抗炎症効果を有する新規植物性乳酸菌株、該菌株を用いた炎症性腸疾患又は慢性下痢症に対する予防及び治療剤、抑制剤並びに添加剤
【課題】抗炎症効果を有するラクトバシラス属の新規植物性乳酸菌株、同菌株を用いて安全、且つ独自の作用機序で優れた抗炎症効果を発揮する新規の炎症性腸疾患並びに慢性下痢症に対する予防及び治療剤、抑制剤並びに添加剤を提供する。
【解決手段】鮒鮨から単離した、炎症性腸疾患や慢性下痢症に対して抗炎症効果を有するラクトバシラス属に属する新規の植物性乳酸菌株であるラクトバシラス・ブーケンライs193株、ラクトバシラス・パラブーケンライs292株を得る。また、s193株及び又はs292株から得られる菌体、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物のうち少なくとも一つを有効成分とする予防及び治療剤、抑制剤並びに発酵食品用の添加剤を得る。
【解決手段】鮒鮨から単離した、炎症性腸疾患や慢性下痢症に対して抗炎症効果を有するラクトバシラス属に属する新規の植物性乳酸菌株であるラクトバシラス・ブーケンライs193株、ラクトバシラス・パラブーケンライs292株を得る。また、s193株及び又はs292株から得られる菌体、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物のうち少なくとも一つを有効成分とする予防及び治療剤、抑制剤並びに発酵食品用の添加剤を得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗炎症効果を有するラクトバシラス属の新規植物性乳酸菌株に関する。また、本発明は、同菌株を用いて安全、且つ独自の作用機序で優れた抗炎症効果を発揮する新規の炎症性腸疾患並びに慢性下痢症に対する予防及び治療剤、抑制剤並びに添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、潰瘍性大腸炎やクローン病に代表される炎症性腸疾患(inflammatroy bowel disease:IBD)は、慢性下痢を主徴とし、特定疾患に位置づけられ、その発症数は年々増加を続けている。
【0003】
ところが、IBDの病因は未だ不明であり、宿主の遺伝的要素、粘膜免疫異常及び固有腸内細菌叢(腸内細菌フローラ)の変化など諸説が存在する。中でも陽内細菌フローラは、さまざまな遺伝子操作動物実験モデルの検討結果より、炎症性腸疾患の発症機序に必須である事が確実視されている。また、同様に多くの慢性下痢症では、腸内細菌の異常が想定されている。
【0004】
そして、腸内細菌の幾つかの菌は、明らかに炎症性腸疾患における炎症応答に対して有害な役割を持っている。しかし、全てが炎症促進的ではなく、幾つかの菌は抗炎症的に働くため、生体に有用な生菌(プロバイオティクス)として、炎症性腸疾患の臨床試験に供されている。
【0005】
従来より、IBD並びに慢性下痢症の予防及び治療として用いられてきた様々なプロバイオティクスは、ヒトや動物の消化管若しくは乳製品より単離されたラクトバシラス属菌が主であるが、前述のラクトバシラス属菌の他に、味噌、醤泊、納豆及び漬物といった植物性発酵食品より単離されるラクトバシラス属菌が存在する。これらの菌群は「植物性乳酸菌」と呼称され、上述したラクトバシラス属菌に比し、高塩濃度や低pHをはじめとする過酷な環境でも生存が可能である。また、同菌は植物性発酵食品中で、多菌種にわたる細菌叢(フローラ)を形成し、さらに細菌以外の酵母などの微生物と共存することが特徴である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、滋賀県の特産物として、植物性発酵食品である「鮒鮨(ふなずし)」が知られている。この鮒鮨とは、新鮮な鮒(ニゴロブナ)を数ヶ月塩漬けにした後、米飯と一緒に漬け込んで、半年から1年間、桶に入れて自然発酵させ作成するなれずしの一種である。そして、鮒鮨の発酵には、様々な微生物が関与するが、その主役はラクトバシラス属菌である。
【0007】
さらに、産地滋賀県において古くから「下痢の時に鮒鮨を食べれば治る」、「鮒鮨の手入れをするとあかぎれになりにくい」などの、鮒鮨による抗炎症作用を示唆する民間伝承が存在する。すなわち、鮒鮨中には、抗炎症効果を有する、炎症性腸疾患並びに慢性下痢症の予防及び治療に有効な植物性乳酸菌株の存在が予測されるが、植物性乳酸菌の炎症性腸疾患並びに慢性下痢症に対する予防及び治療効果は検討されておらず、未知のままである。
【0008】
そこで、本発明は上記問題を鑑みてなされたものであり、鮒鮨より単離した炎症性腸疾患並びに慢性下痢症に対して抗炎症性効果を有する新規植物性乳酸菌株、該菌体及び菌体処理物からなる炎症性腸疾患又は慢性下痢症に対する予防及び治療剤、抑制剤並びに添加剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、請求項1記載の植物性乳酸菌株は、鮒鮨から単離され、炎症性腸疾患や慢性下痢症に対して抗炎症効果を有するラクトバシラス属に属することを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の植物性乳酸菌株は、請求項1記載の植物性乳酸菌株において、ラクトバシラス・ブーケンライs193株(受託番号:FERM P−21648)であることを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の植物性乳酸菌株は、請求項1記載の植物性乳酸菌株において、ラクトバシラス・パラブーケンライs292株(受託番号:FERM P−21649)であることを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の植物性乳酸菌株は、請求項2記載の植物性乳酸菌株において、配列番号1に示す16SrRNAをコードするDNAの塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有することを特徴とする。
【0013】
請求項5記載の植物性乳酸菌株は、請求項3記載の植物性乳酸菌株において、配列番号2に示す16SrRNAをコードするDNAの塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有することを特徴とする。
【0014】
請求項6記載の炎症性腸疾患に対する予防及び治療剤は、請求項2又は4記載のラクトバシラス・ブーケンライs193株及び/又は請求項3又は5記載のラクトバシラス・パラブーケンライs292株から得られる菌体、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物のうち少なくとも一つを有効成分とすることを特徴とする。
【0015】
請求項7記載の慢性下痢症に対する予防及び治療剤は、請求項2又は4記載のラクトバシラス・ブーケンライs193株及び/又は請求項3又は5記載のラクトバシラス・パラブーケンライs292株から得られる菌体、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物の少なくとも一つを有効成分とすることを特徴とする。
【0016】
請求項8記載のIL−6又はIL−12産生抑制剤は、請求項2又は4記載のラクトバシラス・ブーケンライs193株から得られる菌体、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物のうち少なくとも一つを有効成分とすることを特徴とする。
【0017】
請求項9記載のIL−1β又はIL−12又はIL−23産生抑制剤は、請求項3又は5記載のラクトバシラス・パラブーケンライs292株から得られる菌体、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物のうち少なくとも一つを有効成分とすることを特徴とする。
【0018】
請求項10記載のIL−1β又はIL−12又はTNF−α産生抑制剤は、請求項2又は4記載のラクトバシラス・ブーケンライs193株及び/又は請求項3又は5記載のラクトバシラス・パラブーケンライs292株から得られる菌体、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物のうち少なくとも一つを有効成分とすることを特徴とする。
【0019】
請求項11記載の添加剤は、発酵食品製造時に使用され、請求項2又は4記載のラクトバシラス・ブーケンライs193株及び/又は請求項3又は5記載のラクトバシラス・パラブーケンライs292株から得られる菌体、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物のうち少なくとも一つを有効成分とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、植物性発酵食品の鮒鮨より単離した新規の植物性乳酸菌株を提供することができる。また、新規乳酸菌菌株であるs193及び/又はs292の生菌、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物などを主成分とする炎症性腸疾患並びに慢性下痢症に対する予防及び治療薬、抑制剤及び添加剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の新規植物性乳酸菌株は、ラクトバシラス属(Lactobacillus )に属し、炎症性腸疾患並びに慢性下痢症に対して抗炎症効果を有する植物性乳酸菌株である。以下、本発明の新規植物性乳酸菌株について詳細に説明する。
【0022】
[菌株の単離]
鮒鮨中には、多種のラクトバシラス属菌やその他の発酵・熟成を担う微生物が多数混在して、フローラを形成している。よって、そのフローラより抗炎症効果を有するラクトバシラス属菌のみを選抜して単離する必要がある。そのため、ラクトバシラス属菌が最も多く存在することが予想される鮒鮨の米・米麹部分1gを破砕し、リン酸緩衝生理食塩水(phosphate buffered saline (NaCl:0.138M、KCl:0.0027M)、pH7.4、at25℃) に溶解した。
【0023】
次に、得られた液をリン酸緩衝生理食塩水にて用いて10-1から10-5に希釈後、ラクトバシラス属菌選択培地であるMRS平板培地上に0.1ml塗布し、37℃にて16時間の培養を行った。そして、MRS平板培地上に育成した単一コロニーを総計500株、釣菌・単離した。
【0024】
単離された菌株をMRSブロス中で37℃にて16時間の培養を行い109 個の菌体を得た。得られた菌体を、大腸菌由来内毒素(LPS)(1μg/ml、血清型055:05)を添加する事で刺激したマウス・マクロファージ系株化細胞RAW264.7細胞(106 個/ml)に加え37℃にて16時間反応させた。得られた培養上清中のTNF−α濃度を、Enzyme−Linked ImmunoSorbent Assay (ELISA法) にて測定した。TNF−α濃度は、IBD患者及びIBD実験動物モデルにおいて、著しく増加する炎症性サイトカインであるため、その産生抑制は、抗炎症効果の指標となりうる。
【0025】
RAW264.7細胞培養系にLPSを添加するとTNF−α産生応答があることを確認した。また、図1に示すように、鮒鮨より単離した500株中、14株が同アッセイ系においてTNF−α産生を抑制したため、これらの株を選抜した(第一次スクリーニング) 。
【0026】
さらに、図2及び図3に示すように、前述で選抜した菌株14株の詳細な炎症性サイトカイン産生抑制効果を検討し、優れた抗炎症効果を発揮する菌株を絞り込んだ(第二次スクリーニング) 。すなわち、選抜した菌株14株を再びMRSブロス中で37℃にて16時間の培養を行い、109 個の菌体を得た。得られた菌体をLPS(1μg/ml、血清型055:05)を添加する事で刺激したマウス・マクロファージ系株化細胞RAW264.7(106 個/ml) に加え37℃にて16時間反応させた。
【0027】
反応終了後、RAW264.7細胞より、mRNAを抽出し、そのうち500ngのcDNAを逆転写酵素にて合成した。得られたcDNAを用いて、各種炎症性サイトカインに対応するプライマープローブにて、定量的PCR法の1つであるリアルタイムPCR法を実施し、正確な炎症性サイトカインmRNA量を定量した。RAW264.7細胞培養系にLPSを添加すると、IL−1β、IL−6、TNF−α、IL−12p40及びIL−23p19のmRNA量が対照に比し、著しく増加することを確認した。
【0028】
また、第一次スクリーニングより選抜された14株中に、2種類の異なる炎症性サイトカインmRNA抑制パターンを惹起する株の存在を見いだした。1つは、IL−1β及びIL−6のmRNA量をLPS単独群に比し著しく減少させる一方で、IL−12p40及びIL−23p19のmRNA量を、LPS単独群に比し増加させるパターンであった(パターンA) 。
もう一方は、TNF−αのmRNA量をLPS単独群に比し著しく減少させ、IL−12p40及びIL−23p19のmRNA量がLPS単独群に比し、同等であるというパターンであった(パターンB) 。そして、パターンA、Bのうち、最も優れた抗炎症効果を発揮する株をそれぞれ1つ選抜し、パターンAをs193株、パターンBをs292株と命名し、以後の解析に用いた。
【0029】
[菌学的性質及び同定]
図4に示すように、スクリーニングした菌株の細菌学的性質(形態学的及び生化学的特性)を調べたところ、s193株及びs292株はラクトバシラス・ブーケンライとその近縁種の特徴を、共に有していた。
【0030】
図5に示すように、両株の16SrRNAをコードするDNAの全塩基配列を決定し、相同性検索及び系統樹作成を行った。相同性検索の結果、s193株は、ラクトバシラス・ブーケンライに99.87%の相同性を示し、s292株は、ラクトバシラス・パラブーケンライに97.879%の相同性を示した。また、図6に示すように、系統樹においても、s193株は、ラクトバシラス・ブーケンライに、s292株はラクトバシラス・パラブーケンライに非常に近縁な分類学的位置にあることが判明した。
【0031】
以上より、本願発明者はs193株をラクトバシラス・ブーケンライs193株(以下、s193株と略称する)、s292株をラクトバシラス・パラブーケンライs292株(以下、s292株と略称する)と同定した。
【0032】
なお、本発明においてスクリーニングされたs193及びs292は、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに平成20年8月12日付で、以下の受託番号で寄託されている。
【0033】
ラクトバシラス・ブーケンライs193株:FERM P−21648(識別のための表示:Lactobacillus buchneri s193 )
ラクトバシラス・パラブーケンライs292株:FERM P−21649(識別のための表示:Lactobacillus parabuchneri s292 )
【0034】
また、s193株の16SrRNAをコードするDNAの全塩基配列を配列番号1、s292株の16SrRNAをコードするDNAの全塩基配列を配列番号2として示す。
【0035】
なお、塩基配列の決定には、Endoらの方法(Int J Syst Evol Microbiol. 2005 Jan;55(Pt 1):83-5.)に準じて行った。また、DNAのシーケンスは、 Applied Biosystems 社製 DNA Sequencer ABI PRISM 3100 (16キャピラリー)を用いて行った。
【0036】
上記でスクリーニングされたs193株及びs292株の両株について、潰瘍性大腸炎モデルとして、広く使われるDSS大腸炎モデルマウスを用いてIBDへの抗炎症効果を証明するために下記に示す項目の試験(1)〜(4)を実施した。
【0037】
(1)s193株又はs292株単独投与及び両株の混合投与による、DSS腸炎における体重減少、腸炎臨床スコア、大腸腸管長及び生死率への影響。
(2)s193株又はs292株単独投与及び両株の混合投与による、DSS腸炎における組織学的評価。
(3)s193株又はs292株単独投与及び両株の混合投与による、DSS腸炎における免疫組織化学染色による炎症性細胞浸潤と接着分子発現への影響。
(4)s193株又はs292株単独投与及び両株の混合投与による、DSS腸炎における大腸組織内の炎症性サイトカインmRNA発現量への影響。
【0038】
試験(1)、(2)を実施した結果、スクリーニングした両菌株は、それぞれ特徴的に、以下のような効果を奏する。
・DSS腸炎における体重減少及び大腸腸管長の萎縮を阻止し、生存率を上昇させる。
・DSS腸炎における下痢を抑制することで、腸炎臨床スコアを減じる。
・DSS腸炎における大腸の組織学的障害度を低下させる。
【0039】
試験(3)を実施した結果、スクリーニングした両菌株は、以下のような効果を奏する。
・DSS腸炎における炎症性細胞浸潤及び接着分子発現を低下させる。
【0040】
試験(4)を実施した結果、スクリーニングした両菌株は、以下のような効果を奏する。
・DSS腸炎における大腸組織内の炎症性サイトカインmRNA発現量を低下させる。
【0041】
また、両株の混合投与は、上記の4試験において単独投与の成績を上回るという結果であった。さらに、s193株又はs292株単独投与及び両株の混合投与は、上記の4試験において、ヒト腸管由来のラクトバシラス・ガッセリの成績を大幅に上回るという結果であった。
【0042】
特に、上記試験(4)において、s193株又はs292株単独投与及び両株の混合投与は、大腸組織内のIL−12p40mRNA発現量を、DSS投与群及びヒト腸管由来のラクトバシラス・ガッセリ投与群に比し、大幅に減じた。また、s292株単独投与では、IL−12p40及びIL−23p19のRNA発現量を、DSS投与群及びヒト腸管由来のラクトバシラス・ガッセリ投与群に比し、大幅に減じた。
【0043】
このIL−12p40及びIL−23p19は、主にマクロファージや樹状細胞などの抗原提示細胞より産生され、IBDにおける慢性炎症の発生・持続に深く関与する重要な炎症性サイトカインである。
しかしながら、従来よリプロバイオティクスとして用いられてきたヒトや動物の消化管若しくは乳製品より単離されたラクトバシラス属菌においては、両サイトカイン抑制の報告は無く、本発明の新規植物性乳酸菌株であるs193株及びs292株に特徴的な作用と言える。
【0044】
さらに、上記試験(2)において、s193株又はs292株単独投与及び両株の混合投与は、下痢の症状をDSS投与群及びヒト腸管由来のラクトバシラス・ガッセリ投与群に比し、大幅に減じた。
これにより、本発明の新規植物性乳酸菌株であるs193株及びs292株が、炎症性腸疾患の予防及び治療のみならず、慢性下痢症の予防及び治療にも優れた効果を示すに至った。
【0045】
以上より、本願発明者は、s193株及びs292両株が炎症性腸疾患へ優れた予防及び治療効果を発揮する新規植物性乳酸菌株であることを見いだし、本発明を完成するに至った。また、その予防及び治療効果は、ヒト腸管由来のラクトバシラス・ガッセリに比し極めて強力であり、その作用機序はs193株及びs292両株に特徴的であることを見いだした。さらに、これらに加えて、s193株及びs292両株は、慢性下痢症の予防及び治療効果も発揮することも見いだした。
【0046】
本発明のs193株及びs292株の両菌株は、植物性発酵食品の鮒鮨由来であるため、その安全性は確立されている。従って、炎症性腸疾患並びに慢性下痢症に対する予防及び治療に用いる際は、菌体を直接的に経口投与することが可能であるが、例えば医薬品として製剤された予防及び治療薬を服用したり、任意の食品中に添加して摂取することも可能である。
【0047】
また、s193株単独投与、s292株単独投与及び両株の混合投与がそれぞれに特有の炎症性サイトカイン抑制パターンを有するため、個々の患者の病態に併せて投与することで、より有効な予防及び治療薬を提供することができる。さらに、s193株菌体又はその菌体由来成分を有効成分とするIL−6又はIL−12産生抑制剤、s292株菌体又はその菌体由来成分を有効成分とするIL−1β又はIL−12又はIL−23産生抑制剤、及び両株を混合した菌体又はその菌体由来成分を有効成分とするIL−1β又はIL−12又はTNF−α産生抑制剤の製造が可能である。
【0048】
なお、投与量においては、1日あたり生菌でl×109 〜1×1013個を投与するのが好ましいが、症状により適宜増減可能である。
【0049】
また、s193株及びs292株のそれぞれの菌の発酵生産物は、爽やかな芳香を有するため、本菌群を用いた鮒鮨以外の新たな植物性発酵食品を作成可能である。この本菌群由来の植物性発酵食品は、生菌のs193株及びs292株を含有するため、日常的な食事に取り入れることにより、炎症性腸疾患並びに慢性下痢症に対する予防及び治療を習慣的に実施することが可能である。
【0050】
ところで、本発明に係る炎症性腸疾患又は慢性下痢症に対する予防及び治療剤、抑制剤、添加剤は、菌体として生菌のまま使用することが好ましいが、例えば菌体成分、菌体由来成分(菌体から分泌されるガスや薬効成分など)、菌体処理物(菌体を超音波処理して得られる菌体破砕物、あるいは細胞壁分解酵素処理して得られる菌体溶解産物、凍結乾燥した菌体や固定化菌体など)など、その成分が保持されていれば差し支えない。また、通常用いられる製剤用担体によって、公知の方法により散剤、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤とすることもでき、食品や飼料、飲水などに混合することもできる。この場合、s193及びs292の生菌のみでなく、各菌株から得られる菌体、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物のうち少なくとも一つを有効成分とすることで、生菌と同様の効果を奏することができる。
【実施例】
【0051】
以下、上述した本発明を実施例によって更に具体的に説明する。なお、下記の各実施例は、本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に徴して設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0052】
[実施例1]
<材料と方法>
・動物:C57/BL6マウス(雌8週齢)を用いた。
・腸炎モデル:デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)大腸炎モデルマウス(Gastroenteralogy(1990)107、p1643)を用いた。
【0053】
DSS大腸炎誘発とs193株及びs292株の投与:6%(v/w)DSS(ICN社)水道水を7日間若しくは10日間、マウスに白由飲水させることで大腸炎を誘発させた(DSS投与群)。
【0054】
s193株単独投与群又はs292株単独投与群は、上記のDSS投与と同時に、それぞれの生菌体をマウス1匹あたり109 個、経胃的に毎日投与した。混合投与群は、上記のDSS投与と同時に、s193株及びs292株の生菌体を、それぞれマウス1匹あたり5×108 個ずつ、経胃的に毎日投与した。
【0055】
さらに、植物性乳酸菌であるs193株及びs292株とヒト腸管由来乳酸菌の抗炎症効果を比較検討するため、ヒト腸管由来乳酸菌であるラクトバシラス・ガッセリ(ATCC33323)の生菌体を上記のDSS投与と同時に、マウス1匹あたり109 個、経胃的に毎日投与した。対照群は、水道水を白由飲水させた。
【0056】
<DSS大腸炎に対する抗炎症効果の検証試験>
s193株およびs292株のDSS大腸炎に対する抗炎症効果の検証実験として、以下(A)〜(G)の項目を実施した。
【0057】
(A)DSS大腸炎マウスの生死率に対するs193株単独投与、s292株単独投与及び混合投与の影響
上記に基づいてDSS大腸炎誘発を実施し、s193株単独投与、s292株単独投与及び混合投与を10日間行い、生死率を算出した。
(B)DSS大腸炎マウスの体重減少率に対するs193株単独投与、s292株単独投与及び混合投与の影響
上記に基づいてDSS大腸炎誘発を実施し、s193株単独投与、s292株単独投与及び混合投与を10日間行い、体重減少率を検討した。
(C)DSS大腸炎マウスの腸炎臨床スコアに対するs193株単独投与、s292株単独投与及び混合投与の影響
上記に基づいてDSS大腸炎誘発を実施し、s193株単独投与、s292株単独投与及び混合投与を10日間行い、Cooperらの方法(Lab Invest 1993;69;238−49)に若干の改良を行い、腸炎臨床スコアを算出した。すなわち、(1)体重減少率0点;変化なし若しくは増体重、1点;試験1日目に比し、−1%〜−5%、2点;試験1日目に比し、−5%〜−10%、3点;試験1日目に比し、−10%〜−20%、4点;試験1日目に比し、−20%以上(2)糞便の状態0点;通常便、2点;下痢若しくは潜血便、4点;鮮血便(下血)(3)生死状態 0点;生存、8点;死亡とした。
(D)DSS大腸炎マウスの大腸腸管長に対するs193株単独投与、s292株単独投与及び混合投与の影響
上記に墓ついてDSS大腸炎誘発を実施し、s193株単独投与、s292株単独投与及び混合投与を7日間行い、大腸腸管長を測定した。
(E)DSS大腸炎マウスの大腸組織障害度に対するs193株単独投与、s292株単独投与及び混合投与の影響
上記に基づいてDSS大腸炎誘発を実施し、s193株単独投与、s292株単独投与及び混合投与を7日間行い、大腸組織をフォルマリン固定した。得られた組織よりパラフィン切片を作成し、ヘマトキシリン・エオジン染色(H&E染色)を行った。組織を観察し、Cooperらの方法(Lab lnvest 1993;69;238−49)により点数化して評価した。
(F)DSS大腸炎マウスのリンパ球及びマクロファージ系細胞浸潤と接着分子発現に対するs193株単独投与、s292株単独投与及び混合投与の影響
上記に基づいてDSS大腸炎誘発を実施し、s193株単独投与、s292株単独投与及び混合投与7日間を実施した後、大腸組織を過ヨウ素酸−リジンーパラホルムアルデヒド固定(PLP固定)した。得られた組織より凍結切片を作成し、免疫組織化学染色を実施した。1次抗体に抗CD4抗体、抗CD68抗体及び抗MAdCAM−1抗体を用いる事で、それぞれ、Tリンパ球浸潤、マクロファージ系細胞浸潤及び接着分子MAdCAM−l発現を評価した。
(G)DSS大腸炎マウスの大腸組織内炎症性サイトカインmRNA発現量に対するs193株単独投与、s292株単独投与及び混合投与の影響
上記に基づいてDSS大腸炎誘発を実施し、s193株単独投与、s292株単独投与及び混合投与を7日間行い、大腸組織を摘出・ホモジナイズした。そして、これより総RNAを抽出した後に、逆転写反応を行いcDNAを合成した。得られたcDNAを用いて定量的PCR法の1つであるリアルタイムPCR法を実施する事で炎症性サイトカインのmRNA発現を定量した。使用したプライマープローブは、IL−1β、IL−6、TNF−α、IL−12p40又はIL−23p19であり、すべて大腸炎の発症・増悪に密接に関与する炎症性サイトカインである。
【0058】
なお、上記(A)〜(G)の試験項目の統計解析として、パラメトリックデータに対しては、スチューデント若しくはウエルチのt検定、ノンパラメトリックデータに対しては、マンホイットニ検定をそれぞれ用いて、統計学的処理を行った。
【0059】
<試験結果>
(A):図7に示すように、6%DSSを10日間、マウスに投与したところ、DSS投与群において、激しい下血などの症状が惹起され、70%の個体が死亡した。しかしながら、s292株単独投与群及びラクトバシラス・ガッセリ投与群では死亡率が50%に減少した。s193株単独投与群では、死亡率は20%に留まった。さらに、混合投与群では、DSS投与10日目に死亡した個体はなく(死亡率0%)、ラクトバシラス・ガッセリ投与群の成績を有意に上回る結果となった。
【0060】
(B):図8に示すように、6%DSSを7日間、マウスに投与した。投与5日目から7日目において、DSS投与群では血便を代表とする大腸炎の症状が認められると同時に、箸しい体重の減少が観察された。各投与群では、DSS投与群に比し、1)混合投与群、2)s292単独投与群、3)s193単独投与群、4)ラクトバシラス・ガッセリ投与群の順で体重減少が軽減された。
【0061】
(C):図9に示すように、6%DSSを10日間、マウスに投与したところ、DSS投与群において、投与3日目より下痢などの症状が認められ、投与5日目から鮮血便と体重減少を伴う大腸炎の症状が認められた。各投与群では〜DSS投与群に比し、1)混合投与群、2)s193単独投与群、3)s292単独投与群の順で、下痢をはじめとする上記の症状が大幅に緩和され、腸炎臨床スコアが軽減された。特に、混合投与群の10日目においては、DSS投与群及びラクトバシラス・ガッセリ投与群を大幅に下回る成績であった。
【0062】
(D):図10に示すように、6%DSSを7日間、マウスに投与したところ、DSS投与群では著しい大腸腸管長の収縮が認められた。S292単独投与群及びラクトバシラス・ガッセリ投与群では、大腸腸管長の有意な収縮抑制は認められなかった。しかしながら、s193単独投与群及び混合投与群においては、DSS投与群に比し、有意な大腸腸管長の収縮抑制が確認された。
【0063】
(E):6%DSSを7日間、マウスに投与後、大腸組織障害度を検証した。図11に示すように、DSS投与群では、絨毛の損傷・損失、上皮における潰瘍やびらん、さらに粘膜下層へ多数の細胞浸潤が観察された。ラクトバシラス・ガッセリ投与群では、これらの所見は、ほとんど抑制が認められなかったが、s193単独投与群、s292単独投与群及び混合投与群では、これらの所見が大幅に抑制された。
また、図12に示すように、組織障害度を点数化した結果、ラクトバシラス・ガッセリ投与群ではDSS投与群に比し、有意な炎症スコアの減少は認められなかった。しかしながら、s193単独投与群、s292単独投与群及び混合投与群では、DSS投与群に比し、有意な炎症スコアの減少が認砂られ、特に混合投与群においてはp<0.01以下の有意差をもって、極めて強力に組織障害度を減じた。
【0064】
(F):図13、14に示すように、6%DSSを7日間、マウスに投与後、免疫組織化学染色により、リンパ球(CD4陽性細胞)及びマクロファージ系細胞(CD68陽性細胞)浸潤と接着分子MAdCAM−1発現を観察した。DSS投与群では、多数のリンパ球及びマクロファージ系細胞が粘膜固有層へ浸潤し、血管内皮の接着分子MAdCAM−1発現が大幅に増強されていた。また、各投与群において、リンパ球細胞浸潤の抑制効果はあまり認められなかった。しかしながら、マクロファージ系細胞の浸潤は、s193単独投与群、s292単独投与群及び混合投与群において、著しく抑制された。ラクトバシラス・ガッセリ投与群では、本抑制効果は観察されなかった。
同様に、図15に示すように、接着分子MAdCAM−1発現においても、ラクトバシラス・ガッセリ投与群では発現抑制効果が、あまり観察されなかったが、s193単独投与群及びs292単独投与群では、著しい抑制効果が認められた。
【0065】
(G):6%DSSを7日間、マウスに投与後、大腸組織内の炎症性サイトカインmRNA発現量を定量した。
その結果、図16、17に示すように、DSS投与群では、対照群に比し、検証した全ての炎症性サイトカインmRNA発現量が増強していた。これに対し、s193単独投与群は、IL−6及びIL−12p40のmRNA発現量が有意に抑制された。s292単独投与群では、IL−1β、IL−12p40及びIL−23p19のmRNA発現量が有意に抑制された。さらに、混合投与群においては、IL−1β、IL−12p40及びTNF−αのmRNA発現量が有意に抑制された。しかしながら、ラクトバシラス・ガッセリ投与群では、DSS群に比し、検証した全ての炎症性サイトカイン血RNA発現量の有意な抑制は認められなかった。
【0066】
[実施例2]
s193株及びs292株を用いて、鮒鮨以外の植物性発酵食品(白菜漬)を、以下の材料と方法にて作成した。
【0067】
<材料と方法>
・材料:白菜、食塩、滅菌生理食塩水
・使用する菌株:s193及びs292
【0068】
s193株及びs292株をMRSブロスにて増殖させた。最終的な菌量は、それぞれ1×109 個となるように調整し、菌体を減菌生理食塩水にて洗浄した。上記のごとく調整したs193株及びs292株を、白菜500g及び食塩10g(白菜の重量の2%相当)を均一に混合し、密閉容器に入れ、室温(約20℃)にて4日間反応させた。
【0069】
以上のように、本発明のs193株及びs292株を用いて製造した植物性発酵食品(白菜漬)は、風味が良好で美味であった。また、独特の酸味を有していたが、鮒鮨の酸味に比し、大幅にマイルドであり嗜好性が高まっていた。
さらに、得られた植物性発酵食品(白菜漬)を粉砕し、滅菌生理食塩水と混合しフィルタにて固形物を除去した。得られたサンプルを、MRS寒天培地に塗布し嫌気培養を行ったところ多数のコロニーが出現した。これにより、本発明の菌株を用いて製造した植物性発酵食品(白菜漬)は、生菌のs193株及びs292株を豊富に含有する事が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明で単離されたs193株及びs292株のそれぞれの菌は、植物性発酵食品の鮒鮨由来であるため、その人体に対する安全性は、完全に確立されている。そのため、炎症性腸疾患並びに慢性下痢症に対する予防及び治療の際、医薬品として「製剤」の範疇で提供する事のみならず、特定健康食品をはじめとする「食品」の範疇で提供可能である。このため、産業上利用への移行は、非常に容易である。また、s193株及びs292株のそれぞれの菌は、加工や菌体成分の精製を行わなくても、きわめて優れた抗炎症効果を発揮する。また、本発明に係る炎症性腸疾患又は慢性下痢症に対する予防及び治療剤、抑制剤、添加剤は、菌株から抽出した生菌を添加して得るだけでなく、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物を用いて製造したものであっても、生菌を使用したものと同様の効果を奏する。よって、炎症性腸疾患並びに慢性下痢症に対する予防及び治療目的として、製造を行う場合、その過程及び使用機材は簡略なもので十分であるため、産業上の利用可能性が極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】RAW264.7細胞培養系に大腸菌由来内毒素(LPS)を添加した際のTNF−α産生応答及びこれに対する鮒鮨由来植物性乳酸菌の影響を示す図である。
【図2】RAW264.7細胞培養系に大腸菌由来内毒素(LPS)を添加した際のIL−IB、IL−6及びTNF−α mRNA発現応答及びこれに対する鮒鮨由来植物性乳酸菌の影響を示す図である。
【図3】RAW264.7細胞培養系に大腸菌由来内毒素(LPS)を添加した際のIL−12p40及びIL−23p19 mRNA発現応答及びこれに対する鮒鮨由来植物性乳酸菌の影響を示す図である。
【図4】鮒鮨中より単離されたs193株及びs292株の細菌学的性質を示した図である。
【図5】鮒鮨中より単離されたs193株及びs292株の16SrRNA塩基配列と他の近縁なラクトバシラス属菌の16SrRNA塩基配列の相同性を示した図である。
【図6】鮒鮨中より単離されたs193株及びs292株の16SrRNA塩基配列と他の近縁なラクトバシラス属菌の16SrRNA塩基配列を用いて作成した系統樹を示す図である。
【図7】鮒鮨中より単離されたラクトバシラス属菌s193株及びs292株のDSS大腸炎マウスに対する延命効果を示す図である。
【図8】DSS大腸炎マウスの体重減少率に対する、鮒鮨中より単離されたラクトバシラス属菌s193株及びs292株の効果を示す図である。
【図9】DSS大腸炎マウスの腸炎臨床スコアに対する、鮒鮨中より単離されたラクトバシラス属菌s193株及びs292株の効果を示す図である。
【図10】DSS大腸炎マウスの大腸腸管長収縮に対する、鮒鮨中より単離されたラクトバシラス属菌s193株及びs292株の効果を示す図である。
【図11】DSS大腸炎マウスの大腸組織障害に対する、鮒鮨中より単離されたラクトバシラス属菌s193株及びs292株の効果をH&E染色にて示す図である。
【図12】DSS大腸炎マウスの大腸組織障害に対する、鮒鮨中より単離されたラクトバシラス属菌s193株及びs292株の効果を点数化して示す図である。
【図13】DSS大腸炎マウスの大腸組織におけるCD4陽性細胞の免疫組織学的検出結果を示す図である。
【図14】DSS大腸炎マウスの大腸組織におけるCD68陽性細胞の免疫組織学的検出結果を示す図である。
【図15】DSS大腸炎マウスの大腸組織における接着分子MAdCAM−1の免疫組織学的検出結果を示す図である。
【図16】DSS大腸炎マウスの大腸組織内のIL−1β、IL−6及びTNF−α mRNA発現応答及びこれに対するs193株及びs292株の影響を示す図である。
【図17】DSS大腸炎マウスの大腸組織内のIL−12p40及びIL−23p19 mRNA発現応答及びこれに対するs193株及びs292株の影響を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗炎症効果を有するラクトバシラス属の新規植物性乳酸菌株に関する。また、本発明は、同菌株を用いて安全、且つ独自の作用機序で優れた抗炎症効果を発揮する新規の炎症性腸疾患並びに慢性下痢症に対する予防及び治療剤、抑制剤並びに添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、潰瘍性大腸炎やクローン病に代表される炎症性腸疾患(inflammatroy bowel disease:IBD)は、慢性下痢を主徴とし、特定疾患に位置づけられ、その発症数は年々増加を続けている。
【0003】
ところが、IBDの病因は未だ不明であり、宿主の遺伝的要素、粘膜免疫異常及び固有腸内細菌叢(腸内細菌フローラ)の変化など諸説が存在する。中でも陽内細菌フローラは、さまざまな遺伝子操作動物実験モデルの検討結果より、炎症性腸疾患の発症機序に必須である事が確実視されている。また、同様に多くの慢性下痢症では、腸内細菌の異常が想定されている。
【0004】
そして、腸内細菌の幾つかの菌は、明らかに炎症性腸疾患における炎症応答に対して有害な役割を持っている。しかし、全てが炎症促進的ではなく、幾つかの菌は抗炎症的に働くため、生体に有用な生菌(プロバイオティクス)として、炎症性腸疾患の臨床試験に供されている。
【0005】
従来より、IBD並びに慢性下痢症の予防及び治療として用いられてきた様々なプロバイオティクスは、ヒトや動物の消化管若しくは乳製品より単離されたラクトバシラス属菌が主であるが、前述のラクトバシラス属菌の他に、味噌、醤泊、納豆及び漬物といった植物性発酵食品より単離されるラクトバシラス属菌が存在する。これらの菌群は「植物性乳酸菌」と呼称され、上述したラクトバシラス属菌に比し、高塩濃度や低pHをはじめとする過酷な環境でも生存が可能である。また、同菌は植物性発酵食品中で、多菌種にわたる細菌叢(フローラ)を形成し、さらに細菌以外の酵母などの微生物と共存することが特徴である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、滋賀県の特産物として、植物性発酵食品である「鮒鮨(ふなずし)」が知られている。この鮒鮨とは、新鮮な鮒(ニゴロブナ)を数ヶ月塩漬けにした後、米飯と一緒に漬け込んで、半年から1年間、桶に入れて自然発酵させ作成するなれずしの一種である。そして、鮒鮨の発酵には、様々な微生物が関与するが、その主役はラクトバシラス属菌である。
【0007】
さらに、産地滋賀県において古くから「下痢の時に鮒鮨を食べれば治る」、「鮒鮨の手入れをするとあかぎれになりにくい」などの、鮒鮨による抗炎症作用を示唆する民間伝承が存在する。すなわち、鮒鮨中には、抗炎症効果を有する、炎症性腸疾患並びに慢性下痢症の予防及び治療に有効な植物性乳酸菌株の存在が予測されるが、植物性乳酸菌の炎症性腸疾患並びに慢性下痢症に対する予防及び治療効果は検討されておらず、未知のままである。
【0008】
そこで、本発明は上記問題を鑑みてなされたものであり、鮒鮨より単離した炎症性腸疾患並びに慢性下痢症に対して抗炎症性効果を有する新規植物性乳酸菌株、該菌体及び菌体処理物からなる炎症性腸疾患又は慢性下痢症に対する予防及び治療剤、抑制剤並びに添加剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、請求項1記載の植物性乳酸菌株は、鮒鮨から単離され、炎症性腸疾患や慢性下痢症に対して抗炎症効果を有するラクトバシラス属に属することを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の植物性乳酸菌株は、請求項1記載の植物性乳酸菌株において、ラクトバシラス・ブーケンライs193株(受託番号:FERM P−21648)であることを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の植物性乳酸菌株は、請求項1記載の植物性乳酸菌株において、ラクトバシラス・パラブーケンライs292株(受託番号:FERM P−21649)であることを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の植物性乳酸菌株は、請求項2記載の植物性乳酸菌株において、配列番号1に示す16SrRNAをコードするDNAの塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有することを特徴とする。
【0013】
請求項5記載の植物性乳酸菌株は、請求項3記載の植物性乳酸菌株において、配列番号2に示す16SrRNAをコードするDNAの塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有することを特徴とする。
【0014】
請求項6記載の炎症性腸疾患に対する予防及び治療剤は、請求項2又は4記載のラクトバシラス・ブーケンライs193株及び/又は請求項3又は5記載のラクトバシラス・パラブーケンライs292株から得られる菌体、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物のうち少なくとも一つを有効成分とすることを特徴とする。
【0015】
請求項7記載の慢性下痢症に対する予防及び治療剤は、請求項2又は4記載のラクトバシラス・ブーケンライs193株及び/又は請求項3又は5記載のラクトバシラス・パラブーケンライs292株から得られる菌体、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物の少なくとも一つを有効成分とすることを特徴とする。
【0016】
請求項8記載のIL−6又はIL−12産生抑制剤は、請求項2又は4記載のラクトバシラス・ブーケンライs193株から得られる菌体、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物のうち少なくとも一つを有効成分とすることを特徴とする。
【0017】
請求項9記載のIL−1β又はIL−12又はIL−23産生抑制剤は、請求項3又は5記載のラクトバシラス・パラブーケンライs292株から得られる菌体、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物のうち少なくとも一つを有効成分とすることを特徴とする。
【0018】
請求項10記載のIL−1β又はIL−12又はTNF−α産生抑制剤は、請求項2又は4記載のラクトバシラス・ブーケンライs193株及び/又は請求項3又は5記載のラクトバシラス・パラブーケンライs292株から得られる菌体、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物のうち少なくとも一つを有効成分とすることを特徴とする。
【0019】
請求項11記載の添加剤は、発酵食品製造時に使用され、請求項2又は4記載のラクトバシラス・ブーケンライs193株及び/又は請求項3又は5記載のラクトバシラス・パラブーケンライs292株から得られる菌体、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物のうち少なくとも一つを有効成分とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、植物性発酵食品の鮒鮨より単離した新規の植物性乳酸菌株を提供することができる。また、新規乳酸菌菌株であるs193及び/又はs292の生菌、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物などを主成分とする炎症性腸疾患並びに慢性下痢症に対する予防及び治療薬、抑制剤及び添加剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の新規植物性乳酸菌株は、ラクトバシラス属(Lactobacillus )に属し、炎症性腸疾患並びに慢性下痢症に対して抗炎症効果を有する植物性乳酸菌株である。以下、本発明の新規植物性乳酸菌株について詳細に説明する。
【0022】
[菌株の単離]
鮒鮨中には、多種のラクトバシラス属菌やその他の発酵・熟成を担う微生物が多数混在して、フローラを形成している。よって、そのフローラより抗炎症効果を有するラクトバシラス属菌のみを選抜して単離する必要がある。そのため、ラクトバシラス属菌が最も多く存在することが予想される鮒鮨の米・米麹部分1gを破砕し、リン酸緩衝生理食塩水(phosphate buffered saline (NaCl:0.138M、KCl:0.0027M)、pH7.4、at25℃) に溶解した。
【0023】
次に、得られた液をリン酸緩衝生理食塩水にて用いて10-1から10-5に希釈後、ラクトバシラス属菌選択培地であるMRS平板培地上に0.1ml塗布し、37℃にて16時間の培養を行った。そして、MRS平板培地上に育成した単一コロニーを総計500株、釣菌・単離した。
【0024】
単離された菌株をMRSブロス中で37℃にて16時間の培養を行い109 個の菌体を得た。得られた菌体を、大腸菌由来内毒素(LPS)(1μg/ml、血清型055:05)を添加する事で刺激したマウス・マクロファージ系株化細胞RAW264.7細胞(106 個/ml)に加え37℃にて16時間反応させた。得られた培養上清中のTNF−α濃度を、Enzyme−Linked ImmunoSorbent Assay (ELISA法) にて測定した。TNF−α濃度は、IBD患者及びIBD実験動物モデルにおいて、著しく増加する炎症性サイトカインであるため、その産生抑制は、抗炎症効果の指標となりうる。
【0025】
RAW264.7細胞培養系にLPSを添加するとTNF−α産生応答があることを確認した。また、図1に示すように、鮒鮨より単離した500株中、14株が同アッセイ系においてTNF−α産生を抑制したため、これらの株を選抜した(第一次スクリーニング) 。
【0026】
さらに、図2及び図3に示すように、前述で選抜した菌株14株の詳細な炎症性サイトカイン産生抑制効果を検討し、優れた抗炎症効果を発揮する菌株を絞り込んだ(第二次スクリーニング) 。すなわち、選抜した菌株14株を再びMRSブロス中で37℃にて16時間の培養を行い、109 個の菌体を得た。得られた菌体をLPS(1μg/ml、血清型055:05)を添加する事で刺激したマウス・マクロファージ系株化細胞RAW264.7(106 個/ml) に加え37℃にて16時間反応させた。
【0027】
反応終了後、RAW264.7細胞より、mRNAを抽出し、そのうち500ngのcDNAを逆転写酵素にて合成した。得られたcDNAを用いて、各種炎症性サイトカインに対応するプライマープローブにて、定量的PCR法の1つであるリアルタイムPCR法を実施し、正確な炎症性サイトカインmRNA量を定量した。RAW264.7細胞培養系にLPSを添加すると、IL−1β、IL−6、TNF−α、IL−12p40及びIL−23p19のmRNA量が対照に比し、著しく増加することを確認した。
【0028】
また、第一次スクリーニングより選抜された14株中に、2種類の異なる炎症性サイトカインmRNA抑制パターンを惹起する株の存在を見いだした。1つは、IL−1β及びIL−6のmRNA量をLPS単独群に比し著しく減少させる一方で、IL−12p40及びIL−23p19のmRNA量を、LPS単独群に比し増加させるパターンであった(パターンA) 。
もう一方は、TNF−αのmRNA量をLPS単独群に比し著しく減少させ、IL−12p40及びIL−23p19のmRNA量がLPS単独群に比し、同等であるというパターンであった(パターンB) 。そして、パターンA、Bのうち、最も優れた抗炎症効果を発揮する株をそれぞれ1つ選抜し、パターンAをs193株、パターンBをs292株と命名し、以後の解析に用いた。
【0029】
[菌学的性質及び同定]
図4に示すように、スクリーニングした菌株の細菌学的性質(形態学的及び生化学的特性)を調べたところ、s193株及びs292株はラクトバシラス・ブーケンライとその近縁種の特徴を、共に有していた。
【0030】
図5に示すように、両株の16SrRNAをコードするDNAの全塩基配列を決定し、相同性検索及び系統樹作成を行った。相同性検索の結果、s193株は、ラクトバシラス・ブーケンライに99.87%の相同性を示し、s292株は、ラクトバシラス・パラブーケンライに97.879%の相同性を示した。また、図6に示すように、系統樹においても、s193株は、ラクトバシラス・ブーケンライに、s292株はラクトバシラス・パラブーケンライに非常に近縁な分類学的位置にあることが判明した。
【0031】
以上より、本願発明者はs193株をラクトバシラス・ブーケンライs193株(以下、s193株と略称する)、s292株をラクトバシラス・パラブーケンライs292株(以下、s292株と略称する)と同定した。
【0032】
なお、本発明においてスクリーニングされたs193及びs292は、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに平成20年8月12日付で、以下の受託番号で寄託されている。
【0033】
ラクトバシラス・ブーケンライs193株:FERM P−21648(識別のための表示:Lactobacillus buchneri s193 )
ラクトバシラス・パラブーケンライs292株:FERM P−21649(識別のための表示:Lactobacillus parabuchneri s292 )
【0034】
また、s193株の16SrRNAをコードするDNAの全塩基配列を配列番号1、s292株の16SrRNAをコードするDNAの全塩基配列を配列番号2として示す。
【0035】
なお、塩基配列の決定には、Endoらの方法(Int J Syst Evol Microbiol. 2005 Jan;55(Pt 1):83-5.)に準じて行った。また、DNAのシーケンスは、 Applied Biosystems 社製 DNA Sequencer ABI PRISM 3100 (16キャピラリー)を用いて行った。
【0036】
上記でスクリーニングされたs193株及びs292株の両株について、潰瘍性大腸炎モデルとして、広く使われるDSS大腸炎モデルマウスを用いてIBDへの抗炎症効果を証明するために下記に示す項目の試験(1)〜(4)を実施した。
【0037】
(1)s193株又はs292株単独投与及び両株の混合投与による、DSS腸炎における体重減少、腸炎臨床スコア、大腸腸管長及び生死率への影響。
(2)s193株又はs292株単独投与及び両株の混合投与による、DSS腸炎における組織学的評価。
(3)s193株又はs292株単独投与及び両株の混合投与による、DSS腸炎における免疫組織化学染色による炎症性細胞浸潤と接着分子発現への影響。
(4)s193株又はs292株単独投与及び両株の混合投与による、DSS腸炎における大腸組織内の炎症性サイトカインmRNA発現量への影響。
【0038】
試験(1)、(2)を実施した結果、スクリーニングした両菌株は、それぞれ特徴的に、以下のような効果を奏する。
・DSS腸炎における体重減少及び大腸腸管長の萎縮を阻止し、生存率を上昇させる。
・DSS腸炎における下痢を抑制することで、腸炎臨床スコアを減じる。
・DSS腸炎における大腸の組織学的障害度を低下させる。
【0039】
試験(3)を実施した結果、スクリーニングした両菌株は、以下のような効果を奏する。
・DSS腸炎における炎症性細胞浸潤及び接着分子発現を低下させる。
【0040】
試験(4)を実施した結果、スクリーニングした両菌株は、以下のような効果を奏する。
・DSS腸炎における大腸組織内の炎症性サイトカインmRNA発現量を低下させる。
【0041】
また、両株の混合投与は、上記の4試験において単独投与の成績を上回るという結果であった。さらに、s193株又はs292株単独投与及び両株の混合投与は、上記の4試験において、ヒト腸管由来のラクトバシラス・ガッセリの成績を大幅に上回るという結果であった。
【0042】
特に、上記試験(4)において、s193株又はs292株単独投与及び両株の混合投与は、大腸組織内のIL−12p40mRNA発現量を、DSS投与群及びヒト腸管由来のラクトバシラス・ガッセリ投与群に比し、大幅に減じた。また、s292株単独投与では、IL−12p40及びIL−23p19のRNA発現量を、DSS投与群及びヒト腸管由来のラクトバシラス・ガッセリ投与群に比し、大幅に減じた。
【0043】
このIL−12p40及びIL−23p19は、主にマクロファージや樹状細胞などの抗原提示細胞より産生され、IBDにおける慢性炎症の発生・持続に深く関与する重要な炎症性サイトカインである。
しかしながら、従来よリプロバイオティクスとして用いられてきたヒトや動物の消化管若しくは乳製品より単離されたラクトバシラス属菌においては、両サイトカイン抑制の報告は無く、本発明の新規植物性乳酸菌株であるs193株及びs292株に特徴的な作用と言える。
【0044】
さらに、上記試験(2)において、s193株又はs292株単独投与及び両株の混合投与は、下痢の症状をDSS投与群及びヒト腸管由来のラクトバシラス・ガッセリ投与群に比し、大幅に減じた。
これにより、本発明の新規植物性乳酸菌株であるs193株及びs292株が、炎症性腸疾患の予防及び治療のみならず、慢性下痢症の予防及び治療にも優れた効果を示すに至った。
【0045】
以上より、本願発明者は、s193株及びs292両株が炎症性腸疾患へ優れた予防及び治療効果を発揮する新規植物性乳酸菌株であることを見いだし、本発明を完成するに至った。また、その予防及び治療効果は、ヒト腸管由来のラクトバシラス・ガッセリに比し極めて強力であり、その作用機序はs193株及びs292両株に特徴的であることを見いだした。さらに、これらに加えて、s193株及びs292両株は、慢性下痢症の予防及び治療効果も発揮することも見いだした。
【0046】
本発明のs193株及びs292株の両菌株は、植物性発酵食品の鮒鮨由来であるため、その安全性は確立されている。従って、炎症性腸疾患並びに慢性下痢症に対する予防及び治療に用いる際は、菌体を直接的に経口投与することが可能であるが、例えば医薬品として製剤された予防及び治療薬を服用したり、任意の食品中に添加して摂取することも可能である。
【0047】
また、s193株単独投与、s292株単独投与及び両株の混合投与がそれぞれに特有の炎症性サイトカイン抑制パターンを有するため、個々の患者の病態に併せて投与することで、より有効な予防及び治療薬を提供することができる。さらに、s193株菌体又はその菌体由来成分を有効成分とするIL−6又はIL−12産生抑制剤、s292株菌体又はその菌体由来成分を有効成分とするIL−1β又はIL−12又はIL−23産生抑制剤、及び両株を混合した菌体又はその菌体由来成分を有効成分とするIL−1β又はIL−12又はTNF−α産生抑制剤の製造が可能である。
【0048】
なお、投与量においては、1日あたり生菌でl×109 〜1×1013個を投与するのが好ましいが、症状により適宜増減可能である。
【0049】
また、s193株及びs292株のそれぞれの菌の発酵生産物は、爽やかな芳香を有するため、本菌群を用いた鮒鮨以外の新たな植物性発酵食品を作成可能である。この本菌群由来の植物性発酵食品は、生菌のs193株及びs292株を含有するため、日常的な食事に取り入れることにより、炎症性腸疾患並びに慢性下痢症に対する予防及び治療を習慣的に実施することが可能である。
【0050】
ところで、本発明に係る炎症性腸疾患又は慢性下痢症に対する予防及び治療剤、抑制剤、添加剤は、菌体として生菌のまま使用することが好ましいが、例えば菌体成分、菌体由来成分(菌体から分泌されるガスや薬効成分など)、菌体処理物(菌体を超音波処理して得られる菌体破砕物、あるいは細胞壁分解酵素処理して得られる菌体溶解産物、凍結乾燥した菌体や固定化菌体など)など、その成分が保持されていれば差し支えない。また、通常用いられる製剤用担体によって、公知の方法により散剤、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤とすることもでき、食品や飼料、飲水などに混合することもできる。この場合、s193及びs292の生菌のみでなく、各菌株から得られる菌体、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物のうち少なくとも一つを有効成分とすることで、生菌と同様の効果を奏することができる。
【実施例】
【0051】
以下、上述した本発明を実施例によって更に具体的に説明する。なお、下記の各実施例は、本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に徴して設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0052】
[実施例1]
<材料と方法>
・動物:C57/BL6マウス(雌8週齢)を用いた。
・腸炎モデル:デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)大腸炎モデルマウス(Gastroenteralogy(1990)107、p1643)を用いた。
【0053】
DSS大腸炎誘発とs193株及びs292株の投与:6%(v/w)DSS(ICN社)水道水を7日間若しくは10日間、マウスに白由飲水させることで大腸炎を誘発させた(DSS投与群)。
【0054】
s193株単独投与群又はs292株単独投与群は、上記のDSS投与と同時に、それぞれの生菌体をマウス1匹あたり109 個、経胃的に毎日投与した。混合投与群は、上記のDSS投与と同時に、s193株及びs292株の生菌体を、それぞれマウス1匹あたり5×108 個ずつ、経胃的に毎日投与した。
【0055】
さらに、植物性乳酸菌であるs193株及びs292株とヒト腸管由来乳酸菌の抗炎症効果を比較検討するため、ヒト腸管由来乳酸菌であるラクトバシラス・ガッセリ(ATCC33323)の生菌体を上記のDSS投与と同時に、マウス1匹あたり109 個、経胃的に毎日投与した。対照群は、水道水を白由飲水させた。
【0056】
<DSS大腸炎に対する抗炎症効果の検証試験>
s193株およびs292株のDSS大腸炎に対する抗炎症効果の検証実験として、以下(A)〜(G)の項目を実施した。
【0057】
(A)DSS大腸炎マウスの生死率に対するs193株単独投与、s292株単独投与及び混合投与の影響
上記に基づいてDSS大腸炎誘発を実施し、s193株単独投与、s292株単独投与及び混合投与を10日間行い、生死率を算出した。
(B)DSS大腸炎マウスの体重減少率に対するs193株単独投与、s292株単独投与及び混合投与の影響
上記に基づいてDSS大腸炎誘発を実施し、s193株単独投与、s292株単独投与及び混合投与を10日間行い、体重減少率を検討した。
(C)DSS大腸炎マウスの腸炎臨床スコアに対するs193株単独投与、s292株単独投与及び混合投与の影響
上記に基づいてDSS大腸炎誘発を実施し、s193株単独投与、s292株単独投与及び混合投与を10日間行い、Cooperらの方法(Lab Invest 1993;69;238−49)に若干の改良を行い、腸炎臨床スコアを算出した。すなわち、(1)体重減少率0点;変化なし若しくは増体重、1点;試験1日目に比し、−1%〜−5%、2点;試験1日目に比し、−5%〜−10%、3点;試験1日目に比し、−10%〜−20%、4点;試験1日目に比し、−20%以上(2)糞便の状態0点;通常便、2点;下痢若しくは潜血便、4点;鮮血便(下血)(3)生死状態 0点;生存、8点;死亡とした。
(D)DSS大腸炎マウスの大腸腸管長に対するs193株単独投与、s292株単独投与及び混合投与の影響
上記に墓ついてDSS大腸炎誘発を実施し、s193株単独投与、s292株単独投与及び混合投与を7日間行い、大腸腸管長を測定した。
(E)DSS大腸炎マウスの大腸組織障害度に対するs193株単独投与、s292株単独投与及び混合投与の影響
上記に基づいてDSS大腸炎誘発を実施し、s193株単独投与、s292株単独投与及び混合投与を7日間行い、大腸組織をフォルマリン固定した。得られた組織よりパラフィン切片を作成し、ヘマトキシリン・エオジン染色(H&E染色)を行った。組織を観察し、Cooperらの方法(Lab lnvest 1993;69;238−49)により点数化して評価した。
(F)DSS大腸炎マウスのリンパ球及びマクロファージ系細胞浸潤と接着分子発現に対するs193株単独投与、s292株単独投与及び混合投与の影響
上記に基づいてDSS大腸炎誘発を実施し、s193株単独投与、s292株単独投与及び混合投与7日間を実施した後、大腸組織を過ヨウ素酸−リジンーパラホルムアルデヒド固定(PLP固定)した。得られた組織より凍結切片を作成し、免疫組織化学染色を実施した。1次抗体に抗CD4抗体、抗CD68抗体及び抗MAdCAM−1抗体を用いる事で、それぞれ、Tリンパ球浸潤、マクロファージ系細胞浸潤及び接着分子MAdCAM−l発現を評価した。
(G)DSS大腸炎マウスの大腸組織内炎症性サイトカインmRNA発現量に対するs193株単独投与、s292株単独投与及び混合投与の影響
上記に基づいてDSS大腸炎誘発を実施し、s193株単独投与、s292株単独投与及び混合投与を7日間行い、大腸組織を摘出・ホモジナイズした。そして、これより総RNAを抽出した後に、逆転写反応を行いcDNAを合成した。得られたcDNAを用いて定量的PCR法の1つであるリアルタイムPCR法を実施する事で炎症性サイトカインのmRNA発現を定量した。使用したプライマープローブは、IL−1β、IL−6、TNF−α、IL−12p40又はIL−23p19であり、すべて大腸炎の発症・増悪に密接に関与する炎症性サイトカインである。
【0058】
なお、上記(A)〜(G)の試験項目の統計解析として、パラメトリックデータに対しては、スチューデント若しくはウエルチのt検定、ノンパラメトリックデータに対しては、マンホイットニ検定をそれぞれ用いて、統計学的処理を行った。
【0059】
<試験結果>
(A):図7に示すように、6%DSSを10日間、マウスに投与したところ、DSS投与群において、激しい下血などの症状が惹起され、70%の個体が死亡した。しかしながら、s292株単独投与群及びラクトバシラス・ガッセリ投与群では死亡率が50%に減少した。s193株単独投与群では、死亡率は20%に留まった。さらに、混合投与群では、DSS投与10日目に死亡した個体はなく(死亡率0%)、ラクトバシラス・ガッセリ投与群の成績を有意に上回る結果となった。
【0060】
(B):図8に示すように、6%DSSを7日間、マウスに投与した。投与5日目から7日目において、DSS投与群では血便を代表とする大腸炎の症状が認められると同時に、箸しい体重の減少が観察された。各投与群では、DSS投与群に比し、1)混合投与群、2)s292単独投与群、3)s193単独投与群、4)ラクトバシラス・ガッセリ投与群の順で体重減少が軽減された。
【0061】
(C):図9に示すように、6%DSSを10日間、マウスに投与したところ、DSS投与群において、投与3日目より下痢などの症状が認められ、投与5日目から鮮血便と体重減少を伴う大腸炎の症状が認められた。各投与群では〜DSS投与群に比し、1)混合投与群、2)s193単独投与群、3)s292単独投与群の順で、下痢をはじめとする上記の症状が大幅に緩和され、腸炎臨床スコアが軽減された。特に、混合投与群の10日目においては、DSS投与群及びラクトバシラス・ガッセリ投与群を大幅に下回る成績であった。
【0062】
(D):図10に示すように、6%DSSを7日間、マウスに投与したところ、DSS投与群では著しい大腸腸管長の収縮が認められた。S292単独投与群及びラクトバシラス・ガッセリ投与群では、大腸腸管長の有意な収縮抑制は認められなかった。しかしながら、s193単独投与群及び混合投与群においては、DSS投与群に比し、有意な大腸腸管長の収縮抑制が確認された。
【0063】
(E):6%DSSを7日間、マウスに投与後、大腸組織障害度を検証した。図11に示すように、DSS投与群では、絨毛の損傷・損失、上皮における潰瘍やびらん、さらに粘膜下層へ多数の細胞浸潤が観察された。ラクトバシラス・ガッセリ投与群では、これらの所見は、ほとんど抑制が認められなかったが、s193単独投与群、s292単独投与群及び混合投与群では、これらの所見が大幅に抑制された。
また、図12に示すように、組織障害度を点数化した結果、ラクトバシラス・ガッセリ投与群ではDSS投与群に比し、有意な炎症スコアの減少は認められなかった。しかしながら、s193単独投与群、s292単独投与群及び混合投与群では、DSS投与群に比し、有意な炎症スコアの減少が認砂られ、特に混合投与群においてはp<0.01以下の有意差をもって、極めて強力に組織障害度を減じた。
【0064】
(F):図13、14に示すように、6%DSSを7日間、マウスに投与後、免疫組織化学染色により、リンパ球(CD4陽性細胞)及びマクロファージ系細胞(CD68陽性細胞)浸潤と接着分子MAdCAM−1発現を観察した。DSS投与群では、多数のリンパ球及びマクロファージ系細胞が粘膜固有層へ浸潤し、血管内皮の接着分子MAdCAM−1発現が大幅に増強されていた。また、各投与群において、リンパ球細胞浸潤の抑制効果はあまり認められなかった。しかしながら、マクロファージ系細胞の浸潤は、s193単独投与群、s292単独投与群及び混合投与群において、著しく抑制された。ラクトバシラス・ガッセリ投与群では、本抑制効果は観察されなかった。
同様に、図15に示すように、接着分子MAdCAM−1発現においても、ラクトバシラス・ガッセリ投与群では発現抑制効果が、あまり観察されなかったが、s193単独投与群及びs292単独投与群では、著しい抑制効果が認められた。
【0065】
(G):6%DSSを7日間、マウスに投与後、大腸組織内の炎症性サイトカインmRNA発現量を定量した。
その結果、図16、17に示すように、DSS投与群では、対照群に比し、検証した全ての炎症性サイトカインmRNA発現量が増強していた。これに対し、s193単独投与群は、IL−6及びIL−12p40のmRNA発現量が有意に抑制された。s292単独投与群では、IL−1β、IL−12p40及びIL−23p19のmRNA発現量が有意に抑制された。さらに、混合投与群においては、IL−1β、IL−12p40及びTNF−αのmRNA発現量が有意に抑制された。しかしながら、ラクトバシラス・ガッセリ投与群では、DSS群に比し、検証した全ての炎症性サイトカイン血RNA発現量の有意な抑制は認められなかった。
【0066】
[実施例2]
s193株及びs292株を用いて、鮒鮨以外の植物性発酵食品(白菜漬)を、以下の材料と方法にて作成した。
【0067】
<材料と方法>
・材料:白菜、食塩、滅菌生理食塩水
・使用する菌株:s193及びs292
【0068】
s193株及びs292株をMRSブロスにて増殖させた。最終的な菌量は、それぞれ1×109 個となるように調整し、菌体を減菌生理食塩水にて洗浄した。上記のごとく調整したs193株及びs292株を、白菜500g及び食塩10g(白菜の重量の2%相当)を均一に混合し、密閉容器に入れ、室温(約20℃)にて4日間反応させた。
【0069】
以上のように、本発明のs193株及びs292株を用いて製造した植物性発酵食品(白菜漬)は、風味が良好で美味であった。また、独特の酸味を有していたが、鮒鮨の酸味に比し、大幅にマイルドであり嗜好性が高まっていた。
さらに、得られた植物性発酵食品(白菜漬)を粉砕し、滅菌生理食塩水と混合しフィルタにて固形物を除去した。得られたサンプルを、MRS寒天培地に塗布し嫌気培養を行ったところ多数のコロニーが出現した。これにより、本発明の菌株を用いて製造した植物性発酵食品(白菜漬)は、生菌のs193株及びs292株を豊富に含有する事が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明で単離されたs193株及びs292株のそれぞれの菌は、植物性発酵食品の鮒鮨由来であるため、その人体に対する安全性は、完全に確立されている。そのため、炎症性腸疾患並びに慢性下痢症に対する予防及び治療の際、医薬品として「製剤」の範疇で提供する事のみならず、特定健康食品をはじめとする「食品」の範疇で提供可能である。このため、産業上利用への移行は、非常に容易である。また、s193株及びs292株のそれぞれの菌は、加工や菌体成分の精製を行わなくても、きわめて優れた抗炎症効果を発揮する。また、本発明に係る炎症性腸疾患又は慢性下痢症に対する予防及び治療剤、抑制剤、添加剤は、菌株から抽出した生菌を添加して得るだけでなく、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物を用いて製造したものであっても、生菌を使用したものと同様の効果を奏する。よって、炎症性腸疾患並びに慢性下痢症に対する予防及び治療目的として、製造を行う場合、その過程及び使用機材は簡略なもので十分であるため、産業上の利用可能性が極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】RAW264.7細胞培養系に大腸菌由来内毒素(LPS)を添加した際のTNF−α産生応答及びこれに対する鮒鮨由来植物性乳酸菌の影響を示す図である。
【図2】RAW264.7細胞培養系に大腸菌由来内毒素(LPS)を添加した際のIL−IB、IL−6及びTNF−α mRNA発現応答及びこれに対する鮒鮨由来植物性乳酸菌の影響を示す図である。
【図3】RAW264.7細胞培養系に大腸菌由来内毒素(LPS)を添加した際のIL−12p40及びIL−23p19 mRNA発現応答及びこれに対する鮒鮨由来植物性乳酸菌の影響を示す図である。
【図4】鮒鮨中より単離されたs193株及びs292株の細菌学的性質を示した図である。
【図5】鮒鮨中より単離されたs193株及びs292株の16SrRNA塩基配列と他の近縁なラクトバシラス属菌の16SrRNA塩基配列の相同性を示した図である。
【図6】鮒鮨中より単離されたs193株及びs292株の16SrRNA塩基配列と他の近縁なラクトバシラス属菌の16SrRNA塩基配列を用いて作成した系統樹を示す図である。
【図7】鮒鮨中より単離されたラクトバシラス属菌s193株及びs292株のDSS大腸炎マウスに対する延命効果を示す図である。
【図8】DSS大腸炎マウスの体重減少率に対する、鮒鮨中より単離されたラクトバシラス属菌s193株及びs292株の効果を示す図である。
【図9】DSS大腸炎マウスの腸炎臨床スコアに対する、鮒鮨中より単離されたラクトバシラス属菌s193株及びs292株の効果を示す図である。
【図10】DSS大腸炎マウスの大腸腸管長収縮に対する、鮒鮨中より単離されたラクトバシラス属菌s193株及びs292株の効果を示す図である。
【図11】DSS大腸炎マウスの大腸組織障害に対する、鮒鮨中より単離されたラクトバシラス属菌s193株及びs292株の効果をH&E染色にて示す図である。
【図12】DSS大腸炎マウスの大腸組織障害に対する、鮒鮨中より単離されたラクトバシラス属菌s193株及びs292株の効果を点数化して示す図である。
【図13】DSS大腸炎マウスの大腸組織におけるCD4陽性細胞の免疫組織学的検出結果を示す図である。
【図14】DSS大腸炎マウスの大腸組織におけるCD68陽性細胞の免疫組織学的検出結果を示す図である。
【図15】DSS大腸炎マウスの大腸組織における接着分子MAdCAM−1の免疫組織学的検出結果を示す図である。
【図16】DSS大腸炎マウスの大腸組織内のIL−1β、IL−6及びTNF−α mRNA発現応答及びこれに対するs193株及びs292株の影響を示す図である。
【図17】DSS大腸炎マウスの大腸組織内のIL−12p40及びIL−23p19 mRNA発現応答及びこれに対するs193株及びs292株の影響を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鮒鮨から単離され、炎症性腸疾患や慢性下痢症に対して抗炎症効果を有するラクトバシラス属に属する新規の植物性乳酸菌株。
【請求項2】
ラクトバシラス・ブーケンライs193株(受託番号:FERM P−21648)である請求項1記載の植物性乳酸菌株。
【請求項3】
ラクトバシラス・パラブーケンライs292株(受託番号:FERM P−21649)である請求項1記載の植物性乳酸菌株。
【請求項4】
配列番号1に示す16SrRNAをコードするDNAの塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有することを特徴とする請求項2記載の植物性乳酸菌株。
【請求項5】
配列番号2に示す16SrRNAをコードするDNAの塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有することを特徴とする請求項3記載の植物性乳酸菌株。
【請求項6】
請求項2又は4記載のラクトバシラス・ブーケンライs193株及び/又は請求項3又は5記載のラクトバシラス・パラブーケンライs292株から得られる菌体、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物のうち少なくとも一つを有効成分とすることを特徴とする炎症性腸疾患に対する予防および治療剤。
【請求項7】
請求項2又は4記載のラクトバシラス・ブーケンライs193株及び/又は請求項3又は5記載のラクトバシラス・パラブーケンライs292株から得られる菌体、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物の少なくとも一つを有効成分とすることを特徴とする慢性下痢症に対する予防および治療剤。
【請求項8】
請求項2又は4記載のラクトバシラス・ブーケンライs193株から得られる菌体、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物のうち少なくとも一つを有効成分とすることを特徴とするIL−6又はIL−12産生抑制剤。
【請求項9】
請求項3又は5記載のラクトバシラス・パラブーケンライs292株から得られる菌体、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物のうち少なくとも一つを有効成分とすることを特徴とするIL−1β又はIL−12又はIL−23産生抑制剤。
【請求項10】
請求項2又は4記載のラクトバシラス・ブーケンライs193株及び/又は請求項3又は5記載のラクトバシラス・パラブーケンライs292株から得られる菌体、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物のうち少なくとも一つを有効成分とすることを特徴とするIL−1β又はIL−12又はTNF−α産生抑制剤。
【請求項11】
発酵食品製造時に使用され、請求項2又は4記載のラクトバシラス・ブーケンライs193株及び/又は請求項3又は5記載のラクトバシラス・パラブーケンライs292株から得られる菌体、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物のうち少なくとも一つを有効成分とすることを特徴とする添加剤。
【請求項1】
鮒鮨から単離され、炎症性腸疾患や慢性下痢症に対して抗炎症効果を有するラクトバシラス属に属する新規の植物性乳酸菌株。
【請求項2】
ラクトバシラス・ブーケンライs193株(受託番号:FERM P−21648)である請求項1記載の植物性乳酸菌株。
【請求項3】
ラクトバシラス・パラブーケンライs292株(受託番号:FERM P−21649)である請求項1記載の植物性乳酸菌株。
【請求項4】
配列番号1に示す16SrRNAをコードするDNAの塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有することを特徴とする請求項2記載の植物性乳酸菌株。
【請求項5】
配列番号2に示す16SrRNAをコードするDNAの塩基配列又はそれと実質的に相同な塩基配列を有することを特徴とする請求項3記載の植物性乳酸菌株。
【請求項6】
請求項2又は4記載のラクトバシラス・ブーケンライs193株及び/又は請求項3又は5記載のラクトバシラス・パラブーケンライs292株から得られる菌体、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物のうち少なくとも一つを有効成分とすることを特徴とする炎症性腸疾患に対する予防および治療剤。
【請求項7】
請求項2又は4記載のラクトバシラス・ブーケンライs193株及び/又は請求項3又は5記載のラクトバシラス・パラブーケンライs292株から得られる菌体、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物の少なくとも一つを有効成分とすることを特徴とする慢性下痢症に対する予防および治療剤。
【請求項8】
請求項2又は4記載のラクトバシラス・ブーケンライs193株から得られる菌体、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物のうち少なくとも一つを有効成分とすることを特徴とするIL−6又はIL−12産生抑制剤。
【請求項9】
請求項3又は5記載のラクトバシラス・パラブーケンライs292株から得られる菌体、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物のうち少なくとも一つを有効成分とすることを特徴とするIL−1β又はIL−12又はIL−23産生抑制剤。
【請求項10】
請求項2又は4記載のラクトバシラス・ブーケンライs193株及び/又は請求項3又は5記載のラクトバシラス・パラブーケンライs292株から得られる菌体、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物のうち少なくとも一つを有効成分とすることを特徴とするIL−1β又はIL−12又はTNF−α産生抑制剤。
【請求項11】
発酵食品製造時に使用され、請求項2又は4記載のラクトバシラス・ブーケンライs193株及び/又は請求項3又は5記載のラクトバシラス・パラブーケンライs292株から得られる菌体、菌体成分、菌体由来成分、菌体処理物のうち少なくとも一つを有効成分とすることを特徴とする添加剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図16】
【図17】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図16】
【図17】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−99024(P2010−99024A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274204(P2008−274204)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(390014306)防衛省技術研究本部長 (169)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(390014306)防衛省技術研究本部長 (169)
【Fターム(参考)】
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