説明

抗炎症活性を有するラクトバチルス分離株及びそれらの利用

【課題】抗炎症性と有用なプロバイオティックの性質を有する2種類のラクトバチルス分離株、ラクトバチルス サケイ GMNL−76及びラクトバチルス ロイテリ GMNL−89の開示と利用。
【解決手段】上記菌株を自然界から選別し、食品工業発展研究所(FIRDI)の生物資源保存研究センター(BCRC)にそれぞれ受託番号BCRC 910355及びBCRC 910340として、そして中国典型培養物保蔵センター(CCTCC)にそれぞれ受託番号CCTCC M 207153及びCCTCC M 207154で寄託した。それらと継代培養した後世代について、食品及び医薬品への応用例を示した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(同じ関連出願の相互参照の利用)
本出願は2008年4月30日に提出した台湾出願第097115882号の優先権を請求する。
【0002】
(本発明の背景)
1.本発明の分野
本発明は抗炎症性活性及び有益なプロバイオティック性質を有する2種類のラクトバチルス(Lactobacillus)分離株、即ちラクトバチルス サケイ(Lactobacillus sakei)GMNL−76及びラクトバチルス ロイテリ(Lactobacillus reuteri)GMNL−89に関し、それらは食品工業発展研究所(the Food Industry Research and Development Institute(FIRDI))の生物資源保存研究センター(Biosource Collection and Research Center(BCRC))にそれぞれ受託番号BCRC 910355及びBCRC 910340として、そして中国典型培養物保蔵センター(the China Center for Type Culture collection(CCTCC))にそれぞれ受託番号CCTCC M 207153及びCCTCC M 207154で寄託した。当該2種類の単離株及びそれらの継代培養した後世代は種々な食品生産物の製造及びリウマチ性関節炎のような炎症に関連する疾患を治療及び/又は軽減するための医薬組成物の製造に使用できる。
【背景技術】
【0003】
2.関連する技術の説明
サイトカインは炎症、組織修復、細胞増殖、線維化、血管形成及び免疫反応を含んでいる数多くの重要な生物的プロセスに関与していることが知られている。それゆえ、サイトカインは自己免疫疾患にて重要な役割を果たしている。
【0004】
M.Feldman等はリウマチ性関節炎の滑膜組織におけるサイトカインの発現及び調節を分析することによりリウマチ性関節炎の発病機序を検討した(M.Feldmann等(1996)、Annu.Rev.Immunol.,14:397〜440)。M.Feldman等によれば、サイトカインは主なる4種類に分類される:(1)炎症性サイトカイン;(2)免疫調節性サイトカイン;(3)走化性サイトカイン;及び(4)細胞分裂促進性サイトカイン。
【0005】
炎症性サイトカインはヘルパーT1細胞(略してTh1細胞)により産生される分子群であり、遅延型過敏性反応を制御する能力を有しており、インターロイキン−1(IL−1)、インターフェロン−γ(IFN−γ)、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)及び顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)を含む。リューマチ性疾患にて見られる軟骨破壊はマトリックスプロテイナーゼ(MMPs)の活性で生じることが広く知られている。MMPsは炎症性サイトカイン(IL−1又はTNF−α)に応答しやすい活性化マクロファージ及び線維芽細胞により生成する。更にM.Feldmann等は更にIL−1又はTNF−αのコラーゲン免疫マウス又はラットへの注射、或いはIFN−γのコラーゲンII型免疫マウスの足蹠への局所注射は関節リウマチの出現を促し、当該疾患を悪化させるであろうと報告した(M.Feldmann et al.(1996)、同上)。
【0006】
免疫調節性サイトカイン(抗炎症性サイトカインとも称する)はヘルパーT2細胞(略してTh2細胞)から生成する分子群で、炎症性反応を阻止する能力を有し、IL−4、IL−10、IL−13及び形質転換増殖因子−β(TGF−β)を含む。G.Garcia等による論文(G.Garcia et al.(1999),Journal of Autoimmunity,13:315〜324)では、2種類の免疫調節性サイトカイン、TGF−β及びIL−10はMMPsを誘導するような炎症性サイトカインの産生を阻害するばかりではなく、MMPs(即ち、マトリックスメタロプロテイナーゼ、TIMPs)の天然阻害剤の産生も誘導するであろうことを報告している。更にG.Garcia等はIL−10がTh1細胞からのIFN−γの産生及び他の白血球群からの種々なサイトカインの産生を阻害する能力を有することが知られていることを指摘した。IL−10はマクロファージからのIL−1、IL−6、TNF−αとIL−8及びG−CSF(顆粒球−コロニー刺激因子)の産生及び多形核球細胞からのIL−1、TNF、IL−8、マクロファージ炎症性タンパク質1α(MIP1α)及びマクロファージ炎症性タンパク質1β(MIP1β)を阻害した。これらのサイトカイン及びケモカインの多くは関節リウマチの病理学的プラセスに関係している(G.Garcia et al.(1999),同上)。
【0007】
これらの研究結果はTh1細胞に関係する炎症性サイトカイン(TNF−α及びIFN−γのような)は炎症を促進し、関節リウマチを悪化させる一方、Th2に関係する免疫調節性サイトカイン(IL−10及びIL−4のような)は炎症性サイトカインの産生を阻害することができるのみならずTIMPsの産生も阻害して、それにより軟骨破壊を低減させる。
【0008】
Jae−Seon SoはLactobacillus caseiの経口投与はコラーゲン誘導関節炎(CIA)を抑制し、足の腫れ、リンパ球浸潤及び軟骨組織の破壊を軽減した。Lactobacillus casei投与はII型コラーゲン(CII)反応性炎症性分子(IL−1β、IL−2、IL−6、IL−12、IL−17、IFN−γ、TNF−α及びCox−2)をCD4+T細胞により低減させることを報告した。Lactobacillus casei投与は同じようにNF−κBの核及びCII−反応性Th−1型IgGアイソタイプIgG2a及びIgG2bへの転座を低下させる一方で、IL−10レベルを上昇制御した(Jae−Seon So et al.(2008),Mol.Immunol.,45(9):2690〜2699;Epub 2008 Feb 19)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
関節リウマチがラクトバチルス分離株の投与で治療/軽減できれば、関節リウマチの患者用に安全で安価な薬剤が開発されるであろう。
【0010】
前述の目的を達成するために、当該出願人は台湾の成人被験者の消化管試料から2種類のラクトバチルス分離株を選別した。当該2種類のラクトバチルス分離株はそれらのそれぞれの種の既知菌株とは系統発生学的に異なり、大量のIL−10、比較的少量のIFN−γ及び/又はTNF−αの発生を刺激することができる抗炎症活性を有している。それによりこれらのラクトバチルス分離株は関節リウマチを含むが、それだけに限らず炎症に関係する疾患を治療するのに有用であることが予想される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(本発明の概要)
従って、第一の態様では本発明は抗炎症性活性を有するLactobacillus種の分離菌株を提供し、当該分離した菌株は、
(i)(a)食品工業発展研究所(the Food Industry Research and Development Institute(FIRDI))の生物資源保存研究センター(Biosource Collection and Research Center(BCRC))に受託番号BCRC 910355として、中国典型培養保蔵センター(China Center for Type Culture Collection(CCTCC))に受託番号CCTCC M 207153として寄託したラクトバチルス サケイ GMNL−76、及び
(b)食品工業発展研究所(the Food Industry Research and Development Institute(FIRDI))の生物資源保存研究センター(Biosource Collection and Research Center(BCRC))に受託番号BCRC 910340として、中国典型培養保蔵センター(China Center for Type Culture Collection(CCTCC))に受託番号CCTCC M 207154として寄託したラクトバチルス ロイテリ GMNL−89、から選択した寄託菌株、又は(ii)当該寄託菌株(i)の継代培養した後世代である。
【0012】
第二の態様では、本発明は食用材料と本発明のラクトバチルス種の分離株を含んでいる食品を提供する。
【0013】
第三の態様では、本発明は抗炎症性活性を有し、本発明によるラクトバチルス種の分離菌株を含む医薬組成物を提供する。
【0014】
第四の態様では、本発明は治療を必要とする患者に本発明のラクトバチルス種の分離株を投与することを含む、炎症が関与する疾病患者を治療する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明の他の特徴及び利点は添付図面を参考にした好ましい実施形態の次なる詳細な説明で明らかになるであろうが、その中で、
【0016】
【図1】図1はコラーゲン誘導関節炎に罹っていて、本発明のLactobacillus GMNL−76とGMNL−89を8週連続与えたラットから得た血清中のIL−10についてのELISA試験結果を示しているが、そこでは関節炎に罹っておらずRO水を与えたラット及び関節炎を誘導されRO水を与えたラットがそれぞれ対照群とプラセボ群である。
【図2】図2はコラーゲン誘導関節炎に罹っており、本発明のLactobacillus GMNL−76とGMNL−89を8週連続与えたラットから得た血清中のIFN−γについてのELISA試験結果を示しているが、そこでは関節炎に罹っておらずRO水を与えたラット及び関節炎を誘導されRO水を与えたラットがそれぞれ対照群とプラセボ群である。
【図3】図3はコラーゲン誘導関節炎に罹っており、本発明のLactobacillus GMNL−76とGMNL−89を8週連続与えたラットから得た血清中のTNF−αについてのELISA試験結果を示しているが、そこでは関節炎に罹っておらずRO水を与えたラット及び関節炎を誘導されRO水を与えたラットがそれぞれ対照群とプラセボ群である。
【図4】図4はLactobacillus GMNL−76の16S rDNAヌクレオチド配列(SEQ.ID.NO.:4)を示している。
【図5】図5は本発明のLactobacillus GMNL−76及び既知の2種類のラクトバチルス サケイから、BCRC 12933とBCRC 17500のゲノムDNAsを鋳型として用い、Lac P2プライマーを使用して行ったランダム増殖多型DNA(RAPD)分析の後に実施した1.8%アガロースゲルでの電気泳動の画像結果を示す。(A)ではレーンM1:DNAラダー(100〜3000bp)であり、レーン1:GMNL−76;(B)ではレーンM2:DNAラダー(100〜3000bp)で、レーン2:BCRC12933;そして(C)ではレーンM3:DNAラダー(100〜3000bp)であり、レーン3:BCRC17500である。
【図6】図6はLactobacillus GMNL−89の16S rDNAヌクレオチド配列(SEQ.ID.NO.:5)を示しており、そして
【図7】図7は本発明のLactobacillus GMNL−89及び既知の5種類のラクトバチルス ロイテリのうち、BCRC 14625、BCRC 16090、BCRC 16091、BCRC 17476とBCRC17478のゲノムDNAsを鋳型として用い、Lac P2プライマーを使用して行ったランダム増殖多型DNA(RAPD)分析の後に実施した1.8%アガロースゲルでの電気泳動の画像結果を示す。(A)ではレーンM1:DNAラダー(100〜3000bp)であり、レーン1:GMNL−89;(B)ではレーンM2:DNAラダー(100〜3000bp)で、レーン2:BCRC14625;(C)ではレーンM3:DNAラダー(100〜3000bp)であり、レーン3:BCRC16090であり、(D)ではレーンM4:DNAラダー(100〜3000bp)とレーン4:BCRC16091;(E)ではレーンM5:DNAラダー(100〜3000bp)であり、レーン5:BCRC17476、そして(F)ではレーンM6:DNAラダー(100〜3000bp)で、レーン6:BCRC17478である。
【0017】
(好ましい実施形態の詳細な説明)
関節リウマチは全身的慢性疾患である。しかしながら、臨床的に使用されている薬物は関節リウマチを効果的に治療することができない。更に、当該薬剤を長期使用すると望ましくない副作用を誘導することがある。
【0018】
加えて、以前の研究は炎症性サイトカイン(IFN−γ及びTNF−αのような)は炎症を促進するので関節リウマチが悪化することを示していた。Th2細胞に関係する免疫調節性サイトカイン(IL−10及びIL−4など)は炎症性サイトカインの産生を阻害することができ、TIMPsの産生を誘導することで軟骨の破壊を軽減することができる。それにより、免疫調節性サイトカイン及び炎症性サイトカインの分泌を調節することで関節リウマチの治療がなされるであろうという仮説が立てられる。
【0019】
乳酸菌、特にLactobacillus属の菌株はよく知られており、広く使用されているプロバイオティック微生物である。これらは宿主に対して多くのプロバイオティック効果を有することが知られており、例えば通常の腸内微生物叢の均衡を改善し、下痢を防止し、大腸ガンの危険性を軽減し、胃腸上皮細胞の通常の成長と機能を刺激し、ビタミンと酵素の生産の合成を促進し、そして膣症の防止と治療を行う。
【0020】
それにより、当該出願人は関節リウマチの治療用にプロバイオティック微生物と考えられている乳酸菌から有益な抗炎症活性を有するLactobacillus分離株を見出す試みを行った。
【0021】
それにより、台湾の健康な成人被験者から得た胃腸管の標本をLactobacillus分離株の分離源として使用した。当該分離株は実験した動物の単球とそれぞれ共培養して、単球を刺激してサイトカインを分泌させた。IL−10及びIFN−γを選別標識として使用して、大量のIL−10及び比較的少量のIFN−γ及び/又はTNF−αを分泌させる能力を有している2種類のLactobacillus分離株、即ちGMNL−76及びGMNL−89を得た。こうして得た2種類のLactobacillus分離株を特徴つけの目的で試験をし、同定してそれぞれラクトバチルス サケイ及びLactbacillus reuteriと指定した。
【0022】
ラクトバチルス サケイ GMNL−76及びラクトバチルス ロイテリ GMNL−89はそれぞれ食品工業発展研究所(the Food Industry Research and Development Institute(FIRDI))の生物資源保存研究センター(Biosource Collection and Research Center(BCRC))(331 Shin−Pin Road,Hsinchu city 300,Taiwan,R.O.C.)に2007年6月14日と2006年11月14日にそれぞれ受託番号BCRC 910355及びBCRC 910340として寄託した。これらの分離株は同様に中国典型培養物保蔵センター(the China Center for Type Culture collection(CCTCC))(Wuhan University,Wuhan,430072,People's Republic of China)に2007年11月19日のBudapest条約に基づきそれぞれ受託番号CCTCC M 207153及びCCTCC M 207154で寄託した。
【0023】
本発明のラクトバチルス サケイ GMNL−76及びラクトバチルス ロイテリ GMNL−89をコラーゲン誘導関節炎のラットに与えると、ラット血清中においてIL−10の上昇及びIFN−γとYNF−αの低下が観察された。これは本発明のラクトバチルス サケイ GMNL−76及びラクトバチルス ロイテリ GMNL−89がラットの関節炎を軽減する能力を有することを示す。
【0024】
ラクトバチルス サケイ BCRC 12933及びBCRC 17500の既知菌株及びラクトバチルス ロイテリ BCRC 14625、BCRC 16090、BCRC 16091、BCRC 17476及びBCRC 17478などの既知菌株と比較すると、ラクトバチルス サケイ GMNL−76及びラクトバチルス ロイテリ GMNL−89の体外において単球によるIL−10分泌を刺激する能力は、それが属する種の他の既知菌株より良好である。
【0025】
上述した有用な生物的活性の点において、2種類のLactobacillus分離株又はそれらの継代培養した後世代は炎症に関連する疾病の治療で可能性を有することが予期される。これにより、本発明は炎症関連疾病を治療する医薬組成物を提供する。当該医薬組成物は:
(i)以下から選択した少なくとも1種類の寄託した菌株:
(a)食品工業発展研究所(the Food Industry Research and Development Institute(FIRDI))の生物資源保存研究センター(Biosource Collection and Research Center(BCRC))に受託番号BCRC910355として寄託し、中国典型培養物保蔵センター(the China Center for Type Culture collection(CCTCC))に受託番号CCTCC M 207153で寄託したラクトバチルス サケイ GMNL−76;及び
(b)食品工業発展研究所(the Food Industry Research and Development Institute(FIRDI))の生物資源保存研究センター(Biosource Collection and Research Center(BCRC))に受託番号BCRC910340として寄託し、中国典型培養物保蔵センター(the China Center for Type Culture collection(CCTCC))に受託番号CCTCC M 207154で寄託したラクトバチルス ロイテリ GMNL−89;又は
(ii)当該寄託菌株(i)の継代培養した後世代、を含む。
【0026】
本発明は同じように当該分離したLactobacillus菌株及びその継代培養した後世代の1種類を、治療を必要とする被験者に投与することを含む、被験者での炎症関連疾病を治療する方法を提供する。
【0027】
本発明によれば、炎症関連疾病は関節リウマチ、骨粗鬆症、若年性関節リウマチ、硬直性脊椎炎、脊椎炎、乾癬性関節炎、クローン病、潰瘍性大腸炎及び乾癬から選ばれる(Eveline Trachsel et al.(2007),Arthritis Research & Therapy,9(1):R9,Published online 2007 January 29.doi:10.1186/ar2115;Suchita Nadkarni et al.(2007),The Journal ofExperimental Medicine,204:33〜39;Richard OWilliams et al.(2007),Current Opinion in Pharmacology,7:412〜417)。本発明の好ましい実施形態では、炎症関連疾病は関節リウマチである。
【0028】
本発明の医薬組成物では、前述Lactobacillus分離株又は継代培養の後世代そのものは薬学的に許容できる担体とともに処方され、薬物製造の技術で知られている手法を用いて経口投与に適した剤形とした。本発明の好ましい実施形態では、医薬組成物は以下からなる群より選択される剤形である:溶液、懸濁液、乳濁液、粉末、錠剤、ピル、シロップ、座薬、トローチ、チュウインガム、カプセル、スラリーなど。
【0029】
本明細書で使用するとき、“薬学的に許容できる担体”とは、被験者に投与したときアレルギー反応又は他の好ましからざる効果を被験者に生じない担体を称する。本発明によると、当該薬学的に許容できる担体には以下の1種類以上が含まれる:溶媒、乳化剤、懸濁剤、分解剤、結合剤、賦形剤、安定化剤、キレート化剤、希釈剤、ゲル化剤、保存剤、滑剤など。
【0030】
これに加えて、本発明のラクトバチルス サケイ GMNL−76及びラクトバチルス ロイテリ GMNL−89は胆汁塩や胃酸に抵抗性があることも見出されており、それゆえ胃腸のプロバイオティック物として使用するのに適している。例えば、これら2種類の分離株及びそれらの継代培養した後世代は食品添加物として使用でき、それは既知の方法によれば食物成分の調製時に添加されるか、又はこのものを発酵プロセス中に加えるのが望ましくない場合、当該食品成分の発酵後に加えて、ヒト又は動物で摂取するのに適する食品中にいずれの食用成分とともに処方されるようにする。
【0031】
本発明は同様に前述のLactobacillus分離株又はそれらの後世代と食用成分を含む食品を提供する。
【0032】
本発明に適している食用成分には、これに限られることはないが:液体ミルク製品、例えばミルク及び濃縮ミルク;発酵ミルク、例えばヨーグルト、酸乳、冷凍ヨーグルト及び乳酸菌発酵飲料;粉乳;アイスクリーム;クリームチーズ;乾燥チーズ;豆乳;発酵豆乳;植物−果実ジュース;果物ジュース;スポーツ飲料;菓子類;ゼリー;キャンディ;特殊調製粉乳;健康食品;飼料;健康補助食品などが含まれる。
【0033】
これに加えて、本発明の食品は凍結乾燥又は噴霧乾燥した分離菌株粉末を含有する即席食品の形であっていてもよく、それは直接消費できる。関連する食品の調製については、例えばUS 6,872,565 B2、US 7,244,424 B2、US 7,270,994 B2、US 7,172,777 B2及びUS 6,872,411 B1を参考にすることができる。
【0034】
本発明の食品は更に少なくとも1種類のプロバイオティック微生物を含んでいても良い。本明細書で使用いるとき、用語“プロバイオティック微生物”及び“プロバイオティックス”は同じ意味で使用されており、生きている微生物の調製物を称する。これらの微生物は、ヒト又は動物に摂取された後でも胃腸管中で残存し生存することができ、予防的又は治療的効果を及ぼすことができる。
【0035】
本発明で使用に適しているプロバイオティック微生物には、これだけに限らないがLactobacillus種、Bifidobacterium種、Streptococcus種、酵母及びそれらの組合せが含まれる。
【0036】
好ましくは、当該Lactobacillus種は以下からなる群より選ばれる:Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus Lactis、Lactobacillus helveticus、Lactobacillus brevis、Lactobacillus casei、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus salivarius、Lactobacillus bifidus、Lactobacillus bulgaricus、Lactobacillus caucasicus、Lactobacillus rhamunosus、Lactobacillus gasseri及びそれらの組合せ。
【0037】
好ましくは、当該Bifidobacterium種は以下からなる群より選ばれる:Bifidobacterium bifidum、Bifidobacterium longum、Bifidobacterium infatis、Bifidobacterium breve、Bifidobacterium adolescentis、Bifidobacterium lactis及びそれらの組合せ。
【0038】
好ましくは、当該Streptococcus種は以下からなる群よりえらばれる:Streptococcus thermophilus、Streptococcus lactis、Streptococcus cremoris、Streptococcus diacetylcatis及びそれらの組合せ。
【0039】
好ましくは、当該酵母は以下からなる群より選ばれる:Candida kefyr、Saccharomyces florentinus、Saccharomyces cereviseaeそしてそれらの組合せ。
(実施例)
【実施例1】
【0040】
実施例1.抗炎症性活性を有するLactobacillus分離株の予備的選出
【0041】
材料及び方法:
A.試験を行った菌株の出所及び調製
出願人は2002年1月にChina Medicine University Hospital(台中,台湾)にて多くの健康な成人の胃腸管から試料を採取した。Lactobacillusの約400の分離株を当該試料から選択した。関節炎リウマチの治療において可能性があるプロバイオティックスを探すために、出願人は抗炎症性活性に関してIL−10を選択標識として用いて分離した菌株を分析した。
【0042】
Bacto Lactobacillus MRSブロス培地(DIFCO,Cat.No.0881)に試験菌株を植え、そののち37℃で12〜18時間嫌気性培養した。得られた細菌培養物を4,000rpmで15分間遠心分離した。上澄み液を除去した後、当該沈降物を3回1×リン酸緩衝食塩水中(PBS)で洗浄して、そののち1×PBSに懸濁した。当該得られた細菌溶液の濃度を1×PBSを用いて1〜5×10細胞/mLに調整し(細菌数はOD600を用いて計数した、OD600=1.00=5.0×10細胞/mL)、こうして調整した細菌溶液を10、10、10、10、10、10、10、10細胞/mLの試験溶液を得るための10倍連続希釈用の原液として使用した。
【0043】
B.マウス脾臓単球の調製:
6〜8週齢の雌BALB/cマウスを、COを用いて屠殺し、当該脾臓を取り出して滅菌したガラス棒で擂り潰した。擂り潰した後、得た脾臓組織をFicoll−PagueTM PLUS(17−1441−03、Amersham Biosciences)により容量比1:1にて密度勾配遠心分離法(720g×20分、4℃未満)にかけた。そののち、赤血球を除去してそれによりマウス脾臓単球が得られるようにし、当該細胞の濃度を、10%牛血清(FBS)を含むRPMI 1640培地を用いて4×10細胞/mLに調整した。
【0044】
C.Lactobacillus分離株で刺激したマウス脾臓単球によるIL−10の評価:
96穴培養プレートの各穴に、項目Bで調製した脾臓単球の4×10細胞/mLの試料100μLを添加した。当該試料を実験群、標準対照群及び陽性対照群に分割した。当該実験群において、各穴に更に項目Aで調製した試験細菌溶液の20μLを加えた。標準対照群では、各穴には更に10%FBSを含むRPMI 1640培地20μLを加えた。当該陽性対照群では、各穴に更にリポポリサッカライド(LPS)(Escherichia coli,serotype055:B5,Sigma)を加えた。培養器中で(37℃、5%CO)24時間の間培養したのち、各穴の培養溶液を取り出して遠心分離した。
マウスIL−10 OptEIATMセット(BD Bioscience,Cat.No.555252)を用いた酵素結合免疫測定法(ELISA)を行うために当該上澄み液100μLを取り出した。当該実験は各群について2回繰り返した。
【0045】
IL−10の濃度はELISAで得たOD405値を以下の方程式に代入して、ELISA単位(%)で表した:
ELISA単位(%)=[(A−C)/(B−C)]×100
この式で、A=Lactobatillus分離株のOD405
B=陽性対照群のOD405値;そして
C=標準対照群のOD405値。
【0046】
結果
当該実験菌株全体のうち46菌株は、マウス脾臓単球によるより多くのIL−10分泌を刺激した。当該実験結果は表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1の実験結果によれば、当該試験菌株の生育速度、細菌数、大量生産に関する実用性などのような要素を考慮して、出願人はGMNL−19、GMNL−76、GMNL−78、GMNL−89、GMNL−94、GMNL−101及びGMNL−161を、ヒト末梢血液単球(ヒトPBMCs)のIL−10及びIFN−γの分泌を刺激するこれらの菌株の能力を評価する更なる実験用に選択した。
【実施例2】
【0049】
実施例2.ヒトPBMCsによるIL−10及びIFN−γの分泌を促すLactobacillus分離株の能力の評価
【0050】
材料と方法
A.ヒトPBMCsの調製
実験の目的に適するか検査したヒト白血球濃度(台湾献血センター)をFicoll−PaqueTM PLUS(17−1441−03、Amersham Bioscience)により容量比1:1で4℃にて密度勾配遠心分離(720g,20分間)にかけた。そののち、当該赤血球を取り除いてそれによりヒトPBMCsを得て、当該細胞濃度を10%PBS含有RPMI 1640培地を用いて4×10細胞/mLに調整した。
【0051】
B.Lactobacillus分離株により刺激されたヒトPBMCsによるIL−10分泌の評価:
Lactobacillus分離株GMNL−19、GMNL−76、GMNL−78、GMNL−89、GMNL−94、GMNL−101及びGMNL−161のヒトPBMCsによるIL−10の分泌を刺激する能力の評価は、実施例1の項目Cに関連して説明した操作手順に基本的に基づいている。1×10細胞/mLの濃度を有する試験細菌溶液20μLを実験群として使用し、項目Aで調製したヒトPBMCsの試料の100μL及びヒトIL−10 OptEIATMセット(BD Bioscience,Cat.No.555157)を用いた場合に差異が存在する。
【0052】
C.Lactobacillus分離株により刺激されたPBMCsによるIFN−γの分泌の評価
Lactobacillus分離株であるGMNL−19、GMNL−76、GMNL−78、GMNL−89、GMNL−94、GMNL−101及びGMNL−161のヒトPMBCsによるIFN−γ分泌の刺激能力を以下の記述に従って分析した。
【0053】
96穴培養プレートの各穴にヒトPBMCsの試料100μLを加えた。当該試料を実験群及び標準対照群に分割した。当該実験群では、実施例1の項目Aで調製した試験細菌溶液(1×10細胞/mL)20μLを更に各穴に加えた。当該標準対照群では、10%FBSを含んでいるRPMI 1640培地20μLを加えた。培養器(37℃、5%CO)にて24時間の間培養したのち、各穴中の培養溶液を遠心分離した。BD OptEIATMヒトIFN−γELISAキットII(BD Biosciences,Cat.No.550612)を用いるIFN−γELISAを実施するために、そこから上澄み液100μLを取り出した。
【0054】
これに加えて、ヒトPBMCsの試料に、PHA10μg/mLに対してPhaseolus vulgaris agglutinn(PHA,Sigma,Cat.No.L2769)を4×10細胞/mLの比で加え、48時間培養した。遠心分離(720g×20分、4℃)後、上澄み液を取り出して−80℃に設定した冷凍庫に保存した。当該PHA処理上澄み液(100mL)をIFN−γ ELISAの分析を行うときの内部陽性対照として使用した。
【0055】
コーティング緩衝液(0.1M NaHPO,0.77mM NaN,pH 9.0)で1000倍希釈したマウス抗ヒトIFN−γ(BD PharmingenTM,Cat.No.551221)の100μLを96穴培養プレート(Nunc−ImmunoTM 96 MicroWellTM Plates,MaxiSorp,Cat.No.442404)の各穴に加えた。当該培養プレートは室温(25℃)にて1時間40rpmで攪伴したのち、次いで4℃で一夜培養した。
【0056】
そののち、当該培養プレートは室温に戻し、各穴の液体を除去した。各穴を洗浄用緩衝液(0.05%のTween 20を含有するPBS)を用いて2回(各3分間)洗浄し、次いでブロッキング緩衝液(3%の牛血清アルブミンを含有しているPBS)の200mLを各穴に添加した。当該培養プレートは室温で2時間放置し、次いで当該ブロッキング緩衝液を除去し、当該洗浄用緩衝液で2回洗浄した。
【0057】
試験を行う試料の100μLを各穴に加え、一夜4℃で反応させた。その後、各穴の液体を除去し、各細胞を洗浄用緩衝液(0.05%のTween 20を含有しているPBS)で2回洗浄した。続いて、希釈用緩衝液(1%のBSAを含んでいるPBS)で2000倍に希釈したビオチンマウス抗ヒトIFN−γ(BD PharmingenTM,Cat,No.554550)の100mLを各穴に加え、室温で2時間反応させた。各穴中の液体を除去したのち、各穴は洗浄用緩衝液(0.05%Tween 20を含んでいるPBS)で2回洗浄した。そののち、希釈用緩衝液(1%BSAを含有するPBS)で2000倍に希釈したストレプトアビジン−アルカリホスファターゼ(Streptavidin−AP,BD PharmingenTM,Cat.No.554065)の100mLを室温で1時間反応させた。各穴の液体を除去した後、各穴を洗浄用緩衝液(0.05%Tween20を含有するPBS)で洗浄し、次いで新たに調製したp−ニトロフェニルリン酸(pNPP)溶液を各穴に加えた。当該培養プレートは室温で暗所に置き、30分間反応させた。そののち、ELISA Microplate Reader(Bio−Rad,Model 550)を用い、各穴について405nmでの吸光度を測定した。この実験は各群について2回行った。
【0058】
IFN−γの濃度はELISAで得たOD405の値を以下の式に代入し、ELISA単位(%)で表した:
ELISA単位(%)=[(A−C)/(B−C)]×100
この式で、A=Lactobatillus分離株のOD405
B=内部陽性対照群のOD405値;そして
C=標準対照群のOD405値である。
【0059】
結果:
Lactobacillus分離株であるGMNL−19、GMNL−76、GMNL−78、GMNL−89、GMNL−94、GMNL−101及びGMNL−161で刺激されたヒトPBMCsIL−10及びINF−γ分泌の結果はそれぞれ表2及び表3に示した。
【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
表2から、全てのLactobacillus分離株の中で、GMNL−76及びGMNL−89がヒトPBCsによるIL−10分泌の最大量を刺激することが分かる。これはヒトPBMCsによるIL−10の分泌を刺激するこれらのLactobacillus分離株の能力が最大であることを示している。
【0063】
更に表3から、全てのLactobacillus分離株の中で、GMNL−78はヒトPBMCsによる最少量のIFN−γ分泌の刺激を行い、GMNL−89とGMNL−76がそれに次いでいることが明らかである。これはヒトPBMCsによるIFN−γ分泌を刺激させるGMNL−78の能力が最少で、GMNL−89とGMNL−76の能力も同じように極めて低いことを示している。
【0064】
炎症性サイトカイン(IFN−γ及びTNF−αのような)は炎症を促進し、悪化した関節リウマチとなることが知られているが、その一方免疫調節性サイトカイン(IL−10のような)は炎症性サイトカインの生成を阻害できることが知られている。そこで本出願人は:ヒト又は動物の単球が、より多くの免疫調節性サイトカイン及び、より少ない炎症性性サイトカインを分泌するように刺激できればヒト又は動物の関節リウマチの症状は改善できるであろうという仮説をたてた。更に、表2及び表3における結果によって、本出願人はLactobacillus分離株であるGMNL−76及びGMNL−89は開発に関してより高い可能性を示したと考え、以下に記述した動物試験に使用した。
【実施例3】
【0065】
実施例3.コラーゲン誘導関節炎のラットに対するLactobacillus分離株であるGMNL−76及びGMNL−89の治療効果の評価
材料及び方法:
【0066】
A.動物:
Laboratory Animal Center、National Applied Research Laboratories(Taiwan)から購入した雄LEW/SsNNarlラット(6週齢、体重200〜250g)を以下の実験で使用した。全ての動物は、温度25±1℃で相対湿度60±5%に保ち、明12時間にした隔離された空調室で飼育した。当該動物は十分な水と飼料が摂食でき、試験環境で1週間馴化させた。動物の扱い及び当該実験プロトコルはLaboratry Animal Committee,Taiwanの基準に適合していた。
【0067】
B.試験菌株の調製:
Bacto Lactobacillus MRSブロス培地(DIFCO,Cat.No.0881)にLactobacillus分離株であるGMNL−76及びGMNL−89をそれぞれ接種した。当該分離株は37℃で増殖が飽和するまで嫌気的に培養した。3,000rpmで15分間遠心分離したあと、当該沈殿物を1×PBS(pH7.2)の2mLと1mLで2回それぞれ洗浄し、次いでそれにPBS1mLを加えた。当該細菌溶液の濃度はOD600を用いて測定した。当該測定した濃度は約1.0×1010細胞/mLであった。当該細菌溶液は次に使用するために−80℃で保存した。
【0068】
C.関節炎の誘導:
関節炎の誘導はY.Kameyama等がBone 35(2004)948〜956に記述した方法を少し修正した方法を用いて実施した。牛II型コラーゲン(略してCII)(Sigma−Aldrich,Cat.No.C1188)を0.05M酢酸に溶解させ、2mg/mLの濃度を有するCII溶液とした。CII溶液100μLと完全フロインドアジュバント(CFA)100μLからなるCII乳化物を作成した。その後、当該CII乳化物の200μLをラットの尾に経皮的に注射した。当該ラットは最初の免疫付与後21日目にブースター注射を行った。
【0069】
D.Lactobacillus分離株を用いた飼育:
ラットを無作為に3群の実験群(GMNL−76、GMNL−89及びプラセボ群)と対照群を含む4群(各群当たりn=6)に分けた。当該対照群を除いて、本実施例の項目Cで説明した方法により他の全ての群のラットに関節炎誘発を行った。
【0070】
GMNL−76群及びGMNL−89群に対し、ブースター注射後7日目からの開始で、当該ラットを本実施例の項目Bで調製した細菌溶液(1.0×1010細胞/mL/日)で飼育した。プラセボ群及び対照群のラットは逆浸透(RO)水で飼育した。
【0071】
8週連続で飼育したのち、遠心分離用に当該ラットの血液を眼窩瀉血で採取した。得られた血清はIL−10、IFN−γ及びTNF−αの濃度の測定に使用した。これに加えて、全てのラットは眼窩瀉血ののち、関節炎の以下の評価のために更に使用した。
【0072】
E.IL−10、IFN−γ及びTNF−αの濃度の測定
IL−10濃度の評価は、本実施例の項目Dで得たラット血清及びラットIL−10 OptEIATMセット(BD Bioscience PharMingen,San Diego,CA,Cat.No.2611KI)を使用したのを除き、原則的に実施例1の項目Cで説明した操作手順に基づいていた。
【0073】
IFN−γ濃度の評価は、本実施例の項目Dで得たラット血清及びラットIFN−γ OptEIATMセット(BD Bioscience PharMingen,San Diego,CA)を使用したのを除き、原則的に実施例2の項目Cで説明した操作手順に基づいていた。
【0074】
TNF−γ濃度の評価は、本実施例の項目Dで得たラット血清及びBD OptEIAセットラットTNF−α ELISAキット(BD Bioscience PharMingen,San Diego,CA)を使用したのを除き、原則的に実施例1の項目Cで説明した操作手順に基づいていた。
【0075】
こうして得たOD405値は、その次にIL−10、IFN−γ又はTNF−αの異なる既知濃度に対するそれらのOD405値をプロットして前もって作成した相関曲線に基づいてpg/mLで表した濃度に変換した。
【0076】
F.関節炎の評価
ラットでの関節炎の評価は、Bone 35(2004)948〜956でKameyama等が説明した方法に基づいていた。具体的には、各ラットの4肢の関節における腫脹及び肥大のような変化を記録し、0〜4の尺度で各肢を評点化して定量した:0は関節炎徴候なし;1は1肢が腫脹;2は3肢より多くで腫脹;肢全体が腫脹;4は全ての関節が重度の腫脹及び湾曲で、通常の歩行が妨げられる。
【0077】
G.統計的分析:
SPSS統計ソフトウェア(バージョン10.0)を用いて統計分析を行った。当該試験をした動物の全数が30未満なので、当該実験データは試料分布に関して、対照群、GMNL−76群、GMNL−89群及びプラセボ群の間の差異の評価はノンパラメトリック統計法(Mann−Whitney U試験としても知られている)を用いて分析した。当該実験データは平均±標準偏差(統計有意差、p<0.05)で表した。
【0078】
結果:
8連続週の間飼育したラット血清中のIL−10、IFN−γ及びTNF−αの濃度をそれぞれ表4及び図1から3にて示す。これに加えて、関節炎の評価の評点結果を表4にまとめている。
【0079】
【表4】


1:全てのデータはMann−Whitney U検定を用いて分析した。
2:各ラットに関する関節炎の程度の評点は4肢における関節に関する全評点を集計して計算した。
3:*:プラセボ群と比較してp<0.05。
【0080】
表4及び図1から3より、Lactobacillus分離株であるGMNL−76及びGMNL−89でそれぞれ飼育されたGMNL−76群及びGMNL−89群におけるラットに関して、それらの血清中のIFN−γ及びTNF−α濃度は当該プラセボ群と比較して著しく低く抑えられる一方、IL−10の濃度は顕著に高まっていた。
【0081】
それゆえ、当該出願人はLactobacillus分離株であるGMNL−76及びGMNL−89は、Th1細胞によるIFN−γの分泌を低減させて炎症を緩和させる傍らTNF−α分泌を抑えることができ、それによりMMPsの分泌を低下させて関節組織の軟骨の更なる破壊を防止する。これに加えて、Lactobacillus分離株であるGMNL−76及びGMNL−89は免疫調節性サイトカインであるIL−10の分泌も増加させて炎症の状態を制御可能とする。それにより、関節炎で起こった関節破壊は取り返しがつかないが、本発明のLactobacillus分離株であるGMNL−76及びGMNL−89で飼育することでラット血清中の炎症関連IFN−γ及びTNF−αの低下がある一方、抗炎症関連したIL−10の増加がある。これはラットでの関節炎の疾患が緩和され、悪化しないことを示す。
【実施例4】
【0082】
実施例4.Lactobacillus分離株であるGMNL−76及びGMNL−89の同定と特性化
【0083】
上の実施例で選択したLactobacillus分離株であるGMNL−76及びGMNL−89を同定するために、以下の予備試験、16S rDNA配列分析及びランダム増殖多型DNA(RAPD)分析を実施した。
【0084】
材料及び方法:
A.予備試験:
Lactobacillus分離株であるGMNL−76及びGMNL−89に対して行った予備試験の項目には:グラム染色、形態的観察、カタラーゼ試験、移動性、好気性及び嫌気性条件での増殖が含まれる。
【0085】
B.16S rDNA 配列分析:
滅菌条件下で、分離株GMNL−76及びGMNL−89のおのおのを1mLのBacto Lactobacilli MRSブロス培地(DIFCO,Cat.No.0881)に植えつけ、37℃で一夜培養した。その後、当該細菌溶液を13,000rpmで1分間遠心分離し、次いで上澄み液の除去を行った。残された沈澱のおのおのを200μLのddHOに懸濁し、次いで13,000rpmで1分間遠心分離して上澄み液を除去した。この工程はもう一度繰り返した。最後に遠心分離でこうして得た細胞沈殿物のおのおのをddHOの200μLに懸濁した。
【0086】
ゲノムDNAを含んでいる細胞懸濁物について、以下のヌクレオチド配列を有し、P.S.M.Yeung等(2002)による文献(J.Dairy sci.,85:1039〜1051)で報告された16S rDNA配列用に設計されたプライマー対(PAFプライマー及び536Rプライマー)を用いて、表5で示した反応条件下で実施するポリメラーゼ鎖反応(PCR)にかけた。
PAFプライマー
【0087】
【化1】


536Rプライマー
【0088】
【化2】

【0089】
【表5】

【0090】
PCRの終了後、得られたPCR生成物を1.8%アガロースゲルの電気泳動にかけることで、約500bpのPCR増幅生成物が得られたかどうかを確認して、そして当該確認したPCR生成物を取り出してアガロースゲルから精製した。当該精製PCR生成物についての配列をGenomics BioSci & Tech.Co.,Ltd.,Taiwanにより決定を行い、決定した配列の比較をしてNCBIのウエブサイトにおけるソフトウエアのヌクレオチド−ヌクレオチドBLASTを用いて分析した。
【0091】
C.ランダム増幅多型DNA(RAPD)分析
Lactobacillus分離株であるGMNL−76及びGMNL−89の種を16S rDNA配列を用いて分析及び確認を行った後、本実施例の項目Bで得たLactobacillus分離株であるGMNL−76及びGMNL−89のゲノムDNAsを鋳型として使用して、以下のヌクレオチド配列を有していてM.de Angelis等(2001)がApplied and Environmental Microbiology,67:2011〜2020で報告した10−merのプライマーLac P2を表6で示した反応条件下でPCRを実施するために選んだ。
Lac P2プライマー
【0092】
【化3】

【0093】
【表6】

【0094】
PCRを終了後、当該増幅した生成物を1.8%アガロースゲルにおける電気泳動にかけて、次ぎに染色、紫外線下での観察及び写真撮影を行った。
【0095】
本実験において、Lactobacillusの7菌株を同様にBCRC of the FIRDI、Taiwanから購入して比較及び分析目的についての対照として供した。当該7菌株には:
1.ラクトバチルス サケイ亜種sakei,BCRC 12933(ATCC 31063に相当;酢漬けキャベツから単離);
2.ラクトバチルス サケイ亜種carnosus,BCRC 17500(LMG 17302に相当;生ソーセージから単離);
3.ラクトバチルス ロイテリ,BCRC 14625(ATCC 23272及びDSM 20016に相当;ヒト糞便から単離);
4.ラクトバチルス ロイテリ,BCRC 16090(DSM 20015に相当;堆肥から単離);
5.ラクトバチルス ロイテリ,BCRC 16091(DSM 20053に相当;ヒト糞便から単離);
6.ラクトバチルス ロイテリ,BCRC 17476(JCM 1081に相当;ニワトリの腸から単離);及び
7.ラクトバチルス ロイテリ,BCRC 17478(JCM 2762に相当;発酵糖蜜から単離)。
【0096】
結果:
1.Lactobacillus分離株GMNL−76の同定と特性化:
(i)当該予備試験の結果によると、本分離株はグラム陽性、非運動性、カタラーゼ陰性及びオキシダーゼ陰性であり、好気性及び嫌気性で成長する。
【0097】
(ii)本単離株の16S rDNA配列の分析結果を図4に示す。NCBIのウエブサイトにおける遺伝子データベースと比較することで、本分離株の16S rDNA配列(SEQ.ID.NO.:4)はラクトバチルス サケイのものと最も類似していることが判明した;そして
【0098】
(iii)図5にRAPD分析結果を示す。示されたように本分離株のPCR生成物の遺伝子指紋プロファイルはラクトバチルス サケイの他の2つの既知菌株、BCRC 12933及びBCRC 17500のものとは異なる。
【0099】
上記同定結果の観点では、本発明によるLactobacillus分離株GMNL−76はラクトバチルス サケイの新たな分離株と考えられる。
【0100】
2.Lactobacillus分離株であるGMNL−89の同定と特性化
(i)予備試験の結果によれば、本分離株はグラム陽性、非運動性、カタラーゼ陰性及びオキシダーゼ陰性であり、好気性及び嫌気性で成長する;
【0101】
(ii)本単離株の16S rDNA配列の分析結果を図6に示す。NCBIのウエブサイトにおける遺伝子データベースとの比較してみると、本分離株の16S rDNA配列(SEQ.ID.NO.:5)はラクトバチルス ロイテリのものと最も類似していることが判明した;そして
【0102】
(iii)図7にRAPD分析結果を示す。示したように本分離株のPCR生成物の遺伝子指紋プロファイルはラクトバチルス ロイテリの他の5つの既知菌株、BCRC14625、BCRC 16090、BCRC 16091、BCRC 17476及びBCRC 17478のものとは異なる。
【0103】
上記同定結果を考慮すると、本発明のLactobacillus分離株はラクトバチルス ロイテリの新規分離株であると考えられる。
【0104】
ラクトバチルス サケイ GMNL−76及びラクトバチルス ロイテリ GMNL−89はそれぞれBiosource Collection and Research Center(BCRC)of the Food Industry Research and Development Institute(FIRDI)(331 Shih−Pin Road,Hsinchu city 300,Taiwan,R.O.C)に2007年6月14日及び2006年11月14日にそれぞれ受託番号BCRC 910355及びBCRC 910340で寄託した。これらの分離株は同様にthe China Center for Type Culture Collection(CCTCC)(Wuhan University,Wuhan,430072,People's Republic of China)に2007年11月19日のブタペスト条約に従って受託番号CCTCC M 207153及びCCTCC M 207154でそれぞれ寄託した。
【実施例5】
【0105】
実施例5.ラット脾臓単球によるIL−10分泌を刺激におけるLactobacillus分離株GMNL−76とGMNL−89及び既知菌株の能力の評価
【0106】
単球を刺激してより多くのIL−10を分泌させる能力はLactobacillus分離株であるGMNL−76及びGMNL−89に特有な生物活性であることを示すために、これらの分離株と既知の7種の菌株(即ち、FIRDIから購入したラクトバチルス サケイ BIRC 12933とBCRC 17500及びラクトバチルス ロイテリ BCRC 14625,BCRC 16090,BCRC16091,BCRC 17476とBCRC 17478)を以下の実験で比較した。
【0107】
材料及び方法:
IL−10の濃度の評価は実施例1の項目Cで説明した操作手順に基本的に基づいていて、本発明のLactobacillus分離株であるGMNL−76とGMNL−89及び7種類の既知菌株を、当該実験を実施するのに使用した。こうして得たOD405値は、次に標準IL−10の異なる既知濃度に対するそれらのOD405値をプロットして前もって作成した相関曲線に基づきpg/mLで表す濃度に変換した。各菌株に対する実験は2回繰り返し、実験データは平均±標準偏差で表した。
【0108】
結果:
以下の表7はGMNL−76、GMNL−89及び7種類の既知菌株で刺激されたラット脾臓単球によるIL−10の分泌結果を示す。
【0109】
【表7】

【0110】
表7から、試験をした菌株全部のうち本発明のLactobacillus分離株GMNL−89及び既知菌株BCRC 17476がラット副腎単球を刺激してIL−10を分泌させる最高の能力を有しており、GMNL−76がそれに次いでいることが明らかである。表7で示した実験結果は本発明のLactobacillus分離株GMNL−89及びGMNL−76は同じ種に属する他の既知種とは異なることも示している。
【実施例6】
【0111】
実施例6.Lactobacillus GMNL−76及びGMNL−89についての酸耐性試験及び胆汁塩酸耐性試験
【0112】
Lactobacillus GMNL−76及びGMNL−89が摂取された後、ヒト消化管の厳しい環境を生き残る能力を試験するために、ヒト消化管における消化プロセスを想定した実験を実施した。
【0113】
材料:
1.MRSブロス(pH=3)
MRS粉末(BD,Cat.No.288130)55gをRO水1Lに溶解して十分撹拌し、次いで1M HClにてpH値を3に調整して、121℃で15分滅菌をした。得られたブロスは冷却したあと、次なる使用まで保存した。
【0114】
2.雄牛胆汁0.2%(w/v)を含んでいるWRSブロス培地:
55gのMRS粉末を1LのRO水に溶解して十分に混合することでMRSブロス培地を得た後、121℃で15分間滅菌を行った。当該MRSブロス培地の温度が約45℃まで下がったときに、2gの雄牛胆汁粉末(Sigma)を加えて十分混合すると0.2%(w/v)の雄牛胆汁を含んだMRSブロス培地が得られ、それは次いで0.5μmの孔を有する紙を用いてろ過した。
【0115】
3.MRS寒天プレート:
55gのMRS粉末を1LのRO水中に溶解した。MRS粉末が完全に溶解した後に15gのアガロース粉末を加えた。こうして形成した混合物は次に1L血清フラスコに注ぎ、121℃で15分間の滅菌を行った。当該混合物の温度が45℃まで低下したとき、約15〜20mLの混合物を滅菌操作条件下で各ペトリ皿に加えた。得られた混合物を冷却して次の使用のために凝固させた。
【0116】
方法:
A.酸耐性試験:
MRSブロス培地(pH=3)の27mLに実施例1の項目Aで得た試験細菌溶液3mLを植え付けて、それとともに混合し、次いで37℃で3時間培養した。そののち、当該培養液の1mLを取り出して滅菌水にて連続的希釈を行い、その後にスプレッドプレート法(10−9〜10−1)を行った。そののち、生存する細菌数を計数した。
【0117】
B.胆汁塩耐性試験:
酸耐性試験の終了後、当該培養液の残り29mLを4,000rpmで15分間遠心分離した。当該上澄み液を除去し、滅菌水30mLを加えて細菌を懸濁させた。それに引き続き、4,000rpmで15分間の遠心分離を行い、上澄み液を除去することで酸性MRSブロス培地を取除いた。次に、雄牛胆汁0.2%を含有するMRSブロス培地30mLを用いて当該細菌を分散させ、次いでこうして作成した培養液を37℃で3時間培養した。そののち、当該培養液1mLを取り出し、滅菌水を用いて連続希釈して、そしてスプレッドプレート法(10−9〜10−1)を行った。生存細菌数を計数した。
【0118】
結果:
模擬ヒト代謝プロセスを行った後のLactobacillus GMNL−76及びGMNL−89の増殖を以下の表8に示す。
【0119】
【表8】

【0120】
表8から明らかなように、本発明の2種類のLactobacillus分離株をMRSブロス培地(pH=3)で3時間培養した後におけるLactobacillus GMNL−76についての生存細菌計数は処理後で1.83×10 CFU/mLである。Lactobacillus GMNL−89に関しては、生存細菌細胞計数は6.83×10 CFU/mLである。当該2種類のLactobacillus分離株を0.2%の雄牛胆十を含有するMRSブロス培地で3時間追加の培養をした後の生存細菌細胞計数は低下せず、当該Lactobacillus分離株は0.2%の雄牛胆汁を含有するMRSブロス培地中で優れた生存率を有していたことを示す。当該結果はLactobacillus GMNL−76及びGMNL−89はヒト消化管がもたらす環境圧に打ち勝つことができ、摂取後は腸に到達できて住みつけることを示す。
【0121】
本明細書で引用した全ての特許及び参照文献はそれらの全容につき明細書にて参考に取り込んである。不一致の場合、定義を含めて本記述が優先するであろう。
【0122】
本発明は上記具体的実施形態に準拠して説明したが、多くの修正及び変更が本発明の範囲と精神から逸脱せずにできることは明らかである。そこで本発明は添付請求項で示したもののみに制限されることを意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)以下から選ばれる寄託菌株、
(a)食品工業発展研究所(FIRDI)の生物資源保存研究センター(BCRC)に受託番号BCRC 910355で、中国典型培養物保蔵センター(CCTCC)に受託番号CCTCC M 207153で寄託したラクトバチルス サケイ GMNL−76、及び
(b)食品工業発展研究所(FIRDI)の生物資源保存研究センター(BCRC)に受託番号BCRC 910340で、中国典型培養物保蔵センター(CCTCC)に受託番号CCTCC M 207154で寄託したラクトバチルス ロイテリ GMNL−89;又は
(ii)当該寄託菌株(i)の継代培養した後世代、
であることを特徴とする、分離したラクトバチルス菌株。
【請求項2】
請求項1の分離したラクトバチルス菌株を特徴とする、抗炎症性活性を有する医薬組成物。
【請求項3】
前記医薬組成物が経口投薬形態に製造されることを特徴とする、請求項2の医薬組成物。
【請求項4】
食用材料及び請求項1の分離されたラクトバチルス菌株を特徴とする、食品生産物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−269906(P2009−269906A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−331809(P2008−331809)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(509002257)景岳生物科技股▲分▼有限公司 (1)
【Fターム(参考)】