベクターとしては、好ましくは、ウイルスベクターが挙げられ、より好ましくは、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ヘルペスウイルス、またはアルファウイルスなどのウイルスベクターなどが挙げられる。ウイルスベクターとしては、さらに、アストロウイルス、コロナウイルス、オルトミクソウイルス、パポバウイルス、パラミクソウイルス、パルボウイルス、ピコルナウイルス、ポックスウイルス、トガウイルスなどのウイルスベクターも挙げられ、例えば、HVJ Envelope Vector(石原産業)なども挙げられる。当該遺伝子導入ベクターに関しては、一般には、D. Jolly, Cancer Gene Therapy, 1(1): 51-64 (1994); O. Kimura et al., Human Gene Therapy, 5: 845-852 (1994); S. Connelly et al., Human Gene Therapy, 6: 185-193 (1995); M.G. Kaplitt et al., Nature Genetics, 8: 148-153 (1994)などを参照することができる。
【0026】
上記したように、エンドトキシン、すなわち、LPSは、種々の生物活性を示し、それらの活性は、LPSの細胞への直接の作用及びその結果産生されるサイトカインなどの液性因子により起こっているとの指摘もされている。こうした液性因子としては、インターロイキン(IL)、腫瘍壊死因子(TNF)、インターフェロン(IF)などのサイトカイン、血小板活性化因子(PAF)、アラキドン酸カスケード因子などのケミカルメディエーター、組織因子(TF)などが挙げられる。
ガレクチン1やガレクチン9、例えば、M型ガレクチン-9、さらには安定化ガレクチン9 (ガレクチン9改変体、例えば、G9NC(null)) 、そしてガレクチン9誘導因子9からなる群から選択されたものは、エンドトキシン及びそれに関連した生体反応現象を制御する(又は抑制する)活性を有している。
【0027】
ところで、LPSの生物活性としては、(1)致死活性、(2)エンドトキシンショック、(3)発熱、(4)アジュバント活性、(5)マクロファージの活性化、(6)補体系別経路活性化、(7)物質の膜透過に対する関与、(8)抗腫瘍作用、(9)ウイルスのレセプター、(10) 循環器障害、補体の活性化、血管内血液凝固、(11)白血球全般の減少と増多、低血糖、低血圧、主要臓器の機能不全および致死性のショック作用、(12)リンパ球や血管内皮細胞などでLPSの刺激により分泌されたサイトカインなどにより引き起こされるショック作用、(13)サイトカインやオーダアコイドの誘導、(14)中枢神経細胞、筋肉細胞の障害、(15)凝固因子、排出促進物質の活性化、血管の収縮と拡張、薬物代謝酵素の阻害、(16)シュワルツマン反応(出血壊死を伴う非免疫学的炎症反応)、(17) 血小板凝集によるセロトニンの放出などを含む血管系の障害、(18)インターフェロンの誘発、(19)遊走性阻害、物質の膜透過に対する関与などが知られている。LPSの致死活性とは、血圧低下、心拍量の低下による循環器障害、エンドトキシンショック(例えば、大量の抗生物質が投与されると一気に菌が崩壊してLPSが血流に流れ込みショック状態に陥る)などの現象が挙げられる。
【0028】
かくして、ガレクチン1やガレクチン9、例えば、M型ガレクチン-9、さらには安定化ガレクチン9 (ガレクチン9改変体、例えば、G9NC(null)) 、並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものを使用して、(1)致死活性を抑制したり、(2)エンドトキシンショックを抑制したり、(3)発熱を抑えたり、(4)アジュバント活性を抑制したり、(5)マクロファージの活性化を抑制したり、(6)補体系別経路活性化を抑制したり、(7)循環器障害を抑制したり、(8)補体の活性化を抑制したり、(9)血管内血液凝固を抑制したり、(10)白血球全般の減少と増多、低血糖、低血圧、主要臓器の機能不全および致死性のショック作用を抑制したり、(11)リンパ球や血管内皮細胞などでLPSの刺激により分泌されたサイトカインなどにより引き起こされるショック作用を抑制したり、(12)サイトカインやオーダアコイドの誘導を抑制したり、(13)中枢神経細胞、筋肉細胞の障害を抑制したり、(14)シュワルツマン反応(出血壊死を伴う非免疫学的炎症反応)を抑制したり、(15) 血小板凝集によるセロトニンの放出などを含む血管系の障害を抑制したりするできる。
【0029】
LPSの致死活性には、血圧低下、心拍量の低下による循環器障害、エンドトキシンショック(例えば、大量の抗生物質が投与されると一気に菌が崩壊してLPSが血流に流れ込みショック状態に陥る)などの現象が挙げられるが、ガレクチン1やガレクチン9、例えば、M型ガレクチン-9、さらには安定化ガレクチン9 (ガレクチン9改変体、例えば、G9NC(null)) 、並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものは、それらの予防及び/又は治療活性を示すと考えられる。LPSは、発熱、白血球の減少、血小板の減少、骨髄出血壊死、血糖低下、網内系機構亢進、補体の活性化、B細胞の活性化をしめすことから、それらを抑制できる可能性もある。ガレクチン1やガレクチン9、例えば、M型ガレクチン-9、さらには安定化ガレクチン9 (ガレクチン9改変体、例えば、G9NC(null)) 、並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものは、エンドトキシンショック抑制(阻害)活性、エンドトキシン誘起サイトカイン産生の調整活性、シュワルツマン反応の予防及び/又は治療活性を示すし、さらに、炎症及び炎症性疾患に対する治療及び/又は予防剤の可能性が示唆されるし、特には細菌感染症、菌血症、敗血症、敗血症ショック、エンドトキシンショックなどの症状の予防及び/又は治療に有効な活性を有する。
【0030】
LPSは、菌種ごとに異なっており、その生物活性も異なる。LPS研究には、一般的には、臨床上重要な細菌に関するものが使用され、例えば、大腸菌(Escherichia coli)やサルモネラ菌(Salmonella)由来のものがエンドトキシン標準品として定められており、日本薬局方では、Escherichia coli UKT-B株由来のもの、米国薬局方では、Escherichia coli O113株由来のもの、欧州薬局方では、Salmonella abortus-equi株由来のものが使用される。
本明細書で「ガレクチン-9」について説明した内容は、「ガレクチン-9誘導因子」に置き換えてその内容を解釈するものであってよい。
明細書及び図面において、用語は、IUPAC-IUB Commission on Biochemical Nomenclatureによるか、あるいは当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものである。
PBS: リン酸緩衝(化)食塩水(phosphate-buffered saline)
FITC: フルオレッセイン イソチオシアネート(fluorescein isothiocyanate)
RPMI: RPMI培地(動物細胞培養用基礎培地)
BSA: 牛血清アルブミン(bovine serum albumin)
mAb: モノクローナル抗体(monoclonal antibody)
MHC: 主要組織適合複合体(major histocompatibility complex)
PMN: 多形核白血球(polymorphonuclear leukocyte)
【0031】
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。
全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。
なお、以下の実施例において、特に指摘が無い場合には、具体的な操作並びに処理条件などは、DNA クローニングではJ. Sambrook et al., "Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd edition (1989) & 3rd edition (2001) ", Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York及び D. M. Glover et al. ed., "DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1 to 4, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995); PCR 法を使用する場合には、H. A. Erlich ed., PCR Technology, Stockton Press, 1989 ; D. M. Glover et al. ed., "DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995) 及び M. A. Innis et al. ed., "PCR Protocols", Academic Press, New York (1990)に記載の方法に準じて行っているし、また市販の試薬あるいはキットを用いている場合はそれらに添付の指示書(protocols) や添付の薬品等を使用している。
recombinant human Gal-9、特にはM型ガレクチン9(Gal9M)は、Matsumoto R. et al., J Biol Chem., 1998, 273:16976-84、Matsushita N. et al., J Biol Chem., 2000, 275:8355-60、WO 2004/064857 (2004.08.05)などに開示の方法で製造取得されている。
G9NC(null)は、PCT/JP 2005/006580 (出願日2005.03.29)に開示され、PCT/JP 2005/006580の実施例1で製造取得される。
【実施例1】
【0032】
〔エンドトキシン誘起サイトカイン産生に対するガレクチンの作用効果〕
ガレクチン9(Gal-9)のエンドトキシン及びそれに関連した生体反応現象に対する生物活性を調べる目的で、ガレクチン9(M型ガレクチン9: Gal9M)を使用してその発揮する作用効果を検討した。
BALB/cマウス(♀ 6週齢)にリポ多糖(lipopolysaccharide; LPS)(ここでLPSはE. coli, 0111:B4由来、Sigma-Aldrich社製) 10μgを腹腔内に投与した。
ガレクチン9(Gal-9)の効果を調べるため、recombinant human Gal-9 (M型ガレクチン9: Gal9M、以下の図及び表では、Gal9と表記)をマウスに投与した。
Gal-9投与群については、次のように薬剤を投与した。
(1) Gal-9(Gal9M)をそれぞれ70μg、7μgを腹腔内投与後、直ちにLPSを投与した。
(2) Gal-9(Gal9M)を、LPS投与3時間前、LPS投与と同時、LPS投与30分後にそれぞれ投与した。
(3) Gal-9(Gal9M)を、70μgを腹腔または尾静脈より投与した。直後に腹腔よりLPSを投与した。
マウス眼窩静脈より経時的に採血し、血清を調製し、その後血清中のサイトカイン濃度の測定をELISA(Pierce Endogen社製)で行った。各サイトカイン誘導のピーク時の値を記した。測定時間はLPSまたはLPSとGal-9投与後、TNF-αは1時間、IL-12(p70)は3時間、IFN-γは6時間であった。
測定結果を、図1〜3示す。図1のAには、Gal-9投与群について上記(1)のように薬剤を投与した結果を、図2のBには、Gal-9投与群について上記(2)のように薬剤を投与した結果を、図3のCには、Gal-9投与群について上記(3)のように薬剤を投与した結果を、それぞれ示してある。これらの結果、LPSとGal-9 (Gal9M)を同時に投与した場合、LPS投与のみに比べ、TNF-α、IL-12(p70)、IFN-γの生産を抑制した。このことからGal-9はLPSの誘導する炎症を抑制する可能性が示唆される。
【実施例2】
【0033】
〔エンドトキシンショックのモデルに対するガレクチンの作用効果〕
実施例1の結果より、ガレクチン9がLPSの誘導する炎症を抑制する可能性が示唆されたので、LPSによるエンドトキシンショックのモデルであるジェネラライズドシュワルツマン反応(generalized Shwartzman reaction)を用いて、Gal-9(例えば、M型ガレクチン9(リコンビナントGal9M))によるエンドトキシンショック抑制効果を検討した。
本モデルは少量のLPS(10μg/mouse)を腹腔内に投与した後、24時間以内に再度LPS(120μg/mouse)を投与することにより致死性のショックを起こす。モデル動物群は7グループ(Groups 1〜7)とした。各動物群における最初の感作は表1に示すとおりである。すなわち、Group 3及び4は1回目のLPS投与時にGal-9(Gal9M)をそれぞれ70μg、7μg腹腔内投与した。Group 5は1回目のLPS投与時にGal-9(Gal9M)を70μg静脈内投与した。Group 6及び7は2回目のLPS投与時にGal-9(Gal9M)を70μgそれぞれ腹腔と静脈に投与した。テスト結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
1回目のLPS投与時にGal-9 (Gal9M)を70μg/mouseの用量で同時に投与すると、LPSを投与したマウスがショック死するのに対し、Gal-9 (Gal9M)の同時投与で全てのマウス(6匹中6匹)がショック死を免れ生存した。
recombinant human Gal-9 (Gal9M)はLPSの誘導するTNF-α、IL-12(p70)、IFN-γの生産を抑制し、エンドトキシンショックを防ぐ効果があることがわかった。つまり、ガレクチン9(Gal-9)はLPSの誘導するTNF-α、IL-12(p70)、IFN-γの生産を抑制し、エンドトキシンショックを防ぐ効果がある。
これにより、ガレクチン9(特には、Gal9M)がエンドトキシン及びそれに関連して生ずるた生体反応を抑制する活性を有していることが認められ、LPSの生物活性を抑制でき、例えば、炎症及び炎症性疾患に対する治療及び/又は予防剤の可能性が示唆されるし、特には細菌感染症、菌血症、敗血症、敗血症ショック、エンドトキシンショックなどの抑制剤として利用できる可能性が示唆される。
【実施例3】
【0036】
〔エンドトキシン暴露後のサイトカイン産生に対するガレクチンの作用効果〕
エンドトキシン-チャレンジ(challenge)後の生体反応現象に対するガレクチン9 (Gal-9)の生物活性を調べる目的で、ガレクチン9(例えば、M型ガレクチン9)を使用してその作用効果を検討した。
BALB/cマウス(♀ 6週齢)にLPS (10μg/mouse, LPS= E. coli, 0111:B4由来、Sigma-Aldrich社製)を腹腔内投与後、24時間以内に再度LPS(120μg/mouse)を静脈内投与した。
ガレクチン9(Gal-9)の効果を調べるために、recombinant human Gal-9 (M型ガレクチン9: Gal9M, Gal9)をマウスに投与した。Gal-9投与群については、1回目のLPS投与時にGal-9 (Gal9M, 70μg/mouse)を腹腔内投与した。
マウス眼窩静脈より経時的に採血し、血清を調製後、血清中のサイトカイン濃度の測定をELISA(Pierce Endogen社製)で行った。測定時間は2回目のLPS投与後、TNF-αは1時間、IL-12(p70)は3時間、IFN-γは6時間、IL-10は1時間であった。
測定結果を、図4に示す。この結果、LPS-チャレンジの後にGal-9 (Gal9M)を投与することで、TNF-α、IL-12(p70)、IFN-γの生産が抑制され、一方IL-10の産生は増強された。このことからGal-9はLPSの誘導する炎症を抑制する可能性が示唆される。
【実施例4】
【0037】
〔エンドトキシン誘起サイトカイン産生に対するガレクチンの作用効果〕
ガレクチン類のエンドトキシン及びそれに関連した生体反応現象に対する生物活性を調べる目的で、ガレクチン-1、-3、-8(例えば、M型ガレクチン-8、すなわち、リコンビナントGal8M)、-9(すなわち、M型ガレクチン9)を使用してその発揮する作用効果を検討した。
BALB/cマウス(♀ 6週齢)にLPS (10μg/mouse, LPS= E. coli, 0111:B4由来、Sigma-Aldrich社製)を腹腔内投与した。
試験薬物、Gal-1、-3、-8(Gal8M)、-9(Gal9M)投与群はLPSと同時にそれぞれ70μg/mouseを腹腔内投与した。その後、マウス眼窩静脈より経時的に採血し、血清を調製後、血清中のサイトカイン濃度の測定をELISA(Pierce Endogen社製)で行った。測定時間はLPS投与後またはLPSと各ガレクチン投与後、TNF-αは1時間、IL-12(p70)は3時間、IFN-γは6時間であった。
測定結果を、図5に示す。この結果、LPSと、ガレクチン-1、-8又は-9を投与することで、TNF-α、IL-12(p70)、IFN-γの生産が抑制された。このことからGal-1、-8及び-9がLPSの誘導する炎症を抑制する可能性が示唆される。ガレクチン-3には、有意な産生抑制を示すデータは得られなかった。
【実施例5】
【0038】
〔エンドトキシンショックのモデルに対するガレクチンの作用効果〕
LPSによるエンドトキシンショックのモデルであるジェネラライズドシュワルツマン反応を用いて、ガレクチン類、すなわち、ガレクチン-1、-3、-8(例えば、M型ガレクチン-8、すなわち、リコンビナントGal8M)、-9(すなわち、M型ガレクチン9(例えば、リコンビナントGal9M))によるエンドトキシンショックに対する効果を検討した。
本モデルは少量のLPS(10μg/mouse)を腹腔内に投与した後、24時間以内に再度LPS(120μg/mouse)を投与することにより致死性のショックを起こす。
モデル動物群は6グループ(Groups 1〜6)とした。各動物群における最初の感作は表2に示すとおりである。すなわち、ガレクチン投与群は1回目のLPS投与時にそれぞれ70μg/mouseずつ腹腔内に投与した。テスト結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
1回目のLPS投与時にGal-1あるいはGal-9 (Gal9M)を70μg/mouseの用量で同時に投与すると、LPSを投与したマウスがショック死するのに対し、Gal-1あるいはGal-9 (Gal9M)の同時投与で全てのマウス(6匹中6匹)がショック死を免れ生存した。
ガレクチン-1やrecombinant human Gal-9 (Gal9M)はLPSの誘導するTNF-α、IL-12(p70)、IFN-γの生産を抑制し、エンドトキシンショックを防ぐ効果があることがわかった。つまり、ガレクチン-1及びガレクチン9(Gal-9)はLPSの誘導するTNF-α、IL-12(p70)、IFN-γの生産を抑制し、エンドトキシンショックを防ぐ効果がある。
これにより、ガレクチン-1及びガレクチン9(特には、M型ガレクチン9(例えば、リコンビナントGal9M))がエンドトキシン及びそれに関連して生ずるた生体反応を抑制する活性を有していることが認められ、LPSの生物活性を抑制でき、例えば、炎症及び炎症性疾患に対する治療及び/又は予防剤の可能性が示唆されるし、特には細菌感染症、菌血症、敗血症、敗血症ショック、エンドトキシンショックなどの抑制剤として利用できる可能性が示唆される。
【実施例6】
【0041】
〔エンドトキシンショックのモデルで誘導される細胞群〕
A. BALB/cマウスにLPS(10μg/mouse)、Gal-9(Gal9M, 70μg/mouse)、そしてLPS (10μg/mouse) + Gal-9 (70μg/mouse)の3群にわけて腹腔内に投与し、投与前、投与後3時間、投与後12時間、投与後24時間の腹腔内の好中球とマクロファージを測定した。得られた結果を図6に示す。
B. BALB/cマウスに(1) PBS + Gal-1、-3、-8(Gal8M)、又は-9(Gal9M) (それぞれ70μg/mouse)の組合せ(PBS群)若しくは(2) LPS(10μg/mouse) + Gal-1、-3、-8、又は-9 (それぞれ70μg/mouse)の組合せ(LPS群)を腹腔内投与した。Gal-9(Gal9M)については、静脈内投与も併せて施行した。PBS群は投与後3時間、LPS群は投与後12時間に腹腔内細胞を採取し、好中球数を測定した。測定方法は、Anti-Mouse Ly-6G R-PHYCOERYTHRIN CONJ. (CALTAG LABORATORIES)とFITC anti-mouse I-A/I-E(2G9)(BD Pharmingen)で染色し、Gr-1 positive MHC class II negative populationの割合をFACS Calibur 4カラータイプアナライザー(BD)で測定する方法と全細胞数を乗じる方法と、サイトスピン後のギムザ染色により細胞を選定し測定する方法を施行した。得られた結果を図7に示す。どちらも同様の結果が得られた。
〔エンドトキシンショックのモデルで誘導される腹腔好中球によるプロスタグランディン産生〕
C. BALB/cマウスにLPS(10μg/mouse)及びLPS (10μg/mouse) + Gal-1、-3、-8(Gal8M)、又は-9(Gal9M) (それぞれ70μg/mouse)の組合せを腹腔内に投与した。翌日、腹腔内細胞を採取し、MACS法によりマクロファージと好中球を分別採取した。腹腔マクロファージ、腹腔好中球、末梢血好中球をそれぞれ96穴プレートに105/wellずつ入れ、LPS(100ng/ml)刺激群、非刺激群に分け、一晩培養した(total medium 200μlとした)。培養後、上清を採取し、ELISA法でそれぞれの上清中PGE2をPGE2 ELISA Kit (ENDOGEN, EHPGE2)で測定した。得られた結果を図8に示す。
【実施例7】
【0042】
〔エンドトキシンショックのモデルに対するガレクチンの作用効果〕
BALB/cマウスにLPS(10μg/mouse)を腹腔内投与し、24時間以内に再度LPS(120μg/mouse)を静脈内投与した。Gal-9(Gal9M)投与群については、1回目のLPS投与時に70μg/mouseもしくは80μg/mouseを腹腔内投与した。抗体(モノクローナル抗Gr-1抗体; Anti-Gr-1 mAb)投与群については、まず、抗Gr-1抗体産生ハイブリドーマ株、RB6-8C5をnudeマウスの腹腔へ投与して、約10日後に抗体を含んだ腹水を採取した。この抗体含有腹水200μlをBALB/cマウスの腹腔内へ予め投与して、その3日後に1回目のLPS を投与した。最終LPS投与の後、72時間マウスを観察し、生存率を求めた。得られた結果(neutropenia miceのシュワルツマン反応に対するガレクチン9の作用)を表3に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
〔ガレクチン-9発現マウスにおけるエンドトキシン投与の影響〕
CAGプロモーターを使用して、Gal-9(Gal9M: TG-Gal9)を過剰発現させたマウスと、N末CRDの糖鎖結合能を欠失したGal-9(TG-mutated Gal9)を過剰に発現させたマウスとを作製し、これらマウスに、それぞれLPS (10μg/mouse)を腹腔内に投与した。
本実験で使用したTg-Gal9は、野生型マウスガレクチン-9の中で短いリンカーペプチドを持つアイソフォーム(major isoform、322アミノ酸:Wada J. Kanwar YS, J. Biol Chem. 272(9): 6078-86 (1997))をCAGプロモータにより発現させたものである。またTG-mutated Gal9は、野生型マウスガレクチン-9の中で短いリンカーペプチドを持つアイソフォーム(major isoform、322アミノ酸:ibid. 272(9): 6078-86 (1997))のC-末端側糖鎖結合ドメインに変異(Arg238His)を導入し、このドメインの糖鎖結合能を破壊した変異体をCAGプロモータにより発現させたものである。
ガレクチン-9発現トランスジェニックマウスは、次のようにして作出した。
マウスガレクチン-9 トランスジェニックマウス(ファウンダ(founder)マウス)の作出は日本エスエルシー株式会社に委託した。すなわち、発現プラスミドとしてpCXN2を使用して、マウスガレクチン-9遺伝子を含むDNA構築物を調製した。発現プラスミドより、マウスガレクチンー9のcDNAを含むpCXN2断片を調製し、マウス(BALB/c Cr Slc)受精卵前核へマイクロインジェクッションした。状態の良好な卵を仮親雌マウス(Slc : ICR)の卵管に移植し、妊娠した仮親を自然分娩または子宮切断術を行い、産仔(ファウンダ(founder)マウス)を得た。マウスガレクチン-9遺伝子導入の成否を、仔マウスの尾部から抽出したDNAを用いたPCRにより確認した。PCR用プライマーの配列は、pCXN2の塩基番号1697〜1716位に対応する配列(ベクター側: 5'-GCTGTCTCATCATTTTGGCA-3')と野生型マウスガレクチン-9の塩基配列322〜341位に相補的な配列(リバース配列: 5'-TTCACCATCACCTTGAACTC-3')をそれぞれ使用した。
産仔71匹中、ゲノム解析の結果、野生型マウスガレクチン-9 (Tg-Gal9)は雄8匹、雌4匹、マウスガレクチン-9Arg238His変異体(TG-mutated Gal9)では雄4匹、雌4匹が得られた。それぞれを BALB/c マウス(BALB/c Cr Slc)の雌雄と交配を行い、その子孫への導入遺伝子の継代を確認して系統化した。
最終的に、野生型マウスガレクチン-9トランスジェニックマウス(Tg-Gal9)は8ライン(番号:W1,W2,W3,W5,W6,W7,W12,W14)、マウスガレクチン-9Arg238His変異体(TG-mutated Gal9)は4ライン(番号:M101,M103,M104,M1112)を作出した。本実験にはF5〜6の野生型マウスガレクチン-9トランスジェニックマウス(Tg-Gal9)はW1を、マウスガレクチン-9Arg238His変異体はM101を使用した。
マウス眼窩静脈より経時的に採血し、血清を調整後、実施例1と同様にして、サイトカイン測定をELISA法により行った。測定時間はLPS投与後、TNF-αは1時間、IL-12(p70)は3時間、IFN-γは6時間であった。得られた結果を図9に示す。
【0045】
サイトカインは、細胞から産生されて細胞間のメッセージを伝えるタンパク物質で、一般には受容体に結合し、様々な生物活性を発揮する。腫瘍壊死因子、例えば、TNF-αは、脂肪酸合成抑制、血管内皮細胞の活性化、腫瘍細胞傷害、マクロファージやナチュラルキラー(NK)細胞の活性化などの作用があるといわれており、インターロイキン、例えば、IL-12(p70)は、LAK細胞誘導、NK細胞活性化、IFN-γ生産促進、Th1型細胞分化促進などの作用があるといわれており、IL-10は、Th細胞からのサイトカイン産生抑制、B細胞増殖などの作用があるといわれており、関節炎の発症などを抑制する働きがあるとも言われており、慢性リュウマチの治療に有望視されているもので、インターフェロン、例えば、IFN-γは、IL-4と拮抗、ウイルス増殖阻止、腫瘍細胞増殖阻止、MHC発現促進などの作用があるといわれている。そして、抗IFN-γは、自己免疫疾患、リウマチ性関節炎、多発性硬化症、移植拒絶反応、円形脱毛症、白斑、乾癬性関節炎、乾癬その他の疾患の治療に有効との報告もある。
LPSをマウスなどの動物の腹腔内に投与すると、マウスなどの動物の腹腔滲出細胞のガレクチン-9(Gal9)発現が増強され、さらに産生・遊離が誘導されることが、該滲出細胞培養上清、血清及び腹腔洗浄液中のGal9を測定することにより明らかにしている。また、マウス腹腔内にLPSと同時にGal9を投与すると、LPS単独投与群に比してTh1サイトカインであるTNF-α、IL-12、及びIFN-γの減少と、Th2サイトカインであるIL-4及びIL-10の増加が認められた。LPSとGal9を同時に投与したマウス腹腔内には好酸球の浸潤と共に、LPS単独投与のマウスに比して、好中球浸潤の時間が少し遅延するが、より多数の好中球の浸潤が認められた。予め抗Gr-1抗体をマウス腹腔内に投与し、好中球を除去したマウスで同様の実験を行うと、Gal9投与によるTh1サイトカインの産生抑制効果は全く観察されなかった。
このことから、ガレクチン-9(Gal9)によるTh1サイトカイン産生の抑制には、Gal9によって浸潤してきた好中球が深く関与していることが予想される。そのことから、ガレクチン-9(Gal9)(M型ガレクチン9(Gal9M)や安定型ガレクチン-9を含む)が細菌感染などの早期の防御システムに、好中球を通して重要な機能を果たしている可能性が示唆された。さらに、ガレクチン-9によって滲出してきた好中球の炎症調節機能にも関与することが想定される。
以上より、ガレクチン-1やガレクチン-9(例えば、M型ガレクチン9)がエンドトキシン及びそれに関連した生体反応現象を制御する活性を有していることが認められることから、上記LPSの生物活性を抑制でき、例えば、炎症及び炎症性疾患に対する治療及び/又は予防剤の可能性が示唆されるし、特には細菌感染症、菌血症、敗血症、敗血症ショック、エンドトキシンショックなどの抑制剤として利用できる可能性が示唆された。
【実施例8】
【0046】
上記実施例1〜7におけるガレクチン9活性のテストは、ガレクチン9改変体(安定型ガレクチン9, G9NC(null))を使用しても確認できよう。すなわち、PCT/JP 2005/006580 (出願日2005.03.29)の実施例1で製造取得されている安定型ガレクチン9, G9NC(null)〔PCT/JP 2005/006580(出願日2005.03.29)の配列番号1で示される塩基配列によりコードされ、配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド〕を使用できる。
該安定型ガレクチン-9(ガレクチン-9改変体)、すなわちG9NC(null)は次のようにしても調製できる。
安定型ガレクチン-9 (G9NC(null))の発現誘導は、pET-G9NC(null)でエレクトロポレーション法で形質転換した大腸菌(BL21(DE3))を2%(w/v)グルコース及び100 μg/mlアンピシリン含有2 x YT培地で培養し、600 nmの吸光度が0.7に達した時点でイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシドを最終濃度0.15 mMになるように添加して行った。20℃で 22.5時間培養した後、遠心により菌体を集め、これを-80℃で精製まで保存した。凍結保存した菌体を10 mM Tris-HCl (pH7.5), 0.5 M NaCl, 1 mM DTT, 1 mM PMSF, 10 mM MgCl2, 25 μg/ml DNase, 0.2 mg/ml 卵白リゾチーム中によく懸濁した後に、最終濃度1%になるようにTriton X-100を加えて18分間超音波処理した。18,800 x gで75分間遠心し、得られた上清中の組み換えタンパク質をラクトースアガロースを用いたアフィニティークロマトグラフィーで精製した後に、透析によってバッファーをPBSに置換した。これを0.22 μmの滅菌フィルターを通して沈殿物を除去した後に、セルロファイン ET-Clean L処理でエンドトキシンを除去し、さらに0.22 μmの滅菌フィルターを通して雑菌及び沈殿物を除去して G9NC(null) の最終標品とした。
【0047】
このようにして調製された G9NC(null) はタンパク質ポリアクリルアミド電気泳動で夾雑バンドを認めず、エンドトキシン量は 0.5 EU/ml 以下である。凍結・融解に安定で、4℃保存でも半年以上安定に生物活性を保持する。
ガレクチン9としては、ネイティブなL型ガレクチン9、M型ガレクチン9及びS型ガレクチン9を「遺伝子組換え技術」を用い、宿主細胞中で発現して得られたリコンビナント体として取得でき、それを使用してよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、有効成分としてガレクチン1、ガレクチン9及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものを含有せしめてなるエンドトキシン及びそれに関連した生体反応現象を制御する(又は抑制する)剤、ガレクチン1、ガレクチン9及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものが発揮するエンドトキシンの生物活性を抑制する生物活性を利用してエンドトキシンに起因する病気又は疾患に対する治療剤及び/又は予防剤、さらには炎症などのエンドトキシンに関連する疾患に対する治療剤及び/又は予防剤とすることにより、治療が困難な対象に対して、効果的に優れた活性を得ている。例えば、炎症及び炎症性疾患に対する治療及び/又は予防技術、特には細菌感染症、菌血症、敗血症、敗血症ショック、エンドトキシンショックなどの症状の予防及び/又は治療技術が提供される。本発明では、ガレクチン1、ガレクチン9及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものの遺伝子を導入することによる上記の作用効果を得る病気又は疾患治療及び/又は予防技術、さらには炎症及び炎症性疾患、さらには細菌感染症、菌血症、敗血症、敗血症ショック、エンドトキシンショック、肺血症性多臓器不全症、敗血症などに起因する合併症などの治療及び/又は予防技術も提供する。
本発明は、前述の説明及び実施例に特に記載した以外も、実行できることは明らかである。上述の教示に鑑みて、本発明の多くの改変及び変形が可能であり、従ってそれらも本件添付の請求の範囲の範囲内のものである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】エンドトキシン(LPS)投与マウスにおけるガレクチン9(ガレクチン9としてGal9Mを使用)のサイトカイン産生に及ぼす効果を調べた結果(血清サンプル中のサイトカインの量)を示す。LPS投与と同時にGal9Mをそれぞれ70μg、7μgを腹腔内投与した結果を示してある。
【図2】エンドトキシン(LPS)投与マウスにおけるガレクチン9(ガレクチン9としてGal9Mを使用)のサイトカイン産生に及ぼす効果を調べた結果(血清サンプル中のサイトカインの量)を示す。LPS投与3時間前、LPS投与と同時、LPS投与30分後にそれぞれGal9Mを投与した結果を示してある。
【図3】エンドトキシン(LPS)投与マウスにおけるガレクチン9(ガレクチン9としてGal9Mを使用)のサイトカイン産生に及ぼす効果を調べた結果(血清サンプル中のサイトカインの量)を示す。LPS腹腔内投与と同時にGal9Mを腹腔または尾静脈に投与した結果を示してある。
【図4】ガレクチン9(ガレクチン9としてGal9Mを使用)及びエンドトキシン(LPS)投与マウスにおけるエンドトキシン(LPS)チャレンジ後におけるサイトカイン産生に及ぼす効果を調べた結果(血清サンプル中のサイトカインの量)を示す。最初のLPS投与と同時にGal9Mを70μg腹腔内投与した結果を示してある。
【図5】エンドトキシン(LPS)投与マウスにおけるガレクチン類〔ガレクチン-1、-3、-8(M型ガレクチン-8としてリコンビナントGal8Mを使用)、-9(ガレクチン-9、すなわち、M型ガレクチン9としてリコンビナントGal9Mを使用)〕のサイトカイン産生に及ぼす効果を調べた結果(血清サンプル中のサイトカインの量)を示す。LPS投与と同時にそれぞれのガレクチンを腹腔内投与した結果を示してある。
【図6】エンドトキシンショックのモデル(マウス)で誘導される細胞群に及ぼすガレクチン9(ガレクチン9としてGal9Mを使用)の効果を調べた結果(腹腔内の好中球とマクロファージ)を示す。
【図7】エンドトキシンショックのモデル(マウス)で誘導される好中球に及ぼすガレクチン9(ガレクチン9としてGal9Mを使用)の効果を調べた結果(腹腔内)を示す。
【図8】エンドトキシンショックのモデル(マウス)で誘導される腹腔内好中球におけるプロスタグランジン産生に及ぼすガレクチン9(ガレクチン9としてGal9Mを使用)の効果を調べた結果を示す。
【図9】CAGプロモーターによりGal-9(Gal9M: TG-Gal9)を過剰発現させたマウス及びN末CRDの糖鎖結合能を欠失したGal-9(TG-mutated Gal9)を過剰に発現させたマウスにおけるLPS投与後のサイトカインについて調べた結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガレクチン1、ガレクチン9、及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものを有効成分として含有し、且つ、エンドトキシン又はそれに関連した生体反応現象を制御するものであることを特徴とするエンドトキシン制御剤。
【請求項2】
エンドトキシン又はそれに関連した生体反応現象を抑制又は阻害するものであることを特徴とする請求項1記載の剤。
【請求項3】
炎症性サイトカイン産生抑制作用を示すことを特徴とする請求項1又は2記載の剤。
【請求項4】
Th1サイトカイン産生の抑制作用を示すことを特徴とする請求項1又は2記載の剤。
【請求項5】
Th1サイトカインが、TNF-α、IL-12及びIFN-γからなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項4記載の剤。
【請求項6】
Th2サイトカイン産生の促進作用を示すことを特徴とする請求項1又は2記載の剤。
【請求項7】
エンドトキシンショック抑制又は防御作用を示すことを特徴とする請求項1又は2記載の剤。
【請求項8】
細菌感染症、菌血症、敗血症、敗血症ショック、敗血症多臓器不全、敗血症合併症及びエンドトキシンショックからなる群から選択されたものを抑制又は防御する作用を示すことを特徴とする請求項1又は2記載の剤。
【請求項9】
ガレクチン1、ガレクチン9、及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものをコードする核酸を有効成分として含有し、且つ、エンドトキシン又はそれに関連した生体反応現象を制御するものであることを特徴とするエンドトキシン制御剤。
【請求項10】
ガレクチン1、ガレクチン9、及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものを有効成分として含有し、且つ、エンドトキシン又はそれに関連した生体反応現象を制御して炎症及び炎症性疾患に対する治療及び/又は予防作用を示すことを特徴とする薬剤。
【請求項11】
ガレクチン1、ガレクチン9、及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものを有効成分として含有し、且つ、炎症性サイトカイン産生抑制作用を示すことを特徴とする炎症性サイトカイン産生制御剤。
【請求項12】
ガレクチン1、ガレクチン9、及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものを有効成分として含有し、且つ、Th1サイトカイン産生の抑制作用を示すかあるいはTh2サイトカイン産生促進作用を示すことを特徴とするサイトカイン産生制御剤。
【請求項13】
ガレクチン1、ガレクチン9、及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものを有効成分として含有し、且つ、細菌感染症、菌血症、敗血症、敗血症ショック、敗血症多臓器不全、敗血症合併症及びエンドトキシンショックからなる群から選択されたものを抑制又は防御する作用を示すことを特徴とする薬剤。
【請求項14】
ガレクチン1、ガレクチン9、及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたもの又はそれをコードする核酸を有効成分として含有し、且つ、エンドトキシン又はそれに関連した生体反応現象を抑制するものであることを特徴とするエンドトキシンに起因する病気又は疾患の予防及び/又は治療剤。
【請求項15】
ガレクチン1、ガレクチン9、及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものを細胞又は組織に接触せしめることを特徴とするエンドトキシン又はそれに関連した生体反応現象制御法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2007−137774(P2007−137774A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−329516(P2005−329516)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【出願人】(500507630)株式会社ガルファーマ (7)
【Fターム(参考)】